平成25年(ネ)第10025号 特許権侵害差止等請求控訴事件

投稿日: 2017/02/04 15:22:15

今日は平成25年(ネ)第10025号 特許権侵害差止等請求控訴事件(原審 大阪地方裁判所平成23年(ワ)第11104号)について検討します。この事件は先日検討した事件で参考判決として時系列だけ紹介したもので、先日の事件と原告・被告が入れ替わったものです。

 

まずはいつものように特許出願、無効審判、審決取消訴訟、侵害訴訟といった各手続を時系列でまとめます。

特許が登録になった後に移転登録申請がされています。実際に特許公報(J-PlatPatから入手(IPDLがJ-PlatPatに変わったことに気づきました))記載の特許権者と、本件訴訟における特許権者は異なっており、移転されたようです。

特許権者が大阪地裁に提訴後に被告が特許無効審判を請求しましたが、審決前に口頭弁論を終結しています。

その結果、特許無効審判における特許庁の判断は「特許は有効」、一方地裁の判断は「特許は無効」と分かれました。

結局、特許無効審判については請求人(一審被告)が知財高裁に出訴し、侵害訴訟は一審原告(被請求人)が知財高裁に控訴し、知財高裁では同じ裁判官の合議体が両裁判を担当しています。そのため口頭弁論終結も判決も同日になっていると思われます。

 

それでは、次に特許発明と被告製品を確認します。

1.特許発明

訴訟では請求項2が本件発明とされています(請求項の分説は判決に準ずるもので、括弧番号は筆者が加筆)。

【請求項2】

複数枚の直角四辺形の金属製棚板(A)と、山形鋼で作られた4本の支柱(B)とからなり、各棚板(A)の四隅のかど部を支柱(B)の内側面に当接し、ボルト(C)により固定して組み立てることとした金属製棚において、上記棚板(A)は直角四辺形の箱底(21)の四辺に側壁(31-34)と内接片(41-44)とがこの順序に連設されていて、各側壁(31-34)が箱底(21)のかどから支柱(B)の幅の長さ分だけ切欠された形状に金属板を打ち抜き、内接片(41-44)を折り返して側壁(31-34)に重ね合わせるとともに、内接片(41-44)が箱の内側へくるように側壁(31-34)を起立させて浅い箱状体としたものであって、側壁(31-34)の切欠部(R)内に延出している内接片(41-44)を支柱(B)の内側に当接し、切欠によって作られた側壁(31-34)の側面で支柱(B)の両側面を挟み、内接片(41-44)を支柱(B)にボルト(C)により固定し、各支柱(B)の下方にキャスター(D)を付設して金属製棚を移動可能としたことを特徴とする、金属製ワゴン。


非常にわかりやすい発明なので特に説明を加える必要はないと思います。

2.被告製品

知財高裁の判決に掲載されていた被告製品の写真です。


被告製品は突出端部7aが本件特許の内接片に相当すると思われます。

3.地裁の判断

地裁では、被告製品は本件発明の構成要件をすべて充足するので本件発明の技術的範囲に属するが、本件特許は乙13発明に乙7発明等を適用することによって容易想到と認められることから、本件特許は特許無効審判により無効にされるべき、と判断し、請求を棄却しました。乙13は実開昭62-85140、乙7は特開2000-60656です。

乙13の図

乙7の図


4.知財高裁の判断

知財高裁では、被告製品は本件発明の構成要件をすべて充足するので本件発明の技術的範囲に属するとともに、本件特許は乙13発明に乙7発明等を適用しても容易想到と認められないことから、本件特許は特許無効審判により無効にされるべきものではない、と判断し、請求を認容しました。

ポイントになったのは「上記棚板(A)は直角四辺形の箱底(21)の四辺に側壁(31-34)と内接片(41-44)とがこの順序に連設されていて」という構成です。つまり、打ち抜いた金属板を折り曲げる場合に箱底となる部分のから最初に折り曲げられた部分が側壁になり、次に内側に折り曲げられた部分がボルトによって支柱に固定される内接片となります。これに対して乙7発明の場合、打ち抜いた金属板を折り曲げる場合に箱底となる部分のから最初に折り曲げられた部分が側壁であるとともにボルトによって支柱に固定される機能も有し、次に外側に折り曲げられた部分は側壁となります。したがって、乙13発明に乙7を適用しても本件特許の構成要件を全て備えるものにはならないので無効にならない、というものです。

5.無効審判及び審決取消訴訟

無効審判では乙13は使われず、甲第1号証として実公平7-53542が使われました。しかし、乙7は甲第2号証として使われています。この甲第2号証についての認定は知財高裁の判断に近いものでした。

「所感」

1.抵触性について

地裁でも被告製品が本件特許に抵触していることは認めています。そのものズバリといっても良いくらい似ており、私も検討しましたが効果的な反論は難しいと思いました。

2.有効性について

単純に本件特許の棚の展開図と乙7の棚の展開図だけを比較しても一目で側壁と内接片が逆の構成ということがわかります。そして、この点が特許請求の範囲の記載に反映されているか確認したところ、審決や控訴審判決で指摘された構成がこの部分を表現していることがわかります。なぜ地裁が無効と判断したのかよくわかりませんでした。無効というロジックを組むよりも無効ではないというロジックを組む方がはるかに自然で簡単なように思います。

なお、無効審判と侵害訴訟の無効主張で証拠として主たる証拠が異なっていますが、このようなケースを私は初めて見ました。侵害訴訟が始まってから大分経って無効審判を請求しているので、こちらの方が無効主張に使いやすいと考えて変えたのでしょうか?それくらいしか想像できません。

先日の事件と比べると損害賠償額にかなりの開きがあります。単に販売台数や単価の違いによるものなのか比較したいと考えていますが、そのあたりは黒塗りされているので難しいかもしれません。