ウエストゴム事件

投稿日: 2017/10/02 23:49:42

今日は平成27年(ワ)第1185号 損害賠償請求事件について検討します。原告である株式会社アジャックスは、判決文によると、主に衣料用繊維製品の製造販売、衣料用繊維製品及び衣料用附属品の卸販売等の事業を行う株式会社であり、衣類に用いるウエストゴムの開発、製造及び販売を行っているそうです。一方、被告である株式会社カイタックファミリーは各種衣料製品の企画、販売並びに輸出入、各種衣料品の製造販売を事業として行っている株式会社だそうです。J-PlatPatで検索したところ、株式会社アジャックスは有限会社アジャックコーポレーション名でこれまでに3件の特許を取得したと思われます。一方株式会社カイタックファミリーはカイタック株式会社名でこれまでに22件の特許を取得したと思われます。

なお、本件訴訟は特許権と商標権で争われましたが、この投稿では特許権のみ検討します。

 

1.手続の時系列の整理(特許第3564473号)

① 特許公報のフロントページによると、本件特許の筆頭発明者はカイタックファミリーの従業員のようです。

② 訴訟が提起された後に閲覧請求がされていないこと、及び原告が被告製品は平成18年11月頃から発売していると主張していることからすると、2012年には既に当事者間で交渉していた可能性があります。

2.本件発明の内容

【請求項1】

【請求項1】

帯体(1)の両端を接続して成る環状帯体(33)であり、上記環状帯体(33)の環状内に被締結物を挿通し、上記環状帯体(33)は上記被締結物が着用する衣類の筒状部(27)に挿入されており、上記帯体(1)は縦糸と横糸との織物または編物にて成り、上記帯体(1)の裏面(10)は平坦にて成り、表面(11)には複数の略矩形形状の凸部(12)を長手方向に間隔を隔てて複数個備え、かつ、上記凸部(12)はその帯体幅方向の一対の幅方向端辺が上記長手方向にて平行と成るようにそれぞれ配設され、かつ、上記凸部(12)は厚み方向に伸縮する伸縮性を有し、かつ、上記帯体(1)は長手方向において伸縮して上記被締結物を締結することを特徴とする環状帯体。

【請求項2】

上記帯体(1)の凸部(12)は、上記縦糸および横糸の表面浮き上がり部を、上記帯体(1)の凸部(12)以外の箇所より多く連続させることにより形成されていることを特徴とする請求項1に記載の環状帯体。

【請求項3】

上記縦糸はポリエステル材、および/またはナイロン材とゴム材とにて成り、上記横糸はポリエステル材、またはナイロン材にて成ることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の環状帯体。


3.争点

(1)特許権関係

ア 不当利得の成否

被告商品1(1)(2)のパジャマが被告が輸入、販売したもので、それらに使用されたウエストゴムが、原告から仕入れたものでなく、本件発明の技術的範囲に属するものか(争点1)

イ 原告による実施許諾の有無(争点2)

ウ 被告の利得又は現存利益の有無(争点3)

エ 被告は悪意の受益者か(争点4)

オ 不当利得額(争点5)

(2)商標権関係

-省略-

4.裁判所の判断

4.1 争点1(被告商品1(1)(2)のパジャマが被告が輸入、販売したもので、それらに使用されたウエストゴムが、原告から仕入れたものでなく、本件発明の技術的範囲に属するものか)について

(1)本件発明の意義について

本件明細書(甲5)によれば、本件発明は、①例えば、ウェスト部に用いることができる環状帯体に関するものであり(【0001】)、②従来技術には、帯ゴム体の中央部の長手方向に間隔を隔てて複数の開口部を備え、その開口部にボタンなどを通して長さを調整する調整機能付きゴム紐があるが、それには、開口部が形成されていることにより調整機能付きゴム紐が挿入されるウェスト部の筒状部内において、このゴム紐がその開口部が折れ目となって折れ曲がり、衣服の着用時に不快感が生じるという問題点があったことから、(【0004】【0005】)、③帯体の両端を接続して成る環状帯体であり、環状帯体の環状内に被締結物を挿通し、環状帯体は被締結物が着用する衣類の筒状部に挿入されており、帯体は縦糸と横糸との織物または編物にて成り、帯体の裏面は平坦にて成り、表面には複数の略矩形形状の凸部を長手方向に間隔を隔てて複数個備え、かつ、凸部はその帯体幅方向の一対の幅方向端辺が長手方向にて平行と成るようにそれぞれ配設され、かつ、凸部は厚み方向に伸縮する伸縮性を有し、かつ、帯体は長手方向において伸縮して被締結物を締結することによって、④筒状内部において折れ曲がりが防止でき、衣類の着用時に不快感を与えない環状帯体を提供することができるとの効果を奏するものであると認められる。

(2)被告商品1(1)のうち被告販売主張商品1について

ア 被告による輸入、販売の有無について

被告販売主張商品1は、被告が南通近江に対してワッフルゴムの使用を指示して製造を委託し、実際に輸入、販売したと自認するものである。そして、これらの商品については、被告の商品台帳上も、「ウエストゴム」の副資材指定に「ワッフル(ゴム)」と指定されている(乙2、12及び15)。

イ 本件発明の構成要件充足性について

証拠(乙24ないし26)及び弁論の全趣旨によれば、①被告は、中国の工場から出荷される前に全商品について中国国内の業者(乙24)に検品を委託してきたこと、②検品方法は、一般検査として生地キズ、染め不良、縫い糸切れ、外観不良等の21項目、寸法検査のほか、条件書記載の素材やラベル等の使用について行われ、条件書においてワッフルゴムを使用されていることとされている商品については、ズボンのゴムの取替口からゴムを取り出し、ワッフルゴムが使用されているか否かを確認する作業が行われたこと、③検品結果によって工場ごとにAAAからBまでのランク付けがされ、次回以降はランクに応じた検査方法が実施されていたことが認められる。

前記(1)の本件発明の意義からすると、本件発明の構成要件充足の有無は、製品の外観によって判別することができ、実際、証拠(乙17)によれば、被告販売主張商品1のうち、現物が確認できる17023HJ(被告商品1(1)の番号225、被告販売主張商品1の番号45)は、本件発明の構成要件を充足すると認められる

そうすると、被告販売主張商品1は、被告がワッフルゴムの使用を指示し、その使用の有無が検品対象となった商品であるから、上記のような検品体制による検品に合格した以上、全て本件発明の構成要件を充足するものであったと推認するのが相当である。

ウ 原告からの仕入れの有無について

(ア)前提事実(4)のとおり、原告と被告は、被告が原告からワッフルゴムを仕入れて商品に使用する継続的関係にあったところ、被告は、南通近江に対して真正品のワッフルゴムを仕入れるよう指示し(乙2)、前記のような検品を経た上で商品を輸入、販売していたことからすると、被告が輸入、販売した商品に使用されたワッフルゴムについては、原告から仕入れた真正品であることが一応推定され、それが覆されるためには、各品番に用いられたワッフルゴムが原告から仕入れたものでないことについて、相応の根拠を要すると解するのが相当である

(イ)弁論の全趣旨によれば、ワッフルゴムの発注等については、南通近江が原告の中国事務所に注文書を送付し、同事務所から原告の本社にその報告がされるとともに、福建百宏集団に製造の注文がされ、同社から南通近江に納品がされていたと認められる。

そして、証拠(甲15)によれば、甲15は、平成18年6月16日から平成22年4月13日までの間に、南通近江から原告の中国事務所に発行された注文書であり、そこに記載された使用予定款式の中には、被告販売主張商品1が記載されていないことが認められる。これらの注文書について、被告は、甲15の46及び47には他の注文書にはある「入力済」との押印がないことから、原告の中国事務所における商品管理を正確性を疑問視するが、仮に原告側において一部の注文書から帳簿等への入力を怠ったのだとしても、直ちに他の注文書の存在までを疑わしめるものではない。

もっとも、甲23の注文書には、被告販売主張商品1のうち、31030PH、310310G、31031PH、31033PB、300280Y、30032UW、30035NU、30036HU、300438R、310100J、320300I、330310I、31040NHの記載がある。しかし、証拠(甲23)及び弁論の全趣旨によれば、南通近江が平成22年5月18日付けで甲23により原告の中国事務所に発注したのに対し、原告側は納品を留保し、納品したのは同年8月であることが認められる。そうすると、上記の甲23記載の被告販売主張商品1の品番はいずれも平成22年盛夏物より前のシーズン用のものであるから、原告が同年8月に納品したワッフルゴムを使用するのは不可能であり、それらが甲23に記載されているとしても、それらについて原告から仕入れたワッフルゴムが使用されたとは認められない。

そして、本件では、原告が他にも注文書を有しているのではないかとの疑いを生じさせる事情が特段認められない反面、被告は、本件訴訟後も南通近江と連絡をとっていながら(乙10、被告準備書面(5))、上記の甲15及び23の注文書以外に注文がされたことをうかがわせる証拠を何ら提出していないことを考慮すると、南通近江から原告に発注がされた注文は上記の甲15及び23以外になく、甲15に記載されていない被告販売主張商品1及び甲23に記載されている被告販売主張商品1に係るワッフルゴム(すなわち被告販売主張商品1の全て)は、原告から仕入れたものでないと認めるのが相当である

なお、被告は、甲15及び23による発注に対して、原告は発注量より多いワッフルゴムを納品していたから、南通近江はそれらの余り分を使用した可能性があると主張するが、証拠(甲29)によれば、そのような余り分は、20mm ゴムの場合は発注量合計57万8642mに対して7024mにすぎず、25mm ゴムの場合は発注量合計35万8320mに対して6300mにすぎないから、それらにより多数の品番を製造したとは考え難く、被告の上記主張は採用できない。

(ウ)なお、原告は、現物を確認できる商品のゴムの伸び率をもって、原告が納品したものでないことが推認できると主張するので、ここでその点について検討する。

a 証拠(甲17、25及び26)によれば、[A]原告でのワッフルゴムの品質基準では、伸度(伸び率)を2.7倍としており、[B]原告の商品のゴムの直径を1.33倍まで伸長するのに要する応力が550gであったのに対し、被告が販売した過去の商品の現物について、上記Aを平成27年10月に、上記Bを平成28年7月に測定すると、別紙「測定結果」のとおりであり、いずれも原告の製造仕様よりも伸び率が小さくなっていることが認められる。そして、原告は、これを根拠にして、それらの被告商品は原告から仕入れたものでないと主張する。

b これに対し、被告は、まず、現在原告のワッフルゴムを使用した他社商品のゴムの伸び率を計測した結果、上記の原告の品質基準と異なる上、伸び率の範囲の幅も大きかったこと(乙39、41及び43)から、原告での品質管理は厳格なものではなかったと主張する

しかし、乙39はギャルソンヌの商品で伸び率は1.5倍と1.55倍であり、乙41はヒロタの商品で伸び率は1.47倍と1.52倍であり、乙43はグンゼ商品で伸び率は1.9倍と1.86倍である。納品先ごとにゴムの仕様も変わり得ることからすると、これらの商品での伸び率が2.7倍となっていないことは不合理ではなく、逆に、各社の商品内での伸び率の差はいずれも製造誤差の範囲に納まっていることからすると、むしろ原告では品質管理を適正に行っていると認めるのが相当である

c 次に、被告は、上記の測定対象の被告商品は、経年劣化によりゴムの伸び率が低下したものであると主張する。

証拠(乙36、(財)化学物質評価研究機構の研究員による「腐食と劣化(6)合成樹脂 ゴム・プラスチックの劣化・評価分析方法」『空気調和・衛生工学』80巻1号・平成18年1月)には、次の記載がある。

・ 「日本ゴム協会環境劣化委員会では、天然ゴムと7種類の合成ゴムについて無負荷の状態で百葉箱に入れ15年間の経年変化を追跡調査したが、ほぼ半数のゴムが50%以上の強度低下を示した。」(69頁左欄)

・ 図1では、ゴム製品の物性保持率がある使用期間が経過すると急速に低下するグラフが記載されている。(69頁右欄)

・ 「水劣化」の「EPDMの水道水残留塩素による劣化解析」の「硬度測定」として、「劣化を生ずるほとんどのゴムやプラスチックは劣化条件にもよるが、架橋反応が生じ分子量が大きくなるとともに固く、そしてもろくなる(CR、NBR、SBRなど)。また、一方では軟らかくなり、低分子化する(NRなど)場合もある。」(72頁左欄)

これらの記載からすると、ゴムは、経年変化により硬化することもあれば軟化することもあると認められ、硬化する場合には伸び率が低下し、伸張応力が大きくなる。この点について、原告は、劣化によってゴムの伸び率が低下するのは、ゴムが緩んで伸びた状態になった場合以外には考え難いと主張するが、上記乙36の記載に照らして採用できない。

そうすると、現物を確認した別紙「測定結果」の商品のうち、2番から5番の商品は、販売から8年以上が経過しているから、伸び率の低下が経年劣化による可能性を否定できないというべきである。他方、番号1の17023HJ(被告販売主張商品1の番号45)は、販売から5年しか経過しておらず、被告自身も数年程度の寿命を念頭においていたと主張していること(被告準備書面(10)3頁)からすると、伸び率の低下が経年劣化によると認めることはできない。

d 以上からすると、ゴムの伸び率自体から直ちに原告による納品の有無を判断することはできないが、別紙「測定結果」の番号1のゴムの伸び率については、被告販売主張商品1が原告が納品したものでないとの前記判断に沿うとはいえる。

エ したがって、被告販売主張商品1は、被告が輸入、販売した商品で、本件発明の構成要件を充足しながら、原告から仕入れたワッフルゴムを使用していないのであるから、その販売は本件特許権を侵害すると認められる。

(3)被告商品1(1)のうち被告販売主張商品1以外の商品について

原告は、これらの商品についても、被告が製造契約番号一覧表(甲9、11、12、18及び21)に記載して送付してきたことから、本件発明の構成要件を充足するワッフルゴムを使用して製造し、輸入、販売したものであると主張する

しかし、証拠(乙4)によれば、平成20年から平成22年にかけて、被告が「ワッフルゴムの使用明細」として甲11等の一覧表に記載しながら、ウエストゴムを「セパレーツゴム」と指定し、仕入れ先も「工場手配」として、実際にはワッフルゴムを使用しなかったものが少なくとも10品あると認められる。もっとも、そのうちの一部(乙4の3、4、9及び10)には、副資材のラベルの指定が「AJ-9051A」「AJ-9030A」としてワッフルゴムであることを示すラベル(甲19)の指定がされているが、ウエストゴム自体の指定が「セパレーツゴム」とされている以上、それらについてワッフルゴムを使用するよう指示したと認めることはできない

そうすると、被告が甲11等の一覧表に記載したことから、直ちにそれらでの記載品番の全てを被告が実際にワッフルゴムを使用して輸入、販売したと認めることは困難である。もっとも、被告が現物を確認している17731UU(被告商品1(1)の番号272)については、被告が輸入、販売したことが明らかであり、また、甲17からすると本件発明の構成要件を充足すると認められるから、被告販売主張商品1以外にもワッフルゴムを使用した商品があったとは認められるが、それがどの品番の商品であるかについては定かでないといわざるを得ない

イ 原告は、平成22(2010)年度において、被告がワッフルゴムを使用した数量は、約合計327万5220mである(甲14)のに対し、原告が南通近江等に出荷したワッフルゴムの出荷総量は235万1528mであり(甲20、22)、差が約93万mもあるから、同年度において被告はそれだけの偽物のワッフルゴムを使用していると主張し、このことから、甲11等の一覧表に記載の商品は原告から仕入れないワッフルゴムを使用したと主張する。

しかし、それらの数値は、被告が製造を委託する複数の中国の工場全体を対象とするものであるのに対し、被告商品1(1)はそのうち南通近江関係での商品をいうものであるから、仮にそれらの数値のとおりであるとしても、直ちに南通近江関係での偽物のワッフルゴムの使用が甲11等の一覧表のとおりであることを推認し得るものではないというべきである。

また、原告は、平成23年3月3日付けの南通近江作成の文書(甲8)でも、コストダウンの方法として安い工場から74万mのワッフルゴムを購入したと認めていると主張するが、甲8の作成経緯は必ずしも明らかではない上、南通近江の副総経理作成の平成27年7月1日付けの書面では、甲8は詳細な調査を経た数字ではないとも述べられていることに照らして、直ちに採用できない。

ウ 原告は、前記の甲23の注文書記載の品番のものは全て偽物のワッフルゴムが使用されたものであると主張する。

しかし、甲23記載の品番のうち、被告販売主張商品1以外のものの中には、平成21年冬物である319620E等が記載されており、そもそも注文時期として不合理であるから、それらの注文の正しさ自体に疑問があり、甲23をもって、被告商品1(1)のうち被告販売主張商品1以外の品番について、偽物のワッフルゴムが使用されたとは認められない。

エ 原告は、被告が原告に対して平成18年6月23日付けでワッフルゴムの偽物を郵送し(甲27)、同月20日付けで関係者に対し、南通地区にて添付の偽ワッフルゴムが出回っているとの文書を配布したことから、被告商品1(1)で平成18年当時に南通近江で製造されたものは、本件特許権の侵害品を使用したものであると主張する。

しかし、平成18年当時、被告が南通地区で製造を委託していたのは、南通近江だけではなく、南通瞬業、南通財通、南通恒祥もあり(甲18)、上記の偽物が南通近江によるものであるとの確証はないから、上記の郵送された物がいわゆる偽物であるとしても、平成18年当時に南通近江で製造されたものが偽物であると推認することはできない。

オ 以上からすると、17731UU(被告商品1(1)の番号272)を除き、被告商品1(1)のうち被告販売主張商品1以外の商品について、被告が本件発明の構成要件を充足するワッフルゴムを使用して輸入、販売したとは認められないが、17731UUについては、先に(2)ウ(ウ)bで述べたとおりゴムの伸び率の点からは判別し難いものの、甲15及び23の注文書に記載がないことから、原告から仕入れたワッフルゴムを使用していない偽物であると認められる。

(4)被告商品1(2)について

ア 証拠(甲17)によれば、被告商品1(2)は、被告が実際に輸入、販売した商品で、本件発明の構成要件を充足するワッフルゴムを使用したものと認められる。

イ ところで、被告は、被告商品1(2)のうち41713Pは、平成18年頃に取扱商社であったアシュレイ関係で偽物問題が発覚した際に、原告と協議の上、「ワッフルゴム」とのメリットタグを付さずに流通させることで合意したものであると主張する。

確かに、原告が被告に平成23年2月1日付けで送付した文書(乙125 6)には、以前にアシュレイが中国で偽物を作ったときには、市場に出る前にメリットラベルを外して処理した旨が記載されている。しかし、アシュレイが平成18年10月28日付けで被告に送付した文書(甲24)では、中国の工場が無断で製造したものは同年9月から10月の生産分であるとして、それらを用いた商品の品番が列挙されており、その中に被告商品1(2)は含まれていない。そうすると、41713Pが被告主張の合意の対象となったとは認められないから、被告の上記主張は採用できない。

ウ 次に、被告は、12531PZ及び386325Pは偽物でないと主張し、また、41713Pについてもそれが上記イの合意対象でない場合には同様の主張をする趣旨と解される。

この点について、原告は、被告商品1(2)のゴムの伸び率がいずれも原告の品質基準である2.7倍より小さいことを根拠に、それらが原告が納品したものでないと主張する。しかし、先に(2)ウ(イ)bで述べたとおり、被告商品1(2)はいずれも販売から8年以上を経過しているから、経年劣化によりゴムの伸び率が低下している可能性を否定できない。したがって、ゴムの伸び率の点から、被告商品1(2)が偽物であるとはいえない

また、原告は、被告商品1(2)は甲11等の一覧表(原告のいう製造契約番号一覧表)にすら記載がないと主張し、この主張は、被告商品1(2)は原告に秘して製造されたものであるから、ワッフルゴムの発注もされていないとの趣旨をいうものと解される。しかし、被告商品1(2)の製造時期はそれぞれ別紙「測定結果」のとおりであるのに対し、甲11等の一覧表のうち、甲9、11、12及び21はいずれも平成20年以降分の一覧表であるから被告商品1(2)がこれらに記載されることはない。また、甲18は平成18年12月から平成19年7月分であるが、被告商品1(2)のうち最も遅い41713Pでも平成19年梅春物で、製造仕入れは平成18年11月までに終了している(乙37)から、被告商品1(2)が甲18に記載されることもないと認められる。したがって、被告商品1(2)が、原告に秘して製造されたものとはいえない。

そして、被告商品1(2)については、他にそれらが偽物であることをうかがわせる証拠はなく、また、被告商品1(1)と異なり、それらを製造する中国の各工場からの注文書上の記載の有無も明らかでないことからすると、被告商品1(2)に使用されたワッフルゴムが、原告から仕入れたものでない偽物であると認めることはできない。

(5)以上によれば、被告商品1(1)(2)のうち、被告が輸入、販売したもので、それらに使用されたウエストゴムが、原告から仕入れたものでなく、本件発明の技術的範囲に属するものであると認められるのは、被告販売主張商品1及び17731UUに限られる。

4.2 争点2(原告による実施許諾の有無)について

被告は、原告と被告との間の売買契約書(乙1)により、本件発明の実施について原告が被告に対して実施許諾していたと主張する。

しかし、乙1に係る平成15年7月1日付けの売買契約書では、「商品名:BBワッフルゴム及びBBワッフルアジャスター」、「工業所有権:特許・意匠・商標出願中」、「商標名:ビービーワッフル」、「登録者:有限会社アジャックコーポレーション」とする腰ゴムの製造販売に関し、原告の被告に対する優先的販売権利の付与を定めたにすぎないと認められ、本件特許権の実施許諾を内容に含むとは認められない。

したがって、原告による実施許諾がされた旨の被告の主張は理由がない。

4.3 争点3(被告の利得又は現存利益の有無)について

(1)以上によれば、被告が被告販売主張商品1及び17731UUを日本国内で販売した行為は、本件特許権を侵害する行為であると認められる。そして、被告は、それら商品を販売するには特許権者である原告の許諾を得て相当の実施料を支払わねばならないのに、その支払を免れたのであるから、原告に対する実施料の支払を免れたことについて、不当利得が成立する

(2)被告は、南通近江からそれら商品を購入するに当たり、原告からワッフルゴムを仕入れる場合の正規の代金を支払っているから、被告に利得ないし現存利益はないと主張する。

しかし、本件で原告が主張する被告の利得は、上記のとおりそれら商品を販売するに当たり原告に本来支払うべき実施料の支払を免れた点にあるところ、そもそも実施料の支払は、侵害品について対価を支払って購入する場合でも免れることができないものである。そうすると、被告が南通近江に対して原告の正規品を使用した商品と同額の代金を支払ったとしても、その販売のために原告に対する実施料の支払を免れていることに変わりはないから、被告は実施料相当額の利得を得たといえ、その利益が現存しないともいえない。

4.4 争点5(不当利得額)について

-省略-

5.検討

(1)本事件の特許に関しては、原告と被告との間で継続的売買契約が結ばれていたにも関わらず、被告が本件特許発明の技術的範囲に属するウエストゴムを原告から買い受けず、第三者から購入し使用したものがあるとして不当利得の返還請求を求めたものです。冒頭にも書きましたが、本件特許の筆頭発明者は被告企業の従業員のようなので、株式会社アジャックスが製品を企画し、株式会社カイタックファミリーが依頼を受けて開発した技術に関する発明だと思われます。通常、このような場合には共同研究のための契約を結び、その中に知的財産権については共有にするような条項を入れると思います。

(2)被告は中国の南通近江时装有限公司等の中国の縫製工場に、原告から仕入れたワッフルゴムを用いたパジャマ等の製造を委託し、製造された商品を輸入して日本国内で販売してきました。その際に南通近江等は、ワッフルゴムを原告の中国事務所に注文書の形で発注し、その注文書には使用する商品の品番及び数量が記載されており、原告がワッフルゴムの製造を委託している福建百宏集団に対してその製造と出荷を発注し、その注文書に記載のとおりに、福建百宏集団が南通近江等にワッフルゴムを納入していた。このようにすることで原告は被告が真正品であるワッフルゴムの流れや数量を把握していたようです。

本事件では南通近江から原告の中国事務所に発行された注文書中に被告販売主張商品1が記載されていないので、この被告販売主張商品1は原告から仕入れた真正品ではない、と判断されました。

(3)一方、それ以外の商品についても真正品が使用されていないと原告は主張しました。しかし、これらについては注文書からは立証できなかったようです。そのため、商品のゴムの伸び率で真正品であるか否かを立証しようとしましたが、ゴムの経年劣化を考慮され販売から8年以上経過しているものについては真正品とは認められませんでした。確認に用いられた現物の状況がわかりませんが、理論的には経年劣化の可能性がある以上やむを得ない判断ということになってしまいます。

(4)本事件では原告がゴムの伸び率という目安で真正品であるか否かの判断基準として挙げて、裁判所も一部認めています。正直、ゴムの伸び率を真正品判断の基準として採用するというのは驚きました。判決文にもあるようにゴムが経年劣化して伸び率が変化することは当然ですし、さらにワッフルゴムはその形状が独特である上、実施例によれば全てウレタン製ゴムで構成されているのではなくテトロンウーリーやスフ等も使われているため、厳密に言えばゴムの経年劣化だけではワッフルゴムの伸び率の経年変化を予測できないはずです。したがって、判断基準としてゴムの伸び率を採用することについては疑問もあります。おそらくは様々な資料や現物から確かに真正品でないものが用いられている疑いが強く、他に真正品であるか否かを判断する基準がないのでこの基準を採用したのではないか?と想像してしまいます。

(5)実物を見比べていないのですが、こういった判決文の内容からすると本件のワッフルゴムと模倣品は外観で判断をすることが非常に難しいようです。おそらくシンプルな製品のためほとんど見分けがつかないくらい似た模倣品を作ることができるのでしょう。このような場合の対策として何ができるか考えてみます。

本件の場合、被告製品は中国で製造されています。原告が対応中国特許を有するのであれば、真正品に特許表示をすることが考えられます。第三者が模倣品を作る場合に特許表示まで真似すると刑事罰が負わされます(専利法第63条、実施細則第84条)。したがって一定の抑止力が見込まれます。また、真正品の一部の糸の色を変えるなどして目印を設けておくことも考えられます。こうすると、あとあと模倣品と真正品とを区別できます(もちろんそこまで模倣されたら難しいので、幾つか目印を入れた方が良いと思います)。