無洗米製造装置事件

投稿日: 2017/10/05 0:31:39

今日は平成28年(行ケ)第10236号 審決取消請求事件について検討します。このブログでは審決取消訴訟については原則扱わない方針でしたが、36条絡みの特許の有効性について侵害訴訟で争われる例が思ったよりも少なく、これではつまらないと思い今後は審決取消訴訟も時々検討の対象に加えてみようかと思います。

本事件の原告である幸南食糧株式会社は特許無効審判の請求人です。そして被告である東洋ライス株式会社は特許権者です。特許無効審判の請求人が原告となる審決取消訴訟なので特許無効審判の審決は請求不成立だったことがわかります。

 

1.本件特許発明の内容

【請求項1】

外から順に、表皮(1)、果皮(2)、種皮(3)、糊粉細胞層(4)と、澱粉を含まず食味上もよくない黄茶色の物質の層により表層部が構成され、該表層部の内側は、前記糊粉細胞層(4)に接して、一段深層に位置する薄黄色の一層の亜糊粉細胞層(5)と、該亜糊粉細胞層(5)の更に深層の、純白色の澱粉細胞層(6)により構成された玄米粒において、

前記玄米粒を構成する糊粉細胞層(4)と亜糊粉細胞層(5)と澱粉細胞層(6)の中で、搗精により糊粉細胞層(4)までを除去し、該糊粉細胞層(4)と澱粉細胞層(6)の間に位置する亜糊粉細胞層(5)を外面に残して、該一層の、マルトオリゴ糖に生化学変化させる酵素や食物繊維や蛋白質を含有する亜糊粉細胞層(5)を米粒の表面に露出させ、前記精白米には、全米粒の内、『舌触りの良くない胚芽(7)の表層部や突出部を削り取り、残された基底部である胚盤(9)』、または『胚芽(7)の表面部を削りとられた胚芽(8)』が残った米粒の合計数が、全体の50%以上を占めるように搗精され、前記搗精により亜糊粉細胞層(5)を表面に露出させた白米を、該亜糊粉細胞層(5)が表面に現れた時の白度37前後に仕上げ、更に糊粉細胞層(4)の細胞壁(4’)が破られ、その中の糊粉顆粒が米肌に粘り付けられた状態で白米の表面に付着する『肌ヌカ』を、無洗米機により分離除去する無洗米処理を行うことを特徴とする旨み成分と栄養成分を保持した無洗米の製造装置であって、

全精白行程の終末寄りから少なくとも3分の2以上の行程に摩擦式精米機を用い、

前記摩擦式精米機の精白除糠網筒の内面をほぼ滑面状となし、且つ精白ロールの回転数を毎分900回以上の高速回転とすること、及び、無洗米機を備えたことを特徴とする旨み成分と栄養成分を保持した無洗米の製造装置。

【請求項2】

外から順に、表皮(1)、果皮(2)、種皮(3)、糊粉細胞層(4)と、澱粉を含まず食味上もよくない黄茶色の物質の層により表層部が構成され、該表層部の内側は、前記糊粉細胞層(4)に接して、一段深層に位置する薄黄色の一層の亜糊粉細胞層(5)と、該亜糊粉細胞層(5)の更に深層の、純白色の澱粉細胞層(6)により構成された玄米粒において、

前記玄米粒を構成する糊粉細胞層(4)と亜糊粉細胞層(5)と澱粉細胞層(6)の中で、搗精により糊粉細胞層(4)までを除去し、該糊粉細胞層(4)と澱粉細胞層(6)の間に位置する亜糊粉細胞層(5)を外面に残して、該一層の、マルトオリゴ糖に生化学変化させる酵素や食物繊維や蛋白質を含有する亜糊粉細胞層(5)を米粒の表面に露出させ、前記精白米には、全米粒の内、『舌触りの良くない胚芽(7)の表層部や突出部を削り取り、残された基底部である胚盤(9)』、または『胚芽(7)の表面部を削りとられた胚芽(8)』が残った米粒の合計数が、全体の50%以上を占めるように搗精され、前記搗精により亜糊粉細胞層(5)を表面に露出させた白米を、該亜糊粉細胞層(5)が表面に現れた時の白度37前後に仕上げ、更に糊粉細胞層(4)の細胞壁(4’)が破られ、その中の糊粉顆粒が米肌に粘り付けられた状態で白米の表面に付着する『肌ヌカ』を、無洗米機により分離除去する無洗米処理を行うことを特徴とする旨み成分と栄養成分を保持した無洗米の製造装置であって、

全精白行程を、一本の精白ロールで済ます1回通過式の単機型の1回通過式精米機を用い、前記精白ロールには、円筒状の胴体(31)の外面に縦走する2本の突条(32、32’)が、始点(34)と終点(35)の中ほどの、アールを有する曲点(33)にて、167度前後の角度で回転方向に対して逆への字状に曲がり、かつ突条(32、32’)の始点(34)と終点(35)を結ぶ線が、該精白ロールの軸線方向と平行になっている均圧型の精白ロールとすること、及び、無洗米機を備えたことを特徴とする旨み成分と栄養成分を保持した無洗米の製造装置。

2.特許無効審判

2.1 請求人の主張

(1)無効理由1

本件特許の請求項1および請求項2の記載は、「無洗米の製造装置」の発明でありながら精米方法あるいは装置の使用方法若しくは精米装置の製造方法を表す記載でなされており、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。

ア 請求項1および請求項2の「前記玄米粒を構成する糊粉細胞層(4)と亜糊粉細胞層(5)と澱粉細胞層(6)の中で、搗精により糊粉細胞層(4)までを除去し、」なる記載

イ 請求項1および請求項2の「該糊粉細胞層(4)と澱粉細胞層(6)の間に位置する亜糊粉細胞層(5)を外面に残して、該一層の、マルトオリゴ糖に生化学変化させる酵素や食物繊維や蛋白質を含有する亜糊粉細胞層(5)を米粒の表面に露出させ、」なる記載

ウ 請求項1および請求項2の「舌触りの良くない胚芽(7)の表層部や突出部を削り取り、」なる記載

エ 請求項1および請求項2の「前記搗精により亜糊粉細胞層(5)を表面に露出させ」なる記載

オ 請求項1および請求項2の「該亜糊粉細胞層(5)が表面に現れた時の白度37前後に仕上げ、」なる記載

カ 請求項1および請求項2の「更に糊粉細胞層(4)の細胞壁(4’)が破られ、その中の糊粉顆粒が米肌に粘り付けられた状態で白米の表面に付着する『肌ヌカ』を、無洗米機により分離除去する無洗米処理を行う」なる記載

キ 請求項1の「全精白行程の終末寄りから少なくとも3分の2以上の行程に摩擦式精米機を用い」なる記載

ク 請求項1の「前記摩擦式精米機の精白除糠網筒の内面をほぼ滑面状となし、」なる記載

ケ 請求項1の「精白ロールの回転数を毎分900回以上の高速回転とすること、」なる記載

コ 請求項2の「全精白行程を、一本の精白ロールで済ます1回通過式の単機型の1回通過式精米機を用い、」なる記載

サ 請求項2の「前記精白ロールには、円筒状の胴体(31)の外面に縦走する2本の突条(32、32’)が、始点(34)と終点(35)の中はどの、アールを有する曲点(33)にて、167度前後の角度で回転方向に対して逆への字状に曲がり、かつ突条(32、32’)の始点(34)と終点(35)を結ぶ線が、該精白ロールの軸線方向と平行になっている均圧型の精白ロールとすること、」なる記載

 

【請求項1】

外から順に、表皮(1)、果皮(2)、種皮(3)、糊粉細胞層(4)と、澱粉を含まず食味上もよくない黄茶色の物質の層により表層部が構成され、該表層部の内側は、前記糊粉細胞層(4)に接して、一段深層に位置する薄黄色の一層の亜糊粉細胞層(5)と、該亜糊粉細胞層(5)の更に深層の、純白色の澱粉細胞層(6)により構成された玄米粒において、

(ア)前記玄米粒を構成する糊粉細胞層(4)と亜糊粉細胞層(5)と澱粉細胞層(6)の中で、搗精により糊粉細胞層(4)までを除去し、

(イ)該糊粉細胞層(4)と澱粉細胞層(6)の間に位置する亜糊粉細胞層(5)を外面に残して、該一層の、マルトオリゴ糖に生化学変化させる酵素や食物繊維や蛋白質を含有する亜糊粉細胞層(5)を米粒の表面に露出させ、

前記精白米には、全米粒の内、『(ウ)舌触りの良くない胚芽(7)の表層部や突出部を削り取り、残された基底部である胚盤(9)』、または『胚芽(7)の表面部を削りとられた胚芽(8)』が残った米粒の合計数が、全体の50%以上を占めるように搗精され、

(エ)前記搗精により亜糊粉細胞層(5)を表面に露出させた白米を、

(オ)該亜糊粉細胞層(5)が表面に現れた時の白度37前後に仕上げ、

(カ)更に糊粉細胞層(4)の細胞壁(4’)が破られ、その中の糊粉顆粒が米肌に粘り付けられた状態で白米の表面に付着する『肌ヌカ』を、無洗米機により分離除去する無洗米処理を行うことを特徴とする旨み成分と栄養成分を保持した無洗米の製造装置であって、

(キ)全精白行程の終末寄りから少なくとも3分の2以上の行程に摩擦式精米機を用い、

(ク)前記摩擦式精米機の精白除糠網筒の内面をほぼ滑面状となし、且つ

(ケ)精白ロールの回転数を毎分900回以上の高速回転とすること、及び、無洗米機を備えたことを特徴とする旨み成分と栄養成分を保持した無洗米の製造装置。

【請求項2】

外から順に、表皮(1)、果皮(2)、種皮(3)、糊粉細胞層(4)と、澱粉を含まず食味上もよくない黄茶色の物質の層により表層部が構成され、該表層部の内側は、前記糊粉細胞層(4)に接して、一段深層に位置する薄黄色の一層の亜糊粉細胞層(5)と、該亜糊粉細胞層(5)の更に深層の、純白色の澱粉細胞層(6)により構成された玄米粒において、

(ア)前記玄米粒を構成する糊粉細胞層(4)と亜糊粉細胞層(5)と澱粉細胞層(6)の中で、搗精により糊粉細胞層(4)までを除去し、

(イ)該糊粉細胞層(4)と澱粉細胞層(6)の間に位置する亜糊粉細胞層(5)を外面に残して、該一層の、マルトオリゴ糖に生化学変化させる酵素や食物繊維や蛋白質を含有する亜糊粉細胞層(5)を米粒の表面に露出させ、

前記精白米には、全米粒の内、『(ウ)舌触りの良くない胚芽(7)の表層部や突出部を削り取り、、残された基底部である胚盤(9)』、または『胚芽(7)の表面部を削りとられた胚芽(8)』が残った米粒の合計数が、全体の50%以上を占めるように搗精され、

(エ)前記搗精により亜糊粉細胞層(5)を表面に露出させた白米を、

(オ)該亜糊粉細胞層(5)が表面に現れた時の白度37前後に仕上げ、

(カ)更に糊粉細胞層(4)の細胞壁(4’)が破られ、その中の糊粉顆粒が米肌に粘り付けられた状態で白米の表面に付着する『肌ヌカ』を、無洗米機により分離除去する無洗米処理を行うことを特徴とする旨み成分と栄養成分を保持した無洗米の製造装置であって、

(コ)全精白行程を、一本の精白ロールで済ます1回通過式の単機型の1回通過式精米機を用い、

(サ)前記精白ロールには、円筒状の胴体(31)の外面に縦走する2本の突条(32、32’)が、始点(34)と終点(35)の中ほどの、アールを有する曲点(33)にて、167度前後の角度で回転方向に対して逆への字状に曲がり、かつ突条(32、32’)の始点(34)と終点(35)を結ぶ線が、該精白ロールの軸線方向と平行になっている均圧型の精白ロールとすること、及び、無洗米機を備えたことを特徴とする旨み成分と栄養成分を保持した無洗米の製造装置。

(2)無効理由2

本件特許の請求項1および請求項2の記載は、著しく不明瞭な記載を含んでいるから、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。

ア 請求項1および請求項2の「食味上もよくない黄茶色の物質の層」なる記載

イ 請求項1および請求項2の「亜糊粉細胞層(5)を外面に残して、該一層の、マルトオリゴ糖に生化学変化させる酵素や食物繊維や蛋白質を含有する亜糊粉細胞層(5)を米粒の表面に露出させ、」なる記載

ウ 請求項1および請求項2の「前記精白米には、全米粒の内、『舌触りの良くない胚芽(7)の表層部や突出部を削り取り、残された基底部である胚盤(9)』、または『胚芽(7)の表面部を削りとられた胚芽(8)』が残った米粒の合計数が、全体の50%以上を占めるように搗精され、」なる記載

エ 請求項1の「前記摩擦式精米機の精白除糠網筒の内面をほぼ滑面状となし、」なる記載

オ 請求項1の「精白ロールの回転数を毎分900回以上の高速回転とする」なる記載

カ 請求項1および請求項2の「無洗米機を備えた」なる記載

【請求項1】

外から順に、表皮(1)、果皮(2)、種皮(3)、糊粉細胞層(4)と、澱粉を含まず(ア)食味上もよくない黄茶色の物質の層により表層部が構成され、該表層部の内側は、前記糊粉細胞層(4)に接して、一段深層に位置する薄黄色の一層の亜糊粉細胞層(5)と、該亜糊粉細胞層(5)の更に深層の、純白色の澱粉細胞層(6)により構成された玄米粒において、

前記玄米粒を構成する糊粉細胞層(4)と亜糊粉細胞層(5)と澱粉細胞層(6)の中で、搗精により糊粉細胞層(4)までを除去し、

該糊粉細胞層(4)と澱粉細胞層(6)の間に位置する(イ)糊粉細胞層(5)を外面に残して、該一層の、マルトオリゴ糖に生化学変化させる酵素や食物繊維や蛋白質を含有する亜糊粉細胞層(5)を米粒の表面に露出させ、

(ウ)前記精白米には、全米粒の内、『舌触りの良くない胚芽(7)の表層部や突出部を削り取り、残された基底部である胚盤(9)』、または『胚芽(7)の表面部を削りとられた胚芽(8)』が残った米粒の合計数が、全体の50%以上を占めるように搗精され、前記搗精により亜糊粉細胞層(5)を表面に露出させた白米を、該亜糊粉細胞層(5)が表面に現れた時の白度37前後に仕上げ、更に糊粉細胞層(4)の細胞壁(4’)が破られ、その中の糊粉顆粒が米肌に粘り付けられた状態で白米の表面に付着する『肌ヌカ』を、無洗米機により分離除去する無洗米処理を行うことを特徴とする旨み成分と栄養成分を保持した無洗米の製造装置であって、

全精白行程の終末寄りから少なくとも3分の2以上の行程に摩擦式精米機を用い、

(エ)前記摩擦式精米機の精白除糠網筒の内面をほぼ滑面状となし、且つ

(オ)精白ロールの回転数を毎分900回以上の高速回転とすること、及び、

(カ)無洗米機を備えたことを特徴とする旨み成分と栄養成分を保持した無洗米の製造装置。

【請求項2】

外から順に、表皮(1)、果皮(2)、種皮(3)、糊粉細胞層(4)と、澱粉を含まず(ア)食味上もよくない黄茶色の物質の層により表層部が構成され、該表層部の内側は、前記糊粉細胞層(4)に接して、一段深層に位置する薄黄色の一層の亜糊粉細胞層(5)と、該亜糊粉細胞層(5)の更に深層の、純白色の澱粉細胞層(6)により構成された玄米粒において、

前記玄米粒を構成する糊粉細胞層(4)と亜糊粉細胞層(5)と澱粉細胞層(6)の中で、搗精により糊粉細胞層(4)までを除去し、

該糊粉細胞層(4)と澱粉細胞層(6)の間に位置する(イ)糊粉細胞層(5)を外面に残して、該一層の、マルトオリゴ糖に生化学変化させる酵素や食物繊維や蛋白質を含有する亜糊粉細胞層(5)を米粒の表面に露出させ、

(ウ)前記精白米には、全米粒の内、『舌触りの良くない胚芽(7)の表層部や突出部を削り取り、残された基底部である胚盤(9)』、または『胚芽(7)の表面部を削りとられた胚芽(8)』が残った米粒の合計数が、全体の50%以上を占めるように搗精され、前記搗精により亜糊粉細胞層(5)を表面に露出させた白米を、該亜糊粉細胞層(5)が表面に現れた時の白度37前後に仕上げ、更に糊粉細胞層(4)の細胞壁(4’)が破られ、その中の糊粉顆粒が米肌に粘り付けられた状態で白米の表面に付着する『肌ヌカ』を、無洗米機により分離除去する無洗米処理を行うことを特徴とする旨み成分と栄養成分を保持した無洗米の製造装置であって、

全精白行程を、一本の精白ロールで済ます1回通過式の単機型の1回通過式精米機を用い、前記精白ロールには、円筒状の胴体(31)の外面に縦走する2本の突条(32、32’)が、始点(34)と終点(35)の中ほどの、アールを有する曲点(33)にて、167度前後の角度で回転方向に対して逆への字状に曲がり、かつ突条(32、32’)の始点(34)と終点(35)を結ぶ線が、該精白ロールの軸線方向と平行になっている均圧型の精白ロールとすること、及び、

(カ)無洗米機を備えたことを特徴とする旨み成分と栄養成分を保持した無洗米の製造装置。

2.2 審判部の判断

(1)無効理由1

ア 請求項1および請求項2の「前記玄米粒を構成する糊粉細胞層(4)と亜糊粉細胞層(5)と澱粉細胞層(6)の中で、搗精により糊粉細胞層(4)までを除去し、」なる記載は、本件特許発明の「製造装置」という物の製造に関する記載とはいえないから、その物の製造方法が記載されているとはいえない。

イ 請求項1および請求項2の「該糊粉細胞層(4)と澱粉細胞層(6)の間に位置する亜糊粉細胞層(5)を外面に残して、該一層の、マルトオリゴ糖に生化学変化させる酵素や食物繊維や蛋白質を含有する亜糊粉細胞層(5)を米粒の表面に露出させ、」なる記載は、本件特許発明の「製造装置」という物の製造に関する記載とはいえないから、その物の製造方法が記載されているとはいえない。

ウ 請求項1および請求項2の「舌触りの良くない胚芽(7)の表層部や突出部を削り取り、」なる記載は、本件特許発明の「製造装置」という物の製造に関する記載とはいえないから、その物の製造方法が記載されているとはいえない。

エ 請求項1および請求項2の「前記搗精により亜糊粉細胞層(5)を表面に露出させ」なる記載は、本件特許発明の「製造装置」という物の製造に関する記載とはいえないから、その物の製造方法が記載されているとはいえない。

オ 請求項1および請求項2の「該亜糊粉細胞層(5)が表面に現れた時の白度37前後に仕上げ、」なる記載は、本件特許発明の「製造装置」という物の製造に関する記載とはいえないから、その物の製造方法が記載されているとはいえない。

カ 請求項1および請求項2の「更に糊粉細胞層(4)の細胞壁(4’)が破られ、その中の糊粉穎粒が米肌に粘り付けられた状態で白米の表面に付着する『肌ヌカ』を、無洗米機により分離除去する無洗米処理を行う」なる記載は、本件特許発明の「製造装置」という物の製造に関する記載とはいえないから、その物の製造方法が記載されているとはいえない。

キ 請求項1の「全精白行程を、一本の精白ロールで済ます1回通過式の単機型の1回通過式精米機を用い、」(「全精白行程の終末寄りから少なくとも3分の2以上の行程に摩擦式精米機を用い」の誤りと思われる。)なる記載は、本件特許発明の「製造装置」という物の製造に関する記載とはいえないから、その物の製造方法が記載されているとはいえない。

ク 請求項1の「前記摩擦式精米機の精白除糠網筒の内面をほぼ滑面状となし、」なる記載については、本件特許発明の「製造装置」という物を単に状態を示すことにより構造又は特性を特定しているにすぎないといえるから、その物の製造方法が記載されているとはいえない。

ケ 請求項1の「精白ロールの回転数を毎分900回以上の高速回転とすること、」なる記載は、本件特許発明の「製造装置」という物の製造に関する記載とはいえないから、その物の製造方法が記載されているとはいえない。

コ 請求項2の「全精白行程を、一本の精白ロールで済ます1回通過式の単機型の1回通過式精米機を用い、」なる記載は、本件特許発明の「製造装置」という物の製造に関する記載とはいえないから、その物の製造方法が記載されているとはいえない。

サ 請求項2の「前記精白ロールには、円筒状の胴体(31)の外面に縦走する2本の突条(32、32’)が、始点(34)と終点(35)の中はどの、アールを有する曲点(33)にて、167度前後の角度で回転方向に対して逆への字状に曲がり、かつ突条(32、32’)の始点(34)と終点(35)を結ぶ線が、該精白ロールの軸線方向と平行になっている均圧型の精白ロールとすること、」なる記載については、本件特許発明の「製造装置」という物を、単に状態を示すことにより構造又は特性を特定しているにすぎないといえるから、その物の製造方法が記載されているとはいえない。

シ まとめ

以上のことから、特許請求の範囲の請求項1および請求項2の記載は、請求人が主張した記載によってはその物の製造方法が記載されているとはいえない。

よって、本件特許発明に係る特許は、無効理由1により、無効とされるべきものではない。

(2)無効理由2

ア 請求項1および請求項2の「食味上もよくない黄茶色の物質の層」なる記載は、請求項1および請求項2の「外から順に、表皮(1)、果皮(2)、種皮(3)、糊粉細胞層(4)と」「構成された」「表層部」についての玄米一般に係る記載といえるから、当該記載により特許発明1および特許発明2が不明確になるものではない。したがって、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないとはいえない。

イ 請求項1および請求項2の「亜糊粉細胞層(5)を外面に残して、該一層の、マルトオリゴ糖に生化学変化させる酵素や食物繊維や蛋白質を含有する亜糊粉細胞層(5)を米粒の表面に露出させ、」なる記載は、記載内容自体が明確でないとはいえず、特許発明1および特許発明2が不明確になるものではない。なお、仮に実現の可能性が低いとしても、発明が不明確であることにはならない。

ウ 請求項1および請求項2の「前記精白米には、全米粒の内、『舌触りの良くない胚芽(7)の表層部や突出部を削り取り、残された基底部である胚盤(9)』、または『胚芽(7)の表面部を削りとられた胚芽(8)』が残った米粒の合計数が、全体の50%以上を占めるように搗精され、」なる記載は、1粒の米粒に係る記載ではなく、複数の米粒の半数以上のものについての記載と解されるのであって、その記載内容自体が明確でないとまではいえない。

エ 請求項1の「前記摩擦式精米機の精白除糠網筒の内面をほぼ滑面状となし、」なる記載は、特に「ほぼ滑面状」という範囲を曖昧にし得る表現があるものの、例えば、特許明細書の「従来の摩擦式精米機では、能率を向上させるために、精白除糠網筒の内面にイボ状、または線状等の突起を設け、糠層を一度に分厚く剥離していたのをなくし、糠層を表面から少しずつ剥離させるために、同網筒の内面を滑面にする」(【0029】)との記載、「若干微細な凹凸があるものの、従来のものにくらべ、はるかに凸部が低くなっている」(【0031】)との記載、「精白除糠網の内面がほぼ滑面状となっているから、・・・それらの作用により精白時に、米粒を薄く表面より少しずつ薄皮を剥がす如く剥離させるから、従来の如く、一度に分厚く糠層が削ぎ落とされるために生じる、ムラ剥離されることはない」(【0033】)との記載および本件出願時の技術常識を考慮すると、「従来のものにくらべ、はるかに凸部が低くなってい」て「精白時に、米粒を薄く表面より少しずつ薄皮を剥がす如く剥離させる」ことができる精白除糠網筒の内面であることが理解でき、特許発明1が不明確になるものではない。

オ 請求項1の「精白ロールの回転数を毎分900回以上の高速回転とする」なる記載は、回転数の下限だけを示すような数値範囲限定であって範囲を曖昧にし得る表現があるものの、例えば、特許明細書の「更にこれも常識に逆行して非効率的ではあるが、同精米機の回転数を早めるのである」(【0029】)との記載および本件出願時の技術常識を考慮すると、特許発明1においては回転数の上限値が問題となるのではなく、毎分900回転という下限値未満とならないようにすることに技術的意義を有することが理解でき、特許発明1が不明確になるものではない。

カ 請求項1および請求項2の「無洗米機を備えた」なる記載は、記載内容自体が明確でないとはいえず、特許発明1および特許発明2が不明確になるものではない。

キ まとめ

以上のことから、特許請求の範囲の請求項1および請求項2の記載は、請求人が主張した記載によっては特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないとはいえない。

よって、特許発明1および特許発明2に係る特許は、無効理由2により、無効とされるべきものではない。

3.審決取消訴訟

3.1 原告主張の審決取消事由(明確性要件)

1 本件特許の特許請求の範囲請求項1及び2には,無洗米の製造装置の構成が全く記載されていない。

記載されているのは,「玄米粒の構造」,「精米方法」,「精米装置の使用方法」又は「精米装置の製造方法」のみであるから,特許法36条6項2号に違反する。

「無洗米の製造装置」の発明を特定するには,「無洗米の製造装置」の物としての構成を記載しなければならず,「玄米粒の構造」,「精米方法」,「精米装置の使用方法」又は「精米装置の製造方法」などでは,発明を特定できない。

いわゆる「プロダクト・バイ・プロセス・クレーム」として,プロダクトを特定するのに,プロセスで特定することが認められるのは,プロダクトとしての構成記載が不可能又は極めて困難な場合だけである。

2(1)請求項1について

ア 「外から順に,表皮(1),果皮(2),種皮(3),糊粉細胞層(4)と,澱粉を含まず食味上もよくない黄茶色の物質の層により表層部が構成され,該表層部の内側は,前記糊粉細胞層(4)に接して,一段深層に位置する薄黄色の一層の亜糊粉細胞層(5)と,該亜糊粉細胞層(5)の更に深層の,純白色の澱粉細胞層(6)により構成された玄米粒において,」では,玄米粒の構造が記載されている。玄米粒の構造により「無洗米の製造装置」の発明が特定され得るはずはない

糊粉細胞層は食味に優れるとの文献がある(甲4の5頁24行~28行)から,糊粉細胞層が「食味上よくない」との表現は,矛盾を含み,不明確になっている

イ 「前記玄米粒を構成する糊粉細胞層(4)と亜糊粉細胞層(5)と澱粉細胞層(6)の中で,搗精により糊粉細胞層(4)までを除去し,該糊粉細胞層(4)と澱粉細胞層(6)の間に位置する亜糊粉細胞層(5)を外面に残して,該一層の,マルトオリゴ糖に生化学変化させる酵素や食物繊維や蛋白質を含有する亜糊粉細胞層(5)を米粒の表面に露出させ,前記精白米には,全米粒の内,『舌触りの良くない胚芽(7)の表層部や突出部を削り取り,残された基底部である胚盤(9)』,または『胚芽(7)の表面部を削りとられた胚芽(8)』が残った米粒の合計数が,全体の50%以上を占めるように搗精され,前記搗精により亜糊粉細胞層(5)を表面に露出させた白米を,該亜糊粉細胞層(5)が表面に現れた時の白度37前後に仕上げ,」では,玄米粒に対する精米プロセスが記載されている。精米プロセスにより「無洗米の製造装置」の発明が特定され得るはずはない

亜糊粉細胞層は,軟弱ではがれやすいので,これを利用して精米が行われるものである(甲4の2頁45行~46行)。したがって,仮に亜糊粉細胞層が一層であるとすると,「亜糊粉細胞層(5)を外面に残して,該一層の,マルトオリゴ糖に生化学変化させる酵素や植物繊維や蛋白質を含有する亜糊粉細胞層(5)を米粒の表面に露出させ,」という工程は,実施困難な工程であり,実現のための方法が発明の詳細な説明に十分記載されておらず,単なる課題の提示で終わっている。亜糊粉細胞層(5)を米粒の表面に露出させたとする状態を証明する断面写真なども添付されていない。

また,「全体の50%以上」の意義が,本件明細書の発明の詳細な説明中に何ら説明されていない。「50%以上」といった開放型の広い範囲の記載と,「搗精により・・・該一層の,・・・亜糊粉細胞層(5)を米粒の表面に露出させ」たとする極めて限定的な状態との技術的実現性の整合が取れておらず,不明瞭な記載となっている

ウ 「更に糊粉細胞層(4)の細胞壁(4’)が破られ,その中の糊粉顆粒が米肌に粘り付けられた状態で白米の表面に付着する『肌ヌカ』を,無洗米機により分離除去する無洗米処理を行うことを特徴とする」では,精米処理後の無洗米プロセスが記載されている。無洗米プロセスにより「無洗米の製造装置」の発明が特定され得るはずはない

エ 「旨み成分と栄養成分を保持した無洗米の製造装置であって,」では,発明の名称が記載されている。「旨み成分と栄養成分を保持した」との記載は,主観的,不明確な記載である

オ 「全精白行程の終末寄りから少なくとも3分の2以上の行程に摩擦式精米機を用い,」では,精米工程に摩擦式精米機を用いて精米するという精米方法が記載されている。精米方法により「無洗米の製造装置」の発明が特定され得るはずはない

また,精米プロセスの残りの3分の1以下の工程には何が用いられるのかが記載されていない

カ 「前記摩擦式精米機の精白除糠網筒の内面をほぼ滑面状となし,」では,精白除糠網筒の製造方法が記載されている。精白除糠網筒の製造方法により「無洗米の製造装置」の発明が特定され得るはずはない

「ほぼ滑面状」との表現は,本件明細書の発明の詳細な説明において何ら説明がされておらず,主観的なあいまいで不正確,不明瞭な表現となっている

また,精白除糠網筒の製造プロセスの一部が記載されており,いわゆる「プロダクト・バイ・プロセス・クレーム」となっている

キ 「且つ精白ロールの回転数を毎分900回以上の高速回転とすること,」では,精米機の使用方法が記載されている。精米機の使用方法により「無洗米の製造装置」の発明が特定され得るはずはない

「毎分900回以上」の開放型表現では,毎分5万回転も入ることとなる。本件明細書の発明の詳細な説明中の記載では,毎分900回転しか示されておらず,技術的妥当性を欠いており,上限も含めた範囲を記載すべきであり,不明瞭な表現となっている

ク 「及び,無洗米機を備えたことを特徴とする」では,無洗米機の構成が記載されていない。「無洗米の製造装置」といえば,通常,無洗米機のことを指すが,無洗米機にも種々のものがあり,「無洗米の製造装置」という物の発明の権利取得には,無洗米機の構成の記載が最重要課題であるが,これが記載されておらず,「無洗米の製造装置」としての発明が特定されているとはいえない。

ケ 「旨み成分と栄養成分を保持した無洗米の製造装置。」では,発明の名称が記載されている。「旨み成分と栄養成分を保持した」との記載は,クレーム記載から実証されたものではなく,不明確な記載である

(2)請求項2について

請求項2の記載のうち,前記(1)ア~エと同一の記載部分については,前記(1)ア~エのとおりである。

コ 「全精白行程を,一本の精白ロールで済ます1回通過式の単機型の1回通過式精米機を用い,」では,1回通過式の単機型の1回通過式精米機を用いて精米する精米方法が記載されている。精米方法により「無洗米の製造装置」の発明が特定され得るはずはない

サ 「前記精白ロールには,円筒状の胴体(31)の外面に縦走する2本の突条(32,32’)が,始点(34)と終点(35)の中ほどの,アールを有する曲点(33)にて,167度前後の角度で回転方向に対して逆への字状に曲がり,かつ突条(32,32’)の始点(34)と終点(35)を結ぶ線が,該精白ロールの軸線方向と平行になっている均圧型の精白ロールとすること,」では,精米機の精白ロールを均圧型にするという精白ロールの製造方法が記載されている。精白ロールの製造方法により「無洗米の製造装置」の発明が特定され得るはずはない

また,精白ロールの製造プロセスが記載されており,精白ロールに関して,いわゆる「プロダクト・バイ・プロセス・クレーム」となっている

さらに,「前記精白ロールには,」という言葉はどこにも掛かっておらず,この記載が何なのか不明となっている

シ 「及び,無洗米機を備えたことを特徴とする」については,前記(1)クと同じである

ス 「旨み成分と栄養成分を保持した無洗米の製造装置。」については,前記(1)ケと同じである

3.2 裁判所の判断

1 本件発明について

(1)本件発明は,前記第2の2記載のとおりであるところ,本件明細書(甲14)には,本件発明について,次のとおりの記載がある。

-省略-

(2)前記第2の2の認定事実及び前記(1)の本件明細書の記載によると,本件発明について,次のとおり認められる。

ア 本件発明は,白米でありながら,米粒の亜糊粉細胞層と胚芽の表面部を除いた部分又は胚盤を残して,旨み成分と栄養成分を保持した無洗米を製造する装置に関する。

イ 米粒の糊粉細胞層4に接して,糊粉細胞層4より一段深層に位置して僅かに薄黄色をした亜糊粉細胞層5は,その存在がほとんど知られていなかったが,その成分は,澱粉だけではなく,種々の有益成分を含有し,極めて美味しさを感じさせる旨み成分を含み,栄養的にも優れたものである。

「胚芽7の表面部を除去された胚芽8」や「胚盤9」は,消化性が良く,ご飯に甘みを与え,栄養成分も多い。

これらは,米粒の栄養成分及び旨み成分を多く含有しているのであるから,可及的に残すとともに,食味にマイナス作用を与える糊粉細胞層4やそれより表層の物質,いわゆる糠層成分や,胚芽7の表面部を,可能なかぎり除去すればよい。

ウ 従来の精白米は,食べやすいが甘みが少ないし栄養成分が少ない完全精白米か,栄養成分が多いが極めて食味がまずいものしかなかった。それを解決するには,可能な限り中途精米過程で,全体の米粒において,更には1粒当りの米粒において,剥離差を生じなくするとともに,可能な限り高栄養・良食味の亜糊粉細胞層5と胚盤9か,又は,口当たりの悪い胚芽7の表面部を除去した胚芽8が残るようにし,その上で,亜糊粉細胞層5が表面に現れた時に搗精を終わらせることが必要となる。

エ 本件発明の精米装置は,上記ウの課題を解決したものであり,完全精白米を製造していた従来の精米装置を若干変更するだけで実現できる。また,無洗米機を含み,公知の無洗米機を使用できる。

2 取消事由(明確性要件の存否)について

(1)特許法36条6項2号は,特許請求の範囲の記載に関し,特許を受けようとする発明が明確でなければならない旨規定する。この趣旨は,特許請求の範囲に記載された発明が明確でない場合には,特許の付与された発明の技術的範囲が不明確となり,第三者に不測の不利益を及ぼすことがあり得るため,そのような不都合な結果を防止することにある。そして,特許を受けようとする発明が明確であるか否かは,特許請求の範囲の記載のみならず,願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し,また,当業者の出願時における技術常識を基礎として,特許請求の範囲の記載が,第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。

(2)ア 請求項1及び2の「外から順に,表皮(1),果皮(2),種皮(3),糊粉細胞層(4)と,澱粉を含まず食味上もよくない黄茶色の物質の層により表層部が構成され,該表層部の内側は,前記糊粉細胞層(4)に接して,一段深層に位置する薄黄色の一層の亜糊粉細胞層(5)と,該亜糊粉細胞層(5)の更に深層の,純白色の澱粉細胞層(6)により構成された玄米粒において,」の部分(以下「記載事項A」という。)について

記載事項Aは,本件発明の無洗米の製造装置における処理対象である玄米粒の構成について,その表層部から深層部に至る各部分の名称を順に列挙するものであり,上記無洗米の製造装置の構造又は特性に直接関連するものではない

イ 請求項1及び2の「前記玄米粒を構成する糊粉細胞層(4)と亜糊粉細胞層(5)と澱粉細胞層(6)の中で,搗精により糊粉細胞層(4)までを除去し,該糊粉細胞層(4)と澱粉細胞層(6)の間に位置する亜糊粉細胞層(5)を外面に残して,該一層の,マルトオリゴ糖に生化学変化させる酵素や食物繊維や蛋白質を含有する亜糊粉細胞層(5)を米粒の表面に露出させ,前記精白米には,全米粒の内,『舌触りの良くない胚芽(7)の表層部や突出部を削り取り,残された基底部である胚盤(9)』,または『胚芽(7)の表面部を削りとられた胚芽(8)』が残った米粒の合計数が,全体の50%以上を占めるように搗精され,前記搗精により亜糊粉細胞層(5)を表面に露出させた白米を,該亜糊粉細胞層(5)が表面に現れた時の白度37前後に仕上げ,」の部分(以下「記載事項B」という。)について

記載事項Bは,本件発明の無洗米の製造装置を用いた精米方法又は上記無洗米の製造装置により得られる精白米の性状を表したものであり,上記無洗米の製造装置の構造又は特性を直接特定する記載ではない

ウ 請求項1及び2の「更に糊粉細胞層(4)の細胞壁(4’)が破られ,その中の糊粉顆粒が米肌に粘り付けられた状態で白米の表面に付着する『肌ヌカ』を,無洗米機により分離除去する無洗米処理を行うことを特徴とする」の部分(以下「記載事項C」という。)について

記載事項Cは,白米の表面に付着する「肌ヌカ」を無洗米機により分離除去する無洗米化処理を行うことを記載したものであり,本件発明の無洗米の製造装置が無洗米機をその構成の一部としていることを表しているが,それ以上に,上記無洗米の製造装置の構造又は特定を直接特定する記載ではない

エ 請求項1及び2の「旨み成分と栄養成分を保持した無洗米の製造装置であって,」の部分(以下「記載事項D」という。)について

記載事項Dの「無洗米の製造装置であって」という部分は,本件発明が無洗米の製造のための装置の発明であることを示す記載であり,発明のカテゴリーを示して,その技術的範囲を定めるものと解される

記載事項Dの「旨み成分と栄養成分を保持した」という部分は,本件発明の無洗米の製造装置で製造される無洗米の特性を示したものであり,前記無洗米の製造装置の構造又は特性を直接特定する記載ではない

オ 請求項1の「全精白行程の終末寄りから少なくとも3分の2以上の行程に摩擦式精米機を用い,」の部分(以下「記載事項E」という。)について

記載事項Eは,それのみでは,これが精米工程,すなわち,方法を表すものなのか,請求項1の無洗米の製造装置に少なくとも摩擦式精米機が含まれているという構造を示すものなのか,必ずしも判然としない

しかしながら,本件明細書には,実施例として,第1精米機,第2精米機,第3精米機を構成に含み,これらはいずれも噴風摩擦式精米機であるが,第1精米機のみは研削式にする場合もあるという無洗米の製造装置が記載されており(【0030】),玄米は,第1精米機において中途精白米に仕上げられ,第2精米機において,更に精白度を高めた中途精白米に仕上げられ,第3精米機において,最適の白度に仕上げられる(【0032】)のであって,本件発明の精米装置では,「全行程,もしくは終末寄りの工程が噴風摩擦式精米機によって構成され,それが少なくとも全精米工程の少なくとも3分の2以上を占めている。」(【0037】)旨が記載されている。

これらの記載を斟酌すると,記載事項Eは,本件発明1に係る無洗米の製造装置の構成につき,摩擦式精米機が全精白工程の少なくとも3分の2以上の工程を占めるように構成されたとの特定をしていると解することができるから,上記無洗米の製造装置の構造を示すものということができる

カ 請求項1の「前記摩擦式精米機の精白除糠網筒の内面をほぼ滑面状となし,」の部分(以下「記載事項F」という。)について

記載事項Fには,「精白除糠網筒の内面」を「ほぼ滑面状とな」すという動詞を用いた記載が含まれているが,「ほぼ滑面状」とされるのは「精白除糠網筒の内面」であり,本件明細書には,本件発明1の無洗米の製造装置が完成した状態において,「精白除糠網筒の内面」が「滑面」(【0029】),「ほとんど,滑面状」(【0033】),又は「ほぼ滑面状」(【0037】)である旨が記載されており,従来の摩擦式精米機の「精白除糠網筒の内面」には「突起」が設けられていたが,本件発明1の無洗米の製造装置では,これを「滑面」にする旨(【0029】)の記載がある一方,精白除糠網筒の製造方法の記載はないから,記載事項Fは,「精白除糠網筒の内面」が「ほぼ滑面状」である「精白除糠網筒」をその構成に含むことを,精白除糠網筒の内面の状態を示すことにより,特定したものと解される。したがって,上記無洗米の製造装置の構造を示すものということができる

キ 請求項1の「且つ精白ロールの回転数を毎分900回以上の高速回転とすること,」の部分(以下「記載事項G」という。)について

記載事項Gは,本件発明1に係る無洗米の製造装置を構成する精米機が,「精白ロール」を有するという,前記装置の構成を特定する記載と,その運転条件である回転数に関する記載を含むものであり,後者は,本件明細書の「それらの噴風摩擦式精米機の回転数も毎分900回転以上の高速回転で運転される」(【0031】),「本装置は毎分900回の高速回転をさせている」(【0033】)との記載に照らすと,本件発明1に係る無洗米の製造装置の構成につき,上記回転数以上で運転するものと特定していると解することができるから,上記無洗米の製造装置の構造又は特性を特定するものということができる

ク 請求項1及び2の「及び,無洗米機を備えたことを特徴とする」の部分(以下「記載事項H」という。)について

記載事項Hは,本件発明に係る無洗米の製造装置の構成には,無洗米機が含まれることを特定している

本件明細書には,実施例の説明として,無洗米機は,公知の無洗米機(【0031】,【0036】)と記載されているのみであって,当該無洗米機の構造又は特性についての記載は見当たらないが,「公知の無洗米機」であるという意味では特定されているということができる

ケ 請求項1及び2の「旨み成分と栄養成分を保持した無洗米の製造装置。」の部分(以下「記載事項I」という。)について

記載事項Iは,記載事項Dと同内容であり,前記エのとおりである

(3)以上の記載事項A~Iについての検討を総合すると,本件発明1の無洗米の製造装置は,少なくとも,摩擦式精米機(記載事項F)と無洗米機(記載事項C)をその構成の一部とするものであり,その摩擦式精米機は,全精白構成の終末寄りから少なくとも3分の2以上の工程に用いられているものである(記載事項E)上,精白除糠網筒(記載事項F)と精白ロール(記載事項G)をその構成の一部とするものであり,その精白除糠網筒の内面は,ほぼ滑面状であって(記載事項F),精白ロールの回転数は毎分900回以上の高速回転とするものである(記載事項G)と認められる

したがって,上記の無洗米の製造装置の構造又は特性は,記載事項A~Iから理解することができる

しかしながら,請求項1の無洗米の製造装置の特定は,上記の装置の構造又は特性にとどまるものではなく,精米機により,亜糊粉細胞層を米粒表面に露出させ,米粒の50%以上について胚盤又は表面部を削り取られた胚芽を残し,白度37前後に仕上がるように搗精し(記載事項B),白米の表面に付着する肌ヌカを無洗米機により分離除去する無洗米処理を行う(記載事項C)ものであり,旨味成分と栄養成分を保持した無洗米を製造するもの(記載事項D,I)である

このうち,亜糊粉細胞層を米粒表面に露出させ,米粒の50%以上について胚盤又は表面部を削り取られた胚芽を残し,白度37前後に仕上がるように搗精する(記載事項B)ことについては,本件明細書の発明の詳細な説明において,本件発明に係る無洗米の製造装置のミニチュア機で,白度37前後の各白度に搗精した精米を,洗米するか,公知の無洗米機によって通常の無洗化処理を行い,炊飯器によって炊飯し,その黄色度を黄色度計で計り,黄色度11~18の内の好みの供試米の白度に合わせて搗精を終わらせる時を調整して,本格搗精をすることにより行うこと(【0035】),このようにして仕上がった精白米は,亜糊粉細胞層が米粒表面をほとんど覆っていて,かつ,全米粒のうち,表面が除去された胚芽と胚盤が残った米粒の合計数が,少なくとも50%以上を占めていること(【0036】)が記載されており,結局のところ,ミニチュア機で実際に搗精を行うことにより,本格搗精を終わらせる時を調整することにより実現されるものであることが記載されている。したがって,本件明細書には,本件発明1の無洗米の製造装置につき,その特定の構造又は特性のみによって,玄米を前記のような精白米に精米することができることは記載されておらず,その運転条件を調整することにより,そのような精米ができるものとされている。そして,その運転条件は,本件明細書において,毎分900回以上の高速回転で精白ロールを回転させること以外の特定はなく,実際に上記のような精米ができる精白ロールの回転数や,精米機に供給される玄米の供給速度,精米機の運転時間などの運転条件の特定はなく,本件出願時の技術常識からして,これが明らかであると認めることもできない。

ところで,本件明細書の発明の詳細な説明において,亜糊粉細胞層(5)については,「糊粉細胞層4に接して,糊粉細胞層4より一段深層に位置して僅かに薄黄色をした」,「厚みも薄く1層しかない」ものであり(【0015】),「亜糊粉細胞5は・・・整然と目立って並んでいる個所は少なく,ほとんどは顕微鏡でも確認しにくいほど糊粉細胞層4に複雑に貼り付いた微細な細胞であり,それも平均厚さが約5ミクロン程度の極薄のものである」(【0018】)と記載され,胚芽(8)及び胚盤(9)については,「胚芽7の表面部を除去された」ものが胚芽(8)であり,それを更に削り取ると胚盤(9)になる(【0023】)と記載されている。しかるところ,本件明細書の発明の詳細な説明には,米粒に亜糊粉細胞層(5)と胚芽(8)及び胚盤(9)を残し,それより外側の部分を除去することをもって,米粒に「旨み成分と栄養成分を保持」させることができる旨が記載されており(【0017】~【0023】),玄米をこのような精白米に精米する方法については,「従来から,飯米用の精米手段は摩擦式精米機にて行うことが常識とされている」が,その搗精方法では,必然的に,米粒から亜糊粉細胞層(5)や胚芽(8)及び胚盤(9)も除去されてしまうこと(【0024】,【0025】)が記載されている。また,本件明細書の発明の詳細な説明には,「摩擦式精米機では米粒に高圧がかかり,胚芽は根こそぎ脱落する」から,胚芽を残存させるには,研削式精米機による精米が不可欠とされていた(【0029】)ところ,研削式精米機により精米すると,むらが生じ,高白度になると,亜糊粉細胞層(5)の内側の澱粉細胞層(6)も削ぎ落とされている個所もあれば,糊粉細胞層(4)だけでなく,それより表層の糠層が残ったままの部分もあるという状態になること(【0027】)が記載されている。

そうすると,精米機により,亜糊粉細胞層を米粒表面に露出させ,米粒の50%以上において胚盤又は表面を削り取られた胚芽を残し,白度37前後に仕上がるように搗精することは,従来の技術では容易ではなかったことがうかがわれ,上記のとおり,本件明細書に具体的な記載がない場合に,これを実現することが当業者にとって明らかであると認めることはできない

本件発明1は,無洗米の製造装置の発明であるが,このような物の発明にあっては,特許請求の範囲において,当該物の構造又は特性を明記して,直接物を特定することが原則であるところ(最高裁判所平成27年6月5日第二小法廷判決・民集69巻4号904頁参照),上記のとおり,本件発明1は,物の構造又は特性から当該物を特定することができず,本件明細書の記載や技術常識を考慮しても,当該物を特定することができないから,特許を受けようとする発明が明確であるということはできない

(4)請求項2は,記載事項A~D,H及びIと,「全精白行程を,一本の精白ロールで済ます1回通過式の単機型の1回通過式精米機を用い,前記精白ロールには,円筒状の胴体(31)の外面に縦走する2本の突条(32,32’)が,始点(34)と終点(35)の中ほどの,アールを有する曲点(33)にて,167度前後の角度で回転方向に対して逆への字状に曲がり,かつ突条(32,32’)の始点(34)と終点(35)を結ぶ線が,該精白ロールの軸線方向と平行になっている均圧型の精白ロールとすること」(以下「記載事項J」という。)という記載事項からなる。

記載事項Jには,請求項2の無洗米の製造装置につき,「単機型の1回通過式精米機」をその構成の一部とし,その精米機は均圧型の1本の精白ロールをその構成の一部とし,「前記精白ロールは均圧型で,円筒状の胴体(31)の外面に縦走する2本の突条(32,32’)があり,その突条は,始点(34)と終点(35)の中ほどの,アールを有する曲点(33)にて,167度前後の角度で回転方向に対して逆への字状に曲がり,かつ突条(32,32’)の始点(34)と終点(35)を結ぶ線が,その精白ロールの軸線方向と平行になっている」という構造であることが記載されているということができる。

しかしながら,本件発明2の無洗米の製造装置も,精米機により,亜糊粉細胞層を米粒表面に露出させ,米粒の50%以上について胚盤又は表面部を削り取られた胚芽を残し,白度37前後に仕上がるように搗精し(記載事項B),白米の表面に付着する肌ヌカを無洗米機により分離除去する無洗米処理を行う(記載事項C)ものであり,旨味成分と栄養成分を保持した無洗米を製造するもの(記載事項D,I)である。

このうち,亜糊粉細胞層を米粒表面に露出させ,米粒の50%以上について胚盤又は表面部を削り取られた胚芽を残し,白度37前後に仕上がるように搗精する(記載事項B)ことについては,ミニチュア機で実際に搗精を行うことにより,本格搗精を終わらせる時を調整することにより実現されるものであって,本件明細書には,本件発明1の無洗米の製造装置につき,その特定の構造又は特性のみによって,玄米を前記のような精白米に精米することができることは記載されておらず,その運転条件が本件出願時の技術常識から明らかであると認めることもできないことは,本件発明1について前記(3)で判示したとおりである。

以上によると,本件発明2は,物の構造又は特性から当該物を特定することができず,本件明細書の記載や技術常識を考慮しても,当該物を特定することができないから,特許を受けようとする発明が明確であるというということはできない

(5)ア 被告は,原告の主張には,本件審判請求において審理判断されていない部分があり,この部分につき,本件訴訟において審決の取消事由とすることは許されない旨主張する。

しかしながら,原告は,本件審判請求において,本件発明1につき,「無洗米の製造装置」の発明でありながら,請求項1のほとんどの部分が精米方法あるいは装置の使用方法若しくは精米装置の製造方法を表す記載であり,また,著しく不明瞭な記載を含んでいるから,明確性要件違反となっている旨を主張した上で,請求項1及び2の記載の一部を個別に挙げてその明確性要件違反を主張しており(甲11,乙2,4,5),原告は,請求項1及び2に含まれる特定の記載部分のみを明確でないと主張しているのではなく,請求項1及び2全体を明確でない旨主張しているというべきである

したがって,被告の上記主張には理由がない。

イ 被告は,発明特定事項として,作用,機能,性質,特性,方法,用途その他の様々な表現方式を用いることができるので,仮に特許請求の範囲に精米方法の製造方法,装置の使用方法や無洗米化方法の記載があるからといって当然に発明特定事項の記載が不明確になるものではない旨主張する。

確かに,発明特定事項として,様々な表現方式を用いることは許容されるが,特許法36条6項2号の明確性要件を欠く場合,特許を受けることはできないとされることに変わりはない。

そして,請求項1及び2の記載が,いずれも明確性要件を欠くことは,前記認定のとおりであるから,被告の上記主張は,前記認定を左右するものではない。

4.検討

(1)特許無効審判で請求人は請求項1,2に対する無効理由1としてプロダクト・バイ・プロセス・クレーム(以下、PBPクレーム)であるから特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないと主張しました(正確には出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが可能である、又は実際的であるにも関わらずPBPクレームとしているので要件を満たしていない、と主張すべきかもしれません)。また、請求項1,2に対する無効理由2として、著しく不明瞭な記載を含んでいるから特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないとも主張しました

しかし、いずれの主張も請求項中の対象とする文言を列挙するだけでどのように明確でないのかまったく書いてありません(審決では省略されているのかもしれませんが)。これに対する合議体の判断もあっさりしたものであり、明確であることに何ら疑問の余地がないのか、それとも請求人の説明が不足しているので詳しく書いていないのか、よくわかりませんでした。

(2)一方、審決取消訴訟の判決はだいぶ詳しく書かれています。まず、請求項1、2について原告が指摘した文言は「玄米粒の構成」、「精白米の性状」、「無洗米の特性」といった製造装置の特定とは関係ないものと、製造装置の構造を示すものに分けられ、これらにより当該無洗米の製造装置の構造又は特性が理解できると認定されました。これによりPBPクレーム形式ではない、と判断されたと思われます。

その上で明細書中では本発明の精白米はミニチュア機又は公知の無洗米機で仕上げる例が記載されているが、本発明の製造装置で本発明の精白米を仕上げる条件として毎分900回以上の高速回転で精白ロールを回転させることは記載されているがそれだけでは製造装置の特定としては不十分であり、出願時の技術常識からしても明らかとは言えない、と認定しています。

この認定については精米技術についての知識を持っていないので何とも言えませんが、この認定に従うと特許法第36条第4項第1号(いわゆる実施可能要件)に違反するというものになり適用条文が異なる気がしますが、特許無効審手続きの繰り返しを防ぐために明確性要件を欠くという結論で押し切ったように思いました。