オルタネーター事件

投稿日: 2017/09/17 19:35:57

今日は平成28年(ワ)第13239号 特許権侵害差止請求事件について検討します。原告であるヴァレオ・エキプマン・エレクトリクモトゥールは、判決文によると、自動車電気機器の製造・販売を業とするフランス共和国法人だそうです。一方、被告である三菱電機株式会社は重電システム、産業メカトロニクス、情報通信システム、電子デバイス、家庭電気などの製造、販売を業とする株式会社だそうです。両社ともにこれまでに取得した特許の件数は1000件を超えるようです。

 

1.手続の時系列の整理(特許第4392352号及び特許第4634714号)

① 本事件では原告が差止しか請求していないので提訴された日あるいは訴状が送達された日が不明ですが、事件番号からすると2016年のようです。

2.本件発明の内容

2.1 本件発明1(特許第4392352号 請求項11)

1A 回転電気機械であって、

1B 1.半径方向の冷却流体排出スロット(4a)(4d)を有する後部軸受け(4)と、

1C 2.少なくとも前記後部軸受け(4)によって支持された回転シャフト(2)上に中心が位置して固定されたロータ(1)と、

1D 3.前記ロータ(1)を取り囲み、回転電気機械の相を構成する巻線を有するアーマチュア巻線(7)を含むステータ(3)と、

1E 4.前記ステータ(3)相の巻線に接続された電力電子回路(15)と、

1F 5.前記電力電子回路(15)を搭載した上面と、上面と反対側で前記後部軸受け(4)の方を向く底面を有する熱放散ブリッジ(16)と、を備えていて、

1G 前記底面は、冷却流体通路(17)の長手方向壁を形成し、冷却流体通路(17)の他方の長手方向壁は、前記ステータ(3)を支持している前記後部軸受け(4)により形成されている回転電気機械であって、

1H イ.前記熱放散ブリッジ(16)の底面は、前記流体通路(17)内に配置された複数個の冷却フィン(18)を有すること、

1I ロ.前記熱放散ブリッジ(16)は、少なくとも2個の固定スタッド(21)によって後部軸受け(4)に固定されていること、

1J ハ.前記熱放散ブリッジ(16)に固定された複数個の冷却フィン(18)の全ての軸方向端部は、後部軸受け(4)から所定の間隔を置いた位置にあること、を特徴とする

1K 回転電気機械。

1L 前記ロータ(3)の回転シャフト(2)と熱放散ブリッジ(16)の間に、軸方向流体通路を形成する少なくとも1つの空間が設けられていることを特徴とする


2.2 本件発明2(特許第4634714号 請求項1)

2A 少なくとも2つのパワーモジュール(12)を含んでいるパワーモジュールアセンブリであって、

2B 各パワーモジュール(12)は一体型であり、

2C 各パワーモジュール(12)が、

2C1 少なくとも一つの切り抜き金属パターン(14)と、

2C2 切り抜き金属パターンに電気的に接続される少なくとも一つのパワー電子部品(16)と、

2C3 パワーモジュールの結合を行う電気絶縁材(30;56)と、

2C4 当該モジュールの外部冷却手段と直接接するように構成され且つ少なくとも一部が前記切り抜き金属パターン(14)を含む冷却面(28)と、

2C5 切り欠き金属パターン(14)を当該モジュールの外部素子に電気的に接続する第1の接続手段とを有しており、

2D アセンブリが、パワーモジュールのためのケース(42)を有しており、ケースが各パワーモジュールの前記冷却面を含む複合底を有しており、

2E 各パワーモジュールにおいて、電気絶縁材(56)が、切り抜き金属パターン(14)およびパワー電子部品(16)の周囲に一体成形されるブロックを形成することを特徴とする、

2F パワーモジュールアセンブリ。

3.被告製品

1a モータジェネレータであって、

1b 半径方向の複数の冷却空気排出開口を有している上側ベアリングと、

1c 上側ベアリングによって支持された回転シャフト上に中心が位置して固定されたロータと、

1d ロータを取り囲み、モータジェネレータの相を構成する巻線を有するアーマチュア巻線を含むステータと、

1e ステータ相の巻線に接続された電力電子回路と、

1f 電力電子回路を搭載した上面と、上面と反対側で上側ベアリングの方を向く底面を有する熱放散部材と、を備えていて、

1g 上側ベアリングの上面は、回転シャフトが挿通する軸受部、その周囲を取り囲む開口部、開口部の外側に位置する周縁部及び周縁部と軸受け部を架橋するブリッジ部を含み、周縁部の約3分の2を占める部分は上側ベアリングに固定されたC字状部材に覆われている。熱放散部材の底面側には、該上面の周縁部の前記C字状部材に覆われていない部分に対向してプレートが設けられているが、C字状部材不存在かつプレート非対応部分(C字状部材に覆われておらず、かつ、プレートに対応していない部分をいう。以下同じ。)が該上面の周縁部の全周の約140分の1に存在し、当該部分の円周方向の最短直線距離、すなわち、プレートを該上面に投影した領域とC字状部材との最短直線距離は、約4.2mm[約2.4mm]である。該上面の周縁部の前記約3分の2を占める部分においては冷却空気通路の一方の壁は熱放散部材の底面によって直接構成され他方の壁はC字状部材によって直接構成されており、該上面の周縁部の残りの約3分の1を占める部分においては冷却空気通路の一方の壁は熱放散部材の底面によって直接構成され、他方の壁はプレートによって直接構成されている、また、C字状部材不存在かつプレート非対応部分及びブリッジ部においては冷却空気通路の一方の壁は熱放散部材の底面によって直接構成され、他方の壁は上側ベアリングによって直接構成されていること、

1h 熱放散部材の底面には複数の冷却フィンが設けられ、冷却フィンの一部は熱放散部材に設けられた前記プレートと熱放散部材の底面に挟まれる空間に存在し、それ以外の冷却フィンは上側ベアリングの開口部と熱放散部材の底面のうち上側ベアリングの開口部と厳密に対向している部分によって挟まれる空間にのみ存在しており、上側ベアリングの周縁部及びブリッジ部と熱放散部材の底面のうちそれらと厳密に対向している部分によって挟まれる空間には冷却フィンは存在しないこと、

1i 熱放散部材は複数のスタッドによって上側ベアリングに固定されていること、

1j 熱放散部材に固定された複数の冷却フィンの全ての軸方向端部は、上側ベアリングから所定の間隔を置いた位置にあること、を特徴とする、

1k モータジェネレータであり、さらに、

1l ロータの回転シャフトと熱放散部材との間に、軸方向の空気通路を形成する空間が設けられていることを特徴とする。


2a 複数のパワーモジュールを含んでいるパワーモジュールアセンブリ[パワーモジュールユニット]であって、

2b 各パワーモジュールは一体化されており、

2c 各パワーモジュールが、

2c1 切り抜き金属パターンと、

2c2 切り抜き金属パターンに接続される複数のパワー電子部品と、

2c3 パワーモジュールの結合を行う第1の樹脂と、

2c4 パワーモジュールの外部に位置する熱放散部材と直接接する切り抜き金属パターンを含む冷却面と、[絶縁層兼接着層及びパワーモジュール底面に設けられた切り抜き金属パターンよりも0.1mm突出している樹脂スペーサーによって熱放散部材と直接接することがないように離間された複数の切り抜き金属パターンを含む冷却面と、]

2c5 切り抜き金属パターンをパワーモジュールの外部金属端子に接続するリード部とを有しており、

2d パワーモジュールアセンブリが、パワーモジュールを収容する枠体を有しており、当該枠体の内側に、各パワーモジュールの冷却面を含む切り抜き金属パターン及び切り抜き部分(隙間)に充填された第1の樹脂からなる複合底が位置しており、

[2d1 パワーモジュールユニットがパワーモジュールを収容する枠体を有しており、当該枠体はパワーモジュールを配置するための開口部を有しており、当該開口部がパワーモジュールよりも一回り以上大きく、パワーモジュールを当該開口部に配置してもパワーモジュールの底面は枠体と係合せず、

2d2 当該枠体及び複数のパワーモジュールは、熱放散部材に接着されており、

2d3 パワーモジュールと熱放散部材との間には、切り抜き金属パターンと熱放散部材とを離間するに十分な絶縁層兼接着層があるとともに、パワーモジュールの底面には絶縁層兼接着層の厚みにかかわらず切り抜き金属パターンと熱放散部材が直接接することのないようにこれらの離間を確保するために0.1mmの樹脂スペーサーが設けられており、

2d4 当該枠体と熱放散部材とで画された空間に第2の樹脂が充填されており、

2e 各パワーモジュールにおいて、第1の樹脂が、切り抜き金属パターン及びパワー電子部品の周囲に一体成形されるブロックを形成する、

2f パワーモジュールアセンブリ[パワーモジュールユニット]。

4.争点

(1)被告製品の構成要件充足性(なお、被告は以下のア~オ以外の構成要件の充足性を争っていない。)

ア 構成要件1G「冷却流体通路(17)」の充足性

イ 構成要件1H「前記流体通路(17)内に配置された複数個の冷却フィン(18)」の充足性(文言侵害、均等侵害)

ウ 構成要件2F「パワーモジュールアセンブリ」の充足性

エ 構成要件2C4「当該モジュールの外部冷却手段と直接接するように構成され・・・冷却面(28)」の充足性

オ 構成要件2D「複合底」の充足性

(2)本件特許1の無効理由の有無5 (乙1文献(特開平6-46547号公報をいう。以下同じ。)に基づく本件発明1の進歩性欠如)

5.裁判所の判断

事案に鑑み、まず、本件発明1及び2の技術的意義を明らかにした上、争点(1)ア、イ及びエにつき判断する。

5.1 本件発明1の技術的意義

(1)本件発明1に係る特許請求の範囲の記載は前記おりであり、本件明細書1(甲2)の発明の詳細な説明の欄には以下の記載がある。

ア 背景技術(段落【0002】~【0028】)

-省略-

イ 発明が解決しようとする課題

-省略-

ウ 課題を解決するための手段

-省略-

(2)また、本件明細書1においては、発明を実施するための最良の形態が次のとおり説明されている。

ア -省略-

イ -省略-

(3)以上によれば、従来のオルタネータにおいてはブリッジ整流器が備える正ダイオードを冷却するためにこれを熱放散ブリッジに取り付け、同ブリッジにスロット(開口部)を設けることでその内部を冷却空気が循環するようにし、同ブリッジの上面にフィンを設けることで同ブリッジの冷却を助けることとしていたのに対し、電力用トランジスタ及びかさ高の制御装置を備えるブリッジ整流器があるオルタネータ/スタータにおいては、同ブリッジにスロットを設けるための空間を確保できない問題に対応するため、同ブリッジが外側後面に冷却フィンを有する後部軸受けに押し当てられる構成が知られていた。しかし、この構成においては、後部軸受けに熱放散ブリッジ又は基部をしっかりと押し当てる必要があり、また、後部軸受けが非常に高温になると対流で冷却できなくなるという課題があった。本件発明1は、冷却流体が機械の後部に横方向に導入され、熱放散ブリッジ及びオルタネータの後部軸受け間に形成された流体流通路内を循環する目的のために熱放散ブリッジの後部軸受け側の面を通路の長手方向壁、後部軸受けを上記通路の別の長手方向壁とし、冷却手段としてフィンを上記通路内に配置する構成を採用した点に技術的意義があるということができる。

5.2 本件発明2の技術的意義

(1)本件発明2に係る特許請求の範囲の記載は前記あり、本件明細書2(甲5)の発明の詳細な説明の欄には以下の趣旨の記載がある。

ア 技術分野、背景技術(段落【0001】~【0007】)

-省略-

イ 発明が解決しようとする課題

-省略-

ウ 課題を解決するための手段

-省略-

(2)以上によれば、本件発明2は、切り抜き金属パターンとパワー電子部品のほかにパワーモジュールの結合を行う電気絶縁材を含む、いわゆる一体型のパワーモジュールにつき、パワー電子部品とパワーモジュールの外部冷却手段との間の熱の経路が長くなるという課題を解決するために、冷却面の少なくとも一部が切り抜き金属パターンを含み、その切り抜き金属パターンと外部冷却手段とが直接接するという構成を採用した発明である。本件発明2は、このような構成を採用したことで、切り抜き金属パターンと冷却手段との間に絶縁層及び放熱層がないため、熱の経路を著しく短縮し、製造コストが安く、外部冷却手段により有効な冷却が可能とする効果を奏するという技術的意義を有するものであるということができる。

5.3 争点(1)ア(構成要件1G「冷却流体通路(17)」の充足性)について

(1)原告は、構成要件1Gの「冷却流体通路(17)」は、熱放散ブリッジと後部軸受けの間の空間であり、冷却流体が横(長手)方向に流れる空間をいうと主張するのに対し、被告は、「冷却流体通路(17)」は、熱放散ブリッジの底面を一方の長手方向壁とし、後部軸受を他方の長手方向壁として物理的に区画された空間をいうと主張する。

(2)そこでまず、「冷却流体通路(17)」の意義を検討する。

ア 「流体」は「液体と気体との総称」という意味を一般的に有し、本件明細書1(甲2)において空気又は任意の他の冷却流体が想定されている(段落【0072】。前記1(2)イ)。「通路」は「通行用の道路。とおりみち」(広辞苑〔第六版〕1856頁)、「一般に通行するための道路、通り道、出入り道」(大辞林〔第二版新装版〕1684頁)という意味を一般的に有する語である。そうすると、「冷却流体通路(17)」は、空気を含む冷却された液体又は気体の通り道を指すと解される。

本件発明1の特許請求の範囲の記載を見ると、そのような「冷却流体」又は「流体」が通ることが定められているものとして、①「冷却流体スロット(4a)(4d)」②「冷却流体通路(17)」及び③「軸方向流体通路」がある。そして、特許請求の範囲の記載において、上記①は半径方向であって後部軸受けに設けられることが、②は熱放散ブリッジの後部軸受けの方を向く底面を一方の長手方向壁とし後部軸受けを他方の各長手方向壁とするものであることが、③はロータの回転シャフト(2)と熱放散ブリッジ(16)との間の空間によることがそれぞれ規定されている。そうすると、特許請求の範囲の記載において、本件発明1には、流体の通り道として複数の部分が存在することが定められ、そのうち、上記②の「冷却流体通路(17)」は、上記の各長手方向壁が対向する空間をいうことが定められているといえる。

イ 本件明細書1(甲2)を見ると、前記1(1)アのとおり、従前、熱放散ブリッジが外側後面に冷却フィンを有する後部軸受けに押し当てられる構成が知られていたが、この構成では、後部軸受けに熱放散ブリッジ又は基部をしっかりと押し当てる必要があり、また、後部軸受けが非常に高温になると対流で冷却できなくなるという課題があった。本件発明1は、この課題を解決するため、冷却流体が機械の後部に横方向に導入されて、熱放散ブリッジ及びオルタネータの後部軸受け間に形成された流体流通路内を循環するようにした装置を提供することを一つの目的とし(段落【0029】。同イ)、この目的のため、後部軸受けの方を向く面も有する熱放散ブリッジを備え、その熱放散ブリッジの後部軸受け側の面が冷却流体通路の長手方向壁を形成し、後部軸受けが上記通路の別の長手方向壁を形成するものとし、上記通路内に冷却手段として熱放散ブリッジに固定されたフィンを配置する構成を採用した(段落【0030】、【0031】、【0037】、【0038】。同ウ)。これらの記載によれば、本件発明1は、冷却流体が機械の後部に横方向に導入されて、熱放散ブリッジ及びオルタネータの後部軸受け間に形成された流体流通路内を循環する装置の提供を目的とするものであるところ、その目的のために、熱放散ブリッジの後部軸受け側の面を通路の長手方向壁とし、後部軸受けを上記通路の別の長手方向壁として、冷却手段として熱放散ブリッジに固定されたフィンを上記通路内に配置する構成を採用したものである。したがって、本件発明1は、そのような冷却流体が流れる通路及びフィンの配置に技術的意義があるものであり、当該通路及びフィンが配置される部分を特定するためにフィンが配置される通路が上記の2つの長手方向壁を有するものであることを定めたと解することができる。

発明を実施するための最良の形態の説明においても、冷却流体を流す通路の壁として、熱放散ブリッジの軸方向において後部軸受けの方を向く底面が長手方向又は半径方向通路17の壁を形成し、その他の壁は後部軸受けの上面によって形成されるとされ(段落【0048】、【0068】。前記1(2)ア)、図面(【図2】、【図3】。別紙図面のとおり)上も上記の2つの壁が対向する部分が当該通路17に当たることが示されており、他の部分がこれに当たることを示唆する記載は見当たらない。

これらによれば、発明の詳細な説明の記載等を見ても、「冷却流体通路(17)」は、熱放散ブリッジの後部軸受けの方を向く底面を一方の長手方向壁とし、後部軸受けを他方の長手方向壁とする空間をいい、冷却流体が流れるその他の空間は含まれないと解するのが相当であり、前記アの解釈に符合するということができる。

(3)次に、「他方の長手方向壁」を形成する「後部軸受け」の意義につき検討する。

当該「後部軸受け」につき、特許請求の範囲の記載上その構成部材は特定されていない。

そこで本件明細書1を見ると、後部軸受け自体の構成部材を特定する記載はない。一方、本件発明1の実施の形態として、熱放散ブリッジの底面と後部軸受けとの間に、これらの2つの部品間の電気接触の危険性を排除する電気絶縁材料の層を有してもよく、この絶縁材料層は後部軸受けの外面に固定され、冷却流体が通過できるように後部軸受けのスロットと向き合った空気通路スロットを有するのが好ましいとの記載があり(段落【0094】)、本件発明1の実施において後部軸受けの外面に固定された層を設けることができることが記載されている。そして、前記(2)において説示した本件発明1の意義に照らすと横方向の冷却流体通路を形成する後部軸受け側は壁面であれば足りると解される。

上記に照らすと、本件発明15 における「後部軸受け」は、これに固定された部材が存在する構成を含むものと解するのが相当である。

(4)以上を前提に被告製品に「冷却流体通路(17)」が存在するか否かについて検討する。

被告製品は、「後部軸受け(4)」に相当する上側ベアリングの外表部につき、前記前提事実(4)(構成1g、被告製品写真1及び2)のとおり①「熱放散ブリッジ(16)」に相当する熱放散部材の底面に設置されたプレートと対応する部分②上記プレートと対応せず、上側ベアリングに固定されたC字状部材で覆われた部分③C字状部材不存在かつプレート非対応部分④ブリッジ部⑤プレートと対応しない開口部がある。

そのうち、①の部分は、熱放散部材と上側ベアリングの外表部の間に熱放散部材の底面に設置されたプレートが存在するのであるから、熱放散部材と①の部分の上側ベアリングをそれぞれ長手方向壁とする冷却流体通路が存在することはないといえる。

これに対し、上記②~⑤の部分は、熱放散部材の底面が冷却流体通路の一方の「長手方向壁」を形成している。これらの部分の他方の「長手方向壁」の有無等についてみると、上記②の部分は、その位置から冷却流体の他方の「長手方向壁」を形成しており、C字状部材が上側ベアリングに固定されていることからすると、これは「後部軸受け(4)」に含まれるといえる部分であり(前記(3))、同部分は、「後部軸受け(4)」が「冷却流体通路(17)の他方の長手方向壁」となっているといえる。また、上記③及び④の部分は「後部軸受け(4)」に相当する上側ベアリング自体が露出した部分であり、かつ、構造上それらの部分において横方向の冷却流体の流れがないわけではないから、これらもいずれも「後部軸受け(4)」が「冷却流体通路(17)の他方の長手方向壁」になっているといえる。他方、上記⑤の部分は、開口部である以上、上側ベアリングの構成部材によって長手方向壁を形成しているといえず、前記(2)に照らし、「5 冷却流体通路(17)」といえる部分ではない。

(5)ア 原告は、㋐「冷却流体通路(17)」は一般的に冷却通路の通り道全般を指すこと、㋑本件明細書1の【図2】の符号17の矢印及び破線の記載や段落【0061】、【0072】~【0074】の記載、㋒本件発明1の課題とその解決手段に関する記載からすると、長手方向壁は空気の流れを横に方向付ける機能的な観点から規定したものであって通路の境界を画する趣旨でないことなどから、前記⑤の部分も「冷却流体通路(17)」に当たると主張する。

しかし、上記㋐、㋑のうち本件明細書1の【図2】の符号17及び㋒については、前記(2)のとおり、特許請求の範囲の記載及び発明の詳細な説明の記載等を見れば、「冷却流体通路(17)」は、熱放散ブリッジの後部軸受けの方を向く底面を一方の長手方向壁とし、後部軸受けを他方の長手方向壁とする空間をいい、冷却流体が流れるその他の空間は含まず、2つの長手方向壁は機能的な意義を越えて通路の特定のための要素とみるのが相当であるから、上記原告の主張は採用することができない。上記㋑の破線及び各段落の記載については、本件発明1において冷却流体が「冷却流体通路(17)」を流れ、その後、軸方向通路を流れるとしても、「冷却流体通路(17)」として特定される部分は、前記(2)のとおりと解されるから、原告の指摘は、前記(4)の判断を左右するものではない。

被告は、前記②の部分は絶縁目的を有さず、薄いものでないC字状部材が固定されていること、前記③及び④は被告製品の冷却のために無意味な構造であって横方向の空気が流れないことを挙げて、それぞれ「冷却流体通路(17)」に当たらないと主張する。

しかし、前記②の部分については、前記(3)のとおり、本件発明1における「後部軸受け」は、これに固定された部材が存在する構成を含むものと解するのが相当である。前記③及び④の部分について、これを前記②の部分と一体としてみればいずれも熱放散部材の底面と上側ベアリングを長手方向壁とし、これに画された部分である上、それらの部分に横方向の空気の流れがないわけではなく、被告製品の冷却のために無意味な構造であるということはできない。したがって、被告の主張は採用することができない。

5.4 争点(1)イ(構成要件1H「前記流体通路(17)内に配置された複数個の冷却フィン(18)」の充足性(文言侵害、均等侵害))について

(1)文言侵害について

ア 構成要件1Hの「冷却フィン(18)」は、本件発明1の特許請求の範囲の記載上、①「熱放散ブリッジ(16)」の底面にあること②「前記流体通路(17)」内に配置されていることが必要である。上記②に関し、「前記流体通路(17)」は、「前記」と記載され、これ以前の「流体通路」に相当するものを引用していること、構成要件1Gの「冷却流体通路(17)」と同じ番号が付されていることに照らすと、当該「冷却流体通路(17)」を指すものと解される。そして、その意義は、前記3(2)のとおり、熱放散ブリッジの後部軸受けの方を向く底面を一方の長手方向壁とし、後部軸受けを他方の各長手方向壁とする空間であり、冷却流体が流れるその他の空間は含まれない。そうすると、「冷却フィン(18)」は、「熱放散ブリッジ(16)」に形成されて「冷却流体通路(17)」に配置される必要があると解される。

上記「冷却フィン(18)」に相当する被告製品の冷却フィンは、前記前提事実(4)(構成1h、被告製品写真1及び2)のとおり、「熱放散ブリッジ(16)」に相当する熱放散部材に形成され、上側ベアリングの開口部に対応した部分に配置されている。しかし、被告製品の上側ベアリングの開口部は、前記3(4)のとおり、「冷却流体通路(17)」に当たらない。したがって、被告製品の冷却フィンは構成要件1Hの「前記流体通路(17)内に配置された」を充足しない。

(2)均等侵害について

ア 原告は、被告製品のフィンが「前記流体通路(17)内に配置」されていないという相違点があるとしても、被告製品は本件発明1の構成と均等なものとして、本件発明1の技術的範囲に属するというべきであると主張する。被告製品が本件発明1の構成と均等であるというためには、特許請求の範囲に記載された構成中被告製品と異なる部分が特許発明の本質的部分でないことが必要である。

イ そこで本件発明1の本質的部分につき検討する。

本件明細書1における背景技術、発明が解決しようとする課題及び課題を解決するための手段の記載(前記1(2))を参酌すると、前記1(3)のとおり、本件発明1は、熱放散ブリッジにフィンを設け、これに冷却空気を触れさせて電気部品の冷却を図る構成につき、熱放散ブリッジと後部軸受けの間に冷却流体通路を設けて冷却空気を循環させることとし、当該通路内に冷却フィンを設けるオルタネータ/スタータの構成とすることによって、熱放散ブリッジにスロットが設けられない場合であっても十分に熱放散ブリッジを冷却させることができる効果を生じさせることとしたというものである。このことに照らすと、冷却流体の通路及び冷却フィンの配置について上記構成を採用したことに本件発明1の意義があるということができるから、冷却フィンがどこに配置されるかを含めたその配置は、本件発明1の本質的要素に含まれると解するのが相当である。

そうすると、被告製品において冷却フィンが冷却流体通路でなく、熱放散部材の底面であって上側ベアリングの開口部と対応する部分に配置されている構成は、本件発明1と本質的部分において相違するというべきである。したがって、被告製品が本件発明1の構成と均等であるということはできない。

ウ これに対し、原告は、本件発明1の本質的部分は後部軸受けと熱放散ブリッジの間に長手方向の、回転シャフトと熱放散ブリッジの間に軸方向の各冷却流体通路を備えた点にあると主張する。

しかし、上記イのとおり、本件明細書1は熱放散ブリッジにフィンを設け、これに冷却空気を触れさせて電気部品の冷却を図る構成を従来技術として明示しており、フィンによって熱放散ブリッジと冷却空気が触れる表面積を増やし、これによって冷却効果を図る構成を採用することが前提とされていること、フィンの配置は冷却効果の程度に影響すると解されることに照らすと、当該配置も本件発明1の意義に含まれるというべきである。

したがって、原告の主張は採用できない。

5.5 争点(2)エ(構成要件2C4「当該モジュールの外部冷却手段と直接接するように構成され・・・冷却面(28)」の充足性)について

(1)本件発明2に係る特許請求の範囲の記載によれば、本件発明2のパワーモジュールアセンブリの「冷却面(28)」は、少なくとも一部が切り抜き金属パターンを含み、かつ、パワーモジュールの外部冷却手段と直接接するように構成されることが規定されている。「直接」は「中間に隔てるものがなく、じかに接すること」(広辞苑〔第六版〕1839頁。大辞林〔第二版新装版〕1667頁も同旨)、「接する」は「互いに隔てなくつながる」(広辞苑〔第六版〕1575頁)、「二つの物が間をおかずに隣り合う」(大辞林〔第二版新装版〕1409頁)といった意味を一般的に有する。そうすると、構成要件2C4においては、冷却面(28)中に切り抜き金属パターンが含まれ、かつ、その切り抜き金属パターンとパワーモジュールの外部冷却手段が、互いに、中間に隔てるものなく直につながる構成が定められていると解される。

(2)この点について本件明細書2(甲5)の記載を見ると、前記2(1)のとおりであり、同(2)のとおり、本件発5 明2は、いわゆる一体型のパワーモジュールにつき、パワー電子部品とパワーモジュールの外部冷却手段との間の熱の経路が長くなるという課題を解決し、かつ、安く製造するために、冷却面の少なくとも一部が切り抜き金属パターンを含むようにし、その切り抜き金属パターンと外部冷却手段とが直接接するという構成を採用したものであり、そのことにより、熱の経路を著しく短縮して外部冷却手段により有効な冷却を可能とし、また、切り抜き金属パターンと冷却手段との間に絶縁層及び放熱層がないために製造コストが安くなるとの効果を奏するという発明であるということができる。こうした意義に照らすと、「直接接するように」との構成においては、切り抜き金属パターンとパワーモジュールの外部冷却手段との距離を狭めるようにすることが求められているというべきであり、また、その間に絶縁層及び放熱層がないことが想定されているといえる。したがって、本件明細書2の記載は、前記(1)の解釈と符合するものである。

(3)以上を前提に被告製品につき、「切り抜き金属パターン」と「パワーモジュールの外部冷却手段」が「直接接するように構成」されているか否かについて検討する。

前記前提事実(3)(構成2d1及び2d4、被告製品写真3)及び弁論の全趣旨によれば、被告製品の熱放散部材が「パワーモジュールの外部冷却手段」に相当すること、被告製品においては、パワーモジュール底面の切り抜き金属パターンの周縁部に、同パターンより約0.1mm突出する樹脂である樹脂スペーサーが複数個設置されていること、これにより、切り抜き金属パターンと熱放散部材が0.1mm程度離れるように構成され、その離れた部分に被告がショートによる誤作動等を防ぐための絶縁層兼接着層と主張する樹脂が充填されていることが認められる。

以上によれば、被告製品は、切り抜き金属パターンと熱放散部材に意図的に一定の間隔を設け、かつ、その間隔に樹脂の層が存在するようにしたものである。そうすると、被告製品は、切り抜き金属パターンとパワーモジュールの外部冷却手段が、互いに中間に隔てるものなく直につながることとは逆の方向を指向する構成を有するもので、上記の層の存在により、これらが中間に隔てるものなく直につながっているとはいえない。これらによれば、被告製品は、上記スペーサーの存在により、構成要件2C4の「直接接する」を充足しない。

(4)これに対し、原告は、①構成要件2C4の「直接接する」は、「切り抜き金属パターンを含む冷却面(28)」と「外部冷却手段」との間の熱伝達経路が短縮されるようにパワーモジュールの底面において切り抜き金属パターンが露出している構造を意味する、②被告製品における切り抜き金属パターンと熱放散部材の間に樹脂の層があっても、少なくとも樹脂スペーサーが設けられていない部分において切り抜き金属パターンが露出しており、当該層は上記冷却面と熱放散部材との間に存在する空気を排して熱伝導率を高め、両者の熱的接触をもたらすから物理的に直接接していると主張する。

上記①につき、構成要件2C4において「冷却面(28)」は「少なくとも一部が前記切り抜き金属パターンを含む」とされていて、切り抜き金属パターンが「冷却面(28)」となることが定められているといえる。しかし、上記構成要件は、その冷却面について、「外部冷却手段と直接接するように構成され」ると定めているといえ、それが外部冷却手段と「直接接する」ことを別の要件として定めているといえるのであるから、単に切り抜き金属パターンが露出して冷却面となることによって、直ちにそれが外部冷却手段と直接接していると解することはできない。また、上記②については、前記(2)のとおり、本件発明2は、従前の構成においても熱的接触があったことを前提として、それでは熱の経路が長くなるという課題を解決するために、切り抜き金属パターンと外部冷却手段とが直接接するという構成を採用したものである。このような本件発明2の課題とその解決手段に照らせば、原告の上記主張は採用することができず、被告製品が構成要件2C4を充足すると認めることはできない。

6.検討

(1)裁判所は、本件発明1の冷却フィンは熱放散ブリッジと後部軸受けによる壁面間に形成された冷却流体通路を流れる中心方向に向かって流れる流体に冷却される位置に設けられている、と解釈したようです。これに対して被告製品の冷却フィンは上側ベアリングの開口部に対向する位置に設けられているので軸方向に沿って流れる流体に冷却される構造であるので相違すると判断したように思えます。

(2)この本件発明1が請求項11だったので、てっきり請求項11が独立項だと思いましたが、実際は請求項1の従属項でした。判決文を読み進めると、被告は無効主張(乙1:特開平06-046547に基づく進歩性欠如)の中で、軸方向流体通路に相当する構成以外はすべて乙1文献に開示されていると主張していました。

(3)また、請求項11は、判決文にもあるように、請求項1記載の横方向に流体が流れる冷却流体通路に加え、軸方向に流体が流れる軸方向流体通路も構成要件となります。したがって、均等侵害を主張する場合、被告製品は本件発明1で冷却流体通路に設けられた冷却フィンを軸方向流体通路に設けるように置き換えた、というように受け止められると思います。一方、請求項1は軸方向流体通路がありません。したがって、被告製品は冷却フィンを設けた冷却流体通路を軸方向流体通路に置き換えた、というように受け止められると思います。どちらも置換の対象とするのは難しそうですが、流体通路の方がより難しそうです。これらを考慮して請求項11で訴訟を起こしたのではないでしょうか?

(4)本件発明2に関しては「当該モジュールの外部冷却手段と直接接するように構成され・・・冷却面(28)」という構成要件で「直接」接しているか否かが争点になりました。しかし、被告製品は切り抜き金属パターンと熱放散部材が0.1mm程度離れるように構成され、その離れた部分に樹脂が充填されているそうなので抵触とするのは困難だと思います。

(5)ところで、この「直接」という文言は権利化過程で補正により追加されたものではありません。つまり本件発明2の特許性に影響を与えない構成ということができると思います。どうしてこのような文言が入っているのか気になって国際公開公報をダウンロードしたところフランス語の出願ですがクレーム1に”contact direct”とありました。念のためEuropean Patent Officeのホームページで特許になったクレームの英訳をダウンロードしたところ”characterized in that the cooling face (28) of each power module (12) comprises … , the face being designed to be put into direct contact with cooling means external to the module”と書いてありました。これらからするとそもそも原出願に「直接」と書いてあったようです。

このような場合、日本の国内代理人がクレームを日本語へ翻訳する際に「直接」という文言が余計と感じても削除することができません。もし削除すると特許が無効になりかねません(PCT第46条)。したがって、日本に移行したオリジナルはそのまま「直接」を削除せずに権利化するしかありません。もしリスクを減らして「直接」を削除したい場合には、分割出願で「直接」の削除を試みるしかない、と思います。