光配光用偏光光照射装置事件(その3)

投稿日: 2017/04/09 2:02:50

平成27年(ワ)第18593号 特許権侵害差止等請求事件の続きです。

今日検討を行うことでこの判例は終わりにします。

5.検討

(1)特許無効の判断について

本件発明の一番のポイントは二つのステージを設けた点です。ところが主引例である参考資料3にはこの肝心な点についての記載はありません。一方、甲第2号証には本件発明のポイントである二つのステージが設けられ、これらのステージは本件発明と同じ動きをする装置が記載されていますが、残念?なことにこの装置は光配向用偏光光照射装置ではなくスキャン露光装置です。

本来は本件発明のポイントが開示された文献を主引例にして、この主引例と本件発明との相違点を副引例で補いたいところです。しかし、この場合スキャン露光装置を主引例にしてしまうと進歩性の判断の基準となる当業者(本件発明は光配向用偏光光照射装置の技術の分野における通常の知識を有する者となります)が、本来的に詳しくはないであろうスキャン露光装置をベースに発想することになってしまうという不都合が生じます。そのため、主引例にはどうしても光配向用偏光光照射装置に関する文献を持ってこざるを得ません。これが本事件の無効主張の一番難しい点だと思います。

はっきり言ってしまえば、本件発明の内容を知らない当業者が参考資料3に甲第2号証を適用して本件発明と同じ構成に至るというストーリは「後知恵」臭が強くてあまり好きではありません。参考資料3は基本的には送り出しローラと巻き取りローラの間に光照射部が設けられているため本件発明とワークの形態や搬送機構が全く異なります。確かに矩形状のワークをワークステージ上に載せて直線移動させても良いとは書いてありますが、一つのステージ移動にするとローラで巻き取るものよりもスループットは劣るので、スループットの面からはこのような構成を選ぶことはありません。しかし、参考資料3でステージでも良いと書いてあるということは、そのような構成を採用する場合にはスループットは無視して採用するものと考えるべきと思います。したがって、スループットの悪いステージを採用しておきながら、スループットを向上させるためにステージを二つにするというのでは訳が分かりません。また、一方向だけでなくワークを往復移動させて、例えば光照射部20B→20A→20A→20Bのように偏光光を照射するようにしても良い、とも書いてあり、審判官もわざわざ引用していますが、これもローラタイプの搬送手段よりもスループットが悪くなると考えられます。

このように、本事件の主引例と副引例の組み合わせはスッキリしない点があります。ただし、最初に述べたように基板の搬送の点が発明のポイントであって引用例に同じ機構の装置が開示されているのに、加工の内容が異なるというだけで特許として認めるのはどうか?という感覚もわかります。

本当に難しい無効主張です。

(2)他の対抗手段の可能性について

本件特許の出願日が2013(平成25)年3月8日です。一方、判決文の中で原告は被告が平成26年中に、原告の日本国内における取引先一か所に被告製品2台を販売したと主張しています。また、ちょっと調べたところ、被告は2014(平成26)年12月22日に原告の特許を先行技術文献として挙げた2ステージ方式の偏光光照射装置の出願をしています。この内容をざっと読みましたがこの発明の通りの装置ならば原告の特許に抵触しないと考えます。おそらく原告の特許を回避した内容を出願したと思われます。したがって、これよりも前に被告は原告から警告されていた可能性が高いと思います。

そうすると、被告製品の開発はかなり早い時期から行われていたのではないか?と思われます。そのため、ひょっとしたら被告は先使用権を有する可能性があるのではないか?と思いました。

もっとも、本件特許は米国と中国にも出願されています。仮に被告が日本では先使用権を有していたとしても海外では役に立ちません。そのためにも特許を無効にする必要性に迫られたのかもしれません。

(3)摘発について

本事件も被告製品はユーザの工場内で使用されるものなので一般的には摘発困難だと思います。上述の通り原告の日本国内における取引先一か所に納入されていたので摘発できたと思われます。さらに原告の中国における取引先一か所に被告製品3台が納入されていたとの記述もありました。特許請求の範囲の記載からすると、被告製品が動いているところを見ることさえできれば本件発明に関係する構成と動作は確認できるので摘発できたのではないかと思います。