ボンディングワイヤ事件

投稿日: 2018/10/16 1:43:00

今日は、平成28年(ワ)第2688号 特許権侵害差止等請求事件について検討します。

 

1.手続の時系列の整理(特許第4349641号)

2.本件各発明

(1)本件発明1

1A 銅(Cu)を主成分とする芯材と、該芯材の上に2種類の被覆層を有するボールボンディング用被覆銅ワイヤであって、

1B 前記芯材が銅(Cu)-1~500質量ppmリン(P)合金からなり、

1C かつ、前記被覆層がパラジウム(Pd)または白金(Pt)の中間層および金(Au)の表皮層とからなる

1D ことを特徴とするボールボンディング用被覆銅ワイヤ。

(2)本件発明2

2A 銅(Cu)を主成分とする芯材と、該芯材の上に2種類の被覆層を有するボールボンディング用被覆銅ワイヤであって、

2B 前記芯材が銅(Cu)-1~80質量ppmリン(P)合金からなり、

2C かつ、前記被覆層がパラジウム(Pd)または白金(Pt)の中間層および金(Au)の表皮層とからなる

2D ことを特徴とするボールボンディング用被覆銅ワイヤ。

(3)本件発明6

6A 中間層の厚さが0.005~0.2μmである

6B 請求項1~請求項3の何れか1項に記載のボールボンディング用被覆銅ワイヤ。

(4)本件発明7

7A 中間層の厚さが0.01~0.1μmである

7B 請求項1~請求項3の何れか1項に記載のボールボンディング用被覆銅ワイヤ。

(5)本件発明9

9A 表皮層の厚さが中間層の厚さよりも薄いものである

9B 請求項1~請求項3の何れか1項に記載のボールボンディング用被覆銅ワイヤ。

3.争点

(1)技術的範囲の属否(争点1)

(2)無効理由の存否(争点2)

ア 乙6発明を主引例とする新規性欠如の有無(争点2-1)

イ 進歩性欠如の有無(争点2-2)

(ア)乙6発明を主引例とするもの(争点2-2-1)

(イ)乙13発明を主引例とするもの(争点2-2-2)

(ウ)乙7発明を主引例とするもの(争点2-2-3)

(エ)乙12発明を主引例とするもの(争点2-2-4)

ウ サポート要件違反及び実施可能要件違反の有無(争点2-3)

(3)原告の損害額(争点3)

4.争点に関する当事者の主張

(1)争点1(技術的範囲の属否)について

(原告の主張)

ア 総論

被告各製品の構成は、被告各製品の分析結果(被告製品1については、甲7ないし9、29ないし31。被告製品2については、甲60ないし62)によれば、別紙「被告各製品構成目録(原告主張)」(被告製品1については、「被告製品1(甲7~9)」欄及び「被告製品1(甲29~31)」欄、被告製品2については、「被告製品2」欄)記載のとおりであるから、本件各発明の構成要件を全て充足する。

イ 各論

(ア)「金(Au)の表皮層」(構成要件1C、2C〔6B、7B、9B〕)の充足性

a 意義

(a)特許請求の範囲の記載は、各層に他の金属を意図的に含有させる場合とそうではない場合とが書き分けられているにすぎず、各層に別の層の金属が混入する場合を排除していない。金属と金属を互いに密着させた状態で熱処理をすると、互いに相手の金属の中に拡散混入していくことは技術常識である(甲11、38)から、本件明細書にも記載されたこうした方法(本件明細書【0025】等)によって形成されるボールボンディングワイヤの「金(Au)の表皮層」には、金のみから構成される層だけでなく、金と中間層の金属であるパラジウムから構成される層も含まれる。したがって、「金(Au)の表皮層」は、金を主要元素として構成される層であれば足りる。

(b)本件明細書には、「表皮層が厚くなれば、溶融するのに時間がかかり、銅(Cu)の融解を促進する効果が薄れる」(同【0019】)と、各層を構成する金属の厚さによって各層の溶融順序が変動することについての記載がある。数十nmの金属薄膜の融点が当該金属固有の融点より降下すること(以下、この現象を「融点降下」ということがある。)は技術常識であり(甲86資料1及び2並びに同資料3〔甲74〕)、このことは金とパラジウムの合金の薄膜にも当てはまる(甲86)。したがって、「金(Au)の表皮層」にパラジウムが約2%(原子%、以下同じ)以上混入することも許容される。

被告が、本件各発明が各層を構成する金属の融点の違いによって生じる溶融順序に着目したものであることの根拠とする本件明細書の記載(同【0018】)は、純金属を代表例として本件各発明の作用効果を奏する原理を説明するためのものにすぎない。また、ワイヤ先端の切断面に露出した銅の酸化による不都合を回避するという本件各発明の課題や本件明細書の記載(同【0011】、【0016】及び【0018】)に照らせば、「金(Au)の表皮層」が中間層のパラジウム(Pd)よりも先に溶融することが必要なのであって、芯材の銅よりも先に溶融することが必要なわけではない。さらに、芯材の銅に中間層のパラジウムが混入すると、銅とパラジウムの合金の融点も銅固有の融点よりも上昇する。以上の諸点に照らしても、「金(Au)の表皮層」にパラジウムが約2%以上混入することも許容される。

b 被告各製品の構成

(a)被告各製品の分析結果(被告製品1については、甲7、18、29の各4ページ。被告製品2については、甲60の4ページ)によれば、被告各製品の最表層には、金(Au)を主要元素とする層(甲29において分析に供された被告製品1における膜厚は約1.7nm、甲60において分析に供された被告製品2における膜厚は約2.9nmである。)が存在することが認められる。したがって、被告各製品の構成は構成要件1C、2C(6B、7B、9B)を充足する。

(b)なお、オージェ電子分光法においては、最表層の膜厚が数nm以下の場合にはその下地にある層を検出してしまう(甲40ないし43)。そのため、被告各製品の「金(Au)の表皮層」における金の濃度は、「金(Au)の表皮層」がオージェ分析の検出限界以下の厚さであることに鑑みると、オージェ電子分光法によって測定された結果よりも高濃度である。

また、EDXライン分析においては、2種の異なる金属の界面付近では2つの金属がともに存在するように検出されることがある(甲41、46)。そして、被告各製品は金の表皮層が数nm以下の薄い層であるため、金の表皮層とパラジウムの中間層との界面が表皮層の表面近傍に存在する。そうすると、被告各製品の「金(Au)の表皮層」における金の濃度は、EDXライン分析によって測定された結果と同等かそれ以上である。

(イ)「パラジウム(Pd)…の中間層」(構成要件1C、2C〔6B、7B、9B〕)の充足性

a 意義

特許請求の範囲の記載は、各層に他の金属を意図的に含有させる場合とそうではない場合とが書き分けられているにすぎず、各層に別の層の金属が混入する場合を排除していない。金属と金属を互いに密着させた状態で熱処理をすると、互いに相手の金属の中に拡散混入していくことは技術常識である(甲11、38)から、本件明細書にも記載されたこうした方法(本件明細書【0025】等)によって形成されるボールボンディングワイヤの「パラジウム(Pd)…の中間層」には、パラジウムのみから構成される層だけでなく、パラジウムと表皮層の金属である金や芯材の金属である銅から構成される層も含まれる。したがって、「パラジウム(Pd)…の中間層」は、パラジウムを主要元素として構成される層であれば足りる。

被告が「パラジウム(Pd)…の中間層」とはパラジウムのみから構成されている層をいうことの根拠とする本件明細書の記載(同【0016】)は、純金属を代表例として本件各発明の作用効果を奏する原理を説明するためのものにすぎない。

b 被告各製品の構成

被告各製品の分析結果(被告製品1については、甲7、18、29の各4ページ。被告製品2については、甲60の4ページ)によれば、被告各製品の中間層には、パラジウムを主要元素とする層(甲29において分析に供された被告製品1における膜厚は約58nm、甲60において分析に供された被告製品2における膜厚は約61.4nmである。)が存在することが認められる。したがって、被告各製品の構成は構成要件1C、2C(6B、7B、9B)を充足する。

(被告の主張)

ア 総論

原告が分析に供した試料(甲7ないし9、29ないし31、59ないし61)が被告各製品と同一の構成のものであるとは認められないから、被告各製品の構成が別紙「被告各製品構成目録(原告主張)」記載のとおりであるとは認められない。仮に、原告が分析に供した資料が被告各製品と同一の構成のものであったとしても、被告各製品の分析結果から、被告各製品の構成が別紙「被告各製品構成目録(原告主張)」記載のとおりであるとは認められないから、被告各製品の構成が本件各発明の構成要件を全て充足するとは認められない。

また、仮に、被告各製品の構成が別紙「被告各製品構成目録(原告主張)」記載のとおりであったとしても、後記の構成要件の解釈等に照らせば、被告各製品の構成が本件各発明の構成要件を全て充足するとは認められない。

イ 各論

(ア)「金(Au)の表皮層」(構成要件1C、2C〔6B、7B、9B〕)の充足性

a 意義

(a)特許請求の範囲においては、ある部分が1つの元素のみから構成される場合と2つ以上の元素から構成される場合とを明確に書き分けている。本件明細書においては、「表皮層に金(Au)を用いた。金(Au)の融点(約1064℃)は」(本件明細書【0018】)と、金100%の場合の融点が明確に示されている。そうすると、「金(Au)の表皮層」は、金のみから構成されている層をいう

(b)仮にそうでないとしても、本件明細書によれば、本件各発明の作用効果は各層を構成する金属の融点の違いによって生じる各層の溶融順序の違いにより生じるものであり(同【0018】)、本件各発明の作用効果を奏するためには「金(Au)の表皮層」の融点が芯材の銅の融点よりも低くなければならない(同【0016】、【0018】)。しかし、「金(Au)の表皮層」に中間層のパラジウムが約2%以上混入すると、「金(Au)の表皮層」の融点が芯材の銅の融点よりも高くなってしまう。したがって、仮に、「金(Au)の表皮層」が金とそれ以外の金属から構成されること自体は許容されるとしても、パラジウムが約2%以上混入することは許容されない

原告が「金(Au)の表皮層」と芯材の銅の融点の違いのみによって溶融順序が決まるものではないことの根拠とする本件明細書の記載(同【0019】)は、表皮層が厚くなって金の量が増えると溶融するのに時間が掛かることを記載しているにすぎない。また、本件明細書には、「金(Au)の表皮層」の厚さによる融点降下についての記載はない。このように本件明細書には各層を構成する金属の厚さによって各層の溶融順序が変動することについての記載も示唆もない。

b 被告各製品の構成

(a)そもそも、被告各製品の「金(Au)の表皮層」に該当し得る箇所は、HAADF像によっては特定することができない(被告製品1については、甲7、18、29の各図8。被告製品2については、甲60の図8)。

(b)この点はおくとしても、被告各製品を本件明細書に記載された測定方法(オージェ電子分光法)によって測定された結果によれば、被告各製品には、最表面からどの部分までを表皮層とする場合であっても、金のみから構成される部分は存在しない(被告製品1については、甲7、18、29の各図3。被告製品2については、甲60の図3)。EDXライン分析の結果によっても、被告各製品には、最表面からどの部分までを表皮層とする場合であっても、金のみから構成される部分は存在しない(被告製品1については、甲7、18、29の各図7。被告製品2については、甲60の図7)。

また、被告各製品を本件明細書に記載された測定方法(オージェ電子分光法)によって測定された結果によれば、被告各製品は、パラジウムの濃度が最も低い(金の濃度が最も高い)最表面であっても、パラジウムの濃度が約2%を優に超える濃度である(被告製品1については、甲7、18、29の各図3〔金の濃度はそれぞれ約60%、約63%、約60%〕。被告製品2については、甲60の図3〔金の濃度は約80%弱〕)。EDXライン分析の結果によっても、被告各製品は、パラジウムの濃度が最も低い(金の濃度が最も高い)最表面であっても、パラジウムの濃度が約2%を優に超える濃度である(被告製品1については、甲7、18、29の各図7〔金の濃度はそれぞれ約73%、約71%、約45%〕。被告製品2については、甲60の図7〔金の濃度は約52%〕)。

(c)以上のとおり、被告各製品の構成は構成要件1C、2C(6B、7B、9B)を充足しない。

(イ)「パラジウム(Pd)…の中間層」(構成要件1C、2C〔6B、7B、9B〕)の充足性

a 意義特許請求の範囲においては、ある部分が1つの元素のみから構成される場合と、2つ以上の元素から構成される場合とを明確に書き分けている。本件明細書においては、「中間層は、パラジウム(Pd)…から構成される。パラジウム(Pd)の融点(1554℃)…は」(本件明細書【0016】)と、パラジウム100%の場合の融点が明確に示されている。そうすると、「パラジウム(Pd)…の中間層」は、パラジウムのみから構成されている層をいう。

b 被告各製品の構成

原告が被告各製品の「パラジウム(Pd)…の中間層」に該当し得る箇所を特定しない以上、被告各製品の構成が構成要件1C、2C(6B、7B、9B)を充足するとは認められない。

(2)争点2-1(乙6発明を主引例とする新規性欠如の有無)について

-省略-

(3)争点2-2-1(乙6発明を主引例とする進歩性欠如の有無)について

-省略-

(4)争点2-2-2(乙13発明を主引例とする進歩性欠如の有無)について

-省略-

(5)争点2-2-3(乙7発明を主引例とする進歩性欠如の有無)について

-省略-

(6)争点2-2-4(乙12発明を主引例とする進歩性欠如の有無)について

-省略-

(7)争点2-3(サポート要件違反及び実施可能要件違反の有無)について

-省略-

(8)争点3(原告の損害額)について

-省略-

5.裁判所の判断

被告各製品は、本件発明1の構成要件1C、本件発明2の構成要件2C、本件発明6の構成要件6B、本件発明7の構成要件7B及び本件発明9の構成要件9Bをいずれも充足しないので、本件各発明の技術的範囲に属するとは認められない。以下、詳述する。

1 本件各発明について

本件明細書によれば、本件各発明は、半導体素子上の電極と回路配線基板の配線とをボールボンディングで接続するために利用される被覆銅ワイヤに関するものである(本件明細書【0001】)。

すなわち、第一ボンディングでは、ワイヤ先端をアーク入熱で加熱溶融し、表面張力によりボールを形成させた後、150~300℃の範囲に加熱した半導体素子の電極上にこのボール部を圧着接合せしめ、第二ボンディングでは、直接ワイヤを外部リード側に超音波圧着により接合させて引きちぎるところ、半導体素子上の電極と外部端子との間をボールボンディングで接合する銅ボンディングワイヤの表面酸化を防ぐ方法として提案されていた被覆銅ワイヤであっても、第二ボンディングで被覆銅ワイヤを引きちぎると、先端の切断面に芯材の銅が露呈し、露出面の銅が酸化してしまうため、次の第一ボンディングで被覆銅ワイヤをボールアップしようとすると、貴金属でコーティングされている芯材の銅は酸化しないが、溶融固化したボールの底部に露出面の銅の酸化膜が痕跡として残ることで、半導体チップに取り付けられるべきボール部が硬化してしまい、ボール接合時に半導体チップの損傷を与えることが問題となっていた(同【0002】、【0005】ないし【0008】)。そこで、本件各発明は、銅を主成分としてリンを含有させた合金から成る芯材と、2種類の被覆層、すなわち、芯材の上にパラジウム又は白金から成る中間層及びその中間層の上に金から成る表皮層から成る構成を採用して、第二ボンディングの切断時に芯材の銅が露出しても、次の第一ボンディングにおける溶融ボール形成時に、表皮層の金が芯材の銅よりも低融点であることから早く溶融して露出部を包み込むことにより溶融ボールの酸化を防止するとともに、リンの脱酸素作用により露出部に形成された酸化膜を分断除去することとしたものである(同【0009】ないし【0011】、【0018】)。

2 原告が外部機関に委託して行った被覆銅ワイヤの分析結果

(なお、これらの分析試料が被告製品1又は被告製品2であるか、また、これらの分析結果が被告製品1又は被告製品2の分析結果として正しいものであるかは当事者間に争いがある。)

(1)甲60(線径18μm)による分析

ア 分析試料の特定箇所についてのFE-AES(オージェ電子分光法)による分析では、①分析試料の最表面部分では金の濃度が80%弱パラジウムの濃度が10%強、銅の濃度が10%弱であり、②深さ7nm付近までにかけて、金の濃度は漸減して同深さ付近で濃度が0%になり、パラジウムの濃度は漸増して同深さ辺りで100%になり、銅の濃度は漸減して同深さまでの間に0%になり、③深さ30nm付近まではパラジウムの濃度が100%であり、④深さ30nm付近から深さ120nm付近にかけて銅の濃度が0%から漸増して100%となり、パラジウムの濃度は漸減して0%となり、⑤それ以降の深さでは銅100%となった(図2、図3)。コベルコ科研は、JISハンドブック化学分析2009(甲75)・1111頁・5.2項の記載に則り、隣接する膜中の元素の信号の値が50%に達する位置を界面として膜圧を算出し、パラジウムの膜厚を約61.4nm、金の膜厚を約2.9nmとした。

イ EDXライン分析では、①分析試料の最表面部分では金の濃度が50%強、パラジウムの濃度が30%弱、銅の濃度が20%強であり、②深さ20nm弱付近までにかけて、金の濃度は上下しつつ漸減して0%になり、パラジウムの濃度は上下しつつ漸増して100%弱になり、銅の濃度は上下しつつ漸減して数%程度になり、③深さ20nm弱付近から60nm強付近まではパラジウムの濃度が100%弱、銅の濃度が数%程度であり、④深さ60nm強から70nm付近にかけて、パラジウムの濃度が漸減して数%になり、銅の濃度が漸増して100%弱になり、⑤それ以降の深さでも同様となった(図7)。

ウ Cs-STEM観察(HAADF像)では、最表面から深さ方向に、①薄く、コントラストの明るい領域、②厚く、コントラストのやや暗い領域(一部に明るい領域が混在する。)、③コントラストの暗い領域の、3つの領域が見られた(図5、図6)。

エ 分析結果には、他に甲7(線径25μm)及び甲29(線径25μm)による分析結果があるところ、いずれも甲60(線径18μm)による分析結果と同様の傾向を示している。

(2)仮に上記の分析結果が被告製品1又は被告製品2の分析として正しいものである場合でも、本件明細書の実施例(【0025】)でメッキ厚の測定方法とされたオージェ電子分光法(AES)による金の濃度は、最も高い最表面部分においても80%程度(甲60)であり、また、コベルコ科研がJISに則って報告した金の膜厚は約2.9nm(甲60)と、本件明細書の実施例(【表1】)の金の表皮層の膜厚として記載された0.006μmないし0.15μm(6nmないし150nm)よりも薄いことから、被告各製品が「金(Au)の表皮層」の構成を備えるかが問題となる

3 「金(Au)の表皮層」の意義

(1)金のみから構成されている層に限られるか否か

被告は、主位的に、「金(Au)の表皮層」とは金のみから構成されている層に限られると主張する

ア しかしまず、特許請求の範囲には、「金(Au)の表皮層」とのみあり、この文言から直ちに金のみから構成されている層に限られると解することはできない。

この点について、被告は、特許請求の範囲においては、芯材については「銅(Cu)を主成分とする」とあるのに対して、表皮層については「金(Au)の」とあり、ある部分が1つの元素のみから構成される場合と2つ以上の元素から構成される場合とを明確に書き分けていると主張する。しかし、芯材の場合は、「芯材が銅(Cu)-1~500質量ppmリン(P)合金からなり」とあるように、構成金属として必須の金属が銅及びリンの2種類であるのに対し、表皮層の場合は、構成金属として必須の金属が1種類にすぎない。したがって、上記の特許請求の範囲の記載の差は、必須の構成金属が1つの元素である場合と2つの元素である場合を明確に書き分けているだけであると解することも十分可能であって、これらの文言のみから、表皮層が金のみから構成されている層に限られると解することはできない

イ そこで、本件明細書の記載を参酌すると、①本件明細書の【発明を実施するための形態】の項には、「表皮層が2種以上の金属からなる複数の層を形成する場合に、複数の異なる金属層をメッキ法、蒸着法、溶融法等により段階的に形成することになる。その際に、異なる金属を全て形成してから熱処理する方法、1層の金属層の形成ごとに熱処理を行い、順次積層していく方法等が有効である。」との記載があり(本件明細書【0024】)、②【実施例】の項には、本件各発明の実施例に係る被覆銅ワイヤの製造方法の説明の中で、500μmの線径まで伸線加工した銅ワイヤの表面に、ストライクメッキをしてから通常の方法で電解メッキを行うことにより、パラジウム(Pd)及び/又は白金(Pt)の中間層と金(Au)の表皮層を被覆し、「この被覆銅ワイヤを最終径の25μmまでダイス伸線して、最後に加工歪みを取り除き、伸び値が10%程度になるように熱処理を施した。」との記載がある(同【0025】)。(なお、上記の①の記載には、「表皮層が複数の金属からなる複数の層を形成する場合」とあり、原告は、この記載は「金(Au)の表皮層」が金とそれ以外の金属から構成されることを指し示すものであると主張するが、「複数の層」との記載からすると、この記載は、被覆層が異なる金属からなる複数の層によって形成される場合のことをいうものと解するのが相当である。)。

このように、本件各発明の被覆銅ワイヤは、その製造工程の最後において熱処理を行うことを想定していると認められるところ、金属と金属を密着させて熱処理を行うと拡散が生じることは技術常識であること(甲11、38及び弁論の全趣旨)を踏まえると、熱処理過程において、熱処理前に金(Au)でメッキ形成した表面の被覆層に隣り合うパラジウム(Pd)又は白金(Pt)でメッキ形成した中間の被覆層の金属が拡散してくることも想定されるから、本件各発明は、表面の被覆層中に金(Au)とパラジウム(Pd)又は白金(Pt)とから構成される部分が含まれることを想定しているといえる

もっとも、このようにパラジウム(Pd)又は白金(Pt)の拡散が生じるとしても、金(Au)により形成した被覆層の厚さにより、パラジウム(Pd)又は白金(Pt)の拡散がワイヤの最表面部分まで到達することもあれば、拡散が最表面部分まで到達しないこともあり、後者の場合にはなお被覆層の表面部分に金(Au)のみからなる部分が存在するのに対し、前者の場合には被覆層中に金(Au)のみからなる部分が存在しないことになる。そこで、前者のような場合も「金(Au)の表皮層」に当たるといえるかを次に検討する

ウ 前記1のとおり、本各発明は、ホールボンディングに利用される被覆銅ワイヤにおいて、第二ボンディング時に被覆銅ワイヤを引きちぎると先端の切断面に芯材の銅が露出するために、次の第一ボンディングにおける溶融ボール形成時に露出面の銅が酸化する問題点を解決課題としており、その課題を解決する原理として、本件明細書には、①【発明の効果】の項において、「第一ボンディングにおける溶融ボール形成時に、低融点の表皮層元素の金(Au)が中間層元素よりも早く溶融することにより、露出していた芯材の銅の酸化部分にまで表皮層元素が拡がること」と、芯材の銅(Cu)が含有するリン(P)の脱酸素効果により、「溶融ボール形成時に、芯材の銅の酸化部分の影響がないようにすることが出来る。」との記載があり(本件明細書【0011】)、②【発明を実施するための形態】の項において、(a)「2種類の被覆層のうち中間層は、パラジウム(Pd)または白金(Pt)あるいはパラジウム(Pd)と白金(Pt)との合金から構成される。パラジウム(Pd)の融点(1554℃)および白金(Pt)の融点(1770℃)は、いずれも銅(Cu)の融点(約1085度)よりも高い。このため芯材の銅(Cu)が球状の溶融ボールを形成していく最初の段階で、パラジウム(Pd)または白金(Pt)が薄皮となって、あるいは、パラジウム(Pd)と白金(Pt)との合金はが薄皮となって溶融ボールの側面からの酸化を防止す遅延させる。」との記載があり(同【0016】)、(b)「芯材の銅(Cu)が球状の溶融ボールを形成していく段階で、芯材が露出した部分の酸化を防止する手段が必要となる。このため本発明では、芯材にリン(P)を含有させるほか、2種類の被覆層のうち表皮層に金(Au)を用いた。金(Au)の融点(約1064℃)は、銅(Cu)の融点(約1085度)よりも低いので、銅(Cu)が球状の溶融ボールを形成していく段階で、表皮層の低融点の金(Au)が銅(Cu)よりも早く早期に融解してワイヤ端面をすばやく包み、銅(Cu)の融解を促進する。次いで、銅(Cu)が融解してから、中間層のパラジウム(Pd)または白金(Pt)の薄皮あるいはパラジウム(Pd)と白金(Pt)との合金の薄皮が軟化し、して溶融ボールを形成する。このように銅(Cu)の溶融ボールが形成される過程で、低融点の金(Au)の表皮層が銅(Cu)の融解を促進し、金(Au)の表皮層がない場合にくらべてパラジウム(Pd)または白金(Pt)等の薄皮を溶融銅ボールの内部にいち早く吸収させることによって、先端部に露出した芯材の銅(Cu)を金(Au)が覆うことで溶融(Cu)ボールの銅(Cu)の酸化を防止することができるものと思われる。」との記載がある(同【0018】)。

これらの記載からすると、本件各発明は、芯材に用いる銅(Cu)、中間層に用いるパラジウム(Pd)又は白金(Pt)、表皮層に用いる金(Au)の各金属の融点の高低関係を利用して、「金(Au)の表皮層」が「銅(Cu)を主成分とする芯材」よりも早く融解することにより、先端部に露出した芯材の銅(Cu)を金(Au)が覆うことで溶融ボールの銅(Cu)の酸化を防止することを課題解決原理としたものと解される。そうすると、金(Au)で形成した表面の被覆層中に中間の被覆層のパラジウム(Pd)又は白金(Pt)が拡散し、被覆層中に金(Au)のみからなる部分が存在しない場合であっても、金(Au)で形成した表面の被覆層の融点が銅(Cu)を主成分とする芯材の融点よりも低くなっており、かつ、その関係が、銅(Cu)とパラジウム(Pd)又は白金(Pt)と金(Au)の各金属の融点の高低関係を利用したものといえる場合には、なお「金(Au)の表皮層」に当たると解するのが相当である

そして、中間の被覆層にパラジウムを用いる場合には、金固有の融点は約1064℃であるのに対し、金とパラジウムの合金の融点は、パラジウムの含有割合が増加するに連れて約1064℃より高くなっていき、パラジウムの含有割合が約2%を超えると銅固有の融点である約1085℃より高くなること(乙15)に照らせば、金(Au)により形成した表面の被覆層に内側の被覆層のパラジウム(Pd)が約2%より多く混入すると、各金属の融点の高低関係を利用した本件各発明の課題解決原理が妥当しないこととなる。他方、パラジウムの混入が約2%以内であれば、金とパラジウムの合金の融点は銅(Cu)の融点よりも低く、かつ、前記のような金とパラジウムの合金の融点は金(Au)とパラジウム(Pd)の各固有の融点が反映したものであるから、各金属の融点の高低関係を利用した本件各発明の課題解決原理が妥当するといえる。したがって、中間の被覆層にパラジウム(Pd)を用いる場合において、「金(Au)の表皮層」たるためには、必ずしも金(Au)のみからなる層である必要はないが、被告が予備的に主張するとおり、パラジウム(Pd)の混入が約2%までの層である必要があると解するのが相当である

この点について、被告は、主位的な主張の根拠として、本件明細書においては、「表皮層に金(Au)を用いた。金(Au)の融点(約1064℃)は」(同【0018】)と、金100%の場合の融点が明確に示されていることを指摘する。しかし、上記のとおり金属と金属を密着させて熱処理を行うと拡散が生じ、拡散の程度に応じて「金(Au)の表皮層」の融点が異なってくることは技術常識であること(乙15)に照らせば、上記記載は、本件各発明が各金属の融点の高低関係を利用するものであることを説明したものにすぎないと解されるから、そのように捉えられる限り、「金(Au)の表皮層」に当たると解するのが相当である。したがって、被告の上記の主位的な主張は採用できないが、上記のとおりその予備的な主張は採用することができる

(2)原告の主張について

ア 上記のとおり、「金(Au)の表皮層」たるためには、パラジウム(Pd)の混入が約2%までの層である必要があると解されるが、これに対し、原告は、①本件明細書【0018】の各金属の融点の記載は、純金属を代表例として本件各発明の作用効果を奏する原理を説明したにすぎず、同【0019】には、「金(Au)の表皮層」の厚さが各層の溶融順序に影響することが記載されている上、金属薄膜の融点が当該金属固有の融点よりも降下すること(融点降下)は技術常識であり、金とパラジウムの合金薄膜の融点は、金とパラジウムの合金固有の融点よりも降下するから、「金(Au)の表皮層」及び「銅(Cu)を主成分とする芯材」の融点の序列だけで本件各発明の作用効果を奏するか否かが定まるわけではない、②「金(Au)の表皮層」に、金のみで構成される部分又は「パラジウム(Pd)または白金(Pt)の中間層」が混入する程度が融点の序列に影響を与えない程度である部分が一部でも存在すれば、本件各発明の作用効果を奏することができる、仮に、そのような部分が存在していなくても、「パラジウム(Pd)または白金(Pt)の中間層」の金属が「銅(Cu)を主成分とする芯材」にも拡散して「銅(Cu)を主成分とする芯材」の融点も上昇しているため、結局「金(Au)の表皮層」と「銅(Cu)を主成分とする芯材」の融点の序列に影響が生じず、本件各発明の作用効果を奏することができる場合もある、いずれにせよ「金(Au)の表皮層」は「パラジウム(Pd)または白金(Pt)の中間層」よりも早く溶融するから本件各発明の作用効果を奏することができるなどとして、「金(Au)の表皮層」に中間の被覆層のパラジウム(Pd)が約2%以上混入することも許容されると主張する。

(ア)①について

a 原告は、金属の融点以外に「金(Au)の表皮層」の厚さが各層の溶融順序に影響することが記載されているとして、本件明細書の【0019】を指摘する。しかし、同【0019】は、「2種類の被覆層のうち、表皮層の厚さは中間層の厚さよりも薄いことが好ましい。表皮層が厚くなれば、溶融するのに時間がかかり、銅(Cu)の融解を促進する効果が薄れるとともに、溶融銅ボールの表面偏析による合金化によって溶融銅ボール自体が硬くなり、半導体チップの割れが起きやすくなるからである。」と記載しているところ、この記載は、融点による溶融の順序自体は変わらないことを前提として、単に、表皮層が厚くなると表皮層を構成する金の量が増えるために溶融するのに要する時間が余計に掛かり、そのためにワイヤ端面の銅(Cu)を金(Au)が包み込む効果が薄れることを記載しているにすぎない。そもそも、本件各発明が「金(Au)の表皮層」の厚さも各層の溶融順序に影響し得ることを想定した作用効果を考えているのであれば、本件明細書のどこかに「金(Au)の表皮層」の厚さの違いによる溶融順序の差異に関する言及があるはずであるが、本件各発明に係る被覆銅ワイヤの評価結果を示した本件明細書の【表2】を始めとして本件明細書のどこにもそのような記載はない。したがって、本件明細書には、本件各発明が「金(Au)の表皮層」の厚さも各層の溶融順序に影響し得ることを想定した作用効果を考えているとの明示的な記載はない。

したがって、本件明細書において、金属の融点以外に「金(Au)の表皮層」の厚さが各層の溶融順序に影響することが記載されているとの原告の主張は採用できない。

b 原告は、金属薄膜の融点が当該金属固有の融点よりも低いこと(融点降下)が技術常識であり、こうした技術常識を踏まえると、パラジウム(Pd)が2%以上含まれる場合であっても、「金(Au)の表皮層」が薄膜である場合には、融点降下により融点が低下し、銅(Cu)を主成分とする芯材よりも早く融解するから、「金(Au)の表皮層」にはそのような場合も含まれると主張する。

(a)一般に、「球体の半径rが小さいと、球の表面自由エネルギーσが内部の融解エネルギーULを上回るので、球の融点Trを下げて球が融けやすくなることは1871年にW.Thomsonにより指摘され、Frenkelにより定式化されていた。」(東京大学生産技術研究所の金原粲の「真空・薄膜徒然草3」〔Journal of the Vacuum Society of Japan53巻8号504頁、2010年〕、乙34。以下「金原論文」という。)とあるとおり、粒子サイズの減少とともに粒子の比表面積が大きくなって粒子の表面が活性化する結果として融点降下が生じること、すなわち、融点降下が微粒子において生じることについては、当事者間に争いはない。そして、甲74資料2(NANOPARTICLE TECHNOLOGY HANDBOOK、第2版2012年)では、「金の融点と粒子サイズの関係」として、通常は1336K(1063℃)の金の融解温度が、粒子サイズ20nmまでは徐々に低下し、特に10nmより小さくなると急激に低下して、5nm付近まで小さくなると融解温度が1200K(927℃)以下にまで大きく低下するグラフが示されている。

一方、融点降下が被覆銅ワイヤの被覆層のような薄膜においても生じる現象であるか否かについては争いがあり、原告は、甲74資料1、甲85、甲86資料1及び2(原告の主張が依拠する甲74及び86の各意見も、これらに基づくものである。)を融点降下が薄膜においても生じる根拠として指摘する。

(b)まず、甲74資料1及びそれと同じ文献である乙32(森誠之ほか監修「トライボロジーの最新技術と応用」2007年初版)では、「軟質金属の微細粒子、薄膜は3次元バルク結晶よりはるかに低い融点を示す。Au、Ag、Cu、Snについて観測結果がある。」とし、「その一例を引用する」とされている「図13 微細金属結晶の融点測定例」では、AgとCuについての融点降下のグラフが記載されている。

そこで、上記の図13の引用元である甲85及びそれと同じ文献である乙31(クラウスタール鉱山大学物理学研究所・N.T.GLADKICHほか「金属薄膜における著しい融点降下の説明」1966年、以下「GLADKICH論文」という。)を見ると、上記図13の引用元である「図9 銀薄膜及び銅薄膜の溶融温度の膜厚依存度」について、「図9は200℃で図中の横軸に示された厚さに蒸着されたAgとCu膜を5それぞれの相転移が起こるまで加熱して求めた融点を示す。この両金属においては融点の顕著な膜厚依存性が見られ、そして最も薄い膜ではAgは550℃、Cuは670℃までの融点降下が観察された。透き間なく詰まった材料の融点Tsと図9で外挿により求めた最も低い薄膜の融点Tgとの関係は、Agについては(Tg/Ts)Ag=0.66、(Tg/Ts)Cu=0.70で与えられ、PalatnikとKomnikが10SnとBiで求めた結果とよく一致する。」(188頁)、「図9に示された曲線は、銀と銅の真の融点の膜厚依存性を示している。この結果は、Takagi及びPalatnikとKomnikが得たBi、Sn及びPbの結果と一致している」(190頁)としていることから、甲85(乙31)では、薄膜についても融点降下が生じる旨が記載されているかに見える。しかし、そこで言及されている「Takagi」とは、東京工業大学15の高木教授による「金属薄膜の液体-固体相転移の電子回折法による研究」(JOURNAL OF THE PHYSICAL SOCIETY OF JAPAN9巻3号359頁、1954年、乙33。以下「高木論文」という。)であり、そこでは、「サイズの小さい固体の融点はバルクの当該固体の融点よりも低いことが、熱力学的考察から知られている」として、融点降下が微粒子において生じる現象であることを理論的基礎とした上、「電子顕微鏡観察により、金属の薄い蒸着膜は、金属結晶の小さな島の集合体であることがわかっており、そのため、単純化のため、その膜を適当なサイズの球状の滴の集合体とみることができる。よって…融点…に対する金属の滴サイズの影響について理論的に考察する」としているところ、この高木論文について、金原論文では、「1950年代には東工大の高木ミエ教授が電子回折実験により、金属薄膜内25の島で大幅な融点降下が生じることを実証した。」と位置付けられており、高木論文は、金属の薄い蒸着膜が金属結晶の小さな島状の集合体であることを明らかにした上で、その融点降下を明らかにしたものであるといえる。そして、GLADKICH論文の図9もAgとCuの薄い蒸着膜についてのものであるから、そこで示された融点降下も金属結晶の小さな島状の集合体についてのものであるといえ、このことは、同論文において、「本論文では膜厚のみが測定され、粒子サイズは測定されなかったため、理論的アプローチとの直接比較はまだ可能ではなく、将来の研究に託される。」(190頁)との記載にも沿う。そうすると、GLADKICH論文の図9は、金属結晶の小さな島状の集合体についての融点降下を明らかにしたものにすぎず、金原論文において、「そもそも、島状構造の物体を鼓膜や石鹸膜と同列に薄膜という『膜』を使った用語で表し、これに板などの厚さにあたる膜厚という言葉を当てはめることに無理がある。」とされていることも考慮すると、GLADKICH論文の図9が島状構造でない薄膜でも融点降下が生じる旨を明らかにしたものと認めることはできないというべきである。

また、甲74資料1(乙32)の「軟質金属の微細粒子、薄膜は3次元バルク結晶よりはるかに低い融点を示す」という説明における「微細粒子」及び「薄膜」という言葉の意味合いについて見ると、同文献では、「図9は、蒸着したままのAg被膜の形状と平均被膜厚さとの関係を示す。図は1μm×1μmの視野を走査したイメージである。不連続なAg結晶が、厚さ(平均厚さ)を増すと共に蒸着膜の島の間の間隔が短くなり、連続膜に近くなる」という説明があり、図9では、0.4nmAg膜が1.5nmAg膜を経て3.0nmAg膜になるに連れて島状構造が連続膜に近づいていくSTM像が示されている。また、同文献では、厚さ5nmのAg蒸着膜について、「図12(a)に示す島状組織」とされている。このように、同文献では、蒸着膜の島状構造と連続膜を区別していることや、「nm程度の粒子径の領域には、融点のサイズ効果が現れることは多くの論文に議論されている。粒径が小さくなると、融点は急速に常温近くまで下がることが推定されている。Agに関する実験値をプロットして推定されているところでは、20nmあたりで常温の融点を持つ推定がある」とした上、ここでも高木論文が引用されていることに照らせば、「微細粒子」は微粒子を、「薄膜」は微粒子の集合体の島状構造を指すものとして使用されているものと解される。

以上によれば、甲74資料1(及び乙32)並びにGLADKICH論文(甲85及び乙31)は、融点降下が、微粒子において生じる現象であるとともに、微粒子の集合体たる島状構造においても生じる現象であることが記載されているにとどまり、連続膜たる薄膜においても生じる現象であることが記載されているとまでは認めることができない

これに対し、原告は、GLADKICH論文(甲85及び乙31)は、一貫して「膜」という用語を用いた上、実験により金属薄膜でも溶融温度の降下が観察できたとされているとして、融点降下が薄膜においても生じる現象であることが記載されていると主張するが、上記に照らして採用できない。

そして、前記認定の本件明細書【0025】に記載された本件各発明の実施例に係る被覆銅ワイヤの製造方法では、500μmの線径まで伸線加工した銅ワイヤにパラジウム(Pd)及び又は白金(Pt)の中間層と金(Au)の表皮層をメッキ形成し、そうして形成した被覆銅ワイヤを最終径の25μmまでダイス伸線するのであるから、被覆層は伸線により20分の1の薄さに伸ばされることになる(甲63の13頁)。そうすると、本件明細書の実施例では金(Au)の表皮層は0.006μm(6nm)以上であるから、被覆時の膜厚は120nmであり、この程度の厚さの膜は連続した膜であり、伸線によってその状態が島状構造に変化するとは考え難い。そうすると、微粒子の集合体たる島状構造の融点降下が技術常識であるとしても、それをもって連続膜たる薄膜の形成を想定する本件明細書を解釈することはできない。

(c)また、原告は、甲86資料1(R.Sankarasubramanian ほか「自立金ナノ膜の融解温度に対する表面異方性の影響」〔「Computational Materials Science」49.2010:386-391〕)の図9に示された測定結果から、融点降下が薄膜においても生じる現象であることが認められると指摘する。

しかし、甲86資料1及びそれと同じ文献である乙36の図9は、「様々な膜厚の自立金ナノ膜の融解温度に対する表面異方性の影響に関する体系的研究を、分子動力学(MD)シミュレーションを使用して実施した」と記載されているように、基板が存在せずに金ナノ膜が浮いているという状態を前提とした理論的シミュレーションによる測定結果である。したがって、甲86資料1(乙36)の図9に示された測定結果をもって直ちに、本件各発明のように基板を有する金の薄膜においても融点降下が生じる現象であることが示されているとまでは認められない

(d)また、原告は、甲86の資料2(D.G.Gromov ほか「Al2O3表面における、金ナノメートル膜の厚さに対する、液滴への金ナノメートル膜解離の温度の非単調依存性」〔「Applied Physics A:Materials Science & Processing」99.2010:67-71〕)において、「厚さ10nmの金膜は連続的であったが、非加熱基板上の蒸着に関係なく粒界溝の形成が観察された(図1)。溝の深さは10nmの膜厚に対応している。溝は、金の厚さの増加とともになくなった。厚さ50nmの金膜の粗さは最大4nmであった(図2)。」と記載されており、また、このように薄膜が連続的に形成されているとされる厚さ10nmの金薄膜でも厚さ50nmの金薄膜でも金バルクの融点よりも溶融温度が低くなっていること(図4)から、連続的な金薄膜においても融点効果が生じると主張する。

しかし、甲86資料2及びそれと同じ文献である乙37の図4のグラフには、金の一般的融点が1336K(1063℃。甲86によれば同図の「℃」は「K」の誤記であると認められる。)であるのに対し、金薄膜の膜厚が約20nmまでは、膜厚が小さくなるに連れて融解温度が低下し、厚さ20nmで融解温度が約813K(約540℃)になるグラフとなっているが、膜厚がそれよりも小さくなると、逆に融解温度が上昇し、厚さ約5nmで融解温度が約973K(約700℃)になることが示されており、融点降下が大きく現れるはずの膜厚数nmである場合において、膜厚の減少とともに融点が逆に上昇する点において、他の技術文献とは逆の内容となっている。このことからすると、連続した薄膜の場合に融点効果が生じるという甲86資料2(乙37)の記載内容が、少なくとも技術常識であるとは認め難いから、それを技術常識とした上で本件明細書を理解することはできないというべきである。

(e)さらに、原告は、甲86資料2によれば、薄膜は、加熱により溶融すると島状に変化するため、加熱後の薄膜形状を観察して薄膜が溶融したか否かを判断することができるという前提に立った上、甲86資料4の実験結果によれば、金の薄膜の融点は金固有の融点よりも低いことはもとより、金とパラジウムの合金の薄膜の融点は金とパラジウムの合金固有の融点よりも低いことが確認されたと指摘する。

しかし、甲86資料4の実験は、本件で問題となる程度の5nm未満の膜厚の薄膜よりも厚い10nm又は30nmの膜厚の金とパラジウムの合金の薄膜を試料として実施されたものであり、その図3の加熱前のSEM像ではいずれの膜も連続的なものと認められるところ、甲86資料2の内容が上記のとおり技術常識であるとは認め難い以上、それと同様にして連続膜の融点を確認した甲86資料4の実験結果をもって、連続した薄膜における融点降下の発生が少なくとも技術常識であるとは認め難いというべきである。原告は甲93の論文の存在も指摘するが、甲93は、固定表面上の薄膜の付着力と内部応力の測定に関するものであって、薄膜の融点降下を説明するものとは認められない。

(f)以上によれば、「金(Au)の表皮層」の厚さが各層の溶融順序に影響することは、本件明細書に明示的に記載されていないばかりか、本件明細書に記載された「金(Au)の表皮層」において金属薄膜の融点が当該金属固有の融点よりも降下することが技術常識であるとも認められず、上記の趣旨が記載されているのと同視することもできないから、融点降下によって各層の溶融順序が定まる場合も本件各発明の技術的範囲に含まれるとする原告の上記①の主張は採用できない

なお、本件各発明に係る被覆銅ワイヤにおける「金(Au)の表皮層」の基板に相当するのは「パラジウム(Pd)または白金(Pt)の中間層」である。これに対し、原告が金属薄膜の融点が当該金属固有の融点よりも降下することが技術常識である根拠として指摘する甲74資料1、甲85、甲86資料1及び2についてみると、甲74資料1の図13の引用元である甲85の図9において銅や銀の融点降下を測定する際に用いられた基板はカーボン膜であり(乙31)、甲86資料1は「自立金ナノ膜(free-standing gold nanofilms)」の融点をコンピュータシミュレーションにより求めたものであって、基板が存在しないことを前提としており、甲86資料2はAl2O3(アルミナ)を基板として行った実験結果であり、いずれもパラジウム又は白金を基板としたものではない。この点、「特定の基板上に固定化した金ナノ粒子の融点を、SiO2基板上とHOPG(高配向グラファイト)基板上と比較すると、SiO2基板では、直径3nm付近から急激に融点が降下するのに対し、HOPG基板では直径9nm付近から徐々に低下し、融点降下度に違いがあることが報告されている。SiO2基板上の直径3nmの金ナノ粒子の融点が約1200K(判決注:約927℃)であるのに対し、HOPG基板上の同じ大きさの粒子の融点は約400K(判決注:約127℃)であり、基板による著しい融点の違いが観測された。」とされている(首都大学東京・武井孝「金ナノ粒子の融点降下」〔「表面科学」35巻6号329頁・2014年〕、乙35)ように、融点降下は基板の違いによりその程度が異なることが認められる。そうすると、仮に、金属薄膜の融点が当該金属固有の融点よりも降下すること自体は技術常識であるとする場合でも、パラジウム又は白金を基板とする金や金とパラジウムの合金の薄膜の融点が金や金とパラジウムの合金固有の融点よりもどの程度降下するのかということまでは技術常識であるとは認められないから、融点降下によって各層の溶融順序が定まる場合も本件各発明の技術的範囲に含まれるとする原告の上記①の主張はやはり採用できない。

(イ)②について

原告は、「金(Au)の表皮層」に、金のみで構成される部分又は「パラジウム(Pd)または白金(Pt)の中間層」が混入する程度が融点の序列に影響を与えない程度である部分が一部でも存在すれば足りると主張する。しかし、「層」は「かさなりをなすものの一つ」をいうこと(広辞苑第六版)に照らせば、原告の上記主張は、「層」の一部に当該構成を備えるものがあるだけでも「層」を満たすというに等しく、不自然な解釈である。そして、本件明細書には、原告が指摘するような部分が一部でも存在すれば、本件各発明の作用効果を奏することができるとの示唆はどこにも見当たらない。したがって、原告の上記主張は採用できない

次に、原告は、「パラジウム(Pd)または白金(Pt)の中間層」の金属が「銅(Cu)を主成分とする芯材」にも拡散して「銅(Cu)を主成分とする芯材」の融点も上昇しているため、「金(Au)の表皮層」と「銅(Cu)を主成分とする芯材」の融点の序列に影響が生じないと主張する。しかし、本件明細書の【0025】及び表1の実施例では、被覆銅ワイヤの最終径が25μmとされているのに対し、「金(Au)の表皮層」は0.006μmから0.15μmとされており、「銅(Cu)を主成分とする芯材」はかなり厚みがあることが想定されているから、そのような芯材に中間層のパラジウム(Pd)又は白金(Pt)が拡散したとしてもそれは層界面のごく一部に限られるのであって、芯材全体に拡散する、すなわち、銅のみからなる部分がなくなるとは考え難い。したがって、被覆銅ワイヤの端面に露出した「銅(Cu)を主成分とする芯材」中には、「パラジウム(Pd)または白金(Pt)の中間層」の金属が拡散せず、融点が上昇しない部分が存在するから、原告の上記主張は採用できない。

さらに、原告は、本件各発明の作用効果を奏するためには「金(Au)の表皮層」が「パラジウム(Pd)または白金(Pt)の中間層」よりも早く溶融すれば足りると主張する。しかし、前記のとおり本件明細書は「金(Au)の表皮層」が「銅(Cu)を主成分とする芯材」よりも早く溶融することによって芯材の露出部に形成された銅(Cu)の酸化を防止することを想定しているから、原告の上記主張は採用できない。

イ その他

原告は、「金(Au)の表皮層」は、金(Au)を主要元素として構成される層であれば足りると主張する。この原告の主張は、少なくとも「金(Au)の表皮層」に「パラジウム(Pd)または白金(Pt)の中間層」の金属が約2%以上混入することが許容されることを前提とするものである。しかし、このような前提が採用できないことは、上記アのとおりであるから、原告の上記主張は採用できない。

ウ 小括

以上のとおり、「金(Au)の表皮層」は、金のみから構成される層に限られないものの、「パラジウム(Pd)または白金(Pt)の中間層」の金属が約2%以上混入することは許容されないと解される。

4 被告各製品の構成の認定及びあてはめ

(1)先に2で認定した原告による分析結果からすると、仮にそこでの分析対象が被告各製品であり、その分析結果が正しいものであるとしても、それによってパラジウムの濃度が約2%以下となる層部分が存在するとは認められず、他に被告各製品においてパラジウムの濃度が約2%以下となる層部分が存在することを認めるに足りる証拠はない

そうすると、被告各製品は、「金(Au)の表皮層」に相当する構成を備えているとは認められないから、被告各製品の構成は構成要件1C、2C(6B、7B、9B)を充足しない。

(2)これに対し、原告は、被告各製品の「金(Au)の表皮層」における金の濃度は、オージェ電子分光法によって測定された結果よりも高濃度であり、EDXライン分析によって測定された結果と同等かそれ以上であると指摘する。

しかし、被告各製品の「金(Au)の表皮層」における金の濃度が、オージェ電子分光法によって測定された結果よりも高濃度であるといってもどの程度であるのか、EDXライン分析によって測定された結果と同等かそれ以上であるといってもどの程度であるのかを明らかにする的確な証拠はない。原告自身も被告各製品において金の濃度が最も高いと考えられる最表面のパラジウムの濃度が約2%を超えないものにとどまると具体的に主張しているわけではない。したがって、原告の上記指摘を踏まえてもやはり、被告各製品が「金(Au)の表皮層」が相当する構成を備えているとは認められない。

(3)また、原告は、前記2で認定した原告が被告各製品と主張する試料のHAADF像の最表面部分のコントラストの明るい層の存在を主張する。

しかし、金(Au)を用いた表面の被覆層部分は、中間の被覆層に用いたパラジウム(Pd)を約2%を超えて混入する場合でも、パラジウム(Pd)を用いた中間の被覆層よりもコントラストが明るくなる。そうすると、最表面部分のコントラストの明るい層が存在するからといって、そこに混入したパラジウム(Pd)が約2%以下であると認めることはできないから、HAADF像に基づいて被告各製品が「金(Au)の表皮層」を備えると認めることはできない。

(4)さらに、原告は、本件明細書に記載された製造方法と技術常識に基づいて被覆銅ワイヤを製作し、分析をしたところ、前記2で認定した原告が被告各製品であるとする試料と同様の分析結果となったとして、甲63ないし甲69及び92を指摘する。

しかし、そこで製造された被覆銅ワイヤは、コベルコ科研の報告では、金(Au)の膜厚が約2nmと約4nmというのである(甲63の資料2及び4)から、本件明細書の表1の実施例よりも薄い膜となっている。そして、金(Au)により形成した表面の被膜が薄ければ、それだけ中間の被覆層を構成するパラジウム(Pd)が最表面付近にまで拡散する可能性が高くなり、したがって、パラジウム(Pd)の混入が2%以下の層が存在しなくなる可能性が高くなるから、上記で原告が採用した被覆銅ワイヤの製造方法が正当なものであるとしても、それによって製造した被覆銅ワイヤの分析結果が前記2で認定した原告が被告各製品であるとする試料と同様の分析結果になったからといって、被告各製品が「金(Au)の表皮層」を備えると認めることはできない。

6.検討

(1)本件発明は、半導体素子の電極と基板の配線とをボールボンディングで接続するための被覆銅ワイヤに関するものであって、銅-1~500質量ppmリン合金からなる芯材と、パラジウムまたは白金の中間層及び金の表皮層とからなる被覆層で被覆銅ワイヤを構成したものです。

こうすることで、ワイヤ先端をアーク入熱で加熱溶融し、表面張力によりボールを形成させた後に、150~300℃の範囲に加熱した半導体素子の電極上にこのボール部を圧着接合する第一ボンディングにおける溶融ボール形成時に低融点の表皮層元素の金が中間層元素よりも早く溶融することにより、露出していた芯材の銅の酸化部分にまで表皮層元素が拡がることに加えて,芯材の銅が含有するリンの脱酸素効果により、表皮層近傍でリンが濃縮することにより芯材の銅の酸化部分を分断消去させることで、溶融ボール形成時に芯材の銅の酸化部分の影響がないようにすることができるというものです。

(2)判決の内容を決定する争点となったのは、被告製品のボールボンディング用被覆銅ワイヤの被覆層がパラジウムの中間層および金の表皮層とからなるものであるか否かでした。本件特許の特許請求の範囲には「金(Au)の表皮層とからなる」としか記載されていませんが、被告は、主位的に、「金(Au)の表皮層」は、金のみから構成されている層であり、最表面でも金以外の物質が存在する被告製品は本件発明の構成要件を充足しない、と主張しました。

また、被告は、予備的に、「金(Au)の表皮層」に金以外の金属が含まれることを許容したとしても、パラジウムが約2%以上混入したものは許容されるものではなく、最表面でもパラジウムの濃度が約2%を超える被告製品は本件発明の構成要件を充足しないというものでした。

(3)判決は、本件明細書を参酌した上で「金(Au)の表皮層」は金以外の物質が存在することも含むと認定し、被告の主位的な主張を退けています。しかし、予備的主張は採用し、金以外の物資として約2%の濃度を超えてパラジウムが含まれるものは除かれる、と認定し、被告製品は非抵触としました。

この「パラジウムの濃度が約2%を超える」と非抵触という認定の根拠は、「金とパラジウムの合金の融点は、パラジウムの含有割合が増加するに連れて約1064℃より高くなっていき、パラジウムの含有割合が約2%を超えると銅固有の融点である約1085℃より高くなること(乙15)に照らせば、金(Au)により形成した表面の被覆層に内側の被覆層のパラジウム(Pd)が約2%より多く混入すると、各金属の融点の高低関係を利用した本件各発明の課題解決原理が妥当しないこととなる」というものです。

原告も論文等提出し、パラジウムの含有割合が約2%を超えていても発明の効果が得られることを主張しましたが、これらの証拠が必ずしも本件発明の条件に当て嵌まるものとはいえない、として採用されませんでした。

(4)判決文には被告製品の製造方法についての説明はありませんでしたが、構成要件1Aの充足性については争っていないところを見ると、芯材の上に2種類の被覆層を有する点は本件発明と同じだと思われます。また、分析結果によると被告製品の金の濃度は表皮層で約80%ですが、そこから漸減して深さ7nmで0%になり、膜厚としては2.9nmとしています。一方、パラジウムの濃度は最表面で10%強ですが、そこから漸増して深さ7nmで100%になっています。

(5)本件明細書の実施例を見たところ最表面でのパラジウムの濃度を測定していないようです。本事件での被告製品の分析結果からすると、本件発明の構成でも金の層内をパラジウムが拡散していて最表面でのパラジウムの濃度が2%を超えていた可能性があるのではないか?と考えてしまいます。

(6)こういう判例を読むと、果たして明細書に発明の原理をどこまで書く必要があるのか考えてしまいます。発明は課題を解決するために様々な試作・実験を行うケースが多いと思います。その際に様々な仮説を立てて試作・実験を進め、最終的にたどり着いた構成により所望の結果(効果)が得られたとしても、そのこと自体は仮説が正しかったという証明にはなりません。仮説が正しいことを証明するには更なる試験等が必要になりますが、学会発表する論文等ならともかく、製品改良に伴う発明の場合にはそこまで時間を割きにくいように思います。そうすると、明細書には仮説に基づく推測等はあまり書かない方が良いように思いますが、それはそれで、技術的な裏付けが乏しい印象になってしまいかねず難しいところです。(もちろん、本件明細書に記載された事項が推測と述べているわけではありません。)