逆流防止装置事件

投稿日: 2017/11/21 0:41:17

今日は、平成27年(行ケ)第10256号 審決取消請求事件について検討します。原告である株式会社ノーリツが特許無効審判の請求人、被告である株式会社テージーケーが特許権者です。つまり、特許無効審判の審決は請求不成立でした。本件は原告の特許に対する2件目の特許無効審判の審決に対する訴訟でした。

 

1.手続の時系列の整理(特許第3845031号)

① 本件訴訟は本件特許に対する2件目の特許無効審判の審決に対する取消訴訟です。1件目はタイム技研株式会社が請求人でした。

2.本件訂正発明

【請求項1】

給湯管(6)から浴槽(11)への配管の途中に設けられて前記浴槽(11)から上水道(1)への汚水の逆流を防止する逆流防止装置であって、

前記給湯管(6)から前記浴槽(11)へ向かう水の流れを開放または遮断する電磁弁(8)と、

開弁方向に付勢するためのスプリングを有し、前記上水道(1)の圧力低下に応動して前記電磁弁(8)より前記浴槽(11)の側の前記配管内の水を大気に放出するよう開閉動作する一方、前記上水道(1)の圧力低下がない状態においては閉じた状態を保つ大気開放弁(12)と、

を備えた逆流防止装置において、

前記大気開放弁(12)から前記浴槽(11)へ向かう前記配管内に一つのみ配置されて前記浴槽(11)から前記大気開放弁(12)の方向への流れを阻止する第1の逆止弁(10)と、

前記電磁弁(8)と前記大気開放弁(12)との間に一つのみ配置され、前記大気開放弁(12)が前記上水道(1)の圧力低下に応動して大気開放したときに、前記大気開放弁(12)を介して大気に放出される水および吸い込まれた大気が前記上水道(1)の圧力低下によって前記電磁弁(8)の方向に流れてしまうのを阻止する第2の逆止弁(9)と、

を備えていることを特徴とする逆流防止装置。

3.審決の理由の要点

(1)原告が主張した無効理由

ア 無効理由1(甲1号証に記載された発明又は甲2号証に記載された発明に基づく新規性の欠如)

本件訂正発明は、特開2000-304144号公報(甲1。以下「甲1文献」という。)に記載された発明(以下「甲1発明」という。)又は実願昭59-197302号(実開昭61-112166号)のマイクロフィルム(甲2。以下「甲2文献」という。)に記載された発明(以下「甲2発明」という。)であるから、特許法29条1項3号の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は、同法123条1項2号に該当し無効とされるべきものである。

イ 無効理由2(甲1発明又は甲2発明に基づく進歩性欠如)

本件訂正発明は、甲1発明若しくは甲2発明、又は、甲1発明及び甲2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法123条1項2号に該当し無効とされるべきでものである。

(2)審決の判断

ア 引用発明の認定

(ア)甲1発明

「給水源の水圧と縁切りしたい水である逆流水の水圧との圧力バランスにより前記逆流水を排水し縁切りする縁切り装置を給湯機に取り付け、

上記縁切り装置には、開弁付勢処置であるバネ7が配置され、

給湯部21側からふろへのお湯はり経路を分岐し、電磁弁22後に上記縁切り装置23を取り付けその後に2個の逆止弁24を取り付けたものであるが、縁切り装置23は逆止弁の後でも良い逆流防止装置。」

(イ)甲2発明

「水路(5)は市水道等の給水源(4)と高位置に設置された浴槽(1)とを接続するものであり、又水路(5)には給湯加熱器(6)及び該水路(5)を開閉する水電磁弁(7)が装着され、更に水路(5)には遮断装置(16)及び該遮断装置(16)の下流側において逆止弁(15)が装着され、

遮断装置(16)内には、水路(5)に装着され該水路(5)を上流側水路(5a)と下流側水路(5b)とに分離する逆止弁(20)が装着され、

次に前記下流側水路(5b)から分岐し、弁(23)が装着されたドレン路(18)が設けられ、

一方前記上流側水路(5a)に連通してパイロット室(26)が形成され、該パイロット室(26)にはダイヤフラム(21)が張られ、該ダイヤフラム(21)はばね(22)によりパイロット室(26)側への力を受け、一方ダイヤフラム(21)は軸(24)により、前記弁(23)に連結される逆流防止装置であって、

正常な運転状態では、浴槽(1)に給湯する場合、開始スイッチを閉じて水電磁弁(7)を開き、水路(5)に湯を流し、これにより湯の上流側圧力がパイロット室(26)に導かれ、ダイヤフラム(21)はばね(22)の力に抗して押込められ、これにより弁(23)が閉じられ、ドレン路(18)は水路(5)(下流側水路(5b))から遮断され、この結果、水路(5)を流れる湯は逆止弁(20)及び逆止弁(15)を通って浴槽(1)に流れ込むことになり、

例えば運転時(水電磁弁(7)が開いている時)において給水源(4)としての上水道が断水する場合、給水源(4)の水圧が低下して浴槽(1)の湯が水路(5)を逆流しようとすると、この逆流は逆止弁(15)が正常に作動する場合は該逆止弁(15)において防止され、一方給水源(4)の水圧が低下することにより、パイロット室(26)に導かれている圧力も低下し、これによりダイヤフラム(21)はばね(22)の力により押出され、弁(23)が開かれ、この結果ドレン路(18)は水路(5)(下流側水路(5b))に接続され、従って逆止弁(15)が故障した場合等において、該逆止弁(15)を通過してしまう逆流はドレン路(18)に排出されて上流側水路(5a)に到ることはない逆流防止装置。」

イ 甲1発明に基づく新規性又は進歩性の欠如について

(ア)本件訂正発明と甲1発明との対比

a 一致点

「給湯管から浴槽への配管の途中に設けられて前記浴槽から上水道への汚水の逆流を防止する逆流防止装置であって、

前記給湯管から前記浴槽へ向かう水の流れを開放または遮断する電磁弁と、

開弁方向に付勢するためのスプリングを有し、前記上水道の圧力低下に応動して前記電磁弁より前記浴槽の側の前記配管内の水を大気に放出するよう開閉動作する一方、前記上水道の圧力低下がない状態においては閉じた状態を保つ大気開放弁と、を備えた逆流防止装置。」

b 相違点(相違点1)

「本件訂正発明では、大気開放弁から浴槽へ向かう配管内に一つのみ配置されて前記浴槽から前記大気開放弁の方向への流れを阻止する第1の逆止弁と、電磁弁と前記大気開放弁との間に一つのみ配置され、前記大気開放弁が上水道の圧力低下に応動して大気開放したときに、前記大気開放弁を介して大気に放出される水および吸い込まれた大気が前記上水道の圧力低下によって前記電磁弁の方向に流れてしまうのを阻止する第2の逆止弁とを備えているのに対し、

甲1発明では、給湯部21側からふろへのお湯はり経路において、電磁弁22後に縁切り装置23を取り付けその後に2個の逆止弁24が取り付けたものであるが、縁切り装置23は逆止弁の後でも良いとされている点。」

(イ)相違点1についての判断

a 新規性について

甲1発明において、「縁切り装置23」を「2個の逆止弁24」の間に配置したものは、相違点1に係る本件訂正発明の構成に相当する。しかし、甲1発明において、「縁切り装置23は逆止弁の後でも良い」とされているものの、上記のような特定はなく、また、甲1文献には、上記のように特定し得る記載又は示唆はない。そして、本件訂正発明は、相違点1に係る本件訂正発明の構成を備えることにより、本件訂正明細書に記載の効果を奏することから、相違点1は、単なる設計事項ともいえない。

よって、本件訂正発明は、甲1発明であるとはいえない。

b 進歩性について

逆止弁24が2個であることは、甲1文献の図14に隣接して示されているにすぎず、その隣接した「2個の逆止弁24」の間に何らかの装置を配置することを当業者が想到し得るものではないことから、「縁切り装置23は逆止弁の後でも良い」との事項からは、「縁切り装置23」の配置は、「2個の逆止弁24」の後と理解するのが普通である。また、甲1文献は、縁切り装置自体の構造に係るものであって、段落【0033】は、本件訂正発明の一実施例としての縁切り装置を給湯機に取り付けた例を構成図とともに示したものにすぎず、甲1文献に接した当業者が「縁切り装置23」の配置を工夫しようとする動機付けはない。さらに、甲2発明において、甲1発明の「縁切り装置23」に相当する「遮断装置(16)」における「弁(23)」は、下流側の「弁(15)」と上流側の「弁(20)」との間に配置されているが、「弁(20)」は「遮断装置(16)」内に装着、すなわち、「遮断装置(16)」と一体をなすものであり、また、甲1発明と甲2発明とは弁の作動において違いがあるものと認められることから、甲2発明の弁の配置のみを甲1発明に適用する動機付けはない。

よって、甲1発明において、相違点1に係る本件訂正発明の構成のようになすことが容易であるということはできない。本件訂正発明は、甲1発明に基づき、又は、甲1発明及び甲2発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものということはできない。

ウ 甲2発明に基づく新規性又は進歩性の欠如について

(ア)本件訂正発明と甲2発明との対比

a 一致点

「給湯管から浴槽への配管の途中に設けられて前記浴槽から上水道への汚水の逆流を防止する逆流防止装置であって、

前記給湯管から前記浴槽へ向かう水の流れを開放または遮断する電磁弁と、

開弁方向に付勢するためのスプリングを有する大気開放弁と、

を備えた逆流防止装置において、

前記大気開放弁から前記浴槽へ向かう前記配管内に一つのみ配置されて前記浴槽から前記大気開放弁の方向への流れを阻止する第1の逆止弁と、

前記電磁弁と前記大気開放弁との間に一つのみ配置された第2の逆止弁と、

を備えている逆流防止装置。」

b 相違点(相違点2)

「本件訂正発明では、大気開放弁は、上水道の圧力低下に応動して電磁弁より浴槽の側の前記配管内の水を大気に放出するよう開閉動作する一方、前記上水道の圧力低下がない状態においては閉じた状態を保ち、前記大気開放弁が前記上水道の圧力低下に応動して大気開放したときに、前記大気開放弁を介して大気に放出される水および吸い込まれた大気が前記上水道の圧力低下によって前記電磁弁の方向に流れてしまうのを阻止するとされているのに対し、

甲2発明では、遮断装置(16)は、正常な運転状態では、湯の上流側圧力がパイロット室(26)に導かれ、ダイヤフラム(21)はばね(22)の力に抗して押込められ、これにより弁(23)が閉じられ、ドレン路(18)は水路(5)(下流側水路(5b))から遮断され、例えば運転時(水電磁弁(7)が開いている時)において給水源(4)としての上水道が断水する場合、給水源(4)の水圧が低下することにより、パイロット室(26)に導かれている圧力も低下し、これによりダイヤフラム(21)はばね(22)の力により押出され、弁(23)が開かれ、この結果ドレン路(18)は水路(5)(下流側水路(5b))に接続され、従って逆止弁(15)が故障した場合等において、該逆止弁(15)を通過してしまう逆流はドレン路(18)に排出されて上流側水路(5a)に到ることはないとされている点。」

(イ)相違点2についての判断

a 新規性について

本件訂正明細書の段落【0008】の記載を参酌すると、本件訂正発明において、大気開放弁は、「上水道の圧力低下」、すなわち、上水道の元圧の低下がない状態においては閉じた状態を保つものである。

これに対し、甲2発明においては、「上流側水路(5a)に連通してパイロット室(26)が形成され」、「水電磁弁(7)」が開いた後に、上流側圧力がパイロット室(26)に導かれること、また、甲2文献の第2図にはパイロット室(26)への流路は、「水電磁弁(7)」の下流側から分岐されていることが記載されていることからみて、「弁(23)」は「水電磁弁(7)」の下流側の圧力により開閉動作がなされるものといえ、本件訂正発明のように上水道の元圧により開閉動作するものではない。

そして、本件訂正発明の大気開放弁と甲2発明の遮断装置(16)とは、電磁弁の開閉による影響の有無により、弁の作動においても違いが生じるものと認められることから、相違点2は、単なる設計変更ともいえない。よって、本件訂正発明は、甲2発明であるとはいえない。

b 進歩性について

甲2発明において、遮断装置(16)は、パイロット室(26)への流路を含めて一体の装置として形成されているものであり、これをあえて配管等を別途設けて、給水源(4)の元圧により作動されるように変更する動機付けはない。また、甲1発明のように給水源の水圧により弁を作動させるものが公知であるとしても、本件訂正発明と同様に甲2発明とは弁の作動において違いがあると認められることから、パイロット室(26)への流路の構成のみを甲2発明に適用する動機付けはない。

よって、甲2発明において、相違点2に係る本件訂正発明の構成のようになすことが容易であるということはできない。本件訂正発明は、甲2発明に基づいて、又は、甲2発明及び甲1発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものとはいえない。

4.原告主張の審決取消事由

1 取消事由1(相違点1に関する新規性判断の誤り)

(1)引用発明の認定について

引用発明である甲1発明の認定においては、当該刊行物に記載されている事項から導き出せる事項(刊行物に記載されているに等しい事項)も、引用発明の基礎とすることができる。甲1文献の「逆止弁の後でも良い。」との記載は、1個の逆止弁の後と2個の逆止弁の後とのいずれかを示唆していることは明白であり、甲1文献には「2個の逆止弁の後」ではなく、単に「逆止弁の後」と記載されているから、逆止弁が複数個存在すれば、縁切り装置23は個々の逆止弁の後でもよいと解され、最後の逆止弁の後と限定的に解釈する理由は存在しない(なお、上記「後」とは逆流防止装置おける下流側(ふろ側)を指す。以下同じ。)。よって、次の変形例1又は変形例2は甲1文献に記載されているに等しいものであるといえる。

また、引用発明の認定の際には当業者の技術常識を参酌することができるところ、大気開放口を有する逆流防止装置に関する公知の特許文献160件(重複を含む。)のうち、「2個の逆止弁間に大気開放口を有する構成」が記載された文献は115件(63%)に及ぶことから(甲26)、この構成は本件特許の出願前に周知であり、当業者の技術常識であることは明らかであるし、この構成が記載された文献の数(115件)は「大気開放口の下流に逆止弁を設けない構成」が記載された文献の数(22件)の5倍以上であるから(甲26)、甲1発明において縁切り装置23を2個の逆止弁24の間に配置したものは、「縁切り装置23は逆止弁の後でも良い。」との記載から本件特許の出願時における技術常識を参酌することにより当業者が導き出せる事項である。そして、特開平1-169009号公報(甲27。以下「甲27文献」という。)、実願平2-25327号(実開平3-119061号)のマイクロフィルム(甲29。以下「甲29文献」という。)、実願平2-60841号(実開平4-18777号)のマイクロフィルム(甲30。以下「甲30文献」という。)、特開平9-264606号公報(甲31。以下「甲31文献」という。)、特開平10-205882号公報(甲32。以下「甲32文献」という。)、及び実願平2-83170号(実開平4-41177号)のマイクロフィルム(甲40。以下「甲40文献」という。)などには、2個の逆止弁間に大気開放口を有する構成を備えた逆流防止装置が記載されている。

(2)本件訂正発明と甲1発明の対比について

審決は、本件訂正発明と甲1発明の相違点として、相違点1を認定した。しかし、前記のとおり、甲1文献には、2個の逆止弁間に大気開放口を有する構成を備えた逆流防止装置が記載されているものと認められるから、審決が認定した相違点1は相違点とはならない。

したがって、本件訂正発明は甲1発明であると認められる。相違点1についての審決の新規性の判断には誤りがあり、この誤りは審決の結論に影響を及ぼすものであるから、審決は取り消されるべきである。

2 取消事由2(相違点2の認定の誤り)

審決は、相違点2について、前記第2、3 ウbのとおり認定した。しかし、審決の認定は、「逆止弁」と「大気開放弁」を混同したものであるから誤りである。

審決は、本件訂正発明について、「大気開放弁は、・・・水及び大気が・・・電磁弁の方向に流れてしまうのを阻止する」と認定し、甲2発明について、「遮断装置(16)は、・・・逆流は、・・・至ることはない」と認定しており、本件訂正発明の「大気開放弁」と甲2発明の「遮断装置(16)の弁(23)」は、流れを阻止するという点において同じ機能を有しているから、この点は、相違点ではなく一致点と認定されるべきである。

したがって、相違点2を認定した審決には誤りがあり、この誤りは審決の結論に影響を及ぼすものであるから、違法なものとして取り消されるべきである。

3 取消事由3(相違点2に関する新規性判断の誤り)

審決は、本件訂正発明は甲2発明であるとはいえないと判断したが、この判断は誤りであり、相違点2の認定も誤っているから、このような誤った相違点を前提として新規性を判断することは違法である。

審決は、本件訂正発明において、大気開放弁は、上水道の元圧の低下がない状態においては、閉じた状態を保つものであるのに対し、甲2発明においては、「弁(23)は、水電磁弁(7)の下流側圧力により開閉動作がなされるものといえ、本件訂正発明のように上水道の元圧により開閉動作するものではない」と認定した。

しかし、甲2文献には、「弁(23)」について、「これより弁(23)が閉じられ、ドレン路(18)は水路(5)(下流側水路(5b))から遮断される。・・・これによりダイヤフラム(21)はばね(22)の力により押出され、弁(23)が開かれる。」との記載がある。この記載によると、パイロット室(26)の圧力上昇により弁(23)が閉じ、その圧力低下により弁(23)が開くものと理解することができる。仮に、甲2発明の弁(23)の開弁圧が逆止弁(20)の開弁圧より高いとすると、水電磁弁(7)が開いたときに逆止弁(20)が開いた後で弁(23)が閉じることになり、甲2文献に記載された動作順序と矛盾するし、給湯を行うたびに逆止弁(20)が開いてから弁(23)が閉じるまでの間は湯がドレン路(18)から流れ出してしまうから、甲2発明において弁(23)の開弁圧を逆止弁(20)の開弁圧より低く設定することは技術常識である。このことを前提とすれば、通水後に水電磁弁(7)を閉じると上流側水路(5a)内の水圧が低下し、逆止弁(20)の開弁圧より低くなると逆止弁(20)が閉じるが、このときの上流側水路(5a)内の水圧は弁(23)の閉弁圧よりは高いため、弁(23)は閉じたままであり、水圧はそれ以上低下せずに弁(23)が閉じた状態が維持される結果、甲2発明の弁(23)は「前記上水道の圧力低下がない状態においては閉じた状態を保つ」ものであると認められる。このことは、実験報告書(甲38の1)と、実験の様子を撮影したビデオを収録したCD-R(甲38の2)によっても裏付けられている。

本件訂正発明は、「元圧」でなくても、「上水道の圧力」であれば十分に成り立つものであるところ、甲2発明の弁(23)は水電磁弁(7)の下流側の圧力により開閉動作がなされるものといえるから、本件訂正発明のように上水道の元圧により開閉動作するものではないとの審決の認定は誤りである。

また、そもそも甲2発明の「弁(23)」は、上水道の元圧(給水源4)により開閉動作するものである。甲2文献の記載によれば、弁(23)が閉じられるのは、水電磁弁(7)が開いているときである。そして、「水電磁弁(7)が開いているので、上流側水路(5a)は給水源(4)に連通することになり」、弁(23)は、給水源(4)の圧力によって閉じられる。また、弁(23)が開かれるときも、「運転時(水電磁弁(7)が開いている時)における断水状態」であるから、同様に、「水電磁弁(7)が開いているので、上流側水路(5a)は給水源(4)に連通することになり」、弁(23)は給水源(4)の圧力によって開かれるといえる。審決は、本件訂正発明と甲2発明の相違点として、相違点2を認定したけれども、上記のとおり、甲2文献の記載によれば、甲2発明の弁(23)は「前記上水道の圧力低下がない状態においては閉じた状態を保つ」ものであると認められるから、審決が認定した相違点2は相違点とはならない。

したがって、本件訂正発明は甲2発明であると認められる。相違点2についての審決の新規性の判断には誤りがあり、この誤りは審決の結論に影響を及ぼすものであるから、審決は取り消されるべきである。

4 取消事由4(相違点1に関する容易想到性の判断の誤り)

審決は、本件訂正発明は、甲1発明に基づいて、又は、甲1発明及び甲2発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものということはできないと判断した。しかし、以下のとおり、審決の判断は誤りである。

(1)甲1発明が、本件訂正発明の従来技術であること、また、本件特許の出願当時、この従来技術において、逆流事故が発生していたという課題があったことは、周知であったから(甲23)、甲1文献の段落【0033】の「縁切り装置23は逆止弁の後でも良い。」との記載に接した当業者であれば、その具体的構成を考えるのはごく自然なことであるし、2つの逆止弁間に大気開放口を設けることが技術常識であることを参酌すれば、「逆止弁の後でも良い。」とは、大気開放口を2個ある逆止弁の間に設けることを意味すると理解するのが自然である。

また、特開平2-225946号公報(甲33。以下「甲33文献」という。)の第1図ないし第3図には、2つの逆止弁の間に負圧破壊弁を配置する、負圧破壊弁の下流側に2つの逆止弁を配置する、及び負圧破壊弁の上流側に2つの逆止弁を配置するという3通りの配置が全て記載されていることから、2個ある逆止弁の間に大気開放弁などの大気開放口を有する縁切り装置を配置することは他の配置と比べて特別なものではなく、当業者が適宜選択する配置であると認められる。

さらに、甲1文献の段落【0033】の記載から「縁切り装置23」及び逆止弁の配置の変更は二者択一であるといえる。そして、甲40文献には「逆止弁-大気開放口-逆止弁」の配置を採用すると逆止弁の漏洩(水密不良)が生じても逆流を確実に防止できることが記載されているから、甲1発明において「逆止弁-大気開放口-逆止弁」の配置を採用する動機付けは十分にある。

したがって、相違点1に係る本件訂正発明の構成は、甲1発明に基づいて、当業者が容易に想到し得たものである。

(2)甲2発明は、大気開放弁から浴槽へ向かう配管内に1つのみ配置されて浴槽から大気開放弁の方向への流れを阻止する第1の逆止弁と、電磁弁と大気開放弁の間に1つのみ配置された第2の逆止弁とを備えている逆流防止装置である。

甲2文献には「特に遮断装置内の逆止弁と遮断装置の下流側において水路に装着された逆止弁との両逆止弁を有するため、逆流防止は極めて確実である。」(5頁18行ないし6頁2行)との記載がある。ここでいう「逆流防止」とは「上流側水路5a」への逆流防止であると認められる。そして、甲1発明と甲2発明は、共に給湯システム等に用いられる逆流防止装置に関するものであるから、甲1発明において、逆流防止をより確実にするために、甲2発明の「逆止弁-大気開放弁-逆止弁」の配置順を適用する動機付けは十分に存在する。

したがって、相違点1に係る本件訂正発明の構成は、甲1発明及び甲2発明に基づいて、当業者が容易に想到し得たものである。

(3)審決は、甲1発明と甲2発明は弁の作動において違いがあるものと認められるから、弁の配置のみを甲1発明に適用する動機付けはないというが、甲1発明と甲2発明とで弁の動作に違いはないし、また、本件訂正発明は、大気開放弁の構造に全く関係がない発明であるから、弁の動作に違いがあるとしても、このことは甲1発明に甲2発明を適用する動機付けにとって何の関係もないといえる。したがって、甲1発明に甲2発明の弁の配置を適用する動機付けがないとの審決の判断には誤りがある。

審決は、相違点1に係る本件訂正発明の構成を備えることにより、本件訂正明細書に記載の効果を奏することから、相違点1は単なる設計的事項ともいえないと認定した。しかし、変形例1の構成は周知であり、本件訂正発明の効果は、その周知の構成から得られる効果であって格別顕著なものではない。

5 取消事由5(相違点2に関する容易想到性の判断の誤り)

審決は、本件訂正発明は、甲2発明に基づいて、又は、甲2発明及び甲1発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものということはできないと判断した。しかし、以下のとおり、審決の判断は誤りである。

(1)まず、審決は、甲2発明において、遮断装置(16)は、第1図にあるように、パイロット室(26)への流路を含めて一体の装置として形成されているものであり、これをあえて配管等を別途設けて、給水源(4)の元圧により作動されるように変更する動機付けはないと判断する。しかし、大気開放弁を給水源の元圧によって作動するように構成することは、周知技術であるから、甲2発明の弁(23)について、給水源の元圧によって作動するような構成を採用することは、当業者が適宜選択し得る設計事項にすぎない。

したがって、相違点2に係る本件訂正発明の構成は、甲2発明に基づいて、当業者が容易に想到し得たものであるから、審決の上記認定は誤りである。

(2)また、甲2発明のパイロット室(26)を上流側水路(5a)に連通させることと、上流側水路(5a)を甲1発明の給水源配管に置換して給水源に接続することとは技術的に等価であり、給水源に接続すると差圧が大きくなって大気開放弁の弁動作の安定性を向上できるという利点が存在するのであるから、甲2発明のパイロット室(26)への流路の構成を甲1発明の給水源配管に置換する動機付けはあるといえる。

したがって、相違点2に係る本件訂正発明の構成は、甲2発明及び甲1発明に基づいて、当業者が容易に想到し得たものであるから、本件訂正発明は、甲2発明及び1発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものということはできないとの審決の判断にも誤りがある。

(3)以上のとおり、審決は、相違点2に関する判断を誤っており(そもそも相違点2の認定も誤っている。)、この誤りは審決の結論に影響を及ぼすものであるから、審決は取り消されるべきである。

5.裁判所の判断

1 本件訂正発明について

(1)本件訂正発明は、給湯装置からの温水を浴槽に導く配管の途中に設けられて、浴槽の汚水が上水道へ逆流するのを防ぐ逆流防止装置に関するものであるところ、本件訂正明細書(甲5、6、26)には、従来の技術、本件訂正発明が解決しようとする課題及び本件訂正発明の内容について、以下の記載がある。

(2)上記(1)によれば、本件訂正発明は、前記第2の2【請求項1】のとおりであり、給湯装置からの温水を浴槽に導く配管の途中に設けられて浴槽の汚水が上水道へ逆流するのを防止する逆流防止装置に関する(【0001】)。

従来の給湯システムでは、水比例弁の下流側が、電磁弁と、直列に配置した2つの逆止弁とを介して風呂の浴槽に配管されており、電磁弁と2つの逆止弁との間の配管には、オーバフロー口を有する大気開放弁が配置されている(【0002】ないし【0004】)。大気開放弁には、検圧管を介して上水道の元圧(1次圧)が導入されており、この1次圧は電磁弁から逆止弁へ通過する配管内の通水圧(2次圧)より大きいので、オーバフロー口への通路は閉じた状態にある(【0008】)。そして、停電により上水を汲み上げているポンプが停止したり、断水が発生したりすることで給水管内に負圧が発生すると、大気開放弁は、1次圧の低下を感知して電磁弁から2つの逆止弁へ至る配管をオーバフロー口と連通させ、配管内の水を大気に放出する(【0009】)。もし、2つの逆止弁が異物の噛み込みなどにより水密不良になっていた場合には、高所にある浴槽内の汚水が2つの逆止弁を介して大気開放弁まで逆流してくるところ、その汚水は、大気開放弁により大気に放出されるため、給湯管の方まで逆流することはない(【0010】)。

しかしながら、従来の給湯システムでは、大気開放弁の上流側にある電磁弁が、給湯管側が負圧の状態では全閉状態を維持できない特性を有している一方、給湯管側が負圧になると、大気開放弁のオーバフロー口から勢いよく大気を吸い込むため、このとき、浴槽に近い側に安全のために直列に配置した2つの逆止弁がいずれも水密不良になっていると、浴槽から大気開放弁まで逆流してきた汚水の一部が、オーバフロー口から吸い込まれてきた大気と共に電磁弁を通って給湯管の方へ逆流することがあるという問題点があった(【0011】)。

本件訂正発明は、大気開放弁から浴槽へ向かう配管内に第1の逆止弁を1つのみ配置し、電磁弁と大気開放弁との間に第2の逆止弁を1つのみ配置した逆流防止装置であって、これによれば、第1の逆止弁及び第2の逆止弁が共に水密不良になっているときに断水などで上水道が負圧になっても、水密不良になった第2の逆止弁がオリフィスとして働き、上水道の負圧によって大気開放弁まで逆流してきた汚水を給湯管側の方へ吸引するだけの吸引力は発生せず、給湯管側への汚水の逆流を防止することができ(【0014】、【0031】)、また、従来、浴槽側に安全のために2個設けていた逆止弁の1個を電磁弁と大気開放弁との間に配置することになり、コスト上昇を伴わずに逆流防止装置を実現することができるという効果を奏するものである(【0032】)。

したがって、本件訂正発明は、オーバフロー口を有する大気開放弁が配置されている逆流防止装置において、電磁弁と大気開放弁との間に逆止弁(第2の逆止弁)を配置することを特徴とするものであり、第2の逆止弁が果たす上記のオリフィスとしての逆流防止機能は、通常の逆止弁の機能とは異なるもので、逆止弁の機能として一般的なものとはいえないものである。また、上記の問題点が本件特許の出願前に当業者に知られていたと認めるに足りる証拠はないから、本件訂正発明は、新たな課題を発見し、これを解決したものであるということができる。

なお、請求項1の「上水道の圧力(低下)」は、上水道の元圧(1次圧)、すなわち電磁弁の上流側の水圧を指すものと解される。

2 取消事由1(相違点1に関する新規性判断の誤り)について

(1)甲1発明の認定

ア 甲1発明は、給湯器に使用する縁切り装置に関するものであるところ、甲1文献(甲1)には、以下の記載がある。

「【特許請求の範囲】

【請求項1】 給水源の水圧と縁切りしたい水である逆流水との圧力バランスにより前記逆流水を排水し縁切りする縁切り装置において、前記逆流水を解放する弁をピストンの片端に配置し、他の片端に給水圧を受け力に変換させる受圧部を固定し、前記受圧部により変換された給水圧の力ベクトルと前記逆流水を解放する弁にかかるふろ側圧逆圧の力ベクトルを同軸上に設け、かつ、給水源配管の接続部と逆流水配管の接続部を同軸上に設けたことを特徴とする縁切り装置。」

「【発明の詳細な説明】

【0001】 本発明は給湯機に使用する縁切り装置に関するものである。

【0002】 従来、上記を目的とした縁切り装置として特開平7-103358号公報に記載の逆流防止装置があり図15に示す構造を有する。前記逆流防止装置においては、上流側水路と下流側水路間に装着した逆流防止室を大気に連通させる大気連通口100を備え、上流側水路と逆流防止室内の圧力差に基づき、大気連通口100を開閉する逆流防止装置において、一面を前記上流側水路の圧力に面し、他面を逆流防止室内の圧力に面する密閉面を設け、この密閉面の移動によって大気連通口100を開閉せしめ、また、前記大気連通口よりも大径で逆流防止室を大気に連通させる大気開放口101とを設け、逆流防止室内と大気の圧力差に基づき、前記大気開放口101を開閉せしめていた。

【0003】

【発明が解決しようとする課題】 しかしながら、従来の形状では、部品点数が増え、又、形状が大きくなっていた。さらには、取付形状を特定していたためにふろの配管接続方法が単一化し、相手接続部の形状が複雑化していてしまい、コストも割高となり、また、給湯機に搭載したとき給湯機自体が大きくなったりするという問題があった。従って、本発明の目的は、部品点数を少なくし、形状も小さく、低コストな縁切り装置を提供することにある。

【0004】

【課題を解決するための手段及びその作用・効果】 上記目的を達成するために請求項1は、給水源の水圧と縁切りした水である逆流水の水圧との圧力バランスにより前記逆流水を排水し縁切りする縁切り装置において、前記逆流水を開放する弁をピストンの片端に配置し、他の片端に給水圧を受け力に変換させる受圧部を固定し、前記受圧部により変換された給水圧の力ベクトルと前記逆流水を開放する弁にかかるふろ側逆圧の力ベクトルを同軸上に設け、かつ、給水源配管の接続部と逆流水配管の接続部を同軸上に設けたので、部品点数が少なく、形状も小さく、低コストにできる。」

「【0017】

【発明の実施の形態】 以下、本発明の実施の形態を、図面により詳細に説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る縁切り装置の第1の実施例を示す構成図であり、開弁状態を図示している。上記縁切り装置は、図示のように、縁切り装置逆流水側のボディ1と給水源側のボディ3を固定し、縁切りしたい水の配管位置を給水源配管に対し同軸上に配置し、又、排水口を給水源配管に対し直行する様に配置し、内部にピストン5を配置構成している。そのピストン5のボディ1側にパッキン8をボディ3側に受圧部6をリテーナー4とネジ9とで固定配置し、パッキン8側に受ける力ベクトルと受圧部6側に受ける力ベクトルが、対向するように配置され、かつ開弁付勢処置であるバネ7が受圧部側に受ける力ベクトルに対向するように配置されている。図では開弁不勢処置をバネ7にしているが受圧部の復元力やゴム製品のように復元力を持つものを使用しても良い。ピストン5に取り付けられているパッキン8の外周には壁を設けている。又、ピストン5のボディ1側先端及びボディ1側には縁切り装置が水平方向に使われた場合でも大きな傾きを持たないようにガイドを設けている。」

【図1】

「【0033】 図14は、本発明の一実施例としての縁切り装置を給湯機に取り付けたときの構成図である。給湯21側からお湯はり経路を分岐し、電磁弁22後に本発明の縁切り装置23を取り付けその後に逆止弁24が取り付く。尚、縁切り装置23は逆止弁の後でも良い。又本図はお湯はり機能付きのみの給湯機を図示しているが、お湯はり機能付きの遠隔追焚給湯機でも対応できる。」

【図14】

イ 上記アによれば、甲1発明は、審決が認定したとおり(前記第2の3(2)ア(ア))であると認められる。

(2)本件訂正発明と甲1発明との一致点及び相違点

いずれも、審決が、「一致点」及び「相違点1」として認定したとおり(前記第2の3(2)イ(ア))であると認められる。

(3)相違点1について

ア 検討

本件訂正発明は、電磁弁と大気開放弁との間に第2の逆止弁を設け、同逆止弁が、①通常の逆止弁の機能により、第1の逆止弁が水密不良の状態にある場合、汚水の一部が電磁弁の方向に流れるのを阻止するのみならず、②第2の逆止弁が水密不良の状態にあるときも、オリフィスとしての機能により、オーバーフロー口から吸い込まれる大気の流量を減少させることによって、上水道の圧力低下に応動して大気開放弁を大気開放した場合に、放出される水の一部及び吸い込まれた大気が逆流する事態が生じるという本件特許の出願前に当業者に知られていなかった前記1(2)の課題を解決するものである。そして、第2の逆止弁がこれらの逆流防止機能を果たすためには、電磁弁と大気開放弁との間に配置されることを要するものといえる。

他方で、甲1発明においては、「電磁弁22後に本発明の縁切り装置23を取り付けその後に逆止弁24が取り付く。」(【0033】)とされ、縁切り装置の後に逆止弁が配置されることが開示されている。

原告は、甲1発明において縁切り装置23を2個の逆止弁24の間に配置すると、本件訂正発明の構成になると主張するので、甲1文献の「縁切り装置23は逆止弁の後でも良い。」との記載が、縁切り装置23を2個の逆止弁24の間に配置することを示唆するものであって、甲1文献に、縁切り装置23を2個の逆止弁24の間に配置するとの構成が記載されているといえるか否かを検討する。

まず、前記(1)アのとおり、甲1文献には、「図14は、本発明の一実施例としての縁切り装置を給湯機に取り付けたときの構成図である。給湯21側からお湯はり経路を分岐し、電磁弁22後に本発明の縁切り装置23を取り付けその後に逆止弁24が取り付く。」(【0033】)との記載があり、図14には、縁切り装置23の後(縁切り装置23とふろとの間)に2個の逆止弁24を連続して配置する構成が記載されている。そうすると、甲1文献には、縁切り装置23の後(縁切り装置23とふろとの間)に2個の逆止弁を連続して配置したものが記載されており、図14で「逆止弁24」として示されているものは、縁切り装置23の後(縁切り装置23とふろとの間)に連続して配置された2個の逆止弁の全体であると認められる(2個の逆止弁に対して1つの符号「24」が付されていることも上記の認定を示唆するものと解される。)。

次に、甲1文献には、「尚、縁切り装置23は逆止弁の後でも良い。」(【0033】)との記載がある。この記載における「逆止弁」は、「逆止弁24」を指すことが明らかであるから、甲1文献の上記記載は、縁切り装置23を「逆止弁24」の後に配置することを示唆するものであると認められる。そして、「逆止弁24」は、前記のとおり、縁切り装置23の後に連続して配置された2個の逆止弁の全体を指すと認められるから、「逆止弁の後でも良い。」との示唆に従うと、縁切り装置23の前(縁切り装置23と電磁弁22との間)に2個の逆止弁の全体が配置されることになる。甲1文献には、段落【0033】及び図14の他に「逆止弁24」に関する記載はなく、「逆止弁の後でも良い。」との示唆に従ったとしても、縁切り装置23の前後に逆止弁を1個ずつ配置する構成とはならない。

以上によれば、甲1文献には、縁切り装置の後に2個の逆止弁を連続して配置したもの、及び縁切り装置の前に2個の逆止弁を連続して配置したものは記載されているといえるものの、当業者が、甲1文献の上記記載から、縁切り装置23の前後に逆止弁を1個ずつ配置するとの構成を読み取ることはできないから、縁切り装置の前後に逆止弁を1個ずつ配置したものが甲1文献の記載から自明であって記載されているに等しいということはできない

したがって、甲1発明において、縁切り装置23を2個の逆止弁24の間に配置したものは、甲1文献に記載されているに等しいものということはできず、本件訂正発明と甲1発明とは、審決が認定したとおり、相違点1で相違するものと認められる。

イ 原告の主張について

(ア)原告は、甲1文献の「逆止弁の後でも良い。」との記載が1個の逆止弁の後と2個の逆止弁の後とのいずれかを示唆していることは明白であると主張する。

しかしながら、甲1文献の図14において「逆止弁24」として示されているものは、縁切り装置23の後に連続して配置された2個の逆止弁の全体であると認められるから、「縁切り装置23は逆止弁の後でも良い。」との記載は、連続して配置された2個の逆止弁の全体の後でも良いという意味に解するのが相当である。そもそも、縁切り装置23を2個の逆止弁の間に配置した場合、縁切り装置23の後にはなお1個の逆止弁が存在することとなり、「縁切り装置23は逆止弁の後」にあるということはできないから、「逆止弁の後でも良い。」との記載が連続して配置された2個の逆止弁のうちの1個の逆止弁の後でもよいと解釈することは、自然な解釈であるとはいい難い。また、縁切り装置23を1個の逆止弁の後に配置することを示唆する場合には、端的に「縁切り装置23は(2個の)逆止弁の間でも良い。」などと記載すれば足りるにもかかわらず、「縁切り装置23は逆止弁の後でも良い。」と記載されていることからすると、甲1発明において縁切り装置23を2個の逆止弁の間に配置することは想定されていないといえる。

したがって、原告の上記主張は、採用することができない。

(イ)原告は、引用発明の認定の際には当業者の技術常識を参酌することができるところ、大気開放口を有する逆流防止装置に関する公知の特許文献160件のうち、「2個の逆止弁間に大気開放口を有する構成」が記載された文献は115件(63%)に及ぶことから、この構成は本件特許の出願前に周知であり、当業者の技術常識であることは明らかであるし、この構成が記載された文献の数(115件)は「大気開放口の下流に逆止弁を設けない構成」が記載された文献の数(22件)の5倍以上であるから、甲1発明において縁切り装置23を2個の逆止弁24の間に配置したものは、「縁切り装置23は逆止弁の後でも良い。」との記載から本件特許の出願時における技術常識を参酌することにより当業者が導き出せる事項である旨主張する。

しかしながら、多くの公知文献に記載された逆流防止装置において、本件訂正発明の「第1の逆止弁」及び「第2の逆止弁」に相当する位置に逆止弁が配置されているとしても(2個の逆止弁の間に大気開放口を有する構成)、各配置位置に関する技術的意義はそれぞれに異なるものというべきであるから、これらを捨象して形式的に同配置位置のみを技術上の共通点として抽出することは相当ではない。また、仮に、このような形式的配置位置のみを抽出して甲1発明に適用したとしても、本件訂正発明のように、上水道の圧力低下に応動して大気開放弁を大気開放した場合に、放出される水の一部及び吸い込まれた大気が逆流する事態が生じるという課題があることが知られていない以上、直ちに、この課題が解決されることを認識することができるわけではなく、したがって、これらの水及び大気の逆流を阻止する(第2の)逆止弁の構成を具備しているものと認定することはできない。

よって、原告の上記主張は、採用することができない。

(ウ)原告は、2個の逆止弁の間に大気開放口を有する構成を備えた逆流防止装置は、甲27文献等に記載されている旨主張する。

しかしながら、甲27文献、甲29文献ないし甲32文献及び甲40文献のそれぞれに記載された逆流防止装置における2個の逆止弁(特に、大気開放口の前に配置された逆止弁)の機能は、以下のとおり、それぞれ異なるものであり、これらの逆流防止装置に設けられた2個の逆止弁が同じ技術的意義を有するということはできないから、2個の逆止弁間に大気開放口を有する構成だけを技術上の共通点として形式的に抽出することは相当でない。また、仮に、このような形式的配置位置のみを抽出して甲1発明に適用したとしても、本件訂正発明のように、上水道の圧力低下に応動して大気開放弁を大気開放した場合に、放出される水の一部及び吸い込まれた大気が逆流する事態が生じるという課題があることが知られていない以上、直ちに、この課題が解決されることを認識することができるわけではなく、したがって、これらの水及び大気の逆流を阻止する(第2の)逆止弁の構成を具備しているものと認定することはできない。

よって、原告の上記主張は、採用することができない。

a 甲27文献の記載(2頁左上欄13行ないし左下欄5行、第1図ないし第3図)によれば、甲27文献に記載された逆流防止装置においては、大気開放口(大気開放弁Gの空気口7)の前に配置された逆止弁(逆止弁E)は、大気開放口の後に配置された逆止弁(逆止弁F)との間に空気で満たされた空間(空気室8)を形成する機能を有するとともに、その弁体1が弁軸10及び弁杆11を介して弁体3を動かし、大気開放口(大気開放弁Gの空気口7)を開放する機能を有することが認められる。

b 甲29文献の記載(5頁5行ないし16行、第1図、第3図)によれば、甲29文献に記載された逆流防止装置においては、バキュームブレーカ10の空気流入孔14を開けるには排水用電磁開閉弁36を開く必要があり、また、空気で満たされた空間となるのは給湯用電磁開閉弁6と大気開放口の後に配置された逆止弁(第2の逆止弁30)との間であるから、大気開放口(バキュームブレーカ10)の前に配置された逆止弁(第1の逆止弁8)は、空気で満たされた空間を形成する機能を有しないし、大気開放口(バキュームブレーカ10)を開放する機能も有しないことが認められる。

c 甲30文献の記載(11頁1行ないし10行、第1図)によれば、甲30文献に記載された逆流防止装置においては、第3逆止弁42を開いて大気開放通路41を開放するには第2電磁弁36への通電を遮断してドレン通路35を開放する必要があることから、大気開放口(ドレン通路35、大気開放通路41)の前に配置された逆止弁(第1逆止弁22)は、大気開放口の後に配置された逆止弁(第2逆止弁23)との間に空気で満たされた空間(内部の湯がドレン通路35から外部へ排出された後のメイン通路20)を形成する機能を有するものの、大気開放口(ドレン通路35、大気開放通路41)を開放する機能を有しないことが認められる。

d 甲31文献の記載(段落【0019】、【0020】、図2)によれば、甲31文献に記載された逆流防止装置においては、空気が通路53内に入り込めるようにするためにはコントローラによりエアチャージ弁54を開く必要があり、また、エアチャージ弁54を開いても通路53内の水は通常排水されないから、大気開放口(エアチャージ弁54)の前に配置された逆止弁(逆止弁52)は、空気で満たされた空間を形成する機能を有しないし、大気開放口(エアチャージ弁54)を開放する機能も有しないことが認められる。

e 甲32文献の図7によれば、甲32文献に記載された逆流防止装置においては、大気開放口を有すると認められる縁切弁21の前後に逆止弁が1個ずつ配置されていることが読み取れるものの、縁切弁21の構造も動作も明らかではないから、2個の逆止弁の機能は、一方向にのみ水を通すという自明なものを除けば、不明であるといわざるを得ない。

f 甲40文献の記載(10頁11行ないし19行、11頁6行ないし18行、第1図)によれば、甲40文献に記載された逆流防止装置においては、バキュームブレーカ8の弁体31が離坐して大気が吸入されるのは、第1の逆止弁機構4の漏洩とサイホン現象とが同時に発生して中間流路6内が負圧になった場合であり(第1の逆止弁機構4の動作との間に直接の関係はない。)、バキュームブレーカ8の弁体31が離坐しても中間流路6内の水は排水されないから、大気開放口(バキュームブレーカ8)の前に配置された逆止弁(第1の逆止弁機構4)は、空気で満たされた空間を形成する機能を有しないし、大気開放口(バキュームブレーカ8)を開放する機能も有しないことが認められる。

ウ まとめ

以上によれば、本件訂正発明は甲1発明であるということはできず、これと同旨の審決の判断に誤りはないから、原告主張の取消事由1は理由がない。

3 取消事由2(相違点2の認定の誤り)について

(1)甲2発明の認定

ア 甲2発明は、高位置に設置された浴槽等から上水道等への逆流を防止する水路の逆流防止装置に関するものであるところ、甲2文献(甲2)には、以下の記載がある。

「水路に装着され該水路を上流側水路と下流側水路とに分離する遮断装置内の逆止弁と、前記下流側水路から分岐し弁が装着されたドレン路と、前記上流側水路に連通するパイロツト室と、該パイロツト室に張られ前記弁に連結されたダイヤフラムと、該ダイヤフラムにパイロツト室側への力を作用するばねとからなる水路の逆流防止装置。」(2. 実用新案登録請求の範囲)

「(産業上の利用分野)

本考案は高位置に設置された浴槽等から上水道等への逆流を防止する水路の逆流防止装置に関するものであり、特に高所あるいは遠隔地にある浴槽に給湯する場合に有用な装置に関する。」(明細書1頁14~18行)

「(実施例)

以下本考案の水路の逆流防止装置(以下本考案の装置という)を図面に示す実施例に従い説明する。

第1図は本考案の装置が用いられた水路の一例を示し、該水路(5)は市水道等の給水源(4)と高位置に設置された浴槽(1)とを接続するものである。

又水路(5)には給湯加熱器(6)及び該水路(5)を開閉する水電磁弁(7)が装着される。

更に水路(5)には遮断装置(16)及び該遮断装置(16)の下流側において逆止弁(15)が装着される。

遮断装置(16)内には第2図に詳細を示す様に、水路(5)に装着され該水路(5)を上流側水路(5a)と下流側水路(5b)とに分離する逆止弁(20)が装着される。

次に前記下流側水路(5b)から分岐し、弁(23)が装着されたドレン路(18)が設けられる。

一方前記上流側水路(5a)に連通してパイロット室(26)が形成される。

該パイロット室(26)にはダイヤフラム(21)が張られ、該ダイヤフラム(21)はばね(22)によりパイロット室(26)側への力を受けている。

一方ダイヤフラム(21)は軸(24)により、前記弁(23)に連結される。」

(明細書2頁9行~3頁14行)

【第1図】

【第2図】

「以上の実施例に示した本考案の装置の作用を次に説明する。

すなわち浴槽(1)に給湯する場合、開始スイッチ(図示せず)を閉じて水電磁弁(7)を開き、水路(5)に湯(給湯加熱器(6)により加熱される)を流す。

これにより湯の上流側圧力がパイロット室(26)に導かれ、ダイヤフラム(21)はばね(22)の力に抗して押込められる。

これにより弁(23)が閉じられ、ドレン路(18)は水路(5)(下流側水路(5b))から遮断される。

この結果、水路(5)を流れる湯は逆止弁(20)及び逆止弁(15)を通って浴槽(1)に流れ込むことになる。

以上は正常な運転状態であるが、例えば運転時(水電磁弁(7)が開いている時)において給水源(4)としての上水道が断水することがある。

この場合給水源(4)の水圧が低下して浴槽(1)の湯が水路(5)を逆流しようとする。

この逆流は逆止弁(15)が正常に作動する場合は該逆止弁(15)において防止される。

一方給水源(4)の水圧が低下することにより、パイロット室(26)に導かれている圧力も低下する。

これによりダイヤフラム(21)はばね(22)の力により押出され、弁(23)が開かれる。

この結果ドレン路(18)は水路(5)(下流側水路(5b))に接続される。

従って逆止弁(15)が故障した場合等において、該逆止弁(15)を通過してしまう逆流はドレン路(18)に排出されて上流側水路(5a)に到ることはない。

すなわち水路(5)における逆流は確実に防止されることになる。」(明細書3頁15行~5頁8行)

イ 上記アによれば、甲2発明は、審決が認定したとおり(前記第2の3(2)ア(イ))であると認められ、この点について当事者間に争いはない。

(2)本件訂正発明と甲2発明との一致点及び相違点

ア 一致点について

審決が、本件訂正発明と甲2発明の「一致点」として認定したとおり(前記第2の3(2)ウ(ア)a)と認められる。

イ 相違点2について

本件訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1の記載によれば、本件訂正発明は、「開弁方向に付勢するためのスプリングを有し、前記上水道の圧力低下に応動して前記電磁弁より前記浴槽の側の前記配管内の水を大気に放出するよう開閉動作する一方、前記上水道の圧力低下がない状態においては閉じた状態を保つ大気開放弁」を備え、また、「前記電磁弁と前記大気開放弁との間に一つのみ配置され、前記大気開放弁が前記上水道の圧力低下に応動して大気開放したときに、前記大気開放弁を介して大気に放出される水および吸い込まれた大気が前記上水道の圧力低下によって前記電磁弁の方向に流れてしまうのを阻止する第2の逆止弁」を備える逆流防止装置であると認められる。

そうすると、本件訂正発明において、「前記上水道の圧力低下に応動して前記電磁弁より前記浴槽の側の前記配管内の水を大気に放出するよう開閉動作する一方、前記上水道の圧力低下がない状態においては閉じた状態を保つ」のは「大気開放弁」であり、また、「前記大気開放弁が前記上水道の圧力低下に応動して大気開放したときに、前記大気開放弁を介して大気に放出される水および吸い込まれた大気が前記上水道の圧力低下によって前記電磁弁の方向に流れてしまうのを阻止する」のは「第2の逆止弁」であると認められる。

したがって、本件訂正発明と甲2発明との相違点2は、「本件訂正発明では、大気開放弁は、上水道の圧力低下に応動して電磁弁より浴槽の側の前記配管内の水を大気に放出するよう開閉動作する一方、前記上水道の圧力低下がない状態においては閉じた状態を保ち、第2の逆止弁は、前記大気開放弁が前記上水道の圧力低下に応動して大気開放したときに、前記大気開放弁を介して大気に放出される水および吸い込まれた大気が前記上水道の圧力低下によって前記電磁弁の方向に流れてしまうのを阻止するとされているのに対し、甲2発明では、遮断装置(16)は、正常な運転状態では、湯の上流側圧力がパイロット室(26)に導かれ、ダイヤフラム(21)はばね(22)の力に抗して押込められ、これにより弁(23)が閉じられ、ドレン路(18)は水路(5)(下流側水路(5b))から遮断され、例えば運転時(水電磁弁(7)が開いている時)において給水源(4)としての上水道が断水する場合、給水源(4)の水圧が低下することにより、パイロット室(26)に導かれている圧力も低下し、これによりダイヤフラム(21)はばね(22)の力により押出され、弁(23)が開かれ、この結果ドレン路(18)は水路(5)(下流側水路(5b))に接続され、従って逆止弁(15)が故障した場合等において、該逆止弁(15)を通過してしまう逆流はドレン路(18)に排出されて上流側水路(5a)に到ることはないとされている点」であると認められる(なお、審決が認定した相違点2と異なる部分には下線を付した。)

これに対し、審決が認定した相違点2は、前記第2の3(2)ウ(ア)bのとおりであり、本件訂正発明において「前記上水道の圧力低下に応動して前記電磁弁より前記浴槽の側の前記配管内の水を大気に放出するよう開閉動作する一方、前記上水道の圧力低下がない状態においては閉じた状態を保つ」ものは、「大気開放弁」であることが認定されているものの、「前記大気開放弁が前記上水道の圧力低下に応動して大気開放したときに、前記大気開放弁を介して大気に放出される水および吸い込まれた大気が前記上水道の圧力低下によって前記電磁弁の方向に流れてしまうのを阻止する」ものは、何であるかは認定されていない。

以上によれば、審決には、相違点2の認定に際し、「前記大気開放弁が前記上水道の圧力低下に応動して大気開放したときに、前記大気開放弁を介して大気に放出される水および吸い込まれた大気が前記上水道の圧力低下によって前記電磁弁の方向に流れてしまうのを阻止する」ものが「第2の逆止弁」であることを認定しなかった誤りがあるといわざるを得ない。

もっとも、審決は、相違点2に関する判断において、本件訂正発明の「大気開放弁」が「前記上水道の圧力低下に応動して前記電磁弁より前記浴槽の側の前記配管内の水を大気に放出するよう開閉動作する一方、前記上水道の圧力低下がない状態においては閉じた状態を保つ」ものであることに着目し、相違点2のうち正しく認定された部分に関して新規性、容易想到性を検討し、本件訂正発明は甲2発明ではなく、甲2発明の「弁(23)」は本件訂正発明の「大気開放弁」とは異なり、上水道の元圧により開閉動作するものではないところ、これを上水道の元圧により開閉動作するように変更する動機付けはないから、相違点2に係る本件訂正発明の構成は容易に想到し得たものとはいえないと判断しており、相違点2の認定の誤りが直ちに相違点2に関する判断に影響を及ぼすものであるとはいえない。

相違点2の認定の誤りが審決の結論に影響を及ぼすかどうかについては、さらに、取消事由4及び5(相違点2に関する判断の誤り)において検討を要することとなる。

4 取消事由3(相違点2に関する新規性判断の誤り)について

(1)甲2発明について

前記3(1)アによれば、甲2発明の作動状況は、甲2発明の遮断装置(16)が正常な運転状態にあるときは、浴槽1に給湯するために水電磁弁(7)を開いて水路(5)に湯を流すと、湯の上流側圧力がパイロット室(26)に導かれ、ダイヤフラム(21)がばね(22)の力に抗して押込められ、弁(23)が閉じられ、ドレン路(18)が水路5(下流側水路5b)から遮断される結果、水路(5)を流れる湯が逆止弁(20)及び逆止弁(15)を通って浴槽(1)に流れ込む、というものであることが認められる。すなわち、甲2発明においては、水電磁弁(7)を開いて水路(5)に湯を流すと、弁(23)が閉じられる。そして、水電磁弁(7)を開いて水路(5)に湯を流す操作は、浴槽への給湯を目的とするものである以上、1回限りではなく、必要に応じて繰り返されることが明らかであり、また、前記3(1)アの記載は、甲2発明の遮断装置(16)の作用に関するものであるから、上記のように繰り返される操作のいずれについても当てはまるものと認められる。

そうすると、遮断装置(16)が正常な運転状態にあるときは、水電磁弁(7)を開いて水路(5)に湯を流すと、そのたびに弁(23)が閉じられることとなるから、水電磁弁(7)を開いて水路(5)に湯を流す前、すなわち水電磁弁(7)を閉じているときは、弁(23)が開いていると解される。そして、遮断装置(16)が正常な運転状態にあるときとは、給水源としての上水道が断水していないときであるから、遮断装置(16)の弁(23)は、上水道の圧力低下がない状態においても(上水道の元圧の低下は、断水時には生じるが、給湯停止時には生じないといえる。)、水電磁弁(7)を閉じるとそのたびに開き、また、水電磁弁(7)を開くとそのたびに閉じるものであると認められる

(2)本件訂正発明と甲2発明との対比

前記認定のとおり、本件訂正発明の「大気開放弁」は、「開弁方向に付勢するためのスプリングを有し、前記上水道の圧力低下に応動して前記電磁弁より前記浴槽の側の前記配管内の水を大気に放出するよう開閉動作する一方、前記上水道の圧力低下がない状態においては閉じた状態を保つ」ものである。

他方、甲2発明の「弁(23)」は、「ばね(22)によりパイロット室(26)側への力を受け」る「ダイヤフラム(21)」に連結されており、それが開かれると「ドレン路(18)は水路(5)(下流側水路(5b))に接続され」るから、甲2発明の「弁(23)」と本件訂正発明の「大気開放弁」とは、少なくとも、「開弁方向に付勢するためのスプリングを有し、」「前記浴槽の側の前記配管内の水を大気に放出するよう開閉動作する」「大気開放弁」である点で共通すると認められる。

しかしながら、甲2発明の「弁(23)」は、上水道の圧力低下がない状態においても、「水電磁弁(7)」を閉じるたびに開き、「水電磁弁(7)」を開くたびに閉じるものであることは前記(1)認定のとおりでありであるから、本件訂正発明のように「前記上水道の圧力低下がない状態においては閉じた状態を保つ大気開放弁」であるとはいえない。

したがって、本件訂正発明と甲2発明は、少なくとも、本件訂正発明の「大気開放弁」が「前記上水道の圧力低下がない状態においては閉じた状態を保つ」ものであるのに対し、甲2発明の「弁(23)」は、上水道の圧力低下がない状態においても、「水電磁弁(7)」を閉じるたびに開き、「水電磁弁(7)」を開くたびに閉じるものである点で相違するから、本件訂正発明は、甲2発明であるということはできない。

(3)原告の主張について

ア 原告は、仮に、甲2発明の弁(23)の開弁圧が逆止弁(20)の開弁圧より高いとすると、水電磁弁(7)が開いたときに逆止弁(20)が開いた後で弁(23)が閉じることになり、甲2文献に記載された動作順序と矛盾するし、給湯を行うたびに逆止弁(20)が開いてから弁(23)が閉じるまでの間は湯がドレン路(18)から流れ出してしまうから、甲2発明において弁(23)の開弁圧を逆止弁(20)の開弁圧より低く設定することは技術常識である、このことを前提とすれば、通水後に水電磁弁(7)を閉じると上流側水路(5a)内の水圧が低下し、逆止弁(20)の開弁圧より低くなると逆止弁(20)が閉じるが、このときの上流側水路(5a)内の水圧は弁(23)の閉弁圧よりは高いため、弁(23)は閉じたままであり、水圧はそれ以上低下せずに弁(23)が閉じた状態が維持される結果、甲2発明の弁(23)は「前記上水道の圧力低下がない状態においては閉じた状態を保つ」ものであると主張する。

(ア)まず、甲2発明の弁(23)の開弁圧が逆止弁(20)の開弁圧より高いとすると甲2文献に記載された動作順序と矛盾するとの原告の上記主張は、甲2文献に弁の動作順序が記載されていることを前提とするものであると解される。

しかしながら、甲2発明の作動状況に関する甲2文献の前記記載は、電磁弁7を開くと弁(23)が閉じられ、ドレン路(18)が水路(5)から遮断される結果、水路5を流れる湯は、ドレン路(18)から排出されることなく、逆止弁(20)及び逆止弁(15)を通って浴槽(1)に流れ込むことを説明するにすぎないものであり、電磁弁(7)を開いたときに逆止弁(20)が開いた後で弁(23)が閉じるといった、逆止弁(20)及び弁(23)の動作順序を説明するものではない。

したがって、仮に甲2発明の弁(23)の開弁圧が逆止弁(20)の開弁圧より高いとすると甲2文献に記載された動作順序と矛盾するとの原告の上記主張は、その前提を欠くものである。

(イ)また、甲2文献には、給湯を行うたびに湯がドレン路(18)から流れ出ることが問題であることを窺わせるような記載はなく、むしろ、甲2文献(昭和61年7月16日公開)と同時期の公知文献である実願昭59-197312号(実開昭61-116868号)のマイクロフィルム(昭和61年7月23日公開。甲16)に記載された逆流防止装置(流体縁切り装置)においては、電磁弁5を開いて通水すると、その通水圧によって弁体A(12)が移動して最終的には大気連通口25を塞ぐけれども、水は、通水と同時に連通管22を通って切換室17に流れ込んでいるから、弁体A(12)が大気連通口25を塞ぐまではそこから流れ出ていることが認められ、給湯を行うたびに湯が流れ出ることは、当然の前提とされていたことが窺われる。

したがって、甲2発明において弁(23)の開弁圧を逆止弁(20)の開弁圧より低く設定することは技術常識であるとの原告の上記主張は、採用することができない。

(ウ)さらに、前記認定のとおり、甲2文献の記載によれば、甲2発明の遮断装置(16)の弁(23)は、上水道の圧力低下がない状態においても、水電磁弁(7)を閉じれば開き、水電磁弁(7)を開けば閉じるものであると認められるのであるから、上水道の圧力低下がない状態においては通水後に水電磁弁(7)を閉じると弁(23)は閉じた状態を維持するということが甲2文献に記載されているということはできない。

(エ)以上によれば、甲2発明の弁(23)は「前記上水道の圧力低下がない状態においては閉じた状態を保つ」ものであるとの原告の上記主張は、採用することができない。

イ 原告は、甲2発明の弁(23)は「前記上水道の圧力低下がない状態においては閉じた状態を保つ」ものであるとの主張を裏付ける証拠として、実験報告書(甲38の1)を、実験の様子を撮影したビデオを収録したCD-R(甲38の2)と共に提出している。

しかしながら、上記実験報告書(甲38の1)は、甲2文献の図2に記載されたものと同様の構造の逆流防止装置について、上水道の圧力低下がない状態においては水電磁弁(7)を閉じても弁(23)が開弁しないというような動作をさせることが可能であることを意味するにとどまるものであり、上記実験報告書によって、甲2発明の遮断装置(16)が上記動作をすることが甲2文献に記載されているとまでは認められない。

(4)まとめ

以上によれば、本件訂正発明は甲2発明であるということはできず、これと同旨の審決の判断に誤りはないから、原告主張の取消事由3は理由がない。

5 取消事由4(相違点1に関する容易想到性の判断の誤り)について

(1)相違点1の検討

前記2(1)のとおり、甲1文献の「縁切り装置23は逆止弁の後でも良い」との記載(【0033】)は、甲1発明において、縁切り装置23を「逆止弁24」の後に配置することを示唆するものであると認められる。しかしながら、甲1文献の上記記載は、縁切り装置23の前(縁切り装置23と電磁弁22との間)に2個の逆止弁を連続して配置することを示唆するにとどまるものであって、縁切り装置23の前後に逆止弁を1個ずつ配置すること(本件訂正発明の「第1の逆止弁」及び「第2の逆止弁」に相当する位置に逆止弁を配置すること)までを示唆するものということはできない。

また、前記のとおり、本件訂正発明は、電磁弁と大気開放弁との間に第2の逆止弁を設け、同逆止弁が、通常の逆止弁の機能に加え、水密不良の状態にあるときも、オリフィスとしての機能により、オーバーフロー口から吸い込まれる大気の流量を減少させることによって、上水道の圧力低下に応動して大気開放弁を大気開放した場合に、放出される水の一部及び吸い込まれた大気が逆流する事態が生じるという本件特許の出願前に当業者に知られていなかった前記1(2)の課題を解決するものであるところ、甲1文献において、第2の逆止弁の構成を想到する動機付けとなる記載や示唆があるとは認められない。

そして、甲1発明に係る逆流防止装置の「給水源の水圧と縁切りしたい水である逆流水の水圧との圧力バランスにより前記逆流水を排水し縁切りする縁切り装置」の前後に逆止弁を1個ずつ配置することが周知技術又は技術常識であると認めることはできないから、甲1発明において、相違点1に係る本件訂正発明の構成を備えるようにすることが、周知技術の単なる適用であるなどということはできない。

そうすると、相違点1に係る本件訂正発明の構成は、甲1発明に基づいて容易に想到し得るものであるということはできない。

さらに、甲1発明に係る逆流防止装置は、「給水源の水圧と縁切りしたい水である逆流水の水圧との圧力バランスにより前記逆流水を排水し縁切りする縁切り装置」を用いるものであるから、給水源の水圧が低下すると縁切りが行われることが認められる。これに対し、甲2発明に係る逆流防止装置は、水電磁弁(7)を閉じるたびに弁(23)が開き、水電磁弁(7)を開くたびに弁(23)が閉じるものであるから、上水道の圧力低下がない状態においても縁切りが行われるものであり、甲2発明の遮断装置(16)はパイロット室への流路を含めて一体の装置として形成されていることが認められる。このように、甲1発明と甲2発明とは縁切り動作等の仕組の異なるものであるから、甲2発明の構成の一部である逆止弁の配置のみを甲1発明に適用する動機付けがあるということはできない。

したがって、相違点1に係る本件訂正発明の構成は、甲1発明及び甲2発明に基づいて、当業者が容易に想到し得るものであるということはできない。

(2)原告の主張について

ア 原告は、甲1文献の段落【0033】の「縁切り装置23は逆止弁の後でも良い。」との記載に接した当業者がその具体的構成を考えるのはごく自然であり、2つの逆止弁間に大気開放口を設けることが技術常識であることを参酌すれば、「逆止弁の後でも良い。」とは2個ある逆止弁の間に設けることを意味すると理解するのが自然である旨主張する。

確かに、甲1文献の記載に合致する具体的構成を考えることは当業者にとって自然なことであると認められるものの、2個の逆止弁間に大気開放口を設けることが技術常識であるといえないのは前記認定のとおりであるから、甲1文献の段落【0033】の「縁切り装置23は逆止弁の後でも良い。」との記載に接した当業者が、「逆止弁の後でも良い。」との記載について、2個ある逆止弁間に大気開放口を設けることを意味すると理解するのが自然であるということはできない。

また、原告は、特開平2-225946号公報(甲33。以下「甲33文献」という。)の第1図ないし第3図には、2つの逆止弁の間に負圧破壊弁を配置する、負圧破壊弁の下流側に2つの逆止弁を配置する、及び負圧破壊弁の上流側に2つの逆止弁を配置するという3通りの配置がすべて記載されていることから、2個ある逆止弁の間に大気開放弁などの大気開放口を有する縁切り装置を配置することは他の配置と比べて特別なものではなく、当業者が適宜選択する配置であると主張する。

しかしながら、2個の逆止弁の間に大気開放口を有する構成を備えた逆流防止装置が数多く知られているとしても、それぞれの逆流防止装置において、大気開放口の前後に逆止弁が1個ずつ配置されている技術的意義はそれぞれに異なるものというべきであるから、甲33文献に負圧破壊弁及び2個の逆止弁の3通りの配置が記載されているからといって、一般に、2個ある逆止弁の間に大気開放弁などの大気開放口を有する縁切り装置を配置することが他の配置と比べて特別なものでないなどということはできない。また、仮に、このような形式的配置位置のみを抽出して甲1発明に適用したとしても、本件訂正発明のように、上水道の圧力低下に応動して大気開放弁を大気開放した場合に、放出される水の一部及び吸い込まれた大気が逆流する事態が生じるという課題があることが知られていない以上、直ちに、この課題が解決されることを認識することができるわけではなく、したがって、これらの水及び大気の逆流を阻止する(第2の)逆止弁の構成を具備しているものと認定することはできない。

よって、原告の上記主張は、採用することができない。

イ 原告は、甲1文献の段落【0033】の記載から「縁切り装置23」及び逆止弁の配置の変更は二者択一である、2個の逆止弁間に大気開放口を設けることは周知技術である、甲40文献には「逆止弁-大気開放口-逆止弁」の配置を採用すると逆止弁の漏洩(水密不良)が生じても逆流を確実に防止できることが記載されているから甲1発明において「逆止弁-大気開放口-逆止弁」の配置を採用する動機付けがある、などと主張する。

しかしながら、前記のとおり、甲1文献の段落【0033】の記載は、縁切り装置23の前(縁切り装置23と電磁弁22との間)に2個の逆止弁を連続して配置することを示唆するにとどまるものであるから、「縁切り装置23」及び逆止弁の配置の変更は二者択一であるということはできない。また、甲1発明に係る逆流防止装置において、2個の逆止弁間に大気開放口を設けることが周知技術であるということができないのは、前記認定のとおりである。

さらに、甲1発明に係る逆流防止装置は、オーバフロー口を有する大気開放弁が配置されているものであるのに対し、甲40文献に記載された逆流防止装置は、そもそも汚水を大気に放出する構成のものではない。甲40文献に、2個の逆止弁を配置することにより逆止弁の漏洩(水密不良)が生じても逆流を確実に防止できる旨の記載があるとしても、この記載は、オーバフロー口を有する大気開放弁が配置されている甲1発明に係る逆流防止装置において、大気開放弁により大気に放出される汚水が大気開放弁のオーバフロー口から勢いよく吸い込まれる大気とともに逆流することを防止する機能を有する逆止弁(本件訂正発明の第2の逆止弁)を、電磁弁と大気開放弁との間に配置することについて示唆するものとはいえない。

したがって、原告の上記主張は、いずれも採用することができない。

ウ 原告は、甲1発明と甲2発明とで弁の動作に違いはないし、また、本件訂正発明は大気開放弁の構造に全く関係がない発明であるから、弁の動作に違いがあるとしても、このことは甲1発明に甲2発明を適用する動機付けにとって何の関係もない旨主張する。

しかしながら、前記のとおり、甲1発明と甲2発明とは縁切り動作が異なるものであり、弁の動作に違いがあることは明らかである。また、甲1発明に甲2発明を適用する動機付けの有無を判断するに当たって、本件訂正発明の大気開放弁の構造を考慮することは相当ではない。

したがって、原告の上記主張は、採用することができない。

エ 原告は、甲2文献には「特に遮断装置内の逆止弁と遮断装置の下流側において水路に装着された逆止弁との両逆止弁を有するため、逆流防止は極めて確実である。」(5頁18行ないし6頁2行)と記載されているところ、甲2発明と甲1発明とはいずれも給湯システム等に用いられる逆流防止装置に関するものであるから、甲1発明において、逆流防止をより確実にするために、甲2発明の逆止弁の配置順を適用する動機付けがあると主張する。

しかしながら、甲1発明と甲2発明がいずれも給湯システム等に用いられる逆流防止装置に関するものであるとしても、甲1発明と甲2発明とは縁切り動作等の仕組が異なるものであるから、甲2発明の構成の一部である逆止弁の配置のみを甲1発明に適用する動機付けがあるということはできない。

また、甲2発明の遮断装置内の逆止弁(20)は、上流側流路と下流側流路との圧力差を生じさせて、弁(23)を確実に動作させる機能を有するものであり、遮断装置と一体をなすものであると解されるから、甲2文献の上記記載事項は、オーバフロー口を有する大気開放弁が配置されている甲1発明に係る逆流防止装置について、遮断装置の上流側水路に逆止弁を配置することを示唆するものということもできない。

したがって、原告の上記主張は、採用することができない。

オ 原告は、本件訂正発明の効果は格別顕著なものではないなどと主張する。しかしながら、前記のとおり、相違点1に係る本件訂正発明の構成は当業者が容易に想到し得るものであるということはできないから、本件訂正発明の効果が顕著か否かを検討するまでもなく、本件訂正発明は、甲1発明に基づいて容易に発明をすることができたものということはできない。

したがって、原告の上記主張は、採用することができない。

なお、本件訂正発明は、大気開放弁から浴槽へ向かう配管内に第1の逆止弁を配置し、電磁弁と大気開放弁との間に第2の逆止弁を配置したことによって、第1の逆止弁及び第2の逆止弁がともに水密不良になっているときに断水などで上水道が負圧になっても、水密不良になった第2の逆止弁がオリフィスとして働き、上水道の負圧によって大気開放弁まで逆流してきた汚水を給湯管側の方へ吸引するだけの吸引力は発生せず、給湯管側への汚水の逆流を防止することができるという効果を奏する。この効果は、従来の給湯システムでは、大気開放弁の上流側にある電磁弁が、給湯管側が負圧の状態では全閉状態を維持できない特性を有している一方、給湯管側が負圧になると、大気開放弁のオーバフロー口から勢いよく大気を吸い込むため、このとき、浴槽に近い側に安全のために直列に配置した2つの逆止弁がいずれも水密不良になっていると、浴槽から大気開放弁まで逆流してきた汚水の一部が、オーバフロー口から吸い込まれてきた大気とともに電磁弁を通って給湯管の方へ逆流することがあるという課題に対応するものである。そして、この課題が本件特許の出願前に当業者に知られていたと認めるに足りる証拠はないから、本件訂正発明は解決すべき課題を新たに発見し、それを解決したものといえる。

(3)まとめ

以上によれば、本件訂正発明は、甲1発明に基づいて、又は甲1発明及び甲2発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものということはできないから、これと同旨の審決の判断に誤りはなく、原告主張の取消事由4は理由がない。

6 取消事由5(相違点2に関する容易想到性の判断の誤り)について

(1)検討

相違点2は、前記3(2)イのとおりであり、本件訂正発明と甲2発明は、少なくとも、本件訂正発明において、大気開放弁は、上水道の圧力低下があるときは開閉動作し、同低下がないときは閉じた状態を保つものであるのに対し、甲2発明の弁(23)は、上水道の圧力低下がない状態においても、水電磁弁(7)を閉じるたびに開き、水電磁弁(7)を開くたびに閉じるものであるという点で相違する。

甲2発明のパイロット室(26)を上流側水路(5a)に連通させる代わりに給水源に接続すると、甲2発明の弁(23)は、上水道の圧力低下がない状態においても水電磁弁(7)を閉じるたびに開き、水電磁弁(7)を開くたびに閉じていたものが、上水道の圧力低下がない状態においては閉じた状態を保つものに変更されることとなる。

しかしながら、甲2発明に係る逆流防止装置において、パイロット室(26)を上流側水路(5a)に連通させる代わりに給水源に接続することが周知技術であることを認めるに足りる証拠はない。

また、甲2発明は、水電磁弁(7)を閉じているときに弁(23)を開いて縁切りし、さらに断水時において弁(23)を開き逆流をドレン路に排出することにより逆流防止を確実なものとすることを目的としたものであり、甲2発明の遮断装置(16)は、パイロット室への流路を含めて一体の装置として形成されているものであると認められるから、甲2発明を上水道の圧力が低下したときだけ弁(23)が開閉動作し縁切りが行われるものに変更することは、上水道の圧力低下の有無にかかわらず縁切りが行われるものであるという甲2発明の主要な部分に反するものといえる。甲2発明において、弁(23)が上水道の圧力低下がない状態においても水電磁弁(7)を閉じるたびに開き、水電磁弁(7)を開くたびに閉じるものであることについて、当業者において、何らかの不都合(解決すべき課題)があると認識されていたと認めるに足りる証拠もないから、当業者にとって、甲2発明の弁(23)を、上水道の圧力低下がない状態においては閉じた状態を保つものに変更する動機付けは認め難い。

したがって、相違点2に係る本件訂正発明の構成は、甲2発明に基づいて、当業者が容易に想到し得るものであるということはできない。

また、甲1発明と甲2発明とは縁切り動作等の仕組が異なるものであることは前記認定のとおりであり、甲2発明の構成の一部を、甲1発明の構成の一部と置き換えることについての動機付けは乏しい。

したがって、相違点2に係る本件訂正発明の構成は、甲2発明及び甲1発明に基づいて、当業者が容易に想到し得るものであるということはできない。

(2)原告の主張について

ア 原告は、大気開放弁を給水源の元圧によって作動するように構成することは周知技術であるから、甲2発明の弁(23)を給水源の元圧によって作動するような構成を採用することは当業者が適宜選択し得る設計事項にすぎないと主張する。

確かに、甲2発明において、大気開放弁を給水源の元圧によって作動するように構成することにより、甲2発明の弁(23)は、上水道の圧力低下がない状態においては閉じた状態を保つものとなるといえる。

しかしながら、甲2発明に係る逆流防止装置において、大気開放弁を給水源の元圧によって作動するように構成することが周知技術であることを認めるに足りる証拠はない。また、甲2発明において、弁(23)が上水道の圧力低下がない状態においても水電磁弁(7)を閉じるたびに開き、水電磁弁(7)を開くたびに閉じるものであることについては、何ら不都合なことであるとは認識されておらず、甲2発明の遮断装置(16)は、パイロット室への流路を含めて一体の装置として形成されているものであると認められるから、当業者が、そもそも、甲2発明の弁(23)を上水道の圧力低下がない状態においては閉じた状態を保つものに変更しようと試みるものとは認められない。

したがって、原告の上記主張は、採用することができない。

イ 原告は、甲2発明のパイロット室(26)を上流側水路(5a)に連通させることと、上流側水路(5a)を甲1発明の給水源配管に置換して給水源に接続することとは技術的に等価であり、給水源に接続すると差圧が大きくなって大気開放弁の弁動作の安定性を向上できるという利点が存在するのであるから、甲2発明のパイロット室(26)への流路の構成を甲1発明の給水源配管に置換する動機付けはあると主張する。

しかしながら、甲2発明のパイロット室(26)を上流側水路(5a)に連通させる代わりに給水源に接続すると、その縁切り動作は、上水道の圧力低下と関係なく、水電磁弁(7)が閉じるたびに行われるものから、上水道の圧力が低下したときだけ行われるものへと変更されることになるから、技術的に等価であるということはできない。また、甲2発明の弁(23)の動作が不安定であることが、解決すべき課題として当業者に認識されていたということもできない。

したがって、原告の上記主張は、採用することができない。

(3)まとめ

以上によれば、本件訂正発明は、甲2発明に基づいて、又は甲2発明及び甲1発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものということはできないから、これと同旨の審決の判断に誤りはない。

(4)以上のとおりであるから、審決の相違点2の認定には誤りがあるものの、当該誤りは審決の結論を左右するものではないから、原告主張の取消事由2及び5はいずれも理由がない。

6.検討

(1)本件(2件目の特許無効審判(無効2014-800182)及びその審決取消訴訟(H27行ケ10256))において特許無効審判の請求理由の根拠となった甲1発明は1件目の特許無効審判(無効2012-800115)の甲第6号証でした。もっとも1件目の特許無効審判では甲第4号証に記載された技術が周知技術であることを証明するために甲第6号証が用いられました。

(2)判決文の中に「本件訂正は、本件特許についての別件無効審判請求(無効2012-800115号)における手続でされた平成25年12月25日付け訂正請求(甲6)と同内容のものであり、この訂正は、これを認容する平成26年5月30日付けの審決の確定により、既に確定している。」とありました。つまり1件目の特許無効審判請求に対抗して訂正を行い、今回の2件目の特許無効審判請求に対して同じ内容の訂正を請求したということです。これを読んで一瞬何故同じ訂正を2回するのか不思議に思いました。しかし、時系列を整理すると、この2件目の特許無効審判は、1件目の特許無効審判の審決取消訴訟の出訴後直ぐに請求され、判決が下される前に訂正請求されたことがわかりました。1件目の訂正請求が確定していないために被請求人(特許権者)は改めて同内容の訂正請求する必要があったということです。

(3)甲1発明に基づく無効主張を簡単に説明すると、甲1文献に縁切り装置の下流側に逆止弁を二つ連続して取り付けた例と、縁切り装置の上流側に逆止弁を連続して取り付けた例が記載されていることから、二つの逆止弁の間に縁切り装置を設けることは容易に想到できる、というものでした。さすがに動機付けが存在しないのでその無効主張は通用しないと思います。

(4)甲2発明を簡単に説明すると、甲2発明は水電磁弁の下流側に設けられた二つの逆止弁の間に弁が設けられ、水電磁弁下流側で分岐した水流により当該弁の開閉が制御されるというものでした。この構成では上水道の状況に無関係に水電磁弁の開閉に応じて当該弁が開閉します。一方、本件訂正発明は「前記上水道(1)の圧力低下がない状態においては閉じた状態を保つ大気開放弁」なので、両者は相違すると判断されました。もちろん容易に想到できるものでもありません。

(5)一つ気になったのは「前記上水道(1)の圧力低下がない状態においては閉じた状態を保つ大気開放弁」とした訂正の内容です。明細書等によると構造的には上水道から分岐した検圧管と接続することで大気開放弁の制御を行っているので、この構造を機能的に表現したものと思われます。一見すると権利範囲が広いようにも思えますが、本判決を読む限り大気開放弁は上水道に圧力低下が生じない限りずっと閉状態を維持し続けるもの認定されていると思われます。そうすると、設計回避の道が増えるようにも思われます。もっとも1件目の特許無効審判でこのような訂正を既にしている状況で2件目の特許無効審判が請求されたので、やはり設計回避が困難なのでしょう。

(6)この特許に関する2件の特許無効審判を見るとなかなか面白い構図です。まず、特許権者である株式会社テージーケーは自動車用制御部品の製造・販売と住宅設備機器用制御部品の製造・販売を事業の柱にしているようです。このうち住宅設備機器用制御部品は温水切替弁、注湯弁、流量センサといったものです。そして、1件目の特許無効審判の請求人であるタイム技研株式会社も電磁弁、水量センサといったものを製造・販売しており両社は競業関係にあると考えられます。それに対して、2件目の特許無効審判の請求人である株式会社ノーリツは給湯機器等を製造・販売しているので、特許権者の製品のユーザの立場といえます(実際、ホームページには主要取引先として株式会社ノーリツが挙げられています)。この発明が弁の範疇を超えて、その弁を用いた製品に係る発明であるから生まれた構図と思います。特許権者の立場では同社の製品を購入した会社にのみ実施権を許諾するという戦略を取ることも可能であり、競業メーカにしても取引先にしても色々気になる特許だったのでしょう。