ロールペーパ―事件(間接侵害)

投稿日: 2019/02/14 23:02:14

今日は、平成28年(ワ)第6494号 特許権侵害差止等請求事件について検討します。原告である株式会社湯山製作所は、判決文によると、保健医療機械器具類の製造及び販売、包装・荷造機器の製造及び販売等を目的とする株式会社だそうです。一方、被告である日進医療器株式会社は医療衛生用品、医科器械、衛生材料、計量器、医薬品、理科学器の製造販売等を目的とする株式会社、株式会社セイエーは整袋加工及び販売、梱包資材の販売、包装業務等を目的とする株式会社、OHU株式会社は包装・梱包用資材製品の企画並びに製造販売等を目的とする株式会社だそうです。

 

1.検討結果

(1)本件発明は、ロールペーパのシートを送り出す給紙部と、2つ折りされたシートの間に薬剤を投入し所定間隔で幅方向と両側縁部とを帯状にヒートシールする分包部とを備えた薬剤分包装置に用いられる薬剤分包用ロールペーパに関するものです。

(2)被告らが扱っている被告製品は、プラスチック製の筒部にグラシン紙もしくはセロポリ紙からなる薬剤分包用シートを巻き回したものです。ユーザがこの被告製品を購入し、この筒部の軸芯中空部分に、原告製の薬剤分包用ロールペーパの使用済み中空芯管に輪ゴムを巻き、その状態で挿入することにより、両者を一体化した一体化製品として薬剤分包装置に用いることができるようになります。

(3)つまり被告らは発明の対象である「薬剤分包用ロールペーパ」の完成形を製造・販売等しているわけではなくユーザが一体化製品としているので、本件の被告らの行為について直接侵害は成立せず、間接侵害の成否が問題となります。

(4)判決では、一体化製品が本件発明の構成要件を全て充足していると認定しています。また、被告日進のホームページで他社製の使用済み芯管が1個あれば繰り返し装着可能であると回答し、ユーザ配布資料には他社製の使用済み芯管を被告日進の分包紙製品に差し込むことで他社製の分包機で使用する方法が記載されている、と認定しています。さらに、原告以外のメーカの薬剤分包装置が市場にほぼ存在しない、または原告以外のメーカの薬剤分包装置に適用しようとすることが現実的ではない、と認定しています。これらの認定を基に特許法101条1号の間接侵害に相当すると判断しています。

(5)判決文を読むと、本件に先立って原告と被告日進の間では本件と同じ特許による他の侵害訴訟(平成24年(ワ)第8071号)があったようです。この事件の判決によれば、被告日進は原告製品の分包紙が費消された後に残った使用済み芯管を回収し、それに分包紙(グラシン紙又はセロポリ紙からなる薬剤分包用シート)を芯管の円筒部外周に巻き直すことによって製品化したものを販売していたようで、直接侵害である、と判断されました。ちなみに、こちらのケースでは消尽論が争点になっています。

(6)被告らは本件発明の「薬剤分包用ロールペーパ」は構成要件Aに規定されている薬剤分包装置のみで用いられるものでなければならない、と主張しています。その意図は原告製の薬剤分包装置の中には構成要件Aを充足しない装置も存在している点に着目し、被告の一体化製品がそのような本件発明の範囲外の原告製品に使用できるので、特許法101条1号における「生産にのみ用いる物」に該当しない、としたかったのだと思います。

これに対して判決では「本件発明においては、構成要件Aの「用いられ」は、構成要件Aの記載によって構成要件B以下の内容が特定されることを意味するものとして使われているというべきであるから、そのように特定された構成要件を一体化製品が充足する場合には、構成要件Aの「用いられ」を充足すると解され、これ以上に、構成要件Aの「用いられ」が、一体化製品が構成要件Aを充足する薬剤分包装置以外には使用されないこと、あるいは現実に構成要件Aを充足する薬剤分包装置が存在することを、要件として定める趣旨と解することはできない。」とされました。

(7)そうなると、一体化製品が本件発明の構成要件Aを充足する薬剤分包装置で用いることができれば本件発明の「薬剤分包用ロールペーパ」に相当するものであり、それが本件発明の構成要件Aを充足しない薬剤分包装置で利用される場合でも本件発明の「薬剤分包用ロールペーパ」に相当するものである、ということになります。つまり、構成要件BないしDを充足する薬剤分包用ロールペーパであって、何らかの薬剤分包装置で使用できるものであれば本件発明の技術的範囲に属するものであることになります。

(8)この判決は興味深いです。発明がaというものであって発明aが装置bと組み合わせられるとき、発明a単独で構成を特定しようとした場合に請求項の記載が不明確になってしまうケースがあるので発明aの構成を明確にするために装置bの構成を請求項に記載しなければならないことがあります。そうすると本来の発明aの技術的範囲容が装置bの構成を追加したことで狭くなってしまい発明aを装置cで使用する第三者に権利行使できないという事態があります。本判決はまさにそのような場合に特許権者を保護することが可能なものです。

(9)ただ、本件が知財高裁に控訴された場合にどのように判断されるかは不明です。本判決のようにユーザが被告製品を装置に組み込んで使用した場合の構成が請求項の記載とは異なる場合も間接侵害と認めると間接侵害の範囲が広くなりすぎないか?という心配もあり得るように思います。また、逆に発明の各構成要素と協働しないにも関わらず動作する装置まで含まれるので「生産にのみ用いる物」と認められる範囲が狭くなってしまうことも考えられます。

2.手続の時系列の整理(特許第4194737号)

① 無効2017-800087の請求人は白馬三洋加工紙株式会社です。

② 無効2017-800089の請求人は日進医療器株式会社です。

 

3.本件発明

A 非回転に支持された支持軸(1)の周りに回転自在に中空軸(1C)を設け、中空軸(1C)にはモータブレーキ(20)を係合させ、中空軸(1C)に着脱自在に装着されるロールペーパ(R)のシートを送りローラ(2、3)で送り出す給紙部と、2つ折りされたシートの間にホッパ(5)から薬剤を投入し、薬剤を投入されたシートを所定間隔で幅方向と両側縁部とを帯状にヒートシールする加熱ローラ(6)を有する分包部とを備え、ロールペーパ(R)の回転角度を検出するために支持軸(1)に角度センサ(25)を設け、上記中空軸(1C)と上記支持軸(1)の固定支持板(11)間で上記中空軸(1C)のずれを検出するずれ検出センサ(26)を設け、分包部へのシート送り経路上でシート送り長さを測定する測長センサ(32)を設け、ロールペーパ(R)を上記中空軸(1C)に着脱自在に固定してその固定時に両者を一体に回転させる手段をロールペーパ(R)と中空軸(1C)が接する端に設け、角度センサ(25)及び測長センサ(32)の信号に基づいてシート張力をロールペーパ径に応じて調整しながら薬剤を分包するようにし、さらに角度センサ(25)の信号とずれ検出センサ(26)の信号との不一致により上記中空軸(1C)に着脱自在に装着されたロールペーパ(R)と上記中空軸(1C)とのずれを検出するようにした薬剤分包装置に用いられ、

B 中空芯管(P)とその上に薬剤分包用シートをロール状に巻いたロールペーパ(R)とから成り、

C ロールペーパ(R)のシートの巻量に応じたシート張力を中空軸(1C)に付与するために、支持軸(1)に設けた角度センサ(25)による回転角度の検出信号と測長センサ(32)の検出信号らシートの巻量が算出可能であって、その角度センサ(25)による検出が可能な位置に磁石(16)を配置し、

D その磁石(16)をロールペーパ(R)と共に回転するように配設して成る

E 薬剤分包用ロールペーパ。


4.被告らの行為及び被告製品

1 被告らの行為

被告日進は、別紙「被告製品目録」記載の製品(以下「被告製品」という。)を被告セイエーと共同開発し、平成26年12月から本件訴訟の提起日である平成28年7月4日までの間、被告セイエーから供給を受けた被告製品を、インターネット上の通信販売サイトに掲載し、また、発注に応じて調剤薬局等に対して販売した。

被告OHUは、上記期間、被告日進から注文を受け、被告セイエーに対し被告製品の製造を委託した。

被告セイエーは、上記期間、被告OHUの委託を受けて被告製品を製造し、シュリンクラップを施して被告日進に対し供給した。

2 被告製品

(1)一体化製品

被告製品は、プラスチック製の筒部にグラシン紙もしくはセロポリ紙からなる薬剤分包用シートを巻き回したものであり(別紙「被告製品説明書」図1参照)、利用者は、この筒部の軸芯中空部分に、原告製の薬剤分包用ロールペーパの使用済み中空芯管(以下「原告製使用済み芯管」という。)を輪ゴムを巻いた状態で挿入することにより、両者を一体化することができる(同別紙図2参照。以下、一体化したものを「一体化製品」という。)。

一体化製品の構成は、以下のとおりである。

a 中空芯管(原告製使用済み芯管)と、この中空芯管に輪ゴムを介して一体化されるプラスチック筒部とその上に薬剤分包用シートをロール状に巻いたロールペーパとから成り(被告製品説明書図1及び図2)、

b 上記中空芯管(被告製品説明書図3及び図4)においては、原告薬剤分包装置に設けられた中空軸への挿入方向とは逆の端部プラスチック内部に、円周上に3個の磁石が配設され(被告製品説明書図4、符号9)、

c 上記磁石は、上記中空芯管を構成するプラスチックの内部に配設されており、巻き回されたロールペーパと共に回転する。

(2)被告製品説明書(一部抜粋)

Ⅰ.概要

被告製品は、下表1の被告日進医療器取扱商品一覧に示す規格サイズの商品であって、プラスチック筒部にグラシン紙もしくはセロポリ紙からなる薬剤分包用シートを、プラスチック筒部の円筒部外周にロール状に長尺に巻き回したロールペーパからなるものである。

(表1 被告製品とその販売価格)

上記の被告日進医療器取扱商品一覧に示す薬剤分包用ロールペーパは、そのプラスチック筒部の軸芯中空部分に、原告製のロールペーパの使用済み芯管(「原告製使用済み芯管」という。)を挿入することにより原告製使用済み芯管と一体化され、その上で、原告製使用済み芯管を原告製分包機の軸心に装着させることによって、原告製分包機での使用を可能にさせる構成となっている。

このようにして、上記の被告日進医療器取扱商品一覧に示す薬剤分包用ロールペーパは、原告製使用済み芯管が適合する原告の製造・販売する薬剤分包装置に装着し使用することができるものであって、これらの薬剤分包用ロールペーパは、同装置において医薬品の分包に使用される。

Ⅱ.被告製品の構造の説明

被告製品の薬剤分包用ロールペーパの詳細な構造を図1~4を用いて以下のとおり説明する。

1.薬剤分包用ロールペーパの構造

図1に示すように、被告製品の薬剤分包用ロールペーパ(1)は、プラスチック筒部(2)に薬剤分包用シート(3)をロール状に巻いたロールペーパである。

薬剤分包用シート(3)は、グラシン紙もしくはセロポリ紙からなるシート幅70mmの2つ折りされた薬剤分包用シート(3)であり、プラスチック筒部(2)を軸として巻き回されて積層されて、シート先端は外周面にテープで係止されている。

図2に示すように、そのプラスチック筒部の軸芯中空部分(20)には、ユーザーたる薬局ないし薬剤師によって、原告製のロールペーパの使用済み芯管(「原告製使用済み芯管」という。)(21)が挿入されて、被告製品の薬剤分包用ロールペーパ(1)は原告製使用済み芯管(21)と一体化され、その上で、原告製使用済み芯管(21)の部分を原告製分包機の軸心に装着させることによって、原告製分包機での使用を可能にさせる構成となっている。

次に、図3~5に、被告製品の薬剤分包用ロールペーパ(1)のプラスチック筒部(2)の軸芯中空部分(20)に挿入される原告製使用済み芯管(21)の外観とその断面および両端の各リングの嵌合された様子を示す(なお、原告製使用済み芯管には、薄紫色のものと青色のものがある。薄紫色のものと青色のものは若干寸法が異なるものの主要構成は同様であり、設計事項の範囲内の寸法差異に留まるものである。以下では、説明の便宜上、薄紫色の中空芯管の寸法に基づき説明することとする。)。

「ダブル」タイプの原告製使用済み芯管(21)は、内部長手方向に厚さ2.5mm高さ8mmの6本の補強リブ(5)を有する外径66mm、筒長70mm、厚さ3mmの薄紫色のプラスチック樹脂製の円筒筐体(6)であり(甲20 写真1および2)、その一端側の内部に内径50mm外径58mm厚さ1.5mmの強磁性体の鋼製リング(7)が嵌合されている(甲18 写真7(b))。また、この円筒筐体の他端側には、内径50mm外径58mm奥行き8mmのプラスチック製リング(8)が嵌合されており、そのリング(8)の内部には、直径4mm厚さ2.5mm大の円柱状の永久磁石(第2の磁石(9))が等間隔で3箇所、磁極を内周に向けるようにして配されている(甲18 写真8)。

なお、このプラスチック製リングの外表面には、(省略)の本件文字商標(10)が対向するようにして2箇所、(省略)の本件図形商標(11)が1箇所、それぞれリング(8)の外表面に型抜きで立体的に浮き上がるようにして配されており、また、同リング上に0~9の数字もしくはA~Cの欧文文字が2個刻印されている(甲18 写真7(a))。

2.図面の簡単な説明

図1 被告製品 薬剤分包用ロールペーパの外観

(a)左側面図 (b)左側面、上平面、正面からなる斜視図

図2 被告製品 薬剤分包用ロールペーパに、原告製使用済み芯管(21)を

挿入した状態の外観

(a)左側面図 (b)左側面、上平面、正面からなる斜視図

図3 原告製使用済み芯管の正面、左側面、上平面からなる斜視図

図4 (a)原告製使用済み芯管の断面図 (b)原告製使用済み芯管と両端

のリングの分解図

図5 原告製使用済み芯管の左側面図

3.符号の説明

1 薬剤分包用シート

2 プラスチック筒部

3 薬剤分包用ロールペーパ

5 補強リブ

6 円筒筐体

7 強磁性体の鋼製リング

8 プラスチック製リング

9 第2の磁石

10 文字商標

11 図形商標

20 軸芯中空部分

21 原告製使用済み芯管

5.争点

(1)一体化製品は本件発明の技術的範囲に属するか。

ア 一体化製品は「用いられ」(構成要件A)を充足するか(争点(1)ア)。

イ 一体化製品は「2つ折りされたシート」(構成要件A)を充足するか(争点(1)イ)。

ウ 被告日進が構成要件Aの充足性を争うことは信義則に反するか(争点(1)ウ)。

(2)特許権侵害が成立するか。

ア 被告製品は、一体化製品の「生産にのみ用いる物」と認められるか(特許法101条1号の間接侵害、争点(2)ア)。

イ 被告らの行為は、顧客との共同による特許権の直接侵害、若しくは顧客の特許権侵害に対する教唆又は幇助に当たるか(争点(2)イ)。

(3)本件特許は、特許無効審判により無効にされるべきものか。

ア 「その角度センサによる検出が可能な位置」との本件特許請求の範囲の記載は明確性を欠くか(争点(3)ア)。

イ 「2つ折りされたシート」との本件特許請求の範囲の記載(争点(3)イ)

(ア)正の際の新規事項の追加に当たるか。

(イ)サポート要件違反に当たるか。

(ウ)明確性を欠くか。

ウ 進歩性の欠如

(ア)本件発明は乙22に基づき容易に想到可能か(争点(3)ウ(ア))。

(イ)本件発明は乙23に乙22を組み合わせることにより容易に想到可能か(争点(2)ウ(イ))。

(4)原告の損害額(争点(4))

ア 特許法102条2項による損害額の推定

イ 推定の覆滅

6.当事者の主張

1 争点(1)ア(一体化製品は「用いられ」(構成要件A)を充足するか。)

【原告の主張】

(1)「用いられ」の意義

ア 本件発明がサブコンビネーション発明であること

特許・実用新案審査基準は、複数の装置の組み合わせからなる全体装置に対し、それを構成する各装置を「サブコンビネーション」と呼ぶ。本件において薬剤分包装置は薬剤分包装置本体とロールペーパとからなるから、薬剤分包装置本体とロールペーパとはそれぞれがサブコンビネーションに該当する。

そして、ロールペーパは、「ロールペーパのシートの巻量に応じたシート張力を中空軸に付与するために、支持軸に設けた角度センサによる回転角度の検出信号と測長センサの検出信号とからシートの巻量が算出可能であって、その角度センサによる検出が可能な位置に磁石を配置し、その磁石をロールペーパと共に回転するように配設して成る」(構成要件C、D)との構成を有しているところ、「中空軸」、「支持軸」、「角度センサ」、「測長センサ」及び「検出信号」といった事項は薬剤分包装置本体の構成要件Aに関する事項によって特定されており、構成要件Aの「ロールペーパの回転角度を検出するために支持軸に角度センサを設け」との記載によって、構成要件Cの「その角度センサによる検出が可能な位置に磁石を配置し」の意味が特定される関係にある。

よって、ロールペーパに係る発明である本件発明は、他のサブコンビネーションに相当する薬剤分包装置本体に関する事項によってその構造、機能等が特定されているものといえる。すなわち、構成要件Aに開示された他のサブコンビネーションたる薬剤分包装置本体の記載が、構成要件Cと相まって本件発明の物としての構成を特定するものである。

イ サブコンビネーション発明の技術的範囲について

一つのサブコンビネーションの技術的範囲に属するためには、他のサブコンビネーションにのみ用いられることは要件とされない。

そもそも、物の発明において、特許発明の技術的範囲に属するか否かは請求の範囲の記載に基づき定められるものであって、具体的な実施行為に際して常に作用効果を奏することは要件とされていない。サブコンビネーション発明も物の発明の一類型である以上、その技術的範囲は物の静的・客観的な構造ないし特性によって特定されるべきであり、それを超えて用途を考慮すべきではない。

上記アのとおり、サブコンビネーション発明における「用いられ」等の記載は、他のサブコンビネーションとの関係で特許発明の構造、機能を特定するものであって特許発明の要旨を認定するために必要となる記載ではあるが、物の発明である以上、現実の使用を構成要件とするものではなく、まして他の用途の存在を排斥するものではない。

本件特許請求の範囲や本件明細書には、本件発明にかかるロールペーパが他の用途等に使用されることを排除する記載も、他の用途等に使用できることにより発明の技術的意義を損なうことをうかがわせるような記載もなく、また、他の用途等について意識的に除外したという事情もない。

ウ まとめ

以上によれば、一体化製品であるロールペーパが、構成要件Aを充足する薬剤分包装置に使用することが可能であれば、一体化製品は構成要件Aの「用いられ」を充足するというべきであり、構成要件Aを充足しない薬剤分包装置に利用される可能性がないことまでは要求されていないから、構成要件Aを充足する薬剤分包装置に「のみ」使用されることは、要件ではない。

(2)構成要件Aを充足する薬剤分包装置の存在

ア 被告らは、仮に構成要件Aを充足する薬剤分包装置に「のみ」一体化装置が使用されることが要件であるとの主張が否定される場合であっても、少なくとも、現実に構成要件Aを充足する薬剤分包装置が存在し、一体化製品がこれに使用されていることが必要であると主張する。

しかしながら、構成要件Aを充足しない薬剤分包装置における一体化製品の使用が特許権侵害に当たらないという考え方は、「使用」の解釈においては適切であるが、「生産」や「譲渡」の実施行為との関係では採用されるべきではない。

イ 仮に、一体化製品が現に構成要件Aを充足する薬剤分包装置において用いられることが必要だとしても、原告製の薬剤分包装置のうち特定の機種は以下のとおり構成要件Aを充足する。

まず、原告製の薬剤分包装置のうち、あらかじめ折り畳まれていないロールペーパ(以下「シングルタイプ」という。)用の物は、装着するロールペーパの幅が異なるため一体化製品を使用することができない。また、平成25年4月以降にモデルチェンジされた原告製の薬剤分包装置には本件特許が実施されておらず、一体化製品を使用することができない。よって、これらの薬剤分包装置が構成要件Aを充足するか否は問題にならない。

原告製の薬剤分包装置のうち、あらかじめ折り畳まれたロールペーパ(以下「ダブルタイプ」という。)用の物である「TWIN-RⅢ」、「93SRz(カセット機構付)」、「Mini-R45」及び同カセット機構付、「シャルティⅢ」、「CPX-ⅢS」(プリント有り及びなし)、「260~520FDSⅢ」、「130~160FDXⅡ SE」は、いずれも構成要件Aを充足する。

ウ 被告らは、原告製造の薬剤分包装置のうちTWIN-RⅢ及びCPX-ⅢSが構成要件Aを充足しない旨主張するが失当であり、これらはいずれも構成要件Aを充足する。

【被告らの主張】

(1)「用いられ」の意義

原告は、一体化製品が構成要件Aを充足する薬剤分包装置に使用することが可能でありさえすれば、需要者が一体化製品をそのような薬剤分包装置に使用するか否か、あるいはそのような薬剤分包装置が現実に存在するか否かを問わず、構成要件Aの「用いられ」を充足する旨を主張するが、失当である。

(2)「用いられ」を充足するためには、一体化製品が構成要件Aを充足する薬剤分包装置にのみ用いられ、他の用途が存在しないことが必要であること

ア 本件明細書の記載は、すべて一体化製品を構成要件Aを充足する薬剤分包装置本体に使用することを当然の前提としており、構成要件Aを充足しない薬剤分包装置本体に一体化製品を使用することについては何の示唆もされていない。そうすると、本件明細書の記載は、一体化製品を構成要件Aを充足しない薬剤分包装置本体に使用することを黙示的に排除しているものと解される。

また、本件発明の技術的意義は、①極薄のシートを巻いたロールペーパの巻状態によるロールペーパ直径の微妙な変動による影響で制御すべき段階的に選択されるブレーキ力のレベル変動を生じることなく各段階において的確にブレーキ力を設定しロールペーパの直径に応じた適正な張力を安定して給紙部に与え、②シートに耳ずれや裂傷を生じさせずに分包シートで薬剤を分包することのできる薬剤分包装置に用いられ、③分包装置の給紙部における角度センサに対し回転角度データを与えることのできる薬剤分包用ロールペーパを提供することである(本件明細書【0011】)。ところが、構成要件Aを充足しない薬剤分包装置本体に一体化製品を用いた場合には、シートの巻量の変化を算出することができず、巻量の直径に応じてブレーキ力を制御しシート張力を各段階において最適な張力に調整することができないことから、耳ずれや裂傷を生じさせることなく薬剤を分包することができない。よって、上記①及び②の技術的意義が損なわれる。また、構成要件Aを充足しない薬剤分包装置本体には角度センサも存在しないため、一体化製品に磁石が配設されていたとしても、分包装置の給紙部における角度センサに対し回転速度データを与えることもできない。よって、上記③の技術的意義も同様に損なわれる。

以上より、構成要件Aを充足しない薬剤分包装置本体に一体化製品を用いた場合には本件発明の技術的意義が損なわれることは明らかであるから、一体化製品が構成要件Aの「用いられ」を充足するためには、一体化製品が構成要件Aを充足する薬剤分包装置にのみ用いられることが必要である。

イ 一体化製品は、構成要件Aを充足しない薬剤分包装置(原告製の「COMPACT45Ⅱ」、「CPX-ⅢS」、「CPS30」、「21SE」、「21SEZ」、「21CPX」、「30CPX」及び「3000D」等)に使用できる。

ウ よって、一体化製品は構成要件Aの「用いられ」との構成を有しておらず、構成要件Aを充足しない。

(3)「用いられ」を充足するためには、一体化製品が現に構成要件Aを充足する薬剤分包装置に用いられることが必要であること

ア 仮に、「用いられ」を充足するために、一体化製品が構成要件Aを充足する薬剤分包装置のみに用いられるものである必要はないとしても、一体化製品は構成要件Aを充足する薬剤分包装置に用いられて初めて作用効果を奏するものであるから、現実に構成要件Aを充足する薬剤分包装置に用いられることが必要である。

イ 本件特許の出願経緯について

本件特許は平成12年6月2日に出願されたが、平成19年7月26日付けの拒絶理由通知書(乙24)において進歩性の欠如を指摘されたため、原告は、出願時の請求項1中の構成要件Aを補正し、意見書(乙25)において拒絶理由書中の引用文献記載の発明と補正後の構成要件Aに記載された薬剤分包装置の構成の差異を強調した。同意見書においては、構成要件Aの構成を有する薬剤分包装置本体に用いられることを前提とするロールペーパについての発明であることが明言されている。

このような出願経過からすれば、被告製品が本件発明の技術的範囲に属するか否かの判断をするに当たっては、構成要件Aを充足する薬剤分包装置が現実に存在し、一体化製品が当該薬剤分包装置に使用されていることが必須となる。これに反する原告の主張は、禁反言の法理に照らし許されない。

ウ 本件発明の新規性が認められるための構成について

本件無効審判において、本件訂正後の発明の構成のうち、少なくとも以下の4つの構成が従来技術との相違点であると認定された。

① 「角度センサ」が「ロールペーパの回転角度」を検出するものであって、支持軸の片端に設けられていること。

② 「磁石」は「ロールペーパのシートの巻量に応じたシート張力を中空軸に付与するために、支持軸に設けた角度センサによる回転角度の検出信号と測長センサの検出信号とからシートの巻量が算出可能であって、その角度センサによる検出が可能な位置」に配置されるものであること。

③ 「磁石」は「複数」配置されるものであること。

④ 本件訂正後の発明は上記①~③の構成を有することで、「シートの巻量」を算出し、「シートの巻量に応じたシート張力を中空軸に付与」するものであること。

そうすると、一体化製品が本件発明の技術的範囲に属するというためには、一体化製品が少なくとも上記4点の構成を具備していることが必要であり、その判断のためには、一体化製品がどのような薬剤分包装置に用いられるかを確認することを要する。すなわち、一体化製品が本件発明の構成要件Aの「用いられ」を充足するためには、一体化製品が用いられる原告製の薬剤分包装置が少なくとも上記①、②及び④の構成を備えるものであることが必要となる。

エ ダブルタイプのロールペーパを使用する原告製の薬剤分包装置は「2つ折りされたシート」を充足しないことは後記争点(1)イで述べるとおりであり、これ以外にも被告らが、原告製薬剤分包装置であるTWIN-RⅢについては構成要件Aを充足する「ずれ検出センサ」を有しておらず、同じくCPX-ⅢSについては構成要件Aを充足する「測長センサ」を有していないことを指摘しているにもかかわらず、原告は構成要件Aを充足する薬剤分包装置が現実に存在することを立証するに足りる証拠を提出しないから、原告製の薬剤分包装置のうち構成要件Aを充足する物はなく、一体化製品は現に構成要件Aを充足する薬剤分包装置に用いられないというべきである。

2 争点(1)イ(一体化製品は「2つ折りされたシート」(構成要件A)を充足するか。)

【原告の主張】

本件発明は、使用によってロールペーパの巻き量が減少した場合にもロールペーパにかかる張力を一定にすることにより、2つ折りにされたロールペーパの接着に際して縁部が正確に重ならないという問題(いわゆる「耳ずれ」)等が生じないようにするものである(本件明細書【0011】)。このような技術的思想との関係においては、シングルタイプのロールペーパを薬剤分包装置内においてロールペーパ中心部の長手方向に沿って折り曲げることにより薬剤を投入するのに適したV字状の空隙(折り目)を設けた状態にしても、ダブルタイプのロールペーパの折り目を薬剤分包装置内においてV字状に開いて上記空隙を設けた状態にしても、薬剤投入時に「(V字状に)2つ折りされたシート」となる点において相違はない。よって、ロールペーパがシングルタイプかダブルタイプかは本件発明の技術的思想と関係がないから、構成要件Aの「2つ折りされたシート」をシングルタイプに限定して解釈する理由はない。

本件明細書【0012】には、「シートを2つ折りしその間にホッパから薬剤を投入し」との記載があるところ、ロールペーパが完全に折り畳まれた状態では空隙がなく「その間」に薬剤を投入することができないから、ここでいう「2つ折り」とは、上記V字状の空隙を設けた状態に折り曲げることを意味する。

したがって、ダブルタイプのロールペーパを巻いた物である一体化製品は、構成要件Aの「2つ折りされたシート」を充足する。

【被告らの主張】

本件明細書にはシングルタイプのロールペーパが薬剤分包装置に設置された後に2つ折りにされる構成しか開示されていないから、構成要件Aの「2つ折りされたシート」とはロールペーパが薬剤分包装置内において2つ折りされることを意味する。なお、原告が出願時における「シートを2つ折りし」という表現(乙31)を、拒絶理由通知書(乙24)における指摘を受けて「2つ折りされたシート」と補正したこと(乙32)、「分包部でシートを2つ折りした際にシートの縁部が正確に重ならない」(本件明細書【0005】)という問題はシングルタイプのロールペーパにおいてのみ生じ得ることからも、上記解釈は適切である。

したがって、一体化製品は構成要件Aの「2つ折りされたシート」を充足しない。

3 争点(1)ウ(被告日進が構成要件Aの充足性を争うことは信義則に反するか。)

【原告の主張】

被告日進は、原告薬剤分包装置が構成要件Aを充足するかを問題としているところ、以前の本件特許の侵害訴訟(大阪地方裁判所平成24年(ワ)第8071号。以下「前訴」という。)において、原告薬剤分包装置が構成要件Aを充足するかについて争う機会を与えられながら、実質的に争わなかった。また、被告製品を利用することのできる原告薬剤分包装置はすでに生産を終了している。それにもかかわらず、同被告は、本訴訟で原告製の薬剤分包装置の構成要件Aの充足を争い、また、原告製の薬剤分包装置のうち全ての機種が構成要件Aを充足する必要があると主張している。このような主張は、紛争の不当な蒸し返しであるから信義則に反し、許されない。

【被告日進の主張】

前訴と本訴訟とでは対象となる被告らの製品が異なり、また、被告日進は、前訴において、構成要件Aの充足性について不知の答弁をしたのみであるから、本訴訟でその充足を否認することは信義則に反しない。

4 争点(2)ア(被告製品は、一体化製品の「生産にのみ用いる物」と認められるか。)

【原告の主張】

(1)被告らの行為

被告らは、被告製品を一体化製品の生産のみに用いられることを前提に製造販売している。

被告日進の販売するロールペーパの製品にはAタイプ(被告製品)とBタイプとがあるところ、同被告のウェブサイトには、それぞれ外径が65㎜の芯管(原告のみが生産)及び外径が50㎜の芯管(原告以外の薬剤分包装置メーカーのみが生産)向けであることが明記されている。また、これらの製品の説明書には、輪ゴムを介して芯管に取り付けることの説明が記載されている。

したがって、被告製品は、輪ゴムを介して原告製使用済み芯管に取り付け一体化製品を生産することのみを目的として製造販売されており、需要者もこれを前提として購入している。

(2)被告らの主張する原告製以外の薬剤分包装置について

ア 被告日進製の分包装置

被告らは、被告製品を平成25年から販売していたところ、被告日進製の薬剤分包装置は平成28年5月及び同年10月に各1台販売されたのみである。

イ エルク製分包装置

株式会社エルクエストが製造し、株式会社エルクコーポレーション(現キヤノンライフケアソリューションズ株式会社)が販売する薬剤分包装置(以下「エルク製分包装置」という。)用のロールペーパの芯管には、原告製の中空芯管とは異なり装着時に筒部の位置を決めるためのフランジがないため、被告製品を装着した際に正確に装着されたかを判別することができない。また、被告製品の片面に付された「こちらが前面です」という指示に従って装着すると正しい向きに装着されない。さらに、被告製品の外径は同薬剤分包装置に用いるには大きすぎるため、新品を装着するためには約100m分のロールペーパを廃棄する必要がある上、同薬剤分包装置の芯管の外径と被告製品の筒部の内径との差が大きいため、装着するためにはOリングを介すことが必要とされる。

ウ ウエダ製分包装置

株式会社ウエダ製作所の製造する薬剤分包装置(以下「ウエダ製分包装置」という。)は、20年以上前に販売が終了した製品であり、被告製品を装着しても正常な分包を行うことができない。

(3)まとめ

したがって、被告らは、被告製品を一体化製品の生産のみに用いられることを前提に製造販売しているのであるから、特許法101条1号により本件特許権の間接侵害が成立する。

【被告らの主張】

被告製品は、被告日進製の薬剤分包装置「N-50A」に使用される製品として製造販売されるものであって、原告製使用済み芯管に挿入して一体化製品を生産するためのみに使用されるためのものではない。

また、被告製品は、構成要件Aを充足しないエルク製分包装置である「AX-46」及び「Ax-45Plus」に用いることもできる。同装置の芯管には、装着時に筒部の位置を決めるために十分なフランジがないものの、手で調整することにより正確な位置決めをすることができる。

さらに、被告製品は、同様に構成要件Aを充足しないウエダ製分包装置にも利用することができる。

被告製品と同様の構成の製品は、株式会社タカゾノが製造する薬剤分包装置であるモナロータリーセブンにおいても使用されていたのであり、何ら目新しいことはない汎用品である。そして、被告製品を一体化製品とするためには輪ゴムを介す必要があるから、専用品とはいえない。

5 争点(2)イ(被告らの行為は、顧客との共同による特許権の直接侵害、若しくは顧客の特許権侵害に対する教唆又は幇助に当たるか。)

【原告の主張】

前記4のとおり、被告製品は一体化製品を生産するためにのみ製造販売されている。そして、被告らは、ウェブサイト及び被告製品の説明書において、被告製品を輪ゴムを介して原告製使用済み芯管と一体化することにより原告製の薬剤分包装置に被告製品を使用することができることを告知し、被告らの営業担当者も需要者の使用する薬剤分包装置の機種を聞き取った上で原告製の薬剤分包装置を使用する需要者に対して被告製品を販売している。

一方、原告は、需要者に対し、本件特許の存在及び被告製品のような非純正品の使用が原告の特許権侵害を構成し得る旨を説明してきた。

このような状況の下では、需要者が被告製品と原告製使用済み芯管を一体化して一体化製品を生産し、原告製の薬剤分包装置に使用する行為は、被告らが顧客と共同して本件特許権を侵害し、又は顧客による本件特許権の侵害を教唆・幇助するものである。

原告が顧客に対して上記説明を行っていることからすれば、原告が顧客らに対して黙示の許諾を与えることはあり得ない。

【被告らの主張】

被告らの顧客の中には、被告日進製の薬剤分包装置等、構成要件Aを充足しない薬剤分包装置を保有する者がいるところ、これらの顧客が被告製品を使用しても本件特許権を直接侵害することはない。ところが、原告は、被告らによる被告製品の販売行為を抽象的概括的に共同直接侵害、教唆又は幇助であると主張するものであり、具合的にどのような販売行為がこれらの不法行為に当たるのかについて明確にしない。

さらに、仮に、被告らの顧客が本件特許の技術的範囲に含まれる一体化製品を生産していたとしても、高価な原告製の薬剤分包装置本体(一方のサブコンビネーション発明の実施品)を購入した顧客は、消耗品である薬剤分包用ロールペーパ(他方のサブコンビネーション発明の実施品)を生産し使用することを原告から許容されることを合理的に期待するものと考えられ、原告もこれを予測できる立場にある。また、原告は、本件発明に要した投下資本を薬剤分包装置本体の販売により十分に回収することができる立場にある。よって、これらの事情に鑑みれば、原告は、薬剤分包装置の購入者である顧客に対し、当該薬剤分包装置を使用するために必要な限度で本件発明に係る薬剤分包用ロールペーパを生産し、使用することについて黙示的に承諾していたと解するべきである。

したがって、被告らの顧客の行為は本件特許権の直接侵害を構成せず、被告らの行為が共同直接侵害、教唆又は幇助となることはない。

6 争点(3)ア(「その角度センサによる検出が可能な位置」との本件特許請求の範囲の記載は明確性を欠くか。)

【被告らの主張】

本件発明の構成要件Cは、磁石を「その角度センサによる検出が可能な位置」に配置することを求めている。しかし、本件明細書の記載を斟酌しても、角度センサの配置は支持軸に設けられることしか特定されておらず、その具体的な位置は何ら定まっていないのであるから、角度センサの位置は中空軸の全てを含むこととなる。よって、当業者は、「その角度センサによる検出が可能な位置」との記載からは、ロールペーパにおける磁石の具体的な位置の外延を理解することができない。

原告は、磁石をセンサから遠く離れた位置に配置する場合には「その角度センサによる検出が可能な位置」に該当しないと主張するが、検知の可否は磁力の強さや角度センサの感度にも依存するものであり、遠く離れた位置であっても検出が不可能であるとは言い切れない。

したがって、本件発明の範囲は不明確であるため、特許法36条6項2号に違反し、同法123条1項4号により無効にされるべきものである。

【原告の主張】

(1)特許請求の範囲は明確であること

本件発明について、「その角度センサによる検出が可能な位置」との文言に触れれば、当業者であれば、ごく自然に本件明細書の図2中の磁石24のような位置を選択することとなる。逆に、センサから遠く離れた位置に磁石を配置した場合、センサが磁石を検出できないことは明らかである。

したがって、構成要件Cの「その角度センサによる検出が可能な位置」の記載は、本体側との構成との関係で自ずと限定され、また、本件発明に触れた当業者にとって適切な位置を決定することに特別の困難はないから、明確性に欠けることはない。

(2)訂正の再抗弁

本件訂正請求により、「その角度センサによる検出可能な位置」は「支持軸の片端」に設けられた角度センサに対応する位置、すなわち、中空芯管の先端部に特定された。よって、上記文言にかかる明確性要件違反は問題とならない。

7 争点(3)イ(「2つ折りされたシート」との本件特許請求の範囲の記載)

【被告らの主張】

(1)新規事項の追加

原告は、平成19年10月1日提出の手続補正書(乙32)において、本件特許請求の範囲における「シートを2つ折りにし」という記載(乙31)を、「2つ折りされたシート」という記載へ変更する補正を行った(以下「本件補正」という。)。

本件明細書には、薬剤分包中に三角板で薬剤分包紙を2つ折りにする構成の開示はあるものの、あらかじめ2つに折り畳まれたロールペーパを利用した態様は記載されていない。よって、本件明細書【0018】の「三角板4で2つ折りにされた際」との記載は、折り畳まれていないロールペーパを薬剤分包装置内で「2つ折り」にする場合のみを指すと解すべきである。そうすると、特許請求の範囲の記載が、「シートを2つ折りし」から「2つ折りされたシート」へと補正されたことにより、薬剤分包機外であらかじめ折り畳まれたシートという新たな技術的事項が導入されたことになる。

したがって、原告が原出願を本件特許のとおり補正したことは新規事項の追加に当たり、本件特許は特許法123条1項1号の無効事由を有する。

(2)サポート要件違反

原告の主張のとおり、「2つ折りされたシート」に「あらかじめ2つに折り畳まれたシート」が含まれるとすると、こうした態様のシートは本件明細書の発明の詳細な説明に記載がないため、サポート要件違反となる。

本件明細書に記載されているのは分包部でシートを2つ折りにすることを前提とする発明であるから、あらかじめ折り畳まれたロールペーパを利用した場合には同一の技術課題に直面しない。また、ダブルタイプのロールペーパの場合、「2つ折り」にされるのではなく、V字型に開かれるから、本件明細書【0018】の記載に含まれない。

(3)明確性要件違反

原告の主張によると、「2つ折りされたシート」に「あらかじめ2つに折り畳まれたシート」が含まれるところ、こうした態様のシートは本件特許の明細書の発明の詳細な説明に記載がなく、当事者が発明を明確に把握できないから、明確性を欠く。

【原告の主張】

(1)新規事項の追加

本件明細書【0018】の「三角板4で2つ折りにされた際」という記載は、実施例に関する記載に過ぎない。また、同構成は、薬剤投入時に薬剤を投入しやすいよう薬剤分包紙を搬送方向にV字状に折り曲げた状態をいうから、あらかじめ折り畳まれていない薬剤分包紙に薬剤分包装置内で折り目を付けてV字状にする場合のみならず、あらかじめ折り畳まれた薬剤分包紙を開いてV字状にする場合にもあてはまる。補正前の明細書に本件発明の技術的範囲を前者に構成に限定する旨の記載はない。また、「三角板4で2つ折りにされた際」という記載は本件補正の前後を通して変更されていない。

また、本件補正は、分割出願により発明がシートの張力調整方法(原出願)からロールペーパという物に変わったことに伴い、経時的記載を状態7的記載に補正したものにすぎない。

よって、本件補正の前後において本件発明の技術的範囲に変化は生じていないから、新規事項が導入されたとはいえない。

(2)サポート要件違反

「2つ折りされたシート」とは、薬剤分包装置に装着される前にあらかじめ2つに折り畳まれたシート(ダブルタイプのロールペーパ)を意味するものではない。前記1のとおり、「2つ折り」とは、薬剤分包紙をV字状に折り曲げた状態を指すのであり、この点についてサポートを欠くことはない。

(3)明確性要件違反

あらかじめ折り畳まれているかどうかはそもそも本件特許請求の範囲に限定がなく、また、前記2のとおり、「2つ折り」とは、薬剤投入時に薬剤を投入しやすいよう薬剤分包紙を搬送方向にV字状に折り曲げられた状態をいうところ、本件明細書を参酌すれば、「2つ折り」がそのような状態を指すことは明確である。

8 争点(3)ウ(ア)(本件発明は乙22に基づき容易に想到可能か。)

【被告らの主張】

(1)乙22発明

乙22は、発明の名称を「薬剤分包機における分包紙」とし、昭和59年7月3日に公開された公開特許公報である(以下、乙22に従来技術として記載された発明を「乙22発明」という。乙22発明の構成については争いがない。)。

(2)一致点

本件発明と乙22発明とは、中空芯管とその上に薬剤分包シートをロール状に巻いたロールペーパとからなる点、磁石が配置されている点、その磁石をロールペーパと共に回転するように配設して成る点、及び薬剤分包紙用ロールペーパである点において一致する。

(3)相違点

ア 本件発明は構成要件Aにおいて特定される薬剤分包装置である。これに対し、乙22発明はそのような装置に用いられるかどうか明示的な記載がない(相違点1)。

イ 本件発明は「ロールペーパのシートの巻量に応じたシート張力を中空軸に付与するために、支持軸に設けた角度センサによる回転速度の検出信号と測長センサの検出信号とからシートの巻量が算出可能であって、その角度センサによる検出が可能な位置に」磁石が配設されている。これに対し、乙22の磁石はそのような配設であるか明示的な記載がない(相違点2)。

(4)容易想到性

ア 相違点1

本件発明に係る構成要件BないしEは、いずれも構成要件Aで特定される用途に適するようにするためにロールペーパを特定の構成に限定するものではない。よって、構成要件Aにおいて特定される用途の記載は、公知技術との対比判断において酌されるものではない。

したがって、相違点1は実質的な相違点とならない。

イ 相違点2

本件発明に係る構成要件Cの「ロールペーパのシートの巻量に応じたシート張力を中空軸に付与するために、支持軸に設けた角度センサによる回転速度の検出信号と測長センサの検出信号とからシートの巻量が算出可能」という記載は、本件発明に係るロールペーパの構成を特定するものではなく、構成要件Aに記載された装置において達成される事項を記載したものに過ぎない。

また、「その角度センサによる検出が可能な位置に磁石を配置し」との記載についても、本件発明に係る薬剤分包用ロールペーパにおける磁石の配置は角度センサの配置次第であって、任意の配置で足りる。

したがって、相違点2も実質的な相違点とならない。

仮に、相違点2が実質的なものであったとしても、本件発明に係る薬剤分包用ロールペーパの磁石の配置は、乙22発明に係る磁石の配置を適宜変更した設計事項に過ぎない。

(5)したがって、当業者は、乙22発明に基づき、本件発明を容易に想到することができる。

【原告の主張】

(1)乙22発明の構成

乙22発明の構成は、以下のとおりである。なお、被告らの主張する乙22発明と本件発明との一致点及び相違点については争わない。

a1 台板1上に4か所に凸部を設けた支軸2が回転自在に設けられ、支軸2に前記凸部を用いて巻心部材3Xが嵌合され、同じ台板1上に支柱7が立設され、この支柱7から所定の長さのホルダー8が突設され、このホルダー8に磁気の存在を検知する磁気センサー9を設けた薬剤分包機に用いられ、

b1 巻心部材3Xとその上に薬剤分包用シートをロール状に巻いた分包紙5Xとから成り、

c1 分包紙5Xの残量を検出するために、分包紙5Xの外周側に設けた磁気センサー9により分包紙5Xの残量が検知可能であって、巻心部材3Xの周面に磁性体6Xを配置し、分包紙5Xを規定量宛消費した時点で、磁気センサー9が残量の分包紙5Xを透過して外部に到達する磁性体6Xの磁力を検知するように構成し、

d1 その磁性体6Xを分包紙5Xと共に回転するように配設して成る

e1 薬剤分包用ロールペーパ。

(2)容易想到性の不存在

ア 相違点1について

被告らは、構成要件Aの内容は薬剤分包装置内の具体的な構成であるにすぎず、これによりロールペーパの構成は特定されないから、相違点1は実質的な相違点ではないと主張する。しかし、サブコンビネーション発明における他のサブコンビネーションは、発明の構成を特定するものであって単純に無視することはできない。

乙22発明は、少なくとも以下の点で構成要件Aの内容により特定されるロールペーパの構成を有していない。

本件発明は、薬剤分包装置の支持軸とロールペーパの中空芯管との間に回転のずれが生じることを前提としつつ、適正に薬剤分包紙の張力を調整しようとするものである。

これに対し、乙22発明は、支軸と芯管とを嵌合させる構造を持つものであって、支軸と芯管とが機械的に一体となって回転するから、そもそもずれを検知するという課題を生じる余地がない。そのため、仮に本件発明の中空軸に相当する支軸上に、乙22発明の磁性体を検出するための角度センサを設けたとしても、支軸と芯管が一体となって回転する構造である以上、回転角度を検知することはできない。

また、乙22発明のロールペーパは嵌合によって支軸と固定するものであって、本件発明に係る構成要件Aの芯管の端部に薬剤分包装置に固定するための手段を設ける必要がなく、この点で本件発明の構造を欠く。

イ 相違点2について

前記6のとおり、「その角度センサによる検出が可能な位置」が任意の配置で足りるとの被告らの主張は失当である。

ウ まとめ

上記のように構造を異にする乙22発明を、構成要件Aの薬剤分包装置に「用いられ」、かつ、「その角度センサによる検出が可能な位置に磁石を配置」する構造に変更することは設計変更の範囲ではなく、また、容易に想到できるものともいえない。

(3)訂正の再抗弁

本件訂正後の発明においては、前記6(2)のとおり、本件発明に係るロールペーパが構成要件Aを充足する薬剤分包装置で用いられるためには、「支持軸の片端」に設けられた角度センサとの関係で「その角度センサによる検出が可能な位置」が中空芯管の端部に限定され(構成要件A)、かつ、「複数の磁石」が配置されていることが構成要件とされたから(構成要件C)、乙22発明とはこれらとの点においても相違することとなる。

乙22発明は分包紙の残量検知を課題とする発明であって、本件訂正後の発明と課題を全く異にするから、上記の構成を導く理由が全くなく容易想到とはいえない。

9 争点(3)ウ(イ)(本件発明は乙23に乙22を組み合わせることにより容易に想到可能か。)

【被告らの主張】

(1)乙23´発明

乙23は、昭和61年12月18日に公開された実用新案公報である(以下、乙23に記載された薬剤分包用ロールペーパに係る発明を「乙23´発明」という。乙23´発明の構成については争いがない。)。

(2)一致点

本件発明と乙23´発明は、中空芯管とその上に薬剤分包用シートをロール状に巻いたロールペーパから成る点、薬剤分包用ロールペーパを中空軸に着脱自在に固定してその固定時に両者を一体に回転させる手段をロールペーパと中空軸が接する端に設けている点、及び薬剤分包用ロールペーパである点で一致する。

(3)相違点

本件発明と乙22発明との相違点と同じである。

(4)容易想到性

ア 相違点1

乙22発明の場合と同様に、相違点1は実質的な相違点とならない。

イ 相違点2

乙22には、分包紙をスムーズに交換可能とするために分包紙の残量が規定量内に達したことを検知するという課題が開示されている。また、本件発明の優先日当時、分包紙の残量を検知するという課題は薬剤分包装置における周知の一般的な課題であった。さらに、乙23にも、分包紙の巻き戻し作動において巻芯が惰性回転すると分包紙にたるみが生じるという技術的事項が開示されている。そうすると、乙23´発明においても残量を検知するという課題が内在されているものと解される。

そして、乙22発明と乙23´発明は、いずれも薬剤分包装置に用いる薬剤分包用ロールペーパという技術分野が完全に共通している。

したがって、本件発明の優先日当時、乙23´発明において分包紙の残量を検知するという薬剤分包装置における一般的な課題を解決するために、乙23´発明に乙22発明を組み合わせ、乙23´発明の巻芯6に乙22発明における検出用磁石を設けることは、当業者が容易に想到し得た事項である。

【原告の主張】

(1)乙23´発明の構成

乙23´発明の構成は、以下のとおりである。なお、被告らの主張する乙23´発明と本件発明との一致点及び相違点については争わない。

a2 非回転に支持された支持軸1の周りに回転自在に筒体2を設け、筒体2には制動機構10を係合させ、筒体2に着脱自在に装着されるロールペーパ4のシートを送り出す給紙部を備え、ロールペーパ4を上記筒体2に着脱自在に固定してその固定時に両者を一体に回転させる手段である永久磁石7と強磁性板8をロールペーパ4と筒体2が接する端に設けた薬剤分包装置に用いられ、

b2 巻芯6とその上に薬剤分包用シートをロール状に巻いたロールペーパ4とから成る

e2 薬剤分包用ロールペーパ。

(2)容易想到性の不存在

ア 相違点1について

被告らは、構成要件Aは発明特定事項ではなく相違点1は実質的な相違点とならないと主張するが、前記のとおり、本件発明は、他のサブコンビネーションに相当する薬剤分包装置本体に関する事項によってその構造、機能等が特定されているから、構成要件Aが実質的な相違ではないとはいえない。

イ 相違点2について

前記のとおり、乙22発明は本件発明と構成要件A及びCにおいて相違する発明であるから、乙23´発明と乙22発明を組み合わせても、構成要件A及びCを充足することにはならない。特に、乙22発明、乙23´発明のいずれにおいても、薬剤分包装置に備えられた角度センサの位置との関係において検出可能となるように中空芯管に磁石を設けるという構成は開示も示唆もされていないため、両者を組み合わせても本件発明の目的を達成することはできない。

また、乙22発明は、ロールペーパの芯管を支軸と嵌合させて共に回転させる構成を採用するものであり、およそずれの検出という課題を生じる余地のない発明である上、装着された磁石の利用目的はあくまで薬剤分包紙の残量検知にあるから、乙23´発明と課題の共通性もなく、両者を組み合わせる動機付けがない。

したがって、当業者が乙23´発明に乙22発明を組み合せることにより本件発明を容易に想到することができたとはいえない。

10 争点(4)(原告の損害額)

(1)特許法102条2項による損害額の推定

【原告の主張】

ア 販売数量等

被告製品の販売数量、売上金額、粗利益金額、運賃の額について、下記被告らの主張を争わない。被告OHU及び被告セイエーは、それぞれ被告日進及び被告OHUの利益の50%程度の利益を得ていた。

イ 被告らの利益

被告らが売上金額から経費として控除されるべきと主張する運賃のうち9600円は、返品にかかる費用であるから控除されるべきでない。また、被告日進が被告製品の販売のために作成したリーフレットチラシ(以下「本件リーフレットチラシ」という。)の作成費及び郵便代や、インターネット上の通信販売サイトへの出店に関する費用も、被告製品の販売を行わなくても生じるものであり、被告製品の売上に係る変動費ではないから控除されるべきでない。

以上から、被告日進の得た利益は90万8459円、被告OHUが得た利益は45万4230円、被告セイエーが得た利益は22万7115円を下らない。

【被告らの主張】

ア 被告日進の利益

平成26年12月から平成28年6月14日までの間における各被告製品の販売数量は、商品コード「713111」商品名「A111グラシン無地70W」の被告製品(以下「被告製品①」という。)が(中略)巻、商品コード「713112」商品名「A112セロポリ薄口無地」の被告製品(以下「被告製品②」という。)が(中略)巻、商品コード「713113」商品名「A113セロポリ薄口白帯70W」の被告製品(以下「被告製品③」という。)が(中略)巻である。

同期間に、被告日進が、各被告製品の売上高(税抜)から被告OHUに支払う仕入金額及び運賃を控除した金額(乙50記載の粗利益金額から運賃を控除した金額)は、被告製品①につき(中略)円、同②につき(中略)円、同③につき(中略)円、合計89万8859円である。

また、本件リーフレットチラシの作成、送付費用として9万8331円(被告製品は、掲載されている4種類の製品のうちの1つであるから、総費用39万3325円の4分の1を被告製品分の費用とする。)、平成27年10月30日から平成28年5月14日までの間にインターネット上の通信販売サイトである「分包紙Navi」において被告製品を販売するための費用として8万6141円(初期費用6万4899円及び月ごとの費用平均3万7153円を期間分乗じた金額の合計について、上記と同じ理由で4分の1を被告製品分の費用とする。)がかかった。

これらの費用を控除すると、被告日進の利益の額は71万4387円となる。

イ 被告OHUの利益

被告OHUは、平成26年12月から平成28年6月14日までの間において、被告日進の得る利益の50%程度を得ていたことを認める。

よって、被告OHUが同期間で得た利益は35万7194円となる。

ウ 被告セイエーの利益

被告セイエーは、平成26年12月から平成28年6月14日までの間において、被告OHUの得る利益の50%程度を得ていたことを認める。

よって、被告セイエーが同期間で得た利益は17万8597円となる。

(2)推定の覆滅

【被告らの主張】

被告製品は、構成要件Aを充足しない薬剤分包装置でも利用可能であり、単体では本件特許発明の作用効果を奏しない。また、被告製品の売上に貢献しているのは、原告製のロールペーパの半額程度という価格設定である。よって、被告製品の顧客は、仮に被告らが被告製品を販売していなかったとしてもその代わりに原告の製品を購入したとは考えられない。

したがって、本件特許発明は被告らの利益に一切寄与しておらず、特許法102条2項による推定は覆滅されるというべきである。

【原告の主張】

本件は間接侵害の事例であり、被告製品単体で作用効果を奏しないことは推定覆滅の理由とはならない。

需要者は、被告製品がなければ薬剤分包装置を使用するために価格設定如何にかかわらず原告の製品を購入するしかないから、被告製品の価格が顧客誘引力を有することは推定覆滅事由とならない。

(3)請求

【原告の主張】

被告らは、被告製品を製造販売することについて意思の連絡を行っており、主観的関連共同性を有していることは明らかであって、発注、納入の形態等、外形的な関連共同性を認められるから、被告らの損害賠償債務は重なり合う範囲で不真正連帯の関係に立つ。

また、消費税法基本通達5-2-5(2)に基づき、特許権侵害に基づく損害賠償金には消費税相当額が加算される。

よって、被告日進は上記(1)の合計額に消費税を加えた171万6988円について損害賠償責任を負い、そのうち73万5853円につき被告OHUと連帯し、そのうち24万5284円につき被告セイエーと連帯し、被告OHUは上記(1)の被告OHUの利益と被告セイエーの利益の合計額に消費税を加えた73万5853円について被告日進と連帯して損害賠償責任を負い、そのうち24万5284円につき被告セイエーと連帯し、被告セイエーは上記(1)の被告セイエーの利益額に消費税を加えた24万5284円につき被告日進及び被告OHUと連帯して損害賠償責任を負うものというべきである。

【被告らの主張】

被告らの損害賠償債務が不真正連帯の関係に立つこと、消費税相当額が加算されることについて、被告らは明示的には争っていない。

7.当裁判所の判断

1 本件発明について

-省略-

2 争点(1)(一体化製品は本件発明の技術的範囲に属するか。)について

(1)争点(1)ア(一体化製品は「用いられ」(構成要件A)を充足するか。)について

ア 本件発明の性質

(ア)本件発明は、「薬剤分包用ロールペーパ」に係る発明であるところ(構成要件E)、構成要件Aには薬剤分包装置に関する事項が、構成要件B及びDにはロールペーパに関する事項が、構成要件Cにはその両者に関する事項がそれぞれ記載され、構成要件Aにおいて、ロールペーパと薬剤分包装置の関係につき、前者が後者に「用いられ」るものとして記載されていることから、被告らは、要旨、①ロールペーパが構成要件Aを充足する薬剤分包装置にのみ使用される場合に、あるいは、②少なくとも構成要件Aを充足する薬剤分包装置が現実に存在する場合に、他の構成要件を充足するロールペーパが製造、販売されれば、本件発明の構成要件を充足する旨主張する

(イ)そこで検討するに、本件発明は、前記第2の1(3)に示されるとおり、構成要件AないしEを備えるものであり、構成要件BないしDには、中空芯管とロールペーパと複数の磁石(以下「本件ロールペーパ等」)に係る特定が、構成要件Aには、構成要件BないしDに特定される本件ロールペーパ等が用いられる薬剤分包装置に係る特定がなされている。

しかしながら、本件発明は、「薬剤分包用ロールペーパ」という物の発明であり、直接には構成要件BないしDから構成されるところ、構成要件Aの薬剤分包装置に係る特定は、本件ロールペーパ等が「用いられ」るという前提のもと、本件ロールペーパ等の構造、機能等を特定するものとして把握すべきものであり、本件ロールペーパ等の用途又は用法を定めたものと解すべきではない

イ 構成要件Aの「用いられ」の意味

(ア)前記アを前提に検討すると、構成要件Aのうち「ロールペーパの回転速度を検出するために支持軸に角度センサを設け」との記載は、本件ロールペーパ等の「複数の磁石」につき、そのような位置に配置されることを特定するものと理解でき、また、構成要件Aのうち「ロールペーパを上記中空軸に着脱自在に固定してその固定時に両者を一体に回転させる手段をロールペーパと中空軸が接する端に設け」との記載は、本件ロールペーパ等について、そのような態様で回転させられることを特定するものと理解できるし、構成要件Cの「測長センサ」も、構成要件Aの記載によって特定されると理解できる。

そうすると、本件発明に係る薬剤分包用ロールペーパの技術的範囲は、構成要件BないしDと、構成要件Aによる本件ロールペーパ等の上記特定に係る事項とから画されるものと解されるから、一体化製品が上記技術的範囲に属すれば本件発明の構成要件を充足するものであって、一体化製品が構成要件Aを充足する薬剤分包装置に実際に使用されるか否かは、上記構成要件充足の判断に影響するものではないと解される

(イ)被告らは、原告製使用済み芯管に、輪ゴムを介してロールペーパを巻いたプラスチック筒部をセットした一体化製品が構成要件Aの「用いられ」を充足するためには、一体化製品に、構成要件Aを充足する薬剤分包装置に用いられる以外の用途が存在しないことが必要であると主張し、予備的に、仮にこれが認められないとしても、一体化製品は構成要件Aを充足する薬剤分包装置に用いられて初めて作用効果を奏するものであるから、現実に構成要件Aを充足する薬剤分包装置に用いられることが必要であると主張する。

しかしながら、構成要件Aを充足する薬剤分包装置に使用可能な構成を有し、その他の構成要件をも充足するものとして薬剤分包用ロールペーパが生産、譲渡されれば、その時点で本件特許権の侵害は成立するのであって、その後に構成要件Aを充足する薬剤分包装置に当該ロールペーパが使用されるか否かは、特許権侵害の成否を左右するものではない。

被告らは、本件発明の出願経過に照らし、構成要件Aを充足する薬剤分包装置に一体化製品が使用されることが本件特許権侵害に係る必須の要証事実であると主張するが、原告が、手続補正の際に提出した意見書(乙25)において、本件発明は構成要件Aを充足する薬剤分包装置に現実に用いられることを必須とする旨を述べたものと解することはできない。

さらに、被告らは、本件無効審判において、本件訂正後の発明に新規性が認められるための構成が特定されたところ、その中には薬剤分包装置に関するものがあるので、一体化製品が本件発明の技術的範囲に属するかの判断のために、どのような薬剤分包装置に用いられているかを確認する必要があると主張するが、前記検討した構成要件Aと、構成要件BないしDとの関係に照らし、採用できないといわざるを得ない。

ウ まとめ

以上検討したところによれば、本件発明においては、構成要件Aの「用いられ」は、構成要件Aの記載によって構成要件B以下の内容が特定されることを意味するものとして使われているというべきであるから、そのように特定された構成要件を一体化製品が充足する場合には、構成要件Aの「用いられ」を充足すると解され、これ以上に、構成要件Aの「用いられ」が、一体化製品が構成要件Aを充足する薬剤分包装置以外には使用されないこと、あるいは現実に構成要件Aを充足する薬剤分包装置が存在することを、要件として定める趣旨と解することはできない

(2)争点(1)イ(一体化製品は「2つ折りされたシート」(構成要件A)を充足するか。)について

ア 被告らは、構成要件Aの「2つ折りされたシート」とは、ロールペーパを薬剤分包装置内で2つ折りにするシングルタイプのロールペーパの使用を前提としており、あらかじめ2つ折りにされたダブルタイプのロールペーパは含まれない旨を主張する。

イ そこで、検討するに、本件明細書【0018】には、「分包部は、三角板4で2つ折りにされた際にホッパ5から所定量の薬剤が投入された後、ミシン目カッタを有する加熱ローラ6により所定間隔で幅方向と両側縁部とを帯状にヒートシールするように設けられている。」との記載があるが、本件明細書【0011】の記載によれば、本件発明は、一定の張力を保ったままシートを分包部に供給することにより、シートに耳ずれや裂傷が生じることなく薬剤を分包することを可能とするものであり、この技術的思想に関しては、給紙部から分包部に送られてくるシートがあらかじめ2つに折り畳まれたダブルタイプであっても、折り畳まれていないシングルタイプであっても差は生じないし、上記「三角板4で2つ折りにされ」という記載も、実施例を記載したものであって、三角板4以前にシートが2つ折りにされている構成を排除したものとも解されない。

また、本件明細書【0005】の「(従来のシート張力調整装置ではバイブレーション現象が生じるため、)張力変動により分包部でシートを2つ折りした際にシートの縁部が正確に重ならない、いわゆる耳ずれが生じ」るという問題は、シングルタイプのロールペーパを分包部において2つ折りにしてできた空隙に薬剤を投入した後シートの両側縁部と幅方向に加熱融着する場合であっても、ダブルタイプのロールペーパを分包部において折り目を広げてその空隙に薬剤を投入した後同様に加熱融着する場合であっても、同様に生じ得る。

さらに、原告は、本件特許につき拒絶理由通知(乙24)を受けて本件補正を行っているが、本件明細書【0018】の記載に基づくものであり、元の記載がシングルタイプのロールペーパを分包部において折り畳むことのみを指すと解するのは相当ではない(乙25)。

ウ 以上によれば、ダブルタイプのロールペーパを使用する一体化製品も、「2つ折りされたシート」(構成要件A)を充足するというべきである。

(3)争点(1)全体についての判断

ア 被告らは、一体化製品につき、構成要件Aのうち、「測長センサ」、「シートを送りローラで送り出す給紙部」、「上記支持軸と上記中空軸の固定支持板間で」、「中空軸のずれを検出する」といった要件を充足しない旨を主張するが、原告製造の特定の薬剤分包装置の構成についての主張であり、構成要件Aと構成要件B以下との関係を前述のとおり解する以上、意味のない主張といわざるを得ない。

イ 一体化製品は、前記第2の1(5)のとおりの構成を有するところ、被告らは、構成要件Aに関し、争点(1)ア及びイについて争うものの、構成要件B以下の充足性については争うことを明らかにしておらず(当初、構成要件B及びDの充足を争ったが、後に撤回した。)、弁論の全趣旨によれば、一体化製品の構成aは本件発明の構成要件Bを、構成bは構成要件Cを、構成cは構成要件Dを充足すると認められ、一体化製品は構成要件Aを充足する薬剤分包装置において使用されることが可能な構成を有すると認められる。

ウ 以上によれば、一体化製品は、構成要件AないしEをすべて充足するから、本件発明の技術的範囲に属すると認められる。

エ なお、原告は、被告日進が前訴において構成要件Aの充足性を争わなかったことから、本訴訟において構成要件Aの充足性を争うことは信義則に反する旨を主張するが(争点(1)ウ)、被告日進は、前訴とは異なる製品の関係で、構成要件Aの充足性を本訴訟で主張したと認められるから、この点を争うことが信義則に反するとまではいえない。

3 争点(2)(特許権侵害が成立するか。)について

(1)問題の所在

ア 前記2によれば、一体化製品を完成して譲渡すれば、その時点において特許権侵害が成立することになるが、前記第2の1(4)及び(5)のとおり、被告らは、一体化製品それ自体を生産、譲渡しておらず、プラスチック筒部の外周に薬剤分包用シートを巻き回したロールペーパ、すなわち一体化製品のうち原告使用済み芯管のない物を被告製品として生産、譲渡し、これを入手した利用者が、輪ゴムを介してロールペーパに原告製使用済み芯管を挿入し、これを一体化製品とした上で、薬剤分包装置に使用している

イ この点について、原告は、①被告製品は、一体化製品の生産にのみ用いる物であるとして、特許法101条1号の間接侵害を主張するほか、②被告らの行為は、顧客との共同による特許権の直接侵害に当たること、③被告らの行為は、顧客の特許侵害に対する教唆又は幇助に当たることを主張するので、まず間接侵害の成否について検討する。

(2)争点(2)ア(被告製品は、一体化製品の「生産にのみ用いる物」と認められるか。)について

ア 被告製品の販売方法

証拠(甲4、5、21、36、文中掲記のもの)によれば、以下の事実が認められる。

(ア)被告日進の販売するロールペーパの製品には、商品名の冒頭に「A」の付く製品(被告製品。以下「Aタイプ」という。)と「B」の付く製品(以下「Bタイプ」という。)があり、両タイプは、それぞれ分包紙の材質として「グラシン」紙又は「セロポリ」紙を選択できるようになっている。

(イ)被告日進が平成28年11月に公開していたウェブサイト(甲20)によれば、Aタイプの分包紙の芯管内径は67㎜であって、「外径65㎜前後の分包機用芯管に装着可能」とされ、Bタイプの分包紙の芯管内径は52㎜であって、「外径50㎜前後の分包機用芯管に装着可能」とされた。

(ウ)薬剤分包用ロールペーパとして、外径65㎜前後の芯管を製造しているのは原告のみであり、外径50㎜前後の芯管を製造しているのは株式会社タカゾノのみである(弁論の全趣旨)。

(エ)前記ウェブサイトの「よくある質問Q&A」の欄には、「Q.他社分包機に装着するには特別な道具が必要ですか?」という質問に対し、「A.弊社分包紙は、『使用済み分包機メーカー製芯管』を使用することによって、お客様ご使用の分包機に装着することができます。つまり、『使用済み分包機メーカー製芯管』が1個お手元にあれば繰り返し装着することができます。」との回答が記載されていた。

(オ)被告日進が平成28年1月頃にユーザである製剤薬局等に配布していた説明資料(甲9)には、「使用済み分包機メーカー製芯管」に輪ゴム等を取り付け被告日進が販売する分包紙製品に差し込むことにより、芯管の空回りを防止しながら被告日進製以外の分包機において使用する方法がイメージ図や注意事項付きで詳細に説明されている。

(カ)まとめ

以上によれば、被告日進が販売する分包紙のうちAタイプ(被告製品)は、原告製使用済み芯管と一体化して原告製の薬剤分包装置に使用されることを前提として生産され、原告製の薬剤分包装置を使用し、既に原告製使用済み芯管を保有している者に対し、購入の案内がされたものと認められる

イ 他の用途について

(ア)被告日進製の薬剤分包装置

前記被告日進のウェブサイト(甲20)には、「複数メーカー機に装着可能」という文言と共に、「分包紙は当社分包機の専用分包紙であり、各社分包機メーカー及び貴社ご使用の分包機メーカーとは無関係で、承認を受けた製品ではありません。」という記載があり、前記説明資料(甲9)にも同様の記載があることが認められる。

しかし、被告らの主張によっても、被告日進は、経済産業省により「平成25年度補正中小企業・小規模事業者ものづくり・商業・サービス革新事業」に選定された後、平成26年に被告日進製の薬剤分包装置について営業活動を開始し、平成27年にカタログを作成し、平成28年5月12日に1台、同年10月25日に1台の被告日進製の薬剤分包装置を販売したことが認められるにとどまる(甲17、乙1、11、36)。

他方、被告製品は平成26年12月から販売されており、原告代理人は、平成28年1月頃に、被告らに対し、本件特許権に基づき被告製品の製造販売の中止等を求める警告書(甲10)を送付し、同年7月4日に本訴を提起したことが認められる。

(イ)前記時系列によれば、被告製品の販売が開始された当初、これを被告日進製の薬剤分包装置に装着することはおよそ予定されておらず、むしろ、原告との紛争が顕在化した後に、わずか2台を製造販売したにとどまる

(ウ)エルク製分包装置(甲19、乙2、14~16)

被告製品を、エルク製分包装置において使用されている芯管(外径約60㎜。以下「エルク製芯管」という。)に挿入してエルク製分包装置に装着し使用するためには、被告製品の空回りを防止するために厚さ3.2㎜程度のOリングを2個、エルク製芯管に装着することが必要であり、さらに、被告製品の外径(約193㎜)が大きすぎるため、そのままではエルク製分包装置に正常に装着できず、使用開始に当たって長さ330mの分包紙中約88ないし100m分を廃棄する必要があることが認められる。

よって、被告製品をエルク製分包装置に装着して使用することは相当の困難と無駄を伴い、経済的に合理性のある使用とはいえない

(エ)ウエダ製分包装置(甲23、乙17、18)

ウエダ製分包機については、特定の顧客が、その支持軸を独自に製作した支持軸に取り換えるという改造を施すことにより、被告製品を装着して使用していることが認められる。

しかし、同顧客の保有するウエダ製分包機は20年以上前に販売が終了している機種であり、ウエダ製分包機を保有する他のユーザが同様の改造を施して被告製品を使用することは考えにくいし、改造を施さないウエダ製分包装置において、被告製品を正常に装着して使用できる認めるべき証拠もない

よって、被告製品をウエダ製分包装置に装着して使用することは、一般的な使用方法ということはできない。

(オ)タカゾノ製分包装置(乙20、21)

株式会社タカゾノ製の薬剤分包装置において使用されている薬剤分包用ロールペーパが、被告製品と同様の構成であることを認めるに足りる証拠はない。

(カ)まとめ

被告日進製の薬剤分包装置については、被告製品の販売が一定期間行われた後に、わずか2台が製造、販売されたにとどまるものであるから、被告製品が使用されたとしてもごくわずかといわざるを得ないし、被告以外の薬剤分包装置に被告製品を使用することには困難が伴い、現実的ではないといわざるを得ないから、被告製品については、原告製薬剤分包装置に使用する以外の用途は、実質的には存在しないといわざるを得ない。

ウ 争点(2)アについての判断

前記ア及びイで検討したところによれば、被告製品は、原告製使用済み芯管と一体化し、一体化製品として原告製薬剤分包装置に使用することを想定して生産、譲渡され、これ以外の用途は実質的には存在しないというべきであるから、被告製品は、一体化製品の生産にのみ用いるものと認めるのが相当である。

(3)特許権侵害についての判断

被告らが被告製品を生産、譲渡した段階では、回転角度の検出に用いる磁石を配置した原告製使用済み芯管はこれと共には存在せず、本件特許の構成要件の全部を充足するものではないが、前記(2)で検討した通り、被告製品は、原告製使用済み芯管と一体化して、本件特許の構成要件を充足する状態で使用することが予定されており、他の用途が実質的に存在せず、一体化製品の生産にのみ用いられるものと認められるのであるから、被告製品の生産、譲渡は、特許権の直接侵害に至る蓋然性が極めて高いものとして特許法101条1号の間接侵害に当たり、本件特許権を侵害するものとみなすべきものである。

4 争点(3)(本件特許は、特許無効審判により無効にされるべきものか。)について

(1)争点(3)ア(「その角度センサによる検出が可能な位置」との本件特許請求の範囲の記載は明確性を欠くか。)について

被告らは、本件発明は磁石を「その角度センサによる検出が可能な位置」に配置することを構成要件とするが(構成要件C)、角度センサの具体的な位置は本件明細書を斟酌しても明らかではないから、磁石の配置について具体的な位置を理解することができないと主張する。

これに対し、原告は、当業者であれば上記文言に触れればごく自然にセンサから近い位置を選択するのであり、明確性に欠けるとは言えない、また、本件訂正において角度センサの位置についての記載が「ロールペーパの回転角度を検出するために支持軸の片端に角度センサを設け」(訂正箇所下線)と訂正されたことにより、「その角度センサによる検出が可能な位置」との記載がより明確となり無効事由が解消されたと主張する。

そこで検討するに、本件明細書には、回転角度を検出する実施例として芯管Pの内周沿いに複数設けられた磁石24と、支持軸1の片端に設けられたホール素子センサ25が記載されており、本件発明は、磁石の磁力を角度センサにより検出することによってロールペーパの回転角度を検出し、この信号と測長センサの信号に基づいてシート張力を調整しながら薬剤を分包するから、「その角度センサによる検出が可能な位置」とは、磁石が配置されたロールペーパが回転した際に当該回転に基づく信号が角度センサに生じる位置、すなわち、磁石が近づいたり遠ざかったりするに伴い磁力が強くなったり弱くなったりする位置であると解される。

本件訂正により角度センサの位置が支持軸の片端であることが明らかとなったところ、当該角度センサによる検出が可能となる磁石の位置は中空芯管の表面のうち支持軸の先端部に近い位置、すなわち中空芯管の先端部に特定される。

そして、原告製使用済み芯管の磁石は先端部に配設されているから、一体化製品は本件訂正後の発明の技術的範囲に属する。

以上より、被告の主張は理由がない。

(2)争点(3)イ(「2つ折りされたシート」との本件特許請求の範囲の記載)について

前記2(2)のとおり、本件発明における「2つ折りされたシート」との構成は、あらかじめ薬剤分包紙が装置外で2つに折り畳まれていたか(ダブルタイプ)否か(シングルタイプ)に関わらず、薬剤分包紙が搬送方向にV字状に折り曲げられた状態を指すのであって、出願当初の特許請求の範囲の「シートを2つ折りし」という記載(乙31)と同一の意味を有する。

また、本件明細書【0012】及び【0018】には、薬剤を投入しやすいように薬剤分包紙を搬送方向にV字状に折り曲げた状態にすること、すなわち2つ折りにすることの記載がある。この記載を参酌すれば、「2つ折り」がどのような状態を指すかは明確に理解することができる。

したがって、「2つ折りされたシート」との補正によって本件発明の技術的範囲に変化は生じておらず、新規事項の追加には当たらないし、当該事項は本件明細書の発明の詳細な説明に記載されており、サポート要件違反にも当たらず、明確性を欠くこともない。

(3)争点(3)ウ(ア)(乙22を主引用例とする進歩性欠如)について

ア 乙22発明について(乙22)

乙22発明は、薬剤分包機における分包紙に関する発明である。

下の第1~3図に示すように、薬剤分包機内に二つ折りの状態で収装されている分包紙5Xは、ボビン型の巻心部材3Xかまたはリール型の巻心部材4に巻取られており、この分包紙5X内へ上記の分割マスより各薬剤の投入が行われるが、この分包紙5Xを順次に消費して残量が規定量内に達したときは、次の分包紙5Xを巻着した巻心部材3X(または4)を補給交換することになる。

この場合前記分包紙5Xの残量が規定量内に達したことを警示するために、上記巻心部材3X(または4)の成形時に、その周面の一端にマグネットを細片状に裁断した磁性体6Xを軸方向に平行に、かつその表面が露出する態様により埋設するとともに、上記巻心部材3X(または4)の付近には第3図に示すように、巻心部材3X(または4)を軸嵌する支軸2と同じ台板1上に支柱7を立設して、この支柱7から所定長さのホルダー8を突設し、この上面にカバー12付基板11の端子台13から配出されたリード線10を介して上記基板11の位置における設定値により磁気の存在を検知する磁気センサー9が取付けられている。

このため前記の分包紙5Xを規定量宛消費した時点で、上記の磁気センサー9が残量の分包紙5Xを透過して外部に到達する磁性体6Xの磁力を検知し、これを基板11側に電気的に警示するため、その警示によって薬剤分包機の分包動作が自動的に停止し、その表示により次の分包紙の巻心部材3X(または4)を補給交換するように構成されている。

イ 乙22発明から容易想到でないこと

乙22発明は、上記のとおり、薬剤分包紙が規定量消費されると、薬剤分包装置に取り付けられた磁気センサが当該薬剤分包紙が巻き回された巻心部材に埋設された磁性体の磁力を当該薬剤分包紙を透過して検知することにより、薬剤分包紙の交換のタイミングを効果的に知ることができるという発明である。

よって、磁性体から発せられる磁力を磁気センサによって常時検出することは予定されておらず、たとえ薬剤分包装置に角度センサが備わっていたとしても、薬剤分包紙が規定量消費されない限り磁力の検出をすることはできないから、回転角度を検出することはできない。

また、乙22発明は、巻心部材と支軸が嵌合する構成であるから、そもそもずれを検出するという課題は生じない。

したがって、乙22発明において、本件特許の構成要件Aに定められた角度センサを有する薬剤分包装置において用いられるように磁性体を配置することは、薬剤分包紙が規定量消費されたときに初めて磁力が検出可能となるようにするという乙22発明の技術思想に反するため、設計変更の範囲ではなく、また、当業者が容易に想到することができるとはいえない。

ウ まとめ

したがって、乙22を主引用例とする進歩性欠如による無効の抗弁は成立しない。

(4)争点(3)ウ(イ)(乙23を主引用例とする進歩性欠如)について

ア 乙23´発明について(乙23)

乙23に記載された発明は、薬剤分包紙等のペーパを巻き取った巻芯の支持装置に関するものであり、分包紙の巻戻し作動において巻芯が惰性回転すると分包紙にたるみが生じるため、前記巻芯に回転方向の負荷を付与する必要があることを課題とする。

同発明の構成は、回転方向に負荷を付与した回転可能な筒体と、この筒体の外側に嵌合した抜き差し可能な巻芯とを磁力結合して巻芯に制動力を付与したものである。

(実施例)

薬剤分包機などのフレームで端部が支持される支持軸1の外側には筒体2を嵌め合わして軸受3で回転可能に支持してあり、上記支持軸1と筒体2との間に、上記筒体2に回転方向の負荷を付与する制動機構10が設けてある。

上記制動機構10は、支持軸1の端部にねじ軸部11を形成し、このねじ軸部11にねじ係合した調整摘み12と上記支持軸1の外側に嵌合した摩擦板13との間にスプリング14を配置し、上記スプリング14の弾力により摩擦板13を筒体2の内周に設けたフランジ15に圧接している。

なお、摩擦板13は支持軸1に対して軸方向に移動可能になり、かつ支持軸1に対して非回転に支持されている。

上記筒体2の端面には、この筒体2の外側に嵌合されるロールペーパ4の差し込み量を規制する円板5がねじ止め等の手段で固定され、この円板5とロールペーパ4の巻芯6とが磁力結合されるようになっている。

磁力結合する手段は、下図のように、円板5の片面に複数の永久磁石7を環状に設け、一方巻芯6の端面には鉄板などの強磁性板8を取付けるようにしたり、あるいは永久磁石7と強磁性板8との取付位置を逆としたり、極性の異なる永久磁石を対応面間に取付けるようにしたりしてもよい。

この支持装置は、ペーパを巻取った巻芯6を筒体2の外側に嵌合してこの巻芯6と筒体2とを磁力結合したのち、調整摘み12の回動操作によって筒体2に回転方向の負荷を付与し、ペーパ4を巻戻したときに筒体2が惰性回転しないようにする。

そして、筒体2の外側に巻芯6を嵌合して巻芯6端部の強磁性板8を円板5に当接すると、円板5に取付けた永久磁石7に上記の強磁性板8が吸着され、巻芯6と筒体2とを回転方向に結合することができる。そこで、巻芯6で巻取ったペーパ4を巻戻しすると、回転方向に負荷がかかる筒体2が巻芯6と共に回転し、ペーパ4に一定の張力が作用する状態で上記ペーパ4を巻戻すことができる。そのペーパ4の引き出し作業時に、制動機構10の調整間違いなどによって筒体2に付与した負荷が設定値以上に保持されていると、巻芯6と筒体2との磁力結合部においてスリップし、紙切れすることなくペーパ4を引き出すことができる。

この発明のうちロールペーパに係る発明が乙23´発明である。

イ 乙23´発明から容易想到でないこと

乙23´発明の巻芯に取り付けられた永久磁石は、巻芯と筒体を磁力結合させ、薬剤分包紙のたるみや紙切れ防止するためのものであって、薬剤分包装置に設けられた角度センサによって磁力を検出することを目的としたものではない。乙23には、薬剤分包装置に角度センサを設ける構成を示唆する記載はない。よって、乙23´発明の永久磁石を、薬剤分包装置の角度センサで検出することが可能な位置に配置する動機付けはない。

また、前記のとおり、乙22発明は、薬剤分包紙を規定量消費すると巻心部材に取り付けられた磁性体から発せられた磁力が薬剤分包紙を透過して磁気センサに検知されることにより、分包紙の交換時期を知らせるという発明である一方、乙23´発明の巻芯に取り付けられた永久磁石の目的は上記のとおりであるから、両発明の課題の共通性はなく、組み合わせる動機付けがない。

被告らは、相違点2について乙23´発明の巻芯に乙22発明における検出用磁石を設けることは、当業者が容易に想到し得た事項であると主張するが、前記のとおり、乙22発明の磁性体は、角度センサで検出することが可能な位置に配置されるものではないから、乙23´発明に乙22発明を組み合わせたとしても、本件発明とはならない。

ウ まとめ

したがって、乙23´を主引用例とし、乙22を副引用例とする進歩性欠如の無効の抗弁は理由がない。

(5)まとめ

以上によれば、本件特許は、特許無効審判により無効にされるべきものではない。

5 争点(4)(原告の損害額)について

(1)特許法102条2項による推定平成26年12月から平成28年6月14日までの間における被告製品の税抜の売上金額、粗利益金額及び運賃の額については争いがない。

被告製品の返送分の運賃9600円については、配送分の運賃と同様に被告日進の必要経費として控除することが相当である。

一方で、本件リーフレットチラシには、被告日進の販売する被告製品以外の薬剤分包用ロールペーパや被告日進製の薬剤分包装置等が掲載され、インターネット上の通信販売サイト「分包紙Navi」においても同様に別の製品が掲載されている(甲4、5)。よって、これらの作成、送付及び掲載に係る費用については、被告製品の販売がなくとも必要であったものと認められる。

したがって、被告らが被告製品の製造販売によって得た利益の額は、被告日進につき97万0768円(89万8859円×1.08)、被告OHUにつき48万5384円(89万8859円×0.5×1.08)、被告セイエーにつき24万2692円(89万8859円×0.5×0.5×1.08)となる(いずれも消費税相当額を加算)。

(2)推定の覆滅について

前記のとおり、被告製品は原告製使用済み芯管と一体化することによって本件発明の作用効果を奏するものであるから、単体で同作用効果を奏しないことは当然であり、推定覆滅事由にはならない。

また、需要者が薬剤分包装置を業務上使用するためには薬剤分包紙が必須であるから、需要者は自己の保有する薬剤分包装置に適合したロールペーパを定期的に購入することとなる。そして、被告製品は、原告製使用済み芯管の外径とほぼ一致する内径を持つロールペーパであり、被告らが原告製の薬剤分包装置において使用できることを説明していたから、需要者は原告製のロールペーパの代替として被告製品を購入していたものと考えられ、原告製のロールペーパ又は被告製品以外で、同じ寸法の内径を持つロールペーパが市場に存在すると認めるべき証拠はない。

したがって、被告製品が市場に存在しなければ、需要者は値段に関わらず原告製のロールペーパを購入したものと考えられるから、被告製品の価格が有利であることは、前記(1)の推定を覆滅する事由とはならない。

(3)被告らの責任

被告らは、前記第2の1(4)のとおり、一体となって被告製品を製造及び販売していたことが認められるから、それぞれが得た利益の範囲において損害賠償責任を負い、他の二者とは、重なり合う範囲で不真正連帯の関係に立つ。

(4)まとめ

したがって、被告日進は、97万0768円の損害賠償責任を負い、うち48万5384円については被告OHUと、うち24万2692円については被告セイエーと連帯する。被告OHUは、上記48万5384円につき被告日進と連帯して損害賠償責任を負い、うち24万2692円につき被告セイエーも連帯責任を負う。被告セイエーは、上記24万2692円につき被告日進及び被告OHUと連帯して損害賠償責任を負う。なお、本件訴状送達の日は、被告日進及び被告OHUにつき平成28年7月14日、被告セイエーにつき同月13日である(当裁判所に顕著な事実)。