農産物の選別装置及び青果物の内部品質検査システム事件(その1)

投稿日: 2017/04/03 8:13:16

今日は平成25年(ワ)第33070号 特許権侵害行為差止等請求事件について検討します。原告はシブヤ精機株式会社、被告は近江度量衡株式会社です。シブヤ精機株式会社は2011年(平成23年)4月に静岡シブヤ精機株式会社とエスアイ精工株式会社が合併することで誕生した会社で、年間2~6件程度コンスタントに特許出願しているようです。一方の近江度量衡株式会社は2件程度出願する年もあれば全く出願しない年もあるようです。

原告の特許権が2件あり、被告製品が6件あるため一回では掲載しきれないので分けて投稿します。今回は原告特許の内容までです。

1.各手続の時系列の整理

 

① 表をざっと見てまず目につくのが、特許2がやたらと閲覧請求(注1)されている点です。これだけ閲覧請求されると特許権者も重要な特許との認識を深めると思います。

(注1)閲覧請求とは、特許出願の明細書や審査過程での書類(拒絶理由通知書、意見書、審判請求書等)を特許庁から取り寄せる手続きです。一般的には閲覧請求されている特許出願については第三者が関心を寄せていると判断されます。2003年(平成15年)7月以降は審査に関する書類については特許庁のホームページからダウンロードできるようになったので閲覧請求せずに入手可能となりました。ただし、審判請求書等一部書類はダウンロードできないので入手するには閲覧請求する必要があります。

② 次に気になったのは、特許1、2ともに2008年4月23日に移転登録(注2)が申請されている点です。特許1の登録時の特許権者は株式会社マキ製作所、特許2の登録時の特許権者は株式会社果実非破壊品質研究所です。調べてみると株式会社マキ製作所は2007年9月に民事再生法の適用を申請し2008年4月に静岡シブヤ精機株式会社に全事業を譲渡したようです。おそらく特許1の移転登録申請はこの事業譲渡に伴って行われたものと思います。一方、株式会社果実非破壊品質研究所は2006年12月に株式会社マキ製作所の子会社になっています。特許2は2006年、2007年にも移転登録申請されていますが、おそらく株式会社マキ製作所への移転だと思われます。その後特許1と同じように静岡シブヤ精機株式会社に移転されたのでしょう。

(注2)移転登録申請とは、特許を譲渡等することで権利者が変更された場合に特許庁の原簿に新たな権利者を登録してもらう手続きです。

③ そして特許無効審判も何件もされています。いずれも侵害訴訟が提起された後に近江度量衡株式会社が請求人となって起こされています。特許1に関しては侵害訴訟の判決後に最高裁で上告受理申立が却下され審決(請求不成立)が確定しています(注3)。一方、特許2に関しては最初の特許無効審判で請求不成立となると出訴せず、直ぐに二つ目の特許無効審判を請求しています。おそらく最初の特許無効審判請求後にさらに先行技術調査を行ったものと思われます。この二つ目の特許無効審判でも審決は請求不成立でしたが、こちらは出訴しています。口頭弁論終結後に審決が出て、判決前に出訴していることから侵害訴訟についても知財高裁に控訴している可能性があります。

(注3)特許を無効にするためには特許庁に対して特許無効審判を請求する必要があります。特許庁の審判部による審理の結果(審決)、特許が無効と判断された場合(請求成立)の特許権者、特許を維持すると判断された場合(請求不成立)の請求人が審決に不満がある場合には知的財産高等裁判所(知財高裁)に出訴することができます。この場合特許庁の審判部が地裁の働きを担うことになります。

 

2.本件特許発明1、2の内容

(1)本件特許1(特許第3702110号)

【請求項1】(本件発明1)

1A 搬送手段に連結されていない受皿と、農産物供給位置から農産物包装作業位置に渡って農産物を載せた受皿を搬送する搬送手段とを備え、

1B この搬送手段には、この受皿上の農産物を選別仕分けする情報を計測するために上記搬送手段途中に設定された計測軌道領域、及び該計測軌道上で計測された仕分け情報に基づいて個々の受皿上の農産物を排出するように所定の仕分区分別の仕分ラインが多数分岐接続されている搬送手段下流側の仕分排出軌道領域を設定し、

1C 前記各受皿に、その上に載せられている農産物の仕分け情報を直接又は識別標識を介して間接的に読出し可能に記録し、

1D 前記仕分排出軌道領域の上流に設けた読出し手段により個々の受皿の農産物仕分け情報を読出して該当する仕分区分の仕分ラインに該受皿を排出する農産物の選別装置において、

1E 前記仕分排出軌道領域から前記仕分ラインに排出されずにオーバーフローした受皿を前記搬送手段の上流側に戻すリターンコンベアを設けると共に、このリターンコンベアにより戻した受皿を前記搬送手段に送り込む位置を、前記計測軌道領域の終端と前記仕分け情報読出し手段の間としたことを特徴とする

1F 農産物の選別装置。

フリートレイ4(受皿)が供給コンベア52を流れている間に作業者50が農産物を一つずつ載せます。その後、撮像装置54が設けられた選別コンベア1に送られ、撮像装置54により計測された結果から仕分区分が判定され、この仕分情報が排出装置201に送られ、農産物が載ったフリートレイ4は仕分部2に送られる。仕分部2では選別コンベア1に配置したバーコードリーダー5によりフリートレイ4固有のバーコードを読み取ることで、そのフリートレイ4に対応する仕分区分の排出装置201を作動させて仕分コンベア202に振り分け排出する。

この仕分コンベア202がフレイートレイ4で満杯の場合には振り分け排出せずに選別コンベア1の終端から延設されたリターンコンベア6で計測装置54とバーコードリーダー5の間の選別コンベア1に戻す。

(2)本件特許2(特許第3249628号)

【請求項1】(本件発明2-1)

2A 搬送コンベアにより水平に搬送面上を移送され、中央部に貫通した穴を有し、その上部に青果物を載せて移送するトレーと、

2B この搬送コンベア上のトレーに載った青果物に対し複数の光源により周囲から光を照射し、照射された青果物から出る透過光を受光するように上記トレーの貫通した穴を通して該青果物の一部表面に対向る受光手段と

2C この受光手段に上記透過光以外の外乱光が入光するのを阻止するように青果物と上記受光手段の対向位置の間に配置される遮光手段と、

2D 複数の発光光源からの照を上記受光手段及び遮光手段のを除く青果物の周囲から該青果物を照する投光手段とを備えたことを特徴とする

2E 青果物の内部品質検査用の光透過検出装置。

【請求項2】(本件発明2-2)

2F 請求項1において、青果物の周囲から該青果物を照射する投光手段は、複数の発光光源をトレーの搬送路上から両横方向に外れて青果物の周囲に配置されていることを特徴とする

2G 青果物の内部品質検査用の光透過検出装置

中央部に貫通穴が形成されたトレー1に青果物を載せた状態で複数の光源により周囲から青果物に光を照射し、その青果物の透過光を貫通穴を通して受ける受光手段が設けられている。

青果物が貫通穴を覆うように置かれるので受光手段が透過光以外の光を受けることを防ぐことができる。