遠近両用レンズ(第3弾)
投稿日: 2017/03/21 1:18:42
きょうは平成25年(ワ)第19418号 特許権侵害禁止等請求事件について検討します。昨年の夏に判決があった事件ですが、直近で検討した2件の遠近両用レンズ事件における原告が被告になっており何らかの関係がある可能性があるので検討することにしました。
原告はイーエイチエス レンズ フィリピン インク(旧商号:ホーヤ レンズ マニュファクチャリング フィリピン インク)で被告はニコン・エシロールです。被告のニコン・エシロールについては以前の事件でニコンとフランスのエシロール社の合弁会社であると紹介いしました。一方、原告のイーエイチエス レンズ フィリピン インクはHOYA株式会社の関係会社のようです。
この事件で特に実務上参考になると思うのは次の2点です。
① 特許無効審判及び侵害訴訟での無効主張に用いられた引用文献は米国特許公報ですが、これは対応海外出願である欧州特許の異議申立で提出された文献でした。
② 本件訂正に係る原告の再抗弁は、本件特許権の通常実施権者の一部について、訂正請求をすることにつき承諾を得ていないから、訂正の要件を充たしていないとして認められませんでした。
1.各手続の時系列の整理
① 本件特許の出願人はセイコーエプソン株式会社です。それがどうして原告が保有することになったのか調べるために登録後の状況を見たところ2013年に移転登録申請されています。そして、HOYA株式会社の2012年11月16日付けニュースリリースにはセイコーエプソンの眼鏡レンズ開発製造事業の譲渡契約を締結したとの発表がありました。
② 本事件の被告以外に特許無効審判を請求している会社があります。少し調べましたが会社を特定することができませんでした。
③ 本件特許は特願平07-306189に基づく優先権主張を伴う出願ですが、この特願平07-306189に基づき優先権主張したPCT出願もあります。こちらについてWIPOのPATENTSCOPEで調べると欧州特許庁、シンガポール及びアメリカ合衆国に移行されています。
④ 欧州では異議申立を請求され、2011年1月24日に取り消されているようです。
2.裁判所の判断
本事件については抵触性の判断はされませんでした。そして、本件各特許発明はいずれも乙1発明に周知技術を組み合わせることにより当業者が容易に想到できるものであるから進歩性を欠くと判断しています。
3.検討
今回は特許の抵触性については裁判所が判断していないので検討を省略します。
有効性について内容は省略しますが、対応海外出願である欧州特許に対する異議申立で提出された文献が特許無効審判及び侵害訴訟の無効主張において主引例として用いられました。被告からすると、特許に対応海外出願が存在すれば必ずその動向は調査します。そうすると、すぐに欧州で異議申立を受けて取消となったことはわかるので真っ先に検討したと思います。
訂正に際して通常実施権者の承諾を得る点については実務では意外と見落とされがちです。ただ通常は特許権者が他社に対して通常実施権を許諾しているか否かについて第三者(被告含む)が知ることは難しいと思います。そのため本事件でどのようにして知ったのか非常に興味があります。自らが特許権者から許諾された通常実施権者である立場だったら、特許権者が訂正する場合に自分の承諾を得ていないことに気づきますが、そうでもなければ知りえません。
原告の主張からすると未承諾の通常実施権者は外国法人です。ひょっとしたらニコン又はエシロールのシンガポールやアメリカ合衆国の現地法人が独自に通常実施権契約を締結しており、そこから情報が入ったのかもしれません。