アイラッシュ施術台事件

投稿日: 2019/08/19 23:39:26

今日は、平成29年(ワ)第4311号 特許権侵害差止等請求事件について検討します。原告であるタカラベルモント株式会社は、判決文によると、理髪用椅子、美容用椅子、理容用器具及び美容用器具等、環境衛生機器の製造並びに販売等を目的とする株式会社だそうです。一方、被告である株式会社アイラッシュガレージは、まつ毛エクステンション・美容商材の卸販売、企画・開発・製造等を目的とする株式会社、株式会社ビューティガレージは、被告アイラッシュの親会社であり、理美容機器・用品、医療機器・用品の製造販売及び修理等を目的とする株式会社だそうです。

 

1.検討結果

(1)本件発明は、アイラッシュ等のアイメイクを施す施術台に関するもので、簡単に言うと、被施術者の頭部を載置する施術部の左右位置、もしくは左右位置及び上方位置に当たる場所に施術者の肘を固定可能な肘置き部を設け、さらにこの肘置き部が施術部の上方部に連結されて水平を軸にして施術部に対して回動可能であるようにした、というものです。

(2)侵害論における争点は抵触性だけで、特許の有効性に関しては争われていません。拒絶理由通知書で挙げられた引用文献を見ると、大部分がアイメイクとは異なる医療分野に関する文献だったので、この分野での類似の先行技術が少ないのかもしれません。

(3)侵害論で争点となったのは構成要件C「この肘置き部が前記施術部の上方部に連結され、水平を軸にして前記施術部に対して回動可能であることを特徴とする」でした。

(4)被告らの主張は、この構成要件Cが拒絶理由通知に対応して提出された補正書で追加された部分であり、【0018】段落及び図2、図3によると、肘置き部の「上方位置」は、「施術部の、それより上の部分」に存在しており、その背面に設けられた連結部である水平軸も、施術部に対して上に存在しているので、構成要件Cの「上方部」とは施術部に対して上と解釈すべきである、というものです。つまり、肘置き部が施術部に含まれる場所で連結される構成は含まれない、と主張しています。

さらに、構成要件B「前記施術部の周囲であって、載置される前記被施術者の頭部の左右位置、もしくは左右位置及び上方位置に、施術者の肘を固定可能な肘置き部を設け」に「上方位置」という文言があり、肘置き部が被施術者の頭部を含まないことは明らかであるから、ここでの「上方位置」は施術部を含まないのは明らかであり、特許請求の範囲で「上方」は同じ意味で解釈されるべきであるから、「上方部」も施術部に対して上であると、主張しています。

(5)これに対して、原告は、構成要件Bにおける「上方位置」には施術部が含まれない、という被告らの解釈と同様の解釈を示し、一方で、構成要件Cにおける「施術部の上方部」は、施術部そのものを除外して解釈しなければならない理由は存在しない、と主張しています。つまり、構成要件Bにおける「上方位置」と構成要件Cの「上方部」について施術部との位置関係において同じように解釈する必要はない、と述べています。

(6)裁判所は、判決文の中で最初から「上方位置」と「上方部」を別の文言として捉えているようでした。その上で、構成要件Bにおける「上方位置」については原告・被告らと同じのように施術部を含まない位置、との解釈を示しています。

そして、構成要件Cについては明細書の記載や発明の効果からすると、肘置き部は、施術の対象である被施術者の目の部分に近接する位置で、施術部に連結されると解するのが合理的であるとして、補正の際には「上方位置」と異なる意味で「上方部」を用いたと解され、構成要件Cの「施術部の上方部」は、施術部における上方部、すなわち、施術部の上下方向における略中心を想定し、それよりも上方の部分を指すと解するのが相当である、と認定しています。つまり、「上方部」には施術部が含まれる、と認定したことになります。

もっとも、補正の根拠となった図2、図3では、肘受け部の回転軸が、施術部の上縁より少し上方に存するように見えるが、これが実施例にすぎないことは本件明細書にも明示されているし、回転軸が、施術部の上縁に接する状態であれば、これも、施術部における上方部に、肘置き部が連結されているといえなくもない、と述べています。

(7)被告製品の写真を見れば被告らが反論するポイントは構成要件Cくらいしかないことがわかります。しかし、その補強に構成要件Bを使う必要は無かったように思います。被告らは結局のところ「上方位置」、「上方部」から「上方」だけを抜き出したうえで、構成要件Bでの「上方位置」の解釈を構成要件Cの「上方部」にも適用させようとしましたが、これは強引な印象を与えます。結果、原告が「上方位置」は被告らの主張通り施術部を含まないと認めたため、かえって「上方位置」と「上方部」とは異なる概念であるという捉え方が補強されてしまったように思います。

構成要件Cの解釈では構成要件Bを絡めず、あくまで出願経過における補正の根拠である図2、図3をもとにしての解釈で進めた方が良かったように思います。もっとも無効主張のネタが全くないのでは結果は変わらなかったかもしれませんが。

(8)本件訴訟では「上方位置」や「上方部」といった表現が問題となりました。請求項1と請求項3の内容からすると、請求項1に係るアイメイク施術台は背もたれが立った状態の椅子型であることがわかります。しかし、実際に被施術者にアイメイクを施す際には背もたれを倒したベッド型にする必要があり、本件発明もその状態で機能します。そうであれば、アイメイク施術台が機能を発揮するのはベッド型の状態ですから、請求項1は椅子型ではなくベッド型にした方が良いと思います。

そうすれば、「上方位置」や「上方部」という表現を使用する必要が無くなり、例えば、施術者との位置関係で表現することもできるので本件訴訟のような争点が発生しにくかったように思います。

(9)被告らが控訴するのかわかりませんが、この判決に基づき特許請求の範囲を解釈すると、本件発明を設計回避するのはそれほど困難ではないように思われます。

2.手続の時系列の整理(特許第5920790号)

3.本件発明

「本件発明1」

A 被施術者の頭部を載置する施術部(13)が形成されているアイメイク施術台において、

B 前記施術部(13)の周囲であって、載置される前記被施術者の頭部の左右位置、もしくは左右位置及び上方位置に、施術者の肘を固定可能な肘置き部(14)を設け

この肘置き部(14)が前記施術部(13)の上方部に連結され、水平を軸にして前記施術部(13)に対して回動可能であることを特徴とする

D アイメイク施術台。

「本件発明2」

E 前記肘置き部(14)は、クッション性を有することを特徴とする。

「本件発明3」

リクライニング機構が付与されていることを特徴とする。


4.被告製品(当事者間に争いのない構成)

a 被施術者の頭部を載置する施術部が設けられているアイラッシュ専用チェアにおいて、

b 前記施術部の周囲に、施術者の肘を固定することができるよう、載置される前記被施術者の頭部の左右位置から上方位置に連続し一体化された、左右方向に長い、横置きされたコの字状のリクライニングアームを設け、

d アイラッシュ専用チェアであり、

e 前記リクライニングアームは、クッション性を有しており、

f 前記アイラッシュ専用チェアは、リクライニング機構が付与されていることを特徴とする。

5.争点

(1)被告製品のリクライニングアームが本件発明の構成要件Cを充足するか。

(2)差止め・廃棄請求の必要性

(3)原告の損害額

6.争点に関する当事者の主張

1 争点(1)(被告製品のリクライニングアームが本件発明の構成要件Cを充足するか。)について

【原告の主張】

(1)構成要件Cの「施術部の上方部」の意義について

ア 構成要件Bの「上方位置」との対比

構成要件Bにおける「上方」及び構成要件Cにおける「上方部」は、いずれも本件明細書には定義されていないところ、用語の有する普通の意味としては「うえの方」を意味するものである。

ここで、構成要件Bは、肘置き部の位置を、「前記施術部の周囲であって、載置される前記被施術者の頭部の左右位置、もしくは左右位置及び上方位置」と特定しているから、「施術部の周囲かつ上方位置」とは、施術部が含まれない位置、すなわち、「施術部より上方」を意味することとなる

一方、構成要件Cにおける「施術部の上方部」は、施術部そのものを除外して解釈しなければならない理由は存在せず、「施術部の上方部」という記載からも、別紙原告図面のうち赤で示される部分、すなわち施術部上下方向における中央線よりも上の方(施術部も含む位置)を指すと解すべきである(以下、構成要件Cに係る原告の主張を、「施術部における上方部」と表記する。)

イ 出願経緯及び本件意見書の記載について

(ア)本件明細書の段落【0001】、【0005】ないし【0011】の記載によれば、本件発明はアイメイクにおける施術者の負担軽減を目的として構成要件B及び構成要件Cに係る構成を採用したものであり、肘置き部が水平を軸にして回動可能である構成とすることにより、施術者の好みに合った角度での肘の固定が実現し、特殊な技術パターン(施術者の手の動き)が必要となる際にも、これに対応した肘の固定が可能となって、一台で様々な施術を実施することができるものである。

そして、原告は、本件意見書において、施術部位が、被施術者の目尻、目頭、瞼、まつ毛、眉毛等であることから、肘置き部は、被施術者の頭部周辺で肘を支える部材として備えられ、施術部の上方部を基点として肘置き部を回動させることとした旨を記載した。

以上のとおり、本件明細書に記載された課題、課題を解決するための手段、発明の効果及び出願経過を参酌し、「施術部の上方部」を通常の語義に従って解釈すると、上記アの通り、施術部における上方部と解すべきことになる

すなわち、「施術部の上方部」との用語からすれば、施術部の上下方向における中央線より下の部位まで含むとは解釈できないし、施術部を含まない「施術部より上の位置」と限定して解釈する理由もない。そして、施術部を含む位置であると解釈した場合、施術部の上方部に肘置き部の回動の基点(軸)があれば、肘置き部がどのような角度に調整されたとしても、回動する範囲は施術部の周囲(頭部の左右位置、もしくは左右位置及び上方位置)において一定であるため、肘置き部が回動する範囲は、施術部位周辺に施術者が手を配置した際に、肘が配置される範囲と常に一致し、施術しやすくなるという効果を奏することは明らかである。

(イ)なお、本件意見書において、原告が、「引用発明2は、上記したとおり、ヘッドレスト33が傾倒するものであり、肘掛け34a、34bが個別に回動するものではありません。また、肘掛け34a、34bの取り付け位置は、ヘッドレスト33の左右方向です。」と記載したのは、乙13に、「本発明によれば、前記ヘッドレスト33には左右方向に略水平に張出された肘掛け34a、34bが設けられる。」と記載されていることから、当該記載との対比において左右方向であると主張したにすぎず、引用発明2との関係から上方かつ左右位置までを除外する意思であったと客観的に理解することは不可能である。また、引用発明2は歯科用治療台にかかる発明であり、アイメイク施術台である本件発明とはその技術分野を異にする。

ウ 被告らの主張について

被告らの主張は、理由もなく構成要件Cにおける「施術部の上方部」との記載を、「施術部より上方部」と読み替えるものであり、単に図面のみに基づき実施例限定解釈を行うものであって、特許法70条1項の規定に反し、理由がない。

また、被告らは、本件補正が、本件明細書の【図2】及び【図3】を根拠としていることから、実施例に限定されるかのような主張をするが、本件補正は、上記図面のみを根拠とするのではなく、本件明細書の段落【0017】及び【0018】の記載も根拠としていることから、被告らの主張には理由がない。

(2)構成要件Cの「連結」の意義について

「連結」の辞書的な意味は、「つらねむすぶこと。むすびあわせること。」である。

また、本件特許の出願経緯について、拒絶理由通知書(乙2)における引用発明3及び4は、いずれも枕と肘受けが独立して動作するのに対し、本件意見書には、本件発明の新規な構成として、肘置き部が施術部の上方部に連結されていることにより、肘置き部が回動する範囲が一定となる旨、及び肘置き部と施術部を別々に動作させることができない旨の記載がある。

これらからすれば、構成要件Cにおける「連結」とは、「『施術部』と『肘置き部』がつながっており、別々に独立して動かしたり、配置したりすることができないこと」の意味と解され、具体的な連結方法としては、当業者が適宜実施可能な構成を含むものであり、金具や他の部材を介しているか否かは問わない。

(3)被告製品について

被告製品は、リクライニングアームが、施術部における上方部に水平方向に一対設けられた回動部材により施術部に連結され、回動部材を軸に施術部に対し回動可能であるとするものである。

被告製品におけるリクライニングアームと施術部の連結部が、施術部の略中間位置ではなく上方部であることは、日本語の通常の用法に照らして自明である。

被告らは、被告製品の肘置き部は施術部の左右位置において回動自在に支持されており、本件発明の構成要件Cを充足しないと主張するが、構成要件Cは、肘置き部が施術部における上方部に連結されていることを要件とはするものの、連結部分の具体的な連結方法や連結位置については限定しておらず、施術部の「背面」、「左右位置」、あるいは「前面」において連結されているのかについても限定はなく、本件明細書の記載や出願経過からも、「背面」に限定して解釈しなければならない理由はない。

また、被告らは、被告製品には、肘置き部を回転した際に、肘置き部の左右位置が施術部から離れる距離が比較的短く、同じ回転角度でも被施術者の顔により近接して位置するから、施術者が肘置き部の左右位置に肘をおいて施術しやすいという本件発明にはない効果があることを理由として、本件発明の権利範囲外であると主張するが、本件明細書の実施例と被告製品を比較すると、回転半径の差異は、被告製品の回転軸が実施例よりも下方寄りに存することから生じているにすぎず、被告らの上記主張には理由がない。

(4)まとめ

以上より、被告製品のリクライニングアームは、本件発明の構成要件Cを充足する。

【被告らの主張】

(1)構成要件Cの「施術部の上方部」の意義について

ア 本件明細書の図面による解釈について

本件特許の出願当初の請求項1は、「被施術者の頭部を載置する施術部が形成されているアイメイク施術台において、前記施術部の周囲であって、載置される前記被施術者の頭部の左右位置、もしくは左右位置及び上方位置に、施術者の肘を固定可能な肘置き部を設けたことを特徴とするアイメイク施術台。」(乙1)というものであったが、本件拒絶理由通知書において、

① 施術部の周囲であって、載置される前記被施術者の頭部の左右位置、もしくは左右位置及び上方位置に、施術者の肘を固定可能な肘置き部を設けたものとするともに施術者の肘を肘置き部に固定して施術を行うようにすること

② 施術者の肘を固定可能な肘置き部を水平を軸にして回動可能なものとすること

の2点について、引用文献1ないし4から当業者が容易になし得た構成として指摘されたため、原告は、本件補正において、「この肘置き部が前記施術部の上方部に連結され、水平を軸にして前記施術部に対して回動可能である」という構成要件を追加し、これにより進歩性の拒絶理由が解消されたとして、特許査定が下された。

すなわち、本件発明の進歩性に関して最も重要な構成要件は、構成要件Cの「肘置き部が前記施術部の上方部に連結され」という部分であるが、このうち「上方部」の定義は、本件明細書において記載されておらず、その技術的意義が全く開示されていない

特許請求の範囲の補正に当たっては新たな技術的事項の導入は許されないことから、上記出願経緯を参酌すれば、上記構成要件については、本件明細書の図面の記載に基づいて厳密に解釈されるべきであるところ、【図2】及び【図3】や本件明細書の段落【0018】には、肘置き部の上方位置の背面に連結部である水平軸が設けられていることが記載されている。本件明細書の段落【0017】が、肘置き部において表面積が小さい上方位置と表面積の大きい左右位置を明確に区別していることを前提として【図2】を見ると、肘置き部の「上方位置」は、「施術部の、それより上の部分」に存在しており、その背面に設けられた連結部である水平軸も、施術部に対して上に存在している

よって、同図面の記載によれば、本件発明における「上方部」とは、別紙被告図面の網掛け部分のとおりであり、「施術部の、それより上の部分」(施術部に対して上)と解釈せざるを得ない(以下、構成要件Cに係る被告らの主張を、「施術部よりも上方部」と表記する。)。

イ 構成要件Bの「上方位置」との対比

(ア)構成要件C中「上方部」との記載は、言葉の通常の意味に照らしても、「施術部よりも上方部」と解釈せざるを得ない。「上方部」を構成する「上方」という語には、「方」という文字が含まれており、「方」とは向きを表す言葉であるから、「上方」という語においても、上という向きが観念され、対象よりもうえの方、すなわち「ものの、それより上」という意味となる。

(イ)「施術部」と「上方部」とをつなぐ格助詞「の」は、場所を示し「~における」と言い換えられる意味と、位置・方向を示し「~に対する」と言い換えられる意味があり、一義的でない。前者の意味ととらえると、「施術部の上方部」とは施術部における上方部、すなわち施術部を含む部分と解されるが、後者の意味ととらえると、「施術部の上方部」とは施術部よりも上方部、すなわち施術部を含まない、施術部よりも上の方と解釈される。

ここで、構成要件Bの記載(「前記施術部の周囲であって、載置される前記被施術者の頭部の左右位置、もしくは左右位置及び上方位置に、施術者の肘を固定可能な肘置き部を設け」)における「被施術者の頭部」と「左右位置、もしくは左右位置及び上方位置」をつなぐ格助詞「の」の意義は、肘置き部が被施術者の頭部を含まないことは明らかであるから、位置・方向を表す「~に対する」という意味である。

上記のとおり、構成要件Cにおける「施術部の上方部」の意味は、それ自体では一義的に定まらないものの、構成要件Bと構成要件Cは特許請求の範囲内において一文で記載されており、構成要件Bにおいて、「~の上方」が「~に対する上方」という用いられ方をしているのであるから、構成要件Cにおける「~の上方(部)」も、同様に「~に対する上方」と用いられると考えるのが自然である。

これに対し、原告は、「施術部の上方部」とは、「施術部の上下方向における中央線よりうえの部分」と解釈されると主張するが、このような用法は、格助詞「の」のいずれの用法でもなく、施術部上の位置、施術部から見た施術部外の位置のいずれも含むものであり、不自然な解釈である。

ウ 引用発明2についての本件意見書の記載について

原告は、本件意見書において、「本願第1発明は、上記したとおり、特に「肘置き部が前記施術部の上方部に連結され、水平を軸にして前記施術部に対して回動可能」な構成です。これに対し、引用発明2は、上記したとおり、ヘッドレスト33が傾倒するものであり、肘掛け34a、34bが個別に回動するものではありません。また、肘掛け34a、34bの取り付け位置は、ヘッドレスト33の左右方向です。」と記載し、本件補正後の本件発明が、引用発明2とは異なる構成を有する旨の説明をし、これにより、拒絶理由の回避に奏功した。

そこで、引用発明2における「ヘッドレストの左右方向」の範囲について検討すると、引用発明2は、歯科用治療台に関する発明であり、肘掛け(肘置き部)が設けられる位置について、明細書上及び図面上は、ヘッドレストの左右方向に略水平に張出されること、ヘッドレストの側面に片時持的に固定されること以外には何ら限定が付されていないところ、その作用効果(施術者が被施術者の背後から治療を行うにあたり肘掛けに肘を置くことにより疲労感を生じさせず作業性を高める。)を考えると、ヘッドレスト側面のやや上側であることがより望ましいといえる。そうすると、引用発明2における「ヘッドレストの左右方向」とは、ヘッドレストの左右の側面全体であると解釈するのが自然である。

したがって、本件補正において「肘置き部が前記施術部の上方部に連結され」という構成要件の追加により進歩性の欠如が克服されたのは、「施術部の上方部」が「施術部に対して上方部」と解釈されたことにより、施術部の左右側面全体を含まない概念として用いたことが明らかとなり、引用発明との差異が認められたからだと考えられる。

よって、被告らの主張する「施術部よりも上方部」との解釈は、施術部の左右部を含まないので、出願経過を参酌した上で矛盾のない解釈である。一方、原告による「施術部の上下方向における中央線より上の部分」という解釈は、施術部の左右部を含むという意味で、出願経過からしても不自然な解釈である。

エ 原告の主張について

原告は、本件明細書の記載を参酌し、肘置き部が水平を軸にして回動可能であるという本件発明の構成や、この構成から生じると主張する効果を前提に、さらに本件意見書による出願経過を参酌することにより、施術部における上方部として権利範囲が確定したかのような主張をする。しかし、一般に、出願経過の参酌の法理は、もっぱら禁反言の観点を根拠とするものであり、原則として、特許発明の技術的範囲を限定解釈する方向で作用するものとされるところ、本件発明においては、本件明細書に「施術部の上方部」について一切の定義や発明の解決課題、課題解決手段、作用効果等の記載がないにもかかわらず、原告は、本件意見書の記載を参酌することにより、特許発明の技術的範囲を超えた、別紙原告図面の赤で示す部分のような、広い意味を持たせようとしており、これは出願経過参酌を本件発明の技術的範囲を拡張する方向で行う解釈であるから、許されない。

(2)構成要件Cの「連結部」の意義について

構成要件C中の「連結」は、「別部材を介して結びつく」という意味であり、肘置き部と、施術部の背面部材が接合した位置を示し、本件発明に係る発明の詳細な説明における水平軸の位置と一致する。背面部材は施術部からうえの方向に伸びているので、肘置き部は、施術部に対してうえの方で「連結」されている(本件明細書の【図1】参照。)。

そして、本件発明の実施形態には、本件明細書の【図6】(a)ないし(d)に示されるような、頭部の(左右位置及び上方位置ではなく)左右位置のみに肘置き部を設け、この肘置き部が施術部の上方部に連結されるという形態も含まれる。これらの実施形態では、施術部と肘置き部が、施術部側は背面部材を介して、肘置き部側は支持部材を介して、水平軸の位置、すなわち施術部に対してうえの方で連結されている。

したがって、構成要件Cの「肘置き部が前記施術部の上方部に連結され」とは、「肘置き部が、その上方位置の背面において、施術部よりも上方部に連結され」と解釈すべきである。

(3)被告製品について

ア 被告製品は、別紙「被告製品の説明書」のとおり、肘置き部が施術部の左右側面に沿って位置する支持板に設けられた回転機構により、施術部の略中間位置において回転可能に支持されており、支持板は、施術部の左右側面(左右位置)に連結されているから、構成要件Cに対応する被告製品の構成cは、「この肘置き部が、施術部の左右側面に設けられた支持板に設けられた回転機構により、施術部の左右位置にて回転可能に支持され」とすべきである。

よって、支持板と施術部の連結部は、施術部よりも上方部には存在しない。

イ また、本件明細書の【図2】及び【図3】に開示された発明においては、回転軸は肘置き部の背面に設けられ、かつ、施術部よりも上方部にあるため、施術部を避けることなく一本の回転軸(水平軸)を用いて簡単な回転機構で実現できる。一方で、回転軸が施術部よりも上方部に位置しているので、肘置き部の左右位置と回転軸との間の距離が長く、肘置き部を施術部に対して回転させた場合、同一に置いた施術者の肘と被施術者の顔との距離が離れてしまい、施術しにくいという課題があった。この点、被告製品は、仮想軸が施術部を貫通しているので、施術部の両側にそれぞれ回転軸を設ける必要があり、複雑な構成となるが、肘置き部を施術部に対して回転させた場合に、肘置き部の左右位置と施術部との間の距離は比較的短く、施術しやすい。

ウ 以上のとおり、被告製品の連結部は、施術部よりも上方部には存在せず、被告製品は、本件明細書に開示された発明からは導き出せない技術的事項を有しているから、被告製品は本件発明の権利範囲外である。

(4)まとめ

以上より、被告製品のリクライニングアームは本件発明の構成要件Cを充足しない。

2 争点(2)(差止め・廃棄請求の必要性)について

【原告の主張】

被告ビューティは、平成31年1月7日時点においても、自社のウェブサイト上において被告製品の販売を継続しており、同年4月2日時点においても中古の被告製品の販売を継続している。

したがって、被告らは侵害行為を継続しているため、差止請求及び廃棄請求には必要性がある。

【被告らの主張】

被告らは、既に被告製品の販売を中止しており、今後も販売することはない。また、もともと、被告製品は、注文を受けてから製造を行う受注生産方式を採用していたことから、被告らは、従来から被告製品の在庫を有しておらず、現時点においても、被告らは被告製品の在庫を全く有していない。

したがって、差止め及び廃棄請求には理由がない。

3 争点(3)(原告の損害額)について

【原告の主張】

(1)被告製品の売上及び原価

被告らが、平成28年5月18日から平成30年8月31日までの間に販売した被告製品の商品名、数量、販売価格、原価等は、別紙「被告らの得た利益額一覧」のとおりであり、合計販売台数は225台である。

(2)控除すべき費用及び被告らの利益の額

ア 本件において被告らが被告製品を販売するために追加的に要した費用は、仕入のみであり、その他に控除すべき費用は存在しない。

そうすると、被告製品の販売数量、総売上(税込)及び原価(税込)は、別紙「被告らの得た利益額一覧」記載のとおりであるから、被告らの得た利益の合計額は961万8660円である。

イ 広告宣伝費

被告らの主張を裏付ける証拠はない。なお、被告製品に関するホームページは、被告らが自ら制作しているため、被告製品の販売のために追加的に支払った費用はない。

ウ 保証制度に基づく人件費と新品の交換費用

保証期間をどうするかは、侵害行為と無関係であり、被告らが保証制度を設けたことに起因する費用を、特許法102条2項の利益の額から控除すべき理由はない。

また、被告製品の保証制度に基づく支出の額について、これを証明する証拠はない。

(3)消費税に関する問題について

ア 売上は消費税込みで計算すべきであること

「無体財産権の侵害の侵害を受けたことにより受け取る損害賠償金」(消費税法基本通達)は、消費税の課税対象であると認められるところ、本件において被告らが得た「利益の額」を計算するには、税込売上から税込仕入を控除して計算しなければならない。

被告らは、主位的主張として、総売上(税抜)から総原価(原価税込×販売数量)を控除することにより、粗利を算出すべきであると主張するが、上記計算方法は、被告らの手元に受取消費税分の不当に得た利益が残存することとなり、妥当ではない。

また、被告らは、予備的主張として、費用も売上げも税抜きで計算すべきであると主張し、その理由の一つとして税抜経理方式の採用を挙げるが、税抜経理方式を採用するか、税込経理方式を採用するかは、法人の選択に委ねられているところ、当事者の適宜選択可能な経理方式の相違により、損害額が相違するということは論理的にあり得ない。

したがって、被告らの主張は、主位的主張又は予備的主張のいずれも理由がない。

イ 損害賠償金にかかる消費税について

知的財産権の侵害に基づく損害賠償金は、消費税法上の資産の貸付けの対価に該当し、消費税の課税対象となる(消費税法2条1項8号、同法4条1項)。

また、そのように解釈しても、被告らが原告に対して消費税分を損害賠償金として支払った場合は、消費税に相当する金額は会計上支払消費税として計上され、侵害品を販売した時の受取消費税と相殺されるから、被告らに不利益はない。

したがって、損害賠償金について消費税を非課税として計算すべき理由はない。

ウ 消費税相当額部分の遅延損害金の起算日

被告らの不法行為により、原告の損害は日々発生しており、当該不法行為の日に損害額も法的に確定して発生しているのであるから、消費税相当額の遅延損害金の起算日も不法行為の日となる。被告らの主張は、損害の発生日と判決の確定日を混同するものである。

(4)弁護士費用

原告は、本件訴訟のために訴訟代理人弁護士に委任せざるを得ず、差止請求権及び損害賠償請求権に対する弁護士費用相当の損害額は、上記被告らの得た利益の額(961万8660円)のそれぞれ1割を下回るものではないから、両請求と相当因果関係のある弁護士費用の損害は、合計192万3732円である。

なお、弁護士業務の対価も、消費税法上の役務の提供に該当し、消費税が課税されることから、消費税込みで原告の損害と認定すべきである。

(5)被告らの主張について

ア 特許法102条4項関連の主張について

争う。同項の規定は、そもそも同条3項の適用が前提となっているところ、同条2項に基づき損害額を算定する本件については適用がない。

また、本件特許権の出願経過において、明確性要件違反の拒絶理由が通知された事実はなく、むしろ、原告は、被告アイラッシュに対し、本件特許権侵害について2回も警告しているのであり(甲5、7)、被告ビューティは被告アイラッシュの親会社として情報を共有していたはずであるから、被告らには同条4項後段において参酌すべき軽過失であったという事情はない。

イ 寄与率について

(ア)本件発明1ないし3は、被告製品の全てにかかる発明である以上(構成要件D及び構成要件F参照。)、本件において寄与率を考慮する余地はない。

(イ)技術的寄与について

被告製品は、リクライニングアームと、座部及び背もたれ部等の椅子部分とを一緒に販売しており、リクライニングアーム部分がなければ椅子部分も販売することができなかったという関係にあるから、本件発明の被告製品に対する寄与は100%である。

また、本件明細書によれば、本件発明3の技術的範囲には、電動リクライニング機構の構成が含まれるから、被告製品における電動リクライニング機構の存在は、本件発明について寄与率を減じる根拠とはならない。

(ウ)価格差等について

被告製品と原告の実施品との価格差は6万4000円に過ぎず、アイメイクサロンを開設する際の投資額からすれば微々たるものにすぎない。また、被告らの主張する高田ベッド製作所の知名度についても、サロン向けベッドとしては低いといわざるを得ない。

したがって、上記の事情はいずれも被告製品に対する本件発明の寄与率を減じる根拠とはならない。

(6)被告らに対する請求のまとめ

ア 被告らは、平成28年5月18日から平成30年7月31日までの間に、被告製品を単価11万8000円で少なくとも400台ずつ販売し、それぞれ1600万円ずつの利益を得たと算定されるから(利益率約33.7%)、原告は、被告らそれぞれに対し、特許法102条2項により、弁護士費用160万円を加え、消費税相当額を加算した1900万8000円(1760万円×1.08)の支払を求め、うち178万2000円については訴状送達の日の翌日である平成29年5月19日からの、うち1722万6000円については平成30年8月1日からの遅延損害金の支払を求める。

イ 上記(1)ないし(4)によれば、平成28年5月18日から平成30年8月31日までの間の被告製品の販売により、被告らの得た利益の合計額は961万8660円、弁護士費用相当額は192万3732円であるから、原告の損害額は、合計1154万2392円となるところ、同損害を被告ら主張の台数の割合に基づき各被告に割り振ると、被告ビューティにつき682万0504円、被告アイラッシュにつき472万1888円となるが、原告は、上記アの請求を維持する。

【被告らの主張】

(1)被告製品の販売台数

被告アイラッシュが、平成28年5月18日から平成30年8月31日までの間に販売した被告製品は合計90台(新品88台、展示品2台)であり、被告ビューティが、上記期間に販売した被告製品は合計130台(新品127台、展示品1台、中古品2台)である。

(2)控除すべき費用

被告製品の売上には、原価の他に、以下のとおり、控除されるべき変動費及び個別固定費が存在する。

ア 広告宣伝費用

被告らは、被告製品を販売するために、ウェブサイト(甲3、4)をはじめとする広告宣伝を行ったところ、ウェブサイトの作成代金は21万6000円(税込)を下らない。

イ 保証制度に基づく修理スタッフの人件費及び新品との交換費用

被告らは、販売した被告製品の保証期間(購入から2年間)内であれば、販売先にスタッフを派遣し、故障した被告製品を無償修理し、修理が不可能な場合は無償で新品と交換していた。この保証制度に基づき、被告らは、合計6件の対応を行い、修理スタッフの人件費及び新品との交換費用として合計14万8520円(税込)の費用を支出した。

(3)消費税に関する問題について

ア 利益の算定について

特許法102条2項による損害賠償金が消費税法上の課税取引に当たるかを論ずる以前の問題として、同項における被告らの得た利益を算定する際には、以下のとおり行うべきである。

(ア)(主位的主張)「利益」の算定に当たり、支出する「費用」は税込みで計算し、「売上」は税抜きで計算すべきである。

侵害者は、消費税相当額(仮払消費税)を含めた金員を現実に支出しなければ、侵害品の販売には至れない。一方、侵害品を売り上げた際に侵害者が受領する消費税相当額は、預り金の一種(預かり消費税)であり、侵害者の利益を構成するものではない。また、侵害者が最終的に支払うべき消費税額は、申告上の調整が行われる中で確定するものであって、預かり消費税と仮払消費税との相殺差額が当然に侵害者の支払う確定消費税額となるわけではないから、この差額をもって侵害者の「利益」とみることもできない。

(イ)(予備的主張)「利益」の算定に当たり、「費用」及び「売上」は、いずれも税抜きで計算すべきである。

仮に上記の主張が認められないとしても、原告や被告らといったある程度の事業規模の会社では、法人税の所得計算に当たり、税抜経理方式(売上と消費税等を区別する経理)が採用されているところ、会計上は、売上・仕入共に、消費税相当額を考慮しない税別で認識されることとなる。

したがって、「利益」の算定にあたっては、上記のように預かり消費税を排除した税別で考えるべきであって、売上げ時の仮受消費税、仕入れ時の仮払消費税のいずれも計算に含めずに、費用も売上げも税抜きで計算するのが相当である。

イ 課税取引か否かについて

前記アにより、特許法102条2項による損害賠償額の推定がなされても、これは消費税法が定める課税取引ではないから、消費税相当額を加算すべきではない。

(ア)総論

消費税基本通達5-1-2、5-5-2等によれば、課税取引に当たるためには、対価性、すなわち、資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供に対して反対給付を受けることが必要とされるところ、特許権の侵害を受けた場合に権利者が収受する損害賠償金は、その実質からみて、資産の譲渡又は貸付の対価と評価される場合に限り、課税の対象となる。そして、課税の対象となるかどうかの判断は、取引や損害賠償金の性質を個別に検討して判断する必要がある。

(イ)(主位的主張)特許法102条2項が推定する損害の額は逸失利益と解されており、一般的に消費税の課税の対象とはならない。

特許法102条2項は、不法行為における「損害」の考え方に従った損害(侵害品が市場に存在しなかったとすれば特許権者が特許製品を販売することで得られた利益と、侵害品が市場に存在する中で特許権者が特許製品を販売することで得られた利益との差額、すなわち特許権者の逸失利益。)の立証が困難であることに配慮して、侵害者が特許発明を用いて侵害品を販売したことで実際に生じている財産状態と、侵害者が特許発明を用いなければ得たであろう財産状態との差額を、侵害者の得た「利益」ととらえ、これを権利者が受けた損害の額であると推定する旨の規定である。

そうだとすれば、同項において推定された損害の額の性質は、特許権者の逸失利益に他ならないから、損害賠償金には消費税の課税の前提となる対価性が認められず、また、その実質において権利の利用料とみることもできないため、一律に、消費税の課税の対象とはならない。

(ウ)(予備的主張)本件の個別事情に照らすと、特許法102条2項にいう「利益」から推定された損害金を原告が収受する場合に課税の対象とならない。

仮に、特許法102条2項で推定された損害の額の性質が、一律に、特許権者の逸失利益であるとはいえなくても、本件発明の実施品と被告製品は、被告らが被告製品を販売することにより得た利益が、そのまま、特許権者に移転するという関係になり、被告らが本件発明を実施して実施料を支払うのと類似の関係を想定できないから、消費税の課税の前提となる「対価性」が認められない。

(エ)消費税基本通達5-2-5について

上記通達は、特許権侵害の場合の損害賠償金を、対価性が認められる場合の例示とするが、これは特許法102条3項により実施料相当額を権利者の損害とみなす場合を想定したものであり、本件のように、同条2項により損害賠償額を想定する場合は、これには当たらない。

(オ)まとめ

したがって、特許法102条2項による損害額の推定に基づき原告が収受する損害賠償金は、消費税の課税の対象とならない。

ウ 仮に課税対象となる場合の処理について

(ア)内税方式によるべきこと

仮に特許法102条2項による損害額の推定に基づき原告が収受する損害賠償金が課税の対象となるとしても、その損害賠償金について内税方式、外税方式のいずれを採用するかについては、当事者間の合意によるべきであるが、明示の合意がない場合においては、内税方式を採用するとの黙示の合意が存すると考えるべきである。

したがって、本件においては原告と被告らとの間で明示の合意が存在しないから、内税方式によるべきであって、原告が被告らから受け取るべき損害賠償金に新たに消費税分の8%の額を加算する必要はない。

(イ)消費税相当額部分の遅延損害金の起算日

消費税基本通達9-1-21によれば、工業所有権等の使用料の額を対価とする資産の譲渡等の時期は、その額が確定した日とされるから、損害賠償金について仮に課税取引とされた場合に生じる消費税相当額は、その額が確定した日、すなわち判決の場合は判決の確定日に発生するのであり、不法行為時に発生するのではない。

(4)寄与率について

ア 被告らが被告製品を販売して得た利益のうち、本件発明の寄与により得られたわけではないものについては、特許法102条2項の推定が覆滅される。

本件明細書の段落【0001】、【0005】ないし【0007】の記載からすれば、本件発明の本質は、施術部と肘置き部との連結部分ではなく、長時間になる施術であっても姿勢を安定させて身体への負担を軽減し、かつ、一台で数多くの施術が可能となるように、施術者の肘を固定可能な肘置き部を設けた点である。そこで、被告製品にリクライニングアーム(肘置き部)が設けられた点が、被告製品にどの程度寄与したかについて検討する。

イ 技術的な寄与

被告製品は、高田ベッド製作所が製作・販売する「電動リクティー」(乙28)を基礎に、リクライニングアームを設置する単純な機構を付加したものであるが、これにより製品の原価率には影響を与えない。

また、被告製品は、本件発明の実施品にはないワイヤレスリモコン付き電動リクライニング機構を内蔵しており、肘置き部以外の機能にも技術的利点が認められる。

したがって、本件発明の、被告製品に対する技術的な寄与の割合は小さい。

ウ 顧客の購買への寄与

本件発明の実施品である「リーチェ」の販売価額は18万2000円(税抜)(乙29)であるところ、被告製品の価格は11万8000円(税抜)である。

被告製品は、類似のサロン器具と比べて適正価額であること、上記イのとおりワイヤレスリモコン付き電動リクライニング機構を内蔵していること、日本を代表するサロン向けベッドメーカーである高田ベッド製作所で製作された施術台を基礎としていること等の特長を有しており、これらに着目して被告製品を選択・購入した顧客も多数存在する。

エ 以上より、被告製品の価額、他の機能及び品質・ブランド力からすると、被告製品における本件発明の顧客の購買への寄与の要素は極めて小さく、寄与率は50%にとどまるというべきである。

(5)特許法102条4項について

本件訴訟は、本件特許の特許公報の内容が不明確であり、「施術部の上方部」の意義を解釈できる資料としては本件明細書における【図2】及び【図3】以外になかったことに起因しているのであり、被告らが、施術部と肘置き部とが左右側面で連結するような構成は権利範囲外であると考えたとしてもやむを得ないというべきであるから、被告らに過失が認められるとしても、軽過失にとどまる。

また、日本における特許権のロイヤルティ率の平均値は正味販売高の3.7%であり、器械分野では同3.5%であるから、本件特許の実施料相当額は、被告製品の正味販売高の4%を超えることはない。

そのため、特許法102条2項の推定の結果、原告の被ったとされる損害の額が上記の額を超えるのであれば、損害賠償の額が裁量減額されるべきである。

(6)弁護士費用について

争う。被告らは、平成30年7月19日付け連絡文により、原告に対し、特許権侵害に伴う損害額を填補する趣旨での和解を申し出たが、原告はこれに応じず、訴えの変更を申立て、引き続き本件についての審理を続行することを求めたのであるから、少なくとも訴えの変更申立書により請求を増額した部分に対応する弁護士費用(各145万円)とこれに対する遅延損害金の支払の請求は、被告らの行為と相当因果関係のある損害とは認められない。

(7)まとめ

以上より被告製品の売上(税抜)、原価(税込)、保証対応費及び広告宣伝費(税込み)は、それぞれ、別紙被告計算表のとおりであり、①上記売上から原価と経費を控除し、寄与度50%を考慮すると、被告らの得た利益は、356万4332円(被告ビューティガレージが得た利益は210万6196円、被告アイラッシュガレージが得た利益は145万8136円)となり、②費用も売上も税抜きで算定して寄与度50%を考慮すれば、423万1773円(被告ビューティガレージが得た利益は250万0593円、被告アイラッシュガレージが得た利益は173万1180円)となる。

7.裁判所の判断

1 本件発明について

本件明細書には、以下の記載がある。

(発明が解決しようとする課題)

従来のアイメイク施術では、施術者が脇を閉めることで肘を固定して施術するため、長時間の安定した施術が難しかった。また、不安定な姿勢で施術するため、施術者の身体への負担が大きいという問題があった。また、様々な施術方法が存在する一方、一台で数多くの施術方法を実施可能とする機器(施術台)が開発されていないという現状もあった。本発明は上記実情に鑑み提案され、施術者が肘を固定することができ、施術が安定する肘置き部を設け、これにより長時間になる施術であっても、その姿勢を安定させて身体への負担を軽減し、かつ、一台で数多くの施術が可能となるアイメイク施術台及びアイメイク施術方法を提供することを目的とする(【0005】、【0006】)。

(課題を解決するための手段)

上記目的を達成するため、本発明は、被施術者の頭部を載置する施術部が形成されているアイメイク施術台において、前記施術部の周囲であって、載置される前記被施術者の頭部の左右位置、もしくは左右位置及び上方位置に、施術者の肘を固定可能な肘置き部を設けたことを特徴とする。前記肘置き部は、水平を軸にして回動可能であることが好ましい(【0007】、【0008】)。

(発明の効果)

本発明は、被施術者の頭部を載置する施術部が形成されているアイメイク施術台において、施術部の周囲であって、載置される被施術者の頭部の左右位置、もしくは左右位置及び上方位置に、施術者の肘を固定可能な肘置き部を構成している。したがって、施術者は、自ら脇を閉める必要がなく、肘置き部により肘を固定させてアイメイク等の施術することができるので、施術が安定するとともに、施術効率を向上させることができる。さらに、施術時の姿勢が安定するから、施術者の身体への負担を軽減することもできる。

本発明において、肘置き部が水平を軸にして回動可能である構成とすれば、肘置き部を回動させることで、施術者の好みにあった角度での肘の固定が実現する。さらに、目じり部の施術を行うとき等、やや特殊な施術パターン(施術者の手の動き)が必要となる際にも、これに対応した肘の固定が可能となって、一台で様々な施術を実施することができる(【0010】、【0011】)。

(発明を実施するための形態)

本発明は、被施術者の頭部を載置する施術部が形成され、この施術部の周囲に、一台で数多くの施術が可能となるとともに、施術者の身体的負担が軽減されて、施術の安定、施術効率の向上等が実現されるための特徴を備えさせて構成されたアイメイク施術台に係る。本発明に係るアイメイク施術台1は、具体的には図1に示すように、被施術者の下半身が載置される座部11と、この座部11に連続し、被施術者の背中が載置される背もたれ部12と、この背もたれ部12の座部11の側と逆側に連続し、被施術者の頭部が載置される施術部13とを含んで構成される。施術部13の周囲であって、載置される被施術者の頭部の左右位置及び上方位置には、施術者の肘を固定可能な肘置き部14が設けられている。肘置き部14は、本実施形態において、施術部13の周囲であって、載置される被施術者の頭部の左右位置141、142から上方位置143に連続し、一体化された略逆U字形状を有している。上方位置143の表面よりも、左右位置141、142の表面の面積を大きくすることで、施術者の肘を、時と場合に応じて左右位置141、142の適切な位置に固定することができる形状としている。上方位置143の表面の面積が少ないことにより、施術者は被施術者により接近することが可能で、施術しやすいという利点もある。

また、本発明に係るアイメイク施術台1は、図2に示すように、肘置き部14の背面に水平方向に設けられた水平軸145を有し、この水平軸145を中心(軸)に回動可能な構成であることが好ましい。すなわち、本発明は、図2(a)に示すように、背もたれ部12の被施術者がもたれる面と、肘置き部14の左右位置141、142の表面及び上方位置143の表面とが平行面又はほぼ平行面である状態から、図2(b)に示すように、水平軸145を中心(軸)に肘置き部14を回動させることで、背もたれ部12の被施術者がもたれる面に対し、肘置き部14の左右位置141、142の表面及び上方位置143の表面が約90度の角度を最大で有する状態にすることができる。

肘置き部14を回動させることにより、施術者の好みにあった角度での肘の固定が実現する。さらに、目じり部の施術を行うとき(図5等参照)等をはじめ、様々な手の動きが必要となる際に、これに対応した.肘の固定を図るために必要な角度に、肘置き部14を回動させることができ、肘置き部14上の適切な位置に、常に肘を決めることが可能となる。したがって、施術の安定性が増し、効率も向上するほか、一台で様々な施術方法を実施可能になる(【0016】ないし【0019】)。

2 争点(1)(被告製品のリクライニングアームが本件発明の構成要件Cを充足するか。)

(1)構成要件Cの「施術部の上方部」の意義について

ア 本件明細書の記載について(構成要件Bの「上方位置」との対比)

(ア)本件明細書には、「上方部」又は「上方位置」について定義はなく、字義的には、「施術部の上方部」は、施術部自体の上半分を含む「施術部における上方部」と、施術部は含まず、施術部に対して上の方を指す「施術部よりも上方部」の両方が考えられる

(イ)そこで、構成要件Bについて検討するに、構成要件Bでは、肘置き部の位置は施術部の周囲とされており、肘置き部が施術部に載置された被施術者の頭部を含まないことは明らかであるから、構成要件Bにおける「施術部の上方位置」は、施術部に対する上方位置、すなわち施術部を含まない位置を指すと解される

他方、構成要件Cの「この肘置き部が前記施術部の上方部に連結され」との文言は、「施術部の上方部」という場所的限定の前提として、肘置き部が施術部に連結されていることを文言上含んでいると解されるから、肘置き部と施術部とが位置的に離れてしまい、肘置き部が施術部に連結されているとはいえないような状態は予定していないと考えられる

また、本件明細書には、発明の効果として、「肘置き部を回転させることで、施術者の好みにあった角度での肘の固定が実現する。さらに、目じり部の施術を行うとき等、やや特殊な施術パターン(施術者の手の動き)が必要となる際に、これに対応した肘の固定が可能となって、一台で様々な施術を実施することができる(【0011】)」と記載されており、本件発明はアイメイク施術台の発明であるから、本件発明の肘置き部は、施術部に載置された被施術者の頭部のうち、目の部分(一般的には、施術部における上方部に位置すると思われる。)に対し、様々な施術を行いやすいように回動することが予定されているということができる。

(ウ)後記検討する【図2】及び【図3】の問題を除けば、上記検討した本件明細書の記載には、肘置き部が、施術部よりも上方部で施術部に連結していなければならないことを積極的に示すような内容は存しないと思われるのに対し、本件発明の効果の観点では、肘置き部は、施術の対象である被施術者の目の部分に近接する位置で、施術部に連結されると解するのが合理的である

そして、本件発明1の文言において、「上方位置」と「施術者の上方部」とは近接する位置で使用されており、本件補正により追加された際にも、当然両者を認識の上、別異の意味を有するものとして使用されたと解されるところ、前述のとおり、「上方位置」が施術部よりも上方部の意味である以上、「施術部の上方部」はこれとは異なる意味であると解され、このことに、上記検討した本件明細書の記載内容を総合すると、構成要件Cの「施術部の上方部」は、施術部における上方部、すなわち、施術部の上下方向における略中心を想定し、それよりも上方の部分を指すと解するのが相当である

(エ)被告らは、構成要件Cが本件補正により追加された要件であるところ、特許請求の範囲の補正に当たって新たな技術的事項の導入は許されないとして、本件明細書の【図2】及び【図3】においては、肘置き部の上方位置の背面に連結部である水平軸が設けられていることから、本件発明における「上方部」は、構成要件Bの「上方位置」と同様、「施術部の、それより上の部分」(施術部を含まず、施術部に対して上)と解釈せざるを得ないと主張する

確かに、本件明細書の【図3】では、肘受け部の回転軸が、施術部の上縁より少し上方に存するように見えるが、これが実施例にすぎないことは本件明細書にも明示されているし(【0015】)、回転軸が、施術部の上縁に接する状態であれば、これも、施術部における上方部に、肘置き部が連結されているといえなくもない

その他の【図】で開示されている実施例では、肘置き部がどの位置で施術部に連結され、回転軸がどの位置に存在するかは全く不明といわざるを得ないが、少なくとも、施術部における上方部に肘置き部を連結する構成と、明らかに矛盾するような内容は存しない。

イ 出願経過及び本件意見書の記載について

(ア)本件意見書には、「4.特許法第29条第2項の拒絶の理由がないことの説明」という表題の下、「(a)本願第1発明の説明」として、本件発明1につき、アイメイクの施術部位は被施術者の目尻、目頭、瞼、まつ毛、眉毛等であるため、この施術部位の周辺に施術者の手を配置すれば、必然的に肘の位置は手の位置を基点とした範囲内(被施術者の頭部周辺)になるところ、その範囲で肘を支える部材として肘置き部を備えたのが本件発明1であること、肘置き部が施術部の上方部を基点として、これを軸に施術部に対して回動することで施術部に対する角度が変化するが、肘置き部がどのような角度に調整された場合であっても、回動する範囲は施術部の周囲(頭部の左右位置、もしくは左右位置及び上方位置)において一定であるため、肘置き部が回動する範囲は、施術部位周辺に施術者が手を配置した際にその施術者の肘が配置される範囲と常に一致すること、これにより、施術者は肘置き部により肘を固定させて施術することができるため、施術が安定するとともに施術効率を向上させることができる旨が記載されている。

(イ)また、原告は、上記に続く「(b)本件拒絶理由通知書における認定」において、本件拒絶理由通知の概略を、①「被施術者の頭部を載置する施術部が形成されている施術台において、前記施術部の周囲であって、載置される前記被施術者の頭部の左右位置、もしくは左右位置及び上方位置に、施術者の肘を固定可能な肘置き部を設けることで施術者の施術における負担の軽減を図るものは、例えば、引用文献2の第1図における肘掛け34a、34b(中略)にみられるように周知技術(以下「周知技術1」という。)であり、引用発明1において上記周知技術1を適用し、前記施術部の周囲であって、載置される前記被施術者の頭部の左右位置、もしくは左右位置及び上方位置に、施術者の肘を固定可能な肘置き部を設けたものとする(中略)ことは当業者が容易になし得たものである。」、及び②「さらに、施術者の肘を固定可能な肘置き部を水平を軸にして回動可能なものとすることも、例えば、引用文献3(中略)、引用文献4(中略)にみられるように周知技術(以下「周知技術2」という。)であり、引用発明1において上記周知技術2を適用し、前記肘置き部は水平を軸にして回動可能であるものとすることも当業者が容易になし得たものである。」とまとめた上で、それに続く「(c)本願第1発明と引用発明との対比」において、引用発明2について、「ヘッドレスト33が傾倒するものであり、肘掛け34a、34bは個別に回動するものではありません。また、肘掛け34a、34bの取り付け位置は、ヘッドレスト33の左右方向です。」「したがって、引用発明1に、上記した各引用発明のいずれを適用したとしても、本件発明1のように、『肘置き部が前記施術部の上方部に連結され、水平を軸にして前記施術部に対して回動可能』な構成とはならない」と記載した。

(ウ)被告らは、上記原告の引用発明2に関する文章(「肘掛け34a、34bの取り付け位置は、ヘッドレスト33の左右方向です。」)を理由に、本件意見書において、原告は、肘置き部の取付け位置が施術部の左右である構成を排除した旨を主張する。

しかしながら、本件意見書の上記文章は、引用発明2について、肘掛けの取付け位置がヘッドレストの左右であるものの、肘掛けが回動しない点で本件発明とは異なる旨を指摘したものと解することができ、被告の主張は採用できない。

ウ まとめ

以上検討したところを総合すると、構成要件Cの「施術部の上方部」とは、施術部における上方部の意味に解すべきであるが、肘置き部の回転軸が施術部の上縁に接するよう連結する構成も含み得るとすると、その範囲については、別紙原告図面のうち、赤で示された部分を指すと解すべきこととなる

(2)構成要件Cの「連結」の意義について

ア 「連結」の字義的意味は、「つらねむすぶこと。むすびあわせること。」であるところ、本件明細書には、特に「連結」についての定義や、具体的な連結方法についての記載はない。

本件明細書の【図2】及び【図3】には、肘置き部と施術部が、それぞれ支持部材と背面部材を介して、水平軸の位置でつながっている形態が示されており、段落【0018】も上記形態について説明する。

また、本件意見書には、肘置き部が、施術部の上方部を基点として、これを軸に施術部に対して回動すること、引用発明3及び引用発明4においては、枕F(またはhead rest 2)と肘受24(またはhead rest 4)とが連動せず別々に動作することが望ましいと考えられるため、引用発明1にこれらの発明を適用したとしても本件発明1の構成要件Cのような構成にはならないことが記載されている。

そうすると、構成要件Cにおける「連結」とは、施術部と肘置き部が別々に動作することができない形態でつながっていることを意味し、それ以上具体的な連結方法について定めるものではないと解するのが相当である。

イ 被告らは、本件明細書の【図1】及び【図6】に示される実施形態から、構成要件Cの「連結」とは、「肘置き部が、その上方位置の背面において、前記施術部の上方部に連結され」と解釈すべきであると主張するが、同図は、1つの実施形態にすぎないから、そこから具体的な連結部位についてまで定められていると解すべきではない。

(3)被告製品の構成

ア 別紙被告製品写真1ないし4及び別紙「被告製品の説明書」によれば、構成要件Cに対応する被告製品の構成cは、施術部の左右側面のうち、上下方向における中央線よりも上の部分において、回動部材を介して施術部とリクライニングアームとがつながる構成をとり、施術部を左右方向に横切るような仮想の回転軸を中心にリクライニングアームが回動するものであると認められる。

被告らは、被告製品の肘置き部が施術部の「左右位置」において回転自在に支持されていることから、本件発明の構成要件Cを充足しないと主張するが、構成要件Cの「施術部の上方部」が施術部の左右側面を排除しない概念であることは前述のとおりであり、また、構成要件Cの「連結」が具体的な連結方法や連結部位を定めるものではないことも前述のとおりであるから、上記被告らの主張を採用することはできない

ウ また、被告らは、被告製品について、仮想の回転軸が施術部を貫通していることから、回転軸が施術部の背面にあり、また施術部よりも上方にある本件発明と比較して、肘置き部を回転させた時に肘置き部の左右位置と施術部との間の距離が比較的短く施術しやすい、という本件明細書から記載された発明からは導き出せない技術的事項を有すると主張するが、本件発明の回転軸が施術部よりも上方にあるとの主張は採用できず、被告らの主張は理由がない。

(4)まとめ

以上より、被告製品のリクライニングアームは、施術部の上方部に連結され、水平を軸として施術部に対して回動可能であると認められるから、本件発明の構成要件Cを充足する。

被告製品の構成a、b、dないしfが、それぞれ本件発明の構成要件A、B、DないしFを充足することは前提事実で述べたとおりであるから、被告製品は、本件発明の構成要件をすべて充足し、本件発明の技術的範囲に属する。

3 争点(2)(差止め・廃棄請求の必要性)

被告らは、既に被告製品の販売を中止しており、在庫も有していないので、今後も販売することはない、と主張する。しかし、被告ビューティは、平成31年1月7日時点において、自社のウェブサイト上において被告製品の販売を申し出ており、同月24日には同製品につき売切れの表示をしていたこと、同年4月1日にも、中古の被告製品の販売を申し出ていたことが認められる(甲19ないし21。書証は枝番号を含む。以下同じ。)。

したがって、被告らには、被告製品を販売し、又は販売の申出を継続するおそれがあるといわざるを得ない。

また、被告らは、被告製品は受注生産方式を採用していたため在庫を有していないと主張するが、これを裏付ける客観的な証拠はなく、上記事実によれば、在庫を有しているものと推認することができる。

よって、差止め及び廃棄請求の必要性が認められる。

4 争点(3)(原告の損害額)

(1)被告製品の販売台数及び売上高

被告らが、平成28年5月18日から平成30年8月31日までの間に販売した被告製品は、別紙被告計算表の各「注文番号」、「出荷日」、「品目コード」、「数量」欄のとおりであり、合計220台(被告ビューティの販売台数130台、被告アイラッシュの販売台数90台)である(未出荷、返品、データ上の重複、未請求の分について除外。乙22、23)。

上記被告製品の売上合計は、2745万0472円(税込)となる。

(2)控除すべき費用について

ア 仕入れ

上記被告製品の原価は、別紙被告計算表のとおり、1793万3440円(税込)となり、これは上記売上合計から控除されるべき費用である。

イ その他

被告らは、原価の他に控除すべき変動費及び個別固定費として、広告宣伝費用及び被告らの保証制度に基づく修理スタッフの人件費及び新品との交換費用を挙げる。

しかし、被告らは、ウェブサイトの制作費の具体的な額について客観的な証拠を提出せず、また、保証制度を設けていることや支出額についても具体的な主張立証をしないので、これらの費用について売上から控除すべきものと認めることはできない。

(3)被告らの利益の額(消費税の処理)について

ア 計算方法

上記(1)及び(2)によると、被告製品の売上高(税込)から原価(税込)を控除した額は、951万7032円(別紙被告計算表の「粗利(総計売上税込-総計原価税込)」欄参照。)であり、同額を被告らの利益の額と認め、原告の損害額を算定する基礎とするのが相当である。

なお、消費税基本通達5-2-5に鑑みれば、知的財産権の侵害に基づく損害賠償金は、消費税法上の資産の譲渡等の対価に該当し、消費税の課税対象となると解するのが相当であり(消費税法2条1項8号、同法4条1項)、本件における損害賠償金も、特許権の侵害に基づく損害賠償金として消費税の課税対象となると解されるところ、上記被告らの利益の額は、税込売上高から税込原価を控除したものであり、消費税相当額を含む額であるから、原告の損害額を算定する際に、さらに消費税相当額8%を加算する必要はない。

イ 被告らの主張について

被告らは、消費税に関し、特許法102条2項の「利益」の算定方法について主張するほか、そもそも、同項により推定される損害賠償金は逸失利益であるから、一般的に消費税の課税の対象とならないか、本件の個別事情に照らし、損害賠償金は対価性がないため消費税の課税の対象とならないこと、仮に本件における損害賠償金が消費税の課税の対象になるとしても、原告と被告との間において内税方式、外税方式のいずれを採用するかについての合意がない以上、内税方式によるべきであることを主張する。

しかしながら、特許権侵害に対する損害賠償請求訴訟では、典型的には、特許権者のみが発明の実施品を製造、販売している状態を想定し、侵害品の販売により特許権者側の売上等が減少したことを損害と捉え、認定又は推定の方法により算定した損害賠償額金を得させることで、権利侵害のなかった原状に可及的に復させようとするものであるところ、その回復の対象となる原状において、特許権者が発明の実施品を製造、販売すれば、売上、経費いずれの面でも消費税は考慮されるはずである。

そうすると、本件のように、回復の対象である原状において、消費税が考慮される事案においては、その回復の手段として逸失利益の損害賠償を算定する際においても消費税の負担は考慮すべきことになり、これに反する被告らの主張は採用できない。

そして、その計算としては、前述のとおり、消費税相当額を考慮した売上額から、消費税相当額を考慮した経費額を控除すれば足りると解され、これによって算定した損害額に、さらに消費税相当額を加算する必要はないし、当事者間に特段の合意がなければ内税方式により計算すべきであるとの被告らの主張も理由がない。

また、被告らは、消費税相当額分の遅延損害金の起算日は、その額が確定した日、すなわち判決確定日であって不法行為時ではないと主張するが、上記アのとおり、原告に支払われるべき損害賠償金は、消費税相当額を含むものの、全体としては特許法102条2項により原告の損害と推定される額であるから、全部につき不法行為の日から遅滞に陥ると解するのが相当である。

(4)推定覆滅又は寄与率について

ア 被告らは、本件発明の被告製品に対する技術的寄与及び顧客吸引力は小さく、寄与率は50%程度であると主張する。

しかし、本件発明3の構成要件Fは、リクライニング機構が付与されていることとされており、本件明細書の段落【0020】及び【0021】にも、電動式を含むリクライニング機構が付与されていることにより、異なるアイメイク施術を1台で済ませることができたり、被施術者が仰向けになったときの下半身の負担を軽減したりすることができる旨の記載がある。また、本件発明はアイメイク用施術台全体に関するものであって、リクライニングアームのみに関する発明ではない。

よって、本件発明の、被告製品に対する技術的寄与が少ないという上記被告らの主張を採用することはできない。

イ また、被告製品の価格(11万8000円(税抜))と本件発明の実施品の価格(18万2000円(税抜))との差は6万4000円であるところ(乙29)、これが直ちに顧客吸引力に大きな差が生じるまでの金額ということはできない。また、被告らは、高田ベッド製作所がアイメイク用施術台の分野において特別なブランド力を有することや、被告製品の広告宣伝において、高田ベッド製作所のブランド力を使用していること等の主張立証をせず、リクライニング機構が本件発明3の構成要件となっていることは、上記アのとおりである。

よって、本件発明が、顧客の購買に寄与する要素が極めて小さいという上記被告らの主張を採用することはできない。

ウ したがって、本件において特許法102条2項の推定を覆滅すべき事情は認められない。

(5)特許法102条4項後段に関する主張

原告は、平成28年10月31日付け及び同年12月5日付けで、被告アイラッシュに対し、本件特許権の侵害について2回にわたり警告し、被告アイラッシュもこれに回答していることから(甲5ないし8)、被告らにおいて被告製品が本件特許の権利範囲外であると考えたことについて、故意または重過失がなかったとして損害賠償の額を定めるにつきこれを参酌すべき場合であるとは認められない。

したがって、上記被告らの主張を採用することはできない。

(6)弁護士費用

本件訴訟の弁護士費用は、差止請求及び損害賠償の双方を考慮して、120万円とするのが相当であり、消費税を考慮した損害賠償額との関係で弁護士費用を算定する以上、これにさらに消費税相当額を加算する必要はない。

なお、被告らは、原告が、本件訴訟において被告らからの和解の申出に応じなかったことを理由として、弁護士費用の一部は原告の損害と認められるべきではないと主張するが、和解に応じるか否かは原則として訴訟当事者が自由に判断すべき事項であるから、本件において弁護士費用相当額を減額すべき事情はなく、上記被告らの主張は認められない。

(7)まとめ

以上より、被告らの利益の額及び弁護士費用相当額の合計は、1071万7032円であるところ、これを各被告の販売台数(130台と90台)で按分すると、被告ビューティと被告アイラッシュが負うべき損害賠償金の元金は、それぞれ、633万2792円と438万4240円となる。