煙突工法事件

投稿日: 2019/12/08 23:21:14

今日は、平成30年(ワ)第9909号 特許権侵害差止等請求事件について検討します。判決文によると、原告である株式会社上野商店は薪ストーブ・煙突・ストーブ用品の販売、施工、薪ストーブのメンテナンスを主たる業務とする株式会社、一方、被告である株式会社永和は輸入暖炉薪ストーブの販売及び煙突取付工事の設計施工を主たる業務とする株式会社だそうです。

 

1.検討結果

(1)本件発明は、屋根に設けた煙突を通すための開口部からの雨漏りを防ぐ目的で、煙突周囲と開口部を塞ぐ外部水切り部材と内部水切り部材を設けたものです。このうち、外部用水切り部材は、煙突を覆うサイズの円筒とこの円筒が設けられた導水板からなるものであって上流側の屋根仕上げ材上面を流れる水を上面で受けて下流側の前記屋根仕上げ材上面に導くものです。一方、内部水切り部材は、煙突を覆うサイズかつ外部水切り部材の円筒に挿入されるサイズである円筒とこの円筒が設けられた固定板からなるものであって固定板下面と開口部周囲の野地板上面又は防水シート上面との間で液体の流通を封止する状態にするものです。

(2)本件訴訟は前提事実として「被告方法は、本件発明1の構成要件A~E並びに本件発明2の構成要件F及びGを充足し、被告製品は、本件発明3の構成要件H~L並びに本件発明4の構成要件M及びNを充足する。」としています。つまり抵触性に関しては争点が存在せず、無効理由の有無が侵害成立の条件となります。

(3)被告は本件特許が無効である理由として、被告によるA邸の工事とB邸の工事を根拠として挙げました。判決ではA邸の工事のみ取り上げられ、このA邸の工事が公然実施されたものであり、その内容に基づくと本件発明1及び3は新規性を欠き、本件発明2及び4は進歩性を欠く、と判断されました。

(4)争点となったA邸工事における公然実施の有無は、①本件特許出願前に実際にA邸の工事が被告の示す方法で実施されたのか、②A邸の該当する構成が本件発明と一致するのか、という点で争われました。原告は、①について電子データ状態の図面や写真は日付の修正が可能であるので立証が不十分であるという指摘や、工事手順等について不自然であるという指摘を行いましたが、いずれの主張も認められませんでした。また、原告は、②についてA邸工事では、内部水切り部材に相当するインナーフラッシングの上部(棟側)及び左右の黒色の帯がテープであるとしても、同下部(軒側)は当該テープ状の帯で覆われていないので「封止する状態にして固定」しているとはいえないと主張しましたが、みとめられませんでした。

(5)公然実施の立証に関して言えば、本件の立証は例えば特許庁が作成した「先使用権制度事例集「先使用権制度の円滑な活用に向けて—戦略的なノウハウ管理のために—」で求められている証拠ほど強いものではないように思います。しかし、実際の訴訟では個々の証拠が強くなくても、全体として信用に足りるか否かが考慮されると思われます。第三者からの書面や証言が存在したことも大きかったと思います。

(6)一方、新規性に関する判決では「「封止する状態にして固定」とは、内部水切り部材の固定板の下面と野地板等を、水等の液体が開口部に侵入しない程度に密着させて固定する状態をいうものと解するのが相当である」として、下部(軒側)にテープを貼っていないA邸工事と「封止する状態にして固定」する本件発明1及び3を同一と判断しました。

この「封止」という文言は特許技術用語であり、特許技術用語をまとめた書物などでは「隙間を水密に封止する」というような例文が紹介されています。しかし、原告は「封止」の意味について大辞林(三省堂)を引用し、「精密部品などを外気に触れないように、隙間なく包むこと。または、その技術。」と説明しました。そのため判決では「この定義は精密機械等に外気が接することを念頭に置いたものであり、外気ではなく液体の流通が問題となる本件各発明においては妥当しない。」と一蹴されてしまいました。おそらく、原告にすれば、特許技術用語をまとめたものでは特殊過ぎる、と判断して辞書を用いたものと思われますが、効果が無かったようです。

以前にも書きましたが、特許請求の範囲に機能的表現を用いた記載が許されなかった時代ならやむを得ませんが、現在はそのような表現を用いることが許されているので、特許技術用語のような特殊な言葉を用いるのは極力控えた方が得策でしょう。

もっとも、本件の場合は、「封止」について「隙間を水密にすること」と解釈したところで、本件発明2及び4についてA邸工事の内容から容易に想到できる、として進歩性を否定しているので、本件発明1及び3も進歩性が否定されるだけで、特許が無効であるという結論は変わらなかったと思います。

(7)本件発明1及び2は「方法の発明」となっていますが、時系列の概念が少なく、内容的には「物の発明」でした。一般に、「方法の発明」に比べ「物の発明」の方が、摘発・立証しやすく、さらに、物自体が対象となるので良いとされています。しかし、逆に言えば「方法の発明」はわかりにくいがゆえに無効になりにくい、とも言えます。例えば、本件のように被告が公然実施の証拠として図面や写真を残していても、方法の発明と同じ手順で施工したのかといった工事の時系列を証明することになると格段に立証が難しくなります。したがって、「方法の発明」は「物の発明」と異なる使い方であることを想定して記載しておくべきでしょう。

2.手続の時系列の整理(第5047754号)

3.本件発明

(1)本件発明1(請求項1)

A 屋根に設けた開口部(12)を通過させて煙突(50)を固定し、所定の水切り手段(20、30)で前記開口部(12)を覆うことにより雨漏りを防ぐための防水構造を形成する屋根煙突貫通部の施工方法において、

B 前記水切り手段(20、30)が、屋根面に対し略平行に配置され上流側の屋根仕上げ材(17)上面を流れる水を上面で受けて下流側の前記屋根仕上げ材(17)上面に導く導水板(31)及び該導水板(31)に設けた切り欠き穴周縁部分から立ち上がり前記開口部(12)から突出する前記煙突(50)の周囲を所定高さまで覆う筒状の周壁(32)を有する外部水切り部材(30)と、

C 少なくとも前記開口部(12)全体を覆うサイズを有し前記開口部(12)周囲の野地板(10)上面又は防水シート(11)上面に下面端縁側を密着して配置される固定板(21)及び該固定板(21)に設けた切り欠き穴周縁部分から立ち上がり挿通した前記煙突(50)の周囲を所定高さまで覆いながら前記外部水切り部材(30)の周壁内側に挿入される筒状の周壁(22)を有し前記外部水切り部材(30)の下方に配置される内部水切り部材(20)とで構成され、

D 該内部水切り部材(20)を、前記固定板(21)下面と前記開口部(12)周囲の野地板(10)上面又は防水シート(11)上面との間で液体の流通を封止する状態にして固定し前記防水シート(11)上の水が前記開口部(12)に侵入することを防止する、ことを特徴とする

E 屋根煙突貫通部の施工方法。

(2)本件発明2(請求項2)

F 前記内部水切り部材(20)の固定には、前記固定板(21)の上面端縁側と該端縁周囲の前記野地板(10)上面又は前記防水シート(11)上面とを上から覆うように前記固定板(21)外周に沿って防水テープ(15)を貼付する手順を含む、ことを特徴とする

G 請求項1に記載した屋根煙突貫通部の施工方法。

(3)本件発明3(請求項4)

H 煙突(50)が通過する屋根の開口部(12)を覆う所定の水切り手段(20、30)を備えて雨漏りを防ぐための防水構造を形成する屋根煙突貫通部の防水構造において、

I 屋根面に対し略平行に配置され上流側の屋根仕上げ材(17)上面を流れる水を上面で受けて下流側の前記屋根仕上げ材(17)上面に導く導水板(31)及び該導水板(31)に設けた切り欠き穴周縁部分から立ち上がり前記開口部(12)から突出する前記煙突(50)の周囲を所定高さまで覆う筒状の周壁(32)を有する外部水切り部材(30)と、

J 少なくとも前記開口部(12)全体を覆うサイズを有し前記開口部(12)周囲の野地板上面又は防水シート(11)上面に下面端縁側を密着して配置された固定板(21)及び該固定板(21)に設けた切り欠き穴周縁部分から立ち上がり挿通した前記煙突(50)の周囲を所定高さまで覆いながら前記外部水切り部材(30)の周壁内側に挿入された筒状の周壁(22)を有する内部水切り部材(20)とで構成され、

K 該内部水切り部材(20)が前記固定板(21)下面と前記開口部(12)周囲の野地板(10)上面又は防水シート(11)上面との間で液体の流通を封止する状態として固定されており、前記防水シート(11)上の水が前記開口部(12)に侵入することを防止する、ことを特徴とする

L 屋根煙突貫通部の防水構造。

(4)本件発明4(請求項5)

M 前記内部水切り部材(20)は、前記固定板(21)の上面端縁側と該端縁周囲の野地板(10)上面又は防水シート(11)上面とを上から覆うように前記固定板(21)外周に沿って防水テープ(15)が貼付されている、ことを特徴とする

N 請求項4に記載した屋根煙突貫通部の防水構造。

4.被告の行為

(1)被告は、遅くとも平成25年9月19日以降、薪ストーブに用いる煙突を設置する際に、別紙被告方法目録記載の方法(以下「被告方法」という。)を使用して、別紙被告製品目録記載の製品(以下「被告製品」という。)を製造している。なお、被告方法及び被告製品に係る各部の名称は、別紙被告方法・製品説明書に記載のとおりである。

(2)被告方法は、本件発明1の構成要件A~E並びに本件発明2の構成要件F及びGを充足し、被告製品は、本件発明3の構成要件H~L並びに本件発明の構成要件M及びNを充足する。

5.争点

(1)本件特許が特許無効審判により無効にされるべきものと認められるか(争点1)

ア A邸の工事(以下「A邸工事」という。)における公然実施の有無(争点1-1)

イ B邸の工事(以下「B邸工事」という。)における公然実施の有無(争点1-2)

(2)被告の先使用権の有無(争点2)

(3)原告による請求権放棄の意思表示の有無(争点3)

(4)原告の損害額(争点4)

6.争点に関する当事者の主張

1 争点1-1(A邸工事における公然実施の有無)について

(被告の主張)

被告が平成19年6月28日に公然と行ったA邸工事に用いた方法は、本件発明1及び2の方法と同一であり、被告が同工事により製造した製品は、本件発明3及び4の製品と同一であるから、本件各発明は、本件特許出願前に日本国内において公然実施をされた発明に当たり、新規性を欠く。仮に新規性を欠如するということができないとしても、本件各発明は、当業者が上記公然実施をされた発明に基づき容易に発明をすることができたものであるので、進歩性を欠く。

したがって、本件特許は特許無効審判により無効にされるべきものである。

(1)A邸工事の施工方法の構成

A邸工事の施工方法の構成を、本件発明1及び2の各構成要件に対応させて示すと、以下のとおりである(以下、各構成を符号に従い「構成a」などといい、次項以下も同様とする。)。

a 屋根に設けた開口部を貫通する煙突を固定し、アルミフラッシング(インナーフラッシング)と瓦フラッシング(アウターフラッシング)により上記開口部を覆って雨漏りを防ぐ屋根煙突貫通部の施工方法である。

b 上記屋根の開口部を覆う上記瓦フラッシング(アウターフラッシング)は、四角形状の防水性で可撓性のベース板の中央部分に設けた切り欠き穴の周縁部分から立ち上がるように一体的に形成した截頭円錐状の大きな筒状体を設けたもので、上記ベース板は屋根に沿うように配置され、棟側(屋根の上方側)及び左右両側が屋根材(瓦)で覆われ、軒側(屋根の下方側)は瓦を覆うように敷いて、棟側から軒側に水(雨水)を流す。

c 上記屋根の開口部を覆う上記アルミフラッシング(インナーフラッシング)は、上記瓦フラッシング(アウターフラッシング)の内側、下方に配置するもので、四角形状の固定板の中央部に設けた切り欠き穴の周縁部分から立ち上がるように一体的に形成した截頭円錐状の筒状体を設けており、その筒状体を煙突の上部から挿通してその固定板が屋根の開口部を覆い、固定板の下面が開口部周囲の野地板上面に接するように配置する。

d 上記アルミフラッシング(インナーフラッシング)の四角形状の固定板の縁部分の棟側及び左右両側には、粘着剤層を有する防水テープを貼り付けて、野地板上面との間に隙間を生じることなく雨水が開口部に侵入しないように覆って封止する。

e 屋根煙突貫通部の施工方法である。

f 上記アルミフラッシング(インナーフラッシング)の固定を、上記固定板の縁部分の棟側と左右両側で野地板上面との間に隙間が生じて雨水が開口部に浸入しないように粘着剤層を有する防水テープを貼り付けて覆うようにして封止、固定する。

g 上記構成a~fを備える屋根煙突貫通部の施工方法である。

(2)本件発明1及び2の新規性の欠如

以下のとおり、構成a~eは本件発明1の構成要件A~Eを充足し、構成f及びgは本件発明2の構成要件F及びGを充足するところ、A邸工事は本件特許出願より前の平成19年6月28日に公然実施されたものであるから、本件発明1及び2は新規性を欠く。

ア 構成aにおける「アルミフラッシング(インナーフラッシング)」及び「瓦フラッシング(アウターフラッシング)」は、構成要件Aにおける「水切り手段」(内部水切り部材と外部水切り部材により構成される)に相当するから、A邸工事の施工方法は構成要件Aを備えている。

イ 構成bにおける「ベース板」、「截頭円錐状の大きな筒状体」、「瓦フラッシング(アウターフラッシング)」及び「屋根材(瓦)」は、構成要件Bにおける「導水板」、「筒状の周壁」、「外部水切り部材」及び「屋根仕上げ材」にそれぞれ相当し、いずれも屋根材の表面を流れる水(雨水)を上流側から下流側に流すものであるから、A邸工事の施工方法は構成要件Bを備えている。

ウ 構成cにおける「アルミフラッシング(インナーフラッシング)」は構成要件Cにおける「内部水切り部材」に相当し、いずれもその固定版が屋根の開口部を覆っている。そして、「アルミフラッシング(インナーフラッシング)」は「瓦フラッシング(アウターフラッシング)」の内側、下方に配置されているから、A邸工事の施工方法は構成要件Cを備えている。

エ 構成dにおける「雨水(液体)が開口部に侵入しないようにアルミフラッシング(インナーフラッシング)の固定板の縁部分を封止する」ことは、構成要件Dにおける「固定板下面と前記開口部周囲の野地板上面又は防水シート上面との間で液体の流通を封止する状態にして固定し前記防水シート上の水が前記開口部に侵入することを防止する」ことに相当するから、A邸工事の施工方法は構成要件Dを備えている。

オ 構成eは構成要件Eと同一である。

カ 構成f及び構成要件Fはいずれも固定板による封止、固定を防水テープの貼り付けによって行っているから、A邸工事の施工方法は構成要件Fを備えている。

キ 構成gは構成要件Gと同一である。

(3)本件発明1及び2の進歩性欠如

仮に、インナーフラッシングの下部(軒側)が防水テープで覆われていないことにより構成dが構成要件Dを充足しないとしても、その上部及び左右に貼付している防水テープを下部にも貼付することは、本件特許出願時において、当業者であれば容易に想到し得たものであるから、本件発明1及び2は進歩性を欠く。

(4)A邸工事の防水構造(製品)の構成

A邸工事の防水構造の構成を、本件発明3及び4の各構成要件に対応させて示すと、以下のとおりである。

h 煙突が貫通している屋根に設けた開口部を、アルミフラッシング(インナーフラッシング)と瓦フラッシング(アウターフラッシング)により覆うことによって雨漏りを防ぐようにした屋根煙突貫通部の防水構造である。

i 上記瓦フラッシング(アウターフラッシング)は、四角形状の防水性で可撓性のベース板の中央部分に設けた切り欠き穴の周縁部分から立ち上がるように一体的に形成した截頭円錐状の大きな筒状体を有するもので、上記ベース板は屋根に沿うように配置され、棟側及び左右両側は屋根材(瓦)で覆われ、軒側は瓦の上を覆うように敷かれ、屋根の棟側(屋根の上方側)から軒側(屋根の下方側)に雨水を流す。

j 上記アルミフラッシング(インナーフラッシング)は、上記瓦フラッシング(アウターフラッシング)の内側、下方に配置されるもので、四角形状の固定板の中央部に設けた切り欠き穴の周縁部分から立ち上がるように一体的に形成した截頭円錐状の筒状体を設けており、その筒状体を煙突の上部から挿通するとその固定板が屋根の開口部を覆い、固定板の下面が開口部周囲の野地板上面に接するように配置される。

k 上記アルミフラッシング(インナーフラッシング)の四角形状の固定板の縁部分の棟側及び左右両側には、粘着剤層を有する防水テープを貼り付けて、野地板上面との間に隙間を生じないように覆って封止、固定されていて、雨水が開口部に侵入しないようにしている。

l 屋根煙突貫通部の防水構造である。

m 上記アルミフラッシング(インナーフラッシング)は、上記固定板の縁部分の棟側と左右両側で、野地板上面との間に粘着剤層を有する防水テープを貼り付けて覆うようにして封止されている。

n 上記構成h~mを備える屋根煙突貫通部の防水構造である。

(5)本件発明3及び4の新規性の欠如

A邸工事と本件発明3はいずれも同一の防水構造を有し、構成h~lは本件発明3の構成要件H~Lを具備し、構成m、nは本件発明4の構成要件M、Nを具備するから、本件発明3及び4は、本件発明1及び2と同様に新規性を欠く。

(6)本件発明3及び4の進歩性の欠如

仮に、インナーフラッシングの下部(軒側)が防水テープで覆われていないことにより構成kが構成要件Kを具備しないとしても、その上部及び左右に貼付している防水テープを下部にも貼付することは、本件特許出願時において、当業者であれば容易に想到し得たものであるから、本件発明3及び4は進歩性を欠く。

(7)原告の指摘する事項について

ア 指摘事項1について

原告は、乙12資料2~4の電子データが事後的に修正された可能性があると指摘するが、同資料2・4は電子データとして保存されていたものを印刷したものであり、同資料3は同資料2の電子データを上書きして作成されたものである。同資料2の電子データは保存されていないが、作成当時に同資料を印刷したものが被告内に保管されており、同資料3は、同資料1の顧客カードの裏面に印刷して保存されていたものであって(乙14の2)、いずれも事後的に日付を修正できるものでない。そして、同資料3・4の電子データの更新日は、それぞれ平成19年6月29日、同年7月2日である(乙16)。

このように、乙12資料2~4は本件特許出願日より前に作成されたものである。なお、同資料1(顧客カード)、同資料7(製品保証書)及び乙14の5(メンテナンス契約書)は、いずれも電子データではないため、日付を修正することはできない。

イ 指摘事項2について

乙12資料5の各写真(乙15の1~9の各写真はこれを鮮明化したもの。以下、特に乙12資料5を摘示する必要がある場合を除き、乙15を証拠番号として摘示する。)の写真の撮影日時は、すべて被告がA邸のⅠ期工事を行った日の平成19年6月28日であり、このことは写真データファイルのプロパティからも明らかである(乙17)。そして、乙15の6の写真には被告代表者が写っており、被告がA邸工事を施工したことも明らかである。

ウ 指摘事項3について

(ア)乙15の7から乙15の8の各写真間の工事内容等

乙15の7及び乙15の8の各写真に写っている瓦をそれぞれ瓦A~瓦Eとし、乙15の8の写真において釘が打たれている場所をFとする。

乙15の7の写真の状態から乙15の8の写真の状態までの工程に含まれる作業及び多めに見積もった所要時間は以下のとおりであり、所要時間の合計は2分程度である。

① Fの位置に釘を浅く打つ。(数秒)

② 瓦Bの穴に銅線を通し、当該銅線をFの位置に打った釘に巻き付け、瓦BとFの位置に打った釘を繋げる。(20秒程度)

③ 瓦Cの上に瓦Eを置く。(数秒)

④ 瓦Dを瓦Bと同じ幅になるように電動式ハンドカッターで切る。(40秒程度)

⑤ 瓦Bの上に瓦Dを置く。(数秒)

⑥ 瓦Dの穴に銅線を通し、当該銅線をFの位置に打った釘に巻き付け、瓦DとFの位置に打った釘を繋げる。(20秒程度)

(イ)乙15の8から乙15の9の各写真間の工事内容等

乙15の8の写真の状態から乙15の9の写真の状態までの工程は、横方向に4枚の瓦(煙突上側の4枚)と、縦方向に1枚の瓦(煙突右側の1枚)という合計5枚の瓦を置いて整える作業であるから、ほとんど時間はかからず、3分もあれば十分に可能な作業である。

エ 指摘事項4について

原告は、乙12資料5の写真1の煙突の先端部に錆が浮いている様子や傷があると主張するが、これを鮮明化した乙15の1の写真を見れば、煙突の先端部に錆や傷がないことは明らかであり、原告が指摘する部分は光の反射であると思われる。

オ 指摘事項5について

乙12資料6は、被告が使用部材を確認するための内部資料にすぎないので、作成日付や作成者の記載はないが、同資料がAの顧客カード等とともにファイリングされていること、その裏面にA邸の地図が印刷されている(乙14の10)ことからすると、同資料6が本件特許出願前に作成されたものであることは明らかである。

また、同資料において、「アルミフラッシング」が定型文で記載されていないのは、被告が長い間同じひな形を使用していたからにすぎない。被告は、工事実施の直後、この部材表に他の部材の数量等とともに手書きで「アルミフラッシング」、「1」と書き込んだものである。

カ 指摘事項6について

(ア)原告は、乙12資料2・3にインナーフラッシングの記載がないと指摘するが、同資料2にインナーフラッシングが記載されていないのは、被告がこの図面を作成した段階ではA邸でインナーフラッシングを使用する予定がなかったからである。また、同資料3は、同資料2について、煙突の取付位置だけを変更(屋根貫通位置を軒側(屋根の下側)に移動)した図面である。

被告は、A邸の煙突の屋根貫通位置が、当初、軒出(建物の外壁面より外側)であったため、室内への雨漏りのおそれが少ないと考え、インナーフラッシングの使用は予定していなかったが、工事の際に現場で屋根職人と協議したところ、軒出であっても屋根の中に雨水が侵入する可能性があるので、これを防ぐことが望ましいということになり、インナーフラッシングを使用して施工することになったものである。このため、施工直後の平成19年7月2日に被告が作成した乙12資料4にはインナーフラッシングの記載がある。

また、乙15の2~5の各写真からもインナーフラッシングが使用されていることは明らかである。

(イ)原告は、乙12資料4には同資料2・3に記載されているルーフサポートの記載がないと指摘するが、A邸工事において煙突がルーフサポートによって固定されていることは、乙15の1の写真、乙12の資料2・3から明らかである。

乙12資料4(平成19年7月2日付け)は、住友林業ホームテック株式会社(以下「住友林業」という。)から依頼され、同社にⅠ期工事後の屋根及び壁における煙突の貫通部分の状態及びⅡ期工事においてその部分にどのような処理をする予定かについての詳細を知らせるために作成されたものである。被告代表者は、工事翌日である同年6月29日に訂正図面(乙12資料3)を作成し、これを同社に送付済みであったため(乙31、32、35)、その後に送付した同資料4には同資料3に記載されているルーフサポートを重ねて記載する必要がなかったから記載をしなかったにすぎない。

キ 指摘事項7について

(ア)A邸の所在地をグーグルマップで検索すると、乙15の各写真に写っている緑の瓦と被告が設置した煙突のある住宅を確認することができ(乙24の1)、当該住宅の門の表札(乙24の3)からも乙15の各写真が、A邸の工事の写真であることが看取できる。

原告は、乙14と乙15の写真では雨樋の色が異なるので、乙15はA邸の写真ではない可能性があると主張するが、A邸ではⅠ期工事終了後に雨樋の交換工事が行われたため、その前後に撮影された乙15と乙14の7の各写真で雨樋の色が異なっているにすぎない(乙29)。

(イ)原告は、乙15の7の写真にはA邸には存在しない平たい滑らかな庭石が写っていると主張するが、同写真に写っている平たい滑らかな石は庭石ではなく、リフォーム前のA邸の基礎石である。リフォーム前のA邸においては、大きく平らな石が基礎として使用されていたが(乙36の写真A)、リフォーム工事によって基礎石が撤去され、コンクリートの基礎に入れ替えられている(乙36の写真B)。この基礎石はリフォーム工事が終わるまで庭に仮置きされていたので、乙36の写真Bには庭に仮置きされた基礎石が写っているが、同写真には、乙15の7に写っている2つのU字溝及びその上に置かれた灰色のかごも写っているので、これらの写真がA邸のものであることは明らかである。庭に仮置きされていた基礎石は、リフォーム工事が終わった頃に片付けられているので(乙36)、甲15が作成された平成31年2月4日にA邸の庭に存在しないのは当然である。

(原告の主張)

A邸工事が本件特許出願より前に行われたことは後記(3)のとおり立証されていないが、そもそも、後記(1)のとおり、A邸工事は本件発明1の構成要件D及び本件発明3の構成要件K(以下、併せて「構成要件D等」という。)を具備せず(同構成要件を充足しない場合は本件発明2の構成要件F及び本件発明4の構成要件M〔以下、併せて「構成要件F等」という。〕も具備しない。)、同工事と本件各発明には相違点があるから、A邸工事の実施により本件発明が新規性を欠くことにはならないし、後記(2)のとおり、同相違点は当業者が容易に想到し得たものではないから、進歩性を欠くものでもない。

(1)新規性の欠如の主張に対して

構成要件D等の「封止」とは、「精密部品などを外気に触れないように、隙間なく包むこと。または、その技術。」(大辞林第三版(甲16))を意味する。また、本件特許出願の願書に添付した明細書の発明の詳細な説明及び図面(以下、併せて「本件明細書等」という。)における段落【0030】~【0032】、【図4】、【図5】の記載によれば、本件発明の実施例としてインナーフラッシングの固定板下面と野地板(防水シート)上面とを「封止するために固定」することに用いるシーリング剤(コーキング剤)は固定板の軒側にも塗布されており、防水テープについても「全周」にわたって貼付する構成しか記載がない。そうすると、本件発明1の構成要件D及び本件発明3の構成要件Kにおける「封止する状態にして固定」とは、外気に触れないように隙間ない状態にして固定することと解釈されるべきである。

しかるに、A邸工事では、仮にインナーフラッシングの上部(棟側)及び左右の黒色の帯がテープであるとしても、同下部(軒側)は当該テープ状の帯で覆われていないから(乙15の2・3)、インナーフラッシングの下部には隙間があり、そこから雨水が流入し、開口部に侵入することになる。

それゆえに、A邸工事は、構成要件D等を充足せず、本件各発明とA邸工事は、以下の点で相違することになるので(以下「相違点1」という。)、本件各発明は新規性を欠如しない。

【相違点1】

本件各発明は、「該内部水切り部材を、前記固定板下面と前記開口部周囲の野地板上面又は防水シート上面との間で液体の流通を封止する状態にして固定し前記防水シート上の水が前記開口部に侵入することを防止する」のに対し、A邸工事は、「固定板下面と前記開口部周囲の野地板上面又は防水シート上面との間で液体の流通を封止する状態にして固定」されておらず、「防水シート上の水が前記開口部に侵入することを防止する」構成となっていない点

(2)進歩性の欠如の主張に対して

インナーフラッシングの固定板を上部及び左右の3か所のみで固定していた構成を、全周にわたって防水テープ等を貼付し「封止する状態にして固定」する構成に置き換えると、軒側を固定する部材のコストがかかるのみならず、工数が増えることになって、過剰なコストや手間を要することになるから、上記置換には阻害要因がある

したがって、仮にA邸工事が本件特許出願より前に行われていたとしても、当業者が同工事から「封止する状態にして固定」する構成を容易に想到することはできないから、本件各発明は、進歩性を有する。

(3)本件特許出願より前にA邸工事が行われたことの立証がないこと

A邸工事が本件特許出願より前に行われたとして被告が提出する証拠(乙12資料1~22、乙14~17等)には、以下に指摘するとおりの不合理な点(「指摘事項1」などと表記する。)があるので、A邸工事が本件特許出願より前に行われたことは立証されていない。

ア 指摘事項1

乙12資料2~4の図面など、パソコンで作成された書面の日付については事後的に修正することが容易であるので、本件特許出願前に作成されたということはできない。

イ 指摘事項2

乙15の各写真は撮影日時が不明である。被告は、乙15の各写真のプロパティが乙17であると主張するが、乙17が乙15の各写真のプロパティであるかどうかが不明である上、写真のプロパティの修正は容易である。

ウ 指摘事項3

仮に、乙17のプロパティにおける撮影時刻を前提としても、乙15の7の写真は14時5分、乙15の8の写真は14時7分に撮影されたことになっているところ、各写真を対比すると、乙15の7の写真の状態から乙15の8の写真の状態に至るまでの間に、①フラッシングの敷かれていない部分に新たに瓦を敷く作業、②乙15の8の写真の青丸部分に新たに瓦を敷く作業、③釘に銅線を巻き付ける作業、④銅線を巻き付けた釘を打ち込む作業が行われたことになり、しかも、①と②の間には瓦の切断作業も含まれると考えられるが、わずか2分間で上記作業を全て行えるとは考え難い。

さらに、乙17によれば、乙15の9の写真は14時10分に撮影されたことになっているところ、各写真を対比すると、乙15の8の写真から乙15の9の写真に至るまでの間に、①青丸部分に瓦を敷く作業、②同瓦を固定するため、釘に銅線を巻き付ける作業、③銅線を巻き付けた釘を打ち込む作業、④赤丸部分の瓦4枚を敷く作業が行われたことになるが、わずか3分間で上記作業を全て行えるとは考え難い。

エ 指摘事項4

乙12資料5の写真1の煙突の先端部には錆が浮いている様子や傷があるように見えることから、乙12資料5が新設工事の際に撮影されたものであるか疑問である。

オ 指摘事項5

乙12資料6の「工事使用部材表」には作成日付の記載がないので、本件特許出願前に作成されたかどうか不明であり、同資料に記載された部材がどのような方法で使用され、どのような構成を有する製品となったか明らかではない。また、同資料の「アルミフラッシング」との記載は手書きであり、事後に追加記載された可能性が否定できない。

カ 指摘事項6

乙12資料2・3にはインナーフラッシングの記載がなく、他方、同資料4には同資料2・3に記載されていたルーフサポートの記載がなく、同資料4からは煙突が固定されているか否かが明らかではない。

被告は乙12資料2にインナーフラッシングの記載がないことについて、設計図作成時にはフラッシング(インナーフラッシング)を使用する予定がなかったが、現場を検認して同部材を使用することとなったと主張するが、設計段階で使用する予定であったものが、現場を見て使用しない方が良いと判断することはあるとしても、その逆は通常あり得ない。

キ 指摘事項7

乙14の7と乙15の各写真に写る雨樋の色が異なること、乙15の7の写真にA邸にあるはずのない庭石が写っていることからすれば、乙15の各写真がA邸工事の際に撮られたものであることは疑わしい。

2 争点1-2(B邸工事における公然実施の有無)について

(被告の主張)

被告が平成19年9月14日に公然と行ったB邸工事に用いた方法は、本件発明1及び2の方法と同一であり、被告が同工事により製造した製品は、本件発明3及び4の製品と同一であるから、本件各発明は、本件特許出願前に日本国内において公然実施をされた発明に当たり、新規性を欠く。仮に新規性を欠如するということができないとしても、本件各発明は、当業者が上記公然実施をされた発明に基づき容易に発明をすることができたものであるので、進歩性を欠く。

したがって、本件特許は特許無効審判により無効にされるべきものである。

(1)B邸工事の施工方法の構成

B邸工事の施工方法の構成を、本件発明1及び2の各構成要件に対応させて示すと、以下のとおりである。

a 屋根に設けた開口部を貫通する煙突を固定し、アルミフラッシング(インナーフラッシング)と瓦フラッシング(アウターフラッシング)により上記開口部を覆って雨漏りを防ぐ屋根煙突貫通部の施工方法である。

b 上記屋根の開口部を覆う上記瓦フラッシング(アウターフラッシング)は、四角形状の防水性で可撓性のベース板の中央部分に設けた切り欠き穴の周縁部分から立ち上がるように一体的に形成した截頭円錐状の大きな筒状体を設けたもので、上記ベース板は屋根に沿うように配置され、棟側(屋根の上方側)及び左右両側が屋根材(瓦)で覆われ、軒側(屋根の下方側)は瓦を覆うように敷いて、棟側から軒側に水(雨水)を流す。

c 上記屋根の開口部を覆う上記アルミフラッシング(インナーフラッシング)は、上記瓦フラッシング(アウターフラッシング)の内側、下方に配置するもので、四角形状の固定板の中央部に設けた切り欠き穴の周縁部分から立ち上がるように一体的に形成した截頭円錐状の筒状体を設けており、その筒状体を煙突の上部から挿通してその固定板が屋根の開口部を覆い、固定板の下面が開口部周囲の野地板上面に接するように配置する。

d’上記アルミフラッシング(インナーフラッシング)の固定板の軒側、左右両側及び棟側には、粘着剤層を有する防水シートを固定板と野地板上面を跨いで貼付けて、固定板下面と野地板上面の間に隙間を生じることなく封止し、雨水が開口部に侵入しないようにする。

e 屋根煙突貫通部の施工方法である。

f’上記アルミフラッシング(インナーフラッシング)の固定を、上記固定板の縁部分の棟側、左右両側及び軒側に野地板上面との間に隙間が生じて雨水が浸入しないように、粘着剤層を有する防水シートを固定板と野地板上面を跨いで貼付けて覆うようにして封止、固定する。

g’上記構成a~f’を備える屋根煙突貫通部の施工方法である。

(2)本件発明1及び2の新規性欠如

以下のとおり、構成a~c、d’及びeは本件発明1の構成要件A~Eを充足し、構成f’及びg’は本件発明2の構成要件F及びGを充足するところ、B邸工事は本件特許出願より前の平成19年9月14日に公然実施されたものであるから、本件発明1及び2は新規性を欠く。

ア B邸工事の構成a~c及びeはA邸工事の構成と同じであるから、B邸工事の施工方法は本件発明1の構成要件A~C及びEを充足する。

イ B邸工事の構成d’は、雨水が開口部に侵入しないようにアルミフラッシングの固定板と野地板上面の間の隙間を封止する点でA邸工事の構成dと変わりがないから、B邸工事の施工方法は構成要件Dを充足する。

この点に関し、原告は、乙13資料3の写真3~5に写っている黒色のシートに粘着性があるかどうか明らかではないと主張するが、同各写真を鮮明化したものである乙19の写真3・4(なお、以下、特に乙13資料3を摘示する必要がある場合を除き、乙19を証拠番号として摘示する。)によれば、黒色の防水シートの裏に茶色の剥離紙が付いていることが看取できる。剥離紙は、シートの粘着面を保護するために使用時まで付けられているものであるから、防水シートに粘着性があり、これによりアルミフラッシングと野地板が固定されていることは明らかである。

ウ B邸工事の構成f’及びg’は、A邸工事の構成f及びgと実質的に変わりがないから、構成要件F及びGを充足する。

(3)本件発明1及び2の進歩性欠如

仮に、上記黒色シートに粘着性がないとしても、本件発明1の構成要件Dとの差異は、インナーフラッシングの固定板を覆う防水シートが粘着性を有するかどうかという点のみである。インナーフラッシングの固定板を覆うために、粘着性を有する防水シートを使用したり、A邸工事と同様に粘着性を有する防水テープでインナーフラッシングの固定板を固定することなどは、本件特許出願時において、当業者であれば容易に想到し得たことであるから、本件発明1及び2は進歩性を欠く。

(4)B邸工事における防水構造(製品)の構成

B邸工事における防水構造(製品)の構成を、本件発明3及び4の各構成要件に対応させて示すと、以下のとおりである。

h 煙突が貫通している屋根に設けた開口部を、アルミフラッシング(インナーフラッシング)と瓦フラッシング(アウターフラッシング)により覆うことによって雨漏りを防ぐようにした屋根煙突貫通部の防水構造である。

i 上記瓦フラッシング(アウターフラッシング)は、四角形状の防水性で可撓性のベース板の中央部分に設けた切り欠き穴の周縁部分から立ち上がるように一体的に形成した截頭円錐状の大きな筒状体を有するもので、上記ベース板は屋根に沿うように配置され、棟側及び左右両側は屋根材(瓦)で覆われ、軒側は瓦の上を覆うように敷かれ、屋根の棟側(屋根の上方側)から軒側(屋根の下方側)に雨水を流す。

j 上記アルミフラッシング(インナーフラッシング)は、上記瓦フラッシング(アウターフラッシング)の内側、下方に配置されるもので、四角形状の固定板の中央部に設けた切り欠き穴の周縁部分から立ち上がるように一体的に形成した截頭円錐状の筒状体を設けており、その筒状体を煙突の上部から挿通するとその固定板が屋根の開口部を覆い、固定板の下面が開口部周囲の野地板上面に接するように配置される。

k’上記アルミフラッシング(インナーフラッシング)の四角形状の固定板の縁部分の棟側、左右両側及び軒側には、粘着剤層を有する防水シートを固定板と野地板上面を跨いで貼付けて、野地板上面との間に隙間を生じることなく覆って封止、固定されていて、雨水が開口部に侵入しないようにしている。

l 屋根煙突貫通部の防水構造である。

m’上記アルミフラッシング(インナーフラッシング)は、上記固定板の縁部分の棟側、左右両側、軒側で、野地板上面との間に粘着剤層を有する防水シートを貼り付けて覆うようにして封止されている。

n’上記構成h~m’を備える屋根煙突貫通部の防水構造である。

(5)本件発明3及び4の新規性欠如

以下のとおり、B邸工事の施工方法に係る構成h~j、k’及びlは、本件発明3の構成要件H~Lを備え、構成m’及びn’は本件発明4の構成要件M及びNを備えているところ、B邸工事は本件特許出願より前の平成19年9月14日に公然実施されたものであるから、本件発明3及び4は新規性を欠く。

ア B邸工事の構成h~j及びlは、A邸工事の構成と同じであるから、B邸工事の施工方法は本件発明3の構成要件H~J及びLを備えている。

イ B邸工事の構成k’は、雨水が開口部に侵入しないようにアルミフラッシングの固定板と野地板上面の間の隙間を封止する点でA邸工事の構成kと変わりがないから、B邸工事の施工方法は構成要件Kを備えている。

ウ B邸工事の構成m’及びn’は、A邸工事の構成m及びnと実質的に変わりがないから、B邸工事の施工方法は構成要件M及びNを備えている。

(6)本件発明3及び4の進歩性欠如

仮に、乙19の黒色シートに粘着性がないとしても、本件発明3の構成要件Kとの差異は、インナーフラッシングの固定板を覆う防水シートが粘着性を有するかどうかという点のみである。インナーフラッシングの固定板を覆うために、粘着性を有する防水シートを使用したり、A邸工事と同様に粘着性を有する防水テープでインナーフラッシングの固定板を固定することなどは、本件特許出願時において、当業者であれば容易に想到し得たことであるから、本件発明3及び4は進歩性を欠く。

(7)原告の指摘事項について

ア 指摘事項1について

原告は、乙8資料3の2、乙13資料1・2などの書面の電子データは事後的に修正することが容易であると主張するが、乙13資料2(乙8の資料3の1と同一の電子データ)については、同資料1の顧客カードの裏面に印刷して保存してあったものであり(乙18の2)、事後的に日付を修正できるものではない。

乙8資料3の1及び同資料3の2の電子データの更新日時は、それぞれ平成19年8月27日、同月25日であるので(乙20)、被告がこれを事後的に修正した事実はない。なお、乙13資料1(顧客カード)及び資料5(製品保証書)は電子データではないため、日付を修正することはできない。

イ 指摘事項2について

原告は、乙19の各写真の撮影日時は不明であると主張するが、これらの写真の撮影日時は全て被告がB邸のⅠ期工事を行った日の平成19年9月14日である(乙13)。写真の撮影日時は、写真データファイルのプロパティ(乙21)から明らかである。

ウ 指摘事項3について

(ア)原告が主張する乙19の1の写真の赤丸部分のネジ孔は、煙突を屋根に仮置きする際にできたものである。すなわち、煙突を屋根に設けた開口部に固定する場合、まず、煙突に取り付けたルーフサポートを野地板の上に仮置きするが、屋根には勾配があるため、木ネジを途中まで浅く打ち込み、これによってルーフサポートを下から支えて滑り落ちるのを防止して煙突を仮置きし、開口部との寸法を測りながら少しずつずらして開口部を貫通する煙突の位置を調整し、煙突の位置が決まったところで固定金具(ルーフサポート)を正式に固定して、乙19の1の写真のとおり煙突を設置したもので、上記木ネジを取り外したネジ穴が数箇所できることになるのである。

(イ)原告が主張する乙19の1の写真の青丸部分の釘孔は、屋根煙突貫通設置工事において煙突を貫通させるために設けた屋根の開口部を踏み抜かないように、上から開口部を覆う板を被せ、これを仮止めした際にできたものである。なお、桟木を取り付ける際は、屋根垂木のある位置で止め、桟木の下に付けるパッキンも垂木のある位置に付けること、B邸工事の際には野地板を新しく敷き替えているために、桟木はその時点で切られていることからして、上記釘孔は、桟木を止めていた部分を取り外したことによりできたものではない。

エ 指摘事項4について

原告は、乙13の資料3の写真6及び9に新設ではあり得ない傷があると主張するが、これらの写真を鮮明化した乙19の6及び9によれば、原告が指摘する部分に傷がないことは明らかであり、同部分は光の反射であると思われる。また、仮に煙突上部に細かい傷があったとしても、それはフラッシングを煙突上部から被せる際などに不可避的に生じるものであって、これをもって新設工事であることが否定されるものではない。

オ 指摘事項5について

乙13資料4の「工事使用部材表」は、被告が使用部材を確認するための内部資料にすぎないため、作成日付や作成者の記載はない。

しかし、同資料は、顧客カードと一体のものとして被告によりファイリングされているものであり、裏面にB邸の地図が印刷されている(乙18の7)ことからすると、同資料が、被告により作成されたB邸工事の資料であり、本件特許の出願前に作成されたものであることは明らかである。

乙13資料4に「アルミフラッシング」が定型文で記載されていないのは、被告が長い間同じひな形を使用していたからにすぎない。被告は、B邸工事の実施直後、この工事使用部材表に他の部材の数量等とともに手書きで「アルミフラッシング」「1」と書き込んだものである。

また、B邸工事においてアルミフラッシングを使用していることは、乙13資料2・3から明らかである。

カ 指摘事項6について

原告は、被告が従前原告に送付した乙8の「煙突使用部材詳細」にアルミフラッシングの記載がないことから、被告はアルミフラッシングをインナーフラッシングとして使用していないと主張するが、「煙突工事部材詳細」は、使用部材の価格に基づき作成された工事費用の見積もりであり、アルミフラッシングの価格は「瓦フラッシング」に含まれている。

すなわち、乙8資料2の2~資料5の2の「瓦フラッシング」の価格は8万6800円であるが、これは「瓦フラッシング」7万2000円(乙13資料17)とアルミフラッシング1万4800円(乙13資料11、乙27)の合計額である。

また、乙8資料6の2(作成日は平成19年9月19日)の「瓦フラッシング」の価格は8万9000円となっているが、この価格は、工事を行うのが同年10月1日以降であることが確実だったため、同日以降に予定されていた値上げ後の「瓦フラッシング」の価格7万4400円(乙28、乙8資料10)を使用し、それとアルミフラッシングの価格1万4800円(乙13資料11、乙27)との合計額から200円値引きしたものである。200円の割引も十分あり得ることであって、不自然ではない。

原告は、「煙突使用部材詳細」においてアルミフラッシングと瓦フラッシングを併せて「1」と表記したことについて、別々に価格を記載しないことは不自然であると主張するが、乙8の資料2~資料6に記載された工事は、いずれも煙突が室内から天井を通って屋根を貫通するタイプの工事であり、天井や室内への雨漏りを防ぐために瓦フラッシングとアルミフラッシングをセットで使うことが必要とされるものであるので、アルミフラッシングの価格と瓦フラッシングの価格を別々に記載せず、まとめてその合計額のみを記載したからといって、それが特段不自然であるということはない。

キ 指摘事項7について

原告は、乙13の資料1、資料2及び資料5との間で、ストーブの製品名が異なっていると主張するが、資料5の「F500BP」は、「F400BP」の誤記であり(乙13の5頁)、これらは同一の製品である。

ク 指摘事項8について

原告は、乙13資料2及び乙8資料3の1に相違点があると主張するが、乙13資料2に原告が指摘する「屋根上げ材の上の別の部材」及び「垂直線」がないように見えるのは、コピーを重ねたために薄い線が消えてしまったためであり、乙13資料2の原本である乙18の2を見ると、線が薄く残っていることが確認できる。

乙13資料2のオリジナルデータは、濃い線と薄い線が使い分けられているが(乙22)、これを全て濃い線として出力することも可能であり(乙23)、乙8資料3の1は、全て濃い線として出力したことから線がはっきりと残っているものである。

いずれにしても、乙13資料2と乙8資料3の1とは同じ図面であり、その元データは、平成19年8月27日に作成されたものである(乙20)。

また、原告は、乙8資料3の1にアルミフラッシングとして記載されている点線が、手書きで事後的に記載された可能性があると主張するが、同資料は図面データを線の濃さだけを変えて印刷したものであり、手書きで点線を書き加えるなどの加筆修正をしたものではない。仮に、同資料の点線の間隔が一定でないとしても、それは複写を重ねたり、拡大コピーをしたりしている間に生じたものにすぎない。

ケ 指摘事項9について

被告は、平成19年9月30日、Bに対し、Ⅰ期工事完了に伴う請求を行っているのであり(乙34、35)、乙34の請求書はBに実際に送付されている。

コ 指摘事項10について

B夫妻は、平成19年5月27日、被告本社所在のファイヤーワールドショールームに来館した(乙33)。乙33のうち、青ボールペンで書かれている部分はB氏が記載したものである。B夫妻は、ショールーム来館時点で、「9月頃施工予定」であると述べている(乙33、35)。

また、原告は、B夫妻に初めての子どもが産まれた直後に煙突工事をすることは考えられないと主張するが、子どもが産まれた2日後に煙突工事をすることは特段あり得ないことではなく、実際のところ、B邸のⅠ期工事に立ち会ったCは、Bから現場で「最近子どもが産まれた」との話を聞いている(乙35)。

(原告の主張)

B邸工事が本件特許出願より前に行われたことは後記(3)のとおり立証されていないが、そもそも、後記(1)のとおり、B邸工事は本件発明1の構成要件D等(同構成要件を充足しない場合は本件発明2及び4の構成要件F等も具備しない。)を具備せず、同工事と本件各発明には相違点があるから、B邸工事の実施により本件発明が新規性を欠くことにはならないし、後記(2)のとおり、同相違点は当業者が容易に想到し得たものではないから、進歩性を欠くものでもない。

(1)新規性の欠如の主張に対して

被告は、乙19の3~5に撮影された黒色シートの裏に茶色の剥離紙がついていることなどを理由として、同シートは粘着性を有すると主張するが、茶色の紙が剥離紙であるかどうかは明らかではなく、このシートが粘着性を有し、インナーフラッシングが野地板に固定されていることの立証はされていない。このため、本件各発明とB邸工事は、以下の点で相違するので(以下「相違点2」という。)、本件各発明は新規性を欠如しない。

【相違点2】

本件各発明は、「該内部水切り部材を、前記固定板下面と前記開口部周囲の野地板上面又は防水シート上面との間で液体の流通を封止する状態にして固定し前記防水シート上の水が前記開口部に侵入することを防止する」のに対し、B邸工事は、「固定板下面と前記開口部周囲の野地板上面又は防水シート上面との間で液体の流通を封止する状態にして固定」しているか不明であり、「防水シート上の水が前記開口部に侵入することを防止する」構成であるか不明である点

(2)進歩性の欠如の主張に対して

B邸工事の黒色のテープ状の帯が粘着性のないものであれば、テープの粘着面同士が貼り付いてしまわないため作業も容易であり、貼付に失敗した場合や修繕の際にも貼り直しが簡単にできるのに対し、粘着性のあるものを使用すると、テープの粘着面同士が貼り付いたり、貼付に失敗した場合に作業効率が落ちたりし、修繕の際も容易に貼替えができないというデメリットがあるから、テープ状の帯を粘着性のないものから粘着性のあるものに代えることには阻害要因がある。

したがって、仮にB邸工事が本件特許出願より前に行われていたとしても、当業者が同工事から「封止する状態にして固定」する構成を容易に想到し得たということはできないので、本件各発明は進歩性を有する。

(3)本件特許出願より前にB邸工事が行われたことの立証がないこと

証拠(乙8資料3の1・2、乙13資料1~18、乙18~23等)には以下に指摘するような不合理な点があるので、B邸工事が本件特許出願より前に行われたことは立証されていない。

ア 指摘事項1

乙8資料3の2、乙13資料1・2など、パソコンで作成された書面の日付は事後的に修正することが容易であるので、本件特許出願前に作成されたということはできない。また、乙18の1の顧客カードも被告の内部書類であるから容易に改ざんすることができる。

イ 指摘事項2

乙19の各写真からは、工事の主体、撮影日時などが不明である。被告は、乙19の各写真のプロパティが乙21であると主張するが、乙21が乙19の各写真のプロパティかどうかが不明である上、プロパティの修正は容易である。

ウ 指摘事項3

乙19の1の写真には、開口部の補強板に煙突固定金具を止めていた部分を取り外したことによりできたと考えられるネジ孔(下記写真赤丸部分)、桟木を止めていた部分を取り外したことによりできたと考えられるネジ孔(下記写真青丸部分)が写されているが、これらのネジ孔は、初回の工事で撮影されるはずのないものであるから、乙19の写真の撮影日時は信用できない。

エ 指摘事項4

乙13資料3の写真6及び9の煙突の先端部には新設ではあり得ない傷があるように見えることから、同各写真が新設工事の際に撮影されたものであるか疑問である。

オ 指摘事項5

乙13資料4の「工事使用部材表」には作成日付の記載がないので、本件特許出願前に作成されたかどうか不明であり、同資料に記載された部材がどのような方法で使用され、どのような構成を有する製品となったか明らかではない。また、同資料の「アルミフラッシング」との記載は手書きであり、事後に追加記載された可能性が否定できない。

カ 指摘事項6

乙8の「煙突使用部材詳細」(資料2の2、3の2、4の2、5の2、6の2)についても、同資料に記載された部材がどのような方法で使用され、どのような構成を有する製品となったか明らかではない。

また、資料3の2には「瓦フラッシング ストームカラー付き」と記載されているが、ストームカラーはアウターフラッシングと煙突との隙間を塞ぐために用いられるものであり、このことはインナーフラッシングが使用されていないことを示している。

さらに、被告は、「瓦フラッシング」の数量が1と記載されていることについて、瓦フラッシングとアルミフラッシングの数量を併せて「1」と表記し、その合計額を記載したものであると主張するが、それぞれの金額を別々に記載しないというのは不自然である。

加えて、被告がB邸で使用したとするカタログ(乙13の10・11・15)によれば、最も高いインナーフラッシングとアウターフラッシングの価格を合計しても8万3800円であり、被告が主張する合計額(8万6800円、乙8資料3の2)には及ばない。被告が乙8の資料3の2の「瓦フラッシング」の価格がインナーフラッシングとアウターフラッシングの合計額であることの証拠として提出する価格表(乙27)については、その下部に「価格は全て倉庫渡しの価格です。」との記載があり、乙8資料8・9には「運賃」の記載があるから、インナーフラッシングの購入時点の価格は乙27記載の価格と異なると考えるのが自然である。

キ 指摘事項7

乙13資料1には「機種名」として、「ヨツール F400BP RH」、同資料2には暖炉の下に「ヨツール F400黒」、資料5の「製品名」には「Jφtul F500BP]と記載されており、暖炉の製品名が異なる。

ク 指摘事項8

被告は、乙13資料2及び乙8資料3の1は同一工事に関して作成された設計図であると主張するが、両資料を対比すると、屋根仕上げ材の有無、化粧材の上の垂直線の有無において異なるなど、同一の資料としてはあり得ない相違点が存在する。

また、乙8資料3の1において、アルミフラッシングとして記載されている点線は、手書きで事後的に記載された可能性があるので、同資料から当該部材を使用する予定であったと理解することはできない。

ケ 指摘事項9

被告が提出するBに対する請求書(乙34)については、被告が実際にBに送付した証拠はない。

コ 指摘事項10

平成19年9月14日は平日であったが、海上自衛隊所属の公務員であるB工事の立会いのために有給休暇を取得しておらず、2日前に長女が誕生していたことからしても、同日に工事が行われたとは考え難い。

3 争点2(被告の先使用権の有無)について

(被告の主張)

薪ストーブの煙突屋根出しに係る従前の工事方法では、屋根の野地板に設けた開口部からの雨水の侵入を十分に防ぐことができなかったところ、被告代表者は、平成17年頃、瓦フラッシングの内側にアルミフラッシングを設ける二重のフラッシング構造とし、更に内側のアルミフラッシングの固定板と屋根の野地板との間を防水テープ(シート)で封止して隙間を生じないようにすることによって、開口部への雨水の侵入を確実に防止することができることを独自に思い付き、被告方法及び被告製品を完成させた。被告は、A邸工事やB邸工事など、本件特許出願前から屋根煙突貫通部の施工方法並びに防水構造及びこれを含む薪ストーブの設置工事に係る事業を行っており、被告方法及び被告製品は、当該事業の目的の範囲内で行われたものである。

したがって、仮に本件特許権が有効であるとしても、被告は、本件特許について先使用による通常実施権を有している。

(原告の主張)

前記1(原告の主張)及び前記2(原告の主張)と同様の理由により、被告の先使用権の主張は失当である。

4 争点3(原告による請求権放棄の意思表示の有無)について

(被告の主張)

原告は、平成26年10月7日、原告が当時委任していた弁護士が「諸般の事情により、今般、請求を取り下げることとし、併せて、本特許を根拠とする請求をしないことを申し入れます。」と記載した「請求取下通知書」と題する書面(乙3。以下「本件通知書」という。)を原告に送付したことにより、本件特許に基づく被告に対する請求権を放棄する旨の意思表示をした。

(原告の主張)

原告は、原告の委任していた弁護士に対し、被告に対する請求権の放棄の意思表示をする旨の指示をしたことはなく、そのような内容の書面を送ることを了承したこともない。被告指摘の記載は、原被告間の本件特許に係る紛争について同弁護士が原告の代理人を辞任する旨の意思表示であり、原告が本件特許に係る請求権を放棄する旨の意思表示ではない。

5 争点4(原告の損害額)について

(原告の主張)

原告は、以下のとおり、合計4752万円の損害を受けた。

(1)特許法102条2項に基づく損害額 4320万円

被告における煙突貫通部の施工料は、少なくとも1件当たり30万円であり、その利益率は40%を下らない。また、被告の煙突貫通部の予想施工件数は、年平均80件である。そうすると、平成25年9月19日から平成30年3月までの約4年6か月間において、被告が本件特許権を侵害することにより得た利益額は、4320万円(=30万円×40%×80件×4.5年)となるから、これが原告の損害額となる。

(2)弁護士・弁理士費用相当損害額 432万円

(被告の主張)

否認し争う。

7.裁判所の判断

1 本件各発明の内容

(1)本件明細書等には以下の記載がある(甲2。明白な誤記は修正した。)。

-省略-

(2)本件各発明の内容等

本件各発明に係る特許請求の範囲の記載及び本件明細書等の記載によれば、本件発明1は屋根煙突貫通部の施工方法に関する発明であり、本件発明3は屋根煙突貫通部の防水構造に関する発明であり、いずれも、①煙突を屋根抜き方式で施工する場合には雨漏りが発生しやすいが、それを防止するためには複雑な構造や多大なコストを要するという課題の解決を目的とし、②防水構造を形成する水切り手段を外部用と内部用との2つの部材に分けて、内部水切り部材の固定板を野地板又は防水シート上に密着した状態で固定するものとすることにより、③過剰な手間や過大なコストを要することなく優れた防水機能を長期間にわたって発揮することができるようにした発明であると認められる。

そして、本件発明2及び4は、これに加え、内部水切り部材の固定に当たり、その固定板外周に沿って防水テープを貼付することで、内部水切り部材を簡易に固定して優れた防水機能を長期間にわたって発揮することができるようにした発明であると認められる。

2 争点1-1(A邸工事における公然実施の有無)について

(1)認定事実

前記前提事実、後掲の証拠及び弁論の全趣旨を総合すれば、以下の事実を認めることができる。

ア 被告は、平成19年5月頃までに、住友林業から、横浜市X区所在のA邸における、屋根を貫通させる屋根抜き方式による薪ストーブ及びその煙突の設置工事を受注した。(乙12、14、30、35)

イ 被告代表者は、平成19年6月28日、A邸において、外部から遮るもののない状況下において、屋根職人とともに、以下の内容のA邸工事のⅠ期工事を行った。(乙12、14~17、35、36)

(ア)既存の瓦を剥がし、屋根に煙突を通すための矩形状の開口部を設け、同開口部の縁部に防水テープを貼付した。そして、同開口部に屋根を貫通する煙突部分を通し、ルーフサポートの金具を屋根の野地板に固定し、煙突を鉛直に固定した。

(イ)固定された煙突の上部からアルミフラッシング(インナーフラッシング)を挿通させた。このアルミフラッシングは、矩形状の固定板の中央部に設けた切り欠き穴の周縁部から立ち上がるように一体的に形成した截頭円錐状の筒状体が設けられており、同固定版はその裏面を野地板に密着させて屋根に設けた開口部全体を覆っている。

アルミフラッシングの固定板の縁部分の棟側(屋根の上方側)及び左右両側に、粘着剤層を有する防水テープを貼付して野地板との間の隙間を塞ぎ、アルミフラッシングの筒状体の上端部と煙突の間及び筒状体の下端と固定板の間にシーリング材を塗布した。なお、同固定板の軒側には防水テープを貼付しなかった。

(ウ)アルミフラッシングの屋根への固定後、固定板の軒側の端部に沿って瓦桟を固定し、これに瓦を固定して瓦を敷き、アルミフラッシングの上から瓦フラッシング(アウターフラッシング)を被せて覆った。瓦フラッシングには、略四角形状で防水性及び可撓性を有するベース板と、その中央部分に設けられた大きな切り欠き穴の周縁部分から立ち上がるように一体的に形成した鉄製の截頭円錐状の大きな筒状体が設けられている。この筒状体は、屋根に固定された煙突の上から挿入されてアルミフラッシングの筒状体を上から覆い、上記のベース板は、アルミフラッシングの固定板及びこれに貼付された防水テープを完全に覆うように敷かれている。

(エ)軒側のベース板は瓦の上を覆うように敷かれ、同ベース板の左右側の上に瓦を載せて覆い、同ベース板の棟側の上にも瓦を載せて覆い、棟側から軒側に雨水を流すように水仕舞する。

(オ)瓦フラッシングの円筒体の上に雨避けのストームカラーを取り付け、屋根を貫通している煙突の上部から煙突内に雨水が入り込まないよう、煙突の上端にPトップを仮止めした。

ウ 被告は、平成19年10月3日、A邸において、室内に薪ストーブ本体を設置し、これとⅠ期工事で完成した煙突部分とを連結する煙突工事を内容とするⅡ期工事を行った。(乙12、14)

(2)原告による指摘事項について

上記(1)の認定事実に対し、原告は、被告の提出した証拠には不合理な点(指摘事項1~7)があるので、A邸工事が本件特許出願より前に行われたことは立証されていないと主張する。

ア 指摘事項1について

原告は、乙12資料2~4の図面などパソコンで作成された書面の日付は、容易に修正・変更が可能であるから信用できないと主張する

しかし、被告におけるA邸工事に関する資料、電子データ等の保管状況に関し、証拠(乙12(特に資料8・9)、14~17、35)によれば、被告においては、顧客ごとに顧客カードを作成して管理番号を付し、同番号順に煙突設置工事やメンテナンス等に関する資料等を整理してファイルボックスに紙媒体で保管され、図面や写真は電子データとしても保管されており、A邸工事についても管理番号E-2334が付されて資料等が保管されていたことが認められる。

そして、A邸工事に関し被告に紙媒体として保管されていた資料等には、①顧客カード(同資料1)、②「07.5.1」と日付の入ったA邸工事の概要を示す図面(同資料2)、③「07.6.29(訂正)」と日付等の入った同様の図面(同資料3)、④工事の状況を撮影した写真(同資料5)、⑤工事使用部材表(同資料6)、⑥薪ストーブ設置日を平成19年10月3日とする「薪ストーブ・暖炉 毎年メンテナンス契約書」(乙14の5)、⑦A邸工事完了後、被告がメンテナンスを行った際に撮影された薪ストーブや煙突の状況等に関する写真(乙14の7)などがあると認められる。

また、上記③及び④に加え、⑧「07.7.2」と日付が入った住友林業宛ての煙突詳細図(乙12資料4)については、被告において電子データが保管されており、同資料3・4の電子データの更新日は、それぞれ平成19年6月29日、同年7月2日であると認められる(乙16)。

これに対し、原告は、上記のとおりの主張をするが、前記のとおり、同資料2・3については紙媒体として被告内に保管されていたと認められることや、同資料3については平成19年7月1日以前に、また同資料4については同月2日頃に住友林業にファックス送信されていると認められること(乙31、32、35)、更に同資料3・4の電子データの上記更新日も考慮すると、同資料2~4の電子データがA邸工事終了後に事実に反する内容に改変されたということはできない。また、そのような改変が行われたことをうかがわせる証拠は存在しない

イ 指摘事項2について

原告は、乙17が乙15の各写真のプロパティであるとしても、その修正は容易であると主張するが、乙12資料5は前記のとおり被告においてA邸工事に関する書類一式の一部として保管され、乙15の各写真はこれと同一である上、被告が乙15の各写真のプロパティを変更したことをうかがわせる証拠は存在しない。

ウ 指摘事項3について

原告は、乙17のプロパティにおける撮影時刻を前提としても、乙15の7の写真の状態から乙15の8の写真の状態に至るまでの作業をわずか2分間で、また、乙15の8の写真の状態から乙15の9の写真の状態に至るまでの作業をわずか3分間で全て行えるとは考え難いと主張する。

しかし、乙15の7の写真の状態から乙15の8の写真の状態に至るまでの作業は、釘を打つ、瓦の穴に銅線を通し、これを釘に巻き付ける、電動ハンドカッターで瓦を切る、瓦を置くなどの作業であり、煙突設置工事に慣れた屋根職人が2分以内にその作業を終えることができないということはできず、また、乙15の8の写真の状態から乙15の9の写真の状態に至るまでの作業は、瓦をおいて整えるなどの作業であり、同様に、屋根職人がこれを3分以内に行うことができないということはできない。

エ 指摘事項4について

原告は、乙12資料5の写真1の煙突の先端部には錆が浮いている様子や傷があるように見えると主張するが、これを鮮明化した乙15の1の写真を見ても、煙突の先端部に錆や傷があると認めることはできない。

オ 指摘事項5について

原告は、乙12資料6の「工事使用部材表」の作成日が不明であり、同資料に記載された部材がどのような方法で使用されたか明らかではなく、また、同資料の「アルミフラッシング」との記載は手書きであり、事後に追加記載された可能性が否定できないと主張する。

しかし、乙12資料6がA邸工事に関する資料一式の一部として保管されていたことは前記判示のとおりであり、これによれば、同資料はA邸工事の際に作成されたものと認めることができる。

また、原告は「アルミフラッシング」との文字が事後に追加記載された可能性が否定できないというが、同資料はその形式からして工事使用部材に関するひな形であると認められ、工事によって使用部材やその数量が加除されたとしても不自然ということはできない上、原告の主張するような追記がされたことをうかがわせる証拠は存在しない。

カ 指摘事項6について

原告は、乙12資料2・3にはインナーフラッシングの記載がなく、他方、同資料4には同資料2・3に記載されていたルーフサポートの記載がないことなどからすると、A邸工事にインナーフラッシングが使用されたことは立証されていないと主張する。

この点、被告は、同資料2の図面作成の段階では、屋根貫通位置が建物の外壁面より外側であったため、室内への雨漏りのおそれが少ないと考えてアルミフラッシングを使用しない予定であったが、Ⅰ期工事の際に屋根職人との協議の結果、軒出であっても屋根の中への雨水の侵入を防いだ方がよいということになったために、アルミフラッシングを使用することになったものであると説明しているところ、かかる説明内容は、同資料の図面の内容や、乙15の写真においてアルミフラッシングの使用が確認できることとも整合しており合理的なものということができる。

これに対し、原告は、設計段階で使用する予定であったものが、現場を見て使用しない方が良いと判断することはあるとしても、その逆は通常あり得ないと主張するが、当初はインナーフラッシングを使用しない予定であっても、現場を見てこれを使用した方がよいと判断することは十分にあり得ることであり、原告の主張は採用し得ない。

また、乙12資料4にルーフサポートの記載がないことについて、被告は、同資料4は、住友林業から依頼され、同社にⅠ期工事後の屋根及び壁における煙突の貫通部分の状態及びⅡ期工事においてその部分にどのような処理をする予定かについての詳細を知らせるために作成されたこともあってこれを記載する必要がなかったと主張するところ、被告の同説明は、A邸工事後の住友林業とのやりとり(乙31、32)に照らしても合理的であると考えられる。そして、乙12資料4の図面がその日付の頃に作成されたと認められることは前記判示のとおりである。

キ 指摘事項7について

原告は、乙14の7と乙15の各写真の雨樋の色が異なること、乙15の7の写真にA邸にあるはずのない庭石が写っていることから、乙15の写真がA邸工事のものであることは疑わしいと主張する。

しかし、証拠(乙29、35、36)によれば、雨樋の点は、Ⅰ期工事の際にはA邸の雨樋の色は乙15の写真に写っている青色系のものであったが、その後、平成19年10月5日までの間に、雨樋が乙14の7の写真と同様の茶色系のものに交換されたことが認められる。そうすると、乙14の7と乙15の各写真の雨樋の色が異なっていることは、工事の対象がA邸であったという認定を左右しないというべきである。

また、上記証拠によれば、乙15の7の写真に写っている庭石は平成18年11月以降A邸においてリフォーム工事を行っていた際に、一時的に同写真の位置に置かれていたA邸の基礎石であると認められる。そうすると、上記基礎石はA邸に存在したものであると認められる。

加えて、A自身が乙15の写真がA邸工事のものであることを認める供述をしていること(乙36)にも照らすと、乙15の各写真に写されている工事の対象はA邸であったと認めることができる。

ク 以上のとおり、原告の上記各主張はいずれも採用することはできず、前記

判示のとおり、平成19年6月28日に前記(1)イ記載の内容のA邸工事のⅠ期工事が行われたものと認められる。

(3)新規性の欠如等について

ア A邸工事の内容

前記認定事実によれば、A邸工事の施工方法は、以下の(ア)のとおりであり、その防水構造は以下の(イ)のとおりであると認められる。

(ア)「屋根に設けた開口部を貫通する煙突を固定し、アルミフラッシング(インナーフラッシング)と瓦フラッシング(アウターフラッシング)からなる水切り手段により上記開口部を覆うことにより雨漏りを防ぐ屋根煙突貫通部の施工方法であり、上記瓦フラッシングは、四角形状の防水性で可撓性のベース板の中央部分に設けた切り欠き穴の周縁部分から立ち上がるように一体的に形成した截頭円錐状の大きな筒状体を設けたもので、上記ベース板は屋根に沿うように配置され、棟側(屋根の上方側)及び左右両側が屋根材(瓦)で覆われ、軒側(屋根の下方側)は瓦を覆うように敷いて、棟側から軒側に水(雨水)を流すようにし、上記屋根の開口部全体を覆う上記アルミフラッシングは、上記瓦フラッシングの内側、下方に配置するもので、四角形状の固定板の中央部に設けた切り欠き穴の周縁部分から立ち上がるように一体的に形成した截頭円錐状の筒状体を設けており、その筒状体を煙突の上部から挿通してその固定板が屋根の開口部を覆い、固定板の下面が開口部周囲の野地板上面に密着して配置され、上記アルミフラッシングの四角形状の固定板の縁部分の棟側及び左右両側には、粘着剤層を有する防水テープを貼付する、屋根煙突貫通部の施工方法」

(イ)「屋根に設けた開口部を貫通する煙突を固定し、アルミフラッシング(インナーフラッシング)と瓦フラッシング(アウターフラッシング)からなる水切り手段により上記開口部を覆うことにより雨漏りを防ぐ屋根煙突貫通部の防水構造であり、上記瓦フラッシングは、四角形状の防水性で可撓性のベース板の中央部分に設けた切り欠き穴の周縁部分から立ち上がるように一体的に形成した截頭円錐状の大きな筒状体を設けたもので、上記ベース板は屋根に沿うように配置され、棟側(屋根の上方側)及び左右両側が屋根材(瓦)で覆われ、軒側(屋根の下方側)は瓦を覆うように敷いて、棟側から軒側に水(雨水)を流すようにし、上記屋根の開口部全体を覆う上記アルミフラッシングは、上記瓦フラッシングの内側、下方に配置するもので、四角形状の固定板の中央部に設けた切り欠き穴の周縁部分から立ち上がるように一体的に形成した截頭円錐状の筒状体を設けており、その筒状体を煙突の上部から挿通してその固定板が屋根の開口部を覆い、固定板の下面が開口部周囲の野地板上面に密着して配置され、上記アルミフラッシングの四角形状の固定板の縁部分の棟側及び左右両側には、粘着剤層を有する防水テープを貼付する、屋根煙突貫通部の防水構造」

イ 新規性の有無について

被告は、上記ア記載のA邸工事の施工方法又は防水構造は本件各発明の構成要件をすべて具備すると主張するのに対し、原告は、同方法又は構造は構成要件D等を充足せず、本件各発明と相違点1において相違するので新規性は欠如しないと主張する。

(ア)構成要件D等における「封止する状態にして固定」の意義

そこで、まず、構成要件D等の「封止する状態にして固定」の意義について検討する。

本件発明1及び3の特許請求の範囲の記載(構成要件D及びK)によれば、内部水切り部材は、その固定板下面と屋根に設けた開口部周囲の野地板上面又は防水シート上面との間で液体の流通を封止する状態にして固定して、水が開口部に侵入することを防止する機能を有するものであるから、ここにいう「封止」とは、液体の流通を封じ、止めること、すなわち、水等の液体が開口部に侵入しない状態にすることをいうものと解される。

また、本件明細書等の記載をみても、「開口部を固定板で直接的且つ内外液密的に覆うように内部水切り部材(インナーフラッシング)を配置する」(段落【0011】)、「内部水切り部材の固定板を野地板又は防水シート上に密着した状態で固定するものとした本発明」(段落【0017】)、「開口部12を完全に覆うことのできるサイズの固定板21を、その下面端縁側が密着する状態で内部水切り部材20を固定」(段落【0022】)、「密着状態で接着・固定して、固定板21下面と防水シート11上面との間で水が流通しない状態に封止する。」(段落【0031】)、「固定板21の防水シート11側への密着性(封止性)が極めて高いものとなり優れた防水機能を実現」(段落【0035】)などとされているから、内部水切り部材は、その固定板の下面端縁側を野地板等に密着させることで、水等の液体の開口部への侵入を防止する機能を有するものであると解される。

そうすると、構成要件D等における「封止する状態にして固定」とは、内部水切り部材の固定板の下面と野地板等を、水等の液体が開口部に侵入しない程度に密着させて固定する状態をいうものと解するのが相当である

これに対し、原告は、構成要件D等の「封止」とは、「精密部品などを外気に触れないように、隙間なく包むこと。または、その技術。」を意味すると主張するが、この定義は精密機械等に外気が接することを念頭に置いたものであり、外気ではなく液体の流通が問題となる本件各発明においては妥当しない

(イ)構成要件F等における「前記固定板外周に沿って防水テープが貼付されている」の意義

更に進んで、構成要件F等における「前記固定板外周に沿って防水テープが貼付されている」の意義について検討する。

本件発明2及び4に係る特許請求の範囲の記載によれば、内部水切り部材の固定板外周に沿って防水テープを貼付するのは、同固定板下面と開口部周囲の野地板上面等との間で液体の流通を封止する状態にして固定するためであり、また、構成要件F等においては、「固定板外周に沿って」防水テープを貼付するものとされているから、「前記固定板外周に沿って防水テープが貼付されている」とは、内部水切り部材の固定板の外周全体に防水テープが貼付されていることを意味すると解するのが自然である。本件明細書等の記載をみても、防水テープ15で固定板21の外周に沿ってその全周にわたって貼付する態様の実施例のみが記載されている(段落【0032】、【図4】)。

そうすると、構成要件F等の「前記固定板外周に沿って防水テープが貼付されている」とは、内部水切り部材の固定板の外周全体に防水テープが貼付されていることを意味するものと認められる

(ウ)A邸工事と本件発明1及び3との対比

上記(ア)及び(イ)の解釈を前提として、A邸工事の方法等と本件各発明とを対比すると、A邸工事は、アルミフラッシングの「固定板の下面が開口部周囲の野地板上面に密着して配置され」、かつ、「上記アルミフラッシングの四角形状の固定板の縁部分の棟側及び左右両側には、粘着剤層を有する防水テープを貼付する」構成を有するのであるから、A邸工事は、上記固定板の下面が、野地板上面と、水等の液体が開口部に侵入しない程度に密着して固定されている構成、すなわち「アルミフラッシングの固定板下面と開口部周囲の野地板上面との間で液体の流通を封止する状態にして固定する」構成を有するものと推認することができる

したがって、A邸工事は構成要件D等を具備し、本件発明1及び3は新規性を欠くこととなる。

(エ)A邸工事と本件発明2及び4との対比

前記のとおり、本件発明2及び4の構成要件F及びMの「前記固定板外周に沿って防水テープが貼付されている」とは、内部水切り部材の固定板の外周全体に防水テープが貼付されていることを意味するところ、A邸工事においては、アルミフラッシングの四角形状の固定板の縁部分の棟側及び左右両側には防水テープが貼付されているが、その軒側にはこれが貼付されていないから、この点で両者は相違することとなる。

したがって、本件発明2及び4が新規性を欠くということはできない。

ウ 進歩性の有無について

前記判示のとおり、A邸工事の方法と本件発明2及び4の構成要件F等は、固定板の外周のうち軒側に防水テープが貼付されているかどうかにおいて相違するところ、防水テープは、開口部に水が浸入しないようにするために内部水切り部材の固定板に貼付するものであるから、四角形状の固定板の縁部分の上記3辺に防水テープを貼付した上、更に念を入れて軒側の下辺にも防水テープを貼付することについて、当業者であれば当然に想到し得たものと考えられる

これに対し、原告は、インナーフラッシングの固定板の3辺に防水テープを貼付して固定していた構成を、全周にわたり防水テープを貼付する構成に置き換えると、部材や工数が増加して過剰なコストや手間を要することになるから、阻害要因があると主張するが、A邸工事の開口部は1辺が40cm程度であること(乙12資料3)からして、軒側の1辺に防水テープの貼付する部材のコストや工数の負担はごくわずかなものと考えられるので、原告の主張するような阻害要因があるということはできない。

したがって、本件発明2及び4は、公然実施されたA邸工事に基づき当業者が本件特許出願当時に容易に想到し得たものであるというべきである。

エ 小括

前記イのとおり、本件各発明に係る特許出願より前である平成19年6月28日に公然と実施されたA邸工事は、本件発明1及び3の構成要件を全て充足するから、本件発明1及び3は新規性を欠く。

また、前記ウのとおり、A邸工事は、アルミフラッシングの四角形状の固定板の軒側縁部分に防水テープが貼付されていない点で本件発明2及び4と相違するが、当業者は、同部分にも防水テープを貼付する構成に容易に想到し得るといえるから、本件発明2及び4は進歩性を欠く。

したがって、本件各発明は、いずれも特許無効審判により無効にされるべきものと認められる。