プレハブ式階段事件(実用新案権による権利行使)

投稿日: 2018/01/28 23:30:39

今日は、平成28年(ワ)第13003号 実用新案権侵害差止等請求事件について検討します。原告である新東化成株式会社は、判決文によると、合成樹脂製品の製造及び販売などを業とする株式会社だそうです。一方、被告であるヤマム株式会社は熱可塑性樹脂・熱硬化性樹脂・エンジニア樹脂及びその原料とこれらの製品の製造・販売などを業とする株式会社だそうです。J-PlatPatで検索すると、新東化成株式会社のこれまでの特許出願件数は2件ですが、実用新案登録出願は8件でした。一方のヤマム株式会社の特許出願件数は4件で、実用新案登録出願件数は0件でした。

 

1.手続の時系列の整理(実案登録第3159269号)

① 本件について原告が訴訟を提起した時期は2016年(平成29年)中としかわかりませんでした。

② J-PlatPatでは登録実用新案の評価書の内容は把握できません。

③ また、経過情報には訂正に関する情報は掲載されませんが、別途訂正明細書等が掲載されます。

2.本件考案(実用新案登録請求の範囲の請求項1記載の考案)

【請求項1】

A:傾斜した設置地面上に互いに略平行に配置された複数の長尺部材(16)と、

B:水平に配置された踏み板部(6)と、鉛直に配置され上辺部が前記踏み板部(6)の側辺部に一体的に連続又は接続された蹴上げ部(8)とを有すると共に、前記傾斜した設置地面上に配置された長尺部材(16)上に階段状に並べて配置されたステップ部材(4)と、

C:一枚の板状部材が折り曲げられることにより形成され、前記長尺部材(16)に固定された固定部材(44)と、

D:下端部が前記設置地面の土中に埋め込まれ、上端部が前記設置地面から突き出して前記固定部材(44)に固定された、大きな剛性を有するアンカー杭(32)とを備え

E:前記固定部材(44)は、平坦な第1の平板部(44a)と、前記第1の平板部(44a)から前記板状部材の長さ方向に連続して弧を描くように折り曲げられた円弧部(44b)と、前記円弧部(44b)の前記第1の平板部(44a)と反対側の端部が折り曲げられて、前記第1の平板部(44a)と間隔を空けて互いに対向するように形成された平坦な第2の平板部(44c)とを有し、

F:前記第1の平板部(44a)及び前記第2の平板部(44c)には、互いに対応する位置に配置された、第1のボルト孔(44f)及び第2のボルト孔(44e)がそれぞれ形成され、

G:前記円弧部(44b)の内周面の内径寸法は、前記アンカー杭(32)の上端部が挿通することができる大きさに形成されると共に、互いに対向する前記第1の平板部(44a)と前記第2の平板部(44c)の間隔が小さくなるにつれて、前記内径寸法が小さくなるように形成され、

H:前記円弧部(44b)の内周面の内側に、前記アンカー杭(32)の上端部が挿し込まれ、前記第1の平板部(44a)の、前記第2の平板部(44c)と対向する側とは反対側の面が前記長尺部材(16)に接触して配置され、

I:前記第1の平板部(44a)の前記第1のボルト孔(44f)と、前記第2の平板部(44c)の前記第2のボルト孔(44e)と、前記長尺部材(16)の前記第1のボルト孔(44f)及び前記第2のボルト孔(44e)に対応する位置に形成されたボルト孔に、頭付ボルト(36)のネジ部が挿通し、その挿通した前記ネジ部にナット(38)がネジ締結することにより、互いに対向する前記第1の平板部(44a)と前記第2の平板部(44c)の間隔が小さくなり、前記アンカー杭(32)の上端部が前記円弧部(44b)の内周面に締め付けられるように、前記固定部材(44)が前記長尺部材(16)に固定された

J:ことを特徴とするプレハブ式階段。


3.争点

(1)本件実用新案登録は実用新案登録無効審判により無効にされるべきものと認められるか(争点1)

ア 無効理由1(乙第2号証(実用新案登録第3066483号公報)を主引例とする進歩性欠如)は認められるか(争点1-1)

イ 無効理由2(第2東名高速道路東上トンネルでの公然実施による新規性欠如)は認められるか(争点1-2)

(2)被告製品の譲渡等の差止め及び廃棄の必要性があるか(争点2)

(3)不当利得の額及び損害の額(争点3)

4.裁判所の判断

1 本件考案について

(1)実用新案登録請求の範囲の記載

-省略-

(2)本件明細書等の記載

-省略-

(3)本件考案の概要

実用新案登録請求の範囲の記載(前記(1))及び本件明細書等の記載(上記(2))によれば、本件考案の概要は、次のとおりと認められる。

ア 本件考案は、プレハブ式階段に関する。(【0001】)

従来のプレハブ式階段は、ステップ部材を固定した長尺部材を設置地面上に固定するに際して、再生プラスチック製のアンカー杭を地中に埋め込み、当該アンカー杭の上端部と長尺部材とをボルト・ナットによりネジ固定していたところ、アンカー杭が剛性の不足する再生プラスチック製であったために、地盤が硬い土砂等で形成されている場合には、アンカー杭を埋め込み固定するのに労力と時間がかかり、またアンカー杭を設置地面の土中に強固に固定できないとの問題点があった。(【0003】、【0004】、【0013】、【0018】ないし【0022】)

イ 本件考案は、このような問題点に鑑みされたものであり、設置地面の地盤が硬い土砂等で形成される場合であっても、アンカー杭を容易かつ強固に土中に固定でき、これにより設置地面上に強固に固定することができるプレハブ式階段を提供することを課題とする。(【0023】)

上記課題を解決するため、本件考案は、アンカー杭を大きな剛性を有するものとすることにより、地盤を崩したり埋め戻したりという一連の作業を行わずにアンカー杭を設置地面上に打ち込み、アンカー杭を設置地面の土中に強固に固定できるようにするとともに、構成要件EないしGの形状を備える固定部材を用いてアンカー杭の上端部を長尺部材に固定することにより、長尺部材とアンカー杭とを固定部材を介して強固に固定できるようにしたものである。(【0024】、【0028】、【0030】ないし【0033】、【0039】、【0041】、【0047】ないし【0056】)

2 争点1-1(無効理由1〔乙第2号証を主引例とする進歩性欠如〕は認められるか)について

(1)乙2公報の記載

-省略-

(2)引用考案

上記(1)に認定した乙2公報の記載によれば、乙2公報には、次の考案(以下「引用考案」という。)が記載されているものと認められる。

「傾斜した設置地面上に互いに略平行に配置された複数の部材により構成された枠体6と、水平に配置された板状部と鉛直に配置された板状部とを有し、前記傾斜した設置地面上に配置された枠体6上に階段状に並べて配置されたステップ1と、アンカ杭固定釘10と、下端部が前記設置地面の土中に埋め込まれ、上端部が前記設置地面から突き出して前記枠体6に固定されたアンカ杭9とを備え、前記アンカ杭固定釘10により前記アンカ杭9が枠体6の側面に固定されたことを特徴とするプレハブ式階段。」

(3)本件考案と引用考案の対比

ア 一致点

引用考案の「複数の部材により構成された枠体6」は本件考案の「複数の長尺部材」に、引用考案の「水平に配置された板状部と鉛直に配置された板状部とを有し、前記傾斜した設置地面上に配置された枠体6上に階段状に並べて配置されたステップ1」は本件考案の「水平に配置された踏み板部と、鉛直に配置され上辺部が前記踏み板部の側辺部に一体的に連続又は接続された蹴上げ部とを有すると共に、前記傾斜した設置地面上に配置された長尺部材上に階段状に並べて配置されたステップ部材」に、引用考案の「アンカ杭9」は本件考案の「アンカー杭」に、それぞれ相当すると認められる。

したがって、本件考案と引用考案とは、「傾斜した設置地面上に互いに略平行に配置された複数の長尺部材と、水平に配置された踏み板部と、鉛直に配置され上辺部が前記踏み板部の側辺部に一体的に連続又は接続された蹴上げ部とを有すると共に、前記傾斜した設置地面上に配置された長尺部材上に階段状に並べて配置されたステップ部材と、下端部が前記設置地面の土中に埋め込まれ、上端部が前記設置地面から突き出して前記固定部材に固定されたアンカー杭とを備えたことを特徴とするプレハブ式階段」である点において一致する。

イ 相違点

他方で、本件考案と引用考案とは、次の点において相違する。

(ア)本件考案の「アンカー杭」が「大きな剛性を有する」(構成要件D)のに対し、引用考案の「アンカ杭9」の剛性は特定されていない点(以下「相違点1」という。)

(イ)本件考案のプレハブ式階段は、「平坦な第1の平板部と、前記第1の平板部から前記板状部材の長さ方向に連続して弧を描くように折り曲げられた円弧部と、前記円弧部の前記第1の平板部と反対側の端部が折り曲げられて、前記第1の平板部と間隔を空けて互いに対向するように形成された平坦な第2の平板部とを有し、前記第1の平板部及び第2の平板部には、互いに対応する位置に配置された、第1のボルト孔及び第2のボルト孔がそれぞれ形成され、前記円弧部の内周面の内径寸法は、前記アンカー杭の上端部が挿通することができる大きさに形成されると共に、互いに対向する前記第1の平板部と前記第2の平板部の間隔が小さくなるにつれて、前記内径寸法が小さくなるように形成され」(構成要件EないしG)、「一枚の板状部材が折り曲げされることにより形成され、前記長尺部材に固定された固定部材」(構成要件C)を備えるのに対し、引用考案のプレハブ式階段はそのような固定部材を備えない点(以下「相違点2」という。)

(ウ)本件考案の「アンカー杭」は、その上端部が固定部材の円弧部の内周面の内側に挿し込まれ、それぞれボルト孔を有する固定部材と長尺部材とがボルト・ナットにてネジ締結されることにより、上記内周面に締め付けられるように固定されるのに対し、引用考案の「アンカ杭9」は、「アンカ杭固定釘10」により「枠体6」の側面に固定される点(以下「相違点3」という。)

ウ 被告の主張について

この点について、被告は、乙2公報には「大きな剛性を有するアンカ杭」が開示されていると主張する。しかしながら、乙2公報には、従来のプレハブ式階段の概略を説明する箇所において「鋼棒3」に言及する部分はあるが(段落【0002】、【0003】)、被告は、同部分に記載された考案を本件考案と対比すべき先行技術として主張するものではなく、乙2公報の実施例として開示された考案を問題にしているところ、当該考案が有する「アンカ杭9」については、その剛性は特定されておらず、むしろ「アンカ杭固定釘10により…枠体6の側面に固定」できるものでなければならないことからすれば、「大きな剛性を有する」ものではないことが示唆されているというべきであるから、被告の主張は採用することができない。

(4)相違点に係る容易想到性の検討

ア 相違点2及び同3について

(ア)被告は、乙2公報に記載された考案(引用考案)について、鋼棒の固定力が低下することを課題とするものであるところ、固定力を向上させ、更に工程数を削減するため、引用考案中のアンカー杭として周知技術(乙7、8)に係るパイプ杭を想定し、パイプを強固に固定する部材として分野を問わず採用されていた周知技術(乙3ないし5)に係るb字型部材を採用する動機付けがあると主張する。

しかしながら、まず、アンカー杭としてパイプ杭を用い、その下端部を地中に埋め込み、上端部をクランプを介して設置物を地面に固定することが本件出願日当時の周知技術であったとしても、引用考案における「アンカ杭9」をあえて「パイプ杭」に置き換える動機付けとなるべき積極的な事情は見当たらない

また、前記(1)のとおり、乙2公報には、「上記従来例において、ステップ1を鋼棒にて直に設置面に固定するようにしていたので、次のような改良すべき課題がある。すなわち、…設置面が自然の傾斜地である場合には、通常設置面が凹凸面になっている。このような凹凸面に各ステップをステップ連結釘で連結して設置した場合に、各ステップの着地状態が一定ではなく、時には地面から浮き上がったステップもあり、かつ、凹凸面にそって捻れたりする。その結果、鋼棒の固定力が十分でない部分があり、また、捻れた状態のステップを繰り返し踏むことにより、鋼棒の固定力が低下するという課題がある。」との記載があり(段落【0003】)、従来のプレハブ式階段において、設置面に凹凸があるために、ステップと設置面とを直接固定する鋼棒の固定力が低下する課題が存した旨の記載はあるが、引用考案において「アンカ杭固定釘10」により「アンカ杭9」を「枠体6」に固定した場合にもなお「アンカ杭9」の固定力が低下するとの課題が存することについては、乙2公報には記載も示唆もない。また、かかる課題が自明のものと認めるべき事情も見いだせない。かえって、引用考案によれば、「アンカ杭固定釘10により、アンカ杭9を枠体6の側面に固定するようにすれば、設置表面GLの凹凸面に応じて、任意の位置にアンカ杭9を打ち込むことができ、枠体6を設置面4に確実に固定することができる。」(下線を付した。)とされ(段落【0019】)、アンカ杭固定釘10による固定方法であれば設置面の凹凸に応じて任意の位置にアンカ杭9を打つことができるのに対して、本件考案では「前記長尺部材の前記第1のボルト孔と前記第2のボルト孔に対応する位置に形成されたボルト孔」(下線を付した。)と規定されており(構成要件I)、長尺部材にあらかじめボルト孔を形成しておくのであれば、出荷前の工程数が増加する上に必ずしも任意の位置にアンカ杭を打つことができなくなるし、あらかじめボルト孔を形成しないとしても、施工時にボルト孔を形成する工程が増加すると共に、固定部材とボルト・ナットを要するために引用考案より部材数が増加することになるから、アンカ杭固定釘に代えて、「b字型部材」を採用する動機付けを阻害する要因があるというべきである

(イ)次に、被告は、本件出願日当時、設置物を地面に固定するために、一枚の板状部材からなる固定部材の円弧部にアンカー杭を挿入し、ボルトとナットで締め付ける構成が公知であり(乙14)、この固定部材の形状を「b字型」とすることは、設置物や設置状況に応じて当業者が適宜設計できる事項にすぎないとして、乙第14号証に開示された板状部材を適宜b字型部材に変更して引用考案に適用することにより、相違点2及び同3に係る本件考案の構成に容易に想到できるとも主張する。

しかし、引用考案において「アンカ杭固定釘10」により「アンカ杭9」を「枠体6」に固定した場合にもなお「アンカ杭9」の固定力が低下するとの課題が存することにつき乙2公報には記載も示唆もなく、また、同課題が自明であったと認めることもできないことは、既に述べたとおりであるから、乙第14号証に開示された構成を引用考案に適用する動機付けは認め難いというほかない。

加えて、乙第14号証(実用新案登録第3140137号公報)に開示されている略C字形状の部材(「締付部材43」)は、物置Sの壁面や脚部に固定される保持部材33と、この保持部材33に固定され、杭35が通される案内部材37とを主要部に備える杭打ち設置用具1Bを構成する保持部材33の一部を構成する部材であって(段落【0024】、【0027】)、それのみで杭35を固定するものではないところ、そのような杭打ち設置用具1Bから「締付部材43」のみを取り出して、その形状をすすんで適宜「b字型」に変更する動機付けを認めることは、より困難というほかない

(ウ)さらに、被告は、そもそも鋼棒を基材に固定する方法は、当業者にとって設計的事項というべきであって、引用考案における「アンカ杭固定釘10」に代えて、一般に販売されていた「b字型部材」を採用することには何らの困難もないと主張する。

しかし、建設現場に設置される設置物を設置地面に固定する杭と設置物との固定方法が当業者にとって設計的事項にすぎないことをうかがわせるような事情は何ら認められない。被告が一般に販売されていると主張する「ワニグチ片サドル」(乙18)や「ユニクロ片サドル」「ステン片サドル」(乙19)が、設置物を設置地面に固定する杭を設置物に固定する方法として当業者が適宜採用できるものかは判然としないというべきである。

(エ)したがって、当業者といえども、本件出願日当時、引用考案に周知技術又は公知の構成を適用して、又は鋼棒の固定方法を適宜設計することにより、相違点2及び同3に係る本件考案の構成に想到することが極めて容易であったと認めることはできない。

イ 相違点1について

被告は、引用考案における「アンカー杭9」を相違点1に係る本件考案の構成(「大きな剛性を有する」)とすることが極めて容易であるとみるべき事情を主張しておらず、かえって、引用考案における「アンカー杭9」が「アンカ杭固定釘10により…枠体6の側面に固定」できるものでなければならないことからすれば、引用考案における「アンカー杭9」を「大きな剛性を有する」ようにすることは、むしろ容易ではなかったことがうかがわれるところである。

(5)小括

以上によれば、本件考案は、当業者が本件出願日当時引用考案に基づいて極めて容易に考案をすることができたものとは認められないから、被告の主張する無効理由1は成り立たない。

3 争点1-2(無効理由2〔第2東名高速道路東上トンネルでの公然実施による新規性欠如〕は認められるか)について

(1)被告は、原告が本件出願日に先立つ平成21年11月頃、清水建設に対して、東上トンネル工事向けとして本件公然実施品を販売し納品したから、本件考案は、本件出願日前に日本国内において公然実施をされた考案であって、新規性欠如の無効理由があると主張する

(2)そこで検討するに、証拠(乙10)によれば、平成28年7月19日時点で、第2東名高速道路上り東上トンネル入口の脇付近に、本件考案の実施品(以下「本件実施品」という。)が設置されていることが認められ、原告は、本件実施品につき、原告が製造販売した製品であることを争っていない

しかし、本件全証拠によっても、清水建設が本件実施品を設置したことや、原告が本件出願日前に本件実施品を清水建設又はその関連会社に納品した事実を認めるには至らない

この点について、被告は、原告のカタログ(乙9)に「NEXCO様 リバーザー・ステップ納入実績(抜粋)」「平成21年11月 愛知県 第二東名道 東上トンネル工事 清水建設(株)1073枚」との記載があることを指摘するが、証拠(甲29、乙23)によれば、「リバーザー・ステップ」とは、原告が製造販売するプレハブ式階段の総称であって、必ずしも本件考案の実施品のみを示すものではなく、「リバーザー・ステップ納入実績」との記載も、本件考案の実施品のみの納入実績を示すものではないことが認められる。原告の売上帳簿(甲14)上も伝票(甲37)上も、原告が本件出願日以前に本件実施品を清水建設に納品したことをうかがわせる記載はない

かえって、証拠(甲24ないし28)によれば、NEXCO中日本名古屋支社は、平成22年4月30日頃、大林組に対し、「第二東名高速道路 稲城トンネル工事他1トンネル工事」を発注し、同工事に係る雑工平面図には、「東上トンネル(上り線」の入り口付近に「階段工A2-14.6」との記載があること、原告は、大林組にも「リバーザー・ステップ」を継続的に納品していることがそれぞれ認められるから、本件実施品は、本件出願日後に原告が大林組に納品し、その後施工された可能性が相応に認められるというべきである

(3)以上によれば、本件考案が、本件出願日より前に、日本国内において公然実施をされた考案であるとは認められないから、被告の主張する無効理由2は成り立たない。

4 争点2(被告製品の譲渡等の差止め及び廃棄の必要性があるか)について

前記前提事実等(第2、2(4))のとおり、被告製品は、本件考案の構成要件を全て充足するから、その技術的範囲に含まれ、また、上記2及び3のとおり本件考案についての実用新案登録につき被告の主張する無効理由は成り立たないから、被告が業として被告製品を譲渡等することは、本件実用新案権を侵害する行為である。

したがって、被告による被告製品の譲渡等を差し止める必要があるというべきであるし、被告が保有する被告製品を廃棄させる必要がある。

この点について、被告は、被告が平成28年1月には被告製品の製造販売を終了させ、被告製品で用いられていたボルト・ナットをコーチボルトに変更した新製品を譲渡等していると主張するが、被告の主張によっても、新製品は、被告製品におけるボルト・ナットをコーチボルトに変更したにとどまるものであり、被告においてコーチボルトをボルト・ナットに再度変更して譲渡等することは容易であるから、なお被告が被告製品を譲渡等するおそれが認められるというべきである。

5 争点3(不当利得の額及び損害の額)について

(1)不当利得について

ア 不当利得金の算定の対象となる期間について

原告は、被告が、本件実用新案登録がされた後の日である平成25年1月1日から平成27年7月31日までの間に、実施料を支払うことなく被告製品を譲渡等して、法律上の原因なく実施料相当額の利得を得ており、これと同額の損失を原告に及ぼした旨主張する。これに対し、被告は、不当利得金の算定の基礎とされるべき被告製品の譲渡等は、本件考案に係る実用新案技術評価書が発送された平成27年5月21日以降にされたものに限られるべきとか、原告が提出した訂正書が受理された平成26年7月7日以降にされたものに限られるべき旨主張している。

実用新案法14条の2第11項は、同条1項に規定する実用新案権者による訂正があったときは、その訂正後における明細書、実用新案登録請求の範囲又は図面により実用新案登録出願及び実用新案権の設定の登録がされたものとみなす旨規定しているから、原告が平成26年7月7日付け訂正書によってした実用新案登録請求の範囲の訂正の効力は、本件実用新案登録の日である平成22年4月14日に遡及することとなる。したがって、被告製品が上記訂正後の実用新案登録請求の範囲の構成要件を全て充足し、本件考案の技術的範囲に含まれる以上、被告は、原告に実施料を支払うことなく、平成22年4月14日以降に被告製品を譲渡等したことにより、実施料相当額の利得を得ており、原告は、これと同額の損失を受けたものというべきである。

この点について、被告は、実用新案技術評価書を提示して警告した後でなくては実用新案権を行使できないことから、進歩性を認める旨の実用新案技術評価書が発送された日や、当該進歩性を認める旨の実用新案技術評価書の基礎とされた訂正書が受理された日が、不当利得金の算定の対象となる期間の始期とされるべき旨主張するが、実用新案技術評価書の提示は、権利を行使するための手続的要件にすぎず、実用新案技術評価書を請求する以前には実用新案権が実体的に存在しないということにはならないから、被告の主張は採用することができない。

イ 不当利得発生の原因となる取引について

証拠(乙27)及び弁論の全趣旨によれば、平成25年1月1日から平成27年7月31日までの間における被告による被告製品の販売実績は、別紙4被告売上高の番号1から48のとおりであり(後述するとおり、番号49から56までの販売分については、平成27年8月1日以後にされたものと認められる。)、その売上高の合計は2709万0327円と認められる。

ウ 相当な実施料率について

証拠(乙26)によれば、発明協会研究センター(当時)が実施した調査の結果、建設技術の外国技術導入契約における平成4年度から平成10年度までの実施料率の平均値が3.1パーセントであったことが認められる。このことに加え、本件考案は原告が自ら出願した引用考案の改良に係る考案と位置付けられることなどの事情を考慮し、本件考案の実施に係る実施料率としては、被告製品の譲渡等により被告が得た売上高の3パーセントと認めるのが相当である。

エ 小括

以上によれば、被告は、平成25年1月1日から平成27年7月31日までの間に、実施料を支払うことなく被告製品を譲渡等したことにより、法律上の原因なく、81万2710円(2709万0327円×3パーセント)の利得を得たものであり、原告は、これと同額の損失を受けたものと認められる。

(2)不法行為について

ア 平成27年8月1日以降の譲渡行為について

証拠(乙27)及び弁論の全趣旨によれば、被告は、平成27年8月1日以降、別紙4被告売上高の番号49ないし56のとおり、本件考案の技術的範囲に属する被告製品を取引先に納品して譲渡したものと認められる。

これに対し、被告は、上記各取引に関し、被告が被告製品を取引先に納品したのは平成27年8月1日以降であるが、被告は、これらの取引に係る発注を平成26年10月10日付けで受けており(乙28)、発注を受けた時点で受注者である被告としては特定の製品を納入すべき義務を負うから、この時点で被告製品の譲渡は完了したと主張する。しかし、平成26年10月10日付け発注書(乙28)には、「納期:都度お打合せ」「期間:H26年10月~工事完了まで」「<条件>上記数量は暫定数量とし、納入時に各設置箇所より階段段数(幅・傾斜角度)及び部材数量等を算出し都度納入する。」との各記載があり、同日時点においては被告製品がいつ、どの程度の数量納品されるべきかについては確定されていなかったというほかはないから、現実に被告製品を取引先に納品した日に「譲渡」があったと認めるのが相当である。被告の主張は採用することができない。

イ 不法行為の成立について

被告が本件考案の技術的範囲に含まれる被告製品を譲渡することは、本件実用新案権を侵害する行為となるところ、前記前提事実等(第2、2(5))のとおり、被告は、遅くとも平成27年7月31日までに、本件考案に係る実用新案技術評価書と共に送付された同月23日付け通告書による警告を受けているから、同年8月1日以降の被告製品の譲渡による本件実用新案権の侵害につき、被告には、少なくとも過失が認められるというべきである。

ウ 実用新案法29条2項の適用について

証拠(甲13、乙9、23)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、遅くとも平成24年から現在に至るまで、本件考案の実施品であるプレハブ式階段を販売していることが認められるから、原告には、被告による本件実用新案権の侵害がなかったならば利益が得られたであろうという事情が存在するといえる。したがって、本件実用新案権の侵害による原告の損害を判断するに際し、実用新案法29条2項を適用することができるというべきである。

エ 被告が得た利益の額について

証拠(乙27、33ないし36)及び弁論の全趣旨によれば、被告が、別紙4被告売上高の番号49ないし56の取引により得た売上高は、合計745万1050円であり、他方、これらの取引に対応する仕入額の合計額は、別紙5被告利益率の「仕入額(円)」欄の合計値である660万3808円と認められる。

したがって、本件実用新案権を侵害する行為である被告製品の譲渡により被告が得た利益の額は、84万7242円(745万1050円-660万3808円)と認められる。

これに対し、原告は、被告の利益率が30パーセントであると主張するが、これを認めるに足りる的確な証拠はないから、原告の主張は採用することができない。他方、被告は、被告製品の売上高から、仕入額のほか、販売管理費として売上高の5パーセント相当額を控除すべき旨主張するが、上記5パーセント相当額が被告製品の販売数量に応じて増加する経費であるとは認められないから、被告の主張は採用することができない。

オ 小括

以上によれば、平成27年8月1日以降に被告が被告製品を譲渡したことにより得た利益の額は、84万7242円と認められるから、同額が、被告による本件実用新案権の侵害行為により原告が受けた損害の額と推定され(実用新案法29条2項)、同推定を覆すべき事情の主張立証はない。

したがって、原告が受けた損害の額は、84万7242円と認められる。

5.検討

(1)本件は侵害訴訟ですが抵触性に関しての争いがなく、面白みは半分といえます。しかし、実用新案権で権利行使が認められた例は最近聞いたことがないので、取り上げました。

(2)実用新案登録請求の範囲は訂正により第2の実施の形態の内容にまで減縮され、プレハブ式階段の固定部材の形状がb字型であることがポイントになっています。被告が提出した無効資料(乙4)にはこの固定部材の構造について記載がなく、その他アンカー杭に相当する部材についても無効理由を裏付ける適切な開示がありませんでした。

(3)被告は他にも公然実施での無効主張を行っていますが、出願後の製品に関しては本件考案と同一の内容と思われますが、出願以前に原告がクライアントに納入した製品に関しての立証が不足しており、認められませんでした。

(4)ただ、判決は被告に対して原告への支払いを命じる内容ですが、訴訟費用の4分の3を原告に負担させています。そうなると原告が得たのは実質的に差止と廃棄だけで不当利得等についてはほぼチャラになってしまう可能性があります。実用新案権の存続期間が出願日から10年であることを考えると、原告にとってどこまでのメリットがあったのかを考えてしまいます。