美容器事件

投稿日: 2019/02/08 1:04:39

1.検討結果

(1)本件発明1、2は、要は、4個のローラを備えた美容器であって、四方向に移動させることができ、それぞれの方向に進む際に前列の二つのローラ間で肌を押圧し、後列の二つのローラで肌を摘まみ上げるというものです。

(2)被告製品の詳細な説明はありませんが、当事者の主張や裁判所の判断を読む限り、ローラの形状やローラの支持構造といった特許請求の範囲で限定されていない点を相違点として主張しましたが、判決では特許請求の範囲を限定解釈する理由が無い、として認められませんでした。

(3)また、米国の先行技術文献に基づき新規性・進歩性欠如を理由とする無効主張をしました。しかし、いずれも二方向しか動かない構成のため無効主張は認められませんでした。

(4)損害論では原告が特許法第102条第1項に基づき被告が販売した被告製品の9割以上を同条の譲渡数量である、と主張しましたが、判決では「販売することができないとする事情」が存在するとして、5割程度を譲渡数量として認めました。譲渡数量自体は妥当のような気がしますが、その根拠には少し気になる点がありました。この「販売することができないとする事情」とは特許法第102条第1項のただし書きです。その内容は以下のとおりです。

「ただし、譲渡数量の全部又は一部に相当する数量を特許権者又は専用実施権者が販売することができないとする事情があるときは、当該事情に相当する数量に応じた額を控除するものとする。」

判決では次のように述べています。「本来原告製品の購入を希望していた需要者が被告製品を見て、類似した機能を有する製品を安く入手できるとしてこれを購入したような場合は、被告製品の販売がなければ、その需要が原告製品に向かうと可能性はあるものの、著名ブランドに属し、マイクロカレント等の特徴的機能を有する高価な原告製品に対し、ディスカウントストア等で販売され、前記機能を有さず、ブランド品には属さないものであることを認識した上で、低廉であることを理由に被告製品を購入したような場合、被告製品の販売がなかったとしても、その需要が原告製品に向かう可能性は低いと考えられ、特に、実際の販売価格に約8倍の差があることは重視せざるを得ないから、被告製品の譲渡数量のうち5割については、原告においてこれを販売することができなかった事情があるというべきであり、その分を被告製品の譲渡数量から控除すべきことになる。」

(5)つまり、原告製品は本件発明以外の機能が製品特徴としてアピールされ、さらに被告製品に比べ遥かに高価であるので、原告製品と被告製品の購買層が異なっていることが譲渡数量を控除すべき理由となる、というものです。損害賠償請求権の本来の性質からすると、このように考えて当然かもしれません。しかし、特許権者にしてみれば新たな製品を開発するための開発費確保やブランド力保持のために価格を維持してきた状況下で機能を絞った低価格製品により市場を奪われることに納得できない、と言いたいケースもあると思います。価格差を理由に譲渡数量を控除すると102条第1項の魅力が薄まってしまう気がします。

2.手続の時系列の整理

(1)特許第5791844号

(2)特許第5791845号

(3)ファミリ

3.本件発明

(1)本件発明1(訂正後)

A 4本の支持軸(13~16)と、

B これら4本の支持軸(13~16)の先端部に回転可能に支持されたマッサージ用の4個のローラ(17~20)と、

C これらローラ(17~20)を同一水平面上に載置した状態で、上方から見た平面視において、各前記ローラ(17~20)の一部分に重なるように形成されたハンドル(22)と、を備えており、

4個のローラ(17~20)は基端側にのみ穴を有し、各ローラ(17~20)はその内部に前記支持軸(13~16)の先端が位置する非貫通状態であり、

E 4本の前記支持軸(13~16)は、一方向からの側面投影において、二対が先広がり傾斜状であるとともに、90度異なる他方からの側面投影において他の組み合わせの二対が先広がり傾斜状に延びており、

F 4個の前記ローラ(17~20)を肌に押し当てて隣接する一対の前記ローラ(17~20)の配列方向と交差する方向に沿って移動させると、先行する隣接状態の一対の前記ローラ(17~20)間で肌を押圧し、後行する隣接状態の一対の前記ローラ(17~20)間で肌を摘み上げ

かつ、4個の前記ローラ(17~20)を肌に押し当てて前記隣接する一対の前記ローラ(17~20)と交差して隣接する一対の前記ローラ(17~20)の配列方向と交差する方向に沿って移動させると、先行する隣接状態の一対の前記ローラ(17~20)間で肌を押圧し、後行する隣接状態の一対の前記ローラ(17~20)間で肌を摘み上げることを特徴とする

H 美容器。

(2)本件発明2(訂正後)

I 4本の支持軸(13~16)と、

J これら4本の支持軸(13~16)の先端部に回転可能に支持されたマッサージ用の4個のローラ(17~20)と、を備えており、

4個のローラ(17~20)は基端側にのみ穴を有し、各ローラ(17~20)はその内部に前記支持軸(13~16)の先端が位置する非貫通状態であり、

L 4本の前記支持軸(13~16)は、一方向からの側面投影において二対が先広がり傾斜状であるとともに、90度異なる他方からの側面投影において他の組み合わせの二対が先広がり傾斜状に延びており、

M 隣接する一対の前記ローラ(17~20)の間隔が、これらローラ(17~20)の配列方向と交差する方向で隣接する一対の前記ローラ(17~20)の間隔よりも狭く、

N 4個の前記ローラ(17~20)を肌に押し当てて間隔が狭い隣接する一対の前記ローラ(17~20)の配列方向と交差する方向に沿って移動させると、先行する隣接状態の一対の前記ローラ(17~20)間で肌を押圧し、後行する隣接状態の一対の前記ローラ(17~20)間で肌を摘み上げ

かつ、4個の前記ローラ(17~20)を肌に押し当てて間隔が広い隣接する一対の前記ローラ(17~20)の配列方向と交差する方向に沿って移動させると、先行する隣接状態の一対の前記ローラ(17~20)間で肌を押圧し、後行する隣接状態の一対の前記ローラ(17~20)間で肌を摘み上げることを特徴とする

P 美容器。


4.争点

被告は、被告製品が訂正後の本件発明1及び2の技術的範囲に属することを争うとともに(下記(1)及び(2))、本件訂正請求に訂正要件違反があること(下記(3))、及び訂正後の本件特許1及び2に無効理由があること(下記(4)及び(5)を主張するほか、下記(6)ないし(8)の点で、原告の請求を争っている。

(1)被告製品は本件発明1の技術的範囲に属するか。

(2)被告製品は本件発明2の技術的範囲に属するか。

(3)本件訂正請求に訂正要件違反(請求の範囲の拡張・変更)があるか。

(4)本件特許1に無効理由があるか。

ア 乙17の1を主引例とする進歩性欠如

イ 乙18の1を主引例とする進歩性欠如

(5)本件特許2に無効理由があるか。

ア 乙17の1を主引例とする進歩性欠如

イ 乙18の1を主引例とする進歩性欠如

(6)権利不行使の抗弁が成立するか。

(7)過失の推定

(8)原告の損害額

ア 原告の限界利益

イ 販売をすることができないとする事情が認められるか。

5.当事者の主張

1 争点(1)(被告製品は本件発明1の技術的範囲に属するか)

被告製品については、本件発明1の構成要件B、C、D、F、Gの「ローラ」を充足するか、構成要件Bの「支持軸の先端部分に回転可能に支持された」を充足するかだけが争われており、構成要件のその余の部分の充足については争いがない。

(1)「ローラ」について

【原告の主張】

被告製品は、4本の支持軸のそれぞれ一端に回転可能に取り付けられた4つのローリング部を有している。

本件発明1は、ローラをユーザが肌に押し当てて移動させて回転させ、ローラで肌を押圧し、または摘み上げる美容器であって、「ローラ」は、そのように肌を押圧し、摘み上げることが可能な形状であれば、特に形状が限定されるものではない。そのような「ローラ」としてどのような形状を選択するかは、当業者であれば適宜選択し得る設計事項であることから、本件明細書1においても、様々な形状を取り得ることを示唆している。

よって、被告製品のローリング部の形状が被告の主張するように洋ナシ状であったとしても、本件発明1の「ローラ」に当たるというべきであり、被告製品は、構成要件B、C、D、F、Gの「ローラ」を充足する。

【被告の主張】

「ローラ」という用語の字義的意味は円筒状のものを指す。また、本件明細書1には、ローラとして、球形、楕円球形、ラグビーボール形状、両端を半球状にした円筒状、一端側を半球状にしたバルーン形状、ドラム状、樽状、多角形の筒形状が開示されている。すなわち、上記請求の範囲における「ローラ」は、円筒状の形状に加えて上記の各形状を指すと解釈することができる。

これに対し、被告製品のローリング部は、先端部側が平べったく扁平した洋ナシ状であって、上記いずれの形状にも該当しないので、本件発明1の「ローラ」には当たらないから、構成要件B、C、D、F、Gの「ローラ」を充足しない。

(2)「支持軸の先端部分に回転可能に支持された」について

【原告の主張】

被告製品においては、4本の支持軸のそれぞれの一端に、4つのローリング部が回転可能に取り付けられている。

構成要件Bの「支持軸の先端部に回転可能に支持されたマッサージ用の4個のローラ」とは、隣接する一対のローラの配列方向と交差する方向に沿って本体を一方向又は他方向に移動可能なものとするため、支持軸がローラを貫通していない状態となっていること、すなわち、支持軸の先端部を覆うような状態でローラが回転可能に支持されていることを意味するものである。これを、被告の主張するように、ローラの内周面に凹部が設けられ、当該凹部に軸受を介して支持軸が挿入されているような具体的構成に限定して解釈するような必要はない。

本件特許1の出願経過において、原告が、意見書(甲9の1、2)を提出し、その中で、「4本の支持軸の先端部に回転可能に支持された」旨の表現を用いた趣旨は、引用文献1(特開2012-183171号公報)との相違点として、本件発明1が「第1方向及び第2方向のどちらの方向に沿って移動させても、その移動の際に、先行する隣接状態の一対のローラが先広がり傾斜状に延びた2本の支持軸の先端部で回転する」ものという技術思想であることを明らかにしたにすぎない。

以上のとおり、被告製品のローリング部が、被告が主張するような形態で軸受や円筒部材等を介して支持軸に支持されているとしても、被告製品の4つのローリング部は、支持軸の先端部に回転可能に取り付けられていることに他ならないのであり、本件発明1の構成要件Bを充足する。

【被告の主張】

被告製品のローリング部の内部は、「支持軸」、「軸受」、「eリング」、「円筒状リング」及び「円筒部材」によって構成されているところ、支持軸に軸受、eリング、円筒状リング、円筒部材を順に挿入したとき、支持軸の先端部は円筒部材からは飛び出ない。そして、ローリング部に対し、円筒部材及び円筒状リングが「しまりばめ」で挿入され、これらが接着剤でローリング部に固定され、これにより、ローリング部が、支持軸に回転可能に支持されることとなるから、支持軸の先端部はローリング部によって一切支えられていないし、ローリング部に持たれていることもない。

本件明細書1の図8には、ローラに凹部が設けられ、凹部に軸受を介して支持軸が挿入されている様子が開示されているが、被告製品のローリング部はこれとは異なり、支持軸の「先端部以外」の部分で回転可能に支持されているから、構成要件Bを充足しない。

2 争点(2)(被告製品は本件発明2の技術的範囲に属するか)

被告製品については、本件発明2の構成要件J、K、M、N、Oの「ローラ」を充足するか、構成要件Jの「支持軸の先端部分に回転可能に支持された」を充足するかだけが争われており、構成要件のその余の部分の充足については争いがない。

(1)「ローラ」について

【原告の主張】

前記1(1)の原告の主張と同旨。

被告製品は、構成要件J、K、M、N、Oの「ローラ」を充足する。

【被告の主張】

前記1(1)の被告の主張と同旨。

被告製品のローリング部は、先端部分が平べったく扁平した洋ナシ状であって、本件発明2のローラには当たらず、構成要件J、K、M、N、Oの「ローラ」を充足しない。

(2)「支持軸の先端部分に回転可能に支持された」について

【原告の主張】

前記1(2)の原告の主張と同旨。

被告製品の4つのローリング部は、支持軸の先端部に回転可能に取り付けられており、構成要件Jを充足する。

【被告の主張】

前記1(2)の被告の主張と同旨。

被告製品のローリング部は、支持軸の「先端部以外」の部分で回転可能に支持されているから、構成要件Jを充足しない。

3 争点(3)(本件訂正請求に訂正要件違反(請求の範囲の拡張・変更)があるか)

【被告の主張】

原告は、本件発明1及び2について、「ローラが深く沈みこんだ場合でも、同先端部分においてマッサージ可能となる」との作用効果を主張するが、否認する。訂正前の本件明細書1及び2には、上記作用効果に関する記載はなく、添付の図4及び5においては、先端部が肌に接触していない状態が明記されている。

仮に、上記作用効果が認められる場合には、訂正前の本件明細書1及び2の範囲を超えた作用効果を含む発明が、訂正後の特許請求の範囲に記載された発明に含まれることとなるから、本件訂正請求は、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであり、特許法134条の2第9項、同法126条6項に反するものとして許されない。

【原告の主張】

本件発明1及び2は、ローラの先端が非貫通であるため、先端部分においてマッサージが可能なことは明らかである。また、訂正前の本件明細書1及び2の図4、5は、ローラの先端部付近が肌に接触している状況を示唆しており、さらにローラが皮膚に深く沈み込めばローラ先端部分が皮膚に接触し、先端部分によって皮膚をマッサージすることが可能となることが明らかである。

なお、上記作用効果は本件特許1及び2の訂正事項に含まれておらず、本件発明1及び2について同作用効果を主張することは、訂正要件違反とならない。

4 争点(4)(本件特許1に無効理由があるか)

(1)乙17の1を主引例とする進歩性欠如

【被告の主張】

本件発明1は、出願日前に刊行された乙17の1に記載された発明(以下「乙17発明」という。)に、乙18の1に記載された発明(以下「乙18発明」という。)、乙19ないし23に記載された周知技術、及び乙33、34、19、42ないし45に記載された発明を組み合わせることで、当業者なら容易に想到し得たものであるから、特許法29条2項、123条1項2号、104条の3第1項により、原告は権利を行使することができない。

ア 乙17発明の構成

昭和28年4月7日に発行された乙17の1(米国特許公報第2、633、844号)には、マッサージデバイスの発明である乙17発明が記載されている。乙17発明の構成は、別紙「本件発明1との関係における乙17発明の構成」の「被告主張」欄のとおりである(「○」の記載は、原告の主張を争わないことを示す。以下同じ。)。

乙17の1【図1】

イ 相違点1について

本件発明1では、先行する隣接状態の一対の前記ローラ間で肌を押圧するとされるが、乙17発明において、かかる構成が存在しない。

しかし、乙17発明は肌に押し当てて使用するマッサージデバイスの発明であるところ、先行する一対のローラ間が肌を押圧するのは自明のことであるし、本件特許1出願以前に発行された乙18の1には、先行する一対のローラ部が、肌を引き延ばす、すなわち押圧する旨の記載が存在するから、乙17発明に前記自明の事実、又は乙18発明を当てはめることにより、その先行する一対のローラが肌を押圧すると想到することは、当業者にとって極めて容易である。

ウ 相違点2について

本件発明1においては後行する一対のローラが肌を摘み上げるとされるのに対し、乙17発明では、後行する一対のローラが体の脂肪部分を把持し、それによって脂肪部分を揉むとされる。

しかし、乙18発明では後行する一対のローラが「肌を引っ張り揉む」とされており、本件特許1の出願以前に刊行された乙19ないし23によれば、Y字状又はV字状に回転可能に支持されたローラと皮膚面とのなす角が鋭角になっている場合に、鋭角の方向にローラを移動することにより、肌が摘み上げられるという作用が生じることは、本件特許1の出願当時、当業者にとって周知技術であったから、乙17発明に、乙18発明又は前記周知技術を当てはめることで、後行する一対のローラが肌を摘み上げるとすることは、当業者にとって容易想到である。

エ 相違点3について

本件発明1は、各ローラの内部に支持軸の先端が位置する非貫通状態であるのに対し、乙17発明は、各ローラの先端側の穴から支持軸が抜け出た貫通状態である。

しかし、本件特許1の出願以前に刊行された乙33、34、19、42ないし45には、基端側にのみ穴を有し、その内部に支持軸の先端が位置する非貫通状態のローラの技術が記載されているから、乙17発明に前記技術を適用して、本件発明1を想到することは容易であった。

オ 相違点4について

(ア)原告は、本件発明1の構成要件F及びGでは、美容器を上下左右に移動させることができるのに対し、乙17発明では、マッサージデバイスを前記乙17の1【図1】の左右方向に移動することだけが予定されており、上下方向への移動は忌避されているとして、本件発明1と乙17発明には相違点があると主張するが、否認する。乙17発明のマッサージデバイスは上下左右に移動が可能であり、相違点は存しない。

(イ)原告は、乙17発明のローラは貫通型であり、上記図1のナット25が存することから、上下方向に移動した場合、ナット25が皮膚に当たるので、そのような移動は忌避されると主張するが、乙30ないし32によれば、マッサージデバイスを上下方向に移動させても皮膚を傷つけることはない。

仮にナット25のために上下方向の移動が忌避されるとすれば、前記エのとおり、乙33以下に記載された非貫通状態のローラの技術を適用して、上下方向への移動を可能とすることは容易である。

(ウ)原告は、乙17発明のローラの支持軸の角度の関係から、上下方向に移動する場合、抵抗が大きくローラが回りにくいと主張するが、原告がその根拠とする甲13は、乙17発明の正確な再現ではないし、乙21、35によれば、一対のローラの支持軸の角度が狭くてもローラは回転するから、乙17発明のマッサージデバイスを上下方向に移動しても、ローラは回転する。

仮に乙17発明では上下方向の移動に制約がある場合、後述のとおり、乙18発明は上下左右の移動が可能であり、乙45には、ローラの支持軸同士の角度が60ないし90度となる発明が開示されているから、乙17発明に乙18発明又は乙45の記載を適用して、ローラを上下左右に移動し得るようにすることも容易である。

【原告の主張】

ア 乙17発明の構成

乙17発明の構成は、別紙「本件発明1との関係における乙17発明の構成」の「原告主張」欄のとおりである。

イ 相違点1及び2について

相違点1及び2との関係で、本件発明1が容易想到であるとの被告の主張は争う。

ウ 相違点3について

(ア)本件発明1は、「4個のローラは基端側にのみ穴を有し、各ローラはその内部に前記支持軸の先端が位置する非貫通状態であり」という構成であってローラの先端もマッサージに用いることができるものである。これに対し、乙17発明は「4個のローラは基端側と先端側に穴を有し、各ローラの先端側の穴から支持軸が抜け出た貫通状態である」という構成をとる。

(イ)被告は、乙18発明その他の技術を適用できると主張するが、乙18発明には相違点3に係る構成は開示されていないし、乙19ないし23、33、34、42ないし45に記載された各技術は、いずれも「4個のローラ」を有するものではなく、乙20、21については、支持軸がローラを貫通している点で「非貫通状態」ではない。また、乙33、34の発明は、先端非貫通ではあるが、いずれもローラを肌に当てて移動しながらマッサージしている状態ではローラ側面が肌に当たるのであり、先端部分は肌に当たらない。したがって、ローラの先端部分を非貫通とすることにより「ローラが深く沈み込んだ場合でも、同先端部分においてマッサージ可能と」した技術ではない。

(ウ)したがって、乙17発明に上記発明又は技術を組み合わせることによって、本件発明1が容易想到であるとはいえない。

エ 相違点4について

(ア)本件発明1においては、一対のローラの配列方向と交差する方向、及びその一対のローラと交差して隣接する一対のローラの配列方向と交差する方向のいずれの方向にも移動させることが開示されているが、乙17発明においては、前記乙17の1【図1】の上下にローラを移動させることは開示されていない。

(イ)乙17発明では、ローラの先端にナット25が存在し、乙17の1【図1】の上下方向に移動すると、ナット25が皮膚に接触することから、乙17発明では、前記図面の上下方向の移動は忌避されている。

(ウ)乙17発明では、2つのローラの支持軸の角度が狭くなっている方向に移動させようとした場合、回転抵抗が大きくローラは回りにくいから、同方向に移動することは予定されていない。

(エ)乙18発明には、上下左右に移動させる構成は開示も示唆もされていない。乙18の2にある「十字」は、マッサージ器の移動方向ではなく、「組織に十字状に作用する」ことを意味するものであるし、そのハンドルの形状も、上下左右の移動を予定したものではない。

(オ)したがって、乙17発明に乙18発明を組み合わせても本件発明1にはならず、容易想到とはいえない。

(2)乙18の1を主引例とする進歩性欠如

【被告の主張】

本件発明1は、乙18発明に、乙17発明、乙19ないし23に記載された周知技術、及び乙33、34、19、42ないし45に記載された発明を組み合わせることで、当業者らが容易に想到し得るものであるから、原告は権利を行使することができない。

ア 乙18発明の構成

昭和10年4月30日に発行された乙18の1(米国特許公報第1、999、939号)には、乙18発明が記載されており、その乙18発明の構成は、別紙「本件発明1との関係における乙18発明の構成」の「被告主張」欄のとおりである。

乙18の1【図1】

イ 相違点1について

乙18発明はローラ部が3個の離間したローラで構成されているが、本件発明1はそのような構成でない。

しかし、乙18の1では、各ローラ部におけるローラの個数を任意に変更してもよいことが示唆されており、乙17発明では、4本の支持軸の先端部に回転可能に支持されたマッサージ用の4個のローラにつき、離間していないローラが示されているから、乙17発明を乙18発明に適用することにより、3個の離間したローラを一つのローラとすることは、当業者にとって極めて容易である。

ウ 相違点2について

本件発明1は、「これらローラを同一水平面上に載置した状態で、上方から見た平面視において、各前記ローラの一部分に重なるように形成されたハンドル」という構成をとるが、乙18発明は前記乙18の1【図1】のバーの形状である。

しかし、乙18発明においては、4個のローラの一部分に重なるよう形成された本体1が設けられ、本体1はバーに固定されているが、バーの形状を本体1と一体になる形状とすることは容易であるし、乙17発明のハンドルを乙18発明に適用することも、当業者にとっては極めて容易である。

エ 相違点3について

本件発明1においては、後行するローラ間で肌を摘み上げるのに対し、乙18発明においては、後行するローラ間で肌を引っ張り揉む。

しかし、前記(1)被告の主張ウのとおり、乙19ないし23によれば、Y字状又はV字状のローラ又はボールを有するマッサージローラを移動させた場合、肌が摘み上げられることが周知技術であるところ、乙18発明においてバーと垂直方向にマッサージデバイスを移動させた場合、後行する一対のローラの支持軸と肌とが鋭角になるので、後行する一対のローラが肌を摘み上げるとの作用が生じるであろうことは当業者にとって容易に理解できるから、乙18発明の「肌を引っ張り揉む」から「肌を摘み上げる」に想到することは、当業者にとって極めて容易である。

オ 相違点4について

原告は、乙18発明のローラが貫通状態であるのに対し、本件発明1では非貫通状態であることを主張するが、前記(1)の被告の主張エのとおり、この点は、乙33、34、19、42ないし45の記載に基づいて、当業者であれば容易に想到することができる。

カ 相違点5について

(ア)原告は、本件発明1の構成要件F及びGでは、美容器を上下左右に移動することができるのに対し、乙18発明では、マッサージ器は、前記乙18の1【図1】の上下方向にのみ移動し、左右方向には移動しないと主張するが、否認する。乙18発明においても、マッサージ器は上下左右に移動するので、相違点は存しない。

(イ)乙18の2には、「器具が本体の長手方向に移動される、または任意の他の方向に移動されるかに関わらず、その面が鈍角を形成する前方ローラは、組織を中心から各々の面に押しやり、これに続くローラは、組織を再度器具の中心向かって押し返すことが強調される。これにより完璧なマッサージが生み出される。ローラが対頂角にセットされる事実を考慮すると、組織は、十字に似た形で扱われることになるであろう。」との記載があり、前記【図1】の器具の長手以外の方向にも、十字にも移動し得ることが開示されているし、仮にローラが貫通状態であることが左右に移動することの支障となるとしても、前記オのとおり、ローラを非貫通状態とすることは容易であるから、左右に移動することの支障は、直ちに解消される。

原告は、鋭角をなすローラが前方に位置するように移動させることは、技術的、構造的にあり得ないと主張するが、一対のローラの回転軸が鋭角であったとしても、一対のローラが何の問題もなく回転し、肌の摘み上げ作用を生じさせることができることは、乙21、35及び45から明らかであり、乙18発明にこれらを適用すれば、本件発明1は容易想到である。

(ウ)原告は、乙18発明が、前記【図1】の上下方向に移動することは、そのハンドル形状からも明らかであると主張するが、乙18の2に、バー9とハンドル10及びハンドル11を取り外して、器具に対して回転式の運動を与えるシャフトに置き換えることが記載されているから、上記バー及び左右のハンドルは必須の構成ではなく、乙18発明は、左右のハンドルを掴んで移動させることを前提とした本体の長手方向への移動だけに限定されているわけではない。

【原告の主張】

ア 乙18発明の構成

乙18発明の構成は、別紙「本件発明1との関係における乙18発明の構成」の「原告主張」欄のとおりである。

イ 相違点1ないし3について

相違点1ないし3との関係で、本件発明1が容易想到であるとの被告の主張は争う。

ウ 相違点4について

前記(1)原告の主張ウにおいて、乙17発明について述べたところと同旨。

エ 相違点5について

(ア)乙18発明は、前記【図1】の上下方向あるいはこれに近似する方向に器具を移動するものであり、同図の左右方向に移動するものではなく、乙18の1に相違点5に係る構成は開示ないし示唆されていない。

(イ)乙18の2の記載によれば、移動する方向の前方ローラは鈍角を形成することが前提と解されるから、前記【図】の左右方向に移動することを説明するものではない。

乙18の2に「十字」との記載が存するが、これはマッサージ器の移動方向を示すものではなく、組織が十字状に作用されるという意味である。

(ウ)さらに、乙18発明が前記【図1】の上下方向に移動させるものであることは、そのハンドルの形状からも明らかである。同図の左右方向に移動させるのであれば、ハンドル10、11の形状を採用するとは考えられない。乙18の2の記載は、乙18発明がボルト12を中心に水平回転をすることを意味し、乙18発明を同図の左右方向に移動させることを開示したものではない。

5 争点(5)(本件特許2に無効理由があるか)

(1)乙17の1を主引例とする進歩性欠如

【被告の主張】

本件発明2は、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が、乙17発明及び乙18発明、乙19、33、34、42ないし45のいずれかに記載された発明、並びに周知技術に基づいて、特許出願前に容易に発明することができたものであるから、特許法29条2項、123条1項2号、104条の3第1項により、原告は権利を行使することができない。

ア 乙17発明の構成

(ア)乙17発明の構成は、別紙「本件発明2との関係における乙17発明の構成」の「被告主張」欄のとおりである。

(イ)構成d3について、乙17の1【図1】を、図面ソフト上で測定したところ、同図中の上下に隣接するローラの間隔は、左右に隣接するローラの間隔よりも狭い。

原告は、特許図面は模式図であって設計図ではないから、上記測定値は技術的事項とはいえないと主張するが、前記【図1】が上面図、同【図2】が線2-2で切り取られた端面図、同【図3】が線3-3で切り取られた断面図であるとされているのであるから、当業者としては同【図1】ないし【図3】は相互に整合性が取れた図面であり、乙17発明を正確に表現した図面と理解する。このような乙17発明の図面をもとに、用いられている寸法を測定し、乙17の1に記載されている技術的事項を導き出すことは当業者にとって自明なことである。

また、一対のローラの開き角度と他方の一対のローラの開き角度が異なれば、おのずとローラの間隔はいずれか一方が狭くなる。原告が主張するように各ローラの支持軸の起点が異なる場合、ローラの間隔が同一となる方が稀である。

イ 相違点1ないし3について

前記のとおり、本件発明2は本件発明1の分割出願であることから、本件発明2と乙17発明は、本件発明1と乙17発明との相違点1ないし3と同一の相違点を有するが、いずれも当業者によって容易に想到することができる(前記4(1)参照)。

ウ 相違点4について

乙17発明は、上記のとおり、「d3 隣接する一対の前記ローラの間隔が、これらのローラの配列方向と交差する方向で隣接する一対のローラの間隔よりも狭く」との、本件発明2と同じ構成を有しており、乙17発明のローラの間隔の広狭は不明であり、相違点4が存するとする原告の主張は認められない。

仮に相違点4が存在したとしても、隣接する一対のローラの間隔をどのような間隔にするかは単なる設計事項にすぎず、当業者にとって容易に発明できる事項にすぎない。

エ 相違点5について

本件発明2の構成要件N及びOは、美容器を上下左右に移動できるところ、乙17発明が乙17の1【図1】の上下方向に移動できるか否かについては、前記4(1)被告の主張オで述べたとおりであり、この点に相違点は存せず、仮に相違点が存するとされた場合であっても、本件発明2を想到することは容易である。

【原告の主張】

ア 乙17発明の構成

(ア)乙17発明の構成は、別紙「本件発明2との関係における乙17発明の構成」の「原告主張」欄のとおりである。

(イ)被告は、乙17の1【図1】について寸法を測定した結果、同図中の上下に隣接するローラの間隔は左右に隣接するローラの間隔よりも狭いと主張し、構成d3として、乙17発明につき「隣接する一対の前記ローラの間隔が、これらのローラの配列方向と交差する方向で隣接する一対のローラの間隔よりも狭く」と認定するが、特許図面は模式図であって設計図ではないから、正確な寸法で描かれているとは限らず、乙17の1【図1】ないし【図3】が互いに整合しているという事項の一点のみをもって、直ちにこれらの図に寸法等を含めた技術的事項が開示されているとは認められない。

また、被告は、一対のローラの開き角度と他方の一対のローラの開き角度が異なれば、自ずとローラの間隔はいずれか一方が狭くなると主張するが、各ローラの支持軸の起点が異なる場合には、一対のローラの開き角度と間隔との因果関係はなく、上記被告の主張は当たらない。

そもそも乙17発明は、交差方向(上下左右方向)に移動させる構成ではなく、隣接するローラの間隔を交差方向で異ならせるという技術思想が存在せず、同技術的事項が開示されていないことは明らかであるから、乙17発明において、隣接する一対のローラの間隔と、これらのローラの配列方向と交差する方向で隣接する一対のローラの間隔との広狭の関係は、不明といわざるを得ない。

イ 相違点1及び2について

乙17発明は、本件発明2との関係で、本件発明1と乙17発明との相違点1及び2と同じ相違点を有するところ、この点について本件発明2が容易想到であるとの被告の主張は争う。

ウ 相違点3について

乙17発明は、本件発明2との関係で、本件発明1と乙17発明との相違点3と同じ相違点を有するところ、この点についての原告の主張は、前記4(1)原告の主張ウのとおりである。

エ 相違点4について

前記アで述べたとおり、乙17の1に、乙17発明のローラの間隔の広狭についての開示はなく、この点は不明といわざるを得ない。乙18の1【図1】にもローラの間隔に関する技術的事項の開示はないから、この点は当業者にとって容易想到ではないというべきである。

オ 相違点5について

乙17発明は、本件発明2との関係で、本件発明1と乙17発明との相違点4と同じ相違点を有するところ、この点についての原告の主張は、前記4(1)原告の主張エのとおりである。

(2)乙18の1を主引例とする進歩性欠如

【被告の主張】

本件発明2は、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が、乙17発明及び乙18発明、乙19、33、34、42ないし45のいずれかに記載された発明、並びに周知技術に基づいて、特許出願前に容易に発明することができたものであるから、特許法29条2項、123条1項2号、104条の3第1項により、原告は権利を行使することができない。

ア 乙18発明の構成

乙18発明の構成は、別紙「本件発明2との関係における乙18発明の構成」の「被告主張」欄のとおりである。

イ 相違点1ないし3について

本件発明2と乙18発明との間には、前記4(2)被告の主張イ、エ、オに記載した本件発明1と乙18発明との相違点1、3、4と同じ相違点が存するところ、これらがいずれも容易想到であることは、前記各引用個所で述べたとおりである。

ウ 相違点4について

原告は、本件発明2と乙18発明との間には、前記5(1)被告の主張ウに記載した本件発明2と乙17発明との相違点4と同じ相違点が存すると主張するが、この相違点は存在しない。仮にこの相違点が存するとしても、前記引用個所で述べたとおり、容易想到である。

エ 相違点5について

原告は、本件発明2と乙18発明との間には、前記5(1)被告の主張エに記載した本件発明2と乙17発明との相違点5と同じ相違点が存すると主張するが、この相違点は存在しない。仮にこの相違点が存するとしても、前記引用個所で述べたとおり、容易想到である。

【原告の主張】

ア 乙18発明の構成

乙18発明の構成は、別紙「本件発明2との関係における乙18発明の構成」の「原告主張」欄のとおりである。

イ 相違点1及び2について

乙18発明は、本件発明2との関係で、本件発明1と乙18発明との相違点1及び3と同じ相違点を有するところ、この点について本件発明2が容易想到であるとの被告の主張は争う。

ウ 相違点3ないし5について

乙18発明は、本件発明2との関係で、本件発明2と乙17発明との相違点3ないし5と同じ相違点を有するところ、この点について本件発明2が容易想到であるとの被告の主張は争う。

6 争点(6)(権利不行使の抗弁が成立するか)

【被告の主張】

原告と被告は、平成27年11月11日、原告が、被告及び被告関連会社の販売する製品(以下「別訴被告製品」という。)の製造販売等の差止め等を求めて提起した特許権侵害差止等請求訴訟(当裁判所平成27年(ワ)第1865号事件。以下「別件訴訟」という。)に関連し、以下の内容を合意した(以下、それぞれ「本件合意1」及び「本件合意2」という。)。

① 被告は、別訴被告製品の製造販売を取りやめる。被告は、別訴被告製品の在庫及び金型を廃棄する。原告は、別訴被告製品につき損害賠償請求をしない。

② 被告は、被告製品の製造販売を取りやめる。原告は、譲渡済みの被告製品については不問に付し、損害賠償請求はしない。

被告は、本件合意1に従い、別訴被告製品の販売を取りやめ、在庫と金型を廃棄し、別件訴訟については、同年12月22日、和解が成立した。

また、被告は、本件合意2に従い、同年11月11日以降、被告製品の販売を取りやめた。

したがって、本件合意2に基づき、原告は、被告に対し、被告製品を対象とした特許権行使をすることができない。

【原告の主張】

原告と被告が、本件合意1及び2について協議し、本件合意1に基づき上記和解が成立したことは認めるが、本件合意2については最終的な合意には達していない。被告は、平成28年3月頃に原告代理人が中止の要請をするまで、被告直営店において被告製品の販売を継続し、また、被告ウェブページ上で被告製品を販売し、少なくとも販売の申出をしていた。

したがって、被告の主張する権利不行使合意の主張は成立しない。

7 争点(7)(過失の推定)

【被告の主張】

本件特許1及び2は、いずれも平成27年8月14日に設定登録され、同年10月7日に公報において設定登録された旨の掲載が行われたから、被告が同年8月14日以前に輸入し、国内流通業者に譲渡した行為、及び被告直営店等に譲渡した行為についてはいずれも特許権侵害が成立せず、被告が、同日以降、同年10月6日以前に輸入し、国内流通業者に譲渡した行為、及び被告直営店等に譲渡した行為については、特許法103条による過失推定が及ばない。

本件発明1及び2の特許査定の発送日は平成27年8月4日であるところ、原告が被告に送付した同月5日付けファックスは、特許査定を受けたことを示すものではない。よって、同日から同年10月6日まで過失の推定が及ぶことはない。

【原告の主張】

本訴に至る前の交渉中である平成27年8月5日、原告代理人より被告代理人に対し、本件特許1及び2の権利化の見通しが立っていることを連絡し、登録クレームとなると思料される手続補正書の写し(甲11)を送付した。したがって、遅くとも、同日時点において、被告は本件特許1及び2の存在を認識し得たところ、被告において過失推定を覆すような特段の事情はない。

8 争点(8)(原告の損害額)

【原告の主張】

(1)被告製品の譲渡数量

ア 被告は、平成27年8月から平成28年7月末まで被告製品を販売しており、本件特許1及び2の登録日(平成27年8月14日)以降の被告製品の販売総数(卸販売数)は、合計3365個である。

さらに、被告は、平成28年8月以降も、自己の直営小売店及びウェブサイト上において被告製品の販売を行っていた。その数量は、少なくとも、上記期間の卸販売数の10%(330個)の数量であると考えられる。

イ 被告は、上記期間において直営店による小売販売は行っていないと主張する。しかし、平成27年12月30日及び平成28年1月24日、被告の直営店(それぞれピエリ守山内の「ビューティーコスメ」及びイオンモール常滑店の「クローバー」と称する店舗)において被告製品が販売されていた。また、同年2月23日の時点で、被告ウェブサイトにおいて被告製品の販売を行っていた。

ウ したがって、上記登録日以降の販売総数(譲渡数量)は、合計3695個である。

(2)原告製品の単位数量当たりの利益額

ア 原告は、本件特許1及び2に係る特許実施品として、平成25年7月以降、製品名「ReFa For Body」(甲16、17。以下「原告製品」という。)を販売しており、原告製品と被告製品は、市場において競合する関係にある。

イ 平成27年8月から平成28年7月までの間の1年間における原告製品の販売数量は(中略)個、売上高は合計(中略)円である。

上記期間の原告製品の製造原価は、(中略)円である。

上記期間における原告の全製品の売上高は合計(中略)円であり、原告の全製品に対する原告製品の売上比率は、(中略)%である。

ウ 上記期間において、原告の全製品につき以下のとおりの費用が発生した。これらの費用は、いずれも変動費又は原告の全製品の製造・販売に直接必要な個別費用である。

① 販売手数料 (中略)円

② 販売促進費 (中略)円

③ ポイント引当金 (中略)円

④ 見本品費 (中略)円

⑤ 宣伝広告費 (中略)円

⑥ 荷造運賃 (中略)円

⑦ クレーム処理費 (中略)円

⑧ 製品保証引当金繰入 (中略)円

⑨ 市場調査費 (中略)円

① から⑨までの合計額 (中略)円

これに、原告の全製品に対する原告製品の売上比率(中略)%を乗じると、(中略)円となる。

よって、原告製品の利益額は、原告製品の売上高から製品原価と上記各控除項目の費用の総額を控除した、(中略)円となる。

(計算式)(中略)-(中略)-(中略)=(中略)円

エ 上記利益額を、原告製品の上記期間における販売数量(中略)個で除した(中略)円が、原告製品の単位数量当たりの利益額である。

(3)原告の損害額の推定

被告製品の譲渡総数は、上記のとおり3695個である。

これに上記原告製品の単位数量当たりの利益額を乗じると、(中略)円となる。

(計算式)3695×(中略)=(中略)

以上より、原告の損害額は、特許法102条1項により(中略)円と推定される。

(4)弁護士費用相当額

本件訴訟追行に当たって相当な弁護士費用は、上記損害の額の10%相当額である(中略)円が相当である。

(5)被告の主張に対する反論

ア 「販売することができないとする事情」(特許法102条1項ただし書)がないこと

仮に、被告が原告製品を取り扱っていない取引先に卸売販売をしていたとしても、市場において取引者・需要者が被告製品を購入したことの結果として原告製品が排除されたことに変わりはない。したがって、当該事実をもって損害額が減額されるべき理由はない。

イ 控除対象となる経費について

被告は、下記①ないし㉗の費用全てを経費として原告製品の売上から控除すべきと主張するが、「単位数量当たりの利益の額」とは、被告の侵害行為がなければ原告において追加的に原告製品を販売することができたはずの数量の原告製品の販売額から、当該数量の原告製品を追加して販売するために追加的に必要であったはずの費用を控除した額を、当該数量で除したもの、すなわち限界利益である。したがって、控除費目として考慮すべきものは、製造原価のほかいわゆる変動費である。ところが、被告の挙げる各種費用は、以下に主張するとおり、いずれも一般的に固定費とされる費目であるから、控除対象とならない。

また、平成27年8月から平成28年7月末までの期間の原告製品の販売総数は(中略)個であり、月平均約(中略)個、被告製品の販売総数は3695個、月平均約307個である。すなわち、被告製品の月販売平均数は原告製品の月販売数量の(中略)%程度に過ぎず、この観点からも、通常固定費とされる費目をあえて追加費用として控除対象とする必要はない。

なお、被告の主張する各控除項目についての原告の個別の主張は、以下のとおりである。

① 制作費

制作費は、店頭に配置しているリーフレットやディスプレイの販促物の制作にかかる費用、リーフレット等に載せるビジュアルの撮影にかかる費用も含む。

当該費用は、原告製品の増産において特に必要とされる経費ではなく、変動費に当たらない。

② 旅費交通費

旅費交通費は、原告の従業員等の出張等の費用である。

当該費用は、原告製品の増産において特に必要とされる経費ではない。

③ 保管料

保管料は、原告商品やリーフレット等の販促物等の資材の倉庫料である。倉庫料は原則として固定費であり、また、上記に記載のとおり、被告製品の販売数量を見ても控除費目として計上する必要はない。

④ 役員報酬、給与手当、スタッフ給与手当、役員賞与、賞与、通勤費、退職金

これらはいわゆる人件費であり、原告製品の増産販売において特に必要となる経費ではない。また、上記に記載のとおり、被告製品の販売数量を見ても控除費目として計上する必要はない。

⑤ 法定福利費、福利厚生費

法定福利費は、法定の福利費用そのものであり、福利厚生費とは、慶弔金、全社レクリエーションにかかる費用の外、住宅補助等を含む。これらは原則として固定費である。

⑥ 研修費

研修費とは、原告従業員等が外部のセミナー・研修・講演会に行く際の費用等である。これらは原則として固定費である。

⑦ 求人費

求人費とは、人材紹介手数料等、求人にかかる費用である。これらは人材確保のための費用であり固定費である。また、上記に記載のとおり、被告製品の販売数量を見ても控除費目として計上する必要はない。

⑧ 顧客管理費

顧客管理費とは、キララ事業(原告の販売するウォーターサーバ事業)の顧客管理費用、顧客管理システムの維持費、料金の自動引き落とし手数料、請求書発行費用等である。原告製品に関する事業と異なる費目であり、控除費目として計上されるべきものではない。

⑨ 車両費

車両費とは、原告の社用車にかかる購入・車検・修理の費用であり、原則として固定費である。また、上記に記載のとおり、被告製品の販売数量を見ても、原告製品の販売のためにさらに追加の車両費が発生するものではなく、控除費目として計上する必要はない。

⑩ 賃借料

賃借料は、原告直営店舗のテナント賃料、その他、原告所有以外の建物内を賃借している営業所等の賃料であって固定費である。また、上記に記載のとおり、被告製品の販売数量を見ても、原告製品の販売のためにさらに追加の直営店や営業所が必要となるものではなく、控除費目として計上する必要はない。

⑪ 保険料

保険料とは、業務用火災保険、PL保険等の費用である。上記に記載のとおり、被告製品の販売数量を見るに、同数の原告製品の増産販売において追加経費として発生するようなものではない。

⑫ 維持管理費

維持管理費とは、システムの保守・ランニング費用や建物の修理費等である。これらは、原告の営業システムの保守管理費用であり、原告製品の製造販売に影響しない固定費である。

⑬ 通信費

通信費とは、原告従業員等に配布している業務用携帯電話等にかかる費用であり、固定費である。また、上記に記載のとおり、被告製品の販売数量を見るに、同数の原告製品の増産販売において特に従業員の増加も必要ないところ、追加経費として発生するようなものではない。

⑭ 水道光熱費

水道光熱費はその名目どおり水道光熱に関する費用であり固定費である。

⑮ 消耗品費

消耗品費とは、一般的な消耗品にかかる費用であり固定費である。

⑯ 事務用品費

事務用品費とは、消耗品費の中の特に事務用品にかかる費用であり固定費である。また、上記に記載のとおり、被告製品の販売数量を見るに、同数の原告製品の増産販売において特に従業用品の増加も必要ないところ、追加経費として発生するようなものではない。

⑰ 新聞図書費

新聞図書費とは、新聞代、専門書籍の購読(社内活用目的)などにかかる費用であり固定費である。

⑱ 会議費

会議費とは、経営方針発表会等のイベントの際の会場のレンタル料、その他、会議時の昼食代等であり固定費である。

⑲ 交際費

交際費とは、いわゆる接待交際費であって固定費である。

⑳ 諸会費

諸会費とは、原告が会員となっている協会(例えば、日本知的財産協会等)の年会費等であり固定費である。

㉑ 寄付金

寄付金とは、原告が会社として寄付する費用であり固定費である。

㉒ 支払手数料

支払手数料とは、銀行振り込み手数料、知財出願手数料、業務委託手数料(コールセンター)等であり、原告製品の販売によってその費用が増加するような関係にはない。

㉓ 報酬

報酬とは、弁護士、弁理士、税理士等への報酬、顧問料等であり、原告製品の増産販売に関連するものではない。

㉔ 雑費、雑損失

雑費とは、産業廃棄物の処理費用等であり、固定費である。また、雑損失とは、営業外費用に属するもののうち、他のいずれの勘定科目にもあてはまらない損失であり、原告製品の増産販売と関連しない費目であることは明らかである。

㉕ 法人税、公租公課

法人税等とは、いわゆる法人税、法人税調整額等である。上記に記載のとおり、被告製品の販売数量を見るに、同数の原告製品の増産販売において増加するものではない。

㉖ 支払利息

支払利息とは事業資金の借入金に係る利息である。上記に記載のとおり、被告製品の販売数量を見るに、同数の原告製品の増産販売において増加するものではない。

㉗ 為替差損

為替差損は、その文字どおり、原告が有する外貨建債権債務につき、為替相場の変動により自国通貨の受取額または支払額に生じる差損である。原告製品の増産販売に直接関連するものではなく控除費目ではない。

(6)よって、原告は、被告に対し、上記損害と弁護士費用の合計2481万3400円、及びうち920万円については訴状による催告の日の翌日から、うち1561万3400円については訴えの変更申立書による催告の日の翌日から、民法所定の遅延損害金の支払を求める。

【被告の主張】

(1)被告製品の譲渡数量

平成27年8月14日から平成28年7月末までの間の被告製品の卸売数が合計3365個であることは争わない。

被告は、平成27年12月、平成28年1月に直営店において被告製品を販売したり、同年2月23日時点においてウェブサイトにおいて通信販売を行ったりしたことはない。なお、ピエリ守山内の「ビューティーコスメ」という店舗を被告が経営していたことは認め、イオンモール常滑内の「クローバー」という店舗を被告が経営していたことは否認する。

(2)「販売することができないとする事情」について

ア 被告の営業努力

原告は、原告製品を、原告の店舗、インターネット上における通信販売ウェブサイト、大手通販会社、百貨店、大手家電量販店、大手オンラインモール及びエステサロンにおいて販売している。

他方、被告は、以前からの取引先に対して被告製品の取扱いを促し、卸売りを行った。被告の卸販売先はいずれも原告製品を取り扱っておらず、中には原告に対し原告製品の納品を依頼したが断られたため被告製品の納品を開始した卸販売先もある。

イ 被告製品と原告製品の性能

原告製品の大きな特徴は、製品に備わった太陽光パネルから発生する微弱電流がローラを介して人体に影響を与えるという点にある。消費者は、原告製品の上記特徴に鑑み、高額である原告製品を購入している。他方、被告製品は微弱電流を発することはなく、その効果を期待する消費者が被告製品を選択することはない。

ウ 市場の非同一性

原告製品は、上記アのような場所においていずれも高額な原告の他製品と共に展示販売されている。そして、原告製品の販売価格は、基本的に3万3000円である。他方、被告製品は、低額販売で著名な量販店「ドン・キホーテ」や零細生活雑貨店において、分野の異なる他社製品と共に販売されている。そして、被告製品の販売価格は、基本的に3980円である。

以上のとおり、原告製品と被告製品とは、市場の同一性が認められない。

エ まとめ

したがって、上記各事情により、原告には、被告製品の譲渡数量の一部を販売することができない事情が存在し、その割合は、被告が現に販売した個数の9割以上に相当する。

(3)控除すべき費用

原告製品は、原告における主力商品の一つであるから、原告製品の製造・販売に当たり一切関係のない経費を除き、原告が負担する全ての経費(上記原告主張欄の①ないし㉗)に原告の売上全体に対する原告製品の売上比率を乗じた額が、費用として原告製品の売上高から控除されるべきである。

6.当裁判所の判断

1 本件発明1の意義

本件発明1の技術的構成は、前記第2の1(4)及び(5)の各ア記載のとおりであるが、本件明細書1によれば、その意義は次のとおりであると認められる。

(1)本件発明は、美しい肌を実現するためのマッサージ用のローラが設けられた美容器に関するものである(【0001】)。

(2)従来技術としては、本体上に3個のステンレス球が等間隔をおいた状態で、ボール支えを介して回転可能に支持されている構成や、ハンドルの先端に2個の球体状のローラが、先広がり状の一対の軸線を中心に回転可能に支持されている構成があった(【0002】ないし【0004】)。

これらの従来の美容器においては、各ステンレス球は肌を押圧したり肌の上を転がったりするだけであるため、有効なマッサージ効果を得ることは難しい、あるいは肌の摘み上げはローラが一方向に回転するときにしか得られないため、肌を押圧するマッサージ効果と肌を摘まみ上げるマッサージ効果とを同時に得ようとすると、美容器を小まめに往復動させる必要があって取り扱いが面倒であるという問題があった(【0005】、【0006】)。

(3)本件発明1は、本体を一方向に移動させるのみで、肌を押圧するマッサージ効果と肌を摘まみ上げるマッサージ効果とを同時に得ることができる美容器を提供することを目的とするものである(【0007】)。

本件発明1は、各ローラを肌に押し当てた状態で、本体を隣接する一対のローラの配列方向と交差する方向に沿って一方向及び他方向に移動させると、各ローラが先広がり傾斜状に延びる軸線の周りで回転される。このとき、先行する隣接状態のローラにおいては、移動方向の前方側に向かって広がるように交差した軸線を中心にして回転されるため、肌を押圧するようなマッサージ効果が得られる。これに対して、後行する隣接状態のローラにおいては、移動方向の後方側に向かって広がるように交差した軸線を中心にして内向きに回転されるため、両ローラ間で肌を摘まみ上げるようなマッサージ効果が得られる。これによって、本体を往復動させることなく一方向に移動させるのみの操作で、肌に対する押圧と摘まみ上げとの異なったマッサージ効果を同時に得ることができる(【0009】、【0010】)。

2 本件発明2の意義

本件発明2は本件発明1の分割出願であり、その意義は上記1の本件発明1の意義と共通する。

3 争点(1)(被告製品は本件発明1の技術的範囲に属するか)について

(1)構成要件Bについて

本件発明1の構成要件Bは、「これら4本の支持軸の先端部に回転可能に支持されたマッサージ用の4個のローラと、を備え」というものであるが、被告は、被告製品のローリング部の形状が洋ナシ状の形状であること、及び被告製品のローリング部は支持軸の先端部以外の部分で回転可能に支持されていることを主張して、被告製品は構成要件Bを充足しないと主張する。

(2)ローラの形状について

ア 被告製品の構成

乙13によれば、被告製品のローリング部は、先端部がやや平たく扁平で、根本部が先端部よりも狭いという洋ナシ状の形状をしていることが認められる。

イ 本件明細書1の記載

(発明を実施するための形態として)「図2及び図8に示すように、前記各支持軸13ないし16の先端部には、それぞれマッサージ用のローラ17、18、19、20が軸受40を介して回転可能に支持されている。各ローラ17ないし20の回転の中心となる自身の軸線101は、支持軸13ないし16の軸線100と一致している。各ローラ17ないし20は、合成樹脂により全体としてほぼ球体状となるように形成されている。」(【0013】)

(変更例として)「図11ないし14に示すように、ローラ17ないし20の形状を変更すること。図11ではローラ17ないし20が球形に形成され、図12では楕円球形あるいはラグビーボール形状に形成され、図13では両端を半球状にした円筒状に形成され、図14では一端側を半球状にしたバルーン形状に形成されている。さらに、例えば、両端を切り落とした平面状にするとともに、外周面が円筒面を有する筒形状、すなわちドラム状あるいは樽状にしたり、多角形の筒形状(10角筒、12角筒等)にしたりすること。なお、前記のようにバルーン形状に形成された場合は、曲率の大きな先端側の部分で肌を摘まみ上げ、曲率の小さな部分で摘まみ上げ状態を保持できるため、摘まみ上げ効果を向上させることができる。」(【0039】)

「ローラ17ないし20の表面の小平面171、181、191、201の形状を変更すること。例えば、図11のように四角形にしたり、図12のように細長形状にしたり、図14のように円形状にしたりしてもよい。」(【0040】)

ウ 検討

「ローラ」の字義的な意味は「円筒形のもの」であることが認められるが(乙15)、上記明細書の記載によれば本件発明1における「ローラ」は、使用者がこれを肌に押し当てて回転させたときに肌を押圧したり摘み上げたりするためのものであり、これらの動作が可能な形状であれば特定の形状に限定されないと解するのが相当である。上記【0039】の記載は、変更可能なローラの形状の例を挙げ、これらの形状を図11ないし14において示すものであって、変更可能なローラの形状をここに記載したものに限定する趣旨ではないと解される。

乙13及び弁論の全趣旨によれば、被告製品のローリング部は、洋ナシ状の形状であっても、ユーザがこれを肌に押し当てたときに回転して肌を押圧したり摘み上げたりすることができる形状であると認められるから、本件発明1のローラに当たると解するのが相当である。

(3)ローラの支持形態について

ア 被告製品の構成

乙13によれば、被告製品のローリング部は、「ローリング部材(洋ナシ状のローリング部の先端部分であって、支持軸等他の部材と分離したものをいう。以下同じ。)」、「支持軸」、「軸受」、「eリング」、「円筒状リング」及び「円筒部材」によって構成されており、支持軸とローリング部材を一体とするためには、支持軸の根元から約4分の3の部分にある「eリング用溝」まで軸受を貫通させ、軸受から露出したeリング用溝にeリングを取り付け、軸受の根元部分に円筒状リングを貫通させて抜け止めを防止し、軸受の周囲に円筒部材を貫通させた上、ローリング部材に、円筒部材及び円筒状リングをしまりばめで挿入し、接着剤により固定するという方法で、ローリング部が、支持軸に回転可能に支持されていることが認められる。

すなわち、被告製品において、ローリング部は、支持軸の先端より手前にある軸受け及び円筒部材を介して支持軸に回転可能に設置されてはいるものの、支持軸の先端自体は、ローリング部の内周面には接していないことになる。

イ 明細書の記載等

(ア)本件明細書1

本件明細書1には、前記【0009】及び【0013】のとおりの記載があり、これによると、本件発明1における4個のローラは、各ローラを肌に押し当てた状態で、本体を、隣接する一対のローラの配列方向と交差する方向に沿って前後に移動させたときに、各ローラが先広がり傾斜状に延びる軸線(支持軸の延長線)の周りで回転することにより、肌を押圧したり摘み上げたりする効果を生じるものである。

(イ)出願経過

原告は、本件特許1の出願に際し、平成27年6月30日付けの拒絶理由通知書に対し、同年7月14日付けで意見書及び手続補正書を提出し、本件発明1の特許請求の範囲及び明細書を補正するとともに、上記意見書において以下のとおり述べた(甲9の1、2)。

(意見の主旨として)「本願発明の美容器は、先端部に回転可能にローラを支持した4本の支持軸が、一方向からの側面投影において二対が先広がり傾斜状であるとともに、90度異なる他方からの側面投影において他の組み合わせの二対が先広がり傾斜状に延びています。

これによって、この美容器は、第1方向及び第2方向のどちらの方向に沿って移動させても、その移動の際に、先行する隣接状態の一対のローラが先広がり傾斜状に延びた2本の支持軸の先端部で回転するため肌を押圧することができ、後行する隣接状態の一対のローラが先広がり傾斜状に延びた2本の支持軸の先端部で回転するため肌を摘み上げることができます。」

(補正の意義として)「ローラが支持軸の先端部に回転可能に支持されていること、及び4本の支持軸が延びている状態を明確にしました。」

(引用文献1(特開2012-183171)との対比として)「引用文献1に開示された美容器は、移動方向に直行する回転軸を中心に回転するローラ5が設けられています。このため、この美容器は一方向のみに沿って移動することしかできません。」

ウ 検討

(ア)上記イによれば、原告が構成要件Bに「4本の支持軸の先端部に回転可能に支持された」との表現を用いた趣旨は、上記引用文献1との相違点として、本件発明1が、隣接する一対のローラの配列方向と交差する方向及び同一対のローラの配列方向と交差して隣接する一対のローラの配列方向と交差する方向のいずれに沿って移動させても、先行する一対のローラが支持軸の先端部で回転するものであるとの技術思想を明らかにしたと解するのが相当であり、原告が、本件訂正請求により構成要件Dを追加して、支持軸がローラを貫通しないことを明確にしたのは、上記解釈を明確にする趣旨と解することができる

(イ)以上を前提とすると、構成要件Bの「支持軸の先端部に回転可能に支持された」とは、各ローラが支持軸の先端部を覆う形で支持軸に回転可能に取り付けられている状況を示すものである。

被告は、本件明細書1の図8に示されるような、ローラの内周面に凹部が設けられ、当該凹部に軸受を介して支持軸が挿入されるなど、支持軸の先端部分がローラの内周面に接し、この部分でローラが支持されることが必要である旨主張するが、そのように限定して解釈すべき理由はない。

(ウ)そうすると、前記アの被告製品の構成は、構成要件Bの「支持軸の先端部分に回転可能に支持された」を充足するというべきである。

(4)まとめ

被告製品は、本件発明1の構成要件B、C、D、F、Gの「ローラ」を充足し、同Bの「支持軸の先端部分に回転可能に支持された」を充足し、構成要件のその余の部分の充足については争いがないから、被告製品は、本件発明1の技術的範囲に属するものと認められる。

4 争点(2)(被告製品は本件発明2の技術的範囲に属するか)について

前記2のとおり、本件発明2は本件発明1の分割出願であり、本件明細書2には前記1及び3(2)イに引用する段落と同一の記載がある。

そうすると、前記3のとおり、被告製品の「ローリング部」は本件発明2の「ローラ」に相当する。また、被告製品の「ローリング部」は「支持軸の先端部に回転可能に支持された」ものと認められる。

したがって、被告製品は、本件発明2の構成要件J、K、M、N、Oの「ローラ」を充足し、構成要件Jの「支持軸の先端部分に回転可能に支持された」を充足し、構成要件のその余の部分については争いがないから、被告製品は、本件発明2の技術的範囲に属するものと認められる。

5 点(3)(本件訂正請求に訂正要件違反(請求の範囲の拡張・変更)があるか)について

本件発明1及び2に関し、「ローラが深く沈み込んだ場合でも、同先端部分においてマッサージ可能となるものである」という作用効果は本件訂正請求に係る訂正事項には含まれていないので、訂正前の本件明細書1及び2の範囲を超えた作用効果を本件発明1及び2が含むということにはならず、訂正要件違反には当たらない。

6 無効理由に関する相違点の認定

(1)争点のまとめ

乙17発明と本件発明1の相違点1ないし3(前記第3の4(1))、乙18発明と本件発明1の相違点1ないし4(前記第3の4(2))、乙17発明と本件発明2の相違点1ないし3(前記第3の5(1))及び乙18発明と本件発明2の相違点1ないし3(前記第3の5(2))の存在については当事者間に争いがなく、容易想到と言えるかについて争いがあるのに対し、ローラ又は器具の移動方向(乙17発明と本件発明1の相違点4、乙17発明と本件発明2の相違点5、乙18発明と本件発明1の相違点5、乙18発明と本件発明2の相違点5。以下「移動方向の相違点」と総称する。)及びローラの間隔の広狭(乙17発明と本件発明2の相違点4、乙18発明と本件発明2の相違点4。以下「ローラ間隔の相違点」と総称する。)については、原告は、相違点が存在すると主張するのに対し、被告は、相違点は存在せず、仮に存するとしても容易想到であると主張する。

そこでまず、乙17発明、乙18発明における器具の移動方向、及び乙17発明、乙18発明におけるローラの間隔の広狭の点について検討し、それを前提に本件発明1、本件発明2の進歩性について検討することとする。

(2)乙17発明における移動方向の相違点

ア 乙17の2の記載等

(ア)乙17発明のデバイスを、乙17の1【図1】の左右方向に移動させることができることは争いがなく、争点は、同デバイスを同図の上下方向に移動させることができるか否かである。

乙17の2には、「デバイスを使用して体のさまざまな部分をマッサージする際、ハンドル16が掴まれ、ハンドルの周囲壁内の凹状および凸状の部分20および21により、デバイスは、右手または左手によって使用し易くなる。デバイスは、皮膚にあてられ、手による前進運動が使用され、または前進および後進運動が使用されてよい。」との記載があり(2頁6ないし9行目)、これによると、乙17発明のデバイスは、少なくとも一方向での前進、後退が想定されているものと解されるが、乙17の2のその余の箇所に、デバイスを上下左右に移動させることを前提とする、あるいはこれを示唆する記載は認められない

(イ)また、乙17の2には、「マッサージ要素27に軸受26を設けることにより、マッサージ要素の規則正しい回転が得られ、これらの要素上の不均一な摩耗および割れが解消される。」との記載があり(2頁16、17行目)、これによれば、乙17発明においてはマッサージ要素(ローラ)が規則正しく回転することが重視されていることが認められるところ、乙17発明のデバイスの支持軸はローラを貫通し、ナットにより固定されているから、デバイスを乙17の1【図1】の上下方向に移動させる場合には、同図の左右方向に移動させる場合に比べて、ナットが移動方向のより正面に近い位置に固定されることになり(乙17の1【図2】及び【図3】)、その場合には、回転軸相互の間隔が狭いために回転抵抗が大きくなり、ローラの規則正しい回転が困難となったり、もしくは滑らかに回転せず前方に肌の滞留が生じたり前方に突っかかったりし易くなることが想定され、ローラが、スポンジゴムなどの軟質のしなやかな材料で構成されているため(乙17の2の1頁下から1行目ないし2頁1行目)、強く押圧された場合には変形してナットが肌面に接触するおそれがある(乙17の1【図4】)。

イ 被告の主張について

(ア)被告は、一対のローラの支持軸の開き角度が鋭角であっても、ローラは問題なく回転し、肌の摘み上げ作用を生じさせることができることは、乙21、35及び45記載の発明のような公知技術から明らかであると主張する。

しかし、乙21記載の発明では、乙21の第2図の「真横に推進させ」ることが予定されているところ、この場合に肌に接するのはローラの平坦な側面部分(「周壁面」)であって先端部分ではないから、突出した支持軸やナットが肌に接するようなおそれはない。また、乙35及び45記載の発明は、いずれも、支持軸がローラから突出しない構造であるため、肌に支持軸の先端又はナットが接触するおそれはなく、上記ア(イ)の問題は生じ得ない構造である。

(イ)また、被告は、乙17発明のハンドル16には凹凸があることから、右手又は左手で掴んでローラを自由に回転させることができると主張するが、上記乙17の1の記載のとおり、ハンドルに凹凸があることは、いずれの手によっても掴みやすくするためのものにすぎず、これをもって乙17発明のデバイスを乙17の1【図1】の上下方向に移動させることができると解釈することはできない。

ウ まとめ

以上によれば、乙17発明においては、乙17の1【図1】の上下方向への移動は忌避されていると解するのが相当であるから、乙17発明と本件発明1、本件発明2との間には、いずれも移動方向の相違点が存すると認められる。

(3)乙18発明における移動方向の相違点

ア 乙18の2の記載等

乙18発明のデバイスを乙18の1【図1】の上下方向に移動させ得ることは争いがないので、これを、左右方向に移動させることが開示されているかについて検討する。

乙18の2には、「使用する際、身体の所与の部分をマッサージすることが望まれる場合、器具は、ハンドル10および11が手によって把持される。器具はその後皮膚に当てられ、器具は次いで皮膚の表面上で回転され、これにより皮膚がマッサージされ、極めて健康的な状況が生まれる。ローラのセットがこのようにして設置される際、各々のセットは、互いのセットに対しておよび本体に対して角度を成す関係で配置され、組織は、比較的短時間にわたって非常に効果的なやり方でマッサージされることが特に強調される。器具が本体1の長手方向に皮膚の上を転がされる際、ローラの前方のグループは、皮膚組織を器具の中心から引き延ばし、ローラの後方のグループは、組織を内向きに器具の中心に向かって引っ張る。それ故、組織は、皮膚の表面から上向きに揉まれることが分かるであろう。当然のことながら、器具が本体の長手方向と反対の方向に後方に引っ張られる際、作用は、逆向きになることが理解されよう。すなわち、後方ローラが最初に組織を引き延ばし、今度は器具の後方にある前方ローラが、組織を内向きおよび上向きに引っ張り揉む作業を行う。器具が本体の長手方向に移動される、または任意の他の方向に移動されるかに関わらず、その面が鈍角を形成する前方ローラは、組織を中心から各々の面に押しやり、これに続くローラは、組織を再度器具の中心向かって押し返すことが強調される。これにより完璧なマッサージが生み出される。ローラが対頂角にセットされる事実を考慮すると、組織は、十字に似た形で扱われることになるであろう。」との記載がある(2頁下から2行目ないし3頁16行目)。

イ 検討

上記記載によれば、乙18発明のデバイスは、基本的には、ハンドル10及び11を両手で掴み、ローラを肌に当てて乙18の1【図1】の上下方向に動かすことが予定されている。

そして、「鈍角を形成する前方ローラ」という記載から、鋭角を形成する一対のローラが前方ローラとなる方向、すなわち同図の左右方向に移動させることは想定されていないと解するのが相当であるし、ハンドル10及び11の形状からも、両ハンドルを両手で握った上で、これを左右方向に移動させることも予定していないと考えられる。

また、乙18の2のその余の個所に、デバイスを左右方向に移動させることを前提とする、あるいは、これを示唆するような記載は認められない。

ウ 被告の主張について

(ア)被告は、「組織は、十字に似た形で扱われる。」との上記記載から、乙18発明のデバイスは上下左右に移動させることができると主張する。

しかし、上記記載は、その前の部分におけるデバイスの動きとそれによる効果に関する記載を受け、ローラの動きによって皮膚組織が十字に似た形で扱われることになることを説明する記載にすぎず、器具自体を十字方向に移動させる、という趣旨ではない。

(イ)被告は、「器具が本体の長手方向に移動される、または任意の他の方向に移動されるかに関わらず」との記載から、デバイスを本体の長手方向以外の方向に移動する使い方が開示されていると主張するが、この記載から、デバイスを乙18の1【図1】の左右方向へ移動させることが開示されているとは認めることはできない。

この記載の後に、「その面が鈍角を形成する前方ローラは、組織を中心から各々の面に押しやり、これに続くローラは、組織を再度器具の中心向かって押し返す」との記載があり、前述のとおり、移動させる際に前方のローラが鈍角を形成することが想定されていることからも、左右方向への移動は開示されていないというべきである。

(ウ)被告は、乙18の2に、ハンドルバーを取り外し得る旨の記載があることから、乙18の1【図1】記載のハンドルを前提とした移動方向が限定されると解すべき理由はないと主張する。

しかし、被告が指摘する個所は、乙18発明のデバイスを振動させたり回転させたりするためにハンドルを取り外すことができることを示しているのであって、同図の左右方向へ移動させる方法についての記載ではない。

エ まとめ

以上によれば、乙18発明においては、乙18の1【図1】の左右方向への移動は開示されていないと解すべきであり、乙18発明と本件発明1、本件発明2との間には、いずれも移動方向の相違点が存すると認められる。

(4)ローラ間隔の相違点について

ア 乙17発明について

乙17の1には、乙17の1【図1】の左右に隣接する一対のローラの間隔と、同図の上下に隣接する一対のローラの間隔の広狭の関係についての記載はなく、一方の間隔よりも他方の間隔が狭いことを前提とする、あるいはこれを示唆する記載も存しない。

被告は、乙17の1【図1】の寸法を測定した結果、上下に隣接するローラの間隔が左右に隣接するローラの間隔よりも狭いことが明らかであると主張する。

しかし、乙17の1の図は模式図であって設計図ではなく、デバイスの部品の寸法や部品間の距離を正確な縮尺で記載したものではない。したがって、同図1の寸法を測定することによって乙17発明のローラの間隔の広狭が開示されたとは認められない。

また、一対のローラの開き角度とローラ間の距離(間隔)とは、支持軸の起点の位置により変化するから、上下に隣接する一対のローラの開き角度と左右に隣接する一対のローラの開き角度が異なるからといって、直ちにそれぞれのローラ間の距離が異なるということはできない。

したがって、乙17発明において、同図の上下に隣接する一対のローラの間隔よりも交差する方向で隣接する一対のローラの間隔が狭くなっていると認めることはできず、両者の関係は不明といわざるを得ない。

イ 乙18発明について

乙18の1には、乙18の1【図1】の左右に隣接する一対のローラの間隔と、同図の上下に隣接する一対のローラの間隔の広狭の関係についての記載はなく、一方の間隔よりも他方の間隔が狭いことを前提とする、あるいはこれを示唆する記載も存しない。

したがって、前記アと同様、乙18発明において、一対のローラの間隔よりも、これと交差する方向で配列されたもう一対のローラの間隔が狭くなっていると認めることはできず、両者の関係は不明といわざるを得ない。

ウ まとめ

本件発明2は、隣接する一対のローラの間隔が、これらのローラの配列方向と交差する方向で隣接する一対のローラの間隔よりも狭いとの構成を有するところ(構成要件M)、乙17発明、乙18発明は、いずれも、上記ローラの間隔の広狭の関係が不明であり、前者より後者が狭くなっているということはできないから、本件発明2と乙17発明、本件発明2と乙18発明の間には、それぞれローラ間隔の相違点が存することになる。

7 争点(4)(本件特許1に無効理由があるか)について

(1)乙17の1を主引例とする進歩性欠如

ア 被告の主張

前記6(2)で検討したとおり、乙17発明と本件発明1との間には移動方向の相違点が存するところ、被告は、仮に乙17発明に移動方向の相違点が存する場合には、乙17発明は乙18発明、乙19以下、乙45を組み合わせることで、本件発明1は容易想到であると主張する。

イ 乙18発明との組み合わせ

被告は、乙17発明に移動方向の相違点が存する場合であっても、乙18発明と組み合わせることで、この相違点に係る部分は容易想到であると主張する。

しかし、上記主張は、乙18発明は上下左右の移動が可能であって、乙18発明に移動方向の相違点が存しないことを前提とするものであるところ、前記6(3)で述べたとおり、乙18発明は乙18の1【図1】の左右方向に動くことを予定していないから、乙17発明に乙18発明を組み合わせても、本件発明1に至ることはない

ウ 乙19以下との組み合わせ

被告は、乙17発明に移動方向の相違点が存する場合、デバイスの移動が制約される理由は、デバイスが貫通状態であることによるところ、乙19、33、34、42ないし45の各技術から、デバイスを非貫通状態にすることは容易であるから、デバイスを乙17の1【図1】の上下方向に移動させる障害はなくなり、本件発明1は容易想到である旨主張する(本件発明1と乙17の相違点3に係る主張に同じ。)。

しかしながら、支持軸をローラに貫通させるか非貫通とするかという点は、ローラの表面全体をマッサージに使用するか、その一部(先端部分を除く表面)のみを使用するかという思想に関わるものであり、単なる設計事項ではないと解されるし、ローラが規則正しく滑らかに回転しないおそれがある方向に移動させるために、ローラを非貫通とするという思想があるとはいえない。

また、被告の挙げる乙19、33、34、42ないし45記載の各技術は、いずれも4個ではなく2個のローラを備えた美容器に係るものであるから、これらの発明及び技術から4個のローラを有する美容器である乙17発明のデバイスのローラを非貫通状態とすることを、当業者が容易に想到し得るとは認められない。

加えて、乙19、33、34においては、ローラの先端部ではなく側面部が肌に接するものと認められるところ、これらの発明においてローラが非貫通状態とされているのは、ローラを肌に押し付けた場合に先端部分で肌を傷つけずにマッサージすることを可能にするためではない。

よって、当業者にとって、乙17発明のデバイスを非貫通とすることが容易想到であることを前提に、乙17発明のデバイスを上下左右に移動可能とすることが容易想到であるとする被告の主張は理由がない(上述の理由で、本件発明1と乙17発明の相違点3に係る進歩性欠如の主張は否定され、本件発明2についても同様である。)。

エ 乙45との組み合わせ

被告は、乙17発明に移動方向の相違点がある場合であっても、以下のとおり、乙45の記載を参酌すれば、デバイスを乙17の1【図1】の上下に移動させることを容易に想到し得ると主張する。

すなわち、被告は、乙17の2に、「孔12内に装着されるのは、心棒22であり、この心棒は、真っすぐな中央部分23と、角度を付けて配設された部分24とを有するロッドを備え、この角度を付けて配設された部分24は、20から30°の外方向に配設された角度で孔の端部に隣接して曲げられ、」との記載があることから、乙17発明にかかるデバイスにおいて、隣接する一対のローラの開き角度は、40°から60°となることが理解されるとし、他方、乙45に、「ここで、球状部材3を顔の表面に的確に当てるとともに、顔の皮膚を挟み込みやすくするための角度αは、60°≦α≦90°の範囲の角度である。より望ましくは、角度αは、60°≦α≦70°の範囲の角度であり、最も望ましい角度α(最適値)は、α=68°である。」との記載があることから、当業者は、乙45の記載を参考に、乙17発明について乙17の1【図1】の上下に移動させることを可能とすることは極めて容易であると主張する。

しかし、前記のとおり、乙17発明にかかるデバイスを同図の上下に移動することはそもそも予定されておらず、上下に移動する動機付けも示されていないから、当業者が乙45の上記記載に接したとしても、これを同図の左右に隣接する一対のローラの開き角度に適用し、乙17発明を同図の上下に移動し得るよう設計変更するとは考え難い。

オ まとめ

以上によれば、本件発明1と乙17発明の相違点3(ローラ非貫通)及び相違点4(移動方向の相違点)に係る構成は容易想到とはいえないから、その余の相違点の容易想到性について判断するまでもなく、乙17の1を主引例として、本件発明1を無効とすることはできない。

(2)乙18の1を主引例とする進歩性欠如

ア 本件発明1と乙18発明の相違点4(ローラ非貫通)ローラが貫通状態である乙18発明に、乙33、34、19、42ないし45の技術を適用することで、非貫通状態である本件発明1が容易想到といえないことは、乙17発明について前記(1)ウで述べたところと同じである。

イ 本件発明1と乙18発明の相違点5(移動方向の相違点)

乙18発明、乙17発明共に移動方向の相違点があり、乙18発明に上記相違点があることを前提とすると、乙18発明に乙45を組み合わせても、本件発明1が容易想到といえないことは、乙17発明について前記(1)エで述べたところと同じである。

ウ 以上によれば、本件発明1と乙18発明の相違点4及び5に係る構成は容易想到といえないから、その余の相違点に係る容易想到性について判断するまでもなく、乙18発を主引例として、本件発明1を無効とすることはできない。

8 争点(5)(本件特許2に無効理由があるか)について

(1)乙17発明、乙18発明共に、隣接する一対のローラの間隔と、これに交差する方向で隣接するもう一対のローラの間隔の広狭の関係が不明であり、この点が、本件発明2との相違点であることは、前記6(4)で述べたとおりであるところ、被告は、この点は単なる設計事項であり、容易想到であると主張する。

本件発明2においてローラの間隔に広狭を設ける意義として、身体上の曲率の異なる部位に使用する場合等が例示されているが(甲4【0027】他)、ローラを上下左右に移動し得ることが前提になっていると解されるところ、乙17発明、乙18発明にはいずれも移動方向の相違点があり、上下又は左右いずれかの移動のみを予定しているから、上下左右に移動するローラの間隔に広狭を設けるという技術思想が存しないものと考えられる。

そうすると、この点が容易想到であるということはできない。

(2)その他の相違点について

乙17発明と本件発明2の相違点3、乙18発明と本件発明2の相違点3は、いずれもローラの非貫通に関するものであるところ、この点が容易想到といえないことは、本件発明1との関係で前記7(1)ウで述べたところと同じである。

乙17発明、乙18発明共に移動方向の相違点があり、乙17、18、45を組み合わせることによって本件発明2に至ることが容易とはいえないことも、本件発明1との関係で前記7(1)エで述べたところで同じである。

(3)まとめ

以上によれば、本件発明2と乙17発明、本件発明2と乙18発明との間には、いずれも相違点3(ローラ非貫通)、4(ローラ間隔の相違点)、5(移動方向の相違点)が存在し、これらに係る構成は、いずれも容易想到とはいえないから、その余の相違点に係る容易想到性を判断するまでもなく、乙17発明又は乙18の1を主引例とする本件特許2の無効主張は、いずれも理由がないというべきである。

9 争点(6)(権利不行使の抗弁が成立するか)について

原告と被告が、平成27年11月11日、本件合意1及び2について協議を行ったことについては当事者間に争いがない。

しかし、本件合意1については、その後、同年12月22日、別件訴訟においてほぼ同内容の和解が成立したことが認められる一方で、本件合意2については、合意書の作成等は行われていない(乙1)。

また、原告代理人は、被告代理人に対し、平成28年2月から3月頃、被告の直営店において被告製品を販売したり、ウェブサイト上において被告製品を掲載したりすることを中止するよう要請したことが認められる。

以上より、本件合意2については、平成27年11月11日の時点において合意の成立までには至らず、その後も原告と被告との間において被告製品の販売の継続を巡って対立があったことなどから、最終的な合意には至らなかったと認めるのが相当である。

したがって、本件合意2に基づく権利不行使の抗弁が存するとの被告の主張は採用できない。

10 争点(7)(過失の推定)について

原告は、本件特許1及び2の設定登録後は、特許法103条により過失が推定されると主張するところ、被告は、設定登録から特許公報発行までの期間に過失の推定は及ばない旨を主張する。

そこで検討するに、特許法66条1項により、特許権の設定登録がなされれば、特許公報の発行を待つまでもなく、特許権者は業として特許発明を実施する権利を専有し(特許法68条)、これに抵触する行為は特許権侵害として違法とされる。そして、特許公報発行後は、特許の内容が公示されこれを容易に知り得る状態となり、特段の過失規定がなくても、特許権を侵害する行為は過失によるものと認められるから、特許法103条が、特許権者の権利行使を容易とすることを目的として過失の推定を定めた以上、上記特許権侵害として違法とされる行為については過失が推定されると解するのが相当であり、特許公報の発行がなければ過失の推定が及ばない、あるいは特許公報不発行の事実をもって過失の推定が覆滅されると解することは、特許法103条の趣旨を没却するものというべきである。

そうすると、特許法103条の推定を覆すには特段の事情が必要と解され、被告は、特許公報不発行の事実のみを主張するところ、本件においては、原告と被告が、平成27年2月26日に提起された別件訴訟において、被告製品の販売中止について協議したこと(争いがない)、原告は、本件特許1及び2について特許査定を受けた日の後である同年8月5日、被告に対し、本件特許1及び2に係る手続補正書(同月14日に登録された請求の範囲と同一の内容)をFAXにより送付したこと(甲11)が認められるのであるから、過失の推定を覆すべき理由は存しないといわざるを得ず、被告の主張は採用できない。

11 争点(8)(原告の損害額)について

前記1ないし10で検討したところによれば、被告が被告製品を輸入・販売したことは、原告の本件特許1及び2を侵害するものであり、被告は民法709条による損害賠償責任を負うところ、原告は特許法102条1項に基づく損害額の推定を主張し、被告は、同項但書の「販売することができないとする事情」の存在を主張することから、以下検討する。

(1)被告製品の譲渡数量

ア 卸売販売数

本件特許1及び2の設定登録日(平成27年8月14日)から平成28年7月末までの間の被告製品の卸売販売数が合計3365個であることについては争いがない。

イ 被告直営店及びウェブサイト上における被告製品の販売

原告は、被告が上記期間内に、少なくとも上記卸売販売数の10%に当たる330個を直営小売店及びウェブサイト上で販売したと推定される旨主張するのに対し、被告は、直営小売店及びウェブサイト上の被告製品の販売自体を否定している。

そこで検討するに、平成27年12月当時、被告のウェブサイト上で(甲26)、数店が被告の店舗として紹介されているが、その記載だけでは、上記卸売販売先であるのか直営小売店であるのかは不明であるし、被告が輸入した被告製品の総数から上記卸売販売数を控除した後に、直営小売店及びウェブサイト上で販売し得る数量の被告製品が存したと認めるに足りる証拠は提出されていない。

また、平成28年2月23日の時点で、被告のウェブサイトには(甲5)、被告製品の案内が掲載されていたが、価格は2万1000円と記載され、ウェブサイト上で購入し得るようにはなっておらず、被告に電話又はファックスで注文するよう指示されているものであるから、後述のとおり、ディスカウントショップ等で大幅な廉価で販売されている被告製品を、被告への電話又はファックスにより、定価で購入する者がいるとは考えにくい。

以上によれば、上記被告のウェブサイト上の記載内容からすると、一定の疑いは残るものの、被告が直営小売店及びウェブサイト上で被告製品を販売したことについての直接証拠は提出されておらず、上記記載以外にこれを推認させるような事情も認められない。

ウ したがって、平成27年8月14日から平成28年7月末までの被告製品の譲渡数量は3365個と認められる。

(2)原告製品の単位数量当たりの利益額

ア 販売数、売上高

平成27年8月から平成28年7月までの間の1年間における原告製品の販売数量は2万1467個、売上高は合計(中略)円である(甲24、25)。上記期間における原告の全製品の売上高は合計(中略)円である(甲21、22、23)。そうすると、原告の全製品に対する原告製品の売上比率は、(中略)%となる((中略)÷(中略)≒(中略))。

イ 控除すべき費用

上記期間の原告製品の製造原価は、(中略)円である。

上記期間における、製造原価以外の控除すべき費用の総額は、以下のとおりである(甲21)。

① 販売手数料 (中略)円

② 販売促進費 (中略)円

③ ポイント引当金 (中略)円

④ 見本品費 (中略)円

⑤ 宣伝広告費 (中略)円

⑥ 荷造運賃 (中略)円

⑦ クレーム処理費 (中略)円

⑧ 製品保証引当金繰入 (中略)円

⑨ 市場調査費 (中略)円

① から⑨までの合計額 (中略)円

上記①から⑨の合計額に、原告の全製品に対する原告製品の売上比率1.37%を乗じると、(中略)円となる。

ウ まとめ

原告製品の利益額は、前記アの売上高から前記イの製品原価及び費用の総額を控除した(中略)円となる。

これを、原告製品の上記期間における販売数量(中略)個で除した(中略)円が、原告製品の単位数量当たりの利益額である((中略)÷(中略)≒(中略)円)。

(3)「販売することができないとする事情」について

ア 原告製品は、本件特許1及び2の実施品であると認められ(甲16、17)、被告製品は、既に検討したとおり、本件特許1及び2の技術的範囲に属するところ、両者は、マッサージ等の目的で体に直接当てて使用する美容器であって、市場において競合するものであるから、本件特許1及び2の効力により被告製品の販売がなければ、特段の事情がない限り、その分の需要は原告製品に向かったと考えるべきものである。

イ 被告は、原告製品と被告製品とでは、価格、市場、機能等に違いがあるとして、被告製品の譲渡数のうち9割について、原告は販売することができなかった事情があるとする。

そこで検討するに、被告製品については、前記のとおりウェブサイト上では2万1000円(税抜)という価格が表示されているものの、実際の小売価格としては4500円(甲18の1)、あるいは3980円(乙95)といった値段が付されているのに対し、原告製品の希望小売価格は3万3000円(税抜)であり、実際にも、これに近い価格で販売されている(乙65、68ないし82)。

また、原告製品は、大手通販会社、百貨店、大手家電量販店等での販売、原告によるオンラインモールでの販売が主であるのに対し(乙63ないし82)、被告はそのようなところに販売ルートを持っておらず、大型ディスカウントストアや雑貨店への卸売販売が中心であって(甲10、乙85)、原告製品は、著名なブランドに属する一製品に位置付けられているが、被告製品はこれとは異なる(前掲各証拠)。

さらに、原告製品にはハンドル部分にソーラパネルが設けられており、発生するマイクロカレント(微弱電流)がローラから身体に伝わり、美肌効果を生じさせることなどが製品の特徴として強調されているが(乙94、96)、被告製品にこのような機構・機能は存しない(甲6、10)。

ウ 前記イで検討したところによれば、本来原告製品の購入を希望していた需要者が被告製品を見て、類似した機能を有する製品を安く入手できるとしてこれを購入したような場合は、被告製品の販売がなければ、その需要が原告製品に向かうと可能性はあるものの、著名ブランドに属し、マイクロカレント等の特徴的機能を有する高価な原告製品に対し、ディスカウントストア等で販売され、前記機能を有さず、ブランド品には属さないものであることを認識した上で、低廉であることを理由に被告製品を購入したような場合、被告製品の販売がなかったとしても、その需要が原告製品に向かう可能性は低いと考えられ、特に、実際の販売価格に約8倍の差があることは重視せざるを得ないから、被告製品の譲渡数量のうち5割については、原告においてこれを販売することができなかった事情があるというべきであり、その分を被告製品の譲渡数量から控除すべきことになる

(4)原告の損害額の推定

以上検討したところによれば、前記(1)の被告製品の譲渡数量3365個から、前記(3)の5割を控除し、これに前記(2)の原告製品の単位当たりの利益額(中略)円を乗じ、特許法102条1項による推定額は(中略)円となる((中略)×(中略)×(中略)=(中略)円)。

また、上記損害と相当因果関係のある弁護士費用は(中略)万円と認められる。

12 差止めの必要性

被告は、被告製品の製造を海外工場へ発注し、完成品を輸入し、国内において販売・譲渡していることが認められるところ、これが本件特許1及び2の権利侵害行為であることを争っており、今後も被告製品の製造、使用、譲渡等をするおそれがあるから、その差止めを命ずる必要があるが、被告が製造のための金型等を所有、管理しているとは認められず、半製品についても、被告は国内に存在しないと主張し、原告はこれに対して特に反論をしないので、金型及び半製品については廃棄を命ずる必要がないものと認める。