核酸分解処理装置事件
投稿日: 2019/03/17 22:51:15
今日は、平成30年(行ケ)第10064号 審決取消請求事件について検討します。
1.検討結果
(1)本件発明は、要は、メタノールガスと空気とを混合し、触媒反応によりラジカル化することでメタノール由来の活性種を含むバイオガスを生成するバイオガス発生部と、このバイオガスが供給される暴露部と、この暴露部のバイオガスを排気する排気処理部とを備える核酸分解処理装置であって、暴露部で測定したバイオガスのホルムアルデヒト成分の濃度をバイオガス発生部の生成ガス量制御手段に帰還するとともに暴露部から排気するバイオガスの排気量を制御することで暴露部の庫内ガス濃度を一定にし、この排気により生じる庫内差圧を排気量制御手段に帰還して暴露部の庫内差圧を一定にするものです。
(2)本件の原告が請求した特許無効審判の審決は請求不成立でしたが、本件審決取消訴訟の判決は一転して審決を取消すというものでした。
(3)判決では進歩性に関する争点のみ判断が示されていました。その内容は、要は、被告(特許権者)が甲2文献との相違点として主張する点については何れも特許請求の範囲(明細書)で具体的な記載がなく、相違点として認められない、というものでした。
(4)簡単に言うと、特許請求の範囲記載の構成要件の記載ぶりが広く、その内容を限定して解釈しようにも限定解釈の根拠となる記載が明細書等に記載されておらず、甲2発明との相違点を見いだせない、というものです。
(5)本件は特許庁に戻され、再度審理されることになります。特許権者にしてみると、改めて甲2発明との相違点を主張可能な訂正を行えるかが重要です。
2.手続の時系列の整理(特許第5463378号)
3.特許請求の範囲(訂正後)
【請求項2】
メタノールタンク(1)から供給されたメタノールを霧状に噴射するノズル(23)を備え、該ノズル(23)を介して噴射されたメタノールを気化してメタノールガスを発生させるメタノールガス発生部(11)と、上記メタノールガス発生部(11)の上方に位置して、熱反射可能な多孔質金属材料で互いに隔てられた上部(12a)と下部(12b)とからなり、該上部(12a)には空気を供給する空気供給部が連結されており、該メタノールガス発生部(11)から発生したメタノールガスを自然対流により上方に移行させる流路となるとともに、上記メタノールガスに該空気供給部から供給された空気を所定の割合で混合させる筒体部(12A)と、上記筒体部(12A)の上方に位置し、該筒体部(12A)において上記所定の割合で空気が混合したメタノールガスを触媒反応によりラジカル化する触媒部(18)とを有し、上記触媒部(18)は、金属薄板をハニカム構造に成形してなるラジカル反応触媒より構成され、該ラジカル反応触媒を複数積層してなり、空気が混合したメタノールガスを触媒反応によりラジカル化して少なくともメタノールに由来する活性種を含み生成される複合ガス(以下「バイオガス」という)を発生するバイオガス発生部(110)と、
上記バイオガス発生部(110)における生成ガス量を供給空気量とメタノール量で制御する生成ガス量制御手段と、
上記バイオガス発生部(110)により発生したバイオガスが供給される暴露部(120)と、
上記暴露部(120)の暴露空間内の温度を制御する温度制御手段と、
上記暴露部(120)の暴露空間内の湿度を制御する湿度制御手段と、
上記暴露部(120)に供給されたバイオガスを排気する排気処理部(140)と、
上記排気処理部(140)により上記暴露部(120)から排気するバイオガスの排気量を制御するバイオガスの排気量制御手段と、
上記暴露部(120)におけるバイオガスのホルムアルデヒド成分の濃度を測定するホルムアルデヒド成分濃度測定手段と、
臭いを検出又は測定する手段を備え、
上記ホルムアルデヒド成分濃度測定手段による測定結果として得られるガス濃度情報が上記生成ガス量制御手段に帰還され、上記バイオガス発生部(110)において、一定の触媒の自己反応温度と濃度のバイオガスとなるように、上記生成ガス量制御手段により上記バイオガス発生部(110)における生成ガス量が供給空気量とメタノール量で制御されるとともに、上記排気量制御手段により上記暴露部(120)から排気するバイオガスの排気量を制御することにより、上記暴露部(120)の庫内ガス濃度を一定にし、
上記排気量制御手段により制御される排気処理手段による上記暴露部(120)の暴露空間内のバイオガスの排気処理に起因して生じる庫内差圧を検出する庫内差圧検出手段を備え、
上記庫内差圧検出手段による検出結果から得られる庫内差圧情報が上記排気量制御手段に帰還され、上記排気量制御手段により上記暴露部(120)から排気するバイオガスの排気量を制御することにより、上記暴露部(120)の庫内差圧を一定にすることを特徴とする核酸分解処理装置。
【請求項3】
上記バイオガス発生部(110)は、メタノール、ホルムアルデヒド、一酸化炭素、二酸化炭素、水素、酸素の成分を少なくとも含有した活性酸素とフリーラジカルからなる複合ラジカルガスを発生することを特徴とする請求項2に記載の核酸分解処理装置。
【請求項4】
上記バイオガス発生部(110)は、上記自己反応温度が400℃~500℃の範囲内に制御されることを特徴とする請求項3記載の核酸分解処理装置。
4.本件審決の理由の要旨
(1)本件審決の理由は、別紙審決書(写し)のとおりである。
その要旨は、請求人(原告)の主張する訂正発明2ないし4に係る無効理由1(本件出願前に頒布された刊行物である甲1(特開2010-51692号公報)を主引用例とする進歩性の欠如)、無効理由2(サポート要件違反)、無効理由3(実施可能要件違反)及び無効理由4(明確性要件違反)は、いずれも理由がないというものである。
(2)本件審決が認定した甲1に記載された発明(以下「甲1発明」という。)、訂正発明2と甲1発明の一致点及び相違点、無効理由1についての判断の要旨は、以下のとおりである。
ア 甲1発明
メタノールタンクから供給されたメタノールを霧状に噴射するノズルを備え、該ノズルを介して噴射されたメタノールを気化してメタノールガスを発生させるメタノールガス発生部と、上記メタノールガス発生部の上方に位置して、熱反射可能な多孔質金属材料で互いに隔てられた上部と下部とからなり、該上部には空気を供給する空気供給部が連結されており、上記メタノールガス発生部から発生したメタノールガスを自然対流により上方に移行させる流路となるとともに、上記メタノールガスに該空気供給部から供給された空気を所定の割合で混合させる筒体部と、上記筒体部の上方に位置し、該筒体部において上記所定の割合で空気が混合したメタノールガスを触媒反応によりラジカル化する触媒部とを有し、上記触媒部は、金属薄板をハニカム構造に成形してなるラジカル反応触媒より構成され、該ラジカル反応触媒を複数積層してなり、空気が混合したメタノールガスを触媒反応によりラジカル化して、MRガスを発生するMRガス発生装置と、上記MRガス発生装置における生成MRガス量を供給空気量とメタノール量で制御する生成MRガス量制御手段と、上記MRガス発生装置から発生したMRガスによって滅菌処理を施す滅菌タンクを備えた滅菌処理装置であって、DNAを破壊することが可能な滅菌処理装置。
イ 訂正発明2と甲1発明の一致点及び相違点
(一致点)
「メタノールタンクから供給されたメタノールを霧状に噴射するノズルを備え、該ノズルを介して噴射されたメタノールを気化してメタノールガスを発生させるメタノールガス発生部と、上記メタノールガス発生部の上方に位置して、熱反射可能な多孔質金属材料で互いに隔てられた上部と下部とからなり、該上部には空気を供給する空気供給部が連結されており、上記メタノールガス発生部から発生したメタノールガスを自然対流により上方に移行させる流路となるとともに、上記メタノールガスに該空気供給部から供給された空気を所定の割合で混合させる筒体部と、上記筒体部の上方に位置し、該筒体部において上記所定の割合で空気が混合したメタノールガスを触媒反応によりラジカル化する触媒部とを有し、上記触媒部は、金属薄板をハニカム構造に成形してなるラジカル反応触媒より構成され、該ラジカル反応触媒を複数積層してなり、空気が混合したメタノールガスを触媒反応によりラジカル化して、MRガスを発生するMRガス発生装置と、上記MRガス発生装置における生成MRガス量を供給空気量とメタノール量で制御する生成MRガス量制御手段と、上記MRガス発生装置から発生したMRガスが供給される滅菌タンクを備えたDNA破壊処理装置。」である点。
(相違点1)
訂正発明2は、滅菌タンク内の温度を制御する温度制御手段と、滅菌タンク内の湿度を制御する湿度制御手段と、滅菌タンクに供給されたMRガスを排気する排気処理部と、上記排気処理部により滅菌タンクから排気するMRガスの排気量を制御するMRガスの排気量制御手段と、滅菌タンクにおけるMRガスのホルムアルデヒド成分の濃度を測定するホルムアルデヒド成分濃度測定手段と、臭いを検出又は測定する手段を備え、上記ホルムアルデヒド成分濃度測定手段による測定結果として得られるガス濃度情報が生成MRガス量制御手段に帰還され、MRガス発生装置において、一定の触媒の自己反応温度と濃度のMRガスとなるように、生成MRガス量制御手段によりMRガス発生装置における生成MRガス量が供給空気量とメタノール量で制御されるとともに、上記排気量制御手段により滅菌タンクから排気するMRガスの排気量を制御することにより、滅菌タンクの庫内ガス濃度を一定にするという構成を備えるのに対し、甲1発明は、かかる構成について記載されていない点。
(相違点2)
訂正発明2は、上記排気量制御手段により制御される排気処理手段による滅菌タンク内のMRガスの排気処理に起因して生じる庫内差圧を検出する庫内差圧検出手段を備え、上記庫内差圧検出手段による検出結果から得られる庫内差圧情報が上記排気量制御手段に帰還され、上記排気量制御手段により滅菌タンクから排気するMRガスの排気量を制御することにより、滅菌タンクの庫内差圧を一定にするという構成を備えるのに対し、甲1発明は、かかる構成について記載されていない点。
ウ 無効理由1についての判断の要旨
本件審決は、無効理由1について、①相違点1の容易想到性は認められるが、相違点2の容易想到性は認められないから、甲1発明に甲2(国際公開第01/026697号の再公表公報)に記載された発明及び周知技術を組み合わせることにより、当業者が訂正発明2を容易に発明をすることができたということはできない、②訂正発明2を引用する訂正発明3、訂正発明3を引用する訂正発明4についても、同様に当業者が容易に発明をすることができたということはできない旨判断した。
5.当事者の主張
1 取消事由1-1(甲1を主引用例とする訂正発明2の進歩性の判断の誤り)について
(1)原告の主張
ア 相違点2の容易想到性の判断の誤り
(ア)訂正発明2の「庫内差圧検出手段」の意義等
本件審決は、①本件明細書の【0143】ないし【0147】の記載事項によれば、訂正発明2の「庫内差圧検出手段」は、「滅菌タンク内がタンク外よりも陰圧であることを検出する庫内差圧検出手段であって、滅菌タンク内のMRガスの排気処理に起因して生じる庫内差圧を検出するものである」と認められる、②滅菌タンク内の圧力は、訂正発明2では、陰圧を維持するように制御するのに対して、甲2には、陽圧を維持するように制御することが記載されており、滅菌タンク内の圧力を陰圧に維持するように滅菌タンクからのMRガスの排気量を制御して、滅菌タンクの庫内差圧を一定にしようとすることは、甲2の記載から導き出せる事項ではないから、甲1発明に甲2に記載された発明を適用しても、相違点2に係る訂正発明2の「庫内差圧検出手段」の構成を当業者が容易に想到することができたということはできない旨判断した。
しかしながら、訂正発明2の特許請求の範囲(請求項2)には、「上記排気量制御手段により制御される排気処理手段による上記暴露部の暴露空間内のバイオガスの排気処理に起因して生じる庫内差圧を検出する庫内差圧検出手段」との記載があるが、「庫内差圧検出手段」とは暴露空間内が「陰圧」であることを検出するものであるとの限定は存在せず、暴露空間内を陰圧に維持するように制御するとの限定も存在しない。
また、「庫内差圧」は、暴露空間内の温度の上昇による空気の体積膨脹や暴露空間へのバイオガス(MRガス)の供給量と暴露空間からのバイオガスの排気量との相対的バランスなどの様々な要因によって生じることは、当業者にとって自明である。例えば、バイオガスの供給量がバイオガスの排気量を上回れば庫内差圧は「陽圧」となる傾向があるのに対し、バイオガスの供給量がバイオガスの排気量を下回れば庫内差圧は「陰圧」となる傾向があり、バイオガス(MRガス)の排気処理は、必ず暴露空間内を「陰圧」とするわけではない。
したがって、請求項2の「庫内差圧」が「上記排気量制御手段により制御される排気処理手段による上記暴露部の暴露空間内のバイオガスの排気処理に起因して生じる」との文言は、「庫内差圧」がバイオガスの排気状況に依存して生じることを意味するに過ぎず、「庫内差圧」が「陰圧」と同義であることを意味するものとはいえないから、本件審決における訂正発明2の「庫内差圧検出手段」の解釈には誤りがある。
以上によれば、本件審決の上記判断は、その前提において、誤りがある。
(イ)甲2の開示事項
甲2の記載事項(14頁11行、15頁26行~16頁9行、16頁18行~26行、17頁13行~15行、図1及び2)によれば、甲2記載の「第2の実施の形態」(図2)は、MRガスの濃度を制御する「第1の実施の形態」に、微差圧検出器56を備えた室圧調整装置6を付加したものであり、微差圧検出器56によって検出されたMRガスによる処理が行われる室内と室外との気圧差の情報に基づいて、この気圧差が一定となるように、室圧調整装置6のコントロールユニット58、排気量調整電磁弁74及び送風機82によってMRガスの排気を制御するものであり、また、MRガスの濃度と上記室内外の気圧差とを同時に一定の値に制御している。
もっとも、甲2記載の「第2の実施の形態」では、MRガスの濃度の制御はホルムアルデヒドガス供給排出装置4の制御器24によって行われ、庫内差圧の制御は室圧調整装置6のコントロールユニット58によって行われ、両制御は別々の装置によって行われているところ、訂正発明2の特許請求の範囲(請求項2)には、庫内ガス濃度の制御と庫内差圧の制御とを同一の装置で行うのか、別の装置で行うのかについて何ら規定されておらず、ましてや両制御を同一の装置で行うとの限定は存在しないこと、本件明細書記載の訂正発明2の実施態様(図1)においても、庫内ガス濃度の制御はバイオガス発生部110で行われる一方で、庫内差圧の制御は排気処理部140で行われており、各制御は別々の装置で実施されていることからすると、「第2の実施の形態」におけるMRガスの濃度と上記室内外の気圧差の制御は、訂正発明2の庫内ガス濃度の制御及び庫内差圧の制御に含まれるというべきである。
そうすると、甲2記載の「微差圧検出器56」、「コントロールユニット58」及び「排気量調整電磁弁74及び送風機82」は、それぞれ、訂正発明2の「庫内差圧検出手段」、「上記庫内差圧検出手段による検出結果から得られる庫内差圧情報が…帰還され」る「上記排気量制御手段」及び「上記排気量制御手段により制御される排気処理手段」に相当するものといえるから、甲2には、相違点2に係る訂正発明2の構成が開示されている。
これに反する本件審決の認定は誤りである。
(ウ)相違点2の容易想到性
本件審決が認定するように、当業者は、甲1発明の滅菌処理装置と甲2記載の殺菌装置は、いずれも同様のガスにより殺菌ないし滅菌を行う装置であると理解し、甲1発明に甲2に記載された技術的事項の適用を試みることに何らの困難性は認められないから、甲1及び甲2に接した当業者は、甲1発明に甲2記載の「第2の実施の形態」に係る技術的事項を組み合わせることにより、相違点2に係る訂正発明2の構成を容易に想到することができたものである。
イ 小括
以上のとおり、本件審決における相違点2の容易想到性の判断には誤りがある。また、相違点1が容易想到であることは本件審決の判断のとおりである。
そうすると、訂正発明2は、甲1発明及び甲2に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、これと異なる本件審決の判断は誤りである。
(2)被告の主張
ア 相違点2の容易想到性の判断の誤りの主張に対し
(ア)訂正発明2の「庫内差圧検出手段」の意義等について
訂正発明2は、「核酸分解処理装置」という機械(装置)の分野に属する発明であり、かつ、訂正発明2の「庫内差圧検出手段」という語は、一般通念としてはもとより、技術概念として定着しているものではない。
したがって、本件審決が、本件明細書の発明の詳細な説明を参酌して、訂正発明2の「庫内差圧検出手段」は、「滅菌タンク内がタンク外よりも陰圧であることを検出する庫内差圧検出手段であって、滅菌タンク内のMRガスの排気処理に起因して生じる庫内差圧を検出するものである」と解釈したことに誤りはない。
このように訂正発明2の「庫内差圧検出手段」は、滅菌タンク内がタンク外よりも陰圧であることを検出するものであるのに対して、甲2記載の微差圧検出器は、滅菌タンク内がタンク外よりも陽圧に維持されていることを検出するものであり、訂正発明2の庫内差圧検出手段と甲2記載の微差圧検出器とは、圧力差の制御手法が正反対のものであるから、甲2記載の微差圧検出器は、訂正発明2の「庫内差圧検出手段」に相当するものとはいえないとした本件審決の認定判断に誤りはない。
また、甲2に、「排気量制御手段により制御される排気処理手段による滅菌タンク内のMRガスの排気処理に起因して生じる庫内差圧を検出する庫内差圧検出手段」についての示唆はないとした本件審決の判断にも誤りはない。
(イ)甲2の開示事項について
本件審決が認定するように、訂正発明2の特許請求の範囲(請求項2)の記載によれば、訂正発明2は、庫内ガス濃度情報を生成MRガス量制御手段に帰還し、当該生成MRガス量制御手段により生成MRガス量を制御し、かつ、排気量制御手段により排気量を制御することにより、滅菌タンクの庫内ガス濃度を一定にし、かつ、庫内差圧情報を排気量制御手段に帰還し、当該排気量制御手段により排気量を制御することにより滅菌タンクの庫内差圧を一定にするという2つの組み合わせた制御、すなわち、庫内ガス濃度情報及び庫内差圧情報という2つの情報を基に、生成ガス量及び排気量を調整し、庫内ガス濃度と庫内差圧の両者を一定にするという制御を行うものである。
これに対し甲2に記載された発明では、MRガスの濃度の制御はホルムアルデヒドガス供給排出装置4側の制御器24で、処理室内外の気圧差の制御は室圧調整装置6側のコントロールユニット58で、別の装置で、別々に制御が行われているから(7頁17行~8頁5行、15頁1行~8行、図2)、庫内ガス濃度と庫内差圧の両者を同時に一定の値にするという制御を行う訂正発明2と構成が異なるものである。
また、甲2には、庫内ガス濃度と庫内差圧の両者を同時に一定の値にするという制御を行うことについて記載も示唆もなく、その技術思想の開示はない。もっとも、甲2には、「なお、上述の第2の実施の形態においては、室圧調整装置6にエアー処理装置76が設けられているが、ホルムアルデヒドガス供給排出装置4の排ガス処理器46を用いてホルムアルデヒドガスの処理を行うことも可能である。」との記載があるが、上記記載は、単に、第2の実施の形態において、ホルムアルデヒドガスの処理をホルムアルデヒドガス供給排出装置4の排ガス処理器46でも行うことができることを記載しているに過ぎず、ホルムアルデヒドガス供給排出装置4側の制御器24により庫内差圧の制御を行うことができることまで示唆するものではない。
したがって、甲2には、相違点2に係る訂正発明2の構成の開示はない。
(ウ)相違点2の容易想到性について
前記(ア)及び(イ)のとおり、甲2には、相違点2に係る訂正発明2の構成の開示はない。
そうすると、当業者は、甲1発明に甲2に記載された発明を適用しても、相違点2に係る訂正発明2の構成を容易に想到することができたものではない。
これと同旨の本件審決の判断に誤りはない。
イ 小括
以上のとおり、本件審決における相違点2の容易想到性の判断に誤りはないから、訂正発明2は、甲1発明に甲2に記載された発明及び周知技術を組み合わせることにより、当業者が容易に発明をすることができたということはできないとした本件審決の判断に誤りはない。
したがって、原告主張の取消事由1-1は理由がない。
2 取消事由1-2(甲1を主引用例とする訂正発明3及び4の進歩性の判断の誤り)について
(1)原告の主張
ア 訂正発明3について
訂正発明2は、甲1発明及び甲2に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであることは、前記1(1)イのとおりである。
訂正発明3は、訂正発明2のバイオガス発生部から発生するガスを、メタノール、ホルムアルデヒド、一酸化炭素、二酸化炭素、水素、酸素の成分を少なくとも含有した活性酸素とフリーラジカルからなる複合ラジカルガスと特定したものである。
しかるところ、甲12の記載事項(【0006】~【0009】)に照らすと、訂正発明2において、空気が混合したメタノールガスを触媒反応によりラジカル化して生成するガスを、訂正発明3のように特定することは、当業者にとって格別の創意を要する事項とは認められない。
したがって、訂正発明3は、甲1発明に甲2及び甲12に記載された発明を組み合わせることにより、当業者が容易に発明をすることができたものである。
イ 訂正発明4について
訂正発明4は、訂正発明3の触媒の自己反応温度が400℃~500℃の範囲内に制御されることを特定したものである。
しかるところ、甲1には「ラジカル化触媒反応の温度を約450~500℃の範囲で変化させることが可能となる。」(【0042】)との記載があるから、上記特定事項は、訂正発明4と甲1発明との相違点ではない。
したがって、訂正発明4は、甲1発明、甲2に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
ウ 小括
以上によれば、訂正発明3及び4は当業者が容易に発明をすることができたということはできないとした本件審決の判断は誤りではある。
(2)被告の主張
前記1(2)イのとおり、訂正発明2は、甲1発明に甲2に記載された発明及び周知技術を組み合わせることにより、当業者が容易に発明をすることができたということはできないから、訂正発明2の発明特定事項を直接又は間接に引用する訂正発明3及び4も、当業者が容易に発明をすることができたということはできない。
したがって、これと同旨の本件審決の判断に誤りはないから、原告主張の取消事由1-2は理由がない。
3 取消事由2(サポート要件の判断の誤り)について
―省略-
4 取消事由3(実施可能要件の判断の誤り)について
-省略-
5 取消事由4(明確性要件の判断の誤り)について
-省略-
6.裁判所の判断
1 取消事由1-1(甲1を主引用例とする訂正発明2の進歩性の判断の誤り)について
(1)本件明細書の記載事項等について
ア 訂正発明2の特許請求の範囲(請求項2)の記載は、前記第2の2のとおりである。
-省略-
イ 前記アの記載事項によれば、本件明細書の発明の詳細な説明には、訂正発明2に関し、次のような開示があることが認められる。
(ア)ラジカル種メタノール由来の気相物質(MRガス)を用いて核酸分解処理を行う従来の方法には、50℃以上の温度領域において、60分以上の暴露時間を要し、かつ、ホルムアルデヒド成分の濃度が2000ppm以上での効果効能が発揮されるものがあったが、現実的な実用としては、常温~体温領域が求められており、かつ、検体の種類に対応した短時間での効果効能を発揮することが求められていたという課題があった(【0009】、【0011】、【0012】)。
(イ)「本発明」は、検体の種類に対応した短時間で高効能を発揮する条件を定義することが可能な核酸分解処理装置を提供することを目的とするものであり(【0013】)、前記課題を解決するための手段として、メタノールガス発生部と、空気が混合したメタノールガスを触媒反応によりラジカル化して少なくともメタノールに由来する活性種を含み生成される複合ガスを発生するバイオガス発生部と、バイオガス発生部における生成ガス量を供給空気量とメタノール量で制御する生成ガス量制御手段と、バイオガス発生部により発生したバイオガスが供給される暴露部と、暴露空間内の温度を制御する手段と、暴露空間内の湿度を制御する手段と、暴露部に供給されたバイオガスを排気する排気処理部と、暴露部からのバイオガスの排気量を制御する手段と、暴露部におけるバイオガスのホルムアルデヒド成分の濃度を測定する手段と、臭いを検出又は測定する手段を備え、ホルムアルデヒド成分濃度測定手段による測定結果として得られるガス濃度情報が生成ガス量制御手段に帰還され、バイオガス発生部において、生成ガス量制御手段により生成ガス量が供給空気量とメタノール量で制御されるとともに、排気量制御手段により暴露部からのバイオガスの排気量を制御することにより、暴露部の庫内ガス濃度を一定にし、上記排気量制御手段により制御される排気処理手段による暴露空間内のバイオガスの排気処理に起因して生じる庫内差圧を検出する手段を備え、庫内差圧検出手段による検出結果から得られる庫内差圧情報が上記排気量制御手段に帰還され、上記排気量制御手段により暴露部からのバイオガスの排気量を制御することにより、暴露部の庫内差圧を一定にする構成(訂正発明2の構成)を採用した(【0017】)。
この構成により、「本発明」は、フィードバック制御により暴露部の暴露空間内における温度、湿度、濃度の定量的制御を行うことができ、検体の種類に対応した短時間で高効能を発揮する条件を定義することができるという効果を奏する(【0021】、【0196】)。
(2)甲1の記載事項について
ア 甲1(特開2010-51692号公報)には、次のような記載がある(下記記載中に引用する「図1、2及び13」については別紙2を参照)。
-省略-
イ 前記アの記載事項によれば、甲1には、次のような開示があることが認められる。
(ア)150~180mm程度の大きさを有する触媒部を備えた、従来のMRガス発生装置では、メタノールガスのラジカル化反応に必要な温度を一定に維持させることが難しく、一定の濃度を有するMRガスを発生させることができなかったため、加熱用の電熱ヒータを備える必要があったが、触媒部は必然的に大きくなってしまい、利便性を高めるためのMRガス発生装置自体の小型化を困難にしていたという問題点があった(【0006】、【0007】)。
(イ)「本発明」は、このような従来の問題点に鑑みて提案されたものであり、ラジカル化のための触媒反応温度を一定に保ち、安定した濃度の滅菌ガスを発生させるとともに、小型化が可能な滅菌ガス発生装置を提供することを目的とする(【0008】)。
本件発明者らは、ハニカム構造を有する触媒を使用することにより、ラジカル化のための触媒反応温度を一定に維持することが可能になることを見出し、「本発明」を完成するに至った(【0009】)。
「本発明」は、金属薄板をハニカム構造に成形してなるラジカル反応触媒を使用する構成を採用したことにより、触媒部における表面積が増加して反応効率が向上し、触媒反応温度を一定に維持した自己反応を生じさせることができ、安定した濃度のMRガスを発生させることができ、さらには、触媒部における反応効率の向上により、触媒部を小型化することができるとともに、滅菌処理装置自体を小型化することを可能にし、利便性を高めるという効果を奏する(【0013】)。
(3)甲2の記載事項について
ア 甲2(国際公開第01/026697号の再公表公報)には、次のような記載がある(下記記載中に引用する「図1及び2」については別紙3を参照)。
-省略-
イ 前記アの記載事項によれば、甲2には、次のような開示があることが認められる。
(ア)ホルムアルデヒドガス殺菌装置において、十分に保証可能な殺菌効果を得るためには、被殺菌空間内のホルムアルデヒドガス濃度、湿度、温度を制御し、また、被殺菌空間は密閉された空間(室)となるため、室内圧力を制御する必要も生じる(前記ア(イ)、(ウ))。
「本発明」は、上記課題を解決するための手段として、密閉された室内にホルムアルデヒドガスを供給すると共に排出するホルムアルデヒドガス供給排出装置と、室内の圧力を調整する室圧調整装置とを備え、ホルムアルデヒドガス供給排出装置は、ホルムアルデヒドガスの発生器と、ホルムアルデヒドガスの湿度調節器と、ホルムアルデヒドガスの温度調節器と、ホルムアルデヒドガスを室内へ搬送して導入するガス搬送器と、室内からの排ガスの処理器と、排ガスの排出器と、室内のホルムアルデヒドガスの濃度、湿度及び温度を所定の濃度、湿度及び温度に制御する制御部とを有し、室圧調整装置は、室内に室外の空気を給気するユニットと、室内の空気を室外に排気するユニットと、室内と室外との圧力差を検出する手段と、これによる検出値に基づいて給気ユニット及び排気ユニットを制御する手段と、前記検出値に基づいて前記室圧の制御状況を出力する手段とを有する構成を採用した(前記ア(エ))。
この構成により、「本発明」は、被殺菌空間内のホルムアルデヒドガス濃度、湿度、温度をそれぞれ所定の値に制御し、かつ、室内温度の上昇により室内の空気が膨張したような場合においても室圧を一定に保つことができるので、十分に保証可能な殺菌効果を得られるという効果を奏する(前記ア(ウ)、(エ)、(サ))。
(イ)「本発明」の第2の実施の形態(図2)は、ホルムアルデヒドガス供給排出装置4及び室圧調整装置6を備えて構成されるホルムアルデヒドガス殺菌装置であり、ホルムアルデヒドガス供給排出装置4は、濃度センサ12、湿度センサ14、温度センサ16により得られた被殺菌空間100内のホルムアルデヒドガス濃度、湿度、温度の値に基づいて、ホルムアルデヒドガス発生器36、温度調節器34、湿度調節器32、ポンプ26及び28を制御する制御器24を備え、また、室圧調整装置6は、室内と室外との圧力差を検出する微差圧検出器56により検出された検出値に基づいて給気ユニット52及び排気ユニット54を制御するコントロールユニット58を備えている(前記ア(オ)ないし(キ))。
第2の実施の形態に係るホルムアルデヒドガス殺菌装置は、「所定時間、室内の温度、湿度、ホルムアルデヒドガスの濃度がそれぞれ温度20~40℃の範囲、湿度50~90%(相対湿度)の範囲、ホルムアルデヒドガス濃度160ppm以上を維持している間」、室圧調整装置6のコントロールユニット58により室内の圧力を陽圧力に維持している(前記ア(ケ))。
(4)相違点2の容易想到性について
ア 訂正発明2の「庫内差圧検出手段」の意義等について
(ア)訂正発明2の特許請求の範囲(請求項2)の記載によれば、訂正発明2の「庫内差圧検出手段」は、「上記排気量制御手段により制御される排気処理手段による上記暴露部の暴露空間内のバイオガスの排気処理に起因して生じる庫内差圧を検出」する検出手段であり、訂正発明2においては、「上記庫内差圧検出手段による検出結果から得られる庫内差圧情報が上記排気量制御手段に帰還され、上記排気量制御手段により上記暴露部から排気するバイオガスの排気量を制御することにより、上記暴露部の庫内差圧を一定にする」ことを理解できる。
また、訂正発明2の特許請求の範囲(請求項2)中の「上記排気処理部により上記暴露部から排気するバイオガスの排気量を制御するバイオガスの排気量制御手段」との文言によれば、訂正発明2の「排気量制御手段」は、「上記排気処理部により上記暴露部から排気するバイオガスの排気量を制御」する制御手段であることを理解できる。
そして、訂正発明2の特許請求の範囲(請求項2)の記載によれば、訂正発明2の核酸分解処理装置は、「暴露部」の「バイオガスのホルムアルデヒド成分の濃度」の「ガス濃度情報」が「生成ガス量制御手段」に帰還され、「上記生成ガス量制御手段」及び「上記排気量制御手段」により「バイオガス発生部」における「生成ガス量」及び「暴露部」から排気する「バイオガスの排気量」を制御することにより、「暴露部」の「庫内ガス濃度」を一定にし、かつ、「庫内差圧情報」が「排気量制御手段」に帰還され、「上記排気量制御手段」により「暴露部から排気するバイオガスの排気量」を制御することにより、「暴露部」の「庫内差圧」を一定にすること、すなわち、「暴露部」の「ガス濃度情報」及び「庫内差圧情報」を基に、「生成ガス量」及び「バイオガスの排気量」を制御し、「暴露部」の「庫内ガス濃度」及び「庫内差圧」の両者を一定にする制御を行うものであることを理解できる。
しかるところ、訂正発明2の特許請求の範囲(請求項2)には、「庫内差圧検出手段」及び「排気量制御手段」の具体的な構造や装置構成について規定した記載はなく、また、「暴露部」の「庫内差圧」をいかなる数値又は数値範囲で一定にするのかについて規定した記載もない。
(イ)次に、本件明細書の発明の詳細な説明には、「本発明」の実施形態として、核酸分解処理装置100の制御部150が、暴露部120に設けられたガス濃度センサ129から供給された暴露空間内のガス濃度情報に基づき、バイオガス発生部110へのエア供給量及びメタノール供給量の制御及び排気処理部140の排気ブロア143の吸入量の制御により、暴露部120の庫内の濃度を一定にする制御を行うとともに、暴露部120に設けられた庫内圧力センサ132から供給された暴露空間内の圧力情報に基づき、排気処理部140の外気導入バルブ142の開閉度及び排気ブロア143の回転数の制御により、陰圧範囲内を目標値とした暴露部120の庫内差圧を一定にする制御を行うことが記載されている(【0028】、【0103】、【0111】、【0140】~【0148】、【0150】、【0161】~【0164】、【0182】、【0183】、図10)。これらの記載は、制御部150により暴露部120の庫内差圧を陰圧の数値範囲に制御することを開示するものと認められる。
他方で、本件明細書の「本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、本発明は以下の例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、任意に変更可能であることは言うまでもない。」(【0026】)との記載に照らすと、本件明細書には、「本発明の要旨を逸脱しない範囲」であれば、「本発明」の実施形態が上記実施形態に限定されるものではないことの開示がある。
しかるところ、本件明細書には、「庫内差圧検出手段」及び「排気量制御手段」を特定の構造や装置構成のものに限定する記載はないし、また、「暴露部」の「庫内差圧を一定にする」にいう「一定」の数値範囲を定義した記載もない。
また、訂正発明2の特許請求の範囲(請求項2)の記載から、訂正発明2の核酸分解処理装置は、「暴露部」の「ガス濃度情報」及び「庫内差圧情報」を基に、「生成ガス量」及び「バイオガスの排気量」を制御し、「暴露部」の「庫内ガス濃度」及び「庫内差圧」の両者を一定にする制御を行うものであることを理解できること(前記(ア))、本件明細書の発明の詳細な説明には、「本発明」は、訂正発明2の構成を採用したことにより、フィードバック制御により暴露部の暴露空間内における温度、湿度、濃度の定量的制御を行うことができ、検体の種類に対応した短時間で高効能を発揮する条件を定義することができるという効果を奏すること(【0021】、【0196】)の開示があること(前記(1)イ(イ))を総合すると、訂正発明2は、フィードバック制御により暴露部の暴露空間内の温度、湿度、「庫内ガス濃度」及び「庫内差圧」の定量的制御を行うことにより、検体の種類に対応した短時間で高効能を発揮する条件を定義することができるようにしたことに技術的意義があることが認められる。
そして、訂正発明2の上記技術的意義に照らすと、「庫内差圧」を陰圧の数値範囲に制御する必然性は見いだし難い。また、本件明細書全体をみても、「庫内差圧」を陰圧の数値範囲に制御することによって、陽圧の数値範囲に制御することと比して有利な効果を生じるなどの技術的意義があることについての記載も示唆もない。
(ウ)以上の訂正発明2の特許請求の範囲(請求項2)の記載及び本件明細書の記載に鑑みると、訂正発明2の「庫内差圧検出手段」の検出の対象となる「庫内差圧」は、「庫内」(暴露部の暴露空間内)の圧力と暴露空間外の圧力との差圧であれば、特定の数値範囲のものに限定されるものではなく、陰圧の数値範囲のものに限定されるものでもないと解すべきである。
したがって、訂正発明2の「庫内差圧検出手段」は、「滅菌タンク内がタンク外よりも陰圧であることを検出する庫内差圧検出手段」であって、滅菌タンク内のMRガスの排気処理に起因して生じる庫内差圧を検出するものであると限定解釈した本件審決の判断は誤りである。
イ 甲2の開示事項について
(ア)前記(3)ア及びイ(イ)の記載事項を総合すると、甲2には、「本発明」の第2の実施の形態(図2)として、①ホルムアルデヒドガス供給排出装置4及び室圧調整装置6を備えて構成されるホルムアルデヒドガス殺菌装置であって、②ホルムアルデヒドガス供給排出装置4は、ホルムアルデヒドガス発生器36、湿度調節器32、温度調節器34、排ガス処理器46、外気を被殺菌空間内に導入するポンプ26、被殺菌空間から外気へ排気するポンプ28、ホルムアルデヒドガス濃度センサ12、湿度センサ14、温度センサ16及び制御器24を備え、制御器24は、上記各センサにより得られた被殺菌空間100内のホルムアルデヒドガス濃度、湿度、温度の値に基づいて、これらの値が所定の値となるように、ホルムアルデヒドガス発生器36、湿度調節器32、温度調節器34、ポンプ26及び28を制御し、③室圧調整装置6は、室内に室外の空気を給気する給気ユニット52、室内の空気を室外に排気する排気ユニット54、室内と室外との圧力差を検出する微差圧検出器56、コントロールユニット58を備え、コントロールユニット58は、微差圧検出器56により検出された検出値に基づいて給気ユニット52及び排気ユニット54を制御し、排気ユニット54には排気量調整電磁弁74及び送風機82が設けられ、室内から排気される空気に含まれるホルムアルデヒドガス等を処理した後に室外に排出することができ、給気ユニット52及び排気ユニット54の上記制御により、室内の圧力を「陽圧力」に維持するものであることが開示されている。
このように、甲2における「本発明」の第2の実施の形態は、ホルムアルデヒドガスの給排気状況に依存して生じる被殺菌空間の室内と室外との圧力差を検出する微差圧検出器56を備え、微差圧検出器56により検出された検出値がコントロールユニット58に帰還(フィードバック)され、コントロールユニット58により被殺菌空間内の室内から室外に排気される空気に含まれるホルムアルデヒドガス等の排気量及び室内に給気する空気の給気量を制御することにより、被殺菌空間の室内の圧力を一定にするという構成を備えるものである。
そうすると、甲2における「本発明」の第2の実施の形態の「微差圧検出器56」、「コントロールユニット58」及び「排気量調整電磁弁74及び送風機82」は、それぞれ、訂正発明2における「庫内差圧検出手段」、「上記庫内差圧検出手段による検出結果から得られる庫内差圧情報が…帰還され」る「上記排気量制御手段」及び「上記排気量制御手段により制御される排気処理手段」に相当するものと認められる。
したがって、甲2には、相違点2に係る訂正発明2の構成が開示されているものと認められる。
(イ)これに対し被告は、①訂正発明2の「庫内差圧検出手段」は、「滅菌タンク内がタンク外よりも陰圧であることを検出する庫内差圧検出手段であって、滅菌タンク内のMRガスの排気処理に起因して生じる庫内差圧を検出するもの」であり、訂正発明2の庫内差圧検出手段と甲2記載の微差圧検出器とは、圧力差の制御手法が正反対のものであるから、甲2記載の微差圧検出器56は、訂正発明2の「庫内差圧検出手段」に相当するものとはいえない、②訂正発明2は、庫内ガス濃度情報及び庫内差圧情報という2つの情報を基に、生成ガス量及び排気量を調整し、庫内ガス濃度と庫内差圧の両者を一定にするという制御を行うものであるのに対し、甲2に記載された発明では、MRガスの濃度の制御はホルムアルデヒドガス供給排出装置4側の制御器24で、処理室内外の気圧差の制御は室圧調整装置6側のコントロールユニット58で、それぞれ別の装置で、別々に制御が行われており、庫内ガス濃度と庫内差圧の両者を同時に一定の値にする制御を行う訂正発明2の「排気量制御手段」と構成が異なるものであるから、甲2には、相違点2に係る訂正発明2の開示はない旨主張する。
しかしながら、上記①の点については、前記ア(ウ)のとおり、訂正発明2の「庫内差圧検出手段」の検出の対象となる「庫内差圧」は、特定の数値範囲のものに限定されるものではなく、陽圧の値のものも含むと解すべきであるから、甲2記載の微差圧検出器56は、訂正発明2の「庫内差圧検出手段」に相当するものと認められる。
次に、上記②の点については、訂正発明2の特許請求の範囲(請求項2)には、訂正発明2の「排気量制御手段」の具体的な構造や装置構成について規定した記載はなく(前記ア(ア))、本件明細書の発明の詳細な説明にも、「排気量制御手段」を特定の構造や装置構成のものに限定する記載はないこと(前記ア(イ))に鑑みると、訂正発明2は、「暴露部」の「ガス濃度情報」及び「庫内差圧情報」を基に、「生成ガス量」及び「バイオガスの排気量」を制御し、「暴露部」の「庫内ガス濃度」及び「庫内差圧」の両者を一定にする制御を行う構成のもの(前記ア(イ))であれば、庫内ガス濃度の制御と庫内差圧の制御を同じ装置で行うものに限られるものではない。また、甲2に記載された第2の実施の形態に係るホルムアルデヒドガス殺菌装置は、「所定時間、室内の温度、湿度、ホルムアルデヒドガスの濃度がそれぞれ温度20~40℃の範囲、湿度50~90%(相対湿度)の範囲、ホルムアルデヒドガス濃度160ppm以上を維持している間」、室圧調整装置6のコントロールユニット58により室内の圧力を陽圧力に維持しているから(前記(3)イ(イ))、甲2には、庫内ガス濃度と庫内差圧の両者を同時に制御することが開示されていると認められる。
したがって、被告の上記主張は、その前提において、採用することができない。
ウ 相違点2の容易想到性の有無について
(ア)前記(2)イ(イ)のとおり、甲1には、ラジカル化のための触媒反応温度を一定に保ち、安定した濃度の滅菌ガスを発生させる滅菌ガス発生装置を提供することを目的とすることについての開示があり、また、前記(3)イ(ア)のとおり、甲2には、甲2記載のホルムアルデヒドガス殺菌装置の構成を採用することにより、被殺菌空間内のホルムアルデヒドガス濃度、湿度、温度をそれぞれ所定の値に制御し、かつ、室内温度の上昇により室内の空気が膨張したような場合においても室圧を一定に保つことができるので、十分に保証可能な殺菌効果を得られるという効果を奏することの開示がある。
そうすると、甲1及び甲2に接した当業者は、甲1発明において安定した濃度の滅菌ガスを発生させるとともに、十分に保証可能な殺菌効果を得るために、甲2記載の被殺菌空間内のホルムアルデヒドガス濃度、湿度、温度をそれぞれ所定の値に制御し、かつ、被殺菌空間の室圧を一定に保つための構成(前記イ(ア))を適用する動機づけがあるものと認められる。
したがって、当業者は、甲1及び甲2に基づいて、甲1発明に甲2記載の上記構成を適用して相違点2に係る訂正発明2の構成を容易に想到することができたものと認められる。
(イ)これに対し被告は、甲2には、相違点2に係る訂正発明2の構成の開示はないから、当業者は、甲1発明に甲2に記載された発明を適用しても、相違点2に係る訂正発明2の構成を容易に想到することができたものではない旨主張する。
しかしながら、前記イ認定のとおり、甲2には相違点2に係る訂正発明2の構成の開示はあるものと認められるから、被告の上記主張は、その前提を欠くものであり、理由がない。
(5)小括
以上のとおり、相違点2に係る訂正発明2の構成は、当業者が容易に想到することができたものと認められる。
したがって、甲1発明に甲2に記載された発明を適用しても、相違点2を当業者が容易に想到することができたということはできないとして、訂正発明2は、当業者が容易に発明をすることができたものではないとした本件審決の判断は誤りであるから、原告主張の取消事由1-1は理由がある。
2 取消事由1-2(甲1を主引用例とする訂正発明3及び4の進歩性の判断の誤り)について
本件審決は、訂正発明3は訂正発明2を引用する発明であり、また、訂正発明4は訂正発明3を引用する発明であるところ、訂正発明2が当業者が容易に発明をすることができたということはできないので、訂正発明3及び4についても当業者が容易に発明をすることができたということはできない旨判断した。
しかしながら、前記1(5)のとおり、本件審決のした訂正発明2の容易想到性の判断に誤りがあるから、訂正発明3及び4の容易想到性を否定した本件審決の上記判断は、その前提を欠くものであって、誤りである。
したがって、原告主張の取消事由1-2は理由がある。