電子メール管理ソフトウェア事件

投稿日: 2019/11/11 22:05:34

今日は、平成29年(ワ)第44181号 特許権侵害差止等請求事件について検討します。原告であるキヤノンITソリューションズ株式会社は、判決文によると、電子メールの管理に用いるソフトウェアの開発、製造、販売等を業とする株式会社、一方、被告であるデジタルアーツ株式会社は企業や官公庁向けの電子メールの管理に用いるソフトウェアの製造、販売等を業とする株式会社だそうです。

 

1.検討結果

(1)本件は特許が2件あります。しかし、特許2は特許1の分割出願なので基本的にはどちらも同じような課題を解決するためのものです。

発明の内容を簡単に説明すると、従来はメッセージ単位でしか保留の可否を判断できない仕様だったため、複数の送信先が記載された電子メールに誤送信の可能性がある送信先が1つでも含まれていると、その他の送信先に対するメール送信までもが保留されたり取り消されるという問題がありました。

そこで、本件発明は受信した電子メールに設定された複数の送信先を個々の送信先に分割し、電子メールの送出に係る制御内容を示す送出制御情報を電子メールの送信元と送信先とに対応付けた制御ルールと、分割した送信先と送信元とに従って、当該分割された送信先に対する電子メールの送出制御を行うようにすることで、保留する必要のないメールを送信するようにしています。

(2)本件発明と被告製品の電子メールの受信後から送信するまでの制御はそれぞれ以下のようになります。

本件発明は、以下のようなステップに分かれます。

① 複数の送信先が設定された電子メールを分割手段で個々の送信先に分割する。

② 記憶手段の制御ルールと、分割後の送信先と送信元にしたがって個々の送信先の電子メールの送出に関する制御内容を決定する。

③ 決定された制御内容で送信制御する。

一方、被告製品は、以下のようなステップに分かれます。

① 複数の宛先の電子メールアドレスが設定された電子メールを分割部で宛先のドメイン毎に分割する。

② 記憶部の制御ルールと、ドメイン毎に分割された電子メールの宛先、及び差出人に従って、ドメイン毎に分割された電子メールに対して実行するアクションをドメイン毎に決定する。

③ 決定されたアクションを実行する。

(3)両者を比較すると、①の段階で本件発明は送信先ごとに分割しているのに対して被告製品はドメイン毎に分割しています。続いて②の段階で本件発明は分割後の送信先と送信元にしたがって、制御内容を決めているのに対して、被告製品は、ドメイン毎に分割された電子メールの宛先及び差出人にしたがってドメイン毎にアクションを決めています。したがって、この「送信先」がドメインを含む概念であるか否かが問題となります。

(4)判決では、本件明細書では送信先に電子メールアドレスを含んでいることを明確にした上で、ドメインについて本件明細書で言及されていなかったため、電子メールアドレスとドメインについて一般的な定義を引用しています。その上で本件発明の送信先がドメイン名まで含むとすると、電子メールがドメイン毎に分割され、そのドメイン名で保留するか否かを判断するために保留する必要のない宛先まで送られないことになってしまうので、送信先にドメインは含まれない、と判断しています。

(5)被告製品の詳細な制御内容は今一つわかりませんが、被告製品が保留すべきと判断されたメールと同じドメインのメールを全て保留するのであれば被告製品は非抵触であると考えるのが妥当だと思います。

(6)被告製品の仕様が上記のとおりであるとした場合、被告製品は本件発明と従来技術(乙15発明)の間に位置づけられる発明である、といえるかもしれません。つまり、誤送信の送信先が一つでも含まれていた場合、従来技術では全宛先へのメールが保留され、被告装置では当該誤送信の宛先と同一ドメインを有するメールが保留され、本件発明では当該誤送信の宛先のものだけが保留される、という関係にあると思われます。特許出願時に従来技術と発明の間も押さえられるような明細書が書ければよいのですが、なかなか思いつかないものかもしれません。

2.手続の時系列の整理(特許第4613238号・特許第5307281号)

3.本件各発明

(1)本件特許1(特許第4613238号)

ア 本件発明1

(ア)本件発明1-1(請求項1)

11A 端末装置から電子メールを受信し、該電子メーの送出を制御する情報処理装置であって

11B 電子メールの送出に係る制御内容を示す送出制御情報を、前記電子メールの送信元と送信先とに対応付けた制御ルールを記憶する記憶手段と、

11C 複数の送信先が設定された電子メールを前記端末装置から受信する受信手段と、

11D 前記受信手段受信し電子メールに設定された複数の送信先を個々の送信先に分割する分割手段と、

11E 前記記憶手段に記憶されている制御ルールと、前記分割手段で分割された送信先と送信元とに従って、当該分割された送信先に対する電子メールの送出に係る制御内容を決定する決定手段と、

11F 前記決定手段で決定された制御内容で、当該分割された送信先に対する前記電子メールの送信制御を行う制御手段と、

11G を備えることを特徴とする情報処理装置。

(イ)本件発明1-2(請求項2)

12A 前記記憶手段に記憶されている制御ルールは、前記電子メールの送出に係る制御内容を示す送出制御情報を、前記電子メールの送信元と送信先との組に対応付けられており、

12B 前記決定手段は、前記記憶手段に記憶されている制御ルールと、前記分割手段で分割された送信先と送信元との組に従って、当該分割された送信先に対する電子メールの送出に係る制御内容を決定する

12C ことを特徴とする請求項1に記載の情報処理装置。

(ウ)本件発明1-3(請求項3)

13A 前記記憶手段に記憶されている送出制御情報には、電子メールの送出を保留する制御内容を含む

13B ことを特徴とする請求項1又は2に記載の情報処理装置。

(エ)本件発明1-4(請求項4)

14A 前記記憶手段に記憶されている送出制御情報には、電子メールを送出する制御内容を含む

14B ことを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の情報処理装置。

(オ)本件発明1-5(請求項5)

15A 前記記憶手段に記憶された、電子メールの送出を保留する制御内容の送出制御情報は、更に、電子メールの送出を保留する保留時間を含み、

15B 前記制御手段は、前記決定手段で決定された制御内容が電子メールの送出を保留する制御内容であり、かつ、当該制御内容の送出制御情報に前記保留時間が含まれている場合に、前記分割された送信先に対する電子メールの送出を、該保留時間、保留する

15C ことを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の情報処理装置。

(カ)本件発明1-6(請求項7)

16A 前記分割手段は、前記受信手段で受信した、複数の送信先が設定された電子メールのエンベロープ情報を、各送信先の各々を個別の送信先とするエンベロープ情報に分割し、

16B 前記決定手段は、前記記憶手段に記憶されている制御ルールと、前記分割手段で分割されることにより得られるエンベロープ情報とに従って、当該エンベロープ情報を含む電子メールの送出に係る制御内容を決定し、

16C 前記制御手段は、前記決定手段で決定された制御内容で、当該エンベロープ情報を含む電子メールの送出制御を行う

16D ことを特徴とする請求項1乃至6の何れか1項に記載の情報処理装置。

(キ)本件発明1-7(請求項9)

17A 前記決定手段で送出が保留されることが決定された、前記分割された送信先に対する電子メールの削除指示を受け付ける削除受付手段と、

17B 前記削除受付手段で当該電子メールの削除指示を受け付けた場合に、当該電子メールを削除する削除手段と、

17C を更に備えることを特徴とする請求項1乃至8の何れか1項に記載の情報処理装置。

(ク)本件発明1-8(請求項10)

18A 前記決定手段で送出が保留されることが決定された、前記分割された送信先に対する電子メールの送信指示を受け付ける送信受付手段と、

18B 前記送信受付手段で当該電子メールの送信指示を受け付けた場合に、当該電子メールを送出する送出手段と、

18C を更に備えることを特徴とする請求項1乃至9の何れか1項に記載の情報処理装置。

(ケ)本件発明1-9(請求項11)

19A 前記記憶手段に記憶された制御ルールには、更に、前記電子メールの送出を保留する制御内容の送出制御情報に対応して、当該保留された旨を示す電子メールの通知先が設定されており、

19B 前記制御手段は、更に、前記決定手段で、前記分割された少なくとも1つの送信先に対する電子メールが保留されることが決定された場合に、前記送出制御情報に対応した通知先を送信先とする、当該電子メールが保留された旨を示す新規の電子メールを送信する

19C ことを特徴とする請求項1乃至10の何れか1項に記載の情報処理装置。

(コ)本件発明1-10(請求項12)

110A 電子メールの送出に係る制御内容を示す送出制御情報を、前記電子メールの送信元と送信先とに対応付けた制御ルールを記憶する記憶手段を備えており、端末装置から電子メールを受信し、該電子メールの送出を制御する情報処理装置の制御方法であって、

110B 前記情報処理装置の受信手段が、複数の送信先が設定された電子メールを前記端末装置から受信する受信工程と、

110C 前記情報処理装置の分割手段が、前記受信工程で受信した電子メールに設定された複数の送信先を個々の送信先に分割する分割工程と、

110D 前記情報処理装置の決定手段が、前記記憶手段に記憶されている制御ルールと、前記分割工程で分割された送信先と送信元とに従って、当該分割された送信先に対する電子メールの送出に係る制御内容を決定する決定工程と、

110E 前記情報処理装置の制御手段が、前記決定工程で決定された制御内容で、当該分割された送信先に対する前記電子メールの送信制御を行う制御工程と、

110F を備えることを特徴とする情報処理装置の制御方法。

(サ)本件発明1-11(請求項13)

111A 端末装置から電子メールを受信し、該電子メールの送出を制御する情報処理装置で実行可能なプログラムあって、

111B 前記情報処理装置を、

111C 電子メールの送出に係る制御内容を示す送出制御情報を、前記電子メールの送信元と送信先とに対応付けた制御ルールを記憶する記憶手段、

111D 複数の送信先が設定された電子メールを前記端末装置から受信する受信手段、

111E 前記受信手段で受信した電子メールに設定された複数の送信先を個々の送信先に分割する分割手段、

111F 前記記憶手段に記憶されている制御ルールと、前記分割手段で分割された送信先と送信元とに従って、当該分割された送信先に対する電子メールの送出に係る制御内容を決定する決定手段、

111G 前記決定手段で決定された制御内容で、当該分割された送信先に対する前記電子メールの送信制御を行う制御手段、

111H として機能させることを特徴とするプログラム。

イ 本件訂正発明1

(ア)本件訂正発明1-3(請求項3)

13A1 前記分割手段は、前記受信手段で受信した電子メールに設定された複数の送信先のすべてを個々の送信先に分割し、

13A2 前記決定手段は、前記記憶手段に記憶されている制御ルールと、前記分割手段で分割された送信先と送信元とに従って、当該分割されたすべての個々の送信先に対する電子メールの送出に係る制御内容を決定し、

13A3 前記記憶手段に記憶されている送出制御情報には、電子メールの送出を保留する制御内容を含む

13B ことを特徴とする請求項1又は2に記載の情報処理装置。

(イ)本件訂正発明1-4(請求項4)

14A1 前記記憶手段に記憶されている制御ルールは、電子メールのすべての送信先に共通して、前記制御内容の決定に用いられるものであり、

14A2 前記記憶手段に記憶されている送出制御情報には、電子メールを送出する制御内容を含む

14B’ ことを特徴とする請求項1又は2に記載の情報処理装置。

(ウ)本件訂正発明1-6(請求項7)

16A’ 前記分割手段は、前記受信手段で受信した、複数の送信先が設定された電子メールのエンベロープ情報を、各送信先の各々を個別の送信先とするエンベロープ情報に分割し、かつ、当該電子メールのヘッダ情報を分割せず、

16B 前記決定手段は、前記記憶手段に記憶されている制御ルールと、前記分割手段で分割されることにより得られるエンベロープ情報とに従って、当該エンベロープ情報を含む電子メールの送出に係る制御内容を決定し、

16C 前記制御手段は、前記決定手段で決定された制御内容で、当該エンベロープ情報を含む電子メールの送出制御を行う

16D ことを特徴とする請求項1乃至6の何れか1項に記載の情報処理装置。

(エ)本件訂正発明1-11(請求項13)

111A 端末装置から電子メールを受信し、該電子メールの送出を制御する情報処理装置で実行可能なプログラムあって、

111B 前記情報処理装置を、

111C 電子メールの送出に係る制御内容を示す送出制御情報を、前記電子メールの送信元と送信先とに対応付けた制御ルールを記憶する記憶手段、

111D 複数の送信先が設定された電子メールを前記端末装置から受信する受信手段、

111E 前記受信手段で受信した電子メールに設定された複数の送信先を個々の送信先に分割する分割手段、

111F 前記記憶手段に記憶されている制御ルールと、前記分割手段で分割された送信先と送信元とに従って、当該分割された送信先に対する電子メールの送出に係る制御内容を決定する決定手段、

111G 前記決定手段で決定された制御内容で、当該分割された送信先に対する前記電子メールの送信制御を行う制御手段、

111H’ として機能させるプログラムにおいて、

111I 前記記憶手段に記憶されている制御ルールは、電子メールのすべての送信先に共通して、前記制御内容の決定に用いられるものであり、

111J 前記分割手段は、前記受信手段で受信した、複数の送信先が設定された電子メールのエンベロープ情報を、各送信先の各々を個別の送信先とするエンベロープ情報に分割し、かつ、当該電子メールのヘッダ情報を分割せず、

111K 前記決定手段は、前記記憶手段に記憶されている制御ルールと、前記分割手段で分割されることにより得られるエンベロープ情報とに従って、当該エンベロープ情報を含む電子メールの送出に係る制御内容を決定し、

111L 前記制御手段は、前記決定手段で決定された制御内容で、当該エンベロープ情報を含む電子メールの送出制御を行う

111M ことを特徴とするプログラム。

(2)本件特許2(特許第5307281号)

ア 本件発明2

(ア)本件発明2-1(請求項1)

21A 電子メールに対する送信制御を行う情報処理装置であって、

21B 電子メールの送出又は保留を示す送信制御内容と、該送信制御内容を適用する条件とのペアを1以上含む制御ルールを記憶する制御ルール記憶手段と、

21C 複数の送信先が設定された電子メールから、前記複数の送信先が個別に設定された複数の個別メールを生成する個別メール生成手段と、

21D 前記制御ルールに従って、前記複数の個別メールの各々に対する送信制御内容を決定する決定手段と、

21E 前記決定手段によりいずれの個別メールが保留されると決定されたかを認識可能にすべく、個別メールが保留されることが決定された旨を前記複数の送信先が設定された電子メールの送信元に通知する通知手段と、

21F を備えることを特徴とする情報処理装置。

(イ)本件発明2-2(請求項4)

22A 個別メールが保留されることが決定された前記旨を通知する他の通知先を設定する通知先設定手段を更に備え、

22B 前記通知手段は、個別メールが保留されることが決定された前記旨を前記通知先設定手段で設定された前記他の通知先に更に通知する

22C ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の情報処理装置。

(ウ)本件発明2-3(請求項5)

23A 前記決定手段により保留されると決定された個別メールに対する操作指示を受け付ける受付手段と、

23B 前記受付手段で受け付けた操作指示に従った送信制御を、前記決定手段により保留されると決定された個別メールに対して実行する送信制御手段と、

23C を更に備えることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の情報処理装置。

【請求項6】

前記通知手段は、前記決定手段により保留されると決定された個別メールの送信先が、

前記複数の送信先が設定された電子メールのBccに設定された送信先である場合、個別

メールが保留されることが決定された前記旨の通知を抑止することを特徴とする請求項1

乃至5のいずれか1項に記載の情報処理装置。

(エ)本件発明2-4(請求項7)

24A 電子メールに対する送信制御を行う情報処理装置の制御方法であって、

24B 制御ルール記憶手段が、電子メールの送出又は保留を示す送信制御内容と、該送信制御内容を適用する条件とのペアを1以上含む制御ルールを記憶する制御ルール記憶工程と、

24C 個別メール生成手段が、複数の送信先が設定された電子メールから、前記複数の送信先が個別に設定された複数の個別メールを生成する個別メール生成工程と、

24D 決定手段が、前記制御ルールに従って、前記複数の個別メールの各々に対する送信制御内容を決定する決定工程と、

24E 通知手段が、前記決定工程によりいずれの個別メールが保留されると決定されたかを認識可能にすべく、個別メールが保留されることが決定された旨を前記複数の送信先が設定された電子メールの送信元に通知する通知工程と、

24F を含むことを特徴とする情報処理装置の制御方法。

(オ)本件発明2-5(請求項8)

25A 電子メールに対する送信制御を行う情報処理装置で実行されるプログラムであって、前記プログラムは前記情報処理装置を、

25B 電子メールの送出又は保留を示す送信制御内容と、該送信制御内容を適用する条件とのペアを1以上含む制御ルールを記憶する制御ルール記憶手段、

25C 複数の送信先が設定された電子メールから、前記複数の送信先が個別に設定された複数の個別メールを生成する個別メール生成手段、

25D 前記制御ルールに従って、前記複数の個別メールの各々に対する送信制御内容を決定する決定手段、

25E 前記決定手段によりいずれの個別メールが保留されると決定されたかを認識可能にすべく、個別メールが保留されることが決定された旨を前記複数の送信先が設定された電子メールの送信元に通知する通知手段、

25F として機能させることを特徴とするプログラム。

4.被告装置

1 本件発明1-1と対比する構成

11a クライアントが送信した電子メールを受信し、上記電子メールの送信を制御するサーバであって、

11b 電子メールの宛先及び差出人を設定可能なフィルター条件と、上記フィルター条件に該当した場合のアクションとを設定した送受信ルールを記憶する記憶部と、

11c 複数の宛先の電子メールアドレスが設定された電子メールをクライアントから受信する受信部と、

11d 受信部で受信した複数の宛先の電子メールアドレスが設定された電子メールを、宛先のドメイン毎の電子メールに分割する分割部と、

11e 記憶部に記憶されている送受信ルールと、分割部でドメイン毎に分割された電子メールの宛先、及び差出人に従って、上記ドメイン毎に分割された電子メールに対して実行するアクションをドメイン毎に決定する決定部と、

11f 分割部でドメイン毎に分割された電子メールに対して、決定部で決定されたアクションをドメイン毎に実行する制御部と、

11g を備えるサーバ。

2 本件発明2-1と対比する構成

21a 電子メールの送信を制御するサーバであって、

21b 電子メールに対する送信、削除、保留又はリレーのアクションと、各アクションを適用する条件と、のペアを複数含む送受信ルールを記憶する記憶部と、

21c 複数の宛先の電子メールアドレスが設定された電子メールを、宛先のドメイン毎に分割して宛先のドメイン毎の電子メールを生成する生成部と、

21d 送受信ルールに従って、宛先のドメイン毎の電子メールに対するアクションをドメイン毎に決定する決定部と、

21e 決定部により、少なくとも1つのドメインに対して、ドメイン毎の電子メールの送信を保留することが決定された場合に、送信が保留された旨の新たな電子メールを、上記複数の宛先の電子メールアドレスが設定された電子メールの差出人の電子メールアドレスに送信する送信部と、

21f を備えたサーバ。

5.争点

(1)被告装置等の本件発明1の技術的範囲への属否等(争点1)

ア 被告装置等の構成要件11D、110C及び111E(以下、併せて「構成要件11D等」という。)の充足性(争点1-1)

イ 均等侵害の成否(争点1-2)

ウ 本件発明1-1~1-10につき、間接侵害の成否(争点1-3)

(2)被告装置等の本件発明2の技術的範囲への属否等(争点2)

ア 被告装置等の構成要件21C、24C及び25C(以下、併せて「構成要件21C等」という。)の充足性(争点2-1)

イ 均等侵害の成否(争点2-2)

ウ 本件発明2-1~2-4につき、間接侵害の成否(争点2-3)

(3)本件各特許が特許無効審判により無効にされるべきものと認められるか(争点3)

ア 乙7号証(以下「乙7文献」という。)に記載された発明(以下「乙7発明」という。)に基づく新規性又は進歩性の欠如(争点3-1)

イ 乙13号証(以下「乙13文献」という。)に記載された発明(以下「乙13発明」という。)に基づく進歩性の欠如(争点3-2)

ウ 乙14発明に基づく新規性又は進歩性の欠如(争点3-3)

エ 乙16発明に基づく進歩性の欠如(争点3-4)

オ 明確性要件違反(争点3-5)

カ サポート要件違反(争点3-6)

(4)本件発明1-3、1-4、1-6及び1-11につき、訂正の再抗弁の成否(争点4)

(5)原告の損害額(争点5)

6.裁判所の判断

1 本件各発明の内容

(1)本件明細書等1(甲2)及び本件明細書等2(甲4)には以下の記載がある(本件明細書等1の段落番号や図面番号を「【0001】①」、本件明細書等2の段落番号等を「【0001】②」などと記載する。なお、明白な誤記は修正した。)。

-省略-

(2)本件発明1の内容

本件特許1の特許請求の範囲及び本件明細書等1の記載によれば、請求項1に係る本件発明1-1は、①端末装置から受信した電子メールの送出を制御する情報処理装置の発明であって、②乙15公報など従来技術では、送信メール保留装置が受信したメッセージ単位でしか保留の可否を判断できないために、複数の送信先が記載された電子メールに誤送信の可能性がある送信先が1つでも含まれていると、その他の送信先に対するメール送信までもが保留されたり取り消されたりするという課題を解決するため、③受信した電子メールに設定された複数の送信先を個々の送信先に分割し、電子メールの送出に係る制御内容を示す送出制御情報を電子メールの送信元と送信先とに対応付けた制御ルールと、分割した送信先と送信元とに従って、当該分割された送信先に対する電子メールの送出制御を行うことにより、④ユーザによる電子メールの誤送信を低減可能とするとともに、宛先に応じた電子メールの送出制御を行うことにより効率よく電子メールを送出させることを目的とする発明であると認められる。

(3)本件発明2の内容

本件特許2の特許請求の範囲及び本件明細書等2の記載によれば、請求項1に係る本件発明2-1は、①電子メールに対する送信制御を行う情報処理装置の発明であって、②乙15公報など従来技術では、送信メール保留装置が受信したメッセージ単位でしか保留の可否を判断できないために、複数の送信先が記載された電子メールに誤送信の可能性がある送信先が1つでも含まれていると、その他の送信先に対するメール送信までもが保留されたり取り消されたりするという課題を解決するため、③複数の送信先が設定された電子メールから、前記複数の送信先が個別に設定された複数の個別メールを生成し、電子メールの送出又は保留を示す送信制御内容と該送信制御内容を適用する条件とのペアを1以上含む制御ルールに従って、複数の個別メールの各々に対する送信制御を行うとともに、いずれの個別メールについて保留されることが決定されたのかを認識可能とするために、その旨を電子メールの送信元に通知することにより、④複数の送信先が設定された電子メールを送信先毎に分けて送信制御を行うとともに、当該電子メールの送信元が、いずれの個別メールが保留されると決定されたかを認識可能にすることを目的とする発明であると認められる。

2 争点1-1(被告装置等の構成要件11D等の充足性)について

当裁判所は、以下のとおり、構成要件11D等における「送信先」は「電子メールアドレス」のみを指し、「ドメイン」を含まないから、被告装置等の構成11d等は構成要件11D等を充足しないと判断する

(1)「送信先」の解釈について

ア 特許請求の範囲の記載

構成要件11Dは「前記受信手段で受信した電子メールに設定された複数の送信先を個々の送信先に分割する分割手段と、」、構成要件110Cは「前記受信工程で受信した電子メールに設定された複数の送信先を個々の送信先に分割する分割工程と、」、構成要件111Eは「前記受信手段で受信した電子メールに設定された複数の送信先を個々の送信先に分割する分割手段、」というものである。

そして、特許請求の範囲の記載全体についてみると、本件発明1-1、1-10及び1-11においては、「電子メールの送出に係る制御内容を示す送出制御情報を、前記電子メールの送信元と送信先とに対応付けた制御ルール」(構成要件11B、110A、111C)、「複数の送信先が設定された電子メールを前記端末装置から受信する」(構成要件11C、110B、111D)、「受信した電子メールに設定された複数の送信先を個々の送信先に分割する」(構成要件11D、110C、111E)、「当該分割された送信先に対する電子メールの送出に係る制御内容を決定する」(構成要件11E、110D、111F)、「当該分割された送信先に対する前記電子メールの送信制御を行う」(構成要件11F、110E、111G)等の記載がある。

証拠(甲23、乙4、5)及び弁論の全趣旨によれば、①インターネットにおけるドメインとは、インターネット上のコンピュータの所属(住所)を示すもので数字の羅列からなるIPアドレスをアルファベット等を用いてわかりやすく表記したものであること、②電子メールの仕組みは、固有の電子メールアドレスを有する送信者が作成した電子メールを送信用メールサーバ(smtpサーバ)に送信し、これを同サーバが受信側のメールサーバ(popサーバ等)に転送し、受信者が同サーバに届いた電子メールを確認することによりこれを受信するものであって、送信者と受信者がエンドツーエンドでメッセージを交換するものであること(段落【0002】①②参照)、③電子メールアドレスとは、インターネット上の電子メールの送受信の宛先を意味するものであることが認められる。

そして、電子メールアドレスが、右の図(乙10・【図3】)に記載されているように、「@」を挟み、左側のユーザ名と右側のドメイン名で構成されていることについて当事者間に争いはないところ、ユーザ名は、特定のドメイン名を有するメールサーバに存在する多数のメールボックスのうち、当該ユーザが使用するメールボックスを特定するものであるということができる

特許請求の範囲にいう「送信先」が電子メールアドレスを意味するか、ドメインを含むのかは、上記の記載に照らし、その文言上一義的に明らかであるということはできない。しかし、送信先の「先」とは「行き着く目的地」を意味し(乙3)、上記のとおり、電子メールは送信者と受信者がエンドツーエンドでメッセージを交換するものであって、ドメインを特定するのみでは電子メールは受信者に届かず、ユーザ名と右側のドメイン名で構成されている電子メールアドレスを特定して初めて受信者は電子メールを受信できることに照らすと、本件発明1-1における「送信先」とは、電子メールの送信先である電子メールアドレスを指すと解するのが自然である

イ 本件明細書等1の記載

(ア)続いて、本件明細書等1の記載(段落【0058】~【0068】)を参酌すると、同明細書等には、電子メールに設定された複数の送信先を個々の送信先に分割する構成(構成要件11D等)に関して、「制御ルールの「分割評価」が「true」(真)か否かを判定することにより、電子メールに設定された複数の宛先のそれぞれを単一の宛先としたエンベロープをそれぞれ生成するか否かを判定する。」(段落【0059】)、「制御ルールの「分割評価」が「true」(真)と設定されている場合、…取得した電子メールのエンベロープに含まれる各宛先(受信者)のそれぞれを単一の宛先としたエンベロープをそれぞれ生成する。」(段落【0061】)、「取得した1通の電子メールのエンベロープ情報に複数の送信先の電子メールアドレスがある場合、その送信先の電子メールアドレスのそれぞれが単独に送信先に設定されたエンベロープをそれぞれ生成し、複数の電子メールの集合(エンベロープの集合)を生成する。」(段落【0068】)などの記載がある。

また、「電子メールの各宛先(受信者)のそれぞれを宛先としたエンベロープの生成…を説明する図」(段落【0062】)である【図12】には、エンベロープに、送信元(発信者)の電子メールアドレスとして「X」が設定され、送信先(受信者)の電子メールアドレスとして、「A」、「B」、「C」が設定されている例において、このエンベロープに送信先(受信者)の電子メールアドレスとして設定されている「A」、「B」、「C」のそれぞれを単一の宛先とするエンベロープ情報をそれぞれ生成することが図示されている(段落【0065】、【0066】)。

このように、本件明細書等1には、電子メールに複数の送信先の電子メールアドレスがある場合、これを送信先の電子メールアドレスごとに分割し、送信先の電子メールアドレスのそれぞれが単独に送信先に設定されたエンベロープを生成することが記載されており、ドメインごとに分割する構成を示唆する記載は存在しない。

【図12】①②

(イ)次に、本件発明1の課題及び作用効果についてみるに、本件明細書等1には、「特許文献1に記載の技術においては、送信メール保留装置は受信したメッセージ単位でしか保留の可否を判断することができない。そのため、複数の送信先が記載された電子メールに対しては、誤送信の可能性がある送信先が1つでも含まれていれば、その他の送信先に対するメール送信までもが保留、取り消しがされることとなる。」(段落【0004】)、「本発明は上述の問題点に鑑みなされたものであり、ユーザによる電子メールの誤送信を低減可能とすると共に、宛先に応じた電子メールの送出制御を行うことにより効率よく電子メールを送出させる仕組みを提供することを目的とする。」(段落【0005】)との記載がある。

このように、本件発明1は、「誤送信の可能性がある送信先が1つでも含まれていれば、その他の送信先に対するメール送信までもが保留、取り消しがされることとなる」という問題点の解決を図るものであるところ、同課題は、複数の送信先を電子メールアドレスごとに分割し、それぞれの電子メールアドレスについて保留、取消しをするかどうかの判断をし、それに従った制御を行うことにより解決されることは明らかである

これに対し、送信先をドメインごとに分割する構成とすると、例えば、送信先の電子メールアドレスが①(ユーザ名は省略)@yahoo.com、②(ユーザ名は省略)@yahoo.com、③(ユーザ名は省略)@yahoo.com、④(ユーザ名は省略)@yahoo.com、⑤(ユーザ名は省略)@gmail.comであり、②のみ送信を保留すべき場合、電子メールは、そのドメインごとに①~④と⑤の2つに分割され、⑤は送信されるものの、送信を保留する必要のない①、③、④が保留されるという結果となる。そうすると、送信先をドメインごとに分割する構成の場合には、電子メールの送出が一部効率化されるものの、「誤送信の可能性がある送信先が1つでも含まれていれば、その他の送信先に対するメール送信までもが保留、取り消しがされることとなる」という問題点は解消し得ないことになる。

本件発明1がその問題点を解決し得ない構成を含むとは考え難く、これに前記判示の特許請求の範囲の記載及び送信先の分割に関する本件明細書等1の記載(上記(ア))も考え併せると、構成要件11D等の「電子メールに設定された複数の送信先を個々の送信先に分割する」とは、電子メールに設定された複数の送信先を電子メールアドレスごとに分割することを意味すると解するのが相当である。

(ウ)さらに、本件明細書等1の「メール中継装置の動作」の項における【図5】(制御ルールのリストの一例)に関し、「「条件定義部」は、「発信者(送信元)」、「受信者(宛先)」、「その他条件」から構成され…「発信者(送信元)」には、…電子メールの送信元の電子メールアドレス(発信者情報)が設定され…「受信者(宛先)」には、…電子メールの宛先(To、Cc、Bcc)の電子メールアドレス(受信者情報)が設定されている」(段落【0040】)、「「発信者(送信元)」、「受信者(宛先)」には、それぞれ電子メールアドレスを複数設定することができ、アスタリスクなどのメタ文字(ワイルドカード)を使うことによって任意の文字列を表すこともできる」(段落【0041】)として、制御ルールが、「発信者(送信元)」の電子メールアドレスと、「受信者(宛先)」すなわち送信先の電子メールアドレスとに対応付けられること(構成要件11B参照)が明記されている。

また、本件明細書等1の段落【0054】~【0057】には、電子メールの中継(送出)又は保留といった送信制御(構成要件11F等)に関し、アクション適用エントリバッファにステップS407又はS408で実行した中継又は保留の処理単位である電子メールのデータ(メールメッセージ(宛先))ごとのデータが記憶され、これに基づきステップS308においてメールの送出処理又は保留処理を行うことが記載され、上記の記憶されるデータの例示である【図13】には「xx@zzz.co.jp」、「yy@zzz.co.jp」及び「ss@zzz.co.jp」という@以下が同一の電子メールアドレスが記載され、これらの電子メールごとにそれぞれ処理がされることが示されている。

加えて、「動作シナリオ」の項においても、「制御ルールZのメール適用処理ステップS304において、まずステップS402でエンベロープ受信者アドレスがB、Cであった電子メールが、エンベロープ受信者Bの電子メールとエンベロープ受信者Cの電子メールに分割される」(段落【0131】)と記載されている。

このように、本件明細書等1における送信先の分割に関する記載以外の部分(例えば、制御ルールの設定、電子メールの送信制御、一連の動作シナリオ等)においても、一貫して「送信先」が電子メールアドレスであることを前提とする記載がなされている一方、「送信先」にドメインを含むことを示唆する記載は存在しないことからすると、本件発明1における「送信先」は、電子メールの宛先である電子メールアドレスを意味し、ドメインを含まないものというべきである。

ウ 原告の主張について

(ア)原告は、制御ルールのリストの例示である【図5】の「条件定義部」の「受信者」欄に、「*@zzz.co.jp」が定められており、これはドメインを表すものであるから、「送信先」には電子メールアドレスのみならず、ドメインを含むと主張する。

しかし、前記のとおり、本件明細書等1には、制御ルールに関し、「「条件定義部」は、「発信者(送信元)」、「受信者(宛先)」、「その他条件」から構成される。…「受信者(宛先)」には、メール送受信端末110から取得する電子メールの宛先(To、Cc、Bcc)の電子メールアドレス(受信者情報)が設定されている」(段落【0040】)、「「発信者(送信元)」、「受信者(宛先)」には、それぞれ電子メールアドレスを複数設定することができ、アスタリスクなどのメタ文字(ワイルドカード)を使うことによって任意の文字列を表すこともできる」(段落【0041】)と記載されており、これらの記載によれば、上記「*@zzz.co.jp」は、ドメインを意味するのではなく、「*」に任意の文字列を含み、ドメイン名を「zzz.co.jp」とする複数の電子メールアドレスを意味するというべきである。

原告は、「*@zzz.co.jp」がドメインを意味することは、複数の特許文献(甲24、30~32、乙15)などの記載からも裏付けられると主張するが、特許請求の範囲や発明の詳細な説明において使用される言葉の意義は各発明により異なることから、構成要件11D等の「送信先」の意義は本件特許に係る特許請求の範囲及び発明の詳細な説明の記載に基づいて解釈されるべきである。本件明細書等1の「*@zzz.co.jp」がドメインを意味すると解し得ないことは上記判示のとおりであり、原告の挙げる他の文献等の記載は上記結論を左右するものではない。

(イ)原告は、本件明細書等の段落【0061】及び【図4】のステップS402には、「受信者」の「宛先」単位で電子メールの分割をすることを記載しているが「受信者」の「宛先」にはドメインも含まれると主張する。

しかし、段落【0061】には「各宛先(受信者)のそれぞれを単一の宛先としたエンベロープをそれぞれ生成する」と記載されているところ、同エンベロープの生成を説明する【図12】には、送信先(受信者)の電子メールアドレスとして設定されている「A」、「B」、「C」のそれぞれを単一の宛先とするエンベロープ情報をそれぞれ生成することが図示されているのであるから、同段落の「各宛先(受信者)」とは電子メールアドレスを意味するというべきである。

(ウ)原告は、本件明細書等1の段落【0003】に記載の従来技術である乙15公報における「宛先」には「電子メールアドレス」又は「ドメイン」であることが記載されており、本件発明1において分割する単位をドメインとしてもこの従来技術の課題を解決することができると主張する。

そこで、乙15公報をみるに、その段落【0032】には、【図2】の「項目203、205にあっては、アカウントを*として、ドメインのみを指定するとした設定も可能である」と記載されているが、ここにいう項目203は送信メールの一時保留機能を利用する場合であって、一時保留せずに、即配信したいメールアドレスの即配信リストを設定する項目であり、同図の項目205は、全ての送信保留中メールを本人(送信者)に配送する場合であって、配送を希望しない送信保留中メールを本人(送信者)に送信しないメールアドレスの送信不要リストを設定する項目である(段落【0030】)。

【図2】

このように、項目203及び同205は即配信又は送信不要リストを設定するためのものであるから、段落【0032】の趣旨は、一時保留せずに即配信したいメールアドレスの即配信リスト(項目203)や、送信保留中メールを本人(送信者)に送信しないメールアドレスの送信不要リスト(項目205)に、任意のドメイン名を有する複数のメールアドレスを一括して設定することも可能であることを述べたものにすぎず、電子メールの「宛先」にドメインが含まれることを示すものということはできない。

そうすると、同段落の記載をもって従来技術である乙15公報における「宛先」に「ドメイン」が含まれると解することはできないので、原告の上記主張は前提において採用し得ないというべきである。

(エ)原告は、電子メールをドメイン単位で分割する場合でも本件発明1の課題を解決し得ると主張する。

しかし、電子メールをドメイン単位で分割するとなると、同一ドメインの複数の電子メールのうち、一つのみの送出を保留すべきような場合に上記課題を解決し得ないことは、前記判示のとおりである。

原告は、本件発明1はいかなる場合でも電子メールの送出制御を効率的に行うことを課題と設定しているのではないと主張するが、本件発明1がその課題を解決し得ない構成を含むとは考え難く、特許請求の範囲及び本件明細書等1の記載に照らしても、「送信先」にドメインを含むとは解し得ないことも、前記判示のとおりである。

エ 以上のとおり、構成要件11D等における「送信先」は「電子メールアドレス」のみを指し、「ドメイン」を含まないと解することが相当である。

(2)被告装置等との対比

構成要件11D等における「送信先」は、「電子メールアドレス」のみを指し、「ドメイン」を含まないところ、構成11d等は、「受信部で受信した複数の宛先の電子メールアドレスが設定された電子メールを、宛先のドメイン毎の電子メールに分割する」ものであるから、被告装置等は構成要件11D等を充足しない。

3 争点1-2(均等侵害の成否)について

(1)特許請求の範囲に記載された構成に、相手方が製造等をする製品又は用いる方法(対象製品等)と異なる部分が存する場合であっても、①当該部分が特許発明の本質的部分ではなく(第1要件)、②当該部分を対象製品等におけるものと置き換えても、特許発明の目的を達することができ、同一の作用効果を奏するものであって(第2要件)、③そのように置き換えることに、当業者が、対象製品等の製造等の時点において容易に想到することができたものであり(第3要件)、④対象製品等が、特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者が当該出願時に容易に推考できたものではなく(第4要件)、かつ、⑤対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もないとき(第5要件)は、当該対象製品等は、特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして、特許発明の技術的範囲に属するものと解するのが相当である(最高裁平成6年(オ)第1083号同10年2月24日第三小法廷判決・民集52巻1号113頁、最高裁平成28年(受)第1242号同29年3月24日第二小法廷判決・民集71巻3号359頁参照)。

(2)本件発明1と被告装置等との相違点は、本件発明1では、複数の送信先が設定された電子メールを電子メールアドレスごとに分割するのに対し、被告装置等では、ドメインごとに分割する点にあるところ、原告は、被告装置等の上記構成は本件発明1の構成と均等なものとして、本件発明1の技術的範囲に属すると主張する

この点について、当裁判所は、以下のとおり、被告装置等が均等の第1要件を充足しないから、その余の点につき判断するまでもなく、原告の均等侵害の主張は理由がないと判断する。

ア 特許発明の本質的部分は、特許請求の範囲及び明細書の記載、特に明細書記載の従来技術との比較から認定されるべきであるところ(知財高裁平成27年(ネ)第10014号同28年3月25日判決)、本件明細書等1には、従来技術の「複数の送信先が記載された電子メールに対しては、誤送信の可能性がある送信先が1つでも含まれていれば、その他の送信先に対するメール送信までもが保留、取り消しがされることとなる」(段落【0004】)という課題を解決するため、電子メールに設定された複数の送信先を個々の送信先に分割し、記憶手段に記憶されている制御ルール等に従って、電子メールの送出に係る制御内容を決定し、決定された制御内容に従って電子メールの送信制御を行うなどの構成を備えることにより、「ユーザによる電子メールの誤送信を低減可能とすると共に、宛先に応じた電子メールの送出制御を行うことにより効率よく電子メールを送出させることができる」(段落【0008】)などの効果を奏するものである。

イ 原告は、本件特許1の特許メモ(乙9)などを根拠に、本件発明1の本質的部分は、「送出制御内容を、電子メールの送信元と送信先とに対応付けた制御ルールと、分割された電子メールの送信先と送信元とに従って、分割された送信先に対する電子メールの送出に係る制御内容を決定すること」(構成要件11E)にあると主張する。

しかし、本件発明1の従来技術として挙げられているのは乙15公報であり、本件明細書等1に記載されている課題は「複数の送信先が記載された電子メールに対しては、誤送信の可能性がある送信先が1つでも含まれていれば、その他の送信先に対するメール送信までもが保留、取り消しがされることとなる」というものであるところ、同課題を解決するためには、電子メールに設定された複数の送信先を電子メールアドレスごとに分割した上で、制御ルールを適用することが不可欠である。そうすると、構成要件11D等に係る構成は本件発明1の本質的部分というべきである

原告は、特許メモ(乙9)の記載を根拠とするが、同メモには、本件特許の出願時の複数の公知文献に本件発明1に係る構成が記載されているかどうかが記載されているにすぎず、本件発明1の従来技術として挙げられた乙15公報との対比がされているものではなく、また、本件発明1の本質的部分の所在を検討するものでもないので、同メモに基づいて、本件発明1の本質的部分が構成要件11Eに係る構成にあるということはできない。

ウ したがって、被告装置は第1要件を充足せず、同様の理由により、被告方法及び被告製品も第1要件を充足しない。

4 争点1-3(本件発明1-1~1-10につき、間接侵害の成否)について

被告装置は本件発明1-1~1-9の技術的範囲に属しないから、被告製品は1号の「その物の生産にのみ用いる物」及び2号の「その物の生産に用いる物」のいずれにも当たらない。

また、被告方法は本件発明1-10の技術的範囲に属しないから、被告製品は4号の「その方法の使用にのみ用いる物」及び5号の「その方法の使用に用いる物」のいずれにも当たらない。

したがって、原告の間接侵害の主張は、全て理由がない。

5 争点2-1(被告装置等の構成要件21C等の充足性)について

当裁判所は、以下のとおり、構成要件21C等における「送信先」についても「電子メールアドレス」のみを指し「ドメイン」を含まないので、被告装置等の構成21c等は構成要件21C等を充足しないと判断する。

(1)送信先の解釈について

ア 特許請求の範囲の記載

構成要件21Cは「複数の送信先が設定された電子メールから、前記複数の送信先が個別に設定された複数の個別メールを生成する個別メール生成手段と、」、構成要件24Cは「個別メール生成手段が、複数の送信先が設定された電子メールから、前記複数の送信先が個別に設定された複数の個別メールを生成する個別メール生成工程と、」、構成要件25Cは「複数の送信先が設定された電子メールから、前記複数の送信先が個別に設定された複数の個別メールを生成する個別メール生成手段、」というものである。

構成要件21C等前段の「複数の送信先が設定された電子メールから、」にいう「送信先」は、前記のとおり、「送信先」が電子メールの宛先を意味し、送信者と受信者がエンドツーエンドでメッセージを交換するものであるなどの電子メールの前記仕組みに鑑みると、電子メールアドレスを意味すると解すべきであるところ、同構成要件後段の「前記複数の送信先が個別に設定された複数の個別メール」の「送信先」は前段の「送信先」と同義であることは明らかである。そうすると、同構成要件の「送信先」はいずれも電子メールアドレスを意味すると解するのが相当である。

また、同構成要件の「個別」とは「一つずつ別に」との意味を有すること(広辞苑第6版。甲9)も考え併せると、複数の送信先が設定された電子メールについて、複数の送信先が一つずつ別に設定された複数の個別メールを生成(分割)した後、当該生成された一つずつ別のメールの送出(送信)に関する制御が行われるものと解するのが自然である。

イ 本件明細書等2の記載

本件特許2は本件特許1の孫出願であるところ(乙2)、本件明細書等2の「背景技術」及び「発明が解決しようとする課題」欄には、本件明細書等1と同内容の記載があり(段落【0002】②~【0005】②)、本件特許1及び2は「複数の送信先が記載された電子メールに対しては、誤送信の可能性がある送信先が1つでも含まれていれば、その他の送信先に対するメール送信までもが保留、取り消しがされることとなる。」との課題を共有している。そして、本件明細書等2の実施例に関する記載(段落【0011】②~【0149】②、【図1】②~【図14】②)は本件明細書等1のものと同一である(甲2、4)。

そうすると、本件発明1と同様、本件発明2における「送信先」も「電子メールアドレス」を意味し、ドメインを含まないものと認めるのが相当である。

ウ 原告の主張について

(ア)原告は、ドメインごとに送信先を分割する場合であっても、複数の送信先であるドメインが一つずつ別に設定された複数の個別メールが生成されることになるから、「前記複数の送信先が個別に設定された複数の個別メールを生成する」に該当するということができると主張する。

しかし、構成要件21C等の「個別に」とは、その通常の意味に照らすと「一つずつ別に」との意味を有すべきことは前記判示のとおりであり、複数の送信先をドメイン単位で分割し、各単位が複数の電子メールを包含する態様が「個別に」に当たると解することはできない。

また、送信先をドメインごとに分割する構成の場合には、「誤送信の可能性がある送信先が1つでも含まれていれば、その他の送信先に対するメール送信までもが保留、取り消しがされることとなる」という問題点は解消し得ないことになるのであり、本件発明2がその問題点を解決し得ない構成を含むとは考え難いことも、前記判示のとおりである。

(イ)原告は、仮に構成要件21C等前段及び後段の「送信先」が同義であるとしても、電子メールアドレスはドメインを包含するので、被告装置等の構成21c等は構成要件21C等を充足すると主張するが、前記2(1)ア記載のとおり、ドメインと電子メールアドレスは異なる技術的意義を有するものであり、電子メールアドレスがドメインを包含するということはできない。

(ウ)以上のとおり、構成要件21C等の「前記複数の送信先が個別に設定された複数の個別メールを生成する」とは、複数の電子メールアドレスの一つずつをそれぞれ宛先に設定した電子メールを生成することを意味するというべきであり、原告の上記主張はいずれも採用し得ない。

(2)被告装置等との対比

構成要件21C等における「送信先」は、「電子メールアドレス」のみを指し、「ドメイン」を含まないところ、構成21c等は、「複数の宛先の電子メールアドレスが設定された電子メールを、宛先のドメイン毎に分割して宛先のドメイン毎の電子メールを生成する」ものであるから、被告装置等は構成要件21C等を充足しない。

6 争点2-2(本件発明2に係る均等侵害の成否)について

本件発明2-1と被告装置との相違点は、本件発明2-1では、個別メール生成手段において生成する電子メールの送信先の単位を電子メールアドレスとし、決定手段において電子メールアドレス単位で電子メールの制御内容を決定するのに対し、被告装置では、個別メール生成手段において生成する電子メールの送信先の単位をドメイン単位とし、決定手段においてドメイン単位で電子メールの制御内容を決定する点にあるところ、原告は、被告装置の上記構成は本件発明2-1の構成と均等なものとして、その技術的範囲に属すると主張する。

しかし、前記3と同様の理由から、複数の送信先が設定された電子メールから電子メールアドレス単位で個別メールを生成することは、本件発明2-1の課題解決に不可欠な構成であり、本件発明2-1の本質的部分に当たるというべきである。

したがって、被告装置は第1要件を充足せず、同様の理由により、被告方法及び被告製品も第1要件を充足しないから、その余の点につき判断するまでもなく、原告の本件発明2に係る均等侵害の主張は理由がない。

7 争点2-3(本件発明2-1~2-4につき、間接侵害の成否)について

被告装置は本件発明2-1~2-3の技術的範囲に属しないから、被告製品は1号の「その物の生産にのみ用いる物」及び2号の「その物の生産に用いる物」のいずれにも当たらない。

また、被告方法は本件発明2-4の技術的範囲に属しないから、被告製品は4号の「その方法の使用にのみ用いる物」及び5号の「その方法の使用に用いる物」のいずれにも当たらない。

したがって、原告の間接侵害の主張は、全て理由がない。