平成28年(ネ)第10092号 特許権侵害差止等請求控訴事件(その3)

投稿日: 2017/01/29 1:42:07

今年の1月17日に判決言い渡しがあった侵害訴訟事件について検討最後です。

今日は、判決を参考にして、原告勝訴になる明細書が作成できるのか?検討してみたいと思います。

1.クレーム解釈のポイント整理

今回の判決では明細書の解決すべき課題や発明の効果の記載内容を根拠に請求項1が解釈されました。そのため解決すべき課題の整理を行います。

この表を見て明らかなように請求項1は複数の課題を解決する手段として構成されています。そのうちの一つである空気が膨張するという課題はコーナークッション材の裏面側に開放部分を設け、そこから膨張した空気を放出することで解決しています。一方、粘着剤に皺やたるみが生じるという課題はコーナークッションの裏面側の幅方向中央部分を帯状に露出した状態にして粘着剤が位置しないようにすることで解決しています。おそらく明細書作成時にコーナークッション裏面側に設けた開放部分(露出部分)により両方の作用効果を生じるため、このようにしたのでは?と推測されます。この部分が今回の判決に影響を与えたことは間違いありません。

2.課題と請求項の関係についての検討

このような判決の内容を読んだ場合に請求項1を上位概念化していれば侵害と判断された可能性があると論ずる方もいます。しかし、膨張した空気を放出するための開放部分は裏面側のどこに設けても構いませんが、皺やたるみを防止するにはコーナークッションの曲がる部分に粘着剤が設けられた構造では成立しないので、単に請求項を上位概念化してもサポート要件違反になります。

したがって、課題と請求項が一対一で対応するように構成するようにする必要があります。つまり、出願当初の請求項1が解決する課題を空気の膨張を防ぐだけにするというものです。この場合、今回の被告製品の粘着剤をコーナークッション内部の空気が通過できるのかが争いになります。

また、4つの課題を解決する手段間に技術的な関連性がありません。このような発明の場合、それぞれを独立項にしても発明の単一性の要件を満たさないので、別出願にする必要があります。結果論になりますが、請求項1には空気の膨張防止や皺やたるみ防止には不要な構成である「短尺クッション材」という文言が入っています。しかし、今回の被告製品のみならず判定対象とした製品もすべて短尺クッション材を備えていることから、複数の独立空間に短尺クッション材を収納してカット時に開口部ができないようにするという発明が最も画期的な発明であったと思われます。

いずれにせよ、解決すべき課題、請求項、効果の3つはすべてが関連するので権利行使を念頭に置いた場合には明細書作成時に注意して書くべきものです。