サービスカー事件

投稿日: 2017/08/10 0:57:40

今日は平成27年(ワ)第9758号 特許権侵害差止等請求事件について検討します。本事件の原告である東洋精器工業株式会社は、判決文によると、自動車部分品の販売等を業とする株式会社だそうです。J-PlatPatを使って会社名で検索したところ、7件の特許がヒットしました。一方、小野谷機工株式会社は、各種タイヤサービス、機械設計及び製作販売等を業とする株式会社だそうです。こちらは49件ヒットしましたが、数件は出願からすでに20年以上経過しています。両社のホームページに掲載された製品紹介を比べると、タイヤチェンジャー、ホイルバランサー、リフト、窒素ガス充填装置及びサービスカーが共通して挙げられており、完全に競合関係にある会社同士ということがわかります。

 

1.手続の時系列の整理(特許第4411487号)

2.特許の内容

「本件特許発明」

A 下端部を支点として垂直な姿勢から略水平な姿勢まで回動し且つ水平な姿勢で昇降する昇降ゲート(5)を荷台後端に備えた作業車であって、

B 該作業車の荷台(1)の後部下方にジャッキ収納部(8)が設けられ、

C 該ジャッキ収納部(8)の出し入れ口(9)が作業車後方に向かって形成されており、

D 該出し入れ口(9)に蓋板(11)が開閉自在に設けられており、

前記蓋板(11)が、下端部のヒンジ(10)を支点として開閉するように形成され、

該蓋板(11)が水平な姿勢に開放されたときに、蓋板先端部分がジャッキ収納部(8)の底面と略水平となる位置まで降下させた昇降ゲート(5)の上面に橋架されて、ジャッキ収納部(8)の底面と昇降ゲート(5)との隙間を埋める橋渡しとしての作用をなすように形成されており、

更に、昇降ゲート(5)が垂直な閉じ姿勢にあるときに、ジャッキ収納部(8)の蓋板(11)の一部が昇降ゲート(5)に隠されて開閉できないように形成されている

作業車。


3.イ号物件


4.争点

(1)イ号物件は本件特許発明の技術的範囲に属するか

ア 文言侵害の成否(争点1)

イ 均等侵害の成否(争点2)

(2)原告の損害額(争点3)

5.裁判所の判断

5.1 争点1(文言侵害の成否)について

(1)構成要件AないしFについて

イ号物件は、前記第2の1(4)イ記載aないしfの構成を備え、これらの構成は、本件特許発明の構成要件AないしFを充足する。

(2)構成要件Gについて

ア 本件特許発明の構成要件Gに対比すべきイ号物件の構成については、当事者間に争いがあるが、別紙イ号物件の構造等からすると、被告の主張のとおり、「昇降ゲートが垂直な閉じ姿勢にあるときに、ジャッキ収納部の蓋板の一部をアーム連結パイプにより遮り、約30度開閉できるように形成されている」構成であると認められる。

そこで、まず、アーム連結パイプが構成要件Gの「昇降ゲート」に該当し、イ号物件において、ジャッキ収納部の蓋板の一部が「昇降ゲート」に隠されているかを検討する。

イ 本件特許発明の「昇降ゲート」の意義について

(ア)本件特許発明の特許請求の範囲の構成要件Aには、「下端部を支点として垂直な姿勢から略水平な姿勢まで回動し且つ水平な姿勢で昇降する昇降ゲートを荷台後端に備えた」との記載があることからすれば、「昇降ゲート」とは、作業者の荷台後端に設けられる部材であって、下端部を支点として、垂直な姿勢から略水平な姿勢まで回動し、かつ、水平な姿勢で昇降するものをいうと解される

(イ)そして、本件明細書の【発明を実施するための最良の形態】の欄には、「荷台1の後端には、下端部の枢軸5aを支点として垂直な姿勢から略水平な姿勢まで回動し且つ水平な姿勢で昇降する昇降ゲート5が設けられている。この昇降ゲート5はアーム6や油圧シリンダー7等によって駆動されるものであるが、そのメカニズムは、一般に広く使用されている公知の技術であり、また上記特許文献2にも開示されているものであるから、この部分の説明は省略する。」と記載され(【0012】)、【図1】ないし【図5】が示されている。

このように、本件明細書においては、「昇降ゲート5」、「アーム6」及び「油圧シリンダー7」に、それぞれ異なる符号が付され、【図5】においては、その記載に対応した異なる部材が明示されていることからすれば、「昇降ゲート5」と、「アーム6」及び「油圧シリンダー7」とは、別の構成物であるとして記載されていると解するのが自然であり、このように解することは、「アーム6」及び「油圧シリンダー7」が、前記構成要件A記載のように、下端部を支点として垂直な姿勢から略水平な姿勢まで回動する、あるいは水平な姿勢で昇降するといった動作を行うものでないことからしても合理的である。また、構成要件Fに関して、【図3】を説明する【0015】には、「アーム6」及び「油圧シリンダー7」の記載がないのに、「蓋板11を水平な姿勢に開放したときに、蓋板11の先端部分が昇降ゲート5の上面に橋架されて、ジャッキ収納部の底面8aと昇降ゲート5との隙間Lを埋める橋渡しとしての作用をなすように形成されている。」などと説明されていることも、このような理解に沿うものである。

(ウ)以上からすれば、本件特許発明における「昇降ゲート」は、前記(ア)で述べたとおりであり、実施例の記載との対応関係でいえば、「昇降ゲート5」として図示された板状部のみを意味し、「アーム6」や「油圧シリンダー7」といった「昇降ゲート5」を駆動させる部材を含まないものと解するのが相当である

(エ)これに対し、原告は、特許請求の範囲及び本件明細書の上記【0012】の記載から、本件特許発明の「昇降ゲート」が特許文献2(乙2)中の「荷役車両用荷受台昇降装置」を指すなどとして、「アーム6」は本件特許発明の「昇降ゲート」を構成する旨主張する。しかし、本件明細書の同段落における特許文献2に関する記載は、「昇降ゲート5」が「アーム6」や「油圧シリンダー7」によって駆動されるメカニズムが同文献に記載されていることを説明するものであるにとどまり、それ以上に「昇降ゲート」の範囲を述べるものではないから、原告の主張は採用できない。さらに、原告は、本件明細書の【図2】や【図5】についても指摘するが、上記(イ)のとおり、「昇降ゲート5」は、「アーム6」や「油圧シリンダー7」を含まないと解され、原告の指摘は理由とならない。

ウ イ号物件におけるアーム連結パイプの「昇降ゲート」該当性イ号物件は、別紙イ号物件の構造等のとおりの構造を有するものであるところ、同別紙の図3及び図4のとおり、アーム連結パイプ(103)は、リフトアーム(201a及びb)の端部に溶接して取り付けられている。リフトアーム(201a及びb)の端部は、ゲート支持体(206a及びb)を介して、昇降ゲート(208)に溶接されているブラケット(209a及びb)にピン(207a及びb)で結合されている。また、リフトアームには、昇降用油圧シリンダー(203a及びb)の端部が、ピン(112a1及びb1)を介して、ピン結合されている。

このような構造から、昇降ゲート(208)は、ピン(207a及びb)を支点として、リフトアーム(201a及びb)に対して垂直な姿勢から略水平な姿勢まで回動し、また、リフトアーム(201a及びb)等の駆動によって、水平な姿勢を維持しながら昇降するものといえるのに対し、リフトアーム(201a及びb)は、昇降ゲート(208)を水平に保ちながら昇降させる部材である。

そうすると、イ号物件において、作業者の荷台後端に設けられる部材であって、下端部を支点として、垂直な姿勢から略水平な姿勢まで回動し、かつ、水平な姿勢で昇降する部材は、昇降ゲート(208)であり、アーム連結パイプ(103)は、リフトアーム(201a及びb)の端部に溶接して取り付けられている構造から、リフトアーム(201a及びb)にかかる応力を分散し、リフトアーム(201a及びb)を水平に保つ機能を有し、昇降ゲート(208)を駆動させるリフトアーム(201a及びb)の一部を構成するもの、又は、リフトアーム(201a及びb)を補助する部品であり、本件特許発明の「昇降ゲート」に当たらないというべきである

したがって、イ号物件は、構成要件Gのジャッキ収納部の蓋板の一部が「昇降ゲート」に隠されている構成を充足しない。

5.2 争点2(均等侵害の成否)について

(1)特許請求の範囲に記載された構成中に、相手方が製造等をする製品又は用いる方法(以下「対象製品等」という。)と異なる部分が存する場合であっても、①同部分が特許発明の本質的部分ではなく、②同部分を対象製品等におけるものと置き換えても、特許発明の目的を達することができ、同一の作用効果を奏するものであって、③上記のように置き換えることに、当業者が、対象製品等の製造等の時点において容易に想到することができたものであり、④対象製品等が、特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれから当該出願時に容易に推考できたものではなく、かつ、⑤対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もないときは、同対象製品等は、特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして、特許発明の技術的範囲に属するものと解するのが相当である(最高裁判所第3小法廷平成10年2月24日判決・民集52巻1号113頁参照)。

先に検討したとおり、本件特許発明の構成とイ号物件の構成とは、少なくとも、昇降ゲートが垂直な閉じ姿勢にあるときに、ジャッキ収納部の蓋板の一部が、「昇降ゲートに」隠されている(構成要件G)のか、「アーム連結パイプにより」遮られているのか(イ号物件)との点で相違する(以下「本件相違点」という。)ことから、以下、この相違点に関する均等の成否を検討する。

(2)非本質的部分(第1要件)について

ア 後掲証拠によれば、本件特許出願の経過について、以下の事実が認められる。

(ア)本件特許出願の当初の特許請求の範囲の記載は、請求項1が本件特許発明の構成要件AないしDを内容とするものであり、請求項2が上記請求項1に加えて本件特許発明の構成要件E及びFを内容とするものであり、本件特許発明の構成要件Gを内容とするものは特許請求の範囲に記載されていなかった。また、本件特許出願の願書に添付された当初の明細書及び図面(以下「本件当初明細書」という。)は、本件公報のうち下線部を除いたものであった。(乙5及び6)

そこでは、当初の請求項1に係る発明は、従来、「作業車の前輪と後輪との間で荷台下方にジャッキ収納空間を設けてこれにジャッキを収納するようにし、車体側面から出し入れするようにしたもの」があるが、これには、「重量のあるジャッキの出し入れにはやはりかなりの労力を必要とすると共に、車体側面から出し入れするものであるから、出し入れ口が走行車線側にある場合には非常に危険であり、歩行者側にある場合には歩行者の邪魔になると共に、ガードレールやポール等の等の障害物があれば出し入れができないといった問題点があった」ことから、この問題点を解決することを課題としており(【0003】、【0004】)、本件特許発明の構成要件AないしDの構成により、「ジャッキ収納部の出し入れ口が車体の後端に向かって形成されているので、車体左側のガードレールやポール等の障害物に影響されることなく、或いは車体左右の歩行者や走行車に気を使うことなく、道路上で車体後部に少しの作業スペースがあればどこででも安全にジャッキを出し入れすることができ、加えて、ジャッキの地上への昇降に際して、荷台後端に常備されている昇降ゲートを利用することができるので、作業者の労力を著しく軽減することができるといった優れた効果がある。」とされていた(【0008】)。

また、当初の請求項2に係る発明は、本件特許発明の構成要件AないしDの構成に加え、同E及びFの構成を備えることにより、「ジャッキ収納部の蓋板が水平な姿勢に開放されたときに、蓋板先端部分がジャッキ収納部の底面と略水平となる位置まで降下させた昇降ゲートの上面に橋架されて、ジャッキ収納部の底面と昇降ゲートとの隙間を埋める橋渡しとしての作用をなすように形成されているので、ジャッキをジャッキ収納部から引きずり出す際にコマ等の部材が隙間に落ち込んで引っかかるようなことを防止でき、スムースに出し入れすることができるといった効果がある。」とされていた(【0009】)。

(イ)これに対し、平成21年4月15日付けで、特許庁審査官から、進歩性が認められないこと(特許法29条2項)を理由とする拒絶理由通知がされた(乙4)。

同通知に係る通知書には、当初の請求項1に関し、乙3公報を引用文献等として、「『格納部A』にジャッキを収納することは、適宜なし得る事項である。」とされ、また、当初の請求項2に関し、「『昇降ゲート』及び『荷台』の『橋渡し』が、従来周知の技術(例えば、実願平05-058042号(実開平07-027945号)のCD-ROMの渡し板11、実願平04-023445号(実開平05-074983号)のCD-ROMの導板38等を参照されたい。)であることから、引例1の『蓋板』(開閉蓋81)を、上記『橋渡し』のように構成することに格別の困難性はない。」と記載されていた(乙4)。

(ウ)これを受けて、原告は、手続補正書により、①特許請求の範囲につき、当初の請求項1に、本件特許発明の構成要件E及びFの構成並びに同構成要件Gの構成を追加したものとするとともに、本件当初明細書の【0006】に同構成要件Gの構成の記載を追加し、②作用効果について、本件当初明細書【0009】に、「更に加えて、本発明は、昇降ゲートが垂直な閉じ姿勢にあるときに、ジャッキ収納部の蓋板の一部が昇降ゲートに隠されて開閉できないように形成されているので、ジャッキの盗難を未然に防止することができるといった効果をも有するものである。」を追加する補正をした(以下「本件補正」という。乙5)。これにより、本件特許発明の内容及び本件明細書の記載は、現在のものとなった。

(エ)また、原告は、意見書において、次のとおり述べた(乙6)。

a 「本願発明では、以上の構成とすることによって出願当初明細書の段落『0008』欄で述べている効果に加えて、下記の如き新規な効果をも同時に発揮することができるのであります。」として、本件当初明細書の【0009】及び【0016】(本件補正後の本件明細書の【0009】)の記載を効果として指摘した。

b そして、前記拒絶理由での引用文献及び参考文献については、「引用文献1(特開平10-000978号公報)並びに参考文献の実開平07-027945号公報、実開平05-074983号公報に記載の発明には、そのいずれにも、今般本願発明の必須構成要件として新請求項1に加入させていただきました、『昇降ゲートが垂直な閉じ姿勢にあるときに、ジャッキ収納部の蓋板の一部が昇降ゲートに隠されて開閉できないように形成されている』との構成を全く備えておりません。殊に、引用文献1には、審査官殿御指摘のように、『開閉蓋81を橋渡しのようにして使用する』という示唆は一切なされていないものであります。また、上記参考文献2件には、『昇降ゲート』と『荷台』の隙間を埋める『橋渡し』の部材は記載されておりますが、ジャッキ収納部の蓋板が『橋渡し』の役目を兼用するという、本願発明において構造上重要な思想は開示されておりません。」、「したがって、これらの文献では、本願発明の効果、即ち、a.昇降ゲートが垂直な閉じ姿勢にあるときに、ジャッキ収納部の蓋板の一部が昇降ゲートに隠されて開閉できないように形成されているので、(屋外駐車時等における)ジャッキの盗難を未然に防止することができる、b.車輌運転中の振動によりジャッキ収納部からジャッキが落下して紛失することのみならず、道路上でのトラブルの発生を確実に防止することができる、c.ジャッキ収納部の蓋板が『橋渡し』の役目を兼用しているので、構成部材を少なくすることができると共に、ジャッキをスムースに収納部に出し入れできる、といった本願発明の独特の効果を期待することができるものではありません。故に本願発明は、引用文献とは別異な新規性を具備した発明であると考えます。」と述べた。

(オ)その後、本件特許出願については、本件補正に係る内容で特許査定がされた。

イ 本件特許発明の本質的部分について

(ア)特許発明における本質的部分とは、当該特許発明の特許請求の範囲の記載のうち、従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分であると解されるところ、当該本質的部分は、特許請求の範囲及び明細書の記載、特に明細書記載の従来技術との比較から認定されるべきである。ただし、明細書に従来技術が解決できなかった課題として記載されているところが、出願時の従来技術に照らして客観的に見て不十分な場合には、明細書に記載されていない従来技術も参酌して、当該特許発明の従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分が認定されるべきである(知的財産高等裁判所平成28年3月25日判決・平成27年(ネ)第10014号参照)。

(イ)本件明細書によれば、本件特許発明の構成は、大別して、①作業車の後方に所定の昇降ゲートとジャッキ収納部が設けられ、ジャッキ収納部の出し入れ口が作業車の後方に向かい、開閉自在の蓋が設けられている構成(構成要件AないしD)、②蓋板が水平な状態に開放されたときに、蓋板が降下した昇降ゲートの上面に橋架される構成(構成要件E及びF)、③昇降ゲートが垂直な閉じ姿勢にあるときに、ジャッキ収納部の一部が昇降ゲートに隠されて開閉できないように形成されている構成(構成要件G)から成っており、従来技術に比べて、①の構成については、車体左側の障害物や車体左右の歩行者等に気を使うことなく、安全にジャッキを出し入れすることができるとともに、ジャッキの地上への昇降に昇降ゲートを利用することができるので作業者の労力を著しく軽減することができるという効果があり、②の構成については、ジャッキをジャッキ収納部からスムースに出し入れすることができるという効果があり、③の構成については、ジャッキの盗難を未然に防止することができるという効果があるとされていると認められる。そして、②の構成と③の構成は、いずれも①の構成が定める昇降ゲート(構成要件A)とジャッキ収納部の蓋板(構成要件BないしD)の構成を前提として、この二つの部材の関係が、そのまま、ある状態では蓋板が昇降ゲートに橋架される状態となり(②の構成・構成要件E及びF)、他の状態では蓋板の一部が昇降ゲートに隠されて開閉できない状態になる(③の構成・構成要件G)というように構成したものであり、それにより、上記の諸効果を同時に奏するとされたものであると認められる。

(ウ)しかし、本件明細書に記載されていない公知技術を参酌すると、本件特許発明の構成要件AないしD(上記の①の構成)については、拒絶理由通知書(乙4)において引用文献とされた乙3公報に、「格納部A」が荷台の下方に形成され、その後部が出し入れ口として開放され、この後部に開閉蓋81が下部ヒンジ82を中心にして開閉自在に設けられている構成が記載されていることが認められる(乙3【0004】、【0024】、【図1】)。そして、前記のとおり、この「格納部A」にジャッキを収納することは、適宜なし得ることであるとして、構成要件AないしDを内容とする当初の請求項1の発明について拒絶理由通知がされ、原告が提出した意見書においても特段これに対する反論もされていないことからすると、構成要件AないしDの構成が、従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分であるとは認められない。

他方、構成要件E及びFの構成(上記②の構成)については、いわゆる昇降ゲートと「荷台」の「橋渡し」の構成は、同じく拒絶理由通知書において指摘された乙8の1公報及び乙8の2公報において記載がある周知技術であるが、原告が意見書で述べるとおり、「ジャッキ収納部の蓋板」が昇降ゲートに橋架される機能を兼ねる構成については記載がなく、それにより前記のとおりの効果を奏するものであるから、構成要件E及びFは、従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分であると認められる。

また、構成要件G(上記③の構成)は、上記意見書に記載されたとおり、公知文献に記載されておらず、それにより前記の効果を奏するものであることから、従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分であると認められる。

(エ)以上からすると、本件特許発明の構成の技術的特徴部分は、構成要件EないしGの構成であると認められるが、前記のとおり、これらの構成は、構成要件Aの昇降ゲートと、構成要件BないしDのジャッキ収納部の蓋板の構成を前提として、この二つの部材の関係が、そのまま、ある状態では蓋板が昇降ゲートに橋架される状態となり(構成要件E及びF)、他の状態では蓋板の一部が昇降ゲートに隠されて開閉できない状態になる(構成要件G)というように構成したものであり、それにより、上記の諸効果を同時に奏するとされたものであるから、このような構成要件E及びFと構成要件Gとの密接関連性に照らすと、構成要件Gにおいて、蓋板の一部を隠すのが「昇降ゲート」であることは、本件特許発明の本質的部分であるというべきである。

(オ)そうすると、本件相違点は、ジャッキ収納部の蓋板の一部が昇降ゲートに隠されて開閉できないように形成されていることという本件特許発明の本質的部分に該当するといえ、第1要件を充足しない。

ウ 原告の主張について

(ア)これに対し、原告は、本件特許発明の本質的部分は、「昇降ゲートあるいは昇降ゲートの姿勢に連動する部品が、ジャッキ収納部の蓋板の開閉軌跡上にあるため、特段専用の機構を取付けることなく同蓋板が開閉できないようになるという構成」であるとして、本件相違点は、本件特許発明の本質的部分に該当しない旨主張する。

(イ)しかし、まず、本件特許発明における構成要件E及びFと構成要件Gとの密接関連性に照らして、構成要件Gにおいて、蓋板の一部を隠すのが「昇降ゲート」であることが、本件特許発明の本質的部分であると解されることは、前記のとおりである。

(ウ)また、原告のこの主張は、ジャッキ収納部の蓋板の一部を隠すのが、構成要件Gが定める「昇降ゲート」そのものではなく、昇降ゲートを含む上位概念である「昇降ゲートの姿勢に連動する部品」であることが、本件特許発明の本質的部分であると主張する趣旨であると理解することができる。

特許発明の本質的部分の認定に当たっては、①従来技術と比較して特許発明の貢献の程度が大きいと評価される場合には、特許請求の範囲の記載の一部について、これを上位概念化したものとして認定され、②従来技術と比較して特許発明の貢献の程度がそれ程大きくないと評価される場合には、特許請求の範囲の記載とほぼ同義のものとして認定されると解される(前掲知的財産高等裁判所判決参照)。

そこで、改めて従来技術を検討すると、乙8の2公報には、上記「橋渡し」の構成だけでなく、断熱荷箱を持つトラックにおいて、そのトラックの荷台の後方扉が、垂直な閉じ姿勢にあるテールゲートの荷台によって隠される構成が記載されており、また、乙8の1公報においては、同様の昇降装置を備えたバン型車両において、車両の荷台の後部下方に部材を収納する格納室10が設置されているが、昇降装置によって隠される位置にはないことが認められる(乙8の1の【図2】、【図6】、乙8の2の【図2】)。このような記載によれば、車体後部に昇降装置、あるいはテールゲート等を備えた車両において、昇降装置あるいはテールゲートを使用しない場合にこれらが垂直な閉じ姿勢となり、そのような姿勢にあるときに、昇降装置あるいはテールゲートが、車両後方に向けて開閉部を有する後方扉を隠すこととなり、その結果として、後方扉が開閉できなくなるという原理は既に示されており、本件特許発明の構成要件Gは、この原理をジャッキ収納部の蓋板と昇降ゲートの関係に応用し、原告が主張するように、ジャッキ収納部の蓋板と昇降ゲートの位置関係を、昇降ゲートによって蓋板の一部が隠されるように構成したものであるといえる。そうすると、従来技術と比較して、構成要件Gの貢献の程度はそれ程大きなものとはいえないから、本件特許発明の本質的部分を認定するに当たり、原告主張のように上位概念化することはできない。

したがって、原告の上記主張は採用できない。

(3)以上から、少なくとも、均等の第1要件を充足しないから、均等侵害も成立しない。

6.検討

(1)特許請求の範囲を読んだときに「昇降ゲート」いう文言が引っ掛かりました。「昇降する門?」では意味不明なので”Gate”の門以外の意味でしっくりするものがないか英和辞典や英英辞典で調べましたがありませんでした。そこで、ネットで調べたらWikipediaに、一般には”Tail Gate Lifter”と呼ぶ、とありました。これでさらに検索するとどうやら”Tailgate”という単語があるそうで、英和辞典には「(荷馬車、トラック、ステーションワゴンなどの)尾板、後部開閉版」とありました。この文言で検索すると、トラックの荷台後面に対向するように設置され、その下端部を支点として回動する板の画像が多数ヒットしました。これらのことから「昇降ゲート」のゲートは”Tailgate”の”Tail”が省略された言葉だと推測します。

ここまでは単に請求項の細かい言葉が気になる私の趣味の話ですが、本事件の問題はイ号物件のアーム連結パイプが昇降ゲートに含まれるか否かです。判決では本件特許の明細書中で昇降ゲート5とアーム6や油圧シリンダー7とは区別されており、このアーム連結パイプはアームの一部であるから昇降ゲートには含まれない、と判断しています。確かにイ号物件の構造からするとアーム連結パイプはアームに溶接されており、昇降ゲートとは直接的には接続されていないので、昇降ゲートの一部とは言い難いように思います。まぁ、原告も重々承知で均等侵害も合わせて主張したのでしょう。

(2)均等侵害では相違点が本質的部分であると判断していますが、この点については少し気になる点があります(もちろん第1要件を充足しないでも構いませんが)。

判決では拒絶理由通知書で挙げられた公知文献(乙3公報)を引用していますが、そもそも乙3公報で本件特許の出願当初の特許請求の範囲に記載された発明の進歩性を否定できないと考えます。乙3発明は荷受台昇降装置全体を格納部に完全に格納するものなので、荷台後端に”Tailgate”(昇降ゲート)を設けたものではなく、出願当初の特許請求の範囲に記載された請求項1の構成要件がすべて開示されているものではありません。審査官は「「格納部A」にジャッキを収納することは、適宜なし得る事項である。」と述べていますが、それ以前に構成要件がすべて開示されていないので拒絶理由の前提が誤っていると考えます。さらに、乙3公報の図面を見ても収納部Aにそのような空きスペースがないことは明らかなので、出願当初の請求項1の構成でも拒絶理由通知書で挙げられた公知文献に対しては進歩性を有すると考えます。

したがって、出願人(特許権者)自身は拒絶理由を認めて補正して意見書でも色々述べていますが、客観的にみると補正で追加された部分は本件発明の本質ではないように思います。

そうなると、第1要件ではなく、第3要件や第5要件を満たさない、とすべきと思いますが、判決文を読む限り被告が主張する第3要件を満たさないという主張内容だと第3要件を満たさないと判断しにくく、第5要件については主張していません。したがって、第1要件を満たさない、とするのが無難なのか?と思いました。

(3)上述しましたが、本件特許の審査経緯からすると、少しもったいない気がします。おそらく想定する製品はカバーできるので確実に特許査定となるようかなり限定的な補正をしたと思いますが、分割出願するなどして、もう少し広い権利を目指す価値はあったように思います。