台輪特許事件

投稿日: 2019/11/18 23:53:00

今日は、平成29年(ワ)第7576号 特許権侵害差止等請求事件について検討します。原告である城東テクノ株式会社は、判決文によると、スペーサ等の建材を製造販売する株式会社、被告である吉川化成株式会社は、プラスチック製品の製造販売等を目的とする株式会社だそうです。

 

1.検討結果

(1)本件は3件(本件第1特許、本件第2特許、本件第3特許)の特許権をもとに2種類の被告製品(被告第1製品、被告第2製品)を対象にした訴訟でした。これらのうち、被告第1製品が本件第1特許の本件第1発明の技術的範囲に属すること、及び、被告第2製品が本件第3特許の本件第3発明の技術的範囲に属することについては当事者間に争いがありませんでした。そのため争点となったのは被告第2製品が本件第2特許の本件第2発明の技術的範囲に属するか否かのみとなりました。

(2)本件第2特許及び本件第3特許については本件被告から特許無効審判が請求されましたが、いずれも本件訴訟中に請求不成立の審決が確定しており、本件訴訟では被告による無効主張はありませんでした。

(3)本件第2発明の内容は、布基礎とその上に構築される建造物との間に配置する台輪に関するものであり、この台輪は幅方向に貫通する換気孔、上下方向に貫通するアンカーボルト挿通用の長孔が設けられており、台輪の下部には延在方向に沿ってテーパが設けられています。

(4)被告による被告第2製品は本件第2発明の技術的範囲に属さない、という主張のポイントは以下の2点でした。1つ目は、被告第2製品の面取り部(テーパ部に相当)は本件第2特許明細書に添付された図5と比較すると小さいので、発明の作用効果を奏さない。2つ目は、現在の施工方法では建物の基礎に凸部が生じた場合には、グラインダーで除去するのが通常であること、基礎を構築するに当たってはセルフレベリング材が用いられていることから、そもそも基礎の凸部との干渉を防止するためにスペーサに面取り部(テーパ部)を設ける必要性はないので、作用効果を奏さない、というものでした。

(5)これに対して、判決では、1つ目の主張に対して本件第2発明ではテーパ部の寸法についての限定は無く、布基礎に形成される凸部として常に一定の大きさ以上のものが形成されるわけではないし、基礎の天端面の周縁部に何らかの凸部が形成されていれば、それと台輪本体との干渉を防止する必要が生ずるので、テーパ部を限定解釈する必然性が無い、と述べています。また、2つ目の主張に対して凸部を除去するのが通常であるとしても、そのような作業の手間を不要とすることが本件第2発明の作用効果であるから、これをもって被告第2製品が本件第2発明の作用効果を奏しないことの裏付けとなるものではなく、そもそも凸部を完全に除去するか否かは施工業者次第であるし、セルフレベリング材を使用したとしてもなお凸部が形成され、「硬化後の処理」として「型枠解体後に材料端部のバリを除去」する必要が生じ得るので、作用効果を奏さないとはいえない、と述べています。

(6)原告と被告の主張を読む限り、判決の内容はやむを得ないと思います。被告はテーパ部を設けた理由について製品を手に取った際に角部が手に当たらないよう面取りをし、安全性を確保するため、と述べていますが、主観的な目的は関係ありません。ただ、審査経緯を見ると、特許査定となったポイントはテーパ部を設けた点ですが、裁判所としてはそれだけで高額の損害賠償を認めづらいと考えたのか金額は抑制的に判断しているように思います。

(7)当初、判決の内容を読まずに本件第2特許明細書と別紙の被告第1・第2製品説明書だけ読んだ限りでは非侵害ではないか?と思いました。それは、製品説明書によると被告第2製品は樹脂製なので、てっきりこういった製品は製造過程において硬化した樹脂で形成された製品を型から抜き出しやすくするためにわずかにテーパ部を設けるものだと思ったためです(実際は(6)のとおり被告が安全のために面取りしたそうです)。そのため、もしも本件第2特許出願前から製造上面取りを設けざるを得ない場合にはどのように判断されるのか気になりました。

(8)被告は侵害訴訟が起こってから本件第2発明に対する特許無効審判を2回請求していますが、侵害訴訟では無効主張を行っていなかったようです。侵害訴訟で無効主張するが特許無効審判は請求しない、あるいは、特許無効審判を請求した後に侵害訴訟が起こされその中でも無効主張するというケースが多いので、比較的珍しい対応であると感じました。

2.手続の時系列の整理

(1)特許第3113831号(第1特許)

(2)特許第3870019号(第2特許)

(3)特許第4589502号(第3特許)

 

3.本件発明

(1)本件第1発明(特許第3113831号の訂正後の請求項1)

板状で、左右の2分体からなり、基礎パッキンと土台との間に介挿される基礎パッキン用スペーサにおいて、前記基礎パッキンの上面凹所と係合するために前記基礎パッキンの下面方向に出没可能な突出構成を含み、該突出構成は弾性により介挿時には没入すると共にセット時には前記上面凹所内に突出して前記上面凹所と係合するようにした基礎パッキン用スペーサ。

(2)本件第2発明(特許第3870019号の請求項1)

2A アンカーボルト(25)を介して結合される基礎(2)と該基礎(2)上に構築される建造物本体(9)との間に介在させるとともに、前記布基礎(2)の長手方向に沿って複数隣接して配置される台輪(1)において、

2B 前記基礎天端面(21)に該基礎(2)の長手方向に沿って配置される台輪本体(11)と、

2C 前記台輪本体(11)をその幅方向に貫通するようにして形成された換気孔(3)と、

2D 前記台輪本体(11)に上下方向に貫通し且つ、該台輪本体(11)の長手方向に細長い形状に形成されたアンカーボルト(25)挿通用のアンカー用長孔(4)とを備え、

2E 台輪本体(11)の下面縁部と、前記台輪本体(11)の側面縁部との間に下面または側面に対して傾斜するテーパ部(16)が前記台輪本体(11)の延在方向に沿って設けられていることを特徴とする


(3)本件第3発明(特許第4589502号の訂正後の請求項2)

3A 基礎上端に複数接続されて敷き込まれることで、基礎と基礎上に構築される建造物本体との間に介在される長尺板状に形成されたプラスチック製の台輪において、

3B 複数の台輪のそれぞれは、

前記基礎の長手方向に沿って配置される台輪本体と、

この台輪本体の長手方向の両端部にそれぞれ設けられた接続部とを備え、

3C 前記台輪本体の両端部の接続部には、それぞれ嵌合部と当該嵌合部に嵌合可能な形状の被嵌合部とが幅方向に並んで配置され、

3D 前記両接続部の嵌合部と被嵌合部は、長手方向に隣接する他の台輪本体の接続部の被嵌合部と嵌合部に幅方向へ移動しないようにそれぞれ嵌合して接続するように構成されており、

3E 前記嵌合部と前記被嵌合部との形成位置が前記台輪本体の長手方向の向きを逆にしても接続可能となっており、

3F 前記嵌合部は台輪本体の上下面に渡って形成された上下方向に延在する溝部を備え、

3G 前記被嵌合部は前記溝部に嵌る突部を備えることを特徴とする

3H 台輪。

4.被告製品

(1)被告第1製品

被告第1製品の構成は別紙「被告第1・第2製品説明書」の1のとおりであり、同製品は本件第1発明の技術的範囲に属する(当事者間に争いがない。)。

(2)被告第2製品

ア 被告第2製品の構成を本件第2発明の構成要件に即して分説すると、次のとおりである(当事者間に争いがない)。

2a アンカーボルトを介して結合される布基礎と建築物本体の間に介在し、布基礎の長手方向に沿って複数隣接されるスペーサである。

2b 布基礎天端面に布基礎の長手方向に沿って配置されるスペーサ本体を有する。

2c スペーサ本体を幅方向に貫通する複数の換気孔が穿設されている。

2d スペーサ本体に上下方向に貫通し、長手方向に細長く形成されたアンカー用長孔を有する。

2e スペーサ本体の下面縁部と、側面縁部との間に、下面及び側面に対し傾斜するテーパ部が、スペーサ本体の延在方向に設けられている。

2f スペーサである。

イ 被告第2製品は、本件第3発明の技術的範囲に属する(当事者間に争いがない。)。

5.争点

(1)被告第2製品は本件第2発明の技術的範囲に属するか(争点1)

(2)本件第1特許権の侵害による原告の損害額(争点2)

(3)本件第2及び第3特許権の侵害による原告の損害額(争点3)

(4)消滅時効の成否(争点4)

6.争点に関する当事者の主張

1 争点1(被告第2製品は本件第2発明の技術的範囲に属するか)について

(原告の主張)

(1)構成要件の充足

ア 構成の対比

被告第2製品の構成2a~2f(前記第2の2(4)イ(イ)a)は、それぞれ本件第2発明の構成要件2A~2F(同(3)ア)を充足する。

したがって、被告第2製品は、本件第2発明の技術的範囲に属する。

イ 被告の主張について

被告は、本件第2発明の構成要件2Eの「テーパ部」を限定的に解釈すべきであると主張する。

しかし、被告が指摘する本件第2特許明細書の図5の凸部の描写は一例にすぎず、これより小さくても本件第2発明の効果は奏するから、被告の上記主張には理由がない。被告第2製品のテーパ部(被告のいう面取り部)は、その形状や大きさに照らせば、構成要件2Eの「テーパ部」に相当する。

また、被告は被告第2製品のテーパ部は安全性の確保を目的としたものであるとも主張する。

しかし、そのような主観的な意図は構成要件充足性に関係しないし、当該製品では、角部全てにはテーパ部を設けていないから、このテーパ部は本件第2発明の効果を狙ったものである。

(2)被告第2製品が本件第2発明の作用効果を奏すること

ア 被告の後記主張は否認し、争う。被告第2製品は本件第2発明の構成要件を充足する以上、当然に本件第2発明の効果を奏する。

イ 凸部をグラインダー等で除去するかどうかは施工者次第であり、必ずその作業が行われ、周縁部の凸部が一切生じないことなどあり得ない。

また、フラット35の利用者は10%程度にすぎないから、被告の主張を一般化することはできないし、布基礎の厚みは150㎜以上であるとは限らない。布基礎と被告第2製品のようなスペーサーは、布基礎の中央部に設置されること(「芯芯」といわれる設置法)もあるが、布基礎の外側面とスペーサーの外側面を合わせる方法で設置されることもよくある(「外面合わせ」といわれる設置法)。この場合、布基礎の外側の周縁部の凸部と被告第2製品の外側のテーパ部が垂直方向で同じ位置となる。そうすると、テーパ部により凸部の干渉が避けられるという効果はごく一般的に奏される。

(被告の主張)

(1)原告の主張は否認し、争う。

(2)構成要件2Eの「テーパ部」の意義

本件第2特許明細書の図5に記載されている凸部22の寸法(高さ3mm、幅4mm)に鑑みると、被告第2製品のC面からなる面取り部(高さ1mm、幅2mm)は、凸部22との干渉を排除する効果が奏せられるものでない

したがって、構成要件2Eの「テーパ部」とは、布基礎の天端面周縁部に生じた凸部との干渉を排除する効果が認められるような大きさや形状のものを指すと限定的に解釈すべきである。

また、被告第2製品に面取り部を設けたのは、製品を手に取った際に角部が手に当たらないよう面取りをし、安全性を確保することを目的とする。そのため、被告第2製品の面取り部と本件第2特許明細書において開示されているテーパ部では、形状が大きく異なる。このことから、被告第2製品の面取り部は「テーパ部」に当たらない。

(3)被告第2製品には本件第2発明が想定する作用効果の奏功がないこと(作用効果不奏功の抗弁)

ア 本件第2発明は、布基礎の天端面周縁部に生じた凸部との干渉を排除する効果を奏するものとされている。

しかし、現在、建物の基礎に凸部が生じた場合には、グラインダー(サンダー)等で除去するのが通常であること、基礎を構築するに当たってはセルフレベリング材が用いられていることから、そもそも基礎の凸部との干渉を防止するためにスペーサに面取り部(テーパ部)を設ける必要性はない

さらに、独立行政法人住宅金融支援機構の融資(フラット35)の対象となる建物については、布基礎の立ち上がりの厚みは150mm以上とされており、これ以外の建物でも同様の厚みが採用される場合が多い。また、被告第2製品の横幅が102mm又は120mmであり、アンカーボルトが布基礎の中心部に設けられることからも、天端面周縁部を避け布基礎の中央部に被告第2製品を設置すること(「芯芯」)が一般的である。このため、たとえ天端面周縁部に凸部が生じたとしても、この場合には凸部との干渉を排除する効果は発揮されない。布基礎の厚みが150mm未満の場合も、墨出しのために、布基礎の上面全体が覆われないように幅102mmのスペーサが用いられるから、同様である。「外面合わせ」の方法が存在することは認めるが、「芯芯」の方法が主流であるし、「外面合わせ」の場合も、基礎の側面の延長線上ではなく、少なくとも数mm内側に位置するように設置されるのが一般的である。

以上より、そもそも被告第2製品の面取り部には凸部との干渉を排除する効果が発揮される機会はない。

イ 前述した被告第2製品の面取り部の大きさや形状に照らしても、凸部との干渉を排除する効果は認められない。

ウ 以上より、被告第2製品は本件第2発明の構成要件2A~2Fを形式的に充足するように見えても、本件第2発明が想定している作用効果は認められないから、同発明の技術的範囲には属しない。

2 争点2(本件第1特許権の侵害による原告の損害額)について

-省略-

3 争点3(本件第2及び第3特許権の侵害による原告の損害額)について

-省略-

4 争点4(消滅時効の成否)について

-省略-

7.裁判所の判断

1 争点1(被告第2製品は本件第2発明の技術的範囲に属するか)について

(1)被告第2製品が前記第2の2(4)イ(イ)a記載のとおりの構成を有することは、当事者間に争いがない。また、弁論の全趣旨によれば、被告第2製品は本件第2発明の構成要件2A~2D及び2Fを充足すると認められる。

(2)構成要件2Eの「テーパ部」の技術的意義について

本件第2特許明細書(甲2の2)には、本件第2発明の技術的意義について、次の記載がある。

ア 本件第2発明は、基礎上端に敷き込まれて、基礎と基礎上に構築される建造物本体との間に介在させる台輪に関するものである(【0001】)。

イ 従来、基礎上端に木質の床パネルを直接敷き込む際に、基礎上端の平坦面の確保、基礎上端の透水防止や換気効率化を図ることを目的として、換気孔が幅方向に貫通するようにして形成されている鋼材からなる台輪が提案されているが、この構成の台輪では、現場においてアンカーボルトが貫通できる穴をアンカーボルトの立設間隔に合わせて作っているため、実際に基礎に設けられたアンカーボルトの位置が予定していた位置と異なった際には、台輪に新たに穴を作ったり、別の台輪を用意したりしなければならず、若干の手間がかかっていた。本件第2発明の課題は、現場でアンカーボルト用の孔を設ける必要がなく基礎上に容易に設置できるとともに、基礎工事において換気口を設ける必要がない台輪を提供することである(【0004】~【0006】)。

ウ 本件第2発明は、以上の課題を解決するものであり、これによって、台輪本体が設置される基礎の構築工事の際に、基礎部分に換気孔を設ける必要がなく、その分の基礎工事の手間を簡略化することができるとともに、アンカー用長孔にアンカーボルトを挿通させ易く、アンカーボルトを挿入させた状態で台輪本体の長手方向の敷き込み位置を調整することができる(【0008】、【0046】、【0047】、【0051】、図1、図5、図8)(以下、この効果を「本件第2発明の効果1」という。)。

また、台輪本体を設置する布基礎の天端面に周縁に向かって上方に突出する凸部が形成されていても、台輪本体の延在方向に沿って設けられたテーパ部が凸部上方に位置するように台輪を配置することで、凸部を削る作業の手間を掛けずに、凸部に干渉されることなく、台輪本体を略水平な状態で布基礎の天端面に設置することができる(【0010】、【0011】、【0028】、【0044】、【0052】、図5、8)(以下、この効果を「本件第2発明の効果2」という。)。

(3)構成要件2Eの「テーパ部」の意義について

ア 本件第2特許の特許請求の範囲請求項1は、「テーパ部」につき、「台輪本体の下面縁部と、前記台輪本体の側面縁部との間に下面または側面に対して傾斜する」もので、「前記台輪本体の延在方向に沿って設けられている」とする。そこで、この記載から、「テーパ部」の形状は、台輪本体の下面又は側面に対して傾斜する形状であることが理解される。

また、本件第2特許明細書では、前記(2)で認定した記載があるとともに、【発明の実施の形態】として、「上面部材12及び下面部材13の長手方向の両縁部には、…それぞれ側面11a、11bまたは上下面に対して傾斜するテーパ部16が設けられている。テーパ部16はそれぞれ台輪1の延在方向に沿って形成され、台輪1の両側部をそれぞれ先細り形状とならしめている。テーパ部16と上下面との境部分は段差が形成されており、テーパ部16は上下面のそれぞれより台輪本体11の厚み方向内側に下がった部位から傾斜した状態となっている。…設置される基礎において台輪側部の下方に位置する部位に凸部が形成されていても、台輪本体はテーパ部16によってこれを逃げ、凸部が干渉しないように台輪本体11を設置できる。」(【0028】)との記載がある。さらに、図5及び8では、「テーパ部16」は、布基礎2の天端面21の凸部22の上方に、凸部22と接しないように配置された先細り形状のものとされている。

イ 前記認定の本件第2発明の技術的意義並びに「テーパ部」に係る請求項及び特許明細書の記載に照らせば、「テーパ部」は、台輪本体を設置する布基礎の天端面に上方に突出する凸部が形成されることがあることを踏まえて設けられたものであるところ、その凸部は基礎、特に布基礎を構築する際に、表面張力によって型枠の周縁に向かって上方に突出して形成されるものである(本件第2特許明細書【0010】)。そうすると、「テーパ部」は、台輪本体を基礎の天端面に設置するに当たり、台輪本体がその凸部に干渉しないような形状、すなわち、台輪本体の下面縁部と側面縁部との間に下面又は側面に対して傾斜させられたものであれば足りると解される

ウ これに対し、被告は、「テーパ部」とは凸部との干渉を排除する効果が認められるような大きさや形状のものを指すと限定的に解釈すべきであると主張する

しかし、本件第2発明に係る請求項に「テーパ部」の大きさ等に関する記載はなく、また、本件第2特許明細書にも、「テーパ部」の大きさ等を具体的に規定する記載は見当たらない。また、凸部が形成される理由ないし機序に照らせば、その凸部として常に一定の大きさ以上のものが形成されるわけではないし、基礎の天端面の周縁部に何らかの凸部が形成されていれば、それと台輪本体との干渉を防止する必要が生ずる。そうである以上、少なくとも「テーパ部」の大きさ(高さや奥行の長さ)が一定のものに限定されるべき必然性は認められない

被告は、本件第2特許明細書の図5の「テーパ部16」の大きさと被告第2製品のテーパ部(面取り部)の大きさの違いを指摘するが、図5は本件第2発明を適用した一実施形態の図面にすぎず、これをもって構成要件2Eの「テーパ部」の大きさを限定的に解釈すべきものとはいえない。

なお、被告は、被告第2製品の「テーパ部」は安全性確保の目的によるものとも主張するが、仮にそのような目的があっても、本件第2発明の技術的意義と両立し得ることなどから、被告第2製品の客観的な構成は本件第2発明の構成要件を充足する以上、この点については検討を要しない。

エ 以上より、構成要件2Eの「テーパ部」とは、台輪本体の下面縁部と側面縁部との間に設けられた下面又は側面に対して傾斜させられたものであれば足りる。この点に関する被告の主張は採用できない。

そして、被告第2製品のテーパ部(面取り部)は、「台輪」に相当するスペーサ本体の下面縁部と側面縁部との間に下面又は側面に対して傾斜させられたものであるから、構成要件2Eの「テーパ部」に相当すると認められる。

また、被告第2製品のテーパ部がスペーサ本体の延在方向に設けられていることは、前記認定のとおりである。

(4)被告による作用効果不奏功の抗弁について

ア まず、被告は、建物の基礎に凸部が生じた場合、これを除去するのが通常である、セルフレベリング材を用いると天端面周縁部に凸部が生じることはない、などと主張する

しかし、前記のとおり、本件第2発明は、台輪の天端面の周縁部に上方に突出した凸部が形成された場合に、これを削る作業の手間を掛けずに、凸部に干渉されることなく、台輪本体を略水平な状態で布基礎の天端面に設置することができるという効果(本件第2発明の効果2)を奏するものである。すなわち、凸部を除去するのが通常であるとしても、そのような作業の手間を不要とすることが本件第2発明の作用効果であるから、これをもって被告第2製品が本件第2発明の作用効果を奏しないことの裏付けとなるものではない

その点を措くとしても、凸部を完全に除去するかどうかは施工業者次第と認められるし(甲17)、セルフレベリング材を使用したとしてもなお凸部が形成され、「硬化後の処理」として「型枠解体後に材料端部のバリを除去」する必要が生じ得ることがうかがわれる(甲16、18、乙23)。そうである以上、被告の主張は、そもそもその前提を欠くことになる。

イ また、被告は、被告第2製品には幅が102mm及び120mmの製品があるところ、被告はこれを芯芯の方法により設置すると、凸部との干渉を排除する効果は発揮されないと主張する。

しかし、芯芯の方法により被告第2製品を設置することで被告第2製品が本件第2発明の効果を奏しないことがあり得るとしても、外面合わせの方法も現に行われ、この方法による場合は被告第2製品も本件第2発明の作用効果を奏し得るというのであれば、損害額算定に当たって推定覆滅事由として考慮されることはあるとしても、被告第2製品が本件第2発明の技術的範囲に属することを否定すべきことにはならない。

ここで、そもそも布基礎の厚みが150mmを下回る場合もあること、150mm以上の場合を含め、常に芯芯の方法により被告第2製品を設置するわけではなく、外面合わせの方法により設置する場合があることは、いずれも被告の自認するところである。また、外面合わせの方法による場合に、スペーサが基礎の側面の延長線上から少なくとも数mm内側に位置するように設置されるのが一般的であることを裏付ける的確な証拠はない。むしろ、証拠(甲17、18、乙23)によれば、実際の施工現場において、被告第2製品が基礎の側面の延長線上に設置されることがあり得ることは否定できないし、スペーサを基礎の側面の延長線上から数mm内側に設置した場合にも、バリ(凸部)との干渉が避けられないことがあることもうかがわれる。

そうすると、被告第2製品が本件第2発明の作用効果を奏することはないとは認められない。

ウ 以上より、この点に関する被告の主張は採用できない。

(5)そうすると、被告第2製品は構成要件2Eも充足する。

したがって、被告第2製品は、本件第2発明の技術的範囲に属する。

2 争点2(本件第1特許権の侵害による原告の損害額)について

-省略-

3 争点3(本件第2及び第3特許権の侵害による原告の損害額)について

-省略-

4 争点4(消滅時効の成否)について

-省略-