梁補強金具事件

投稿日: 2019/05/27 0:15:01

今日は、平成29年(ワ)第26468号 特許権侵害差止等請求事件について検討します。原告であるセンクシア株式会社は、判決文によると、建築構造用部材及びその附属品の製造、販売及び工事等を業とする株式会社、一方、被告であるコーリョー建販株式会社は、建築資材の販売、土木・建築工事の施工、請負、設計、監理及びこれらに付帯関連する一切の業務を業とする株式会社だそうです。

 

1.検討結果

(1)本件発明は梁に形成された貫通孔に固定されることで梁を補強する金具に関するものです。発明の内容は、簡単に言えば、リング状の梁補強金具に、梁に設けた貫通孔よりも外径が大きいフランジ部を設けたというものです。

(2)被告は非抵触主張と無効主張の二本立てで反論しています。このうち非抵触主張はかなり厳しいもので裁判所も簡単に退けています。一方、無効主張については原告に訂正させましたが、訂正が認められ無効理由は解消し、さらに被告製品は訂正後の特許請求の範囲に属すると判断されました。

(3)非抵触主張のポイントが構成要件1-Aでしたが、無効主張に対抗して訂正により追加されたのは構成要件1-Cでした。ここが一致するような展開になればもう少し違った結果になったかもしれません。

(4)本件では特許出願人と訴訟を提起した特許権者は異なっています。本ブログで譲渡特許での権利行使を何件か見てきましたが、譲渡特許での権利行使で上手くいったケースは少ないのが現状です。本件の場合は権利者が勝っているので、譲渡特許を上手に使うヒントがあるかと思いましたが、後述するとおり、完全に別会社に移転された特許ではないようです。

2.手続の時系列の整理(特許第3909365号)

① 本件特許の出願人は日立金属株式会社でしたが、登録料納付と同時に出願人名義変更届が提出され、日立機材株式会社に承継されています。その後、現在の社名に変更されたようです。

② もともとは日立金属株式会社の子会社でしたが、CKホールディングス株式会社に株式の公開買い付けが成立し、日立金属グループから独立したようです。おそらく、その際に特許の移転登録がなされたものと推測します。

3.本件発明

(1)訂正前

ア 請求項1(本件発明1)

1-A 梁(2)に形成された貫通孔(3)の周縁部に外周部(4)が溶接固定されるリング状の梁補強金具であって、

1-B その軸方向の長さ(A)を半径方向の肉厚(B)の0.5倍~10.0倍とし

1-C 前記貫通孔(3)より外径が大きいフランジ部(8)を前記外周部(4)の軸方向の片面側に形成し

1-D ことを特徴とする梁補強金具。

イ 請求項2(本件発明2)

2-A 前記梁補強金具の体積を、前記梁形成された貫通孔(3)の内部に形成された空間部の体積の1.0~3.0倍とした

2-B ことを特徴とする請求項1に記載の梁補強金具。

ウ 請求項4(本件発明4)

4-A 前記外周部(4)の最小外径部から前記フランジ部(8)外周までの長さを前記外周部の最小外径の半分以下とし、

4-B 前記フランジ部の軸方向の長さを当該梁補強金具の軸方向の長さの半分以下とした

4-C ことを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の梁補強金具。

エ 請求項5(本件発明5)

5-A 前記梁補強金具の内径を前記梁の梁成の0.8倍以下とした

5-B ことを特徴とする請求項1~のいずれかに記載の梁補強金具。

(2)訂正後

ア 請求項1(本件訂正発明1)

1-A 梁(2)に形成された貫通孔(3)の周縁部に外周部(4)が溶接固定されるリング状の梁補強金具であって、

1-B その軸方向の長さ(A)を半径方向の肉厚(B)の0.5倍~10.0倍とし、

1-C’-1 前記貫通孔(3)より外径が大きいフランジ部(8)を前記外周部(4)の軸方向の片面側の端部に形成し

1-C’-2 前記梁補強金具の軸方向の前記片面側の面は、前記梁補強金具の内周から前記梁補強金具の前記外周部(4)の一部である前記フランジ部(8)の外周まで平面である

1-D ことを特徴とする梁補強金具。

イ 請求項2(本件訂正発明2)

2-A 前記梁補強金具の体積を、前記梁形成された貫通孔(3)の内部に形成された空間部の体積の1.0~3.0倍とした

2-B ことを特徴とする請求項1に記載の梁補強金具。

ウ 請求項4(本件訂正発明4)

4-A 前記外周部(4)の最小外径部から前記フランジ部(8)外周までの長さを前記外周部(4)の最小外径の半分以下とし、

4-B 前記フランジ部(8)の軸方向の長さを当該梁補強金具の軸方向の長さの半分以下とした

4-C ことを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の梁補強金具。

エ 請求項5(本件訂正発明5)

5-A 前記梁補強金具の内径を前記梁の梁成の0.8倍以下とした

5-B ことを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の梁補強金具。


4.争点

(1)被告各製品が本件各発明の技術的範囲に属するか(争点1)

ア 構成要件1-Aの充足の有無(争点1-1)

イ 均等侵害の成否(予備的主張)(争点1-2)

(2)本件特許が特許無効審判により無効にされるべきものと認められるか(争点2)

ア 乙19発明に基づく新規性又は進歩性の欠如(争点2-1)

イ 乙3発明に基づく進歩性の欠如(争点2-2)

(3)訂正の再抗弁の成否(争点3)

ア 本件訂正の適法性(争点3-1)

イ 被告各製品が本件各訂正発明の技術的範囲に属するか(争点3-2)

ウ 本件訂正による無効理由の解消の有無(争点3-3)

(ア)乙19発明に基づく新規性又は進歩性の欠如(争点3-3-1)

(イ)乙3発明に基づく進歩性の欠如(争点3-3-2)

(4)損害額(争点4)

5.裁判所の判断

1 本件各発明の内容

(1)本件明細書等(甲2)には、以下の記載がある。

-省略-

(2)本件各発明の意義

本件特許の特許請求の範囲の記載及び前記(1)によれば、本件各発明は、①梁に形成された貫通孔に固定され当該梁を補強する梁補強金具を技術分野とするものであり、②梁に開設された貫通孔に対する配管の取付けの自由度を高めるとともに、大きさの異なる貫通孔に対しても材料の無駄を省きつつ必要な強度まで補強することができ、柱梁接合部に近い塑性化領域における貫通孔設置を可能とすることを課題とし、③この課題を解決するために、各請求項記載の構成を備えるものであり、④これにより、本件明細書等の段落【0045】~【0053】に記載された作用効果を奏するものであると認められる。

2 争点1(構成要件1-Aの充足の有無)について

当裁判所は、被告各製品が構成要件1-Aを充足すると判断するが、その理由は、以下のとおりである。

(1)構成要件1-Aの解釈

ア 特許請求の範囲(請求項1)の記載内容

(ア)外周部について

構成要件1-Aは、「梁に形成された貫通孔の周縁部に外周部が溶接固定されるリング状の梁補強金具であって、」というものであり、これは、「梁に形成された貫通孔の周縁部」に「リング状の梁補強金具」の「外周部」が「溶接固定される」ことを規定するものである。そして、本件発明1の他の構成要件の記載には、外周部が溶接固定される位置を特定する記載は存在しないので、本件発明1において上記「外周部」が溶接固定される位置については、「貫通孔の周縁部」であること以外に特に規定されていないと解するのが相当である

ところで、一般に、「外周」とは、「ものの外側に沿ったまわり。ものの外側をとり巻いている部分」をいうものと認められるところ(甲6、7)、これを本件発明1に即していえば、構成要件1-Aの「外周部」は、「リング状の梁補強金具」の「外側に沿ったまわり」又はその「外側を取り巻いている部分」を意味するというべきである。

(イ)「フランジ部」について

構成要件1-Cは、「前記貫通孔より外径が大きいフランジ部を前記外周部の軸方向の片面側に形成した」というものであるが、この「前記外周部」は構成要件1-Aの「外周部」を指すことは明らかであるから、同構成要件は、「フランジ部」が「リング状の梁補強金具」の「外周部」の軸方向の片面側に形成されていることを規定したものと解される。

一般に、「フランジ」とは、「部品全周囲に張り出したつば状の出っ張り」、「管、軸、その他の機械部品で、つば状に突き出ている板状部分、または同じ目的のために取付けられる板状部品」をいうところ(甲6~8、乙33~39、44~46)、構成要件1-Cの「フランジ部」は「リング状の梁補強金具」の「外周部」に形成されているのであるから、「フランジ部」は「外周部」の一部をなすとともに、「リング状の梁補強金具」の一部をも構成するものであって、そうすると、フランジ部の外周は、「リング状の梁補強金具」の「外周部」に含まれると解するのが自然である。

(ウ)「周縁部」について

構成要件1-Aは、「梁に形成された貫通孔の周縁部に外周部が溶接固定される」と規定するところ、一般に、「周縁」とは、「もののまわり」(甲10)、「まわり。ふち」(乙1)を意味するから、「梁に形成された貫通孔の周縁部」とは、梁に形成された貫通孔の周り又は縁に係る部分を意味するものと解するのが自然である。

(エ)被告の主張について

被告は、本件発明1は、構成要件1-Aの「リング状の梁補強金具」の「外周部」を前提構成とし、構成要件1-Cの「フランジ部を前記外周部の軸方向の片面側に形成した」ことを特徴構成とするものであると主張する。しかし、被告の主張に係る「前提構成」、「特徴構成」という語は、本件明細書等で用いられているものではなく、その意味自体が判然としない上、このような構成の性格付けから「外周部」が「フランジ部」と別の部位であるとの結論が導き出されるものではない。

イ 本件明細書等の記載内容等

本件明細書等には、「外周部」、「フランジ部」及び「周縁部」の意義又は範囲についてこれを明確に定義する記載は存在しない。

(ア)そこで、本件明細書等の記載や図面を参照するに、従来技術である第1実施形態について、本件明細書等の段落【0028】には、「梁補強金具1は、外周部4の軸方向の両端部を、貫通孔3の周縁部に表側および裏側からそれぞれ全周にわたって溶接することによって固定されている」との記載がある。これによれば、第1実施形態における「外周部」は、梁補強金具の「外側に沿ったまわり」全体を意味するものとして使用されていることは明らかである。

(イ)次に、第2実施形態は、第1実施形態の具備する構成に、構成要件1-Cに係る構成(前記貫通孔より外径が大きいフランジ部を前記外周部の軸方向の片面側に形成した)を付加したものと認められるところ(段落【0029】、【図3】)、段落【0029】には「梁補強金具7は、その外周部9を梁2のウェブ部2wの片面側(図3の紙面左側)から貫通孔3へ嵌入し、フランジ部8を梁2のウェブ部2wに当接した後、その外周部9と、フランジ部8の外周部とをそれぞれ梁2のウェブ部2wの表面側および裏面側にそれぞれ溶接することによって固定される」との記載が存在する。

同実施形態における「外周部9」は「梁補強金具7」の「外周部」であり、前記のとおりの「外周部」の一般的な意義及び上記実施形態1における「外周部」の意義との整合性を考慮すると、実施形態2の外周部9は、以下の図の赤線部分のとおり、梁補強金具7の一部であるフランジ部の外周も含め、梁補強金具7の外側に沿った外周全体を意味するものと解するのが相当である。

これに対し、被告は、実施形態2の「外周部9」は以下の図の黄色部分であると主張するが、下記の黄色部分は、その一部は梁補強金具の外周であるものの、その余の部分は梁補強金具の内部の部位を含むものとなっており、「ものの外側に沿ったまわり。ものの外側をとり巻いている部分」という「外周部」との語の一般的意義と大きく乖離する解釈であるといわざるを得ない。

また、被告は、上記段落【0029】及び【図3】等において、「外周部9」と異なる「フランジ部8の外周部」という呼称がされていることをもって、「外周部」と「フランジ部」は別の部位であると主張する。しかし、前記のとおり、構成要件1-Cの「フランジ部」は「リング状の梁補強金具」の「外周部」に形成されるものであり、また「フランジ部」は「リング状の梁補強金具」の一部であるから、「フランジ部8の外周部」は、「リング状の梁補強金具」の外周全体を形成する「外周部9」のうち「フランジ部8」の外周部分を指すと解するのが相当である。そして、本件明細書等において「フランジ部の外周部」との語が用いられているのは、外周全体である「外周部9」とは区別して、その一部である「フランジ部8」の外周部を特定する必要があるためであると考えられる。

さらに、被告は、梁2のウェブ2wの表面側における、フランジ部以外の部分と溶接固定される箇所こそが、本件発明1における「貫通孔の周縁部」であると主張するところ、構成要件1-Aの「梁に形成された貫通孔の周縁部」とは、梁に形成された貫通孔の周りや縁に係る部分を意味し、貫通孔の周縁に限定すべき理由はないことに照らすと、本件発明1における「貫通孔の周縁部」は貫通孔の周り又は縁に近接した部分を含むものであり、梁2のウェブ2wの裏面側においてフランジ部と溶接固定される箇所についても「周縁部」に含まれると解するのが相当である。

なお、このように解すると、「フランジ部」の外径に制限はないことから、「フランジ部」の外径が相当に大きい場合、その外周部を溶接固定したとしても「周縁部」への溶接固定に当たらない場合もあり得るが、そのような場合には、外径の小さい「外周部」を「周縁部」に溶接固定すれば足りるのであるから、「フランジ部」の外径に制限がないことをもって、「フランジ部」と「外周部」とを別の部位に解すべき理由はない。

(ウ)被告は、請求項3の記載及び本件発明3に関する本件明細書等の記載(段落【0017】、【0045】、【0049】、【図4】~【図6】等)によれば、本件発明3は、リング状の梁補強金具の「外周部」を「軸方向の他面側に向かって徐々に縮径させ」るという構成を採用しており、第3及び第4実施形態においても、そのような構成を備えている「外周部」と同構成を備えていない「フランジ部」は峻別されていると主張する。

しかし、請求項3は「前記外周部を、軸方向の他面側に向かって徐々に縮径させた」と規定するのみで、「外周部」の全体を徐々に縮径させるとはされていないのであるから、上記構成を備えた部分のみを「外周部」と解すべき理由はない。第3及び第4実施形態についても、「フランジ部13」の外周が「外周部12」の一部であることを前提として、「外周部12」の一部が上記構成を備えていることが示されていると解することができるのであり、本件発明3に係る請求項3及びこれに関する本件明細書等の記載は、「フランジ部」の外周が「外周部」の一部であるとの上記解釈を妨げるものではないというべきである。

(エ)被告は、請求項4の記載及び本件発明4に関する本件明細書等の記載(段落【0018】、【0045】、【0050】等)には、リング状の梁補強金具の「外周部」の最小外径部から、「フランジ部」の「外周」までの長さを、外周部の最小外径の半分以下とするなどの構成が採用されており、ここでも「フランジ部」は「外周部」と峻別されていると主張する。

しかし、請求項4や本件明細書等の上記記載における「フランジ部外周までの長さ」との記載は、梁補強金具10にフランジ部13を設けたことにより、外周部の外径の長さが地点により異なることを前提として、「外周部」の一部であり、かつ、外周部の外径の長さが最も長くなる「フランジ部13の外周」を特定して呼称したものにすぎないというべきであり、上記記載をもって「外周部」と「フランジ部」が別の部位であるということはできない。

(オ)被告は、請求項6の記載及び本件発明6に関する本件明細書等の記載(段落【0021】、【0045】、【0052】等)によれば、本件発明6は、リング状の梁補強金具の「外周部」に「貫通孔の内縁部に直接当接する3以上の位置決め突起部を」「形成する」という構成を採用しており、その構成を備えた部位が「外周部」であって、同構成を備えない「フランジ部」とは別の部位であると主張する。

しかし、本件発明6に対応する第4実施形態に係る【図7】を第3実施形態に係る【図4】と対比すると、「位置決め突起部11」が「フランジ部13」にまたがって配置されていることが開示されており、これによれば、本件明細書等において「外周部」と「フランジ部」が峻別されているということはできない。

また、仮に、「位置決め突起部」が「フランジ部」に設けられていないとしても、「位置決め突起部」が設けられた箇所により「外周部」の範囲が画されるものではないので、請求項6及び本件明細書等の上記記載は、「フランジ部」の外周が「外周部」の一部を構成するとの解釈を妨げるものではない。

(カ)被告は、本件手続補正により原告が当初の請求項3の内容を請求項1に組み込んだ際、出願当初の請求項3の実施例のうち、フランジ部8の外周部を梁2のウェブ部2wの表面側に溶接固定する実施形態をあえて特許請求の範囲に含めなかったことを理由として、本件特許の出願経過も「フランジ部」と「外周部」が別の部位であるとの前記解釈を裏付けるものであると主張する。

しかし、原告が、本件手続補正の際に当初の請求項3の意義や範囲を変更したことをうかがわせる証拠はなく、むしろ、原告は、「フランジ部」の外周が「外周部」の一部であることを前提として、本件手続補正を行ったと認めるのが相当である。

(キ)被告は、原告が販売している原告各製品における溶接の態様も、「外周部」と「フランジ部」が別の部位であるとの解釈に合致するものであると主張するが、原告各製品における溶接の態様から本件発明1に係る請求項1の文言の解釈を導き出せるものではなく、原告各製品の溶接の態様を理由にして、本件発明1の「外周部」と「フランジ部」が別の部位であると解することはできない。

ウ 以上のとおり、本件発明1の「外周部」と「フランジ部」は別の部位ではなく、「フランジ部」の外周は「外周部」の一部を構成するものであると認めるのが相当である。

(2)被告各製品の構成との対比

被告各製品は、鉄骨梁の開口部、すなわち梁に形成された貫通孔にはめ込むことにより、当該開口部を補強するために用いられるリング状の梁補強金具であり、つば状の出っ張り部を鉄骨梁のウェブ部に溶接固定して、上記補強を行うものであると認められる(甲4)。上記つば状の出っ張り部が本件発明1の「フランジ部」に相当することについては当事者間に争いがなく、前記判示のとおり、「フランジ部」の外周も本件各発明の「外周部」を形成するものであるので、被告各製品の上記出っ張り部は本件発明1の梁補強金具の「外周部」に当たる。

そして、被告各製品において、下図のTはいずれも25mm、D3とD2との差の2分の1はいずれも11mmであるから(別紙被告製品説明書の「ダイヤリングAタイプ寸法および製造方式一覧」参照)、つば状の出っ張り部の長さは14mmとなるので、溶接固定される部分は、鉄鋼梁の開口部(貫通孔)の周縁から、最大でも14mm程度(下孔寸法として4mmの隙間が許容されていること(別紙被告製品説明書の最終頁)からすると、最小で10mm程度)離れた辺りということになる。

このように、被告各製品の溶接部分であるつば状の出っ張り部と貫通孔の周縁の間の距離は、被告各製品の隅肉溶接サイズが9mmとされていること(甲5)に照らしても、近接しているということができるから、被告各製品においては、梁固定金具の「外周部」が貫通孔の「周縁部」に溶接固定されているということができる。

したがって、被告各製品は、構成要件1-Aを充足する。

(3)被告各製品の構成要件充足性

ア 被告各製品は構成要件1-Aを充足するところ、被告各製品が本件発明1の構成要件1-B、1-C及び1-Dを充足することについては当事者間に争いがないから、被告各製品は、本件発明1の構成要件をいずれも充足する。

また、被告各製品が本件発明2の構成要件2-A及び本件発明5の構成要件5-Aをそれぞれ充足することについては当事者間に争いはなく、被告各製品が本件発明1の技術的範囲に属するがゆえに、本件発明2の構成要件2-B及び本件発明5-Bを充足することになるから、被告各製品は、本件発明2及び5の構成要件をいずれも充足する。

そして、被告各製品が本件発明4の構成要件4-A及び被告製品8~13が本件発明4の構成要件4-Bを充足することについては当事者間に争いがなく、被告製品8~13は本件発明1の技術的範囲に属するがゆえに、本件発明4の構成要件4-Cを充足することになるから、被告製品8~13は、本件発明4の構成要件を充足する。

イ なお、被告各製品が本件訂正発明1の構成要件1-B、1-C'-1、1-C'-2及び1-Dを充足することについては当事者間に争いがないから、被告各製品は、本件訂正発明1の構成要件を充足する。

また、被告各製品が本件訂正発明2の構成要件2-A、本件訂正発明4の4-A’及び本件訂正発明5の構成要件5-Aを充足すること並びに被告製品8~13が本件訂正発明4の構成要件4-Bを充足することについては当事者間に争いがないことから、前記アと同様に、被告各製品は本件訂正発明2及び5の構成要件をいずれも充足し、被告製品8~13は本件訂正発明4の構成要件を充足する。

3 争点3-1(本件訂正の適法性)について

事案に鑑み、続いて、争点3-1(本件訂正の適法性)について検討する。

(1)訂正事項1について

ア 訂正事項1は、訂正前の請求項1の「梁補強金具」における「フランジ部」の形成位置を、「外周部の軸方向の片面側」から「外周部の軸方向の片面側の端部」に限定するものであり、また、「梁補強金具の軸方向の前記片面側の面」につき、その形状が特定されていないものから「梁補強金具の内周から前記梁補強金具の前記外周部の一部である前記フランジ部の外周まで平面」に限定するものであるから、訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないと認められる。

また、訂正事項1の内容は、本件明細書等の段落【0029】、【0031】及び【0035】並びに【図3】、【図5】及び【図8】等に記載されているから、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であると認められる。

イ これに対し、被告は、訂正事項1のうち、構成要件1-C'-2は、「外周部」とは別の部位である「フランジ部」を、「梁補強金具」の「外周部」の「一部である」と規定する点において、減縮を目的とするものではなく、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正ではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正であると主張する。しかし、「フランジ部の外周」が「外周部」の一部であることは前記判示のとおりであり、被告の主張は理由がない。

(2)訂正事項2について

訂正事項2は、訂正前の請求項4の「前記フランジ部外周」を「前記フランジ部の外周」という記載に改めたものであるから、明瞭でない記載の釈明に該当するものであると認められ、かかる訂正が、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないことは明らかであるから、訂正事項2は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないと認められる。

そして、訂正事項2は、本件明細書等の段落【0032】等の記載に基づくものであるから、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であると認められる。

(3)以上のとおり、本件訂正は、特許法134条の2第1項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とするものであり、同条9項が準用する同法126条5項及び6項の規定に適合するから、適法なものと認められる。

4 争点3-2(被告各製品が本件各訂正発明の技術的範囲に属するか)について

被告各製品が本件各訂正発明の技術的範囲に属すること(ただし、本件訂正発明4については、被告製品8~13が同発明の技術的範囲に属すること)は、前記2(3)イに記載のとおりである。

5 争点3-3-1(本件訂正による無効理由の解消の有無:乙19発明に基づく新規性又は進歩性の欠如)について

(1)引用発明の内容

ア 乙19発明の内容

-省略-

イ 乙19発明の内容

前記ア(ア)~(エ)の記載並びに乙19の第2図、第5図からは貫通孔1bの周縁部にリング状の厚肉鋼管2が溶接部3により固着されていること、第4図、第5図からは裏当て体3aがリング状の厚肉鋼管2から突出して一体的に設けられ、当該裏当て体3aの外径が貫通孔1bより大きいことがそれぞれ認められることからすれば、乙19発明の内容は、「梁鉄骨1のウェブ1aに形成された貫通孔1bの周縁部にリング状の厚肉鋼管2が溶接部3により固着され、溶接部3は裏当て体3aを備えており、裏当て体3aが厚肉鋼管2から突出して設けられ、貫通孔1bより外径が大きい裏当て体3aが、厚肉鋼管2の中央付近やや左側において厚肉鋼管2と一体的に形成され、裏当て体3aをウェブ1aの左面から当接する鉄骨梁貫通孔構造用の厚肉鋼管」であると認められる。

ウ 乙20文献の記載

-省略-

エ 乙21文献の記載

-省略-

(2)本件訂正発明1について

ア 本件訂正発明1と乙19発明の対比

(ア)対比

乙19発明の内容は前記(1)イのとおり「梁鉄骨1のウェブ1aに形成された貫通孔1bの周縁部にリング状の厚肉鋼管2が溶接部3により固着され、溶接部3は裏当て体3aを備えており、裏当て体3aが厚肉鋼管2から突出して設けられ、貫通孔1bより外径が大きい裏当て体3aが、厚肉鋼管2の中央付近やや左側において厚肉鋼管2と一体的に形成され、裏当て体3aをウェブ1aの左面から当接する鉄骨梁貫通孔構造用の厚肉鋼管。」であるところ、本件訂正発明1と乙19発明を対比すると、乙19発明の「梁鉄骨1」は本件発明1の「梁」に、「貫通孔1b」は「貫通孔」に、「周縁部」は、「周縁部」に、「溶接部3により固着」は、「溶接固定」に、「貫通孔1bより外径が大きい裏当て体3a」は、「貫通孔より外径が大きいフランジ部」に、「厚肉鋼管2」と「裏当て体3a」からなるものは「リング状梁補強金具」に、前記「裏当て体3a」が形成されている「外周部」は、本件訂正発明1の「フランジ部」が形成されている「前記外周部(リング状の梁補強金具の外周部)」にそれぞれ相当する。

そうすると、本件訂正発明1と乙19発明の一致点と相違点は、それぞれ以下の(イ)及び(ウ)のとおりと認められる。

(イ)一致点

梁に形成された貫通孔の周縁部に外周部が溶接固定されるリング状の梁補強金具であって、前記貫通孔より外径が大きいフランジ部を前記外周部の軸方向の片面側に形成してある梁補強金具(構成要件1-A、1-C’-1の一部、1-D)

(ウ)相違点

〈相違点1〉

本件発明1が梁補強金具の軸方向の長さを半径方向の肉厚の0.5倍~10.0倍としている(構成要件1-B)のに対し、乙19発明はそのような特定がされていない点

〈相違点2〉

貫通孔より外径が大きいフランジ部が、本件訂正発明1では、外周部の軸方向の片面側の端部に形成し、前記梁補強金具の軸方向の前記片面側の面は、前記梁補強金具の内周から前記梁補強金具の前記外周部の一部である前記フランジ部の外周まで平面であるのに対して、乙19発明では、外周部の片面側中央寄りに形成している点

イ 新規性について

本件訂正発明1と乙19発明を対比すると、上記各相違点が存在するので、両発明が同一であるとは認められない。そうすると、本件訂正発明1につき、新規性が欠如する旨の被告の主張は理由がない。

ウ 進歩性について

(ア)相違点1について

相違点1に係る構成要件1-Bの意義に関し、本件明細書等には、「梁補強金具の形状をリング状とし、その軸方向の長さを半径方向の肉厚の0.5倍~10.0倍(より好ましくは0.5倍~5.0倍)に規制することによって、大きさの異なる貫通孔に対しても材料の無駄を省きつつ必要な強度まで補強することができ、また、梁の貫通孔に対して配管を斜めから挿通しても梁補強金具に当接することがなくなり、配管の取り付けの自由度が高まる。」(段落【0012】)、「0.5倍より小さくすると強度が不十分になり、また、10.0倍より大きくすると軸方向長さの増大の割には梁補強金具の強度が大きくならず、材料の無駄が大きくなる」(段落【0013】)との記載があるものの、同構成要件の数値の範囲内外で効果等に差違が生じることを示す実験結果等は示されておらず、本件明細書等の上記記載を参酌しても、同構成要件の数値に格別の臨界的意義があるとは認められない。

また、乙3文献のFig. 1及びTable 1のWHS-3には、梁補強金具に相当するスリーブ管の半径方向の肉厚(ts)、スリーブ管の軸方向の長さ(bs)の数値自体が記載され、梁補強金具の軸方向の長さを半径方向の肉厚の3.85倍とすることが開示されていると認められる。同文献に開示されているスリーブ管が構成要件1-Bの数値範囲にあることからもうかがわれるとおり、同構成要件の数値範囲は相当程度広範なものであり、強度の維持や材料の効率的使用等の観点から梁補強金具の半径方向の肉厚と軸方向の長さの比率を調整することは当業者であれば当然考慮すべき事項であることにも照らすと、同構成要件に係る数値範囲は当業者が適宜工夫し設定し得るものというべきである。

(イ)相違点2について

相違点2に係る構成に関し、被告は、フランジ部を接続・補強用に管の軸方向の端部に形成することは、周知慣用技術ないし技術常識である上(甲6~8、乙33~39、44~46)、乙19発明において「厚肉鋼管」の外周部の軸方向の片面側に形成される「裏当て体」を更に片面側の端部に形成するようにすることは、単なる設計事項にすぎないと主張する。

しかし、本件訂正発明1の「貫通孔より外径が大きいフランジ部を前記外周部の軸方向の片面側の端部に形成し、前記梁補強金具の軸方向の前記片面側の面は、前記梁補強金具の内周から前記梁補強金具の前記外周部の一部である前記フランジ部の外周まで平面である」という構成(構成要件1-C'-1、1-C'-2)にすることは、乙20文献及び乙21文献並びに被告主張の周知技術(甲6~8、乙33~39、44~46)には記載も示唆もない。

また、乙20及び21によれば、本件特許の出願時において、管状のスリーブ管を梁に固定する場合には、スリーブ管の軸方向の中央部に裏当て体又はフランジを設けることが通常の技術であったと考えられ(乙20、21)、乙19発明の裏当て体が設けられているのも厚肉鋼管2のほぼ中央部である。この裏当て体を設ける位置を、その中央部ではなく、軸方向の端部にした場合には、梁に取り付けた際に厚肉鋼管が不安定になるとも考えられることから、乙19発明の裏当てを外周部の軸方向の片面側の端部に形成することが設計事項であるということもできない。

したがって、本件特許の出願当時、当業者が、乙19発明に乙20文献及び乙21文献その他の周知技術を組み合わせることにより、相違点2に係る構成に容易に想到し得たということはできない。

よって、本件訂正発明は、特許無効審判により無効にされるべきものとは認められない。

(3)本件訂正発明2、4及び5について

本件訂正発明2、4及び5は、いずれも本件訂正発明1の構成を含むものであるから、前記(2)と同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたとは認められず、特許無効審判により無効にされるべきものとは認められない。

6 争点3-3-2(本件訂正による無効理由の解消の有無:乙3発明に基づく進歩性の欠如)について

(1)乙3発明の内容

ア 乙3文献には、以下の記載がある(乙3)。

-省略-

イ 乙3発明の内容

前記Fig. 1及びTable 1のWHS-3を参照すると、Hは梁成、2Rは円形孔の直径、tsはスリーブ管の半径方向の肉厚、bsはスリーブ管の軸方向の長さであるところ、bs=50.1mm、ts=13.02mmであるから、bs/tsは3.85となり、2R/H(圧延H形鋼の梁成Hに対するスリーブ管の内径2Rの比率)は0.55となる。

上記アの乙3文献の記載に、上記の計算結果も加味すると、乙3発明は、「はりのウェブに形成された円形孔にスリーブ管の全周がすみ肉溶接され、スリーブ管の軸方向の長さbsが、スリーブ管の半径方向の肉厚tsの3.85倍であり、スリーブ管が円筒形状に形成されており、スリーブ管の内径2Rが、梁成Hの0.55倍であることを特徴とする、はり補強用のスリーブ管」と認められる。

(2)本件訂正発明1について

ア 本件訂正発明1と乙3発明の対比

(ア)対比

本件訂正発明1と乙3発明とを対比すると、乙3発明の「円筒形状」、「はり補強用のスリーブ管」は、それぞれ本件訂正発明1の「リング状」、「梁補強金具」に対応するから、乙3発明の「円筒形状のはり補強用のスリーブ管」は、本件訂正発明1の「リング状の梁補強金具」に相当し、「はりのウェブに形成された円形孔」は、「梁に形成された貫通孔」に相当する。

乙3発明の「スリーブ管の全周」は、本件訂正発明1の「梁補強金具の外周部」に対応し、乙3発明の「円形孔」に「スリーブ管の全周がすみ肉溶接され」は、本件訂正発明1の「貫通孔の周縁部」に「(梁補強金具の)外周部が溶接固定され」に相当する。

乙3発明の「スリーブ管の軸方向の長さbs」と「スリーブ管の半径方向の肉厚ts」との比率は、本件訂正発明1の「その(リング状の梁補強金具の)軸方向の長さ」と「半径方向の肉厚」との比率に対応し、乙3発明の「スリーブ管の軸方向の長さbsが、スリーブ管の半径方向の肉厚tsの3.85倍」は、本件訂正発明1の「その軸方向の長さを半径方向の肉厚の0.5倍~10.0倍」に相当する。

(イ)一致点及び相違点

上記(ア)によれば、本件訂正発明1と乙3発明との一致点及び相違点は以下のとおりである。

〈一致点〉

梁に形成された貫通孔の周縁部に外周部が溶接固定されるリング状の梁補強金具であって、その軸方向の長さを半径方向の肉厚の0.5倍~10.0倍とする梁補強金具

〈相違点3〉

本件訂正発明1が、貫通孔より外径が大きいフランジ部を前記外周部の軸方向の片面側の端部に形成し、前記梁補強金具の軸方向の前記片面側の面は、前記梁補強金具の内周から前記梁補強金具の前記外周部の一部である前記フランジ部の外周まで平面である構成を有しているのに対して、乙3発明は、そのような構成を備えていない点

イ 進歩性についての判断

被告は、訂正事項1のうち、構成要件1-C'-1について、フランジ部を接続・補強用に管の軸方向の端部に形成することは、周知慣用技術ないし技術常識である上(甲6~8、乙33~39、44~46)、乙3発明において、スリーブ管の外周部の片面側に形成されるフランジ部を更に片面側の端部に形成するようにすることは、単なる設計事項にすぎないと主張する。

しかし、乙3発明は、スリーブ管の幅・肉厚を変えた試験体を用いて、そのせん断及びせん断+曲げ耐力を実験的に調査した結果等を開示するものであり、そもそも梁補強金具の外周にフランジ部がないことを前提とした技術であって、乙3文献にはそのスリーブ管にフランジ部を設けて補強することを示唆する記載も存在しない。

また、乙19~21文献には、梁補強金具の外周にフランジ部を設けることが記載されているものの、乙19~21文献における「裏当て体」又は「フランジ」は、建設等の現場における加工や取付け作業の向上(乙19文献)、建設等の現場施工時間の短縮(乙20文献)及び量産性の向上や建設等の現場における施工性の向上(乙21文献)などを目的とするものであり、その目的は乙3文献に記載された実験の目的とは異なるので、乙3発明に上記乙19文献ないし乙21文献に記載された事項を適用してフランジ部を設ける動機付けはないというべきである。

さらに、仮に乙19文献~乙21文献に記載された発明に乙3発明を適用したとしても、同各文献に記載されたフランジ部は中央部に設けたものであるので、相違点3に係る構成に想到することはできない。そして、このようにフランジ部が中央部に設けられたスリーブ管において裏当て体又はフランジを、更に軸方向の片面側の端部に形成する構成に変更することは、管状のスリーブ管を梁へ取り付けた際にスリーブ管が不安定になるとも考えられることに照らすと、設計事項であったということもできない。

したがって、本件訂正発明1が特許無効審判により無効にされるべきものとは認められない。

(3)本件訂正発明2、4及び5について

本件訂正発明2、4及び5は、いずれも本件訂正発明1の構成を含むものであるから、前記(2)と同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたとは認められず、特許無効審判により無効にされるべきものとは認められない。

7 争点4(損害額)について

(1)特許法102条2項に基づく損害額

原告は、被告各製品の競合品である原告各製品を販売しているところ、被告が平成28年10月から平成30年10月10日頃までの間に、被告各製品を販売したことにより受けた利益の額は、142万0314円である(前記前提事実(4))から、被告の侵害行為により原告が受けた損害の額は、同額と推定される(特許法102条2項)。

(2)推定覆滅の可否について

被告は、上記推定の覆滅事由として、本件各発明及び本件各訂正発明(以下「本件各発明等」という。)は基本発明ではなく、従来技術の一部分の改良発明であり、その特徴部分は実質的には「つば状の出っ張り部の外周部」のみであるから、①被告各製品全体における上記部分の材料費比が3分の1程度と考えられること、②構成要件1-C等に特有の効果は「軸方向の位置決めを正確かつ迅速に行うことができる」という効果にとどまり、③同効果は、被告各製品の宣伝広告において、需要者に何ら積極的に訴求されていないこと、④他方、「つば状の出っ張り部の外周部」のみを溶接固定する被告各製品は、「[梁の反転が不要]となり施工性が大幅にアップ」するという、原告各製品の有しない特有の顕著な効果を有していることからすれば、上記推定は、少なくとも70%の割合で覆滅されるべきであると主張する。

しかし、本件各発明等は、フランジ部を含むリング状の梁補強金具全体に関するものであって、フランジ部のみが梁補強金具と別個独立の部分を構成し、固有の機能や作用効果を奏するものではないので、フランジ部のみを取り出して、製品全体に占める同部分の材料費に応じて覆滅の割合を定めることは相当ではない。

また、被告は、本件各発明等のフランジ部の効果が限定的で、被告各製品において需要者に積極的に訴求されていないと主張するが、被告各製品は前記のとおりフランジ部を有するので、本件各発明等と同様の効果を享受しているほか、被告のウェブサイト(甲3)や被告各製品のカタログ(甲4)においても、被告各製品のフランジ状の部分が図示されるなどしている(甲3の2、3頁、甲4の1、3、5頁)。

さらに、被告のウェブサイトや被告各製品のカタログには、被告各製品の特長として、鉄骨梁ウェブ開口に被告各製品をはめ込み、片面(つば状の出っ張り部の外周部)のみを全周溶接することにより、取付けの際に梁の回転が不要となり施工性が大幅にアップするという点が挙げられているが、このような施工が可能となるのも、梁補強金具にフランジ部に該当するつば状の出っ張り部を設けたからであると考えられる。そうすると、被告各製品の特長的な点は本件各発明等の構成に由来するものであると考えられる。

以上によれば、本件においては、損害額の推定を覆滅すべき事情があるとは認められない。

(3)したがって、被告の侵害行為に原告が受けた損害の額は、前記推定額である142万0314円と認められる。

なお、前記期間中の被告各製品の売上高が前記のとおり472万6353円であることからして、特許法102条3項に基づく損害額は、上記金額を超えないことが明らかである。

(4)本件事案の難易、請求額及び認容額等の諸般の事情を考慮すると、被告の侵害行為と相当因果関係のある弁護士費用相当損害金として14万2031円を認めるのが相当である。

8 結論

以上のとおり、被告が製造販売等する被告各製品は、本件各訂正発明の技術的範囲に属する(ただし、本件訂正発明4に関しては被告製品8~13のみがその技術的範囲に属する)から、特許法100条に基づき被告各製品の生産、使用、譲渡等及びその申出の差止め並びに被告各製品の廃棄を求める原告の請求は理由がある。

また、民法709条及び特許法102条2項に基づく損害賠償請求は、156万2345円及びこれに対する不法行為の後の日である平成30年10月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるが、その余は理由がない。

よって、原告の請求を主文掲記の限度で認容し、その余は棄却することとし、仮執行免脱宣言は相当でないからこれを付さないこととして、主文のとおり判決する。