アルミサッシ改修工法事件(その4)

投稿日: 2017/04/17 20:22:33

今日が平成26年(ワ)第7643号 特許権侵害差止等請求事件の最後の投稿です。

6.検討

本件は侵害論の内容自体には特に目新しさを感じられませんでした。被告製品の詳細は把握できませんが、抵触性についての原告・被告の主張内容からすると裁判官の判断に特に違和感はありませんでした。また、無効主張もありましたが記載要件違反と1回目の特許無効審判で提出した文献を証拠とする進歩性違反では侵害論の際に主張できなかった合理的な理由も見いだせないので時期に遅れた攻撃防御としては却下されてもやむを得ないと思います。

本件について興味があるのは被告の係争の進め方です。

(1)何故設計変更しなかったのか?

製品の製造・販売を続けている場合に提起された侵害訴訟では差止や廃棄も請求されるケースがほとんどです。また、そうでなくとも製品の製造・販売を続けるということは損害賠償額が日に日に増すことになります。したがって、一般的には、予め特許出願の存在を知っているなら特許になった時点で確実に非抵触の製品を販売できるように設計変更の準備を進めます。遅くとも訴訟を提起される可能性があるのであれば差止や廃棄といった事態を避けるためにも登録後速やかに設計変更します。

本判決の事実及び理由によると原告は平成18年(2006年)10月5日に被告に対して警告しています。これは補償金請求権を行使する上での要件を満たすためのものであり、この時点ではまだ本件特許は成立しておらず、特許になったのはそれから約5年後です。しかし、被告は被告製品の製造・販売を続け、さらに訴訟が提起されてからも続けています。十分な時間があったにも関わらず設計変更しなかった(できなかった?)理由が想像できないので気になります。

(2)何故先に特許無効審判を請求したか?

以前、別の判例でも書きましたが、特許権者が訴訟も提起していない状況で実施者が特許無効審判を請求するケースはそれほど多くありません。その最大の理由は特許権者が侵害訴訟を提起する可能性を高めてしまうためです。したがって、かなり強い証拠を入手していないと先制して特許無効審判を請求しにくいものです。

本件に関する特許無効審判は4回されていますが、いずれも特許を無効にするどころか訂正させる状況に追い込むこともできていません。したがって、いずれも強い証拠ではないということになります。ひょっとしたら時間を稼いでカウンタ特許の取得を狙ったのかもしれませんが、現時点ではそのような訴訟が提起された様子はなさそうです。そうなると被告が侵害訴訟に先立って特許無効審判を請求したのか想像できません。

(3)何故損害論で無効主張をしたか?

被告の特許無効主張は時期に遅れた攻撃・防御として却下されています。損害論の段階だったので却下自体は当然だったと思いますし、被告側も予測した上での行動だったと思います。ただ気になった点があります。判決には「平成27年2月26日の弁論準備手続の段階で侵害論の審理を終了し、当事者双方がそれ以降侵害論に関する主張はしないものとして弁論準備手続調書にその旨記載された上で、同年4月8日の弁論準備期日において裁判所から心証を告げた上で、損害論の審理に入った段階において、被告が初めて上記無効理由を主張したものである。」とあります。また、争点(2)の被告の主張には「なお,被告は,無効理由について詳細な主張をすることを希望したが,裁判所の訴訟指揮に従って,詳細な無効理由の主張を記載した平成27年12月4日付け第9準備書面及び平成28年7月13日付け第18準備書面は陳述しないものとされた。」とあります。そうすると、平成27年(2015年)4月8日に裁判所からの心証開示があり、それから約8ヶ月後の12月4日に無効主張の準備書面を提出しようとしたことになります。おそらくこの無効主張の中で進歩性欠如の証拠として提出したのが前述した1回目の特許無効審判請求の際に提出した文献と同じものだったと思われます。その後被告は2016年5月27日、2016年5月31日と立て続けに特許無効審判を請求しています。この27日の特許無効審判において、記載要件違反に基づく無効主張の内容は侵害訴訟で却下された無効主張とほぼ同じですが、進歩性違反に基づく無効主張の証拠は異なるものになっています。

そうすると被告は侵害訴訟で無効主張していますが、この時点では新たに進歩性違反を主張するための証拠を集めていなかったか、集めている最中だった、と推測されます。つまり、被告は訴訟が提起される前に2回特許無効審判を請求しましたがいずれも請求不成立だったので、侵害論では非抵触主張一本で通す戦略だったのではないか?と考えられます。それが心証開示の内容を受けて非抵触主張も困難であるので、控訴審で無効主張を展開するに際して一審で全く無効主張していないのはマズいと考えて、却下されるのを承知で損害論の最中に無理に無効主張をしたのではないか?と推測します。

しかし、3、4回目の特許無効審判も請求不成立なので、かなり厳しい状況です。新たな証拠に基づいて5回目の特許無効審判を行うのか、控訴審で新たな証拠で無効主張をするのか、それとも3、4回目の特許無効審判での不足と思われる部分を補いながら控訴審で無効主張を展開するのか、おそらく今後の展開はこの辺りになるのではないか?と思います。