中間材の製造方法

投稿日: 2019/04/02 22:24:16

今日は、平成30年(行ケ)第10032号 特許取消決定取消請求事件について検討します。

 

1.検討結果

(1)本件は特許異議申立で取消決定を受けた特許権者が決定を不服として、特許庁長官を被告として取消決定取消訴訟を起こした事件の判決です。特許異議申立の審理において特許権者は訂正請求しましたが認められず、進歩性欠如等の理由により取り消されました。本件判決では訂正を認めなかった特許庁の判断について審理がされ、その結果特許庁の判断が覆され、再び特許庁で審理されることになりました。

(2)請求項1において複数の訂正箇所がありましたが、特許異議申立では3か所について訂正が認められませんでした。このうち訂正事項4が興味を引きました。原告は、明細書に加工前のリボンの面密度126g/m²、コポリアミドの不織材料1R8D03の3g/m²等の記載があることから、これらの記載をもとに、「不織布又は布材料の総重量(1m²あたり)が中間材の総重量(1m²あたり)(6/132)×100%未満」という内容で訂正請求しました。

(3)おそらく原告にしてみると明細書に記載された面密度等で請求項の内容を限定する訂正では、訂正が認められたとしても権利範囲が狭すぎる、と考え、このような訂正を行ったと思います。つまり特許権者は狭い権利範囲の特許を維持して年金を支払い続けるよりは特許が取り消されるリスクがあっても広い権利範囲の特許維持を目指した方が良い、という判断をしたのだと思います。

(4)その他の訂正事項、特に訂正事項2あたりは外国語明細書を翻訳した明細書ではよくある問題だと思います。やはり言語が異なるとものの構成に関する表現が変わり、それを直訳すると日本語の感覚とは異なってしまいます。この辺は少し緩めに考える必要があるように思います。

(5)訂正がどこまで認められるかは明細書等の内容ごとによるので本判決をもってすぐさま明細書に記載された数値関係から異なる視点の数値関係を導くことが認められるとは限りませんが、参考にはなるものと思います。

2.手続の時系列の整理(特許第5854504号)

 

3.特許請求の範囲

(1)設定登録時(本件訂正前)

【請求項1】

両端部を有すると共に、

両側に面を有し、端部間にてリボンの幅を確定する二つの端部を有する前記リボンを含む、中間材を製造するための方法であって、

前記リボンは、リボンの長さに平行な方向に伸長する強化ストランド又は長繊維を含み、その全長にわたり本質的に一定な所与の幅を有し、

a)リボンの幅がその全長にわたり本質的に一定であるような端部を有するリボンを提供する工程;

b)リボンの各面に不織布又は布材料を適用する工程であって、不織布又は布材料の幅はリボンの幅より広く、その結果、不織布又は布材料はリボンの端部を超えて外側に伸びて、リボンの両側にて各端部に沿って不織布又は布材料がはみ出している工程、

c)リボンの各端部に沿って位置する不織布又は布材料のはみ出し部分に沿って、リボンを封入するように不織布又は布材料を共に接着する工程、及び

d)端部に沿って位置する不織布又は布材料のはみ出し部分を切断し、リボンの端部に切断を及ぼすことなく、はみ出し部分の一部分を除去することで、リボンの幅をその全長にわたり本質的に一定であるように維持する工程であって、不織布又は布材料の総重量が中間材の総重量の15%未満であり、はみ出し部分の切断済み端部が中間材の端部を構成する工程を含む、上記方法。

(2)本件訂正後

【請求項1】

両端部を有すると共に、

両側に面を有し、端部間にてリボンの幅を確定する二つの端部を有する前記リボンを含む、熱硬化性マトリックスを含有する複合材料部品を直接法で製造するための材料である中間材を製造するための方法であって、

前記リボンは、リボンの長さに平行な方向に伸長する強化ストランド又は長繊維を含み、その全長にわたり本質的に一定な所与の幅を有し、

a)拡幅バーを有する拡幅器、次いで複数のストランド又は長繊維に寸法取りをする開口部を規定する寸法取りコームの寸法取り器に、複数のストランド又は長繊維を通過させることによって、複数のストランド又は長繊維間に間隔が存在しないようにし、リボンの幅がその全長にわたり本質的に一定であるような端部を有するリボンを提供する工程;

b)リボンの各面に、加熱により軟化して粘着性を有し、加熱後に冷却されるときリボンの均一な密着を確実にする不織布又は布材料を、予備加熱後に1超から10の圧縮比で適用する工程であって、加熱及び圧縮された不織布又は布材料の幅はリボンの幅より広く、その結果、不織布又は布材料はリボンの端部を超えて外側に伸びて、リボンの両側にて各端部に沿って不織布又は布材料がはみ出している工程、

c)リボンの各端部に沿って位置する不織布又は布材料のはみ出し部分に沿って、リボンを封入するように不織布又は布材料を共に接着する工程、及び

d)工程c)と同時に、端部に沿って位置する不織布又は布材料のはみ出し部分を加熱された切断器で切断し、リボンの端部に切断を及ぼすことなく、はみ出し部分の一部分を除去することで、リボンの幅をその全長にわたり本質的に一定であるように維持する工程であって、不織布又は布材料の総重量(1m²あたり)が中間材の総重量(1m²あたり)(6/132)×100%未満であり、はみ出し部分の切断済み端部が中間材の端部を構成する工程を含む、上記方法。

4.本件決定の理由の要旨

本件決定の理由は、別紙異議の決定書(写し)のとおりである。

その要旨は、下記のとおり本件訂正を認めないとした上で、平成28年10月13日付けの取消理由通知及び平成29年3月31日付けの取消理由通知で通知した取消理由1(外国語書面出願に係る原文新規事項)、取消理由2(サポート要件違反)、取消理由3(明確性要件違反)及び取消理由4(本件優先日前に頒布された刊行物である甲1(特開2004-256961号公報)を主引用例とする進歩性の欠如)は、いずれも理由があるから、本件発明1ないし20に係る本件特許は取り消されるべきであるというものである。

                                                    記

(1)訂正事項

本件訂正は、訂正事項1ないし28からなり、このうち、訂正事項2ないし4、20、23及び24の内容は、以下のとおりである(甲26)。

ア 訂正事項2

請求項1の「a)リボンの幅がその全長にわたり本質的に一定であるような端部を有するリボンを提供する工程」を、本件訂正後の請求項1の「a)拡幅バーを有する拡幅器、次いで複数のストランド又は長繊維に寸法取りをする開口部を規定する寸法取りコームの寸法取り器に、複数のストランド又は長繊維を通過させることによって、複数のストランド又は長繊維間に間隔が存在しないようにし、リボンの幅がその全長にわたり本質的に一定であるような端部を有するリボンを提供する工程」に訂正(以下、このうち、本件訂正後の請求項1の「複数のストランド又は長繊維間に間隔が存在しない」という事項を「事項A」という場合がある。)。

イ 訂正事項3

請求項1の「b)リボンの各面に不織布又は布材料を適用する工程であって、不織布又は布材料の幅はリボンの幅より広く、その結果、不織布又は布材料はリボンの端部を超えて外側に伸びて、リボンの両側にて各端部に沿って不織布又は布材料がはみ出している工程」を、本件訂正後の請求項1の「b)リボンの各面に、加熱により軟化して粘着性を有し、加熱後に冷却されるときリボンの均一な密着を確実にする不織布又は布材料を、予備加熱後に1超から10の圧縮比で適用する工程であって、加熱及び圧縮された不織布又は布材料の幅はリボンの幅より広く、その結果、不織布又は布材料はリボンの端部を超えて外側に伸びて、リボンの両側にて各端部に沿って不織布又は布材料がはみ出している工程」に訂正(以下、このうち、本件訂正後の請求項1の「布材料を…1超から10の圧縮比で適用する工程」という事項を「事項B」という場合がある。)。

ウ 訂正事項4

請求項1の「d)端部に沿って位置する不織布又は布材料のはみ出し部分を切断し、リボンの端部に切断を及ぼすことなく、はみ出し部分の一部分を除去することで、リボンの幅をその全長にわたり本質的に一定であるように維持する工程であって、不織布又は布材料の総重量が中間材の総重量の15%未満であり、はみ出し部分の切断済み端部が中間材の端部を構成する工程」を、本件訂正後の請求項1の「d)工程c)と同時に、端部に沿って位置する不織布又は布材料のはみ出し部分を加熱された切断器で切断し、リボンの端部に切断を及ぼすことなく、はみ出し部分の一部分を除去することで、リボンの幅をその全長にわたり本質的に一定であるように維持する工程であって、不織布又は布材料の総重量(1m²あたり)が中間材の総重量(1m²あたり)(6/132)×100%未満であり、はみ出し部分の切断済み端部が中間材の端部を構成する工程」に訂正(以下、このうち、本件訂正後の請求項1の「不織布又は布材料の総重量(1m²あたり)が中間材の総重量(1m²あたり)の(6/132)×100%未満であり」という事項を「事項C」という場合がある。)。

エ 訂正事項20

-省略-

オ 訂正事項23

-省略-

カ 訂正事項24

-省略-

(2)訂正の適否についての判断の要旨

本件決定は、訂正事項2ないし4、20、23及び24による訂正は、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、これらを併せて「本件特許明細書等」といい、また、明細書及び図面を併せて「本件明細書」という。)に記載した事項の範囲内においてしたものではなく、新規事項の追加に当たり、特許法120条の5第9項において読み替えて準用する同法126条5項の規定に適合しないこと、訂正事項1~20による本件訂正は、本件訂正後の請求項1~16及び21に係る一群の請求項を訂正するものであり、訂正事項21~28による本件訂正は本件訂正後の請求項17~20に係る一群の請求項を訂正するものであることからすると、その他の訂正事項の適否にかかわらず、請求項1~16及び21に係る一群の請求項の訂正並びに請求項17~20に係る一群の請求項の訂正を認めることはできない旨判断した。

5.当事者の主張

1 取消事由1(訂正要件の判断の誤り)について

(1)原告の主張

ア 訂正事項2に係る訂正の判断の誤り

(ア)本件決定は、本件特許明細書等の記載を総合しても、訂正事項2に係る「複数のストランド又は長繊維間に間隔が存在しない」という事項(事項A)を導くことができるとはいえないから、訂正事項2(請求項1)に係る訂正は、新規事項の追加に当たり、訂正要件に適合しない旨判断した。

しかしながら、本件明細書の【0027】には、「複数の長繊維」がリボンの材料となる場合と「複数のストランド」がリボンの材料となる場合があることが記載されており、この記載は、【0012】の記載とも整合する。

そして、本件明細書の【0028】には、リボンが「複数のストランド」を材料とする場合に、その材料となるストランドが接近して配置されることが記載され、それに続けて、リボンの材料となる「複数の長繊維」及び「複数のストランド」中の間隔(英語で「gap」)を最小にしさらに回避すること、つまり、「複数の長繊維」及び「複数のストランド」中の間隔を存在しない状態とすることが開示されている。

このように、本件明細書には、事項Aが明示されているから、事項Aの導入は新規事項の追加に当たるということはできない。

したがって、本件決定の上記判断は誤りである。

(イ)被告は、本件明細書【0031】の「層の内側のストランド間に緩い空間が存在しない。」という表現によれば、複数のストランド間には「緩くない空間(狭い空間)が存在」する場合を排除するものではなく、また、図7には、「複数のストランド」が十分な間隔を置いて配置されていることが示されているから、本件明細書に事項Aの開示はない旨主張する。

しかしながら、本件明細書【0031】の「緩い空間」との表現は、単に「空間」を表現したものであり、同段落が「緩くない空間(狭い空間)」の存在を示唆するものとはいえないし、甲7は、「複数のリボン」を同時に作製する様子を示した図であり、図示されているのは、「複数のリボン」であって、「複数のストランド」ではない。

したがって、被告の上記主張は理由がない。

イ 訂正事項3に係る訂正の判断の誤り

本件決定は、本件特許明細書等の記載を総合しても、訂正事項3に係る「布材料を…1超から10の圧縮比で適用する工程」という事項(事項B)を導くことができるとはいえないから、訂正事項3(請求項1)に係る訂正は、新規事項の追加に当たり、訂正要件に適合しない旨判断した。

しかしながら、本件明細書の【0033】は、「ポリマー接着剤が布又は不織布、特に熱可塑性材料の場合」の記載から始まるから、ポリマー接着剤が熱可塑性の布又は不織布の場合について述べた段落であると理解できる。そして、その後の「不織布をリボンとの結合に先立って加熱段階にかけて、ポリマーを軟化及びさらに融解させる」との記載は、「軟化及びさらに融解させる」対象が「ポリマー」であることを明示している。熱可塑性の「ポリマー」製であれば、必ずしも不織布である必要はなく、熱可塑性の布材料についても同段落の内容が妥当することは、当業者にとって自明であり、熱可塑性の「ポリマー」製の不織布又は布材料を適宜の圧縮比で適用することは技術常識である。

また、本件明細書において、「布材料」という用語又は「布」という用語が単独で使用されることはなく、常に「不織布又は布」、「布若しくは不織布」等の表現で使用されており、「布材料」が「不織布」と相互に適宜交換可能なものであることが本件明細書全体から読み取れる(請求項1、2、9、11ないし14及び17、【0007】、【0014】、【0015】、【0032】、【0033】)。

このように事項Bは、本件明細書の【0033】の段落全体から読み取ることができ、少なくとも本件明細書の全ての記載を総合するときに容易に導くことができる事項であるから、本件明細書には、事項Bが開示されている。

したがって、事項Bの導入は新規事項の追加に当たるということはできないから、本件決定の上記判断は誤りである。

ウ 訂正事項4に係る訂正の判断の誤り

本件決定は、本件特許明細書等の記載を総合しても、訂正事項4に係る「不織布又は布材料の総重量(1m²あたり)が中間材の総重量(1m²あたり)の(6/132)×100%未満であり」という事項(事項C)を導くことができるとはいえないから、訂正事項4(請求項1)に係る訂正は、新規事項の追加に当たり、訂正要件に適合しない旨判断した。

しかしながら、本件明細書の【0062】の記載から、加工前のリボンの面密度は、「126g/m²」であることが分かり、不織布の面密度については、【0052】に「3g/m²」の「コポリアミドの不織材料1R8D03」との開示がある。

そして、本件明細書の「この本質的に一定な幅により、本件特許に係る発明によるリボンは、面密度のばらつきも非常に小さいことを示す。」(【0019】)との記載に照らすと、本件発明1により得られるリボンの面密度のばらつきは非常に小さいことが分かる。

そうすると、リボン(一方向シート)と不織布がサンドイッチ状となった本件発明1により得られるリボンの面密度は、加工前のリボンの面密度と不織布の面密度両面分を加算した値となり、不織布の適用前後において厚みが変化しない場合(不織布を圧縮比1で適用した場合)、「126g/m²の一方向シートと2つの不織材料(注:3g/m²)を結合させたリボン」の面密度は、「126g/m²+(2面×3g/m²)=132g/m²」となることが自明である。

また、不織布を1超から10の圧縮比で適用するとき、適用後における不織布の厚みは圧縮されて当初よりも薄くなり、加工後のリボンにおける不織布の面密度は、最初の面密度である3g/m²未満の値となることは明らかであるから、不織布を1超から10の圧縮比で適用した場合に、不織布の総重量(1m²あたり)の中間材の総重量(1m²あたり)に対する百分率が「(6/132)×100%未満」の値となることは自明である。

さらに、本件明細書の【0062】の実施例では1本のストランドが用いられているが、事項Cは、ポリマー接着剤である不織布又は布材料の1m²あたりの総重量と中間材の1m²あたりの総重量との割合に関するものであり、この割合がリボンの材料が「複数の長繊維」(1本のストランド)であるか、「複数のストランド」であるかによって影響を受けないことも自明である。

以上によれば、事項Cは、本件明細書の【0062】の実施例の記載を含む本件明細書の全ての記載を総合するときに容易に導くことができる事項であるから、本件明細書には、事項Cが開示されている。

したがって、事項Cの導入は新規事項の追加に当たるということはできないから、本件決定の上記判断は誤りである。

エ 小括

以上のとおり、訂正事項2ないし4に係る訂正は、新規事項の追加に当たるものではないから、訂正要件に適合し、訂正事項2ないし4を含む訂正事項20、23及び24も、これと同様に、訂正要件に適合する。

したがって、本件訂正を認めなかった本件決定の判断は誤りである。

(2)被告の主張

ア 訂正事項2に係る訂正について

本件明細書には、「拡幅器、次いで寸法取り器に、複数のストランドを通過させる」ことで「複数のストランド又は長繊維間に間隔が存在しない」ようにすることについての直接的ないし明示的な記載は存在しない。

一方、本件明細書の【0031】には、「寸法取り段階は…図7に示すように、並行して複数のリボンを作製する場合における、複数のストランドに寸法取りをする開口部を規定する寸法取りコームの寸法取り器上で、層又はストランドを通過させることによって行われる。」との記載があり、図7には、複数の「ストランド1」が十分な間隔を置いて配置されていることが図示されている。

また、本件明細書の【0039】には、「複数のリボンを同時に製造することも同様に可能であり、その場合、リボンを構成する各ストランド又はストランドの集合体は、必要ならば拡幅され、個々に寸法取りがなされ、切断を可能にするために各ストランド間に十分な間隔を置き、異なるリボンが互いに間隔をあけて配列される。ストランドと間隔を覆う単一の不織材料が、次に、図8に示すように、リボンの各面上で全てのリボンと結合される。」との記載があり、図8には、複数の「ストランド1」の間に間隔が存在することが図示されている。

このように、本件明細書において「複数のストランド」を通過させる「寸法取り器」に相当する構成は、【0039】及び図7に示されているものにほかならない。

もっとも、本件明細書の【0028】には、①「リボン」が複数のストランドの一方向層から成る場合について、各「ストランド」が「接近して配置される」こと、②「リボン作製の前に、幅の標準偏差が最小で、一方向層の全幅を一定にするように調整する場合、層の幅は、材料中のいかなる間隔(英語で「gap」)又は重なり部分(英語で「overlap」)をも最小にし、さらに回避することによって調整」されることが記載されているが、上記①は、【0038】の複数の「ストランド1」の間に、図7に示されるような間隔が存在することについて述べたものであり、上記②は、「リボンの作製前」に「層の幅」を調整する場合の「材料中の間隔」を記述するものであるから、上記①及び②の記載は、「複数のストランド又は長繊維」について「間隔が存在しない」ことの根拠となるものではない。

また、【0028】の「いかなる間隔(英語で「gap」)をも回避する」との記載は、日本語表現として「隙間(すきま)を回避する」ということを意味するに過ぎないから、事項Aの「間隔が存在しない」という事項が記載されていることの根拠となるものではない。

さらに、【0031】中の「緩い空間が存在しない」という日本語表現の内容は、緩い空間以外の空間の存在を排除するものではなく、しかも、日本語の一般的な表現として「緩い空間」が「間隔」と同義であるともいえないから、【0031】の記載は、事項Aの記載の根拠になるものではない。

したがって、本件特許明細書等の記載を総合しても、事項Aを導くことができるとはいえず、訂正事項2(請求項1)に係る訂正は、新規事項の追加に当たるから、訂正要件に適合しないとした本件決定の判断に誤りはない。

イ 訂正事項3に係る訂正について

本件明細書の【0033】には、「熱圧着の段階」を「不織材料の溶融温度の-15℃から+60℃の範囲の温度及び0.1から0.6MPaの圧力下」で行う結果、不織布について圧縮比を1から10に達成できることが記載されているが、布については、そのような圧縮比が達成できることについての記載はない。

また、不織布は、大きな繊維間距離を確保した嵩高な構造を有しているため(乙2の【0015】、図3)、所定の圧力で圧縮された場合に容易に広がることができ、また、容易に圧縮可能な構造を持つのに対し、布材料は、経糸と緯糸が密に織り込まれた構造を有しており(乙3の【0023】、図2)、繊維間に緩い空間が存在しないため、不織布と比べて圧縮されにくい構造であることは技術常識である。かかる技術常識に鑑みると、当業者は、本件明細書の【0033】の上記記載が専ら不織布に向けられているものと認識するものといえる。

このような材質の布材料について、「予備加熱後に1超から10の圧縮比」で適用する工程を達成できるものであること(事項B)が本件明細書に記載されているとはいえない。

したがって、本件特許明細書等の記載を総合しても、事項Bを導くことができるとはいえず、訂正事項3(請求項1)に係る訂正は、新規事項の追加に当たるから、訂正要件に適合しないとした本件決定の判断に誤りはない。

ウ 訂正事項4に係る訂正について

(ア)本件特許明細書等には、「接着剤の総重量が得られるリボンの総重量の15%未満である」(【0012】)との記載があるが、1m²当たりの総重量に基づく重量百分率を用いた数値範囲については、明示的な記載はなく、「(6/132)×100%未満」という数式で表現される数値範囲を明示する記載もない。

本件明細書の実施例(【0062】)の記載から、当該実施例のリボンが、1本のストランドと2つの不織材料を結合させて構成されており、そのストランドが「126g/m²」であり、2つの不織材料がそれぞれ「3g/m²」のものであることが読み取れるものの、本件発明1に係るリボンの「不織布又は布材料」と「中間材」の1m²あたりの総重量の比が「(6/132)×100%」未満という数値範囲を満たすものであることまで導き出せるものではない。

また、【0062】の実施例は、1本のストランドについてのものであるから、本件訂正後の請求項1の「複数のストランド」における数値範囲の根拠となるものではない。

さらに、【0062】の記載は、圧縮後の不織布の面密度を開示するものではなく、圧縮後に切断除去されるはみ出し部分の不織布又は布材料の重量は明らかにされていないことからすると、中間材の総重量や不織布又は布材料の総重量を具体的に計算できる程度に十分に記載されているものとはいえない。

(イ)以上のとおり、本件特許明細書等のすべての記載を精査しても、事項Cの「不織布又は布材料の総重量(1m2あたり)が中間材の総重量(1m2あたり)の(6/132)×100%未満であり」という重量百分率について、その「(6/132)×100%」という上限値未満の連続的な数値範囲を導き出し得る根拠となる記載は見当たらない。

したがって、本件特許明細書等の記載を総合しても、事項Cを導くことができるとはいえず、訂正事項4(請求項1)に係る訂正は、新規事項の追加に当たるから、訂正要件に適合しないとした本件決定の判断に誤りはない。

エ 小括

以上によれば、訂正事項2ないし4に係る訂正は、新規事項の追加に当たり、訂正要件に適合しないとした本件決定の判断に誤りはない。訂正事項2ないし4を含む訂正事項20、23及び24も、これと同様に、訂正要件に適合しないとした本件決定の判断に誤りはない。

したがって、請求項1~16及び21に係る一群の請求項の訂正並びに請求項17~20に係る一群の請求項の訂正を認めることはできないとした本件決定の判断に誤りはないから、原告主張の取消事由1は理由がない。

2 取消事由2-1(甲1を主引用例とする本件発明1の進歩性の判断の誤り)について

-省略-

3 取消事由2-2(甲1を主引用例とする本件発明2ないし16の進歩性の判断の誤り)について

-省略-

4 取消事由2-3(甲1を主引用例とする本件発明17の進歩性の判断の誤り)について

-省略-

5 取消事由2-4(甲1を主引用例とする本件発明18ないし20の進歩性の判断の誤り)について

-省略-

6 取消事由3(外国語書面出願に係る原文新規事項の判断の誤り)について

-省略-

7 取消事由4(サポート要件の判断の誤り)について

-省略-

8 取消事由5(明確性要件の判断の誤り)について

-省略-

6.裁判所の判断

1 取消事由1(訂正要件の判断の誤り)について

(1)本件明細書の記載事項等について

ア 本件発明1の特許請求の範囲(請求項1)の記載は、前記第2の2(1)のとおりである。

-省略-

イ 前記アの記載事項によれば、本件明細書の発明の詳細な説明には、本件発明1に関し、次のような開示があることが認められる。

(ア)自動車、航空又は造船産業で使用される「複合材料部品」は、1つ又は複数の強化材又は繊維層と、熱可塑性樹脂を含めることができる主として熱硬化性マトリックス(「樹脂」)とを含有し、機械的特性に関して非常に厳密な要件が求められており、2つの隣接する強化材の材料間隔又は重なり部分をできる限り回避するため、規則的な構造を有し、特に幅のばらつきの少ない一方向材料に対する需要がある(【0001】~【0006】)。

しかるところ、1つ又は複数の繊維強化材が「乾燥」状態(すなわち最終マトリックスが無い状態)で調製され、樹脂又はマトリックスが、別に調製されて、「複合材料部品」を作製する「直接法」の技術分野では、従来、強化材として、一方向の強化ストランドに対して横断して伸びる熱可塑性の接着ストランド又はガラス/熱可塑性織布若しくは不織布によってストランド間の密着を確実なものにするリボンが提案されているが、これらのリボンに関しては、ストランド間の接着は接着点だけに限定され、強化繊維間で緩くなる結果として、接着ストランド間に大きな幅のばらつきが存在し、また、所望の幅を得るために、そのような一方向層を強化ストランドの方向に対して平行に切断した場合、切断した端部がきれいに揃っておらず、長繊維の断片でほつれており、束の作製などの後続のプロセスに非常に不便であるという問題があった(【0002】、【0007】~【0009】)。

(イ)「本発明」は、材料の損失を限定しながら、1つ又は複数のストランドから複合材料部品を製造する直接法に適合し、一貫性の高い所与の幅を有する一方向層を達成する方法を提供すること及び主要な方向に沿って切断された繊維のない一方向層を製造する方法を提供することを目的とし、上記課題を解決するための手段として、「a)寸法取り器により、リボンの幅を所望の幅に調整するステップ」及び「b)その各面上で、リボンをポリマー接着剤と結合して、リボンの均一な密着を確実にし、その結果、接着剤の総重量が得られるリボンの総重量の15%未満となるステップ」を含むことを特徴とする方法を採用した(【0010】~【0012】)。

これにより、「本発明」は、材料の長さに平行な方向に沿って伸長する単一の強化ストランド又は複数の強化ストランドから材料の所与の幅を作製することが可能になり、全長にわたり幅のばらつきが非常に小さく、面密度のばらつきも非常に小さいリボンが得られるという効果を奏する(【0017】~【0019】)。

(2)訂正の適否について

ア 訂正事項2に係る訂正について

(ア)訂正事項2は、請求項1の「a)リボンの幅がその全長にわたり本質的に一定であるような端部を有するリボンを提供する工程」を、本件訂正後の請求項1の「a)拡幅バーを有する拡幅器、次いで複数のストランド又は長繊維に寸法取りをする開口部を規定する寸法取りコームの寸法取り器に、複数のストランド又は長繊維を通過させることによって、複数のストランド又は長繊維間に間隔が存在しないようにし、リボンの幅がその全長にわたり本質的に一定であるような端部を有するリボンを提供する工程」に訂正するものである。

本件決定は、本件特許明細書等には、本件訂正後の請求項1の「複数のストランド又は長繊維間に間隔が存在しない」という事項(事項A)についての直接的ないし明示的な記載がなく、この事項が具体的にどのような技術的事項を意図しているのかを明確に把握するために必要な記載も見当たらないため、本件特許明細書等の記載を総合しても、事項Aを導くことができるとはいえないから、訂正事項2に係る訂正は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものとは認められず、新規事項の追加に当たり、訂正要件に適合しない旨判断した。

(イ)そこで検討するに、本件明細書には、①「本発明」の「リボン」は、1つ又は複数のストランドから成り、1つのストランドから成る場合は、リボンの幅に平行に伸長する長繊維の集合体から成り、複数のストランドから成る場合は、「所与の幅の層を製造するために寸法取りされる」ストランドの集合体(各々が長繊維の集合体から成る)から成ること(【0027】、【0028】、【0030】、図1及び2)、②「一般に、炭素ストランドの場合、1、000から80、000本の長繊維を含み、12、000から24、000本の長繊維を含むのが有利である」こと(【0029】)、③「特に、リボンが複数のストランドの一方向層から成る場合、ストランドは、接近して配置」され、「リボン作製の前に、幅の標準偏差が最小で、一方向層の全幅を一定にするように調整する場合、層の幅は、材料中のいかなる間隔(英語で「gap」)又は重なり部分(英語で「overlap」)をも最小にし、さらに回避することによって調整する」こと(【0028】)、④「ストランド(単数又は複数)」は、「寸法合わせの段階」の前に拡幅器によって幅が拡幅され(【0030】、図6)、「寸法取り段階」(寸法合わせの段階)では、「所与の幅の開口部、特に、ローラーに切れ込む平底の溝の形状にある開口部とすることができる寸法取り器」、又は「1つ又は複数のストランドをベースにした単一のリボンの場合における、2個の歯の間の開口部の寸法取り器」、又は「図7に示すように、並行して複数のリボンを作製する場合における、複数のストランドに寸法取りをする開口部を規定する寸法取りコームの寸法取り器」上で、「層又はストランドを通過させることによって行われ」ること(【0031】、図7)、⑤「複数のストランドからなる層を作製する場合、実際、厳密に言えば、層の幅の寸法取りは外側の2本のストランド上においてのみ行われ、他のストランドは拡幅ユニットの前方に配置されたコームにより案内され、その結果、層の内側のストランド間に緩い空間が存在しない」こと(【0031】)、⑥「炭素ストランド又は複数のストランド1は、クリール101に装着された炭素スプール100から巻き戻され、コーム102を通過し、ガイドローラー103によって機械の軸中に誘導」され、「炭素ストランドは、次に、加熱バー11及び拡幅バー12により拡幅され、次に、寸法取り器で寸法取りをされ、所望の幅を有する一方向層が得られる」こと(【0038】、図5)の記載がある。

これらの記載事項によれば、本件明細書には、「本発明」の実施の形態として、1つのストランド(長繊維の集合体)又は複数のストランド(各々が長繊維の集合体)から成る「リボン」を作製するに当たり、1つ又は複数のストランドを、拡幅バーにより幅を拡幅し、次いで、拡幅したストランドを所与の幅の開口部を規定する寸法取り器(ローラーに切れ込む平底の溝を有する寸法取り器、寸法取りコーム、又は2個の歯を有する寸法取り器)上を通過させることによって、所望の幅を有する一方向層が得られること、これにより一方向層の層の幅は、材料中のいかなる間隔又は重なり部分をも最小にし、さらに回避することによって調整することができ、その結果、層の内側のストランド間に緩い空間が存在しないことの開示があることが認められる。

そして、複数のストランドの集合体(各々が長繊維の集合体)が、「接近して配置され、間隔又は重なり部分をも最小にし、さらに回避する」とは、「間隔が存在しない」ことと同義であると解されるから、「複数のストランド又は長繊維間に間隔が存在しない」ようにして、「複数のストランド又は長繊維」を所望の幅に作製しているものと理解することができる。

そうすると、訂正事項2に係る訂正は、本件明細書のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではないものと認められるから、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものというべきである。

したがって、これと異なる本件決定の判断は誤りである。

(ウ)これに対し被告は、①本件明細書には、「拡幅器、次いで寸法取り器に、複数のストランドを通過させる」ことで「複数のストランド又は長繊維間に間隔が存在しない」ようにするという事項についての直接的ないし明示的な記載は存在しない、②本件明細書において「複数のストランド」を通過させる「寸法取り器」に相当する構成は、【0039】及び図7に示されているものにほかならず、これら複数のストランドの間には間隔が存在する、③本件明細書の【0028】の記載は、「複数のストランド又は長繊維」について「間隔が存在しない」ことを記載するものではないため、本件特許明細書等の記載を総合しても、事項Aを導くことができるとはいえず、訂正事項2(請求項1)に係る訂正は、新規事項の追加に当たる旨主張する。

しかしながら、上記①の点については、本件明細書に直接的な記載はないが、前記(イ)のとおり、複数のストランドの集合体(各々が長繊維の集合体)が、「接近して配置され、間隔又は重なり部分をも最小にし、さらに回避する」とは、「間隔が存在しない」ことと同義であると解されるから、「複数のストランド又は長繊維間に間隔が存在しない」ことについての開示があるものと認められる。

次に、上記②の点についてみると、図7は、「単一のストランドをベースにして複数のリボンを同時に作製する場合」(【0025】)を示した図であり、図示されているのは、「単一のストランドから成る複数のリボン」であって、複数のストランドではないから、複数のストランドの間に間隔が存在することを示すものではない。

また、本件明細書の【0039】の「複数のリボンを同時に製造することも同様に可能であり、その場合、リボンを構成する各ストランド又はストランドの集合体は、必要ならば拡幅され、個々に寸法取りがなされ、切断を可能にするために各ストランド間に十分な間隔を置き、異なるリボンが互いに間隔をあけて配列される。ストランドと間隔を覆う単一の不織材料が、次に、図8に示すように、リボンの各面上で全てのリボンと結合される。次に、図8に示したような機器、及び平行で、リボンの幅ごとに間隔をあけられ片寄らされた切断器120の複数(図示した例では2つ)のラインを用いて、切断間に不織材料の屑を生じることなく各リボンの間で切断を優先的に行うことができる。」との記載中の「各ストランド間に十分な間隔を置き」とは、複数のリボンを同時に製造する場合に、複数のラインを用いて各リボンと結合した不織材料の切断を可能にするために、各リボンが互いに間隔をあけて配列されることを意味するものであり、リボンを構成するストランドそのものについて述べたものではない。

さらに、上記③の点については、前記(イ)のとおり、本件明細書の【0028】の記載は、リボンが複数のストランドの一方向層から成る場合に、当該ストランドが接近して配置され、リボン作製の前に、ストランド間の間隔が存在しないように調整することが記載されているものと認められる。

したがって、被告の上記主張は採用することができない。

イ 訂正事項3に係る訂正について

(ア)訂正事項3は、請求項1の「b)リボンの各面に不織布又は布材料を適用する工程であって、不織布又は布材料の幅はリボンの幅より広く、その結果、不織布又は布材料はリボンの端部を超えて外側に伸びて、リボンの両側にて各端部に沿って不織布又は布材料がはみ出している工程」を、本件訂正後の請求項1の「b)リボンの各面に、加熱により軟化して粘着性を有し、加熱後に冷却されるときリボンの均一な密着を確実にする不織布又は布材料を、予備加熱後に1超から10の圧縮比で適用する工程であって、加熱及び圧縮された不織布又は布材料の幅はリボンの幅より広く、その結果、不織布又は布材料はリボンの端部を超えて外側に伸びて、リボンの両側にて各端部に沿って不織布又は布材料がはみ出している工程」に訂正するものである。

本件決定は、本件訂正後の請求項1に導入された「予備加熱後に1超から10の圧縮比」で適用する工程は、本件明細書の記載(【0033】)にあるとおり、「不織布」に関してのみ達成することができる工程として認識されるものであり、本件訂正後の請求項1に記載された「不織布又は布材料」のうち「布材料」(特に熱可塑性材料でないもの)については、「予備加熱後に1超から10の圧縮比」という圧縮比で適用する工程を達成できるものとして本件特許明細書等に記載されていないことは明らかであり、また、不織布に関する圧縮比を布材料にも適用することが明らかであるとする技術常識もないから、本件特許明細書等の記載を総合しても、「布材料を…1超から10の圧縮比で適用する工程」という事項(事項B)を導くことができるとはいえないから、訂正事項3に係る訂正は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものとは認められず、新規事項の追加に当たり、訂正要件に適合しない旨判断した。

(イ)そこで検討するに、本件明細書には、①「ポリマー接着剤と一方向リボンの間の接着は、ポリマー接着剤の高温で粘着性である性質を利用して加熱し、その後冷却することにより達成される。」(【0045】)、②「ポリマー接着剤が布又は不織布、特に熱可塑性材料の場合、寸法取り器の出口において得られた寸法取りされた一方向層は、例えばローラーで駆動するコンベヤーベルト上で、この各面上で熱可塑性布又は不織布と結合する。寸法取り器の出口と、層をポリマー接着剤に結合する機器(図示した例におけるコンベヤーベルト)の間の距離は、得られた寸法取りを保持するために、およそ数ミリメートルの非常に短い距離となることが好ましい。冷却後にストランド又は長繊維とのこれらの接着を可能にするためには、不織布をリボンとの結合に先立って加熱段階にかけて、ポリマーを軟化及びさらに融解させる。不織布の幅は、一方向層の両側を超えて広がるように選択される。加熱及び圧力条件を、不織布を構成する材料及びこの厚さに適合させる。ほとんどの場合、熱圧着の段階は、Tf nonwoven-15℃からTf nonwoven+60℃の範囲の温度(Tf nonwovenは、不織材料の融解温度を表す)及び0.1から0.6MPaの圧力下で行われる。したがって、結合の前後で、不織布に関して圧縮比を1から10に達成することができる」(【0033】)との記載がある。

これらの記載事項から、ポリマー接着剤と「一方向リボン」(一方向層)の間の接着は、ポリマー接着剤の高温で粘着性である性質を利用して加熱し、その後冷却することにより達成されるものであり、ポリマー接着剤としては、「布又は不織布、特に熱可塑性材料の場合」があること、「寸法取りされた一方向層」は、「例えばローラーで駆動するコンベヤーベルト上」で、「熱可塑性布又は不織布」と結合すること、冷却後にストランド又は長繊維とのこれらの接着を可能にするためには、「不織布」をリボンとの結合に先立って加熱段階にかけて、ポリマーを軟化及びさらに融解させること、熱圧着の段階で、加熱及び圧力条件を、「不織布」を構成する材料及び厚さに適合させることにより、結合の前後で、「不織布」に関して圧縮比を1から10に達成することができることの開示があることが認められる。

上記開示事項によれば、「不織布」に関して、「結合の前後で、圧縮比を1から10に達成することができる」のは、熱可塑性材料のポリマー接着剤である「不織布」における加熱段階にかけてのポリマーの軟化及び融解という性質に基づくものと理解できるから、ポリマー接着剤が「熱可塑性布」である場合においても、これと同様に、加熱段階にかけて、ポリマーを軟化及び融解させ、圧縮比を1から10に達成することができるものと理解できる

そうすると、訂正事項3に係る訂正は、本件明細書のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではないものと認められるから、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものというべきである。

したがって、これと異なる本件決定の判断は誤りである。

(ウ)これに対し被告は、①本件明細書の【0033】には、「熱圧着の段階」を「不織材料の溶融温度の-15℃から+60℃の範囲の温度及び0.1から0.6MPaの圧力下」で行われる結果、「不織布に関し」ては「圧縮比を1から10に達成することができる」ことが記載されているのであり、布について上記の圧縮比が達成できることについては記載されていない、②不織布は、大きな繊維間距離を確保した嵩高な構造を有しているため、所定の圧力で圧縮された場合に容易に広がることができ、また、容易に圧縮可能な構造を持つ(乙2)のに対し、布材料は、経糸と緯糸が密に織り込まれた構造を有しているため、圧縮されにくい構造であること(乙3)は技術常識であることに鑑みれば、当業者は、【0033】の記載が専ら不織布に向けられているものと認識するから、本件特許明細書等の記載を総合しても、事項Bを導くことができるとはいえず、訂正事項3(請求項1)に係る訂正は、新規事項の追加に当たる旨主張する。

しかしながら、上記①の点については、本件明細書に直接的な記載はないが、前記(イ)のとおり、本件明細書の記載から、「布」(「熱可塑性布」)についても、加熱段階にかけて、ポリマーを軟化及び融解させ、圧縮比を1から10に達成することができるものと理解できる。

次に、上記②の点については、乙2(特開2003-204993号公報)は、使い捨ておむつや生理用ナプキンなどの吸収性物品として用いるために、意図的に繊維をランダムに三次元配向させて「嵩高」とした場合の不織布について述べるものであり(【0001】、【0015】)、不織布の構造は、用途、製法等に影響を受けると考えられるから、乙2から直ちに不織布が常に「嵩高」で容易に圧縮可能な構造であるとはいえない。また、乙3(特開2006-265805号公報)は、衣類の形状保持用又は体型補正用として使用する衣類仕立用テープの発明に関するものであり(【0001】)、製品の性質上「嵩高」としない場合の織物に関するものであって、布材料の構造も、用途、編織法等に影響を受けると考えられるから、乙3から直ちに布材料が常に「嵩高」ではなく、圧縮されにくい構造であるとはいえない。したがって、被告の上記主張は採用することができない。

ウ 訂正事項4に係る訂正について

(ア)訂正事項4は、請求項1の「d)端部に沿って位置する不織布又は布材料のはみ出し部分を切断し、リボンの端部に切断を及ぼすことなく、はみ出し部分の一部分を除去することで、リボンの幅をその全長にわたり本質的に一定であるように維持する工程であって、不織布又は布材料の総重量が中間材の総重量の15%未満であり、はみ出し部分の切断済み端部が中間材の端部を構成する工程」を、本件訂正後の請求項1の「d)工程c)と同時に、端部に沿って位置する不織布又は布材料のはみ出し部分を加熱された切断器で切断し、リボンの端部に切断を及ぼすことなく、はみ出し部分の一部分を除去することで、リボンの幅をその全長にわたり本質的に一定であるように維持する工程であって、不織布又は布材料の総重量(1m²あたり)が中間材の総重量(1m²あたり)の(6/132)×100%未満であり、はみ出し部分の切断済み端部が中間材の端部を構成する工程」に訂正するものである。

本件決定は、本件特許明細書等の一般記載及び実施例の記載からは、「不織布又は布材料の総重量(1m²あたり)が中間材の総重量(1m²あたり)の(6/132)×100%未満であり」という数値範囲を把握することはできないから、本件特許明細書等の全ての記載を総合しても、「不織布又は布材料の総重量(1m²あたり)が中間材の総重量(1m²あたり)の(6/132)×100%未満であり」という事項(事項C)を導くことができるとはいえず、訂正事項4に係る訂正は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものとは認められず、新規事項の追加に当たり、訂正要件に適合しない旨判断した。

(イ)そこで検討するに、本件明細書には、①「本発明による方法」の実施例として、「炭素面密度(g/m²)」(表2)が「126g/m²」の「平均幅 6.21mm 785テックス AS7J 12K」の「1本の炭素ストランド」を素材として、図5に示すような機械を使用して、「一方向シート」とその両側に「不織材料」を結合させた「リボン」が得られたこと(【0055】ないし【0057】、【0062】、表2、表3)、②実施例に使用される「不織材料」の素材は、面密度が「3g/m²」の「コアポリアミドの不織材料1R8D03」であること(【0052】)、③図5の機械(装置)を使用してリボンを作製する場合、不織材料は、炭素ストランドと接触する前に予備加熱され、空隙が制御された二つの加熱バーで炭素ストランドにラミネート加工され、次に、冷却可能な艶出し機が、両側に不織材料を有する炭素ストランドの一方向層に圧力を加え、この層が、次に切断機へ誘導されること(【0037】、【0038】)、④ホットカット器及び特に加熱したナイフを用いて、長手方向の端部に沿って位置する不織材料が切断されることにより得られたリボンは、切断された長繊維の断片のない非常にきれいな端部を有していること(【0035】、【0039】)、⑤一方向層と不織布との結合の前後で、不織布に関して圧縮比を1から10に達成することができること(【0033】)が記載されている。

上記記載から、「1本の炭素ストランド」で作製される「一方向シート」の両側に結合される「不織材料」の面密度の和は「3g/m²×2=6g/m²」となること、この面密度の和と「1本の炭素ストランド」(「AS7J 12K」)の面密度(「126g/m²」)とを加算すると、「132g/m²」となること、圧縮比1で(圧力を加えずに)「不織材料」を「1本の炭素ストランド」(「AS7J 12K」)に結合させて「リボン」(中間材)を作製した場合には、「不織布の総重量(1m²あたり)」の「中間材の総重量(1m²あたり)」に対する百分率は「(6/132)×100%」となることを理解できる。

そして、①炭素ストランドと結合される前に、加熱によりポリマーが軟化及び融解され、艶出し機により圧縮された不織材料は、面方向へと拡張され、不織材料の総重量(1m²あたり)は、圧縮比1の場合よりも減少し、「6g/m²」よりも小さくなることは自明であること、②一方、炭素ストランドは、不織材料と異なり、軟化及び融解される工程を経るものではなく、得られた「リボン」(中間材)の平均幅(「6.21mm」。表3の「AS7J 12K」)は、素材である炭素ストランドの平均幅(「6.21mm」。表2の「AS7J 12K」)と同じであって、一方向層と不織布との結合の前後を通じて、炭素ストランドの面密度に変動はないことから、図5に示すような機械を使用して得られた「平均幅 6.21mm 785テックス AS7J 12K」の「1本の炭素ストランド」で作製された「一方向シート」とその両側に「不織材料」を結合させた「リボン」(中間材)においては、「不織布の総重量(1m²あたり)」の「中間材の総重量(1m²あたり)」に対する百分率は「(6/132)×100%未満」になることを理解できる。

もっとも、切断機により、リボンの端部に沿って位置する不織材料の一部が切断されるが、これは、不織材料のはみ出し部分を切断するものであるから(【0035】)、これによって、「1本の炭素ストランド」で作製された「一方向シート」の両面に圧縮適用された不織材料の面密度(1m²あたり)が影響を受けるものではないことを理解できる。

また、【0062】の実施例は、炭素面密度が「126g/m²」の1本の炭素ストランドから中間材を作製する方法に関するものであるが、炭素面密度が「126g/m²」の複数の炭素ストランドから1本の中間材を作製する場合にも、複数の炭素ストランドの炭素面密度が「126g/m²」となることは自明であるから、図5に示すような機械を使用して、「炭素面密度(g/m²)」が「126g/m²」の「平均幅 6.21mm 785テックス AS7J 12K」の複数の「炭素ストランド」を素材として作製された「一方向シート」とその両側に「不織材料」を結合させた「リボン」(中間材)においては、「不織布の総重量(1m²あたり)」の「中間材の総重量(1m²あたり)」に対する百分率は「(6/132)×100%未満」になることを理解できる。

そうすると、訂正事項4に係る訂正は、本件明細書のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではないものと認められるから、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものというべきである。

したがって、これと異なる本件決定の判断は誤りである。

(ウ)これに対し被告は、①本件明細書の実施例の記載(【0062】)からは、当該実施例のリボンが、1本のストランドと2つの不織材料を結合させて構成されており、そのストランドが「126g/m²」であり、2つの不織材料がそれぞれ「3g/m²」のものであることが読み取れるのみであって、当該記載からは、本件特許発明に係るリボンの「不織布又は布材料」と「中間材」の1m²あたりの総重量の比が「(6/132)×100%」未満という数値範囲を満たすものであることまで導き出せるものではない、②【0062】の実施例は、1本のストランドについてのものであるから、本件訂正後の請求項1の「複数のストランド」における数値範囲の根拠となるものではない、③【0062】の記載は、圧縮後の不織布の面密度を開示するものではなく、圧縮後に切断除去されるはみ出し部分の不織布又は布材料の重量が明らかにされていないから、本件特許明細書等の記載を総合しても、事項Cを導くことができるとはいえず、訂正事項4(請求項1)に係る訂正は、新規事項の追加に当たる旨主張する。

しかしながら、上記①の点については、本件明細書に直接的な記載はないが、前記(イ)のとおり、本件明細書の記載から、「不織布の総重量(1m²あたり)」の「中間材の総重量(1m²あたり)」に対する百分率が「(6/132)×100%未満」となることを理解できる

次に、上記②の点については、本件明細書の実施例(【0062】)は、1本の炭素ストランドから中間材を作製する方法に関するものであるが、前記(イ)のとおり、上記実施例と同一の炭素面密度の複数の炭素ストランドを素材として作製された「一方向シート」とその両側に「不織材料」を結合させた「リボン」(中間材)においても、「不織布の総重量(1m²あたり)」の「中間材の総重量(1m²あたり)」に対する百分率は「(6/132)×100%未満」になることを理解できる。

さらに、上記③の点については、前記(イ)のとおり、【0062】の実施例である中間材を作製するに当たり、圧縮後の不織布の面密度は、圧縮比1の場合よりも減少することになるのは明らかであり、また、加熱された切断機により切断されるのは、不織材料のはみ出し部分に過ぎず、これによって、リボンの両面に圧縮適用された不織材料の面密度が影響されることはないから、【0062】において、圧縮後の不織布の面密度が開示されておらず、圧縮後に切断除去されるはみ出し部分の不織布又は布材料の重量が明らかにされていないからといって、前記(イ)の認定を左右するものではない。

したがって、被告の上記主張は採用することができない。

エ 訂正事項20、23及び24に係る訂正について

前記アないしウのとおり、訂正事項2ないし4に係る訂正は、本件明細書のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものとはいえない。

そして、訂正事項20、23及び24に係る訂正は、訂正事項2、3又は4と重複するものであるから、本件明細書のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものとは認められない。

オ 小括

以上のとおり、訂正事項2ないし4に係る訂正は本件明細書のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものとはいえない。また、訂正事項20、23及び24は、訂正事項2、3又は4と重複するものであるところ、訂正事項2ないし4と同様の理由(前記アないしウ)により、本件明細書のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものとはいえない。

したがって、訂正事項2、3、4、20、23及び24に係る訂正は、いずれも新規事項の追加に当たらないから、特許法120条の5第9項で準用する同法126条5項の規定に適合する。

(3)まとめ

以上によれば、本件訂正を認めなかった本件決定の判断は誤りであり、この判断の誤りは、発明の要旨認定の誤りに帰することになるから、本件決定の結論に影響を及ぼすことは明らかである。

したがって、原告主張の取消事由1は理由がある。