NC円テーブル事件

投稿日: 2017/09/08 23:13:17

今日は、平成26年(ワ)第4号 特許権侵害差止等請求事件について検討します。原告である株式会社日研工作所は、判決文によると、工具保持具、切削工具および治工具並びに工作機械周辺機器およびその付属品の製造販売などを目的とする株式会社だそうです。一方、被告である津田駒工業株式会社は、工作機械ならびに工作機械完成部品の製造販売などを目的とする株式会社だそうです。J-PlatPatで検索したところ、株式会社日研工作所はこれまでに101件の特許を取得しています。一方の津田駒工業株式会社は971件の特許を取得しています。

 

1.手続の時系列の整理(特許第3713190号)

① 原告が訴訟提起した年月日は特定できませんでしたが、事件番号からすると2014年の早い時期だと思われます。

② 2回訂正審判が請求されていますが、1回目は何らかの手違いがあったようで直ぐに取り下げられ、直後に2回目が請求されました。この2回目の訂正の内容を見ると請求項に係る特許発明の明りょう化や限定的減縮に相当すると判断されています。特に刊行物等は提出されていません。

2.特許の内容

【請求項1】

A 回転軸(5)の軸方向一端にワーク取付部を備え、駆動機構により回転軸(5)を回転させ、クランプ機構により所定回転角度で回転軸を固定する円テーブル装置において、

B 前記駆動機構は、回転軸(5)に設けたウォームホイール(11)と該ウォームホイール(11)に噛み合うウォーム軸(12)により構成されると共に、ウォーム軸(12)とウォームホイール(11)はオイルバス内に収納され、

C 前記クランプ機構は、

C1 前記ウォームホイール(11)に固着されたブレーキディスク(15)と、

C2 該ブレーキディスク(15)を軸方向の両側から解除可能に挟圧する固定側クランプ部材(20)及び可動側クランプ部材(21)と、

C3 可動側クランプ部材(21)を軸方向の固定側クランプ部材(20)側に加圧する流体圧ピストン(25)と、

C4 前記流体圧ピストン(25)を軸方向移動可能に嵌合させているシリンダ形成部材(31)と、

C5 該流体圧ピストン(25)と前記可動側クランプ部材(21)と前記シリンダ形成部材(31)との間に介在すると共に軸方向及び径方向に移動可能なボール(26)とカム面(28、29、40)よりなる増力機構とを、備え、

D 前記可動側クランプ部材(21)は、リターンばね(30)により、軸方向のアンクランプ側に付勢され、

E 前記増力機構は、

E1 ボール(26)を介してシリンダ形成部材(31)のテーパー面(40)に対向している流体圧ピストン(25)の第1段用テーパーカム面(28)のカム作用による第1段増力部と、

E2 ボール(26)を介してシリンダ形成部材(31)のテーパー面(40)に対向している可動側クランプ部材(21)の第2段用テーパーカム面(29)のカム作用による第2段増力部を有する

F ことを特徴とする円テーブル装置。

【請求項2】

G 前記流体圧ピストンは、回転軸を取り囲む環状に形成されている請求項1記載の円テーブル装置。


3.被告製品

(1)クランプ時

鋼球10の動きでクランプリング8が回転軸芯方向の正面部に前進し、クランプシリンダ12との間に隙間ができて、板ばね11が広がる(下記右図の8側にあるは、通し穴でボルトがこの中を通り、12側にあるは、ボルトの頭が入る穴が開けられており、は雌ネジがきってあるねじ穴を示す)。

(2)アンクランプ時

板ばね11が復元力をもって元の平板な状態に戻ろうとし、クランプリング8が回転軸芯方向の背面部に後退する。

(3)被告製品の増力機構相当図

クランプリング8の前記部分は、回転軸芯と直角な面として形成され、傾斜角度を有しない設計となっている。

4.争点

(1)被告製品は本件特許発明の技術的範囲に属するか(構成要件D及びE2の充足。争点1)

(2)本件特許発明につき無効理由が存するか(争点2)

(3)原告の損害(争点3)

5.裁判所の判断

5.1 争点1(被告製品は本件特許発明の技術的範囲に属するか)について

被告は、被告製品が構成要件A、B、C1〜5、E1、F及びGを充足することについて争うことを明らかにせず、構成要件D及びE2の充足性についてこれを争うことから、まずこの点について検討する。

(1) 構成要件D(「前記可動側クランプ部材(21)は、リターンばね(30)により、軸方向のアンクランプ側に付勢され、」)について

ア 原告は、被告製品の部材11がリターンばねに相当する旨主張し、被告は、被告製品にはリターンばねが存在しないとして争っているため、「リターンばね(30)」の意義について検討する。

イ 本件明細書には、次の記載がある(甲4、5、下線部は訂正による変更部分)。

-省略-

ウ 「リターンばね(30)」の意義

(ア)本件特許請求の範囲の記載「前記可動側クランプ部材(21)は、リターンばね(30)により、軸方向のアンクランプ側に付勢され、」(構成要件D)からすれば、リターンばねは、可動側クランプ部材21を軸方向のアンクランプ側に付勢する作用を有するものと解される。

(イ)被告は、さらに、明細書(【0014】、【0025】)の記載から、「リターンばね」は、クランプ部材20、21の間に縮設され、その反発力により可動側クランプ部材21をアンクランプ側に押した状態とするばねであり、「面28に当接した状態を保つ」ようにアンクランプ時において可動側クランプ部材21を、アンクランプ側に付勢し続けるものでなければならない旨主張する。

(ウ)本件明細書にはクランプ部材20、21の間に縮設されている旨の記載があるが(【0014】)、同記載は、【発明の実施の形態】(段落【0011】以下)として本件明細書図1の説明をしているものである(甲4、5)。本件特許発明の内容が当該実施形態のみに限定されるものではないこと、本件特許請求の範囲において、リターンばねについて場所の限定もないことからすれば、クランプ部材20、21の間に縮設されたものとの限定があるとまで解することはできない

(エ)また、本件明細書には、【0019】から【0025】段落に【作用】として図1による円テーブル装置の具体的な稼働状況が記載されており(甲4、5)、クランプを解除した際、「可動側クランプ部材21はばね30により矢印A2方向に押され、ボール25が回転軸芯側へ戻り、第1段用テーパーカム面28に当接した状態を保つ。」(【0025】)との記載がある。被告は、ボール25が面28に当接した状態にない場合、「強固にかつ確実に」回転軸を固定し、ワーク等の保持機能が向上するという効果を奏することができなくなるおそれがあるなどと主張する。

この点、本件特許発明は、これまでの油圧ピストンを備えた構造によると、高圧用のシール機構及びシール部材が必要となりコスト、メンテナンスの手間がかかることから(【0005】【発明が解決しようとする課題】)、空気圧のような低圧で使用する流体圧ピストンでも十分に回転軸をクランプできると共に、部品コスト及びメンテナンスコストが節約できるクランプ機構を提供することが目的とされている(【0006】)。流体圧ピストンとクランプ部材との間に、軸方向及び径方向に移動可能なボールとカム面よりなる増力機構を介在させていることにより、低い作動圧でも強固にかつ確実に、固定することができるという本件特許発明の効果は(【0027】【発明の効果】)、低圧で使用する流体圧ピストンによる2段の増力機構によるものである。このような軸方向及び径方向に移動可能なボールとカム面からなる増力機構が適切に動作するためには、クランプ後、ボールが移動可能となるように、クランプが確実に解除されることが必要であるといえるものの、上記本件明細書に記載されている課題、目的及び奏する効果からすれば、それ以上に、解除後のボールが可動側クランプ部材に常に当接していることが、当然に求められているとまでは認められない。

また、本件特許請求の範囲に常に付勢することが明示されていない以上、「面28と当接した状態を保つ」という本件明細書の記載により、リターンばねが常に付勢していなければならないとまで解することはできない

(オ)したがって、構成要件Dの「リターンばね(30)」は、可動側クランプ部材21を軸方向のアンクランプ側に付勢する作用を有すれば足り、構成要件Dの意味内容として、リターンばねの付勢により、ボール26が第1段用テーパーカム面28に当接した状態を保つことまでは必要でないと解される。

エ 被告製品の構成要件D充足性

(ア)被告製品の構成

証拠(甲15、17、弁論の全趣旨)によれば、次の事実が認められる。

a 被告製品は、クランプ機構を有する円テーブル装置であり、クランプピストンの回転軸芯方向力を機械的な増力機構で増力してクランプディスクを挟圧し、円テーブル装置の回転軸を停止保持させる装置である。その増力機構は、クランクピストン9、クランプシリンダ12及びクランプリング8との間にボール10を介在させて構成されている。

被告製品には、クランプリング8とクランプシリンダ12との間に、円環状の平板状の金属製ディスク(2枚重ね)である部材11が設置されており、部材11は、クランプリング8の軸方向下面部及びクランプシリンダ12の軸方向上面部に、ネジ通し穴を通じて交互にネジ止めされている。

b クランプ時には、クランプピストン9が軸方向に前進し、鋼球10の動きにより、クランプシリンダ12に対向するクランプリング8が回転軸芯方向の正面部に前進して、フレーム7との間で主軸と一体的に回転するクランプディスク6を挟圧し、その回転を停止するが、前進するクランプリング8と動かないクランプシリンダ12との間に隙間ができる。

そうすると、クランプリング8と結合している部材11は、ネジ止めしている部分が引っ張られる状態となるが、クランプシリンダ12とネジ止めされている部分はクランプシリンダ12に結合されたままの状態となるため、部材11は交互に引っ張られて拡がる状態となり、金属の弾性により復元力が働く。

アンクランプ時には、クランプピストン9が後退し、鋼球10による加圧がなくなれば、部材11が元の平板な状態に戻ろうとする復元力によって、クランプリング8が回転軸芯方向の背面部に後退し、クランプディスク6が挟圧より解放され、回転可能な状態となる

クランプディスク6の後退に伴って鋼球10も後退するが、部材11が平板な状態に復元し、クランプリング8と部材11、部材11とクランプシリンダ12がそれぞれ当接すれば、クランプピストン9がそれ以上に後退した場合に、鋼球10をクランプピストン9に当接させる力は働かない。

(イ)充足性の判断

上記のような被告製品の構成からすれば、部材11は、アンクランプ時に、クランプリング8を軸方向のアンクランプ側に付勢することから、構成要件Dの「リターンばね(30)」に相当するものといえ、「可動側クランプ部材に相当するクランプリング8は、リターンばねに相当する部材11により、軸方向のアンクランプ側に付勢され」ているということができるから、被告製品は、構成要件Dを充足する。

前記ウで検討したところによれば、被告製品が、アンクランプ時に、鋼球10がクランプピストン9に当接する状態を保つものでないことは、上記判断を左右するものではない。

(2)構成要件E2(「ボール(26)を介してシリンダ形成部材(31)のテーパー面(40)に対向している可動側クランプ部材(21)の第2段用テーパーカム面(29)のカム作用による第2段増力部を有する」)について

ア 原告は、被告製品におけるクランプリング8の鋼球10に接する面が、「可動側クランプ部材21」の「テーパーカム面(29)」に相当する旨主張するが、被告がこれを争うため、「テーパーカム面」の意義について検討する。

イ 後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

(ア)本件明細書には、次の記載がある(甲4、5)。

【0018】

シリンダ形成部材31のテーパー面40及び可動側クランプ部材21のテーパーカム面29は、回転軸芯と直角な面に対して、30°以下の緩やかな傾斜角度α2、α3となっており、また、ピストン25のテーパーカム面28のテーパー角α1も、30°以下の緩やかな傾斜角となっている。

(イ)「テーパー」とは、「円錐状に直径が次第に減少している状態。また、その勾配」であり、「カム」とは、「回転軸からの距離が一定でない周辺を有し、回転しながらその周辺で他の部材に種々の運動を与える装置」である(甲13、14)。

ウ 「テーパーカム面(29)」の意義

(ア)「テーパーカム面」の意義について、本件特許請求の範囲や本件明細書に具体的な記載はないところ、原告は、「テーパーカム面」は、不可分一体の用語であり、シリンダ形成部材テーパー面40と対向してセットになるカム作用を生じさせる面であり、傾斜角度がつけられていることは必須ではない旨主張するのに対し、被告は、「テーパー」で限定された「面」あるいは「カム面」である旨主張する。

(イ)原告は、本件明細書において、「テーパー面(40)」と、「カム面(28、29)」及び「テーパーカム面」は明確に書き分けられていると指摘し、「カム面」を、カム作用を生じさせる面であるとして、前記のとおり主張する。

しかし、構成要件C5は、「カム面(28、29、40)よりなる増力機構」と記載し(「40」は、訂正により加えられている。)、ボールを介した増力機構における面40、面28及び面29を「カム面」として同列に記載していることからすれば、原告が主張するような明確な書き分けがされているとまではいえない。

また、本件明細書において、面28、29及び40については「カム面」との用語を使用しながら、構成要件E2において「テーパーカム面(29)」との用語を使用しているということは、当該面それ自体が、「カム」としての性格または機能と「テーパー」としての性格または機能を有する趣旨と解するのが自然である。

(ウ)原告は、「テーパー」の意味として、ピストン側のボールと接する面(28)及び可動側クランプ部材の面(29)と、シリンダ形成部材との各2両面で勾配を形成していることのように主張する。

しかし、本件明細書には、回転軸芯と面28とのなす角度α1を「テーパー角」、「シリンダ形成部材31のテーパー面40及び可動クランプ部材21のテーパーカム面29は、回転軸芯と直角な面に対して30°以下の緩やかな傾斜角度α2、α3」となっている旨の記載があり(【0018】)、ボール26を囲む面の有する勾配については、回転軸芯ないしは回転軸芯と直角な面に対する勾配であることを前提としていることが認められるものの、複数の面の相関関係によって円錐状の勾配が形成されるとの意味で「テーパー」が用いられていると解し得る記載は存しない

そして、本件特許は回転軸芯を中心とした円テーブル装置であり、その構造に関する本件特許請求の範囲の記載を解釈するものであることをあわせ考慮すれば、「テーパー」とは、回転軸芯あるいは回転軸芯と直角な面を基準として、傾斜角度を有することと解するのが相当である。

この点、原告は、面29の回転軸芯と直角な面に対する角度(α3)が0°の場合も含む旨主張し、当業者の認識理解や、α3が0°の場合のみ除くのは不自然であることなどを指摘するが、上記「テーパー」の意義からすれば、原告の上記主張は採用できないというべきである。

(エ)前述のとおり、構成要件E2の「テーパーカム面」は、面29それ自体が、「テーパー」としての性格または機能と「カム」としての性格または機能を有すべきところ、前記イ(イ)によれば、「カム」の典型的機能は、回転運動を直線運動に変換することであるから、広義では、方向等を変換しつつ力を伝達する部材と解する余地がある。

また、上記検討したところによれば、「テーパー」は、回転軸芯あるいは回転軸芯と直角な面を基準として傾斜角度(0°を含まない。)を有するとの意味になる

エ 被告製品の構成要件E2充足性

以上を前提に、被告製品が、構成要件E2を充足するかにつき検討するに、前記認定によれば、クランプリング8の鋼球10と当接する面は、増力機構の一部として、鋼球10を介し、クランプピストン9の前進による力をクランプリング8に伝達するのであるから、カム面としての性質を有しているということはできる

しかしながら、被告製品において、クランプリング8の鋼球10と当接する面が回転軸芯と直角であること(α3=0°)は争いがなく(原告は、この面が傾斜している旨を主張するものではなく、この面の傾斜角度が0°であっても、テーパーカム面に該当する旨を主張する。)、「テーパー」について前記イのとおり解する以上、この面は「テーパーカム面」に該当せず、結局、被告製品は構成要件E2を充足しない。

(3)よって、被告製品は本件特許発明の技術的範囲に含まれず、被告製品の製造等が本件特許権の侵害にあたるとの原告の主張は理由がない。

6.検討

(1)本事件は非抵触として請求棄却されています。抵触性の争点となったのは構成要件DとE2です。これらのうち構成要件Dについては原告の主張が認められましたが、構成要件E2については被告の主張が認められ非抵触となりました。

(2)構成要件Dに記載の「リターンばね」ですが、被告はアンクランプ時だけでなく、明細書の記載を参酌してクランプ時における作用まで含む態様でなければならない、と主張しました。しかし、特許請求の範囲の記載をベースにした上でアンクランプ時の作用だけで十分に発明の効果を奏すると判断され、抵触であると判断されました。

(3)ところで、念のため「リターンばね」をネット検索したところ「リターンスプリング」という製品が見つかりました。これは自動車に用いられるダブルトーションバネのようです。被告製品の板バネとは異なる構造であり、仮に被告が明細書中で「リターンばね」は定義されておらず、一般的にはダブルトーションバネを指すものであり板バネとは異なる、と主張したらどうなっていたのか?と思います。もっとも工作機械メーカ業界では単に「リターンばね」といえば形状に関係なくクランプ部材を付勢するばね全般を指すという認識があったので被告が主張しなかったのかもしれませんが。

(4)あと、「カム作用」といった文言も上記の「リターンばね」と同じように別の機構の技術用語です。なんとなく用語が工作機械分野というよりも自動車技術分野寄りと思われます。気のせいかもしれませんが。

(5)構成要件E2に記載の「第2段用テーパーカム面」ですが、これは原告が技術開発中に切り捨てた構造だったのではないか?と思います。本件特許発明が原告の製品に適用されているのかわからないのですが、装置の最適化を求めて第1段増力部と第2段増力部両方を備えた構造としたのだと思いますが、その構成に至る過程で第1段増力部だけ(あるいはひょっとしたら第2段増力部だけ)という構成では性能が劣りそう、として検討から外した可能性があります。経験上、発明者(技術者)は最終製品の構想が固まってから特許出願を依頼してくることが多いのです。本来、発明は従来技術に対して1ステップ進歩していれば十分ですが、このような最終製品の形態では2ステップ、3ステップも進歩した形になっており、そのままの内容で出願すると、従来技術と発明との間の技術を押さえることができません。本件はそのような事案であったのではないか?と想像します。

(6)仮に出願時点で第2段増力部としての面にテーパー角が付いておらず0度であっても、第1段増力部だけでもある程度効果が見込める、あるいはその面とボールとの間の摩擦が第2段増力部として機能する、ということを想定できていれば、明細書中で「なお、この発明におけるテーパーは0度も含む」といった定義をすることで結果が変わっていたかもしれません。もっとも原告の主張によれば被告は本件特許の存在を知った上で製品を作っているようなので、その場合には被告製品自体存在しなかった可能性もありますが。