特許用語について思うこと

投稿日: 2017/02/23 1:22:38

今回も文字だらけです。 

企業時代、知財部門に移ってきたばかりの頃、明細書の作成演習を受けました。その際にサンプルとして渡された明細書の特許請求の範囲に意味がよくわからない語句があり、早速辞書で調べましたが辞書にも載っていませんでした。そこで講師に質問したところ、それがいわゆる「特許用語」なるものと教わりました。その時はこれから知財を始める遅めの新人だったので「特許技術はそんな専門用語まで用いなければならない世界なのか」と感心しただけでした。

 

その後、弁理士試験の勉強を始めました。そこで特許法だけでなく施行規則まで目を通すようになると様式29の2備考に書いてある「用語は、その有する普通の意味で使用し、かつ、明細書及び特許請求の範囲全体を通じて統一して使用する。ただし、特定の意味で使用しようとする場合において、その意味を定義して使用するときは、この限りでない。」という記載が気になりました。「普通の意味で使用」と定義されていますが、その通り使用されているか否かを判断するためには「普通の意味」を定義する必要があります。そうすると辞書等にきちんとした意味が載っていない特許用語を用いることは問題になるのではないか?と思ったのです。

 

それから「特許用語」というもの自体に疑問を持ち始めました。色々調べていくと平成6年法改正の解説本に旧法(昭和62年改正法)下での請求項の記載について次のような記述がありました。

特許請求の範囲には「発明の構成に欠くことができない事項」を記載することとされているが、基本的に「物」の発明における「構成に欠くことができない事項場合」は「物」で表現すべきものとされ、また、作用や方法は物の発明の構成に欠くことができない事項ではないと考えられているため、以下のような作用的、方法的記載は認められてない。

①請求項に記載された事項が単一の技術的手段からなる場合において、その技術的手段が機能的又は作用的に記載されている場合

②物の発明において、技術的手段が方法的に記載されている場合

旧法時代には請求項に用いることができる文言がかなり限定されていたようなので、特許用語が多用されるようになったという側面もありそうです。

 

ちなみに平成6年法で改正され現在まで至る条文は、「特許出願人が特許を受けようとする発明を特定するために必要と認める事項のすべてを記載しなければならない。」です。大きく変わっており、これなら特許用語を用いる必要もないように思います。

しかし、そうはいっても習慣は簡単には抜けないようです。当ブログで紹介した事件で争われた特許もほとんどの請求項に特許用語が用いられていました。例えば、「係止」、「挿着」、「連設」、「連接」といった一般的な日本語の辞書には載っていない語句です。

 

そうすると、こういった語句について、先ほど述べた「普通の意味」の定義はどのようにするのでしょうか?実は紹介した事件では、解釈についての争いはありましたが、この語句が法律違反であるという争いはされていません。このような特許用語を用いるのはお互い様ですし、図面等を参酌すればどのような状態か解釈できるためでしょう。しかし、様々な事件で特許請求の範囲の文言解釈の根拠として、第一に特許請求の範囲内での定義、第二に明細書等での定義、第三に辞書等での定義が用いられる以上「特許用語」は、明細書中で明確に定義されているならともかく、用いるべきではないでしょう。

 

また、特許用語は意味の解釈が限定的になりがちです。例えば「係止」では「係り合わせて止めること」と言われていますが、複数の部材同士を止める場合必ず両方が係りあっているはずです。それなのにわざわざ「係止」と表現すると、「係止」に相当しない止め方も想定し、それを除外しているように読めます。それは無駄なことですね。単に部材同士が止められているとか、固定されていると書けば十分でしょう。したがって、解釈の疑義を招く可能性がある語句は避けるべきでしょう。

 

さらに、辞書に載っていないわけですから海外出願時にも困ります。ベテラン翻訳者であれば自ら特許用語と英語の対照表を作成しているかもしれませんし、経験の浅い翻訳者であればネットで検索するかもしれません。翻訳の正確度も問題ですが、翻訳する人によって訳語が変わってしまうことも問題です。

 

以上のように私自身は特許用語を用いることには賛成できないので、これまで作成した明細書等では極力用いてきませんでした。とはいっても、特許用語を用いることで楽に表現できるケースもあるのでついつい使ってしまうこともありますが・・・