ベビーチェア事件

投稿日: 2017/08/27 23:24:20

今日は、平成26年(ワ)25196号特許権侵害行為差止等請求事件について検討します。原告であるコンビ株式会社は、原告のホームページによると、ベビー&トイ事業、育児環境支援事業、アパレル事業、機能性食品事業及びペット事業を行う株式会社だそうです。一方、被告であるアップリカ・チルドレンズプロダクツ合同会社はベビーカー・チャイルドシートなどの製造販売を中心とする株式会社だそうです。J-PlatPatで検索すると原告であるコンビ株式会社がこれまでに取得した特許件数は378件、被告であるアップリカ・チルドレンズプロダクツがこれまでに取得した特許件数は66件でした。

 

1.手続の時系列の整理(特許第3958413号)

① 原告が請求した訂正審判は、被告が侵害訴訟で展開した無効主張に対抗するためのものです。

② 被告であるアップリカ・チルドレンズプロダクツ合同会社はアップリカ・チルドレンズプロダクツ株式会社であったものが2014年に合同会社に改組されたものです。

2.特許の内容

(本件発明(訂正後))

A ベース(5)と、該ベース(5)に対して揺動可能に設けられた座席(2)と、を備えた揺動機能付き椅子であって、

B 前記座席(2)に支持された磁性材料の部材(14a、14b)と、

C 前記座席(2)の静止時における磁性材料の部材位置とは異なる位置に、前記磁性材料の部材(14a、14b)に近接して前記ベース(5)に固定され、電磁力により前記磁性材料の部材(14a、14b)を揺動方向に吸引するソレノイド(9)と、

D 該ソレノイド(9)を所定のタイミングで励磁することで前記座席(2)の揺動動作を制御する揺動制御手段(6)と、を備え、

E 前記磁性材料の部材(14a、14b)とソレノイド(9)とは離間した状態で揺動する揺動機能付き椅子において、

F´ 前記ベース(5)には、少なくとも2つのロッド(7a、7b)が互いに前記座席(2)の揺動方向に離間した位置で揺動可能に設けられ、この2つのロッド(7a、7b)に前記座席(2)が揺動方向に対して離間された2つの異なる位置で支持され、

G 前記磁性材料の部材(14a、14b)は、所定の間隔で対向配置された2つの磁性材料の部材(14a、14b)で構成され、

H 前記ソレノイド(9)は前記座席(2)の揺動静止時における前記2つの磁性材料の部材(14a、14b)間の中点位置近傍で前記ベース(5)に固定され、

前記ソレノイド(9)は、巻線軸に沿った貫通穴(10)を有し、前記巻線軸を前記座席(2)の揺動方向に対して平行に前記ベース(5)に固定され、

前記2つの磁性材料の部材(14a、14b)は、前記座席(2)に固定された直線形状のシャフト(13)に固定され、

前記シャフト(13)は、前記貫通穴(10)に挿入されていることを特徴とする

3.本件発明と被告製品の相違点

本件発明が、「前記ベースには、少なくとも2つのロッドが互いに前記座席の揺動方向に離間した位置で揺動可能に設けられ、この2つのロッドに前記座席が揺動方向に対して離間された2つの異なる位置で支持され、」(構成要件F´)るものであるのに対して、各被告製品は、「前記座席の下部には、その揺動方向に対して離間された2つの異なる位置にそれぞれ二組(合計4個)のコロ(車輪)が回動可能に設けられ、前記ベースの上部には、2組(4つ)の湾曲状レールが、上記の各コロに対応する位置にそれぞれ設けられており、前記ベースの上部に設けられた各湾曲状レールが前記座席の下部に回動可能に設けられた各コロを受けることによって、前記座席が前記ベースに対して揺動可能に支持され」るものである点で相違する。

4.争点

(1)各被告製品が本件発明の技術的範囲に属するか否か

ア 本件相違点についての均等侵害の成否(争点1)

イ 本件相違点以外についての文言侵害の成否

(ア)各被告製品は、構成要件B、C、E、G及びJの「磁性材料」を充足するか(争点2-1)

(イ)各被告製品は、構成要件Cの「磁性材料の部材を揺動方向に吸引するソレノイド」を充足するか(争点2-2)

(ウ)各被告製品は、構成要件Dの「ソレノイドを所定のタイミングで励磁することで座席の揺動動作を制御する揺動制御手段」を充足するか(争点2-3)

(エ)各被告製品は、構成要件G、H及びJの「2つの磁性材料の部材」を充足するか(争点2-4)

(オ)各被告製品は、構成要件Cの「磁性材料の部材位置とは異なる位置」及び構成要件Hの「中点位置近傍」を充足するか(争点2-5)

(2)本件発明に係る特許の無効理由の有無(争点3)

(3)原告の損害額(争点4)

5.裁判所の判断

5.1 争点1(本件相違点についての均等侵害の成否)について

(1)均等侵害の要件

特許請求の範囲に記載された構成中に対象製品等と異なる部分が存する場合であっても、①上記部分が特許発明の本質的部分ではなく(第1要件)、②上記部分を対象製品等におけるものと置き換えても、特許発明の目的を達することができ、同一の作用効果を奏するものであって(第2要件)、③上記のように置き換えることに、当業者が、対象製品等の製造等の時点において容易に想到することができたものであり(第3要件)、④対象製品等が、特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれから上記出願時に容易に推考できたものではなく(第4要件)、かつ、⑤対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もない(第5要件)ときは、上記対象製品等は、特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして、特許発明の技術的範囲に属するものと解するのが相当である(最高裁平成10年2月24日第三小法廷判決・民集52巻1号113頁参照)。

(2)本件明細書の記載

そこで検討するに、本件明細書には、以下の記載がある。

【発明が解決しようとする課題】として、

「使用者が、図15に示す座体122の回転中心軸となる基点126付近から座体122の端部側に移動して、座体122の重心位置127が偏ることがある。このような場合、従来の揺動装置にみられる片腕揺動方式にあっては座体122が傾斜すると共に、基点126からの距離Lの増加に伴い回転モーメントが増大し、駆動トルクを通常より大きくする必要性が生じる。その結果、揺動振幅を一定とすることができず不安定な揺動運動となってしまう。」(段落【0006】)

「そこで本発明は、かかる従来の問題点に鑑み、揺動時の静粛性を保ちつつ、使用者の重心位置が偏ったときでも安定した揺動運動が行える動力変換効率の高い揺動機能付き椅子を供給することを目的としている。」(段落【0007】)

【課題を解決するための手段】として、

「請求項1記載の揺動機能付き椅子の発明は、ベースと、該ベースに対して揺動可能に設けられた座席と、を備えた揺動機能付き椅子であって、前記座席に支持された磁性材料の部材と、前記座席の静止時における磁性材料の部材位置とは異なる位置に、前記磁性材料の部材に近接して前記ベースに固定され、電磁力により前記磁性材料の部材を揺動方向に吸引するソレノイドと、該ソレノイドを所定のタイミングで励磁することで前記座席の揺動動作を制御する揺動制御手段と、を備え、前記磁性材料の部材とソレノイドとは離間した状態で揺動する揺動機能付き椅子において、前記ベースには、少なくとも2つのロッドが互いに前記座席の揺動方向に離間した位置で揺動可能に設けられ、この2つのロッドに前記座席が揺動方向に対して離間された2つの異なる位置で支持され、前記磁性材料の部材は、所定の間隔で対向配置された2つの磁性材料の部材で構成され、前記ソレノイドは前記座席の揺動静止時における前記2つの磁性材料の部材間の中点位置近傍で前記ベースに固定され、前記ソレノイドは巻線軸に沿った貫通穴を有し、前記巻線軸を前記座席の揺動方向に対して平行に前記ベースに固定され、前記2つの磁性材料の部材は、前記座席に固定された直線形状のシャフトに固定され、前記シャフトは、前記貫通穴に挿入されていることを特徴としている。」(段落【0008】)

【発明の効果】として、

「請求項1に記載の発明によれば、平行リンク機構により座席を揺動させるため、揺動抵抗が大きく低減すると共に、使用者の重心位置が座席上で偏った場合でも座席の揺動機能に支障をきたすことなく安定した揺動運動を実現することができ、より快適な使用感を得ることができる。

また、磁性材料の部材を2分割した構成としているため、揺動の振幅を単一の磁性材料の部材の場合より短く設定することが可能となり、揺動特性を細かに設定することができる。」(段落【0052】)

(3)本件特許の出願経過

また、前記前提事実及び証拠(甲8の1~4)によれば、本件特許の出願経過は次のとおりである。

ア 本件特許の出願当初の特許請求の範囲の記載は次のとおりであった。

① 旧請求項1

「ベースと、該ベースに対して揺動可能に設けられた座席と、を備えた揺動機能付き椅子において、

前記座席に支持された磁性材料の部材と、

前記座席の静止時における磁性材料の部材位置とは異なる位置に、前記磁性材料の部材に近接して前記ベースに固定され、電磁力により前記磁性材料の部材を揺動方向に吸引するソレノイドと、

該ソレノイドを所定のタイミングで励磁することで前記座席の揺動動作を制御する揺動制御手段と、を備え、前記磁性材料の部材とソレノイドとは離間した状態で揺動することを特徴とする揺動機能付き椅子。」

② 旧請求項2

「前記ベースには、少なくとも2つのロッドが揺動可能に設けられ、この2つのロッドに前記座席が支持され、前記磁性材料の部材は、所定の間隔で対向配置された2つの磁性材料の部材で構成され、前記ソレノイドは前記座席の揺動静止時における前記2つの磁性材料の部材間の中点位置近傍で前記ベースに固定されていることを特徴とする請求項1に記載の揺動機能付き椅子。」

③ 請求項3(以下「旧請求項3」という。)

「前記座席と前記ベースとの間に、前記ベースに対して前記座席が水平往復動可能なスライド手段を設けたことを特徴とする請求項1に記載の揺動機能付き椅子。」

イ 特許庁審査官は、本件特許の出願(特願平9-252192)に対し、平成19年1月26日付け拒絶理由通知書において出願人たる原告に対し、同出願のうち旧請求項1については、特許法29条2項により拒絶すべきものである旨を通知した(以下「本件拒絶理由通知」という。)。

ウ 出願人たる原告は、本件拒絶理由通知を受けて、本件補正をした。すなわち、原告は、平成19年3月30日、旧請求項1を削除して特許請求の範囲を旧請求項2及び3に限定し、旧請求項2を請求項1と、旧請求項3を請求項2とする旨の手続補正書及び同趣旨の意見書を提出し、同意見書中で「拒絶理由および引用文献1を精査しましたところ、審査官のご認定の通りとの結論に達しましたので、同じ通知書において『拒絶の理由を発見しない』とされた旧請求項2および3に限定する下記のような補正をしました。」、「新請求項1には、拒絶の理由がなかった旧請求項2の構成がそのまま採用されただけであり、新規事項の追加の恐れはありません。」、「新請求項2には、拒絶の理由がなかった旧請求項3の構成がそのまま採用されただけであり、新規事項の追加の恐れはありません。」などと主張した。

本件補正を受けて、平成19年5月18日、本件特許権の設定登録がされた。

エ 本件補正後の特許請求の範囲の記載は次のとおりである。

① 請求項1

「ベースと、該ベースに対して揺動可能に設けられた座席と、を備えた揺動機能付き椅子であって、前記座席に支持された磁性材料の部材と、前記座席の静止時における磁性材料の部材位置とは異なる位置に、前記磁性材料の部材に近接して前記ベースに固定され、電磁力により前記磁性材料の部材を揺動方向に吸引するソレノイドと、該ソレノイドを所定のタイミングで励磁することで前記座席の揺動動作を制御する揺動制御手段と、を備え、前記磁性材料の部材とソレノイドとは離間した状態で揺動する揺動機能付き椅子において、

前記ベースには、少なくとも2つのロッドが揺動可能に設けられ、この2つのロッドに前記座席が支持され、前記磁性材料の部材は、所定の間隔で対向配置された2つの磁性材料の部材で構成され、前記ソレノイドは前記座席の揺動静止時における前記2つの磁性材料の部材間の中点位置近傍で前記ベースに固定されていることを特徴とする揺動機能付き椅子。」

② 請求項2

「ベースと、該ベースに対して揺動可能に設けられた座席と、を備えた揺動機能付き椅子であって、前記座席に支持された磁性材料の部材と、前記座席の静止時における磁性材料の部材位置とは異なる位置に、前記磁性材料の部材に近接して前記ベースに固定され、電磁力により前記磁性材料の部材を揺動方向に吸引するソレノイドと、該ソレノイドを所定のタイミングで励磁することで前記座席の揺動動作を制御する揺動制御手段と、を備え、前記磁性材料の部材とソレノイドとは離間した状態で揺動する揺動機能付き椅子において、

前記座席と前記ベースとの間に、前記ベースに対して前記座席が水平往復動可能なスライド手段を設けたことを特徴とする揺動機能付き椅子。」

(4)本件訂正審判請求の経緯

さらに、前記前提事実及び証拠(甲27、28)によれば、本件訂正審判請求の経緯は次のとおりである。

原告は、平成27年5月18日、本件特許に係る明細書の記載について本件訂正審判請求をし、特許庁は、同年7月30日、同訂正審判請求を認容する本件訂正審決をした。同審決の確定により、本件明細書の特許請求の範囲の請求項1の記載は、遡及的に以下のとおりとなった(下線部が訂正部分である。なお、請求項2の記載は従前どおりである。)。

「ベースと、該ベースに対して揺動可能に設けられた座席と、を備えた揺動機能付き椅子であって、前記座席に支持された磁性材料の部材と、前記座席の静止時における磁性材料の部材位置とは異なる位置に、前記磁性材料の部材に近接して前記ベースに固定され、電磁力により前記磁性材料の部材を揺動方向に吸引するソレノイドと、該ソレノイドを所定のタイミングで励磁することで前記座席の揺動動作を制御する揺動制御手段と、を備え、前記磁性材料の部材とソレノイドとは離間した状態で揺動する揺動機能付き椅子において、

前記ベースには、少なくとも2つのロッドが互いに前記座席の揺動方向に離間した位置で揺動可能に設けられ、この2つのロッドに前記座席が揺動方向に対して離間された2つの異なる位置で支持され、前記磁性材料の部材は、所定の間隔で対向配置された2つの磁性材料の部材で構成され、前記ソレノイドは前記座席の揺動静止時における前記2つの磁性材料の部材間の中点位置近傍で前記ベースに固定され、

前記ソレノイドは、巻線軸に沿った貫通穴を有し、前記巻線軸を前記座席の揺動方向に対して平行に前記ベースに固定され、前記2つの磁性材料の部材は、前記座席に固定された直線形状のシャフトに固定され、前記シャフトは、前記貫通穴に挿入されていることを特徴とする揺動機能付き椅子。」

(5)検討

以上の事実を踏まえて検討する。

ア 上記(2)のとおり、本件明細書の記載によれば、本件発明は、ロッド方式(非平行リンク機構)が有する課題を解決するために、課題解決手段としてロッド方式(平行リンク機構)の構成を採用したものであり、それにより「平行リンク機構」における従前より優れた揺動運動を実現するという効果を奏するものである、とされている。

また、上記(3)の出願経過に照らせば、原告は、ロッドやスライド手段の構成に限定されない揺動機能全般を対象とした旧請求項1について拒絶理由があることを自認した上で、この拒絶理由を回避するために、本件特許に係る特許請求の範囲から、上記のような揺動機能全般を対象とする旧請求項1を外して、本件発明に係るロッド方式(平行リンク機構)の構成(請求項1。本件発明)及び水平往復可能なスライド手段の構成(請求項2)による揺動機能を有するものに特許請求の範囲を限定したものと認められる。

さらに、上記(4)の訂正審判請求の経緯に照らせば、原告は、本件訂正審判請求において、本件発明が「少なくとも2つのロッド」の構成を有することを前提として、それが「互いに前記座席の揺動方向に離間した位置で」設けられ、「この2つのロッド」に、座席が「揺動方向に対して離間された2つの異なる位置で」支持されているとの構成を本件発明に付加したものであるから、この訂正審判請求は、本件発明がロッド方式(平行リンク機構)の構成を有するものであることを改めて明らかにしたものというべきである。

イ なお、原告は、車輪機構の構成が本件特許の出願時において存在せず、少なくとも出願人において想定していなかった構成であったため、出願当時において、出願人が、本件発明の解決原理を具体化する手段として、ロッド方式しか想定できなかったなどと主張する。しかしながら、車輪型の支持機構は、本件特許出願時の相当以前から、本件発明と同一分野である乳幼児等用の揺動装置の分野において、複数存在し周知であったことが認められる(乙3~4。これらは昭和41年時点で既に公知である。)。また、本件明細書においても、ロッド方式以外に、請求項2に係る発明の実施例(段落【0045】~【0050】及び図11~13)として、スライドレールとガイドレールの間にボールを配置したスライド手段を介した揺動機構が開示されている。したがって、出願人が本件発明の解決原理を具体化する手段としてロッド方式しか想定できなかった旨の原告の上記主張は到底採用できない。

ウ 上記ア、イに説示した①本件明細書の記載、②本件補正の経過、③本件訂正審判請求の経緯、④本件発明の技術分野において本件特許出願当時に車輪型の支持機構が周知であったこと等の事情を総合すれば、本件発明に係るロッド方式の構成(本件発明中、旧請求項2に係る部分及び本件訂正審判請求において付加された部分)は、本件発明に係る拒絶理由ないし無効理由を回避するために必要な部分であると評価すべきであり、特許請求の範囲に記載された構成と各被告製品との相違点(本件相違点)は、本件発明の本質的部分ということができる。

また、上記の事情を総合すれば、原告は、ロッドやスライド手段の構成に限定されない揺動機能全般を対象とした本件特許出願当初の特許請求の範囲の記載をあえて本件発明に係るロッド方式及びスライド手段の各構成に限定するなどしているのであるから、各被告製品の採用する車輪機構の構成を本件発明に係る特許請求の範囲から意識的に除外したものというべきである。

したがって、本件においては均等の第1要件(本質的部分ではないこと)及び第5要件(意識的に除外されたものでないこと)を充たさないから、各被告製品が本件発明と均等であるとは認められない。

6.検討

(1)争点を見ると原告は被告製品が文言侵害していないことを認めており、均等侵害のみで争っています。普通は文言侵害を主張しつつ均等侵害も主張するというケースが多いので珍しい展開だと思いました。もっともベースとなる揺動機構(ロッド方式(平行リンク機構)とコロ&レール方式)がだいぶ異なるので無理もない気がします。

(2)被告は均等侵害について第3要件については争っていませんが、第1要件及び第2要件について争っています。本件発明と被告製品の相違点が本質的部分を置換することに相当し、置き換えると同一の作用効果を奏さなくなるという主張をするのであれば、第3要件の置換容易性についても争ってもよいように思いました。

(3)初めから文言侵害でないことが明らかな本件特許で権利行使する意図がわかりません。そこで、裁判所のホームページや原告のホームページを調べてみました。そうすると、平成24年(ネ)第10015号 特許権侵害差止等本訴、損害賠償反訴請求控訴事件(原審・東京地方裁判所 平成21年(ワ)第44391号〔本訴〕、平成23年(ワ)第19340号〔反訴〕)という事件がありました。これは2009年12月頃に第1審本訴原告・反訴被告であるサンジェニック・インターナショナル・リミテッドが第1審本訴被告・反訴原告であるアップリカ・チルドレンズプロダクツ株式会社(改組前の社名)を被告として訴えた事件でした。この事件では東京地裁、知財高裁でアップリカ・チルドレンズプロダクツ株式会社の製品の差止、廃棄及び損害賠償金の支払いが認められました。その後アップリカ・チルドレンズプロダクツ株式会社が最高裁に上告しましたが不受理となり確定したようです(2014年11月18日)。このサンジェニック・インターナショナル・リミテッドは英国の会社であり、その国内正規販売代理店がコンビ株式会社でした。

(4)また、原告のホームページには2013年2月21日付けのプレスリリースに、本事件の原告であるコンビ株式会社がアップリカ・チルドレンズプロダクツ株式会社は同社の特許4件(特許第4855035号、特許第5100930号、特許第5101744号、特許第5128713号)を侵害しているとして被告対象製品の製造・販売等の差止及び損害賠償金4億9500万円の支払いを求める訴えを2013年2月20日に東京地裁に提起した、と載っていました。この事件について裁判所のホームページには判決が見当たらず、原告のホームページにもその後の結果に関するプレスリリースがありませんでした。特許が無効になっているわけでもないので、裁判中に和解になった可能性があります(裁判所のホームページには判決が出たすべての事件の判例が掲載されているわけではないので判決が言渡された可能性もありますが。)。

(5)これらの状況からコンビ株式会社が、同社が正規販売代理店を務めるサンジェニック・インターナショナル・リミテッドによるアップリカ・チルドレンズプロダクツ株式会社を被告とする訴訟を契機として集中的に起こした訴訟の一環として本事件を位置付けられるように思います。