発明の価値

投稿日: 2017/02/25 14:52:27

以前実際に私が関わった洗濯乾燥機の特許の請求項を紹介しました。

 

【請求項1】

開口部を有する外箱と、

前記外箱の開口に設けた蓋と、

前記外箱内に支持された外槽と、

前記外槽内に回転自在に配置され、複数の脱水孔を有する洗濯兼脱水槽と、

前記洗濯兼脱水槽に温風を供給する温風供給手段とを備え、

洗い工程、すすぎ工程、脱水工程の順からなる洗濯工程と、

前記洗濯工程の終了後、前記洗濯兼脱水槽から洗濯物が取り出された状態で、前記温風供給手段から前記洗濯兼脱水槽内に供給された温風を、前記複数の脱水孔を介して前記洗濯兼脱水槽と前記外槽の隙間に流入させて前記洗濯兼脱水槽内部及び前記外槽壁面を乾燥させる槽乾燥工程とを有する洗濯乾燥機であって、

前記槽乾燥工程には、前記脱水工程終了後、前記蓋の開閉動作の検知を条件として、自動的に移行することを特徴とする洗濯乾燥機。

 

この時は地裁でも特許権侵害が認められたのですが、判決文の中の損害賠償を認定する項に以下のような記載がありました。

他方,特許法が保護しようとする発明の実質的価値は,従来技術では達成し得なかった技術的課題の解決を実現するための従来技術に見られない特有の技術的思想に基づく解決手段を具体的な構成をもって社会に開示した点にあるというべきところ,本件688発明がその課題解決のために具体的に開示した新たな技術的手段としての構成は,「前記検知工程による検知を条件に」槽乾燥工程へ移行するようにしたところであって,同発明は,蓋の開閉検知のほかには,「洗濯物が取り出された状態」とするための技術的手段を開示していないことは,前記1で見たとおりである。

この文章は損害賠償額を下げるための理由として裁判官が記したものです。これを読むと、裁判官は、発明の価値は課題を解決するための手段としての構成が数多くある(あるいは複雑である)か否かで決まる、と言っています。

これを読んだときには驚きました。実はこの前段では発明が素晴らしいという内容の記述ばかりだったのです。持ち上げてから下げるという漫才師さながらの手腕でした。

一般的に考えた場合、従来技術では達成し得なかった技術的課題の解決を実現するための解決手段がシンプルなほどコストパフォーマンスに優れ、皆が真似したくなる発明じゃないですか?それをシンプルだから損害賠償額を減らすという逆転の発想にはただただ驚かされます。

裁判官は請求項が例えば構成要件A~Jの10個に分説できるとした場合、そのうちの3個が新規なものであれば売上高の3%、1個しか新規なものがなければ売上高の1%というように考えているのでしょうか(笑)

昔、ある会社に怖い職業の人が特許権侵害だから金を払え、と乗り込んできた際に、その会社の法務担当者が丁寧に「構成要件を5個に分けた場合に2個違っているので非抵触であって払う必要はありません」と言ったところ、「それなら3個つまり60%該当するのだから要求額の6割払え!!」と言ったとか言わなかったとか。それとたいして違わないロジックですよね。

当事者にしたら、よっぽどこの特許が気にくわなかったので難癖付けてでも賠償額を下げたかったとしか読めませんね。賠償額を下げるにしてももう少し上手な言い回しにしてもらわなければ裁判所に対する信頼がねぇ・・・