光配光用偏光光照射装置事件(その1)

投稿日: 2017/04/06 13:52:50

今日は平成27年(ワ)第18593号 特許権侵害差止等請求事件について検討します。本件の原告はウシオ電機株式会社、被告は株式会社ブイ・テクノロジーです。原告であるウシオ電機はだいたい年間200件以上出願しているようです。一方、被告であるブイ・テクノロジーは年間数十件程度出願しているようです。

本件は裁判所が抵触性に関する判断を行っていないこと、特許無効審判で訂正した請求項についても無効と判断されていることから、抵触性に関する検討は行わず、有効性に関する検討のみ行います。

本件特許は審査では拒絶理由無しのいわゆる一発登録であったにも関わらず特許無効審判では訂正しても無効と判断されています。しかも、その判断の根拠となる引用文献の中の主たる引用文献が特許査定時に参考文献として挙げられた文献です。

本件も2~3回程度に分けてのんびり投稿します。今回は特許の内容までです。

 

1.各手続の時系列の整理

① 本件特許は出願してから直ぐに早期審査請求した結果拒絶理由が発見されなかったとして直ぐに特許査定になっています。その間わずか4ヶ月です。

② 本件特許登録後に1年以上経過してから情報提供されています。特許出願は出願後1年6ヶ月経過後に出願公開され、実体審査で特許査定を受けてから特許公報が掲載されます。この実体審査を受けるためには、出願日から3年以内に出願審査請求する必要があります(3年以内に出願審査請求しなければ特許出願は取下げられたものとみなされます)。したがって、一般的には当該出願公開された特許出願に係る発明に関心を持つ第三者は出願審査請求されてから情報提供し、審査官による実体審査の参考にしてもらいます。しかし、本件特許のように出願直後に出願審査請求と早期審査請求がされて短期間で特許査定を受けた場合には出願公開されず、最初から特許公報が掲載されます。既に特許になっているので情報提供しても審査がやり直されるわけではありませんが、自分以外の第三者が特許無効審判を請求する際などに利用されることが期待できます。

③ 前述したように本件特許出願は審査段階で拒絶理由が発見されていませんでした。したがって、2015年以降の閲覧請求の大半は情報提供された刊行物を入手することを目的としていたと推測されます。

④ 2015年2月に特許無効審判が請求されています。この請求人は本事件の被告であるブイ・テクノロジーです。しかし、よく見るとウシオ電機が訴訟を提起する5か月も前に特許無効審判を請求しています。普通、いきなり何も関係ない第三者が特許無効審判を請求するとは考えにくいので、これよりも以前からウシオ電機とブイ・テクノロジーは当事者間の間で交渉していたと推測されます。

⑤ これまでの判例でもそうでしたが、一般的には特許権者が侵害訴訟を提起してから実施者が対抗手段として特許無効審判を請求します。本事件のように先に特許無効審判が請求されるのは比較的珍しいと言えます。当事者間の交渉からこのような流れになる理由はいくつか想像できますが、強力な特許無効の証拠を入手しているケースが考えられます。

 

2.特許の内容

本件発明の内容について訂正前の特許請求の範囲の記載に基づき説明します。

【請求項1】

設定された照射領域(R)に偏光光を照射する照射ユニット(1)と、

基板(S)が載置されるステージと、

照射領域(R)にステージを移動させることでステージ上の基板(S)に偏光光が照射されるようにするステージ移動機構(3)とを備えており、

ステージとして第一第二の二つのステージ(21、22)が設けられており、

ステージ移動機構(3)は、照射領域(R)の一方の側に設定された第一の基板搭載位置から第一のステージ(21)を照射領域(R)に移動させるものであるとともに、照射領域(R)の他方の側に設定された第二の基板搭載位置から第二のステージ(22)を照射領域(R)に移動させるものであり、

ステージ移動機構(3)は、第一のステージ(21)上の基板(S)が照射領域(R)を通過した後に第一のステージ(21)を第一の側に戻すとともに、第二のステージ(22)上の基板(S)が照射領域(R)を通過した後に第二のステージ(22)を第二の側に戻すものであり、

第一の基板搭載位置に位置した第一のステージ(21)と照射領域(R)の間には、第二のステージ(22)上の基板(S)が照射領域(R)を通過する分以上のスペースが確保され、第二の基板搭載位置に位置した第二のステージ(22)と照射領域(R)の間には、第一のステージ(21)上の基板(S)が照射領域(R)を通過する分以上のスペースが確保されていることを特徴とする光配向用偏光光照射装置。

【請求項2】

前記照射ユニット(1)は、前記第一第二の各ステージが往路移動する際と復路移動する際の双方において各ステージ上の基板(S)に偏光光を照射するものであることを特徴とする請求項1記載の光配光用偏光光照射装置。

【請求項3】

前記第一第二の各ステージには、搭載された基板(S)の向きを、照射される偏光光の偏光軸に対して所定の向きにする基板アライナーが設けられていることを特徴とする請求項1又は2記載の光配向用偏光光照射装置。

【請求項4】

前記ステージ移動機構(3)は、前記第一第二のステージ(22)の移動方向に沿ってガイド部材を備えており、このガイド部材は、前記第一のステージ(21)の移動のガイドと前記第二のステージ(22)の移動のガイドとに兼用されるものであることを特徴とする請求項1、2又は3記載の光配光用偏光光照射装置。

【請求項5】

請求項1乃至4いずれかに記載の光配向用偏光光照射装置を使用して基板(S)に光配向用の偏光光を照射する光配向用偏光光照射方法であって、

前記第一の基板搭載位置において前記第一のステージ(21)上に基板(S)を搭載する第一の基板搭載ステップと、

前記第二の基板搭載位置において前記第二のステージ(22)上に基板(S)を搭載する第二の基板搭載ステップと、

基板(S)が搭載された前記第一のステージ(21)を前記第一の基板搭載位置から移動させ、前記照射領域(R)を基板(S)が通過した後、前記一方の側に設定された第一の基板回収位置まで前記第一のステージ(21)を戻す第一の移動ステップと、

基板(S)が搭載された前記第二のステージ(22)を前記第二の基板搭載位置から移動させ、前記照射領域(R)を基板(S)が通過した後、前記他方の側に設定された第二の基板回収位置まで前記第二のステージ(22)を戻す第二の移動ステップと、

第一の基板回収位置において前記第一のステージ(21)から基板(S)を回収する第一の基板回収ステップと、

第二の基板回収位置において前記第二のステージ(22)から基板(S)を回収する第二の基板回収ステップと

を有しており、

第一の基板回収ステップ及び第一の基板搭載ステップが行われる時間帯は、第二の移動ステップが行われる時間帯と全部又は一部が重なっており、

第二の基板回収ステップ及び第二の基板搭載ステップが行われる時間帯は、第一の移動ステップが行われる時間帯と全部又は一部が重なっていることを特徴とする光配向用偏光光照射方法。

この発明の照射装置は、同一方向に移動可能な第一のステージ及び第二のステージと、これらの間に偏光光が照射される領域(照射領域)が設けられている。第一の基板搭載回収位置で基板を載せた第一のステージが照射領域を通過して、この照射領域と第二の基板搭載回収位置の間まで移動し戻る。そして、第二の基板搭載回収位置で基板を載せた第二のステージが照射領域を通過して、この照射領域と第一の基板搭載回収位置の間まで移動し戻る。このように二つのステージが交互に照射領域を通過する構成とすることでタクトタイムを削減できる。