ゲームソフト事件(控訴審)

投稿日: 2019/10/29 1:38:46

今日は、平成30年(ネ)第10006号 特許権侵害行為差止等請求控訴事件・同年(ネ)第10022号 同附帯控訴事件(原審・大阪地方裁判所平成26年(ワ)第6163号)について検討します。

 

1.検討結果

(1)本件の原審の判決については2017年12月29日に投稿済みです。原審において、特許権者である株式会社カプコン(本件控訴人)が株式会社コーエーテクモゲームス(本件被控訴人)に対して特許第3350773号及び特許第3295771号の2件特許を侵害している、と主張しました。原審の判決では特許第3350773号の該当発明は無効である、と判断され、特許第3295771号の該当発明についてのみ特許権侵害を認めました。

(2)本件では特許第3350773号の該当発明が無効である、との原審の判断を覆し、当該発明が有効であるとともに、被告製品の一部は当該発明の技術的範囲に含まれる、と判断しました。なお、特許第3295771号についての判断に変更はありません(損害賠償金額は変更)。その結果、損害賠償金額の合計は30倍近く増加しました。

(3)原審では特許第3350773号の該当発明について公知発明1及び周知技術により進歩性欠如と判断されましたが、本控訴審では公知発明1の一部の構成を周知技術のように変更することについては阻害事由が存在する、として公知発明の組み合わせ自体を認めませんでした。私も原審の判決について、公知発明1のゲームの性質上、RWMを「記憶媒体(ただし、セーブデータを記憶可能な記憶媒体を除く。)」に置き換えることについては違和感を覚える、と書きました。本控訴審判決の方がしっくりくるように思います。

(4)また、被控訴人の一部の製品しか侵害が認められませんでしたが、これは特許第3350773号の該当発明の構成と他の製品との間に相違点が存在する、と判断されたためです。控訴人はこの点について、相違しておらず同一である、との主張しかしていなかったため均等侵害の可能性については審理対象外となったようです。他の製品の台数が少ないので控訴人が均等侵害まで主張する必要がない、と判断したのなら良いのですが、原審で該当発明について無効と判断し、抵触性については何ら結論を示されなかったために均等侵害の主張をする必要がない、と判断したのであれば、原告が最初から全て主張すべきなのが原則とはいえ、特許権者に酷なように思います。

2.手続の時系列の整理

(1)特許第3350773号(特許A)

(2)特許第3295771号(特許B)

3.本件各発明

(1)本件発明A(訂正後)

ア 本件発明A1

A ゲームプログラムおよび/またはデータを記憶するとともに所定のゲーム装置の作動中に入れ換え可能な記憶媒体(ただし、セーブデータを記憶可能な記憶媒体を除く。)上記ゲーム装置に装填してゲームシステムを作動させる方法であって、

B 上記記憶媒体は、少なくとも、

B-1 所定のゲームプログラムおよび/またはデータと、所定のキーとを包含する第1の記憶媒体と、

B-2 所定の標準ゲームプログラムおよび/またはデータに加えて所定の拡張ゲームプログラムおよび/またはデータを包含する第2の記憶媒体とが準備されており、

C 上記拡張ゲームプログラムおよび/またはデータは、上記標準ゲームプログラムおよび/またはデータに加えて、ゲームキャラクタの増加および/またはゲームキャラクタのもつ機能の豊富化および/または場面の拡張および/または音響の豊富化を達成するためのゲームプログラムおよび/またはデータであり、

D 上記第2の記憶媒体が上記ゲーム装置に装填されるとき、

D-1 上記ゲーム装置が上記所定のキーを読み込んでいる場合には、上記標準ゲームプログラムおよび/またはデータと上記拡張ゲームプログラムおよび/またはデータの双方によってゲーム装置を作動させ、

D-2 上記所定のキーを読み込んでいない場合には、上記標準ゲームプログラムおよび/またはデータのみによってゲーム装置を作動させることを特徴とする、

E ゲームシステム作動方法。

イ 本件発明A2

F ゲームプログラムおよび/またはデータを記憶するとともに所定のゲーム装置の作動中に入れ換え可能な記憶媒体(ただし、半導体ROMカセットを除くとともに、セーブデータを記憶可能な記憶媒体を除く。)上記ゲーム装置に装填してゲームシステムを作動させる方法であって、

G 上記記憶媒体は、少なくとも、

G-1 所定のゲームプログラムおよび/またはデータと、所定のキーとを包含する第1の記憶媒体と、

G-2 所定の標準ゲームプログラムおよび/またはデータに加えて所定の拡張ゲームプログラムおよび/またはデータを包含するとともに所定の制御プログラムを包含する第2の記憶媒体とが準備されており、

H 上記拡張ゲームプログラムおよび/またはデータは、上記標準ゲームプログラムおよび/またはデータに加えて、ゲームキャラクタの増加および/またはゲームキャラクタのもつ機能の豊富化および/または場面の拡張および/または音響の豊富化を達成するためのゲームプログラムおよび/またはデータであり、

I 上記第2の記憶媒体が上記ゲーム装置に装填され、かつ、上記所定のキーが読み込まれていないときのみに、この第2の記憶媒体中の上記制御プログラムは、上記ゲーム装置に他の記憶媒体を装填させるインストラクションを表示させ、

I-1 このインストラクションにしたがって装填された他の記憶媒体が上記所定のキーを包含する上記第1の記憶媒体である場合には、上記第2の記憶媒体中の上記標準ゲームプログラムおよび/またはデータに加えて上記拡張ゲームプログラムおよび/またはデータの双方によってゲーム装置を作動させ、

I-2 他の記憶媒体が装填されない場合または装填された記憶媒体が上記所定のキーを包含する上記第1の記憶媒体でない場合には、上記第2の記憶媒体中の上記標準ゲームプログラムおよび/またはデータのみによってゲーム装置を作動させることを特徴とする、

J ゲームシステム作動方法。

(2)本件発明B(訂正後)

ア 本件発明B1

A 遊戯者が操作する入力手段と、

B この入力手段からの信号に基づいてゲームの進行状態を決定あるいは制御するゲーム進行制御手段と、

C このゲーム進行制御手段からの信号に基づいて少なくとも遊戯者が上記入力手段を操作することにより変動するキャラクタを含む画像情報を出力する出力手段と

D を有するゲーム機を備えた遊戯装置であって、

E 上記ゲーム進行制御手段からの信号に基づいて、ゲームの進行途中における遊戯者が操作している上記キャラクタの置かれている状況が特定の状況にあるか否かを判定する特定状況判定手段と、

F 上記特定状況判定手段が特定の状況にあることを判定した時に、上記画像情報からは認識できない情報を、上記キャラクタの置かれている状況に応じて間欠的に生じる振動の間欠周期を異ならせるための体感振動情報信号として送出する振動情報制御手段と、

G 上記振動情報制御手段からの体感振動情報信号に基づいて振動を生じさせる振動発生手段と、

H を備えたことを特徴とする、遊戯装置。

イ 本件発明B8

I 遊戯者が操作する入力手段と、

J この入力手段からの信号に基づいてゲームの進行状態を決定あるいは制御するゲーム進行制御手段と、

K このゲーム進行制御手段からの信号に基づいて少なくとも遊戯者が上記入力手段を操作することにより変動するキャラクタを含む画像情報を出力する出力手段と

L を有するゲーム機を備えたゲーム装置の制御方法であって、

M 上記ゲーム進行制御手段からの信号に基づいて、ゲームの進行途中における遊戯者が操作している上記キャラクタの置かれている状況が特定の状況にあることを判定した時に、上記画像情報からは認識できない情報を、上記キャラクタの置かれている状況に応じて間欠的に生じる振動の間欠周期を異ならせるための体感振動情報信号として振動発生手段に送出するようにしたことを特徴とする、

N ゲーム装置の制御方法。

4.原判決の内容

原判決は、①本件特許Aの特許出願前に日本国内で販売されていたゲーム装置「ファミリーコンピュータ」及び「ファミリーコンピューターディスクシステム」、ゲームソフト「魔洞戦紀」及び「勇士の紋章」並びにテレビを用いて実現されるゲームシステム(以下「本件ゲームシステムA1」という。)により公然知られた発明又は公然実施をされた発明と、本件特許Aの特許請求の範囲の請求項1及び2に係る発明は同一であるから、これらの発明に係る本件特許Aは、新規性欠如の無効理由があり、かかる無効の抗弁に対する訂正の再抗弁も認められないものであって、特許無効審判により無効にされるべきものと認められるため、本件特許権Aの侵害に基づく損害賠償請求は理由がない、②ロ号製品を用いた遊戯装置は本件特許Bの特許請求の範囲の請求項1に係る発明の技術的範囲に属し、ロ号製品は本件発明B1に係る物の生産にのみ用いる物であるから、ロ号製品を製造、販売することは、本件特許権Bの間接侵害(特許法101条1号)に該当する、また、上記発明に係る本件特許Bは特許無効審判により無効にされるべきものとは認められないから、本件特許権Bの侵害に基づく損害賠償請求は、517万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で理由があるとして、上記金員に係る請求のみを認容し、その余の控訴人の請求をいずれも棄却した。

5.争点

(1)本件特許権Aについて

ア イ号製品を用いたゲームの作動方法は本件発明A1及びA2の技術的範囲に属するか(争点1-1)

(ア)文言侵害の成否(争点1-1-1)

(イ)均等侵害の成否(争点1-1-2)

(ウ)間接侵害(特許法101条4号)の成否(争点1-1-3)

(エ)実施行為の惹起行為による不法行為の成否(争点1-1-4)

イ 本件発明A1及びA2に係る特許は特許無効審判により無効にされるべきものか(争点1-2)

(ア)本件ゲームシステムA1により公然知られた発明又は公然実施をされた発明に基づく本件発明A1及びA2の進歩性の欠如の有無(争点1-2-1)

(イ)MSX規格用のゲームソフト「ぎゅわんぶらあ自己中心派」及び「ぎゅわんぶらあ自己中心派2 自称!強豪雀士編」並びにMSX規格のマシンを用いて実現されるゲームシステムにより公然知られた発明に基づく本件発明A1及びA2の進歩性の欠如の有無(争点1-2-2)

ウ 控訴人の損害の有無及び損害額(争点1-3)

(2)本件特許権Bについて

ア ロ号製品を用いた遊戯装置及びその制御方法は本件発明B1及びB8の技術的範囲に属するか(争点2-1)

(ア)文言侵害の成否(争点2-1-1)

(イ)間接侵害(特許法101条1号)の成否(争点2-1-2)

(ウ)間接侵害(特許法101条4号)の成否(争点2-1-3)

(エ)実施行為の惹起行為による不法行為の成否(争点2-1-4)

イ 本件発明B1及びB8に係る特許は特許無効審判により無効にされるべきものか(争点2-2)

(ア)「ニンジャウォーリアーズ」というゲームが作動するゲーム装置により公然知られた発明又は公然実施をされた発明に基づく本件発明B1の進歩性の欠如の有無(争点2-2-1)

(イ)「ニンジャウォーリアーズ」というゲームが作動するゲーム装置の制御方法により公然知られた発明又は公然実施をされた発明に基づく本件発明B8の進歩性の欠如の有無(争点2-2-2)

ウ 控訴人の損害の有無及び損害額(争点2-3)

6.裁判所の判断

当裁判所は、①イ号方法のうち、イ-9号製品等を用いた方法は、本件発明A1の技術的範囲に属し、これらの品を製造、販売又は販売の申出をすることは、本件発明A1についての本件特許権Aの間接侵害(特許法101条4号)に該当する、また、本件発明A1に係る特許は、特許無効審判により無効となるべきものとはいえない、②その余のイ号方法(イ-1号製品等を用いた方法)は、本件発明A1の構成要件B-2及び本件発明A2の構成要件G-2を充足せず、本件発明A1及びA2の構成と均等なものでもないから、本件発明A1及びA2の技術的範囲に属するものではない、③ロ号装置は、本件発明B1の技術的範囲に属し、ロ号製品を製造、販売することは、本件発明B1についての本件特許権Bの間接侵害(特許法101条1号)に該当する、また、本件発明B1に係る特許は、特許無効審判により無効となるべきものとはいえない、④本件特許権A及び本件特許権B侵害の不法行為による控訴人の損害賠償請求は、1億4394万3710円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で理由があるものと判断する。その理由は、以下のとおりである。

1 本件特許権Aについて

(1)争点1-1-1(文言侵害の成否)について

ア 本件明細書Aの記載事項等について

(ア)本件発明A1及びA2の特許請求の範囲(請求項1、2)の記載は、前記第2の2(2)ウのとおりである。

-省略-

(イ)前記(ア)の記載事項によれば、本件明細書Aの発明の詳細な説明には、本件発明A1及びA2に関し、次のような開示があることが認められる。

従来、家庭用ゲーム機の分野においては、ゲーム機本体を所有しているユーザを対象として、半導体ROMカセット等によりゲームソフトが供給されていたが、最近に至って、32ビットのCPUを搭載した高速型の家庭用ゲーム機本体が開発され、記憶容量が半導体ROMの100倍以上あるCD-ROMが、ゲームソフト供給媒体として採用されつつある(【0002】~【0005】)。

しかしながら、膨大な内容のゲームソフトを開発し、CD-ROMに記憶させて供給することが技術的に可能だとしても、そのゲームソフトの開発コストが高騰し、比較的低年齢層を対象とするユーザが1回に支払える価格で供給することが困難となるという問題がある(【0006】)。

「本願発明」は、このような事情のもとで考え出されたものであって、例えば、シリーズ化された一連のゲームソフトを買い揃えていくことにより、豊富な内容のゲームを楽しめるようにすることを課題とするものであり、かかる課題を解決するための手段として、ゲームプログラム及び/又はデータを記憶する記憶媒体を所定のゲーム装置に装填してゲームシステムを作動させる方法であって、上記記憶媒体は、少なくとも、所定のゲームプログラム及び/又はデータと、所定のキーとを包含する第1の記憶媒体と、所定の標準ゲームプログラム及び/又はデータに加えて所定の拡張ゲームプログラム及び/又はデータを包含する第2の記憶媒体とが準備されており、上記拡張ゲームプログラム及び/又はデータは、上記標準ゲームプログラム及び/又はデータに対し、ゲームキャラクタの増加及び/又はゲームキャラクタのもつ機能の豊富化及び/又は場面の拡張及び/又は音響の豊富化を達成するように形成されたものであり、上記第2の記憶媒体が上記ゲーム装置に装填されるとき、上記ゲーム装置が上記所定のキーを読み込んでいる場合には、上記標準ゲームプログラム及び/又はデータと上記拡張ゲームプログラム及び/又はデータの双方によってゲーム装置を作動させ、上記所定のキーを読み込んでいない場合には、上記標準ゲームプログラム及び/又はデータのみによってゲーム装置を作動させることを特徴とする、ゲームシステム作動方法という構成を採用した(【0007】、【0012】)。

この構成により、第1の記憶媒体と第2の記憶媒体とを所有するユーザは、第2の記憶媒体に記憶されている標準のゲーム内容に加え、拡張されたゲーム内容を楽しむことが可能となるから、ユーザにとっては、一回の購入金額が適正なシリーズものの記憶媒体を買い揃えてゆくことによって、最終的に極めて豊富な内容のゲームソフトを入手したのと同じになり、メーカにとっては、膨大な内容のゲームソフトを、ユーザが購入しやすい方法で実質的に提供できるという効果を奏する(【0020】、【0022】、【0040】)。

イ 本件発明A1の技術的範囲の属否について

(ア)構成要件D、D-1及びD-2の意義

a(a)本件発明A1の特許請求の範囲(請求項1)の記載によれば、「第2の記憶媒体」は「所定の標準ゲームプログラムおよび/またはデータに加えて所定の拡張ゲームプログラムおよび/またはデータを包含する」ものであり(構成要件B-2)、「上記第2の記憶媒体が上記ゲーム装置に装填されるとき」(構成要件D)に、「上記ゲーム装置が上記所定のキーを読み込んでいる場合には、上記標準ゲームプログラムおよび/またはデータと上記拡張ゲームプログラムおよび/またはデータの双方によってゲーム装置を作動させ」(構成要件D-1)、「上記所定のキーを読み込んでいない場合には、上記標準ゲームプログラムおよび/またはデータのみによってゲーム装置を作動させる」(構成要件D-2)ことを理解できる。一方、上記特許請求の範囲には、「上記ゲーム装置が上記所定のキーを読み込」む時期について、「上記第2の記憶媒体が上記ゲーム装置に装填され」た直後のステップであって、第2の記憶媒体によりゲーム装置が作動する前の時点に限定して解釈すべき根拠となる記載はない。

(b)次に、前記ア(イ)のとおり、本件明細書Aの発明の詳細な説明には、「本願発明」は、第2の記憶媒体が上記ゲーム装置に装填されるとき、上記ゲーム装置が上記所定のキーを読み込んでいる場合には、上記標準ゲームプログラム及び/又はデータと上記拡張ゲームプログラム及び/又はデータの双方によってゲーム装置を作動させ、上記所定のキーを読み込んでいない場合には、上記標準ゲームプログラム及び/又はデータのみによってゲーム装置を作動させるという構成を採用することにより、第1の記憶媒体と第2の記憶媒体とを所有するユーザは、第2の記憶媒体に記憶されている標準のゲーム内容に加え、拡張されたゲーム内容を楽しむことが可能となる等の効果を奏することが記載されており、この点に技術的意義があるものと認められる。

そして、本件発明A1の上記技術的意義に照らすと、「上記ゲーム装置が上記所定のキーを読み込」む時期を、「上記第2の記憶媒体が上記ゲーム装置に装填され」た直後のステップであって、第2の記憶媒体によりゲーム装置が作動する前の時点に限る必然性は見いだし難い。本件明細書A全体をみても、「上記ゲーム装置が上記所定のキーを読み込」む時期を上記の時点に限定することによって、その他の時点で上記ゲーム装置が上記所定のキーを読み込む場合と比して有利な効果を生じるなどの技術的意義があることについての記載も示唆もない。

(c)以上の本件発明A1の特許請求の範囲(請求項1)の記載及び本件明細書Aの記載によれば、本件発明A1の「上記ゲーム装置が上記所定のキーを読み込」む時期は、「上記第2の記憶媒体が上記ゲーム装置に装填され」ている場面であれば足り、第2の記憶媒体がゲーム装置に装填された直後のステップであって、第2の記憶媒体によりゲーム装置が作動する前の時点に限定されるものではないと解すべきである

b これに対し被控訴人は、①本件発明A1の特許請求の範囲(請求項1)の記載、②本件明細書Aの【0018】の記載、③本件特許出願Aの出願審査の際に控訴人が提出した意見書(乙A14の1、2)の記載によれば、構成要件D、D-1及びD-2は、第2の記憶媒体によりゲーム装置を作動させる前に、「所定のキー」が読み込まれているか否かを判定することを前提とする旨主張する

まず、上記①及び②の点については、前記aのとおり、本件発明A1の特許請求の範囲(請求項1)の記載及び本件明細書Aの記載によれば、本件発明A1の「上記ゲーム装置が上記所定のキーを読み込」む時期は、第2の記憶媒体がゲーム装置に装填された直後のステップであって、第2の記憶媒体によりゲーム装置が作動する前の時点に限定されるものではないと解すべきである。

次に、上記③の点について、本件特許出願Aの出願審査の際に控訴人が提出した意見書(乙A14の1、2)には、「第2の記憶媒体が包含する制御プログラムまたはゲーム機にあらかじめ装備する制御プログラムは、この第2の記憶媒体がゲーム機に装填されたとき、ゲーム機が所定のキーを読み込んでいるか否かを判断し、読み込まれていない場合には、この第2の記憶媒体に記憶されているゲーム内容のうち、標準のゲーム内容を作動させる一方、上記所定のキーが読み込まれている場合には、標準のゲーム内容及び拡張したゲーム内容を作動させる。」との記載がある。

しかしながら、上記記載から直ちに、控訴人が、本件発明A1の技術的範囲につき、第2の記憶媒体がゲーム機に装填された直後のステップであって、ゲーム機が作動する前の時点で「所定のキー」が読み込まれているか否かを判定する構成のものに限定する趣旨のものである旨主張したものと理解することはできない。また、上記意見書は、その記載全体をみれば、拒絶理由通知に記載された引用例1の発明と本件訂正A前の本件特許Aの特許請求の範囲の請求項1に係る発明とは、標準ゲームプログラムの内容の拡張という概念の有無において相違するものであるから、引用例1の発明に基づき上記本件訂正A前の発明を容易に発明することができたものではない旨を主張したものと理解できる。

以上によれば、被控訴人の上記主張は採用することができない。

(イ)構成要件B等の意義

a(a)本件発明A1の特許請求の範囲(請求項1)の記載によれば、「所定の拡張ゲームプログラムおよび/またはデータ」は、「標準ゲームプログラムおよび/またはデータに加えて、ゲームキャラクタの増加および/またはゲームキャラクタのもつ機能の豊富化および/または場面の拡張および/または音響の豊富化を達成するためのゲームプログラムおよび/またはデータ」であり、「第2の記憶媒体」に「包含」されるものであって、「上記第2の記憶媒体が上記ゲーム装置に装填され」、「上記ゲーム装置が」「第1の記憶媒体」が「包含する」「所定のキーを読み込んでいる場合に」、「上記標準ゲームプログラムおよび/またはデータと上記拡張ゲームプログラムおよび/またはデータの双方によってゲーム装置を作動させ」ることを理解できる。

このように、構成要件B-2の「所定の拡張ゲームプログラムおよび/またはデータ」は、「上記標準ゲームプログラムおよび/またはデータ」とともにゲーム装置を作動させるものであり、第2の記憶媒体に記憶されるものであって、第2の記憶媒体がゲーム装置に装填されるときにゲーム装置を作動させることが可能なものであることからすると、「所定の拡張ゲームプログラムおよび/またはデータ」とは、第2の記憶媒体にその全部が記憶されているものを意味するのであり、第1の記憶媒体と第2の記憶媒体とに分かれて記憶されているものは含まれないと理解できる。

(b)次に、本件明細書Aの発明の詳細な説明には、前記ア(ア)のとおり、「本願発明」は、所定のゲームプログラム及び/又はデータと、所定のキーとを包含する第1の記憶媒体と、所定の標準ゲームプログラム及び/又はデータに加えて所定の拡張ゲームプログラム及び/又はデータを包含する第2の記憶媒体とが準備されており、第2の記憶媒体が上記ゲーム装置に装填されるとき、上記ゲーム装置が上記所定のキーを読み込んでいる場合には、上記標準ゲームプログラム及び/又はデータと上記拡張ゲームプログラム及び/又はデータの双方によってゲーム装置を作動させる構成を有するものである旨が記載されている。

他方、本件明細書Aには、「所定の拡張ゲームプログラムおよび/またはデータ」が第1の記憶媒体と第2の記憶媒体とに分かれて記憶されている構成について明示ないし示唆する記載はない。むしろ、本件発明A1の実施例に関する【0035】ないし【0037】の記載は、第1のCD-ROM(第1の記憶媒体)から拡張ゲームプログラムやデータを読み込むことはおよそ想定していないと理解できるものなのであり、このことも、上記の理解を裏付けるものといえる。

なお、本件明細書Aには、「上記第1、第2および第3キーC1、C2、C3は、狭義には、ゲームのタイトル、バージョンNo.リリース時期、仕向先等、ゲーム内容に直接関係しない情報であってよいが、ゲーム結果等のゲームデータやプログラムの一部を含むことを妨げない。」との記載があるが(【0032】)、同記載は、所定のキーにゲームデータやプログラムの一部を含むことが可能である旨を示したものであって、第1の記憶媒体に記憶されたゲームデータやプログラムを拡張ゲームプログラム/及びデータとして使用することが可能である旨を示すものであるとは理解できない。

(c)以上の本件発明A1の特許請求の範囲(請求項1)の記載及び本件明細書Aの記載によれば、本件発明A1の「所定の拡張ゲームプログラムおよび/またはデータ」は、「第2記憶手段」にその全てが記録されるものを意味するのであって、「第1記憶手段」と「第2記憶手段」とに分かれて記憶されるものは含まれないと解される

b これに対し控訴人は、「拡張ゲームプログラムおよび/またはデータ」は、より高度かつ豊富なゲーム内容を実現するのに「役に立つ」ゲームプログラム及び/又はデータを意味するものであって、「単独で」より高度かつ豊富なゲーム内容を実現するゲームプログラム及び/又はデータを意味するものではない旨主張する。

しかしながら、「拡張ゲームプログラムおよび/またはデータ」は、前記aのとおり解されるものであり、控訴人の上記主張は採用することができない。

(ウ)イ号方法の構成要件充足性について

a イ号方法のうちイ-1号方法等以外のもの

証拠(甲A5、7~9、11、14、19、21~25)及び弁論の全趣旨によれば、イ号方法のうちイ-1号方法等以外のもの(イ-9、16ないし22、23②及び24ないし40号方法。以下「イ-9号方法等」と総称する。)の構成は、別紙9「イ号方法の構成」記載のとおりであると認められる。

そして、本件発明A1の構成要件とイ-9号方法等の構成との対比は、別紙9「イ号方法の構成」記載のとおりであるから、イ-9号方法等は、本件発明A1の構成要件をすべて充足するものであって、本件発明A1の技術的範囲に属するものと認められる。

これに対し被控訴人は、イ-9号方法等の構成は、別紙3「イ号方法説明書(被控訴人)」記載のとおりであり、イ-9号方法等は構成要件D、D-1及びD-2を充足するものではない旨主張する。

しかしながら、上記主張は、構成要件D、D-1及びD-2は、第2の記憶媒体によりゲーム装置を作動させる前に、「所定のキー」が読み込まれているか否かを判定するものであると解することを前提とするところ、かかる解釈を採用できないことについては、前記(ア)aのとおりである。

したがって、被控訴人の上記主張は、その前提を欠くものであって、採用することはできない。

b イ-1号方法等

控訴人は、①イ-1号方法等は、別紙2「イ号方法説明書(控訴人)」記載のとおりであり、同方法と本件発明A1及びA2の構成要件との対比は同別紙記載のとおりであるから、同方法は、本件発明A1及びA2の構成要件をすべて充足する、②PlayStation2が、その作動に際しプログラム及び/又はデータの処理のために使用できるRAMの容量は32MBであるところ、その容量は、MIXJOYを実行することによりイ号製品に包含されたプログラム及び/又はデータの処理のためにも使用されることを考慮すると、イ-1号方法等において、イ号製品とシリーズものの関係にある本編ディスクから読み込んでRAMに格納されるプログラム及び/又はデータの容量はごく限られたものとならざるを得ないから、イ-1号方法等における場面の拡張等を達成するプログラム及び/又はデータの大部分はイ号製品に記録されており、かかるプログラム及び/又はデータにより、構成要件C、Hの「ゲームキャラクタの増加および/またはゲームキャラクタのもつ機能の豊富化および/または場面の拡張および/または音響の豊富化を達成」していると推測するのが合理的である旨主張する。

これに対し被控訴人は、イ-1号方法等では、アペンドディスクに記録された本編ディスクプログラムが本編ディスクに記録されたプログラム及び/又はデータと組み合わされなければ、「ゲームキャラクタの増加および/またはゲームキャラクタのもつ機能の豊富化および/または場面の拡張および/または音響の豊富化」を達成することはできないのであるから、イ-1号方法等には、「拡張ゲームプログラム及び/又はデータ」及びそれを包含した「第2の記憶媒体」(構成要件B-2、G-2)は存在せず、構成要件C及びHも充足しない旨主張する。

そこで、イ-1号方法等が本件発明A1及びA2の構成要件を充足するか否かについて検討する。

(a)証拠(甲A3、12、17)及び弁論の全趣旨によれば、イ-1ないし5号方法について、以下の事実が認められる。

「戦国無双猛将伝」DVD-ROMによりPlayStation2を作動させ、「結合」モードを選択した場合、「戦国無双」DVD-ROMを装填するようメッセージが表示され、メッセージに従って「戦国無双猛将伝」DVD-ROMを取り出し、「戦国無双」DVD-ROMを装填すると、再度、「戦国無双猛将伝」DVDROMを装填するようメッセージが表示される。そこで、メッセージに従って「戦国無双」DVD-ROMを取り出し、「戦国無双猛将伝」DVD-ROMを装填すると、MIXJOYが有効となり、「戦国無双」のシナリオやキャラクタでプレイできる。

具体的には、①「無双演武」のゲームモードにキャラクタが16人追加され、追加されたキャラクタに基づくシナリオが追加され、②「模擬演武」のゲームモードへの16個の章が追加され、③「無限城」のゲームモードに「奈落・改」ステージ及び「虚空・改」ステージが追加され、④「仕合」のゲームモードに「決戦」ステージ、「捕物」ステージ及び「速攻」ステージが追加され、⑤「腕試し」のゲームモードが追加される。

また、MIXJOYを有効にするため、メニューから「結合」を選択すると、「『戦国無双』のディスクからデータを読み込みますよろしいですか?」とのインストラクションが表示される。

(b)控訴人は、上記のとおり、PlayStation2において使用できるRAMの容量等を根拠として、本編ディスクプログラム及びデータの大部分はアペンドディスクに記録されており、かかるプログラム及び/又はデータにより、場面の拡張等が達成されている旨主張するが、これを裏付けるに足りる客観的な証拠はない。

かえって、前記(a)のとおり、MIXJOYを有効にするためにメニューから「結合」を選択すると、「『戦国無双』のディスクからデータを読み込みます よろしいですか?」とのインストラクションが表示されること、「結合」により追加される機能は、いずれも「戦国無双」のステージやキャラクタであることからすると、「戦国無双猛将伝」DVD-ROMにこれらのプログラム及び/又はデータの全てが存在するとは考えにくく、「戦国無双」DVD-ROMにこれらのプログラム及び/又はデータが少なくとも一部は存在し、メッセージに従って「戦国無双」DVD-ROMを挿入したときに、同DVD-ROMから、「戦国無双」ゲームプログラム及び/又はデータの一部を読み込んでいるものと推認される。

そうすると、イ-1ないし5号方法の構成は、別紙9「イ号方法の構成」記載のとおりであると認められ、同認定を左右する証拠はない。

(c)前記(b)と同様に、証拠(甲A4、6、12、14、18、20)及び弁論の全趣旨によれば、イ-6ないし8、10ないし15及び23①号方法の構成は、別紙9「イ号方法の構成」記載のとおりであると認められる。

(d)以上のとおり、イ-1号方法等の構成は別紙9「イ号方法の構成」記載のとおりであるところ、同方法の構成と本件発明A1及びA2の構成要件との対比は、同別紙記載のとおりである。

そして、前記(イ)のとおり、本件発明A1の「所定の拡張ゲームプログラムおよび/またはデータ」は、「第2の記憶媒体」にその全てが記録されるものであって、「第1の記憶媒体」と「第2の記憶媒体」に分かれて記憶されるものは含まれないと解されることから、イ-1号方法等は、「第2の記憶媒体」に「所定の拡張ゲームプログラムおよび/またはデータ」が「包含」されるものではなく、本件発明A1の構成要件B-2、C及びD-1を充足せず、同様の理由により、本件発明A2の構成要件G-2、H及びI-1を充足しない。

したがって、イー1号方法等は、本件発明A1及びA2の技術的範囲に属するものとは認められない。

(2)争点1-1-2(均等侵害の成否)について

前記(1)イ(ウ)bのとおり、イ-1号方法等は、「第2の記憶媒体」に「所定の拡張ゲームプログラムおよび/またはデータ」が「包含」されるものではない点において本件発明A1及びA2と相違するところ、控訴人は、かかる相違点について、イ-1号方法等が本件発明A1及びA2の構成と均等なものである旨の主張をしていない

したがって、イ-1号方法等は、本件発明A1及びA2の構成と均等なものであるとは認められない。

(3)争点1-1-3(間接侵害(特許法101条4号)の成否)について

ア 前記(1)のとおり、イ-9号方法等は、本件発明A1の技術的範囲に属するものである。

そして、イ-9号製品等は、別紙9「イ号方法の構成」記載のとおり、ゲーム装置であるWii(イ-9号製品)、PlayStation2(イ-16ないし22、23②、24ないし30及び35ないし40号製品)及びPlayStation3(イ-31ないし34号製品)に装填してゲームシステムを作動させるためのゲームソフトであり、上記ゲーム装置に装填されて使用される用途以外に、社会通念上、経済的、商業的又は実用的な他の用途はないから、イ-9号方法等の使用にのみ用いる物であると認められる。

したがって、特許法101条4号により、被控訴人が、業として、イ-9号製品等の製造、販売及び販売の申出をする行為は、本件特許権Aを侵害するものとみなされる。

イ これに対し被控訴人は、①本件発明A1の「第1の記憶媒体と…第2の記憶媒体とが準備されており」とは、実施行為者において各記憶媒体をゲーム装置に装填可能に準備することを意味するものであるところ、本編ディスクを保有せずにイ-9号製品等のみを保有しているユーザは、MIXJOYを選択することはないから、本件発明A1の方法を実施することがなく、かつ、イ-9号製品等には、単独でも十分楽しめる内容のゲームプログラムが備わっているから、イ-9号製品等は、社会通念上、経済的、商業的又は実用的な他の用途を有するものであって、本件発明A1の方法の使用にのみ用いる物ではない、②本件発明A1を実施する物は、「本編ディスク及びアペンドディスクを装填したプレイステーションからなるゲームシステム」であり、イ-9号製品等は、イ-9号方法等を実施する装置の生産に用いられる物に過ぎないから、「その方法の使用に…用いる物」に該当しない旨主張する。

そこで、被控訴人の上記主張について検討する。

(ア)a まず、上記①の点について、本件発明A1の特許請求の範囲(請求項1)の記載によれば、本件発明A1は、「所定のゲームプログラムおよび/またはデータと、所定のキーとを包含する第1の記憶媒体と、所定の標準ゲームプログラムおよび/またはデータに加えて所定の拡張ゲームプログラムおよび/またはデータを包含する第2の記憶媒体とが準備されており、」(構成要件B-1、B-2)「上記第2の記憶媒体が上記ゲーム装置に装填されるとき、」(構成要件D)、「上記ゲーム装置が上記所定のキーを読み込んでいる場合には、上記標準ゲームプログラムおよび/またはデータと上記拡張ゲームプログラムおよび/またはデータの双方によってゲーム装置を作動させ、上記所定のキーを読み込んでいない場合には、上記標準ゲームプログラムおよび/またはデータのみによってゲーム装置を作動させることを特徴とする、」(構成要件D-1、D-2)「ゲームシステム作動方法」(構成要件E)であることを理解できる。

そして、上記構成要件D、D-1及びD-2の記載によれば、ユーザが第2の記憶媒体のみを保有し、第1の記憶媒体を保有しない場合でも、ユーザにおいて「上記第2の記憶媒体」を「上記ゲーム装置に装填」すること、その際に、「上記所定のキーを読み込んでいない場合」に当たるとして、「上記標準ゲームプログラムおよび/またはデータのみによってゲーム装置を作動させる」ことは可能であることを理解できる。

一方、本件発明A1の特許請求の範囲(請求項1)には、「第1の記憶媒体と、…第2の記憶媒体とが準備されて」いることについて、「準備」をする主体は実施行為者(ゲームをプレイするユーザ)であり、「準備」とは各記憶媒体をゲーム装置に装填可能に準備すること、すなわち、「上記第2の記憶媒体が上記ゲーム装置に装填されるとき」に、実施行為者において第1の記憶媒体を保有することであると解釈すべき根拠となる記載はない。

b 次に、前記(1)ア(イ)のとおり、本件明細書Aの発明の詳細な説明には、「本願発明」の技術的意義が記載されているところ、かかる技術的意義を達成するために、「第1の記憶媒体と…第2の記憶媒体とが準備されており」の意味を、実施行為者(ゲームをプレイするユーザ)において各記憶媒体をゲーム装置に装填可能に準備することに特定する必然性は見いだし難い。このように特定しなくとも、ゲームソフトメーカ等により第1の記憶媒体及び第2の記憶媒体が提供され、ユーザにおいてこれを入手することが可能な状況にあれば、上記技術的意義は達成可能であると考えられる。

c 以上の本件発明A1の特許請求の範囲(請求項1)の記載及び本件明細書Aの記載によれば、本件発明A1の「第1の記憶媒体と…第2の記憶媒体とが準備されており」とは、ゲームソフトメーカ等により第1の記憶媒体及び第2の記憶媒体が提供され、ユーザにおいてこれを入手することが可能な状況を意味するものであって、ユーザにおいて各記憶媒体を現に保有することを意味するものではないと解される。そして、同様の理由により、「上記第2の記憶媒体が上記ゲーム装置に装填されるとき」に、実施行為者において第1の記憶媒体を保有することが必要であるとは解されない。

したがって、イ-9号製品等を保有するユーザが、本編ディスクを保有していないとの事実は、イ-9号製品等が本件発明A1の方法の使用にのみ用いる物であるとの判断を左右するものではない。

(イ)次に、上記②の点については、本件発明A1は、「記憶媒体…を上記ゲーム装置に装填してゲームシステムを作動させる方法」(構成要件A)であって、「上記第2の記憶媒体が上記ゲーム装置に装填される」(構成要件D)ことを発明特定事項とするものであるから、「上記第2の記憶媒体」に相当するイ-9号製品等は、「その方法の使用に…用いる物」に該当するといえる。また、特許法101条4号の「その方法の使用にのみ用いる物」は、当該「物」のみにより当該特許発明を実施するものである旨の限定は付されていないから、他の物と組み合わせることにより当該特許発明を実施する物も「物」に含まれると解される。

(ウ)以上によれば、被控訴人の上記主張は採用することができない。

(4)争点1-1-4(実施行為の惹起行為による不法行為の成否)について

控訴人は、被控訴人によるイ-1号製品等の製造、販売及び販売の申出は、ユーザによる本件発明A1及びA2の実施行為を惹起する行為であるから、ユーザが「業として」特許発明を実施しないために直接侵害が成立しないとしても、被控訴人の行為は不法行為を構成する旨主張する。

しかしながら、前記(1)及び(2)のとおり、イ-1号方法等は、本件発明A1及びA2の技術的範囲に属するものとは認められないから、被控訴人によるイ-1号製品等の製造、販売及び販売の申出は、ユーザによる本件発明A1及びA2の実施行為を惹起する行為とはいえない。

したがって、控訴人の上記主張は、その前提を欠くものであって、採用することができない。

(5)争点1-2-1(本件ゲームシステムA1により公然知られた発明又は公然実施をされた発明に基づく本件発明A1及びA2の進歩性の欠如の有無)について

ア 本件ゲームシステムA1により公然知られた発明又は公然実施をされた発明

(ア)証拠(乙A2~6、8~10、13、14(枝番号を含む。))及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

本件特許出願A(平成6年12月9日)前に発売されていたファミリーコンピュータ(昭和58年発売。乙A5の3)、ファミリーコンピュータディスクシステム(昭和61年2月21日発売。乙A6の2)、ゲームソフト「魔洞戦紀」(昭和61年12月19日発売。乙A3の2)、ゲームソフト「勇士の紋章」(昭和62年5月29日発売。乙A3の4)及びテレビを用いて実現されるゲームシステムを作動させる方法は、本件特許出願Aの前に、公然知られていた(以下「本件公知発明1」という。)。

本件公知発明1の構成は、次のとおりである。

a ファミリーコンピュータとディスクシステムとテレビとから構成され、ディスクを用いてゲームを行うファミコンゲームシステムにおいて、セーブデータなどを記憶可能で、ゲームプログラム及び/又はデータを記憶するファミコンゲームシステムの動作中に入れ換え可能なディスクをディスクシステムに挿入して、ファミコンゲームシステムを作動させる方法であって、

b 上記ディスクは、RWM(読み書き可能メモリ)であって、

b-1 魔洞戦紀のゲームプログラム及び/又はデータと、魔洞戦紀にセーブされたキャラクタのレベルが21であることを示す情報とを包含する魔洞戦紀DDⅠと、

b-2 標準ゲーム機能部分を実行する標準ゲームプログラム及び/又はデータに加えて、魔洞戦紀DDⅠから転送されたキャラクタの魔洞戦紀におけるレベルが16以上であるときには、そのキャラクタの勇士の紋章におけるレベルが最初から2となり、神殿で祈ると「ゆうけんしのしそん じゅんくよ。がんばるのだぞ。」とのメッセージが表示され、アイテム「くさのつゆ」及び「しろきのこ」が1つ増えるという動作機能を実行する拡張ゲームプログラム及び/又はデータを包含する勇士の紋章DDⅡとが準備されており、

c 拡張ゲームプログラム及び/又はデータは、標準ゲームプログラム及び/又はデータに対して、キャラクタのレベルの増加、又はキャラクタのためのアイテムの増加を達成するように形成されたものであり、

d 勇士の紋章DDⅡがディスクシステムに挿入されるとき、

d-1 ファミリーコンピュータが、魔洞戦紀DDⅠから、キャラクタのレベルが21、すなわち16以上であることを示す情報を読み込んでいる場合には、標準ゲーム機能部分を実行する標準ゲームプログラム及び/又はデータと拡張ゲーム機能部分を実行する拡張ゲームプログラム及び/又はデータの双方によってファミリーコンピュータを作動させ、

d-2 ファミリーコンピュータが、魔洞戦紀DDⅠから、キャラクタのレベルが16以上であることを示す情報を読み込んでいない場合には、標準ゲーム機能部分を実行する標準ゲームプログラム及び/又はデータのみによってファミリーコンピュータを作動させる、

e ファミコンゲームシステム作動方法。

(イ)これに対し控訴人は、本件発明A1の「拡張ゲームプログラムおよび/またはデータ」は、標準のゲーム内容に加え、拡張されたゲーム内容を楽しむことが可能となるものであるから(本件明細書Aの【0020】等)、標準のゲーム内容を置き換えるゲームプログラム及び/又はデータを含まないと解され、本件発明A1と公知発明1との間には、相違点1-1及び1-2のほかに、相違点1-3ないし1-5が存在する旨主張する

そこで検討するに、本件発明A1の特許請求の範囲(請求項1)の記載によれば、「所定の拡張ゲームプログラムおよび/またはデータ」は、「標準ゲームプログラムおよび/またはデータに加えて、ゲームキャラクタの増加および/またはゲームキャラクタのもつ機能の豊富化および/または場面の拡張および/または音響の豊富化を達成するためのゲームプログラムおよび/またはデータ」であり、「第2の記憶媒体」に「包含」されるものであって、「上記第2の記憶媒体が上記ゲーム装置に装填され」、「上記ゲーム装置が」「第1の記憶媒体」が「包含する」「所定のキーを読み込んでいる場合に」、「上記標準ゲームプログラムおよび/またはデータと上記拡張ゲームプログラムおよび/またはデータの双方によってゲーム装置を作動させ」ることを理解できる。

一方、上記特許請求の範囲には、「上記標準ゲームプログラムおよび/またはデータと上記拡張ゲームプログラムおよび/またはデータの双方によってゲーム装置を作動させ」た場合に動作する「上記標準ゲームプログラムおよび/またはデータ」が、「上記標準ゲームプログラムおよび/またはデータ」の全部であると限定して解釈すべき根拠となる記載はない。そして、本件明細書Aの発明の詳細な説明にも、「上記標準ゲームプログラムおよび/またはデータと上記拡張ゲームプログラムおよび/またはデータの双方によってゲーム装置を作動させ」る場合とは、「上記標準ゲームプログラムおよび/またはデータ」の一部しか作動しない場合を含まないものであり、「上記標準ゲームプログラムおよび/またはデータ」の全部が動作することが必要であると解釈すべき根拠となる記載はない。

前記(ア)のとおり、本件公知発明1の「勇士の紋章DDⅡ」は、魔洞戦紀DDⅠから転送されたキャラクタの魔洞戦紀におけるレベルが16以上であるときには、①そのキャラクタの勇士の紋章におけるレベルが最初から2となり、②神殿で祈ると「ゆうけんしのしそん じゅんくよ。がんばるのだぞ。」とのメッセージが表示され、アイテム「くさのつゆ」及び「しろきのこ」が1つ増える、という動作機能を実行するゲームプログラム及び/又はデータを包含するものである。

そうすると、上記①の点は、「勇士の紋章」の標準のゲーム内容であればレベル1からスタートするゲームキャラクタのレベル(乙A4の2・11枚目、乙A8の1・8頁)をレベル2からスタートできるようにするものであり(乙A4の1・8枚目)、上記②の点は、標準のゲーム内容であれば金貨(GOLD)で支払わなければ取得できないアイテム(乙A4の1・13枚目、乙A4の2・8枚目)を神殿で祈ることで取得できるようにするものであって(乙A9・2頁、乙A10・3頁)、いずれも新たな機能をゲームキャラクタに持たせるものであるから、これが「ゲームキャラクタのもつ機能の豊富化」に当たることは明らかである。

また、上記②の点は、「勇士の紋章」の標準のゲームの内容であれば、神殿で祈ると「あなたのたたかいが ぶじおわりますよう。あくまに わざわいを!」とのメッセージのみが表示される場面を、神殿で祈ると「ゆうけんしのしそん じゅんくよ。がんばるのだぞ。」とのメッセージが表示され、アイテム「くさのつゆ」及び「しろきのこ」が1つ増えるという場面とするものであるから、これが「場面の拡張」に当たることも明らかである。

以上によれば、本件公知発明1の「勇士の紋章DDⅡ」は、「標準ゲーム機能部分を実行する標準ゲームプログラム及び/又はデータ」に加えて、「ゲームキャラクタのもつ機能の豊富化」及び「場面の拡張」を達成するためのゲームプログラム及び/又はデータ、すなわち、本件発明A1の「拡張ゲームプログラムおよび/またはデータ」を包含するものといえる

したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。

(ウ)他方、被控訴人は、公知発明1における「所定のキー」に相当する「キャラクタ(じゅんく)のレベルが16以上であることを示す情報」とは、①魔洞戦紀DDⅠが装填されたことを示すデータ及び②キャラクタ(じゅんく)のレベルが16以上であるセーブデータである旨主張する。

そこで検討するに、証拠(甲A4の1、4の2、13の2)及び弁論の全趣旨によれば、本件ゲームシステムA1において、まず、勇士の紋章DDⅡを装填し、次いで、「まどうせんきのAメンをいれてください」というインストラクションに基づき、魔洞戦紀DDⅠを装填し、キャラクタ「じゅんく」を選択した後、再度、勇士の紋章DDⅡを装填した場合には、勇士の紋章においてもキャラクタ「じゅんく」でプレイできることが認められる。

しかしながら、魔洞戦紀DDⅠを装填することにより当然に、本件発明A1の「拡張ゲームプログラムおよび/またはデータ」に相当する、本件公知発明1の「ゲームキャラクタのもつ機能の豊富化」及び「場面の拡張」を達成するためのゲームプログラム及び/又はデータと、標準ゲームプログラム及び/又はデータの双方によって、ファミリーコンピュータが作動されるものではない。前記(ア)及び(イ)のとおり、本件公知発明1の「標準ゲームプログラムおよび/またはデータと拡張ゲームプログラム及び/又はデータの双方によってファミリーコンピュータを作動させ」るには、魔洞戦紀DDⅠから、キャラクタ(じゅんく)のレベルが16以上であるセーブデータを読み込むことが必要であり、かかるデータを読み込んでいない場合には、上記のようにインストラクションに基づき魔洞戦紀DDⅠを装填するなどの作業をしたとしても、本件公知発明1の「標準ゲームプログラムおよび/またはデータのみによってファミリーコンピュータを作動させる」こととなる。

以上によれば、上記①のデータは、本件公知発明1の「拡張ゲームプログラムおよび/またはデータ」を作動させる条件であるとはいえないから、本件発明A1の「所定のキー」に相当する本件公知発明1の「キャラクタ(じゅんく)のレベルが16以上であることを示す情報」には、上記①のデータは含まれないといえる

したがって、被控訴人の上記主張は採用することができない。

イ 本件発明A1と本件公知発明1の対比

本件発明A1と本件公知発明1とを対比すると、以下の相違点が存在することが認められる。

(相違点1-1)

一の記憶媒体、二の記憶媒体が、本件発明A1は、「記憶媒体(ただし、セーブデータを記憶可能な記憶媒体を除く。)」であるのに対し、本件公知発明1は「セーブデータなどを記憶可能なディスク」である点。

(相違点1-2)

本件発明A1の「第1の記憶媒体」は、セーブデータを記憶可能な記憶媒体を除くから、「所定のキー」はセーブデータを含まないのに対し、本件公知発明1では、魔洞戦紀DDIに包含される「所定のキー」が、魔洞戦紀DDIに記憶されたセーブデータであって、魔洞戦紀DDIにセーブされたキャラクタのレベルが21であることを示す情報である点。

ウ 相違点の容易想到性について

(ア)本件公知発明1の技術思想

本件公知発明1の内容に加え、前記アに掲記の各証拠及び弁論の全趣旨を総合すれば、①ディープダンジョン(DD)シリーズの後作「勇士の紋章」は、前作「魔洞戦紀」の続編であって、両者は、魔洞戦紀において、魔王が勇剣士に倒され平和を取り戻したものの、勇士の紋章において、魔王が復活し、勇剣士が再び冒険するという一連のストーリーを有するゲームであること、②「魔洞戦紀」の勇剣士のキャラクタを、「勇士の紋章」に転送することにより、「魔洞戦紀」の「勇剣士」を、「勇士の紋章」の「勇士」として復活させることができること、③「魔洞戦紀」において、キャラクタのレベルが16以上であれば、レベル1からではなく、レベル2のキャラクタとして「勇士の紋章」でプレイできること、④このような場合に、「魔洞戦紀」から転送されたレベル16以上のキャラクタは、「勇士の紋章」においては「勇剣士の子孫」として復活すること、⑤「魔洞戦紀」のキャラクタリストは、「魔洞戦紀」において、特定のキャラクタでゲームをプレイしている途中で中断し、その後、中断した場面からゲームを再開してプレイするために、ディスクにセーブされたものと解されることが認められる。

上記認定事実によれば、本件公知発明1は、前作と後作との間でストーリーに連続性を持たせた上、後作のゲームにおいても、前作のゲームのキャラクタでプレイしたり、前作のゲームのプレイ実績により、後作のゲームのプレイを有利にしたりすることによって、前作のゲームをプレイしたユーザに対して、続編である後作のゲームもプレイしたいという欲求を喚起し、これにより後作のゲームの購入を促すという技術思想を有するものと認められる。

(イ)相違点1-1について

前記(ア)のとおり、本件公知発明1は、キャラクタでプレイするゲームにおいて、セーブされたキャラクタを前作のゲームから後作のゲームに転送するものであり、前作のゲームにおいて、プレイ途中でセーブして、なおかつ、キャラクタのレベルが16以上である場合に、後作のゲームにおいて、ゲームのプレイが有利になるという特典が与えられるものである。

そうすると、本件公知発明1は、少なくとも、前作において、ゲームをプレイ途中でセーブするとともに、ゲームをある程度達成した、すなわち、前作のゲームにおいて、キャラクタのレベルが16以上となるまでプレイしたという実績があることが、後作においてプレイを有利にするための必須の条件であり、「キャラクタ」、「プレイ実績」を示す情報を前作の記憶媒体にセーブできることが本件公知発明1の前提であって、「キャラクタ」、「プレイ実績」の情報をセーブできない記憶媒体を採用すると、前作のゲームにおける「キャラクタ」、「プレイ実績」の情報が記憶媒体に記憶されないこととなり、「前作のゲームのキャラクタで、後作のゲームをプレイする」、「前作のキャラクタのレベルが16以上であると、後作において拡張ゲームプログラムを動作させる」という本件公知発明1を実現することができなくなることは明らかである

したがって、仮に、被控訴人の主張するとおり、ゲームプログラム及び/又はデータを記憶する媒体としてCD-ROMを用いることが本件特許Aの出願前において周知技術であり、また、同一タイトルのゲームをCD-ROMやROMカセットに移植することが一般的に行われている事項であったとしても、本件公知発明1において、記憶媒体を、ゲームのキャラクタやプレイ実績をセーブできない「記憶媒体(ただし、セーブデータを記憶可能な記憶媒体を除く。)」に変更する動機付けはなく、そのような記憶媒体を採用することには、阻害要因がある

以上のとおりであるから、本件公知発明1において、相違点1-1に係る本件発明A1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たものであるとは認められない。

(ウ)相違点1-2について

前記(イ)と同様の理由により、本件公知発明1において、相違点1-2に係る本件発明A1の構成を採用することは、動機付けを欠き、むしろ阻害要因があるというべきであるから、当業者が容易に想到し得たものであるとは認められない。

(エ)被控訴人の主張について

これに対し被控訴人は、相違点1-1及び1-2は、本件訂正Aにより、「第1の記憶媒体」及び「第2の記憶媒体」から「セーブデータを記憶可能な記憶媒体」が除かれ、その結果、「所定のキー」からセーブデータが除かれたこと(「除くクレーム」とされたこと)により生じたものであることを前提として、除くクレームとする訂正により、形式的に主引用発明との間に相違点が存在すると認められる場合は、①相違点に係る構成によって、技術的観点から主引用発明と異なる作用効果が存在するか否かを検討し、②技術的意義が認められない場合には、実質的な相違点とはいえず新規性が否定されると解すべきであり、③技術的意義が認められた場合には、当業者において適宜なし得る設計事項に過ぎないか否かを検討し、設計事項に過ぎない場合には、進歩性が否定されると解すべきであるところ、本件訂正Aは、シリーズ化された一連のゲームソフトを買い揃えていくことにより、豊富な内容のゲームを楽しむことができるようにするという本件発明A1の課題との関係では、技術的な解決手段を示したものとはいえず、技術的意義がないものであって、本件発明A1の作用効果や技術的思想は、本件訂正Aの前後で変わらないから、相違点1-1及び1-2は、実質的に相違点とはいえず、少なくとも、当業者が適宜なし得る設計事項である旨主張する。

しかしながら、前記(イ)及び(ウ)のとおり、本件公知発明1において、相違点1-1及び1-2に係る本件発明A1の構成を採用することは、動機付けを欠き、むしろ阻害要因があるというべきものである。

また、本件発明A1において、「第1の記憶媒体」及び「第2の記憶媒体」を「セーブデータを記憶可能な記憶媒体を除く」ものとすることは、前作のプレイ実績にかかわらず、後作において拡張ゲームプログラム及び/又はデータによってゲームを楽しむことができるという作用効果を奏するものであって、技術的意義を有するものであることからすると、相違点1-1及び1-2は、実質的な相違点であるといえるし、当業者が適宜なし得る設計事項であるとは認められない。

したがって、被控訴人の上記主張は採用することができない。

(オ)小括

以上のとおり、本件公知発明1において、相違点1-1及び1-2に係る本件発明A1の構成とすることには、動機付けがなく、むしろ阻害要因があるため、当業者が容易に想到し得たこととは認められない。

したがって、本件発明A1は、当業者が本件公知発明1に基づき容易に発明をすることができたものであるとは認められない。

(6)争点1-2-2(MSX規格用のゲームソフト「ぎゅわんぶらあ自己中心派」及び「ぎゅわんぶらあ自己中心派2 自称!強豪雀士編」並びにMSX規格のマシンを用いて実現されるゲームシステムにより公然知られた発明に基づく本件発明A1及びA2の進歩性の欠如の有無)について

ア 「ぎゅわんぶらあ」、「ぎゅわんぶらあ2」及びMSX規格のマシンを用いて実現されるゲームシステムにより公然知られた発明

(ア)証拠(乙A17、29、30、36、39、40、61、62(枝番号を含む。))及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

本件特許出願A(平成6年12月9日)前に発売されていたMSX規格のマシン「MSX2」(乙A29、61)、MSX規格用のゲームソフト「ぎゅわんぶらあ」(昭和62年11月11日発売。乙A62の1)、同ゲームソフト「ぎゅわんぶらあ2」(平成元年4月21発売。乙A17の1)及びテレビを用いて実現されるゲームシステムを作動させる方法は、本件特許出願Aの前に、公然知られていた(以下「本件公知発明3」という。)。

本件公知発明3の構成は、次のとおりである。

a ROMカセットスロット1と、ROMカセットスロット2とを有するMSX規格のマシン「MSX2」に、ゲームプログラムを記憶したROMカセットを装填してゲームシステムを作動させる方法であって、

b 上記ROMカセットとして、

b-1 「ぎゅわんぶらあ」のキャラクタ12人での「フリー対戦」、「勝ち抜き戦」をプレイできる「ぎゅわんぶらあ」のゲームプログラムおよびデータと、所定のキーとを含む「ぎゅわんぶらあ」ROMカセットと、

b-2 「ぎゅわんぶらあ2」のキャラクタ16人での「フリー対戦」をプレイできるゲームプログラムおよびデータに加えて所定の拡張ゲームプログラムおよびデータを含む「ぎゅわんぶらあ2」ROMカセットとが準備されており、

c 上記拡張ゲームプログラムおよびデータは、「フリー対戦」、「勝ち抜き戦」、「タコ討伐戦」の3種類のモードを選択でき、「フリー対戦」モードを選択すると、「ぎゅわんぶらあ2」のキャラクタ16人に加えて「ぎゅわんぶらあ」のキャラクタ12人の合計28人のキャラクタでの「フリー対戦」をプレイでき、「勝ち抜き戦」モードを選択すると、「ぎゅわんぶらあ2」のキャラクタ16人と「ぎゅわんぶらあ」のキャラクタ12人の合計28人での「勝ち抜き戦」をプレイでき、「タコ討伐戦」モードを選択すると、「『ぎゅわんぶらあ』と『ぎゅわんぶらあ2』を組み合わせた総勢28人のキャラクタを『タコ側』と『アンチタコ側』に分けて、東京の雀荘をどちらが制覇するかを競う『タコ討伐戦』」をプレイするためのゲームプログラムおよびデータであり、

d 上記「ぎゅわんぶらあ2」ROMカセットを上記ROMカセットスロット1に装填して上記マシン「MSX2」の電源を入れ、起動させるとき、

d-1 上記「ぎゅわんぶらあ2」ROMカセットを上記ROMカセットスロット1に装填し、上記「ぎゅわんぶらあ」ROMカセットを上記ROMカセットスロット2に装填して、上記マシン「MSX2」を所定のキーを読み込んでいる状態で起動させると、「ぎゅわんぶらあ2」のキャラクタ16人での「フリー対戦」をプレイできるゲームプログラムおよびデータと、「ぎゅわんぶらあ」のゲームプログラムおよびデータと、拡張ゲームプログラムおよびデータとによってマシン「MSX2」を動作させ、

d-2 上記「ぎゅわんぶらあ2」ROMカセットのみを上記ROMスロット1に装填して、上記マシン「MSX2」を所定のキーを読み込んでいない状態で起動させると、「ぎゅわんぶらあ2」のキャラクタ16人での「フリー対戦」をプレイできるゲームプログラムおよびデータのみによってマシン「MSX2」を動作させる、

e ゲームシステム作動方法。

(イ)これに対し被控訴人は、①「ぎゅわんぶらあ2」ROMカセットと「ぎゅわんぶらあ」ROMカセットとを使用したときに、増加する12人のキャラクタの氏名のフォントデータが、「ぎゅわんぶらあ2」ROMカセットに記録され、「タコ討伐戦」のグラフィックが、「ぎゅわんぶらあ2」ROMカセットに記録されていること、ゲーム装置MSX2の起動時に「ぎゅわんぶらあ」ROMカセットが挿入されていれば、その後挿入されていなくとも、「ぎゅわんぶらあ2」の「拡張ゲームプログラム」によって、ゲーム装置MSX2が作動すること(乙A36の1、3)を根拠に、拡張ゲームデータ及び拡張ゲームプログラムの全部が「ぎゅわんぶらあ2」ROMカセットに記録されている旨、②公知発明3は、常に「ぎゅわんぶらあ」を装填していないと、「ぎゅわんぶらあ2」の拡張ゲームプログラムによってゲーム装置を作動させないというものではなく、別紙4のフローチャートのように、「ぎゅわんぶらあ2」では、複数の段階で、「ぎゅわんぶらあ」に記憶されている切換キーを読み込んでいるか否かを判断して、「ぎゅわんぶらあ2」の拡張ゲームプログラムによってゲーム装置を作動させるか否かを判断している旨主張する。

しかしながら、上記①の点については、証拠(甲A53、乙A76)及び弁論の全趣旨によれば、マシンMSX2に、「ぎゅわんぶらあ2」ROMカセットと「ぎゅわんぶらあ」ROMカセットの双方を装填して、フリー対戦を選択した後に、「ぎゅわんぶらあ」ROMカセットを抜くと、対戦相手の選択画面(「ぎゅわんぶらあ」のキャラクタである「持杉ドラ夫」の顔画像)が表示されずに再起動となること、同様に、勝ち抜き戦を選択した後に「ぎゅわんぶらあ」ROMカセットを抜くと、対戦相手を表示する画面において、「ぎゅわんぶらあ」のキャラクタの顔画像が表示されずにフリーズすること、タコ討伐戦を選択した後に「ぎゅわんぶらあ」ROMカセットを抜くと、「つれていく人」(キャラクタ)の選択画面において、「持杉ドラ夫」の顔画像が表示されずにフリーズすることが認められる。

これらの事実は、「ぎゅわんぶらあ2」ROMカセットに記録されているのは、「ぎゅわんぶらあ」に登場する12人のキャラクタを選択するための氏名のフォントデータ、タコ討伐戦のグラフィックデータであり、「ぎゅわんぶらあ」に登場する12人のキャラクタの顔画像、性格、ツキ、技術力などのゲームを行うためのデータは、「ぎゅわんぶらあ」ROMカセットのみに記録されていることを推認させるものといえる。

なお、証拠(乙A36の1、3)によれば、マシンMSX2に、「ぎゅわんぶらあ2」ROMカセットと「ぎゅわんぶらあ」ROMカセットの双方を装填して、フリー対戦を選択し、対戦相手の選択画面から「ぎゅわんぶらあ」のキャラクタを対戦相手として選択して、フリー対戦を開始した後に、「ぎゅわんぶらあ」ROMカセットを抜くと、対戦相手の画像が表示された状態で1半荘分ゲームが進行することが認められる。しかし、このように「ぎゅわんぶらあ」ROMカセットを抜いた状態でもゲームを進行できるのは、「ぎゅわんぶらあ」のキャラクタを対戦相手として選択した際に、マシンMSX2に装填された「ぎゅわんぶらあ」ROMカセットから、これらのキャラクタのデータを読み取っていることによるものと推測するのが合理的であるから、かかる事実は、上記推認を左右するものではない。

加えて、「ぎゅわんぶらあ」にある勝ち抜き戦モードは、「ぎゅわんぶらあ2」ROMカセットのみをゲーム装置に装填した場合には動作しないプレイモードであるところ(乙A39、40)、勝ち抜き戦のゲームプログラムが「ぎゅわんぶらあ2」ROMカセットに記録されていることを認めるに足りる証拠はない。

以上によれば、「ぎゅわんぶらあ2」ROMカセットと「ぎゅわんぶらあ」ROMカセットの双方を装填して行われる「フリー対戦」、「勝ち抜き戦」、「タコ討伐戦」において、増加する「ぎゅわんぶらあ」の12人のゲームキャラクタのデータは、「ぎゅわんぶらあ」ROMカセットに記録されているものであって、28人のキャラクタでプレイする場合、「ぎゅわんぶらあ2」ROMカセットと「ぎゅわんぶらあ」ROMカセットの双方をマシンMSX2に装填し続ける必要があると認められる。

次に、上記②の点について、前記(ア)のとおり、本件公知発明3は、「ぎゅわんぶらあ2」ROMカセットを上記ROMカセットスロット1に装填し、上記「ぎゅわんぶらあ」ROMカセットを上記ROMカセットスロット2に装填して、上記マシン「MSX2」の電源を入れ、起動させると、「フリー対戦」、「勝ち抜き戦」、「タコ討伐戦」の3種類のモードを選択でき、合計28人のキャラクタでこれらのゲームをプレイできる一方、上記「ぎゅわんぶらあ2」ROMカセットのみを上記ROMスロット1に装填してマシン「MSX2」を起動させると、「ぎゅわんぶらあ2」のキャラクタ16人でのフリー対戦のみをプレイできるものであるから、同発明において本件発明A1の「所定のキー」に相当するのは、「ぎゅわんぶらあ」ROMカセットがROMカセットスロット2に装填されたという事実のみであるといえる。

なお、上記のとおり、本件公知発明3において、合計28人のキャラクタでの「フリー対戦」、「勝ち抜き戦」及び「タコ討伐戦」をプレイするためには、「ぎゅわんぶらあ」ROMカセットと「ぎゅわんぶらあ2」ROMカセットの双方をマシンMSX2に装填し続け、「ぎゅわんぶらあ」ROMカセットから、「ぎゅわんぶらあ」に登場する12人のキャラクタのデータや「勝ち抜き戦」のデータ等を逐次ゲーム装置に読み取る必要があるが、これらの動作は、ゲームを遂行するために必要な動作に過ぎないものであって、「所定のキー」に該当するものではない。

したがって、被控訴人の上記主張は採用することができない。

イ 本件発明A1と本件公知発明3の対比

本件発明A1と本件公知発明3とを対比すると、その相違点は、以下のとおりであると認められる。

(相違点1)

本件発明A1の記憶媒体は、所定のゲーム装置の作動中に入れ換え可能な記憶媒体であるのに対して、本件公知発明3の記憶媒体はゲーム装置の作動中に入れ換え不可である点。

(相違点2)

ゲーム装置が所定のキーを読み込み、標準ゲームプログラム及びデータと拡張ゲームプログラム及びデータの双方によってゲーム装置を作動させる際に、本件発明A1では、第2の記憶媒体を装填するのに対して、本件公知発明3では、第1の記憶媒体(「ぎゅわんぶらあ」ROMカセット)と第2の記憶媒体(「ぎゅわんぶらあ2」ROMカセット)の双方を装填している必要がある点。

(相違点3)

ゲーム装置が所定のキーを読み込んでいる場合に、標準ゲームプログラム及びデータと拡張ゲームプログラム及びデータの双方によってゲーム装置を作動させる際の拡張ゲームプログラム及びデータが、本件発明A1では、第2の記憶媒体に包含されるのに対し、本件公知発明3では、第2の記憶媒体(「ぎゅわんぶらあ2」ROMカセット)に全部が記録されておらず、第1の記憶媒体(「ぎゅわんぶらあ」ROMカセット)に一部が記録されている点。

ウ 相違点の容易想到性について

事案に鑑み、相違点2及び3から検討する。

前記アのとおり、本件公知発明3では、拡張ゲームプログラム及びデータの全部が第2の記憶媒体(「ぎゅわんぶらあ2」ROMカセット)に記録されているわけではなく、第1の記憶媒体(「ぎゅわんぶらあ」ROMカセット)に一部が記録されており、標準ゲームプログラム及びデータと拡張ゲームプログラム及びデータの双方によってゲーム装置を作動させる際に、第1の記憶媒体と第2の記憶媒体の双方を装填している必要があるところ、このような構成を採ることによりゲーム装置が適切に機能しているのであるから、この構成をあえて変更して、第1の記憶媒体に記録されている拡張ゲームプログラム及びデータと同じものを第2の記憶媒体にも記録させる動機付けはない。また、本件特許出願Aの前に、そのような技術が当業者に周知であったことを認めるに足りる証拠もない。

したがって、本件公知発明3において、①ゲーム装置が所定のキーを読み込んでいる場合に、第1の記憶媒体と第2の記憶媒体との双方を同時に装填せずに、第2の記憶媒体のみを装填することにより、標準ゲームプログラム及びデータと拡張ゲームプログラム及びデータの双方によってゲーム装置を作動させること(相違点2に係る本件発明A1の構成)、②標準ゲームプログラム及びデータと拡張ゲームプログラム及びデータの双方によってゲーム装置を作動させる際の拡張ゲームプログラム及びデータを第2の記憶媒体(「ぎゅわんぶらあ2」ROMカセット)に全部記録させること(相違点3に係る本件発明A1の構成)は、いずれも、当業者が容易に想到し得た事項ということはできない。

エ 小括

以上のとおり、本件公知発明3において、相違点2及び3に係る本件発明A1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たこととは認められない。

したがって、本件発明A1は、当業者が本件公知発明3に基づき容易に発明をすることができたものであるとは認められない。

(7)争点1-3(控訴人の損害の有無及び損害額)について

控訴人は、特許法102条3項により算定される損害額を主張する。同項は、特許権侵害の際に特許権者が請求し得る最低限度の損害額を法定した規定であり、同項による損害は、原則として、侵害品の売上高を基準とし、そこに、実施に対し受けるべき料率を乗じて算定すべきである。

ア その特許発明の実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額

(ア)特許法102条3項所定の「その特許発明の実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額」については、平成10年法律第51号による改正前は「その特許発明の実施に対し通常受けるべき金銭の額に相当する額の金銭」と定められていたところ、「通常受けるべき金銭の額」では侵害のし得になってしまうとして、同改正により「通常」の部分が削除された経緯がある。

特許発明の実施許諾契約においては、技術的範囲への属否や当該特許が無効にされるべきものか否かが明らかではない段階で、被許諾者が最低保証額を支払い、当該特許が無効にされた場合であっても支払済みの実施料の返還を求めることができないなど様々な契約上の制約を受けるのが通常である状況の下で事前に実施料率が決定されるのに対し、技術的範囲に属し当該特許が無効にされるべきものとはいえないとして特許権侵害に当たるとされた場合には、侵害者が上記のような契約上の制約を負わない。そして、上記のような特許法改正の経緯に照らせば、同項に基づく損害の算定に当たっては、必ずしも当該特許権についての実施許諾契約における実施料率に基づかなければならない必然性はなく、特許権侵害をした者に対して事後的に定められるべき、実施に対し受けるべき料率は、むしろ、通常の実施料率に比べて自ずと高額になるであろうことを考慮すべきである。

したがって、実施に対し受けるべき料率は、①当該特許発明の実際の実施許諾契約における実施料率や、それが明らかでない場合には業界における実施料の相場等も考慮に入れつつ、②当該特許発明自体の価値すなわち特許発明の技術内容や重要性、他のものによる代替可能性、③当該特許発明を当該製品に用いた場合の売上げ及び利益への貢献や侵害の態様、④特許権者と侵害者との競業関係や特許権者の営業方針等訴訟に現れた諸事情を総合考慮して、合理的な料率を定めるべきである。

(イ)認定事実

a 本件特許Aについての実際の実施許諾契約の実施料率は、本件訴訟に現れていない。

そして、証拠(乙A115、116、乙B28)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

(a)株式会社帝国データバンクが「知的財産の価値評価を踏まえた特許等の活用の在り方に関する調査研究報告書~知的財産(資産)価値及びロイヤルティ料率に関する実態把握~(平成22年3月)」(乙B28。本件調査報告書)を作成するに当たって行った、特許権に関するロイヤルティ率情報のアンケート(以下「本件アンケート」という。)の結果を記載した表2-2には、技術分類を「家具、ゲーム」とする特許のロイヤルティ料率の平均は2.5%(最大値4.5%、最小値0.5%、標準偏差1.5%)(件数14件)と記載されている。

(b)本件調査報告書には、本件アンケート調査結果の回答及び集計に当たっての前提条件について、①ライセンス・アウト(ライセンスを与える側)の立場での回答であること、②国内同業他社へのライセンスを想定していること、③通常実施権(ライセンス提供先を独占的にする訳ではなく、複数の者とライセンスを行うことができる形態)によるライセンスを想定していること、④正味販売高に対する料率を想定していること、⑤特殊な事情(エンタイアマーケットバリュールール(特許技術が製品の一部に使われているだけだとしても、侵害された部品を含む製品全体の単価に基づいて損害額を計算するルール)によるロイヤルティ算定、契約相手の事情など)を捨象したケースであること、⑥ロイヤルティ料率相場はカテゴリ選択肢で回答であるが、集計時には各選択肢の中央値をロイヤルティ料率として集計を行ったことが記載されている。

(c)経済産業省知的財産政策室編の「ロイヤルティ料率データハンドブック~特許権・商標権・プログラム著作権・技術ノウハウ~」(平成22年8月31日発行)の「Ⅱ 各国のロイヤルティ料率」には、①ロイヤルティ算定方式として最も広く採用されているのは、定率方式であり、そのロイヤルティは、「対象製品の販売価格×ロイヤルティ料率」として算定されること、②販売価格の対象となるロイヤルティベースには、総販売価格、純販売価格(正味販売価格)、小売価格等が使用されるが、実務面では、純販売価格(正味販売価格)が採用されることが比較的多いとされること、③純販売価格(正味販売価格)は、総販売価格から一定の費用項目を控除した残額として定義され、控除費用項目としては、一般的に、輸送費、保険料、倉庫保管費用、リベート、包装梱包費等、販売地によって変動する可能性のある費用項目が中心となるが、業界慣行や製品種類等によって異なることが記載されている。

b 前記(1)アのとおり、本件発明A1は、ゲームプログラム及び/又はデータを記憶する記憶媒体を所定のゲーム装置に装填してゲームシステムを作動させる方法であって、上記記憶媒体は、少なくとも、所定のゲームプログラム及び/又はデータと、所定のキーとを包含する第1の記憶媒体と、所定の標準ゲームプログラム及び/又はデータに加えて所定の拡張ゲームプログラム及び/又はデータを包含する第2の記憶媒体とが準備され、上記第2の記憶媒体が上記ゲーム装置に装填されるとき、上記ゲーム装置が上記所定のキーを読み込んでいる場合には、上記標準ゲームプログラム及び/又はデータと上記拡張ゲームプログラム及び/又はデータの双方によってゲーム装置を作動させることにより、ユーザにとっては、一回の購入金額が適正なシリーズものの記憶媒体を買い揃えてゆくことによって、最終的に極めて豊富な内容のゲームソフトを入手したのと同じになり、メーカにとっては、膨大な内容のゲームソフトを、ユーザが購入しやすい方法で提供できるという効果をもたらすものである。

このように、本件発明A1は、ゲームシステム作動方法の発明であり、その構成及び効果は上記のとおりであるところ、イ-9号方法等は本件発明A1の技術的範囲に属するものであり、イ-9号製品等は、ゲーム装置に装填してゲームを実行するためのゲームソフトであって、本件発明A1の「第2の記憶媒体」に相当する、同発明を実施するために不可欠の物である。そして、前記(1)イのとおり、イ-9号製品等は、本編ディスク(第1の記憶媒体)から所定のキーを読み込むことにより、アペンドディスク(第2の記憶媒体)に記録された標準のゲームプログラム及び/又はデータに加えて、拡張ゲームプログラム及び/又はデータを作動させることができるものであるから、本件発明A1は、イ-9号製品等にとって、相応の重要性を有するものといえる。

また、家庭用ゲーム機などの情報処理装置を対象としたシステム作動方法に関し、本件発明A1の上記技術についての代替技術が存在することはうかがわれない。

c(a)前記bのとおり、本件発明A1は、イ-9号製品等に記録された拡張ゲームプログラム及び/又はデータを作動するに当たり不可欠な技術であるところ、家庭用ゲーム機本体に装着してゲームを楽しむゲームソフトにおけるゲームキャラクタのもつ機能、場面、音響が豊富であることは、通常、需要者の購入動機に影響を与えるものといえる。

そして、被控訴人は、イ-9号製品等を販売するに当たり、製品解説書(甲A5、7、8、10、11)において、MIXJOY機能について紹介し、前作のディスク(本編ディスク)があると本作(アペンドディスク)とのMIXJOYを楽しむことができ、前作のシナリオを本作のキャラクタでプレイしたり、前作では特定のキャラクタとのみ迎えることができたエンディングを全てのキャラクタと迎えることができたりする旨を説明している。

これらの事情を考慮すると、本件発明A1をイ-9号製品等に用いることにより被控訴人の売上げ及び利益に貢献するものと認められる。

(b)他方、証拠(乙A84、94~96、98~101、104~114(枝番号を含む。))及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

① イ-9号製品等のうち、イ-9、16~22、23②及び24ないし34号製品は、被控訴人が開発し、平成12年に販売を開始した「真・三國無双シリーズ」及び同16年に販売を開始した「戦国無双シリーズ」のゲームソフトである。同シリーズのゲームソフトは、ゲームソフト市場において、継続的に上位の販売個数を計上している。

同シリーズの人気の要因は、戦国時代や三国志をモチーフにした歴史アクションゲームであること、キャラクタがフィールドを縦横無尽に駆け巡りながら無数の敵をなぎ倒す爽快感、通常攻撃、チャージ、無双乱舞という攻撃が全てボタンを押すだけの簡単な操作で行えること、武将たちをモチーフとした美形キャラを採用するというキャラクタの魅力などである旨評価されている。

イ-9号製品等の購入時にユーザに対して行ったアンケート結果(乙A84の1~6)では、同製品を購入したきっかけとして、「戦国無双のファンだから」、「三国志のファンだから」、「無双シリーズのファンだから」という点を挙げる者が最も多く、「コーエー(被控訴人)のファンだから」という点を挙げる者も2割程度存在する。

被控訴人は、イ-9号製品等の販売に当たり、テレビコマーシャル、雑誌広告、雑誌記事等により、同製品の宣伝広告を行った。これらの宣伝広告では、前作の本編ディスクを保有することによりMIXJOY機能を使用できることも紹介されているが、全体的に見ると、ゲームのストーリやキャラクターの紹介などに宣伝広告の重点が置かれていた。

② イ-9号製品等のうち、イ-35ないし40号製品は、被控訴人が開発し、平成12年に販売を開始した「遥かなる時空の中で」シリーズのゲームソフトである。「遥かなる時空の中で」シリーズは、女子高校生が日本の過去と類似した異世界に移動し、その世界を舞台として男性と恋愛を成就させることを目的とする、和風ファンタジー恋愛シミュレーションゲームである。同シリーズを含む被控訴人の製作する女性向け恋愛ゲーム「ネオロマンスシリーズ」のゲームソフトは、女性向け恋愛シミュレーションゲームソフトの市場の中で、継続的に上位の販売個数を計上している。

イ号製品の購入時にユーザに対して行ったアンケート結果(乙A106)では、同製品を購入したきっかけとして、「当シリーズのファンだから」という点を挙げる者が最も多く、「ルビーパーティー(被控訴人の社内における女性向けゲーム開発チーム)のファンだから」という点を挙げる者も3割程度存在した。また、「ネオロマンスシリーズ」のユーザーに対するアンケート結果では、購入動機としてキャラクタを挙げる者が半数を超えている。

「遥かなる時空の中で」シリーズは、ゲームソフトの発売に先駆け漫画の連載をスタートし、その販売部数は累計250万部(全14巻中11巻の時点)に達した。被控訴人は、このほかにも、各種イベントの開催、テレビアニメの放映、CD商品、DVD商品の販売などを実施し、上記ゲームソフトの販売促進を図った。

以上によれば、イ-9号製品等は、ゲームのキャラクタや内容、販売方法にそれぞれ工夫があり、そのことが、需要者に対する大きな訴求力となっており、これらと比較すると、本件発明A1のイ-9号製品等の売上への貢献度は、低いものといえる。

加えて、被控訴人がイ-9号製品等を販売するに当たり、MIXJOYの機能として取扱説明書や解説書(甲A5、7、8、10、11、乙A82(枝番号を含む。))に記載したり、宣伝したりする機能(乙A82の1・9頁、乙A82の6・3頁等)のうち、本編ディスク(本件発明A1の「第1の記憶媒体」に相当)のセーブデータを引き継ぐ機能は、本件発明A1に係る機能ではない。

(c)証拠(乙A80、118、119)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

① イ-9号製品等のうち、イ-17ないし19、21、23②、25ないし27、30、32、36、38及び40号製品は、別紙7「売上高(補正後)」の「アイテム内容」欄記載のとおり、本件発明A1の「第2の記憶媒体」に当たるゲームソフト(記憶媒体)のほかに、1個ないし5個の当該ゲームソフトと同一のシリーズ(「真・三國無双シリーズ」、「戦国無双シリーズ」又は「遥かなる時空の中でシリーズ」)のゲームソフト(記憶媒体)が含まれるパッケージ商品である。

② イ-9号製品等のうち、イ-19及び23②号製品には、上記複数のゲームソフトのほかに、「最強データ収録CD-ROM」が付属する。このCD-ROMは、ゲーム本体を行う記憶媒体ではなく、本件発明A1の「第2の記憶媒体」に当たるゲームソフトで使用するデータ(キャラクタの能力値等が最大の状態のデータ)が記録されている。

③ イ-9号製品等のうち、イ-39号製品には、別紙7「売上高(補正後)」の「アイテム内容」欄記載のとおり、本件発明A1の「第2の記憶媒体」に当たるゲームソフトのほかに、グッズ(水野十子原画資料集、スチルイラストアートカード 8枚)が同梱されている。

なお、イ-39号製品の希望小売価格は9800円であり、これと同日付で発売された上記ゲームソフト(イ-35号製品)の希望小売価格は4980円である。

④ イ-9号製品等のうち、イ-40号製品には、別紙7「売上高(補正後)」の「※同梱グッズ」に記載のグッズが同梱されている。

d 控訴人と被控訴人は、いずれもゲーム機器、ソフトウェアの製造、販売等を業とする株式会社であり、競業関係にある。

(ウ)実施に対し受けるべき金銭の額

a 前記(イ)のとおり、本件訴訟において本件特許Aの実際の実施許諾契約の実施料率は現れていないところ、本件特許Aの技術分野が属する分野の近年の統計上の平均的な実施料率が、本件アンケート結果では2.5%(最大値4.5%、最小値0.5%、標準偏差1.5%)であり、同実施料率は正味販売高に対する料率を想定したものであることが認められる。そして、このことを踏まえた上、侵害品に係るゲームソフトにおいては、ゲームのキャラクタや内容、販売方法の工夫等が、その売り上げに大きく貢献していることは否定できないとはいえ、本件発明A1に係る技術も、売上げの向上に相応の貢献をしていると認められることや、本件発明A1の代替となる技術は存在しないこと、控訴人と被控訴人は競業関係にあることなど、本件訴訟に現れた事情を考慮すると、特許権侵害をした者に対して事後的に定められるべき、本件での実施に対し受けるべき料率(以下「本件実施料率A」という。)は、消費税相当額を含む被控訴人の正味販売価格に対し、3.0%を下らないものと認めるのが相当である。

b 被控訴人は、別紙1「販売開始日一覧表」記載の販売開始日から本件特許権Aの存続期間満了日までのイ-9号製品等の売上高(被控訴人の卸売価格)が、別紙7「売上高(補正後)」の「売上高」欄記載のとおりであると主張するところ、イ-9号製品等の売上高(被控訴人の卸売価格)が上記金額を超えるものであることを認めるに足りる証拠はない。そこで、同金額に消費税相当額(5%)を加えた金額を、実施料算定の基礎となる価格とするのが相当である。

もっとも、前記(イ)c(c)のとおり、イ-9号製品等のうちには、本件発明A1の「第2の記憶媒体」に該当するゲームソフトのほかに、1個ないし5個の当該ゲームソフトと同一シリーズのゲームソフト(記憶媒体)が含まれるパッケージ商品も存在するところ、これらのゲームソフトは、本件発明A1についての本件特許権Aを侵害するものではなく、かつ、イ-9号製品等に含まれなくとも、単体で販売の対象となる商品である。また、前記(イ)a(b)のとおり、本件調査報告書には、本件アンケート調査結果の回答及び集計に当たっての前提条件について、特殊な事情(エンタイアマーケットバリュールール(特許技術が製品の一部に使われているだけだとしても、侵害された部品を含む製品全体の単価に基づいて損害額を計算するルール)によるロイヤルティ算定、契約相手の事情など)を捨象したケースであることが記載されている。そうすると、侵害品以外のゲームソフトの価格に相当する部分については、本件実施料率Aを乗じるべき販売価格から控除するのが相当というべきであるから、イ-9号製品等の販売価格を侵害品であるゲームソフトとそれ以外のゲームソフトとの合計数で除したものをもって、本件実施料率Aを乗ずべき売上高とするのが相当である。

また、前記(イ)c(c)のとおり、イ-19及び23②号製品には、本件発明A1の「第2の記憶媒体」に該当するゲームソフトのほかに、「最強データ収録CD-ROM」やグッズが同梱されているものもあるが、上記CD-ROMは、ゲームソフトで使用するデータ(キャラクタの能力値等が最大の状態のデータ)が記録されているに過ぎず、それらが単独で商品として流通するものではないから、当該製品の販売価格全体をもって、本件実施料率Aを乗ずべき売上高とするのが相当である。

他方、イ-39号製品(「遥かなる時空の中で3十六夜記 プレミアムBOX」(希望小売価格9800円))は、同日付で発売されたイ-35号製品(「遥かなる時空の中で3十六夜記」(希望小売価格4980円))に対して、4820円高く価格が設定され、その製品の相違は同梱グッズのみであって、イ-39号製品に含まれる同梱グッズの価格は、おおむね同製品の2分の1に相当するものといえるから、同製品の販売価格の2分の1を本件実施料率Aを乗ずべき売上高とするのが相当である。

さらに、イ-40号製品(「遥かなる時空の中でプレミアムBOXコンプリート」)は、本件発明A1の「第2の記憶媒体」に該当するゲームソフトのほかに、これと同一の「遥かなる時空の中でシリーズ」のゲームソフト5個が含まれるところ、同製品についても、イ-39号製品と同様に、同梱グッズの価格は、これと対応するゲームソフトの価格のおおむね2分の1に相当するものといえる。そうすると、同製品の販売価格の12分の1をもって、本件実施料率Aを乗ずるべき売上高とするのが相当である。

c 以上によれば、本件特許権Aの侵害について、特許法102条3項により算定される損害額は、別紙10のとおり計算され、その合計額は1億1667万3710円となる。

(エ)控訴人の主張について

控訴人は、①本件発明A1及びA2は、イ号製品のユーザにおいて実施されるゲームシステム作動方法であること、イ号製品のような本件特許権Aの間接侵害を構成する製品の製造販売に関する特許権者の許諾は、当該製品がユーザに販売されることを当然の前提とすることなどから、実施料率算定の基礎となるイ-9号製品等の売上高は、被控訴人の卸売価格ではなく小売価格とすべきである、②イ-9号製品等に同梱されるアイテムがある場合でも、イ号製品は、同梱されたアイテムを含む製品全体で一個の商品(販売単位)であり、製品の販売等行為全体が一個の特許権侵害を構成するから、イ-9号製品等の販売価格全体が本件実施料率Aに乗ずべき価格となる旨主張する。

しかしながら、上記①の点については、控訴人の主張を裏付けるに足りる客観的な証拠はない。前記(イ)aのとおり、本件特許Aの技術分野が属する分野の近年の統計上の平均的な実施料率は、正味販売高に対する料率を想定したものであることからすると、実施料算定の元となる売上高は、被控訴人のイ-9号製品等の販売価格、すなわち卸売価格とするのが相当である。

上記②の点については、前記(ウ)bのとおり、イ-9号製品等のうち、本件発明A1の「第2の記憶媒体」に該当するゲームソフト以外のゲームソフトを含むものや、同梱されたグッズが、商品構成や価格構成上、明らかにゲームソフトとは別の価値を有するもの、すなわち、別個の商品として扱われていると判断し得るものについては、これらのゲームソフト及びグッズの価格に相当する金額を本件実施料率Aを乗ずべき価格から控除するのが相当である。控訴人の主張するその余の点も、前記(ウ)の判断を左右するものではない。

(オ)被控訴人の主張について

被控訴人は、①実施料率算定の基礎となるべき正味販売価格に消費税相当額は含まれない、②本件調査報告書によれば、「家具、ゲーム」の技術分野には、「ビデオゲーム」のような全体の一部に特許発明が実施されているもの以外に、「家具」、「カードゲーム、盤上ゲーム、ルーレットゲーム;小遊技動体を用いる室内用ゲーム」も含まれるため、本件特許Aの実施料率は、上記実施料率の平均値(2.5%)より低くなる、③同梱グッズについても、別紙7「売上高(補正後)」記載のとおり、そのアイテム数に応じて売上高を補正すべきである、④本件発明A1は、セーブデータを「所定のキー」とする方法、「拡張ゲームプログラム等」の一部を「所定のキー」とする方法、第2の記憶媒体に「拡張ゲームプログラム等」のみを記憶する方法により、同発明と同様の作用効果を奏しながら、同発明を回避することができる、⑤控訴人は、競業者と特許クロスライセンス契約を締結し、「ライセンスなどの特許権の有効活用を促進」するとしたプレスリリースを公開しており(乙A83の1~3)、むしろ開放的ライセンスポリシーを採用している、⑥イ号製品は、武将やステージを新規に追加するものというよりは、「違った遊びを提供するという概念で開発」されたものであり、本編ディスクではプレイできなかったモードを提供することが主眼となった製品であって、それ単体でも十分楽しめる内容である反面、MIXJOYをすることで可能となるのは、本編ディスクでプレイできたモードやシナリオをアペンドディスクでもプレイできるというものであり、MIXJOYを行う場面は限定されている旨主張する。

しかしながら、上記①の点については、消費税相当額も被控訴人の販売価格の一部としてそれに含まれているものであるから、損害額の算定に当たって消費税相当額を控除すべき理由はない。

上記②の点については、前記(イ)a(a)のとおり、本件アンケート結果を記載した、本件調査報告書の表2-2には、技術分類を「家具、ゲーム」とする特許のロイヤルティ料率の平均は2.5%であり、件数は14件である旨が記載されているものの、アンケート回答者の保有する特許の内容、特許の実施品について、具体的な記載はない。したがって、本件調査報告書の記載からは、本件特許Aの実施料率が、上記実施料率の平均値より低くなると認めることはできない。

上記③の点については、前記(イ)c(c)のとおり、イ-9号製品等に同梱されているグッズは、本件発明A1の「第2の記憶媒体」に相当するゲームソフトの付属物というべきものであって、単独で商品として流通するものではないから、イ-39及び40号製品に同梱されたグッズを除き、当該製品の販売価格全体をもって、本件実施料率Aを乗ずべき売上高とするのが相当である。

上記④の点については、i)前記(5)ウ(エ)のとおり、本件発明A1において、「第1の記憶媒体」及び「第2の記憶媒体」を「セーブデータを記憶可能な記憶媒体を除く」ものとすることは、前作のプレイ実績にかかわらず、後作において拡張ゲームプログラム及び/又はデータによってゲームを楽しむことができるという技術的意義を有するものであり、セーブデータを「所定のキー」とする方法は、本件発明A1と同様の作用効果を奏するものではなく、また、記憶媒体をセーブデータを記憶可能なものにした場合は、大量の記憶容量を有し、安価で大量生産が可能なCD-ROM、DVD-ROM等の読み出し専用メモリーを用いることができなくなること、ii)本件発明A1は、第1の記憶媒体に記憶された「所定のキー」を読み込むだけで、第2の記憶媒体に記録された標準ゲームプログラム及び拡張ゲームプログラムによりゲーム装置を作動させるものであって、装置の作動中に第1の記憶媒体を入れ換え可能なものであるが、「拡張ゲームプログラム等」の一部を「所定のキー」とする方法では、標準ゲームプログラム及び拡張ゲームプログラムによるゲーム装置の作動中に、第1の記憶媒体を装填し続ける必要があること、iii)第2の記憶媒体に「拡張ゲームプログラム等」のみを記憶する方法では、第2の記憶媒体単体で、標準ゲームプログラム及び拡張ゲームプログラムによりゲーム装置を作動させることができないことから、これらの方法が本件発明A1の代替技術であるとはいえない。

上記⑤の点については、たとえ、特許権者が開放的ライセンスポリシーを有しているとしても、そのことは、特許権侵害者に対して事後的に定めるべき実施料率を下げる理由にはならないものというべきである。

上記⑥の点については、前記(イ)c(a)のとおり、本件発明A1によりゲームキャラクタのもつ機能、場面、音響が豊富になるという効果は、通常、需要者の購入動機に影響を与えるものであるといえ、イ-9号製品等においても、MIXJOY機能により、前作のシナリオを本作のキャラクタでプレイしたり、前作では特定のキャラクタとのみ迎えることができたエンディングを全てのキャラクタと迎えることができたりするものであって、被控訴人は製品解説書でかかる機能を紹介し、宣伝しているものである。そうすると、本件発明A1は、これをイ-9号製品等に用いることにより被控訴人の売上及び利益に相応の貢献をするものと認められるものであって、イ-9号製品等が単体でも十分楽しめるものか否かという点や、MIXJOYを行う場面が限定されているか否かという点は、上記判断を左右するものではない。

被控訴人の主張するその余の点も、前記(ウ)の判断を左右するものではない。

イ 小括

以上のとおりであるから、控訴人について、特許法102条3項により算定される損害額に、弁護士費用・弁理士費用を加えた金額が控訴人の損害額と認められる。

そして、被控訴人の不法行為と相当因果関係にある弁護士費用及び弁理士費用は、上記により算定される損害額の約1割である1166万円を下らないと認めるのが相当であるから、控訴人の損害額は、1億2833万3710円(1億1667万3710円+1166万円)である。

2 本件特許権Bについて

(1)争点2-1-1(文言侵害の成否)について

ア 本件明細書Bの記載事項等について

(ア)本件発明B1及びB8の特許請求の範囲(請求項1、8)の記載は、前記第2の2(3)ウのとおりである。

-省略-

(イ)前記(ア)の記載事項によれば、本件明細書Bの発明の詳細な説明には、本件発明B1に関し、次のような開示があることが認められる。

近年、業務用ゲーム機や家庭用ゲーム機等を使用して行われるゲームとして、遊戯者が、ゲーム機の画像出力手段を視認しながら入力手段を操作することにより、自己に対応する仮想人物画像等の行動を制御するものが実用化されている(【0002】、【0003】)。

上記ゲームでは、仮想人物画像等の置かれている状況が変化した場合等に、ゲーム機のスピーカから音響が発せられるものが主流を占めているが、自己と他者とで勝負を決するゲームにおいては、上記音響が他者にも聞こえてしまうため、ゲームの内容が全てオープンとなり、十分なスリル感を味わえなくなるほか、音響が発せられることに起因して、自己のみが知っている情報に基づいて秘密のうちにゲームを進行させることができなくなり、ゲーム製作上の自由度が小さくなるという問題がある。加えて、音声や効果音だけでは、遊戯者は聴覚及び視覚でその雰囲気を味わうにとどまるため、より高度な現実感や十分な迫力等が得られず、娯楽性や面白さに欠けるという難点がある(【0005】~【0007】)。

「本願発明」は、ゲームの進行途中における自己の置かれている状況を、視覚及び聴覚以外の感覚をもって知得できるようにするとともに、相手方に対して秘密状態の下でゲームを進行させることなどを可能にし、これによりゲーム製作上の自由度を増大させ、かつ高度な現実感や十分な迫力が得られる遊戯装置を提供することを課題とする(【0008】)。

「本願発明」の遊戯装置は、遊戯者が操作する入力手段と、この入力手段からの信号に基づいてゲームの進行状態を決定あるいは制御するゲーム進行制御手段と、このゲーム進行制御手段からの信号に基づいて少なくとも遊戯者が上記入力手段を操作することにより変動するキャラクタを含む画像情報を出力する出力手段とを有するゲーム機を備えた遊戯装置であって、上記ゲーム進行制御手段からの信号に基づいて、ゲームの進行途中における遊戯者が操作している上記キャラクタの置かれている状況が特定の状況にあるか否かを判定する特定状況判定手段と、上記特定状況判定手段が特定の状況にあることを判定した時に、上記画像情報からは認識できない情報を、体感振動情報信号として送出する振動情報制御手段と、上記振動情報制御手段からの体感振動情報信号に基づいて振動を生じさせる振動発生手段とを備えたことを特徴とする(【0009】、【0010】)。上記特定状況判定手段は、上記キャラクタの置かれている状況が所定の規則性をもって変化しているか否かを判定するものであり、変化していることが判定された時に、上記振動情報制御手段から上記キャラクタの状況の変化の態様に応じて変化する体感振動情報信号が送出されるように構成されるものでもよい(【0013】)。

「本願発明」は、上記構成を備えることにより、遊戯者が、周囲にその特定の状況を悟られることなく、自己のみが知り得る秘密の状態の下でゲームを進行できるとともに、振動を体感的に知得できることにより迫力や現実感が増大するという効果を奏する(【0025】)。

また、ゲームの状況が所定の規則性に従い変化している場合に、上記特定状況判定手段が特定状況にあると判定し、ゲームの変化の態様に応じた体感振動情報信号、例えば、振動の発生周期(間欠周期)を短くするための体感振動情報信号を送出することにより、遊戯者は一層高度な現実感やスリルを味わえるという効果を奏する(【0031】、【0042】、【0047】)。

イ 技術的範囲の属否について

(ア)構成要件EないしGの意義

a 本件発明B1の特許請求の範囲(請求項1)の記載によれば、「特定の状況」(構成要件E、F)とは、「キャラクタの置かれている状況」であり、当該「状況にあるか否か」を「特定状況判定手段」により判定されるものであること、「振動情報制御手段」(構成要件F、G)とは、「上記特定状況判定手段が特定の状況にあることを判定した時に、上記画像情報からは認識できない情報を、上記キャラクタの置かれてい状況に応じて間欠的に生じる振動の間欠周期を異ならせるための体感振動情報信号として送出する」手段であることを理解できる。

一方、特許請求の範囲には、「特定の状況」について定義した規定はなく、上記「特定の状況」をゲーム中の全場面において「画像情報からは認識できない」状況であると解釈すべき根拠となる記載はない。

また、特許請求の範囲には、「振動情報制御手段」から「送出」される「体感振動情報信号」について、「画像情報からは認識できない情報を、上記キャラクタの置かれている状況に応じて間欠的に生じる振動の間欠周期を異ならせるための」もののみであると解釈すべき根拠となる記載はない。

b 次に、前記ア(イ)のとおり、本件明細書Bの発明の詳細な説明には、「本願発明」の遊戯装置は、遊戯者が操作する入力手段と、この入力手段からの信号に基づいてゲームの進行状態を決定あるいは制御するゲーム進行制御手段と、このゲーム進行制御手段からの信号に基づいて少なくとも遊戯者が上記入力手段を操作することにより変動するキャラクタを含む画像情報を出力する出力手段とを有するゲーム機を備えた遊戯装置であって、上記ゲーム進行制御手段からの信号に基づいて、ゲームの進行途中における遊戯者が操作している上記キャラクタの置かれている状況が特定の状況にあるか否かを判定する特定状況判定手段と、上記特定状況判定手段が特定の状況にあることを判定した時に、上記画像情報からは認識できない情報を、体感振動情報信号として送出する振動情報制御手段と、上記振動情報制御手段からの体感振動情報信号に基づいて振動を生じさせる振動発生手段とを備えるという構成を採用することにより、遊戯者が、周囲にその特定の状況を悟られることなく、自己のみが知り得る秘密の状態の下でゲームを進行できるとともに、振動を体感的に知得できることにより迫力や現実感が増大するという効果を奏すること、また、ゲームの状況が所定の規則性に従い変化している場合に、上記特定状況判定手段が特定状況にあると判定し、ゲームの変化の態様に応じた体感振動情報信号、例えば、振動の発生周期(間欠周期)を短くするための体感振動情報信号を送出することにより、遊戯者は一層高度な現実感やスリルを味わえるという効果を奏することが記載されており、この点に本件発明B1の技術的意義があるものと認められる。

そして、本件発明B1の上記技術的意義に照らすと、上記「特定の状況」をゲーム中の全場面において「画像情報からは認識できない」状況に限定したり、上記「振動情報制御手段」から「送出」される「体感振動情報信号」を、「画像情報からは認識できない情報を、上記キャラクタの置かれている状況に応じて間欠的に生じる振動の間欠周期を異ならせるための」もののみとする必然性はみいだし難い。例えば、ゲーム中のある場面において、キャラクタの置かれている状況が特定の状況にあることを画像情報から認識でき、その情報を体感振動情報信号として送出したとしても、ゲーム中の別の場面では、キャラクタの置かれている状況が上記特定の状況にあることを画像情報から認識できないのであれば、かかる場面において、キャラクタの置かれている状況に応じて間欠的に生じる振動の間欠周期を異ならせるための体感振動情報信号を送出することにより、前記ア(イ)の本件発明B1の効果を奏するといえる。

加えて、本件明細書B全体をみても、「特定の状況」や「振動情報制御手段」から「送出」される「体感振動情報信号」を上記のとおり限定することによって、かかる限定を付さない場合と比して有利な効果を生じるなどの技術的意義があることについて記載も示唆もない。

c 以上の本件発明B1の特許請求の範囲(請求項1)の記載及び本件明細書Bの記載を総合すれば、①「特定の状況」(構成要件E、F)とは、「キャラクタの置かれている状況」であり、当該「状況にあるか否か」を「特定状況判定手段」により判定されるものであって、「上記特定状況判定手段が特定の状況にあることを判定した時に、上記画像情報からは認識できない情報を、上記キャラクタの置かれている状況に応じて間欠的に生じる振動の間欠周期を異ならせるための体感振動情報信号として送出する」ものであれば、その状況が、ゲームの全場面において「画像情報からは認識できない」状況である必要はなく、②「振動情報制御手段」(構成要件F、G)とは、「上記画像情報からは認識できない情報を、上記キャラクタの置かれている状況に応じて間欠的に生じる振動の間欠周期を異ならせるための体感振動情報信号」として「送出」する機能を有するものであれば、当該機能のみを有するものに限定されないと解される。

d これに対し被控訴人は、①構成要件Fは、単に特定の状況にあることを判定した場合に振動を発生させるというものではなく、あくまで、画像情報からは認識できない情報を、体感振動情報信号として送出する制御を行うことが記載されているものであって、かかる振動情報制御手段及び制御方法の構成として考えられるのは、特定状況判定手段が判定する「特定の状況」そのものが「画像情報からは認識できない情報」である場合に限られる、②本件明細書の記載も、ゲーム進行中のある瞬間において画像情報から認識できる情報であっても、別の瞬間においては画像情報から認識できない情報を体感振動情報として送出するような構成は許容しておらず、したがって、「特定の状況」そのものが「画像情報からは認識できない情報」に限定されると解される、③控訴人は、本件特許出願Bの出願審査の際に、請求項2、3等において、「画像情報からは認識できない情報」を体感振動情報信号として送出する振動制御手段に減縮する補正を行うとともに(乙B4の7の4)、意見の内容(乙B4の7の2)の中で「今回の補正の趣旨は要するに、請求項2、3、9、10において、体感振動情報は、請求項1、8の場合と同様、画像情報からは認識できない情報であることを限定したものです。」と述べたものであり、体感振動情報を送出する振動制御手段は、画像情報からは認識できない情報のみであると限定するために、本件発明B1と同様の構成要件を付加したものである旨主張する。

しかしながら、上記①及び②の点については、前記cのとおり、本件発明B1の特許請求の範囲(請求項1)の記載及び本件明細書Bの記載によれば、「特定の状況」は、その状況が、ゲームの全場面において「画像情報からは認識できない」状況である必要はないと解すべきである。

次に、上記③の点については、証拠(乙B4(枝番号を含む。))によれば、控訴人は、当初、特許請求の範囲の請求項2を「上記危険な状態にない時には送出されない情報を、体感振動情報信号として送出する振動情報制御手段」、請求項3を「上記有利な状態にない時には送出されない情報を、体感振動情報信号として送出する振動情報制御手段」としていたところ、本件特許出願Bの出願審査の際に、審査官から、引用例1(乙B6)に危険な状態での体感信号が記載され、引用例2(乙B7)に有利な状態での体感振動が記載されているとして拒絶理由通知を受けたため、請求項2を「上記画像情報からは認識できない情報であって上記危険な状態にない時には送出されない情報を、体感振動情報信号として送出する振動情報制御手段」、請求項3を「上記画像情報からは認識できない情報であって上記有利な状態にない時には送出されない情報を、体感振動情報信号として送出する振動情報制御手段」と補正し、その趣旨は「請求項1、8と同様、画像情報からは認識できない情報であることを限定したものです。」と述べたことが認められる。

そして、上記補正及び意見書の内容全体をみると、同補正は、単に、体感振動情報信号として送出するものを画像情報からは認識できない情報に特定したに過ぎず、ある場面においては画像情報から認識できないが、別の場面においては画像情報からは認識できる情報を体感振動情報信号として送出する構成までを排除したと認めることはできない。

したがって、被控訴人の上記主張は採用することができない。

(イ)ロ号装置の構成要件充足性について

a 証拠(甲B3~5、13~15)及び弁論の全趣旨によれば、ロ号装置の構成は、原判決別紙「ロ号装置説明書(控訴人)」記載のとおりであると認められる。

そして、本件発明B1の構成要件とロ号装置の構成との対比は、原判決別紙「ロ号装置説明書(控訴人)」記載のとおりであるから、ロ号装置は、本件発明B1の構成要件をすべて充足するものであって、本件発明B1の技術的範囲に属するものと認められる。

b これに対し被控訴人は、①ロ号装置においては、ある一場面の画像情報では霊自体やフィラメント発光が確認できない状態で振動自体が発生しているとしても、その場面の前後の画像情報では霊自体、フィラメント発光及びその輝度等によって、キャラクタが霊に接近したこと及びその距離を把握できるから、構成要件Fの「画像情報からは認識できない情報を、…体感振動情報信号として送出する振動情報制御手段」はない。また、ロ号装置では、特定の状況に係る情報が画像情報から認識できなくなる場面は数秒間であって、このようなごく短時間において画像情報から認識できなくなる場合が存在するとしても、「周囲にその特定の状況を悟られることなく、自己のみが知り得る秘密の状態の下でゲームを進行していく」という本件発明B1の作用効果を奏しないから、ロ号装置は構成要件Fを充足しない、②ロ-7ないし9号製品は、ロ-1ないし6号製品と異なり、フィラメント自体の表示という画像情報から認識できる情報によって、キャラクタの近くに霊がいる状況にあることを常に認識できるから、少なくともロ7ないし9号装置は構成要件Fを充足しない旨主張する。

そこで、被控訴人の上記主張について検討する。

(a)認定事実

証拠(甲B8、13~15、21~23、乙B1~3、29~31(枝番号を含む。))及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

① ロ-1ないし3号製品は、プレイヤーが、主人公であるゲームキャラクタを操り、廃墟の「氷室邸」内で、行方不明の兄を捜索するというゲームであり、襲いかかってくる霊を射影機(カメラ)で撮影し、霊の魂を吸収、撃退しながらゲームを進め、霊の攻撃を何回か受けて体力が0になるとゲームオーバーとなる。

キャラクタが怨霊及び浮遊霊に接近したことがプレイヤーに伝達される方法には、フィラメントの赤色点灯、振動、サウンド及び画面上の霊の描写がある。

フィラメントの赤色点灯は、キャラクタの視野270度以内で、キャラクタと霊との距離8m以内の場合に表示され、その範囲内から霊が存在しなくなった場合に消灯する。

振動は、キャラクタの視野360度以内で、霊との距離8m以内の場合に生じ、生じる振動は間欠的であり、キャラクタと霊の距離が近くなると間欠周期が短くなり、遠くなると長くなる。すなわち、振動は、霊がキャラクタの後方90度以内にいるため、赤色灯が点灯しない場合にも発生する。

② ロ-4ないし6号製品は、プレイヤーが、主人公であるゲームキャラクタを操って、迷い込んだ「皆神村」を探索し、村から脱出するための手段を探すというゲームであり、その過程で、上記①のロ-1ないし3号製品と同様に、射影機を使って霊を撮影するものである。キャラクタが怨霊及び浮遊霊に接近したことがプレイヤーに伝達される方法には、フィラメントの赤色点灯、振動、サウンド及び画面上の霊の描写がある。

ロ-4ないし6号製品も、ロ-1ないし3号製品と同様に、キャラクタと霊との距離が8m以内で、画面上に霊が表示されておらず、キャラクタの視野270度以内にない(すなわち霊がキャラクタの後方に存在する)場合には、霊が近くにいることが画面情報から認識することができないが、間欠的な振動は生じており、そのまま霊がキャラクタに近づくと間欠周期が短くなり、遠ざかると長くなる。

③ ロ-7ないし9号製品は、プレイヤーが、主人公であるゲームキャラクタを操り、悪夢で訪れる「眠りの家」を探索し、その謎を解き明かすというゲームであり、その過程で、上記①及び②のロ-1ないし6号製品と同様に、射影機を使って霊を撮影するものである。

キャラクタが怨霊、ランダム怨霊及び浮遊霊に接近したことがプレイヤーに伝達される方法には、フィラメントの表示と赤色点灯、振動、サウンド及び画面上の霊の描写がある。

フィラメントの表示は、キャラクタと霊との距離10m以内の場合に表示され、フィラメントの赤色点灯は、少なくとも霊がキャラクタの後方にいる場合を除き距離8m以内の場合に表示され、その範囲内から霊が存在しなくなった場合には消灯する。なお、被控訴人の従業員が作成した報告書(乙B29)には、上記フィラメントの赤色点灯はキャラクタの視野360度以内で表示される旨の記載があるが、これを裏付ける客観的な証拠は存在しない。むしろ、証拠(甲B8の2(0:40付近)及び甲B23の2(1:30~1:34等))によれば、ロ-7ないし9号製品では、霊がキャラクタの背後にいる場面では、フィラメントの赤色点灯がされていないものと認められる。振動は、キャラクタの視野360度以内で、霊との距離8m以内の場合に生じ、生じる振動は間欠的であり、キャラクタと霊の距離が近くなると間欠周期が短くなり、遠くなると長くなる。

(b)被控訴人の上記①の主張について

前記(ア)のとおり、本件発明B1の「振動情報制御手段」とは、「上記画像情報からは認識できない情報を、上記キャラクタの置かれている状況に応じて間欠的に生じる振動の間欠周期を異ならせるための体感振動情報信号」として「送出」する機能を有するものであれば、当該機能のみを有するものに限定されないと解される。

そして、前記(a)の認定事実によれば、ロ号製品は、いずれも、ゲームキャラクタと霊との距離が8m以内で、画面上に霊が表示されておらず、キャラクタの視野270度以内にない(すなわち霊がキャラクタの後方に存在する)場合には、霊が近くにいることが画面情報から認識することができないが、間欠的な振動は生じており、そのまま霊がキャラクタに近づくと間欠周期が短くなり、遠ざかると長くなるものであると認められるものであるから、ロ号製品が、「画像情報からは認識できない情報を、…体感振動情報信号として送出する振動情報制御手段」を有することは明らかである。

(c)被控訴人の上記②の主張について

ロ-7ないし9号製品についても、ロ-1ないし6号製品と同様に、本件発明B1の「画像情報からは認識できない情報を、…体感振動情報信号として送出する振動情報制御手段」を有することについては、前記(a)③のとおりであるから、ロ-7ないし9号製品についても、ロ-1ないし6号製品と同様に、フィラメントが赤色点灯される視野角度には制限があり、少なくとも霊がキャラクタの後方にいる場合には点灯されないものと認めるのが相当である。

(d)小括

以上によれば、被控訴人の上記主張は採用することができない。

(2)争点2-1-2(間接侵害(特許法101条1号)の成否)について

ロ号製品は、ロ号装置を構成するPlayStation2本体に装填してゲームを実行するためのゲームソフトであり、そうである以上、PlayStation2本体に装填されて使用される用途以外に、社会通念上、経済的、商業的又は実用的な他の用途はない。

したがって、ロ号製品は、ロ号装置の生産にのみ用いる物である。

そして、前記(1)のとおり、ロ号装置は、本件発明B1の技術的範囲に属する遊戯装置であるから、ロ号製品は、物の発明である本件発明B1に係る物の生産にのみ用いる物であると認められる。

これに対し被控訴人は、ロ号製品が装填されたゲーム機が振動機能をOFFにした状態で使用されることがある(乙B5の1、2)から、ロ号製品は本件発明B1に係る物の生産に「のみ」用いる物に当たらない旨主張する。

しかしながら、ロ号装置が物の発明である本件発明B1の各構成要件の構成を備えている以上、ロ号装置においてユーザが機器の振動機能を実際に使用するか否かは、ロ号製品が「その物の生産にのみ用いる物」に当たるか否かの判断を左右し得る事情ではない。

したがって、特許法101条1号に基づき、ロ号製品を製造、販売することは、本件特許権Bを侵害するものとみなされる。

(3)争点2-2-1(「ニンジャウォーリアーズ」というゲームが作動するゲーム装置により公然知られた発明又は公然実施をされた発明に基づく本件発明B1の進歩性の欠如の有無)について

ア 「ニンジャウォーリアーズ」というゲームが作動するゲーム装置により公然知られた発明又は公然実施をされた発明について

「ニンジャウォーリアーズ」は、株式会社タイトーが昭和63年2月下旬に発売した、連続した横3画面による大スクリーンを採用したTVゲーム機であり、そのゲーム内容は、魔力による独裁政治を行う魔王を倒すため、革命派が作ったサイボーグ忍者が活躍するというストーリーであって、ナイフや銃で襲ってくる敵兵等を倒しながらサイボーグ忍者が画面右方向へ進んでいき、背景にスラム街、軍事基地、ビル街等が展開し、ジェット機や戦車なども登場する(乙B12)。

(ア)構成aないしd、g及びhについて

構成aないしd、g及びhが原判決別紙「公知発明b-1の構成(被告主張)」記載のとおりであることについては、当事者間に争いがない。

(イ)構成eについて

証拠(甲B18の1~3、B25)及び弁論の全趣旨によれば、「ニンジャウォーリアーズ」では、ゲームステージ背景の5つ並んだコンテナのうち一番右のコンテナ(5という数字が記されたコンテナ)の右側にある柱がゲーム画面の略中央に位置したときに、ベンチシートの振動が開始することが認められる。そうすると、「ニンジャウォーリアーズ」において、特定状況判定部は、ニンジャキャラクタの近くに戦車が存在する状況にあるか否かを直接判定するものではない。

もっとも、ニンジャキャラクタの画面右方向への移動に合わせて、背景画面が画面の右から左へと一方向のみにスクロ-ルし、一度画面の左端を通過した背景は、ニンジャキャラクタを画面左方向へ移動させても再度表示されないこと(甲B18の1~3)に照らすと、ゲームステージの背景が所定の位置までスクロ-ルした状況にあることを判定するということは、ニンジャキャラクタが当該ステージ位置まで移動した状況を判定することにほかならない。そして、証拠(乙B14~16)によれば、その状況に至ると、戦車の走行による振動を模したベンチシートの振動が開始されることが認められるから、ニンジャキャラクタが当該ステージ位置まで移動したことをもって、戦車が近くにいる状況を判定しているといえる。

そして、構成eのその余の部分については当事者間に争いがない。

したがって、構成eは、原判決別紙「公知発明b-1の構成(被告主張)」記載のとおりであると認められる。

(ウ)構成fについて

証拠(甲B18の1~3、乙B14、16、17)によれば、①「ニンジャウォーリアーズ」のベンチシートの振動開始後、しばらくするとゲーム画面に戦車が現れ、その後、戦車がゲーム画面から消え、間もなくしてベンチシートの振動も停止すること、②この間の振動の状況は、原判決別紙「公知発明bの振動状況」の図のとおりであること、③同図の②の部分の囲み部分では、画面上、砲弾が着弾して爆発しており、そのために振動が微弱になっていることが認められる。そして、被控訴人は、このような振動状況について、同図の②の部分には、同図の①の部分と異なる間欠周期の間欠的に生じる振動がある旨主張する。

そこで検討するに、同図の①の部分では、小刻みに振幅の大きな部分と振幅の微弱な部分とが交互に生じている。しかしながら、一般に体感振動は身体にかかる力の強弱によって生じるものであるところ、本件明細書Bでは、そのような振動の中で振動を間欠的に生じさせるものとそうでないものとがあることが前提とされている(【0042】)ことからすると、本件発明B1における「間欠的に生じる振動」とは、単に強弱が連続するというものではなく、振動がある部分とない部分が連続するものを意味すると解される。そして、このような間欠的に生じる振動の「間欠周期を異ならせる」とは、そのような強弱の連続部分と不連続部分とが繰り返されることにより生じる周期があり、キャラクタの置かれている状況に応じてその周期を異ならせることをいうと解される。そうすると、同図の①の部分の小刻みな振動は、振動の強弱が連続しているに過ぎない継続的な振動であるから、間欠的な振動には当たらないというべきである。この点について、被控訴人は、本件明細書Bの【0047】を指摘して、本件発明B1では小刻みな振動も間欠的な振動とされていると主張するが、上記の検討からすると、同部分の記載の「間欠周期を序々に小さくして」、「間欠周期を序々に大きくして」とは、強弱の連続部分と不連続部分とが繰り返されることにより生じる周期を小さく又は大きくすることを意味すると解するのが相当であるから、被控訴人の主張は採用できない。

したがって、構成fは、「上記特定状況判定部がニンジャキャラクタの近くに戦車が存在する状況にあることを判定した時に、上記画像情報からは認識できないニンジャキャラクタの近くに戦車が存在することをボディソニック駆動情報信号として送出するボディソニック駆動情報制御部と」と認定するのが相当である。

イ 本件発明B1と公知発明b1の対比

本件発明B1と公知発明b1とを対比すると、以下の相違点が存在することが認められる。

(相違点1)

本件発明B1と公知発明b1とは、本件発明B1の「振動情報制御手段」は、「上記特定状況判定手段が特定の状況にあることを判定した時に、上記画像情報からは認識できない情報を、上記キャラクタの置かれている状況に応じて間欠的に生じる振動の間欠周期を異ならせるための体感振動情報信号として送出する」ものであるのに対し、公知発明b1の「ボディソニック駆動情報制御部」は、「上記特定状況判定部がニンジャキャラクタの近くに戦車が存在する状況にあることを判定した時に、上記画像情報からは認識できないニンジャキャラクタの近くに戦車が存在することをボディソニック駆動情報信号として送出する」ものであり、キャラクタの置かれている状況に応じて振動の間欠周期を異ならせるものではない点。

ウ 相違点の容易想到性について

(ア)乙B18記載の発明との組合せ

a 乙B18(実開平6-34693号公報。平成6年5月10日公開)には、次のような記載がある(下記記載中に引用する「図1ないし3」については別紙12を参照)。

-省略-

b 前記aの記載事項によれば、乙B18には、次のような開示があることが認められる。

自らが搭乗して動きを体感する遊戯機、主にレール上を走行する乗り物に適した遊戯機に関し(【0001】)、レール走行車両が受けるレールの継目の瞬時的な振動や、方向転換時の急激な動きといった瞬時的な振動や動きを再現できるように、1つのシリンダで揺動と振動を起こすことが可能な揺動遊戯機であって(【0004】、【0005】)、レール上を走行するトロッコの動きを模し(【0009】)、モニターTVの映像に同期してシートが揺動および振動し、走行時の細かい振動が再現でき、上りや下りの加速や減速も振動の変化により表現可能で、例えば、加速時にはレール継ぎ目の振動の間隔を徐々に縮め、逆に減速時にはその間隔を長くすることにより遊戯者は映像および効果音との相乗効果で、あたかもスピードが変化したかの如くに感じることができ、トロッコがジャンプしたような場合は空中飛行中振動を停止したり、場面の変化に応じて効果的に振動を加える等の手法がとられ、レールがカーブしている場所にくるとレールに合わせたシート3が右傾または左傾し、それも素早い切換えを行うことによりトロッコに振り回されているような感覚を遊戯者に与え、坂の上り下りはシートの前傾・後傾により表現でき、衝突等の急停車時には、前傾させ、突然の坂道などの急加速時には後傾させることなどにより、単純な動きで複数の動きすなわち微振動からローリング、ピッチング等の多種多様な振動を再現できるとともに、特にレール走行車両の動きに近似し臨場感に富むゲームを楽しむことができる遊戯機(【0056】~【0060】)(以下、「本件乙B18発明」という。)。

以上によれば、乙B18には、モニターTVの映像との相乗効果により、トロッコのスピードの変化をレール継ぎ目の振動の間隔を変化させることにより表現し、臨場感を表すことが開示されている。

一方、上記のようなトロッコのスピードの変化はモニターTVの映像で認識できるものであるから、乙B18における振動は、画像情報からは認識できない情報に基づいたものとはいえない。

したがって、乙B18は、相違点1に係る本件発明B1の構成、すなわち、「上記特定状況判定手段が特定の状況にあることを判定した時に、上記画像情報からは認識できない情報を、上記キャラクタの置かれている状況に応じて間欠的に生じる振動の間欠周期を異ならせるための体感振動情報信号として送出する」を開示するものではない。

c 公知発明b1のボディソニック駆動による振動は、右から左方にスクロールする背景画像のうち柱がゲーム画面中央に到達した時に開始し、ゲーム画面右方向から戦車がフレームインし、その後、ゲーム画面左方にフレームアウトしてから所定時間経過後に停止するものである(乙B14、乙B16、甲B18(枝番号を含む。))。かかる振動は、戦車がゲームステージに登場することに対応して発生することにより、戦車の走行音を発生させるとともに、走行による戦車の「地響き」が発生している状態を表現し、プレーヤーが臨場感や高度の現実感を得られるようにすることを目的としていることは明らかである。戦車は、無限軌道により地面を走行するのであるから、走行による地響きは継続的なものと認められる。

他方、本件乙B18発明は、レール上を走行するトロッコにおいて、レールの継ぎ目ごとに振動が発生し、その振動が発生する時間間隔が速度によって変化するという性質を利用して、それをゲーム上で再現することにより、映像及び効果音との相乗効果によりゲームの臨場感を高めたものである。

そうすると、トロッコのスピードの変化をレールの継ぎ目による振動の時間間隔の変化により表す本件乙B18発明を、レール上で走行するという前提を離れて、地面を無限軌道により走行する戦車の地響きに適用することは容易でないというべきであり、公知発明b1と本件乙B18発明とに基づいて、キャラクタの置かれている状況に応じて振動の間欠周期を異ならせることを当業者が容易に想到し得たとはいえない。

d これに対し被控訴人は、①公知発明b1と本件乙B18発明とは、キャラクタの置かれた状況に応じた振動を発生させることで臨場感のあるゲームを提供するという作用・機能において、更には、画像情報から認識できない情報を体感振動信号として振動発生手段に送出するという作用・機能においても一致する旨、②戦車が停止している時は、本来であれば、戦車の走行による地響きも発生しないのが自然であるから、戦車の走行による地響きは、間欠的な振動の間欠周期が異なることと親和性がある旨、③道路上で走行する車両の振動が間欠的である(乙B41)旨主張する。

まず、上記①の点については、前記bのとおり、本件乙B18発明は、トロッコの動きに近似し臨場感に富むゲームを楽しむものであって、トロッコの速度をレールの継ぎ目の通過の振動で近似したのであり、トロッコの速度はモニターTVの映像により認識可能であるから、画像情報から認識できない情報を体感振動信号として振動発生手段に送出するものではなく、この点において公知発明b1とは決定的に異なる。

次に、上記②の点については、戦車が走行している時に振動を発生させ、戦車が走行していない時に振動を発生させないようにするということは、戦車が走行しているか走行していないかにより振動を発生させるか、発生させないかを制御しているのであり、キャラクタの置かれている状況に応じて間欠的に振動を生じさせるものでもないし、間欠的に生じる振動の間欠周期を異ならせるものでもない。

さらに、上記③の点については、乙B41は、振動公害問題としての道路交通振動を、道路際のある地点で複数の車両が走行する状態で振動を測定した結果、その地点の道路の振動が間欠的であることを示したものであり、車両の走行が示す振動が間欠的であることを示したものではなく、公知発明b1における戦車の走行による地響きを示す振動とは関係がない。

以上のとおり、被控訴人の上記主張はいずれも採用することができない。

(イ)「キャラクタの置かれている状況に応じて間欠的に生じる振動の間欠周期を異ならせる」周知技術との組合せ

a 乙B6について

(a)乙B6(特開平5-192449号公報)には、次のような記載がある。

-省略-

(b)前記(a)の記載事項によれば、乙B6には、ビデオ式銃撃戦ゲーム装置において(【0001】)、プレイヤが被弾を直接体感できるように(【0005】)、模擬銃又はその支持装置に振動発生装置を設けると共に、被弾信号が発生したときは一定時間その振動発生装置を作動させる回路を設け(【0006】)、敵が発射した弾丸がプレイヤに命中すると、振動発生装置が起動され、模擬銃に強い振動が与えられ(【0020】)、プレイヤの銃が左右に激しく振動し、プレイヤの被ったダメージに応じて予め定められた時間が経過すると、振動発生装置がOFFとなり、模擬銃の振動が停止する(【0021】)ことが開示されている。

一方、乙B6に開示されているのは、キャラクタが被弾したときに、プレイヤの被ったダメージの程度により、一定時間振動を継続させる技術であって、その振動を間欠的にさせる技術ではない。敵が発射した弾丸の命中が間欠的であることにより、結果的に銃の振動が間欠的に生じることがあるとしても、かかる技術は、キャラクタの置かれている状況に応じて、振動の間欠周期を異ならせた体感振動を生じさせる技術とは異なるものである。

また、弾丸の命中は、ディスプレイ装置の画面で爆発パターンにより認識できるから(【0020】)、被弾によりプレイヤの被ったダメージの程度は、画像情報からは認識できない情報ではない。

したがって、乙B6には、本件発明B1の「上記画像情報からは認識できない情報を、上記キャラクタの置かれている状況に応じて間欠的に生じる振動の間欠周期を異ならせるための体感振動情報信号として送出する振動情報制御手段」に相当する構成の開示があるとは認められない。

(c)これに対し被控訴人は、「敵が正しくプレイヤーに向けて銃撃を行ったとされる場合」は、ゲーム中に、止んで、また起きるから、「模擬銃4」に与えられる「振動」も、止んで、また起こるものであり、この「振動」が発生する間隔(周期)は、一定ではなく異なる、すなわち、「模擬銃4」に与えられる「振動」の間欠周期は異なる旨主張するが、この技術が、キャラクタの状況に応じて、振動の間欠周期を異ならせるものではないことは、前記(b)で指摘したとおりである。

したがって、被控訴人の上記主張は採用することができない。

b 乙B19について

(a)乙B19(実開平5-58184号公報)には、次のような記載がある。

-省略-

(b)前記(a)の記載事項によれば、乙B19には、ビデオ表示面における自動車を走行させて運転技術を競うドライブビデオゲーム機のステアリングホイール振動装置に関し(【0001】)、ステアリングホイール4へのモーター13の反復駆動では、高速な振動が与えられず、また実際の本物の自動車操作におけるステアリングホイールの振動感とは全く違った感じしか得られないという問題等を解決することを目的とし(【0009】、【0010】)、スプリングによる軸方向への押圧力をセンタリングカムを介して回転方向の揺動運動に変換するという構成を採用することにより、実際の本物の自動車走行におけるような感じの高速な振動が得られ(【0026】)、ビデオ表示面でプレーヤーの自動車が他の自動車、他の物体に衝突したり、悪路を走行したり、コーナーをするどく曲がったりするようなゲーム状況に応じて、制御装置でモーターの駆動の早さ、時間などを制御すれば、ステアリングホイールに強弱、時間の長さを選んで回転方向の振動を与えることができる(【0024】)ことが記載されている。

このように、乙B19に開示されているのは、プレーヤーの自動車が他の自動車、他の物体に衝突したり、悪路を走行したり、コーナーをするどく曲がったりしたときに、そのようなゲーム状況に応じて、ステアリングホイールに与えられる振動の強弱、時間の長さを選択して制御する技術であって、その振動を間欠的にするよう制御する技術ではない。

また、自動車の衝突、悪路、コーナーなどのゲームの状況はビデオ表示画面で認識できるから(【0024】)、プレーヤーの自動車が他の自動車、他の物体に衝突したりするなどのゲーム状況は、画像情報からは認識できない情報ではない。

したがって、乙B19には、本件発明B1の「上記画像情報からは認識できない情報を、上記キャラクタの置かれている状況に応じて間欠的に生じる振動の間欠周期を異ならせるための体感振動情報信号として送出する振動情報制御手段」に相当する構成の開示があるとは認められない。

(c)これに対し被控訴人は、ステアリングホイールの振動は、不規則に発生したり止まったりする、間欠的に生じる振動であることは明らかであり、例えば、ステアリングホイールの第1の振動が発生した時刻から、第2の振動が発生する時刻までが、間欠周期の第1の周期であり、該第2の振動が発生した時刻から、第3の振動が発生する時刻までが、第2の周期であるところ、第1の周期と第2の周期は通常異なるから、ステアリングホイールの振動の間欠周期が異なることとなることは自明である旨主張する。

しかしながら、仮に、ステアリングホイールの第1の振動が発生した時刻から第2の振動が発生する時刻までを第1の周期とし、該第2の振動が発生した時刻から第3の振動が発生する時刻までを第2の周期とした場合に、第1の周期と第2の周期とが異なるとしても、前記a(c)と同様に、かかる技術は、特定のゲーム状況(例えば、他の自動車に衝突した場合、他の物体に衝突した場合、悪路を走行している場合、コーナーをするどく曲がっている場合)に応じて、「ステアリングホイール23」に与える振動の「間欠周期」を異ならせているものとはいえない。

したがって、被控訴人の上記主張は採用できない。

c 乙B20について

(a)乙B20(特開平5-277258号公報)には、次のような記載がある。

-省略-

(b)前記(a)の記載事項によれば、乙B20には、ステアリングホイールの回転操作によりビデオゲーム装置の表示画面上の車両映像が左右に操舵され、または車両外映像が左右に変化するビデオゲーム装置において、エアシリンダーとアクチエータとを用いた機構により、ビデオゲーム装置の表示画面上の自動車映像又は自動外映像で自動車の車速がある限度を越えた場合、又は映像上の路面が凸凹となった場合には、ステアリングホイールを振動させる状態を発生させ、キックバックも発生させることができるため、プレーヤは実際に自動車を運転したと同様な運転感覚を持つことができる(【0001】、【0024】、【0031】)ことが開示されている。

このように、乙B20に開示されているのは、ビデオゲーム装置の表示画面上の路面が凹凸になった場合等に、ステアリングホイールに振動を発生させるという技術であって、その振動を間欠的にする情報を送る技術ではない。凹凸の路面が断続的であることにより、結果的に振動が間欠的に起こることがあるとしても、かかる技術は、キャラクタの置かれている状況に応じて、振動の間欠周期を異ならせた体感振動を生じさせる技術とは異なるものである。

また、路面の状況は表示画面で認識することができるから(【0024】)、乙B20における振動は、画像情報からは認識できない情報ではない。

したがって、乙B20には、本件発明B1の「上記画像情報からは認識できない情報を、上記キャラクタの置かれている状況に応じて間欠的に生じる振動の間欠周期を異ならせるための体感振動情報信号として送出する振動情報制御手段」に相当する構成の開示があるとは認められない。

(c)これに対し被控訴人は、「自動車の車速がある限度を越えた場合」又は「路面が凸凹となった場合」が発生する事象は、ゲーム中において間欠的に起こり、その発生間隔(すなわち周期)は異なること、すなわち、ステアリングホイールの振動の間欠周期が異なることは自明である旨主張するが、これが、キャラクタの置かれた状況に応じて、振動の間欠周期を異ならせているものではないことは、前記(b)で指摘したとおりである。

また、被控訴人は、乙B20の【0011】の記載を根拠に、乙B20が振動の発生の有無を間欠的に切り換えることができる技術を開示しており、間欠周期の異なる振動を発生させていることは明らかである旨主張するが、同段落には、2本の往復動アクチエータの両ポートに圧力流体を選択的に供給するとともにこの供給状態を間欠的に切り換えることにより、ステアリングホイールに振動状態を与えることが記載されているのであり、振動の有無を間欠的に切り換えるものではない。

したがって、被控訴人の上記主張は採用できない。

d 相違点の容易想到性について

被控訴人は、乙B6及び18ないし20に「キャラクタの置かれている状況に応じて間欠的に生じる振動の間欠周期を異ならせる」技術が開示されていることから、同技術は周知であって(周知技術1)、公知発明b1に周知技術1を組み合わせることにより、本件相違点に係る本件発明1の構成を容易に想到することができた旨主張する。しかしながら、前記aないしcのとおり、乙B6、19及び20に「キャラクタの置かれている状況に応じて間欠的に生じる振動の間欠周期を異ならせる」技術が開示されていると認めることはできないから、同技術が本件出願B当時に周知であったと認めることはできない。

したがって、被控訴人の上記主張は、その前提を欠くものであり、失当である。

(ウ)「キャラクタの置かれている状況に応じて振動の種類を異ならせる」周知技術との組合せ

a 乙B7、24、39及び40について

(a)乙B7(特開昭63-174681号公報)には、遊戯者の操作に対して魚からの「当たり」や「引き」に相当する反応が遊戯者に体感されるようにして、視覚的にも体感的にも実際の釣りの感覚を楽しむことができる遊戯機に関し、制御部は、記憶手段に記憶されている釣り条件と各検出信号とから、釣り上げ成功や釣り上げ途中等の釣り状況を判断し、その釣り状況に対応して揺動負荷手段や回転負荷手段を駆動し、遊戯者に、模倣竿やリール回転ハンドルを通じて釣り状況に応じた反応を伝え、釣り状況に対応した画像信号を作成して表示器に送出することにより、遊戯者は表示器の画面を通じて視覚的に釣り状況を把握することができる釣り遊技機が記載されている(2頁右上欄15行~左下欄10行等)。

(b)乙B24(特開平4-8381号公報)には、高速ドライブや宇宙戦争に擬して変化する画面に対応しつつ所定の操作を行い、操縦テクニックや射撃感覚を楽しむ体感ゲーム機に関し、遊戯者の正面手前の見やすい角度に追尾スコープ8を位置させ、一定速度で回転する背景映像Tの前面で、目標映像4を、揺動手段6によって上下左右に不規則揺動させ、遊戯者は体感レバー10を両手で把持し、追尾スコープ8の照準マークM1と目標映像4のターゲットマークM2が一致するよう、追尾体7を適宜揺動させ、マークM1とマークM2が一致しそうになったら、トリガ部材9の発射ボタン9aを押圧すると、部材9b、9c、9d、9e、を介して、部材9fがスイッチ5の押圧部材5aに向けて押圧され、この時、部材9fと部材5aの中心線が不一致であると、ミサイル発射音が生じるとともに、偏心量S1の小振幅振動を体感レバー10に伝達し、一方、部材9fと部材5aの中心線が首尾よく一致すると、命中モードにスイッチオンするとともに、背景映像T及び目標映像4が急峻に明るくなると同時に爆発音を生じ、体感レバー10に大振幅を伝達する体感ゲーム機が記載されている(1頁左欄17行~2頁右欄10行等)。

(c)乙B39(特開平5-303324号公報)には、搭乗して模擬運転を楽しむことができる運転玩具に関し、スイッチキー9をオンすると、運転玩具1が起動され、風景表示装置6に風景が静止した状態で映し出され、この状態からプレイヤーがアクセルペダル8を踏み込むと、前記風景が連続的に移り変わり、風景内を走っているかのイメージがプレイヤーの頭の中に惹起され、ハンドル5を左右に回転させると、ベース2に対して車体4がハンドル5の回転方向に旋回するとともに、風景表示装置6に表示された風景がハンドル5の回転方向とは反対に動き、風景内を曲線走行しているかのイメージがプレイヤーの頭の中に惹起され、アクセルペダル8の踏込み量によって振動の大きさを変え、アイドリング状態のときは振動が大きく、アクセルペダル8を踏み込んで走行したときには振動が小さくなる運転玩具が記載されている(【0014】~【0016】、【0025】、【0028】)。

(d)乙B40(実開平5-84385号公報)には、遊戯者がシート2に座ってゲーム画面3を見ながらハンドル4、シフトレバー5、およびアクセル、ブレーキ等のペダル6を操作することによってゲーム展開を行うテレビゲーム機において、シート下方に振動を発生させるモータ12を有する振動ユニット10を設け、モータ12の回転速度を可変可能に制御すれば、種々の周期で振動を行なうことができ、モータの回転動作を往復直線動作に変換してシートに伝えることができる構成なので、遊戯者の操作、又はゲーム画面に従って、シート全体を振動させ、遊戯者により臨場感を与えることができるテレビゲーム機が記載されている(【0001】、【0002】、【0005】、【0009】、【0010】、【0012】、【0016】、【0017】)。

(e)以上のとおり、乙B7、24、39及び40には、いずれも、ゲームの画面に連動させて振動を起こし、プレーヤに臨場感を与えるゲーム装置が記載されている。

b 相違点の容易想到性について

前記(ア)a、前記(イ)aないしc及び前記aのとおり、乙B6、7、18ないし20、24、39及び40には、「ゲームの状況に応じ、ゲームの画面に連動させて体感振動を与える技術」が開示されていることから、同技術は本件出願B当時に周知のものであった(周知技術2)と認められる。

そして、被控訴人は、振動の種類を異ならせる手段として間欠的に生じる振動の間欠周期を異ならせることは、複数ある選択肢のうちの一つを選択したという意味しかなく、状況に応じて振動の大きさ(強弱)を異ならせる技術(周知技術2)が開示されていれば、振動の種類を異ならせるために、間欠的に生じる振動の間欠周期を異ならせることは、実質的な相違点ではなく、当業者であれば適宜選択できる設計的事項に過ぎない旨主張する。

しかしながら、そもそも、周知技術2は、ゲーム画面と連動させて振動を変化させる技術であって、この点において、画面からは認識できない情報を体感振動として伝える公知発明b1とは決定的に異なるから、両者を組み合わせることはできないものというべきである。

加えて、本件発明B1の「キャラクタの置かれている状況に応じて間欠的に生じる振動の間欠周期を異ならせるための体感振動情報信号として送出する振動情報制御手段」について、本件明細書Bには、「ゲームの変化の態様に応じた体感振動情報信号、たとえば遊戯者の置かれている状況の危険度が大きくなるにつれて振動の振幅を大きくしたり、あるいは振動の発生周期を短くするための体感振動情報信号が送出される。これにより、遊戯者は一層高度な現実感やスリル感を味わえることになる。」(【0031】)、「このようにして危険な状況の判定がなされた場合には、上記特定状況判定手段32からの信号に基づいて上記振動情報制御手段33が音響信号aに対して所定の制御を施し、耳に聞こえない低周波領域の音響信号を体感振動情報信号cとして音響体感器1のスピーカ6に送出する。この場合、上記特定状況判定手段32は、キャラクタ41が地雷Xに近づいているか、あるいは遠ざかっているかを判定し、近づいている場合には、その離間距離が短くなるにつれて上記低周波領域の音響信号の間欠周期を序々に小さくして振動が頻繁に生じるようにし、逆に遠ざかっている場合には、その離間距離が長くなるにつれて上記間欠周期を序々に大きくして振動の発生頻度を低下させるようにしてもよい。すなわち、地雷Xに対する接近度合いと心臓の鼓動とが一致したような雰囲気を味わえるようにするのである。」(【0047】)と記載されている。

そうすると、本件発明B1において、体感振動情報信号として、間欠周期を異ならせることは、遊戯者に危険度の大きさを実感させることにより一層高度な現実感やスリル感を味わわせ、さらに危険への接近度合いと心臓の鼓動とが一致したような雰囲気を味わわせるという、単に振動の振幅を異ならせることとは異なる作用効果を奏するから、公知発明b1において、ニンジャキャラクタの置かれた状況に応じて振幅を異ならせることと、本件発明Bにおける間欠的に生じる振動の間欠周期を異ならせることとが、実質的な相違点でないとか、当業者が適宜選択できる設計的事項であるということはできない。

したがって、被控訴人の上記主張は、採用することができない。

(4)争点2-3(控訴人の損害の有無及び損害額)について

ア 認定事実

(ア)本件特許Bについての実際の実施許諾契約の実施料率は、本件訴訟に現れていない。

そして、本件特許Bの技術分野が属する分野の近年の統計上の平均的な実施料率について、前記1(7)のとおりの事実が認められる。

(イ)前記(1)アのとおり、本件発明B1の遊戯装置は、ゲーム進行制御手段からの信号に基づいて、ゲームの進行途中における遊戯者が操作しているキャラクタの置かれている状況が特定の状況にあるか否かを判定する特定状況判定手段と、上記特定状況判定手段が特定の状況にあることを判定した時に、画像情報からは認識できない情報を、体感振動情報信号として送出する振動情報制御手段と、上記振動情報制御手段からの体感振動情報信号に基づいて振動を生じさせる振動発生手段とを備えたことを特徴とするものであり、かかる構成を備えることにより、遊戯者が、周囲にその特定の状況を悟られることなく、自己のみが知り得る秘密の状態の下でゲームを進行できるとともに、振動を体感的に知得できることにより迫力や現実感が増大するという効果をもたらし、また、ゲームの状況が所定の規則性に従い変化している場合に、上記特定状況判定手段が特定状況にあると判定し、ゲームの変化の態様に応じた体感振動情報信号、例えば、振動の発生周期(間欠周期)を短くするための体感振動情報信号を送出することにより、遊戯者は一層高度な現実感やスリルを味わえるという効果をもたらすものである。

このように、本件発明B1は、遊戯装置の発明であり、その構成及び効果は上記のとおりであるところ、ロ号装置は本件発明B1の技術的範囲に属するものであり、ロ号製品は、ロ号装置を構成するPlayStation2本体に装填してゲームを実行するためのゲームソフトである。そして、前記(1)イのとおり、ロ号製品は、プレイヤーが、主人公であるゲームキャラクタを操り、キャラクタに襲いかかってくる霊を射影機(カメラ)で撮影し、霊の魂を吸収、撃退しながらゲームを進め、霊の攻撃を何回か受けて体力が0になるとゲームオーバーとなるものであるから、霊を撮影する際の場面に関する本件発明B1は、ロ号製品にとって、相応の重要性を有するものといえる。

他方、ロ号製品において本件発明B1の作用効果が発揮される場は、キャラクタの近くに霊が存在するが、画面上霊の存在を認識することができず、かつ、フィラメントが発光していないという状況下で、キャラクタと霊との距離に応じて間欠周期の異なる間欠的な振動が発生する場面である。このような場面は、前記(1)イのとおり、ロ号製品において生じ得るものの、キャラクタと霊との位置関係、フィラメントの点灯範囲及び振動の発生範囲に照らせば、そのような場面が生じるのは、霊を撮影しようとする場面の中の一部に限られるものと考えられることからすると、ロ号製品にとって、本件発明B1の重要性は、さほど高いものではなく、イ-9号製品等における本件発明Aの重要性に比べても、その価値は低いものというべきである。

もっとも、ロ号製品は、プレイヤーが、主人公であるゲームキャラクタを操り、キャラクタに襲いかかってくる霊を射影機(カメラ)で撮影し、霊の魂を吸収、撃退しながらゲームを進めるものであることからすると、プレイヤーにとって、キャラクタと霊との距離を常に把握しておくことは重要であり、画像情報からは霊の存在を認識できない場合にも、間欠周期の異なる間欠的な振動により霊との距離を認識することができるという本件発明B1の効果は、ゲームを進める上で相応の重要性を有するものであるといえる。そのため、ロ号製品における本件発明B1の重要性を過度に低く評価するのは相当でない。

また、業務用ゲーム機や家庭用ゲーム機における、ゲームの進行状態に応じてその遊戯者に振動を体感的に伝達するように構成された遊戯装置に関し、本件発明B1の上記技術についての代替技術が存在することはうかがわれない。

(ウ)前記(イ)のとおり、本件発明B1は、ロ号製品のゲームにとって重要な意味を有する霊の撮影の場面に使用される技術であるところ、この点は需要者の購入動機に影響を与えるものであるから、本件発明B1をロ号製品に用いることにより被控訴人の売上げ及び利益に貢献するものと認められる。

一方、証拠(甲B13、乙B32の11、23、乙B33~35)によれば、ロ号製品は、射影機(カメラ)によって霊を倒すという独自の設定、和にこだわったビジュアル、音による演出、ゲームキャラクタが、需要者に対する大きな訴求力となっており、これらと比較すると、本件発明B1のロ号製品の売上への貢献度は低いものと認められる。

(エ)控訴人と被控訴人は、いずれもゲーム機器、ソフトウェアの製造、販売等を業とする株式会社であり、競業関係にある。

イ 実施に対し受けるべき金銭の額

前記アのとおり、本件訴訟において本件特許Bの実際の実施許諾契約の実施料率は現れていないところ、本件特許Bの技術分野が属する分野の近年の統計上の平均的な実施料率が、本件アンケート結果では2.5%(最大値4.5%、最小値0.5%、標準偏差1.5%)である。このことに加え、本件発明B1に係る技術は、侵害品であるゲームソフトにとってそれなりに意味を有するものであり、かつ代替性もないものであるとはいえ、ロ号製品の売上げ及び利益への貢献度は、同製品の設定、ビジュアル、演出、キャラクターなど訴求力の高いものと比較すると低く、イー9号製品等における本件発明Aの重要性と比べても、その価値は低いものであること、控訴人と被控訴人は競業関係にあることなど、本件訴訟に現れた事情を考慮すると、特許権侵害をした者に対して事後的に定められるべき、本件での実施に対し受けるべき料率は1.5%を下らないものと認めるのが相当である。

したがって、本件特許権Bの侵害について、特許法102条3項により算定される損害額は、1410万円(9億4000万円×1.5%)となる。

ウ 小括

以上のとおりであるから、控訴人について、特許法102条3項により算定される損害額に、弁護士費用・弁理士費用を加えた金額が控訴人の損害額と認められる。

そして、被控訴人の不法行為と相当因果関係にある弁護士費用及び弁理士費用は、上記により算定される損害額の1割に当たる141万円を下らないと認めるのが相当であるから、控訴人の損害額は、1551万円(1410万円+141万円)である。

3 まとめ

(1)前記1によれば、控訴人の本件特許権Aに係る請求は、本件発明A1についての本件特許権Aの間接侵害の不法行為に基づき、1億2833万3710円及びこれに対する不法行為の後である平成26年7月11日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。

そして、控訴人は、本件発明A2についての本件特許権Aの間接侵害の不法行為及び実施行為の惹起行為による不法行為に基づく損害賠償請求も選択的に行うが、仮にこれらの不法行為が認められるとしても、それにより認められる損害額は上記の額を超えないと認められるから、それらについては判断の必要がない。

(2)前記2によれば、控訴人の本件特許権Bに係る請求は、本件発明B1についての本件特許権Bの間接侵害の不法行為に基づき、1551万円及びこれに対する不法行為の後である平成26年7月11日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。

そして、控訴人は、本件発明B8についての本件特許権Bの間接侵害の不法行為及び実施行為の惹起行為による不法行為に基づく損害賠償請求も選択的に行うが、仮にこれらの不法行為が認められるとしても、それにより認められる損害額は上記の額を超えないと認められるから、それらについては判断の必要がない。

(3)以上によれば、控訴人は、被控訴人に対し、特許権侵害の不法行為による損害賠償請求権に基づき、前記(1)と(2)の合計額1億4384万3710円及びこれに対する平成26年7月11日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求めることができる。

したがって、控訴人の請求は、上記限度で理由がある。