印刷物事件(その1)

投稿日: 2017/07/11 7:57:37

今日は平成25年(ワ)第3167号 特許権侵害行為差止等請求事件(以下、A事件)及び平成26年(ワ)第31922号 損害賠償請求事件(以下、B事件)について検討します。A及びB事件の原告である株式会社ウイル・コーポレーションは、判決文によると、平成24年5月1日に株式会社ウイルコホールディングス(旧商号は「株式会社ウイルコ」)から新設分割によって設立され、情報・印刷事業に属する特許権その他の権利義務を承継した、印刷業等を営む株式会社だそうです。このウイル・コーポレーションに関しては全く知識がなかったのでホームページを確認したところ、本社が石川県の会社で、資本金16億6,762万円、連結売上高129億円、社員数26名(グループ全体:584名)でした。また、J-PlatPatで株式会社ウイル・コーポレーション又は株式会社ウイルコ名義の特許を検索したところ約17件ヒットしました。一方、A及びB事件の被告である大日本印刷株式会社は印刷業等を営む株式会社です。こちらは本社が東京都で、資本金1,144億6,400万円、売上高1兆4,101億円7,200万円(連結)、従業員数38,808名(連結)でした。また、特許は15,463件ヒットしました。

 

1.手続の時系列の整理(特許第4310416号)

① 本特許は特許無効審判を2回請求されていますが、いずれも本件の被告が請求したものでした。

② 2回目の特許無効審判の審決は請求不成立(特許維持)であり、請求人が提訴した審決取消訴訟の知財高裁判決も請求棄却(特許維持)でした。一方、侵害訴訟の判決は請求棄却であり、その理由は本件特許には無効理由があるというものでした。どちらも同じ証拠だったので侵害訴訟を知財高裁に控訴したら特許無効という判断は覆される可能性が高いと思われます。

2.本件発明の内容

【請求項1】

A 左側面部と中央面部と右側面部とからなる印刷物であって,

B 中央面部(1)は、所定の箇所に所定の大きさの分離して使用するもの(4)が印刷されていること,

C 左側面部(2)の裏面は、当該分離して使用するもの(4)の上部、下部、左側部の内側及び外側に該当する部分(5,6)に一過性の粘着剤が塗布されていること,

D 右側面部(3)の裏面は、当該分離して使用するもの(4)の上部、下部、右側部の内側及び外側に該当する部分(7,8)に一過性の粘着剤が塗布されていること,

E 当該左側面部(2)の裏面及び当該右側面部(3)の裏面が、前記中央面部(1)の裏面及び当該分離して使用するもの(4)に貼着していること

F 当該分離して使用するもの(4)の周囲に切り込みが入っていること、

G からなることを特徴とする印刷物。

3.被告製品の内容(物件目録1)

3.1 図面の説明

第1図 左側面部及び右側面部を折り曲げた状態を示す平面図

第2図 左側面部及び右側面部を折り曲げる前の状態を示す平面図

第3図 第1図において接着剤の塗布位置を斜線(網点)で示した通過図

3.2 構成の説明

1.本印刷物は、左側面部110と中央部100と右側面部120とからなる。

2.中央面部100には、右中央付近の葉書印刷部101に葉書が印刷されている。

3.左側面部110の裏面には、左側面部110を中央面部100に折り重ねた場合、葉書印刷部101と中央面部100の境界(切り込み102)のうち上部境界及び下部境界の内側近傍の位置に重なる部分にドット状の接着剤112、113が、境界のうち左側境界から約14mm(被告は約15mmと主張)、(左側面部110と葉書印刷部101が重なる部分の横幅の約35%(被告は2/5と主張))離れた中央部に重なる部分の一部にドット状の接着剤114が、それぞれ塗布されている。

4.左側面部110の裏面の上部、下部にドット状の接着剤115~118が塗布されている。

5.右側面部120の裏面には、右側面部120を中央面部100に折り重ねた場合、葉書印刷部101と中央面部100の境界(切り込み102)のうち上部境界及び下部境界の内側近傍の位置に重なる部分にドット状の接着剤122、123が、境界のうち右側部境界から約14mm(被告は約16mmと主張)(右側面部120と葉書印刷部101が重なる部分の横幅の約21%(被告は約1/4と主張))離れた中央部に重なる部分の一部にドット状の接着剤124が、それぞれ塗布されている。

6.右側面部120の裏面の上部、下部にドット状の接着剤125~127が塗布されている。

7.左側面部110の裏面及び右側面部120の裏面が、中央面部100の裏面及び葉書印刷部101に、接着剤112~118、122~127により接着している。

8.葉書印刷部101と中央面部100の境界の位置に切り込み102が入っている。

9.第1図の状態の寸法は、縦256mm(被告は約257mmと主張)×横364mmである。

10.葉書印刷部101の寸法は、縦153mm×横103mmである。

4.争点

(1)被告各製品の構成

(2)被告各製品が本件発明の技術的範囲に属するか

ア 構成要件Cの充足性

イ 構成要件Dの充足性

ウ 構成要件Eの充足性

エ 作用効果不奏功の抗弁

オ 均等侵害の成否

(3)本件特許は,特許無効審判により無効にされるべきものか

ア 乙B1文献による新規性欠如(無効理由1)

イ 乙B1文献を主引例とし乙B5文献と組み合わせることによる進歩性欠如(無効理由2-1)

ウ 乙B1文献を主引例とし,周知技術と組み合わせることによる進歩性欠如(無効理由2-2)

エ 乙B2文献を主引例とし,乙B8文献と組み合わせることによる進歩性欠如(無効理由3-1)

オ 乙B2文献を主引例とし,乙B8文献及び周知技術と組み合わせることによる進歩性欠如(無効理由3-2)

カ 乙B3文献を主引例とする進歩性欠如(無効理由4)

キ 乙B4文献を主引例とする進歩性欠如(無効理由5)

ク 乙B5文献を主引例とする進歩性欠如(無効理由6)

ケ 明確性要件違反(無効理由7)

コ サポート要件違反(無効理由8)

(4)本件訂正による対抗主張の成否

ア 原告は特許庁に対し適法に訂正請求等を行っているか

イ 本件訂正が訂正要件を充たしているか

ウ 本件訂正により争点(3)の無効理由を解消することができるか

(ア)無効理由1の解消

(イ)無効理由2-1及び2-2の解消

(ウ)無効理由3-1及び3-2の解消

(エ)無効理由4の解消

(オ)無効理由7の解消

(カ)無効理由8の解消

エ 被告各製品が本件訂正発明の技術的範囲に属するか

オ 新たな無効理由の存否

(ア)実施可能要件違反

(イ)サポート要件違反

(ウ)構成要件G'及びH'並びにC'及びD'に関する明確性要件違反

(エ)プロダクト・バイ・プロセス・クレームとしての明確性要件違反

(5)損害発生の有無及びその額