自動書庫事件

投稿日: 2017/09/22 19:09:00

今日は、平成24年(ワ)第15693号 特許権侵害差止等請求事件について検討します。原告である日本ファイリング株式会社は、判決文によると、物流・情報保管システムとして図書館等施設用設備を業として製造し,販売している株式会社だそうです。一方、被告である株式会社岡村製作所はオフィス家具等の図書館等施設用設備を業として製造し,販売している株式会社だそうです。J-PlatPatで検索したところ、これまでに取得した特許件数は原告が

103件で、被告が2,700件でした。保有特許件数の差が著しいですが、株式会社岡村製作所は幅広く家具等を扱っているので、図書館関係に絞った特許の件数ならばこれほどの差はないと思います。

 

1.手続の時系列の整理(特許第2851237号)

① 本件特許は閲覧請求が多いことから注目された発明だったと思われます。

② 侵害訴訟が提起されたのは被告が請求した最初の特許無効審判の一次審決後でした。侵害訴訟前に特許無効審判を請求するのは比較的レアケースだと思います。

③ 特許無効審判の流れが複雑なので少し説明を加えます。まず、株式会社岡村製作所が2011年1月19日に特許無効審判を請求しました。これに対して特許権者である日本ファイリング株式会社は2011年5月16日付けで答弁書と訂正請求書を提出しました。その後2011年12月21日付けで、「訂正を認める。本件審判の請求は成り立たない。」との一次審決がありました。

この一時審決に対し請求人は審決取消訴訟を提起し、2012年12月11日付けで一次審決を取り消す旨の判決が言い渡されました。被請求人は、最高裁判所に上告受理申立て及び上告提起をしましたが、2013年1月30日付けで上告受理申立て及び上告提起の取下書を提出し、一次審決を取り消す旨の判決が確定しました。この後特許無効審判の審理が再開され、2013年4月23日付けで、「訂正を認める。特許第2851237号の請求項1、2及び7に記載された発明についての特許を無効とする。」との二次審決がありました。

この二次審決に対し、被請求人は、2013年5月29日に審決取消訴訟を提起し、その後90日の期間内である平成25年8月23日に訂正審判(訂正2013-390119号)を請求したところ、知財高裁は、2013年10月7日付けで、改正前の特許法第181条第2項の規定により、審決の取り消しの決定をしました。なお、被請求人は、指定期間内に訂正請求をしなかったので、改正前の特許法134条の3第5項の規定により、前記期間の末日に、当該訂正審判の請求書に添付された特許請求の範囲、明細書を援用した訂正請求がされたものとみなされました。その後2014年6月3日付けで、「訂正を認める。特許第2851237号の請求項1、2及び7に記載された発明についての特許を無効とする。」との三次審決がありました。

この三次審決に対して被請求人は、2014年7月10日に審決取消訴訟を提起しましたが、知財高裁は2014年6月23日付けで請求を棄却するとの判決が言い渡され、この三次審決が確定しました。

④ 一方、株式会社岡村製作所は2012年10月9日に本件特許に対して別の特許無効審判を請求しています。こちらは先の「訂正を認める。特許第2851237号の請求項1、2及び7に記載された発明についての特許を無効とする。」という三次審決が確定したため却下されました。

2.本件各発明

(1)本件発明1(特許第2851237号 請求項1)

1A 図書の寸法別に分類された複数の棚領域(11)を有する書庫と、

1B この書庫の各棚領域(11)に収容されるもので、それぞれが収容された棚領域(11)に対応した寸法を有する複数の図書を収容する複数のコンテナ(12)と、

1C この複数のコンテナ(12)の前記書庫内における収容位置と、各コンテナ(12)に収容された複数の図書の各図書コードとを対応させて記憶する記憶手段と、

1D 取り出しが要求された図書の図書コードを入力することにより、前記記憶手段の記憶内容に基づいて、該要求図書が収容されているコンテナ(12)を前記書庫から取り出してステーションに搬送するとともに、

1E 返却が要求された図書の寸法情報を入力することにより、該返却図書の寸法に対応する複数の前記コンテナ(12)の中から空きのあるコンテナ(12)を前記書庫から取り出して前記ステーションに搬送する搬送手段と、

1F この搬送手段により前記ステーションに搬送されて、前記要求図書が取り出されたコンテナ(12)または前記返却図書が返却されたコンテナ(12)に対して、前記記憶手段の記憶内容を更新する更新手段とを具備し、

1G 前記書庫の複数の棚領域(11)には、前記搬送手段によってコンテナ(12)を取り出す間口に対して、奥行き方向に複数のコンテナ(12)が収容され、前記搬送手段には、前記コンテナ(12)を取り出す間口に対して、手前側のコンテナ(12)を取り出してから奥側のコンテナ(12)を取り出す移載手段が備えられている

1H ことを特徴とする図書保管管理装置。

(2)本件発明2(特許第2851237号 請求項5)

2A 前記搬送手段は、前記書庫に返却されるコンテナ(12)内の図書の充填率を検出して前記記憶手段に記憶させる充填率検出手段を備え、

2B 前記図書の返却が要求された状態で、前記記憶手段の記憶内容に基づいて、該返却図書の寸法に対応する複数の前記コンテナ(12)の中で、図書充填率の低いコンテナ(12)から取り出す

2C ことを特徴とする請求項1記載の図書保管管理装置。

(3)本件発明3(特許第2851237号 請求項6)

3A 前記搬送手段は、前記書庫に返却されるコンテナ(12)内の図書の充填率を検出して前記記憶手段に記憶させる充填率検出手段を備え、

3B 前記図書の返却が要求された状態で、前記記憶手段の記憶内容に基づいて、該返却図書の寸法に対応する前記コンテナ(12)の中で、図書充填率の低い手前側のコンテナ(12)を優先して取り出す

3C ことを特徴とする請求項1記載の図書保管管理装置。


3.争点

(1)イ号物件及びロ号物件が本件各発明の技術的範囲に属するか

ア 構成要件1Cの充足性

イ 構成要件1DEの充足性

ウ 構成要件1Fの充足性

エ 構成要件2A,3Aの充足性

オ 構成要件2B,3Bにおける「充填率が低いコンテナから取り出(す)」の充足性

カ 構成要件3Bにおける「手前側のコンテナを優先して取り出(す)」の充足性

(2)本件特許は,特許無効審判により無効にされるべきものか

ア 本件訂正発明1につき

(ア)乙12公報を主引例とする進歩性欠如(特許法29条2項)

(イ)乙11の3文献を主引例とする進歩性欠如(同法29条2項)

(ウ)乙42文献を主引例とする進歩性欠如(同法29条2項)

(エ)サポート要件(同法36条6項1号)違反

(オ)明確性要件(同法36条6項2号)違反

イ 本件訂正発明2につき進歩性欠如(同法29条2項)

ウ 本件訂正発明3につき進歩性欠如(同法29条2項)

(3)本件再訂正による対抗主張の成否

ア 本件発明1につき

イ 本件発明2につき

ウ 本件発明3につき

(4)損害発生の有無及びその額

4.裁判所の判断

4.1 本件各発明の意義

本件明細書等の【発明の詳細な説明】の段落【0001】ないし【0017】,【0022】,【0038】,【0040】,【0041】,【0077】,【0079】,【図1】,【図11】によれば,従来,図書保管管理装置における図書の収容効率及び図書の取り出しや返却作業の効率化について,サイズ別フリーロケーション方式による図書の保管管理手段を採用することにより,書庫内における無駄な空間を極力削減して図書の収容効率を向上させることができ,また,同一寸法の図書であればその寸法の図書を収容するためのコンテナ内に任意に返却することが可能となるので,書庫と利用者カウンターとの相互間でコンテナを搬送する搬送機構の稼働回数も必然的に少なくすることができ,自動化による図書の取り出し及び返却作業の能率を効果的に向上させることができるものの,書庫内における多量の図書の収容効率をより一層向上させるとともに,取り出しや返却に要する作業のさらなる効率向上を図る,という課題があったところ,本件各発明は,図書保管管理装置において,図書の寸法別に分類された複数の棚領域を有する書庫と,この書庫の各棚領域に収容されるものでそれぞれが収容された棚領域に対応した寸法を有する複数の図書を収容する複数のコンテナと,この複数のコンテナの書庫内における収容位置と各コンテナに収容された複数の図書の各図書コードとを対応させて記憶する記憶手段と,取り出しが要求された図書の図書コードを入力することにより記憶手段の記憶内容に基づいて該要求図書が収容されているコンテナを書庫から取り出してステーションに搬送するとともに,返却が要求された図書の寸法情報を入力することにより該返却図書の寸法に対応する複数のコンテナの中から空きのあるコンテナを書庫から取り出してステーションに搬送する搬送手段と,この搬送手段によりステーションに搬送されて要求図書が取り出されたコンテナまたは返却図書が返却されたコンテナに対して記憶手段の記憶内容を更新する更新手段とを備え,書庫の複数の棚領域には搬送手段によってコンテナを取り出す間口に対して奥行き方向に複数のコンテナが収容され,搬送手段にはコンテナを取り出す間口に対して手前側のコンテナを取り出してから奥側のコンテナを取り出す移載手段が備えられる,との構成を採用することにより,サイズ別フリーロケーション方式を採用した図書保管管理手段において,さらに,その書庫のコンテナを出し入れするための間口に対して奥行き方向に,複数のコンテナを収容させることにして,書庫内における図書の収容効率をより一層向上させるとともに,優先的に手前側のコンテナを使用する管理手段を用いることにより,図書の取り出し及び返却作業の能率を効果的に向上させる,との作用効果を奏する発明であると認められる。

4.2 争点(1)ウ(構成要件1Fの充足性)について

事案に鑑み,まず,構成要件1Fの充足性について判断する。

(1)本件明細書等には,次の記載がある。

-省略-

(2)「前記要求図書が取り出されたコンテナまたは前記返却図書が返却されたコンテナに対して」の意義について

ア 「または」の意義について,原告は,本件発明1の構成要件1Fは,「前記要求図書が取り出されたコンテナ」と「前記返却図書が返却されたコンテナ」のいずれかについて記憶手段の記憶内容を更新するものであれば,構成要件1Fを充足すると解される旨主張するので,以下検討する。

イ 構成要件1Fは,「この搬送手段により前記ステーションに搬送されて,前記要求図書が取り出されたコンテナまたは前記返却図書が返却されたコンテナに対して,前記記憶手段の記憶内容を更新する更新手段とを具備し,」と記載されているところ,構成要件1Dに「取り出しが要求された図書の図書コードを入力することにより,前記記憶手段の記憶内容に基づいて,該要求図書が収容されているコンテナを前記書庫から取り出してステーションに搬送する」と,また,構成要件1Eに「返却が要求された図書の寸法情報を入力することにより,該返却図書の寸法に対応する複数の前記コンテナの中から空きのあるコンテナを前記書庫から取り出して前記ステーションに搬送する」とそれぞれ記載されており,図書取り出しの場合と図書返却の場合とに分けて,それぞれを構成要件1Dと1Eにおいて,個別にかつ並列的に規定されているとみることができる。

ウ また,前記の本件明細書等の段落【0010】には,「図書の取り出しや返却が行われた」と,図書取り出しの場合と図書返却の場合とが並記されており,そのような「図書の取り出しや返却が行われた」「コンテナ」について,記憶内容が更新されると記載されているから,本件発明1は,図書取り出し時と図書返却時の双方において記憶内容が更新される構成を前提とするものと理解することが相当である

エ 加えて,仮に,「複数のコンテナの前記書庫内における収容位置と,各コンテナに収容された複数の図書の図書コードとを対応させて記憶する記憶手段の」記憶内容につき,要求図書が取り出されたコンテナに対しては更新するが,返却図書が返却されたコンテナに対しては更新しない構成とするとき,返却された図書がどのコンテナに返却されたのか分からなくなって,当該図書の貸し出し要求があったときにそれを取り出すことができなくなり,図書の貸し出し作業におけるより一層の能率向上という作用効果を奏することができなくなるから,上記記憶手段を備える実益を完全に損なうことになる。

オ そうすると,構成要件1Fの「または」の文言は,貸出しと返却という同時に発生し得ない事象を並列的に接続する趣旨で用いられているものと解され,構成要件1Fを充足するためには,「前記要求図書が取り出されたコンテナ」と「前記返却図書が返却されたコンテナ」の両方に対して,記憶手段の記憶内容を更新するものであることが必要であると解するのが相当である

したがって,原告の上記主張は採用することができない。

(3)「前記記憶手段の記憶内容」の更新時期について

ア 原告は,構成要件1Fにおいて,更新時期がコンテナがステーションに搬送された前か搬送された後かは問題ではなく,構成要件1Fが「前記要求図書が取り出されたコンテナまたは前記返却図書が返却されたコンテナに対して,前記記憶手段の記憶内容を更新する更新手段」と規定されているから,構成要件1Fを充足するためには,「記憶内容の更新の対象となるコンテナ」と「取り出し/返却の対象となるコンテナ」とが一致する関係にあれば足りると主張するので,この点について検討する。

イ 本件発明が物の発明であることに鑑みると,構成要件1Fの「…ステーションに搬送されて,…要求図書が取り出されたコンテナまたは…返却されたコンテナに対して…更新する」との文言から,上記更新手段は,ステーションに搬送された状態で,図書が取り出された状態のコンテナ又は図書が返却された状態のコンテナに対して,記憶手段の記憶内容を更新するという構成を示していると解するのが自然である。そして,本件明細書等には,「図書館員がコンソール54を操作して返却完了の指示を中央処理装置39に入力すると,図書コードと,…コンテナ番号とを組み合わせ,その組み合わせたデータを…前記ハードディスク47等に登録する。」(段落【0051】),「…図書館員がコンソール54を操作して取り出し完了の指示を中央処理装置39に入力すると,…更新する。」(段落【0058】)というように上記解釈を裏付ける記載はあるが,その一方で,本件明細書等には,ステーションに搬送されていない状態で,図書の取り出し又は返却の完了していない状態のコンテナに対して更新するものとする更新手段の構成については,記載されていないし,かかる構成の示唆すらない

さらに,前記の本件明細書等の記載には,「…図書の取り出しや返却が行われたコンテナが書庫に戻される際に,…記憶内容が更新される」(段落【0010】),「このようなサイズ別フリーロケーション方式による図書の保管管理手段を採用することにより,…同一寸法の図書ならば,その寸法の図書を収容するためのコンテナ内に任意に返却することが可能となるので,…自動化による図書の取り出し及び返却作業の能率を効果的に向上させることができる」(段落【0011】)と記載されており,これらの記載から,本件発明において前提とされるサイズ別フリーロケーション方式は,同一寸法の図書ならばコンテナ内に任意に返却することが可能な構成,すなわち,同一寸法の図書であればその寸法の図書を収容するためのコンテナ内に空きのある限り任意に収容することが可能な構成とされているものと理解することができる。そして,コンテナ内に空きのある限り図書を任意に収容するためには,図書の取り出しや返却が行われたコンテナが書庫に戻される際に,更新手段が記憶内容を更新する,すなわち,図書の取り出しや返却が行われた状態にあるコンテナに対して記憶内容を更新することが必要であり,そのような構成が本件発明におけるサイズ別フリーロケーション方式の前提となっているものと解される

ウ したがって,構成要件1Fの「…ステーションに搬送されて,…要求図書が取り出されたコンテナまたは…返却されたコンテナに対して…更新する更新手段」とは,ステーションに搬送された状態で図書が返却された状態のコンテナに対して記憶内容を更新する構成を具備する更新手段をいうものと解するのが相当である。

したがって,原告の上記主張は採用することができない。

(4)以上の(1)ないし(3)を前提にイ号物件及びロ号物件について検討する。

ア イ号物件及びロ号物件の構成

証拠(甲29,乙49ないし51)及び弁論の全趣旨によれば,イ号物件及びロ号物件について,以下のことが認められる。

(ア)イ号物件及びロ号物件が備えるデータベースには,「コンテナマスタ」と「図書書誌マスタ」がある。

「コンテナマスタ」には,コンテナの番号(これを「コンテナ番号」という。),前後情報,コンテナサイズ,アサイン方式,空きサイズ(コンテナ内の空きスペースを示す数値)等といった情報がコンテナ単位で記憶される。

「図書書誌マスタ」には,図書IDごとに,コンテナ番号,前後情報,保管状態,書名,図書サイズ,厚さ等といった情報が図書単位で記憶される。

(イ)イ号物件及びロ号物件における図書の取り出し処理の流れは次のとおりである。

まず,取り出したい図書を特定する情報を書庫管理機(サーバー機)に入力すると,当該書庫管理機(サーバー機)は,当該図書が収容されたコンテナ番号を特定し,さらに,図書書誌マスタに保存されている図書の情報から図書IDに対応する厚さ情報を算出し,コンテナマスタにおいて,引当した図書の厚さ分を「空きサイズ」に加算する。その際に,書庫管理機(サーバー機)が図書書誌マスタにおいてコンテナ番号に関する情報の更新を行うことはなく,図書IDとコンテナ番号との対応情報は,その図書が返却されるまで更新されない(また,追加出庫においても同様に,図書IDとコンテナ番号との対応情報は,その図書が返却されるまで更新されない)。そして,書庫管理機(サーバー機)は,取り出したい当該コンテナ番号に係るコンテナが書庫からステーションに搬送されるように処理を行い,当該コンテナがステーションに搬送された後,図書館員が当該図書を当該コンテナから取り出す。

以上のように,図書の取り出し時においては,そもそも図書書誌マスタに記憶されたコンテナ番号の更新は,一切行われない。

(ウ)イ号物件及びロ号物件における図書入庫の処理の流れは次のとおりである。

図書入庫の機能として,①「自動呼出入庫」,②「コンテナ情報検索」,③「追加入庫」があり,①「自動呼出入庫」は,自動で入庫コンテナを呼び出す機能であり,②「コンテナ情報検索」は,入庫図書の保管方式にあったコンテナを個別に選択し,入庫登録を行う機能であり,③「追加入庫」は,コンテナがステーションに搬送された後に新たに入庫登録を行う機能である。

「自動呼出入庫」においては,図書館員がステーション上で返却対象の図書の図書IDを読み取らせると,書庫管理機(サーバー機)は,図書書誌マスタに保存されている当該図書に関する情報を参照して,図書IDに対応する図書サイズと厚さ情報を算出し,収容するコンテナを特定し,当該厚さ情報に基づき,コンテナマスタにおいて,引当した当該図書の厚さ分を「空きサイズ」から減算して,図書書誌マスタにおいて,当該図書に係るコンテナ番号の情報を更新する。

そして,書庫管理機(サーバー機)は,上記特定されたコンテナが書庫からステーションに搬送されるように処理し,当該コンテナがステーションに搬送されると,図書館員が当該コンテナに関連づけられた図書をコンテナに返却する。

「コンテナ情報検索」においては,図書館員がステーション上でコンテナを任意で選択すると,当該コンテナがステーションに搬送され,図書館員が当該コンテナに返却対象の図書の図書IDを読み取らせて,当該図書を当該コンテナに格納する。そして,当該コンテナが書庫に搬送されるように処理されると,書庫管理機(サーバー機)は,算出した当該図書の厚さ情報に基づき,コンテナマスタにおいて,引当した当該図書の厚さ分を「空きサイズ」に加算した上で,図書書誌マスタにおいて,コンテナ番号の情報を更新する。

「追加入庫」においては,ステーションに搬送済みとなっているコンテナに,図書館員が追加で図書を格納するが,「コンテナ情報検索」と同様に,図書館員が当該コンテナに当該図書の図書IDを読み取らせた後で,図書書誌マスタに記憶されたコンテナ番号の情報を更新する。

イ 図書の取り出しについて

前記ア(イ)によると,イ号物件及びロ号物件において,ある図書の図書IDと当該図書が収容されているコンテナ番号との関連付けに関する情報は,図書書誌マスタに記憶されているが,図書の取り出しでの一連の処理のなかで,図書書誌マスタに記憶されたコンテナ番号の情報の更新は,一切行われないことが認められる

したがって,イ号物件及びロ号物件は,構成要件1Fの「この搬送手段により前記ステーションに搬送されて,前記要求図書が取り出されたコンテナ…に対して,前記記憶手段の記憶内容を更新する更新手段」を備えていないものと認められる。

ウ 自動呼出入庫

前記ア(ウ)によると,イ号物件及びロ号物件において,「自動呼出入庫」による図書返却の処理では,収容するコンテナを引き当てた時点で当該情報を更新しており,ステーションに搬送されて図書が取り出されたコンテナに対し,又は返却図書が格納されたコンテナに対して図書書誌マスタに記憶されたコンテナ番号の情報を更新することはないことが認められる

したがって,「自動呼出入庫」による図書返却の処理は,構成要件1Fの「返却図書が返却されたコンテナに対して,前記記憶手段の記憶内容を更新する」ものではないと認められる。

エ コンテナ情報検索

前記(1)ないし(3)のとおり,構成要件1Fを充足するためには,「前記要求図書が取り出されたコンテナ」と「前記返却図書が返却されたコンテナ」の両方に対して,図書の取り出しや返却が行われたコンテナが書庫に戻される際に,記憶手段の記憶内容を更新するものであることが必要であると解されるところ,前記ア(ウ)によると,イ号物件及びロ号物件において,「コンテナ情報検索」による図書返却の処理では,図書書誌マスタにおいてコンテナ番号の情報を更新するものの,前記ア(イ)によると,図書の取り出し時について図書書誌マスタに記憶されたコンテナ番号の情報の更新が行われないことが認められるから,構成要件1Fの「取出図書が取り出されたコンテナ…に対して,前記記憶手段の記憶内容を更新する」ものではないと認められる

オ 追加入庫

前記ア(ウ)によると,イ号物件及びロ号物件において,「追加入庫」による図書返却の処理では,図書書誌マスタにおいてコンテナ番号の情報の更新が行われ,図書書誌マスタに記憶されたコンテナ番号の更新はコンテナがステーションに搬送された後に行われることになるものの,図書の取り出し時について図書書誌マスタに記憶されたコンテナ番号の情報の更新が行われないことが認められるから,構成要件1Fの「取出図書が取り出されたコンテナ…に対して,前記記憶手段の記憶内容を更新する」ものではないと認められる。

(5)小括

したがって,イ号物件及びロ号物件は,構成要件1Fを充足しない。

4.3 争点(1)オ(構成要件2B,3Bにおける「充填率が低いコンテナから取り出(す)」の充足性)について

(1)原告は,イ号物件及びロ号物件がいずれも,図書への返却が要求されると,記憶手段に記憶された空き状況と返却する図書の厚さ情報に基づき,返却する図書の厚さを上回る長さの空きを有するコンテナを特定して,当該コンテナを取り出す仕組みを採用しており,図書の寸法に対応する全てのコンテナの中から,空きのないコンテナより空きのあるコンテナを取り出しているから,構成要件2B,3Bの「前記図書の返却が要求された状態で,前記記憶手段の記憶内容に基づいて,返却図書の寸法に対応する複数の前記コンテナの中で,図書充填率の低いコンテナから取り出(す)」に該当すると主張する。

(2)構成要件2B,3Bは,「図書充填率の低いコンテナから取り出す」というものであるから,その文言によれば,図書充填率が低い順に優先してコンテナが自動的に選択されるのであって,コンテナが任意に選択されるものではないと解するのが相当である。

(3)自動呼出入庫について

そこでイ号物件及びロ号物件についてみると,証拠(甲27,29,乙13,68ないし71)及び弁論の全趣旨によれば,イ号物件には「イ号プログラム」(乙68)が,ロ号物件には「ロ号プログラム」(乙69)が搭載されており,自動呼出入庫の図書返却機能による場合,それらのプログラムに従い,返却される図書の図書IDをICタグないしバーコードリーダで読み取ることで,図書書誌マスタから図書IDに対応する厚さ情報を取得し,その取得された返却図書の厚さに,余裕を持たせるために設定したマージン分となる所定の厚さを加算した厚さ分を算出し,その厚さ分の空きサイズがあるコンテナを抽出し,その中から空きサイズが最も小さいコンテナを選択して,これを取り出すという構成を採用していることが認められる。

そうすると,イ号物件及びロ号物件はいずれも,自動呼出入庫による図書返却において,算出した厚さ分の空きサイズがあるコンテナの中から充填率が最も高いコンテナを選択して取り出すものであるから,構成要件2B,3Bの「図書充填率が低いコンテナから取り出す」ものではないと認められる。

(4)コンテナ情報検索について

証拠(甲27)によれば,イ号物件及びロ号物件では,コンテナ情報検索の図書返却機能による場合,出納ステーションの端末画面に「%」が一覧で表示され,図書館員がその「%」表示から任意のコンテナを選択して,手動による入力でコンテナ選択操作とコンテナ呼出操作を行うものであることが認められる。このように,図書館員が任意にコンテナを選択できる以上,図書充填率が低い順に優先してコンテナが自動的に選択されるとはいえない

したがって,イ号物件及びロ号物件はいずれも,コンテナ情報検索による図書返却においても,構成要件2B,3Bの「図書充填率の低いコンテナから取り出す」ものではないと認められる。

(5)小括

以上のとおり,イ号物件及びロ号物件は,構成要件2B,3Bを充足しない。

4.4 争点(1)カ(構成要件3Bにおける「手前側のコンテナを優先して取り出(す)」の充足性)について

(1)原告は,イ号物件は「通信フロー設計書(イ)」(乙50)に,ロ号物件は「通信フロー設計書(ロ)」(乙51)に,コンテナが手前側から引当するようにするとあることから,図書の返却処理において,奥側と手前側では手前側のコンテナから優先的に引き当てられ,使用される構成を備えているから,構成要件3Bの「前記奥行き方向に2個収容されたコンテナのうち,手前側のコンテナを前記空きのあるコンテナとして優先的に使用する」に該当すると主張する。

(2)しかし,証拠(乙68ないし71)によれば,イ号物件には「イ号プログラム」(乙68)が,ロ号物件には「ロ号プログラム」(乙69)が搭載されており,それらのプログラムに採用されている,取り出すコンテナを選択する管理方法は,①まず,返却図書の厚さに,余裕をもたせたマージン分の所定の厚さを加算し,算出した厚さ分以上の空きサイズを有するコンテナをコンテナ全体から抽出し,それらのコンテナを空きサイズが小さい順に並べ替え,②次に,空きサイズが同一のものについては,ステーションから近いスタッカークレーンの順に,連番号の小さい順(昇順),段番号の小さい順(昇順),列番号の小さい順(昇順)に並び替え,さらに,手前と奥とでは,大きい順(降順)に並べ替える,というものであることが認められる。

そうすると,イ号物件及びロ号物件は,手前側と奥側のコンテナの関係では,奥側のコンテナを優先して取り出すとする管理方法が採用されていることが認められる。

(3)これに対して原告は,「通信フロー設計書(イ)」(乙50)及び「通信フロー設計書(ロ)」(乙51)に原告の上記主張に沿う内容の記載があり,イ号物件及びロ号物件の構成はそれらの証拠によって認定されるべきであると主張する。

この点確かに,上記の各通信フロー設計書には,「⇒コンテナは,手前側から引当するようにする。」と記載されており,原告の上記主張に沿う記載がある。しかし,証拠(乙50,51,70,72)によれば,上記の各通信フロー設計書は,飽くまで設計段階で作成されたものであって,原告の主張に沿う上記記載も当初の設計案がそのまま記載されたものであって,実装段階のプログラムの記載内容そのものが示されたものではなく,また,上記の各通信フロー設計書の記載は,図書の返却処理における,コンテナの引当や返却図書の当該コンテナへの格納,当該コンテナの搬送,図書書誌マスタの更新のタイミング等からなる一連の流れについて,大まかにかつ簡潔にまとめた記載にすぎず,前記の各プログラムの記載内容のようにイ号物件及びロ号物件を実際に稼働させるのに必要なプログラムに関する全ての要素が過不足なく記載されたものではないことが認められる。

他方,証拠(乙68ないし79)によれば,前記の各プログラムは,そのプログラム開発担当者が,イ号物件及びロ号物件より先に納入した東京医科歯科大学内の開架図書(自動出納書庫)のプログラムを基に,必要な箇所を改修して作成したものであり,手前側と奥側のコンテナの関係で奥側のコンテナを優先して取り出すとする管理方法については,実際の運用上問題がなかったことから,上記プログラムを変更することなくそのまま前記の各プログラムに引き継いだこと,実際,当該管理方法に関するプログラムの記載部分はイ号物件及びロ号物件が納入された時点からその内容に変更(更新)が行われていないことが認められ,同認定を覆すに足りる的確な証拠はない。

そうすると,イ号物件及びロ号物件に具備されたコンテナ選択に関する管理方法の内容は,前記の各プログラムの記載内容によって認定するのが相当である。

この点に関して原告は,被告が自ら,前記の各プログラムではなく上記の各通信フロー設計書を先に提出して,これを基にイ号物件及びロ号物件の構成について主張立証していたのであるから,イ号物件及びロ号物件に具備されたコンテナ選択に関する管理方法の内容は,前記の各プログラムではなく上記の各通信フロー設計書によって認定されるべきであると主張する。

確かに,被告は,当初,前記の各プログラムを直ちに提出することなく,イ号物件及びロ号物件の構造及び動作方法を示す資料として,先に上記の各通信フロー設計書を提出し,同設計書の記載内容を前提として自ら非充足の主張を展開していたにもかかわらず,その後,その内容を後に提出した前記の各プログラムをもって訂正する結果となっており,その立証態度は,具体的態様の明示義務を規定する特許法104条の2の趣旨に照らして遺憾というほかないが,そうであるからといって上記認定判断を左右するに足りるということはできない

したがって,イ号物件及びロ号物件に実装されている前記の各プログラム(乙68.乙69)の記載によれば,手前側と奥側のコンテナの関係では,奥側のコンテナを優先して取り出すとする方法が採用されていることが明らかであり,同各プログラムにつき,事後の改変その他の理由により同各プログラムがイ号物件及びロ号物件に実装されていないことを疑わせる特段の事情もない以上,上記の各通信フロー設計書の上記記載をもって,イ号物件及びロ号物件に上記記載に沿ったコンテナ選択の論理構成が実装されていると認めることはできないといわざるを得ない。

よって,原告の上記主張は採用することができない。

(4)以上のとおりであるから,イ号物件及びロ号物件は,構成要件3Bの「前記奥行き方向に2個収容されたコンテナのうち,手前側のコンテナを前記空きのあるコンテナとして優先的に使用する」ものではないと認められるから,この点においても,イ号物件及びロ号物件は構成要件3Bを充足しない。

4.5 争点(2)ア(ア)(本件訂正発明1につき乙12公報を主引例とする進歩性欠如)について

後記6(2)ないし(10)のとおり本件再訂正発明1は進歩性を欠くと認められ,そうすると,本件再訂正による特許請求の範囲の減縮をする前の発明である本件訂正発明1も進歩性を欠くと認められる(さらにいえば,本件訂正による特許請求の範囲の減縮をする前の発明である本件発明1も進歩性を欠くと認められる。)。

4.6 争点(3)ア(本件発明1につき本件再訂正による対抗主張の成否)について

-省略-

5.検討

(1)この事件で目を引くのは審決取消訴訟の回数だと思います。特許庁の審判官は1回目の審決で訂正を認めながら特許は無効にならないと判断しました。審決は2011年12月21日ですが、実際の送達日は2012年1月5日でした。つまり特許権者である日本ファイリング株式会社は審決の送達日から1ヶ月も経たずに本件訴訟を起こしたことになります。おそらく株式会社岡村製作所が先制して特許無効審判を請求してきたので、その結果を見て訴訟を提起するように準備していたのではないかと思います。

しかし、知財高裁の判決は審決の取消しという特許庁の判断を覆すものでした。これを受けて被告(被請求人・特許権者)は最高裁に上告しました。最高裁で上告が受理される見込みが低くいことは当然被告も承知だったと思われるので、今後の戦略を検討するための時間確保が目的だったのだと思います。その後、直ぐに取下げていますが、おそらくこの間に審判部で再度審理されて無効と判断された場合に再び知財高裁に出訴して90日以内に訂正審判を請求して、みたび特許庁の審判部で勝負しようという戦略を決めていたと思います。

なお、出訴して90日以内に訂正審判を請求することで機械的に審決の取り消しをするという手続きは改正により現在はなくなりました。

(2)判決では構成要件1Fの「または」について、”or”とは解釈せずに「貸出しと返却という同時に発生し得ない事象を並列的に接続する趣旨で用いられているものと解釈」しており、”and”と解釈しているようです。確かに普通に考えると両方の場合に更新しなければならないように思われます。原告は後述する更新のタイミングに関する被告の主張を受けて"or"ということで切り捨てようとしたのでしょうが、さすがに難しい気がします。

(3)一方、判決では更新のタイミングにまで言及しており、本件発明1は「図書の取り出しや返却が行われたコンテナが書庫に戻される際に,更新手段が記憶内容を更新する」ものと認定し、イ号物件及びロ号物件では例えば「「自動呼出入庫」による図書返却の処理では,収容するコンテナを引き当てた時点で当該情報を更新して」いると認定しています。確かに「前記要求図書が取り出されたコンテナまたは前記返却図書が返却されたコンテナ」と記載すると物の発明にもかかわらず時間の概念が発生してしまいます。しかし、実際問題として時間の概念無しで表現することが難しい内容です。このようにクレームドラフティングだけで対応することが難しそうなものは明細書に「コンテナ取り出し前に更新する場合も含む」と書いてしまった方が安心です。

(4)被告は請求項1、2及び7について無効と主張して特許無効審判を請求していますが、侵害訴訟で争われたのは請求項1、5及び6だった点が少し気になります。

被告は訴訟前に特許無効審判を請求し、審決が出て直ぐに原告が侵害訴訟を提起していることからすると侵害訴訟の1年以上前から当事者間の交渉が始まっていたものと推測します。特許権者は当然イ号物件及びロ号物件は少なくとも請求項1、2、5~7に抵触している、と主張したと思われます。しかし、特許権者は、特許無効審判で請求項1、2及び7が無効と主張された後に提起した侵害訴訟で請求項1、5及び6のみ侵害と主張したようです。普通に考えると、請求項2、7は装置の構造に関する内容なので特許権者が内容を把握しやすいので裁判で抵触と判断される可能性が低いと判断したので止めたと考えられます。一方、請求項5及び6は制御に関する内容なので裁判を起こしてみないとわからないと判断したと考えられます。実際、判決文を読むと被告がデータをすんなりとは出していなかったようです。