炭酸パック事件

投稿日: 2018/09/07 1:28:11

今日は、平成27年(ワ)第4292号 特許権侵害差止等請求事件について検討します。原告である株式会社メディオン・リサーチ・ラボラトリーズは、判決文によると、医薬品、化粧品等の研究、開発、製造、販売等を業とする株式会社です。一方、被告は全部で11社であり、その中のネオケミア株式会社は、化粧品・医薬部外品等の開発、製造等を業とする株式会社で、その他の被告も化粧品等の製造・販売等を業とする会社です。

 

1.各特許の権利化までの手続の時系列の整理(特許第4659980号及び特許第4912492号)

① 表のとおり、侵害訴訟で争われた原告の本件特許2は本件特許1からの分割出願です。本件特許1からの分割出願にはこれ以外にも特願2004-130411(特許第4832725号)があります。こちらは2004.04.26(本件特許1に係る出願が最初に拒絶理由通知を受け、意見書・補正書を提出した時期)に分割出願し、2011.08.22に拒絶査定不服審判で請求成立の審決を受け、2011.09.30に登録されました。こちらについては特許無効審判が請求されていないので、いずれの製品とも関係ない内容で特許になっているものと思われます。

② 2018.09.05時点で、本件特許1は9件の特許無効審判を請求されており、そのうち2件が特許庁の審判部において審理中で、それ以外は請求不成立(特許維持)の審決が確定しているか請求が取り下げられています。また、本件特許2は7件の特許無効審判を請求されており、そのうち2件が特許庁の審判部において審理中で、それ以外は請求不成立(特許維持)の審決が確定しているか請求が取り下げられています。

③ 表中の侵害訴訟を提起した年月日や心証開示の年月日はいずれも原告のホームページに掲載されていた情報です。通常は判決文からだけでは正確な年月日を把握することは難しいです。

2.本件特許の内容

2.1 本件特許1

(1)本件発明1-1(請求項1)

1-1A 部分肥満改善用化粧料、或いは水虫、アトピー性皮膚炎又は褥創の治療用医薬組成物として使用される二酸化炭素含有粘性組成物を得るためのキットであって、

1-1B 1)炭酸塩及びアルギン酸ナトリウムを含有する含水粘性組成物と、酸を含む顆粒(細粒、粉末)剤の組み合わせ;又は

2)炭酸塩及び酸を含む複合顆粒(細粒、粉末)剤と、アルギン酸ナトリウムを含有する含水粘性組成物の組み合わせからなり、

1-1C 含水粘性組成物が、二酸化炭素を気泡状で保持できるものであることを特徴とする、

1-1D 含水粘性組成物中で炭酸塩と酸を反応させることにより気泡状の二酸化炭素を含有する前記二酸化炭素含有粘性組成物を得ることができるキット。

(2)本件発明1-4(請求項4)

1-4A 含水粘性組成物がアルギン酸ナトリウムを2重量%以上含むものである、

1-4B 請求項1乃至3のいずれかに記載のキット。

(3)本件発明1-5(請求項5)

1-5A 含有粘性組成物が水を87重量%以上含むものである、

1-5B 請求項1乃至4のいずれかに記載のキット。

(4)本件発明1-7(請求項7)

1-7A 請求項1~5のいずれかに記載のキットから得ることができる二酸化炭素含有粘性組成物を含む

1-7B 部分肥満改善用化粧料。

(5)本件発明1-8(請求項8)

1-8A 顔、脚、腕、腹部、脇腹、背中、首、又は顎の部分肥満改善用である、

1-8B 請求項7に記載の化粧料。

(6)本件発明1-9(請求項9)

1-9A 部分肥満改善用化粧料、或いは水虫、アトピー性皮膚炎又は褥創の治療用医薬組成物として使用される二酸化炭素含有粘性組成物を調製する方法であって、

1-9B 1)炭酸塩及びアルギン酸ナトリウムを含有する含水粘性組成物と、酸を含む顆粒(細粒、粉末)剤;又は

2)炭酸塩及び酸を含む複合顆粒(細粒、粉末)剤と、アルギン酸ナトリウムを含有する含水粘性組成物;

を用いて、含水粘性組成物中で炭酸塩と酸を反応させることにより気泡状の二酸化炭素を含有する二酸化炭素含有粘性組成物を調製する工程を含み、

1-9C 含水粘性組成物が、二酸化炭素を気泡状で保持できるものである、

1-9D 二酸化炭素含有粘性組成物の調製方法。

(7)本件発明1-12(請求項12)

1-12A 含水粘性組成物がアルギン酸ナトリウムを2重量%以上含むものである、

1-12B 請求項9乃至11のいずれかに記載の調製方法。

(8)本件発明1-13(請求項13)

1-13A 含有粘性組成物が水を87重量%以上含むものである、

1-13B 請求項9乃至12のいずれかに記載の調製方法。

2.2 本件特許2

(1)本件発明2-1(請求項1)

2-1A 医薬組成物又は化粧料として使用される二酸化炭素含有粘性組成物を得るためのキットであって、

2-1B 1)炭酸塩及びアルギン酸ナトリウムを含有する含水粘性組成物と、酸を含有する顆粒剤、細粒剤、又は粉末剤の組み合わせ;

2)酸及びアルギン酸ナトリウムを含有する含水粘性組成物と、炭酸塩を含有する顆粒剤、細粒剤、又は粉末剤の組み合わせ;又は

3)炭酸塩と酸を含有する複合顆粒剤、細粒剤、又は粉末剤と、アルギン酸ナトリウムを含有する含水粘性組成物の組み合わせ;

からなり、

2-1C 含水粘性組成物が、二酸化炭素を気泡状で保持できるものであることを特徴とする、

2-1D 含水粘性組成物中で炭酸塩と酸を反応させることにより気泡状の二酸化炭素を含有する前記二酸化炭素含有粘性組成物を得ることができるキット。

(2)本件発明2-4(請求項4)

2-4A 含水粘性組成物がアルギン酸ナトリウムを2重量%以上含むものである、

2-4B 請求項1~3のいずれかに記載のキット。

(3)本件発明2-5(請求項5)

2-5A 含有粘性組成物が水を87重量%以上含むものである、

2-5B 請求項1~4のいずれかに記載のキット。

(4)本件発明2-7(請求項7)

2-7A 請求項1~5のいずれかに記載のキットから得ることができる二酸化炭素含有粘性組成物を含む

2-7B 化粧料。

3.争点

(1)被告各製品は本件各発明の技術的範囲に属するか(構成要件1-1C及び2-1Cの充足性)(争点1-1)

(2)被告各製品は本件各発明の技術的範囲に属するか、間接侵害の成否(構成要件1-1A等の充足性等)(争点1-2)

(3)被告各製品は本件各発明の作用効果を奏しているか(争点2)

(4)本件各特許は特許無効審判により無効にされるべきものか(争点3)

ア 本件各発明の未完成(争点3-1)

イ サポート要件違反(争点3-2)

ウ 実施可能要件違反(争点3-3)

エ 鐘紡公報の実施例9(鐘紡実施例発明)を主引例とする進歩性欠如(争点3-4)

オ 鐘紡公報の比較例2(鐘紡比較例発明)を主引例とする進歩性欠如(争点3-5)

(5)被告コスメプロらの過失の有無(争点4)

(6)共同不法行為の成否(争点5)

(7)原告の損害額(争点6)

ア 特許法102条2項(争点6-1)

イ 特許法102条3項(争点6-2)

4.裁判所の判断

1 争点1-1(被告各製品は本件各発明の技術的範囲に属するか(構成要件1-1C及び2-1Cの充足性))について

(1)原告は構成要件1-1C及び2-1Cの「二酸化炭素を気泡状で保持できる」という文言について、文字通り、気泡状の二酸化炭素を含有しているか否かのみを問題とする要件にすぎないと主張しているのに対し、被告らはこれを限定的に解釈し、「美肌作用、部分肥満解消作用等の本件各明細書記載の効果が生じる程度に発泡性、持続性の認められる気泡状の二酸化炭素が皮下組織に持続的に十分量供給されるように二酸化炭素を気泡状で保持する」という意味であると主張している。

ア そこで、まず本件各明細書の特許請求の範囲の記載を見ると、原告も指摘しているように、請求項1には「二酸化炭素を気泡状で保持できる」とのみ記載されており(構成要件1-1C、2-1C)、その文言上、二酸化炭素含有粘性組成物(以下「本件各発明の組成物」といい、各発明との関係で「本件発明1の組成物」などということがある。)が含有すべき気泡状の二酸化炭素の程度を限定する記載はない。

また、本件各明細書には、確かに、①本件明細書1の発明の開示及び【0061】には、本件各発明の組成物は、使用時に気泡状の二酸化炭素を1~99容量%程度、好ましくは5~90容量%程度、より好ましくは10~80容量%程度含むと記載されている。そして、②本件明細書1の発明の開示及び【0017】には、含水粘性組成物に「二酸化炭素を気泡状で保持させ、皮膚粘膜又は損傷皮膚組織等に適用した場合、二酸化炭素を皮下組織等に十分量供給できる程度に二酸化炭素の気泡を保持できる。」と記載されている。しかし、上記①の記載は課題を解決するための手段として好ましいものを記載した部分にすぎず、「程度」とあるように、明確な数値による限定がされているわけではないし、【0007】の項1では、本件発明2は「増粘剤の1種または2種以上を含む含水粘性組成物に気泡状の二酸化炭素を含有してなる二酸化炭素含有粘性組成物であって、増粘剤が…であることを特徴とする二酸化炭素含有粘性組成物。」に関すると記載され(本件明細書1の発明の開示にも同趣旨の記載がある。)、二酸化炭素含有粘性組成物中の気泡状の二酸化炭素の含有量に触れていない。また、上記②の記載部分(【0017】等)には、含水粘性組成物は「二酸化炭素を気泡状で保持するためのものであれば特に限定され」ないとも明記されているから、上記記載が直ちに被告らの主張を基礎付けるものと捉えることはできない。

この点につき被告らは、本件明細書2の【0004】ないし【0006】、【0032】及び【0066】等の記載を自らの主張の根拠としているが、これらは二酸化炭素含有粘性組成物の効能・作用やこれを得る方法等を記載したり、発泡性等の評価方法・基準を記載したりしたものにすぎず、当該組成物中の気泡状の二酸化炭素の含有の程度を問題とした記載であるとは認められない。

イ そこで、本件各発明の技術的意義について、本件各明細書及び本件各特許の出願の経過等を参酌して検討する。

(ア)本件各明細書の概要

-省略-

(イ)本件各特許の出願の経過

a 本件発明1

(a)本件発明1に係る特許出願に対しては、平成18年3月3日付けで拒絶理由通知がされ、その理由の要旨は、石垣発明1の公報(乙E全4、37。以下、本項で「刊行物A2」ということがある。)等の引用文献によれば、後記補正前の請求項に係る発明は特許法29条2項の規定により特許を受けることができないなどというものである。

これに対し、原告は、同年5月12日付けで手続補正書を提出し、請求項1の二酸化炭素含有粘性組成物の用途を化粧料又は医薬組成物に限定するなどの補正をした。また、原告は同日付けで意見書を提出して次のように述べた。まず、本件発明1の特徴について、①従来の化粧料や医薬組成物では、二酸化炭素を発生させることができても、気泡状で二酸化炭素を保持することができないため、気泡状の二酸化炭素の作用を効果的に発現させることは困難であった。一方、請求項1のキットにおける組み合わせ(注:本件各発明の請求項1記載の組み合わせを含むものである。)は、何れも、1種又は2種以上の増粘剤を含むことにより二酸化炭素を気泡状で保持できる含水粘性組成物を予め備えており、該含水粘性組成物中で、炭酸塩と酸を反応させることができるように設計されている。そのため、本件発明1のキットによれば、二酸化炭素を気泡状で含有する二酸化炭素含有粘性組成物を得ることができる。②このように、本件発明1のキットによって調製される二酸化炭素含有粘性組成物は、二酸化炭素を気泡状で保持しているので、これを化粧料や医薬組成物として使用することにより、気泡状の二酸化炭素を皮下組織に十分供給することが可能になり、適用部位において気泡状の二酸化炭素が有効に作用することができる。このような理由から、本件発明1のキットによって調製される二酸化炭素含有粘性組成物によれば、顕著に優れた各種の有用効果が奏される。

そして、③本件発明1に係る構成については、引用文献には、教示も示唆もなく、またたとえ当業者といえども、当該文献に基づいて、本件発明1の特有の構成、及びかかる構成を採用することにより得られる格別の効果については、容易に想到し得るものではないと述べ、④石垣発明1の公報については、「単に、発泡作用によるマッサージ効果を目的とした発泡性粉末化粧料について記載されているに過ぎず、二酸化炭素を気泡状で保持できる含水粘性組成物について開示しているものではありません。」「更に、刊行物A2の発泡性粉末化粧料は、炭酸水素ナトリウムを含む第1剤と酸を含む第2剤を水と混合して使用されることが記載されているに止まっており、予め含水粘性組成物を調製し、該含水粘性組成物中で炭酸水素ナトリウムと酸を反応させることについては具体的には記載されていません。」「通常、増粘剤は、水と接触して瞬時に増粘作用を発揮するのではなく、水に分散、膨潤することによって粘性を示します。そのため、予め含水粘性組成物を調製することなく、単に、増粘剤、炭酸塩、酸及び水を同時に混合したのでは、増粘剤が水と接触して増粘している間に、炭酸塩と酸が反応して発生した二酸化炭素が空気中に拡散して失われてしまいます。このことを考慮しますと、刊行物A2の発泡性粉末化粧料のように、含水粘性組成物を予め調製することなく、増粘剤、炭酸塩、酸及び水を単に混合するものでは、気泡状の二酸化炭素を保持する含水粘性組成物は得られない、或いは気泡状の二酸化炭素を僅かにしか保持しておらず、本願発明の格別の効果を奏し得ない含水粘性組成物が得られるに過ぎません。」(以上乙E全1の1)。

(b)その後、原告は平成19年2月6日付けで手続補正書を提出したが、拒絶査定がされた。原告は不服審判を提起するとともに(甲27)、さらに補正をしたが、当該補正後の請求項に係る発明に対して平成22年6月30日付けで拒絶理由通知がされ、その理由の要旨は、特開昭60-215606号公報(乙E全3。以下、本項において「文献1」という。)等の引用文献によれば、本件発明1は進歩性を備えていないというものである。

これに対し、原告は、同年9月6日付けで手続補正書を提出し、請求項1記載の組み合わせを限定するとともに、含水粘性組成物において、ゲル化剤としてアルギン酸ナトリウムを含むことを規定するなどの補正をした。また、原告は同日付けで意見書を提出して次のように述べた。まず、本件発明1の特徴について、①請求項1のキットにおける組み合わせは、いずれも、アルギン酸ナトリウムを含む含水粘性組成物を予め備えており、当該構成に基づいて、該含水粘性組成物中で、炭酸塩と酸を反応させることができ、且つ発生した二酸化炭素を保持できるように設計されている。そのため、本件発明1のキットによれば、二酸化炭素を気泡状で含有する二酸化炭素含有粘性組成物を得ることができる。また、アルギン酸ナトリウムを含む含水粘性組成物は、皮膚に塗布しても、皮膚上に膜を形成することなく、粘性を保持した状態を維持できるため、本件発明1のキットにより得られる二酸化炭素含有粘性組成物は、発生した二酸化炭素を効率的に維持し、且つ皮膚への二酸化炭素の浸透量を極めて増大させることが可能になっている。さらに、本件発明1のキットにより得られる二酸化炭素含有粘性組成物は、皮膚への二酸化炭素の浸透作用が極めて高いことに基づいて、水虫、アトピー性皮膚炎又は褥創の治療、並びに部分肥満の改善において、格別顕著な効果を奏する。

そして、②「文献1が開示するように、使用時に、酸含有粘性組成物と炭酸塩含有粘性組成物とを混合する場合、粘性のある流体同士が混ざり難いため、簡便且つ均一に両者を混合することが困難であり、その結果、二酸化炭素の不十分または不均一な発生を招いてしまいます。これに対して、本願発明では、含水粘性組成物と顆粒を混合するように設計されており、粘性のある流体と固体との均一な混合は、簡便に行うことができるので、使用時に両者の均一な混合が容易であり、二酸化炭素を十分且つ均一に発生させることができます。」「更に、文献1が開示するように、酸含有粘性組成物と炭酸塩含有粘性組成物では、酸及び炭酸塩が粘性組成物で既に溶解した状態で存在しているため、両者が混合されると、含水粘性組成物の保持能を超えた多量の二酸化炭素の気泡が直ちに発生し、その結果、大気に二酸化炭素が拡散されて、十分量の二酸化炭素を皮膚に浸透させることができなくなります。これに対して、本願発明のように、酸の顆粒或いは酸と炭酸塩の顆粒を含水粘性組成物中で混合すると、顆粒中の酸或いは酸と炭酸塩が含水粘性組成物中で徐放されますので、持続的に二酸化炭素を発生させることができます。本願発明では、このように持続的に二酸化炭素が発生できるように設計されており、含水粘性組成物から大量の二酸化炭素が持続的に皮膚に浸透し続けることが可能になっているのであります。」とし、文献1等の引用文献は補正後の請求項1の構成を開示しておらず、皮膚上で造膜させず、大量の二酸化炭素を持続的に皮膚に浸透させ得る粘性組成物を想到し得ることは、容易に為し得るものではないと述べた。④原告はさらに、「本願発明は、二酸化炭素を含水粘性組成物中で持続的に発生させ、更にこれを含水粘性組成物中に封じ込めることにより、気泡状の二酸化炭素の圧が高まり、その圧により二酸化炭素の皮膚への浸透が高まり、ひいては想像を超える量の二酸化炭素が皮膚内に浸透させることができ、水虫、アトピー性皮膚炎又は褥創の治療効果、並びに部分肥満の改善効果が別顕著に奏されます。」「従来、二酸化炭素が血行促進作用を有していることは公知であります。しかしながら、血行促進が皮膚に一時的な恩恵をもたらすことが予測できても、一時的な血行促進によって、水虫、アトピー性皮膚炎、褥創、又は部分肥満を劇的に治療又は改善できる筈がないと考えられています。医師である発明者(日置正人医師)は、このような本願発明の格別顕著な効果は、大量の二酸化炭素が持続的に皮膚に浸透することによって、血行促進作用以外に、血管新生等のプラスαの作用が関連していると推測しています。寧ろ、血行促進作用以外の未知なるプラスαの作用が関連していると考えなければ、このような格別顕著な効果を血行促進作用のみで論理的に説明することは困難です。」このような格別顕著な効果は、引用文献からは「全く予測し得ないものであります。」(以上乙E全1の2)。

(c)その後、本件発明1について特許査定がされた。

b 本件発明2

(a)本件発明2に係る特許出願に対しては、平成23年3月4日付けで拒絶理由通知がされ、その理由の要旨は、石垣発明1の公報、特開平8-268828号公報(以下「引用文献A6」又は「A6」という。)等の引用文献によれば、本件発明2は進歩性を備えていないなどというものである(甲28)。

これに対し、原告は、同年5月6日付けで手続補正書を提出し、請求項1の「二酸化炭素含有粘性組成物を得るためのキット」を「医薬組成物又は化粧料として使用される二酸化炭素含有粘性組成物を得るためのキット」に補正するなどの補正をした。また、原告は同日付けで意見書を提出し、本件発明2の特徴や進歩性に関して、上記a記載の各意見書と同趣旨のことを述べた。そして、原告は引用文献A6について、次のように述べた。「炭酸塩5~60重量%と有機酸5~60重量%と発熱物質と泡安定剤とを含有することを特徴とするパック化粧料が開示されています(請求項1参照)。しかしながら、A6のパック化粧料は、予め調製された「アルギン酸ナトリウムを含む含水5性組成物」を備えているものではなく、炭酸塩と有機酸と発熱物質と泡安定剤とを含む非水の組成物を、使用時に水と混合することにより使用されるように設計されているものです。即ち、A6のパック化粧料では、増粘剤が水と接触して増粘している間に、炭酸塩と酸が反応して発生した二酸化炭素が空気中に拡散して失われてしまい、その結果、気泡状の二酸化炭素を十分に保持できなくなります。」このことは後記1剤を水のみとした比較実験例「の結果からも裏付けられています。」

また、上記意見書には、含水粘性組成物を予め調製し、該含水粘性組成物中で炭酸塩と酸を混合する場合と、その他の態様で増粘剤、炭酸塩、酸及び水を混合する場合において、得られる各々の組成物の二酸化炭素の保持量について評価することを目的として、①1剤を酸を含有する顆粒剤等、2剤を炭酸塩及びアルギン酸ナトリウムを含有する含水粘性組成物とし、これを混合した実験例と、②1剤を水のみ又は水とクエン酸とし、2剤を水を含まず、炭酸水素ナトリウム等とした比較実験例を4例実施したことが記載されている(乙A117の2参照)。そして、上記意見書には実験結果として、実験例では混合・攪拌10分後でも気泡状の二酸化炭素を十分に保持していたのに対し、比較実験例については、1剤を水のみとした実験例では二酸化炭素が空気中に拡散してしまい、気泡状の二酸化炭素を保持できなかったか、混合・攪拌1ないし2分後には気泡状の二酸化炭素を保持していなかったと記載され、1剤を水とクエン酸とした実験例でも、気泡状の二酸化炭素を保持できなかったと記載されている(以上乙E全2)。

(b)その後、本件発明2について特許査定がされた。

(ウ)二酸化炭素の効果についての公知技術

a 乙A111(特開昭59-141512)

この文献には、化粧料に関する発明が記載されており、「従来より、炭酸ガスは血管拡張作用を有することが知られており、臨床的にも炭酸ガス浴としてリハビリテーションなどに使用されている。」との記載がある(1頁左欄14行目から右欄2行目)(薬用化粧料又は化粧料に関する乙A115にも同様の記載がある。)。

b 乙A105、114、乙E全3(特開昭60-215606)

この文献には、「炭酸ガス又は炭酸ガス発生物質を含有することを特徴とするパック剤」(特許請求の範囲1項)の発明が記載されており、「本発明者は、…血行をよく促進するパック剤を提供すべく鋭意研究を行った結果、炭酸ガスを皮膚に直接作用させると皮膚の血流がよくなり、皮膚にしっとり感を与えることを見出し、本発明を完成した」とされている(2頁左上欄1行目から6行目)。

c 鐘紡公報(乙A102、乙E全6)

この文献は、本件での鐘紡実施例発明及び鐘紡比較例発明に係る公開特許公報であり、「血行促進などの目的で炭酸ガスを配合した化粧料が従来から提案されている。」と記載されている(1頁左欄17行目から18行目)。

(エ)以上に基づき、本件各発明の技術的意義について検討する。

a 本件各明細書の背景技術の記載からすると、外用の抗ヒスタミン剤や抗アレルギー剤はアトピー性皮膚炎、水虫や虫さされの痒みにはほとんど効果がなく、外用の非ステロイド抗炎症剤やステロイド剤は、痒みに対する効果は弱く、即効性もないなどという課題があったことから、本件各発明は、これらに有効な治療方法等を見出すことを目的とするものと認められる。

そして、特許請求の範囲や本件各明細書の記載内容に照らせば、本件各発明は、二酸化炭素を気泡状で保持できる含水粘性組成物中で炭酸塩と酸を反応させることにより、組成物中に気泡状の二酸化炭素を含有させ、二酸化炭素含有粘性組成物を得て、それを医薬組成物や化粧料として使用することとしたものであると認められる。

もっとも、前記の公知技術からすると、従来から、二酸化炭素には血行促進等の作用があることが知られ、二酸化炭素を皮膚に作用させるパック剤や化粧料等が発明されており、それらでは、パック剤等に含まれる二酸化炭素が皮下組織等に供給されることにより血行促進等の作用が働くものであると認められる。

そうすると、本件各発明の技術的意義は、単に二酸化炭素を利用するというものではなく、あらかじめ含水粘性組成物を調製しておき(本件明細書1の発明の開示及び発明を実施するための最良の形態、【0032】、【0075】、【0079】、【0089】)、その組成物中に気泡状の二酸化炭素を含有・保持させ、これを皮膚粘膜又は損傷皮膚組織等に適用し、二酸化炭素を皮下組織等に供給させる点にある(本件明細書1の発明の開示、【0017】)と認めるのが相当である。

また、前記認定の本件各特許の出願経過を踏まえると、本件各発明と同様に、炭酸塩と酸を反応させて発生した二酸化炭素を粘性の組成物中に気泡として含ませて保持するパック化粧料は、本件発明2の拒絶理由通知の引用文献である引用文献A6中に既に開示されていたが、引用文献A6では増粘剤が炭酸塩と酸の複合粉末剤中に含まれ、使用時に増粘剤が水と混合される(用時調製)ことから、増粘剤が水に溶けて粘性を生じるまでに時間を要し、その間に炭酸塩と酸が反応して発生した二酸化炭素が空気中に拡散されるのに対し、本件各発明では、増粘剤があらかじめ水に溶かされており(事前調製、構成要件1-1B、2-1B)、粘性組成物中で炭酸塩と酸が反応して二酸化炭素が発生することから、発生した二酸化炭素が空気中に拡散されることがなく、それだけ多くの二酸化炭素を組成物中に保持し、持続的に皮下組織等に供給させることができる点に特徴を有するものであると認められる(この点が公知技術から想到容易と認められないことは、後記の争点3-4及び3-5に関する判断のとおりである。)。

b そして、以上のような事前調製による効果については、本件各明細書の実施例の「気泡の持続性」と、本件発明2の拒絶理由通知に対する意見書記載の比較実験例の実験結果の比較によって確認することができる。

また、甲32によると、用時調製型と事前調製型の二酸化炭素発生パック剤をそれぞれ皮膚に塗布したところ、事前調製型では攪拌操作終了から2時間後においても当初の約2倍の体積を維持し、皮膚がかなり赤い色を呈していたのに対し、用時調製型では攪拌操作終了から30分後において当初の体積とほぼ同じにまで減少し、塗布部分と非塗布部分で色の差が認められなくなったと認められ、二酸化炭素の保持特性と経皮吸収性は事前調製型の方が優れていることが確認できる。

さらに、被告ネオケミアは原告の上記実験とほぼ同様の実験を実施し、その結果を乙A3として提出している。乙A3は甲32に相当するものであるが、10秒間攪拌混合したものについて、事前調製型の方は2時間後の組成物の体積が1分後の体積よりむしろ増加したのに対し、用時調製型(攪拌時間は事前調製型と同じ10秒間のもの)の方は1分後の体積からの減少率が3割程度であり、気泡の持続性に劣ることが確認できる。

もっとも、乙A3では経皮吸収シミュレーション実験もされており、そこでは攪拌操作終了後30分経過時までの二酸化炭素のガス透過膜の透過量は両者で有意な差異が認められなかったと認められる。そして、乙A3の実験結果については、ガス透過膜を用いて二酸化炭素の経皮吸収量をシミュレーションするものであるが、乙A11によれば、この実験による経皮吸収量と皮膚の発赤の程度とは連関していると認められるから、二酸化炭素の経皮吸収量の測定として相応の信用性のあるものと認められる。また、乙A3の実験では、ブチレングリコールを5%加えているが、これは本件各明細書(本件明細書1の発明の開示、【0046】)において保湿剤として配合できる成分として記載されているから、これを添加して比較実験をすることに特段の問題はないと考えられる。そうすると、乙A3の実験結果は、ブチレングリコールを5%加えた場合の比較結果として相応の信用性を有するといえるが、そこで測定されているのは攪拌終了後30分経過時までの二酸化炭素の経皮吸収量であるから、本件各明細書の実施例の評価基準2のような攪拌混合2時間後の経皮吸収量までもが用時調製型と事前調製型とで有意な差異がないことを示すものではない。

なお、被告ネオケミアは、気泡の持続性が用時調製であるか事前調製であるかによって変わらないことを立証するために乙A108や116を提出しているが、乙A108は鐘紡実施例発明と同様にポリエチレングリコール被膜による二酸化炭素の発生反応の調整が施されているから、用時調製と事前調製の比較として適切でなく、乙A116は、そのような被膜が施されていないが、2時間後の気泡の持続性の傾向が上記乙A3と一致しておらず、直ちに採用できない。

以上からすると、事前調製型と用時調製型においては、ブチレングリコールを5%加えた場合には、攪拌終了後30分経過時までは両者に有意な差異は認められないが、基本的には事前調製型の方が二酸化炭素をより多く保持し、持続的に皮下組織等に供給させる効果があると認めるのが相当である。

c また、本件各発明が、二酸化炭素含有粘性組成物中により多くの二酸化炭素を保持し、持続的に皮下組織等に供給させるものであることからすると、公知技術において知られていた二酸化炭素の血行促進作用による皮膚への効果・効能が得られるであろうことは、それらの技術常識に照らして合理的に理解することができる。このことからすると、本件各明細書において、発明が解決しようとする課題等として、皮膚粘膜疾患若しくは皮膚粘膜障害に伴う痒みに有効な製剤とそれを用いる治療及び予防方法を提供することなどを目的として掲げる(本件明細書1の背景技術、【0004】、【0005】)のは、上記のような趣旨での二酸化炭素の持続的な皮下組織等への供給の効果を得ることを課題としていう趣旨であり、また、発明の効果として、皮膚粘膜疾患若しくは皮膚粘膜障害に伴うかゆみ;皮膚粘膜損傷;生着不全;歯科疾患;末梢循環障害に基づく皮膚潰瘍や冷感、しびれ感;筋骨格系疾患;神経系疾患;角化異常症;化膿性皮膚疾患;排便反射の減衰又は喪失に基づく便秘;除毛後の再発毛抑制(むだ毛処理);皮膚や毛髪などの美容上の問題などを副作用をほとんどともなわずに治療及び予防あるいは改善でき、また所望する部位に使用すれば、その部位を痩せさせられるという効果を奏することを掲げる(本件明細書1の発明の開示、【0062】)のも、上記のような趣旨での二酸化炭素の持続的な皮下組織等への供給の効果が得られることをいう趣旨であると解するのが相当であり、事前調製によってより多くの二酸化炭素を組成物中に保持し、持続的に皮下組織等に供給させることによる以上に、格別顕著な効果を奏すること自体を発明の解決課題とし、発明の作用効果とする趣旨ではないと解するのが相当である。

(オ)このように本件各発明が、事前調製によってより多くの二酸化炭素を組成物中に保持し、持続的に皮下組織等に供給させることができる点に特徴を有するものであることからすると、炭酸塩と酸によって発生させる二酸化炭素の量の多寡にかかわらずそのような効果を奏するから、組成物中に気泡状の二酸化炭素が含有される必要はあり、その量が多い方が好ましい(本件明細書1の発明の開示、【0061】)ということはできるとしても、組成物中の気泡状の二酸化炭素の量が一定以上でなければならないと認めることはできない。なお、本件各明細書の実施例では、気泡の持続性とともに発泡性も評価しているが、従来技術の内容や本件各特許の出願の経過における原告の主張内容等に照らせば、実施例の記載をもって本件各発明が発泡性について限定をするものと解することはできない。

ウ 被告らの主張について

(ア)まず被告らは、本件各発明が従来技術にはない画期的な治療効果等を生じさせることを特徴としているなどと主張している。

確かに、本件各明細書では、本件各発明に係るものを含めた同様の組成の複数種類の二酸化炭素含有粘性組成物について治療試験等を行った結果が記載されており、そこでは、疾患の治癒等の極めて良好な結果が得られた旨が記載されている。しかし、前記のように本件各発明が、事前調製によってより多くの二酸化炭素を組成物中に保持し、持続的に皮下組織等に供給させることができる点に特徴を有するものであり、後記の争点3-4及び3-5についての判断のとおり、事前調製を採用した構成が公知技術から想到容易であると認められないことからすると、本件各発明の進歩性は、本件各明細書記載の試験例のような極めて良好な結果を得られることによって初めて基礎付けられるものではない。そうすると、それらの試験例は、本件各発明に係るものを含めた同様の組成の二酸化含有粘性組成物が、特定の配合量や被験者の下で極めて良好な結果を得られる場合があることを示す意義があるにとどまり、本件各発明の組成物が必ずそのような結果が得られることを示すものと解することは相当でなく、換言すれば、本件各発明の必須の効果が試験例のようなものであると解することは相当でないというべきである。したがって、被告らの上記主張は採用できない。

(イ)また、被告らは、本件各特許の出願の経過における原告の主張内容(乙E全1、2)を自らの主張の根拠としている。

しかし、被告らが指摘する乙E全1及び2の記載は、その内容に照らせば、本件各発明の組成物中に気泡状の二酸化炭素が保持され、持続的に放出されることによる作用効果を説明したものであって、その量を問題としたものと認めることはできない。

確かに、原告は、本件各発明に係る意見書等において、本件各明細書記載の試験結果について、それらで実証されている効果は、皮膚への二酸化炭素の浸透作用が高いことに基づく格別顕著な効果であり、二酸化炭素による単なる血行促進作用等から予測できるものではないことを強調している。しかし、原告は、上記意見書等において、本件各発明が格別顕著な効果を奏することを主張する前に、そもそも本件各発明の構成が拒絶理由通知等の引用文献からは想到容易でない旨も強く主張していたと認められる。そうすると、後記のとおり本件各発明の構成が公知技術から想到容易であるとは認められない以上、原告による上記の格別顕著な効果の説明によって進歩性を獲得したものではないから、原告の上記説明によって本件各発明を限定して解釈することは相当でなく、本件各特許の出願の経過における原告の主張によって上記認定は左右されない。

(ウ)さらに、被告らは美顔用の化粧料において炭酸ガス又は炭酸ガス発生物質の発泡作用を利用するパック剤が周知であったと主張しているが、本件各発明は組成物中に気泡状の二酸化炭素を保持させ、持続的に放出させることによって二酸化炭素を皮下組織等に供給させることを目的とした発明であって、単に炭酸ガス又は炭酸ガス発生物質の発泡作用を利用するパック剤を提供しようとしたものではない。したがって、被告らの上記主張によって上記認定が左右されるとはいえない。

(2)以上の検討を踏まえると、構成要件1-1C及び2-1Cの「二酸化炭素を気泡状で保持できる」とは、文字通り、本件各発明の組成物が二酸化炭素を気泡状で保持できるという意味と解するのが相当であり、被告らが主張するような限定をすべきものと解することはできない。

(3)そこで、被告各製品がそのような構成を備えているかを検討すると、被告らは被告各製品から得られる組成物について気泡状の二酸化炭素の量を問題としているだけで、組成物が気泡状の二酸化炭素を含有・保持していること自体は争っていない

また、甲25、26及び42によれば、被告製品1ないし8、11ないし18について、ジェルと顆粒剤を混合して20分以上、ジェルに気泡状の二酸化炭素が含有・保持されていることが認められる。そして、被告製品9については実験結果がないものの、被告製品12のジェル剤及び顆粒剤と配合成分が同じであるから、被告製品9の発泡の持続性は被告製品12と同じ程度であったと推認される。それだけでなく、乙A1及び8によれば、被告製品1ないし17の炭酸塩含有含水粘性組成物25g及び酸1.2gを10秒間に20回攪拌混合して1分経過後の組成物の体積の増加率は、高い製品で27%(被告製品17)、低い製品でも12%(被告製品3)とされており、これらによれば、被告各製品から得られる組成物は、二酸化炭素を気泡状で保持し、持続的に放出していると認められる。

この点につき被告らは、攪拌から1分経過後の上記体積の増加率は本件各明細書の発泡性の評価基準1の最低評価(「0」)に相当することを指摘しているが、本件各発明が発泡性について限定をするものと解することができないことは前記のとおりであるから、発泡性に関する評価基準1における「0」というのが本件各発明の作用効果が生じないという意味で用いられているものと認めることはできない。なお、乙E全10は被告製品2が二酸化炭素を気泡状で保持していることを否定するものではないから、これによって上記認定は左右されない。

(4)以上によれば、被告各製品から得られる組成物は、二酸化炭素を気泡状で保持できるものと認められ、被告各製品は構成要件1-1C及び2-1Cを充足する。

2 争点1-2(被告各製品は本件各発明の技術的範囲に属するか、間接侵害の成否(構成要件1-1A等の充足性等))

(1)構成要件1-1Aの充足性

被告各製品はパック用化粧料のキットであり、前記1の認定によれば、二酸化炭素含有粘性組成物を得るためのキットである。そして、二酸化炭素に部分痩せや痩身効果があることは知られており(甲11、12、17、19、21)、被告各製品から得られる粘性組成物は顔全体に塗布して使用することとされていて(甲7、8、10、17、20、24、弁論の全趣旨)、顔は部分肥満改善の対象部位の1つである(甲10、17、24、弁論の全趣旨)。

現に、被告各製品の中には、その宣伝広告において期待できる効果等として部分痩せや痩身効果が挙げられているものがあったし(甲17、19。被告らはこれらが誇張表現であると主張しているが、宣伝広告の内容は明確であって被告らの主張は採用できない。)、被告各製品の販売業者等による宣伝広告等においても同様の記載がみられ(甲10、13、15、18、24)、その内容に被告各製品の製造販売元等である被告らが関与していなかったとは考え難く、これらには被告らの認識が反映されていると推認される。また、被告ネオケミアやその代表者においてもホームページや論文で炭酸ガスによる部分痩せ効果に言及していたのである(甲11、12。被告らは甲12は二酸化炭素を水に溶解させた技術についての記載である旨主張しているが、本件各発明が組成物中の気泡状の二酸化炭素をそのまま経皮吸収するものであるか否かが不明であることは前記判示のとおりであり、被告らの主張によって上記認定は左右されない。)。

なお、被告らは被告各製品のすべてが部分肥満改善用化粧料というわけではないなどと主張しているが、被告各製品の配合成分はほぼ同じで、二酸化炭素含有粘性組成物を得るためのパック用化粧料であるという点で共通しているところ、上記認定事実によれば、被告らの上記主張を採用することはできない。また、被告らは、「炭酸ガス」パックがむくみ取り効果を有するにすぎないとか、争点6との関係で、小顔効果は部分肥満解消とは異なる効果であると主張しているが、本件各明細書の実施例8、9及び13で両者を区別していることはうかがわれないこと、甲54では「肥満を大きく分けると、単純に脂肪が蓄積されたタイプと水太り・むくみ太りのタイプがある」と記載されていることに照らし、採用できない。さらに、被告らは宣伝広告等において部分肥満効果に触れられていないものもあることを指摘している(乙A36ないし45)が、これらが部分肥満改善用として使用することを排除したものとまで認めることはできない。

以上より、被告各製品は部分肥満改善用化粧料として使用される二酸化炭素含有粘性組成物を得ることをもその用途としており、部分肥満改善用化粧料として使用される二酸化炭素含有粘性組成物を得るためのキットであると認めることができるから、構成要件1-1A及び2-1Aを充足する。

(2)構成要件1-1Dの充足性

被告各製品の構成やその使用方法(前記第2の2(5)ウ)に加え、前記1の認定によれば、被告各製品は構成要件1-1Dを充足しており、構成要件1-1を充足する。

(3)構成要件1-4及び1-5の充足性

被告各製品のジェル剤の成分表示は別紙「被告製品一覧表」の「ジェル剤」欄記載のとおりであるところ、そこでは水が冒頭に挙げられ、アルギン酸ナトリウムの表示の順番は同欄記載のとおりである。そして、被告各製品から得られた含水粘性組成物が一定の粘度を有していることは甲25、26、42、乙A1、8によって認めることができ、被告らが積極的な反証をしていないことも考えると、弁論の全趣旨によって、被告各製品から得られる含水粘性組成物はアルギン酸ナトリウムを2重量%以上含み、水を87重量%以上含んでいると認められる。

したがって、被告各製品は構成要件1-4及び1-5を充足する。

(4)本件発明1-7及び1-8の間接侵害の成否

前記(1)を含む以上の認定によれば、被告各製品の購入者はそのキットによって二酸化炭素含有粘性組成物を得ることができ、被告各製品から得られる粘性組成物は顔全体に塗布して使用されることから、被告各製品において部分肥満改善用化粧料の用途を使用しない他の用途があるとは認められない

したがって、被告らが被告各製品を製造、販売した行為は、本件発明1-7及び1-8の間接侵害行為(特許法101条1号)に当たる。

(5)本件発明1-9、1-12及び1-13の間接侵害の成否

被告各製品は、ジェル剤と顆粒剤の2剤をセットにしたキットとして販売されているが、その外装箱等にはこれら2剤を混合させ、顔全体に塗布するなどとその使用方法が記載されており(甲7、8、17、20、弁論の全趣旨)、これは被告各製品を購入した者が2剤を混合して自ら二酸化炭素を含有したパック化粧料を調製することを意図したものと認められる

そして、上記(4)の認定・判示を踏まえると、被告各製品において部分肥満改善用化粧料として使用しない他の用途があるとは認められない。したがって、被告らが被告各製品を製造、販売した行為は、本件発明1-9、1-12及び1-13の間接侵害行為(特許法101条4号)に当たる。

(6)構成要件2-1、2-4及び2-5の充足性

以上認定の事実によれば、被告各製品は化粧料として使用される二酸化炭素含有粘性組成物を得るためのキットである(構成要件2-1A)と認められ、その他の構成要件の充足性も認められる。

(7)構成要件2-7の間接侵害の成否

被告各製品の購入者は被告各製品のキットによって二酸化炭素含有粘性組成物を得ることができ、化粧料として使用されるものと認められる。そして、以上認定の事実によれば、被告各製品において化粧料として使用しない他の用途があるとは認められない。

したがって、被告らが被告各製品を製造、販売した行為は、本件発明2-7の間接侵害行為(特許法101条1号)に当たる。

(8)被告ネオケミアによる顆粒剤の製造、販売行為について

被告ネオケミアは、被告製品2、5、6、7、9、11ないし14及び16ないし18の顆粒剤の製造、販売を行っており、その顆粒剤と被告らが製造、販売したジェル剤からなる上記被告製品が本件発明1-1、1-4及び1-5並びに本件発明2-1、2-4及び2-5の技術的範囲に属することは上記認定のとおりである。そして、前記認定のとおり、その顆粒剤には乳糖が配合されているところ、これは顆粒剤に含まれるリンゴ酸とジェル剤に含まれる炭酸水素ナトリウムとの反応を遅らせ、徐放性とするために配合されていると認められる(乙A18ないし20)。そうすると、被告ネオケミアが被告らに対して販売した顆粒剤は、特に被告らが製造、販売したジェル剤とセットで販売するための性状のものとして製造、販売されたものと認められるから、他の経済的、商業的又は実用的な用途を観念することはできない

したがって、被告ネオケミアが顆粒剤を製造、販売した行為は、上記各発明の間接侵害行為(特許法101条1号の間接侵害)に当たる

3 争点2(被告各製品は本件各発明の作用効果を奏しているか)について

(1)前記1で認定したとおり、本件各発明の作用効果は、組成物中に気泡として二酸化炭素を含有させ、その二酸化炭素を気泡状で保持させるとともに、持続的に放出させ、二酸化炭素を持続的に皮下組織等に供給させることであると認められる。

そして、前記1(3)で認定したとおり、被告各製品から得られる組成物は、二酸化炭素を気泡状で保持し、持続的に放出していると認められる。

(2)なお、被告らは被告各製品の技術的思想が本件各発明とは根本的に異なると主張している。しかし、本件各発明が組成物中の気泡状の二酸化炭素をそのまま経皮吸収するものであるか否かは不明であり、本件各発明の作用効果は上記認定のとおりであって、粘性組成物が二酸化炭素を気泡状で保持し、継続的に放出しているのであれば、その技術的範囲に属していることは否定されない。そして、被告各製品から得られる組成物が、二酸化炭素を気泡状で保持し、持続的に放出していることは上記認定のとおりである。

また、被告らは被告各製品の顆粒剤に乳糖が含まれていることを指摘しているが、乳糖が気泡状の二酸化炭素の発生を抑える効果を有するものであったとしても、被告各製品から得られる組成物が気泡状の二酸化炭素を保持していることは前記認定のとおりであり、被告らの上記主張によっても上記認定は左右されない。

(3)以上より、被告各製品は本件各発明の上記作用効果を奏していると認められるから、本件発明1-1、1-4及び1-5並びに本件発明2-1、2-4及び2-5の技術的範囲に属していることや、間接侵害の成立は否定されない。

4 争点3-1(本件各発明の未完成)について

(1)本件各発明の組成物の製造方法

まず本件各発明の組成物の具体的な製造方法について検討すると、本件各発明は、その構成要件から明らかなように、化粧料又は医薬組成物として使用される二酸化炭素含有粘性組成物を得るためキット及び同組成物を調製する方法に関する発明である。また、同組成物は、(炭酸塩又は酸を含む)含水粘性組成物と、炭酸塩又は酸を含む(複合)顆粒剤、細粒剤又は粉末剤とを混合することにより得るものである。

そして、本件各明細書(本件明細書1の発明の開示、【0020】ないし【0030】及び【0034】ないし【0037】、【0058】、【0059】)には、本件各発明で用いられる水、増粘剤、炭酸塩及び酸の具体的内容(配合成分や含有量等)が説明されている。また、実施例として、炭酸塩又は酸を含む顆粒剤等及び含水粘性組成物の製造方法が記載されている。なお、(複合)顆粒剤を(複合)細粒剤又は粉末剤とすることは設計事項と解される。

さらに、本件明細書1の発明の開示及び発明を実施するための最良の形態並びに【0032】、【0033】、【0100】、【0101】及び【0103】には、本件各発明の請求項1記載の組み合わせよりなる二酸化炭素含有粘性組成物の製造方法が記載されている。

以上の記載によれば、本件各発明の組成物を製造することができると認められる。

(2)上記(1)の方法によって製造された組成物の使用方法

本件明細書1の発明の開示及び発明を実施するための最良の形態及び【0049】ないし【0056】には本件各発明の組成物の使用方法が記載されている。また、後記(3)で引用する試験例においても、部分肥満改善用化粧料を含む化粧料や(治療用)医薬組成物としての組成物の使用方法が記載されている。

これらによれば、本件各発明の組成物を部分肥満改善用化粧料を含む化粧料や(治療用)医薬組成物として使用することができると認められる。したがって、本件各発明の組成物を得るためキットを製造し、これを使用することもできると認められる。

(3)上記(1)の方法によって製造された組成物の作用効果

ア 本件各明細書には、炭酸塩と酸が反応すると二酸化炭素が発生すること、これらを水とアルギン酸ナトリウムを含む組成物中で反応させると、組成物中に二酸化炭素が含有、保持されること(本件明細書1の発明の開示、【0032】)が記載されている。

そして、前記認定のとおり、本件各明細書には、上記(1)の方法によって製造された組成物の発泡性と気泡の持続性の評価結果が記載されており、この評価結果は、発泡性については、組成物の体積の増加率が30から50%が1例(本件発明2については2例)で、その他は50%から70%又は70%以上であり、気泡の持続性については、減少率が20%以下又は20%から40%であると記載されている。

以上の記載に照らせば、上記(1)の方法によって製造された本件各発明の組成物は発泡性があり、かつ相当程度の気泡の持続性を有すると認められる。そして、【0017】等には、本件各発明の組成物を対象部位に適用することによって、組成物中の気泡状の二酸化炭素が持続的に皮下組織等に供給されることが記載されている。また、前記1(1)イ(エ)cのとおり、それによって公知技術において知られていた二酸化炭素の血行促進作用による皮膚への効果・効能がより高められるであろうことは、それらの技術常識に照らして合理的に理解することができるところ、その具体的な確認については試験例に記載がある。なお、試験例の中には、本件各発明の直接の実施例が用いられていないものもあり、部分痩せ試験や顔痩せ試験に関する試験例8、9及び13も同様であるが、それらの試験例においても、含水粘性組成物をあらかじめ調製しておき、その中で炭酸塩と酸を反応させて二酸化炭素を発生させるもので、その配合成分や含有量等は本件各発明の組成物と同じであるから、それらの試験例も本件各発明の作用効果を確認するものとして参照することが許されると解される。

以上からすると、本件各発明は完成していると認められる。

イ 被告らの主張について

(ア)被告らは、本件各明細書の試験例が信用できないとか、その結果が本件各明細書に正確に記載されているものとは考えられないなどと主張している。

しかし、試験例記載のような極めて良好な結果が生じることが本件各発明の効果として必須のものと認められないことは前記のとおりである。また、この点を措くとしても、試験例に関する被告らの主張は抽象的な主張にとどまっているものも少なくないし、本件各明細書の試験例で使用された組成物については、実施例として、具体的な配合成分や含有量、さらにその製造方法が記載されている上に、発泡性や気泡の持続性についても客観的な数値によって評価されている。

また、試験例についても、具体的な数値等が記載されており、明らかに不合理な内容が含まれているとまで認めることもできない。

さらに、被告らは、乳酸を含有させた試験例や、含水粘性組成物が酸性の試験例について、所望の炭酸ジェルパックは作ることができないはずであり、試験例はねつ造されたものであると主張しているが、その具体的な根拠を認めるに足りる証拠はないから、被告らの主張によって上記判断は左右されない。

したがって、被告らの上記主張は採用できない。

(イ)被告らは試験例の原データが提出されていないなどとも主張しているが、本件各発明の技術的意義に照らせば、試験例記載のような結果を得られる場合があることも合理的に理解し得るものであるし、明細書の通常の記載方法に照らせば、それによって直ちに試験例の記載内容が信用できないということにはならない。また、本件各明細書には多数の実施例や試験例が記載されているところ、その内容に不整合な点などはみられず、本件各明細書の実施例や試験例の記載内容は、前記1(3)で認定した本件各発明の技術的範囲に属する被告各製品についての実験結果(甲25、26、42、乙A1、8)とも矛盾していない。

したがって、本件では、原データが提出されなくとも、上記各試験例の信用性を肯定することができる。

(ウ)さらに、被告らは現在でも、各種皮膚疾患について二酸化炭素の効能を利用した治療法が広く実践されるなどしていないと主張しているが、試験例にそこまでの裏付けが求められるとはいえず、上記主張によって直ちに試験例の内容等の信用性が否定されるとはいえない。

被告らは加えて、原告製品を用いて本件各明細書の試験例13(腕の部分痩せ試験)の追試を行ったものとして、乙E全21の実験結果報告書を提出するとともに、医学博士による乙A48の意見書等を提出している。

確かに、乙E全21では腕の部分痩せの効果がうかがえないが、部分肥満改善用化粧料という本件各発明の作用効果の性質上、ある程度の個人差が生ずるのはやむを得ないから、これによって直ちに本件各明細書の試験例の信用性が否定されるとはいえないし、前記のとおり試験例記載のような極めて良好な結果が生じることが本件各発明の効果として必須のものとも認められないから、乙E全21の結果をもって本件各発明が未完成であるとも認められない。また、乙A48の意見書においては、本件各明細書に記載のある全ての疾患・病態に対して、本物質の人への使用に当たっての有効性及び安全性についての科学的根拠の欠如が著しく、課題が解決しているとは到底認識できるものではないとの記載があるが、本件各発明が、事前調製によってより多くの二酸化炭素を組成物中に保持し、持続的に皮下組織等に供給させることができる点に特徴を有するものであることからすると、それによって公知技術において知られていた二酸化炭素の血行促進作用による皮膚への効果・効能がより高められるであろうことは、それらの技術常識に照らして合理的に理解することができるから、効果の予測できない新規化合物の場合のように、乙A48がいうようなシステマティックレビューや1つ以上のランダム化比較試験等の強いエビデンスレベルの根拠がないからといって、発明が未完成であるとはいえず、このことは乙A47についても同様である。

また、乙E全10の実験結果によると、「粘度を落としたもの」を使用した場合の方が皮膚に赤みが生じた例が相当数示されているが、「粘度を落としたもの」の製造方法等が書証からは不明であるし、これを措くとしても、これにも一定の粘度があることがうかがわれることに照らすと、乙E全10の実験結果によって本件各発明が未完成であることが裏付けられるとはいえない。

さらに、被告らは乙A2を提出し、混合時に大量の二酸化炭素を発生させる気泡が多い炭酸ガスパック剤(サンプルA)の方が、徐放性で気泡が少ない炭酸ガスパック剤(サンプルB)よりも二酸化炭素の経皮透過量(吸収率)が低いと主張しているが、本件各発明の効果との関係で問題にすべきは、二酸化炭素の放出能力が同じ炭酸ガスパック剤について、用時調製の場合と事前調製の場合との差異の有無であり、それは甲32によって確認されているから、乙A2によって本件各発明の作用効果は否定されない。

(4)以上より、本件各発明は発明として完成しているものと認められる。

5 争点3-2(サポート要件違反)及び争点3-3(実施可能要件違反)について

(1)前記4の認定・判示によると、本件各明細書には、本件各発明の組成物の配合成分や含有量等が具体的に記載されているし、(炭酸塩又は酸を含む)含水粘性組成物や、炭酸塩又は酸を含む(複合)顆粒剤、細粒剤又は粉末剤を製造し、これらを混合して本件各発明の組成物を製造し、使用する具体的な方法も記載され、その作用効果も記載されているから、サポート要件及び実施可能要件を充足していると認められる。

(2)被告らの主張について

ア 被告らは本件各発明の全ての課題が解決されたことを示す試験例は一つもないなどと主張している。

しかし、被告らがいう課題とは、本件明細書1の背景技術並びに【0004】及び【0005】に記載された課題であるところ、この記載は、前記1(1)イ(エ)cのとおり、本件各発明が、二酸化炭素含有粘性組成物中により多くの二酸化炭素を保持し、持続的に皮下組織等に供給させる効果を得ることを課題としていう趣旨であると解される。そして、本件各発明が、事前調製によってより多くの二酸化炭素を組成物中に保持し、持続的に皮下組織等に供給させることができる点に特徴を有するものであることからすると、それによって公知技術において知られていた二酸化炭素の血行促進作用による皮膚への効果・効能がより高められるであろうことは、それらの技術常識に照らして合理的に理解することができるから、本件各明細書に記載された効能の全てについての試験例がなくとも、当業者は本件各発明の課題を解決できると認識することができ、本件各発明を実施できると認められる。

また、炭酸塩と酸を反応させれば二酸化炭素が発生することは技術常識といえる(本件明細書1の発明の開示、【0032】、鐘紡公報等)から、本件各発明の組成物と比較して発泡性や気泡の持続性が同じか、劣る組成物を使用した試験例を参照して本件各発明の作用効果を確認することが許されることは、前記4(3)アで判示したとおりである。そうすると、サポート要件等に違反していると認めることはできない。

イ 次に被告らは、サポート要件等を充足するためには、薬理試験に準じた結果の記載の程度まで必要であると主張する。

確かに、本件各発明は、(治療用)医薬組成物として使用される二酸化炭素含有粘性組成物を得るためのキット等に関する発明ではあるが、前記1(1)イ(エ)cのとおり、本件各発明が、事前調製によってより多くの二酸化炭素を組成物中に保持し、持続的に皮下組織等に供給させることができる点に特徴を有するものであることからすると、それによって公知技術において知られていた二酸化炭素の血行促進作用による皮膚への効果・効能がより高められるであろうことは、それらの技術常識に照らして合理的に理解することができるから、新規化合物のように本件各発明の効果が予見困難又は予見不可能であるとはいえない(なお、試験例記載のような極めて良好な効果が生じることが本件各発明の効果として必須のものであるとは認められないことは、前記1(1)イ(エ)cのとおりである。)。

したがって、被告らの上記主張は採用できない。

ウ 被告らは、本件各明細書に作用効果が生ずる機序について何の記載もなく、気泡状の二酸化炭素の経皮吸収以外の要因が作用した可能性もあるなどとも主張している。

しかし、被告らの主張は可能性の指摘にとどまっている上に、本件各発明が、事前調製によってより多くの二酸化炭素を組成物中に保持し、持続的に皮下組織等に供給させることができる点に特徴を有するものであることからすると、それによって公知技術において知られていた二酸化炭素の血行促進作用による皮膚への効果・効能がより高められるであろうことは、それらの技術常識に照らして合理的に理解することができる。そして、被告らは本件各特許の出願の経過における原告の主張を引用して、血行促進作用以外のプラスαの作用が関連しているなどとも主張しているが、原告のその主張は、本件各明細書の試験例の極めて良好な結果についていうものであって、本件各発明全般について妥当するものとは解されない。そして、上記認定のとおり、本件各明細書には本件各発明の組成物を製造し、使用する具体的な方法が記載されるとともに、組成物を使用することによる作用効果が記載されるなどしており、この記載によると当業者が本件各発明の課題を解決できると認識することができ、本件各発明を実施できると認められる。

エ さらに被告らは、炭酸塩及び酸の組成について何らの限定もないことから、当業者が課題を解決できると認識し得るものとはいえないなどと主張している。

しかし、本件各発明は炭酸塩と酸が反応して発生する二酸化炭素を組成物中に気泡状で保持させるなどというものであるところ、上記認定のとおり、炭酸塩と酸が反応することによって二酸化炭素が発生することは技術常識であるから、どの炭酸塩又は酸を選択するかは当業者が選択すべき設計事項といえる。そして、本件各明細書には、本件各発明の実施例に加え、発泡性や気泡の持続性が同じか、劣る実施例の組成物を使用した試験例も記載されていること、上記認定のとおり、炭酸ガスが血行をよくすることは技術常識であったことを踏まえると、当業者が本件各明細書の記載によって本件各発明の課題を解決できると認識することができると認められる。

(3)以上より、本件各発明に係る特許請求の範囲の記載はサポート要件(特許法36条6項1号)を満たしているし、本件各明細書の発明の詳細な説明の記載は実施可能要件(特許法36条4項1号)を満たしていると認められる。

6 争点3-4(鐘紡公報の実施例9(鐘紡実施例発明)を主引例とする進歩性欠如)について

(1)鐘紡実施例発明について

ア 鐘紡公報(乙A102、乙E全6)によれば、特許請求の範囲及び実施例9に記載された発明の要旨は次のとおりであると認められる。

(ア)鐘紡公報の特許請求の範囲に記載された発明は、炭酸ガスによる血行促進作用によって皮膚を賦活化させるガス保留性、経日安定性、官能特性及び皮膚安全性に優れた発泡性化粧料に関するものである(鐘紡公報の(技術分野))。

従来から血行促進などの目的で炭酸ガスを配合した化粧料、例えば、水性化粧料に炭酸ガスを配合して耐圧容器に密封したことを特徴とする化粧料が提案されていたが、これらの化粧料は、容器を耐圧性にしなくてはならないため、コストが高くなるという欠点を有していた(鐘紡公報の(従来技術))。

そこで、まず2剤型とすることによって経日安定性が高まるようにした。

また、酸性物質を水に溶解して得られる水溶液を第1剤とし、水溶性高分子及び/又は粘土鉱物と炭酸塩とを常温固型のポリエチレングリコールで被覆した固型物を第2剤とすることによって、用時混合する際に、炭酸ガスの泡を徐々に発生させるとともに、水溶性高分子及び/又は粘土鉱物の粘性によって安定な泡を生成し、炭酸ガスの保留性(ガス保留性)が高まるようにしたものである(鐘紡公報の特許請求の範囲、(発明の開示)、(発明の目的))。

さらに、上記構成とすることによって、官能特性等にも優れるようにした(鐘紡公報の(発明の目的))。

(イ)鐘紡公報には実施例1ないし11が記載されており、第1剤の調製方法は、水にクエン酸を加えて攪拌し、均一に混和するというものであり、実施例9では、クエン酸を5.0重量%、水を95.0重量%とした。また、第2剤の調製方法は、約80℃にて、ポリエチレングリコール(分子量4000)を溶解し、熱時、炭酸水素ナトリウム、アルギン酸ナトリウムを加え、均一に混和した後室温まで冷却し、ポリエチレングリコールで被覆した粉末とするというものであり、実施例9では、ポリエチレングリコール、炭酸水素ナトリウム及びアルギン酸ナトリウムをそれぞれ10.0重量%、40.0重量%及び50.0重量%とした。そして、第1剤と第2剤の重量比を10:1とした。なお、この実施例で使用されているクエン酸は酸であり、炭酸水素ナトリウムは炭酸塩であり、アルギン酸ナトリウムは水溶性高分子である(甲2、乙A102、乙E全6)。

各実施例の試験結果によれば、発泡性、ガス保留性及び経日安定性はいずれも◎又は○であり、実施例9はそれぞれ○、○、◎とされている。

(ウ)以上のことからすると、鐘紡公報の実施例9には、次の発明(鐘紡実施例発明)が記載されていると認められる。

a 炭酸ガスによる血行促進作用によって皮膚を賦活化させるための2剤型の発泡性化粧料であって、

b 酸を含有する水溶液と、炭酸塩と水溶性高分子であるアルギン酸ナトリウムを常温固型のポリエチレングリコールで被覆した固型物の組み合わせからなり、

c 酸を含有する水溶液と、炭酸塩と水溶性高分子であるアルギン酸ナトリウムを常温固型のポリエチレングリコールで被覆した固型物とを混合することにより組成物が得られる

d 2剤型の発泡性化粧料。

イ 本件発明1-1と鐘紡実施例発明の対比

以上の認定事実によれば、鐘紡実施例発明の「炭酸ガス」は、本件発明1-1の「二酸化炭素」に相当すると認められる。そして、本件発明1-1と鐘紡実施例発明を対比すると、少なくとも次の相違点があると認められる。

① 相違点1 本件発明1-1は、炭酸塩及びアルギン酸ナトリウムを含有する含水粘性組成物と、酸を含む顆粒(細粒、粉末)剤の組み合わせ並びに炭酸塩及び酸を含む複合顆粒(細粒、粉末)剤と、アルギン酸ナトリウムを含有する含水粘性組成物の組み合わせ(構成要件1-1B)からなり、これらを混合して組成物を得るものであるのに対し、鐘紡実施例発明は、酸を含有する水溶液と、炭酸塩と水溶性高分子であるアルギン酸ナトリウムを常温固型のポリエチレングリコールで被覆した固型物の組み合わせからなり、これらを混合して組成物を得るものである点。

② 相違点2 用途が、本件発明1-1では、部分肥満改善用化粧料、或いは水虫、アトピー性皮膚炎又は褥創の治療用医薬組成物とされているのに対して、鐘紡実施例発明では、発泡性化粧料である点。

(2)相違点1に係る容易想到性

上記認定のとおり、本件発明1-1と鐘紡実施例発明は、いずれも炭酸塩、酸、アルギン酸ナトリウム、水を混合して組成物を得る2剤型のものであるが、それぞれの成分の組み合わせが異なり、それに応じて含水粘性組成物を事前調製により得るか、用時調製により得るかの相違があり、このような相違点について容易想到性を検討する。

ア まず被告らは、二酸化炭素を保持する構成等は単なる設計変更にすぎないなどと主張している。

確かに、鐘紡実施例発明は2剤型の用時混合型化粧料であり、組成物のガス保留性(気泡の持続性等)を高めるという本件発明1-1と共通の課題を解決しようとしたものであると認められるが、この課題について、第2剤の成分を常温固形のポリエチレングリコールで被覆することによって解決しようとしたものであり、本件発明1-1とは課題解決手段を異にしている。したがって、この変更を設計事項ということはできない。

イ 被告らは、アルギン酸ナトリウム等の増粘剤を予め水に溶解させることは慣用技術であるから、これを適用して相違点を克服することは容易であるとも主張している。

しかし、上記認定のとおり、鐘紡実施例発明は、酸を含有する水溶液(第1剤)と、炭酸塩と水溶性高分子であるアルギン酸ナトリウムを含有する固型物(第2剤)の組み合わせからなる2剤型の化粧料(比較例2、鐘紡比較例発明)では、ガス保留性に著しく劣る課題があるのに対し、第2剤の各成分をポリエチレングリコールで被覆することによって、用時混合の際に、炭酸ガスの泡が徐々に発生するとともに水溶性高分子等の粘性によって安定な泡を形成し、ガス保留性を高めることを特徴とする発明である(鐘紡公報の1頁右欄5行目から13行目)から、そのように課題解決のためにポリエチレングリコールで被覆した水溶性高分子であるアルギン酸ナトリウムの固形物について、あえてポリエチレングリコールによる被覆を外して含水粘性組成物とするように変更する動機付けがあるとはいえない。

したがって、被告ら主張の慣用技術の適用によって相違点1を容易に想到できるとは認められない。

ウ 以上によれば、相違点2について判断するまでもなく、本件発明1-1は鐘紡実施例発明に基づき容易に想到できたとはいえず、本件発明1-1を更に技術的に特定し、又は物の発明である本件発明1-1を方法の発明とした本件発明1-4、1-5、1-7ないし1-9、1-12及び1-13に係る発明と併せて、進歩性は否定されない。

また、本件発明2-1は、本件発明1-1の請求項1記載の組み合わせに別の組み合わせを1つ追加するなどしたものであるところ、鐘紡実施例発明との相違点は、上記認定の本件発明1-1と鐘紡実施例発明との相違点と実質的に変わりないから、本件発明2-1には本件発明1-1に関する上記認定・判示が同じく妥当し、その進歩性は否定されない。また、本件発明2-4、2-5及び2-7は、本件発明2-1を更に技術的に特定したものにすぎないから、同じく進歩性は否定されない。

(3)したがって、鐘紡実施例発明を主引例とする進歩性欠如の主張には理由がない。

7 争点3-5(鐘紡公報の比較例2(鐘紡比較例発明)を主引例とする進歩性欠如)について

(1)鐘紡比較例発明について

ア 鐘紡公報によれば、その要旨は次のとおりであると認められる。

(ア)鐘紡公報には、その特許請求の範囲に記載された発明(前記6(1)ア(ア))の比較例として、第2剤を炭酸塩と水溶性高分子及び/又は粘土鉱物を含有する固型物とし、これをポリエチレングリコールで被覆せず、ポリエチレングリコールを混和さえしない比較例2(鐘紡比較例発明)が記載されている。

ただし、ポリエチレングリコールを用いない比較例であることから、発泡性は△、ガス保留性は×、経日安定性は△で、ガス保留性に著しく劣り、経日安定性にも劣るものとされている。また、皮膚刺激が相当程度生じることから(鐘紡公報の第2表)、官能特性も劣っている。

(イ)以上のことに加え、この比較例は鐘紡公報の特許請求の範囲に記載された発明の比較例として鐘紡公報に記載されていることに照らせば、鐘紡公報の比較例2には、次の発明(鐘紡比較例発明)が記載されていると認められる。

a 炭酸ガスによる血行促進作用によって皮膚を賦活化させるための2剤型の発泡性化粧料であって、

b 酸を含有する水溶液と、炭酸塩と水溶性高分子であるアルギン酸ナトリウムを含有する固型物の組み合わせからなり、

c 酸を含有する水溶液と、炭酸塩と水溶性高分子であるアルギン酸ナトリウムを含有する固型物とを混合することにより組成物が得られる

d 2剤型の発泡性化粧料。

イ 本件発明1-1と鐘紡比較例発明の対比

本件発明1-1と鐘紡比較例発明を対比すると、少なくとも次の相違点があると認められる。

① 相違点1 本件発明1-1は、炭酸塩及びアルギン酸ナトリウムを含有する含水粘性組成物と、酸を含む顆粒(細粒、粉末)剤の組み合わせ並びに炭酸塩及び酸を含む複合顆粒(細粒、粉末)剤と、アルギン酸ナトリウムを含有する含水粘性組成物の組み合わせ(構成要件1-1B)からなり、これらを混合して組成物を得るものであるのに対し、鐘紡比較例発明は、酸を含有する水溶液と、炭酸塩と水溶性高分子であるアルギン酸ナトリウムを含有する固型物の組み合わせからなり、これらを混合して組成物を得るものである点。

② 相違点2 用途が、本件発明1-1では、部分肥満改善用化粧料、或いは水虫、アトピー性皮膚炎又は褥創の治療用医薬組成物とされているのに対して、鐘紡比較例発明では、発泡性化粧料である点。

(2)相違点1に係る容易想到性

本件発明1-1と鐘紡比較例発明は、いずれも炭酸塩、酸、アルギン酸ナトリウム、水を混合して組成物を得る2剤型のものであるが、それぞれの成分の組み合わせが異なり、それに応じて含水粘性組成物を事前調製により得るか、用時調製により得るかの点にも相違がある。これを踏まえて、被告らの主張を検討する。

ア 慣用技術の適用

(ア)被告らは、化粧料(又は医薬組成物)の剤型について粘性組成物を用いることは、本件各特許の出願時点で慣用技術であったと主張している。

しかしまず、被告らが慣用技術の根拠として挙げている乙E全7、8は、その記載内容によれば、2剤型の化粧料ではない上に、化粧料自体の剤型の1つとしてゲル、ゼリー、粉末剤、顆粒剤、液剤等を挙げているにすぎず、2剤型の化粧料の一方の剤型を含水粘性組成物とする慣用技術とは認められない。

(イ)次に、被告らは、2剤型の化粧料の一方の剤型を粘性組成物とする慣用技術として、乙E全3を挙げる。そして、乙E全3は、炭酸ガス又は炭酸ガス発生物質を含有するパック剤を提供するものであり(2頁左上欄7行目から9行目)、その形態として、炭酸塩と酸をそれぞれ異なる2つの担体に担持させ、この担体には水分を保持させることもでき、使用時に被パック部位に重ねて付着させて炭酸ガスを発生させるもので(同左下欄1行目から8行目)、このパック剤には、通常のパック剤に使用される種々のもの(この中にはゲル化剤、増粘剤も含まれる。)を適宜配合することができる(3頁左下欄5行目から11行目)と記載されており、製造例4では、A剤を水溶性高分子、炭酸水素ナトリウム及び水で、B剤を水溶性高分子、酒石酸、水で構成し、使用時に混合する例(4頁右上欄12行目から左下欄14行目)が記載されている。

しかし、鐘紡比較例発明は、前記のとおり鐘紡公報の特許請求の範囲に記載された発明の比較例であって、ガス保留性の向上を目的とする鐘紡公報の中で、そのガス保留性に著しく劣るなどの課題があると記載されているものである。そうすると、鐘紡比較例発明については、ガス保留性を高める動機付けはあるといえるが、それとは無関係に、水溶性高分子であるアルギン酸ナトリウムの固形物についてあらかじめゲル化しておくことでガス保留性を高めることの示唆もないのに、通常のパック剤に使用されるからというだけで、あえてあらかじめゲル化しておくように変更する動機付けがあるとはいえない。

また、乙E全3は炭酸塩と酸をそれぞれ異なる2つの担体に担持させる構成と、2剤をいずれも粘性組成物とする構成を開示しているにすぎないから、2剤型の用時混合型化粧料の一方の剤型を含水粘性組成物とする慣用技術の根拠になるとは認められない(なお甲30)。

したがって、被告ら主張の慣用技術の適用によって相違点1を容易に想到できるとは認められない。

イ 設計変更又は設計的事項

被告らは、本件各発明における剤型の選択は格別の作用効果を奏さないものであるとして、鐘紡比較例発明において第1剤及び第2剤の剤型を適宜変更することは設計変更又は設計的事項にすぎないと主張している。

しかし、鐘紡比較例発明にはガス保留性に著しく劣るなどの課題があったのに対し、本件各発明は、一方の剤型を含水粘性組成物とし、これをあらかじめ調製しておき、含水粘性組成物中で二酸化炭素を発生させることによって、二酸化炭素の気泡の持続性を高めるなどしたのであるから、この変更を設計事項ということはできない。

ウ 以上によれば、相違点2について判断するまでもなく、本件発明1-1は鐘紡比較例発明に基づき容易に想到できたとはいえず、本件発明1-1を更に技術的に特定し、又は物の発明である本件発明1-1を方法の発明とした本件発明1-4、1-5、1-7ないし1-9、1-12及び1-13に係る発明と併せて、進歩性は否定されない。

また、本件発明2-1は、本件発明1-1の請求項1記載の組み合わせに別の組み合わせを1つ追加するなどしたものであるところ、鐘紡比較例発明との相違点は、上記認定の本件発明1-1と鐘紡比較例発明との相違点と実質的に変わりないから、本件発明2-1には本件発明1-1に関する上記認定・判示が同じく妥当し、その進歩性は否定されない。また、本件発明2-4、2-5及び2-7は、本件発明2-1を更に技術的に特定したものにすぎないから、同じく進歩性は否定されない。

(3)したがって、鐘紡比較例発明を主引例とする進歩性欠如の主張にも理由がなく、本件各特許は特許無効審判により無効にされるべきものとはいえない。

8 争点4(被告コスメプロらの過失の有無)について

被告コスメプロらは、被告ネオケミアが有する特許権に基づく製品を仕入れて販売しているとの認識であったとして、自らに過失はないと主張している。

しかし、被告ネオケミアが有する特許権は、二酸化炭素外用剤調製用組成物に関する特許権であり(乙A18ないし20)、本件各特許と技術分野を共通にする特許権ではあるが、構成要件を異にする別々の特許権であるから、被告コスメプロら主張の事情があっただけで過失の存在が否定されるとはいえない。そして、その他に被告コスメプロらの過失を否定すべき事情は認められない。

したがって、被告コスメプロらに過失があったことは否定されず、同被告は原告に対して損害賠償責任を負う。

9 争点5(共同不法行為の成否)

共同不法行為が成立するためには、各侵害者に共謀関係があるなど主観的な関連共同性が認められる場合や、各侵害者の行為に客観的に密接な関連共同性が認められる場合など、各侵害者に、他の侵害者による行為によって生じた損害についても負担させることを是認させるような特定の関連性があることを要すると解すべきである。そして、例えば、製造業者が小売業者に製品を販売し、これを小売業者が消費者に販売するという取引形態は、極めて一般的なものであり、製造業者と小売業者双方が、このような取引形態を取っていることを認識し容認しているとしても、これだけでは共同不法行為責任を認めるに足りるだけの十分な関連共同性があるとはいえない。

以下、このような観点から、被告各製品ごとに共同不法行為が成立するかを検討する。

(1)被告製品1

原告の主張によれば、商流に被告ネオケミアが関与しているところ、同社は被告製品1の開発元であって(甲7)、前記認定のとおり、他にも自ら本件各発明の技術的範囲に属する同種製品(被告製品3、4及び8)を製造、販売していた。他方で、被告コスメプロも他に本件各発明の技術的範囲に属する同種製品(被告製品14、15及び18)を販売しており、被告製品14及び18については被告ネオケミアから顆粒剤を仕入れ、被告ネオケミア以外の者に対して上記各製品を販売していたというのである。このような実態に照らせば、被告ネオケミアが原告主張のような総代理店的な立場にあったとはいえないし、同被告らの行為に客観的に密接な関連共同性が認められるなどともいえない。

したがって、被告製品1に関し、被告ら間に共同不法行為が成立するとまでいうことはできない。

(2)被告製品2、13及び16

被告ネオケミアはエスコや被告コスメボーゼに対して顆粒剤を販売したものの、前記認定のとおり、被告ネオケミアはエスコや被告コスメボーゼ以外の者に対しても顆粒剤を販売していたのである。このような実態に照らせば、エスコらが原告主張のような総代理店的な立場にあったとはいえないし、同被告らの行為に客観的に密接な関連共同性が認められるなどともいえない。

また、被告製品13につき、被告コスメボーゼと被告ウインセンスとの間に共同不法行為が成立するかも問題となるが、被告コスメボーゼはOEM製造会社にすぎず(弁論の全趣旨)、被告ウインセンスがその総代理店的な立場にあったとはいえないし、同被告らの行為に客観的に密接な関連共同性が認められるなどともいえない。

したがって、上記各製品に関し、上記侵害者間に共同不法行為が成立するとまでいうことはできない。

(3)被告製品3及び4

原告の主張によれば、被告ネオケミアはトラストウイングスに対して被告製品3を販売したというのであるが、被告ネオケミアは他の被告等にも本件各発明の技術的範囲に属する同種製品(被告製品1、8及び15)を販売していた。他方で、トラストウイングスは、最終製品を仕入れて販売する以外に、炭酸ガスパック剤を自らOEMで製造、販売することもしていた(甲21)ほか、炭酸ガスパック剤である「インスクエアミキシングパック」の販売には「発売元」として関与していたところ、その「製造販売元」はエスコとされており(甲26)、被告製品3についても製造販売元はアクネスラボ、総販売元はネイチャーラボとされている(甲7)。このような実態に照らせば、トラストウイングスが原告主張のような総代理店的な立場にあったとはいえないし、同被告らの行為に客観的に密接な関連共同性が認められるなどともいえない。

別紙「被告各製品の商流」の被告製品4の商流にはトラストウイングスのことは記載されていないが、被告製品3と同様の商流であったとしても、上記判示が同じく妥当する。

したがって、上記各製品に関し、上記侵害者間に共同不法行為が成立するとまでいうことはできない。

(4)被告製品5、6、7、9、11及び17

原告の主張によれば、これらの各製品については、原告主張の商流に「訴外会社(会社名不明)」が含まれており、しかも、被告ネオケミアと被告ら、セフィーヌ又はスハダコスメチックスの間に会社名不明の訴外会社が介在している。そうすると、原告自身の主張に照らしてみても、各製品の商流には不明な点があり、上記各侵害者間の関係性を含め明らかでないから、被告ネオケミアと各侵害者の行為に客観的に密接な関連共同性が認められるなどとはいえない。

また、被告製品5につき、被告キアラマキアートと被告アイリカとの間に共同不法行為が成立するかも問題となるが、被告キアラマキアートは自ら同製品の宣伝広告をしており(後記10(3)イ(イ))、その売上額や利益額に照らしても、上述した一般的な取引形態と何ら異なるところはなく、被告アイリカが被告キアラマキアートの総代理店的な立場にあったとはいえないし、同被告らの行為に客観的に密接な関連共同性が認められるなどともいえない。

したがって、上記各製品に関し、上記侵害者間に共同不法行為が成立するとまでいうことはできない。

(5)被告製品8

被告アンプリーは、被告ネオケミアから被告製品8を仕入れ、これを被告リズムに転売していたところ、被告リズムは設立当初から被告アンプリーに対して販売する商品の相談をしており、その中で被告製品8を仕入れることになり、被告リズムにとって被告アンプリーは特別な取引先であるとの認識であった(乙B12の1)。これに対し、被告アンプリーは、OEMメーカーではあったが、被告リズムの創業を応援しようと決めて被告リズムと取引を開始し、販路として育成していこうと考え、被告リズムを「販路育成プログラム」対象企業の第一号という位置付けの企業にし、被告リズムと協力して炭酸ガスパックを売り出していたというのである(乙B13の1、弁論の全趣旨)。そして、本件訴訟では、被告アンプリーは被告リズムとの間で顧客や顧客からの注文等に関する情報交換を密にしていたとまで主張しているのであり、被告アンプリーと被告リズムとはそのような関係性にあったと認められる(以上につき弁論の全趣旨)。そして、被告リズムによる売上額は3億円を超えており、被告アンプリー自身の売上額も1億円を超えており、他の被告の他の製品の売上額と比較しても、桁違いに売上額が大きい。このような売上げを上げることができたのは、以上のような被告アンプリーと被告リズムとの間の関係性があったからであると推認され、両社は相互に利用補充しながら、被告製品8の製造、販売をしてきたということができる。したがって、両社の行為には、客観的に密接な関連共同性があったといえ、共同不法行為が成立するというべきである。

これに対し、被告アンプリーらと被告ネオケミアとの関係性についてみると、被告アンプリーは被告ネオケミアの取引先ではあるものの、被告ネオケミアは他にも自ら本件各発明の技術的範囲に属する同種製品(被告製品1、3、4及び15)を製造するなどし、被告アンプリー以外の者に対しても販売していたのである。このような実態に照らせば、被告アンプリーが被告ネオケミアの総代理店的な立場にあったとはいえないし、同被告らの行為に客観的に密接な関連共同性が認められるなどともいえない。

以上より、被告製品8に関し、被告アンプリーと被告リズムとの間に限って共同不法行為が成立する。

(6)被告製品14及び18

被告ネオケミアは被告コスメプロに対して顆粒剤を販売したものの、前記認定のとおり、被告ネオケミアは被告コスメプロ以外の者に対しても顆粒剤を販売していたのである。また、被告コスメプロは他にも本件各発明の技術的範囲に属する同種製品(被告製品1及び15)を製造、販売しており、その製品を被告ネオケミアに対して販売していたというのである。このような実態に照らせば、被告コスメプロが原告主張のような総代理店的な立場にあったとはいえないし、同被告らの行為に客観的に密接な関連共同性が認められるなどともいえない。

したがって、上記各製品に関し、被告ら間に共同不法行為が成立するとまでいうことはできない。

(7)被告製品15

原告の主張によれば、被告クリアノワールが発売元とされているが、製造販売元である被告コスメプロとの間に被告ネオケミアが介在しており、被告ネオケミアは他にも自ら本件各発明の技術的範囲に属する同種製品(被告製品1、3、4及び8)を製造するなどし、被告クリアノワール以外の者に対して上記各製品を販売していたのである。また、被告コスメプロは、被告製品14及び18については被告ネオケミアから顆粒剤を仕入れていたというのである。このような実態に照らせば、被告ネオケミアらが原告主張のような総代理店的な立場にあったとはいえないし、同被告らの行為に客観的に密接な関連共同性が認められるなどともいえない。

したがって、被告製品15に関し、被告ら間に共同不法行為が成立するとまでいうことはできない。

(8)以上より、被告製品8に関し、被告アンプリーと被告リズムとの間に限って共同不法行為が成立する。

10 争点6-1(原告の損害額-特許法102条2項)

(1)被告各製品に係る被告らの売上額について

ア 被告各製品(以下、被告ネオケミア関係では顆粒剤を含む。)に係る被告らの売上額のうち、別紙「請求額一覧表(原告の主張)」の「売上額」欄及び別紙「売上・経費一覧表(被告らの主張)」の「売上額」欄で、黄色で塗られていない部分の金額については、当事者間に争いがない。

なお、前記9で認定・判示したとおり、被告らとトラストウイングスとの間に共同不法行為が成立するとはいえないから、その売上額について検討する必要はない。

イ また、被告製品8に係る被告アンプリーの売上額及び被告製品13に係る被告ウインセンスの売上額について、それぞれ争いがあるものの、争いがあるのは売上額に消費税相当額を含むかどうかという点だけであり、原告自身、他の製品に係る他の被告の売上額については、被告側が税抜の金額をもとに売上額を主張した場合にはこれを争っていないこと(別紙「売上・経費一覧表(被告らの主張)」参照)を踏まえると、上記2つについても、税抜の金額をもとに売上額を捉えるのが相当である。

ウ さらに、被告製品9、11、12、14、17及び18に関して被告ネオケミアが製造、販売した顆粒剤に関する売上額等の算定方法が問題となっているが、各製品の顆粒剤として被告ネオケミアが製造、販売した顆粒剤が使用されていたことに照らすと、原告主張の方法、すなわち各製品を製造、販売していた者の売上額の割合で按分して算出するという方法は合理的なものといえるから、その方法によって算定すべきである。

具体的には、被告製品9、11及び17の製造、販売者の売上額は別紙「請求額一覧表(原告の主張)」の各製品の「売上額」欄記載のとおりであるほか、被告製品12の製造、販売者(エイボン・プロダクツ)の売上額は●(省略)●円である(弁論の全趣旨)から、これらの製品について被告ネオケミアが主張する売上額(合計●(省略)●円)のうち、●(省略)●%を被告製品9の分とし、●(省略)●%を被告製品11の分とし、●(省略)●%を被告製品12の分とし、●(省略)●%を被告製品17の分とすることになる。その計算結果は、同別紙の各製品の「被告ネオケミア」欄の「売上額」欄記載のとおりである。

また、被告製品14及び18の製造、販売者(被告コスメプロ)の売上額は別紙「請求額一覧表(原告の主張)」の各製品の「売上額」欄記載のとおりであるから、これらの製品について被告ネオケミアが主張する売上額(合計●(省略)●円)のうち、●(省略)●%を被告製品14の分とし、●(省略)●%を被告製品18の分とすることになる。その計算結果は、同別紙の各製品の「被告ネオケミア」欄の「売上額」欄記載のとおりである。

エ 以上より、被告各製品の売上額は別紙「裁判所認定額一覧表」の「売上額」欄記載のとおりとなる(別紙「請求額一覧表(原告の主張)」からの変更点は青色で塗られた部分である。)。

(2)被告らの仕入代、原料・材料費、運送費等について

ア 被告各製品に係る被告らの仕入代、原料・材料費、運送費等のうち、別紙「請求額一覧表(原告の主張)」の「経費額」欄及び別紙「売上・経費一覧表(被告らの主張)」の「仕入代、原料・材料費、運送費等」欄で、黄色で塗られていない部分の金額については、当事者間に争いがない。なお、前記9で認定・判示したとおり、被告らとトラストウイングス、セフィーヌとの間に共同不法行為が成立するとはいえないから、それらの仕入代、原料・材料費、運送費等を検討する必要はない。

イ 在庫品等の仕入金額について(被告製品8、9及び15関係)

(ア)被告らは、在庫製品分の仕入金額も経費として売上額から控除すべきであると主張している。

しかし、特許法102条2項の「利益」とは、当該特許権を侵害した製品の売上合計額から侵害製品の製造、販売と直接関連して追加的に必要となった経費のみを控除したものを指すと解するのが相当である。

そして、在庫製品は結局販売されなかった物であるから、当然、その売上げは売上額に計上されておらず、在庫製品の仕入額が、侵害製品の製造、販売と直接関連して追加的に必要となった経費といえないことは明らかである。このことは、その性質上、仮処分申立事件の和解により販売を控えたかどうかなどの在庫製品が生じた理由によって変わるものではないと解される。

また、被告らは、サンプル等として無償で使用されたものがあるとも主張しているが、本件ではその分について売上げがあったものとして売上額に計上されてはおらず、上記在庫製品と同じく、その仕入額が侵害製品の製造、販売と直接関連して追加的に必要となった経費といえないことは明らかである。

なお、被告らは、原告主張のように利益額を算定するのであれば、在庫製品分の仕入金額を被告ネオケミアの売上額等から控除すべきであると主張しているが、被告ネオケミアにおいては在庫製品とならずに販売された以上、そのような算定をすべき理由はないといわざるを得ない。

(イ)以上の判示をもとに、争いがある部分の仕入金額を認定すると次のとおりとなる。

a 被告製品8に係る被告リズムの仕入金額

被告リズムによる被告製品8の仕入数量は3万1446箱、販売数量は少なくとも3万0751箱と認められる(弁論の全趣旨)。したがって、売上額から控除すべき被告製品8の仕入金額は1億2475万0992円(1億2757万0476円×3万0751個/3万1446個)となる。したがって、これに発送費を加えた経費の金額は、1億3518万4458円となる。

b 被告製品9に係る被告SHINの仕入金額

被告SHINによる被告製品9の仕入数量は7550個、販売数量は7450個(包)である。したがって、売上額から控除すべき被告製品9の仕入金額は539万3800円(546万6200円×7450個(包)/7550個)となる。

c 被告製品15に係る被告クリアノワールの仕入金額

被告クリアノワールによる被告製品15の仕入数量は5016個、販売数量は4515個である。したがって、売上額から控除すべき被告製品9の仕入金額は1258万4701円(1398万1143円×4515個/5016個)となる。したがって、これに運送料を加えた経費の金額は、1307万2526円となる。

ウ 被告ネオケミアが製造、販売した顆粒剤の経費額(被告製品9、11、12、14、17及び18関係)

前記(1)ウで売上額について判示したことを踏まえると、経費額についても同様の方法により算定するのが相当である。その計算結果は、別紙「請求額一覧表(原告の主張)」の各製品の「被告ネオケミア」欄の「経費額」欄記載のとおりである。

(3)被告らのその他の経費について(別紙「売上・経費一覧表(被告らの主張)」の「その他の経費」欄)

ア 被告ネオケミアの経費(被告製品1ないし9及び11ないし18関係)

被告ネオケミアについては、R&Dセンター研究員の人件費が売上額から控除すべき経費として主張されている。

確かに、自社従業員の人件費のような固定経費であっても、上記各製品の製造、販売のために特に増加したと認められる場合には、控除すべきと解されるが、上記人件費の金額だけでなく、被告ネオケミアにおける上記各製品の製造工程がどのようなものであるかということや、R&Dセンター研究員の具体的な職務の従事状況等を認めるに足りる証拠はない。そうすると、控除すべき場合に当たると認めることはできないから、控除対象とはならない。

イ 被告コスメプロらの経費

(ア)被告コスメプロの経費(被告製品1、14、15及び18関係)

a パート人件費

被告ら主張の費用が上記各製品の製造、販売のために特に増加したと認められる場合には、控除すべきと解されるが、乙B2の7からは、被告ら主張のパートが関与していた全作業の具体的内容や、パートの上記各製品の製造、販売への具体的な従事状況等を認定することはできない。そうすると、控除すべき場合に当たると認めることはできない。

b 外注の試験研究費

乙B2の9①は、被告コスメプロが取り扱っていたどの商品に関するものか等が判然としないから、これによって控除すべき場合に当たると認めることはできない。これに対し、乙B2の9②及び③は、その作成時期に照らし、被告製品18の防腐、防カビ試験に関するものであると推認することができ、この試験に係る費用(合計3万8880円)は同製品を製造するに当たって必要な費用として負担されたものと認められる。したがって、この費用については、被告製品18を製造、販売しなければ要しなかった費用であり、その製造、販売のために特に増加したものと認められる。

c 広告費等

乙B2の11の(1)ないし(3)の各書証には、「炭酸ガスパック経費」として2分の1又は3分の1の金額が計上されているから、化粧品開発展等において上記各製品だけが取り扱われたわけではないことがうかがわれる。また、関西美容産業フェア2015(乙B2の11(4))においてどのような製品が取り扱われたかは、書証からは判然としない。そして、以上の展示会の目的は、被告コスメプロが製造、販売した製品を紹介するなどというものであり、そのような性質上、上記各製品が製造、販売されたから直ちにその出展に係る費用が増加したとまで認めることはできない。また、乙B2の11には商品チラシ(同(4))等の費用も含まれているが、その具体的内容等は不明であるから、控除すべき場合に当たると認めることはできない。

d 無償配布サンプル代及び展示会配布サンプル代

被告コスメプロは仕入れた製品をサンプルとして無償で配布したのであり、これは本来であれば販売して売上げとして計上されたはずのものが無償配布されたことになる。そして、本件では売上げには実際に販売された製品の売上げだけが計上されている(サンプルとして無償配布されたものが実際に販売された場合に得られた売上額が計上されているわけではない)ところ、無償で配布されたサンプルの仕入額をその販売のための経費とみるのは相当でないというべきである。

e 以上より、被告製品18につき上記bの後半部分(合計3万8880円)の限度で控除が認められ、その余の費用は控除対象とならない。したがって、被告製品18の経費の金額は、上記金額に原料及び材料費並びに運送費を加えた37万6156円となる。

(イ)被告アイリカ及び被告キアラマキアートの広告宣伝費(宣伝広告費)

(被告製品5関係)

まず、被告アイリカの広告宣伝費については、これが被告製品5の製造、販売のために特に増加したと認められる場合には、控除すべきと解されるが、乙B8の8からは、被告製品5に関するものとは認められず、また広告の具体的内容等も不明であるから、その費用が被告製品5の製造、販売のために特に増加したものであるとは認められない。したがって、この広告宣伝費は控除対象とはならない。

これに対し、被告キアラマキアートの宣伝広告費については、同被告は被告製品5に関してプロモーション代として108万9837円を負担したところ(乙B8の4)、これは被告製品5を製造、販売しなければ要しなかった費用であり、その製造、販売のために特に増加した費用と認めることができる。したがって、この費用は控除すべきであり、これに仕入代を加えた経費の金額は、627万7437円となる。

(ウ)被告リズムの広告宣伝費等(被告製品8関係)

a 広告宣伝費

被告ら主張の費用が被告製品8の製造、販売のために特に増加したと認められる場合には、控除すべきと解されるが、乙B12の3にはチラシ印刷費用や、広告掲載料、出展料等の様々な費用が含まれているところ、その大半は被告製品8に関するものかを含め、その費用の具体的内容等が判然とせず(むしろ、平成28年4月の新商品発表パーティーDM(乙B12の3の④)やバランスRウォーター(乙B12の3の⑤)など被告製品8に関係しないことが明らかな費用も含まれている。)、被告製品8の製造、販売のために特に増加したものであるとは認められない。

もっとも、次の各書証によれば、次の各費用(合計174万8029円)については、被告製品8に係るものと認められ、この費用については、被告製品8を製造、販売しなければ要しなかった費用であり、その製造、販売のために特に増加したものと認められる。

・ 乙B12の3の②

平成26年3月10日の請求に係るチラシ2000枚 1万8690円

・ 乙B12の3の③

平成27年3月30日注文に係るリーフ3000枚 2万5466円

同年1月14日注文に係るA4リーフ5000枚 3万4668円

平成26年10月7日注文に係るA4リーフ5000枚 3万4668円

同年7月22日注文に係るA4チラシ5000枚 3万4668円

同年6月9日注文に係るA4リーフ2000枚 1万9224円

同年4月8日注文に係るA4リーフ2000枚 1万9224円

同年4月14日注文に係るA4リーフ2000枚 1万9224円

同年5月1日注文に係るA4リーフ2000枚 1万9224円

・ 乙B12の3の④

平成28年1月31日請求に係るA1ポスター企画製作費・印刷費 48万6000円

平成27年9月11日注文に係るA4リーフ(ブルー)2000枚 1万9224円

同年10月31日請求に係る商品撮影&レタッチ、同リサイズ、雑誌広告リサイズ 9万7200円

同年9月30日請求に係るTOPバナー、エスグラ冊子2Pリサイズ、パンフレット 36万9360円

同日請求に係るリサイズ200×150㎜(クリームの分も含まれていることに照らし、請求額の半額)1万2500円

同年7月21日注文に係るA4リーフ5000枚 3万4668円

同年5月18日注文に係るA4リーフ(ブルー)5000枚 3万4668円

・ 乙B12の3の⑤

平成28年10月31日請求に係るポスター増刷600部(「ボディオー」の分も含まれていることに照らし、請求額の半額とし、10万円の値引きを考慮)7万0833円

同年10月4日注文に係る化粧品研修用資料500冊 9万3960円

同年11月30日注文に係るパンフ増刷数量1万 30万4560円

b 販売手数料

販売手数料は被告製品8が販売された場合に、被告リズムがその販売に関与した者に対してその手数料として支払うものである(乙B12の4の①ないし④、弁論の全趣旨)から、この費用については、被告製品8を製造、販売しなければ要しなかった費用であり、その製造、販売のために特に増加したものと認められる。そして、その金額は上記書証によれば、次のとおり、合計573万3084円と認められる。

平成25年度 1万0920円

平成26年度 193万7844円(各支払明細書の「販売手数料」又は「報酬」欄に計上されている金額の合計額)

平成27年度 362万8800円(同上)

平成28年度 15万5520円

c 販売促進費

乙B12の5からは、その具体的内容等が判然とせず、被告製品8の製造、販売のために特に増加した費用であるとは認められない。

d 旅費交通費

乙B12の6からは、何のために支出された旅費交通費かなどが判然とせず、被告製品8の製造、販売のために特に増加した費用であるとは認められない。

e 以上より、上記a及びbの限度(748万1113円)で控除が認められ、その余の費用は控除対象とならない。したがって、これに前記(2)ア(イ)bで認定した経費(1億3518万4458円)を加えた経費の金額は、1億4266万5571円となる。

(エ)被告アンプリーの展示会費等(被告製品8関係)

a 展示会費

被告ら主張の費用が被告製品8の製造、販売のために特に増加したと認められる場合には、控除すべきと解されるが、被告アンプリーの説明によっても展示会(乙B13の5の①ないし④参照)において被告製品8だけが取り扱われたわけではなく、被告製品8に関する経費を全体の20%として算定しているのである。そして、以上の展示会の目的は、被告アンプリーが製造、販売した製品を紹介するなどというものであり、そのような性質上、被告製品8が製造、販売されたから直ちにその出展に係る費用が増加したとまで認めることはできない。

b 広告費

乙B13の5の⑤及び⑥によれば、被告アンプリーは、被告製品8の広告掲載料として、324万円を支出したと認められる。したがって、この費用については、被告製品8を製造、販売しなければ要しなかった費用であり、その製造、販売のために特に増加したものと認められる。

c 交通費・宿泊費

乙B13の6からは、何のために支出された交通費・宿泊費かなどが判然とせず、被告製品8の製造、販売のために特に増加した費用であるとは認められない。

d 以上より、上記bの限度(324万円)で控除が認められ、その余の費用は控除対象とならない。したがって、これに仕入代を加えた経費の金額は、1億2145万0207円となる。

(オ)被告ウインセンスの人件費(被告製品13関係)

被告ら主張の費用が被告製品13の製造、販売のために特に増加したと認められる場合には、控除すべきと解されるが、乙B18の7の⑲からは、被告ら主張のパートの被告製品13の製造、販売への具体的な従事状況等を認定することはできない。そうすると、控除すべき場合に当たると認めることはできないから、控除対象とはならない。

(カ)被告クリアノワールの宣伝広告費等(被告製品15関係)

a 宣伝広告費

被告ら主張の費用が被告製品15の製造、販売のために特に増加したと認められる場合には、控除すべきと解されるが、乙B20の3には看板製作費用や、広告掲載料、出展料等の様々な費用が含まれているところ、それらが被告製品15に関するものかを含め、その費用の具体的内容等が判然とせず、被告製品15の製造、販売のために特に増加した費用であるとは認められない。

b 交通費

乙B20の5からは、何のために支出された交通費かなどが判然とせず、被告製品15の製造、販売のために特に増加した費用であるとは認められない。

c 以上より、いずれも控除対象とならない。

ウ 以上より、被告各製品に関して控除対象となる経費(仕入代、原料・材料費、運送費等を含む。)は別紙「裁判所認定額一覧表」の「経費額」欄記載のとおりであり、被告各製品に係る被告らの利益額は同別紙の「利益額」欄記載のとおりとなる(別紙「請求額一覧表(原告の主張)」からの変更点は青色で塗られた部分である。)。

(4)推定覆滅事由等について

ア 前提事実に加え、後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

(ア)原告の有するその他の特許権

原告は、本件各特許権のほかに、次の各特許に係る特許権を有する。

a 特許第5164438号(甲51の1。以下「別件第1特許」という。)

出願日 平成19年6月11日

原出願日 平成11年5月6日

登録日 平成24年12月28日

発明の名称 二酸化炭素経皮・経粘膜吸収用組成物

b 特許第5993336号(甲51の2。以下「別件第2特許」という。)

出願日 平成25年4月26日

原出願日 平成11年5月6日

登録日 平成28年8月26日

発明の名称 二酸化炭素経皮・経粘膜吸収用組成物

c 特許第5643872号(甲51の3)

出願日 平成25年4月26日

原出願日 平成11年5月6日

登録日 平成26年11月7日

発明の名称 二酸化炭素経皮・経粘膜吸収用組成物

(イ)原告製品

原告は、平成11年9月以降、「メディプローラー」及び「スパオキシジェル」との商品名でジェル剤と顆粒剤からなる2剤混合型の炭酸パック(以下「原告製品」という。)を製造、販売している。また、原告は、各製品について、「お肌を内側から潤す、炭酸のチカラ」、「シュワシュワッとはじけた炭酸ガスがお肌の代謝に必要な“酸素”を届けます」などと宣伝している。原告製品の使用方法としては、ジェルと顆粒をカップに入れて、スパチュラなどでまんべんなく混ぜ、できあがったジェルを清潔にした肌に厚めに塗り、そのまま約20分間から30分間パックし、スパチュラなどでジェルをおおまかに取った後、濡れタオルなどで拭き取り、洗い流すとされている。

また、原告は、株式会社フェブリナが販売する炭酸ジェルパック(商品名:ナノアクアジェルパック)の製造、販売もしている(甲5、6、46、55の2)。

(ウ)原告による訴訟提起及び訴訟外の和解等

a 原告は、株式会社KBCらが本件特許権1を侵害したなどとして、大阪地方裁判所に対し、同社らを被告として、損害賠償及び補償金の支払等を請求する訴訟を提起したところ、同裁判所及び知的財産高等裁判所はともに、補償金算定の基礎となる実施料率を10%と認定した(甲29、30、52の1)。

b 原告は、株式会社クレジェンテ(旧商号株式会社グラシアス)らが本件特許権2を侵害したとして、大阪地方裁判所に対し、同社らが製造、販売していた製品の製造、販売の差止め及び損害賠償等を請求する訴訟を提起した。そして、原告と被告らとの間で、平成26年4月16日、被告らが上記製品を製造、販売しないこと、解決金200万円を連帯して支払うことなどを内容とする和解が成立した(甲52の2)。

c 原告は、株式会社エイチ・ツー・オーに対し、別件第1特許に係る特許権に基づき、同社が製造、販売している製品の製造、販売の中止を求め、同社との間で、平成25年4月30日、その製品の売上額の10%に相当する56万1219円の解決金の支払を受けることなどを内容とする訴訟外の和解をし、その解決金の振込みを受けた(甲49、57の1)。

d 原告は、株式会社ライズに対し、別件第1特許に係る特許権に基づき、同社が販売している製品の販売の中止を求め、同社との間で、平成25年10月1日、その製品の売上額の10%に相当する34万6225円の解決金の支払を受けることなどを内容とする訴訟外の和解をし、その解決金の振込みを受けた(甲50、57の2)。

e 原告は、別紙「炭酸関連の化粧品一覧」の6及び9番記載の製品を製造、販売している株式会社ハッピーワンに対し、別件第1特許に係る特許権を侵害したとして、同6番記載の製品の製造、販売を直ちに中止するよう求める通告書を送付した(甲56)。

f 原告は、株式会社クレジェンテが別件第2特許に係る特許権を侵害したとして、大阪地方裁判所に対し、同社が製造、販売している製品の製造、販売の差止め及び損害賠償等を請求する訴訟を提起した(甲52の3)。

(エ)被告ネオケミアが有する特許権

被告ネオケミアは、次の各特許に係る特許権(以下、これらの特許権に係る発明を「被告ネオケミア特許発明」という。)を有する。そして、被告各製品の中には、この特許権の存在や、特許取得済であることを外装箱に明記したり、宣伝広告に明記したりしているものがあった(甲7、8、17、20)。

a 特許第4130181号(乙A18)

出願日 平成16年6月21日

原出願日 平成14年4月5日

登録日 平成20年5月30日

発明の名称 二酸化炭素外用剤調製用組成物

特許請求の範囲

【請求項1】

水溶性酸としてリンゴ酸、増粘剤として加工澱粉、デキストリン及び馬鈴薯澱粉から選択される1種又は2種以上、この増粘剤とは別の物質である水溶性分散剤として乳糖を必須成分とし、前記増粘剤が前記水溶性酸及び前記水溶性分散剤と混合されている粒状物と、

炭酸塩、水、増粘剤としてアルギン酸ナトリウム、アルギン酸プロピレングリコールエステル、カルボキシメチルセルロースナトリウムから選択される1種又は2種以上を必須成分とし、使用時に前記粒状物と混合する粘性組成物とを含み、

前記粒状物全体に対して前記水溶性酸が2~50重量%、前記粒状物の増粘剤が10~40重量%、前記水溶性分散剤が30~85重量%であり、

前記粘性組成物全体に対して炭酸塩が0.1~10重量%、水が70~97.5重量%、前記粘性組成物の増粘剤が0.5~20重量%であり、

前記粒状物と粘性組成物との重量比が1:10~40であることを特徴とする二酸化炭素外用剤調製用組成物。

b 特許第4248878号(乙A19)

出願日 平成14年4月5日

登録日 平成21年1月23日

発明の名称 二酸化炭素外用剤調製用組成物

特許請求の範囲

【請求項1】

水溶性酸、増粘剤として加工澱粉、デキストリン、ヒドロキシプロピルセルロースおよびキサンタンガムから選択される1種又は2種以上、この増粘剤とは別の物質である水溶性分散剤としてD-マンニトール、乳糖および尿素から選択される1種又は2種以上を必須成分とし、増粘剤が水溶性酸及び水溶性分散剤と混合されている粒状物と、

炭酸塩、水、増粘剤としてアルギン酸ナトリウム、アルギン酸プロピレングリコールエステルおよびカルボキシメチルセルロースナトリウムから選択される1種又は2種以上を必須成分とし、使用時に前記粒状物と混合する粘性組成物とを含み、

前記粒状物全体に対して水溶性酸が2~50重量%、前記粒状物の増粘剤が10~40重量%、前記水溶性分散剤が30~85重量%であり、

前記粘性組成物全体に対して炭酸塩が0.1~10重量%、水が70~97.5重量%、前記粘性組成物の増粘剤が0.5~20重量%であり、

前記粒状物と粘性組成物との重量比が1:10~40であり、

かつ、前記粘性組成物が、二酸化炭素外用剤の皮膚粘膜への粘着性と延びを良くして美容又は医療効果を高めるための1、3-ブチレングリコールを1~15重量%含むことを特徴とする二酸化炭素外用剤調製用組成物。

c 特許第4589432号(乙A20)

出願日 平成20年11月21日

原出願日 平成14年4月5日

登録日 平成22年9月17日

発明の名称 二酸化炭素外用剤調製用組成物

特許請求の範囲

【請求項1】

水溶性酸、増粘剤として加工澱粉、デキストリン、馬鈴薯澱粉、トウモロコシ澱粉、キサンタンガム及びヒドロキシプロピルセルロースから選択される1種又は2種以上、この増粘剤とは別の物質である水溶性分散剤として乳糖、白糖、D-マンニトール、及び尿素から選択される1種又は2種以上を必須成分とし、前記増粘剤が前記水溶性酸及び前記水溶性分散剤と混合されている粒状物と、

炭酸塩、水、増粘剤を必須成分とし、使用時に前記粒状物と混合する粘性組成物とを含み、

前記粒状物全体に対して前記水溶性酸が2~50重量%、前記増粘剤が10~40重量%、前記水溶性分散剤が30~85重量%であり、

前記粘性組成物全体に対して炭酸塩が0.1~10重量%、水が70~97.5重量%、前記粘性組成物の増粘剤が0.5~20重量%であり、

前記粒状物と粘性組成物との重量比が1:10~40であることを特徴とする二酸化炭素外用剤調製用組成物。

(オ)被告各製品

a 被告各製品の外装箱には、「特徴 本製品は、顆粒とジェルを混ぜることで発生する炭酸ガスの力で、効率よく皮膚(角層)にはたらきかけます。」(被告製品3)とか、「顆粒とジェルを混ぜることで発生する炭酸ガスの力で、効率よく皮膚※にはたらきかけます。お肌本来の力をサポートし、みずみずしい健やかなお肌へと導きます。※皮膚:角質層」(被告製品4)、「酸素で満たされて、フレッシュなお肌に生まれ変わります。」(被告製品6)などと、炭酸ガスの皮膚への効果が強調されていた。また、その販売サイトにおいても同趣旨の記載がされていることがあったほか、「炭酸ガスをお肌に届けることでボーア効果を利用して内側からアプローチします。」(被告製品9)などとの記載もみられた(甲7、8、22、26、41)。

b 被告各製品の使用方法は、製品によって若干異なるものの、概ね、①A剤(顆粒)とB剤(ジェル)を軽く混ぜ合わせ、少し厚め(1㎜程度)に顔全体に広げる、②パックの目安時間は20ないし30分程度、③パック終了後、付属のスパチュラでジェルを取り除く、④顔にジェルが残らないように、最後に軽く洗顔し洗い流す(被告製品3)などというものである。

ただし、②の時間については、15分以上とするもの(被告製品5)や、15分から30分(程度)とするもの(被告製品13、14)、15分ないし20分とするもの(被告製品9)などがあり、被告各製品から得られる組成物の使用時間(パック時間)は15分ないし30分程度である。

また、③及び④につき、被告製品1については、ムース状のジェレーターをスパチュラに適量とり、顔に塗布したジェルを覆うように、少量を薄く塗り広げる、ジェレーターを全体に塗り終えたら数回に分けてジェルをはがす、はがし残りのジェルは拭き取るか、洗い流して完全に除去するとされていたほか、被告製品8についても、きれいに洗ったスパチュラに、付属フィクサー(硬化剤)を適量取って、これをまずは顔のジェルを覆うように塗り広げ、徐々に表面が固まった後に、ゆっくりとはがす、はがした後は必ずきれいに洗い流し終えるとされていた。さらに、被告製品15においてもジェルをはがすのに固化剤を使用することとされていた(甲7、8、20、乙A36の3、42の4、乙E全27の3)。

c 第三者のホームページには、被告各製品について、例えば、「体の中の炭酸ガス濃度が高まる→身体が「細胞の活動が活性化している」と判断→血液内の酸素を肌におくる、という作用があります」(被告製品4。乙A37の2)とか、「炭酸の力をギュッ!と凝縮、肌そのものをイキイキと活性にさせる新しい発想のエイジングケアのためのパックです。」(被告製品16。乙A43の2、乙E全26の2)と記載されるなど、二酸化炭素の経皮吸収効果が記載されていた(乙A36ないし45、乙E全27、28)。

d 第三者のホームページ(販売者のものを含む。)では、次のように被告各製品の部分肥満改善効果にも触れられていた。

(a)被告製品1(甲13)

「部分痩せ効果もあるらしく、顔の二の腕のむくみなら最短1回のパックで効果が期待できるようです。脂肪レベルの部分痩せは1か月ほどパックを続けていると効果を発揮すると説明されています。」

(b)被告製品2(甲14)

「何度が使ううちに毛穴がひきしまって、フェイスラインが引き締まってきました。小顔になったと実感」

(c)被告製品3(甲15)

「炭酸パックを使用すると、肌の血流や細胞の活動が活性化するため、たまっていた老廃物が排出されます。その結果、むくみの原因である水分の滞りが改善されるんです。すると、顔のむくみが引いて小顔効果がアップ。フェイスラインがすっきりし、シャープなラインに変化してきます。また、炭酸パックを使用することで新陳代謝も良くなるため、部分痩せ効果も期待大。」

(d)被告製品4(甲16)

「酸素量アップ 血管拡張、老廃物の排泄促進、タンパク合成活性化、脂肪の代謝痩身」→「くすみの改善、小顔効果等」等

(e)被告製品6(甲18)

「血行促進だけでなく、美白、部分痩せにも効果を発揮します。」

(f)被告製品8(乙A38の2)

「炭酸ガスパックの主な効果」 「小顔効果…血行が活性化し新陳代謝が高まることで、むくみがとれて小顔効果があります」

(g)被告製品9(甲8)

「ご愛用者様の感想」「小顔になった!」

(h)被告製品11(甲10)

(製品の特徴)「たるみを解消してフェイスラインをすっきりと」「コラーゲン合成の活性化でシワ改善。脂肪代謝促進で小顔効果が期待。」

(ご使用ペースのアドバイス)「顔痩せ…脂肪レベルでの効果は、毎日1ヶ月を目安に。その後、効果維持の為には、最低週2回を継続。」

(i)被告製品13(乙A40の2)

(製品使用の効果は)「部分痩せ 顔や二の腕などのむくみに早い人では1回のパックで効果が期待出来ますが、脂肪レベルでの効果は1ヶ月を目安にしてください。効果維持の為に少なくとも週2回はパックを行ってください。」等

(j)被告製品15(乙A42の3)

「…小顔ケアに、ご自宅でいつでもサロン並みのお手入れを」

(k)被告製品16(甲24、乙A43の5、乙E全26の5)

「アヴィナスセレブジェルパックの効果」「部分痩せ促進効果 炭酸ガスが筋肉繊維に働きかけ、脂肪代謝を活性化させる 小顔・たるみ改善・フェイスリフティング効果」(甲24)

「アヴィナスセレブジェルパックによる炭酸ガス効果で感動小顔実現!!」

「アヴィナスセレブジェルパックの効果 小顔…余分な脂肪を燃焼させてフェイスラインをキュッとシャープに」(乙A43の5、乙E全26の5)

(l)被告製品17(甲23)

「ご愛用者様の感想」「小顔になった!」

e さらに、第三者のホームページには、「使用方法もいたってシンプル!…パックが剥がしやすいように最後に凝固剤の役割となるジュレのようなものを乗せるので、簡単にジェルが取り除けるように工夫されているのも特徴の1つ」(被告製品1。乙A36の2、乙E全27の2)、「オールスキンタイプの弱酸性炭酸ガスパックです」(被告製品8。乙A38の2)、「炭酸のチカラが注目の美容成分をお肌へしっかり浸透させます!」、「10種の美容成分を配合」(被告製品12。乙A39の2)、「高濃度炭酸ガスを効率的に角質層へ浸透させるため、粘性の高いジェル」を使用している(被告製品18。乙A45の2)などと製品独自の特徴も記載されていた(乙A36ないし45、乙E全27、28)。

イ ここで被告らが推定覆滅事由として主張していることについて検討する。

(ア)まず被告らは、原告製品と被告各製品の効能に関し、推定覆滅事由があると主張している。

そして、被告らは、ボーア効果を高めるために、①発生した炭酸ガスを逃がさせない技術及び②炭酸ガスの経皮吸収時間を長く続かせる技術が必要であるなどと主張しているが、被告らの主張する上記①及び②は本件各明細書でも触れられている気泡の持続性と実質的に変わらないものと認められるし、パック時間を15分ないし30分程度としている原告製品と被告各製品において、二酸化炭素の皮膚への効果・効能が相当程度異なることを認めるに足りる証拠はない。

また被告らは、被告各製品に部分肥満改善効果はみられないと主張している。しかし、被告らの主張は前記認定の被告らや被告各製品の販売業者による宣伝広告の内容と整合的ではないし、また前記2(1)で認定したとおり、二酸化炭素には部分痩せや痩身効果があることが知られているところ、被告各製品においては増粘剤を事前調製しておくことにより、より多くの二酸化炭素を持続的に皮下組織等に供給させるという本件各発明の固有の作用効果を奏していることから、部分肥満改善の効果がないと認めることはできない。

なお、被告らは、部分肥満改善効果は他社製品との差別化要因として機能していないとも主張し、乙A35及び乙E全25を証拠提出しているが、これらの証拠はアンケート項目にすぎないし、被告らの主張は、前記認定の第三者のホームページで被告各製品に関して顔の部分肥満効果があることに触れているものが相当数あったことに照らし、採用できない。

以上より、原告製品と被告各製品との効能に関し、推定覆滅を認めるほどの違いがあったと認めることはできない。

(イ)次に被告らは、原告製品が利便性に劣るとか、被告各製品の販売は被告ら等の企画力・営業努力によって成し遂げられたものであると主張している。

確かに、被告らが各製品の利便性を高めたり、より売上げを上げるために営業努力をしたりしていたことがうかがわれ、そのことが被告各製品の販売に相当程度寄与したことは否定し難い。しかし、事業者は、製品の製造、販売活動に当たり、相応の工夫や営業努力等を行うのが通常であり、上記のような被告らの工夫や営業努力等が通常の工夫や営業努力等の範囲を超えた格別のものであるとまでは認められない。そもそも、前記認定のとおり、被告各製品から得られる組成物では増粘剤を事前調製しておくことにより、より多くの二酸化炭素を持続的に皮下組織等に供給させるという本件各発明の固有の作用効果を奏しており、炭酸パック化粧料においてそのような作用効果が重要であることは明らかである。そして、前記認定のとおり、被告各製品の宣伝広告においては、二酸化炭素による皮膚の美容上の問題や部分肥満の改善効果を実現することが強調されており、第三者のホームページの記載内容も踏まえると、二酸化炭素の皮下組織等への供給効果も消費者の購入動機に相当程度影響を与えたものと認めるのが相当である。

そうすると、被告ら主張の事由は、推定覆滅事由に当たるとまで認めることはできない。

(ウ)さらに被告らは、被告各製品は被告ネオケミア特許発明の技術的範囲に属することを主張している。

確かに、前記認定のとおり、被告各製品の外装箱には被告ネオケミア特許発明に係る特許権の存在等が明記されるなどしていたのであり、被告各製品の販売に際して、被告各製品が被告ネオケミア特許発明の技術的範囲に属していることが強調されていたことがうかがわれる。

しかし、被告らは被告各製品の配合成分やその割合を具体的に主張立証しておらず、被告各製品が被告ネオケミア特許発明の技術的範囲に属することを立証していないし、仮に被告ら主張のとおり、被告各製品が被告ネオケミア発明の技術的範囲に属していたとしても、被告ネオケミア発明は、「美容効果及び医療効果を有する二酸化炭素外用剤を調製するために用いられる組成物に関する」発明であって(乙A18ないし20の【0001】)、その目的は「調製が短時間で容易に行え、衣服等を汚すことがなく、より強い美容及び医療効果が、より短時間で得られる二酸化炭素外用剤を調製することができる二酸化炭素外用剤調製用組成物を得ることにある」(乙A18ないし20の【0008】)ところ、本件各発明と技術分野を共通にしているだけでなく、本件各発明の実施品である原告製品では「調製が短時間で容易に行え、衣服等を汚すことがなく、より強い美容及び医療効果が、より短時間で得られる」という作用効果が得られないとは認められず、効果に顕著な差があると認めるに足りる証拠もない。そして、本件各発明の固有の作用効果は、増粘剤を事前調製しておくことにより、より多くの二酸化炭素を持続的に皮下組織等に供給させる点にあるところ、被告各製品において本件各発明の作用効果を奏していることの意義は大きく、また前記認定のとおり、その販売に際しても二酸化炭素の皮下組織等への供給による効能・効果が強調されていたのである。

そうすると、被告ら主張の点が消費者の購入動機に影響を与え、推定が覆滅されるとまで認めることはできない。

(エ)加えて被告らは、本件各発明の本質的特徴に照らしてその効果は付随的なものにすぎないなどと主張している。

a 確かに、二酸化炭素(炭酸ガス)を利用したパック化粧料は従来から販売等されていた(甲5、乙A102、105、114、乙E全3、6等)から、二酸化炭素を皮下組織等に供給させるなどというだけでは、消費者の購入動機を形成するとは認められないが、前記1で認定・判示したとおり、本件各発明の固有の作用効果は、増粘剤を事前調製しておくことにより、より多くの二酸化炭素を持続的に皮下組織等に供給させる点にあるところ、この作用効果は、炭酸パック用化粧料のキットである原告製品及び被告各製品にとって本質的な機能・効能に関わる作用効果ということができ、消費者の購入動機に与える影響は大きいものと認められる。

なお、前記1(1)イ(エ)bで認定したとおり、ブチレングリコールが配合されている場合には、事前調製型の本件各発明を実施したことの寄与は限定的であるといわざるを得ないが、被告各製品のジェル剤にブチレングリコールは配合されていないから、この点は問題とならない。

また、原告は本件各特許権以外の原告の有する特許権の存在を指摘しているが、被告各製品が本件各特許権以外の原告の有する特許権に係る発明の技術的範囲に属していることを認めるに足りる証拠はないから、本件において原告主張の点は考慮しない(被告ネオケミアは、被告準備書面(13)(平成29年12月26日付け)及び準備書面(15)(平成30年2月14日付け)において、原告のした本件各特許権以外の原告の有する特許権に係る特許を回避した炭酸パックを製造することは困難であるとの主張について、時機に後れた攻撃防御方法として却下することを申し立てている。しかし、原告は自らの上記主張を立証しておらず、その主張を認めることはできないから、原告の上記主張がされただけで訴訟の完結を遅延させることとなるとは認められない。したがって、被告ネオケミアによる上記却下の申立てを却下することとする。)。

b 被告らは競合品が存在していたとも主張しているが、推定覆滅事由となるためには、当該競合品が本件各特許と同等の作用効果を有しており、需要者である消費者にとって、同等の選択肢として競合する存在であることを要すると解するのが相当である。

この観点から見ると、被告らが競合品であると主張する商品のうち、ジェルタイプの2剤型でないものは被告各製品と明らかに構成を異にするから、競合品とはいえない。また、前記認定の本件各発明の技術的意義等に照らすと、ジェルタイプの2剤型であっても、事前調製型でない商品は競合品に当たらないというべきである。

そのような観点から別紙「炭酸関連の化粧品一覧」を検討すると、本件各発明と同じくジェルタイプの2剤型で、事前調製型である商品は、ジェルと粉末の2剤型である同別紙の5、6、9番の商品(乙A79、80、83、乙E全49、50、53。なお、同3番の商品は粉末を水で溶かすもので、本件各発明とは異なる構成である。)と、ジェルとジェルの2剤型である同別紙の2、12、14ないし16、26の商品(乙A76、86、88ないし90、100、乙E全46、56、58ないし60、70)がある。しかし、それらの競合品の販売時期やシェアは不明であるから、そのような証拠状況の下では、推定が覆滅されると認めることはできない。

c 以上より、被告らの上記主張は採用できず、本件各発明の効果が付随的なものにすぎないとはいえない。

(オ)さらに被告らは、ジェルと粉末の組み合わせは技術常識であるから本件各発明の技術的価値が低いと主張している。

しかし、被告らが挙げている資生堂614、乙E全41、日清324はいずれも二酸化炭素を発生させる化粧料に関する発明ではない(乙A103、乙E全9、35、36、41)から、上記被告らの主張は採用できない。また、被告らは、本件各発明の骨格が2剤を用時混合することにより気泡状の二酸化炭素を発生させることにあり、これが周知技術であると主張しているが、本件各発明の特徴がそれにとどまらないことはこれまでに述べたとおりである。さらに被告らは、本件各発明が石垣発明1及び2を出発点として、技術常識を駆使することにより想到できるものであると主張しているが、石垣発明1及び2は、いずれも発生した炭酸ガスの気泡の破裂により皮膚等をマッサージするための発泡性化粧料の発明である(乙E全4、37、38)から、これらに被告ら主張の技術常識を組み合わせることには、阻害要因があり、容易に想到し得たとは認められない。

したがって、被告らの上記主張は採用できず、本件各発明の技術的価値が低いとはいえない。

(カ)被告らはその他にも様々なことを推定覆滅事由として主張しているが、以上の認定・判示に照らして採用できないか、推定覆滅事由になると認めることはできない。

(キ)したがって、本件では特許法102条2項による推定は覆滅されない。

(5)なお、被告コスメプロらは本件各特許権の侵害につき故意又は重大な過失がなかったことを損害賠償額を定めるについて考慮すべき旨主張しているが、仮に被告コスメプロらに故意及び重大な過失がなかったとしても、被告コスメプロらが主張する事情を損害賠償額を定めるについて考慮することが相当とはいえない。

(6)以上より、特許法102条2項により算定される損害額は、別紙「裁判所認定額一覧表」の「利益額」欄記載のとおりとなる(なお、被告製品8に関しては、被告リズムと被告アンプリーとの間には共同不法行為が成立するから、両者の利益額を合算した金額について同被告らは不真正連帯責任を負う。)。

11 争点6-2(原告の損害額-特許法102条3項)

(1)原告は予備的に特許法102条3項により算定される損害額も主張しており、この金額が同条2項により算定される損害額よりも高くならないかを検討しておく。

(2)証拠(甲48、乙A49)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

ア 株式会社帝国データバンクが作成した「知的財産の価値評価を踏まえた特許等の活用の在り方に関する調査研究報告書~知的財産(資産)価値及びロイヤルティ料率に関する実態把握~(平成22年3月)」(以下「本件報告書」という。)の表Ⅲ-10には、国内企業のロイヤルティ料率に関するアンケート結果として、産業分野を化学とする特許のロイヤルティ率は5.3%と記載されている。

もっとも、平成19年の国内企業・団体に対するアンケート結果を記載した表Ⅱ-3には、技術分類を化学とする特許のロイヤルティ率の平均は4.3%(最大値32.5%、最低0.5%)(件数103件)と記載されている。

イ 本件報告書の表Ⅲ-12には、平成16年から平成20年までの産業分野を化学とする特許の司法決定によるロイヤルティ料率は、平均値6.1%(最大値20%、最小値0.3%)(件数5件)と記載されている。

他方で、本件報告書の表Ⅲ-11には、平成9年から平成20年までの産業分野を化学とする特許の司法決定によるロイヤルティ料率は、平均値3.1%(中央値3.0%、最高値5.0%、件数7件)と記載されている。

(3)以上認定の事実や前記10の認定・判示を踏まえ、被告各製品の販売について相当な実施料率を検討すると、本件各発明の技術分野が属する分野の近年の統計上の平均的な実施料率が、国内企業のアンケート結果では5.3%で、司法決定では6.1%であり、また、本件が侵害訴訟にまで至った事案であることを踏まえると、本件での実施料率は●(省略)●相当である。

したがって、特許法102条3項により算定される損害額は、別紙「裁判所認定額一覧表」の「●(省略)●の金額」欄記載のとおりとなる(別紙「請求額一覧表(原告の主張)」からの変更点は青色で塗られた部分である。)。そして、被告各製品が転々譲渡された場合に原告が得られたはずの実施料相当額は、商流中の最も売上額の高い者に対する金額が上限となるから、共同不法行為が認められない場合には、各被告は、被告各製品につき、自己が負う実施料相当額の限度で他の被告と不真正連帯責任を負い、共同不法行為が認められる場合には、各被告は、商流中の最も売上額の高い者に対する実施料相当額について不真正連帯責任を負うと解するのが相当である。

したがって、被告製品5に関する被告キアラマキアートの損害額、被告製品9に関する被告SHINの損害額並びに被告製品11及び17に関する被告ジャパンコスメの損害額は、それぞれ前記10で認定した同条2項により算定される損害額よりも高いから、これらについては、その金額を原告の損害額と認めるべきことになる。

他方、その余の被告各製品に関する被告らの損害額については、いずれも前記10で認定した同条2項により算定される損害額の方が高いから、これらについては、同条2項により算定される損害額を原告の損害額と認めるべきことになる。

12 まとめ

(1)損害賠償請求

前記11で判示したとおり、特許法102条2項又は同条3項により算定される損害額をもって原告の損害額と認めるべきである。そして、原告は本件訴訟の追行等を原告訴訟代理人に委任した(当裁判所に顕著な事実)ところ、被告らの行為と相当因果関係のある弁護士費用は、別紙「裁判所認定額一覧表」の「利益額」又は「●(省略)●の金額」欄記載の金額の1割(ただし、原告主張の範囲内)と認めるのが相当であり、原告の損害合計額は、同別紙の「利益額+弁護士費用」又は「実施料+弁護士費用」欄記載のとおりとなる。

したがって、原告の損害賠償請求は、同別紙の同欄記載の金額の限度で認容すべきである。

(2)遅延損害金の起算日

本件で原告は、被告各製品の販売期間の終期又はそれより後の日を遅延損害金の起算日として主張しているところ、まず、販売終期として被告らが主張する日又はそれより後の日を原告が起算日として主張しているものについては、原告主張のとおりの起算日とすることとする。また、そうでないものについては、被告リズムは被告製品8を平成29年2月28日まで販売し(乙B12の2)、被告ジャパンコスメは被告製品11を平成27年12月3日まで販売し(乙B16の2の⑧)、被告ウインセンスは被告製品13を同年1月まで販売し(乙B18の5)、被告クリアノワールは被告製品15を同月まで販売し(乙B20の1の⑭)、被告ジャパンコスメは被告製品17を平成25年10月7日まで販売し(乙B16の4の②)、被告コスメプロは被告製品18を平成26年12月26日まで販売していた(乙B2の5の②)から、その販売終期日(その日が日単位で不明の場合はその月末)を遅延損害金の起算日とすることとする。また、被告らが販売期間を主張していないものについては、証拠(被告製品5の被告キアラマキアートにつき乙B8の3の⑦)又は弁論の全趣旨により、原告主張のとおりの起算日を認めることとする。

(3)差止請求・廃棄請求

被告らは被告各製品が本件各発明の技術的範囲に属することを争い、本件訴え提起後もその製造、販売を継続していたこと等を踏まえると、仮に現時点では被告各製品の製造、販売が中止されているものがあるとしても、被告らによって本件各特許権が侵害されるおそれがあると認めるのが相当である。したがって、原告による差止請求は認容すべきである。

また、被告らによる本件各特許権の侵害を予防するために、被告各製品及び別紙「被告製品一覧表」の「顆粒剤」欄記載の顆粒剤の廃棄請求を認めるのが相当である。

5.検討

(1)本件は特許権が2件で最終的に被告が11社、被告製品が18種もある訴訟でした。原告は以前検討したことがある補償金請求事件(平成27年(ワ)第8621号)と同じ特許権者で、発明も共通するものがあります。

(2)発明自体は、炭酸塩と酸を反応させることで発生する二酸化炭素を気泡状で保持できる含水粘性組成物と顕粒剤等との組み合わせて、二酸化炭素含有粘性組成物を得るためのキット、というものです。

(3)被告がたくさんいますが、大きく見ると、①このキットの完成形を製造販売する被告と、②顕粒剤を製造販売する被告(この被告から購入した顕粒剤に他の物質を組み合わせて完成形を作る訴外会社が存在し、さらにこの訴外会社から完成形を購入し販売する会社も①の被告)に分けられるようです。

(4)侵害論・損害論ともに判断が悩ましいような論点は無かったように思われますが、未だに間接侵害の成立が認められるケースは少ないので、参考になる判決だと思います。