食品トレー容器事件

投稿日: 2018/04/18 1:08:09

今日は、平成28年(ワ)第29320号 特許権侵害差止等請求事件について検討します。判決文によると、原告である株式会社エフピコは合成樹脂製簡易食品容器の 製造及び販売等を目的とする株式会社で、被告であるシーピー化成株式会社はプラスチック製簡易食品容器の製造及び販売等を目的とする株式会社です。

 

1.手続の時系列の整理(特許第5305693号)

① 特許無効審判はまだ審決が出ていません。訴訟が起こされてから1年以上経過してから審判請求したために判決とズレが生じたと思われます。

2.本件発明

(1)本件発明1

A1 熱可塑性樹脂発泡シートの片面に熱可塑性樹脂フィルムが積層された発泡積層シートが用いられ、

A2 前記熱可塑性樹脂フィルムが内表面側となるように前記発泡積層シートが成形加工されて、

A3 被収容物が収容される収容凹部と、

B 該収容凹部の開口縁から外側に向けて張り出した突出部とが形成された容器本体部を有する容器であって、

前記突出部の端縁部の上面が収容凹部の開口縁近傍の突出部の上面に比して下位となるように、突出部の端縁部において前記熱可塑性樹脂発泡シートが圧縮されて厚みが薄くなっており、

しかも、該突出部の少なくとも端縁部の上面側には、凸形状の高さが0.1~1mmとなり

隣り合う凸形状の間隔が0.5~5mmとなるように凹凸形状が形成され、

且つ該端縁部の下面側が平坦に形成されていること

G を特徴とする容器。

(2)本件発明2

H 前記突出部の端縁部に係合される突起部が設けられ、

I 該突起部を前記端縁部に係合させて前記容器本体部に外嵌される蓋体が備えられている蓋付容器である


3.争点

(1)被告製品の本件発明1及び2の構成要件充足性

なお、被告は、後記ア~オ以外の構成要件の充足性について争っていない。

ア 構成要件B「開口縁」及び「突出部」の充足性(被告製品1、2、4、7)

イ 構成要件C「端縁部の上面が…突出部の上面に比して下位」の充足性(被告製品2、5)

ウ 構成要件C「端縁部の上面が…下位となるように…圧縮されて厚みが薄くなって」の充足性

エ 構成要件D及びE「凸形状の高さが0.1~1mm」の充足性

オ 構成要件D及びE「凸形状」の充足性

(2)本件特許の無効理由の有無

ア 乙19文献(特開2006-69634号公報をいう。以下同じ。)に記載の発明に基づく進歩性欠如

イ 乙20文献(実登3012092号公報をいう。以下同じ。)記載の発明に基づく進歩性欠如

ウ 明確性要件違反の有無

エ サポート要件違反の有無

オ 実施可能要件違反の有無

(3)差止めの必要性

(4)損害額

4.被告製品

(1)被告製品2

(2)被告製品5

5.裁判所の判断

1 本件発明1及び2の技術的意義

(1)特許請求の範囲及び本件明細書の記載

-省略-

(2)手続補正書及び審判請求書の記載

-省略-

(3)本件発明1及び2の技術的意義

上記(1)の記載によれば、本件発明1及び2は、熱可塑性樹脂発泡シートに非発泡の熱可塑性樹脂フィルムを積層した発泡積層シートを成形してなる容器について、熱可塑性樹脂発泡シートと熱可塑性樹脂フィルムとの硬さの差により、容器に触れた際に、硬いフィルムで指等を裂傷するおそれがあるが、突出部の上下面に凹凸を形成すると、蓋体を外嵌させる際に突起部が係合される突出部の下面側にも凹凸形状が形成されることとなって強固な係合状態を形成させることが困難となり、端縁部での怪我を防止しつつ蓋体などを強固に止着させることが困難であるという課題を、本件発明1の構成、特に上記端縁部の上面に凹凸形状を形成する一方で下面は平坦とする形状とすることによって解決することとしたものということができる。

また、上記(2)の記載を参酌すると、本件発明1及び2は、上記端縁部を、厚みが圧縮されて薄肉化されたもので、かつ、上面に凹凸形状が存在するものとすることにより、その強度を強め、これによって蓋体を強固に止着させるという課題を解決するものということができる。

以上によれば、本件発明1及び2は、容器の突出部の端縁部の形状について、上面に他の部分との厚みの差を付けて凹凸形状を形成するという形状とすることで端縁部での怪我を防止するとの課題を解決し、端縁部につき上記の端縁部の形状とすることに加えて下面を平坦にすることで、蓋の強固な止着を実現するという課題を解決し、これによって上記各課題の双方を解決することを技術的意義とする発明である。

2 争点(1)(被告製品の本件発明1及び2の構成要件充足性)について

(1)争点(1)ア(構成要件B「開口縁」及び「突出部」の充足性(被告製品1、2、4、7))について

ア 本件発明1及び2に係る特許請求の範囲によれば、「容器」は「被収容物が収容される収容凹部」と「該収容凹部の開口縁から外側に向けて張り出した突出部」が形成された「容器本体部」を有するものである。「開口」は「外に向かって穴が開くこと。また、その穴」という意味を一般に有し、「縁」は「もののはし・へり。特に、まわりの枠」、「突出部」は「高く鋭く突き出た部分」という意味を一般に有する(広辞苑〔第六版〕参照)。

そうすると、「開口縁」は、被収容物が収容される部分から外に向かって開いた穴のへりという意味であり、「突出部」は上記開口縁から外側に向けて張り出し、突き出た部分という意味であると解される

イ 本件明細書(甲3の2)の発明の詳細な説明欄には、前記1(1)ア~オの記載があるほか、「本発明の好ましい実施の形態」として、【図2】及び【図3】で示した容器であって、「容器本体部10は、底部11と、該底部11から立設された側周壁部12と、該側周壁部の上端縁13から外側に向けて張り出した突出部14とを有し…前記側周壁部12の上端縁13がこの収容凹部の開口縁となるように形成され…突出部14は、この側周壁部12の上端縁13(以下「開口縁13」ともいう)から外側に張り出して形成されており、該突出部14は、開口縁13からの突出長さが開口縁13全周において略均一となるように形成されており、その外周縁の形状が角部が丸められた正方形となるとなるように形成されている。」との記載があり、【図2】、【図3】では、開口縁から外側に平坦な突出部が張り出していることが示されているが、発明の詳細な説明欄には、突出部の端縁部の形状についての説明はあるものの、上記平坦な突出部についての説明はない(発明を実施するための最良の形態。段落【0014】~【0020】、【図2】、【図3】)。

以上によれば、本件明細書においても、発明の構成につき特許請求の範囲の記載と同様の記載がされ、その実施例においても、側周壁部の上端縁であり、被収容物が収容される収容凹部のへりといえる開口縁から外側に張り出して形成されているものが突出部とされている。実施例を示す図面には突出部が水平で平坦な容器が示されているが、発明の詳細な説明欄には、突出部が平坦であることについての説明はなく、本件発明1及び2の突出部を突出部が平坦なものに限る趣旨の記載は見当たらない。これらによれば、「開口縁」及び「突出部」については、上記アのように解するのが相当であり、「突出部」は水平で平坦なものには限られない

ウ これに対して、被告は、出願経過に照らし、本件発明1及び2は突出部が水平で平坦である容器に関する発明であると主張する。

原告は、前記1(2)のとおり、「前記突出部の端縁部の…且つ該端縁部の」と補正をしたものであるところ、証拠(乙12〔2〕)によれば、審判請求書において、上記補正の根拠として、突出部の端縁部において熱可塑性樹脂発泡シートが圧縮されて薄肉とされたものであることを明確にしたものであり、この点が本件明細書の例えば段落【0019】や【図3】b)に記載されているもので、願書に添付した明細書及び図面に記載された事項の範囲内のものである旨記載したことが認められる。

上記認定事実によれば、補正の前後に係る特許請求の範囲をみても、補正された部分は「端縁部の上面」と「収容凹部の開口縁近傍の突出部の上面」の位置関係と端縁部における形状についてであって、突出部の形状が水平で平坦である旨の明示的な記載も示唆も見当たらないし、原告が主張したのは本件明細書において発明の実施の形態として記載(段落【0019】や【図3】b))があることから補正の要件を満たすということであるから、突出部の形状が水平で平坦なものに限定する趣旨を読み取ることができない。したがって、本件発明1及び2の容器の突出部が水平で平坦であると解することはできず、被告の主張は採用できない。

エ 被告製品1、2、4及び7の包装用容器は、証拠(甲5)によれば、容器の縁に比べて中央がへこんでおり、その上部が閉じられずに穴となっていると認められる。そして、中央方向のへこんだ部分の上部が穴となっており、その穴の縁が「開口縁」に当たる。また、上記の穴の縁から外側に向けて張り出した部分があると認められるから、この部分が「突出部」に当たる。したがって、構成要件Bの「開口縁」及び「突出部」を充足する。

(2)争点(1)イ(構成要件C「端縁部の上面が…突出部の上面に比して下位」の充足性(被告製品2、5))について

ア 構成要件Cにおいては、「端縁部の上面」が「収容凹部の開口縁近傍の突出部の上面」に比して下位であることが記載されているところ、本件発明1に係る特許請求の範囲によれば「収容凹部」は「被収容物が収容される」ものであり、また、一般に「収容」が物を一定の場所におさめ入れることを意味し、「凹部」が物の表面が部分的にくぼんでいる部分、くぼみの部分を意味する(広辞苑〔第六版〕参照)ことからすれば、物が納められるくぼんだ部分を意味すると解される。

本件明細書の発明の詳細な説明欄をみると、前記1(1)ア~オの記載に加え、実施例として、底部が容器本体部に被収容物を収容させるべく設けられた収容凹部の底を形成すべく設けられており、角部が丸められた(Rが設けられた)正方形に形成され、側周壁部が前記底部の外周縁からやや外向きに傾斜された状態に立設されており、容器本体部10において、前記側周壁部の上端縁がこの収容凹部の開口縁となるように形成されている例が記載されている(発明を実施するための最良の形態。段落【0016】、【図1】~【図3】)。そうすると、本件発明1の構成として特許請求の範囲の記載と同じ記載があり、その実施例もその記載が通常意味するところに符合する。

以上に加えて「開口縁」及び「突出部」が前記(1)アのとおり解されることを踏まえると、「収容凹部の開口縁近傍の突出部の上面」は、物が納められるくぼんだ部分から外に向かって開いた穴のへりを起点として、当該起点から外側に向けて張り出し、突き出た部分の上面を意味すると解される

イ 被告は、被告製品2及び5の構成要件Cの充足性を争うところ、被告製品2の包装用容器において、上記「収容凹部の開口縁近傍の突出部の上面」は、別紙写真目録記載1の写真の「突出部」で示された橙色の部分のうち、外に向かって開いた穴の縁を起点として、当該起点から外側に向けて張り出し、突き出た部分の上面を意味し、「端縁部の上面」は、上記突出部の端縁部の上面である。そうすると、後者の高さが前者の高さより下にあるといえる。

被告製品5の包装用容器において、上記「収容凹部の開口縁近傍の突出部の上面」は、別紙写真目録記載2の写真中「突出部」で示された橙色部分の垂直な部位と水平な部位との境界であり、「端縁部の上面」は当該部分より右の部分の右端の上面である。そうすると、後者の高さが前者の高さより下にあるといえる。

ウ これに対し、被告は、「収容凹部の開口縁近傍」に当たるのは、被告製品2の包装用容器については、収容凹部の開口縁近傍の高さに高低があるから、最も低い部位の開口縁近傍であり、被告製品5の包装用容器については、内嵌される蓋があるから、当該蓋の最下部と同じ高さであると主張し、別紙写真目録記載の「収容凹部の開口縁近傍の突出部の上面の高さ」で示された部分であると主張する。

しかし、被告製品2については、段差があるから最も低い部位までしか物が入らないとはいえないし、被告製品5については、本件発明1において蓋の存在が構成要件の一部とならないことからすれば、蓋の存在を前提とすることは相当でない。また、証拠(甲5〔108、159〕)によれば、被告製品2及び5において、段差の最も低い部位や蓋の最下部よりも高い位置まで食品が収容されており、被告においてもこうした収容の態様を予定していることが認められる。

そうすると、被告製品2及び5の「収容凹部の開口縁近傍」に関する被告の主張は採用することができない。

エ したがって、被告製品2及び5はいずれも構成要件Cの「端縁部の上面が…突出部の上面に比して下位」を充足する。

(3)争点(1)ウ(構成要件C「端縁部の上面が…下位となるように…圧縮されて厚みが薄くなって」の充足性)について

ア 本件発明1及び2に係る特許請求の範囲の記載は、①「前記突出部の端縁部の上面が収容凹部の開口縁近傍の突出部の上面に比して下位となる」という構成と、②「突出部の端縁部において前記熱可塑性樹脂発泡シートが圧縮されて厚みが薄くなっており」という構成であり、かつ、これらの構成が「ように」で結ばれている。「ように」を助動詞「ようだ」の連用形又は名詞「よう」に助詞「に」を組み合わせたものとし、「ように」の後の部分がその前の部分を目的とする行動等を示す意味を有するとするとし(甲12、13、乙14)、その行動等を②の「圧縮」と解すると、端縁部において上記シートを圧縮して厚みを薄くする工程(上記②)を行い、その結果として端縁部の上面が上記のとおり下位となること(上記①)を示していると解する余地があるが、本件発明1及び2は物の発明であって方法の発明ではないのであるから、直ちにこのような関係にあるとは限られない。この部分を物の態様を示すものとしてみると、上記①及び②の各構成が両立することは必要であるが、更に進んで上記②の圧縮に基づかずに上記①となる形状の容器が本件発明1及び2の技術的範囲に属しない趣旨を含むのか否かは明らかでない。

イ 本件明細書の発明の詳細な説明欄をみると、前記1(1)ア~オの記載に加え、「前記容器本体部10は、前記突出部14の端縁部15において、前記熱可塑性樹脂発泡シートが圧縮された状態となっており、前記波形の突起15aの高さ(図2、図3の“h1”)が0.1~1mmとなり、隣り合う突起15aの間隔が0.5~5mmとなるように形成されていることが怪我防止の観点から好ましい。/そして、前記端縁部15の上面は、収容凹部の開口縁13近傍の突出部14の上面に比べて下位となるように端縁部15が圧縮された状態となっている。/すなわち、前記突出部14は、開口縁13近傍から端縁部15にかけて厚みが減少されており、この厚みが減少している領域において丸みを帯びた形状が形成されている。」「このように、突出部14の上面側に前記熱可塑性樹脂フィルムが配され、下面側には熱可塑性樹脂発泡シートが配され、しかも、端縁部15の上面側15uに凹凸形状が形成され且つ下面側15dが平坦に形成されていることから前記蓋体20を外嵌させる際にこの平坦に形成された端縁部15の下面側15dに強固な係合状態を形成させることができる。/しかも、熱可塑性樹脂フィルムの端縁を上下にジグザグとなるように形成させることにより利用者の怪我などを防止できる。」(発明を実施するための最良の形態。段落【0019】、【0020】。「/」は改行を示す。)との記載がある。

上記記載によれば、本件発明1及び2は前記1(3)のとおりの技術的意義を持つもので、端縁部の下面が平坦であることとその厚みが薄いことの双方が備わることで、それぞれの効果が生じ、蓋の強固な止着が実現するのであって、端縁部が圧縮されて薄くなっていることと上面の位置との関係に何らかの技術的意義があるものでないし、実施例においても何らの効果も示されていない。そうすると、物の態様として「ように」の語が特段の意味を有すると解することはできず、前記ア①及び②の各構成が両立していれば足りると解するのが相当である

ウ これに対し、被告は、「突出部の端縁部において…薄くなっており」という構成によってのみ「前記突出部の…下位となる」構成が実現しなければならないと解釈すべき旨を主張し、その根拠として本件明細書の記載(段落【0019】)、審判請求書(乙12)において上記部分に係る補正の根拠を本件明細書の「例えば段落0019や図3(b)」と主張したという出願経過を挙げる。

しかし、上記の本件明細書の記載(段落【0019】)は実施例の記載であり、こうした実施例があることから上記のとおり解釈することは相当でないし、当該記載が引用する【図3】b)によれば端縁部の下面も端縁部以外の突出部の下面に比して下位となっており、端縁部を圧縮して薄くしなくても端縁部の上面が端縁部以外の突出部の上面に比して下位となっているとみる余地がある。補正の根拠に関する主張は、補正に係る部分が本件明細書の記載の範囲内であることを指摘したものであって、説明した部分に補正に係る部分の解釈を限定する趣旨を読み取ることはできない。被告の主張は採用できない。

エ 証拠(甲5)及び弁論の全趣旨によれば、被告製品(包装用容器)は、端縁部の上面の高さが開口縁近傍の突出部の高さよりも低いことが認められる。

また、後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば、①別紙被告製品目録記載2(2)、⑺~⑼、⑾及び⒀、同記載3(2)及び⑻、同記載5(1)及び(3)、同記載6(2)並びに同記載7(1)及び(3)の各包装用容器を除く被告製品(包装用容器)について、端縁部の厚さが開口縁近傍の突出部の厚さよりも薄いこと(甲6~9)、②被告製品1~7のそれぞれに属する包装用容器について、外寸が異なるほかに相違点がうかがわれないこと(甲5)が認められる。そうすると、被告製品(包装用容器)全部について、上記①のとおり推認するのが相当である。

したがって、被告製品(包装用容器)は、構成要件Cの「下位となるように…圧縮されて厚みが薄くなって」を充足する。

(4)争点(1)エ(構成要件D及びE「凸形状の高さが0.1~1mm」の充足性)について

ア 本件発明1及び2に係る特許請求の範囲の記載は、「容器」の「収容凹部の開口縁から外側に向けて張り出した突出部」について、「端縁部の上面が…形成され」との記載(構成要件C~E)と、「該端縁部の下面側が…形成され」との記載(構成要件F)が、「且つ」で結ばれている。そして、その「端縁部の上面」について、「収容凹部の開口縁近傍の…下位となるように、端縁部において前記熱可塑性樹脂発泡シートが圧縮されて厚みが薄くなっており」(構成要件C)、「該突出部の少なくとも端縁部の上面側には、凸形状の高さが0.1~1mmとなり…凹凸形状が形成され」(構成要件D、E)とされている。

そうすると、「凸形状の高さが0.1~1mm」である「凹凸形状」は、端縁部の上面の特徴を示していると解される。また、上記「凹凸形状」は、「端縁部の上面側」に「凸形状の高さが0.1~1mm」となることが定められているところ、「側」は相対するものの一方の面を一般的に意味することに照らせば、この凸形状の高さとは、端縁部の上面において形成されている凸形状の高さをいうと解される。

以上を踏まえると、「凸形状の高さ」は、端縁部の上面における凸形状の高さであり、具体的には、端縁部の上面側における凸型状の底部と凸形状の頂部との距離をいうと解するのが相当である。

イ 本件明細書(甲3の2)の発明の詳細な説明には、前記1(1)ア~オの記載があるほか、「本発明の好ましい実施の形態」として、【図2】及び【図3】で示した容器であって、「前記突出部14の端縁部15において、前記熱可塑性樹脂発泡シートが圧縮された状態となっており、前記波形の突起15aの高さ(図2、図3の“h1”)が0.1~1mmとなり、隣り合う突起15aの間隔が0.5~5mmとなるように形成されていることが怪我防止の観点から好ましい。そして、前記端縁部15の上面は、収容凹部の開口縁13近傍の突出部14の上面に比べて下位となるように端縁部15が圧縮された状態となっている。すなわち、前記突出部14は、開口縁13近傍から端縁部15にかけて厚みが減少されており、この厚みが減少している領域において丸みを帯びた形状が形成されている」ものが記載されている(段落【0019】)。そして、【図2】及び【図3】において、端縁部の下面と突起の頂部との距離を波形の突起の高さ(h1)としている。

上記記載によれば、発明の詳細な説明には、特許請求の範囲の記載と同旨の記載がされている一方、実施例として記載されているものについて、【図2】及び【図3】において、端縁部の下面と突起の頂部との距離を波形の突起の高さ(h1)としている。もっとも、上記は、実施例において波形の突起の高さを記載したものであって、前記のとおり、特許請求の範囲の記載から「凸形状の高さ」の意味が判明することからすれば、こうした実施例の記載を根拠として、特許請求の範囲の「凸形状の高さ」の文言の意味を解するのは相当でない。

以上によれば、「凸形状の高さ」は、端縁部の上面側における凸形状の底部と凸形状の頂部との距離を意味すると解するのが相当である。

ウ 被告製品は、後掲の証拠によれば、別紙被告製品目録記載2(2)、(7)~(9)、(11)及び⒀、同記載3(2)及び(8)、同記載5(1)及び(3)、同記載6(2)並びに同記載7(1)及び(3)の各包装用容器を除く被告製品(包装用容器)について、端縁部の上面側における凸形状の底部と凸形状の頂部との距離が0.1~1mmであること(甲6~9)、被告製品1~7のそれぞれに属する包装用容器について、外寸が異なるほかに相違点がうかがわれないこと(甲5)が認められる。そうすると、被告製品(包装用容器)全部について、端縁部の上面側における凸形状の底部と凸形状の頂部の距離が0.1~1mmであると推認するのが相当である。したがって、被告製品(包装用容器)は、構成要件D及びEの「凸形状の高さが0.1~1mm」を充足する。

(5)争点(1)オ(構成要件D及びE「凸形状」の充足性)について

ア 被告は、本件発明1及び2の特許出願についての拒絶査定に対する審判請求書(乙12)における原告の説明を根拠に、「凸形状」は圧縮して形成された端縁部の上に更に凹凸形状を設けているものでなければならないと主張する。

イ 本件発明1及び2に係る特許請求の範囲の記載上、「凸形状」は「突出部の少なくとも端縁部の上面側」に設けられ、「高さが0.1~1mm」「隣り合う凸形状の間隔が0.5~5mm」となるものであり、他に設けられる位置や形状を特定する旨の記載はなく、本件明細書の発明の詳細な説明欄にも、上記のほかに「凸形状」が設けられる位置や形状を特定する旨の記載はない。前記1(2)のとおり、原告は、審判請求書(乙12)において、突出部の端縁部について圧縮薄肉化されていること及び凹凸形状が形成されていることがそれぞれ強度向上の効果を生じさせることを記載しているところ、上記の「端縁部」の圧縮薄肉化による効果と「凹凸形状」による効果はそれぞれの構成に基づくものとして記載されていると解されるものであり、圧縮して形成された端縁部の上に更に凹凸形状を設ける趣旨であるとは解されない。

ウ したがって、「凸形状」につき圧縮して形成された端縁部の上に更に設けられることを要するものと解することはできないところ、被告が「凸形状」の位置及び形状について上記ア及び前記(4)のほかに争ってないことに照らせば、被告製品(包装用容器)はいずれも「凸形状」があるから、構成要件D及びE「凸形状」を充足する。

3 争点(2)(本件特許の無効理由の有無)について

(1)争点(2)ア(乙19文献記載の発明に基づく進歩性欠如)について

ア 被告は、乙19文献に乙19発明の1、すなわち①樹脂フィルムが用いられ、樹脂フィルムが成形加工されて、惣菜等(被収容物)が収容される収容凹部と、②該収容凹部の開口縁から外側に向けて張り出した屈曲部R(突出部)とが形成された身2(容器本体部)を有する容器1(容器)であって(構成要件Bに相当)、③屈曲部R(突出部)の終端折り曲げ面2h(端縁部の上面)が収容凹部の開口縁近傍の屈曲部R(突出部)の上面に比して下位となっており、④しかも、屈曲部R(突出部)の少なくとも終端折り曲げ面2h(端縁部の上面)側には、波高(凸形状の高さ)が隣り合う凸形状のピッチの30~60%となり(構成要件Dに相当)、⑤隣り合う凸形状のピッチ(間隔)が1~5mmとなるように全周にわたり波状外縁線2e(凹凸形状)が形成され(構成要件Eに相当)、⑥かつ終端折り曲げ面2hの部位(端縁部)の下面側が平坦に形成されていること(構成要件Fに相当)、⑦を特徴とする容器1(容器)(構成要件Gに相当)、という発明が少なくとも記載されており、本件発明1と乙19発明の1とは、乙19発明の容器1が熱可塑性樹脂発泡シートの片面(容器の内表面側)に熱可塑性樹脂フィルムが積層された発泡積層シートで成形加工されているか否かが不明である点(相違点1。構成要件A1関係)及び乙19発明の容器1が屈曲部Rの端縁部の厚みが圧縮されて薄くなっているか不明である点(相違点2。構成要件C関係)で相違すると主張する。

乙19発明の1が前記ア①~③及び⑦の構成を有することは当事者間に争いがない

他方、屈曲部の終端折り曲げ面についてみると、乙19文献においては、①樹脂製容器の感情屈曲部の外縁線を波状外縁線に形成する構成を有すること(特許請求の範囲の請求項1、2)、②請求項1の発明によれば密閉状態の容器から蓋を取り外すときに容器と蓋の切断縁が直線縁であることから指を切りやすいので、これを波形の外縁線、例えば、波又はひだ状に形成することにより手指を切ることがなくなるのであり、波形とは正弦波、三角波、台形波等を指し、直線又は曲線で波を形成し、対称、非対称を問わないこと(発明の詳細な説明欄の課題を解決するための手段。段落【0008】)、③実施例として、上記外縁線の上下方向に波を形成したものがあること(発明を実施するための最良の形態の実施例1。段落【0023】、【図5】)が記載されていると認められる(乙19)。

上記記載に照らすと、乙19文献には、容器の外縁線において上下に山形の波形が形成される構成が開示されており、その下面側を平坦に構成したものは開示されていないものといえる。したがって、乙19発明の1と本件発明1及び2は、端縁部の下面側を平坦に構成したものでない点が少なくとも相違する

これに対し、被告は、乙19文献の【図8】において下面が平坦な端縁部の構成が開示されていると主張するが、上記①~③の記載を考慮すると、他の図(【図5】)の構成を側面視したものと理解することができるから、【図8】において上記構成が開示されていると認めることはできない。

ウ 上記相違点について、被告は、端縁部の上下両面に凹凸形状が形成された乙19の1発明の樹脂フィルムと、周知慣用技術(乙20~26)の端縁部の上下両面が平坦に形成された発泡積層シート等を積層したシートを用いれば、当然に上面は凹凸形状、下面は平坦となる、指を切るおそれがあるのは樹脂フィルムのみであるからこの層のみを凹凸形状とし、発泡積層シート等の部分は平坦に形成することとなるから、本件発明1及び2の構成を当業者が容易に想到できると主張する。

しかし、乙19の1発明においても上記の周知慣用技術の根拠とされる文献においてもそれぞれ端縁部全体の形状が示されているから、これらを単純に重ねて上面を凹凸形状とする端縁部全体を想定することは困難である。また、上記の周知慣用技術とされるシートの製造方法は発泡積層シートを熱圧プレスするもの(乙23、24)、雄型と雌型の間に導いてこれらを閉じるもの(乙25)、シートから真空成形又は押圧成形するもの(乙26)であるとされているところ、一方の樹脂フィルム製の端縁部全体と他方の発泡樹脂製又は発泡積層シート製の端縁部全体を単純に重ね合わせることはこうした製造方法に見合わない。そうすると、乙19の1発明に対し、上面に凹凸形状を形成し下面を平坦に形成する構成を想到することは容易でなく、乙19の1発明に周知慣用技術を組み合わせて上記相違点に係る本件発明1及び2の構成に想到することが当業者に容易であるとは認められない。

エ 以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、本件発明1及び2が乙19文献記載の発明に基づいて容易に発明することができたものであるとはいえない。

(2)争点(2)イ(乙20文献記載の発明に基づく進歩性欠如)について

ア 被告は、乙20文献に、少なくとも①発泡スチロール製の外皮15のシート(熱可塑性樹脂発泡シート)の片面にハイインパクトポリスチレン製の内皮16(熱可塑性樹脂フィルム)が積層されたシート17(発泡積層シート)が用いられ、ハイインパクトポリスチレン製の内皮16(熱可塑性樹脂フィルム)が内表面側となるようにシート17(発泡積層シート)が成形加工されて、インスタント食品類や冷凍加工食品類(被収容物)が収容される収容凹部と(構成要件A1~A3に相当)、②該収容凹部の開口縁から外側に向けて張り出したフランジ部12(突出部)とが形成された容器1(容器本体部及び容器)であって(構成要件Bに相当)、③フランジ部12(突出部)のリブ13(端縁部)の上面が収容凹部の開口縁近傍のフランジ部12(突出部)の上面に比して下位となるように、フランジ部12(突出部)のリブ13(端縁部)において発泡スチロール製の外皮15のシート(熱可塑性樹脂発泡シート)が圧縮されて厚みが薄くなっており(構成要件Cに相当)、④且つリブ13(端縁部)の下面側が平坦に形成されていること(構成要件Fに相当)、⑤を特徴とする容器1(容器)(構成要件Gに相当)という乙20の1発明が記載されており、本件発明1及び2と乙20の1発明とは、その容器1のフランジ部12のリブ13の上面側に凸形状の高さが0.1~1mmの範囲内の値となり、かつ、隣り合う凸形状の間隔が0.5~5mmの範囲内の値となるような凹凸形状が形成されている(構成要件C及びDに相当する構成が採用されている)のか否か不明である点(相違点3)において相違すると主張する。

乙20発明の1が前記ア①~③及び⑤の構成を有することは当事者間に争いがない

他方、乙20発明の1の容器のフランジ部の形状についてみると、乙20文献においては、①フランジ部の外周に沿ってリブを形成すること(実用新案登録請求の範囲の請求項1)が記載されていること、②図面には上面及び下面とも平坦に形成されたフランジ部が描かれていること(【図1】~【図7】、【図11】)が認められ(乙20)、リブは平面に直角に取り付ける補強材を一般的に意味すること(大辞林〔新装第二版〕参照)に照らすと、乙20文献は、少なくとも上面に凹凸形状がないものを開示しており、何らかの凹凸形状があるものを開示していないものと認められる。したがって、乙20の1発明は、少なくとも、その容器のフランジ部のリブの上面側に凹凸形状が形成されていない点で、本件発明1及び2と相違する。

ウ 上記の相違点について、被告は、文献(乙27~29)に照らして上面側に凹凸形状を設けることは周知慣用技術であり、こうした周知慣用技術を組み合わせて本件発明1及び2の構成とすることを当業者は容易に想到できると主張する。

しかし、証拠(乙27~29)によれば、被告が指摘する文献には、切断面が側面視略波形状であること(乙27〔実用新案登録請求の範囲の請求項1〕)、突出部を前後及び/又は上下にジクザグに形成して端面に対して前後方向、上下方向に凹凸形状となること(乙28〔特許請求の範囲の請求項1〕)、凹凸部を設けること(乙29〔実用新案登録請求の範囲(1)〕)が記載され、また、上下のいずれの方向にも凹凸形状となるもののみが記載されていると認められるから、端縁部について上面側に凹凸形状を形成し、下面側を平坦に形成する技術が開示されておらず、上記の周知慣用技術の存在を認めることができない。

したがって、乙20の1発明に上記の周知慣用技術を適用することはできないし、上記のとおり上下のいずれの方向にも凹凸形状となるものを組み合わせても、上面側のみに凹凸形状を形成することの示唆がない以上、本件発明1及び2の構成を想到することはできない。

この点につき、被告は、上記の本件発明1及び2の構成は設計事項であると主張するが、乙20の1発明は、リブを設けて容器の剛性を増大させ、容器の熱収縮を防止して耐熱変形性を向上させるという課題を解決するものであり(考案の詳細な説明欄の段落【0007】、【0012】)、リブの形状が凹凸形状となっている構成が開示されていないことからすれば、当業者が設計する際に凹凸形状を考慮に入れるということはできない。

また、被告は、上面のみに凹凸形状を形成して下面を平坦とする構成は乙19文献に開示されていること、指摘する文献(乙27~29)において上下方向に凹凸形状を設けなければいけない趣旨の記載はなく、図面は実施例にすぎないことを主張する。しかし、前記(1)イのとおり、乙19文献に上記構成は開示されていない。また、上記の趣旨の記載がなくても凹凸形状を設ける構成が開示されているというためには、当業者においてこうした構成を端縁部において採用することを通常認識していることを要すると解されるが、こうしたことを認めるに足りる証拠はないから、上記構成が開示されているとみることはできない。

エ 以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、本件発明1及び2が乙20文献記載の発明に基づいて容易に発明することができたものであるとはいえない。

(3)争点(2)ウ(明確性要件違反の有無)について

被告は、仮に構成要件Dの「凸形状の高さ」が凸形状の頂部から凸形状の底部までの距離をいうのであれば、端縁部15の下面側15dの底辺から突起15aの頂部の最高点までの距離という本件明細書における明確な定義と異なり、「凸形状の高さ」が2通りに解釈され得るから、本件発明1及び2は発明が明確であるといえないと主張する。

しかし、前記2(4)において説示したとおり、「凸形状の高さ」は、本件明細書を参酌しても端縁部の上面側における凸形状の底部と凸形状の頂部との距離をいうと解釈され、端縁部15の下面側15dの底辺から突起15aの頂部の最高点までの距離をいうものとは解されない。

したがって、「凸形状の高さ」が本件明細書によって2通りに解釈され得るとはいえず、本件発明1及び2が明確でないとはいえない。

(4)争点(2)エ(サポート要件違反の有無)及び争点(2)オ(実施可能要件違反の有無)について

被告は、本件発明1及び2について、構成要件D及びEにより、第1の強度向上を図って圧縮薄肉化された突出部の端縁部の更にその上面に凹凸形状を形成することによって第2の強度向上を図ることを実質的に発明特定事項としたことを前提に、上記発明特定事項が本件明細書において説明されていないし、本件明細書の記載が実施することができる程度に明確かつ十分なものでないと主張する。

しかし、本件発明1及び2の特許請求の範囲には、突出部の端縁部が圧縮されて厚みが薄くなっていること、その上面に凹凸形状が形成されていることが記載されている一方、上記端縁部が圧縮された後に凹凸形状を形成することや、これらが強度向上を図ることを目的とすることは記載されていないし、本件明細書においてもその示唆はない。

また、前記1(2)のとおり、原告は、突出部の端縁部が圧縮薄肉化されていること及び凹凸形状が形成されていることがそれぞれ強度向上の効果を生じさせると審判請求書(乙12)に記載しているが、上記の圧縮薄肉化と凹凸形状の効果は個別に記載されたといえるものであるから、上記のことが発明を特定する事項であると読み取ることはできない。

したがって、これらのことが発明を特定する事項であるということはできず、被告の主張は前提を欠き、本件特許は、本件発明1及び2が発明の詳細な説明に記載されたもの(特許法36条6項1号)でないということはできないし、本件発明1及び2に係る発明の詳細な説明の記載がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したもの(同条4項1号)でないということもできない。

4 争点(3)(差止めの必要性)について

(1)以上によれば、被告による被告製品の製造販売は本件発明1又は2の実施に当たり、本件特許権を侵害するというべきところ、原告は、被告が被告製品の金型を変更したといえないこと、被告が製造販売する他の製品について製造販売を禁止する仮処分命令発令後もこれを販売していたこと、被告は本件訴訟の第1審終了まで被告製品の製造販売を差し控えると約しているにとどまることから、被告が被告製品の製造販売によって本件特許権を侵害するおそれがあると主張する。

(2)後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば、①被告は、被告製品の製造販売が本件特許権を侵害する旨の原告からの通知の受領後、平成27年6月12日頃から同年7月9日頃までに、端縁部に凹凸形状がないものに被告製品の金型を加工したこと(乙2、3)、②被告が管理していた被告製品の在庫を廃棄処分したこと(乙2)、③本件仮処分命令受領後の平成28年6月末日までに被告製品の製造及び販売を終了し、端縁部に凹凸がない製品のうち一部のものは型番を変えて販売することとし、これを被告のウェブサイトに掲載することその他の方法により告知する(乙5~7)とともに、ウェブ上のカタログから削除した(乙8の1~16)ことが認められ、また、前記前提事実(4)のとおり、④原告及び被告は平成29年1月17日に被告が本件訴訟に係る判決言渡しの日又は訴訟の完結のいずれか早い日まで被告製品(包装用容器については、端縁部の上面側に凹凸形状が形成されているものに限る。)の製造、販売及び販売の申出を差し控えることなどを内容とする本件和解をした。

上記事実関係によれば、被告は、現在において被告製品の製造販売を行うことができず、直ちに再開することもできない(上記①~③)一方で、被告製品の製造販売が本件特許権を侵害するか否かを判断すべき本件訴訟の第1審判決又は他の方法による完結の日まで被告製品を製造販売しないことを約したにとどまり、将来にわたって被告製品を製造販売しないことを約していない(上記④)し、再開に当たっては少なくとも金型の加工が必要であるが、これに要する期間は相当の長期にわたるとはいえない(上記①)ということができる。そうすると、本件訴訟がこれまでに判決以外の方法により終局していないことは当裁判所に顕著であるから、被告が第1審判決後に被告製品の製造販売を再開するおそれがあるといわざるを得ない。

(3)したがって、被告は、被告製品の製造等により本件特許権を侵害するおそれがあり、その差止めを求める請求は理由がある。

なお、上記のとおり、被告製品には、平成27年7月頃から平成28年6月頃まで、端縁部に凹凸形状があるものとないものが混在しており、また、凹凸形状がないものは構成要件Eの「凹凸形状」がないことから本件発明1及び2の技術的範囲に属しないが、凹凸形状がない製品については型番を変えて販売するなどしていることに照らすと、被告製品(包装用容器)は上記の凹凸形状のあるものに限られると解するのが相当である。

(4)その一方で、上記(2)のとおり、被告製品は廃棄され、その製造用金型は加工されて変更されたから、被告は、廃棄すべき被告製品及びその製造用金型を占有していないと認められる。したがって、これらの廃棄を求める請求は理由がない。

5 争点(4)(損害額)について

以上によれば、被告による被告製品の製造販売は本件特許権を侵害するというべきであるから、上記侵害による損害について判断する。

(1)特許法102条3項に基づく損害額

ア 売上高

原告は、平成25年7月から平成29年2月までの3年8か月間における被告製品の総売上高は、被告において端縁部に凹凸のあるものとないもの売上高であると主張する●(省略)●円であると主張する。

前記4(2)の事実関係によれば、平成25年7月から平成27年7月頃までは端縁部に凹凸のあるもののみが販売され、同月頃からは凹凸のあるものとないものの双方が販売され得たと認められる。もっとも、凹凸のあるものとないものの各生産数量及び販売数量を被告が明らかにしないことに加え、これらの販売割合その他凹凸のあるものとないものの販売数量を区別することを可能とする証拠もないことに照らせば、上記額をもって被告製品の売上高であると認めるほかない。

これに対し、被告は、被告製品のうち端縁部に凹凸形状がないものを除いたものの売上高は●(省略)●円であると主張する。しかし、証拠(乙52〔8、9〕)によれば、上記の額は、①端縁部に凹凸形状があるものの生産数と②被告製品の品番の販売数とを比較し、上記①が②を上回るときは上記②の数を販売数とし、そうでないときは上記①の数を販売数として算出したものとされているところ、上記①の数を認めるに足りる証拠やその信用性を裏付ける証拠は見当たらないから、上記①の数を前提とする上記額が適正なものと認めることはできない。被告の主張は採用できない。

イ 実施料率

(ア)前記1(3)のとおり、本件発明1及び2は、端縁部の形状について、上面に他の部分との厚みの差を付けて凹凸形状を形成するという形状とすることで端縁部での怪我を防止するとの課題を解決し、端縁部につき上記の端縁部の形状とすることに加えて下面を平坦にすることで、蓋の強固な止着を実現するという課題を解決し、これによって上記各課題の双方を解決することを技術的意義とする発明である。なお、被告は、従来技術において怪我防止効果を必要とする問題点があったとすること自体疑わしい趣旨の主張をするが、後記のとおり被告製品を含む製品のカタログにおいて端縁部における手指の切創について注意喚起していることに照らし、採用し難い。

(イ)また、後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば、①一般に、プラスチック製品の実施料率の平均値が平成4年度~平成10年度において3.0%(イニシャルペイメントあり)及び3.9%(同なし)であり(甲27)、技術分野を運輸、対象となる製品例を「車輌一般」、「鉄道」、「運搬;包装;貯蔵;薄板状または線条材料の取扱い」等とする特許権についてのロイヤリティ率の平均は、独占的なライセンスの場合で2.0%、代替技術が存在しない場合で2.1%である(甲28)こと、②被告製品を含む製品のカタログには、容器の縁で指先等を怪我する場合があるので注意すべき旨の記載があるほか、ボリューム感がアップしたこと、立体的な盛付けとなること、安定した積み重ねが可能であることなどの特徴の記載があるが、容器の端縁部に凹凸形状を設けた旨の記載がないこと(甲5、40、41、乙54〔別紙〕、68~70)、③原告が、遅くとも平成15年頃までに容器の蓋の端縁部の1~1.5mmの波状に成形する加工を開発し、これを「セーフティエッジ」と称して販売していたこと、上記加工を施した製品として、蓋の端縁部の写真を掲載したカタログや記事があるが、少なくとも平成27年版及び平成29年版のカタログにおいては上記加工についての記載がないこと(甲29~39、乙61~63)が認められる。

上記(イ)①によれば、プラスチック製品や容器についての一般的な実施料率は2~4%程度ということができる。また、上記(ア)及び(イ)によれば、本件発明1及び2の技術的意義が現れているのは容器の一部である端縁部の形状に限定されるところ、一般的には端縁部における手指の切創を防止することは顧客吸引力を持ち得るといえるものの、原告の製品において行われている上記「セーフティエッジ」加工は、蓋の端縁部の加工であって本件発明1及び2の包装用容器に係る加工であるとは認め難く、原告においても平成27年以降はこの加工の存在をカタログ等において顧客に告知していない。被告においても、端縁部において手指の怪我が生じ得るという課題を認識して顧客に告知する一方で、その部分の怪我防止の措置について顧客に告知をしていない。そうすると、本件発明1及び2の技術的意義が容器の売上げに寄与する程度は相当程度小さいものとならざるを得ないから、上記の一般的な実施料率よりも相当程度低くすべきである。

以上によれば、本件発明1及び2の実施によって受けるべき相当な実施料率は●(省略)●と認めるのが相当である。

ウ 損害の額

上記ア及びイによれば、本件発明1及び2の実施に対し受けるべき金銭の額に相当するのは、1694万4217円であると認められる。

(2)弁護士費用

本件特許権侵害によって通常生ずべき弁護士費用額は170万円と認められる。

6.検討

(1)本発明は、食品トレー容器に関するもので、容器の開口部に設けられたフランジ状の突出部について、開口部側よりも突出部の先端側(明細書では端縁部)の方が低くなっていて、この先端側の上面には凹凸が形成され、下面側は平坦になっているというものです。

(2)被告の非抵触主張は幾つかありますが、メインは被告製品における「開口縁」はどの位置か?という点に集約されると思います。本件発明の明細書等には開口から突出部が水平方向に延びている単純な形状のみ例示されていますが、被告製品は一旦外側に延び、さらに上方に延びて再度外側に延びるような形状をしています。そのため、最初に外側に延び始める位置を「開口縁」と定義すると、この部分よりも先端の方が高い位置になります。一方、2回目に外側に延び始める位置を「開口縁」と定義すると、この部分よりも先端の方が低い位置になります。

(3)判決では、被告の主張する「開口縁」に相当する高さを超えて食品が収容されること等から「開口縁」は後者の位置と判断しました。つまり、被告製品は壁面が一旦外側に広くなっているだけ、という認定であったと思われます。被告製品2、5の写真を見ると、被告製品5については蓋をすると蓋の下面が被告の主張する開口縁の位置まで押し込まれるようなので、それを超える高さまで食品は入れられないので被告の主張するところも理解できます。一方で裁判所が指摘するとおり、本件発明1は「蓋」を構成要件としていないので、蓋がない場合にはもっと高い位置まで食品を入れるように思われます。発明の効果を見ると蓋に関するものもありますが、最初に挙げられた効果は蓋の存在とは関係ない効果なので、こちらの効果だけを満たせば十分と考えたのだと思います。

(4)少し気になったのは被告が訴訟を起こされてから1年以上経過して特許無効審判を請求した点です。侵害訴訟で無効主張しているので、もっと早く審判請求をすることも可能だったはずです。ざっと二つの可能性が浮かびました。それは、審判請求したころに侵害論の判断が出て、無効とならないことがわかった被告が納得できずに同じ証拠で特許庁の判断を求めたか、新たな無効主張の証拠が見つかったが侵害訴訟では時期に遅れた防御となるために特許無効審判を請求したか、です。

(5)このような発明の特許請求の範囲の書き方は結構難しいと思います。ものが一体成型された樹脂なので「突出部」の始まりである「開口縁」について明確に規定することが難しいです(明確に規定しすぎると回避が簡単になってしまいます)。本発明では比較的素直に書いています。もちろんそのような請求項も必要ですが、規定しにくい構成は書かない、という選択肢もあったと思います。特許請求の範囲を、発明の構成の説明と捉えるのか、それとも権利を主張するための手段と捉えるのかによって書き方はだいぶ変わるように思います。