圧縮機事件(その5)

投稿日: 2017/05/05 22:07:15

今日も平成26年(ワ)第34678号 特許権侵害行為差止等請求事件について検討します。この事件は今日で終わりです。

6.検討

(1)抵触性について

被告は抵触性に関して幾つか主張していますが、その中でもっとも力を入れたと思われるのが「圧縮反力伝達手段」の充足性です。そもそも圧縮反力伝達手段は明細書中で圧縮反力によりロータリバルブを付勢するものとだけ定義されていますが、被告は三つの要素を挙げ、それらを備えなければならない、と主張しています。しかし、やはり明細書や文献等の根拠がない主張は認められにくいものです。さらに比較用圧縮機を用いて実験をしています。実際、侵害訴訟で実験結果を提出しているケースはよくあります。通常の使用環境で被告製品を用いた結果ならば信憑性・信頼性が高いのですが、通常の使用環境外で実験したり、被告製品以外のもので実験した場合、その結果が肯定的に受け入れられるケースが少なく、逆にある種の胡散臭さを醸し出してしまいます。

一方、原告が何故圧縮反力伝達手段という機能的な表現を用いたのかわかりません。普通に構造的に表現しても良かったのではないか?と思いました。

(2)有効性について

乙19発明と乙4発明の組み合わせにより進歩性が否定されていますが、これらの文献は原告が出願人です。特許を無効にするための文献を検索する際に真っ先に手を付けるべきは特許権者の過去の出願です。その理由は、基本的な構成が似ていることです。主引例に記載された発明の構成が特許発明の構成と基本的な部分で似ていれば組み合わせる文献の数を減らすことを期待できます。

今回の乙19発明と乙4発明の関係は比較的珍しいと思います。通常、先行技術文献として引用されているケースが多いため、阻害事由が存在するとして組み合わせることができないと判断されがちです。しかし、今回の乙4公報は乙19公報の実施例中で組み合わせられると教示しています。

米国の明細書では文献を引用して列挙することは珍しくありませんが、日本の場合は文献を引用しても具体的な構成が書いていなければ補正にも使えませんし、今回のように自らの特許の無効化に手助けすることにもなりかねません。したがって、単純に文献名だけ引用するのではなく、変形例の説明に必要な部分だけを抜き出して書いた方が良いと思います。

(3)その他

本件について被告が控訴したのか不明です。もし被告が設計変更した製品を市場投入できるのであれば損害賠償請求されていないので控訴しないかもしれません。