看護支援システム

投稿日: 2020/10/12 4:29:44

今日は、平成31年(ワ)第2210号 特許権侵害行為差止等請求事件について検討します。判決文によると、原告はである株式会社レイズは、情報システム業、情報サービス業、情報提供サービス業のほか、医療機関向け情報端末システム等の情報システムの開発、設計、管理、運用及びその販売等を業とする株式会社、一方、被告である株式会社ヴァイタスは、医療機関及び医療関連企業に対するコンサルティング業務、情報処理に関するソフトウェア及びハードウェアの開発、販売、リース等を業とする株式会社だそうです。

 

1.検討結果

(1)本件は、抵触性と有効性が争点となっています。被告による非抵触主張のうちの一つは第1判定と第2判定は時間を置かずに続けて行うものであるので、被告製品は非抵触というものでしたが明細書等の記載からしてもそのような限定解釈は困難であると、判断されました。また、他の非抵触主張は無効主張と同質のものであるため無効主張が認められなかった時点で非抵触主張も認められませんでした。

(2)無効主張の最大の論点は、公知文献に「前記第1患者識別情報と、患者を識別する情報としてあらかじめ記憶された第2患者識別情報とが一致するか否かを判定する第1判定部」が開示されているか否かという点でした。これについて乙1公報記載の電子カルテサーバは、ベッドサイド端末から受信したベッドサイド端末識別子に基づいて、これとあらかじめ関連付けて記憶されている患者名を取得する発明が開示されていました。判決では前者は患者固有の情報、後者はベッドサイド端末に固有の情報であり、両者は異なる概念であると認定し、さらに当該電子カルテサーバでは、あらかじめベッドサイド端末識別子と患者名(患者識別子)が関連付けられているだろうが、どのように関連付けられているのか記載がない点を指摘しています。その上で、乙1公報記載の発明には本件発明における第1判定に相当する構成を備えていないとして、本件発明は乙1公報記載の発明に基づき無効と判断されるものではない、としています。

(3)本件発明は患者の患者識別情報を取得し、その患者識別情報と予め記憶手段に格納されている患者識別情報とが一致するか否か判定しています。一方、乙1発明はベッドサイド端末の識別子を取得し、その識別子に対応する患者識別子をベッドサイド端末情報記憶部から取得するものです。つまり前者は読み取った患者情報について事前に記憶された患者情報に該当するものがあるのかチェックするのに対して、後者は取得したベッドサイド端末の識別子は必ず記憶部に格納されていることが前提となっているといえます。

(4)前者の患者識別情報は具体的には患者のリストバンドのバーコードですが、後者はベッドサイド端末識別子という名称からして個々のベッドに割り振られたものと思われます。一見すると両者の情報の間にはそれほどの違いが無いように思われますが、前者は個々の患者が保有するものですが、後者はいわばベッドが保有するものといえます。

そうなると極端なことを言えば、本件発明の場合は患者が誤って他人のベッドに寝ていたとしても患者の取り違えなどは起こりませんが、乙1公報記載の発明だと取り違える可能性を排除する効果が本件発明よりも低いといえます。そうした点を考慮すると本件発明の患者識別情報と乙1発明のベッドサイド端末識別子は異なる概念であるといえます。

(5)本件訴訟と並行して進んでいた特許無効審判では請求不成立審決、その審決取消訴訟では請求棄却となり、現在は新たな特許無効審判が係属しています。この新しい特許無効審判については審決が出ていないのでどのような無効理由なのかわかりませんが、被告のHPによると、本件発明が出願前から公然実施されているというニュアンスの文言と被告自身が出願前から実施していたという文言もあります。そうすると、新たな特許無効審判では公然実施による無効主張と、公知文献の組み合わせによる進歩性欠如による無効主張の2本立ての可能性があります。

2.手続きの経緯

(1)特許1(特許第6407464号)

(2)特許2(特許第6309504号)

① 特許第6407464号は特願2015-25513からの第1世代の分割出願で、この親出願が特許(特許第6309504)となったものが本件特許2です。

② 本件特許出願1からさらに第3世代の分割出願(特願2018-127632(特許第6545871号))が存在し、さらにこの出願から第4世代の分割出願(特願2019-114135)が存在します。

3.本件発明

(1)本件発明1

ア 本件発明1-1

1-1A 患者を識別するための第1患者識別情報(患者ID)を端末装置(3)より取得する第1取得部(21)と、

1-1B 前記第1患者識別情報(患者ID)と、患者を識別する情報としてあらかじめ記憶された第2患者識別情報とが一致するか否かを判定する第1判定部(11)と、

1-1C 前記第1判定部(11)が一致すると判定した場合、前記第2患者識別情報に対応する患者の医療情報を、前記端末装置(3)へ出力する第1出力部(16)と、

1-1D 前記第1判定部(11)で一致すると判定された場合に、看護師または医師を識別するための第1医師等識別情報(看護師又は医師ID)を前記端末装置(3)から取得する第2取得部(21)と、

1-1E 前記第1医師等識別情報(看護師又は医師ID)と、看護師または医師を識別する情報としてあらかじめ記憶された第2医師等識別情報とが一致するか否か判定する第2判定部(11)と、

1-1F 前記第2判定部(11)が一致すると判定した場合、前記第2患者識別情報に対応する患者の医療情報のうち前記看護師または前記医師が必要とする医療情報を含む表示画面(9)を、前記端末装置(3)へ出力する第2出力部(16)と、を備える情報処理装置。

イ 本件発明1-2

1-2G 前記第1出力部(16)は、前記第1判定部(11)が一致すると判定した場合、前記第2患者識別情報に対応する患者に対する処置の予定情報を、前記端末装置(3)へ出力する請求項1に記載の情報処理装置。

ウ 本件発明1-7

1-7A 患者を識別するための第1患者識別情報(患者ID)を端末装置(3)より取得する第1取得ステップと、

1-7B 前記第1患者識別情報(患者ID)と、患者を識別する情報としてあらかじめ記憶された第2患者識別情報とが一致するか否かを判定する第1判定ステップと、

1-7C 前記第1判定ステップにおいて一致すると判定された場合、前記第2患者識別情報に対応する患者の医療情報を、前記端末装置(3)へ出力する第1出力ステップと、

1-7D 前記第1判定ステップにおいて一致すると判定された場合に、看護師または医師を識別するための第1医師等識別情報を前記端末装置(3)から取得する第2取得ステップと、

1-7E 前記第1医師等識別情報と、看護師または医師を識別する情報としてあらかじめ記憶された第2医師等識別情報とが一致するか否か判定する第2判定ステップと、

1-7F 前記第2判定ステップにおいて一致すると判定した場合、前記第2患者識別情報に対応する患者の医療情報のうち前記看護師または前記医師が必要とする医療情報を含む表示画面を、前記端末装置(3)へ出力する第2出力ステップと、をコンピュータに実行させる情報処理プログラム。

エ 本件発明1-8

1-8A 患者を識別するための第1患者識別情報(患者ID)を取得する第1取得部(21)と、

1-8B 前記第1取得部(21)で取得した前記第1患者識別情報(患者ID)を情報処理装置に送信する第1送信部と、

1-8C 記第1患者識別情報(患者ID)とあらかじめ記憶された第2患者識別情報とが一致すると前記情報処理装置が判定した場合、前記第2患者識別情報に対応する患者の医療情報を前記情報処理装置から受信し、表示する第1表示部と、

1-8D 前記患者の医療情報が前記第1表示部に表示された場合に、看護師または医師を識別するための第1医師等識別情報を取得する第2取得部と、

1-8E 前記第2取得部で取得した前記第1医師等識別情報を前記情報処理装置に送信する第2送信部と、

1-8F 前記第2取得部で取得した前記第1医師等識別情報とあらかじめ記憶された第2医師等識別情報とが一致すると前記情報処理装置が判定した場合、前記第2患者識別情報に対応する患者の医療情報のうち前記看護師または前記医師が必要とする医療情報を含む表示画面を前記情報処理装置から受信し、表示する第2表示部と、を備える端末装置。

オ 本件発明1-10

1-10A 患者を識別するための第1患者識別情報(患者ID)を取得する第1取得ステップと、

1-10B 前記第1取得ステップにおいて取得した前記第1患者識別情報(患者ID)を情報処理装置に送信する第1送信ステップと、

1-10C 記第1患者識別情報(患者ID)とあらかじめ記憶された第2患者識別情報とが一致すると前記情報処理装置が判定した場合、前記第2患者識別情報に対応する患者の医療情報を前記情報処理装置から受信し、表示部に表示する第1表示ステップと、

1-10D 前記医療情報が前記表示部に表示された場合に、看護師または医師を識別するための第1医師等識別情報を取得する第2取得ステップと、

1-10E 前記第2取得ステップにおいて取得した前記第1医師等識別情報を前記情報処理装置に送信する第2送信ステップと、

1-10F 前記第1医師等識別情報とあらかじめ記憶された第2医師等識別情報とが一致すると前記情報処理装置が判定した場合、前記第2患者識別情報に対応する患者の医療情報のうち前記看護師または前記医師が必要とする医療情報を含む表示画面を前記情報処理装置から受信し、前記表示部に表示する第2表示ステップと、をコンピュータに実行させる端末装置の制御プログラム。

(2)本件発明2

ア 本件発明2-1

2-1A 患者を識別するための第1識別情報(患者ID)を端末装置(3)より取得する第1取得部(21)と、

2-1B 前記第1識別情報(患者ID)と、患者を識別する情報として予め記憶部(22)に記憶された第1識別情報とが一致するか否かを判定する第1判定部(11)と、

2-1C 前記第1識別情報(患者ID)が一致すると判定した場合、前記第1識別情報(患者ID)に対応する患者の医療情報を前記端末装置(3)へ出力する第1出力部(16)と、

2-1D 前記第1識別情報(患者ID)が一致すると判定した場合に、看護師または医師を識別するための第2識別情報(看護師又は医師ID)を前記端末装置(3)から取得する第2取得部(21)と、

2-1E 前記第2識別情報(看護師又は医師ID)と、前記記憶部(22)に看護師または医師を識別する情報として予め記憶された第2識別情報とが一致するか否か判定する第2判定部(11)と、

2-1F 前記第2識別情報(看護師又は医師ID)が一致すると判定した場合に、前記患者の状態に関する状態情報の入力を受け付けるための入力画面を前記端末装置(3)へ出力する第2出力部と、を備える情報処理装置。

イ 本件発明2-2

2-2H 前記入力画面から入力された、取得した前記状態情報の履歴に基づいて生成された前記患者の状態の変化を示すための変化情報を前記端末装置(3)へ出力する第3出力部をさらに備えた請求項1に記載の情報処理装置。

ウ 本件発明2-4

2-4A 患者を識別するための第1識別情報を端末装置(3)より取得する第1取得ステップと、

2-4B 前記第1識別情報と、患者を識別する情報として予め記憶部に記憶された第1識別情報とが一致するか否かを判定する第1判定ステップと、

2-4C 前記第1識別情報が一致すると判定した場合、前記第1識別情報に対応する患者の医療情報を前記端末装置(3)へ出力する第1出力ステップと、

2-4D 前記第1識別情報が一致すると判定した場合に、看護師または医師を識別するための第2識別情報を前記端末装置(3)から取得する第2取得ステップと、

2-4E 前記第2識別情報と、前記記憶部に看護師または医師を識別する情報として予め記憶された第2識別情報とが一致するか否か判定する第2判定ステップと、

2-4F 前記第2識別情報が一致すると判定した場合に、前記端末装置(3)において前記患者の状態に関する状態情報の入力を受け付けるための入力画面を出力する第2出力ステップと、をコンピュータに実行させる情報処理プログラム。

エ 本件発明2-5

2-5A 患者を識別するための第1識別情報を取得する第1取得部(21)と、

2-5B 前記第1取得部(21)で取得した前記第1識別情報を情報処理装置に送信する第1送信部と、

2-5C 前記第1取得部(21)で取得した前記第1識別情報と記憶部に予め記憶された第1識別情報とが一致すると前記情報処理装置が判定した場合、前記第1識別情報に対応する患者の医療情報を前記情報処理装置から受信し、表示する表示部と、

2-5D 前記患者の医療情報が前記表示部に表示された場合に、看護師または医師を識別するための第2識別情報を取得する第2取得部と、前記第2取得部で取得した前記第2識別情報を前記情報処理装置に送信する第2送信部と、を備え、

2-5E 前記表示部は、前記第2取得部で取得した前記第2識別情報と記憶部に予め記憶された第2識別情報とが一致すると前記情報処理装置が判定した場合、

2-5F 前記患者の状態に関する状態情報の入力を受け付けるための入力画面を表示する端末装置。

オ 本件発明2-7

2-7A 患者を識別するための第1識別情報を取得する第1取得ステップと、

2-7B 前記第1取得ステップで取得した前記第1識別情報を情報処理装置に送信する第1送信ステップと、

2-7C前記第1取得ステップで取得した前記第1識別情報と記憶部に予め記憶された第1識別情報とが一致すると前記情報処理装置が判定した場合、前記第1識別情報に対応する患者の医療情報を前記情報処理装置から受信し、端末装置(3)に表示する第1表示ステップと、

2-7D 前記患者の医療情報が表示された場合に、看護師または医師を識別するための第2識別情報を取得する第2取得ステップと、前記第2取得ステップで取得した前記第2識別情報を前記情報処理装置に送信する第2送信ステップと、

2-7E 前記第2取得ステップで取得した前記第2識別情報と記憶部に予め記憶された第2識別情報とが一致すると前記情報処理装置が判定した場合、

2-7F 前記患者の状態に関する状態情報の入力を受け付けるための入力画面を表示する第2表示ステップと、をコンピュータに実行させる端末装置の制御プログラム。

4.被告製品

(1)被告の行為

被告は、日本国内の複数の医療機関向けに、被告製品の生産、譲渡、貸渡しを行っている。

(2)被告製品の構成

被告製品は、サーバや端末等からなる医療看護支援ピクトグラムシステムと呼ばれるシステムを構成するものである。被告製品のサーバであるピクトグラムサーバ(以下、「ピクトグラムサーバ」ということがある。)は、内蔵されたプログラムにより制御され、医療や看護を支援する各種情報サービスを提供するための情報処理を行い、端末であるピクトグラム端末(以下、「ピクトグラムサーバ」ということがある。)に情報を提示するものであり、システムの外部にある電子カルテシステムと連携して情報処理を行うことも可能である。ピクトグラム端末は、内蔵されたプログラムにより制御される。

被告製品のピクトグラムサーバの構成は、概ね、次のとおりである。

ア ピクトグラムサーバは、ピクトグラム端末が患者のリストバンドのバーコードを読み取るなどして取得した患者IDを、同端末を通じて取得する。

イ ピクトグラムサーバは、上記アの患者IDとあらかじめ電子カルテサーバに登録された患者IDとが一致するか否かを判定する。

ウ ピクトグラムサーバは、上記イにおいて患者IDが一致すると判定した場合(以下、上記アからウの判定までのプロセスを「患者登録」ということがある。)、ピクトグラム端末に対し、上記患者IDに対応する患者に関し、患者の氏名、主治医の氏名のほか、ペースメーカーの有無やアレルギーの有無等の情報を出力する。

エ ピクトグラムサーバは、患者登録により患者IDが一致すると判定されて上記ウの画面が表示されている状態において、ピクトグラム端末が医師又は看護師等の医療従事者(以下、医師又は看護師等の医療従事者を区別することなく「医療スタッフ」ということがある。)のICカードやバーコードを読み取ることによって取得した医療スタッフIDを、同端末を通じて取得する。

オ ピクトグラムサーバは、上記エの医療スタッフIDとあらかじめ電子カルテサーバに登録された医療スタッフIDとが一致するか否かを判定する。

カ ピクトグラムサーバは、上記オにおいて医療スタッフIDが一致すると判定した場合、患者の体温、血圧等のバイタル情報(その経時変化も含む)や検査結果に関する情報に係るデータをピクトグラム端末に出力する。

キ 医療スタッフは、患者登録がされる前に、上記エ及びオと同様の方法により認証をする必要がある(以下、この認証について、「患者登録前医療スタッフ認証」という。)。

5.争点

(1)被告製品のピクトグラムサーバは、本件発明1-1の技術的範囲に属するか(争点1)

ア 被告製品の患者登録に係る構成は構成要件1-1A及び1-1Bを充足するか(争点1-1)

イ 被告製品のピクトグラムサーバは構成要件1-1Fを充足するか(争点1-2)

(2)被告製品のピクトグラムサーバ、ピクトグラム端末や、それらのプログラムは、本件発明1-2、本件発明1-7、本件発明1-8及び本件発明1-10の技術的範囲に属するか(争点2)

(3)被告製品のピクトグラムサーバは、本件発明2-1の技術的範囲に属するか(争点3)

(4)被告製品のピクトグラムサーバ、ピクトグラム端末や、それらのプログラム、本件発明2-2、本件発明2-4、本件発明2-5及び本件発明2-7の技術的範囲に属するか(争点4)

(5)本件発明1は、いずれも公開特許公報である特開2005-275607号公報(乙1。以下「乙1公報」という。)に記載された発明に基づき容易に想到することができたか(争点5)

(6)本件発明2は、いずれも乙1公報に記載された発明に基づき容易に想到することができたか(争点6)

6.争点に関する当事者の主張

(1)争点1-1(被告製品の患者登録に係る構成は構成要件1-1A及び1-1Bを充足するか)

(原告の主張)

ア 被告製品の構成は前記2(6)のとおりであるところ、被告製品のピクトグラム端末は構成要件1-1Aの「端末装置」に、ピクトグラム端末から取得された患者IDは構成要件1-1Aの「第1患者識別情報」に、電子カルテサーバにあらかじめ登録されている患者IDは構成要件1-1Bの「第2患者識別情報」に、被告製品のピクトグラムサーバは構成要件1-1Fの「情報処理装置」にそれぞれ相当する。そして、ピクトグラムサーバは、ピクトグラム端末から取得した「第1患者識別情報」と「第2患者識別情報」が一致するかどうかを判定し、両者が一致すると判定した場合には、ピクトグラム端末に対して当該患者の医療情報が送信するとともに、上記判定後に、「第1医師等識別情報」に相当する医療スタッフIDがピクトグラム端末から取得された場合には、同IDが電子カルテサーバにあらかじめ登録されている医療スタッフID(第2医師等識別情報)と一致するかを判定し、両者が一致すると判定した場合には、当該患者の医療情報のうち医療スタッフが必要とする情報をピクトグラム端末に出力する。

以上のとおり、被告製品のピクトグラムサーバの患者登録に係る構成は、構成要件1-1A及び構成要件1-Bに相当するであり、被告製品のピクトグラムサーバは構成要件1-1A及び構成要件1ー1Bを充足する。

イ 被告は、構成要件1-1A及び構成要件1-1Bで行われる判定は、端末装置に医療スタッフが必要とする医療情報を表示させるための構成要件1-1Dないし構成要件1―1Fで行われる判定と情報処理として連続性を有する判定であり、端末装置に医療情報を表示させる都度行われる判定に限られると解釈すべきであり、被告製品の患者登録に係る構成は、構成要件1-1A及び1-1Bを充足するものではないと主張する(以下、構成要件1-1A及び構成要件1-1Bで行われる判定を「第1判定」ということがあり、端末により取得された患者を識別するための情報と、あらかじめ記憶された患者を識別するための情報とが一致することを確認することを「患者認証」ということがある。また、構成要件1-1D及び構成要件1-1Eでされる判定を「第2判定」ということがあり、端末により取得された医療スタッフを識別するための情報と、あらかじめ記憶された医療スタッフを識別するための情報とが一致することを確認することを「医療スタッフ認証」ということがある。)。

しかし、特許請求の範囲や本件明細書1には、第1判定について被告が主張するように限定解釈することについて開示も示唆もない。むしろ、本件明細書1には、第1判定で一致すると判断されて患者用画面が表示された後に患者又は医療スタッフによる「検査ボタン」又は「手術ボタン」の入力操作が行われなければ患者用画面が表示されたままとなる構成が開示されている(【図11】【図12】)。このことからも、本件発明1-1は、第1判定と第2判定が情報処理として時間的連続性をもって行われる構成に限られず、第1判定がされた後に端末装置と情報処理装置との間の通信を切断するような構成も含まれる。また、患者識別情報の取得が端末装置によってされることは、端末装置とそれを利用する患者との関連付けの誤りに起因する患者の取違えを防止するという本件発明1-1の目的に照らして必要ではあるものの、端末装置に医療情報を表示させる都度患者認証を行うことまでは必要はないから、被告の主張は独自の解釈に基づくものであり失当である。

ウ 被告は、第1判定について被告が主張する解釈をせず、第1判定が行われた後に第2判定が行われれば足りると解釈すると、本件発明1-1が無効になるか、被告製品について被告の先使用権を認めることになることを根拠に、第1判定と第2判定との関係について、被告主張のとおり解釈すべきである旨主張する。

しかし、以下のとおり、本件発明1-1と被告が指摘する従来技術とは、技術思想においても具体的な構成においても相違しているし、本件発明1-1はこれら従来技術に基づいて当業者が容易に想到することができたものでもない。また、その他の本件発明1についても同様である。

(ア)被告は、本件発明1-1は、公開特許公報である特開2012-118782号公報(乙6。以下「乙6公報」という。)に記載された発明と同一か、乙6公報に記載された発明から容易に想到することができたと主張するが、理由がない。

乙6公報には、医療スタッフが、ベッドサイドに設置されている表示用端末に自身のID番号を認識させて「スタッフ認証」を行うと、管理端末が管理対象としている1又は複数の患者について、常時表示可能とされている項目の医療情報を適宜、追加、変更削除するための画面を表示用端末に接続された表示装置に表示することが開示されている(段落【0048】ないし【0053】)。ここで、「スタッフ認証」の前に患者認証を行う必要があることは、乙6公報には一切記載されていない。かえって、画面に表示されるのは、管理端末が管理対象としている「1又は複数の患者」の医療情報(段落【0052】)であり、ベッドサイドに設置されている表示用端末を使用している患者の情報に限られないのであるから、患者認証によって患者と表示用端末とを関連付けるということは何ら開示されていない。

また、本件発明1-1は、医療スタッフが患者の医療情報にアクセスするための医療スタッフ認証に患者認証を先行させることに技術的意義があり、第1判定で行う患者認証によって端末装置と同端末を使用する患者との関連付けを確実に行うことにより、患者の取違えを防止することを目的するものであり、乙6公報に記載された発明とは技術的特徴が異なっている。

(イ)被告は、本件発明1-1は、公開特許公報である特開2014-97116号公報(乙2。以下「乙2公報」という。)に記載された発明と同一か、乙2公報に記載された発明から容易に想到することができたと主張するが、理由がない。

乙2公報には、患者識別情報によって患者認証をする構成は開示されていない。すなわち、乙2公報に記載された発明においては、そのベッドサイド端末識別子によってバックグラウンドでログインするなど患者識別情報による患者認証をすることなく患者操作モードにすることが可能である。また、乙2公報には、医療スタッフIDの入力によってベッドサイド端末に関連付けられた患者に関する医療スタッフ向けの医療情報が表示されることが記載されているとしても、入力された看護師IDがナースコールサーバによってあらかじめ記憶された看護師IDと一致するか否かの判定が行われるかどうか、すなわち医療スタッフ認証が行われているかについても何ら開示がない。

したがって、本件発明1-1は乙2公報に記載された発明と同一とはいえないし、その発明から容易に想到することができたものでもない。

(ウ)被告は、本件発明1-1は、公開特許公報である特開平10-323332号公報(乙3。以下「乙3公報」という。)に記載された発明と同一であるか、乙3公報に記載された発明から容易に想到することができたと主張するが、理由がない。

本件発明1-1は、医療スタッフが患者の医療情報にアクセスするための医療スタッフ認証に係る第2判定に先立って患者認証に係る第1判定を行うことに技術的意義があり、第1判定によって端末装置と同端末を使用する患者との関連付けを確実に行うことにより、患者の取違えを防止することを目的するものであり、乙3公報に記載された発明とは技術的特徴が異なっている。本件発明1-1は、乙3公報に記載された発明と同一の発明ではないし、乙3公報に記載された発明から容易に想到することができたものでもない。

(エ)被告は、本件発明1-1は、公開特許公報である特開2000-285181号公報(乙9。以下「乙9公報」という。)に記載された発明と同一であるか、乙9公報に記載された発明から容易に想到することができたと主張するが、理由がない。

本件発明1-1は、医療スタッフが患者の医療情報にアクセスするための医療スタッフ認証に係る第2判定に対して、患者認証に係る第1判定を先行させることに技術的意義があり、第1判定によって端末装置と同端末を使用する患者との関連付けを確実に行うことにより、患者の取違えを防止することを目的するものであり、乙9公報に記載された発明とは技術的特徴が異なっている。本件発明1-1は、乙9公報に記載された発明と同一の発明ではいし、乙9公報に記載された発明から容易に想到することができたものでもない。

(オ)被告は、乙13に記載されている、被告が納入したピクトグラムシステム(以下「乙13システム」という。)が平成26年3月1日から佐久総合病院で稼働していて公然と実施されており、本件発明1-1は、乙13システムと同一である旨主張するが、理由がない。

乙13には、乙13システムの要件やイメージ図が記載されているだけであり、本件特許1の基準日前に乙13システムがどのような構成を具備していたのかは何ら明らかではない。また、上記のような乙13から、発明の内容を知り得るものではないし、乙13は佐久総合病院に提出したものであり、不特定多数の者を対象とするものでもない。また、乙13の作成日付は書き換え可能な電子データを出力したものであり、その作成日について証明力はない。

そして、乙13システムにおいて、医療スタッフ登録処理手続の後にベッドサイド端末に表示されるのは、患者ピクトグラム編集画面であり、乙13システムは、患者のバイタル情報や検査結果を表示する機能を具備していない。したがって、乙13システムは、医療スタッフ登録処理手続の後に「医療情報」(構成要件1-1F)を表示するものではなく、少なくとも構成要件1-1Fに相当する構成を有しない。

エ 被告は、被告製品においては患者登録前医療スタッフ認証がされることを根拠に、被告製品の患者登録は第1判定には相当しないと主張する。

しかし、被告製品における患者登録前医療スタッフ認証は、医療スタッフが患者登録を行うことを許可するためのものである。これに対し、第2判定は患者の医療情報のうち医療スタッフが必要とする情報を端末装置に出力することを許可するためのものであり、患者登録前医療スタッフ認証は第2判定に相当するものではない。また、本件発明1の情報処理装置は、構成要件1-1Aないし1-1Fに係る構成のみを備える情報処理装置とはされておらず、他の構成を含み得る。したがって、被告製品の情報処理装置が構成要件1-1Aないし1-1Fを充足する構成の他に患者登録を許可するための患者登録前医療スタッフ認証を患者登録に先行させる構成を具備しているとしても、被告製品が本件発明1の技術的範囲に属することに影響を与えるものではない。

(被告の主張)

ア 構成要件1-1Dの「前記第1判定部で一致すると判定された場合」という文言にも現れているように、本件発明1-1は、医療スタッフが必要とする患者の医療情報に端末装置からアクセスするために、患者認証をした上で医療スタッフ認証を行うという手順を実現する一連のプログラムによる情報処理を行うものであるから、第1判定と第2判定は、医療スタッフが患者の医療情報にアクセスするための情報処理制御として連続した処理であり、医療スタッフが患者の医療情報にアクセスしようとするその都度、第1判定を行った上で医療スタッフ認証を行うことを必須とするものである。また、原告は、本件発明1-1の技術的意義について、患者の取違えを確実に防止することによってセキュリティを向上させることにあると主張する。患者とベッドサイド端末との関連付けがされた後に患者が別のベッドに移動等する場合も想定できることになるのであるから、原告が主張する本件発明1-1の技術的意義を実現するためには、医療情報を表示させる都度患者認証を行わなければならない。

したがって、第1判定は、端末装置に患者の医療情報を表示させるための第2判定と情報処理として連続性を有する判定、すなわち端末装置に患者の医療情報を表示させる都度行われる判定に限られると解釈すべきである。

イ 本件発明1-1において、医療スタッフが患者の医療情報にアクセスしようとするその都度患者認証を行った上で医療スタッフ認証を行うことを必須とせず、患者認証が行われた後に医療スタッフ認証が行われれば足りると解釈すると、以下のとおり、そのような技術は、本件特許1の原出願日(平成27年12月26日。本件特許2の出願日であり、以下、同日を「基準日」という。)より前の従来技術と同一の技術であるか、それから容易に想到することができたものであり、本件発明1-1が無効となるか、被告の先使用権を認めることになる。したがって、第1判定と第2判定との関係は、上記アのとおり解釈すべきである。

(ア)乙6公報には、少なくとも、本件発明1-1の構成に関連して、①表示用端末が患者の手首につけられたバーコードを読み取って患者ID番号を取得し、これを管理端末に送信し、②管理端末は、表示用端末から送信された患者ID番号とあらかじめ記憶された患者ID番号とが一致するか否かを判定し、一致すると判定されて患者認証がされた場合には、患者の医療情報のうち、常時表示可とされた項目の医療情報を選択して表示用端末に送信し、同情報が表示用端末と接続されたベッドサイド表示装置に表示され(表示停止の命令が入力されるまで、常時表示している)、③患者認証がされた状態で、医療スタッフが表示用端末に医療スタッフID番号を認識させると、表示用端末が医療スタッフID番号を管理端末に送信し、④管理端末は、受信した医療スタッフのID番号とあらかじめ記憶された医療スタッフID番号とが一致するか否かを判定し、一致すると判定されて医療スタッフ認証がされた場合には、患者の医療情報のうち、医療情報の中から常時表示可とされている項目の医療情報を選択して、表示用端末に送信することが開示されている。

そうすると、本件発明1-1は乙6公報に開示された情報処理装置の発明と同一である。また、同一でなくとも、乙6公報に開示された情報処理装置の発明に基づいて当業者が容易に想到することができた。

(イ)乙2公報には、少なくとも、本件発明1-1の構成に関連して、①患者とベッドサイド端末とを関連付ける際、患者識別情報をベッドサイド端末に入力し、これとあらかじめ記憶された患者識別情報とが一致すると判定されて患者認証がされると、ベッドサイド端末と患者とが関連付けられ、ベッドサイド端末は、患者に対して医療情報等を表示する患者操作モードとなること、②看護師は、ベッドサイド端末を患者操作モードから看護師操作モードに変更するためには、ベッドサイド端末に看護師IDを入力し、これとあらかじめ記憶された看護師IDとが一致すると判定されて医療スタッフ認証がされると、ベッドサイド端末に電子カルテの情報や診察結果、服薬情報などの履歴を含む電子カルテの情報が表示され、看護師がこれを閲覧することができることが開示されている。

そうすると、本件発明1-1は乙2公報に開示された情報処理装置の発明と同一である。また、同一でなくとも、乙2公報に開示された情報処理装置の発明に基づいて当業者が容易に想到することができた。

(ウ)乙3公報には、少なくとも、本件発明1-1の構成に関連して、①患者と病床用情報端末とを関連付ける際、患者のID番号を病床用情報端末に入力し、これとあらかじめ記憶された患者のID番号とが一致すると判定されて患者認証がされると、病床用情報端末と患者とが関連付けられ、ベッドサイド端末は、患者に対して、医療情報たる患者のスケジュール(検査スケジュールなど)を表示すること、②医療スタッフは、病床用情報端末と患者とが関連付けられた状態で、病床用情報端末に医療スタッフのID番号を入力し、これとあらかじめ記憶された医療スタッフのID番号とが一致すると判定されて医療スタッフ認証がされると、電子カルテのオーダリングの情報、生態情報などが病床用情報端末に表示され、医療スタッフがこれを閲覧することができること開示されている。

そうすると、本件発明1-1は乙3公報に開示された情報処理装置の発明と同一である。また、同一でなくとも、乙3公報に開示された情報処理装置の発明に基づいて当業者が容易に想到することができた。

(エ)乙9公報には、少なくとも、本件発明1-1の構成に関連して、①患者とベッドサイド端末とを関連付ける際、患者IDをベッドサイド端末に入力し、これとあらかじめ記憶された患者IDとが一致すると判定されると、ベッドサイド端末と患者とが関連付けられていること、②上記①の後に、患者は、患者識別情報(患者ID及びパスワード)をベッドサイド端末に入力し、ベッドサイド情報システムのサーバにおいて正当なアクセス権限があると認証されて患者認証がされると、当該患者についての患者向けの診療情報メニュー(診療予定、経過情報、各種予約等)がベッドサイド端末に表示され、患者がこれにアクセスできること、③上記①の後に、医療スタッフは、医療スタッフ識別情報(医療スタッフID及びパスワード)をベッドサイド端末に入力し、ベッドサイド情報システムのサーバにおいて正当なアクセス権限があると認証されて医療スタッフ認証がされると、当該患者についての医療スタッフ向け診療情報メニュー(患者のバイタルサイン照会(バイタル情報の変化情報)、クリティカルパス(診療計画などの予定)等)が表示され、医療スタッフがこれにアクセスできることが開示されている。

そうすると、本件発明1-1は乙9公報に開示された情報処理装置の発明と同一である。また、同一でなくとも、乙9公報に開示された情報処理装置の発明に基づいて当業者が容易に想到することができた。

(オ)被告が納入し、平成26年3月1日から佐久総合病院で稼働していたシステムである乙13システムの構成は、以下のとおりである。

① ベッドサイド端末は、患者とベッドサイド端末とが関連付けられていない場合、カレンダー画面を表示している。

② カレンダー画面の時刻表示部分をタップすると、ベッドサイド端末には医療スタッフ認証画面が表示される。

③ 上記②の医療スタッフ認証画面で医療スタッフカードのバーコードを読ませると医療スタッフベッドサイド用メニューが表示され、そこには「患者登録」、「患者登録解除」、「ピクトグラム編集」という3つのボタンがある。

④ 上記③のボタンの中から「患者登録」をタップすると、患者端末登録画面が表示されるので、患者のリストバンドのバーコードを読ませると、患者番号がベッドサイド端末に登録され、患者ピクトグラム画面が表示される。患者ピクトグラム画面のメイン画面には、患者の氏名、時刻、主治医、受持看護師、入院日のほか、看護支援のためのピクトグラムが表示され、サブ画面には、直近の手術実施日等が記載されている。

⑤ 患者ピクトグラム画面のメイン画面の時刻表示部分をタップすると、医療スタッフ認証画面が表示されるので、そこで医療スタッフカードのバーコードを読ませると、医療スタッフベッドサイド用メニューが表示され、そこには「患者登録」、「患者登録解除」、「ピクトグラム編集」という3つのボタンがある。

⑥ 上記⑤のボタンの中から「ピクトグラム編集」というボタンをタップすると、ピクトグラムの編集画面が表示され、医療スタッフはピクトグラムを編集することができる。

第1判定と第2判定との関係を原告主張のように解すると、乙13システムの上記④の患者の登録の処理手続は第1判定に相当し、乙13システムは、本件発明1-1と同一であり、被告製品の構成は、乙13システムの構成と同様のものである。

ウ 被告製品における患者登録は、ベッドサイド端末とそれを使用する患者とを関連付けるために行われるものであり、患者がベッドサイド端末の使用を開始する際に行えば足り、医療スタッフが患者の医療情報にアクセスする都度必要となるものではない。また、被告製品は、患者登録が完了すると一度TCP接続が切断され、その後に医療スタッフが患者の医療情報をベッドサイド端末に表示するために医療スタッフ認証をする際に再度TCP接続が開始されるという構成であることからも明らかなように、患者登録と患者登録後の医療スタッフ認証との間には情報処理としての連続性はない。さらに、被告製品においては、医療スタッフが患者の医療情報にアクセスする都度患者登録と同様の操作をすることを必須としていないため、患者が別のベッドに移動した場合などは、患者の取違えが生じる危険があり、原告が主張する効果を奏功しない。

したがって、被告製品の患者登録は、第1判定を行っているものではなく、構成要件1-1A及び構成要件1-1Bを充足しない。

エ 本件発明1-1では、一連の処理からなる各操作において、患者認証が医療スタッフ認証に先行してされているのに対し、被告製品においては、患者登録に先行して患者登録前医療スタッフ認証が行われている。この点からも、被告製品における患者登録は、第1判定を行っているものではなく、構成要件1-1A及び構成要件1-1Bを充足しない。

(2)争点1-2(被告製品のピクトグラムサーバは構成要件1-1Fを充足するか)

(原告の主張)

ア 構成要件1-1Fの「表示画面を、前記端末装置へ出力する」について、二次元画面そのものを出力するなどとはされておらず、構成要件1-1Cとは異なる用語が用いられてはいるものの、そこで出力されるデータが異なることについて本件明細書1には一切記載がない。したがって、この出力には、情報処理装置が生成した二次元画面そのものを端末装置へ出力するだけでなく、表示画面を表示するために必要なデータを端末装置へ送信することをも含む意味で用いられている。

イ 被告製品は、表示画面に医療情報を表示するために必要なデータをHTMLデータとしてベッドサイド端末に対して送信する。HTMLはブラウザにおける表示を前提とした言語データであり、表示画面における文字、画像の内容、位置、大きさ、色などをテキスト形式で指定するものであり、HTMLデータを送信することは二次元画面を出力することと同義であるから、被告製品は、構成要件1-1Fを充足する。

(被告の主張)

ア 構成要件1-1Cが「医療情報を・・・出力する」と規定しているのに対し、構成要件1-1Fは「医療情報を含む表示画面を・・・出力する」と規定している。また、本件明細書1においても、構成要件1-1Fに係る構成の説明において「画面を生成する」、「画面出力する」、「画面を表示する」といった表現を用いて、「情報」と区別して「画面」という語が用いられている。これらからすると、構成要件1-1Fの「表示画面を、前記端末装置へ出力する」とは、情報処理装置が生成した二次元画面そのものを端末装置に送信することを意味する。

イ 被告製品の情報端末システムはベッドサイド端末に対して医療情報を表示するために必要なHTMLデータを送信するにすぎない。したがって、被告製品は構成要件1-1Fを充足しない。

(3)被告製品のピクトグラムサーバ、ピクトグラム端末や、それらのプログラムは、本件発明1-2、本件発明1-7、本件発明1-8及び本件発明1-10の技術的範囲に属するか(争点2)

(原告の主張)

被告製品のピクトグラムサーバで、患者のスケジュールを時系列で端末装置に表示するものは、構成要件1-2Gを充足する。

本件発明1-7の構成要件と本件発明1-1の構成要件を対比すると、本件発明1-7の各構成要件は、本件発明1-1の各構成要件に対応し、被告製品のピクトグラムサーバを動作させるプログラムは本件発明1-7の「情報処理プログラム」である。

本件発明1-8と本件発明1-1の構成要件を対比すると、本件発明1-8の各構成要件は、本件発明1-1の各構成要件と実質的に同じであり、被告製品のピクトグラム端末は、本件発明1-8の「端末装置」である。

本件発明1-10の構成要件と本件発明1-8の構成要件を対比すると、本件発明1-10の各構成要件は、本件発明1-8の各構成要件に対応し、被告製品のピクトグラム端末を動作させるプログラムは本件発明1-10の「端末装置の制御プログラム」である。

これらによれば、被告製品のピクトグラムサーバ、ピクトグラム端末や、それらのプログラムは、本件発明1-2、本件発明1-7、本件発明1-8及び本件発明1-10の技術的範囲に属する。

(被告の主張)

争点1において被告が主張したのと同様の理由により、被告製品のピクトグラムサーバ、ピクトグラム端末や、それらのプログラム、情報処理の方法は、本件発明1-2、本件発明1-7、本件発明1-8及び本件発明1-10の技術的範囲に属しない。

(4)被告製品のピクトグラムサーバは、本件発明2-1の技術的範囲に属するか(争点3)

(原告の主張)

本件発明2-1における「第1識別情報」と「予め記憶部に記憶された第1識別情報」は、それぞれ、本件発明1における「第1患者識別情報」と「あらかじめ記憶された第2患者識別情報」に相当する。したがって、争点1において主張したのと同様の理由により、被告製品のピクトグラムサーバは、本件発明2-1の技術的範囲に属する。

(被告の主張)

本件発明2-1における「第1識別情報」と「予め記憶部に記憶された第1識別情報」は、それぞれ、本件発明1における「第1患者識別情報」と「あらかじめ記憶された第2患者識別情報」に相当する。したがって、争点1-1において主張したのと同様の理由により、被告製品のピクトグラムサーバは、本件発明2-1の技術的範囲に属しない。

(5)被告製品のピクトグラムサーバ、ピクトグラム端末や、それらのプログラムは、本件発明2-2、本件発明2-4、本件発明2-5及び本件発明2-7の技術的範囲に属するか(争点4)

(原告の主張)

被告製品で、患者のバイタル情報の経時変化を示すグラフを端末装置に表示するものは、構成要件2-2Hを充足する。

本件発明2-4の構成要件と本件発明2-1の構成要件を対比すると、本件発明2-4の各構成要件は、本件発明2-1の各構成要件に対応し、被告製品のピクトグラムサーバを動作させるプログラムは本件発明2-4の「情報処理プログラム」である。

本件発明2-5と本件発明2-1の構成要件を対比すると、本件発明2-5の各構成要件は、本件発明2-1の各構成要件と実質的に同じであり、被告製品のピクトグラム端末は、本件発明2-5の「端末装置」である。

本件発明2-7の構成要件と本件発明2-5の構成要件を対比すると、本件発明2-7の各構成要件は、本件発明2-5の各構成要件に対応し、被告製品のピクトグラム端末を動作させるプログラムは本件発明2-7の「端末装置の制御プログラム」である。

これらによれば、ピクトグラムサーバ及びピクトグラム端末や、それらのプログラムは、本件発明2-2、本件発明2-4、本件発明2-5及び本件発明2-7の技術的範囲に属する。

(被告の主張)

争点3において被告が主張したのと同様の理由により、被告製品は、本件発明2-2、本件発明2-4、本件発明2-5及び本件発明2-7の技術的範囲に属しない。

(6)本件発明1は、いずれも乙1公報に記載された発明に基づき容易に想到することができたか(争点5)

(被告の主張)

ア 乙1公報に記載された発明の構成

乙1公報には、次のとおりの構成の医療情報システムが開示されている。

① 医療スタッフがベッドサイド端末で電子カルテプリケーションを起動すると、ベッドサイド端末識別子及び医療スタッフ識別子がベッドサイド端末から電子カルテサーバに送出され、両識別子を受信した電子カルテサーバは、ベッドサイド端末識別部を起動する。

② ベッドサイド端末識別部は、ベッドサイド端末情報記憶部を参照し、ベッドサイド端末から取得したベッドサイド端末識別子があらかじめ登録されているか否かを判定し、一致すると判定した場合には、ベッドサイド端末識別子に対応する患者名をベッドサイド端末情報記憶部から取得する。

③ ベッドサイド端末識別部は、患者名を取得すると、カルテ情報取得部を起動し、カルテ情報取得部は、電子カルテデータベースを参照して、取得した患者名に関する診療情報を取得する。カルテ情報送信部は、取得した診療情報をベッドサイド端末に送出する。

④ ベッドサイド端末識別部は、患者名を取得すると、状態情報取得部を起動する。

⑤ 状態情報取得部は、状態情報記憶部を参照して、「ベッドサイド端末から取得した医療スタッフ識別子が状態情報記憶部に存在するか否か」、及び、「ベッドサイド端末から取得した患者名に対応する状態情報が状態情報記憶部に存在するか否か」をそれぞれ判定し、いずれも存在していると判定した場合には、当該状態情報を状態情報記憶部から取得する。

⑥ 状態情報送信部は、取得した状態情報をベッドサイド端末に送出する。

イ 乙1公報に記載された発明においては、ベッドサイド端末識別子は患者に関連付けられており、ベッドサイド端末識別子によって患者名を識別することができるから、乙1公報に記載された発明のベッドサイド端末識別子は本件発明1の「患者識別情報」に相当する。したがって、ベッドサイド端末識別子が一致するか否かの判定を行うベッドサイド端末識別部は構成要件1-1Bの「第1判定部」に相当し、構成要件1-1Cの「医療情報」に相当する診療情報を送出するカルテ情報送信部は構成要件1-1Cの「第1出力部」に相当する。

また、乙1公報に記載された電子カルテサーバ(以下「乙1電子カルテサーバ」という。)が備えるベッドサイド端末識別部は、前記ア①ないし③によって患者名を取得すると、状態情報記憶部を参照しながら、a医療スタッフ識別子が一致するか否かの判定、及び、b患者名に対応する状態情報が存在するか否かの判定、という2つの判定を行うところ、aの判定を行う状態情報識別部は構成要件1-1Eの「第2判定部」に相当し、構成要件1-1Fの「医療情報」に相当する状態情報を送出する状態情報送信部は構成要件1-1Fの「第2出力部」に相当する。

ウ 本件発明1-1と乙1電子カルテサーバとの一致点、相違点前記ア及びイによれば、本件発明1-1と乙1電子カルテサーバとの一致点、相違点は以下のとおりとなる。

(ア)一致点

本件発明1-1と乙1電子カルテサーバは、①患者を識別するための第1患者識別情報であるベッドサイド端末識別子を端末装置より取得する第1取得部と、②前記第1患者識別情報と、患者を識別する情報として予め記憶部に記憶された第2患者識別情報とが一致するか否かを判定する第1判定部と、③患者識別情報が一致すると判定した場合に、前記第2患者識別情報に対応する患者の医療情報を前記端末装置へ出力する第1出力部と、④医療スタッフを識別するための第1医師等識別情報を前記端末装置から取得する第2取得部と、⑤前記第1医師等識別情報と医療スタッフを識別する情報として予め記憶部に記憶された第2医師等識別情報とが一致するか否か判定する第2判定部と、⑥医師等識別情報が一致すると判定した場合に、前記患者の状態に関する状態情報の入力を受け付けるための情報を前記端末装置へ出力する第2出力部とを備える情報処理装置という点で一致する。

(イ)相違点1

本件発明1-1と乙1電子カルテサーバは、第1医師等識別情報の取得について、本件発明1-1では、第1判定部において患者識別情報が一致すると判定された場合であるのに対し、乙1電子カルテサーバでは、第1判定部において患者識別情報が一致されたと判定される前である点において相違する。

(ウ)相違点2

本件発明1-1と乙1電子カルテサーバは、第2出力部が出力する情報について、本件発明1-1では、「医療情報を含む表示画面」であるのに対し、乙1電子カルテサーバでは、「表示画面用の状態情報」である点において相違する。

(エ)相違点に関する原告の主張について

原告は、乙1公報のベッドサイド端末識別子は「患者識別情報」には該当しないと主張するが、誤りである。乙1電子カルテサーバにおいては、ベッドサイド端末識別子と患者名が対応しており、「ベッドサイド端末識別子」が「第1患者識別情報」及び「第2患者識別情報」に相当する。

また、原告は、乙1電子カルテサーバが「前記第1医師等識別情報と、看護師または医師を識別する情報としてあらかじめ記憶された第2医師等識別情報とが一致するか否か判定する第2判定部」(構成要件1-1E)」に係る構成を具備しないと主張するが、誤りである。乙1公報には「状態情報」が患者ごとに記録されており、乙1電子カルテサーバは、「医療スタッフ識別子が存在するか否か」及び「患者名に対応する状態情報が存在するか否か」をそれぞれ判定しており、原告が主張する上記相違点は存在しない。

エ 相違点1の容易想到性

相違点1に係る本件発明1-1の構成は、乙1電子カルテサーバに対し乙2公報に記載された発明を組み合わせることによって、当業者が容易に想到することができた。

すなわち、乙2公報には、患者操作モードにあるベッドサイド端末は、ナースコールサーバにおいて患者を認証しており、その状態が同サーバで保持されていて、患者操作モードにあるベッドサイド端末に看護師IDを入力し、ナースコールサーバがこれを取得すると、ナースコールサーバは、患者操作モードのもとに、入力された看護師IDが登録された看護師IDと一致するか否かを判定し、一致すると判定された場合には、患者登録操作モードから看護師操作モードに変更されることが記載されている。このように、乙2公報には、患者認証がされた後に看護師ID、すなわち医療スタッフ識別情報を取得するという構成が開示されている。

本件発明1-1、乙1公報及び乙2公報に記載された発明は、いずれも患者の医療情報の漏洩を防止し、医療情報システムのセキュリティを向上させることを目的とする点で共通している。そうすると、医療情報システムのセキュリティ向上を目的とする当業者には、乙1電子カルテサーバに対し乙2公報に記載された発明を組み合わせる動機付けが極めて強く存在しており、当業者は、そのような組み合わせを行い、相違点1に係る本件発明1-1の構成を容易に想到することができた。

オ 相違点2

乙1公報の「状態情報」は「医療情報」(構成要件1-1F)に相当する。本件発明1-1と乙1電子カルテサーバは患者の医療情報に係る表示画面をどこで生成するかという点において相違するものの、乙1電子カルテサーバのように情報処理装置から受信した医療情報のデータに基づいて端末装置側で表示画面を生成する構成を、本件発明1-1のように情報処理装置側で表示画面を生成する構成に置換することは格別なことではないから、相違点2は実質的な相違点ではない。

カ 原告の主張に対する反論

原告は、乙2公報には、本件発明1-1のような医療スタッフ識別情報によって医療スタッフ認証をする構成が開示されていない旨主張する。

しかし、医療情報システムにより医療情報に対し医療従事者がアクセスするためにアクセス権限が必要なことは特開平10-49604号公報(乙7)、特開平11-184956号公報(乙8)、乙9公報、乙1公報、乙6公報等の記載からも技術常識であり、乙2公報に記載された技術において看護師がベッドサイト端末に対応する患者の医療情報にアクセスする正当な権限を有していることを認証するために看護師IDを入力することを要することは明らかである。

キ 結論

以上のとおり、本件発明1-1は、基準日当時、乙1電子カルテサーバに対し乙2公報に記載された発明を組み合わせることにより当業者が容易に発明することができた。そして、同様の理由により、本件発明1-2、本件発明1-7、本件発明1-8及び本件発明1-10も当業者が容易に発明することができた。

したがって、本件発明1(本件発明1-1、本件発明1-2、本件発明1-7、本件発明1-8及び本件発明1-10)は、いずれも進歩性を欠く。

(原告の主張)

ア 乙1公報に記載された発明の構成

乙1公報に記載された発明の構成は概ね被告の主張のとおりである。

しかし、本件発明1-1の患者識別情報とは、患者そのものを識別するための情報であり、患者名や患者IDが含まれるのに対し、乙1公報のベッドサイド端末識別子とは、ベッドサイド端末を識別するためのものであり、両者は異なる概念であって、乙1公報のベッドサイド端末識別子は「患者識別情報」には該当しない。また、乙1公報に医療スタッフのIDと患者名の組み合わせごとに状態情報が記録されていることが記載されていることから(段落【0103】)、乙1公報における「医療スタッフ識別子、及び、患者名に対応する状態情報が存在するか否か判定する」とは、「医療スタッフ識別子と患者名の組合せに対応する状態情報が存在するか否かを判定する」という一つの判断処理を行うステップを意味するものであると解釈すべきである。

イ 本件発明1-1と乙1電子カルテサーバとの一致点、相違点

本件発明1-1と乙1電子カルテサーバとを対比すると、以下の一致点及び相違点1ないし4が認められる。

(ア)一致点

本件発明1-1と乙1電子カルテサーバは、「看護師または医師を識別するための第1医師等識別情報を前記端末装置から取得する第2取得部」と、「前記第2患者識別情報に対応する患者の医療情報のうち前記看護師または前記医師が必要とする医療情報を含む表示画面を、前記端末装置へ出力する第2出力部」とを備える情報処理装置であるという点で一致する。

(イ)相違点1

本 件発明1-1と乙1電子カルテサーバは、乙1電子カルテサーバにおいて「患者を識別するための第1患者識別情報を端末装置より取得する第1取得部」(構成要件1-1A)、「前記第1患者識別情報と、患者を識別する情報としてあらかじめ記憶された第2患者識別情報とが一致するか否かを判定する第1判定部」(構成要件1-1B)、及び、「前記第1 判定部が一致すると判定した場合、前記第2患者識別情報に対応する患者の医療情報を、前記端末装置へ出力する第1出力部」(構成要件1-1C)に係る構成を具備しない点において相違する。

(ウ)相違点2

本件発明1-1と乙1電子カルテサーバは、乙1電子カルテサーバにおいて「前記第1判定部で一致すると判定された場合に、看護師または医師を識別するための第1医師等識別情報を前記端末装置から取得する第2取得部」(構成要件1-1D)における「前記第1判定部で一致すると判定された場合」に係る構成を具備しない点において相違する。

(エ)相違点3

本件発明1-1と乙1電子カルテサーバは、乙1電子カルテサーバにおいて「前記第1医師等識別情報と、看護師または医師を識別する情報としてあらかじめ記憶された第2医師等識別情報とが一致するか否か判定する第2判定部」(構成要件1-1E)に係る構成を具備しない点において相違する。

(オ)相違点4

本件発明1-1と乙1電子カルテサーバは、乙1電子カルテサーバにおいて「前記第2判定部が一致すると判定した場合、前記第2患者識別情報に対応する患者の医療情報のうち前記看護師または前記医師が必要とする医療情報を含む表示画面を、前記端末装置へ出力する第2出力部と、を備える情報処理装置」(構成要件1-1F)における「前記第2判定部が一致すると判定した場合」に係る構成を具備しない点において相違する。

ウ 相違点1ないし4の容易想到性

乙2公報には、本件発明1-1のように患者識別情報によって患者認証をするという構成は開示されていない。また、医療スタッフIDの入力によってベッドサイド端末に関連付けられた患者に関する医療スタッフ向けの医療情報が表示されるとしても、本件発明1-1のように医療スタッフ識別情報によって医療スタッフ認証をするということも開示されていない。したがって、乙2公報には相違点1ないし4に係る構成は開示されておらず、乙1電子カルテサーバに乙2公報に記載された発明を組み合わせても相違点1ないし4は解消されない。また、乙2公報に記載された発明は、ナースコールシステムに関する発明であって乙1電子カルテサーバとは技術分野が異なり、また、乙1電子カルテサーバが医療情報の漏洩を防止することを目的とするのに対し、ベッドサイド端末に患者向け及び看護師向けの情報を表示したりすることによって看護師の負担を軽減し、利便性を向上させることを技術思想とするものであるから、乙1電子カルテサーバと技術思想においても根本的な相違があり、乙1電子カルテサーバと組み合わせる動機付けは存在しない。

以上のとおり、乙1電子カルテサーバに対し乙2公報に記載された発明を組み合わせることによって、相違点1ないし4に係る本件発明1-1の構成を想到することが当業者にとって容易であったとは認められない。

エ 結論

以上のとおり、乙1電子カルテサーバに対し乙2公報に記載された発明をはじめとする公知技術を組み合わせることにより、相違点1ないし4に係る本件発明1-1の構成を当業者が容易に想到することができたということはできない。そして、同様の理由により、本件発明1-2、本件発明1-7、本件発明1-8及び本件発明1-10の構成を当業者が容易に想到することができたということはできない。

したがって、本件発明1(本件発明1-1、本件発明1-2、本件発明1-7、本件発明1-8及び本件発明1-10)は、いずれも進歩性を欠くものではない。

(7)本件発明2は、いずれも乙1公報に記載された発明に基づき容易に想到することができたか(争点6)

(被告の主張)

本件発明2の進歩性欠如の有無については、争点5で主張したところが妥当するから、本件発明2(本件発明2-1、本件発明2-2、本件発明2-4、本件発明2-5及び本件発明2-7)は、いずれも乙1公報に記載された発明に対し乙2公報に記載された発明を組み合わせることで当業者が容易に想到可能なものであり、進歩性を欠いている。

(原告の主張)

本件発明2の進歩性欠如の有無については、争点5で主張したところが妥当するから、本件発明2(本件発明2-1、本件発明2-2、本件発明2-4、本件発明2-5及び本件発明2-7)は、いずれも、乙1公報に記載された発明に乙2公報に記載された発明を組み合わせることにより当業者が容易に想到可能なものではない。

7.裁判所の判断

1 本件発明1の技術的意義

(1)本件明細書1の発明の詳細な説明欄には、次の記載があり、また、別紙本件明細書1図面の図がある(甲2)。

-省略-

(2)前記(1)の本件明細書1の記載によれば、本件発明1の意義は、次のとおりであると認められる。

本件発明1は、医療情報の表示技術に関するものである。

従来技術として、入院中の患者が自身に対して行われる処置、検査または手術等の医療情報を知りたい場合、医療情報を医療用サーバから取得し、取得した医療情報に基づくピクトグラム等を表示する端末装置があった。なお、本件明細書1において従来技術が記載されたものとして掲げられている文献(特開2015-18461号公報。甲11)には、医療スタッフが、①病院内システム用ネットワークに接続する機器(設定端末)にアクセスして電子カルテシステムに記録されたカルテ情報を取得すること、②設定端末を用いてベッドサイド端末と無線通信し、個々の入院患者に対応する端末装置に表示する表示情報を取得したカルテ情報の中から選択し、端末装置ごとに設定するという構成などが開示されていた。

しかし、上記のような端末装置では、セキュリティを確保することが難しいという課題があった。本件発明1は、その課題を解決するために、本件発明1の構成を有するものである。

2 被告製品のピクトグラムサーバは、本件発明1-1の技術的範囲に属するか

(争点1)

(1)被告製品の患者登録に係る構成は構成要件1-1A及び1-1Bを充足するか(争点1-1)について

ア 第1判定と第2判定の関係

(ア)本件発明1-1の特許請求の範囲の記載をみると、本件発明1-1は、「患者を識別するための第1患者識別情報を端末装置より取得する第1取得部と」(構成要件1-1A)、「前記第1患者識別情報と、患者を識別する情報としてあらかじめ記憶された第2患者識別情報とが一致するか否かを判定する第1判定部と」(構成要件1-1B)を有するものであり、第1判定部において第1判定をする。また、「前記第1判定部で一致すると判定された場合に、看護師または医師を識別するための第1医師等識別情報を前記端末装置から取得する第2取得部と」(構成要件1-1D)、「前記第1医師等識別情報と、看護師または医師を識別する情報としてあらかじめ記憶された第2医師等識別情報とが一致するか否か判定する第2判定部と」(構成要件1-1E)を有するものであり、第2判定部において第2判定をする。

ここで、第1判定と第2判定の関係について、特許請求の範囲には、「前記第1判定部で一致すると判定された場合に」(構成要件1-1D)、第1医師等識別情報が取得されて第2判定がされることが記載されている。このことから、第1判定で一致すると判定されることが、第2判定がされることの前提であることが記載されているといえる。もっとも、第1判定と第2判定との時間的な接着性の有無等についての記載はない。

そこで、本件明細書1をみると、本件明細書1には、実施の形態1ないし4が記載されている。実施の形態1では、第1判定や、第1判定で一致するとの判定がされて患者の医療情報を出力することについての実施の形態(構成要件1-1Aないし1-1C)が記載されているが、第1判定で一致するとの判定がされた直後に第2判定がされるとか、第1判定は、第2判定がされる都度にされるものであるなど、第1判定と第2判定の時間的関係やその機会についての記載はない。そして、実施の形態1では、患者が、患者の手に巻いており識別情報を含むリストバンドのバーコードを端末装置の撮像部で撮像することによって第1判定がされる(段落【0045】)。そして、第1判定で一致するとの判定がされた場合には、「患者用画面」が生成、表示され(段落【0047】ないし【0050】)、患者用画面には検査の予定や患者への注意事項が表示されるなどし(【0043】【図7】、患者はその画面を確認することで患者に対して行われる医療行為等を知ることができ(段落【0019】)、その患者用画面に対し、患者が、例えば、検査ボタンをタッチすると検査名欄や検査説明欄が表示された検査表示画面が生成、表示されることが記載されている(段落【0051】等)。また、第1判定で一致するとの判定がされて患者用画面が表示(ステップS21)されると検査ボタンや手術ボタンの入力を受け付けるようになり、その入力がされた場合には対応する画面の表示処理がされるが、入力がされなかったり、上記対応する画面の表示処理がされたりした後には、患者用画面の表示に戻ることが記載されている(段落【0065】ないし【0068】、【図12】)。

実施の形態2は、看護師が患者の医療情報を確認するための看護師専用画面を表示部に表示する実施の形態であり、主に構成要件1-1Dないし1-1Fに対応する実施の形態が記載され、特に説明する構成等以外は実施の形態1と同じであることが記載されている(段落【0088】)。そこでは、患者用画面が表示部に表示された後、看護師が、自身のリストバンドに記載されたバーコードを撮像部で撮像し、第2判定がされることが記載されている(段落【0091】)。また、第2判定が一致した場合には医療スタッフ用画面が表示されるところ、医療スタッフ用画面である看護師専用画面、バイタル画面等の表示後に終了処理(ステップS120)がされると、患者用画面の処理(ステップS23)に移ることが記載されている(段落【0122】【図26】【図12】)。そこには、上記の他に、第1判定と第2判定との関係についての記載はない。

また、実施の形態3は主に第1判定に関係する記載であり(ただし、請求項2に関する形態)、実施の形態4は、第2判定に関係する記載であるが、それらの記載も含めて、本件明細書1に、第1判定と第2判定との時間的接着性についての記載はない

本件明細書1における背景技術や発明が解決しようとする課題の記載によれば、医療情報を医療用サーバから取得し、取得した医療情報に基づいてピクトグラムを表示する端末装置という従来技術ではセキュリティを確保することが難しかったところ、本件発明1-1は、セキュリティを従来技術より向上させることができるというものである(段落【0003】ないし【0006】)。本件明細書1には、本件発明1-1について、上記のとおり、従来技術よりセキュリティを向上させることが記載されているが、その記載のほかには従来技術と比較した優れた効果についての記載はない。

(イ)以上の特許請求の範囲の記載や本件明細書1の記載に照らせば、第2判定は、第1判定で一致すると判定された場合にされるものである。しかし、本件明細書1には、実施の形態として、患者がその手に巻いているリストバンドのバーコードを端末装置の撮像部で撮像することによって第1判定がされ、一致すると判定された場合に患者用画面が表示され、それに対して患者が一定の操作をする形態が記載されている。そして、患者用画面の表示後に、医療スタッフがそのリストバンドのバーコードを撮像部で撮像することで第2判定がされ、そこで一致すると判定されると医療スタッフ用画面が表示されるが、その終了処理後は、患者の医療情報を表示する患者用画面の表示に戻ることも記載されている。これらに照らすと、本件発明1-1において、第2判定がされるのは、第1判定で一致すると判定された場合ではあるが、第1判定で一致するとされた後に患者による一定の操作がされ、その後に第2判定がされることや、第1判定で一致すると判定されて第2判定がされて第2判定で一致するとされて看護師等が必要とする医療情報を含む表示画面が出力された後に、第1判定で一致すると判定された後と同じ、患者の医療情報を表示する患者用画面に戻り、その状態から再び第2判定がされることがあり得ることが記載されているといい得る。

以上によれば、本件発明1-1において、第2判定がされるのは第1判定で一致すると判定された場合であるが、第1判定がされるのは第2判定がされる直前に限られるとか、第2判定がされる前にその都度第1判定がされるとは限られないと解するのが相当である。このように解したとしても、第1判定がされてそこで一致すると判定されない限り第2判定はされず、第2判定において一致すると判定されない限り看護師等が必要とする医療情報を含む表示画面が表示されることはないから、本件明細書1に記載されたセキュリティの向上という効果を奏するといえる。

(ウ)被告は、本件発明1-1は、医療スタッフが必要とする患者の医療情報にアクセスするための一連のプログラムに関する発明であり、プログラムで制御されることにより所望の効果を発揮するように構成されており、本件発明1-1の第1判定と第2判定とは患者の医療情報にアクセスするための情報処理制御とした連続した処理であるから、医療スタッフが患者の医療情報にアクセスしようとする場合には、その都度第1判定を行った上で医療スタッフ認証を行うことが必須であり、本件発明1-1にいう第1判定とはそのように理解されるべきであると主張する。

しかし、特許請求の範囲及び明細書の記載は、上記のとおりであって、そこには、第1判定と第2判定とが患者の医療情報にアクセスするための情報処理制御とした連続した処理であるとか、医療スタッフが患者の医療情報にアクセスしようとする場合には、その都度第1判定を行った上で第2判定を行うことが必須であることの記載はなく、逆に、被告主張とは異なる形態が記載されているともいえる。また、被告のように解さなくとも従来技術の課題を解決するものといえる。被告の主張は採用することができない。

(エ)被告は、第1判定である患者認証が行われた後に第2判定である医療スタッフ認証を行うという構成は公知発明や従来技術に開示されているか、これらに基づいて当業者が容易に想到可能であることを理由として、第1判定と第2判定の関係について被告主張のように限定して解釈されるべきであると主張する(被告は、無効理由1及び2を主張するほか、これとは別に、上記のとおり主張し、この主張は第1判定と第2判定の関係について原告が主張する解釈に対する理由付き否認であると主張する。)。

しかし、本件発明1-1における第1判定と第2判定との関係は、特許請求の範囲及び明細書の記載から、上記のとおり解釈される。このように解釈された本件発明1-1が従来技術と同一であったり、従来技術から想到することが容易であったりすれば、それは、基本的に特許法104条の3に基づく主張の理由となるものといえる。なお、後記7のとおり、被告が指摘する文献等に本件発明1-1の構成が開示されていると認められるものではなく、被告が主張する事実が技術常識であり、技術常識等によって、第1判定と第2判定との関係について被告が主張するように解釈されるものともいえない。

イ(ア)甲5ないし8によれば、被告製品は、本件発明1-1との関係で、以下の構成を有する。

① ピクトグラムサーバは、ピクトグラム端末が患者のリストバンドのバーコードを読み取るなどして取得した患者IDを、同端末を通じて取得する。

② ピクトグラムサーバは、上記①の患者IDとあらかじめ電子カルテサーバに登録された患者IDとが一致するか否かを判定する。

③ ピクトグラムサーバは、上記②において患者IDが一致すると判定して患者登録がされた場合、上記患者IDに対応する患者に関し、患者の氏名、主治医の氏名のほか、ペースメーカーの有無、アレルギーの有無等に関する情報をピクトグラム端末に出力する。

④ ピクトグラムサーバは、患者登録により患者IDが一致すると判定されて上記③の画面が表示されている状態において、ピクトグラム端末が医療スタッフのICカードやバーコードを読み取ることによって取得した医療スタッフIDを、同端末を通じて取得する。

⑤ ピクトグラムサーバは、上記④の医療スタッフIDと予め電子カルテサーバに登録された医療スタッフIDとが一致するか否かを判定する。

⑥ ピクトグラムサーバは、上記⑤において医療スタッフIDが一致すると判定した場合、ピクトグラム端末に対し、患者の体温、血圧等のバイタル情報(その経時変化も含む)や検査結果に関する情報に係るデータを出力し、ピクトグラム端末の画面にそれらの情報が表示される。

(イ)上記アによれば、構成要件1-1Bでされる第1判定は、構成要件1-1D以下の第2判定との時間的な接着性が要求されず、第2判定の直前にされるものに限られず、また、第2判定がされる都度されるものに限られない。

被告製品のピクトグラムサーバは、情報処理装置であり、患者を識別するための患者IDを取得する端末装置であるピクトグラム端末を有し(上記(ア)①構成要件1-1A)、そこで取得された患者IDであってピクトグラムサーバに送信されたものと、あらかじめ記憶されている患者IDとが一致するか否かを判定する判定部を有し(同② 構成要件1-1B)、被告製品のピクトグラムサーバは、上記で一致すると判定した場合、ベッドサイド端末に対し、患者の氏名、主治医の氏名のほか、ペースメーカーの有無、アレルギーの有無等に関する情報、すなわち患者の医療情報をベッドサイド端末に出力する出力部を有する(同③ 構成要件1-1C)。この判定は、同④以下の判定の直前にされるとは限られず、また、その判定の都度されるものとは限らないが、このことは、上記の構成要件の充足性判断を左右するものではない。

以上によれば、被告製品のピクトグラムサーバは、構成要件1-1A及び構成要件1-1Bを充足する。また、その出力部は、構成要件1-1Cを充足する。

(ウ)被告は、被告製品においては、入院時にベッドサイド端末と患者とを関連付ける患者登録をするものの、この患者登録は患者がベッドサイド端末の使用を開始する際に行えば足り、医療スタッフが患者の医療情報にアクセスする都度必要となるものではなく、患者登録と患者登録後の医療スタッフ認証との間には情報処理としての連続性はないから被告製品における患者登録は、本件発明1-1にいう第1判定には相当せず、構成要件1-1A及び構成要件1-1Bを充足しないと主張する。

しかし、被告の上記主張は、本件発明1-1の第1判定と第2判定との関係を前記ア(ウ)、(エ)に記載した被告の主張のとおり解することを前提とするといえるものであり、その主張を採用することができないので、理由がない。

また、被告は、被告製品においては患者登録に先行して患者登録前医療スタッフ認証が行われているから、被告製品における患者登録について、構成要件1-1A及び構成要件1-1Bを充足しないと主張する。

しかし、被告製品において患者登録前医療スタッフ認証が行われているとしても、本件発明1-1の内容と患者登録前医療スタッフ認証の内容に照らせば、患者登録前医療スタッフ認証に係る構成は、本件発明1-1の構成要件とは別の構成といえるものであって、そのような構成があることが構成要件1-1A及び構成要件1-1Bの充足性についての上記判断に影響を及ぼすものとは認められない。

(2)被告製品のピクトグラムサーバは構成要件1-1Fを充足するか(争点1-2)について

ア 「前記看護師または前記医師が必要とする医療情報を含む表示画面を・・・出力する」(構成要件1-1F)の意義

「医療情報」(構成要件1-1F)は、「前記看護師または前記医師が必要とする」ものである。本件明細書1の発明の詳細な説明においては、医療情報DBに格納されているデータの一例を示す図において、医療情報データベースに格納されるデータである「医療情報」の例として、「患者ID」、「リハビリ情報」、「薬情報」、「検査情報」、「手術情報」、「処置情報」等が記載されている(段落【0014】【図3】)。また、実施の形態2では、第2判定で一致すると判定された後に表示させることができる看護支援記録画面において、看護師が電子カルテと同じように患者のバイタルを確認することができることが記載されている(段落【0106】等)。以上によれば、「前記第2患者識別情報に対応する患者の医療情報のうち前記看護師または前記医師が必要とする医療情報」とは、当該患者に対して看護師又は医師が医療行為を行うために必要とする、当該患者に関する情報であり、例えば、当該患者に対して行われたリハビリ、投薬、検査、手術などの情報や当該患者のバイタルに関する情報が含まれると解される。

イ 「医療情報を含む表示画面を・・・出力する」(構成要件1-1F)の意義

構成要件1-1Fにおいて、情報処理装置から「出力」されるのは、「医療情報を含む表示画面」であることが記載されている。

ここで、その出力について、本件明細書1の発明の詳細な説明をみると、情報処理装置のCPUが画面を生成するとの記載があるが(例えば、看護師専用画面について段落【0094】等)、情報処理装置が生成する対象について、端末装置に出力される二次元画面のそのものに限定されるべきであるとする記載はない。また、実施の形態では、端末装置と情報処理装置は、インターネット、LAN(Local Area Network)、携帯電話網等の通信網により接続されていることが記載されている(段落【0015】、【図1】)。インターネット上で送信先に画面を表示させる場合、HTMLデータという情報を送信することが一般的に行われており(甲12、13)、出力先の端末において画面の表示をしようとする場合に、必ずしも出力元において当然に二次元画面そのものを作成してそれを出力しているものではないことは技術常識であるともいえるし、本件明細書1に、本件発明1-1について出力元において特に二次元画面そのものを作成する意義があることについての記載はない。

これらによれば、「医療情報を含む表示画面を・・・出力する」(構成要件1-1F)とは、端末装置に表示される医療情報に係る二次元画面そのものを出力することだけでなく、端末装置において画面を表示するために必要なデータを出力することも含むものであると認めるのが相当である。

被告は、構成要件1-1Cにおいては「医療情報を・・・出力する」と規定しているのに対し、構成要件1-1Fが「医療情報を含む表示画面を・・・出力する」と規定し、本件明細書1においても「画面」と「情報」が区別して用いられていることから、構成要件1-1Fの「表示画面を、前記端末装置へ出力する」とは、情報処理装置が生成した二次元画面そのものを端末装置に送信することを意味すると主張する。しかし、上記に照らし、採用することはできない。

ウ 前記(1)イ(ア)のとおり、被告製品のピクトグラムサーバは、医療スタッフIDが一致すると判定した場合、ピクトグラム端末の画面に表示されるための患者のバイタル情報(その推移も含む)や検査結果に関する情報に係るデータをピクトグラム端末に出力する(同⑥)。

したがって、被告製品のピクトグラムサーバは、構成要件1-1Fを充足する。

(3)前記(1)イ(ア)のとおり、被告製品のピクトグラムサーバは、患者登録後に、ベッドサイド端末に直接入力された医療スタッフIDであってピクトグラムサーバに送信されたものと、あらかじめ記憶されている医療スタッフIDとが一致するか否かを判定するものである(同④、⑤)から、第1医師等識別情報を端末装置から取得する第2取得部と、第1医師等識別情報とあらかじめ記憶されている第2医師等識別情報とが一致するか否かを判定する第2判定を有するといえ、構成要件1-1D及び1-1Eを充足する。

以上によれば、被告製品のピクトグラムサーバは、本件発明1-1の各構成要件を充足する。

3 被告製品のピクトグラムサーバ、ピクトグラム端末や、それらのプログラムは、本件発明1-2、本件発明1-7、本件発明1-8及び本件発明1-10の技術的範囲に属するか(争点2)

(1)甲5、6、7によれば、被告製品には、前記2(1)イ(ア)の構成を有することに加えて、患者登録がされた後、ベッドサイド端末に当該患者が今後受ける予定の検査、処置等のスケジュールを表示する構成を具備するものがあることが認められる。

それらのスケジュールは、構成要件1-2Gの「前記第2患者識別情報に対応する患者に対する処置の予定情報」ということができる。そうすると、被告製品のピクトグラムサーバのうち、上記構成を備えるものは、本件発明1-2の各構成要件を充足する。

本件発明1-1と本件発明1-7の内容に照らし、本件発明1-1の情報処理装置は、本件発明1-7の情報処理プログラムを有しているといえる。そして、被告製品のピクトグラムサーバは、本件発明1-1の各構成要件を充足していて、本件発明1-7の各構成要件を充足する情報処理プログラムを有しているといえる。そうすると、被告製品のピクトグラムサーバの情報処理プログラムは、本件発明1-7の各構成要件を充足する。

本件発明1-1と本件発明1-8の内容に照らし、本件発明1-1の情報処理装置は、本件発明1-8の端末装置を有するといえる。そして、被告製品のピクトグラムサーバは、本件発明1-1の各構成要件を充足していて、本件発明1-8の各構成要件を充足する端末装置を有するといえる。そうすると、被告製品のピクトグラム端末は、本件発明1-8の各構成要件を充足する。

本件発明1-8と本件発明1-10の内容に照らし、本件発明1-8の端末装置は、本件発明1-10の情報処理プログラムを有しているといえる。そして、被告製品のピクトグラム端末は、本件発明1-8の各構成要件を充足していて、本件発明1-10の各構成要件を充足する情報処理プログラムを有しているといえる。そうすると、被告製品のピクトグラム端末の情報処理プログラムは、本件発明1-10の各構成要件を充足する。

4 被告製品のピクトグラムサーバは、本件発明2-1の技術的範囲に属するか

(争点3)

(1)本件発明1-1と本件発明2-1は、第2判定部で識別情報が一致すると判定した場合、本件発明1-1では、患者の医療情報のうち看護師又は医師が必要とする医療情報を含む表示画面を端末装置へ出力する出力部を備えるのに対し、本件発明2-1では、患者の状態に関する状態情報の入力を受け付けるための入力画面を端末装置へ出力する出力部を備える点で異なり、また、識別情報の名称が異なる。しかし、患者の識別に関する判定を行うこと、その判定で一致するとされた場合に看護師又は医師の識別に関する判定を行うこと、その判定で一致するとされた場合に端末装置に一定の画面を出力する出力部を備える点は共通する。

本件明細書2には、背景技術、発明が解決しようとする課題について、本件明細書1の前記1(1)イ、ウと同じ記載があり(段落【0002】、【0003】、【0005】、【0006】)、発明の効果として、「一側面によれば、セキュリティを従来より向上させることができる。」(段落【0008】)との記載がある。そして、本件明細書2には、実施の形態1及び2として、本件明細書1の前記1(1)カ(ア)及び(イ)と同じ記載がある(段落【0010】ないし【0014】、【0041】ないし【0045】、【0060】ないし【0063】、【0083】ないし【0118】、【0120】)。(甲4)

(2)前記(1)に照らせば、本件発明2は、本件発明1の従来技術と同じ従来技術についてセキュリティを確保することが難しいという課題があったところ、その課題を解決するために本件発明2の構成を有するものである。

そして、本件明細書1及び本件明細書2の記載に照らせば、本件発明2-1における「第1識別情報」と「予め記憶部に記憶された第1識別情報」は、それぞれ、本件発明1-1における「第1患者識別情報」と「あらかじめ記憶部に記憶された第2患者識別情報」に相当するものであると認められる。

そして、本件発明1で述べたのと同様の理由により、本件発明2-1においても、構成要件2-1Bでされる判定は、構成要件2-1D以下の判定との時間的な接着性が要求されず、その判定の直前にされるものに限られないし、また、その判定がされる都度されるものに限られない。

被告製品のピクトグラムサーバは、医療スタッフ認証がされた後に、患者のバイタル情報等を画面に表示するのに必要なデータのほか、患者のバイタル情報の登録を受け付ける画面を表示するのに必要なデータを出力する(甲8)。

したがって、被告製品のピクトグラムサーバは、「患者の・・・状態情報の入力を受け付けるための入力画面を前記端末装置へ出力する第2出力部」(構成要件2-1F)も充足する。

これらと、争点1-1において述べたところ(前記3)を併せると、被告製品のピクトグラムサーバは、本件発明2-1の各構成要件を充足するといえる。

5 被告製品のピクトグラムサーバ、ピクトグラム端末や、それらのプログラムは、本件発明2-2、本件発明2-4、本件発明2-5及び本件発明2-7の技術的範囲に属するか(争点4)

(1)前記2(1)イ(ア)のとおり、被告製品のピクトグラムサーバは、医療スタッフ認証がされると、患者の体温、血圧等のバイタル情報(その経時変化も含む)に係るデータをピクトグラム端末に出力する(同⑥)。本件明細書2の記載(段落【0101】。本件明細書1の段落【0106】と同じ記載)に照らすと、上記情報は、「患者の状態の変化を示すための変化情報」(構成要件2-2H)に該当する。そうすると、被告製品のピクトグラムサーバは、本件発明2-2の各構成要件を充足する。

(2)本件発明2-1と本件発明2-4の内容に照らし、本件発明2-1の情報処理装置は、本件発明2-4の情報処理プログラムを有しているといえる。そして、被告製品のピクトグラムサーバは、本件発明2-1の各構成要件を充足していて、本件発明2-4の各構成要件を充足する情報処理プログラムを有しているといえる。そうすると、被告製品のピクトグラムサーバの情報処理プログラムは、本件発明2-4の各構成要件を充足する。

本件発明2-1と本件発明2-5の内容に照らし、本件発明2-1の情報処理装置は、本件発明2-5の端末装置を有するといえる。そして、被告製品のピクトグラムサーバは、本件発明2-1の各構成要件を充足していて、本件発明2-5の各構成要件を充足する端末装置を有するといえる。そうすると、被告製品のピクトグラム端末は、本件発明2-5の各構成要件を充足する。

本件発明2-5の端末装置は、本件発明2-5と本件発明2-7の内容に照らし、本件発明2-7の情報処理プログラムを有しているといえる。そして、被告製品のピクトグラム端末は、本件発明2-5の各構成要件を充足していて、本件発明2-7の各構成要件を充足する情報処理プログラムを有しているといえる。そうすると、被告製品のピクトグラム端末の情報処理プログラムは、本件発明2-7の各構成要件を充足する。

6 本件発明1は、いずれも乙1公報に記載された発明に基づき容易に想到することができたか(争点5)について

被告は、本件発明1は、いずれも、基準日当時、乙1公報の実施例2に記載された発明に乙2公報に記載された技術をはじめとする公知技術を適用することによって、当業者が容易に想到し得たものであるから、進歩性を欠いており、無効とされるべきであると主張する。

(1)乙1公報の記載

-省略-

(2)乙2公報の記載

-省略-

(3)上記(1)によれば、乙1公報の実施例2には、以下の構成を有する発明が記載されている。

ア 医療スタッフが医療スタッフ識別子をベッドサイド端末に入力し、電子カルテアプリケーション起動ボタンが選択されると、ベッドサイド端末から、電子カルテサーバにベッドサイド端末識別子及び医療スタッフ識別子が送出される。

イ 電子カルテサーバは、予めベッドサイド端末識別子と患者名(患者識別子)とを関連付けて記憶している。

ウ 電子カルテサーバは、上記アのベッドサイド端末識別子及び医療スタッフ識別子を受信すると、上記イを参照してベッドサイド端末識別子に対応する患者名を取得する。

エ 電子カルテサーバは、患者名を取得すると、受信した医療スタッフ識別子と患者名の組合せに対応し、医師が使用する診療情報の状態情報があらかじめ電子カルテサーバ内に記憶されているか否かを判定し、状態情報が記憶されている場合には、状態情報を取得して、ベッドサイド端末に送信し、ベッドサイド端末は、これを表示装置に表示する。

(4)本件発明1-1と乙1公報に記載された電子カルテサーバとの対比

本件発明1-1と乙1公報の実施例2に記載された電子カルテサーバ(以下「乙1電子カルテサーバ」ということがある。)は、いずれも、①「看護師または医師を識別するための第1医師等識別情報を前記端末装置から取得する第2取得部」、②「患者の医療情報のうち前記看護師または前記医師が必要とする医療情報を含む表示画面を、前記端末装置へ出力する第2出力部」を具備する情報処理装置である点においては一致しているが、少なくとも、以下の点において相違している。

ア 相違点1

本件発明1-1に係る情報処理装置は、ベッドサイド端末から送信された患者識別情報とあらかじめ記憶部に記憶されている患者識別情報が一致するか否かを判定するのに対し、乙1電子カルテサーバは、ベッドサイド端末から受信したベッドサイド端末識別子に基づいて、これとあらかじめ関連付けて記憶されている患者名を取得するものであり、「患者を識別するための第1患者識別情報を端末装置より取得する第1取得部」(構成要件1-1A)、「前記第1患者識別情報と、患者を識別する情報としてあらかじめ記憶された第2患者識別情報とが一致するか否かを判定する第1判定部」(構成要件1-1B)に係る構成を具備していない点

イ 相違点2

乙1電子カルテサーバは、医療スタッフ識別子をベッドサイド端末から受信するものの、上記アのとおり第1判定に係る構成を具備していないため、「前記第1判定部で一致すると判定された場合」(構成要件1-1D)に係る構成を具備していない点

ウ 相違点3

本件発明1-1に係る情報処理装置は、ベッドサイド端末から送信された医療スタッフ識別情報とあらかじめ記憶されている医療スタッフ識別情報が一致するか否かを判定するのに対し、乙1電子カルテサーバは、受信した医療スタッフ識別子と患者識別子の組合せに対応する状態情報があらかじめ電子カルテサーバ内に記憶されているか否かを判定するものであり、「前記第1医師等識別情報と、看護師または医師を識別する情報としてあらかじめ記憶された第2医師等識別情報とが一致するか否か判定する第2判定部」(構成要件1-1E)に係る構成を具備していない点

(5)各相違点の認定について

ア 相違点1及び2

被告は、乙1電子カルテサーバにおいては、ベッドサイド端末識別子と患者名が対応しており、「ベッドサイド端末識別子」が「第1患者識別情報」及び「第2患者識別情報」に相当するとして、相違点1及び2は存在しないと主張する。

しかし、本件発明1-1の患者識別情報は、患者を識別するための情報であり、患者名や患者IDなどの当該患者に固有の情報である。これに対し、乙1公報のベッドサイド端末識別子は、ベッドサイド端末を識別するためのものであり、当該ベッドサイド端末に固有の情報といる。したがって、両者は異なる概念であり、乙1公報のベッドサイド端末識別子は「患者識別情報」には該当するとはいえない。更に、乙1電子カルテサーバにおいては、あらかじめベッドサイド端末識別子と患者名(患者識別子)が関連付けられているところ、そのベッドサイド端末識別子と患者識別子の関連付けやその判定に係る構成については何ら開示していない(相違点1)。

また、本件発明1-1が第1判定において一致すると判定された場合に医療スタッフ認証である第2判定をするのに対し、乙1電子カルテサーバでは、ベッドサイド端末識別子に基づいて、同識別子とあらかじめ関連付けて記憶されている患者名を取得するものであり、第1判定がされているとはいえず、本件発明1-1の第1判定部で一致すると判定された場合(構成要件1-1D)に係る構成を有しない(相違点2)。

イ 相違点3

被告は、乙1公報には「状態情報」が患者ごとに記録されていることを根拠に、患者名に対応する状態情報の存在の有無と医療スタッフ識別子の存在の有無とは別であり、乙1電子カルテサーバは、「医療スタッフ識別子が存在するか否か」及び「患者名に対応する状態情報が存在するか否か」をそれぞれ判定するとして、相違点3は存在しないと主張する。

しかし、乙1公報において、状態情報は、利用者ID、患者名等を総称するものとされて(段落【0091】)、図9では、利用者(医師名等)と患者名の組合せが示され、また、「利用者ID及び患者名に対応する状態情報」(段落【0103】)として、医師名等の利用者IDと患者名の組合せごとに情報が記録されていることが示されている。乙1公報における「医療スタッフ識別子、及び、患者名に対応する状態情報が存在するか否か判定する(S8-4)」(段落【0109】)とは、医療スタッフ識別子と患者名の組合せに対応する状態情報が存在するか否かを判定することを意味し、乙1電子カルテサーバは、この組合せに対応する状態情報が存在する場合に、その状態情報を取得してベッドサイド端末に表示しているものと解される。これに対し、本件発明1-1は、第1判定とは別に、端末装置が取得した第1医師等識別情報とあらかじめ記憶された第2医師等識別情報が一致するかを判定している。そうすると、これらの点で本件発明1-1と乙1電子サーバは異なっており、相違点3を認めることができる。

(6)相違点1について

乙1電子カルテサーバは、医療スタッフがベッドサイド端末で電子アプリケーションを利用する際に当該患者に関する診療情報のみ参照等することができ、またベッドサイドでの診察時に素早く操作することができるようにするものであり、ベッドサイド端末識別子と患者名があらかじめ関連付けて記憶されている。

しかし、乙1電子カルテサーバでは、ベッドサイド端末識別子と患者名があらかじめ関連付けて記憶されているものの、その関連付けの方法についての記載はない。本件発明1-1は、構成要件1-1A及び構成要件1-1Bの構成により患者の識別に関する第1判定をするものであるところ、乙1公報には、それらの構成についての記載がなく、また、相違点1に係る本件発明1-1の構成をとることについての示唆もない。

乙2公報には前記(2)の記載があり、ベッドサイド端末はベッド番号(患者)に関連付けられていて、患者はベッドサイド端末を操作して様々な情報を閲覧することができるが、一定の情報以外を閲覧することはできないように制御されている。そして、看護師が、看護師IDをタッチパネルから入力することで看護師操作モードに変更され、ベッドサイド端末のID情報を基に、ベッドサイド端末に関連付けられている患者情報を情報記憶部から読み取ることにより患者を特定し、特定した患者情報とともに処置記録をナースコールサーバ9に送信してナースコールサーバが看護情報記憶部に記憶されている看護記録を受信した処置記録を追加して更新する技術が記載されている。

乙2公報に記載された技術では、ベッドサイド端末とベッド番号との関連付けを通じてベッドサイド端末と患者とが関連付けられているが、それらの関連付けがどのようにされるのかについては、開示も示唆もない。したがって、乙2公報に相違点1に係る本件発明1-1の構成が記載されているとはいえない。

以上によれば、乙1公報に記載された発明に対し、相違点1に係る本件発明1-1の構成を組み合わせることが当業者にとって容易に想到できたとは直ちにはいえず、また、乙1公報に記載された発明に対して乙2公報に記載された技術を組み合わせても、相違点1に係る本件発明1-1の構成をとることにはならない。

したがって、乙1公報に記載された発明と乙2公報に記載された技術によって、相違点1に係る本件発明1-1の構成をとることを容易に想到することができたとはいえない。

(7)相違点3について

ア 乙1電子カルテサーバにおいては、「医療スタッフ識別子と患者名の組合せに対応する状態情報が存在するか否かを判定する」ことが記載されているが、相違点3に係る本件発明1の構成は記載されていない。そして、乙1公報に記載された発明は、医療スタッフ識別子と患者名の組合せに対応する状態情報を利用する発明であるところ、その状態情報を本件発明1-1の看護師又は医師を識別するための識別情報とすることについての示唆はないし、その状態情報を本件発明1-1の識別情報とすることについての動機があることを認めるに足りる証拠はない。

他方、乙2公報には、患者操作モードから看護師操作モードに移行する際、看護師IDをタッチパネルからベッドサイド端末に入力するという構成が開示されているが、看護師操作モードに移行するまでにどのような情報処理がされているかについての具体的な記載はない。

これらによれば、乙1公報の状態情報を相違点3に係る本件発明1-1の構成とすることが当業者にとり容易にできたとは直ちにはいえず、また、乙2公報には、本件発明1-1の第2判定に係る本件発明1の構成が記載されていないから、乙1公報に記載された発明に乙2公報に記載された技術を組み合わせたとしても、相違点3に係る本件発明1の構成に容易に想到することができたとはいえない。

イ 被告は、医療情報システムにより医療情報に対し医療従事者がアクセスするには、アクセス権限を有することは技術常識であり、乙2公報に記載された技術において看護師がベッドサイド端末に対応する患者の医療情報にアクセスする正当な権限を有していることを認証するために看護師IDを入力することを要することは明らかである旨主張して、特開平10-49604号公報(乙7)、特開平11-184956号公報(乙8)、乙9公報、乙1公報、乙6公報等の記載を指摘する。

しかし、仮にそれらの公報に、医療情報システムにより医療情報に医療従事者がアクセスするにはアクセス権限が必要であることが記載されていたとしても、乙1公報に記載された医療スタッフ識別子と患者名の組合せに対応する状態情報について、乙1公報には本件発明1-1の看護師又は医師を識別するための識別情報とすることについての示唆がなく、乙1公報に記載された発明に対して相違点3に係る本件発明1-1の構成を組み合わせることについての動機付けがないことは上記のとおりである。また、乙2公報には、本件発明1-1の第2判定に係る構成が記載されていない。ここでは、乙1公報に記載された発明に対して乙2公報に記載された技術を容易に組み合わせられたか否かが問題となっている。仮に被告指摘の事実によって乙2公報に対して被告指摘の公報記載の技術を組み合わせることが容易に想到することができたとしても、乙2公報に、相違点3に係る本件発明1-1の構成が記載されているとはいえないし、また、それが記載されているに等しいともいえない。したがって、乙1電子カルテサーバの発明に対して、乙2公報に記載の技術を組み合わせても、当業者が相違点3に係る本件発明1-1の構成に容易に想到することができたとはいえない。

(8)以上によれば、乙1公報に記載された発明に対し乙2公報記載の技術等を組み合わせれば本件発明1-1の構成に容易に想到することができたとする被告の主張には理由がない。

(9)本件発明1-2は、本件発明1-1の各構成及び構成要件1-2Gの構成を有する情報処理装置の発明であるところ、本件発明1-1について、乙1公報に記載された発明に乙2公報記載の技術等を組み合わせれば本件発明1-1の構成に容易に想到することができたとする被告の主張には理由がないから、本件発明1-2についても、当業者がその構成に容易に想到することができたとする被告の主張には理由がない。

本件発明1-1の情報処理装置は、本件発明1-7の情報処理プログラムを有しているといえるところ、乙1電子カルテサーバは、乙1電子カルテサーバの処理に対応する情報処理プログラムを有しているといえる。そうすると、本件発明1-7の情報処理プログラムと乙1電子カルテサーバの情報処理プログラムは、少なくとも、前記(4)の相違点に対応する情報処理プログラムについての相違点があるといえる。そして、前記(6)及び(7)で述べたところと同様の理由により、乙1公報に記載された発明に乙2公報記載の技術等を組み合わせれば本件発明1-7の構成に容易に想到することができたとする被告の主張には理由がない。

本件発明1-1の情報処理装置は、本件発明1-8の端末装置を有するといえるところ、乙1電子カルテサーバのベッドサイド端末は、乙1電子カルテサーバの処理に対応する端末であるといえる。そうすると、本件発明1-8の端末装置と乙1電子カルテサーバのベッドサイド端末は、少なくとも、前記(4)の相違点に対応する相違点があるといえる。そして、前記(6)及び(7)で述べたところと同様の理由により、乙1公報に記載された発明に乙2公報記載の技術等を組み合わせれば本件発明1-8の構成に容易に想到することができたとする被告の主張には理由がない。

本件発明1-8の端末装置は、本件発明1-10の情報処理プログラムを有しているといえるところ、乙1電子カルテサーバのベッドサイド端末は、乙1電子カルテサーバのベッドサイド端末の処理に対応する情報処理プログラムを有しているといえる。そうすると、本件発明1-10の情報処理プログラムと乙1電子カルテサーバのベッドサイド端末の情報処理プログラムは、少なくとも、前記(4)の相違点に対応する情報処理プログラムについての相違点があるといえる。そして、前記(6)及び(7)で述べたところと同様の理由により、乙1公報に記載された発明に乙2公報記載の技術等を組み合わせれば本件発明1-10の構成に容易に想到することができたとする被告の主張には理由がない。

7 本件発明2は、いずれも乙1公報に記載された発明に基づき容易に想到することができたか(争点6)について

被告は、本件発明2は、いずれも、出願当時、乙1公報の実施例2に記載された発明に乙2公報に記載された技術をはじめとする公知技術を適用することによって、当業者が容易に想到し得たものであるから、進歩性を欠いており、無効とされるべきであると主張する。

(1)乙1公報の記載事項

乙1公報は、発明の名称を「医療情報システム」とする公開特許公報であり、その特許請求の範囲及び明細書の発明の詳細な説明には、前記6(1)の記載がある。これによると、乙1公報の実施例2には、以下の発明が記載されている。

① 医療スタッフが医療スタッフ識別子をベッドサイド端末に入力し、電子カルテアプリケーション起動ボタンが選択されると、ベッドサイド端末から、電子カルテサーバにベッドサイド端末識別子及び医療スタッフ識別子が送出される。

② 電子カルテサーバは、予めベッドサイド端末識別子と患者名(患者識別子)とを関連付けて記憶している。

③ 電子カルテサーバは、上記①のベッドサイド端末識別子及び医療スタッフ識別子を受信すると、上記②を参照してベッドサイド端末識別子に対応する患者名を取得する。

④ 電子カルテサーバは、患者名を取得すると、受信した医療スタッフ識別子と患者名の組合せに対応し、医師が使用する診療情報の状態情報があらかじめ電子カルテサーバ内に記憶されているか否かを判定し、状態情報が記憶されている場合には、状態情報を取得して、患者の診療情報を更新することができる情報をベッドサイド端末に送信し、ベッドサイド端末では、患者の診療情報を更新することができる。

(2)本件発明2-1と乙1公報の実施例2に記載された乙1電子カルテサーバは、いずれも、①「看護師または医師を識別するための第2識別情報を前記端末装置から取得する第2取得部」、②「患者の状態に関する状態情報の入力を受け付けるための入力画面を前記端末装置へ出力する第2出力部」を具備する情報処理装置である点においては一致しているが、少なくとも、以下の点において相違している。

ア 相違点1

本件発明2-1に係る情報処理装置は、ベッドサイド端末から送信された患者の識別情報とあらかじめ記憶部に記憶されている患者の識別情報が一致するか否かを判定するのに対し、乙1電子カルテサーバは、ベッドサイド端末から受信したベッドサイド端末識別子に基づいて、これとあらかじめ関連付けて記憶されている患者名を取得するものであり、「患者を識別するための第1識別情報を端末装置より取得する第1取得部」(構成要件2-1A)、「前記第1識別情報と、患者を識別する情報として予め記憶部に記憶された第1識別情報とが一致するか否かを判定する第1判定部」(構成要件2-1B)に係る構成を具備していない点

イ 相違点2

乙1電子カルテサーバは、医療スタッフ識別子をベッドサイド端末から受信するものの(一致点①)、上記アのとおり第1判定に係る構成を具備していないため、「前記第1識別情報が一致すると判定した場合」(構成要件2-1D)に係る構成を具備していない点

ウ 相違点3

本件発明2-1に係る情報処理装置は、ベッドサイド端末から送信された医療スタッフ識別情報とあらかじめ記憶されている医療スタッフ識別情報が一致するか否かを判定するのに対し、乙1電子カルテサーバは、受信した医療スタッフ識別子と患者識別子の組合せに対応する状態情報があらかじめ電子カルテサーバ内に記憶されているか否かを判定するものであり、「前記第2識別情報と、前記記憶部に看護師または医師を識別する情報として予め記憶された第2識別情報とが一致するか否か判定する第2判定部」(構成要件2-1E)に係る構成を具備していない点

(3)上記各相違点の認定について

上記各相違点は、本件発明1-1と乙1電子カルテサーバの相違点と実質的に同じである。被告は、上記各相違点が認められない旨主張するが、前記6(5)に述べたところと同じ理由によりその主張には理由がなく、上記各相違点が認められる。

(4)乙2公報の記載は、前記6(2)のとおりである。そして、前記6(6)、(7)と同様の理由により、乙1電子カルテサーバの発明に対して、乙2公報に記載の技術を組み合わせても、当業者は、少なくとも相違点1及び3に係る本件発明2-1の構成に容易に想到することができたとはいえない。

したがって、乙1公報に記載された発明に乙2公報記載の技術等を組み合わせれば本件発明2-1の構成に容易に想到することができたとする被告の主張には理由がない。

(5)本件発明2-2は、本件発明2-1の各構成及び構成要件2-2Hの構成を有する情報処理装置の発明であるところ、本件発明2-1について、乙1公報に記載された発明に乙2公報記載の技術等を組み合わせれば本件発明2-1の構成に容易に想到することができたとする被告の主張には理由がないから、本件発明2-2についても、当業者がその構成に容易に想到することができたとする被告の主張には理由がない。

本件発明2-1の情報処理装置は、本件発明2-4の情報処理プログラムを有しているといえるところ、乙1電子カルテサーバは、乙1電子カルテサーバの処理に対応する情報処理プログラムを有しているといえる。そうすると、本件発明2-4情報処理プログラムと乙1電子カルテサーバの情報処理プログラムは、少なくとも、前記(2)の相違点に対応する情報処理プログラムについての相違点があるといえる。そして、前記(4)で述べたところと同様の理由により、乙1公報に記載された発明に乙2公報記載の技術等を組み合わせれば本件発明2-4の構成に容易に想到することができたとする被告の主張には理由がない。

本件発明2-1の情報処理装置は、本件発明2-5の端末装置を有するといえるところ、乙1電子カルテサーバのベッドサイド端末は、乙1電子カルテサーバの処理に対応する端末であるといえる。そうすると、本件発明2-5の端末装置と乙1電子カルテサーバのベッドサイド端末は、少なくとも、前記(2)の相違点に対応する相違点があるといえる。そして、前記(4)で述べたところと同様の理由により、乙1公報に記載された発明に乙2公報記載の技術等を組み合わせれば本件発明2-5の構成に容易に想到することができたとする被告の主張には理由がない。

本件発明2-5の端末装置は、本件発明2-7の情報処理プログラムを有しているといえるところ、乙1電子カルテサーバのベッドサイド端末は、乙1電子カルテサーバのベッドサイド端末に対応する情報処理プログラムを有しているといえる。そうすると、本件発明2-7の情報処理プログラムと乙1電子カルテサーバのベッドサイド端末の情報処理プログラムは、少なくとも、前記(2)の相違点に対応する情報処理プログラムについての相違点があるといえる。そして、前記(4)で述べたところと同様の理由により、乙1公報に記載された発明に乙2公報記載の技術等を組み合わせれば本件発明2-7の構成に容易に想到することができたとする被告の主張には理由がない。

8 被告は、第1判定と第2判定の関係について被告が主張する解釈をせず、第1判定が行われた後に第2判定が行われれば足りると解釈すると、本件発明1-1が無効になるか、被告製品について被告の先使用権を認めることになることを根拠に、第1判定と第2判定との関係について、被告主張のとおり解釈すべきであり、また、本件発明1及び本件発明2の各発明について同様であると主張して、その根拠として乙6公報の記載、乙2公報の記載、乙3公報の記載、乙9公報の記載を指摘し、また、被告が納入したシステムを指摘する(被告は、これを構成要件の解釈についての主張として主張する。)。

前記2(1)ア(エ)のとおり、本件発明1-1の第1判定と第2判定との関係は、特許請求の範囲及び明細書の記載によって解釈されるものであるが、念のため、被告が主張する文献に記載された発明や被告が納入したシステムを見ても、これらに本件発明1-1と同じ構成が記載等されているとはいえず、技術常識等によって、第1判定と第2判定について、被告主張のように解されるものではない。また、本件発明1-1以外の本件発明1及び本件発明2についても同様である。

(1)乙6公報は、発明の名称を「常時表示型医療情報表示システム」とする公開特許公報である。その特許請求の範囲及び明細書の発明の詳細な説明の記載によれば、乙6公報には、医療情報表示システムが記載されていて、その常時表示型医療情報表示システムは、①患者が必要とする医療情報を端末装置に表示するには、端末装置が患者識別情報を取得してこれが情報処理装置に送信され、情報処理装置において、端末装置から受信した患者識別情報とあらかじめ記憶されている患者識別情報とが一致すると判定されることが必要であり、②医療スタッフが必要とする医療情報を端末装置に表示するには、端末装置が医療スタッフ識別情報を取得してこれが情報処理装置に送信され、情報処理装置において、端末装置から受信した医療スタッフ識別情報と予め記憶されている医療スタッフ識別情報とが一致すると判定されることが必要であるというものである。

ここで、本件発明1-1においては、医療スタッフが必要とする医療情報を表示用端末に表示するためには、医療スタッフ認証である第2判定に先行して、患者認証である第1判定で一致すると判定されることが必要であり、第1判定で一致すると判定されて初めて第2判定がされ、第2判定で一致すると判断されて患者の医療情報のうち医師等が必要とされる医療情報が当該端末装置に表示される。これに対し、乙6公報に記載された医療情報表示システムは、患者認証といえる上記①の判定と、医療スタッフ認証といえる上記②の判定とについて、時間的な先後関係や条件について特段の限定はなく、表示用端末に電源を入力することによって表示される初期画面から上記①の判定を経ずに上記②の判定がされて医療スタッフが医療情報を表示させることができる。乙6公報の、医療スタッフ認証後に「1又は複数」の患者の医療情報が表示される(段落【0052】)との記載によっても、乙6公報に記載された医療情報表示システムでは、医療スタッフが必要とする医療情報を端末装置に表示するためにされる医療スタッフ認証前に、当該端末装置について患者認証がされている必要はない。

以上によれば、本件発明1-1と乙6公報に記載された医療情報表示システムとは、少なくとも上記の点において相違している。

(2)乙2公報には、前記6(2)の記載があり、患者の医療情報を表示するベッドサイド端末の発明が記載されている。

しかし、本件発明1-1は、患者認証に係る第1判定について、端末装置に患者の医療情報を表示するための操作として、端末装置が取得した患者識別情報が情報処理装置に送信され、情報処理装置が、同情報とあらかじめ記憶された患者識別情報とが一致するか否かを判定するという構成を有するものであり、その端末もそれに応じた構成を有する。これに対し、乙2公報には、ベッドサイド端末とベッド番号との関連付けを通じてベッドサイド端末と患者とが関連付けられるとのみ記載されており、ベッドサイド端末が患者に対して医療情報等を表示する患者操作モードとなるために必要な操作が開示されておらず、ベッドサイド端末と患者との関連付けがどのようにされるについての記載はない。

また、本件発明1-1は、ベッドサイド端末に当該ベッドを使用する患者の医療情報のうち医療スタッフ等が必要とする情報を表示するための操作として、患者認証である第1判定の後に、医療スタッフ認証である第2判定として、情報端末が取得した医療スタッフ識別情報が情報処理装置に送信され、情報処理装置が、同情報とあらかじめ記憶された医療スタッフ識別情報とが一致するか否かを判定するという構成を有するものであり、その端末もそれに応じた構成を有する。これに対し、乙2公報においては、看護師操作モードに状態を変更するための操作として、看護師IDをタッチパネルから入力するとされているにとどまり、看護師操作モードに変更される際に、どのような情報処理がされるのかが開示されていない。

これらによれば、本件発明1-1の端末と乙2公報に記載されたベッドサイド端末は、少なくとも上記の点において相違している。

(3)乙3公報は、発明の名称を「病床用情報端末装置」とする公開特許公報である。その特許請求の範囲及び明細書の発明の詳細な説明によれば、乙3公報には、①病床用情報端末装置は、固有の病床ID番号を有しており、患者に対して入院時に割り当てられるID番号と病床用情報端末装置のID番号とは医療データサーバ装置において関連付けられており、②看護婦が病床用情報端末装置を使用する場合、看護婦が、上記①の関連付けがなされて待機画面を表示している病床用情報端末装置に、当該看護婦のID番号を記憶して当該ID番号を電波出力するカードを、病床用情報端末に設けられた使用者識別手段に近接させ、使用者識別手段が看護婦のID番号を獲得すると、病床用端末に設けられたデータ処理手段(プログラム実行選択部)において、使用者識別手段が取得したID番号に基づいて使用者の名前及び属性を判断し、看護婦という使用者の属性に応じた画面、例えば患者の生体情報データ等の医療情報を表示し、③患者が病床用情報端末装置を使用する場合、患者が、上記①の関連付けがなされて待機画面を表示している病床用情報端末装置に、当該患者のID番号を記憶して当該ID番号を電波出力するカードを、病床用情報端末に設けられた使用者識別手段に近接させ、使用者識別手段が患者のID番号を獲得すると、病床用端末に設けられたデータ処理手段(プログラム実行選択部)において、使用者識別手段が取得したID番号に基づいて使用者の名前及び属性を判断し、患者の検査のスケジュール等の患者向けの医療情報を表示する発明が記載されている。

ここで、本件発明1-1においては、医療スタッフが必要とする医療情報を情報端末に表示するには、情報端末が患者識別情報を取得し、情報処理装置において同情報とあらかじめ記憶されている患者識別情報とが一致するか否かを判定するという形で、第1判定において一致するとの判定がされて患者認証がされている必要があり、その端末もそれに応じた構成を有する。これに対し、乙3公報に記載された病床用情報端末装置においては、病床用情報端末に医療スタッフが必要とする医療情報を表示するには、初期画面の状態(患者のIDと病床用情報端末装置の病床IDとを医療データサーバ装置において関連付けることで表示される)にある病床用情報端末が医療スタッフ識別情報を取得し、同情報に基づいて使用者の名前や属性を判断することで足り、上記のような形での患者認証を先行させる必要はない。

本件発明1―1の端末装置と乙3公報に記載された病床用情報端末装置は、少なくとも、上記の点において相違している。

(4)乙9公報(乙9)は、発明の名称を「ベッドサイド情報システム」とする公開特許公報である。その特許請求の範囲の記載及び発明の詳細な説明によれば、乙9公報には、表示装置を含むベッドサイド端末は、同端末に入力された患者識別情報又は医療スタッフ識別情報を認識し、取得した患者識別情報又は医療スタッフ識別情報をサーバに向けて送出し、サーバは、ベッドサイド端末から送信された上記の識別情報が正当な識別情報であるか否かを認証し、識別情報が正当なものであると認証された場合には、識別情報に対応する診療情報をベッドサイド端末に送出し、患者識別情報の認証がされた場合には、ベッドサイド端末は診療予定(服薬、検査)や経過情報(検査結果、バイタルサイン)等の診療情報を表示装置に表示し、医療スタッフ識別情報の認証がされた場合には、バイタルサインや投薬・検査結果等の診療情報を表示装置に表示する発明が記載されている。このような乙9公報のベッドサイド情報システムにおいては、①患者が必要とする医療情報を端末装置に表示するには、端末装置が患者識別情報を取得してこれが情報処理装置に送信され、情報処理装置において正当な識別情報であると判定されることが必要であり、②医療スタッフが必要とする医療情報を端末装置に表示するには、端末装置が医療スタッフ識別情報を取得してこれが情報処理装置に送信され、情報処理装置において正当な識別情報であると判定されることが必要であるといえる。

ここで、本件発明1-1においては、医療スタッフが必要とする医療情報を表示用端末に表示するためには、医療スタッフ認証に係る第2判定に先行して第1判定で一致すると判定されて患者認証がされていることが必要である。これに対し、乙9公報には、患者認証(上記①)と医療スタッフ認証(上記②)との時間的な先後関係や条件について特段の限定をする旨の記載はなく、乙9公報の実施例にはメインメニューから医療スタッフ認証をして医療スタッフ向けの情報を表示させる構成が記載されていて、乙9公報に記載されている発明は、本件発明1-1の第1判定に対応する患者認証をしなくとも、医療スタッフ認証をすることによって医療スタッフが必要する医療情報を表示させることができる発明であるといえる。また、メインメニューの表示の前に患者とベッドサイド端末との関連付けがされているとしても、その関連付けに係る構成が本件発明1-1の第1判定に係る構成を有することの開示はないし、その関連付けは直接は患者向けの診療情報を端末装置に表示することに向けられたものではない。

本件発明1-1の端末装置と乙9公報のベッドサイド端末は、少なくとも上記の点において相違していると認められる。

(5)ア 乙13は、被告が佐久総合病院に宛てて作成したピクトグラムシステム要件確認書と題する書面であり、同システムの機能の一覧や同システムにおける画面の表示等が記載された17頁の書面である。この乙13によれば、被告が、平成26年3月に佐久総合病院に納入したピクトグラムシステムである乙13システムの構成の概要は、一応、以下のとおりのものと認められる。

① 乙13システムのベッドサイド端末は、患者とベッドサイド端末とが関連付けられていない場合、カレンダー画面を表示している。

② カレンダー画面の時刻表示部分をタップすると、ベッドサイド端末にはスタッフ認証画面が表示される。

③ 上記②のスタッフ認証画面でスタッフカードのバーコードを読ませるとスタッフベッドサイド用メニューが表示され、そこには「患者登録」、「患者登録解除」、「ピクトグラム編集」という三つのボタンがある。

④ 上記③のボタンの中から「患者登録」をタップすると、患者端末登録画面が表示されるので、患者のリストバンドのバーコードを読ませると、患者番号をベッドサイド端末に登録し、患者ピクトグラム画面が表示され、メイン画面には患者の氏名、時刻、主治医、受持看護師、入院日のほか、看護支援のためのピクトグラムが表示され、サブ画面には、直近の手術実施日等が記載されている。

⑤ 患者ピクトグラム画面のメイン画面の時刻部分をタップすると、スタッフ認証画面が表示されるので、そこでスタッフカードのバーコードを読ませると、スタッフベッドサイド用メニューが表示され、そこには「患者登録」、「患者登録解除」、「ピクトグラム編集」という3つのボタンがある。

⑥ 上記⑤のボタンの中から「ピクトグラム編集」というボタンをタップすると、ピクトグラムの編集画面が表示され、スタッフはピクトグラムを編集する。

イ 上記アによれば、乙13には、①ベッドサイド端末に患者又は医療スタッフの識別情報を入力することにより患者認証又は医療スタッフ認証をすることや、その認証の主体に応じた情報をベッドサイド端末に表示すること、②医療スタッフ向けの情報をベッドサイド端末に表示させるためには、患者認証を先行させることが記載されているといえる。

ここで、本件発明1-1は、患者認証である第1判定で一致すると判定された後に医療スタッフ認証である第2判定がされ、第2判定で一致すると判定された場合に、前記看護師または医師が必要とする医療情報を含む表示画面を出力、表示することに係る構成を有するものであり、その表示画面に出力、表示される「医療情報」(構成要件1-1F)は、前記 当該患者に対して看護師又は医師が医療行為を行うために必要とする、当該患者に関する情報である。これに対し、本件証拠上、乙13システムにおいては、医療スタッフ認証後、「患者登録」、「患者登録解除」、「ピクトグラム編集」という3つのボタンがベッドサイド端末に表示され、医療スタッフは、「ピクトグラム編集」を選択して、患者用画面において表示されるピクトグラムを適宜追加・修正・削除することができる。しかし、乙13によれば、スタッフベッドサイド用メニューで表示されるのはピクトグラムの編集画面であって、その画面は、当該患者に対して看護師又は医師が医療行為を行うために必要とする、当該患者に関する情報である「医療情報」(構成要件1-1F)を表示しているものであるとは認められない。

以上によれば、乙13システムは、本件発明1-1と同じ構成を有していたとは認められない。本件発明1-1以外の本件発明1も、いずれも第2判定で一致すると判定された後に上記「医療情報」を表示することに係る構成を有するから、乙13システムが、本件発明1と同じ構成を有していたとは認められない。また、本件発明2は、いずれも、第2判定で一致すると判定された場合、患者の状態に関する状態情報の入力を受け付けるための入力画面を出力、表示することに係る構成を有するものである。しかし、乙13システムにおいては、そのような状態情報の入力画面を出力、表示することに係る構成を有していたと認めるに足りない。そうすると、乙13システムが、本件発明2と同じ構成を有していたとは認められない。

なお、乙13には、上記アのような乙13システムの要件ないし概要が記載されているが、乙13システムが具体的にどのような構成を有していたかの記載はなく、本件特許1及び本件特許2の基準日までに、乙13システムが、上記の処理に関して備えていた具体的な構成を直ちに認めることができるものとはいえない。