介護ベッド事件

投稿日: 2020/10/24 2:33:45

今日は、平成29年(ワ)第24210号 特許権侵害差止等請求事件について検討します。判決文によると、原告であるパラマウントベッド株式会社は、金属製及び木製各種ベッド並びにこれに付帯する什器備品の製造及び販売、医療福祉機器及び設備の製造及び販売等を目的とする株式会社、一方、被告である株式会社プラッツは、介護ベッド、マットレス及び車椅子等福祉用具の製造、販売及び輸出入等を目的とする株式会社だそうです。なお、株式会社プラッツは、ベトナム社会主義共和国(以下「ベトナム」という。)に子会社であるプラッツ・ベトナム・カンパニー・リミテッド(PLATZ VIETNAM

Co., LTD.、以下「プラッツベトナム」という。)を有するそうです。

 

1.検討結果

(1)本件は、①本件発明1と被告製品3及び5との抵触性と本件発明1の有効性、②本件発明2と被告製品4との抵触性と本件発明2の有効性、③本件発明3と被告製品6との抵触性と本件発明3の有効性が争われた事件です。本件については被告製品の構造を示す図面が判決文に添付されていません。興味がある場合は判決文と被告のHPに掲載されているカタログや取説とを照らし合わせれば本件発明1~3と被告製品との関係について大体わかると思います。

(2)本件発明1の内容を簡単に言うと、ベッドを構成するフレームの一部を使用者の体格に合わせて異なる長さのフレームに置き換えられるというものです。被告製品3及び5について長さの異なる交換可能なフレームが別売されていました。抵触性の判断で一つ難しそうだったのは、被告製品5はカタログに「使用される方の身長やお部屋の大きさに合わせ、レギュラーサイズとショートサイズをご用意しました。全長サイズをレギュラーサイズからショートサイズへ切替が可能。※背ボトム・ひざ脚ボトム・ヘッドフレーム・フットフレームの交換が必要となります。」と明記されていたため、本件発明1の構成要件1-1B「床板を支えるフレームを、使用者の体格に対応させるべく」という点を満たすことが明らかでしたが、被告製品3にはそのような記載が明記されていなかった点です。結局判決では前後の製品等についてのカタログの記載から被告製品3にもそのような目的が存在していた、と認定しました。特許請求の範囲に構成以外の文言を記載するのはできるだけ避けた方が良い、という好例だと思います。

なお、被告は本件発明1について明細書の記載に基づく限定解釈を主張しましたが、限定解釈しなければならない強い理由もないので認められませんでした。

また、無効主張もしましたが、本件発明1と主引用例との間に相違点があるので新規性欠如は認められず、その相違点を埋める副引用例も無かったため進歩性欠如も認められませんでした。

(3)本件発明2は、ベッドフレームの棒状部材及びボードを支持するボード受けに設けた溝形部材に、スリットとネジ穴及び突起部と取付孔を複数設けることでベッドフレームの長さを変えられるようにしたものです。被告は本件発明2について明細書の記載に基づく限定解釈を主張しましたが、限定解釈しなければならない強い理由もないので認められませんでした。

また、無効主張もしましたが、本件発明2と主引用例との間に相違点があるので新規性欠如は認められず、副引用例にもその相違点について開示されていなかったため進歩性欠如も認められませんでした。

(4)本件発明3は、操作ボックスの下降スイッチを押している間、足の挟み込みが生じない中間停止位置でフレームを一旦停止させ、下降スイッチの押し状態が解除された後、再度フレームの下降スイッチが押された場合に更にフレームを下位置まで下降させるというものです。

本件発明3のうち本件発明3-1については抵触性が認められました。被告製品6は、一旦停止した位置で下降スイッチから手を離して再度下降スイッチを押すとフレームが再下降するという本件発明3-1と同一の構成を備えているほか、一旦停止した位置で約2秒以上下降スイッチを押し続けてもフレームが再下降するという機能も備えていますが、だからといって非抵触とはなりませんでした。

しかし、無効主張に用いた乙17公報には中間停止位置が足を挟み込まない位置という構成以外は全て開示されており、この相違点についても、本件特許3の出願以前に定められたSG基準からすると当業者は常に足の挟み込みという課題を常に認識していたというべきであり、本件発明3-1は進歩性が欠如しているという判断となりました。

なお、下表のとおり本件訴訟とは別に被告が同様の証拠に基づき特許無効を主張した特許無効審判があり、そこでは原告が訂正することで請求が不成立となり、それに対して被告が審決取消訴訟を行っています。しかし、本件訴訟では原告がこの訂正に基づく対抗主張をしませんでした。

(5)両社のニュースリリースを見ると、被告・原告ともに控訴したようです。被告は本件特許1及び2についての判断に対するものでしょうが、原告は賠償額と本件特許3についての判断に対するものということです。しかし、そうなると原告が訂正請求の内容に基づく対抗主張をしなかったことについて疑問が生じます。訂正した結果被告製品6が本件発明3-1の技術的範囲に含まれないためかと思いましたが訂正した内容を読むとあまり関係ない気がしますし、被告が審決取消訴訟を提起していることからしても依然として技術的範囲に含まれている可能性が高いように思いました。

一方で被告は新たな無効主張の根拠となる証拠の収集作業が大変だと思います。本件に用いた本件発明1及び本件発明2の主引用例では相違点を埋める副引用例が見つかったとしても組み合わせるのはかなり難しそうです。また、本件発明3も訂正請求の内容で対抗主張された場合を考えると新たな副引用例(あるいは主引用例)が必要となりそうです。

2.手続の時系列の整理

(1)特許1(特許第3024698号)

 

(2)特許2(特許第5252542号)

 

(3)特許3(特許第4141233号)

① 2件の特許無効審判のうち、無効2010-800132はフランスベッド株式会社が請求人、無効2018-800132は本件被告の株式会社プラッツが請求人です。。

3.本件発明

(1)本件発明1

ア 本件発明1-1

1-1A ベッド等において、

1-1B 床板を支えるフレームを、使用者の体格に対応させるべく、フレームの一部を異なった長さの交換装着用フレーム(2)に置き換え可能に構成した

1-1C ことを特徴とするベッド等におけるフレーム構造。

イ 本件発明1-2

1-2A ベッド等において、

1-2B 床板を支えるフレームのうち、足側床板に対応する足側フレーム(2)を、使用者の体格に対応して、異なった寸法規格のものに、交換装着可能に構成した

1-2C ことを特徴とするベッド等におけるフレーム構造。


(2)本件発明2

ア 本件発明2-1

2-1A ベッドフレーム(1)側の棒状部材(2)の長手方向に取付品支持部材(3)を着脱可能に支持する構成とし、

2-1B 前記取付品支持部材(3)には前記棒状部材(2)を係合可能な溝形部材(5)を突設し、

2-1C 棒状部材(2)と溝形部材(5)には、前記溝形部材(5)を前記棒状部材(2)に係合させる動作において係合状態となる係合手段を構成する突起(7)と係合部(8a、8b)を設けると共に、

2-1D 前記係合手段が係合状態において螺合可能状態となる螺合手段を構成する雌ねじ部(9)と取付ボルト(10)を貫通させる取付孔(11a、11b)を設け、

2-1E 係合手段と螺合手段は、係合と螺合の位置を、棒状部材(2)の長さ方向に複数構成した

2-1F ことを特徴とするベッドにおける取付品支持位置可変機構。

イ 本件発明2-5

2-5A 係合手段は、棒状部材(2)側に設けた突起(7)と、溝形部材(5)側の長さ方向に複数設けた係合部(8a、8b)とから構成される

2-5B ことを特徴とする請求項1に記載のベッドにおける取付品支持位置可変機構。

ウ 本件発明2-6

2-6A 螺合手段は、棒状部材(2)側に設けた雌ねじ部(9)と、溝形部材(5)側の長さ方向に複数設けた取付孔(11a、11b)とから構成される

2-6B ことを特徴とする請求項1に記載のベッドにおける取付品支持位置可変機構。

ア 本件発明2-7

2-7A 取付品支持部材(3)に取り付ける取付品はベッドの長手方向端部側に取り付けるボードであり、棒状部材(2)はベッドフレーム(1)の長手方向部材である

2-7B ことを特徴とする請求項1~6に記載のベッドにおける取付品支持位置可変機構。


(3)本件発明3

ア 本件発明3-1

3-1A 寝床部を支持するベッドフレーム(1)と、

3-1B 床上に設置される台部(7)と、

3-1C この台部(7)と前記フレーム(1)との間に配置され前記フレーム(1)の上位置LHと下位置LLとの間で前記フレーム(1)を昇降移動させる昇降装置(10、11)と、

3-1D この昇降装置(10、11)による前記フレーム(1)の昇降駆動を制御する制御装置と、

3-1E スイッチ操作により前記フレーム(1)の昇降が指示されたときに前記制御装置に前記フレーム(1)の昇降を指示する信号を出力する操作ボックスとを有し、

3-1F 前記制御装置は、前記操作ボックスから前記フレーム(1)の下降信号が入力されたときに、前記操作ボックスの下降スイッチの押し状態が継続している間、前記フレーム(1)を下降させるが、前記フレーム(1)の上位置LHと下位置LLとの間の中間停止位置LMで、前記下降スイッチが押し状態であっても前記フレーム(1)を一旦停止させ、

3-1G その後、前記操作ボックスにおける下降スイッチの押し状態が解除された後、再度フレーム(1)の下降スイッチが押下された場合に更に前記フレーム(1)を前記下位置LLまで下降させるものであり、

3-1H 前記中間停止位置LMは、前記フレーム(1)と前記床との間に、介護者又は患者の足が存在しても、挟み込みが生じないような高さである

3-1I ことを特徴とする電動ベッド。

イ 本件発明3-2

3-2A 寝床部を支持するベッドフレーム(1)と、

3-2B 床上に設置される台部(7)と、

3-2C この台部(7)と前記フレーム(1)との間に配置され前記フレーム(1)の上位置LHと下位置LLとの間で前記フレーム(1)を昇降移動させる昇降装置(10、11)と、

3-2D この昇降装置(10、11)による前記フレーム(1)の昇降駆動を制御する制御装置と、

3-2E スイッチ操作により前記フレーム(1)の昇降が指示されたときに前記制御装置に前記フレーム(1)の昇降を指示する信号を出力する操作ボックスとを有し、

3-2F 前記制御装置は、前記操作ボックスから下降信号が入力されたときに、前記操作ボックスの下降スイッチの押し状態が継続している間、前記フレーム(1)を下降させるが、そのときの前記フレーム(1)の位置が、前記上位置LHと前記中間停止位置LMとの間の予め定められた特定位置LSかそれよりも高い場合に、前記フレーム(1)を降下させた後、前記中間停止位置LMで前記下降スイッチが押し状態であっても一旦停止させ、

3-2G その後、前記操作ボックスにおける下降スイッチの押し状態が解除された後、再度フレーム(1)の下降スイッチが押下された場合に更に前記フレーム(1)を前記下位置LLまで下降させるものであり、

3-2H 前記操作ボックスから下降信号が入力されたときの前記フレーム(1)の位置が、前記特定位置LSよりも低い場合に、前記操作ボックスの下降スイッチの押し状態が継続している間、前記フレーム(1)を前記中間停止位置LMで停止させずに下位置LLまで下降させるものであり、

3-2I 前記中間停止位置LMは、前記フレーム(1)と床との間に、介護者又は患者の足が存在しても、挟み込みが生じないような高さである

3-2J ことを特徴とする電動ベッド。


4.被告の行為等

(1)被告は、平成19年11月に被告製品3のレギュラータイプの販売を、平成21年11月にショートタイプの販売をそれぞれ開始し、平成26年12月から平成27年11月までの間に被告製品3の販売を終了した。被告製品3はプラッツベトナム等で製造され、被告はベトナムからこれを輸入していた。

被告製品3は、別紙図面「被告製品3」記載のとおり、背ボトム、腰ボトム及びひざ脚ボトムから成る床板を、ヘッドフレーム、センターフレーム及びフットフレームから成るベッドフレームにより支え、ベッドの長手方向両端部にボードを取り付ける構造となっている。ヘッドフレームとフットフレームには、レギュラータイプのベッド及びショートタイプのベッドに対応した長さの異なる2種類がある。センターフレームには、レギュラータイプのベッドに対応したヘッドフレーム・フットフレーム及びショートタイプのベッドに対応したヘッドフレーム・フットフレームのいずれも組み合わせることが可能であり、購入したのとは異なるタイプのベッドに対応したヘッドフレーム・フットフレーム等を別途購入することなどにより、ベッドフレームを異なる長さとすることができる。ベッドフレームの長さの変更に対応して、フレームのほか背ボトム及びひざ脚ボトム並びにボードの交換が必要となる(以下、各被告製品において、ベッドの全長を変えて利用するために必要な交換用の各部材の一式を「交換用パーツ」といい、その各部材について「交換用パーツ単体」ということがある。)。

(本項につき、甲12、14、72、弁論の全趣旨)

(2)被告は、平成23年12月に被告製品4のレギュラータイプ及びショートタイプの販売を開始し、平成28年9月から平成29年7月までの間に被告製品4の販売を終了した。被告製品4はプラッツベトナム等で製造され、被告はベトナムからこれを輸入していた。

被告製品4は、別紙図面「被告製品4」記載のとおり、背ボトム、腰ボトム及びひざ脚ボトムから成る床板を、ヘッドフレーム、センターフレーム及びフットフレームから成るベッドフレームにより支え、ベッドの長手方向両端部にボードを取り付ける構造となっている。フレームは、レギュラータイプのベッド及びショートタイプのベッドで共通であり、背ボトムとひざ脚ボトムには、レギュラータイプのベッド及びショートタイプのベッドに対応した大きさの異なる2種類があり、ベッド本体と別に別途購入することが可能である。(本項につき、甲12、15、16、72、弁論の全趣旨)

(3)被告は、平成26年9月に被告製品5のレギュラータイプ及びショートタイプの販売を開始した。被告製品5の本体は主にプラッツベトナム等で製造され、被告はベトナムからこれを輸入している。

被告製品5は、別紙図面「被告製品5」記載のとおり、背ボトム、腰ボトム及びひざ脚ボトムから成る床板を、ヘッドフレーム、センターフレーム及びフットフレームから成るベッドフレームにより支え、両端にボードを取り付ける構造となっている。ヘッドフレーム及びフットフレームには、レギュラータイプのベッド及びショートタイプのベッドに対応した長さの異なる2種類がある(なお、ベッドの幅に応じて90cm幅専用のものと83cm幅専用のものがある。)。センターフレームには、レギュラータイプのベッドに対応したヘッドフレーム・フットフレーム及びショートタイプのベッドに対応したヘッドフレーム・フットフレームのいずれも組み合わせることが可能であり、購入したのとは異なるタイプのベッドに対応するヘッドフレーム・フットフレーム等を別途購入することなどにより、ベッドフレームを異なる長さとすることができる。ベッドフレームの長さの変更に対応して、フレームのほか背ボトム及びひざ脚ボトムの交換が必要となる。

(本項につき、争いがない事実のほか、甲12、17、弁論の全趣旨)

(4)被告は、平成29年1月に被告製品6の販売を開始した。被告製品6の本体は主にプラッツベトナム等で製造され、被告はベトナムからこれを輸入している。

被告製品6は、制御装置によって、ベッドフレームの一部であるベースフレームに取り付けられた昇降モータの昇降駆動を制御し、ベースフレームを昇降移動させる電動ベッドであり、手元スイッチの「高さボタン」を押すことによって制御装置にベースフレームの昇降を指示する信号が出力される。ベースフレームは、床面高57cm(最高位)から15cm(最低位)まで昇降させることができ、「高さボタン」のうちフレームの下降を指示する下降スイッチの押し状態を継続してフレームを下降させた場合、フレームの床面高が24cmになるとブザーを鳴らして下降を停止する。その後、下降スイッチから手を離して再度下降スイッチを押すと、ブザーを鳴らしながらフレームを最低位まで下降させる。また、床面高が24cmで下降を停止した後、そのまま約2秒以上下降スイッチの押し状態を継続すると、ブザーを鳴らしながらフレームを最低位まで下降させる。

(本項につき、争いがない事実のほか、甲12、18、21、23、24、弁論の全趣旨)

被告は、平成31年1月までの間に被告製品6の仕様を変更した。(乙152~158、弁論の全趣旨)

(5)引用例等

以下の文献や製品が存在する。

ア 1976年(昭和51年)3月23日発行の米国特許3945064号公報(乙15。以下「乙15公報」といい,乙15公報に記載された発明を「米国特許発明1」という。)。その図面1の内容は,別紙図面「引用例」記載1のとおりである。(乙15)

イ ハンセン・マッケ株式会社(現在はゲティンゲグループ・ジャパン株式会社)は,昭和63年9月当時,「マッケ手術台システム1120」(MAQUETOPERATING TABLE 1120)という製品名の手術用寝台をカタログに掲載し,販売していた。その手術用寝台のうち型番1120.21-B(以下「マッケ1120」という。)は,別紙図面「引用例」記載2のとおりである。(乙4,5)

ウ 原告は,平成9年2月,別紙図面「引用例」記載3の「キューマアウラベッド」という製品名の介護用ベッド(以下「キューマアウラベッド」という。)を発表し,同年3月には新聞広告を掲載し,同年4月1日から販売を開始した。(乙9,10)

エ フランスベッドメディカルサービス株式会社は,平成9年当時,ヒューマンケアベッド「FB-730」,同「FB-720」という製品名の介護用ベッド(以下,併せて「FB730/720」という。)を製造,販売していた。(乙42)

オ 2001年(平成13年)12月6日公開の米国特許2001/0047547 A1号公報(乙17。以下「乙17公報」といい,乙17公報に記載された発明を「米国特許発明2」という。)。

5.争点

(1)本件特許1

争点1-1 被告製品3及び5が本件発明1の技術的範囲に属するか。

争点1-2 本件特許1が特許無効審判により無効にされるべきものと認められるか。

無効理由1-1 マッケ1120からの新規性欠如

無効理由1-2 マッケ1120からの進歩性欠如

無効理由1-3 キューマアウラベッドからの新規性欠如

無効理由1-4 キューマアウラベッドからの進歩性欠如

無効理由1-5 サポート要件違反

争点1-3 本件特許権1の侵害行為について被告に過失がなかったか。

争点1-4 損害の発生及び額、ないし、被告製品3に係る不当利得の発生及び額

争点1-5 原告が平成21年11月に被告製品3の販売による損害の発生を知ったか。

(2)本件特許2

争点2-1 被告製品4が本件発明2の技術的範囲に属するか。

争点2-2 本件特許2が特許無効審判により無効にされるべきものと認められるか。

無効理由2-1 米国特許発明1からの新規性欠如

無効理由2-2 米国特許発明1からの進歩性欠如

無効理由2-3 サポート要件違反

争点2-3 本件特許権2の侵害行為について被告に過失がなかったか。

争点2-4 損害の発生及び額、ないし、不当利得の発生及び額

争点2-5 原告が平成23年12月までに被告製品4の販売による損害の発生を知ったか。

(3)本件特許3

争点3-1 被告製品6が本件発明3-1の技術的範囲に属するか、また、仕様変更前の被告製品6が本件発明3-2の技術的範囲に属していたか。

争点3-2 本件特許3が特許無効審判により無効にされるべきものと認められるか。

無効理由3-1 本件発明3-1の米国特許発明2からの新規性欠如

無効理由3-2 本件発明3-1の米国特許発明2からの進歩性欠如

無効理由3-3 本件発明3-2のサポート要件違反

無効理由3-4 本件発明3-2の明確性要件違反

争点3-3 本件特許権3の侵害行為について被告に過失がなかったか。

争点3-4 損害の発生及び額

争点3-5 廃棄の必要性

6.争点に関する当事者の主張

(1)争点1-1(被告製品3及び5が本件発明1の技術的範囲に属するか。)について

(原告の主張)

ア 被告製品3及び5は、いずれも使用者の体格に対応させるべく、フレームを置換え可能に構成されたものである。

すなわち、介護用ベッドのレンタル卸業者等は、被告製品3が販売された平成19年以前から、長さの異なる介護用ベッドを提供する目的は使用者の体格に対応することにあるとの認識を有していた。被告は、平成24年に、被告製品4について「使用される方の身長やお部屋の大きさに合わせレギュラーサイズとショートサイズをご用意しました。」と記載するとともに、被告製品3についても同様にレギュラータイプとショートタイプが販売されている旨を紹介したカタログを作成し、被告製品3の後継製品である被告製品5について使用者の体格に応じて2つのタイプを用意した旨をカタログやウェブサイトに明記した。そして、被告製品3は、レギュラータイプ及びショートタイプにそれぞれ対応した長さの異なる2種類のヘッドフレーム及びフットフレームを交換装着可能に構成されているところ、上記の業者者等の認識やカタログの記載内容等に照らせば、その目的が使用者の体格に対応するためであることは明らかである。したがって、被告製品3は、使用者の体格に対応させるべく足側フレームを置き換え可能に構成したものであり、構成要件1-1B及び1-2Bを充足し、また、構成要件1-1A、1-1C、1-2A及び1-2Cも充足するから、本件発明1-1及び1-2の技術的範囲に属する。

また、被告製品5は、レギュラータイプ及びショートタイプにそれぞれ対応した長さの異なる2種類のヘッドフレーム及びフットフレーム等を交換装着可能に構成されており、カタログやウェブサイトで上記のように紹介されていることから、上記のように構成されている目的が使用者の体格に対応するためであることは明らかである。したがって、被告製品5は、使用者の体格に対応して足側フレームを交換装着可能に構成されたもので、構成要件1-1B及び1-2Bを充足し、また、構成要件1-1A、1-1C、1-2A及び1-2Cも充足するから、本件発明1-1及び1-2の技術的範囲に属する。

イ 本件発明1の特許請求の範囲の記載は、機能的、抽象的な記載ではない。本件発明1の奏する作用効果は、長さの異なるフレームに交換することによって得られ、交換装着用のフレームを取り付ける機構の差異によって影響を受けるものではなく、当業者は公知技術等を参照しつつ適宜その構成を工夫すれば足りるから、構成要件1-1Bの「置き換え可能」及び構成要件1-2Bの「交換装着可能」という文言は、発明に係る物の構造を十分に具体的に特定している。また、外観上の課題についても、足側床部に延長用床部を突設するという手法では延長用床部に対応するフレームを欠き、延長用床部がはみ出しているように見えるという従来技術における課題が、フレーム自体を交換するという本件発明1において開示された構成により解決されていることは当業者に明らかである。

仮に本件発明1を限定解釈する必要があるとしても、同じ外観で異なる長さのフレームを用意し、これらを交換可能とした構成であれば本件発明1の課題を解決することが可能であるから、構成要件1-1Bを「床板を支えるフレームを、使用者の体格に対応させるべく、フレームの一部を『同じ外観で』異なった長さの交換装着用フレームに置き換え可能に構成した」と読み替え、構成要件1-2Bを「床板を支えるフレームのうち、足側床板に対応する足側フレームを、使用者の体格に対応して、『同じ外観で』異なった寸法規格のものに、交換装着可能に構成した」と読み替えれば足りる。そして、被告製品3及び5は、長さ以外の点で外観が同じレギュラータイプ及びショートタイプにそれぞれ対応したフレームが用意されているから、構成要件1-1B及び1-2Bを充足する。

(被告の主張)

ア 被告製品3及び5は、構成要件1-1B及び1-2Bを充足しない。被告は、被告製品3及び5について、サイズの異なる組立式のベッド2種類をそれぞれ別製品として販売しているにすぎず、被告製品3及び5は本件発明1が意味するところの「置き換え可能」又は「交換装着可能」な構成を具備していない

また、被告製品3及び5についてレギュラータイプの他にショートタイプが用意されているのは、専ら部屋の大きさに対応するためであって、使用者の体格に対応するためではない。なお、通常より身長が低い使用者については、その大腿部の長さに合わせて床板の長さを変更する必要があるとしても、ベッドフレームを短いものにする必要は全くないのであり、本件発明1における「体格に対応させる」とは、本件明細書1の記載に照らしても、通常より身長の高い使用者に適合させるために通常のサイズのフレームを長いものに置き換える構成を意味し、被告製品のようにレギュラーサイズからショートサイズに変更する構成は含まれない。被告は、被告製品3については、当初レギュラータイプしか製造、販売していなかったものの、省スペース化の需要に応えるために、平成21年からショートタイプを製造、販売することとなった。そして、現に、被告製品3のカタログには、身長に適合するためにショートタイプを用意しているかのような記載はどこにもない。また、被告製品5のカタログにそのような記載があったとしても、平成27年8月までの被告製品5のカタログ等の記載は不正確であったにすぎない。

イ 本件特許1の請求項1及び2の特許請求の範囲の記載は、解決しようとする課題や目的をそのまま記載したものにすぎず、極めて機能的、抽象的で、交換装着用のフレームをメインフレームと結合する具体的な機構の構成や、延長用床部がはみ出ている等の外観上の課題を解決する具体的な構成が何ら明らかにされていない。そして、本件発明1は、本件特許1の請求項3及び本件明細書1の記載において開示された構成を意味するものと限定解釈され、具体的には、本件発明1-1は、「ベッド等において、」「『延長用床部に相当するマットレス保持枠を、ギャッチ操作可能な足側床板に突設し、』」「床板を支えるフレームを、使用者の体格に対応させるべく、」「『足側又は頭側フレームの先端に係止部を1箇所設け、』」「『中間部フレームに、この係止部を係止させるためのピンを一箇所設け、』」「『足側フレーム又は頭側フレームを、中間部フレームに、床板幅方向外側から挟み込むようにして係止させ、これらをボルトで1箇所螺着させて固定する手段によって、』」「フレームの一部を異なった長さの交換装着用フレームに置き換え可能に構成した」「ことを特徴とするベッド等におけるフレーム構造。」と読み替えられ、本件発明1-2は、「ベッド等において、」「『延長用床部に相当するマットレス保持枠を、ギャッチ操作可能な足側床板に突設し、』」「床板を支えるフレームのうち、足側床板に対応する足側フレームを、使用者の体格に対応して、」「『足側フレームの先端に係止部を1箇所設け、』」「『中間部フレームにこの係止部を係止させるためのピンを一箇所設け、』」「『足側フレームを、中間部フレームに、床板幅方向外側から挟み込むようにして係止させ、これらをボルトで1箇所螺着させて固定する手段によって、』」「異なった寸法規格のものに、交換装着可能に構成した」「ことを特徴とするベッド等におけるフレーム構造。」と読み替えられる。

そして、被告製品3及び5は、いずれも上記の限定解釈によって定められる構成要件を充足しない。すなわち、被告製品3は、フレームの長さが変更されたことに対応して床板を延長する際に床板全体を交換する構成となっており、延長用床部に相当するマットレス保持枠をギャッチ操作可能な足側床板に突設する構成となっておらず、ヘッドフレーム及びフットフレームとセンターフレームの接合方法が、ヘッドフレーム及びフットフレームの先端をセンターフレームに設けたキャップで受け止める構成となっており、ヘッドフレーム及びフットフレームに設けた係止部とセンターフレームに設けたピンによる係止の構成を採用していない。また、被告製品5は、フレームの長さが変更されたことに対応して床板を延長する際に床板全体を交換する構成となっており、延長用床部に相当するマットレス保持枠をギャッチ操作可能な足側床板に突設する構成となっていない。

(2)争点1-2(本件特許1が特許無効審判により無効にされるべきものと認められるか。)について

(被告の主張)

本件特許1には、次のとおり無効理由があり、特許無効審判により無効にされるべきものである。

ア 無効理由1-1(マッケ1120からの新規性欠如)

本件発明1-1及び1-2は、マッケ1120に係る発明と同一である。

マッケ1120カタログによれば、マッケ1120は、「患者を乗せる手術用寝台において、」「フレームに相当するレールに載置した背板上部(頭板)、背板下部、座板、上部足板及び下部足板からなる床板について、背板上部に延長用頭板を取り付けること、背板下部と座板の間に補助部材を取り付けて背板側を長くすること、座板と上部足板の間に補助部材を取り付けて足板側を長くすること、背板の代わりに短い背板を取り付けること、背板と足板を反対に取り付けること、更にその上で足板を外して短い背板を取り付けること等を可能に構成した」ものとなっている。このうち、延長用頭板や補助部材、長さの異なる背板の取付け等部材の置換え又は交換装着が可能に構成された点は、マッケ1120カタログ等の記載内容から、その目的が患者の体格に対応することにあることは明らかであり、本件発明1-1及び1-2の構成は、マッケ1120の構成と一致する。

イ 無効理由1-2(マッケ1120からの進歩性欠如)

使用者の体格に対応するために足側フレーム等について同種の異なるサイズのフレームを用意して交換装着可能とするという本件発明1-1及び1-2の構成をマッケ1120が備えておらず、その点で本件発明1-1及び1-2とマッケ1120との間に相違点があったとしても、その違いは、技術の具体的な適用に伴う設計変更事項にすぎず、当業者は、上記相違点について容易に想到し得たから、本件発明1-1及び1-2は進歩性を欠く。

ウ 無効理由1-3(キューマアウラベッドからの新規性欠如)

本件発明1-1及び1-2は、キューマアウラベッドに係る発明と同一である。

キューマアウラベッドは、「ベッド等において、」「床板を支えるフレームが、頭側フレーム、足側フレーム、中間部フレームからなり、各フレームの先端に係止部を1箇所設け、中間部フレームに、この係止部を係止させるためのピンを1箇所設け、アクセサリフレームに形成したボルト穴を介して挿通した固定ボルトを螺着するための螺子穴を設けた構成」となっており、本件明細書1に記載されたものと同一のフレームの結合に係る機構を備え、物理的に「異なった長さの交換装着用フレームに置き換え可能」又は「異なった寸法規格のものに、交換装着可能」な構成を具備している。本件特許1の出願日前はキューマアウラベッドには1種類の大きさしかなかったが、仮に、キューマアウラベッドが、上記のフレーム構造を「使用者の体格に対応させるべく」採用し、「異なった交換装着用フレーム」又は「異なった寸法規格」を用意したものでなかったとしても、それは新規性を肯定する理由として十分なものではない。

したがって、本件発明1-1及び1-2の構成は、キューマアウラベッドの構成と一致する。

エ 無効理由1-4(キューマアウラベッドからの進歩性欠如)

キューマアウラベッドのフレーム構造が、「使用者の体格に対応させるべく」、「異なった交換装着用フレーム」又は「異なった寸法規格」を用意したという本件発明1-1及び1-2の構成を有していなかったとしても、本件特許1の出願当時、当業者は、キューマアウラベッドにマッケ1120を組み合わせることにより、上記相違点について容易に想到し得たから、本件発明1-1及び1-2は進歩性を欠く。

すなわち、キューマアウラベッドに接する当業者は、本件特許1の出願当時、使用者の体格に応じてフレーム等の長さを変更するという一般的な課題を等しく抱えており、他方、マッケ1120は、使用者の体格に応じてフレームの一部を異なった長さのフレームに交換装着することが可能な構成を開示していた。介護用ベッドと手術台には、医療現場において使用者を横たわらせるための場所として技術分野の関連性があり、キューマアウラベッド及びマッケ1120には、1つの規格で様々な体格の使用者に対応することができる経済合理性の高い構成のベッド等を開発するという課題や、複数の異なる長さのフレームを選択し装着してベッドの全長を調整することを可能にするという作用及び機能を、本件発明1-1及び1-2と共通して有していること等に照らせば、キューマアウラベッドには、マッケ1120を組み合わせることにより、本件発明1-1及び1-2を想到する動機付けないし示唆が存在した。

オ 無効理由1-5(サポート要件違反)

当業者は、本件明細書1の記載により本件発明1-1及び1-2の課題を解決できると認識できるとはいえず、また、出願当時の技術常識に照らし上記課題を解決できると認識できるともいえないから、本件発明1-1及び1-2は、本件明細書1の発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえない。

すなわち、本件明細書1の記載では、従来技術においてはボードを取り付ける目板を使用して足側床部に延長用床部を継ぎ足すことにより生ずる外観上の問題があったところ、本件発明1によってこれを解決したとされている。しかし、床板について何らかの措置を講じなければ、ボードと床板との間の隙間が生じマットレスの先端部が落ち込むため、外観上の問題は何ら解消されない。従来技術における外観上の問題は、フレームの構成ではなくフレームにより支持される床板の構成に起因するものであり、本件特許1の請求項3に係る発明に開示された床板を延長する構成によって解消される。請求項1及び2には、延長用床部の取付けに関係する技術的事項は何も記載されておらず、フレームの構成を記載しているにすぎないから、本件明細書1の記載や出願当時の技術常識によって補足しても、上記外観上の問題がどのように改善されたかを当業者は認識することができない。

(原告の主張)

ア 無効理由1-1について

本件発明1-1及び1-2には、マッケ1120に係る発明との間に相違点が存在し、新規性を欠くとはいえない。

すなわち、マッケ1120においては、頭板や補助部材を継ぎ足す方式が開示されているものの、フレームを置換え又は交換装着可能な構成ではないのに対し、本件発明1-1及び1-2においては、部材を追加するのではなく、あらかじめ長さの異なる交換装着用フレームを用意しておき、使用者の体格に対応する際に、対応した長さの交換装着用フレームを選択してこれを交換する。マッケ1120においては「足側」について継ぎ足す方式は開示されていないのに対し、本件発明1-2においては、「足側」フレームを交換装着する。

さらに、マッケ1120においては、フレームの一部を置換可能とする構成は開示されているが、いずれも手術部位等に応じて交換するために用意されているもので、利用者の体格に応じるための構成ではない。

イ 無効理由1-2について

上記アの各相違点について、継足式を置換式にすることや、手術部位等に応じた手術台の置換を体格に応じた介護用ベッドの置換に適用することが、設計変更により可能になる理由はなく、当業者が容易に本件発明1-1及び1-2の構成に想到し得たとはいえない。本件発明1-1及び1-2が進歩性を欠くとはいえない。

ウ 無効理由1-3について

本件発明1-1及び1-2には、キューマアウラベッドとの間に相違点が存在し、新規性を欠くとはいえない。

すなわち、本件特許1の出願当時、キューマアウラベッドには1種類の大きさしかなく、異なる寸法規格に対応するための交換用の延長用フレームはなかったから、キューマアウラベッドは、「使用者の体格に対応させるべく、フレームの一部を異なった長さの交換装着用フレームに置き換え可能」(構成要件1-1B)又は「使用者の体格に対応して、異なった寸法規格のものに、交換装着可能」(構成要件1-2B)という構成を具備しておらず、本件発明1-1及び1-2は、キューマアウラベッドと相違している。

エ 無効理由1-4について

上記ウの相違点について、当業者が容易に想到し得たとはいえず、本件発明1-1及び1-2が進歩性を欠くとはいえない。

すなわち、マッケ1120において開示されたのは手術術部位等に応じた手術台の置換の技術であり、介護用ベッドであるキューマアウラベッドとは、根本的な思想、用途、機能、技術分野が異なる上、キューマアウラベッドは本件特許1の出願当時には1種類の大きさしか存在せず、当業者がこれに接したとしても「使用者の体格に応じて」ベッドフレームを「置き換え」又は「交換装着」可能にするという解決課題を読み取ることはできず、当業者がキューマアウラベッドにマッケ1120を組み合わせる動機付けは存在しない。仮に、キューマアウラベッドのベッドフレームの長さを変更しようと考えた当業者がマッケ1120に接したとしても、使用者の体格に対応するための構成としては継足式の構成を採用とすると考えられ、当業者が頭板や背板を置き換え可能な構成に着目するとは考え難い。

オ 無効理由1-5について

従来技術においては、延長用床部を足側床部に取り付けたため、延長した床部に対応するフレームを欠くとともに、延長用床部がその他のフレームに比してはみ出ていることによって外観上の問題が生じていたものの、本件発明1においては、フレーム自体を交換するため、延長した床部に対応するフレームを具備し、かつ、フレームからはみ出す床部が存在しないため、従来技術に比して外観が向上する。したがって、当業者は、本件明細書1の記載により課題を解決できると認識できるから、本件発明1の特許請求の範囲の記載はサポート要件に違反しない。

(3)争点1-3(本件特許権1の侵害行為について被告に過失がなかったか。)について

-省略-

(4)争点1-4(損害の発生及び額、ないし、被告製品3に係る不当利得の発生及び額)について

-省略-

(5)争点1-5(原告が平成21年11月に被告製品3の販売による損害の発生を知ったか。)について

-省略-

(6)争点2-1(被告製品4が本件発明2の技術的範囲に属するか。)について

(原告の主張)

被告製品4は、本件発明2の各構成要件を充足し、その技術的範囲に属することは明らかである。

本件特許2の特許請求の範囲の記載は、具体的な構成を特定しており、機能的、抽象的ではなく、仮にそうでないとしても、サポート要件を充足しているから、これを限定解釈する必要はない。

(被告の主張)

本件特許2の特許請求の範囲の記載は、きわめて機能的、抽象的で、係合手段を構成する突起及び係合部の位置や形状、係合と螺合の位置を複数構成する具体的な態様が何ら明らかにされていない。

もっとも、本件明細書2の記載を考慮すれば、本件発明2-1及び2-5は、本件明細書2において開示された構成、すなわち、突起とスリット形状の係合部の構成のみ、また、一方の部材に突起を1つ及び他方の部材に係合部を複数設ける構成、溝形部材の先端に突起を1つ及び棒状部材に係合部を複数設ける構成、棒状部材に突起を1つ及び溝形部材に係合部を複数設ける構成のみを意味すると限定解釈される。したがって、本件発明2-1は、「ベッドフレーム側の棒状部材の長手方向に取付品支持部材を着脱可能にする構成とし、」「前記取付品支持部材には前記棒状部材を係合可能な溝形部材を突設し、」「『前記溝形部材を前記棒状部材に係合させる動作において係合状態となる係合手段を構成する溝形部材の底面に突起1個所と、棒状部材に複数個所の係合部(スリット形状)を設けると共に、』」「『又は、これに代えて』前記溝形部材を前記棒状部材に係合させる動作において係合状態となる係合手段を構成する『棒状部材に突起1個所と、溝形部材の底面に複数個所の係合部(スリット形状)』を設けると共に、」「前記係合手段が係合状態において螺合可能状態となる螺合手段を構成する雌ねじ部と取付ボルトを貫通させる取付孔を設け、」「係合手段と螺合手段は、係合と螺合の位置を、棒状部材の長さ方向に複数構成した」「ことを特徴とするベッドにおける取付品支持位置可変機構。」と読み替えられ、本件発明2-5は、「係合手段は、棒状部材側に設けた突起と、溝形部材の長さ方向に複数設けた係合部『(スリット)』から構成される」「ことを特徴とする請求項1に記載のベッドにおける取付品支持位置可変機構。」と読み替えられる。

被告製品4は、上記の限定解釈によって加わった構成要件を充足しない。すなわち、被告製品4は、係合手段が複数の係合軸と1つの係合部(フック)で構成されており、また、係合軸が棒状部材の側面に、係合軸と係合する係合部(フック)が溝形部材の側面に設けられ、溝形部材が棒状部材の側面に設けた係合軸と衝突するのを回避すべく溝形部材にU字型の大きな切込み(係合部ではない。)を入れるという本件明細書2に開示されていない構成を採用している。

そして、被告製品4は、本件発明2-1及び2-5の構成要件を充足しない以上、構成要件2-6Bを充足せず、また、本件発明2-1、2-5及び2-6の構成要件を充足しない以上、構成要件2-7Bを充足しない。

したがって、被告製品4は、本件発明2の技術的範囲に属しない。

(7)争点2-2(本件特許2が特許無効審判により無効にされるべきものと認められるか。)について

(被告の主張)

本件特許2には、次のとおり無効理由があり、特許無効審判により無効にされるべきものである。

ア 無効理由2-1(米国特許発明1からの新規性欠如)

本件発明2-1及び2-5から2-7は、米国特許発明1と同一である。

すなわち、乙15公報の特許請求の範囲及び明細書には、ベッドフレームである第一の細長い要素の長手方向に第二の細長い要素を着脱可能に支持する構成とし、これらの細長い要素を係合させる動作において係合状態となる係合手段を構成する突起と係合部を設けると共に、前記係合手段が係合状態において螺合可能状態となる螺合手段を構成する雌ねじ部とねじを貫通させる孔を設け、係合と螺合の位置が細長い要素の長さ方向に複数構成することにより、ベッドにおける幅又は長さの可変機構の発明である米国特許発明1が記載されている。そして、「ベッドフレーム」の一般の語義及び用例に照らし、本件発明2にいう取付品支持部材及び溝形部材はベッドフレームを構成し、その一部である(本件明細書2にもこれを前提とした記載がある。)から、本件発明2の構成は、米国特許発明1の構成と一致する。米国特許発明1におけるベッドフレームには、ボード等取付品を支持する機能を有することが当然に想定されているから、本件発明2における取付品支持部材はこれに含まれるといえ、この取付品支持部材に相当するフレームに直角に固定された別のフレームは、溝形であっても良いこととされているから、本件発明2における溝形部材はこれに含まれる。そして、この溝形部材に相当するフレームには、本件発明2における棒状部材に相当する別のフレームを係合、螺合することができ、その位置は可変である。したがって、本件発明2の構成は、米国特許発明1と同一である。

イ 無効理由2-2(米国特許発明1からの進歩性欠如)

本件発明2-1及び2-5から2-7と、米国特許発明1との間で相違点があるとすれば、ベッドフレームを構成する部材にベッドフレームを構成しない取付品を着脱式に支持できるようにする構成が開示されているか否かという点である。しかし、ベッドフレームにボード等の部材を取り付けることは通常想定されており、上記の点は、出願当時、介護用ベッド業界において周知の構成であったから設計変更にすぎないし、仮にそうでないとしても、FB730/720は、ベッドフレームの一部である着脱可能な取付品支持部材にボード等の取付品を取り付ける構成、ベッドフレームに取付品支持部材を着脱する位置を複数設けることにより取付品支持位置を可変とし、ベッドの長さを変更することができる構成となっており、FB730/720において開示され公然実施されていた。したがって、これと米国特許発明1を組み合わせることにより上記相違点は解消され、当業者は、上記相違点に係る本件発明2-1及び2-5から2-7の構成に容易に想到し得たものであり、本件発明2-1及び2-5から2-7は進歩性を欠く。

すなわち、米国特許発明1やFB730/720において開示された構成は、いずれも、組立式ベッドにおいて、その大きさを変更するために交換用の部材が多く必要になるという課題を、部材を一部共通化することにより解決するものであり、技術分野、課題、作用及び機能を本件発明2と共通して有していること等に照らせば、米国特許発明1には、FB730/720を組み合わせることにより、本件発明2を想到する動機付けないし示唆が存在した。

ウ 無効理由2-3(サポート要件違反)

当業者は、本件明細書2の記載により本件発明2-1の課題を解決できると認識できるとはいえず、また、出願当時の技術常識に照らしても上記課題を解決できると認識できるともいえないから、本件発明2-1は、本件明細書2の発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえない。

すなわち、本件特許2の請求項1の記載からは、本件明細書2に記載されていない構成、例えば、突起が複数で係合部が1つしかない構成や係合手段の位置が溝形部材の側面に設けられた構成、更にこれらの構成を組み合わせた構成等幅広く考え得るが、これらの構成はそのままでは突起と他方の部材が衝突するなど係合が不可能であるにもかかわらず、本件明細書2は構成を実施するために必要な加工については何ら触れておらず、出願当時の技術常識によって補足しても、本件発明2-1の課題を解決することができると認識することはできない。

(原告の主張)

ア 無効理由2-1について

本件発明2-1には、米国特許発明1との間に相違点が存在し、本件発明2-1が新規性を欠くとはいえない。

米国特許発明1は、ベッドフレームをスライド式に延長可能としたものである。これに対し、本件発明2-1は、米国特許発明1とは技術思想を根本的に異にし、ベッドフレームとは別の部材である取付品支持部材の構造及び取付方法を工夫したベッドにおける取付品支持位置可変機構に係るものであり、ベッドフレームに着脱可能な取付品支持部材及びこれに突設する溝形部材、ベッドフレームと取付品支持部材とを係合、螺合する構成、取付品支持位置可変機構を有する構成を有する。

イ 無効理由2-2について

前記アの各相違点について、当業者が容易に想到し得たとはいえず、本件発明2-1及び2-5から2-7が進歩性を欠くとはいえない。

すなわち、従来技術やFB730/720においては、ベッドフレームとは別に取付品支持部材を設けることは開示されておらず、米国特許発明1にFB730/720を組み合わせたとしても、上記各相違点は解消されない。また、米国特許発明1とFB730/720は技術分野は同一ではあるものの、乙15公報にはベッドの大きさを変更するために交換用の部材が多く必要になるという課題は示されておらず、FB730/720から同課題を読み取ることは困難であるし、部材を一部共通化するといっても、その具体的適用場面、手段は異なっており、当業者には米国特許発明1にFB730/720を組み合わせる動機付けは存在しない。

ウ 無効理由2-3について

被告が主張するような本件明細書2に記載がない例についても、当業者は、出願時の技術常識に照らし、係合部(係合手段)を更に設けたり溝形部材の形状を変更したりすることにより、本件発明2-1の課題を解決できると認識できるから、本件特許2の特許請求の範囲の記載はサポート要件に違反しない。

(8)争点2-3(本件特許権2の侵害行為について被告に過失がなかったか。)について

-省略-

(9)争点2-4(損害の発生及び額、ないし、不当利得の発生及び額)について

-省略-

(10)争点2-5(原告が平成23年12月までに被告製品4の販売による損害の発生を知ったか。)について

-省略-

(11)争点3-1(被告製品6が本件発明3-1の技術的範囲に属するか、また、仕様変更前の被告製品6が本件発明3-2の技術的範囲に属していたか。)について

(原告の主張)

ア 本件発明3-1について

被告製品6は、下降スイッチの押し状態を継続してフレームを下降させた場合、フレームの床面高が中間停止位置である24cmになると下降を停止する(構成要件3-1F)ものであり、その他本件発明3-1の各構成要件を充足し、その技術的範囲に属する。このことに基づき、被告製品6の販売(仕様変更の前後を問わない。)について損害賠償を求めるとともに、その販売等の差止めを求める。

なお、構成要件3-1Fは、下降スイッチの押し状態が解除されない場合に中間停止位置における停止状態が継続することを意味するものではなく、構成要件3-1Gも、上記の停止後、下降スイッチの押し状態を解除して再度下降スイッチを押下した場合に「のみ」フレームを最低位まで下降させることを意味するものではなく、本件発明3-1は、上記の停止後、そのまま下降スイッチの押し状態が解除されずに継続した場合に、ブザーを鳴らしながらフレームを最低位まで下降させる構成を含むことを排除するものではない。本件特許3の特許請求の範囲の記載を限定解釈等する必要はない。なお、本件特許3の出願経過や無効審判手続において、一旦停止したフレームの下降動作再開の方法については何ら問題とされていなかった。

イ 本件発明3-2について

仕様変更前の被告製品6は、中間停止位置からごくわずかにフレームを上昇させた後に下降スイッチの押し状態を継続した場合、フレームを中間停止位置で停止させることなく下降させるもので、特定位置LSを具備する(構成要件3-2F及び3-2H)。その特定位置LSは、中間停止位置の1mmより上で3mmよりも低い位置の間(おそらく中間停止位置よりも2.2mm高い位置近傍)ものであり、その他本件発明3-2の各構成要件を充足し、その技術的範囲に属していた。このことに基づき、仕様変更前の被告製品6の販売について損害賠償を求める。

本件特許3の特許請求の範囲の記載は、これを限定解釈する必要はないし、仮に限定解釈する必要があるとしても、特定位置は、フレームと床との間に患者等の足が存在しても挟み込みが生じないような中間停止位置よりも若干高い位置と限定解釈すれば足り、特定位置を本件明細書3の実施例に記載された位置に限定する理由はない。そして、仕様変更前の被告製品6は、特定位置を具備するから、本件発明3-2の技術的範囲に属していた。

(被告の主張)

ア 本件発明3-1について

被告製品6は、構成要件3-1Fを充足しない。

すなわち、構成要件3-1F及び3-1G並びに本件明細書3の記載によれば、構成要件3-1Fは、下降スイッチの押し状態が解除されない場合には中間停止位置における停止状態が継続することを意味するものと限定解釈され、又は、包袋禁反言の法理から上記のように解釈すべきであり、時間経過やその他の条件によって下降スイッチの押し状態が解除されずに継続した場合にもフレームを再度下降させる構成を含む場合は含まれないというべきで、構成要件3-1Fは、「前記制御装置は、前記操作ボックスから下降信号が入力されたときに、」「前記操作ボックスの下降スイッチの押し状態が継続している間、前記フレームを下降させるが、」「前記フレームの上位置LHと下位置LLとの間の中間停止位置LMで前記下降スイッチが押し状態であっても前記フレームを一旦停止させ『(前記下降スイッチの押し状態が解除しない限り、再度、下降しないものであるが)』、」と読み替えられる。

そして、被告製品6は、中間停止位置における停止後、下降スイッチの押し状態を解除して再度下降スイッチを押下した場合にフレームを再下降させる構成とともに、上記の停止後、そのまま下降スイッチの押し状態が解除されずに継続した場合に、ブザーを鳴らしながらフレームを最低位まで下降させる構成を含むことから、限定解釈等によって加わった構成要件を充足せず、本件発明3-1の技術的範囲に属しない。

イ 本件発明3-2について

仕様変更前の被告製品6は、構成要件3-2F及び3-2Hを充足していなかった。

すなわち、構成要件3-2Fは、下降スイッチの押し状態が解除されない場合には中間停止位置における停止状態が継続することを意味するものと限定解釈され(前記ア)、また、構成要件3-2F及び3-2Hの特定位置は、本件発明3-2の請求項及び本件明細書3に矛盾する記載も存在し、その具体的位置が不明確であるものの、実施例の記載を考慮すれば、中間停止位置より10mm高い位置を意味するものと限定解釈され、結局、構成要件3-2Fは、「前記制御装置は、前記操作ボックスから下降信号が入力されたときに、」「前記操作ボックスの下降スイッチの押し状態が継続している間、前記フレームを下降させるが、」「そのときの前記フレームの位置が、前記上位置LHと前記中間停止位置LMとの間の『中間停止位置LMから10mm上方に離れた位置と』定められた特定位置LSかそれよりも高い場合に、前記フレームを降下させた後、前記中間停止位置LMで前記下降スイッチが押し状態であっても一旦停止させ、『(前記下降スイッチの押し状態が解除しない限り、再度、下降しないものであるが)』、」と読み替えられる。

そうすると、仕様変更前の被告製品6は、中間停止位置における停止後、下降スイッチの押し状態を解除して再度下降スイッチを押下した場合にフレームを再下降させる構成とともに、上記の停止後、そのまま下降スイッチの押し状態が解除されずに継続した場合に、ブザーを鳴らしながらフレームを最低位まで下降させる構成を含むことに加え、中間停止位置より5mm高い位置から下降させた場合にも中間停止位置で停止し、特定位置を具備していないことから、限定解釈によって加わった構成要件を充足せず、本件発明3-2の技術的範囲に属しない。

仮に、仕様変更前の被告製品6において中間停止位置からごくわずかにフレームを上昇させた後に下降スイッチの押し状態を継続した場合にフレームを中間停止位置で停止させることなく下降することがあったとしても、そのような動きは被告製品6において想定されたものでなく不具合というべきものである。被告は、同不具合を修正したプログラムを作成してこれをインストールし、被告製品6の仕様を変更した。

(12)争点3-2(本件特許3が特許無効審判により無効にされるべきものと認められるか。)について

(被告の主張)

本件特許3には、次のとおり無効理由があり、特許無効審判により無効にされるべきものである。

ア 無効理由3-1(本件発明3-1の米国特許発明2からの新規性欠如)

本件発明3-1は、米国特許発明2と同一である。

乙17公報には、スイッチの押し状態が継続している間だけ作動状態となり、スイッチの押し状態を解除(release)した場合には停止状態となる方式(モーメンタリスイッチ)を念頭に置いており、下降スイッチの押し状態を解除し、又は、センサーによりフレームが所定の位置まで下降したことを感知するまでは下降を続けるから、「操作ボックスの下降スイッチの押し状態が継続している間、フレームを下降させ」(構成要件3-1F)、「操作ボックスにおける下降スイッチの押し状態が解除され」る(構成要件3-1G)ことがある構成(構成要件3-1F及び3-1G)が記載されている。そして、乙17公報には、上記のセンサーによりフレームが所定の位置まで下降したことを感知した場合に、あらかじめ設定した下中間停止位置でフレームを停止させ、さらに、その後、スイッチが解除され、再作動(re-actuation)されると、制御システムを再作動させる(reactivate)と記載されているから、「フレームを一旦停止させ」る(構成要件3-1F)構成、「再度フレームの下降スイッチが押下された場合に更にフレームを下位置まで下降させる」(構成要件3-1G)構成が開示されている。また、乙17公報の記載や介護用ベッドで用いられるマットレスの通常の厚さ等に照らすと、下中間停止位置が床面から12cm以上の位置に設定されているということができ、米国特許発明2に係る特許の出願前に出願された複数の発明(特開2002-125808号公報(乙19)に記載された発明、特開平9-187336号公報(乙72)に記載された発明)において患者等の足を含む身体の一部の挟み込みを防止するための対策がされ、米国特許発明2においてもこの点を念頭に置いていたことは明らかであるから、「フレームと床との間に(利用者の)足が存在しても、挟み込みが生じないような高さである」(構成要件3-1H)構成も開示されている。

イ 無効理由3-2(本件発明3-1の米国特許発明2からの進歩性欠如)

米国特許発明2に、中間停止位置が、フレームと床との間に患者等の足が存在しても挟み込みが生じないような高さである(構成要件3-1H)という構成が開示されていないとしても、米国特許発明2に上記構成を適用することは、技術の具体的な適用に伴う設計変更にすぎず、当業者は、上記相違点について容易に想到し得たから、本件発明3-1は進歩性を欠く。

すなわち、患者等の足の挟み込み防止のためにベッドフレームと床との間に一定の高さの空間を設けるという技術仕様は、平成12年7月に製品安全協会が作成した日本国内の電動介護用ベッドの安全性に関する基準である「電動介護用ベッドの認定基準及び基準確認方法」(乙18。以下「SG基準という。」)等にも示されており、当業者に周知であったから、当業者が米国特許発明2を実施するに当たって任意に設定可能な下中間位置を足の挟み込みが生じないような高さに設定することは、技術の具体的な適用に伴う設計変更によって可能であったし、仮にそうでないとしても、米国特許発明2に、本件特許3の出願当時開示されていた介護用又は医療用ベッドにおいて人の挟み込みを防止するために器具の昇降を一定の高さで停止する技術(特開2002-125808号公報(乙19)に記載された技術、実開昭61-63205号公報(乙20)に記載された技術)を組み合わせることにより、容易に想到し得た。

ウ 無効理由3-3(本件発明3-2のサポート要件違反)

本件明細書3には、本件発明3-2の課題を解決することができない実施態様で特定位置LSを設ける構成が記載されており、当業者は、出願当時の技術常識で補足しても、上記課題を解決できると認識できないから、本件発明3-2は、本件明細書3の発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえない。

すなわち、本件明細書3は、中間停止位置LMについて更にフレームを下降させると足を挟み込んでしまうような位置であるとしながら、「中間停止位置LMよりも若干高い位置である」特定位置LS(例えば、中間停止位置LMより10mm高い位置であるとされている。)について、これより低い位置からフレームを下降させる場合には「中間停止位置LMで停止しなくても、足の挟み込みが生じる虞はな」いと中間停止位置LMが担う足の挟み込み防止機能を一部無効化する矛盾した説明をしており、同記載から特定位置LSを特定することは困難である。

エ 無効理由3-4(本件発明3-2の明確性要件違反))

本件発明3-2は、本件明細書3に、本件発明3-2の課題を解決することができない実施態様で特定位置LSを設ける矛盾した構成が記載されており、明確であるとはいえない。

(原告の主張)

ア 無効理由3-1について

本件発明3-1には、米国特許発明2との間に相違点が存在し、新規性を欠くとはいえない。

すなわち、乙17公報には、ベッド制御のための手動入力を最小限に抑えながら操作者にとって便利な高さにフレームを移動させるという観点から、一度スイッチを押すと作動状態になり、スイッチの押し状態を解除したとしても、作動状態を保持する動作方式(オルタネイトスイッチ)が採用され、また、下中間位置及び上中間位置が定められ、フレームの移動は下中間位置又は上中間位置で自動的に終了し、下中間位置より下方又は上中間位置より上方に継続して移動することを志向していないことから、本件発明3-1において採用しているスイッチの押し状態が継続している間だけ作動状態となり、スイッチの押し状態を解除した場合には停止状態となる方式(モーメンタリスイッチ)に係る「操作ボックスの下降スイッチの押し状態が継続している間、フレームを下降させ」(構成要件3-1F)、「操作ボックスにおける下降スイッチの押し状態が解除され」る(構成要件3-1G)ことがある構成は開示されていないし、「フレームを一旦停止させ」る(構成要件3-1F)構成、「再度フレームの下降スイッチが押下された場合に更にフレームを下位置まで下降させる」(構成要件3-1G)構成、中間停止位置について「フレームと床との間に(利用者の)足が存在しても、挟み込みが生じないような高さである」(構成要件3-1H)構成は記載されていない。なお、米国特許発明2に係る特許の出願当時、電動介護用ベッドについて患者等の足の挟み込み防止の対策はされていなかったし、同特許の出願前に出願された複数の発明に係る明細書にこの点に係る記載はない。

イ 無効理由3-2について

中間停止位置が、フレームと床との間に患者等の足が存在しても挟み込みが生じないような高さである(構成要件3-1H)という相違点について、当業者が容易に想到し得たとはいえず、本件発明3-1が進歩性を欠くとはいえない。

米国特許発明2は、ベッド制御のための手動入力を最小限に抑えながら操作者にとって便利な高さにフレームを移動させるための技術であり、患者等の足の挟み込み防止という課題を解決するものではなく、介護用ベッドに求められるものとは根本的な思想、機能を異にする上、実施例における最下位置のフレーム下面の床上高さは120mm未満となり、SG基準を満たさないから、そもそも当業者が乙17公報を主引用例とすることはない。また、被告が指摘する本件特許3の出願当時開示されていた介護用又は医療用ベッドに係る技術は、足の挟み込みの防止を課題とするものではないから、当業者が米国特許発明2明にその技術を組み合わせる動機付けは存在しない。

ウ 無効理由3-3について

当業者は、本件明細書3の記載に基づき、フレームと床との間に患者等の足が存在しても挟み込みが生じないような高さである中間停止位置LMより若干高い位置に特定位置LSを設定することにより本件発明3-2の課題を解決できると認識できるから、本件特許3の特許請求の範囲の記載はサポート要件に違反しない。

エ 無効理由3-4について

本件発明3-2は明確であり、本件特許3の特許請求の範囲の記載は明確性要件に違反しない。

(13)争点3-3(本件特許権3の侵害行為について被告に過失がなかったか。)について

-省略-

(14)争点3-4(損害の発生及び額)について

-省略-

(15)争点3-5(廃棄の必要性)について

-省略-

7.第3 本件特許1に関する当裁判所の判断

1 本件発明1について

(1)本件明細書1の発明の詳細な説明には、次のとおりの記載がある。なお、図面は別紙図面「本件特許1」記載のとおりである。(甲4)

-省略-

(2)本件明細書1の記載によれば、本件発明1は、次のような技術的意義を有すると認められる。

従来、ベッドは、所定の規格を基に形成されており、例えば身長が高すぎて上記の規格のベッドでは適合しない使用者もいることから、予めフレーム全長を通常の寸法規格よりも長く設定しておき、足側床部に、延長用床部をボード取付け部の目板を利用して取り付けて対処してきた。しかし、背上げ、膝上げ機構を備えたベッドにあってはギャッチ操作を行なうと、延長用床部は、足側床部と分離しているために起伏することはなく、フレーム側に保持され取り残されたままとなり、足側床部と延長用床部とが離隔状態となって違和感があった。また、本来ボードを取り付ける目板を使用して足側床部に延長用床部を継ぎ足すため、外観上の問題もあった。(段落【0002】【0003】)

そこで、本件発明1は、寸法規格の異なる足側のフレームを用意しておき、ベッドにおけるフレーム構造を、フレームを使用者の体格に対応させるために、フレームの一部を異なった長さの交換装着用フレームに置き換え可能に構成し(本件発明1-1)、また、足側床板に対応する足側フレームを異なった寸法規格のものに交換装着可能に構成すること(本件発明1-2)により、ベッドを延長したときの外観が向上するという効果を奏するようにした(段落【0003】【0004】)。また、足側床板に、マットレス保持枠をフットボード側に指向して突設する一方、このマットレス保持枠に、延長マットレスを載置して、床部のギャッチ操作を行うようにする構成(【請求項3】)により、上記ギャッチ操作時の違和感を解消した。

2 争点1-1(被告製品3及び5が本件発明1の技術的範囲に属するか。)について

(1)ア 構成要件1-1Bは、「床板を支えるフレームを、使用者の体格に対応させるべく、フレームの一部を異なった長さの交換装着用フレームに置き換え可能に構成した」というものである。この文言から、本件発明1-1のフレーム構造は、「フレームの一部」について、その「フレームの一部」とは長さが異なり、装着することによってフレームを構成することとなる「交換装着用フレーム」に交換することができるように構成されているものと理解することができる。また、「使用者の体格に対応させるべく」とされていることから、「交換装着用フレーム」は使用者の体格に対応させるために用意されているものといえる。

構成要件1-2Bは、「床板を支えるフレームのうち、足側床板に対応する足側フレームを、使用者の体格に対応して、異なった寸法規格のものに、交換装着可能に構成した」というものである。この文言から、本件発明1-2のフレーム構造は、フレームのうちの「足側床板に対応する足側フレーム」について、それとは異なった寸法規格の「足側フレーム」に交換することができるように構成されているものと理解することができる。また、「使用者の体格に対応して」とされていることから、異なった寸法規格の「足側フレーム」は使用者の体格に対応させるために用意されているフレームであるといえる。

イ 特許請求の範囲には、「使用者の体格に対応」させるために用意されるフレーム(「交換装着用フレーム」(構成要件1-1B)、「足側フレーム」(構成要件1-2B))について、交換装着前のフレームの長さとの関係で特定のものに限定する記載はない。本件明細書1には、従来の技術として身長が高すぎる使用者のためにあらかじめフレーム全長を通常の寸法規格より長く設定していたこと等やこれに伴って解決すべき課題が生じていたことの記載がある(段落【0002】【0003】)が、本件発明1は、そのような課題を解決するために「寸法規格の異なる足側のフレームを用意しておき、使用者の体格、すなわち身長に応じて、適合する足側のフレームを選択的に装着するようにした」もの(段落【0003】)であって、寸法規格の異なるフレームを用意し、選択的に装着することで課題を解決したことが記載されており、用意されるフレームが交換装着前のフレームとの関係で特定の長さに限定される記載はない。また、発明の実施の形態として、使用者の身長が通常より高い場合に対応した足側フレームを装着した場合のフレーム構造が示された上で、これを「通常規格のものに置き換える場合」が示され(段落【0005】~【0009】)、本件発明1により「使用者の身長に応じてその身長に適合した足側フレーム…を交換装着して対応させるようにした」(段落【0011】)と記載されている。これらの特許請求の範囲の記載及び本件明細書1の記載によれば、「使用者の体格に対応」させるために用意されるフレームとは、使用者の体格に適合させるために用意されるフレームを意味するが、その用意されるフレームは、通常より身長が高い使用者に適合させる場合に用意されるフレームのみに限定されるものではないと解される。被告は、「体格に対応させる」とは、通常より身長の高い使用者に適合させるために通常のサイズのフレームを長いものに置き換える構成を意味すると主張するが、上記に照らし、採用できない。

また、本件発明1-1の特許請求の範囲には、フレームの交換を可能にするフレームの構成やフレームの結合に係る機構を特定のものに限定する記載はない。そして、本件明細書1の記載に照らせば、本件発明1は、床板を支えるフレームを、その一部を異なる長さのフレームに交換可能に構成するという構成をとり、従来のベッドにおいて長さを延長した場合に生じていた外観上の問題等を解消することによって課題を解決するものであり(段落【0002】~【0004】【0014】)、特許請求の範囲に記載された本件発明1-1の上記構成は、そのような課題を解決するための物の構成であることを理解することができる。フレームの交換を可能とするためのフレームの構成やフレームの結合に係る機構自体は、当業者が分割されたフレームの構成を公知の固定手段を用いて結合するなど適宜工夫すれば足りるというべきものであり、本件明細書1に、それらの機構が本件明細書1に記載されたものに限定されることを示唆等する記載もない。被告は、本件発明1について、本件明細書1に記載された具体的な構成に限定して解釈されるべきであると主張し、本件発明1-1について、「ベッド等において、」「『延長用床部に相当するマットレス保持枠を、ギャッチ操作可能な足側床板に突設し、』」「床板を支えるフレームを、使用者の体格に対応させるべく、」「『足側又は頭側フレームの先端に係止部を1箇所設け、』」「『中間部フレームに、この係止部を係止させるためのピンを1箇所設け、』」「『足側フレーム又は頭側フレームを、中間部フレームに、床板幅方向外側から挟み込むようにして係止させ、これらをボルトで1箇所螺着させて固定する手段によって、』」「フレームの一部を異なった長さの交換装着用フレームに置き換え可能に構成した」「ことを特徴とするベッド等におけるフレーム構造」と限定して解釈されるべきであると主張するが、上記に照らして、採用することができない。

また、被告は、本件発明1-2について、本件発明1-1と同様に本件明細書1に記載された具体的な構成に限定して解釈されるべきであると主張するが、上記と同様の理由により採用できない。

(2)被告製品3及び5について

前提事実、証拠(各項末尾に掲記)及び弁論の全趣旨によれば、次の各事実が認められる。

ア 被告は、平成19年11月に被告製品3のレギュラータイプの販売を、平成21年11月にショートタイプの販売をそれぞれ開始した。

被告製品3は、主に、①ベースフレーム、②センターフレーム及び腰ボトム、③ヘッドフレーム及びフットフレーム、④背ボトム及びひざ脚ボトム並びに⑤ヘッドボード及びフットボードの5つの構成品群から構成され、これらがベッド本体を購入する際の最小の単位となっている。床板(ボトム)を支えるフレームのうちヘッドフレーム及びフットフレーム(③)、背ボトム及びひざ脚ボトム(④)並びに各ボード(⑤)についてレギュラータイプのベッド及びショートタイプのベッドに対応した長さ等の異なる2種類があり、購入したのとは異なるタイプのベッドに対応したフットフレーム等の交換用パーツを別途購入などし交換してセンターフレームに装着すること等によりベッドの長さを変更することが可能である。(甲14)

被告は、ベッドのタイプを変更するための交換用パーツのみを別途販売していた。(乙212、251~254)

被告製品3の取扱説明書等では、「適合周辺機器」のうちマットレスについて、レギュラータイプのベッドには長さ190から195cmのものが、ショートタイプのベッドには長さ180から183cmのものが推奨されていた。(甲14、乙84~89)

平成24年の被告製品の総合カタログでは、医療介護ベッドとして、まず新商品である被告製品4が紹介され、引き続いて被告製品3が紹介されている。その被告製品4の部分において、特徴の1つとして、「使用される方の身長やお部屋の大きさに合わせ、レギュラーサイズとショートサイズをご用意しました。背ボトム・脚ボトムのみの購入で、全長サイズをレギュラーサイズからショートサイズへ切替が可能。」などと記載されていた。それに引き続いて紹介された被告製品3の紹介では、仕様として、「レギュラータイプ」、「ショートタイプ」があることや、それぞれの全長が記載されていた。(甲55)

ウ 被告は、平成26年9月に、「ミオレット」という名称である被告製品3の後継製品であり、「ミオレットⅡ」という名称である被告製品5のレギュラータイプ及びショートタイプの販売を開始し、被告製品3の販売は同年12月から平成27年11月までの間に終了した。(乙121)

被告製品5は、主に、①ベースフレーム、②センターフレーム、③ヘッドフレーム及びフットフレーム、④背ボトム、腰ボトム及びひざ脚ボトム並びに⑤ヘッドボード及びフットボード又はヘッドボード2つの5つの構成品群から構成され、これらがベッド本体を購入する際の最小の単位となっている。床板(ボトム)を支持するフレームのうちヘッドフレーム及びフットフレーム(③)並びに背ボトム及びひざ脚ボトム(④)についてレギュラータイプのベッド及びショートタイプのベッドに対応した長さの異なる2種類があり、購入したのとは異なるタイプのベッドに対応したフットフレーム等の交換用パーツを別途購入するなどし交換してセンターフレームに装着すること等によりベッドの長さを変更することが可能である。(甲16)

被告は、ベッドのタイプを変更するための交換用パーツのみを別途販売していた。(乙212、251~254、弁論の全趣旨)

平成26年頃の被告製品5のカタログには、「使用される方の身長やお部屋の大きさに合わせ、レギュラーサイズとショートサイズをご用意しました。全長サイズをレギュラーサイズからショートサイズへ切替が可能。※背ボトム・ひざ脚ボトム・ヘッドフレーム・フットフレームの交換が必要となります。」と記載されていた。平成27年から平成29年の被告製品の総合カタログの被告製品5の部分には、使用者の体格や部屋の大きさに対応して2種類のサイズが用意されている旨の記載は見られないが、被告製品5の前に紹介されている被告製品4の部分には、特徴の1つとして、平成26年頃の被告製品5のカタログにおける上記記載と同様の記載がされており、また、平成29年7月13日時点において被告のウェブサイトに掲載されていた被告製品5の製品紹介部分にも、「使用される方の身長やお部屋の大きさに合わせ、レギュラーサイズとショートサイズをご用意しました。全長サイズをレギュラーサイズからショートサイズへ切替が可能。※背ボトム・ひざ脚ボトム・ヘッドフレーム・フットフレームの交換が必要となります。」との記載がされていた。(甲19、63、乙121~124)

被告製品5の取扱説明書等では、「適合周辺機器」のうちマットレスについて、レギュラータイプのベッドには長さ190から192cmのものが、ショートタイプのベッドには長さ182cmのものが推奨されていた。(甲17、乙121~124)

(3)被告製品3が本件発明1の技術的範囲に属するかについて

被告製品3については、平成21年11月にショートタイプの販売が開始され、床板(ボトム)を支えるフレームのうちヘッドフレーム及びフットフレームについてレギュラータイプ及びショートタイプに対応した長さの異なる2種類が用意されることとなり、これらを交換してセンターフレームに装着することによりベッドの長さを変更することが可能となった。そして、被告製品3のレギュラータイプとショートタイプは別の製品として販売されているが、それらに加えて、ベッドのタイプを変更するための交換用パーツ(フットフレームを含む。)がベッド本体とは別に販売されていた(前記(2)ア)。したがって、ショートタイプの販売が開始された後の被告製品3は、レギュラータイプ又はショートタイプのいずれのベッドについても、フットフレームを含むフレームの一部について、あらかじめ用意された長さの異なる交換装着用フレームに選択的に交換装着することが想定された製品であったと認められる。

被告製品3について、レギュラータイプとショートタイプの2種類のタイプのベッドが用意されている理由について、それが体格に応じたものであることはカタログ等に直接明記はされていないが、平成24年には、被告製品3と被告製品4がいずれも販売されていたところ、当時の被告製品の総合カタログでは、被告製品4について、特徴の1つとして、使用者の身長や部屋の大きさに対応してレギュラーサイズとショートサイズの2種類のタイプのベッドが用意されている旨が記載され、被告製品3は被告製品4に引き続いて紹介され、被告製品3に「レギュラータイプ」と「ショートタイプ」があることやそれぞれの全長が明記されていて(同イ)、上記の記載内容から、被告製品3の「レギュラータイプ」、「ショートタイプ」が使用者の身長に対応するものであることが読みとれるといえる。また、平成26年以降のカタログ等では、被告製品3(「ミオレット」)の後継製品である被告製品5(「ミオレットⅡ」)について、身長に応じてレギュラーサイズとショートサイズがある旨の記載がされている(同ウ)。なお、被告は、その記載が不正確であったなどと主張するが、理由がない。

これらからすると、被告製品3についてのみ、被告製品4や被告製品5とは別の理由で2種類のベッドが用意されていたとは考え難く、被告製品3についても使用者の身長に対応して2種類のタイプのベッドが用意されていたものと認められるなお、被告製品4や被告製品5について、2種類のタイプのベッドが用意されていることについて、部屋の大きさに合わせて選択できる旨の記載があるが、2種類のタイプのベッドが用意されたことの理由の1つとしてそのような理由があったとしても、このことは、被告製品3において2種類のタイプのベッドが用意された理由として、体格に応じて選択できるという理由があるとの上記の認定を左右するものではない

以上によれば、被告製品3は、床板を支えるフレームについて、使用者の体格に対応させるために、レギュラータイプのベッドについてはそのフレームの一部であるヘッドフレーム又はフットフレームを、ショートタイプに変更するための異なった長さの交換用パーツのヘッドフレーム又はフットフレームに交換して装着可能であり、ショートタイプのベッドについては、そのフレームの一部であるヘッドフレーム又はフットフレームを、レギュラータイプに変更するための異なった長さの交換用パーツのヘッドフレーム又はフットフレームに交換して装着可能なものであり、「床板を支えるフレームを、使用者の体格に対応させるべく、フレームの一部を異なった長さの交換装着用フレームに置き換え可能に構成し」(構成要件1-1B)たものであるといえる。そして、被告製品3はベッドであり(構成要件1-1A)、フレーム構造(構成要件1-1C)を有するから、本件発明1-1の技術的範囲に属する。

また、被告製品3は、床板を支えるフレームについて、使用者の体格に対応させるために、レギュラータイプのベッドについてはその足側床板に対応するフットフレームを、ショートタイプに変更するための異なった長さの交換用パーツのフットフレームに交換して装着可能であり、ショートタイプのベッドについては、その足側床板に対応するフットフレームを、レギュラータイプに変更するための異なった長さの交換用パーツのフットフレームに交換して装着可能なものであり、「床板を支えるフレームのうち、足側床板に対応する足側フレームを、使用者の体格に対応して、異なった寸法規格のものに、交換装着可能に構成した」(構成要件1-2B)ものといえる。そして、被告製品3はベッドであり(構成要件1-2A)、フレーム構造(構成要件1-2C)を有するから、本件発明1-2の技術的範囲に属する。

(4)被告製品5が本件発明1の技術的範囲に属するかについて

被告製品5については、平成26年9月にレギュラータイプ及びショートタイプの販売が開始され、床板(ボトム)を支えるフレームのうちヘッドフレーム及びフットフレームについてレギュラータイプ及びショートタイプに対応した長さの異なる2種類が用意されることとなり、これらを交換してセンターフレームに装着することによりベッドの長さを変更することが可能となった。被告製品5のレギュラータイプとショートタイプは別の製品として販売されているが、ベッドのタイプを変更するための交換用パーツ(フットフレームを含む。)もベッド本体とは別に販売されていた(前記(2)ウ)から、被告製品5は、レギュラータイプのものについても、ショートタイプのものについても、フットフレームを含むフレームの一部を、あらかじめ用意された長さの異なる交換装着用フレームに選択的に交換装着することが想定された製品であったと認められる。

そして、上記のフレーム構造について、平成26年頃のカタログ等では、被告製品5について、使用者の身長や部屋の大きさに対応して2種類のタイプのベッドが用意されている旨記載されている。

以上によれば、被告製品5は、本件発明1-1及び1-2との関係では、被告製品3と同様の構成を有するものであり、ベッドにおいて(構成要件1-1A及び1-2A)、「床板を支えるフレームを、使用者の体格に対応させるべく、フレームの一部を異なった長さの交換装着用フレームに置き換え可能に構成し」(構成要件1-1B)、また、「床板を支えるフレームのうち、足側床板に対応する足側フレームを、使用者の体格に対応して、異なった寸法規格のものに、交換装着可能に構成した」(構成要件1-2B)ことを特徴とするベッドのフレーム構造(構成要件1-1C及び1-2C)を具備していると認められる。したがって、被告製品5は本件発明1-1及び1-2の技術的範囲に属すると認められる。

3 争点1-2(本件特許1が特許無効審判により無効にされるべきものと認められるか。)のうち無効理由1-1(マッケ1120からの新規性欠如)及び1-2(マッケ1120からの進歩性欠如)について

(1)マッケ1120について

ア マッケ手術台システム1120は、昭和63年9月頃までには、発表され、発売されていた手術台である。

マッケ手術台システム1120は、そのカタログ(乙5)等によれば、手術室中央に設置される手術台支柱(コラム)、着脱式テーブルトップ(床板)等によって構成され、患者取扱い上の優れた機能性、手術室スペースの有効利用、互換性のあるテーブルトップによる機能的な手術室運営等を可能にするという特徴を有する手術台システムである。(乙5(2頁))

マッケ手術台システム1120には、テーブルトップの構成等を異にする複数の製品があるが、マッケ1120はこのうちユニバーサルテーブルトップとされているもの(型番1120.21-B)である。(乙4(7、10頁)、乙5(2~6頁)、6、7、28(6頁))

イ マッケ1120のテーブルトップは、背板上部(頭板)、背板下部、座板2枚(上下)、上部足板2枚(左右)、下部足板2枚(左右)の8セクション(付属品の頭板を含めると9セクション)によって構成され、その一部を取り外し、又は、角度をつけて取り付けるなどすることができる。それにより、患者に解剖学的に必要なあらゆる手術姿勢を取らせ、手術に携わる医療従事者は障害なく術野に接近することが可能となり、外科手術の大半を処理できる。(乙5(2、4、6頁)、7(2頁)、28(6頁))

なお、マッケ1120には、手術台全体を形作るフレーム(骨組み)は存在せず、一部のテーブルトップに付属品を取り付けるためのレールが具備されているにとどまる。(乙4~6、7(2頁)、28)

ウ マッケ1120におけるテーブルトップの配置として、マッケ1120の使用説明書(乙7)等によれば、次のようなものがあった。

まず、基本的な配置として、背板と足板の位置を入れ替える2とおりの取付方法により、エックス線検査を施す部位が支柱の上に来ないように調節することができる。(乙7(7頁))

頭部外科手術等の際には、支柱の上に背板を配置する取付方法によった上、足板の代わりに付属品であるサポートアームのついた短い背板(長さ360mm)を座板に取り付け、患者を、上半身がオプションの短い背板側に、下半身が背板側に来るように寝かせることができる。この場合において、患者の身長が非常に高いときには、背板の先に更に付属品の頭板を取り付けることができる。(乙7(8頁)、28(3、4、20頁)。なお、乙7における短い背板は乙28における背板(短)(型番1005.59)と類似のものと推認される。他方、乙7における頭板(型番1002.73)は、乙28(18頁)における頭板(型番1002.86)、乙45(25頁)における頭板(型番1002.73AO)等と類似のものである可能性があるが、その形状等は不明である。)

また、施術のため、座板と足板の間に、補助部材(ソケット)を取り付けることができる。載石位による手術の場合、ソケットに付属品の膝支えを取り付けて患者の足を膝支えに乗せた上で、足板を取り外し、手術を行う。下腹部及び会陰部同時手術の場合には、事前に足板を取り外した上で、ソケット及び膝支えを取り付け、膝支えを水平以下の位置に調節して、手術を行う。(乙6、7(9頁)、28(15頁)。なお、乙7におけるソケット(型番1003.30)は乙5及び28におけるソケット(型番1003.20A)と類似のものと推認される。)

このほか、付属品の頭板として、形状等の異なる複数のもの(背板と連続性のあるもの、高さ調整が可能であるもの、細い幅のもの等)が存在する(長さ250mm~260mm)。(乙28(3、18頁))

エ マッケ・ゲティンゲ株式会社が、不明の時期に製造、販売していた「アルファマッケ万能テーブルトップ1150.30」という製品のカタログには、同製品の特徴として、多様な分割テーブルトップを選択することにより手術台を患者の身長に適した長さに調整することができるなどと記載されている。(乙29)

(2)マッケ1120に係る発明、同発明と本件発明1-1との対比

ア マッケ1120に係る発明の内容

前記(1)によれば、手術台において、人を乗せる部分のテーブルトップを、背板上部(頭板)、背板下部、座板2枚(上下)、上部足板2枚(左右)によって構成し、手術部位に応じた患者の体位や術野を確保するため、①背板と足板の位置を入れ替えること、②足板の代わりに短い背板(長さ360mm)を座板に取り付けること、③背板に複数の種類の頭板を取り付けること、④座板と足板の間に補助部材であるソケットを取り付けること等を可能とする手術台の構造の発明と認められる。

イ 一致点

ベッド等において、人を乗せる部分の支持部材を、支持部材の一部を異なった支持部材に置換え又は交換装着可能に構成したことを特徴とするベッド等における支持部材の構造。

ウ 相違点1

本件発明1-1においては、上記の支持部材は、床板を支えるフレームであるのに対し、マッケ1120においては、上記の支持部材は、床板そのものであり、これとは別にフレームに相当する部分は存在しない点。

エ 相違点2

本件発明1-1においては、支持部材の置換え又は交換は、「使用者の体格に対応させるべく」されるものであるのに対し、マッケ1120においては、専ら手術部位に応じた患者の体位や術野を確保するためにされるものであり、患者の身長に応じてされるものであるとは認められない点。

オ 相違点3

本件発明1-1においては、支持部材の一部を異なった長さ又は寸法規格のものに置き換え又は交換するのに対し、マッケ1120においては、①背板と足板の位置を入れ替えること、②足板の代わりに短い背板(長さ360mm)を座板に取り付けること、③背板に複数の種類の頭板を取り付けること、④座板と足板の間に補助部材であるソケットを取り付けること等を可能にするものである点。

カ マッケ1120に係る発明の内容及び相違点2及び3の認定について

マッケ1120の使用説明書(乙7)には、患者の身長が高いときに背板に付属品の頭板を取り付けることができるとする記載がある。もっとも、これは、床板を付加するものであって、支持部材を置き換え又は交換するものではない。

また、ハンセン・マッケ株式会社に勤務していたAは、マッケ1120について、各病院は、各テーブルトップを個別に購入して保管しており、医療従事者は患者の身長に応じてテーブルトップを適宜組み合わせて使用していた旨陳述する(乙75)。しかし、マッケ1120のカタログ(乙4、5)にそのような使用例の説明はなく、また、使用説明書(乙7)等にもそのような使用例に関する説明は全くない。このことを考慮すると、上記のような使用例に係る構成が、マッケ1120において開示されていたとは直ちに認められない。

なお、「アルファマッケ万能テーブルトップ1150.30」のカタログには、テーブルトップの選択により手術台を患者の身長に適した長さに調整することができる旨の記載はある。しかし、同製品が製造、販売されていた時期は不明である上、これは、マッケ1120とは異なる製品についての記載であり、これによって、マッケ1120について、選択によって身長に適した長さに調整する構成が開示されていたとは認められない。

以上によれば、マッケ1120においては、床板の交換は、専ら手術部位に応じた患者の体位や術野を確保するためにされるものであり、患者の身長に応じてされるものであるとは認められず、相違点2が認められる。

また、相違点3に係るマッケ1120の構成について、マッケ1120はもともとの構成部分である床板の位置を入れ替えるものにすぎず(相違点3の①)、足板と短い背板が異なる長さの床板であるとは認めるに足りない(足板の代わりに短い背板を取り付ける配置は、患者を上下逆に乗せる場面で用いられていることから、左右2枚の床板から成る足板の代わりに1枚の背板を取り付けて患者の上半身を確実に支えることを目的としているものとも考えられ、テーブルトップの長さを変更する必要性は存在しない。相違点3の②)。また、付属品である頭板はもともとの構成部分に付加するものであって、置き換え又は交換するものではない上、異なる長さのものが複数用意されているとは認められず(相違点3の③)、補助部材であるソケットは床板ではない上、付加するものであって、置き換え又は交換するものではなく、手術台の長さを変更するための部材であるとも認められない(相違点3の④)。

(3)相違点の容易想到性について

マッケ1120は、専ら手術部位に応じた患者の体位や術野を確保するために支持部材の一部である床板を置き換え又は交換することがあるものである。そして、マッケ1120では、床板について、床板の一部を同種の長さの異なる床板への交換がされることは想定されておらず、また、そのことについての示唆があるわけではない。そうすると、少なくとも、マッケ1120に接した当業者が相違点3に係る本件発明1-1の構成に至る動機付けがあるとはいえず、その構成を容易に想到できたとはいえない。

(4)マッケ1120に係る発明と本件発明1-2との対比

本件発明1-2とマッケ1120との間には、本件発明1-1と同様の相違点1及び2があるほか、相違点3として、本件発明1-2においては、足側の支持部材を異なった長さ又は寸法規格のものに置き換え又は交換するのに対し、マッケ1120においては、①背板と足板の位置を入れ替えること、②足板の代わりに短い背板(長さ360mm)を座板に取り付けること、③背板に複数の種類の頭板を取り付けること、④座板と足板の間に補助部材であるソケットを取り付けること等を可能にするものである点がある。そして、本件発明1-1について述べたのと同様の理由により、少なくとも、マッケ1120に接した当業者が上記相違点3に係る本件発明1-2の構成に至る動機付けがあるとはいえず、その構成を容易に想到できたとはいえない。

(5)以上によれば、本件発明1とマッケ1120に係る発明との間には相違点があり、本件発明1がマッケ1120に係る発明により新規性を失うとはいえず、無効理由1-1についての被告の主張は採用できない。また、当業者においてマッケ1120に係る発明に基づいて容易に本件発明1を想到することができたとは認められず、無効理由1-2についての被告の主張は採用できない。

4 争点1-2(本件特許1が特許無効審判により無効にされるべきものと認められるか。)のうち無効理由1-3(キューマアウラベッドからの新規性欠如)及び無効理由1-4(キューマアウラベッドからの進歩性欠如)について

(1)キューマアウラベッドについて

ア キューマアウラベッド(全長206cm)は、原告によって、平成9年2月に発表され、同年4月から販売された組立式の介護用ベッドであり、駆動部、アクセサリフレーム(頭側及び足側)、ベースフレーム、ボトム(背ボトム、背湾曲ボトム、腰ボトム、足ボトムセット)、ボードセット(ヘッドボード及びフットボード)から構成されており、駆動部、アクセサリフレーム及びベースフレームを組み立てることにより全体としてのボトム(床板)を支える1つのベッドフレームとして機能する。具体的には、まず、ベースフレームに駆動部を取り付け、駆動部の両端(頭側及び足側)にそれぞれアクセサリフレームを、ボルトで係止し固定する方法により取り付ける。頭側フレームと足側フレームは長さが異なっており、これらを入れ替えることはできない。(乙11)

イ 平成9年7月に作成された原告の総合カタログには、キューマアウラベッドの付属品として延長用フレームが掲載され、「ベッドの全長を14cm長くできます。長身の方にも余裕をもってベッドをお使いいただけます。」と紹介されている。延長用フレームの出荷開始予定日は同年8月18日とされていた。

また、原告は、平成14年11月頃から、キューマアウラベッドのミニサイズ(全長194.5cm)を製造、販売するようになった。

(本項につき、甲40、乙12(232頁)、13)

(2)キューマアウラベッドに係る発明、同発明と本件発明1-1との対比

ア キューマアウラベッドに係る発明の内容

キューマアウラベッドに係る発明は、ベッドにおいて、ボトム(床板)を支えるフレームがアクセサリフレーム(頭側及び足側)とベースフレームという2つのフレームを組み立てる構成のフレーム構造の発明と認められる。

イ 一致点

ベッド等において、床板を支えるフレームを、複数の部材を組み立てる構成としたことを特徴とするフレーム構造。

ウ 相違点

本件発明1-1においては、使用者の体格に対応させるため、フレームの置換え又は交換を可能としているのに対し、キューマアウラベッドにおいては、フレームの置換え又は交換を想定しておらず、そのような交換をすることを可能にする構成があるとはいえない点。

エ キューマアウラベッドに係る発明の内容及び相違点の認定について

キューマアウラベッドは、原告によって、平成9年2月に発表され、同年4月から販売された組立式の介護用ベッドである。しかし、その頃、キューマアウラベッドにおいて、フレームの置換え又は交換が可能であったことを認めるに足りる証拠はない。同年7月に作成された原告の総合カタログには、キューマアウラベッドの付属品として延長用フレームが掲載されているが、その構成等が必ずしも明らかではないほか、その総合カタログは、本件発明1に係る本件特許1の出願日である同年6月24日より後に作成されたものであり、その出願日より前に、キューマアウラベッドにおいて、延長用フレームがあったことや、フレームの置換え又は交換を想定していたことを認めるに足りる証拠はない。したがって、本件特許 1 の出願日前のキューマアウラベッドにおいては、フレームの置換え又は交換を想定していないと認められ、上記相違点が認められる。

(3)相違点の容易想到性について

キューマアウラベッドは、フレームを複数の部材を組み立てる構成としているものの、使用者の体格に対応するためにフレームの一部を長さの異なるフレームに置き換え又は交換することは想定されておらず、そのような交換をすることを可能にする構成があるとはいえない(相違点に係る構成)。本件特許1の出願日当時、一部の業者においてベッドの長さを変更することを目的とする発明を試みていた(乙46)ものの、キューマアウラベッドに接した当業者において、ベッドの長さを延長した場合に生じていた外観上の問題等を解消するという本件発明1-1の課題の設定が容易であったとまでは認められず、その課題を解決するための動機付けがあったとは認められない。

また、被告は、キューマアウラベッドの構成にマッケ1120の構成を適用することにより本件発明1-1の構成を容易に想到できた旨主張する。しかし、マッケ1120においては、手術部位に応じた患者の体位や術野を確保するために支持部材の一部である床板を置き換え又は交換することがあるものではあるが、長さの異なる床板への交換は必ずしも想定されておらず、一部、患者の身長が高いときに床板を付加することが示されているにすぎない(前記3(1)、(2))。そうすると、キューマアウラベッドにマッケ1120を適用したとしても、相違点に係る本件発明1-1に至るものでもない。

したがって、当業者においてキューマアウラベッド及びマッケ1120に係る各発明に基づいて容易に本件発明1-1を想到することができたとは認められない。

(4)キューマアウラベッドに係る発明と本件発明1-2との対比

本件発明1-2とマッケ1120とは、本件発明1-2は、使用者の体格に対応させるため、足側床板に対応する足側フレームの交換を可能とする構成を有するのに対し、キューマアウラベッドにおいては、同種のフレームの交換を想定しておらず、そのような交換を可能にする構成がない点が相違する。そして、本件発明1-1について述べたのと同様の理由により、当業者においてキューマアウラベッド及びマッケ1120に係る各発明に基づいて容易に本件発明1-2を想到することができたとは認められない。

(5)以上によれば、本件発明1とキューマアウラベッドに係る発明との間には相違点があり、本件発明1が、キューマアウラベッドに係る発明により新規性を失うとはいえず、無効理由1-3についての被告の主張は採用できない。また、当業者においてキューマアウラベッドに係る発明に基づいて容易に本件発明1を想到することができたとは認められず、無効理由1-4についての被告の主張は採用できない。

5 争点1-2(本件特許1が特許無効審判により無効にされるべきものと認められるか。)のうち無効理由1-5(サポート要件違反)について

特許請求の範囲の記載が、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであることという要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものと解される。

特許請求の範囲の記載によれば、本件発明1-1は、床板を支えるフレームを、使用者の体格に対応させるべく、その一部を異なる長さのフレームに交換可能に構成するものであり、本件発明1-2は、足側フレームを、使用者の体格に対応させるべく、異なる長さのフレームに交換可能に構成するものである。本件明細書1の発明の詳細な説明には、従来のベッドにおいては、「足側床部に、延長用床部をボード取付け部の目板を利用して取り付けて」「足側床部に延長用床部を継ぎ足」していたため外観上の問題が生じていた(段落【0002】【0003】)のに対し、使用者の身長に対応して、足側フレームを長さの異なるものに交換装着することが記載されているとともに(段落【0004】~【0013】)、それにより外観が向上したことが記載されている(段落【0014】)。本件発明1は、上記の発明の詳細な説明に記載された発明であり、また、当業者は、フレームの交換をせずに単に延長用床板を継ぎ足す場合に比べ、本件発明1の構成をとって、フレームの一部自体を別のフレームに交換することによって、外観が向上することを理解することができるといえるから、発明の詳細な説明の記載により、当該発明の課題を解決できると認識できるといえる。

したがって、本件発明1の特許請求の範囲の記載がサポート要件に違反するとは認められず、無効理由1-5の被告の主張には理由がない。

6 争点1-3(本件特許権1の侵害行為について被告に過失がなかったか。)について

-省略-

7 争点1-4(損害の発生及び額、ないし、被告製品3に係る不当利得の発生及び額)について

-省略-

8 争点1-5(原告が平成21年11月に被告製品3の販売による損害の発生を知ったか。)について

-省略-

9 第3の結論

以上から、原告は、被告に対し、不法行為による損害賠償請求権に基づき、被告の被告製品3の販売による本件特許権1の侵害につき、1億1459万1925円及びうち別紙「損害額」の「被告製品3」の年ごとの「合計」欄記載の各額に対する各翌年1月1日から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5分の割合(以下、遅延損害金について同じ。)による遅延損害金の支払を、被告製品5の販売による本件特許権1の侵害につき、1億5734万5847円及びうち同「被告製品5」の年ごとの「合計」欄記載の各額に対する各翌年1月1日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求めることができる。

8.第4 本件特許2に関する当裁判所の判断

1 本件発明2について

(1)本件明細書2の発明の詳細な説明には、次のとおりの記載がある。また、図面は別紙図面「本件特許2」記載のとおりである。(甲6)

-省略-

(2)本件明細書2の記載によれば、本件発明2は、次のような技術的意義を有すると認められる。

本件発明2は、ベッドの取付品の支持位置を変更可能とすることにより、ベッドの床長又は床幅の変更に適用できるようにしたベッドにおける取付品支持位置可変機構に関する発明である(段落【0001】)。従来、床長の異なるベッド等を構成するため、床長ごとにベッドフレームを設ける方法、頭側又は足側に延長フレームを後付けする方法、足側のフレームをスライド式に延長可能にする方法等があったが、これらには製造、管理コストや利便性の面から問題があった(段落【0002】~【0011】)。そこで、本件発明2は、ベッドフレームの棒状部材の長手方向に取付品支持部材を着脱可能に支持する構成とし、取付品支持部材に棒状部材を係合可能な溝形部材を突設し、棒状部材と溝形部材に、係合手段となる突起と係合部、螺合手段となる雌ねじ部と取付ボルトを貫通させる取付穴を設けるとともに、係合と螺合の位置を複数構成し(本件発明2-1)、また、上記の構成において、係合手段を、棒状部材に設けた突起と溝形部材の長さ方向に複数設けた係合部から構成し(本件発明2-5)、また、螺合手段を、棒状部材に設けた雌ねじ部と溝形部材の長さ方向に複数設けた取付穴から構成し(本件発明2-6)、また、取付品支持部材に取り付ける取付品はボードであり、棒状部材はベッドの長手方向部材である(本件発明2-7)という構成等を採用することにより(段落【0012】~【0039】)、作業性の向上、製造、管理及び購入コストの低減等の効果を奏するようにしたものである(段落【0040】~【0042】)。

2 争点2-1(被告製品4が本件発明2の技術的範囲に属するか。)について

(1)本件発明2-1の特許請求の範囲には、ベッドにおける取付品支持位置可変機構であり、取付品支持部材について、ベッドフレームの棒状部材の長手方向に着脱可能にし、取付品支持部材には溝形部材を突設し、棒状部材と溝形部材には係合手段を構成する突起と係合部を設けることや、係合手段が係合状態において螺合可能状態となる螺合手段を構成する雌ねじ部と取付ボルトを貫通させる取付穴を設けること、そして、係合及び螺合の位置を複数構成するという構成が記載されている。

本件発明2-1の特許請求の範囲には、係合手段を構成する突起及び係合部の位置や形状、係合と螺合の位置を複数構成する具体的な態様について特定のものに限定する記載はない。そして、本件明細書2に照らすと、従来、床長の異なるベッド等を構成するため、床長ごとにベッドフレームを設ける方法などがあったが、それらには製造、管理コスト等の課題があったところ、本件発明2-1は、その課題を解決するため、ベッドの取付品支持部材の支持位置を変更可能とすることにより、ベッドの床長又は床幅の変更に適用できるようにしたベッドにおける取付品支持位置可変機構に関する発明であり、当業者は、特許請求の範囲に記載された構成が、上記の課題を解決するための具体的な構成であることを理解することができる。そして、2つの部材について、係合状態となる係合手段を構成する突起と係合部を設ける構成や、螺合手段を構成する雌ねじ部と取付ボルトを貫通させる取付孔を設けること自体は公知技術といえ、当業者は、本件発明2-1において、係合手段を構成する突起及び係合部の位置や形状、係合と螺合の位置を複数構成する具体的な態様は公知技術等を参照しつつ適宜工夫すれば足りるというべきものである。本件明細書2に、本件発明2-1における係合手段を構成する突起及び係合部の位置や形状等について、発明の詳細な説明に記載された具体的な態様を特定のものに限定する記載はないし、そのような限定をする根拠となる記載はない。被告は、本件発明2-1の特許請求の範囲の記載は、極めて機能的、抽象的で、係合手段を構成する突起及び係合部の位置や形状、係合と螺合の位置を複数構成する具体的な態様が明らかにされていないとして、本件発明2-1は、本件明細書2において開示された構成、すなわち、「ベッドフレーム側の棒状部材の長手方向に取付品支持部材を着脱可能にする構成とし、」「前記取付品支持部材には前記棒状部材を係合可能な溝形部材を突設し、」「『前記溝形部材を前記棒状部材に係合させる動作において係合状態となる係合手段を構成する溝形部材の底面に突起1個所と、棒状部材に複数個所の係合部(スリット形状)を設けると共に、』」「『又は、これに代えて』前記溝形部材を前記棒状部材に係合させる動作において係合状態となる係合手段を構成する『棒状部材に突起1個所と、溝形部材の底面に複数個所の係合部(スリット形状)』を設けると共に、」「前記係合手段が係合状態において螺合可能状態となる螺合手段を構成する雌ねじ部と取付ボルトを貫通させる取付孔を設け、」「係合手段と螺合手段は、係合と螺合の位置を、棒状部材の長さ方向に複数構成した」「ことを特徴とするベッドにおける取付品支持位置可変機構」を意味すると限定解釈されると主張する。しかし、上記に述べたところにより、被告の上記主張は作用できない。

また、本件発明2-5についても同様であり、本件明細書2に記載された係合手段を構成する突起及び係合部の位置や形状等に限られるとの被告の主張は、同様に理由がない。

(2)被告製品4は、主に、①ベースフレーム、②センターフレーム、③ヘッドフレーム、④フットフレーム及びランバー、⑤背ボトム、腰ボトム及びひざ脚ボトム、⑥ヘッドボード及びフットボードの6つの構成品群から構成され、これらがベッド本体を購入する際の最小の単位となっている。床板(ボトム)を支えるフレームはレギュラータイプ及びショートタイプで共通であり、背ボトム及びひざ脚ボトム(⑤)には、レギュラータイプのベッド及びショートタイプのベッドに対応した大きさの異なる2種類があり、購入したのとは異なるタイプのベッドに対応した背ボトム等の交換用パーツを別途購入するなどし交換することが可能である。(甲15)

ヘッドフレーム及びフットフレームは、その長手方向部材である棒状部材の長手方向端部側に取付品であるボードの支持部材を着脱可能に支持する構成となっており、同支持部材には上記棒状部材を係合可能なコ字状の溝形部材が突設されている

そして、上記棒状部材にはその長さ方向に2つの突起及び1つの雌ねじ部が、上記溝形部材には1つの係合凹部(先端部の切込み部)及びその長さ方向に2つの貫通孔がそれぞれ設けられており、突起と係合凹部を係合状態にし、雌ねじ部及び貫通孔をボルトにより螺合状態にすることにより、上記棒状部材と上記溝形部材を係合状態とする。係合及び螺合の位置は、棒状部材の長さ方向にレギュラータイプ用とショートタイプ用に複数構成されている。

レギュラータイプに対応する場合には、棒状部材の先端に近い方に設けられた突起と溝形部材に設けられた係合凹部を係合させ、また、棒状部材に設けられた雌ねじ部と溝形部材の取付品支持部から遠い方に設けられた貫通孔を貫通したボルトを螺合させることにより、また、ショートタイプに対応する場合には、棒状部材の先端から遠い方に設けられた突起と溝形部材に設けられた係合凹部を係合させ(なお、この場合において、棒状部材の先端に近い方に設けられた突起と溝形部材の中間部に設けられたU字型の切込みが組み合わさるが、同切込みは上記突起との衝突を回避するために設けられたものであり、係合手段として設けられた係合凹部ではない。)、棒状部材に設けられた雌ねじ部と溝形部材の取付品支持部に近い方に設けられた貫通孔を貫通したボルトを螺合させることにより、それぞれ取付品支持部材を係合する。

(本項につき、甲12、15、16、弁論の全趣旨)

(3)前記(2)によれば、被告製品4は、ヘッドフレーム及びフットフレームが、その長手方向部材である棒状部材の長手方向に取付品であるボードの支持部材を着脱可能に支持する構成となっており(構成要件2-1A)、同支持部材には上記棒状部材を係合可能なコ字状の溝形部材が突設され(構成要件2-1B)、上記棒状部材にはその長さ方向に2つの突起及び1つの雌ねじ部が、上記溝形部材には1つの係合凹部及びその長さ方向に2つの貫通孔がそれぞれ設けられており、突起と係合凹部を係合状態にし、雌ねじ部及び貫通孔をボルトにより螺合状態にすることにより、上記棒状部材と上記溝形部材を係合状態とし(構成要件2-1C、2-1D)、係合及び螺合の位置は、棒状部材の長さ方向にレギュラータイプ用とショートタイプ用に複数構成されていて(構成要件2-1E)、ベッドにおける取付品支持位置可変機構を具備するものである

(構成要件2-1F)。

したがって、被告製品4は本件発明2-1の技術的範囲に属すると認められる。

被告製品4の螺合手段は、棒状部材に設けた雌ねじ部と溝形部材の貫通孔とから構成されており(構成要件2-6A)、被告製品4が本件発明2-1の技術的範囲に属する取付品支持機構を有すること(構成要件2-6B)から、被告製品4は、本件発明2-6の技術的範囲に属すると認められる。

取付品であるボードは、長手方向端部側に取り付けられるものであり、棒状部材はベッドフレームの長手方向部材であり(構成要件2-7A)、被告製品4が本件発明2-1、2-6の取付品支持位置可変機構を有することから(構成要件2-7B)、被告製品4は、本件発明2-7の技術的範囲に属すると認められる。

他方、被告製品4においては、係合手段は、棒状部材側にその長さ方向に2つ設けた突起及び溝形部材に設けた1つの係合凹部により構成されているものであり、溝形部材側には係合部が複数設けられているとはいえないことから、被告製品4は、構成要件2-5Aを充足せず、本件発明2-5の技術的範囲に属するとは認められない。

3 争点2-2(本件特許2が特許無効審判により無効にされるべきものと認められるか。)のうち無効理由2-1(米国特許発明1からの新規性欠如)及び無効理由2-2(米国特許発明1からの進歩性欠如)について

(1)米国特許発明1について

乙15公報には、以下の記載がある。

ア 発明の名称「調節可能なベッドフレーム構造」

イ 請求項1の記載

【請求項1】ベッドフレーム部材であって、間隔を空けて並行配置された一対の他のベッドフレーム部材の間で横方向に伸長され、選択された複数の位置の1つに保持されるように構成され、次のものから成る。

第1の細長い要素であって、一端に隣接して前記第1の要素を前記他のベッドフレーム部材の一方に固定するための第1の手段を有し、前記第1の手段は概ね直角な第1と第2の平たい辺部を有し、第2の細長い要素であって、一端に隣接して前記第2の要素を前記一対のすなわち他のベッドフレーム部材の他方に固定するための第2の手段を有し、前記第2の手段は概ね直角な第1と第2の平たい辺部を有し、前記第1の辺部のうちの一方に間隔を空けて長手方向に配置された複数の穴であって、各穴は前記選択可能な位置の1つに対応し、前記第1の辺部のうちの他方に設けられた突起であって、前記第1と第2の要素の同類の辺部どうしが相互に面対面で隣接して配置されたときに、前記要素が相互に縦の両方向に移動しないよう保持するために前記穴の1つに係合可能であり、1つの位置が選択されかつ前記要素の辺部どうしが相互に面対面で隣接して配置されたときに、前記要素どうしを分離しないよう保持するための協働的なロック手段であって、前記ロック手段は、前記第1の要素の前記第1の辺部に縦に間隔を空けて配置された複数のねじ式の開口を有し、各開口は前記穴の1つに関連づけられかつ前記選択可能な位置の1つに対応し、各ねじ式の開口とそれに関連する各穴の間隔は同じであり、前記第2の要素の前記第1の辺部に設けられたねじ式の開口を有し、その開口は前記第1の要素の前記第1の辺部の前記ねじ式の開口と同じ直径を持ち、前記第2の要素の前記第1の辺部の前記開口のねじ山は部分的に除去されており、さらに、解除可能なロック部材を有し、前記ロック部材は、前記第2の要素の前記第1の辺部の前記開口に受け入れられて、前記第2の要素にねじ手段を永久的に搭載する部分的に除去されたねじ山を持つねじ手段によって成り、前記ねじ手段は、前記第1と第2の要素を分離しないようするため、前記第1の要素の前記第1の辺部の前記開口の1つのねじ山に螺合可能であり、また、前記ねじ手段は、各ねじ式の開口とそれに関連する各穴との間の間隔に等しい距離だけ前記突起から離れている。

ウ 実施例として、別紙図面「引用例」記載3のとおりの図面が添付されている。同実施例において、クロスフレーム部材10は、細長い要素11及び12から成り、一対の他のベッドフレーム部材であるサイドフレーム部材17及び18に固定され、クロスフレーム部材10と間隔を空けて平行に構成されたクロスフレーム部材との組合せによりベッドフレームを形成する(2~3欄)。

(2)FB730/720について

ア フランスベッドメディカルサービス株式会社は、平成9年当時、FB730/720を販売していた。業界紙に掲載された広告には、FB730/720について、全長211.5cm(ショートサイズ199cm)である旨記載されている。(乙42)

イ フランスベッド株式会社が製造、販売した「FB-730」という製品名の介護用ベッド(全長211.5cm)は、その取扱説明書によれば、メインフレーム、床板、ヘッドボード及びフットボード等によって構成され、ヘッドボード及びフットボードは、メインフレームの四隅に設けられた取付穴に差し込む方法により取り付ける。上記取扱説明書に、メインフレームが分解ないし着脱可能であるとか、ベッドの長さを変更可能である旨の記載は見当たらない。(甲51)

ウ フランスベッド株式会社が平成12年に製造した「FB-730」という製品名の介護用ベッド(全長211.5cm)のメインフレームのうち、ボードの取付穴の設けられているベッドフレームの短辺に相当する部分(頭側及び足側の部分)を取り外すと、ベッドフレームの長辺に相当する棒状部材にはその長手方向に2つの穴が設けられており、穴どうしの間隔は1.5cmである。(乙35、43、44)

(3)米国特許発明1の内容、同発明と本件発明2-1との対比

ア 米国特許発明1の内容

前記(1)によれば、米国特許発明1は、ベッドフレームにおいて、2つの細長い要素のベッドフレームが相互に、調節可能に、複数の位置で係合及び螺合するための構造を有する発明であると認められる。

イ 一致点

ベッドフレームの棒状部材を有するベッド等における機構。

ウ 相違点

本件発明2-1は、ベッドフレームの棒状部材と、その長手方向に着脱可能にしたベッドフレームとは別の部材である取付品支持部材に突設した溝形部材とを、複数の位置で係合及び螺合可能に構成した取付品支持位置可変機構であり、その係合及び螺合のための構成を有するものであるのに対し、米国特許発明1は、ベッドフレーム自体を2の部材から構成し、複数の位置で係合及び螺合するための構成を有する調節可能なベッドフレーム構造であり、ベッドフレームとは別の、着脱可能な取付品支持部材及び取付品支持位置可変機構に係る構成は開示されていない点。

エ 上記相違点の認定について

本件発明2-1において、取付品支持部材は、ベッドフレーム側の棒状部材に着脱可能に支持されるものであって、ベッドフレーム側の棒状部材とは異なるものであると理解することができる。そして、本件明細書2の段落【0041】、【0042】における本件発明2-1によりベッドフレームを共通化することができるとの記載その他の本件明細書2の記載も、取付品支持部材がベッドフレームとは別の部材であることを前提としているのであり、本件発明2-1の取付品支持部材は、ベッドフレームとは別の部材であると認められる。

そうすると、ベッドフレーム自体を2の部材から構成し調整可能な構成をした米国特許発明1と本件発明2-1には、上記の相違点があると認められる。本件発明2-1における取付品支持部材がベッドフレームに含まれることを前提とする被告の主張は理由がない。

(4)相違点の容易想到性について

米国特許発明1と本件発明2-1には、上記(3)の相違点があるところ、被告は、米国特許発明1に対し、FB730/720に係る発明を組み合わせることで、本件発明2-1を容易に想到することができた旨主張する。

しかし、「FB-730」では、米国特許発明1同様、ベッドフレームで取付品を支持する構成が採用されており、取付品支持部材は存在しない上に、ベッドフレームの一部を着脱することも想定されておらず、前記(3)の相違点に係る本件発明2-1の構成を備えていない。そうすると、米国特許発明1に、「FB-730」に係る発明を組み合わせたとしても、相違点に係る本件発明2-1の構成に想到することが容易であるとはいえない。なお、FBのうち「FB-720」という製品の詳細は不明である。また、フレームに係る米国特許発明1に対し、フレームとは別の部材を前提とする、上記相違点に係る本件発明2-1の構成を適用することが適宜の設計変更であるとは認められない。

(5)米国特許発明1と本件発明2-6及び2-7との対比

上記相違点は、米国特許発明1と、本件発明2-6及び2-7の相違点でもあるから、上記と同様の理由により、当業者は、本件発明2-6及び2-7を容易に想到できたとは認められない。

(6)以上によれば、本件発明2-1、2-6及び2-7と米国特許発明1との間には相違点があり、本件発明2-1、2-6及び2-7が、米国特許発明1により新規性を失うとはいえず、無効理由2-1についての被告の主張は採用できない。また、当業者において米国特許発明1に基づいて容易に本件発明2-1、2-6及び2-7を想到することができたとは認められず、無効理由2-2についての被告の主張は採用できない。

4 争点2-2(本件特許2が特許無効審判により無効にされるべきものと認められるか。)のうち無効理由2-3(サポート要件違反)について

本件発明2-1、2-6及び2-7は、特許請求の範囲によれば、ベッドフレームの棒状部材と、その長手方向に着脱可能にしたベッドフレームとは別の部材である取付品支持部材に突設した溝形部材とを、複数の位置で係合及び螺合可能に構成した取付品支持位置可変機構に係る発明であって、それらの構成は、本件明細書2の発明の詳細な説明(段落【0012】~【0016】等)に記載されており、また、それらの実施の形態(段落【0023】~【0039】)も記載されていて、当業者は、本件発明2の課題を解決できると認識できるといえる。そして、当業者は、実施の形態に記載された構成でなくとも、出願時の公知技術等に照らして、部材の形状を工夫するなどすることにより、本件発明2-1、2-6及び2-7の特許請求の範囲に記載された構成をとることで課題を解決できると認識できるといえる。

したがって、本件発明2-1、2-6及び2-7についてサポート要件に違反するとは認められない。

5 争点2-3(本件特許権2の侵害行為について被告に過失がなかったか。)について

-省略-

6 争点2-4(損害の発生及び額、ないし、不当利得の発生及び額)

-省略-

7 争点2-5(原告が平成23年12月までに被告製品4の販売による損害の発生を知ったか。)

-省略-

8 第4の結論

以上から、原告は、被告に対し、被告の被告製品4の販売による本件特許権2の侵害につき、不法行為による損害賠償請求権に基づき、1億0928万4454円及びうち別紙「損害額」の「被告製品4」の年ごとの「合計」欄記載の各額に対する各翌年1月1日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求めることができる。

9.第5 本件特許3に関する当裁判所の判断

1 本件発明3について

(1)本件明細書3の発明の詳細な説明には、次のとおりの記載がある。なお、図面は別紙図面「本件特許3」記載のとおりである。(甲8)

-省略-

(2)本件特許3の審査経過等

ア 審査官は、平成20年1月28日、本件特許3に係る原告の特許出願について、本件発明3は、当業者が特開2000-24056号公報に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができるものであり、また、特許請求の範囲の記載が特許法36条6項2号に適合しないものであるとの理由により、拒絶をすべき旨の査定をした。

原告は、拒絶査定不服審判の請求をした上、同年4月4日、構成要件3-1G及び3-2Gの「における下降スイッチの押し状態が解除された後、再度フレームの下降スイッチが押下された」の部分を加えるなどの補正をし、「フレーム下降操作において、下降スイッチの押し状態が継続された場合においても、フレームが中間停止位置LMまで降下したときには、制御装置は、強制的に(自動的に)フレームの下降を停止させる。つまり、…操作者がスイッチ操作してベッドの下降信号を制御装置に入力しつづけたとしても、フレームは中間停止位置LMで強制的に停止される。…その後、操作者が、操作ボックスにおける下降スイッチの押し状態を一旦解除し、その後、再度フレームの下降スイッチを押下した場合に、フレームの再下降が開始される。換言すれば、操作者が下降スイッチの押し状態を一旦解除しない限り、フレームの下降は再開しない。」、「本発明は、…自動的(強制的)にベッドの下降を中間停止位置LMで停止させ、操作者に安全を確認させるものであり、そのため、操作ボックスにおける下降スイッチの押し状態を一旦解除し、その後、再度フレームの下降スイッチを押下した場合に、フレームの再下降が開始されるように構成したものである。」等と主張した。

本件特許3は、同年6月20日、設定の登録がされた。

(本項につき、甲8、乙22~24)

イ フランスベッド株式会社は、平成22年5月17日、本件特許3について、特許無効審判を請求した(無効2010-800092)。

原告は、同年12月20日、構成要件3-1F及び3-1G並びに3-2F及び3-2Gの「前記操作ボックスの下降スイッチの押し状態が継続している間、前記フレームを下降させるが、」、「前記下降スイッチが押し状態であっても前記フレームを一旦停止させ、その後」の部分、構成要件3-2Hの「前記操作ボックスの下降スイッチの押し状態が継続している間、」の部分、構成要件3-1G及び3-1H並びに3-2H及び3-2Iの「ものであり、前記中間停止位置LMは、前記フレームと床との間に、介護者又は患者の足が存在しても、挟み込みが生じないような高さである」の部分を加える等の訂正をすることについての訂正請求をした。

平成23年3月25日、上記の訂正を認める、審判の請求は成り立たない旨の審判がされた。

(本項につき、甲9、10、乙25~27)

(3)本件明細書3の記載によれば、本件発明3は、次のような技術的意義を有すると認められる。

本件発明3は、ベッド全体を昇降することができる電動ベッドに関する発明である(段落【0001】)。近時、電動ベッドはフレームの構造が上下に大型化し、フレームの下端と床との間の隙間が小さくなったことにより、フレームを下降させたときに患者等の足を挟み込む危険性が増えているが、従来、上記の問題に対する対策がされていなかった(段落【0002】~【0004】)。

そこで、本件発明3-1は、上位置LH(例えば、床高さで600mm)と下位置LL(例えば、床高さで250mm)との間でフレームを昇降移動させることができる電動ベッドにおいて、下降スイッチが押されたときに上位置LHと下位置LLとの間の中間停止位置LM(例えば、床高さで290mm)でフレームを一旦停止させ、下降スイッチの押し状態が解除された後、再度下降スイッチが押された場合に更にフレームを下位置LLまで下降させることを特徴とするものであり、これにより、フレームと床との間で患者等の足を挟み込むことを防止するという効果を奏するようにしたものである(段落【0005】【0006】【0025】【0026】)。

また、本件発明3-2は、フレームの位置が上位置LHと中間停止位置LMとの間の予め定められた特定位置LSかそれよりも高い場合には、下降スイッチが押されたときに中間停止位置LM(例えば、床高さで290mm)で一旦停止させ、下降スイッチの押し状態が解除された後、再度下降スイッチが押された場合に更に下位置LLまで再下降させるが、フレームの位置が特定位置LSよりも低い場合には、フレームを中間停止位置LMで停止させずに下位置LLまで下降させることを特徴とするものであり、フレームが中間停止位置LMよりも若干高い位置である特定位置LSすなわち既に相当低い位置まで下降している場合には、中間停止位置LMで停止しなくても足の挟み込みが生じるおそれはない一方、下降スイッチを押してすぐにベッドが停止してしまうと、操作者は装置の故障等を疑い、操作を煩雑にしてしまうことから、中間停止位置LMで停止させないこととしたものである(段落【0007】【0023】)。

2 争点3-1(被告製品6が本件発明3-1の技術的範囲に属するか、また、仕様変更前の被告製品6が本件発明3-2の技術的範囲に属していたか。)について

(1)被告製品6が本件発明3-1の技術的範囲に属するかについて

ア(ア)構成要件3-1Fは、「前記制御装置は、前記操作ボックスから前記フレームの下降信号が入力されたときに、前記操作ボックスの下降スイッチの押し状態が継続している間、前記フレームを下降させるが、前記フレームの上位置LHと下位置LLとの間の中間停止位置LMで、前記下降スイッチが押し状態であっても前記フレームを一旦停止させ」というものである。

そして、本件明細書3の記載に照らし、従来の技術では、電動ベッドでフレームを下降させた場合、フレームの下端と床との間が隙間が小さくなったことにより、患者等の足を挟み込む危険性が増えていることから、本件発明3-1は、下降スイッチが押し状態であっても、フレームを一旦停止させることとしたものである。そして、本件発明3-1は、一旦停止後、下降スイッチの押し状態が解除され、再度フレームの下降スイッチが押下された場合に、フレームを更に下降させるものである(構成要件3-1G)。

(イ)上記の点に関係し、被告は、構成要件3-1F及び3-1G、本件明細書3の記載によれば、構成要件3-1Fは、下降スイッチの押し状態が解除されない場合には中間停止位置における停止状態が継続することを意味するものと限定解釈されるべきであり、構成要件3-1Fは、「前記フレームの上位置LHと下位置LLとの間の中間停止位置LMで前記下降スイッチが押し状態であっても前記フレームを一旦停止させ(前記下降スイッチの押し状態が解除しない限り、再度、下降しないものであるが)、」と読み替えられる旨主張する。

しかし、構成要件3-1Fは、下降スイッチの押し状態であっても、特定の位置で、フレームが「一旦停止」することを定めるが、その一旦停止に関係して被告のような限定を付す文言はない。すなわち、本件発明3-1は、「一旦停止後」後、フレームを更に下降させる場合、下降スイッチの押し状態が解除され、再度フレームの下降スイッチが押下された場合であることを定めるところ(構成要件3-1G)、そのような構成を有する電動ベッドについて、その構成に加えて「一旦停止後」にそれとは別の動作によって、フレームが更に下降することがある場合にそれが構成要件3-1Fを満たさないことを定める文言はない。

本件明細書3には、実施例について、「フレーム下降が一旦停止した後、操作者が操作ボックスのベッド下降スイッチの押し状態を解除し…、その後、再度ベッド下降スイッチを押下した場合に…、ベッド下げ動作が再開され、フレーム下降が一旦停止した後、操作者がベッド下降スイッチを一旦解除しない限りは、フレームの下降が再開されないようになっている。」との記載がある(段落【0020】)ものの、それはその実施例についての記載である。そして、本件発明3-1は、下降スイッチが押し状態であっても、フレームを一旦停止させることにより、従来の技術の課題を解決したものであるところ、「一旦停止」した後、フレームが更に下降するための構成について、本件特許3の出願時に、複数の構成が知られていたとは認められず、本件明細書3に、そのための構成として、構成要件3-1Gの構成に加えてそれ以外のフレームが更に下降するための構成も有している場合は本件発明3-1の技術的範囲に入らなくなることを前提とする記載や、それを示唆する記載もない。そして、「一旦停止」すれば、その後、フレームが更に下降するための構成として、構成要件3-1Gの構成に加えて、例えば、その後下降スイッチを2秒継続して押し続けるという構成を有する場合(後記(3)イ)であっても、「一旦停止」がされてその後にフレームが更に下降するための一定の構成を有することにより従来技術の課題を解決できるといえ、構成要件3-1Gの構成を有することが無意味になるわけではない。そうすると、例えば、「一旦停止後」、フレームが更に下降するために下降スイッチを2秒継続して押し続けるという構成を有することにより、構成要件3-1Gの構成を有する製品について、構成要件3-1Fを充足しなくなるとは認められない。

前記の審査経過等における補正等は、「一旦停止後」に本件発明3-1が構成要件3-1Gの構成を有することに関するものではあるが、「一旦停止後」の構成として構成要件3-1Gとは別の構成を有する場合について問題となっていた状況でされたものではなく、構成要件3-1Gとは別の構成を想定した上でその別の構成によりフレームが更に下降するベッドが本件発明3-1から排除されることを前提としているものとは解されない。構成要件3-1Fに関する被告の主張は採用できない。

イ 被告製品6は、制御装置によって、ベッドフレームの一部であるベースフレームに取り付けられた昇降モータの昇降駆動を制御し、ベースフレームを昇降移動させる電動ベッドであり、手元スイッチの「高さボタン」を押すことによって制御装置にベースフレームの昇降を指示する信号が出力される。ベースフレームは、床面高57cmから15cmまで昇降させることができ、「高さボタン」のうちフレームの下降を指示する下降スイッチの押し状態を継続してフレームを下降させた場合、フレームの床面高が24cmになるとブザーを鳴らして下降を停止する。

その後、下降スイッチから手を離して再度下降スイッチを押すと、ブザーを鳴らしながらフレームを最低位まで下降させる。また、床面高が24cmの位置で下降を停止した後、そのまま約2秒以上下降スイッチの押し状態を継続すると、ブザーを鳴らしながらフレームを最低位まで下降させる。(甲21、22、23)

ウ 前記イのとおり、被告製品6は、制御装置によって、ベッドフレームの一部であるベースフレームに取り付けられた昇降モータの昇降駆動を制御し、ベースフレームを昇降移動させる電動ベッドであり、手元スイッチの「高さボタン」を押すことによって制御装置にベースフレームの昇降を指示する信号が出力され、ベースフレームは、床面高57cmから15cmまで昇降させることができ(構成要件3-1A~3-1E、3-1I)、「高さボタン」のうちフレームの下降を指示する下降スイッチの押し状態を継続してフレームを下降させた場合、フレームの床面高が24cmになるとブザーを鳴らして下降を停止し(構成要件3-1F)、その後、下降スイッチから手を離して再度下降スイッチを押すと、ブザーを鳴らしながらフレームを最低位まで下降させるものであり(構成要件3-1G)、上記の床面高が24cmとの位置は、床との間に患者等の足が存在しても挟み込みが生じない高さである(構成要件3-1H)

これらによれば、被告製品6は、本件発明3-1の技術的範囲に属すると認められる。

なお、被告製品6は、中間停止位置で下降を停止した後、そのまま約2秒以上下降スイッチの押し状態を継続すると、ブザーを鳴らしながらフレームを最低位まで下降させるが、下降スイッチから手を放して再度下降スイッチを押して最低位まで下降させるという構成に加え、このような構成を備えているからといって、被告製品6が本件発明3-1の技術的範囲に属さないことになるものではない。

(2)仕様変更前の被告製品6が本件発明3-2の技術的範囲に属していたかについて

ア 構成要件3-2Aから3-2E、3-2G、3-2I、3-2Jは、それぞれ、構成要件3-1Aから3-1E、3-1G、3-1H、3-1Iと同じであり、前記(1)によれば、被告製品6は、構成要件3-2Aから3-2E、3-2G、3-2I、3-2Jを充足する。

構成要件3-2F及び3-2Hは、「特定位置LS」に係る構成であるところ、原告は、中間停止位置の1mmよりも上で3mmよりも低い位置の間(おそらく中間停止位置よりも2.2mm高い位置近傍)を特定位置LSとして設定していると考えられると主張する。

イ 構成要件3-2F及び3-2Hについて、「特定位置LS」とは、中間停止位置LMで停止しなくても足の挟み込みが生じるおそれがない相当低い位置と評価される、中間停止位置LMよりも若干高い位置であり、下降スイッチを押してすぐにベッドが停止してしまうと、操作者は装置の故障等を疑い、操作を煩雑にしてしまうことから、下降スイッチが押されたときに、フレームが特定位置LSより低い位置にある場合には、中間停止位置LMで停止させないこととしたものである(前記1(3))。

したがって、特定位置LSは、中間停止位置LMよりも若干高い位置で、これより低い位置からフレームが下降した場合には、中間停止位置LMで停止しなくても、患者等の足の挟み込みが生じるおそれがない位置を意味するものと解される。

本件明細書3には、実施例として、中間停止位置LMより10mm高い位置に特定位置LSを設ける形態が記載されている(段落【0018】等)ものの、1つの例を示したものにすぎず、上記の意義を有する位置であれば、特定位置LSといえると解される。被告は、特定位置LSが、中間停止位置LMより10mm上方の場合に限定解釈されると主張するが、理由がない。

ウ 証拠(各項末尾に掲記)及び弁論の全趣旨によれば、仕様変更前の被告製品6について、次の各事実が認められる。

(ア)原告従業員が、被告製品6のフレームを下降させ、所定の機能により一旦停止させた後、フレームをごくわずかに上昇させ、その後下降スイッチの押し状態を継続する動作を行ったところ、フレームは、先に一旦停止した位置で停止することなく下降した(甲25)。

(イ)原告従業員は、仕様変更前の被告製品6のフレームを下降させる動作を合計6回行った。

それによれば、被告製品6のフレームを下降させ、所定の機能により一旦停止させた後、約1mm上昇させ、その後下降スイッチを押して下降させた第1から第3の実験においては、先に一旦停止した位置で停止することなく下降し(甲149の1(ア)、(イ)、(ウ)の実験)、被告製品6のフレームを下降させ、所定の機能により一旦停止させた後、約3mm上昇させ、その後下降スイッチを押して下降させた第4から第6の実験においては、フレームは最低位まで下降する前に一旦停止した(甲149の1(エ)、(オ)、(カ)の実験。甲149)とされている。

なお、上記の実験では、一旦停止後の上昇を測定する際に株式会社ミツトヨ製ダイヤルゲージ(2046S)を台の上に設置して使用しているところ、同ゲージの数値は、最初にフレームを下降させて一旦停止した各位置について、第1及び第2の実験(甲149の(ア)及び(イ)の実験)では約1.3mm、第3の実験(同(ウ)の実験)では約1.6mm、第4及び第5の実験(同(エ)及び(オ)の実験)では約2.1mmから2.2mm、第6の実験(同(カ)の実験)では約1.8mmの付近を指していたことが看取できる。

(本項につき、甲149、158)

(ウ)被告従業員は、被告製品6のフレームを下降させる動作を合計15回行った。

それによれば、被告製品6のフレームを下降させ、一旦停止した位置は、各回で全く同じではなく、最大で0.1mmの違いがあったとされている。

また、フレームを下降させ一旦停止したうちの1回の位置を基準として(以下、この位置を「基準位置」という。)、フレームを下降させて一旦停止させた後、基準位置より約2.2mm上方までフレームを上昇させ、その後、フレームを下降させた場合、15回中、11回は基準位置付近で停止し、4回は基準位置付近で停止することなく下降し、特に、基準位置より25mm高い位置からフレームを下降させて一旦停止した後、フレームを基準位置より2.2mm上方まで上昇させ、その後、フレームを下降させた場合、5回中、2回は基準位置付近で停止し、3回は基準位置付近で停止することなく下降したとされている。

(本項につき、乙266、267)

(エ)被告製品6においては、アクチュエータによりベッドの停止等を行っている。被告製品6のアクチュエータ(以下「本件アクチュエータ」という。)では、ホールセンサーの累積のカウント数を利用して、ストローク長を把握しており、スピンドルが1回転するごとにホールセンサーが8回反応し、その反応の回数を制御ボックスが把握し、累積の反応回数を記録している。そして累積のカウント数(反応回数)により、ストローク長を把握し、ストローク長が48.00mm相当になるはずのカウント数(以下「中間停止位置カウント数」という。)を制御プログラム内で指定し、それより上から下降してきた場合に、累積カウント数が中間停止位置カウント数に達すると、停止信号が発せられる。もっとも、ホールセンサーは、スピンドル1回転について8回しか反応しないため、本件アクチュエータによる位置の制御の精度は、上記頻度で反応していることによる限界がある。

(乙158、弁論の全趣旨)

(オ)被告製品6の上記(ア)の動作等は被告が意図していなかったもので、被告は、原告から指摘を受けるまで上記動作の存在を認識しておらず、上記動作について被告製品6の機能ないし特徴として広告宣伝したことはない。(弁論の全趣旨)

エ 本件発明3-2は、中間停止位置(LM)よりも若干高い位置で、足の挟み込みが生じるおそれがない特定位置(LS)よりも低い位置にフレームがあった場合において、下降スイッチを押してすぐにベッドが停止してしまうと、装置の故障等を疑い操作を煩雑にしてしまうことから、中間停止位置で停止させないこととしたものである。したがって、本件発明3-2の技術的範囲に属するベッドでは、上記のような効果を奏するため、当該ベッドにおいて、中間停止位置(LM)と、それよりも若干高い位置である特定位置(LS)が、それぞれ予め設定された上で、それらの位置を認識して本件発明3-2の動作を行うものといえる。

ここで、電動でフレームを上下させる介護用ベッドである被告製品6において、フレームを下降させた場合にフレームの下降が一旦停止する位置自体、一定の範囲でばらつきがあることがうかがえ(前記ウ(ウ))、また、被告製品6のフレームの動作の制御の方法からも、特定の位置で停止することを設定したとしても、一定の誤差が生じることがうかがえる(同(エ))。被告製品6においては、フレームを下降させて、床面高が24cmになると一旦下降を停止するところ、原告従業員が行った実験の結果によれば、上記のようにフレームを下降させ一旦下降を停止した位置から、ごくわずか(約1mm)上昇させて下降スイッチを押した場合にそのまま下降したとされている(同(イ))。しかし、その実験においてされている測定の下ではそもそも一旦下降を停止した位置が実験ごとに同じであるかが必ずしも明らかでない(同(イ))ほか、一旦下降を停止した位置からごくわずか(約1mm)上昇させてから下降させた場合を問題としている。そして、被告製品6は介護用ベッドであって極めて微細な動作の制御は想定されておらず、そのフレームの制御に一定の精度的な限界を有すること(同(エ))を考慮すると、上記の原告従業員が行った実験において見られた被告製品6の動作は、下降スイッチを押すと最低位まで下降する位置(中間停止位置(LM))として設定されているとみることが相当な範囲において発生したものと解する余地もあり、被告製品6において、中間停止位置(LM)とは異なる位置である特定位置(LS)について、これが予め設定されていたと認めるには足りない。また、同じ位置からフレームを下降させた場合でも一旦停止する場合としない場合があり(同(ウ))、この点からも、被告製品6において、特定位置(LS)がどの位置に設定されていたかを直ちに認めることができず、それが設定されていたと認めるには足りない。

以上によれば、被告製品6は、構成要件3-2F及び3-2Hを充足しないから、本件発明3-2の技術的範囲に属するとは認められない。

3 争点3-2(本件特許3が特許無効審判により無効にされるべきものと認められるか。)のうち無効理由3-1(本件発明3-1の米国特許発明2からの新規性欠如)及び3-2(本件発明3-1の米国特許発明2からの進歩性欠如)について

(1)米国特許発明2について

乙17公報には、以下の記載がある。

【請求項1】高さ調節可能な医療ベッドにおいて、

人を仰向け姿勢で支持する支持面と、

前記ベッドの頭端と足端を規定した前記支持面を支持するメインフレームと、

前記メインフレームを床面に対して相対的に上昇及び下降させる支持部材と、

前記支持部材に接続され、前記メインフレームに対して相対的に前記支持部材を作動させることで、前記支持部材が前記メインフレームを最下位置と最上位置との間で移動させるようにする駆動手段と、

前記駆動手段を制御するための手動操作スイッチを有し、前記メインフレームを前記最下位置へ向かって、又は、前記最下位置から遠ざかるように移動させるためのスイッチを含む制御システムを備え、

前記制御システムは、前記メインフレームの前記最下位置から離れるが隣接した中間位置を検出するセンサを有し、それにより、前記制御システムは、前記メインフレームの移動を前記中間位置で自動的に終わらせる、

ベッド。

【請求項2】前記制御システムは、前記中間位置で前記駆動手段を非作動にし、前記スイッチの1つが解除され、かつ、再作動すると、前記制御システムが前記駆動手段を再作動させて前記メインフレームを移動させる請求項1記載のベッド。

【0037】図4-7に、ベッドの4つの所定の停止位置が示される。図4は、ベッドの最下位置を示し、その位置では、より上方の、メインフレーム12により支持されるマットレスの患者支持面が、床から約8インチ(20cm)である。この位置では、頭端のキャスタ30、32と足端部材44、46が床面に触れないように上がって、キャスタ56、58、60、62が床面に接して床面でのベッドの回転移動を容易にする。…

【0038】図5は、下中間位置にあるベッド10を示す。この位置では、頭端支持部材14のキャスタ30、32が床面に接し、足端支持部材16の足端部材44、46も同様である。図5に示した位置では、より上方の、メインフレーム12により支持されるマットレスの居住者つまり患者支持面が、床から約14インチであって、それは、ベッドから出ることのできる介護士施設の居住者/患者に要求されるであろうような、居住者/患者の移動を容易にする昼間位置を提供する。…先に述べられるように、図5の下中間位置は、磁石112がホール効果センサ116の近傍に来ることで検知され、それにより、この位置に来た時に両方のモータ80、96の作動が停止される。…

【0044】…モータ80、96の動作は、ベッド上昇機能及びベッド下降機能を提供するために制御部124及び126…を装着した2つの頭板のうちの1つから手動指図入力を受信するコントローラ122によって制御される。…

【0045】制御盤124と126は、ベッド上昇スイッチ128とベッド下降スイッチ130を含み、…

【0048】…制御部124、126からの入力に応答してモータ80、96を作動させるための、コントローラ122用の制御回路が示される。スイッチ128、130は、反転器134a及び134bの入力ピンに接続され、これによって、同一のベッド上昇回路要素及びベッド下降回路要素への入力が行われる。…

【0049】・・・ベッド上昇スイッチ128が作動させられると、直流+12vが反転器134aの入力ピンに印加され、反転器134aの出力が論理ローレベルになる。反転器134aの出力はセット・リセット(SR)フリップフロップ136aの入力ピンにダイオード138aを通じて与えられ、そして、反転器134aの出力が論理ローレベルに切り替わることで、SRフリップフロップ136aのリセットピンからリセット信号が除去される。同時に、スイッチ128からの直流+12vが直ちにキャパシタ140aによりSRフリップフロップ136aのセットピンに与えられて、RSフリップフロップ136aの出力ピンの論理状態が切り替わり、反転器134aの入力をターンオンして論理ローレベルにする。SRフリップフロップの出力のオンへの切り替わりにより、キャパシタ140aが+12vに充電され、SRフリップフロップのセットピンの電圧が約100マイクロ秒で論理ローレベルに戻る。以下に詳述するように、SRフリップフロップの出力は、スイッチ128が解除されるか、ホール効果センサ116、118の1つから信号を受けるまで、オンに維持される。

【0050】反転器142aの論理ローレベルでの入力によって、反転器142aの出力は、反転器144aへの論理ハイレベル入力をもたらし、次いで論理ロー出力をもたらす。反転器144aの出力は、リレー148a及び150aを作動させるためのコイルの下側に接続されるエミッタフォロワ回路に接続されるPNPトランジスタ146aによってバッファリングされる。リレー148aはベッドの頭端を上方に移動させるために第1のモータ80を作動させ、リレー150aはベッドの足端を上方に移動させるために第2のモータ96を作動させる。

【0051】前述したように、ベッド下降スイッチ130に関連する回路要素も、上述したベッド上昇回路と同様なやり方で動作し、ベッド下降回路の作動は、リレー148bと150bを作動させて、モータ80と96をそれぞれベッドを下方へ移動させるように作動させる。

【0053】…押されていたスイッチ128、130がまず解除されて、キャパシタ140a、140bを放電しなければならず、そして、スイッチ128、130が再作動されることで、モータ80、96が再び作動されてベッドを垂直方向に位置調節する。

(2)SG基準について

平成12年7月6日付けSG基準は、電動介護用ベッドの安全性品質及び使用者が誤った使用をしないための必要な事項を定め、一般消費者の身体に対する危害防止及び生命の安全を図ることを目的とし、通商産業大臣の承認を得て定められたものである。そこでは、ベッドの安全性品質として、ベッドの寸法の認定基準として、足が届く範囲の可動部と床面との間には、足を挟み込む危険のある部分がないことを定め、基準確認方法としては、足が届く範囲の可動部と床面との間の最短距離がベッドの外端においては120mm以上であることを測定して確認することを定めている。(乙18)

(3)米国特許発明2の内容、米国特許発明2と本件発明3-1との対比

ア 米国特許発明2の内容

前記(1)によれば、米国特許発明2は、人を支持する支持面を支持するベッドのメインフレーム、床上に設置されるメインフレームの支持部材、メインフレームに対して相対的に支持部材を作動させることでメインフレームを昇降移動させる駆動手段、この昇降駆動を制御する制御装置、スイッチ操作により制御装置に信号を出力するスイッチを含む制御システムを備え、制御システムは、操作ボックスから下降信号が入力されたときに、下降スイッチの押し状態が継続している間メインフレームを下降させるが、メインフレームの上位置及び下位置の間に存在し、ベッドへの出入りに便利な高さに患者支持面を配置する昼間の好ましい位置である中間位置で、下降スイッチが押し状態であってもメインフレームを停止させ、その後、下降スイッチの押し状態が解除された後、再度、下降スイッチが押下された場合に更にメインフレームを下位置まで下降させるものである電動医療ベッドの発明であると認められる。

イ 一致点

寝床部を支持するベッドフレーム、床上に設置される台部ないし支持部材、フレームを昇降移動させる昇降装置、この昇降駆動を制御する制御装置、スイッチ操作により制御装置に信号を出力する操作ボックスを備え、制御装置は、操作ボックスから下降信号が入力されたときに、下降スイッチの押し状態が継続している間フレームを下降させるが、フレームの上位置及び下位置の間に存在する中間停止位置で、下降スイッチが押し状態であってもフレームを一旦停止させ、その後、下降スイッチの押し状態が解除された後、再度、下降スイッチが押下された場合に更にフレームを下位置まで下降させるものである電動ベッド。

ウ 相違点

中間停止位置について、本件発明3-1は、フレームと床との間に患者等の足が存在しても挟み込みが生じないような高さであるとする(構成要件3-1H)のに対し、米国特許発明2は、ベッドへの出入りに便利な高さに患者支持面を配置する昼間の好ましい位置を想定しており、足の挟み込みを防止する高さとする構成は開示されていない点。

エ 米国特許発明2の内容及び上記相違点の認定について

乙17公報には、その電動ベッドにおける中間停止位置を、ベッドへの出入りに便利な高さに患者支持面を配置する昼間の好ましい位置を想定しているとの記載はあるが、足の挟み込みを防止することについての記載はない。被告は、別の特許公開公報等の記載に照らせば、米国特許発明2においても、足の挟み込みを防止することについての構成が当然に開示されていたと主張するが、乙17公報には、その構成の記載はないのであり、別の特許公開公報等の記載をもって上記構成が開示されていたとは認められず、この点に関する被告の主張は採用できない。

(4)相違点の容易想到性について

乙17公報は、中間停止位置として、ベッドへの出入りに便利な高さに患者支持面を配置する昼間の好ましい位置を想定しており、そこには、足の挟み込みを防止する高さとする構成は開示されていない。しかし、本件特許3の出願日である平成14年11月11日より前の平成12年には、電動介護用ベッドにおいて、足が届く範囲の可動部と床面との間に足を挟み込む危険のある部分がないこと、具体的には、足が届く範囲の可動部と床面との間の最短距離がベッドの外端においては120mm以上であることが、その安全性品質の基準として求められていた(前記(2))。安全性品質の基準として求められているものである以上、当業者において、上記課題は常に認識していたものというべきであるから、ベッドを下降させたときに、フレームと床との間で、患者等の足を挟んでしまうことを防止するという本件発明3が目的とした解決課題の設定は容易であり、かつ、その課題解決のために米国特許2に係る発明で開示された構成を採用することは容易であったといえる。仮に、乙17公報において開示された実施例がSG基準を満たしていない等原告の指摘する事情が認められるとしても、本件発明3が目的とした解決課題の上記のような性質によれば、これによって上記判断が左右されるものではない。そして、乙17公報には、マットレスの患者支持面が床から20cmの位置をもってベッドの最下位置とする記載がされており(段落【0037】)、マットレスの厚み(7から18cmとする例が見られる(甲18)。)を考慮すると、乙17公報におけるベッドの最下位置は足を挟み込む危険のある高さであるといえるから、乙17公報には、最下位置と最上位置との間の中間位置について、SG基準を組み合わせる動機付けがあると認められる。

したがって、当業者は米国特許2に係る発明に基づいて容易に本件発明3-1をすることができたと認められ、本件発明3-1は米国特許発明2から容易に想到できたと認められる

(5)以上によれば、本件発明3-1と米国特許発明2との間には相違点があり、本件発明3-1が米国特許発明2により新規性を失うとはいえず、無効理由3-1についての被告の主張は採用できないが、当業者において、米国特許発明2に基づいて容易に本件発明3-1を想到することができ、無効理由3-2についての被告の主張には理由がある。

本件特許3は特無効審判により無効にされるべきものと認められる。

4 第5の結論

以上から、仕様変更前の被告製品6は、本件発明3-2の技術的範囲に属さず、また、本件発明3-1に係る特許は特許無効審判により無効にされるべきであるから、被告の被告製品6の販売等による本件特許権3の侵害を理由とする原告の不法行為による損害賠償請求、侵害停止、予防請求権に基づく被告製品6の販売等の差止請求及び侵害行為組成物廃棄等請求権に基づく被告製品6の廃棄請求は、いずれも理由がない。