ゲームソフト事件

投稿日: 2017/12/29 1:25:04

今日は、平成26年(ワ)第6163号 特許権侵害行為差止等請求事件について検討します。原告は株式会社カプコン、被告は株式会社コーエーテクモゲームスです。

 

〈検討結果〉

(1)特許第3350773号について

① 特許無効審判における審決は請求不成立(特許は有効)でしたが、地裁の判決では無効と判断されました。特許無効審判については本侵害訴訟の判決以前に知財高裁に審決取消訴訟が提起されています。本判決を受けて原告が知財高裁に控訴すれば、おそらく両事件について知財高裁でまとめて判断されると思います。

② 本件発明は、要は、シリーズ物のゲームの第1作のCD-ROMを所有した上で第2作を購入すると、第2作の標準ゲーム内容だけでなく、第2作のCD-ROMをゲーム機に挿入した後に第1作のCD-ROMを挿入することで拡張されたゲーム内容が提供されるというものです。

③ 本件訂正発明では「拡張ゲームプログラムおよび/またはデータは、・・・、ゲームキャラクタの増加および/またはゲームキャラクタのもつ機能の豊富化および/または場面の拡張および/または音響の豊富化を達成するためのゲームプログラムおよび/またはデータ」と定義されています。

④ これに対して公知発明1は「魔洞戦紀DDⅠから転送されたキャラクタの魔洞戦紀におけるレベルが16以上であるときには、そのキャラクタの勇士の紋章におけるレベルが最初から2となり、神殿で祈ると『ゆうけんしのしそん じゅんくよ。がんばるのだぞ。』とのメッセージが表示され、アイテム『くさのつゆ』及び『しろきのこ』が1つ増える」ものです。

⑤ 判決では公知発明1について「キャラクタの能力にバリエーションを与えるものであるから、キャラクタレベルの増加及びキャラクタのアイテムの増加であると認められる。また、上記のような動作機能は、「勇士の紋章」の標準のゲーム内容にはない動作機能であり、標準ゲームプログラム等とは異なるゲームプログラム等によって実現するものであるから、上記の動作機能を実現するためのゲームプログラム等は、拡張ゲームプログラム等であると認められる。」と認定しています。

⑥ しかし、特許請求の範囲に記載されているのは「ゲームキャラクタの増加」、「ゲームキャラクタのもつ機能の豊富化」、「場面の拡張」及び「音響の豊富化」なので、両者が同じと認定される説明が欲しいように思います。

⑦ また、公知発明1がRWMであるのに対してこれを「記憶媒体(ただし、セーブデータを記憶可能な記憶媒体を除く。)」に置き換えることについて、色々周知技術を用いて動機づけが存在するので容易に想到できる、としています。しかし、公知発明1を含む製品自体には容量上の問題が生じていないのに、当時のゲーム業界の流れが大容量化に向かっているという理由で、この製品のRWMをセーブができないROMに置き換えるという動機づけが存在する、との理屈にはどうしても違和感がつきまとうように思います。

(2)特許第3295771号について

① 特許無効審判における審決は請求不成立(特許は有効)で、地裁の判決でも有効と判断されました。特許無効審判については本侵害訴訟の判決以前に知財高裁に審決取消訴訟が提起されています。本判決を受けて被告(請求に比べ金額がだいぶ低いので原告も控訴する可能性が十分ありますが)が知財高裁に控訴すれば、おそらく両事件について知財高裁でまとめて判断されると思います。

② 本件発明は、要は、プレーヤがゲームキャラクタを操作中に、ゲームキャラクタに対してプレーヤが画面から視覚情報として認識できない事態が発生しそうになると振動により伝えるというものです。実施例ではプレーヤが視認できない地雷を例にして、ゲームキャラクタが地雷に近づくと振動が発生するようにしています。

③ これに対してロ号製品(ロ-1乃至3)はゲームキャラクタに対して霊がプレーヤが視認できない方向に存在することを振動で教えるというものです。

④ 本件発明の目的や実施例の内容とロ号製品の間には少しズレもあるように思われますが、特許請求の範囲の記載に基づくと構成を満たしているので間接侵害であると判断されました。間接侵害が認められるのは未だに珍しいので参考になるかと思います。

⑤ 私としては特許請求の範囲の「特定状況」という文言が気になります。どうもこの文言の定義が明細書を読んでも今一つわかりにくいように思いました。控訴した場合にもこの文言がメインの争点になるように思われます。

 

1.手続の時系列の整理

① 原告が侵害訴訟を提起した時点で特許第3350773号は存続期間が満了しており、特許第3295771号は満了直前でした。

② 特許第3350773号及び特許第3295771号は被告が請求した特許無効審判の審決に対する審決取消訴訟が提起されていますが、まだ判決が出ていません。特許庁の審判における審決はいずれも請求不成立(特許は有効)でした。

2.本件特許A(特許第3350773号)

2.1 本件発明A(特許第3350773号)

(1)本件訂正発明A-1

A´ ゲームプログラムおよび/またはデータを記憶するとともに所定のゲーム装置(S)の作動中に入れ換え可能な記憶媒体(ただし、セーブデータを記憶可能な記憶媒体を除く。)上記ゲーム装置(S)に装填してゲームシステムを作動させる方法であって、

B´ 上記記憶媒体は、少なくとも、

B-1´ 所定のゲームプログラムおよび/またはデータ(A)と、所定のキーとを包含する第1の記憶媒体(1)と、

B-2´ 所定の標準ゲームプログラムおよび/またはデータ(A2)に加えて所定の拡張ゲームプログラムおよび/またはデータ(A2‘)を包含する第2の記憶媒体(2)とが準備されており、

C´ 上記拡張ゲームプログラムおよび/またはデータ(A2‘)は、上記標準ゲームプログラムおよび/またはデータ(A2)に加えて、ゲームキャラクタの増加および/またはゲームキャラクタのもつ機能の豊富化および/または場面の拡張および/または音響の豊富化を達成するためのゲームプログラムおよび/またはデータであり、

D´ 上記第2のROM(2)が上記ゲーム装置(S)に装填されるとき、

D-1´ 上記ゲーム装置(S)が上記所定のキーを読み込んでいる場合には、上記標準ゲームプログラムおよび/またはデータ(A2)と上記拡張ゲームプログラムおよび/またはデータ(A2‘)の双方によってゲーム装置(S)を作動させ、

D-2´ 上記所定のキーを読み込んでいない場合には、上記標準ゲームプログラムおよび/またはデータ(A2)のみによってゲーム装置(S)を作動させることを特徴とする、

E´ ゲームシステム作動方法。

(2)本件訂正発明A-2

F´ ゲームプログラムおよび/またはデータを記憶するとともに所定のゲーム装置(S)の作動中に入れ換え可能な記憶媒体(ただし、半導体ROMカセットを除くとともに、セーブデータを記憶可能な記憶媒体を除く。)上記ゲーム装置(S)に装填してゲームシステムを作動させる方法であって、

G´ 上記記憶媒体は、少なくとも、

G-1´ 所定のゲームプログラムおよび/またはデータ(A)と、所定のキーとを包含する第1の記憶媒体(1)と、

G-2´ 所定の標準ゲームプログラムおよび/またはデータ(A2)に加えて所定の拡張ゲームプログラムおよび/またはデータ(A2‘)を包含するとともに所定の制御プログラム(B2)を包含する第2の記憶媒体(2)とが準備されており、

H´ 上記拡張ゲームプログラムおよび/またはデータ(A2‘)は、上記標準ゲームプログラムおよび/またはデータ(A2)に加えて、ゲームキャラクタの増加および/またはゲームキャラクタのもつ機能の豊富化および/または場面の拡張および/または音響の豊富化を達成するためのゲームプログラムおよび/またはデータであり、

I´ 上記第2の記憶媒体(2)が上記ゲーム装置(S)に装填され、かつ、上記所定のキーが読み込まれていないときのみに、この第2の記憶媒体(2)中の上記制御プログラム(B2)は、上記ゲーム装置(S)に他の記憶媒体を装填させるインストラクションを表示させ、

I-1´ このインストラクションにしたがって装填された他の記憶媒体が上記所定のキーを包含する上記第1の記憶媒体(1)である場合には、上記第2の記憶媒体(2)中の上記標準ゲームプログラムおよび/またはデータ(A2)に加えて上記拡張ゲームプログラムおよび/またはデータ(A2‘)の双方によってゲーム装置(S)を作動させ、

I-2´ 他の記憶媒体が装填されない場合または装填された記憶媒体が上記所定のキーを包含する上記第1の記憶媒体(1)でない場合には、上記第2の記憶媒体(2)中の上記標準ゲームプログラムおよび/またはデータ(A2)のみによってゲーム装置を作動させることを特徴とする、

J´ ゲームシステム作動方法。


2.2 公知発明

(1)公知発明1の構成(被告主張)

被告主張(下線部が原告主張との相違部分である。)

原告主張(下線部が被告主張との相違部分である。)

a ファミリーコンピュータとディスクシステムとテレビとから構成され、ディスクを用いてゲームを行うファミコンゲームシステムにおいて、セーブデータなどを記憶可能で、ゲームプログラムおよび/またはデータを記憶するとともにファミコンゲームシステムの動作中に入れ換え可能なディスクをディスクシステムに挿入して、ファミコンゲームシステムを作動させる方法であって、

b 上記ディスクは、RWMであって、

a’ファミリーコンピュータとディスクシステムとテレビとから構成され、ディスクを用いてゲームを行うファミコンゲームシステムにおいて、セーブデータなどを記憶可能で、ゲームプログラムおよび/またはデータを記憶するとともにディスクシステムの動作中に入れ換え可能なディスクをディスクシステムに挿入して、ファミコンゲームシステムを作動させる方法であって、

b’上記ディスクは、RWMであって、

b-1 魔洞戦紀のゲームプログラムおよび/またはデータと、魔洞戦紀にセーブされたキャラクタのレベルが21であることを示す情報とを包含する魔洞戦紀DDⅠと、

b-2 標準ゲーム機能部分を実行する標準ゲームプログラムおよび/またはデータに加えて、魔洞戦紀DDⅠから転送されたキャラクタの魔洞戦紀におけるレベルが16以上であるときには、そのキャラクタの勇士の紋章におけるレベルが最初から2となり、神殿で祈ると「ゆうけんしのしそん じゅんくよ。がんばるのだぞ。」とのメッセージが表示され、アイテム「くさのつゆ」及び「しろきのこ」が1つ増えるという動作機能を実行する拡張ゲームプログラムおよび/またはデータを包含する勇士の紋章DDⅡとが準備されており、

b-1’魔洞戦紀のゲームプログラムおよび/またはデータと、魔洞戦紀にセーブされたキャラクタのレベルが21であることを示す情報とを包含する魔洞戦紀DDIと、

b-2’標準ゲームプログラムおよび/またはデータに加えて、魔洞戦紀DDIから転送されたキャラクタの魔洞戦紀におけるレベルが16以上であるときには、そのキャラクタの勇士の絞章におけるレベルが最初から2となり、神殿で祈ると「ゆうけんしのしそん じゅんくよ。がんばるのだぞ。」とのメッセージが表示され、アイテム「くさのつゆ」及び「しろきのこ」が1つ増えるという動作機能を実行するように標準ゲームプログラムおよび/またはデータを置き換える置換ゲームプログラムおよび/またはデータを包含する勇士の絞章DDⅡとが準備されており、

拡張ゲームプログラムおよび/またはデータは、標準ゲームプログラムおよび/またはデータに対して、キャラクタのレベルの増加、またはキャラクタのためのアイテムの増加を達成するように形成されたものであり、

d 勇士の紋章DDⅡがディスクシステムに挿入されるとき、

c’置換ゲームプログラムおよび/またはデータは、標準ゲームプログラムおよび/またはデータに対して、キャラクタのレベルの置き換え、またはキャラクタのためのアイテムについての動作機能の置き換えを達成するように形成されたものであって、ゲームキャラクタの増加、ゲームキャラクタのもつ機能の豊富化、場面の拡張又は音響の豊富化のいずれも達成するようには形成されていないものであり、

d’勇士の絞章DDⅡがディスクシステムに挿入されるとき、

d-1 ファミリーコンピュータが、魔洞戦紀DDIから、キャラクタのレベルが21、すなわち16以上であることを示す情報を読み込んでいる場合には、標準ゲーム機能部分を実行する標準ゲームプログラムおよび/またはデータと拡張ゲーム機能部分を実行する拡張ゲームプログラムおよび/またはデータの双方によってファミコンゲームシステムを作動させ、

d-2 ファミリーコンピュータが、魔洞戦紀DDⅠから、キャラクタのレベルが16以上であることを示す情報を読み込んでいない場合には、標準ゲーム機能部分を実行する標準ゲームプログラムおよび/またはデータのみによってファミコンゲームシステムを作動させる、

d-1’ファミリーコンピュータが、魔洞戦紀DDIから、キャラクタのレベルが21、すなわち16以上であることを示す情報を読み込んでいる場合には、置換ゲームプログラムおよび/またはデータによって置き換えられた標準ゲームプログラムおよび/またはデータのみによってファミコンゲームシステムを作動させ、

d-2’ファミリーコンピュータが、魔洞戦紀DDIから、キャラクタのレベルが16以上であることを示す情報を読み込んでいない場合には、置換ゲームプログラムおよび/またはデータによって置き換えられていない標準ゲームプログラムおよび/またはデータによってファミコンゲームシステムを作動させる、

e ファミコンゲームシステム作動方法。

e’ファミコンゲームシステム作動方法。

(2)公知発明2の構成(被告主張)

被告主張(下線部が原告主張との相違部分である。)

原告主張(下線部が被告主張との相違部分である。)

f’ファミリーコンピュータとディスクシステムとテレビとから構成され、ディスクを用いてゲームを行うファミコンゲームシステムにおいて、セーブデータなどを記憶可能で、ゲームプログラムおよび/またはデータを記憶するとともにファミコンゲームシステムの動作中に入れ換え可能なディスクをディスクシステムに挿入して、ファミコンゲームシステムを作動させる方法であって、

g’上記ディスクは、

f’ファミリーコンピュータとディスクシステムとテレビとから構成され、ディスクを用いてゲームを行うファミコンゲームシステムにおいて、セーブデータなどを記憶可能で、ゲームプログラムおよび/またはデータを記憶するとともにディスクシステムの動作中に入れ換え可能なディスクをディスクシステムに挿入して、ファミコンゲームシステムを作動させる方法であって、

g’上記ディスクは、

g-1’魔洞戦紀のゲームプログラムおよび/またはデータと、魔洞戦紀にセーブされたキャラクタのレベルが21であることを示す情報とを包含する魔洞戦紀DDⅠと、

g-2’標準ゲーム機能部分を実行する標準ゲームプログラムおよび/またはデータに加えて、魔洞戦紀DDⅠから転送されたキャラクタの魔洞戦紀におけるレベルが16以上であるときには、そのキャラクタの勇士の紋章におけるレベルが最初から2となり、神殿で祈ると「ゆうけんしのしそん じゅんくよ。がんばるのだぞ。」とのメッセージが表示され、アイテム「くさのつゆ」及び「しろきのこ」が1つ増えるという動作機能を実行する拡張ゲームプログラムおよび/またはデータを包含するとともにメニュー制御プログラムを包含する勇士の紋章DDⅡとが準備されており、ここで、魔洞戦紀DDIからは、最大で3人まで、キャラクタを転送できるものとなっており、

g-1’魔洞戦紀のゲームプログラムおよび/またはデータと、魔洞戦紀にセーブされたキャラクタのレベルが21であることを示す情報とを包含する魔洞戦紀DDIと、

g-2’標準ゲームプログラムおよび/またはデータに加えて、魔洞戦紀DDIから転送されたキャラクタの魔洞戦紀におけるレベルが16以上であるときには、そのキャラク夕の勇士の絞章におけるレベルが最初から2となり、神殿で祈ると「ゆうけんしのしそん じゅんくよ。がんばるのだぞ。」とのメッセージが表示され、アイテム「くさのつゆ」及び「しろきのこ」が1つ増えるという動作機能を実行するように標準ゲームプログラムおよび/またはデータを置き換える置換ゲームプログラムおよび/またはデータを包含するとともにメニュー制御プログラムを包含する勇士の絞章DDⅡとが準備されており、ここで、魔洞戦紀DDIからは、最大で3人まで、キャラクタを転送できるものとなっており、

h’拡張ゲームプログラムおよび/またはデータは、標準ゲームプログラムおよび/またはデータに対して、キャラクタのレベルの増加、またはキャラクタのためのアイテムの増加を達成するように形成されたものであり、

i’勇士の紋章DDⅡがディスクシステムに挿入されるとき、勇士の紋章DDⅡ中のメニュー制御プログラムは、「まどうせんきのゆうけんし」とのメニュー項目をテレビの画面に表示し、さらにテレビの画面の「まどうせんきのゆうけんし」が選択されたときに、「まどうせんきのAメンをいれてください」とのインストラクションを表示させ、

h’置換ゲームプログラムおよび/またはデータは、標準ゲームプログラムおよび/またはデータに対して、キャラクタのレベルの置き換え、またはキャラクタのためのアイテムについての動作機能の置き換えを達成するように形成されたものであって、ゲームキャラクタの増加、ゲームキャラクタのもつ機能の豊富化、場面の拡張又は音響の豊富化のいずれも達成するようには形成されていないものであり、

i’勇士の絞章DDⅡがディスクシステムに挿入されるとき、勇士の絞章DDⅡ中のメニュー制御プログラムは、「まどうせんきのゆうけんし」とのメニュー項目をテレビの画面に表示し、さらにテレビの画面の「まどうせんきのゆうけんし」が選択されたときに、「まどうせんきのAメンをいれてください」とのインストラクションを表示させ、

i-1’「まどうせんきのAメンをいれてください」とのインストラクションにしたがって、勇士の紋章DDⅡに替えて挿入された他のディスクが、キャラクタのレベルが21、すなわち16以上であることを示す情報を包含する上記魔洞戦紀DDⅠである場合には、勇士の紋章DDⅡ中の標準ゲーム機能部分を実行する標準ゲームプログラムおよび/またはデータと拡張ゲーム機能部分を実行する拡張ゲームプログラムおよび/またはデータの双方によってファミコンゲームシステムを作動させ、

i-2’他のディスクが装填されない場合または勇士の紋章DDⅡに替えて挿入されたディスクが、魔洞戦紀DDⅠではない場合には、「まどうせんきのAメンをいれてください」とのインストラクションまたは、「DISK ERR 04」が表示されたままとなり、これらの場合には、勇士の紋章DDⅡ中の、標準ゲーム機能部分を実行する標準ゲームプログラムおよび/またはデータのみによってファミコンゲームシステムを作動させる、

i-1’「まどうせんきのAメンをいれてください」とのインストラクションにしたがって、勇士の絞章DDⅡに替えて挿入された他のディスクが、キャラクタのレベルが21、すなわち16以上であることを示す情報を包含する上記魔洞戦紀DDIである場合には、置換ゲームプログラムおよび/またはデータによって置き換えられた標準ゲームプログラムおよび/またはデータのみによってファミコンゲームシステムを作動させ、

i-2’他のディスクが挿入されない場合または勇士の紋章DDⅡに替えて挿入されたディスクが、魔洞戦紀DDIでない場合には、「まどうせんきのAメンをいれてください」とのインストラクションまたは、「DISK ERR 04」が表示されたままとなり、これらの場合には、勇士の絞章DDⅡ中の、置換ゲームプログラムおよび/またはデータによって置き換えられていない標準ゲームプログラムおよび/またはデータによってファミコンゲームシステムを作動させる、

j’ファミコンゲームシステム作動方法。

j’ファミコンゲームシステム作動方法。

 2.3 争点

(1)技術的範囲の属否等

ア 文言侵害の成否

イ 均等侵害の成否

ウ 間接侵害及び一般不法行為の成否

(2)無効理由の存否

(3)訂正の対抗主張の成否

(4)損害額

2.4 裁判所の判断

(1)争点(2)(無効理由の存否)について

事案に鑑み、まず争点(2)から判断する。当裁判所は、本件発明A-1の構成は公知発明1の構成と同一であり、本件発明A-2の構成は公知発明2の構成と同一であるから、本件各発明Aはいずれも新規性を欠くという無効理由が存在すると判断する。以下、詳述する。

ア 本件各発明Aについて

本件各発明Aは、家庭用ゲーム機などの情報処理装置を対象としたシステム作動方法に関し、より詳しくは、CD-ROMなどの高密度記憶媒体をソフトウェア供給媒体として使用する場合に好適なシステム作動方法に関する発明である(本件特許A明細書の【0001】)。

従来、家庭用ゲーム機の分野においては、ゲーム機本体を所有しているユーザを対象として、半導体ROMカセット等によってゲームソフトが供給され、ユーザは、ゲームソフトを家庭用ゲーム機本体に装着してゲームを楽しんでいたところ、ゲーム機本体の機能能力の限界、半導体ROMカセットの容量の限界等の理由により、ROMカセットは、その容量とユーザが入手可能な価格に見合ったゲーム内容(ゲームプログラム、データ等)を包含するにすぎなかった。しかし、最近になり、家庭用ゲーム機本体も32ビットのCPUを搭載した高速型が開発され、ゲームソフト供給媒体としても、その記憶容量が一般的に約500MBもあり、半導体ROMに比較して約100倍以上の容量を持つCD-ROMが採用されつつあるところ、ゲーム進行プログラム、制御プログラム等のプログラム及び映像データ、サウンドデータ等のデータを含んで構成されるゲームソフトを開発し、かつこれをCD-ROMに記憶させて供給することが技術的に可能であったとしても、そのゲームソフトの開発コストが高騰し、比較的低年齢層を対象とするユーザが1回に支払うことができる価格で供給することが困難となるという問題があった。そのため、シリーズ化された一連のゲームソフトを買いそろえていくことにより、豊富な内容のゲームを楽しむことができるようにすることが課題となっていた(同【0002】ないし【0008】)。

そこで、本件各発明Aは、別紙「構成要件目録A-1」及び同「構成要件目録A-2」各記載のとおりの技術的構成を取ることにより、ユーザにとっては、一回の購入金額が適正なシリーズもののCD-ROMを買いそろえていくことによって、最終的にきわめて豊富な内容のゲームソフトを入手したのと同じになる一方、メーカにとっては、開発コストが相当かかる膨大な内容のゲームソフトを、ユーザが購入しやすい方法で実質的に提供することができるようにした(同【0012】、【0013】、【0022】)。そして、好ましい実施形態は、記憶媒体をCDROMとする構成であり(同【0014】)、第2のCD-ROMに記憶される拡張したゲーム内容は、標準のゲーム内容に対し、ゲームキャラクタの増加、ゲームキャラクタの持つ機能の豊富化、場面の拡張、音響の豊富化等を達成するためのプログラムおよび/またはデータが含まれる(同【0017】)。もっとも、記憶媒体として、CD-ROMに代えて、フロッピーディスク、ハードディスク、光磁気(MO)ディスクを使用してもよいとされている(同【0042】)。

また、本件発明A-2は、以上に加え、第2の記憶媒体がゲーム装置に装填されるとき、第2の記憶媒体中の制御プログラムに他の記憶媒体を装填させるインストラクションを表示するものである。

イ 公知発明について

(ア)公知発明1及び2の構成

本件特許Aの出願日(平成6年12月9日)前に発売されていたファミリーコンピュータ(昭和58年発売、乙A5の3)、ファミリーコンピュータディスクシステム(昭和61年2月21日発売、乙A6の2)、ゲームソフト「魔洞戦紀」(DOGから昭和61年12月19日発売、乙A3の2)、ゲームソフト「勇士の紋章」(昭和62年5月29日発売、乙A3の4)及びテレビ(平成6年12月9日より前から発売されていたことは公知の事実である。)を用いて実現されるゲームシステム(本件ゲームシステム、乙A2の図1及び図2参照)の内容は、別紙「ディープダンジョン説明書」記載のとおりであると認められる(乙A2ないしA10、A13)。そして、この本件ゲームシステムを本件発明A-1及び本件発明A-2に即して説明すると、本件発明A-1に対応する発明として別紙「公知発明1の構成(被告主張)」、本件発明A-2に対応する発明として別紙「公知発明2の構成(被告主張)」各記載のとおりであると認められる。

(イ)(ア)の認定の補足説明

a 構成a、f

原告は、ディスクシステムの動作中にディスクの入れ替えが可能であることを前提とする構成を主張する。しかし、ディスクシステムの動作中はディスクへの読み書きが行われることがある(乙A4の1・9枚目)ため、ディスクの入れ替えが可能であるとすることは適切ではないから、原告の上記主張は採用できない。

b 構成b-2、c、d、d-1、d-2、g-2、h

原告は、標準ゲーム内容を「置き換え」たり「変化」させたりするものは、「拡張ゲームプログラムおよび/またはデータ」(以下、「プログラムおよび/またはデータ」については「プログラム等」と略称する。)には該当しないことを前提として、「勇士の紋章」において、キャラクタがレベル2からスタートできるようにすること、神殿で祈ることで回復アイテム(「くさのつゆ」及び「しろきのこ」)を取得できるようにすることは、標準ゲームプログラム等の単なる置き換えであってゲーム内容を拡張するものではなく、本件ゲームシステムはキャラクタレベルの増加やキャラクタのためのアイテムの増加を有さず、本件ゲームシステムは拡張ゲームプログラム等を有しないなどと主張する

しかし、「勇士の紋章」の標準のゲーム内容であればレベル1からスタートするキャラクタのレベル(乙A4の2・12枚目、乙A8の1・8頁)をレベル2からスタートできるようにし(乙A4の1・8枚目)、それにより標準のゲーム内容であればGOLD(ゴールド)というゲーム内における金貨で支払わなければ取得できない回復アイテム(乙A4の1・14枚目、乙A4の2・9枚目)を神殿で祈ることで取得できるようにすること(乙A9・2頁、乙A10・3頁)は、キャラクタの能力にバリエーションを与えるものであるから、キャラクタレベルの増加及びキャラクタのアイテムの増加であると認められる。また、上記のような動作機能は、「勇士の紋章」の標準のゲーム内容にはない動作機能であり、標準ゲームプログラム等とは異なるゲームプログラム等によって実現するものであるから、上記の動作機能を実現するためのゲームプログラム等は、拡張ゲームプログラム等であると認められる。したがって、原告の上記主張は採用できない。

ウ 本件各発明Aと公知発明の対比

(ア)本件発明A-1と公知発明1の対比

上記で認定した公知発明1によれば、①「ファミリーコンピュータとディスクシステムとテレビ」は、本件発明A-1の「ゲーム装置」に相当し、②「魔洞戦紀DDⅠ」は本件発明A-1の「第1の記憶媒体」に相当し、③「勇士の紋章DDⅡ」は本件発明A-1の「第2の記憶媒体」に相当し、④「勇士の紋章」の標準ゲーム機能部分を実行する標準ゲームプログラムおよび/またはデータ」は、本件発明A-1の「標準ゲームプログラムおよび/またはデータ」に相当し、⑤「『魔洞戦紀』にセーブされたキャラクタのレベルが21であることを示す情報」ないし「『魔洞戦紀』にセーブされたキャラクタのレベルが21、すなわち16以上であることを示す情報」は、本件発明A-1の「所定のキー」に相当し(以下、所定のキーは後者のみで表記する。)、⑥「魔洞戦紀DDⅠから転送されたキャラクタの魔洞戦紀におけるレベルが16以上であるときには、そのキャラクタの勇士の紋章におけるレベルが最初から2となり、神殿で祈ると『ゆうけんしのしそん じゅんくよ。がんばるのだぞ。』とのメッセージが表示され、アイテム『くさのつゆ』及び『しろきのこ』が1つ増える」ことは、本件発明A-1の「ゲームキャラクタのもつ機能の豊富化」に相当し、そのためのプログラム等は、「拡張ゲームプログラムおよび/またはデータ」に相当するから、本件発明A-1は、公知発明1と同一の構成であると認められる。したがって、本件発明A-1は新規性を欠く。

(イ)本件発明A-2と公知発明2の対比

上記の本件発明A-1と公知発明1の対比で述べたことと同様のことが妥当するほか、公知発明2の「勇士の紋章DDⅡがディスクシステムに挿入されるとき…『まどうせんきのAメンをいれてください』とのインストラクションを表示させ」ることは、本件発明A-2の「上記第2の記憶媒体が上記ゲーム装置に装填されるとき…上記ゲーム装置に他の記憶媒体を装填させるインストラクションを表示させ」ることに相当する(少なくとも、「まどうせんきのAメンをいれてください」との表示が「上記ゲーム装置に他の記憶媒体を装填させるインストラクション」に当たることは、争いがない。)から、本件発明A-2は、公知発明2と同一の構成であると認められる。したがって、本件発明A-2は新規性を欠く。

(2)争点(3)(訂正の対抗主張の成否)について

上記(1)のとおり、本件特許Aには無効理由が存在したことから、更に進んで、訂正の対抗主張の成否について検討すると、当裁判所は、本件訂正は適法であるが、本件訂正発明A-1及びA-2はいずれも進歩性を欠くため、本件特許Aには無効理由がなお存在すると判断する。以下、詳述する。

ア 訂正要件の充足性

-省略-

イ 本件各訂正発明の容易想到性

(ア)本件訂正発明A-1

a 公知発明1との相違点

先に認定した公知発明1と本件訂正発明A-1とを対比すると、以下の相違点があることは当事者間に争いがなく、その余の構成は一致していると認められる。原告は、他に相違点1-4ないし1-6の相違点があると主張するが、先に述べた公知発明1の認定に照らして採用できない。

(a)相違点1-1

本件訂正発明A-1は、「記憶媒体(ただし、セーブデータを記憶可能な記憶媒体を除く。)」であるのに対し、公知発明1は「セーブデータなどを記憶可能なディスク」(RWM-Read/Write Memory)である点。

(b)相違点1-3

本件訂正発明A-1の「第1の記憶媒体」は、セーブデータを記憶可能な記憶媒体を除くから、「所定のキー」はセーブデータを含まないのに対し、公知発明1では、魔洞戦紀DDⅠに包含される「所定のキー」が、魔洞戦紀DDⅠに記憶されたセーブデータであって、魔洞戦紀DDIにセーブされたキャラクタのレベルが21であることを示す情報である点。

b 相違点に係る構成の容易想到性

(a)認定事実

ⅰ 本件ゲームシステムに係る「ディスクシステム」について任天堂株式会社のホームページには、本件ゲームシステムに係る「ディスクシステム」について次の記載がある(乙A6の2)。

・ 「ファミリーコンピュータ(ファミコン)が誕生したのが1983年。日本中に一大ムーブメントを巻き起こし、ゲームが新たなエンターテインメントとして定着しつつあった1986年2月21日、その遊びを拡張するための周辺機器として『ファミリーコンピュータ ディスクシステム』が登場しました。当時ROMカセットしかなかったソフト媒体に、”クイックディスク”を基にしたディスクを起用。それまでのファミコンの概念に、新風を巻き込んだのでした。」

・ 「ディスクシステムには大きな特徴が3つあります。①ROMカセットを上回る大容量 ②価格を安価に抑えられる ③データのセーブ、保存ができる」

・ 「これらは、遊びの幅を拡げるうえで、大きな役割を果たしていました。いまでこそセーブ機能は当たり前ですが、当時はとても大きな革命だったのです。自分の遊んだ記録が保存できるということは、続けてゲームをしようという気持ちを喚起し…」、

・ 「ディスクシステム最大の特徴は『書き換え』にあります。ひとつの記憶媒体(ディスク)があれば、新作が出るたびにディスクを買い換えなくても、データを書き換えることによって別のゲームを楽しむことができるわけです。全国のおもちゃ屋さんなどの店頭には『ディスクライター』が置かれ、500円で別のゲームにデータを書き換えることが可能でした。」

・ 「ディスクシステムは当時の価格で15、000円。決して安いとは言えないものでしたが、400万台以上というセールスを記録。ハードの周辺機器として大きな成功を収めることとなります。

その後、ゲームの進化に伴いディスクシステムの容量ですらも限界が見え始めます。しかし、ディスクではこれ以上容量を上げることができない。ではどうしたら?という課題が出てきた時、ROMカセットの存在が再浮上。半導体業界が新たしいチップを開発し、ディスクを上回る容量を搭載することに成功。そして半導体の価格が急落し、原価を抑えながらも大容量のゲームが実現できることになりました。さらにセーブ機能までが付加され、ディスクの性能を行かしたソフトがなかなか現れなかったこともあり、だんだんと勢いを失っていきます。

このころになるとゲームの種類や内容も、飽和状態になりかけていました。開発側は大容量戦略を選択、グラフィックや音楽性の強化に力を注ぐことになります。容量アップによってゲームとしての幅を拡げようという流れへと、業界全体がシフトしていった時期でもありました。このような時代背景の中、ディスクシステムはその役目を終え、ふたたびROMカセットへとその座を譲り渡し、スーパーファミコンの登場により、その姿を消していくことになります。」

そして、年表においては、スーパーファミコンが誕生したのが1990(平成2)年11月21日とされている。

ⅱ MSX規格について

MSX規格のマシンは、昭和60年までに初代規格が発売され、昭和61年までにMSX2が発売された(乙A22の1、乙A29)。MSX規格のマシンでは、ROMカセットを使用し、昭和62年に発売された機種以降は、ROMカセットスロット2口とフロッピーディスクドライブ1口が設けられるのが標準的となり、2枚のゲームソフトを同時に装填することが可能となった(乙A21、乙A29)。

MSX規格用のゲームソフト「沙羅曼蛇」と「グラディウス2」は、コナミ株式会社からいずれも昭和62年に発売された(乙A20の2及び3)。そして、「沙羅曼蛇」と「グラディウス2」の双方のROMカセットを装填してゲーム装置を作動させたときには、「沙羅曼蛇」のROMカセットのみを装填してゲーム装置を作動させたときに比べて、「OPERATION X -WRATH OF VENOM-」という場面が追加される(乙A21の1・2)。

また、MSX規格用のゲームソフト「ファミスタ」は、株式会社ナムコから平成元年11月21日に発売され、同様のゲームソフト「ホームランコンテスト」がそれに先行して発売された(乙A16の1・2)。そして、ゲーム装置に「ファミスタ」のROMカセットを挿入し、「ホームランコンテスト」のフロッピーディスクをゲーム機とつないだフロッピーディスクドライブに装填してゲーム装置を作動させたときには、「ファミスタ」のROMカセットのみを装填してゲーム装置を作動させたときに比べて、ピンチヒッターとして1球団につき追加でプリセットされた2名の選手(ゲームキャラクタ)が増加される(乙A28)。

MSX規格用のゲームソフト「ぎゅわんぶらあ2」は、「ぎゅわんぶらあ」の続編として、株式会社ゲームアーツから平成元年4月21日に発売された(乙A17の1・2)。そして、「ぎゅわんぶらあ2」と「ぎゅわんぶらあ」の双方のROMカセットを装填してゲーム装置を作動させたときには、「ぎゅわんぶらあ2」のROMカセットのみを装填してゲーム装置を作動させたときに比べて、麻雀の対戦相手として「ぎゅわんぶらあ」でプリセットされたメンバーが追加されるとともに、「タコ討伐戦モード」というゲームが追加される(乙A30)。

これらのゲームソフトにおいては、前編のゲームソフトのROMカセットを一緒に装填した場合のみ、続編のゲームソフトの機能が追加されることから、前編のゲームソフトのROMカセットには、続編のゲームソフトの追加機能が開放されるためのキーとなる何らかのデータが記録されており、そのデータにはセーブデータは含まれていないと推認される。

ⅲ ゲームソフトの媒体とセーブ機能について

セイコーエプソン株式会社が平成4年10月7日に出願し、平成6年4月26日に出願公開された、名称を「テレビゲーム用の外部記憶装置」とする発明の公開特許公報(乙A25)には、「最近のテレビゲームのソフトはCD-ROMを媒体とするケースが増加している。そして、ゲームの途中結果を何らかの記憶装置に保存している。例えば半導体メモリー等がある」、「従来の記憶装置は半導体メモリーであり、CD-ROMとは別にテレビゲーム機本体に内蔵されていた。」という記載がある(【0001】、【0002】)。

また、株式会社セガ・エンタープライゼスが平成5年3月26日に出願し、平成6年10月7日に出願公開された、名称を「CD-ROMゲーム機」とする発明の公開特許公報(乙A24)には、「最近は、ゲーム内容や音楽効果をより多彩にするため、ROMカセットに加えて、さらにCD-ROMをプログラムROMとして使用するCD-ROMゲーム機が登場している。」という記載がある(【0002】)。

また、同社が平成6年11月22日発売した「セガサターン」では、ゲームソフトの媒体としてCD-ROMを用い、ゲーム機本体のバックアップRAMにセーブデータが保存された(乙A34)。

(b)検討

ⅰ 前記認定事実によれば、ゲームソフト業界においては、本件特許Aの出願前からゲームソフトの大容量化が進められており、ゲーム内容や音楽効果をより多彩にするためにゲームソフトの記憶媒体に大容量のCD-ROMを用いることは、本件特許Aの出願前の時点で周知技術であったと認められる。そうすると、ゲームプログラム等の記憶媒体としてCD-ROMを採用すること(相違点1-1)は、それ自体としては、当業者が容易に想到し得たものであるといえ、その場合には、CD-ROMは読出し専用の記憶媒体であることから、セーブデータを記憶できない記憶媒体であることになる(なお、CD-ROMも、ゲーム装置の作動中に入れ換え可能な記憶媒体である。)。

ⅱ もっとも、公知発明1のゲームプログラム等の記憶媒体として、RWM(ディスク)に代えてCD-ROMを採用することの容易想到性については、それにより所定のキーもセーブデータでなくなること(相違点1-3)から、別途の検討が必要であり、原告は、公知発明1のRWMをセーブデータを記憶できない読出し専用の記憶媒体に変更することには阻害要因があると主張する。

確かに、前記認定のとおり、公知発明1に係るディスクシステムは、ゲームのデータをセーブする機能を有するようになったことや、ディスクに書き込まれたゲームプログラムの書換えができることを大きな特徴としているから、公知発明1の記憶媒体をRWMからCD-ROMに変更したときには、これらの機能が損なわれることが想定される。

しかし、まず、公知発明1や前記のMSX規格の複数のゲームソフトの存在からすると、連作もののゲームソフトにおいて、続編のゲームソフトのみでもその標準ゲーム機能を楽しむことができるが、前編のゲームソフトを有しているユーザであれば、それに記録されたキー・データを用いて続編のゲームソフトの拡張ゲーム機能を楽しむことができるようにするという技術は、本件特許Aの出願前で、ゲームソフトの記憶媒体としてCD-ROMが普及する以前の、セーブ機能がないROMカセットの時代から既に当業者の間で周知であったと認められる(以下「上記の周知技術」という。)。そして、複数の大手ゲームソフト企業からその技術を採用したゲームソフトが発売されていたことからすると、その技術がゲームソフトを販売する上で有用であるとの認識が、当業者の間で共有されていたものと推認される。そうすると、ゲームソフト業界がソフトの大容量化を進める状況下で、ゲームソフトの記憶媒体として新たに普及してきたCD-ROMという大容量の記憶媒体についても、既に公知発明1や前記のMSX規格のゲームソフトにおいて採用されていた上記の周知技術を適用していくことについて、当業者には十分な動機付けがあったと認めるのが相当である。

ところで、証拠(乙8の4)によれば、公知発明1では、「まどうせんきのAメンを入れてください」との表示がなされた後、DDⅠではないベースボールゲームのディスクを装填すると、エラー表示がされると認められ、このことからすると、公知発明1における所定のキーである「キャラクタのレベルが21、すなわち16以上であることを示す情報」とは、①DDⅠが装填されたことを示すデータ情報及び②キャラクタ(じゅんく)のレベルが16以上(21)であるセーブデータであると認められる。そして、このうち①のデータだけをもって、「勇士の絞章」における標準ゲームプログラム等と拡張ゲームプログラム等の双方によってゲーム装置を作動させるための所定のキーとしても、連作もののゲームソフトにおいて、続編のゲームソフトのみでもその標準ゲーム機能を楽しむことができるが、前編のゲームソフトを有しているユーザであれば、それに記録されたキー・データを用いて続編のゲームソフトの拡張ゲーム機能を楽しむことができるようにするという上記の周知技術の効果を奏することに変わりはない。また、このように、後編のゲームソフトの拡張機能を開放するため前編のゲームソフトに記録されたキー・データを、セーブデータを含まないものとすることも、前記MSX規格の複数のゲームソフトにおいて採用されていた周知技術であると認められる。さらに、そもそも本件訂正発明A-1において、記憶媒体をセーブデータを含まないものに限定し、それに伴い所定のキーもセーブデータを含まないものとすることは、先に訂正要件について検討したとおり特段の技術的意義を有しないものである。これらからすると、当業者において、上記の周知技術をCD―ROMという記憶媒体に適用するという動機付けに基づき、公知発明1の所定のキーを上記の①のデータのみに変更し、セーブデータを含まないものとすることは、当業者が適宜選択可能な設計変更にすぎないというべきである。

もっとも、このような変更をする場合には、公知発明1からセーブ機能が失われることが想定されるとともに、DDⅡにDDⅠのキャラクタが記憶できなくなる。しかし、前記のMSX規格の「ファミスタ」と「ぎゅわんぶらあ2」では、セーブ機能がなくても、前編のゲームソフトにプリセットされたピンチヒッターやキャラクタが追加されることで上記の周知技術を実現していたのであるし、所定のキーをキャラクタが一定以上のレベルを有するものに限るか否かは、ゲームの難易度を適切なレベルに設定する等の観点から当業者が適宜設定できる条件にすぎないから、上記の周知技術をCD―ROMという記憶媒体に適用するという動機付けに基づき、公知発明1をそれらの「ファミスタ」等と同様に、キャラクタをプリセットのものとし、セーブ機能を有しないものとすることに阻害事由があるとはいえない。

また、セーブ機能を実現する手段については、前記認定のとおり、本件特許Aの出願日より前の段階で既に、半導体メモリー等の何らかの記憶装置やゲーム機本体のバックアップRAMに保存する技術が公知であったのであるから、記憶媒体にCD-ROMを採用するに当たり、CD-ROM以外に存在するバックアップ用の手段にセーブデータを記憶させておくようにすることにより、セーブ機能を備えるようにすることは、当業者が適宜考慮し得る設計事項であったというべきである。そうすると、公知発明1の記憶媒体をRWMからCD-ROMに変更をすることが直ちにセーブ機能の喪失を招くわけでもなく、この観点からも、そのような変更をすることに阻害事由があるとはいえない。

また、公知発明1の記憶媒体をRWMからCD-ROMに変更すると、公知発明1に係るディスクシステムが特徴とするゲームプログラムの書換え機能が失われることになる。しかし、前記のMSX規格のゲームソフトにおいては、ゲームプログラムの書換え機能なしに上記の周知技術を実現していたのであるから、上記の周知技術をCD―ROMという記憶媒体に適用するという動機付けに基づき、公知発明1をMSX規格のゲームソフトと同様に書換え機能のないものとすることに阻害事由があるとはいえない。

以上によれば、相違点1-1及び1-3に係る構成は、いずれも当業者が容易に想到することができたと認められる。

(c)小括

以上のとおり、本件訂正発明A-1は、容易に発明をすることができたから、進歩性を欠くという無効理由が存在する。

(イ)本件訂正発明A-2

a 公知発明2との相違点

先に認定した公知発明2と本件訂正発明A-2とを対比すると、以下の相違点があることは当事者間に争いがなく、その余の構成は一致していると認められる。原告は、他に相違点2-3、2-4及び2-6の相違点があると主張するが、先に述べた公知発明2の認定に照らして採用できない。

(a)相違点2-1

本件訂正発明A-2は、「記憶媒体(ただし…セーブデータを記憶可能な記憶媒体を除く。)」であるのに対し、公知発明2では、セーブデータなどが記憶可能なディスクである点。

(b)相違点2-2

本件訂正発明A-2の「第1の記憶媒体」は、セーブデータを記憶可能な記憶媒体を除くから、「所定のキー」はセーブデータを含まないのに対し、公知発明2では、魔洞戦紀DDⅠに包含される「所定のキー」が、魔洞戦紀DDⅠに記憶されたセーブデータであって、魔洞戦紀DDIにセーブされたキャラクタのレベルが21であることを示す情報である点。

(c)相違点2-5

本件訂正発明A-2は、「上記第2の記憶媒体が上記ゲーム装置に装填され、かつ、上記所定のキーが読み込まれていないときのみに、この第2の記憶媒体中の上記制御プログラムは、上記ゲーム装置に他の記憶媒体を装填させるインストラクションを表示させ」るのに対し、公知発明2では、「勇士の絞章DDⅡがディスクシステムに挿入されるとき、勇士の絞章DDⅡ中のメニュー制御プログラムは、『まどうせんきのゆうけんし』とのメニュー項目をテレビの画面に表示し、さらにテレビの画面の『まどうせんきのゆうけんし』が選択されたときに、『まどうせんきのAメンをいれてください』とのインストラクションを表示させ」るのであって、所定のキーが読み込まれていないときのみにインストラクションを表示させるものではない点。

b 相違点に係る構成の容易想到性

(a)相違点2-1及び2-2に係る容易想到性

上記各相違点に係る構成が、当業者が容易に想到することができたと認められることは、先に本件訂正発明A-1について述べたところと同様である。

(b)相違点2-5に係る容易想到性

本件訂正発明A-2における「インストラクション」は、第2の記憶媒体がゲーム装置に装填されたときに、ゲーム装置に所定のキーを記録した第1の記憶媒体を「装填させる」ものであり、公知発明2においては、「まどうけんしのAメンをいれてください。」との表示がそれに相当すると認められる。

この点について、原告は、公知発明2における、「まどうけんしのゆうけんし」とのメニュー項目の表示も上記の表示と併せて「インストラクション」に相当すると主張する趣旨と解されるが、同メニュー項目の表示は、勇士の紋章DDⅡを装填したときに、他のメニュー項目と並べて表示され、勇士の紋章DDⅡの標準ゲームを行うか、キャラクタの名前を登録するか、キャラクタの名前を消すか、魔洞戦記のキャラクタを使用するかを選択するよう指示しているにとどまり(乙A8の1の画面1-1b)、魔洞戦記DDⅠの装填を指示するものではない。他方、本件訂正発明A-2では、「インストラクション」は、「他の記憶媒体を装填させる」ものであり、本件特許A明細書でも、「ユーザに対して第1のCD-ROMの装填を促す」ものとされ、具体例でも、「○○シリーズの☆☆☆のCD-ROMをお持ちの場合は、ゲーム機に装填してください」というものであり(【0019】、【0036】)、単に遊ぶゲーム等の選択を促すものではないと解されるから、公知発明2におけるメニュー項目の表示は、「インストラクション」には相当しないというべきである。

そして、公知発明2での「まどうけんしのAメンをいれてください。」との表示は、所定のキーである「魔洞戦紀DDIにセーブされたキャラクタのレベルが21、すなわち16以上であることを示す情報」が読み込まれているときのみに表示されるものではないが、この表示をする目的が、ユーザに魔洞戦記DDⅠを装填させてゲーム装置に所定のキーを読み込ませる点にあることは明らかである。そして、ある行動をするよう指示することは、その行動をする必要がある場合にのみ意味があり、その行動をする必要がない場合にまで指示をすることが無意味であることは経験則上明らかであるから、上記の表示をする場合を、ユーザに魔洞戦記DDⅠを装填させてゲーム装置に所定のキーを読み込ませる必要がある場合に限ることは、当業者が適宜なし得ることである。したがって、公知発明2を、所定のキー(先に本件訂正発明A-1について述べたところのとおり、「DDⅠが装填されたことを示すデータ情報」と変更される。)が読み込まれていないときのみにインストラクションを表示させるよう変更することは、当業者が適宜なし得る設計事項というべきである。以上より、公知発明2において、他の記憶媒体を装填させるインストラクションを表示させるのが、所定のキー(セーブデータを除く。)が読み込まれていないときのみとすることは、当業者が容易に想到することができたと認めるのが相当である。

この点、原告は、本件訂正発明A-2では、インストラクションを所定のキーが読み込まれていないときに限定することにより、ユーザは、標準ゲームプログラム等のみのゲームをプレイするか、拡張ゲームプログラム等も併せたゲームのプレイをするかを適宜かつ容易に選択することができ、また、その前提として、ユーザが現在の状況を容易かつ的確に認識することができるのに対し、このような設計思想は公知発明2には開示されていないと主張する。しかし、上記のとおり、ある行動をするよう指示することは、その行動をする必要がある場合にのみ意味があることは経験則上明らかであり、そのようにすることは当業者が適宜選択すべき設計事項にすぎないから、原告の主張は採用できない。

したがって、相違点2-5に係る構成は、当業者が容易に想到することができたと認められる。

(c)小括

以上のとおり、本件訂正発明A-2は、容易に発明をすることができたから、進歩性を欠くという無効理由が存在する。

3.本件特許B(特許第3295771号)

3.1 本件発明B(特許第3295771号)

(1)本件発明B-1

A 遊戯者が操作する入力手段(24)と、

B この入力手段(24)からの信号に基づいてゲームの進行状態を決定あるいは制御するゲーム進行制御手段(26)と、

C このゲーム進行制御手段(26)からの信号に基づいて少なくとも遊戯者が上記入力手段(24)を操作することにより変動するキャラクタを含む画像情報を出力する出力手段(28)と

D を有するゲーム機を備えた遊戯装置であって、

E 上記ゲーム進行制御手段(26)からの信号に基づいて、ゲームの進行途中における遊戯者が操作している上記キャラクタの置かれている状況が特定の状況にあるか否かを判定する特定状況判定手段(32)と、

F 上記特定状況判定手段(32)が特定の状況にあることを判定した時に、上記画像情報からは認識できない情報を、上記キャラクタの置かれている状況に応じて間欠的に生じる振動の間欠周期を異ならせるための体感振動情報信号として送出する振動情報制御手段(33)と、

G 上記振動情報制御手段(33)からの体感振動情報信号に基づいて振動を生じさせる振動発生手段(1)と、

H を備えたことを特徴とする、遊戯装置。

(2)本件発明B-8

I 遊戯者が操作する入力手段(24)と、

J この入力手段(24)からの信号に基づいてゲームの進行状態を決定あるいは制御するゲーム進行制御手段(26)と、

K このゲーム進行制御手段(26)からの信号に基づいて少なくとも遊戯者が上記入力手段(24)を操作することにより変動するキャラクタを含む画像情報を出力する出力手段(28)と

L を有するゲーム機を備えた遊戯装置の制御方法であって、

M 上記ゲーム進行制御手段(26)からの信号に基づいて、ゲームの進行途中における遊戯者が操作している上記キャラクタの置かれている状況が特定の状況にあることを判定した時に、上記画像情報からは認識できない情報を、上記キャラクタの置かれている状況に応じて間欠的に生じる振動の間欠周期を異ならせるための体感振動情報信号として振動発生手段(1)に送出するようにしたことを特徴とする、

N 遊戯装置の制御方法。

3.2 ロ号製品(被告製品)の構成

3.3 争点

(1)技術的範囲の属否等

ア 文言侵害の成否

イ 間接侵害の成否等

(ア)特許法101条1号所定の間接侵害の成否

(イ)特許法101条4号所定の間接侵害の成否

(ウ)実施行為の惹起行為による不法行為の成否

(2)無効理由の存否

ア 新規性欠如の有無

イ 進歩性欠如の有無

(3)損害額

3.4 裁判所の判断

(1)争点(1)(技術的範囲の属否等)について

当裁判所は、被告が製造、販売していたロ号製品は、本件発明B-1の構成要件を全て充足するロ号装置の生産にのみ用いる物であるから、その製造販売は本件特許権Bの間接侵害を構成すると判断する。以下、詳述する。

ア 争点(1)ア(文言侵害の成否)について

(ア)本件発明B-1の意義

本件発明B-1に係る特許請求の範囲は、別紙「構成要件目録B-1」のとおりであるところ、本件特許権B明細書によれば、本件発明B-1の意義は、以下のとおりであると認められる。

すなわち、業務用ゲーム機や家庭用ゲーム機などを使用して行われるゲームとして、遊戯者の入力操作により移動するキャラクタ等が存在して遊戯者がそのゲームの進行に参加するように構成したものが実用化されているが(【0002】)、従来の遊戯者参加ゲームは、そのゲームの途中において自己に対応する仮想人物画像等の置かれている状況が変化した場合等に、ゲーム機専用のスピーカから音響が発せられるものが主流を占めているため、自己と他者とで勝負を決するようなゲームにおいては、上記スピーカから発せられた音響が自己だけでなく他者にも聞こえてしまうことになる(【0005】)。そのため、①ゲームの内容が全てオープンなものとなり、十分なスリル感を味わえなくなるばかりでなく、②音響が発せられることに起因して、自己のみが知っている情報に基づいて秘密のうちにゲームを進行させるといったことができなくなり、この種のゲームを製作する上での自由度ないし選択の幅が小さくなるという問題を有している(【0006】)。また、③ゲーム進行途中において発せられる音声や効果音のみによって、遊戯者にある程度の現実感や迫力を与えようとする手法では、遊戯者は聴覚および視覚だけでその雰囲気を味わうに留まり、より高度な現実感や十分な迫力等が得られず、娯楽性や面白さに欠けるという難点がある(【0007】)。そこで、本件発明B-1は、(1)ゲームの進行途中における自己の置かれている状況を、視覚及び聴覚以外の感覚をもって知得できるようにするとともに、(2)相手方に対して秘密状態の下でゲームを進行させることなどを可能にし、これによりゲーム製作上の自由度を増大させ、かつ高度な現実感や十分な迫力が得られる遊戯装置を提供することを目的とするものである(【0008】)。

そして、本件発明B-1によれば、遊戯者が入力手段を操作することにより、ゲーム進行制御手段からの信号に基づいて、出力手段(少なくともディスプレイ等)から時々刻々と変化する画像表示がなされてゲームが進行する中で、このようなゲームの進行途中におけるゲーム進行制御手段からの信号に基づいて特定状況判定手段が、遊戯者の置かれている状況、すなわち遊戯者により操作されている上記キャラクタの置かれている状況が、特定の状況にあるか否かを判定し、特定の状況にあることが判定された時点で、振動情報制御手段から振動発生手段に対して、画像情報からは認識できない情報が、体感振動情報信号として送出される。これにより、上記出力手段により画像として表示されていない内容が、所定の体感振動として上記振動発生手段に生じることになるため、遊戯者は、この振動発生手段を身体に接触させておけば、この時に生じる振動を体感的に知得して、ゲームの進行状態が特定の状況にあることを知得できるのに対して、他の遊戯者や周辺の見物人は、上記画像を見ているだけではその特定の状況を認識することができない。この結果、遊戯者は、周囲にその特定の状況を悟られることなく、自己のみが知り得る秘密の状態の下でゲームを進行していくことができるとともに、振動を体感的に知得できることにより迫力や現実感が増大することになる(【0022】ないし【0025】)。そしてまた、本件発明B-1は、上記の体感振動情報信号が振動を間欠的に生じさせるものであり、キャラクタの置かれている状況に応じてその間欠周期(発生周期)を異ならせるための信号が送出されるものである(【0042】、【0047】)。

(イ)ロ号装置の構成

a ロ-1ないし3号装置

ロ-1ないし3号製品は、プレイヤーが主人公(キャラクタ)の深紅を操って、廃墟となっている氷室邸内で、行方不明の兄を捜索するというゲームであるところ、屋敷の中には霊がおり、深紅に襲いかかってくることから、それを射影機(カメラ)で撮影し、霊の魂を吸収、撃退しながらゲームを進め、霊の攻撃を何回か受けて体力が0になるとゲームオーバーとなるというものである(甲B13の10、11頁)。

証拠(甲B6の2、甲B13、甲B21の各号、乙B29)によれば、ロ-1ないし3号製品中の「霊」のうち、怨霊と浮遊霊について、キャラクタが霊に接近したことがプレイヤーに伝達される方法には、①フィラメントの赤色点灯、②振動、③サウンド、④画面上の霊の描写があり、このうち①のフィラメントの赤色点灯は、キャラクタの視野270度以内で、霊との距離8m以内の場合に表示され、その範囲内から霊が存在しなくなった場合には非点灯となること、②の振動は、キャラクタの視野360度以内で、霊との距離8m以内の場合に生じ、生じる振動は間欠的に生じるものであり、キャラクタと霊の距離が近くなると間欠周期が短くなり、遠くなると長くなることが認められる。これによれば、キャラクタと霊との距離が8m以内で、画面上に霊が表示されておらず、キャラクタの視野270度以内にない(すなわち霊がキャラクタの後方に存在する)場合には、霊が近くにいることが画面情報から認識することができないが、間欠的な振動は生じており、そのまま霊がキャラクタに近づくと間欠周期が短くなり、遠ざかると長くなると認められる。また、霊やキャラクタは画面上を移動することから、一旦霊が画面上に表示されても画面外に消えることがあり、フィラメントが一旦点灯してもキャラクタの視野270度の外に霊が出れば非点灯となるが、その場合でも、上記の条件を満たす限り振動は続くこととなると認められる。

そして、実際、一旦霊が画面上に現れたり、フィラメントが赤色点灯したりした場合でも、その後に霊それ自体が表示されておらず、かつ、フィラメントが点灯していない場面において、キャラクタと霊との距離に応じて間欠周期の異なる間欠的な振動が発生することがあることは、甲B6の2(0:30から0:37など)、甲B21の1(0:56から1:00など)、甲B21の2(0:38から0:44など)において認められる。

この点について被告は、これらはキャラクタがあえて霊に背を向けて動く状況を意図的に作り出したもので、インターネット上にアップされた一般ユーザがプレイした動画では、霊やフィラメントによる画面情報からの視認ができない状況は限定的である(乙B30)と主張する。しかし、インターネット上にプレイの状況をアップするのは、ゲームに一定程度以上習熟した者であると考えられるところ、そのような者であっても振動によってのみ霊が近くにいることが分かる状況は限定的ながら存在するのであるし、ましてゲームに習熟していないユーザの場合には種々のプレイ状況が考えられるから、上記の甲号証において示されたプレイ状況が、極めて限定的に生じる状況ではあるにせよ、ロ-1ないし3号製品において通常想定されないものであるとはいえない。

そうすると、ロ-1ないし3号装置は、別紙「ロ号装置説明書1/零~zero~ ロ号装置説明書2/零~zero~(PlayStasion2 the Best)※2002年発売 ロ号装置説明書3/零~zero~(PlayStasion2 the Best)※2007年発売」<請求項1関係>の「ロ-1乃至3号装置の構成」欄記載のとおりの構成を備えることが認められる。

b ロ-4ないし6号装置

-省略-

c ロ-7ないし9号装置及びロ-7ないし9号方法

-省略-

(ウ)構成要件E、F、(G)の意義

上記(イ)のとおり、ロ号装置では、霊が近くにいる状況があれば、それが画面上認識し得ない場合でも、認識し得る場合でも、振動が発生することから、このようなものも、キャラクタの置かれている状況が「特定の状況にあることを判定した時に、上記画像情報からは認識できない情報を」「体感振動情報信号として送出する振動情報制御手段」を備えているといえるか(構成要件F、〔G〕)が問題となる。

a 構成要件E及びFの文言からすると、「体感振動情報信号」によって伝達される情報は、「画像情報からは認識できない情報」であり、その内容は、キャラクタの置かれている状況が「特定の状況にある」という情報であると解される。そして、「特定の状況」自体が「画像からは認識できない」ものである必要があると解する場合には、構成要件Fの「振動情報制御手段」は、特定状況判定手段が画像からは認識できない特定の状況にあることを判定した時に、その画像からは認識できない情報を、体感振動情報信号として送出するものであると解することになるから、ロ号製品は、霊が近くにいる場合に、そのことが画面から認識できないか否かにかかわらず振動を発生させる点で、構成要件Fを充足しないことになる。また、構成要件Fの「振動情報制御手段」は、「画像からは認識できない情報」のみを送出するものである必要があると解する場合も、同様である。

しかし、構成要件E及びFの文言上、「特定の状況」自体が「画像からは認識できない」ものであるとの限定や、「振動情報制御手段」が、画像からは認識できない情報「のみ」を送出するものであるとの限定は付されていない。また、本件発明B-1が、「遊戯者が入力手段を操作することにより…出力手段…から時々刻々と変化する画像表示がなされてゲームが進行する」ことを前提としている(【0022】)ことに照らせば、ある場面において画像情報から認識できる情報が、別の場面においては画像情報から認識できなくなる場合も当然に想定されることである。そして、ある場面において当該情報を画像情報から認識できる場合に体感振動情報信号が送出されるとしても、当該情報が画像情報から認識できなくなった別の場面においては、当該別の場面において当該情報に対応する状況が存在するか否かは画面から分からないのであるから、この場面で体感振動情報信号を送出することにより、「遊戯者は、周囲にその特定の状況を悟られることなく、自己のみが知り得る秘密の状態の下でゲームを進行していくことができるとともに、振動を体感的に知得できることにより迫力や現実感が増大する」(【0025】)との本件発明B-f1の作用効果をなお奏することに変わりはない。

したがって、「特定の状況」とは、「体感振動情報信号」として伝達すべき「情報」が存在する状況であれば足り、それ自体が「画像情報からは認識できない」ものである必要はなく、また、「体感振動情報信号制御手段」は、「画像情報からは認識できない情報」のみを伝達するものにも限定されず、構成要件E及びFの「体感振動情報信号制御手段」は、ゲーム中のある場面において、キャラクタが置かれている状況が特定の状況であることが画像情報からは認識できない状況下で、当該特定の状況にあることを判定した時に、その情報を体感振動情報信号として送出するものであれば足り、キャラクタが置かれている状況が特定の状況であることが画像情報から認識できる他の場面において、その情報を体感振動情報信号として送出するものであることを排除するものではないと解するのが相当である。

b これに対し、被告は、①構成要件Fは、体感振動情報をどのように送出するかという「制御」の手段及び方法に関する要件であり、その文言からも、画面情報から認識できる情報か否かとは無関係に、体感振動情報信号を送出する制御手段は含まれない、②ゲーム進行中、少なくとも他者に対して秘密にしておきたい状態等が存在する限り、常にその秘密状態が維持されなければ本件発明B-1の作用効果が奏されたことにはならない、③本件特許B明細書の実施例は、特定の状況にあることを判定した時に、いずれも画像情報からは認識できない情報のみを送出している、④原告は、出願過程において、請求項2等の「体感振動情報」について、請求項1及び8と同様に、画像情報からは認識できない情報であることに限定する補正をしていることから、「画像情報からは認識できない情報」は、あらゆる場面において画像情報からは認識できないものでなければならない旨主張する。

しかし、①についてみると、前記のとおり、ゲーム中のある場面において、キャラクタが置かれている状況が特定の状況であることが画像情報からは認識できない状況下で、当該特定の状況にあることを判定した時に、その情報を体感振動情報信号として送出するものであれば、キャラクタが置かれている状況が特定の状況であることが画像情報からは認識できる他の場面において、その情報を体感振動情報信号として送出するものであっても、そのような「制御」を行っていることに変わりはないから、上記のように解することが体感振動情報信号「制御」手段であることの妨げになるものではない。

また、②についてみると、上記のように解することがむしろ本件発明B-1の作用効果に沿うと解されることは、先に述べたとおりである。被告は、常にその秘密状態が維持されなければ本件発明B-1の作用効果が奏されたことにはならないと主張するが、それは、本件特許B明細書の実施例として記載されている地雷ゲーム(【0045】以下)のように、「特定の状況」の源となるもの(実施例では地雷)の存在や位置が変化しない場合には、ひとたび源(地雷)の位置が明らかになれば、それ以後は、その存在や場所の秘密状態が維持できなくなるという限りで妥当するにすぎず、その場合でも、秘密が露見するまでは本件発明B-1の作用効果を奏している。まして、本件特許B明細書では、「自己と他者とで勝負を決するようなゲーム」も想定されており(【0005】、ロ号製品もこのタイプである。)、この場合には「特定の状況」の源となるもの(この場合は対戦相手、ロ号製品では霊)の状況が変化することから、そのようなゲームの場合には、ある場面で秘密が明らかになったとしても、別の場面ではなお秘密性が維持される。したがって、作用効果の観点からも、被告の主張は採用できない。

次に、③についてみると、本件特許B明細書の実施例は、確かに、いずれも画像情報からは認識できない情報のみを送出している(【0045】、【0054】、【0056】等)。しかし、それらは地雷ゲーム及び宝箱ゲームといった、「特定の状況」の源となるもの(実施例では地雷や罠)の存在や位置が変化しない実施例にすぎず、上記の「自己と他者とで勝負を決するようなゲーム」も明細書で想定されており、その場合には、「特定の状況」の源と秘密性が場面により変化するから、実施例の記載をもって、本件発明B-1を画像情報からは認識できない情報のみを送出するものに限定する解釈は採用できない。

さらに、④についてみると、証拠(乙B4の各号)によれば、原告は、本件特許Bの出願過程において、請求項2が「上記危険な状態にない時には送出されない情報を、体感振動情報信号として送出する振動情報制御手段」とされ、請求項3が「上記有利な状態にない時には送出されない情報を、体感振動情報信号として送出する振動情報制御手段」とされていたのに対し、特許庁審査官が、乙B6公報には危険な状態での体感信号が記載され、昭63-174681公報(乙B7)には有利な状態での体感振動が記載されているとして拒絶理由通知を発したところ、請求項2については、「上記画像情報からは認識できない情報であって上記危険な状態にない時には送出されない情報を、体感振動情報信号として送出する振動情報制御手段」と補正し、請求項3については、「上記画像情報からは認識できない情報であって上記有利な状態にない時には送出されない情報を、体感振動情報信号として送出する振動情報制御手段」と補正した上で、意見書において、補正の趣旨は「請求項1、8と同様、画像情報からは認識できない情報であることを限定したものです。」と述べたことが認められる。しかし、この補正及び意見書の内容からすると、この補正は、単に、体感振動情報信号として送出するものを画像情報からは認識できない情報に特定したにすぎず、これを超えて、ある場面において画像情報からは認識できない情報が、別の場面において画像情報からは認識できる情報であれば、これを体感振動情報信号として送出する構成までを排除したと認めることはできない。

したがって、画像情報からは認識できない情報が、あらゆる場面において画像情報からは認識できないものでなければならないという被告の主張は採用できない。

(エ)ロ号装置の構成要件充足性

a 構成要件A

ロ号装置における「アナログコントロ-ラ(DUALSHOCK2)」が、構成要件Aにおける「入力手段」に相当するから、ロ号装置は構成要件Aを充足する。

b 構成要件B

ロ号装置における「アナログコントロ-ラ(DUALSHOCK2)からの信号に基づいてフィールドモードにおけるキャラクタの操作、ファインダーモードにおいて霊や背景を撮影する際の射影機の操作を行いゲームを進行させるゲーム進行制御手段」が、構成要件Bにおける「ゲーム進行制御手段」に相当するから、ロ号装置は構成要件Bを充足する。

c 構成要件C

ロ号装置におけるゲーム進行制御手段からの信号に基づいて遊戯者が上記アナログコントロ-ラ(DUALSHOCK2)を操作することによりゲーム空間内を移動するキャラクタを含む画像情報を出力する画像出力手段が、構成要件Cにおける「画像出力手段」に相当するから、ロ号装置は構成要件Cを充足する。

d 構成要件D

ロ号装置における「PlayStation2で遊戯するための機器一式」が、構成要件Dにおける「ゲーム機」に相当する。したがって、ロ号装置は、構成要件Dにいう「ゲーム機を備えた遊戯装置」であり、構成要件Dを充足する。

e 構成要件E

ロ号装置における「上記ゲーム進行制御手段からの信号に基づいて、フィールドモード及びファインダーモードにおいて遊戯者が操作している上記キャラクタの置かれている状況がキャラクタの近くに霊がいる状況にあるか否かを判定する状況判定手段」が、構成要件Eにおける「特定状況判定手段」に相当するから、ロ号装置は構成要件Eを充足する。

被告は、ロ号装置は、キャラクタが画面上の一定の領域に進行したこと等、画面情報から認識できる状況を契機として振動が開始するものであって、「画像情報から認識できない情報」たる「特定の状況」にあるか否かを判定したことにはならないと主張するが、「特定の状況」が「画像情報から認識できない」ものである必要がないことは前記のとおりである。また、ロ号装置が直接にはキャラクタが画面上の一定の領域に進行したこと等を判定するプログラムとされているとしても、ゲーム上、振動は霊が出現していることを示すものとして設定されているのであるから、一定の領域に進行したこと等をもって霊が近くにいることを判定しているというべきである。被告の上記主張は採用できない。

f 構成要件F

ロ号装置に係るゲームにおいては、キャラクタの近くに霊がいる状況にあることを画像情報からは認識できない場合に、キャラクタと霊との距離に応じて間欠周期の異なる間欠的な振動をアナログコントロ-ラ(DUALSHOCK2)に発生させる。したがって、ロ号装置は、「上記状況判定手段が上記所定の状況にあることを判定した時に、上記画像情報からは認識できないキャラクタの近くにいる霊の存在を、キャラクタと霊との距離に応じて間欠的に生じる振動の間欠周期を異ならせる(キャラクタと霊との距離が近づくにつれて、振動の間欠周期が短くなる)ための体感振動情報信号として送出する振動情報制御手段」を備えており、ロ号装置のかかる「振動情報制御手段」は、「上記特定状況判定手段が特定の状況にあることを判定した時に、上記画像情報からは認識できない情報を、上記キャラクタの置かれている状況に応じて間欠的に生じる振動の間欠周期を異ならせるための体感振動情報信号として送出する振動情報制御手段」に相当するから、ロ号装置は構成要件Fを充足する。

これに対し、被告は、キャラクタの近くに霊がいる状況にあることを画像情報からは認識できる場合であっても、キャラクタと霊との距離に応じて間欠周期の異なる間欠的な振動をアナログコントロ-ラ(DUALSHOCK2)に発生させるから、ロ号装置は構成要件Fを充足しない旨主張するが、上記(ウ)に照らせば、被告の主張は採用できない。

g 構成要件G

ロ号装置における「上記振動情報制御手段からの体感振動情報信号に基づいて振動を生じさせるアナログコントロ-ラ(DUALSHOCK2)」が、構成要件Gにおける「振動発生手段」に相当するから、ロ号装置は構成要件Gを充足する。

h 構成要件H

ロ号装置は、遊戯装置であるから、構成要件Hを充足する。

(オ)小括

以上によれば、ロ号装置は本件発明B-1の構成要件を全て充足する。

イ 争点(1)イ(ア)(特許法101条1号所定の間接侵害の成否)について

ロ号製品は、上記アのとおり、本件発明B-1の技術的範囲に属する遊戯装置であるロ号装置を構成するPlayStation2本体に装填してゲームを実行するためのゲームソフトであり、PlayStation2本体に装填してゲームを実行するためのゲームソフトである以上、PlayStation2本体に装填されて使用される用途以外に、社会通念上、経済的、商業的又は実用的な他の用途はない。したがって、ロ号製品は、ロ号装置の生産にのみ用いる物である。

そして、ロ号装置は、本件発明B-1の構成要件を充足するから、ロ号製品は、物の発明である本件発明B-1に係る物の生産にのみ用いる物であると認められる。

これに対し、被告は、ロ号製品が装填されたゲーム機が振動機能をOFFにした状態で使用されることがある(乙B5の1・2)から、ロ号製品は本件発明B-1に係る物の生産に「のみ」用いる物に当たらないという。しかし、ロ号装置が物の発明である本件発明B-1の各構成要件の構成を備えている以上、ロ号装置においてユーザが機器の振動機能を実際に使用するか否かは、ロ号製品が「その物の生産にのみ用いる物」に当たるか否かの判断を左右し得る事情ではない。

したがって、ロ号製品を製造、販売することは、特許法101条1号に基づき、本件特許権Bを侵害するものとみなされる。

(2)争点(2)(無効理由の存否)について

-省略-

(3)争点(3)(損害額)について

-省略-