ステーキ提供システム(発明の該当性)

投稿日: 2018/10/22 22:45:27

今日は、平成29年(行ケ)第10232号 特許取消決定取消請求事件について検討します。本件は、特許異議申立で取消決定を受けた特許権者が原告となった取消決定取消訴訟です。争点は本件特許発明が特許法第2条第1項で規定する「発明」に該当するか否かです。

 

1.手続の時系列の整理(特許第5946491号)

2.本件特許発明1の要旨(訂正後)

【請求項1】

A お客様を立食形式のテーブル(T)に案内するステップと、お客様からステーキの量を伺うステップと、伺ったステーキの量を肉のブロック(B)からカットするステップと、カットした肉(A)を焼くステップと、焼いた肉をお客様のテーブル(T)まで運ぶステップとを含むステーキの提供方法を実施するステーキの提供システムであって、

B 上記お客様を案内したテーブル番号が記載された札(H)と、

C 上記お客様の要望に応じてカットした肉(A)を計量する計量機と、

D 上記お客様の要望に応じてカットした肉(A)を他のお客様のものと区別する印しとを備え

上記計量機が計量した肉の量と上記札(H)に記載されたテーブル番号を記載したシール(S)を出力することと、

上記印しが上記計量機が出力した肉の量とテーブル番号が記載されたシール(S)であることを特徴とする、

G ステーキの提供システム。


3.取消決定の理由の要点

(1)本件特許発明1の発明該当性について

ア 本件特許発明1は、特許請求の範囲の記載及び本件明細書の記載(【0001】~【0003】、【0005】、【0016】)からすると、「お客様に、好みの量のステーキを、安価に提供する」ことを「課題」とし、「お客様を立食形式のテーブルに案内するステップと、お客様からステーキの量を伺うステップと、伺ったステーキの量を肉のブロックからカットするステップと、カットした肉を焼くステップと、焼いた肉をお客様のテーブルまで運ぶステップとを含むステーキの提供方法」を「課題を解決するための技術的手段の構成」として採用することにより、お客様が要望する量のステーキを、ブロックからカットして提供するものであるため、お客様は、自分の好みの量のステーキを、任意に思う存分食べられるものとなり、また、お客様は、立食形式で提供されたステーキを食するものであるため、少ない面積で客席を増やすことができ、またお客様の回転、即ち客席回転率も高いものとなって、「お客様に、好みの量のステーキを、安価に提供することができる」という「技術手段の構成から導かれる効果」を奏するものである。

そうすると、この課題及びこの効果を踏まえ、本件特許発明1の全体を考察すると、本件特許発明1の技術的意義は、お客様を立食形式のテーブルに案内し、お客様が要望する量のステーキを提供するというステーキの提供方法を採用することにより、お客様に、好みの量のステーキを、安価に提供するという飲食店における店舗運営方法、つまり経済活動それ自体に向けられたものということができる。

イ 本件特許発明1は、「上記お客様を案内したテーブル番号が記載された札と、上記お客様の要望に応じてカットした肉を計量する計量機と、上記お客様の要望に応じてカットした肉を他のお客様のものと区別する印しとを備え、上記計量機が計量した肉の量と上記札に記載されたテーブル番号を記載したシールを出力することと、上記印しが上記計量機が出力した肉の量とテーブル番号が記載されたシールであることを特徴とする、ステーキの提供システム」と特定され、「札」、「計量機」、「印し」及び「シール」という物を、その構成とするものである。

しかし、「札」の本来の機能とは、ある目的のために必要な事項を書き記したり、ある事を証明することにあるところ、本件特許発明1の「札」も、お客様を案内したテーブルのテーブル番号が記載されており、他のお客様と混同しないように、あるいは案内したお客様のテーブル番号を明らかにするために札にテーブル番号を記載したものである。

また、「計量機」の本来の機能とは、長さや重さなど物の量をはかり、その物の量を表示することにあるところ、本件特許発明1の「計量機」も、お客様の要望に応じてカットした肉の重さをはかって、その肉の重さをシールに表示するものである。

また、「印し(これを具体化したものが「シール」である。)」の本来の機能とは、他と紛れないように見分けるための心覚えしたり、あるいはあることを証明することにあるところ、本件特許発明1の「印し(シール)」も、お客様の要望に応じてカットした肉を他のお客様のものと区別するために、シールに計量機が出力した肉の量とテーブル番号を記載したものである。

そうすると、本件特許発明1において、これらの物は、それぞれの物が持っている本来の機能の一つの利用態様が示されているのみであって、これらの物を単に道具として用いることが特定されるにすぎないから、本件特許発明1の技術的意義は、「札」、「計量機」、「印し」及び「シール」という物自体に向けられたものということは相当でない

ウ 本件特許発明1は、「ステーキの提供システム」という「システム」を、その構成とするものである。

しかし、本件特許発明1における「ステーキの提供システム」は、本件特許発明1の技術的意義が、前記のとおり、経済活動それ自体に向けられたものであることに鑑みれば、社会的な「仕組み」(社会システム)を特定しているものにすぎない

エ 以上によると、本件特許発明1の技術的課題、その課題を解決するための技術的手段の構成及びその構成から導かれる効果等に基づいて検討した本件特許発明1の技術的意義に照らすと、本件特許発明1は、その本質が、経済活動それ自体に向けられたものであり、全体として「自然法則を利用した技術思想の創作」に該当しない。

したがって、本件特許発明1は、特許法2条1項に規定する「発明」に該当しない。

オ なお、本件特許発明1においては、「札」から「計量機」へ、「計量機」から「印し」へとテーブル番号は伝達されているともいえるが、その伝達が有機的とまではいえず、特殊な情報の伝達でもない。

(2)本件特許発明2~6の発明該当性について

-省略-

4.原告主張の決定取消事由

1 取消事由1(本件特許発明1の発明該当性判断の誤り)

(1)ア 本件特許発明1の「ステーキの提供システム」は、構成要件B~Fのとおり、「札」、「計量機」、「印し」及び「シール」という物をその構成とすることによって、お客様の「座席(テーブル番号)の情報」が、「札」から「計量機」へ、「計量機」から「印し」又は「シール」へと有機的に伝達され、その伝達過程において、お客様が要望する肉の量という情報と組み合わされた複合情報となるものである(本件明細書【0010】~【0015】)。そして、これによって、お客様のテーブル番号(例えば、テーブル番号22番。本件明細書【図1】)という情報と、お客様が要望する肉の量(例えば、リブロースステーキ362グラム。本件明細書【0011】)という情報とが結び付いて、特定のお客様に対応する情報(本件明細書【図3】)となることから、これを店舗スタッフが認識することによって、店舗スタッフは、特定のお客様と、そのお客様が要望した肉とを1対1で対応付けることができ、お客様の要望に応じてカットした肉を焼いたステーキを「他のお客様のものと混同が生じない」ように提供することができる(本件明細書【0013】)。

このように、本件特許発明1の技術的意義は、単なる「飲食店における店舗運営方法、つまり経済活動それ自体に向けられたもの」ではなく、本件特許発明1の構成要件B~Fの構成、特に構成要件E、Fの構成によって生じる「札」から「計量機」へ、「計量機」から「印し」又は「シール」へと有機的に伝達された情報(テーブル番号情報と、お客様が要望する肉の量という情報等とが組み合わされた複合情報)を店舗スタッフが認識し、それによって、お客様にオーダーカットステーキを提供する際の提供ミス(他のお客様のものとの混同)を抑制することができる。そして、そのことから、「スタッフへの負担が軽減でき、少ない人数での接客作業を実現できる」(本件明細書【0016】)ために、「お客様に、好みの量のステーキを、安価に提供することができる」(本件明細書【0003】、【0005】等)、という作用効果を奏する。

イ 本件特許発明1は、前記アのとおり、カットステージまで移動していただいたお客様からステーキの種類及び量を伺い、「計量機」によって、お客様のテーブル番号という情報と、お客様の要望する肉の量という情報とが組み合わされるというものである。

そうすると、本件特許発明1の「札」は、単に「テーブル番号を記載したもの」ではなく、お客様とそのお客様が着席したテーブルとを結び付ける機能を有しており、お客様が要望する肉の量という情報と有機的に組み合わされる一つの情報単位を担っているものであるから、「札」本来の機能の一つの利用態様が示されているのみではない。また、本件特許発明1の「計量機」は、単に「長さや重さなど物の量をはかり、その物の量を表示する」だけではなく、お客様が案内されたテーブル番号情報とそのお客様が要望する肉の量という情報とを結び付けることにより、そのテーブルに着席した「お客様」とその「お客様が要望する肉の量」とを1対1で対応させるという特別な役割を担っているものであるから、「計量機」本来の機能の一つの利用態様が示されているのみではない。さらに、本件特許発明1の「印し」又は「シール」は、「計量機」によって有機的に組み合わせられた複合情報(テーブル番号情報と、お客様が要望する肉の量の情報等からなる、特定のお客様に対応する情報)を店舗スタッフに伝達するための担体として機能するもの(本件明細書【図3】)であるから、「印し」又は「シール」本来の機能の一つの利用形態が示されているのみではない。

このように、本件特許発明1は、構成要件B~Fの「札」、「計量機」、「印し」又は「シール」という物を、課題を解決するための技術的手段の構成としており、これらは、本来の機能の一つの利用形態が示されているのみではなく、それぞれ課題を解決するための特別な役割を担っている。

ウ 本件特許発明1は、「札」、「計量機」、「印し」又は「シール」という多くの構成部分が集まっており、それら各構成部分の間を、構成要件E、Fの構成とすることによって、テーブル番号情報(又は特定のお客様に対応する情報)が伝達されるものであって、各構成部分が特定のテーブル番号情報の伝達経路で結ばれているものであり、各構成部分がそのテーブル番号情報を利用できるから、各構成部分の間に緊密な統一がある。そして、本件特許発明1は、各構成部分の間をテーブル番号情報(又は特定のお客様に対応する情報)が伝達されることによって、初めて構成要件Aの第1のステップである「お客様を立食形式のテーブルに案内するステップ」から、最終のステップである「焼いた肉をお客様のテーブルまで運ぶステップ」までの間においてテーブル番号情報(又は特定のお客様に対応する情報)が確実に伝達されることとなり、お客様の要望に応じてカットした肉を焼いたステーキを「他のお客様のものと混同が生じない」ように提供することができる、という作用効果を奏するものであるから、各構成部分のいずれかが欠けてもその目的を達成することができないものであって、部分と全体とが必然的関係を有している。したがって、本件特許発明1におけるテーブル番号情報の伝達は「有機的」である。

また、本件特許発明1は、前記アのとおり、カットステージまで移動していただいたお客様からステーキの種類及び量を伺い、「計量機」によって、お客様のテーブル番号という情報と、お客様が要望する肉の量という情報とが組み合わされるものであり、組み合わされた複合情報は、単にお客様のテーブル番号を示すのみならず、特定のお客様に対応する情報であって、オーダーカットステーキを提供する際の人為的ミスを抑制するという本件特許発明1の課題解決のために必須な情報であるから、普通と異なる特別な情報、すなわち、「特殊な情報」である。したがって、その伝達は、「特殊な情報の伝達」である。

エ 以上のとおり、本件特許発明1の技術的意義は、経済活動それ自体に向けられたものではなく(ましてや単なる人の精神活動や人為的な取決めそれ自体に向けられたものでもなく)、前提とする技術的課題、その課題を解決するための技術的手段の構成及びその構成から導かれる効果等の技術的意義に照らし、全体として考察した結果、「札」、「計量機」、「印し」又は「シール」という「物」自体に向けられており、「自然法則を利用した技術的思想の創作」に該当する。決定には、本件特許発明1の「発明」該当性の判断に誤りがある。

(2)ア 被告及び補助参加人(以下、「被告ら」という。)は、本件特許発明1には、「札」から「計量機」へ、「計量機」から「印し」又は「シール」へと「テーブル番号」を伝達させる工程や、この「テーブル番号」を本件特許発明1において特定されている各ステップの間で伝達するための工程は明示的に存在せず、例えば、「札」のテーブル番号を計量機に情報として伝達する主体が何であるのかは、特許請求の範囲において何ら特定されていないなどと主張する。

しかし、本件特許発明1は、構成要件E及びFによって、構成要件B~Dの「札」、「計量機」、「印し」の各構成が関連付けられ、その必然として「テーブル番号」の情報が「札」、「計量機」、「印し」へと伝達されることが特許請求の範囲の記載から明白であり、「テーブル番号」情報を伝達させる工程が明示されている。

また、本件特許発明1は、「札」、「計量機」、「印し」又は「シール」という構成部分の間を「テーブル番号」情報(又は特定のお客様に対応する情報)が伝達されるのを可能にする構成要件E及びFの構成を採用することで、特定の「お客様」と、その「お客様が要望する肉の量」とを結び付けるというものであって、誰が情報を伝達するのかは本件特許発明1の技術的特徴の重要な要素ではないから、情報の伝達主体を特定する必要はない。

イ 被告らは、本件特許発明1において、「テーブル番号」は、その番号が「テーブル」に割り当てられており、お客様がそのテーブル番号のテーブルにおいてステーキを食べるという人為的な取決めを前提に初めて意味を持つものであるなどと主張する。

しかし、本件特許発明1は、構成要件Aのように、お客様が案内したテーブルにおいてステーキを食べることを前提にしており、お客様がテーブルを自由に移動してお客様とテーブル番号が一致しない場合まで、その技術的範囲に含むものではない。すなわち、お客様がそのテーブル番号のテーブルにおいてステーキを食べることは、人為的な取決めではなく、本件特許発明1の単なる前提事項である。発明の前提事項を人為的取決めとするのであれば、あらゆる発明が人為的取決めを前提に初めて意味を持つ技術的事項を含むことになり、自然法則を利用した技術的思想と認められる発明が存在しなくなる。

仮に、本件特許発明1には、お客様が案内したテーブルにおいてステーキを食べるという人為的取決めが含まれるとしても、全体としてみれば、「札」、「計量機」、「印し」又は「シール」という「物」を技術的手段の構成とすることで、お客様の要望に応じてカットした肉を焼いたステーキを、他のお客様のものと混同が生じないように提供することを支援するための技術的手段を提供するものであり、人の精神活動を支援する技術的手段を提供するものである。また、本件特許発明1は、従来、特定のお客様からオーダーを伺った店舗スタッフが、そのお客様とオーダー内容(要望した肉の量)とを1対1で対応付けて記憶又は記録していた作業に置き換えて、上記の技術的手段の構成によってステーキの提供ミスを防止するとしたものであり、人の精神活動に置き換わる技術的手段を提供するものである。したがって、本件特許発明1は「自然法則を利用した技術的思想の創作」に該当する。

ウ 被告らは、スタッフへの負担が軽減でき、少ない人数での接客作業を実現できるとの作用効果の根拠が、「お客様にオーダーカットステーキを提供する際の提供ミスを抑制することができること」にあるとの記載や示唆はされていないなどと主張する。

しかし、本件明細書には、「お客様の要望に応じてカットした肉Aには、・・・テーブル番号等が記されたシールSを付し、他のお客様のものと混同が生じない状態と」すること(【0013】)、「・・・等の方策により、スタッフへの負担が軽減でき、少ない人数での接客作業を実現できる」こと(【0016】)が明示されている。すなわち、本件特許発明1の構成を採用すれば、他のお客様のステーキとの混同を防止できることから、お客様にオーダーカットステーキを提供する際の提供ミス(人為的ミス)を抑制することができ、それによって、店舗スタッフが人為的ミスの対応に追われることがなくなり、店舗スタッフの負担が軽減されることから、少ない人数での接客作業が実現できるという作用効果を奏することになる。このような作用効果は、本件明細書の記載から自明な作用効果であり、本件明細書に接した当業者であれば当然に理解・把握できるものである。

エ 被告らは、本件特許発明1には、お客様が案内されるテーブルとカットステージとが店内の別の場所に存在すること、お客様が案内されたテーブルからカットステージまで移動し、カットステージにおいてカットされた肉を確認した後、案内したテーブルに戻るといった手順は、何ら特定されていないから、本件特許発明1においては、必ずしも特定のお客様の肉と他のお客様の肉との混同が生じるものとはいえないなどと主張する。

しかし、本件特許発明1の構成要件Aには、「焼いた肉をお客様のテーブルまで運ぶステップ」と規定されており、少なくともこの「お客様のテーブルまで運ぶ」手順において「特定のお客様の肉と他のお客様の肉との混同が生じる」おそれが存在する。また、一般的なステーキ店では、ホールスタッフが、お客様の座席と、お客様が要望するステーキの量とを記憶又は記録しなければならず、記憶又は記録の際にミスが生じる可能性があるし、ホールスタッフから厨房スタッフへ情報を伝達する際にもミスが生じる可能性がある。さらに、厨房スタッフが焼き上げたステーキをホールスタッフが他のお客様に提供してしまう可能性もある。

したがって、本件特許発明1の構成を採用しなければ、他のお客様のステーキと混同が生じ得る。

オ 被告らは、本件特許発明1において、特定のお客様が要望する量の肉と他のお客様の肉との混同が生じないのは、「テーブル番号」を「キー情報」として「お客様」と「肉」とを1対1に対応付けたことによるものであって、「肉の量」そのものとは何ら関係がないから、「テーブル番号情報」と「肉の量という情報」とが組み合わされた「複合情報」として取り扱われるとはいえないなどと主張する。

しかし、本件特許発明1のようなオーダーカットステーキを提供する店舗においては、お客様が要望する肉の量をグラム単位でオーダーするため(本件明細書【0011】)、たとえ肉の種類(リブロース、サーロイン等)が同じでも、肉の量が1グラムでも異なれば、そのお客様がオーダーした肉ではない。このように、本件特許発明1においては、肉の種類のみならず、お客様が要望する肉の量の情報も、特定のお客様と肉とを対応させるための重要な要素となっている。

そして、本件特許発明1は、構成要件A~Gの構成を備えたシステムとすることにより、「テーブル番号」と、この「肉の量」との複合情報を「印し(シール)」に伝達し、ある特定の「お客様」と、その「お客様が着席したテーブル」とを1対1で対応させた上、その「お客様が着席したテーブル」とその「お客様が要望した肉の量」とを1対1で対応させることにより、ある特定の「お客様」と、その「お客様が要望した肉」とを1対1で対応させることができ、それによって、オーダーカットステーキを提供する際の人為的ミスを抑制し、お客様に好みの量のステーキを安価に提供できるものである。

「肉の量」の情報は、「テーブル番号」が記載された「印し(シール)」と実際の「肉」(「カットされた肉」、「焼かれた肉」、「運んでいる肉」)とを関連付け、確認する上で非常に重要であり、例えば、「印し」である「シール」に「テーブル番号」のみならず「肉の量」である「リブロースステーキ362g」の情報をも併記された複合情報となって伝達されているので、実際の「肉」にその「印し(シール)」を付す際、又は「肉」を運ぶ際等に、その「肉」が「リブロースステーキ362g」であるか否かを確認することができ、「肉」への「シール」の貼り間違いを防止したり、「肉」を運んでいる際に貼り間違いに気付くこと等が可能となり、「肉」の提供ミスが生じ難くなるのは自明の事柄である。単に「テーブル番号」の情報のみが伝達されていても、店舗スタッフは、「印し(シール)」と実際の「肉」とを関連付けることはできず、上記のような確認は全くできないから、提供ミスが生じる可能性は当然増えることになる。

以上のとおり、「お客様が要望した肉の量」の情報は、あるお客様の要望に基づきカットした肉(ある特定の「お客様」に対応する固有の肉)を表すものであって、その固有の肉と、それを要望した特定のお客様とを結び付けるための情報の一つであり、「お客様が要望した肉の量」の情報と、そのお客様の「テーブル番号」情報とが組み合わされることによって初めてオーダーカットステーキを提供する際の人為的ミスを抑制できることから、「お客様が要望した肉の量」の情報は、本件特許発明1の作用効果を得るために必須の重要な情報である。

2 取消事由2(本件特許発明1の発明該当性判断の誤り)

本件特許発明1の「ステーキの提供システム」は、前記1のとおり、構成要件B~Fの「札」、「計量機」、「印し」又は「シール」という物をその構成とすることによって、お客様の「座席(テーブル番号)の情報」が、「札」から「計量機」へ、「計量機」から「印し」又は「シール」へと有機的に伝達され、その伝達過程において、お客様が要望する肉の量という情報と組み合わされた複合情報(特定のお客様に対応する情報)となるものである(本件明細書【0010】~【0015】、【図3】)。

そして、ステーキを提供する側の店舗スタッフは、このシステムにより伝達される上記情報を目視により認識して、特定のお客様が案内されたテーブル番号(例えば、テーブル番号22番。本件明細書【図1】)と、そのお客様が要望する肉の量(例えば、リブロースステーキ362グラム。本件明細書【0011】)とを結び付けることができ、それによって、お客様の要望に応じてカットした肉を焼いたステーキを「他のお客様のものと混同が生じない」ように提供することができる(本件明細書【0013】)。

このように、本件特許発明1は、人間(ステーキを提供する側の店舗スタッフ)に自然に備わった能力のうち、番号に対する識別能力が高いという性質を利用することによって、どのお客様がどのステーキを注文したのかを記憶せずとも、特定のお客様の要望に応じてカットした肉を焼いたステーキを「他のお客様のものと混同が生じない」ように提供する、という一定の効果を反復継続して実現するための方法を示しているから、本件特許発明1は、自然法則を利用したものである(知財高裁平成20年(行ケ)第10001号同年8月26日判決参照)。

本件特許発明1は、自然法則の利用されている技術的思想の創作が、課題解決の主要な手段として示されているものであり、決定には、本件特許発明1の「発明」該当性の判断に誤りがある。

被告らは、本件特許発明1に係る特許請求の範囲及び本件明細書には、人間の番号に対する識別能力が高いという性質を利用することについては何らの記載もないなどと主張するが、正常な判断能力を有した一般人であれば、特定の番号・数字を認識して他の番号・数字と識別できる能力を有していることは常識であるから、人間(ステーキを提供する側の店舗スタッフ)に自然に備わった能力のうち、番号に対する識別能力が高いという性質を利用することは、本願出願日当時の技術常識である。

3 取消事由3(本件特許発明2~6の発明該当性の判断の誤り)

-省略-

5.被告らの主張

1 取消事由1(本件特許発明1の発明該当性判断の誤り)に対し

(1)原告は、本件特許発明1は、構成要件B~Fの構成、特に構成要件E、Fの構成によって生じる「札」から「計量機」へ、「計量機」から「印し」又は「シール」へと有機的に伝達された情報により特徴づけられるなどと主張する。

しかし、本件特許発明1には、「札」から「計量機」へ、「計量機」から「印し」又は「シール」へと「テーブル番号」を伝達させる工程や、この「テーブル番号」を本件特許発明1において特定されている各ステップの間で伝達するための工程は明示的に存在せず、例えば、「札」のテーブル番号を計量機に情報として伝達する主体が何であるのかは、特許請求の範囲において何ら特定されていない。本件明細書を参酌すると、テーブル番号情報が計量機へ伝達されるための態様は、「カットステージ」において「お客様からテーブル番号が記載された札を受け取る」(【0011】)店舗スタッフの行為(明示されていないものの、例えば、店舗スタッフが計量機に番号を入力する行為)によると考えられ、少なくともそのような態様が本件特許発明1に包含されると考えるほかない。

また、本件特許発明1において、「テーブル番号」は、その番号が「テーブル」に割り当てられており、お客様がそのテーブル番号のテーブルにおいてステーキを食べるという人為的な取決めを前提に初めて意味を持つものである。そのような人為的な取決めを前提に初めて意味を持つテーブル番号を含む情報が伝達されるからといって、本件特許発明1の技術的意義が自然法則を利用した技術的思想として特徴付けられるものではない。

(2)原告は、お客様にオーダーカットステーキを提供する際の提供ミスを抑制することができ、それによって、「スタッフへの負担が軽減でき、少ない人数での接客作業を実現できる」ことから、「お客様に、好みの量のステーキを、安価に提供することができる」、という作用効果を奏すると主張する。

しかし、本件明細書には、「スタッフへの負担が軽減でき、少ない人数での接客作業を実現できる」ことに関して、「お客様を案内したテーブルに番号を記載した札を置き、該札を持ってカットステージまでお客様に移動して頂き、そこで好みの量のステーキを伺う、また、お客様を案内するテーブルに予め多くのフォークとナイフが用意しておく、更にはステーキ以外のメニューをドリンク、サラダ、ライス程度にしぼる等の方策により、スタッフへの負担が軽減でき、少ない人数での接客作業を実現できる。」(【0016】)とのみ記載されており、スタッフへの負担が軽減でき、少ない人数での接客作業を実現できるとの作用効果の根拠が、「お客様にオーダーカットステーキを提供する際の提供ミスを抑制することができること」にあるとの記載や示唆はされていない。原告の上記主張は、本件明細書に基づかないものである。

また、本件明細書の【0009】~【0013】のような手順においては、お客様は、要望した量のステーキがカットされた肉を確認した後に、案内されたテーブルに戻るから、お客様用にカットされた肉を調理する場所と、お客様が案内されたテーブルの場所とが、店内の別の場所となり、その結果、特定のお客様が要望する量の肉と他のお客様の肉との混同のおそれが生じることになる(お客様が上記手順のように店内において移動せずに、お客様の要望した量にカットされた自分の肉を、お客様の目の前で調理して食して頂くようにすれば、特定のお客様の肉と他のお客様の肉との混同が生じるおそれはない。)。しかし、本件特許発明1には、お客様が案内されるテーブルとカットステージとが店内の別の場所に存在すること、お客様が案内されたテーブルからカットステージまで移動し、カットステージにおいてカットされた肉を確認した後、案内したテーブルに戻るといった手順は、何ら特定されていないから、本件特許発明1においては、必ずしも特定のお客様の肉と他のお客様の肉との混同が生じるものとはいえない。原告の上記主張は、その前提にも誤りがあり、本件特許発明1に基づくものとはいえない。

(3)原告は、「札」から「計量機」へ、「計量機」から「印し」又は「シール」へと有機的に伝達された情報(テーブル番号情報と、お客様が要望する肉の量という情報等とが組み合わされた複合情報)を店舗スタッフが認識し、それによって、お客様にオーダーカットステーキを提供する際の提供ミス(他のお客様のものとの混同)を抑制することができると主張する。

しかし、本件特許発明1においては、「テーブル番号」とある「お客様」とを1対1に対応付けて、それにより他のお客様と区別するとともに、その「テーブル番号」と「お客様の要望に応じてカットした肉」とを1対1に対応付けた結果として、単に「テーブル番号情報」を「キー情報」として、「お客様」と「お客様の要望に応じてカットした肉」とが1対1に対応付けられるにすぎない。このように、特定のお客様が要望する量の肉と他のお客様の肉との混同が生じないのは、「テーブル番号」を「キー情報」として「お客様」と「肉」とを1対1に対応付けたことによるものであって、「肉の量」そのものとは何らの関係がないから、「テーブル番号情報」と「肉の量という情報」とが組み合わされた「複合情報」として取り扱われるとはいえない。したがって、原告のいう「複合情報」に含まれる「お客様が要望する肉の量という情報」は、「お客様にオーダーカットステーキを提供する際の提供ミスを抑制することができる」ことに何ら関係しない。

(4)原告は、本件特許発明1は、構成要件B~Fの「札」、「計量機」、「印し」又は「シール」という物を、課題を解決するための技術的手段の構成としており、これらは、本来の機能の一つの利用形態が示されているのみではなく、それぞれ課題を解決するための特別な役割を担っていると主張する。

しかし、本件特許発明1において、「札」、「計量機」、「印し」又は「シール」は、それぞれ独立して存在している物であって、単一の物を構成するものではなく、また、以下のア~ウのとおり、本来の機能の一つの利用態様が特定されているにすぎない。決定が、本件特許発明1の技術的意義が「札」、「計量機」、「印し」又は「シール」という物自体に向けられておらず、経済活動それ自体に向けられたものであると判断したことに誤りはない。

ア 本件明細書によると、「札」は、単にテーブル番号が記載されているだけのものであって、「札」自体にテーブル番号という情報が組み合わされるものではない。前記(3)のとおり、「肉の量という情報」と「テーブル番号情報」とが「複合情報」として取り扱われているとはいえないから、「札」は、お客様が要望する肉の量という情報と有機的に組み合わされる一つの情報単位を担っているものではない。「札」の「番号」が意味を持つのは、その番号が「テーブル」に割り当てられているという人為的な取り決めに基づくものである。

イ 「計量機」は、測定した肉の量と入力されたテーブル番号とを印字したシールを打ち出すものであって、ここでのテーブル番号は、単にスタッフにより入力されるものにすぎない。前記(3)のとおり、「肉の量という情報」と「テーブル番号情報」とが「複合情報」として取り扱われているとはいえないから、「計量機」は、お客様のテーブル番号という情報と、お客様が要望する肉の量という情報とを有機的に組み合わせるという特別な役割を担っているものではない。

ウ 「印し」又は「シール」は、計量機が示した肉の量という情報とテーブル番号という情報の二つの情報が、単に印字されているにすぎない。前記(3)のとおり、「肉の量という情報」と「テーブル番号情報」とが「複合情報」として取り扱われているとはいえないから、「印し」又は「シール」は、「計量機」によって有機的に組み合わされた複合情報の担体として機能するものではない。

(5)原告は、本件特許発明1は、「札」、「計量機」、「印し」又は「シール」という多くの構成部分の間を、テーブル番号情報(又は特定のお客様に対応する情報)が伝達されるものであるから、各部分の間に緊密な統一があり、これによって初めて、お客様の要望に応じてカットした肉を焼いたステーキを「他のお客様のものと混同が生じない」ように提供することができるという作用効果を奏するから、部分と全体とが必然的関係を有しているといえ、本件特許発明1におけるテーブル番号情報の伝達は「有機的」であるなどと主張する。

しかし、本件特許発明1において、「テーブル番号」は、単に札から、スタッフにより計量機に入力されることにより計量機を介して「シール」に伝達されているという一般的な情報の伝達にすぎないというべきであるから、「テーブル番号」が、「札」、「計量機」、「印し」又は「シール」を一つにまとめあげている、すなわち、これらの物(部分)の間に緊密な統一があるとはいえないし、部分と全体とが必然的関係を有しているともいえず、「有機的な伝達」とはいえない。

2 取消事由2(本件特許発明1の発明該当性判断の誤り)に対し

原告は、本件特許発明1は、人間(ステーキを提供する側の店舗スタッフ)に自然に備わった能力のうち、番号に対する識別能力が高いという性質を利用することによって、どのお客様がどのステーキを注文したのかを記憶せずとも、特定のお客様の要望に応じてカットした肉を焼いたステーキを「他のお客様のものと混同が生じない」ように提供する、という一定の効果を反復継続して実現するための方法を示しているから、本件特許発明1は、自然法則を利用したものであると主張する。

しかし、本件特許発明1に係る特許請求の範囲及び本件明細書には、人間が番号に対する識別能力が高いという性質を利用していることについては何らの記載もないから、人間の番号に対する識別能力が高いという性質を利用するとの主張は、本件特許発明1に係る特許請求の範囲及び本件明細書に基づかない。

また、前記1(3)のとおり、本件特許発明1において、特定のお客様の肉と他のお客様の肉との混同が生じないのは、そのテーブル番号を「キー情報」として「お客様」と「肉」とを1対1に対応付けて管理しているからであって、「キー情報」の識別性自体を利用しているものではない。「キー情報」は、番号でなくても、例えば、名称、地名、「★」、「□」などの印などであっても同様の機能を果たすことができることは明らかであるから、「キー情報」として「番号」を用いることに格別の技術的意義は見いだせない。

3 取消事由3(本件特許発明2~6の発明該当性の判断の誤り)に対し

-省略-

6.裁判所の判断

1 本件特許発明について

-省略-

2 取消事由1(本件特許発明1の発明該当性判断の誤り)について

(1)本件特許発明1の技術的意義

ア 本件特許発明1に係る特許請求の範囲の記載(前記第2の2(1))及び本件明細書の記載(前記1)によると、本件特許発明1について、次のとおり、認められる。

(ア)技術的課題

従来、飲食店において提供されるステーキは、ゆったりと椅子に座り、会話を楽しみながら食すのが一般的であり、場所代、人件費がかかり、高価なものとなっていた。また、提供されるステーキの大きさは、その量が決められており、お客様が、好みの量を食べられるものではなかった。(【0002】)

そこで、本件特許発明1は、上記問題の解決を課題として、お客様に、好みの量のステーキを、安価に提供することを目的とする(【0003】)。

(イ)課題を解決するための技術的手段の構成

本件特許発明1は、前記(ア)の課題を解決するための技術的手段として、その特許請求の範囲(請求項1)記載の構成を採用した(【0004】、【0013】)。

すなわち、①「お客様を立食形式のテーブルに案内するステップと、お客様からステーキの量を伺うステップと、伺ったステーキの量を肉のブロックからカットするステップと、カットした肉を焼くステップと、焼いた肉をお客様のテーブルまで運ぶステップとを含むステーキの提供方法を実施する」ものであって(構成要件A)、②「上記お客様を案内したテーブル番号が記載された札」(構成要件B)と、③「上記お客様の要望に応じてカットした肉を計量」し、「計量した肉の量と上記札に記載されたテーブル番号を記載したシールを出力する」「計量機」(構成要件C、E)と、④「上記お客様の要望に応じてカットした肉を他のお客様のものと区別する印し」である、「上記計量機が出力した肉の量とテーブル番号が記載されたシール」(構成要件D、F)とを備える、⑤「ステーキの提供システム」(構成要件A、G)という構成を採用した。

このように、本件特許発明1のステーキの提供システムは、構成要件Aで規定されるステーキの提供方法(以下、「本件ステーキ提供方法」という。)を実施する構成(上記①)及び構成要件B~Fに規定された「札」、「計量機」及び「シール(印し)」(以下、「本件計量機等」という。)を備える構成(上記②~④)を、その課題を解決するための技術的手段とするものである。

(ウ)構成から導かれる効果

a 本件特許発明1のステーキの提供システムは、本件ステーキ提供方法を実施する構成(前記(イ)①)を採用したことにより、次のような効果を奏する。

まず、お客様が要望する量のステーキを、ブロックからカットして提供するものであるため、お客様は、好みの量のステーキを、食べられる。また、お客様は、立食形式で提供されたステーキを食するものであるため、少ない面積で客席を増やすことができ、客席回転率も高いものとなる。(【0005】、【0016】)

b 本件特許発明1のステーキの提供システムは、本件計量機等に関する構成(前記(イ)②~④)を採用したことにより、次のような効果を奏する。

まず、「計量機」は、お客様の要望に応じてカットした肉を計量し、計量した肉の量と「札」に記載されたテーブル番号とを記載した「シール」を出力し、この「シール」はカットした肉を他のお客様の肉と区別するものであるので、この「シール」をカットした肉に付すこと(肉を乗せた皿にシールを貼ることを含む。)により、他のお客様の肉と混同が生じない状態として焼きのステップに移すことができる(【0013】、【図3】)。

また、上記「シール」をステーキのオーダー票として保管し、焼いた肉をお客様のテーブルに運ぶ際に、このオーダー票で商品を確認することができる(【0012】、【0014】)。

c 以上により、本件特許発明1は、お客様に、好みの量のステーキを、安価に提供することができる(【0005】【0016】)。

イ 前記アによると、本件特許発明1は、お客様に、好みの量のステーキを、安価に提供することを目的(課題)とする。そして、本件ステーキ提供方法の実施に係る構成(前記ア(イ)①)により、お客様が好みの量のステーキを食べることができるとともに、少ない面積で客席を増やし、客席回転率を高めることができることから、ステーキを安価に提供することができる。また、本件計量機等に係る構成(前記ア(イ)②~④)により、お客様の要望に応じてカットした肉が他のお客様の肉と混同することを防止することができる。

ウ ここで、本件ステーキ提供方法は、「お客様を立食形式のテーブルに案内するステップ」、「お客様からステーキの量を伺うステップ」、「伺ったステーキの量を肉のブロックからカットするステップ」、「カットした肉を焼くステップ」及び「焼いた肉をお客様のテーブルまで運ぶステップ」を含むものである。

本件明細書には、これらのステップについて、「スタッフは、・・・次の新たなお客様をテーブルにご案内する。」(【0015】)、「カットステージにおいては、お客様から・・・お客様が要望するステーキの種類及び量をグラム単位で伺う。」、「図2に示したように、お客様から伺ったステーキの量を肉のブロックBからカットし」(【0011】)(なお、図2には、人がステーキの肉をカットしている様子が記載されている。)、「お客様の要望に応じてカットした肉Aには、・・・シールSを付し、・・・焼きのステップに移す。」(【0013】)、「焼かれ、加熱した鉄皿に乗せられたステーキを、・・・保管したオーダー票でその商品を確認し、オーダー票と共にお客様のテーブルに運ぶ。」(【0014】)と記載されており、人が行うことが想定されている。そして、本件明細書には、これらのステップが機械的処理によって実現されることを示唆する記載はなく、また、そのようにすることが技術常識であると認めるに足りる証拠はない。

そうすると、本件ステーキ提供方法は、ステーキ店において注文を受けて配膳をするまでに人が実施する手順を特定したものであると認められる

よって、本件ステーキ提供方法の実施に係る構成(前記ア(イ)①)は、「ステーキの提供システム」として実質的な技術的手段を提供するものであるということはできない

エ 一方、本件計量機等は、「札」、「計量機」及び「シール(印し)」といった特定の物品又は機器(装置)であり、「札」に「お客様を案内したテーブル番号が記載され」、「計量機」が、「上記お客様の要望に応じてカットした肉を計量」し、「計量した肉の量と上記札に記載されたテーブル番号を記載したシールを出力」し、この「シール」を「お客様の要望に応じてカットした肉を他のお客様のものと区別する印し」として用いることにより、お客様の要望に応じてカットした肉が他のお客様の肉と混同することを防止することができるという効果を奏するものである。

そして、札によりテーブル番号の情報を正確に持ち運ぶことができるから、計量機においてテーブル番号の情報がお客様の注文した肉の量の情報と組み合わされる際に、他のテーブル番号(他のお客様)と混同が生じることが抑制されるということができ、「札」にテーブル番号を記載して、テーブル番号の情報を結合することには、他のお客様の肉との混同を防止するという効果との関係で技術的意義が認められる。また、肉の量はお客様ごとに異なるのであるから、「計量機」がテーブル番号と肉の量とを組み合わせて出力することには、他のお客様の肉との混同を防止するという効果との関係で技術的意義が認められる。さらに、「シール」は、本件明細書に「オーダー票に貼着」(【0012】)、「カットした肉Aに付す」(【0013】)と記載されているとおり、お客様の肉やオーダー票に固定することにより、他のお客様のための印しと混じることを防止することができるから、シールを他のお客様の肉との混同防止のための印しとすることには、他のお客様の肉との混同を防止するという効果との関係で技術的意義が認められる。このように、「札」、「計量機」及び「シール(印し)」は、本件明細書の記載及び当業者の技術常識を考慮すると、いずれも、他のお客様の肉との混同を防止するという効果との関係で技術的意義を有すると認められる

他方、他のお客様の肉との混同を防止するという効果は、お客様に好みの量のステーキを提供することを目的(課題)として、「お客様からステーキの量を伺うステップ」及び「伺ったステーキの量を肉のブロックからカットするステップ」を含む本件ステーキ提供方法を実施する構成(前記ア(イ)①)を採用したことから、カットした肉とその肉の量を要望したお客様とを1対1に対応付ける必要が生じたことによって不可避的に生じる要請を満たしたものであり、このことは、外食産業の当業者にとって、本件明細書に明示的に記載されていなくても自明なものということができる。このように、他のお客様の肉との混同を防止するという効果は、本件特許発明1の課題解決に直接寄与するものであると認められる。

オ 以上によると、本件特許発明1は、ステーキ店において注文を受けて配膳をするまでの人の手順(本件ステーキ提供方法)を要素として含むものの、これにとどまるものではなく、札、計量機及びシール(印し)という特定の物品又は機器(装置)からなる本件計量機等に係る構成を採用し、他のお客様の肉との混同が生じることを防止することにより、本件ステーキ提供方法を実施する際に不可避的に生じる要請を満たして、「お客様に好みの量のステーキを安価に提供する」という本件特許発明1の課題を解決するものであると理解することができる

(2)本件特許発明1の発明該当性

前記(1)のとおり、本件特許発明1の技術的課題、その課題を解決するための技術的手段の構成及びその構成から導かれる効果等の技術的意義に照らすと、本件特許発明1は、札、計量機及びシール(印し)という特定の物品又は機器(本件計量機等)を、他のお客様の肉との混同を防止して本件特許発明1の課題を解決するための技術的手段とするものであり、全体として「自然法則を利用した技術的思想の創作」に該当するということができる

したがって、本件特許発明1は、特許法2条1項所定の「発明」に該当するということができる。

(3)被告らの主張について

ア 被告らは、本件特許発明1には、「札」から「計量機」へ、「計量機」から「印し」又は「シール」へと「テーブル番号」を伝達させる工程や、この「テーブル番号」を本件特許発明1において特定されている各ステップの間で伝達するための工程は明示的に存在せず、例えば、「札」のテーブル番号を計量機に情報として伝達する主体が何であるのかは、特許請求の範囲において何ら特定されていないなどと主張する。

しかし、前記(1)エのとおり、本件特許発明1は、「札」に「お客様を案内したテーブル番号が記載され」、「計量機」が、「上記お客様の要望に応じてカットした肉を計量」し、「計量した肉の量と上記札に記載されたテーブル番号を記載したシールを出力」し、この「シール」を「お客様の要望に応じてカットした肉を他のお客様のものと区別する印し」として用いることにより、お客様の要望に応じてカットした肉が他のお客様の肉と混同が生じないようにすることに、その技術的意義がある。本件ステーキ提供方法の各ステップ間で、誰が、どのような方法によりテーブル番号を伝達するのかということは、上記技術的意義との関係において必須の構成ということはできないから、特許請求の範囲において、上記主体や工程に係る構成が特定されていないことは、本件特許発明1の発明該当性についての前記判断を左右するものではない。

イ 被告らは、本件特許発明1において、「テーブル番号」は、その番号が「テーブル」に割り当てられており、お客様がそのテーブル番号のテーブルにおいてステーキを食べるという人為的な取決めを前提に初めて意味を持つものであるから、そのようなテーブル番号を含む情報が伝達されるからといって、本件特許発明1の技術的意義が自然法則を利用した技術的思想として特徴付けられるものではないなどと主張する。

しかし、お客様がそのテーブル番号のテーブルにおいてステーキを食べることが人為的な取決めであることと、そのテーブル番号を含む情報を本件計量機等により伝達することが自然法則を利用した技術的思想に該当するかどうかとは、別の問題であり、前者から直ちに後者についての結論が導かれるものではない。そして、本件計量機等が、他のお客様の肉との混同を防止して本件特許発明1の課題を解決するための技術的手段として用いられており、本件特許発明1が「自然法則を利用した技術的思想の創作」に該当することは、前記(2)のとおりである。

ウ 被告らは、本件特許発明1において、特定のお客様が要望する量の肉と他のお客様の肉との混同が生じないのは、「テーブル番号」を「キー情報」として「お客様」と「肉」とを1対1に対応付けたことによるものであって、「肉の量」そのものとは何らの関係がないなどと主張する。

確かに、本件明細書には、「この混同が生じないようにカットした肉Aに付すシールSに変えて、テーブル番号が記載された旗をカットした肉Aに刺す等の方策により、混同を防止する印しとしても良い。」(【0013】)と記載されており、「テーブル番号」を「キー情報」として「お客様」と「肉」とを1対1に対応付けるという技術的思想をうかがうことができる。

しかし、前記(1)エのとおり、肉の量は、お客様ごとに異なるものである。そして、本件明細書には、「計量機から打ち出された、ステーキの種類及び量、価格、テーブル番号が記された2枚のシールの内の一枚をステーキのオーダー票とし、先のステーキ以外のオーダー票に貼着することにより保管し」(【0012】)、「焼かれ、加熱した鉄皿に乗せられたステーキを、ライス等の他のオーダー品と共に・・・、保管したオーダー票でその商品を確認し、オーダー票と共にお客様のテーブルに運ぶ」(【0014】)ことが記載されており、肉の量を記載したシールによって他のお客様の肉との混同が生じていないことを確認することが記載されている。

そうすると、本件特許発明1は、本件訂正によりその技術的範囲に含まれないこととなった「テーブル番号が記載された旗をカットした肉Aに刺す」ことを混同防止の印しとする方法とは異なり、計量機が出力したシールに記載された肉の量とテーブル番号という複数の情報を合わせて利用して、他のお客様の肉との混同を防止するものということができるから、肉の量の情報が他のお客様の肉との混同を防止するという効果に寄与しないものとはいえない。

エ 被告らは、本件特許発明1には、お客様が案内されるテーブルとカットステージとが店内の別の場所に存在すること、お客様が案内されたテーブルからカットステージまで移動し、カットステージにおいてカットされた肉を確認した後、案内したテーブルに戻るといった手順は、何ら特定されていないから、必ずしも特定のお客様の肉と他のお客様の肉との混同が生じるものとはいえないなどと主張する。

しかし、前記(1)エのとおり、他のお客様の肉との混同を防止することは、お客様に好みの量のステーキを提供することを目的(課題)として、「お客様からステーキの量を伺うステップ」及び「伺ったステーキの量を肉のブロックからカットするステップ」を含む本件ステーキ提供方法を実施する構成(前記(1)ア(イ)①)を採用したことから、カットした肉とその肉の量を要望したお客様とを1対1に対応付ける必要が生じたことによって不可避的に生じる要請であり、被告ら主張の上記手順が特定されなければ、他のお客様の肉との混同を防止する必要が生じないということはできない。

オ 被告らは、本件特許発明1において、「札」、「計量機」、「印し」又は「シール」は、それぞれ独立して存在している物であって、単一の物を構成するものではなく、また、本来の機能の一つの利用態様が特定されているにすぎないなどと主張する。

しかし、「札」、「計量機」及び「シール(印し)」は、単一の物を構成するものではないものの、前記(1)エのとおり、いずれも、他のお客様の肉との混同を防止するという効果との関係で技術的意義を有するものであって、物の本来の機能の一つの利用態様が特定されているにすぎないとか、人為的な取決めにおいてこれらの物を単に道具として用いることが特定されているにすぎないということはできない。

(4)小括

以上によると、取消事由1は、理由がある。

3 取消事由3(本件特許発明2~6の発明該当性判断の誤り)について

-省略-

7.検討

(1)本件特許の特許権者は、ここ数年立ち食いスタイルのステーキ店を全国にチェーン展開している会社です。発明の概要は、客にステーキに提供する際に、客の要望に応じてカットした肉を他の客の肉と区別するために、カットした肉の量及びその客を案内したテーブル番号が記載されたシールを出力する計量機を備えるというものです。

(2)本件特許発明1は「札」、「計量機」、「印」及び「シール」という具体的な物を構成要件として含みますが、特許異議申立の決定では、これらの物は、それぞれの物が持っている本来の機能の一つの利用態様が示されているのみであって、これらの物を単に道具として用いることが特定されるにすぎないから、本件特許発明1の技術的意義は、「札」、「計量機」、「印し」及び「シール」という物自体に向けられたものではなく、社会的な「仕組み」(社会システム)を特定しているものにすぎない、と認定し、「発明」ではない、と判断しています。

(3)これに対して、取消決定取消訴訟では、本件特許発明1は、ステーキ店において注文を受けて配膳をするまでの人の手順(本件ステーキ提供方法)を要素として含むものの、これにとどまるものではなく、札、計量機及びシール(印し)という特定の物品又は機器(装置)からなる本件計量機等に係る構成を採用し、他のお客様の肉との混同が生じることを防止することにより、本件ステーキ提供方法を実施する際に不可避的に生じる要請を満たして、「お客様に好みの量のステーキを安価に提供する」という本件特許発明1の課題を解決するもので、全体として「自然法則を利用した技術的思想の創作」に該当するということができる、と認定し、「発明」であると判断されました。

(4)本判決のように「発明」であるか否か?が争われるケースは、今から20年近く前にビジネスモデル発明のブームが生じた頃にはよく見受けられました。その頃は、単にビジネスモデルだけでは発明には該当せず、コンピュータ等のハードウェアを利用していることが必要とされました。その後ソフトウェア発明の審査基準が整備されたこともあり、人為的な取り決めが含まれる場合には、その取り決めがプログラミングされていなければ発明と認定されない、つまり、一部人間による工程が存在するとしても、システム全体としてはコンピュータ管理されていなければ「発明」には該当しない、と思っている人も多いと思います。

(5)そういう考え方に対して、今回の判決はかなりインパクトがあるのではないか?と思います(確定していませんが)。まず、当然本件のようなサービス産業分野における発明の対象が広くなります。この分野では一部でコンピュータ等の電子計算機を利用するにしても全体をコンピュータ管理するわけではなく人間が介入することで提供されるサービスが多いように思います。これらが「発明」と認定されるのであれば、新しい業態のサービスを提供する場合には、前もって特許出願しておく価値はあると思います。

また、産業界にも非常に有用な判例だと思います。日本のメーカの得意な分野の一つに製造工程の改良があります。もちろん大掛かりな製造工程の構築にも効果があると思いますが、日々の生産作業で現場の従業員が考え出した製造ラインの一部改良も「発明」として出願しやすくなると思われます。