ウォーターサーバー用ボトル事件

投稿日: 2017/12/10 23:21:48

今日は、平成28年(ワ)第7649号 特許権侵害差止等請求事件について検討します。原告である阪神化成工業株式会社は、判決文によると、プラスチック製品の製造、販売等を目的とする株式会社だそうです。一方、被告である株式会社ケイ・エフ・ジーは天然水の採取、加工、販売等を目的とする株式会社だそうです。阪神化成工業株式会社はJ-PlatPatで検索したところこれまでに29件の特許を取得しているようです。

1.手続の時系列の整理(特許第5253085号)

2.本件発明

(1)本件発明1

A 底部(11)と、

B 該底部(11)の周縁から連続する胴部(12)と、

C 該胴部(12)の上端縁から中央部に向かって上向きに傾斜する肩部(14)と、

D 前記中央部に配設する筒状の首部(13)と、からなり、

E 全体がPET樹脂によって形成されており、

F 前記胴部(12)には、上下方向に伸縮自在な蛇腹部(21)を有し、

G 且つ該蛇腹部(21)と前記底部(11)との間には、底部(11)に近づくに連れて先細りとなる裾絞り部(24)を備え

内部の液体の排出に伴って、前記裾絞り部(24)がボトル内部に引き込まれること

I を特徴とするウォーターサーバー用ボトル。

(2)本件発明3

J 前記肩部(14)の表面には、複数のリブ(23)が形成されていること

K を特徴とする請求項1または2に記載のウォーターサーバー用ボトル。


3.被告容器

被告容器は、別紙「物件目録」記載の図面のとおりの形態を有しているウォーターサーバーに利用されるボトルである。本件発明1の構成要件AないしF及び本件発明3の構成要件Jに相当する被告容器の構成aないしf及びjは以下のとおりであり、本件発明1及び3の上記構成要件をそれぞれ充足する。

a 底部と、

b 底部の周縁から上方に延びる胴部と、

c 胴部の上端部から中央に向けて上向きに傾斜する肩部と、

d 肩部中央に配置された筒状の首部と、を備え、

e 全体がPET樹脂により形成され、

f 胴部には、蛇腹模様に凹凸の形成された蛇腹部が設けられ、上下方向に伸縮可能になっており、

j 肩部の表面に16個のリブが形成されている

4.争点

(1)被告容器が本件発明1及び3の技術的範囲に属するか(争点1)

ア 構成要件Gの充足性(争点1-1)

イ 構成要件Hの充足性(争点1-2)

(2)本件発明1及び3は特許無効審判により無効にされるべきものか(争点2)

(3)原告の損害額(争点3)

5.争点についての当事者の主張

1 争点1-1(被告容器が本件発明1及び3の技術的範囲に属するか-構成要件Gの充足性)

(原告の主張)

(1)構成要件Gの解釈

ア 構成要件Gの「裾絞り部」は底部に近づくに連れて先細りになる部分であり、本件明細書の【0013】、【0015】及び【0027】の記載に鑑みると、蛇腹部と底部との間に配置され、下方に延びるに従い、直線状、円弧状等の形状で、断面積が次第に縮小する部分と解するのが妥当である。

イ 被告は裾絞り部には直線部分が必要であると主張しているが、本件明細書に裾絞り部を直線で構成されるものに限定する記載はなく、その【0027】には「…裾絞り部24と底部11との境界も、円弧によって滑らかに結ばれているが、この円弧部分は裾絞り部24の範囲とする。」と記載されているから、被告の主張は本件明細書の記載に反している。

また、裾絞り部の技術的意義は、蛇腹部と底部との間にボトル内部に引き込まれるような部分を裾絞り部として設けることで、ボトル内部の容積を小さくすることができるようにし、これによって、ボトル内の残水を減らすことにある。そのためには、裾絞り部はボトル内部に引き込まれるような形状、すなわち、「底部に近づくに連れて断面積が次第に縮小する」形状(本件明細書の【0013】)を有していれば足り、それが直線であることまでは要求されない。

したがって、被告の上記主張は失当である。

(2)被告容器の構成、本件発明1及び3との対比

ア 被告容器の構成要件Gに相当する構成gは、「蛇腹部の下には垂直に延在する箇所が設けられ、その下に底部に向けてR状に湾曲する湾曲部が設けられ」というものであり、別紙「物件目録」記載の図面に指示部位を書き込んだ別紙「被告容器の構成(原告の主張)」記載のとおり、蛇腹部の下には垂直に延在する箇所が設けられ、その下に底部に向けてR状に湾曲する湾曲部が設けられている。そして、この「底部に向けてR状に湾曲する湾曲部」は、底部に近づくに連れて先細り(断面積が次第に縮小する形状)になっているから、構成要件Gの「裾絞り部」に相当する。

したがって、被告容器は構成要件Gを充足する。

イ 被告容器の蛇腹部と湾曲部(裾絞り部)との間には、垂直に延在する部分が設けられている。しかし、本件明細書は裾絞り部以外の構成要素の存在を否定しておらず、本件明細書の【0015】に「蛇腹部との接続部などは、局地的に垂直に延在していても構わない。」との記載があることからも分かるとおり、上記部分が仮に垂直に形成されていたとしても、上記接続部にすぎず、構成要件Gの裾絞り部とは別の構成要素である。

なお、被告は上記垂直に延在する部分が「局地的」ではないから、上記【0015】にいう「接続部」に該当しないとも主張しているが、「局地的」とは「ある区域に限られているさま」を意味し、特定のある一部と広さを比較して決するものではないところ、上記垂直に延在する部分はボトル全体のうちで湾曲部(裾絞り部)と蛇腹部の間という区域に限られているから、「局地的」であるといえる。

また、技術的にみても、蛇腹部と底部との間に裾絞り部以外の構成要件が存在することは否定されない。すなわち、本件特許発明は、蛇腹部(構成要件F)によりその内部の容積が減るところ、蛇腹部と底部との間に裾絞り部を設けて(構成要件G)、内部の液体の排出に伴って、その裾絞り部がボトル内部に引き込まれるようにする(構成要件H)ことで、その内部の容積が更に減りやすいようにして、「ボトル内の残水を減らす」という効果を得るものである。垂直に延在する接続部があろうがなかろうが、内部の液体の排出に伴いボトル内部に引き込まれる裾絞り部が存在さえしていれば、この効果が得られることは明らかであり、上記接続部が存在しても、本件特許発明の効果が失われる訳ではない。

以上より、上記接続部の存在は構成要件Gの充足性を否定する根拠にならない。

ウ 被告のその余の主張は否認し、争う。

(被告の主張)

(1)構成要件Gの解釈

本件明細書の【0027】には、裾絞り部と底部との境界が円弧によって結ばれていると記載されており、これによると裾絞り部は円弧ではなく、直線部分であるということになる。少なくとも、裾絞り部は円弧部分だけでは構成されず、直線部分が必要なことは明らかである。そして、本件明細書の【0015】の記載によると、裾絞り部は傾斜(テーパ)させることで徐々に断面積を減らしていく形状を意味する。

(2)被告容器の構成、本件発明1及び3との対比

ア 被告容器が、原告主張のような、蛇腹部の下には垂直に延在する箇所が設けられ、その下に底部に向けてR状に湾曲する湾曲部が設けられているという構成を有することは認めるが、原告のその余の主張は否認し、争う。

イ 被告容器の「底部に向けてR状に湾曲する湾曲部」は、本件明細書でいう「円弧部分」と同一であり、この部分だけで裾絞り部を構成することはできない。被告容器を含めて全てのペットボトル容器は、大小の差はあるものの、底部に向けたR状の湾曲部を有しており、このようなR状の湾曲部は、ペットボトル容器である以上、当然有している形状で、裾絞り部とは明らかに異なる。そして、被告容器には傾斜させられた胴部がない。

また、本件特許の構成では、蛇腹部と底部との間には裾絞り部以外の部分は存在せず、本件明細書の【0015】でも、裾絞り部には垂直に延在する箇所が存在しないことが明確にされている。原告は被告容器の垂直に延在する部分が、局地的に延在している接続部である旨主張しているが、上記部分は湾曲部よりもその範囲が大きく、蛇腹部と湾曲部を接続する役割を有していないから、蛇腹部や湾曲部とは異なる独立の部分である。したがって、「接続部」ではないし、「局地的」なものでもない。

以上より、被告容器に裾絞り部は存在しないから、構成要件Gを充足しない。

2 争点1-2(被告容器が本件発明1及び3の技術的範囲に属するか-構成要件Hの充足性)

(原告の主張)

(1)構成要件Hの解釈

ア 本件明細書の【0020】の記載や本件特許の補正の経緯を踏まえると、構成要件Hの「裾絞り部がボトル内部に引き込まれる」とは、裾絞り部が蛇腹部の方向、つまり裾絞り部から見てボトル内部の方向に引き込まれることを意味すると解するのが妥当である。

イ 被告は裾絞り部が蛇腹内部に引き込まれる必要がある旨主張しているが、裾絞り部がボトル内部に引き込まれることの効果は、「蛇腹部の内部の容積を削減」し(本件明細書の【0020】)、「充填された液体のほぼ全量を排出可能」にする(同【0006】)、すなわち、「ボトル内の残水を減らす」ことにある。そして、これを達するには、蛇腹部の方向、換言すると、裾絞り部から見てボトル内部の方向に当該裾絞り部が潰れ(引き込まれ)さえすれば足り、蛇腹内部に裾絞り部が引き込まれることまで要求されるものではない。このことは、本件特許の補正の経緯や、本件明細書の【0020】の記載等からも明らかである。

また、構成要件Hの文言は、裾絞り部の全ての部分が完全にボトル内部に引き込まれることまで要求しているわけではないから、仮に湾曲部(裾絞り部)の一部が容器内部に引き込まれずに角として残ったとしても、そのことによって、構成要件Hを充足しないということはできない。

なお、本件明細書の記載上、ウォーターサーバー用ボトルの使用方法は、カバー容器を被せない方法に限定されていないから、構成要件Hの充足性は、消費者の通常の使用態様に従い、カバーを被せた状態で検討すべきである(もっとも、被告容器では、カバーを被せた場合と被せなかった場合のいずれの場合においても結果は同じである。)。

(2)被告容器の構成、本件発明1及び3との対比被告容器の構成要件Hに相当する構成hは、「内部の水の排出に伴って、底部付近がボトル内部に引き込まれるように構成され」というものである。被告容器は、ボトル内部の水の排出に伴って、まず、湾曲部(裾絞り部)のうちの特に底部に近い部分がボトル内部に引き込まれて潰れていき、次にその勢いで蛇腹部が折り畳まれるように潰れ、最終的には完全に潰れた状態になる。このように、被告容器の底部及び湾曲部(裾絞り部)がボトル内部に引き込まれており、この水の排出時における被告容器の動作は、構成要件Hに相当する。

したがって、被告容器は構成要件Hを充足する。

(被告の主張)

(1)構成要件Hの解釈

原告の主張は否認し、争う。

本件特許の補正の経緯、本件明細書の【0015】、【0018】、【0020】、【0032】及び図5の記載内容、さらにボトル内部の液体の排出に伴いボトルが変形するのは公知であることから、構成要件Hの「裾絞り部がボトル内部に引き込まれる」とは、裾絞り部が蛇腹内部に引き込まれることを意味すると解すべきである。また、本件明細書の図4及び5では、裾絞り部の全部がボトル内部に引き込まれる作用が図示されているから、構成要件Hの「裾絞り部」とは、裾絞り部の一部ではなく、裾絞り部の全部を指していることが明らかである。

なお、本件特許発明には、透明のカバーを容器に被せるという構成は含まれておらず(本件明細書の【0008】参照)、構成要件Hの充足性はカバーを被せない状態で検討すべきである。

(2)被告容器の構成、本件発明1及び3との対比

被告容器では水の排出に伴って裾絞り部の全部が蛇腹内部に引き込まれていないから、構成要件Hを充足しない。

3 争点2(本件発明1及び3は特許無効審判により無効にされるべきものか)

-省略-

4 争点3(原告の損害額)

-省略-

6.裁判所の判断

1 争点1(被告容器が本件発明1及び3の技術的範囲に属するか-構成要件Gの充足性)について

(1)本件明細書の記載内容

-省略-

(2)本件特許の出願経過

後掲の各証拠及び弁論の全趣旨によれば、本件特許の出願経過につき、次の事実が認められる。

ア 原告は、平成20年10月17日、本件特許の出願をしたところ、出願当初の願書に添付した特許請求の範囲では、本件発明1に係る構成要件のうち構成要件G及びHを含まない請求項を請求項1とし、構成要件Hを含まない請求項を請求項2とし、本件特許の請求項2及び3に相当する請求項は請求項3及び4としていた(甲1、2、乙23)。

イ 特許庁審査官は、平成24年10月頃、上記アの出願に係る発明は乙21発明等に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明することができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとして、拒絶理由通知をした(乙4)。

ウ 原告及び株式会社ウォーターダイレクトは、同年11月16日、上記アの出願時の請求項1を特許請求の範囲から削除するとともに、出願時の請求項2に構成要件Hを追加して請求項1とするなどの補正をした。そして、原告及び株式会社ウォーターダイレクトは、同日に提出した意見書において、補正後の請求項1に係る発明(本件発明1に相当するもの)と上記イで引用された乙21発明等とを対比すると、補正後の請求項1に係る発明は、Gの構成及びHの構成を有するのに対し、乙21発明等はかかる構成を有していない点で相違すると説明した(乙6、7)。

(3)構成要件Gの「裾絞り部」の意義

ア 構成要件Gは、「胴部には、上下方向に伸縮自在な蛇腹部を有し、」とある構成要件Fに続き、「且つ該蛇腹部と前記底部との間には、底部に近づくに連れて先細りとなる裾絞り部を備え、」とあるから、これらによれば、「裾絞り部」の位置は、胴部において蛇腹部と底部との間にあり、またその形状は底部に近づくに連れて先細りとなるものと定義される

イ 蛇腹部に続く「裾絞り部」がいかなる態様で接続しているか検討するに、本件明細書をみると、裾絞り部と「蛇腹部との接続部などは、局地的に垂直に延在していても構わない。」(【0015】)との記載、「底部との接続部には曲面を介在させてもよい。」(【0010】)との記載があるから、蛇腹部から裾絞り部を経て底部に至る胴部は、それぞれの間の接続部が一定の幅をもって存在することが許容されていると解される。

しかし、本件明細書において、蛇腹部と裾絞り部の接続部が「垂直に延在して」よいとしても、その接続部は「局地的」、すなわち「ある区域に限られているさま。」(広辞苑第6版)という、場所的限定を意味する言葉が用いられていることからすると、同所で「垂直に延在」することが許される接続部は、蛇腹部及び裾絞り部に対して、より狭い限られた範囲であると解されるべきことになる

そして、このように、胴部を「蛇腹部」と「裾絞り部」で構成し、その接続部を狭い限られた範囲にすべきことは、胴部に「蛇腹部」と「裾絞り部」を設ける技術的意義に関係するものである。

すなわち、本件特許発明は、ボトル全体をPET樹脂によって形成することで、液体を充填した際でも自立的に形状を維持できるようにした【0003】、【0004】、【0006】、【0008】、【0011】)一方で、効率よく(効果的に)ボトルの容積を縮小(削減)させる(【0012】、【0018】、【0020】、【0027】、【0032】)ことを課題の一つとしており、その課題を解決するために、ボトルの胴部に蛇腹部を備えて押し潰されやすい構造にし(【0008】、【0012】、【0023】、【0026】)、これに加え、蛇腹部と底部との間に裾絞り部を設けることで、裾絞り部に作用する大気圧をボトルの中心に向かわせ、ボトル内部の液体の排出に伴って、裾絞り部をボトルの内部に陥没するように変形させ(【0015】、【0031】)、もってボトルを内部に向けて押し潰されやすくし、効率よくボトルの容積を縮小することを目的としている(【0018】、【0020】、【0027】、【0032】)ものであるが、そうであればその作用効果に関係しない接続部が必然的に狭い範囲に限られることは自ずと明らかといえる。

ウ そして、裾絞り部に以上のような作用効果があり、またそのため胴部を構成する蛇腹部のほか裾絞り部以外の接続部が狭い限られた範囲と解されるべきことは、以下のとおり、上記(2)認定の本件特許の出願経過に照らしても根拠づけられているといえる。

すなわち、本件特許は、出願当初の特許請求の範囲においては、本件特許発明のうち、「裾絞り部」に関する構成要件(構成要件G)及び「裾絞り部」の機能に関する構成要件(構成要件H)を含まない構成要件を請求項1、「裾絞り部」の機能に関する構成要件(構成要件H)を含まない構成要件を請求項2としていたが、特許庁審査官の拒絶理由通知を受けて、上記請求項1を削除し、上記請求項2に構成要件Hを付け加える補正をなし、もって現在の請求項1としたというのである。要するに、胴部における「蛇腹部」以外の構成を特定しない請求項を削除し、同部分の構成を「裾絞り部」と特定することにより特許されるに至ったというのであるから、同部分と「蛇腹部」の接続部において「局地的」に存在することが許容されるにすぎない「垂直に延在」する部分は、極く限られた幅のものにすぎないと解すべきことが明らかといえる

(4)「裾絞り部」の形状

「裾絞り部」の形状については、構成要件Gで特定されているとおり「底部に近づくに連れて先細りとなる」ものであり、本件明細書において、「裾絞り部」につき、「垂直に延在するのではなく、裾絞り状に傾斜している」(【0015】)と説明されている上、構成要件G及びHを含まない出願当初の特許請求の範囲の請求項1を削除した上記(2)認定の本件特許の出願経過に照らしても、裾絞り部は、それが直線であっても、曲線であっても、少なくとも、垂直の部分を含むことなく、蛇腹部から底部にかけて、徐々に先細りになっていくものに限定されていると解される。

(5)まとめ

したがって、構成要件Gにいう「裾絞り部」とは、胴部において「蛇腹部」と「底部」の間にあって、それぞれに接続部で連続して存在するものであり、また「蛇腹部」との接続部において「垂直に延在」する部分があっても許容されるが、それは極く限られた幅のものにすぎないのであり、またその形状は、「蛇腹部」方向から「底部」方向に向けて、徐々に先細りになっているものということになる。

(6)以上の「裾絞り部」の解釈を踏まえ、被告容器が裾絞り部を備え、構成要件Gを充足しているかを検討する。

ア 原告は、別紙「被告容器の構成(原告の主張)」記載の図面で「湾曲部」と指示した部分が「裾絞り部」に相当し、同部分の存在により構成要件Gを充足すると主張し、併せて、その上部にある垂直部分は、本件明細書の【0015】にいう「接続部」にすぎないとしている。

しかしながら、上記検討したとおり、「裾絞り部」は、「蛇腹部」から接続部で連続しているものであるが、この接続部は、極く限られた幅の範囲であるべきであって、上記図面に明らかなように、被告容器における原告主張に係る「裾絞り部」に相当する湾曲部と蛇腹部の間に存する、湾曲部と高さ方向の幅がほぼ一緒である垂直に延在する部分をもって「接続部」にすぎないということはできない。

したがって、被告容器は、上記定義した「裾絞り部」で構成されるべき「蛇腹部」から「底部」にかけて胴部の大半が、「裾絞り部」に該当しない部分で構成されているということになるから、被告容器は、「裾絞り部」を備えているものということはできない

イ 原告の主張は、被告容器のうち、「裾絞り部」が備えるべき形状を有すると説明しやすい部分を切り取り出して、これが「裾絞り部」に該当するというものであるが、被告容器は、「裾絞り部」で構成されるべき蛇腹部と底部との間の部分が、「裾絞り部」に該当するといえない以上、仮に原告主張に係る湾曲部が「裾絞り部」に相当する形状を備えていると評価できるとしても、被告容器が構成要件Gの「裾絞り部」を備えているということはできない。

(7)以上より、被告容器は、少なくとも構成要件Gを充足しないことが明らかであるから、本件発明1の技術的範囲に属するとはいえず、同様に本件発明3の技術的範囲に属するともいえない。

7.検討結果

(1)本件発明はウォーターサーバー用のボトルに関するものです。発明自体は非常にシンプルなものなので特許請求の範囲と図を見るだけで理解できると思います。水が充填されたボトルをウォーターサーバーに設置後、使用していくにつれて内部の水が減少するとともにボトルに設けた裾絞り部がボトル内部に引き込まれることで蛇腹部の内部の容積を削減する機能があるというものです。

(2)裁判では被告容器が構成要件G「且つ該蛇腹部(21)と前記底部(11)との間には、底部(11)に近づくに連れて先細りとなる裾絞り部(24)を備え」を充足しているか否かがポイントになりました。判決ではまず「「裾絞り部」の位置は、胴部において蛇腹部と底部との間にあり、またその形状は底部に近づくに連れて先細りとなるものと定義される」と述べています。そして「本件明細書において、蛇腹部と裾絞り部の接続部が「垂直に延在して」よいとしても、その接続部は「局地的」、すなわち「ある区域に限られているさま。」(広辞苑第6版)という、場所的限定を意味する言葉が用いられていることからすると、同所で「垂直に延在」することが許される接続部は、蛇腹部及び裾絞り部に対して、より狭い限られた範囲であると解されるべきことになる」と展開し、最終的には「被告容器は、上記定義した「裾絞り部」で構成されるべき「蛇腹部」から「底部」にかけて胴部の大半が、「裾絞り部」に該当しない部分で構成されているということになるから、被告容器は、「裾絞り部」を備えているものということはできない」と結論付けています。

(3)要は被告容器において原告が「裾絞り部」に相当すると主張する部分は、「蛇腹部」と「裾絞り部」との間に存在する「接続部」の長さが長すぎるので「裾絞り部」に相当しない、というものです。

(4)この結論は理解できませんでした。まず、特許請求の範囲で全く記載されていない構成である「接続部」を中心に展開していること、さらに、明細書中に「局地的」と表現されている点を重要視していること、こういった論理展開はこれまでのクレーム解釈においてあまりなじみのない考え方だと思います。明細書等の記載を参酌して必要以上に特許請求の範囲を限定解釈しているように思われます。「裾絞り部」が長い方が内部に引き込まれる量が増え体積の減少度合いも大きいのでより効果が大きくなるのはわかりますが、そもそも「発明を実施するための最良の形態」に書いてある通りの例示と同じでなければ構成要件を満たすとはいえない、という考え方は行き過ぎだと思います。

(5)おそらく、裁判官は被告容器の「湾曲部」は容器を作成する過程で通常形成される程度のものであるので、これを「裾絞り部」に該当するというのは適切ではない、という考えを持っていたのだと思われます。したがって、通常形成される「湾曲部」は「裾絞り部」に含まれない、とするために「接続部」を持ち出したのだと思います。しかし、こういった解釈は、被告が提出した公知文献に基づいて「裾絞り部」が通常形成される「湾曲部」まで含むとすると無効であるという前提を立てた上で、本件特許の明細書等を参酌して「裾絞り部」を定義するという手続きを踏まなければ幾らでも限定解釈し放題になってしまうので危険だと思います。