電解コンデンサ用タブ端子事件(その1)
投稿日: 2017/06/21 23:04:58
今日は平成27年(ワ)第19661号 特許権侵害差止等請求事件について検討します。原告である湖北工業株式会社は判決文によれば電気機械,工作機械,通信機械器具及び同部分品の設計製造並びに販売等を目的とする株式会社であり,電解コンデンサ用タブ端子を製造販売しているそうです。J-PlatPatで保有特許を検索したところ47件ヒットしました。一方、被告である株式会社アプトデイトは弱電器部品の製造等を目的とする株式会社だそうです。こちらは3件ヒットしました。
1.手続の時系列の整理
① 侵害訴訟が提起された日は不明ですが、事件番号から2015年中です。
② 被告は口頭弁論終結直前の2016年9月に特許無効審判を請求しています。この時点で訴訟が始まってから1年くらい経過しているでしょうから侵害論の中で既に無効主張していると思われます。そうすると、なぜこのタイミングで今さら審判を請求する必要があったのか気になります。
③ 被告による特許無効審判請求後、四カ月以内に被請求人である原告が両特許について訂正請求しています。このことから、被告が侵害訴訟において行った無効主張に対して原告が訂正審判で対抗しようとしていた可能性があります(いわゆる訂正の再抗弁)。しかし、訂正審判では参加が認められないので被告に主張の機会がありません。そのため、被告が特許無効審判を請求した可能性も考えられます。
④ 特許無効審判はまだ審決が出ていません。請求人である被告が特許無効審判を2件とも取り下げた様子がないことから、原告は2件とも知財高裁に控訴している可能性があります。
2.特許の内容
2.1 本件特許1(特許第4452917号)
【請求項1】(本件発明1-1)
1A 芯材表面にスズからなる金属層が形成されてなるリード線端部に、
1B 圧扁部を有するアルミ芯線が溶接されてなる電解コンデンサ用タブ端子であって、
1C 前記リード線と前記アルミ芯線との溶接部に、ウィスカの成長抑制処理が施されてなり、
1D 前記のウィスカ抑制処理が、酸化スズ形成処理である、
1E 電解コンデンサ用タブ端子。
【請求項2】(本件発明1-2)
2A 前記の酸化スズ形成処理により、前記リード線と前記アルミ芯線との溶接部に少なくともSnOまたはSnO2が含まれてなる、
1A~1E 請求項1に記載のタブ端子。
2.2 本件特許2(特許第4732181号)
【請求項10】(本件発明2-10)
10A 芯材表面にスズからなる金属層が形成されてなるリード線端部に、
10B 圧扁部を有するアルミ芯線が溶接されてなるタブ端子であって、
10C 前記溶接部分の少なくとも一部に、SnPOx(xは2~4を表す)からなる皮膜が形成されてなることを特徴とする、
10D タブ端子。
【請求項11】(本件発明2-11)
11A スズが存在する部分において、スズ表面にPOx(xは2~4を表す)からなる皮膜が形成されてなる、
10A~10D 請求項10に記載のタブ端子。
◎ 本件特許には図面が添付されていないので、下記被告製品の図を参照してください。
3.被告製品
次の構造を有する電解コンデンサ用タブ端子。
3.1 図面
被告製品の構造を図面で説明すると,次のとおりである。
図面中の符号1は丸棒部を,符号2はリード線部を,符号3は圧扁部をそれぞれ示しており,破線で囲まれた部分は丸棒部にリード線部が溶接された部分を示している。
3.2 構造
被告製品は,アルミ芯線を用いて圧扁部と丸棒部を形成し,表面に鉛を含まないスズメッキを施したCP線又は銅線を用いたリード線を上記丸棒部に溶接することによって作製されている。
被告製品においては,上記溶接部分の表面に酸化スズ(SnO又はSnO2),SnPOX(xは2~4を表す)及びPOX(xは2~4を表す)が存在している。
以上の被告製品の構造を本件各発明に対応させて記載すると,次のとおりである。
【a】表面に鉛を含まないスズメッキを施したCP線または銅線を用いたリード線
【b】端部に,圧扁部を有するアルミ芯線が溶接されてなる,
【c】上記リード線と上記アルミ芯線との溶接部分の表面に酸化スズ(SnO又はSnO2),SnPOX(xは2~4を表す)及びPOX(xは2~4を表す))が存在する,
【d】電解コンデンサ用タブ端子。
4.争点
(1)被告販売製品は本件各発明の技術的範囲に属するか(争点1)
ア 被告販売製品は構成要件1Cを充足するか(争点1-1)
イ 被告販売製品は構成要件1Dを充足するか(争点1-2)
ウ 被告販売製品は構成要件2Aを充足するか(争点1-3)
エ 被告販売製品は構成要件10Cを充足するか(争点1-4)
オ 被告販売製品は構成要件11Aを充足するか(争点1-5)
(2)本件各発明についての特許は特許無効審判により無効とされるべきものと認められるか(争点2)
ア 本件発明1-1及び同1-2についての特許について
(ア)無効理由1(新規性欠如)は認められるか(争点2-1)
(イ)無効理由2(進歩性欠如)は認められるか(争点2-2)
(ウ)無効理由3(実施可能要件違反)は認められるか(争点2-3)
(エ)無効理由4(サポート要件違反)は認められるか(争点2-4)
(オ)無効理由5(明確性要件違反)は認められるか(争点2-5)
イ本件発明2-10及び同2-11についての特許について
(ア)無効理由1(新規性欠如)は認められるか(争点2-6)
(イ)無効理由2(進歩性欠如)は認められるか(争点2-7)
(ウ)無効理由3(実施可能要件違反)は認められるか(争点2-8)
(エ)無効理由4(サポート要件違反)は認められるか(争点2-9)
(オ)無効理由5(明確性要件違反)は認められるか(争点2-10)
(3)許諾による通常実施権は認められるか(争点3)
(4)先使用による通常実施権は認められるか(争点4)
(5)被告製品の差止め及び廃棄の必要性は認められるか(争点5)
(6)原告が受けた損害の額(争点6)