光配光用偏光光照射装置事件(その2)

投稿日: 2017/04/07 6:47:19

平成27年(ワ)第18593号 特許権侵害差止等請求事件の続きです。

今日は判決の内容まで投稿します。

3.特許無効審判の内容

特許無効審判の詳細な手続きの流れについて表に示します。

上表の通り、まず特許無効審判請求書の内容に応じて1回目の訂正請求がされています。これに対して請求人は1回目の弁駁書を提出するとともに参考資料も提出しています。この弁駁書を受け審判官は1回目の訂正後の特許請求の範囲の内容でも特許は無効であるとして1回目の無効理由通知を被請求人に送ります。これを受けて被請求人は2回目の訂正請求をします。これに対して請求人は2回目の弁駁書を提出しています。この弁駁書を受け審判官は2回目の訂正後の特許請求の範囲の内容でも特許は無効であるとして2回目の無効理由通知を被請求人に送ります。これを受けて被請求人は3回目の訂正請求をします。これに対して請求人は3回目の弁駁書を提出しています。その後口頭審理を経て審決の予告がされます。審決の予告が出されるということは審決では特許が無効という結論になるので、被請求人は4回目の訂正請求をします。これに対して請求人は4回目の弁駁書を提出しています。その後、審決が出され、審決で特許は無効という結論になりました。

ここまでの特許請求の範囲と無効の証拠の対応関係について次の表に示します。

具体的な各証拠は以下の通りです。

(1)訂正後の特許請求の範囲

計4回ほど訂正請求がされましたが、特許法上は最後に請求された訂正事項で訂正されたことになります。したがって、審決の予告を受けて訂正した特許請求の範囲について記載します。

【請求項1】

設定された照射領域に偏光光を照射する照射ユニットと、

光配向用膜材付きの基板が載置されるステージと、

照射領域にステージを移動させることでステージ上の基板に偏光光が照射されるようにするステージ移動機構とを備えており、

ステージとして第一第二の二つのステージが設けられており、

ステージ移動機構は、照射領域の一方の側に設定された第一の基板搭載位置から第一のステージを照射領域に移動させ、前記照射ユニットにより偏光光が照射されている該照射領域を通過させるものであるとともに、照射領域の他方の側に設定された第二の基板搭載位置から第二のステージを照射領域に移動させ、前記照射ユニットにより偏光光が照射されている該照射領域を通過させるものであり、

ステージ移動機構は、第一のステージ上の基板が照射領域を通過した後に第一のステージを第一の側に戻すとともに、第二のステージ上の基板が照射領域を通過した後に第二のステージを第二の側に戻すものであり、かつ、前記第一のステージの前記第一の側への復路移動に続くように前記第二のステージの前記照射ユニット方向への往路移動を行わせ、前記第二のステージの前記第二の側への復路移動に続くように前記第一のステージの前記照射ユニット方向への往路移動を行わせるものであり、

第一の基板搭載位置に位置した第一のステージと照射領域の間には、第二のステージ上の基板が照射領域を通過する分以上のスペースが確保され、第二の基板搭載位置に位置した第二のステージと照射領域の間には、第一のステージ上の基板が照射領域を通過する分以上のスペースが確保されており、

前記第一第二ステージの各々は、基板を吸着するための吸着孔を有する、一体的に移動可能な複数のピンを含むことを特徴と光配向用偏光光照射装置。

【請求項2】

設定された照射領域に偏光光を照射する照射ユニットと、

光配向用膜材付きの基板が載置されるステージと、

照射領域にステージを移動させることでステージ上の基板に偏光光が照射されるようにするステージ移動機構とを備えており、

ステージとして第一第二の二つのステージが設けられており、

ステージ移動機構は、照射領域の一方の側に設定された第一の基板搭載位置から第一のステージを照射領域に移動させ、前記照射ユニットにより偏光光が照射されている該照射領域を通過させるものであるとともに、照射領域の他方の側に設定された第二の基板搭載位置から第二のステージを照射領域に移動させ、前記照射ユニットにより偏光光が照射されている該照射領域を通過させるものであり、

ステージ移動機構は、第一のステージ上の基板が照射領域を通過した後に第一のステージを第一の側に戻すとともに、第二のステージ上の基板が照射領域を通過した後に第二のステージを第二の側に戻すものであり、かつ、前記第一のステージの前記第一の側への復路移動に続くように前記第二のステージの前記照射ユニット方向への往路移動を行わせ、前記第二のステージの前記第二の側への復路移動に続くように前記第一のステージの前記照射ユニット方向への往路移動を行わせるものであり、

第一の基板搭載位置に位置した第一のステージと照射領域の間には、第二のステージ上の基板が照射領域を通過する分以上のスペースが確保され、第二の基板搭載位置に位置した第二のステージと照射領域の間には、第一のステージ上の基板が照射領域を通過する分以上のスペースが確保されており、

前記照射ユニットは、前記第一第二の各ステージが往路移動する際と復路移動する際の双方において各ステージ上の基板に対し、偏光子からの偏光光を直接照射して、往路における照射による露光量と復路における照射による露光量とが積算されるようにすることを特徴とする光配向用偏光光照射装置。

【請求項3】

設定された照射領域に偏光光を照射する照射ユニットと、

アライメントマークを有し、光配向用膜材付きの基板が載置されるステージと、

照射領域にステージを移動させることでステージ上の基板に偏光光が照射されるようにするステージ移動機構と、

前記ステージに載置された前記基板上の前記アライメントマークを検出するアライメントセンサとを備えており、

ステージとして第一第二の二つのステージが設けられており、前記第一第二の各ステージには、前記アライメントセンサにより検出された前記アライメントマークの位置情報に基づいて、搭載された基板の向きを、照射される偏光光の偏光軸に対して所定の向きに円周方向に調整する基板アライナーが設けられ、

ステージ移動機構は、照射領域の一方の側に設定された第一の基板搭載位置から第一のステージを照射領域に移動させ、前記照射ユニットにより偏光光が照射されている該照射領域を通過させるものであるとともに、照射領域の他方の側に設定された第二の基板搭載位置から第二のステージを照射領域に移動させ、前記照射ユニットにより偏光光が照射されている該照射領域を通過させるものであり、

ステージ移動機構は、第一のステージ上の基板が照射領域を通過した後に第一のステージを第一の側に戻すとともに、第二のステージ上の基板が照射領域を通過した後に第二のステージを第二の側に戻すものであり、

第一の基板搭載位置に位置した第一のステージと照射領域の間には、第二のステージに搭載された基板の向きを前記基板アライナーにより調整した後の該第二のステージ上の基板が照射領域を通過する分以上のスペースが確保され、第二の基板搭載位置に位置した第二のステージと照射領域の間には、第一のステージに搭載された基板の向きを前記基板アライナーにより調整した後の該第一のステージ上の基板が照射領域を通過する分以上のスペースが確保されていることを特徴とする光配向用偏光光照射装置。

【請求項4】

設定された照射領域に偏光光を照射する照射ユニットと、

アライメントマークを有し、光配向用膜材付きの基板が載置されるステージと、

照射領域にステージを移動させることでステージ上の基板に偏光光が照射されるようにするステージ移動機構と、

前記ステージに載置された前記基板上の前記アライメントマークを検出するアライメントセンサとを備えており、

ステージとして第一第二の二つのステージが設けられており、前記第一第二の各ステージには、前記アライメントセンサにより検出された前記アライメントマークの位置情報に基づいて、搭載された基板の向きを、照射される偏光光の偏光軸に対して所定の向きに円周方向に調整する基板アライナーが設けられ、

ステージ移動機構は、照射領域の一方の側に設定された第一の基板搭載位置から第一のステージを照射領域に移動させ、前記照射ユニットにより偏光光が照射されている該照射領域を通過させるものであるとともに、照射領域の他方の側に設定された第二の基板搭載位置から第二のステージを照射領域に移動させ、前記照射ユニットにより偏光光が照射されている該照射領域を通過させるものであり、

ステージ移動機構は、第一のステージ上の基板が照射領域を通過した後に第一のステージを第一の側に戻すとともに、第二のステージ上の基板が照射領域を通過した後に第二のステージを第二の側に戻すものであり、かつ、前記第一のステージの前記第一の側への復路移動に続くように前記第二のステージの前記照射ユニット方向への往路移動を行わせ、前記第二のステージの前記第二の側への復路移動に続くように前記第一のステージの前記照射ユニット方向への往路移動を行わせるものであり、

第一の基板搭載位置に位置した第一のステージと照射領域の間には、第二のステージ上の基板が照射領域を通過する分以上のスペースが確保され、第二の基板搭載位置に位置した第二のステージと照射領域の間には、第一のステージ上の基板が照射領域を通過する分以上のスペースが確保されており、

前記ステージ移動機構は、前記第一第二のステージの移動方向に沿ってガイド部材を備えており、このガイド部材は、前記第一のステージの移動のガイドと前記第二のステージの移動のガイドとに兼用された、

ことを特徴とする光配向用偏光光照射装置。

【請求項5】

設定された照射領域に偏光光を照射する照射ユニットと、

アライメントマークを有し、光配向用膜材付きの基板が載置されるステージと、

照射領域にステージを移動させることでステージ上の基板に偏光光が照射されるようにするステージ移動機構と、

前記ステージに載置された前記基板上の前記アライメントマークを検出するアライメントセンサとを備えており、

ステージとして第一第二の二つのステージが設けられており、前記第一第二の各ステージには、前記アライメントセンサにより検出された前記アライメントマークの位置情報に基づいて、搭載された基板の向きを、照射される偏光光の偏光軸に対して所定の向きに円周方向に調整する基板アライナーが設けられ、

ステージ移動機構は、照射領域の一方の側に設定された第一の基板搭載位置から第一のステージを照射領域に移動させ、前記照射ユニットにより偏光光が照射されている該照射領域を通過させるものであるとともに、照射領域の他方の側に設定された第二の基板搭載位置から第二のステージを照射領域に移動させ、前記照射ユニットにより偏光光が照射されている該照射領域を通過させるものであり、

ステージ移動機構は、第一のステージ上の基板が照射領域を通過した後に第一のステージを第一の側に戻すとともに、第二のステージ上の基板が照射領域を通過した後に第二のステージを第二の側に戻すものであり、かつ、前記第一のステージの前記第一の側への復路移動に続くように前記第二のステージの前記照射ユニット方向への往路移動を行わせ、前記第二のステージの前記第二の側への復路移動に続くように前記第一のステージの前記照射ユニット方向への往路移動を行わせるものであり、

第一の基板搭載位置に位置した第一のステージと照射領域の間には、第二のステージ上の基板が照射領域を通過する分以上のスペースが確保され、第二の基板搭載位置に位置した第二のステージと照射領域の間には、第一のステージ上の基板が照射領域を通過する分以上のスペースが確保されている光配向用偏光光照射装置を使用して基板に光配向用の偏光光を照射する光配向用偏光光照射方法であって、

前記第一の基板搭載位置において前記第一のステージ上に基板を搭載し、前記アライメントセンサにより検出された前記アライメントマークの位置情報に基づいて、搭載された基板の向きを照射される偏光光の偏光軸に対して所定の向きに円周方向に調整する第一の基板搭載調整ステップと、

前記第二の基板搭載位置において前記第二のステージ上に基板を搭載し、前記アライメントセンサにより検出された前記アライメントマークの位置情報に基づいて、搭載された基板の向きを照射される偏光光の偏光軸に対して所定の向きに円周方向に調整する第二の基板搭載調整ステップと、

基板が搭載された前記第一のステージを、前記第二の基板回収位置への前記第二のステージの復路移動に続くように前記第一の基板搭載位置から移動させ、前記照射領域を基板が通過した後、前記一方の側に設定された第一の基板回収位置まで前記第一のステージを戻す第一の移動ステップと、

基板が搭載された前記第二のステージを、前記第一の基板回収位置への前記第一のステージの復路移動に続くように前記第二の基板搭載位置から移動させ、前記照射領域を基板が通過した後、前記他方の側に設定された第二の基板回収位置まで前記第二のステージを戻す第二の移動ステップと、

第一の基板回収位置において前記第一のステージから基板を回収する第一の基板回収ステップと、

第二の基板回収位置において前記第二のステージから基板を回収する第二の基板回収ステップとを有しており、

第一の基板回収ステップ及び第一の基板搭載ステップが行われる時間帯は、第二の移動ステップが行われる時間帯と全部又は一部が重なっており、

第二の基板回収ステップ及び第二の基板搭載ステップが行われる時間帯は、第一の移動ステップが行われる時間帯と全部又は一部が重なっていることを特徴とする光配向用偏光光照射方法。

(2)審決の内容(訂正発明1(訂正後の請求項1))

① 参考資料3に開示された事項の認定

参考資料3には、以下の発明(以下、「参考資料3発明」という。)が記載されていると認められる。

設定された照射領域へ偏光光を出射する光照射部20A,20Bが配置され、

光配向膜51が形成された矩形状のワーク50がワークステージ上に載置され、

前記ワークステージを直線移動させるステージ移動機構、を備え、

前記光照射部20A、20Bから偏光光を照射しながら前記ワークステージを直線移動させて、前記光照射部20Aと20Bの両方の下を通過させ、前記光配向膜51の光配向処理をするものであって、

前記ワーク50を往復移動させて、光照射部20B→20A→20A→20Bのように偏光光を照射するようにした、

前記光配向膜51の光配向を行なう、液晶素子の製造に関するスキャン照射する偏光光照射装置。

② 甲第2号証に開示された事項の認定

甲第2号証には、以下の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。

基板W,W´を、所定の方向であるX方向および該所定の方向と直交する方向であるY方向に搬送する基板搬送機構14と、Y方向に沿って並んでそれぞれ配置され、複数のマスクMをそれぞれ保持する複数のマスク保持部11と、マスク保持部11をそれぞれ駆動する複数のマスク駆動部12と、複数のマスク保持部11の上部にそれぞれ配置されて露光用光を照射する複数の照射部13と、を備え、

前記基板搬送機構14は、基板W,W´をそれぞれ上面に載置する第1、2の部材、及び、前記第1、2の部材をそれぞれ移動する第1、2の機構を備え、

前記基板Wが、第1の基板交換領域C1に搬入され、搬入された前記基板Wのプリアライメントが行われた後、前記第1の部材によって保持され、

前記基板Wを上面に載置した前記第1の部材を第1の機構によって、前記基板Wを一定の速度でX方向に搬送させて、第1の基板保持領域B1へ移動し、また、前記基板Wは、一定の速度でX方向に搬送されて、露光領域A内に進入し、それぞれのマスクMを介して照射部13から露光用光ELが照射されてマスクパターン61が露光転写され、露光領域Aを通過して第2の基板保持領域B2に位置する基板Wには、第1の転写パターン83が形成され、

前記第1の転写パターン83形成後、基板Wを上面に載置した前記第1の部材を、第1の機構によって、基板WをY方向に所定の距離Lだけ移動させ、第1の機構の、基板Wの搬送方向をX方向と逆方向に切り替えて、第2の基板保持領域B2に保持されていた基板Wを、X方向と逆方向に搬送し、

前記照射部13からの露光用光ELを、それぞれのマスクMを介して照射して、未露光部にマスクパターン62を露光転写して第2の転写パターン84を形成し、この一連の露光動作中に、第2の基板交換領域C2では、基板W´の搬入、基板W´のプリアライメント、基板W´の第2の部材による保持が行われ、

前記第1の部材によって保持された露光済みの基板Wが、第1の基板保持領域B1から第1の基板交換領域C1へ移動する際に、同時に、第2の部材によって保持された未露光の基板W´が第2の基板保持領域B2へ露光動作時の速度より速い速度で搬送され、

前記第1の基板交換領域C1では、露光済み基板Wの搬出と、未露光基板Wの搬入、未露光基板Wのプリアライメント、未露光基板Wの保持が行われ、一方、この間に、第2の部材によって保持された基板W´も上述した同様の露光動作によって、往路によるスキャン露光によって第1の転写パターン83が露光され、第1の基板保持領域B1に保持された基板W´に対してY方向への基板W´の移動を行い、復路によるスキャン露光によって第2の転写パターン84が露光されるものであって、

前記基板搬送機構14の第1及び第2の部材は、それぞれ複数のマスクMと基板W及びW´とがY方向に所定の距離L、即ち、隣接するマスクMのマスクパターン61,62のY方向における中心間距離Dの略1/2だけ移動するように構成され、

前記基板Wの往路搬送時に、所定の間隔Gずつ離れた第1の転写パターン83を露光させ、基板搬送機構14により基板Wを所定の間隔Lだけ移動させた後、基板Wを復路搬送して、往路搬送時に露光した第1の転写パターン83間に形成された未露光部に第2の転写パターン84を隙間なく露光させることにより、必要となるマスク保持部11および照射部13の数量が削減され、スキャン露光装置1の製造費用が大幅に低減し、

前記露光領域Aと、第1及び第2の基板保持領域B1,B2と、第1及び第2の基板交換領域C1、C2と、を設けて、基板搬送機構14は、露光領域A、第1及び第2の基板保持領域B1,B2、及び第1の基板交換領域C1間で基板WをX方向に沿って往復移動可能な第1の部材と、露光領域A、第1及び第2の基板保持領域B1,B2、及び第2の基板交換領域C2間で基板WをX方向に沿って往復移動可能な第2の部材と、を備えるようにしていることにより、前記基板Wの露光動作、すなわち、第1の転写パターン83の形成工程、Y方向への基板Wの移動工程、及び第2の転写パターン84の形成工程と、基板Wの搬出工程及び搬入工程とを行うタイミングを少なくともオーバーラップさせて行うことができ、スループットを向上することができ、

前記基板W、W´上に前記マスクMの前記マスクパターン61、62を露光転写する、液晶装置の製造に関してマスクパターンを露光転写するスキャン露光装置。」


③ 本件訂正発明1と文献との対比

審決の中で審判官が判断の理由として挙げている内容です。

④ 審決

訂正発明1に係る特許は無効と判断され、その他の訂正発明もすべて無効と判断されました。

  

4.判決の内容

文献、一致点・相違点の認定、組み合わせの可否についての判断は特許無効審判の審決とおおよそ同じです。