遠近両用レンズの続き

投稿日: 2017/03/17 22:11:48

昨日投稿した遠近両用レンズの件の抵触性に考え方についてもう少し。

訂正請求して特許維持という判断になった請求項の一つに請求項8があります。この請求項の内容は以下のようになります。

【請求項8】

装用状態においてレンズの屈折面を鼻側領域と耳側領域とに分割する主注視線に沿って、比較的遠方視に適した遠用部領域と、該遠用部領域に対して比較的近方視に適した近用部領域と、前記遠用部領域と前記近用部領域との間において前記遠用部領域の面屈折力と前記近用部領域の面屈折力とを連続的に接続する累進部領域とを備えた累進屈折力レンズ(ただし、処方の球面度数=0かつ処方の乱視度数=0の累進屈折力レンズを除く)において、

累進面が外面に配置され、累進面を備えない処方面が内面に配置され、

レンズの透過光線における光学性能を補正するために形成された前記処方面は非球面形状を有し、

眼鏡フレーム内に設定された、前記遠用部領域の測定基準点である遠用基準点と前記近用部領域の測定基準である近用基準点の少なくとも一方の前記測定基準点において、前記処方面により発生する面非点隔差成分と処方度数の矯正に必要な球面またはトーリック面により発生する面非点隔差成分との差の絶対値の平均値が、レンズの度数を測定するための前記測定基準点を含む近傍の所定領域に亘って0.12ディオプター以下で、かつ0.00ディオプターより大きく、

前記所定領域は、前記測定基準点を原点としてレンズの水平方向への距離をx(mm)とし、前記測定基準点を原点としてレンズの鉛直方向への距離をy(mm)とするとき、座標(x,y)が

|(x+y1/2|≦2.50

の条件を満足する領域であることを特徴とする累進屈折力レンズ。

この「前記所定領域は、前記測定基準点を原点としてレンズの水平方向への距離をx(mm)とし、前記測定基準点を原点としてレンズの鉛直方向への距離をy(mm)とするとき、座標(x,y)が|(x+y1/2|≦2.50の条件を満足する領域」とは所定領域をどのように規定しているのでしょうか?

この部分だけ切り取ると、所定領域は測定基準点を原点とする半径2.5mmの円内の領域と読めます。しかし、前段を加えると所定領域に亘って絶対値の平均値(ΔASav)が0<ΔASav≦0.12(D)であることも条件になります。この条件は所定領域内であればどこでも0<ΔASav≦0.12(D)を満たすということだと思います。

そうすると、所定領域は測定基準点を原点とする半径2.5mmの円形の範囲内であって、かつ、その範囲のどこでも0<ΔASav≦0.12(D)を満たす領域、ということになりますが、これで本当に所定領域が定義されているのでしょうか?

もしも被告製品が測定基準点を原点として半径1mmの円形の範囲内で0<ΔASav≦0.12(D)を満たすが、その領域外では0.12<ΔASav(D)となる場合には当然この条件を満たさないことになります。

一方、被告製品が測定基準点を原点として半径5mmの円形の範囲内で0<ΔASav≦0.12(D)を満たす場合には一見するとこの条件を満たすように思えます。しかし、本件発明の前提は0<ΔASav≦0.12(D)を満たす領域を広くしすぎると光学性能が低下するので、この領域をむやみに広げてはいけないというものです。したがって、|(x+y1/2|≦2.50の2.50mmは所定領域の上限を規定していると考えなければ発明自体が矛盾してしまうということです。

つまり通常は「半径2.5mmの円形の範囲内」と書くと、「少なくとも半径2.5mmの円形の範囲内」と解釈するケースもありますが、本件の場合は「半径2.5mmの円形の範囲内のみ」しか認められないということになります。なんだかOpen ClaimとClosed Claimの話に似ています。