煙感知器事件

投稿日: 2019/08/23 23:41:30

今日は、平成30年(行ケ)第10055号 審決取消請求事件について検討します。これは無効2016-800079号事件において、特許第4010455号の請求項1ないし6、8に係る発明についての特許を無効とする、との審決の取消しを特許無効審判の被請求人(特許権者)が求めて提起したものです。

 

1.検討結果

(1)本件発明は、第1発光素子が発生する第1波長(λ1)を有する光の散乱光と、第2発光素子が発生する第2波長(λ2)を有する光の散乱光とを受光する受光素子を備え、第1発光素子の光軸と受光素子の光軸がなす第1散乱角(θ1)より第2発光素子の光軸と受光素子の光軸がなす第2散乱角(θ2)の方が大きくなるように設定されているとともに第1波長(λ1)より第2波長(λ2)の方が短くなるように設定された、というものです。

(2)特許無効審判の審決は、本件発明1~6、8について甲1文献(WO01/059737)記載の引用発明及び甲3、5~11文献に基づき当業者が容易に想到することができたものであり進歩性を欠く、というものであり、この審決を不服として特許権者が本件審決取消訴訟を起こしました。

(3)審決では、引用発明には構成要件Dである第1照明の波長と第2照明の波長のいずれが短いか特定されていないが、引用発明は他の構成要件は有している、と認定しました。これに対して原告(特許権者)は、審決取消訴訟で引用発明は構成要件Eを有していない、と主張しました。これは、引用発明の各光源は、対応する大きさの粒子サイズを検知するための光源であり、長波長光の振幅信号と短波長光の振幅信号との比をとったり、比較したりしておらず、審決において合議体が引用発明は構成要件Eを備えていると認定した根拠となる記載については、甲1文献に記載されたレイリーの理論と矛盾する内容であるというものです。

(4)本判決は、審決において甲1文献の技術内容についてレイリーの理論と整合性が取れない、と認定し、さらに審決で適用されたミー散乱領域に関する理論に基づいても甲1文献の技術内容を明らかにできない、として審決を取消しました。つまり、甲1文献の記載内容が技術的に誤っている、と認定したようなもので、比較的珍しいケースだと思います。

(5)そうなると、甲1文献を進歩性欠如の無効主張における主引例として使うことはほぼ不可能なので、特許無効審判で再度審理すると特許は有効と判断されると思われます。甲1文献よりも適切な先行技術が発見されればどのようになるかわかりませんが、現時点でそのような先行技術が発見されている場合には、それを根拠とする別の特許無効審判を並行して請求しているでしょうから、見つかっていないと思われます。

2.手続の時系列の整理(特許第4010455号)

3.特許請求の範囲の記載(訂正後)

【請求項1】

A)検煙空間に向け、第1波長を発する第1発光素子(9)と、第1波長とは異なる第2波長を発する第2発光素子(10)と、

B)第1発光素子(9)と第2発光素子(10)から発せられる光を直接受光しない位置に設けられた受光素子(11)とを備えた散乱光式煙感知器に於いて、

C)前記第1発光素子(9)と受光素子(11)の光軸の交差で構成される第1散乱角(θ1)に対し、第2発光素子(10)と受光素子(11)の光軸の交差で構成される第2散乱角(θ2)を大きく構成し、

D)第1発光素子(9)から発せられる第1波長(λ1)に対し、第2発光素子(10)から発せられる第2波長(λ2)を短くし

E)前記第1発光素子(9)による煙の散乱光量と、第2発光素子(10)による煙の散乱光量とを比較することにより煙の種類を識別することを特徴とする

F)散乱光式煙感知器。


4.審決の理由の要旨

(1)被告は、本件発明について、①サポート要件違反(無効理由1)、及び②国際公開第01/059737号(甲1。以下「甲1文献」という。)に記載の発明(以下「引用発明」という。)及び下記甲3、5~11の文献(以下、それぞれ「甲3文献」などという。)記載の技術事項に基づく進歩性欠如(無効理由2)を主張した。

審決の理由は、別紙審決書(写し)記載のとおりであり、要するに、①本件発明はサポート要件に適合するが、②本件発明1~6、8は、引用発明及び甲3、5~11文献に基づき当業者が容易に想到することができたものであり進歩性を欠くから、本件発明1~6、8についての特許を無効とすべきであるというものである。なお、文献中の図面の一部は、各文献の番号に応じた別紙図面目録記載のとおりである。

甲3:湯原義公・鈴木哲也、「レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置LA-700」、Readout HORIBA Technical Reports、株式会社堀場製作所、1992年1月26日、No.4、p30-36

甲5:特開平6-109631号公報

甲6:特開昭51-15487号公報

甲7:特開2001-126165号公報

甲8:特開平4-124798号公報

甲9:特開2001-153801号公報

甲10:特開平11-23458号公報

甲11:特開昭59-47691号公報

(2)審決が認定した引用発明及び本件発明との一致点及び相違点は次のとおりである。

ア 引用発明

a)空気中に浮遊する煙粒子を感知する装置であって、

b)少なくとも第1の照明および第2の照明を与えるように構成された光源と、

c)煙粒子を含み得る検出対象空気が流れるように構成された煙粒子感知区画と、

d)前記第1または第2の照明によって、前記煙粒子感知区画を交互に照射するように構成された諭理手段と、

e)前記煙粒子感知区画内の煙粒子で散乱した光を受光するセンサ手段と、

f)前記煙粒子感知区画の所定の状態の指標を提供する出力手段と、

g)当該装置の構成要素が、適所に機械的に固定されており、

h)前記第1および第2の照明が、独立して放射され、

i)前記第1および第2の照明が、異なる位置から与えられ、

j)前記第1および第2の照明が、異なる角度で照射し、

k)前記第1の照明の光軸と散乱した光を受光するセンサ手段の光軸と交差する角度を前方散乱を検出する角度とし、第2の照明の光軸と散乱した光を受光するセンサ手段の光軸と交差する角度を後方散乱を検出する角度とするような態様とされ、

l)前記第1および第2の照明が、一方が短波長光で他方が長波長光等、異なる波長であり、

m)前記第1の照明および第2の照明の照射方向が、前記散乱した光を受光するセンサ手段の受光方向に直接向いていない態様とし、

n)長波長光からの振幅信号と短波長光からの振幅信号との比を比較することにより煙粒子の大きさを判定し、

o)判定を行うための照明の光は、10ms等の短い幅にパルス化されており、センサでは、各波長の散乱光の各パルスに応答して、信号が生成される、

p)煙粒子感知装置

を備えた煙感知器。

イ 本件発明1と引用発明の対比

本件発明1と引用発明は以下の[一致点]で一致し、[相違点1]について相違する。

[一致点]

A)検煙空間に向け、第1波長を発する第1発光素子と、第1波長とは異なる第2波長を発する第2発光素子と、

B)第1発光素子と第2発光素子から発せられる光を直接受光しない位置に設けられた受光素子とを備えた散乱光式煙感知器に於いて、

C)前記第1発光素子と受光素子の光軸の交差で構成される第1散乱角に対し、第2発光素子と受光素子の光軸の交差で構成される第2散乱角を大きく構成し、

D´)第1発光素子から発せられる第1波長に対し、第2発光素子から発せられる第2波長を異ならせ、

E)前記第1発光素子による煙の散乱光量と、第2発光素子による煙の散乱光量とを比較することにより煙の種類を識別する

F)散乱光式煙感知器。

[相違点1]

本件発明1は、第1発光素子から発せられる第1波長に対し、第2発光素子から発せられる第2波長を短くしているのに対し、引用発明の第1の照明と第2の照明とは、どちらの照明の波長が短いか特定されていない点

ウ その余の発明と引用発明の対比

本件発明2~5と引用発明は相違点1において相違し、さらに、本件発明6と引用発明は下記の相違点2、本件発明8と引用発明は下記の相違点3において相違する。

[相違点2]

本件発明6の判断基準は、煙の種類に応じて火災を判断するカウント回数を設定するものであるのに対し、甲1発明は、そのような構成を有していない点。

[相違点3]

散乱光式煙感知器の駆動が、本件発明7は、通常の監視状態では、第1発光素子のみを駆動し、前記受光素子から所定の受光出力が得られた際、前記第2発光素子を駆動するのに対し、甲1発明は、そのような特定がされていない点。

5.取消事由

取消事由1:引用発明の認定の誤りに基づく相違点の看過(無効理由2)

取消事由2:相違点1の容易想到性判断の誤り(無効理由2)

取消事由3:手続違背

6.裁判所の判断

1 本件発明について

(1)特許請求の範囲の記載

本件訂正後の特許請求の範囲の記載は、上記第2の2に記載のとおりである。

(2)本件明細書の記載

-省略-

(3)本件発明の特徴

上記(2)によれば、本件発明の特徴は次のとおりと認められる。

ア 本件発明は、受光素子に対する散乱特性が異なるように光を発する2個の発光素子を備えた散乱光式煙感知器に関する(【0001】)。

イ 火災以外の原因による非火災報を防止するため、2種類の波長の光を検煙空間に照射し、煙による散乱光について異なる波長の光強度の比を求めて煙の種類を判定する方法や、散乱面に対し垂直な偏光面をもつ光と水平な偏光面を持つ光を照射し、煙による散乱光の各偏光成分の光強度の比を求めて煙の種類を判定する方法が知られているが、このような従来の異なる波長の光や偏光面の異なる光を用いて煙の種類を判別する方法にあっては、火災による煙と火災以外の原因による調理の煙やバスルームの湯気等を識別する確度が必ずしも十分とはいえず、さらに高度な煙識別が望まれている(【0003】、【0005】)。本件発明は、煙識別の確度を高めて非火災報防止を確実なものとする散乱光式煙感知器を提供することを目的とする(【0006】)。

ウ 本件発明は、検煙空間に向け、第1波長を発する第1発光素子と、第1波長とは異なる第2波長を発する第2発光素子と、第1発光素子と第2発光素子から発せられる光を直接受光しない位置に設けられた受光素子とを備えた散乱光式煙感知器について、第1発光素子と受光素子の光軸の交差で構成される第1散乱角に対し、第2発光素子と受光素子の光軸の交差で構成される第2散乱角を大きく構成し、第1発光素子から発せられる第1波長に対し、第2発光素子から発せられる第2波長を短くし、第1発光素子による煙の散乱光量と、第2発光素子による煙の散乱光量とを比較することにより煙の種類を識別することを特徴とする(【0008】、【0009】、【0014】)。

エ 本件発明によれば、2つの発光素子につき受光素子に対する散乱角を異ならせることで煙の種類による散乱特性の相違を作り出し、同時に2つの発光素子から発する光の波長を異ならせることで波長に起因した散乱特性の相違を作り出し、この散乱角の相違と波長の相違の相乗効果によって煙の種類による散乱光の光強度に顕著な差を持たせることで煙の識別確度を高め、調理の湯気やタバコの煙による非火災報を防止し、更に火災による煙についても黒煙火災と白煙火災といった燃焼物の種類を確実に識別することができる(【0097】)。

2 取消事由1(引用発明の認定の誤りに基づく相違点の看過)について

(1)甲1文献の記載

甲1文献には、次の記載がある(甲1、訳文(甲25))。

ア 特許請求の範囲

【請求項1】 流体中に浮遊する粒子を感知する装置であって、少なくとも第1の照明および第2の照明を与えるように構成された光源と、サンプル流体が流れるように構成された粒子感知区画と、前記第1または第2の照明によって、前記感知区画を交互に照射するように構成された諭理手段と、前記感知区画内の粒子で散乱した光を受光するセンサ手段と、前記感知区画の所定の状態の指標を提供する出力手段と、を備えた、粒子感知装置。

【請求項2】 前記光源が、少なくとも2つの光源を含み、当該装置の構成要素が、適所に機械的に固定されており、前記第1および第2の照明が、独立して放射され、前記第1および第2の照明が、異なる偏光であり、前記第1および第2の照明が、異なる位置から与えられ、および/または、前記第1および第2の照明が、一方が短波長光で他方が長波長光等、異なる波長である、請求項1に記載の粒子感知装置。・・・

【請求項6】 前記粒子サイズ識別手段が、比較的小さな粒子サイズを感知するための第1の光源と、比較的大きな粒子サイズを感知するための第2の光源と備えた、請求項4または5に記載の感知ユニット。

【請求項12】 請求項1、2または3のいずれか一項に記載の粒子感知装置を備えた、煙感知器。

【請求項14】 熱分解、くすぶり、および/または煙事象の警報状態を感知する方法であって、

a.流体のサンプルを用意するステップと、

b.光源(a source of light)から発せられた光を前記流体サンプルに作用させるステップと、

c.前記発光を用いて、粒子サイズおよび/または粒子範囲を決定するステップと、

d.所定の期間にわたって、選択された粒子サイズおよび/または粒子範囲の数または濃度が変化したか否かを判定するステップと、

e.ステップdの判定が、選択された基準内である場合に、警報を発するステップと、

を含む、方法。

【請求項16】 前記粒子サイズおよび/または粒子範囲の決定において、第1の範囲および/もしくは比較的小さな粒子サイズを感知するための第1の光源ならびに第2の範囲および/もしくは比較的大きな粒子サイズを感知するための第2の光源を使用する、請求項14または15に記載の方法。

イ 明細書

(ア)背景技術

・・・この従来技術の不都合として、単一波長の光源を使用するため、激しい火災で発生する小さな粒子に反応しない。他の感知技術では、レーザ光線を使用することにより、通常は近赤外線波長の偏光した単色光源を提供する。このような感知器は、小さな粒子(すなわち、光の波長よりも小さな粒子)に対する低感度を犠牲にして、大きな粒子に対する高感度を有する傾向にある。・・・

(イ)発明の概要

【発明が解決しようとする課題】

a 本発明の目的は、広範な粒子サイズを感知できるとともに、粒子サイズに従って異なる種類の煙または塵埃を識別できる煙感知器を提供することである。・・・

【課題を解決するための手段】

b 本発明によれば、流体中に浮遊する粒子を感知する装置であって、少なくとも第1の照明および第2の照明を与えるように構成された光源と、サンプル流体が流れるように構成された粒子感知区画と、第1または第2の照明によって、感知区画を交互に照明するように構成された論理手段と、感知区画内の粒子で散乱した光を受光するセンサ手段と、感知区画の所定の状態の指標を提供する出力手段と、を備えた、粒子感知装置が提供される。

この装置は、ダクト設置であってもよいし、ダクト設置でなくてもよい。

この粒子感知装置において、光源は、少なくとも2つの光源を含み、当該装置の構成要素は、適所に機械的に固定されており、第1および第2の照明は、独立して放射され、第1および第2の照明は、異なる偏光であり、第1および第2の照明は、異なる位置から与えられ、ならびに/または、第1および第2の照明は、一方が短波長光で他方が長波長光等、異なる波長であることが好ましい。

光源は、一方が短波長光で他方が長波長光の一対の光源を含むのが好ましい。

あるいは、相対偏光が異なり、異なる偏光および/または波長に設定されたレーザダイオード等の異なる偏光光源を備えた偏光フィルタを通して光が投射される。

本発明において具現化された改良は、広範な粒子サイズに対して感度を確保できること、比較的長い耐用年数、小型化、軽量化、および低コスト化も実現しつつ、粒子サイズに従って、異なる種類の煙または塵埃を識別できることである。

光源は、感知区画軸に対して同じ角度で照射されるように構成されてもよいし、異なる角度で光を照射するように構成されてもよい。通常、光源は、一度に動作する波長が1つだけとなるように、パルスモードで動作する。電子回路内のシステムゲインは、較正条件下において、各光源が受光センサで同じ信号レベルを生成できるように調整されている。また、各センサは、その適当な動作帯域幅(採用するすべての波長に対する感度)に関して選択されている。

小型または大型の煙粒子であるか塵埃粒子であるかに関わらず、感知チャンバで生じるさまざまな種類の粒子に対する非常に高い感度または粒子の識別を実現するため、3つ以上の波長の光、偏光、またはこれら2つの組み合わせが利用されるようになっていてもよい。

また、受光センサは、偏光フィルタを有していてもよい。また、一度に光源を1つも動作させないことも、すべての光源を一体的に動作させることも可能である。

c これにより、光源(「light source(s)」)は、順々にパルス化されるようになっていてもよく、センサで受光されるパルスの絶対振幅および相対振幅の両者の分析によって、煙濃度および粒子サイズ分布が決定され、これにより煙の種類が明らかとなる。

(ウ)発明を実施するための形態

a 浮遊粒子サイズの識別は、多くの方法で実現可能である。2つ以上の光源の違いは、波長、偏光、位置(具体的には、感知区画軸に対する立体入射角)、またはこれらの組み合わせであってもよい。

b 本発明の好適な実施形態においては、異なる波長で動作する2つの発光ダイオード(LED)が採用される。これにより、オクターブ全域にわたって分離するように、430nm(青色)および880nm(赤外)という離れた波長を使用可能である。このように波長が大きく異なることにより、両波長の光が交互に粒子で散乱してセンサに向かう場合、強度が大幅に異なる信号を生成可能である。

c レイリーの理論から、光の波長より小さな粒子の場合、散乱光の強度が波長の4乗に従って低下することが知られている。これは、赤外、可視、および紫外波長を含む完全スペクトルを生じるキセノンランプを用いた実験において、煙感知に関連して証明されており、小さな粒子が解き放たれる特定種類の火災の感知には、青色領域の波長が必要であることが分かっている。

d 本発明の好適な一実施形態においては、10ms等の短期間にわたって、各光源が順々にパルス化される。センサでは、各波長の散乱光の各パルスに応答して、信号が生成される。システムは、予備較正によって、好ましくは製造時にLED投射の強度を調整することにより、各波長でのセンサの感度を考慮している。信号は、デジタルフィルタリングを用いた増幅によって、信号対雑音比が改善されており、パルス信号の絶対振幅および相対振幅の両者が格納される。絶対値が粒子濃度を示す一方、相対値が粒子サイズまたは粒子群の平均サイズを示す。レイリーの理論から、浮遊粒子の所与の質量濃度において、長波長光は、小さな粒子の場合に小さな振幅信号を生成し、大きな粒子の場合に大きな振幅信号を生成することになる。短波長光は、大小の粒子いずれの場合にも、相対的に等しい振幅信号を生成することになる。したがって、信号の比を比較することにより、粒子が大きいか小さいかを判定することができる。

(原文)

 In one preferred embodiment of the invention, each light source is pulsed in sequence for a short period such as 10mS.At the sensor, a signal is generated in response to each pulse of scattered light at each wavelength. The system is precalibrated to account for the sensitivity of the sensor at each wavelength, preferably by adjusting the intensity of the LED projections during manufacture. The signals are amplified using digital filtering to improve the signal-to noise ratio, and both the absolute and relative amplitudes of the pulse signals are stored. The absolute value indicates the particle concentration whereas the relative value indicates the particle size or the average size of a group of particles. From Rayleigh theory, at a given mass concentration of airborne particles, the long wavelength light will produce a low amplitude signal in the case of small particles, or a large amplitude signal in the case of large particles. The short wavelength light will produce are latively equal amplitude signal in the case of both small and large particles. By comparing the ratio of the signals it is therefore possible to determine whether the particles are large or small.

e 本発明の一実施形態において、図1を参照すると、煙感知器ハウジング10は、2つの実質的に同一の片身10a、10bの成形により作製されている(図4参照)。感知チャンバ12を横切って、センサ13が視認する領域へと光を投射するように、2つのLEDランプが位置決めされている。煙14は、投光器11による照射を順々に受け得るように、チャンバ12を横切って矢印15の方向に取り込まれる。浮遊煙粒子で散乱したいくらかの光16が集光レンズ17によって、受光センサ13上に捕捉される。

f 図1bおよび図1cは、図1の光源11の別の位置決めを示している。これには、光トラップ39、40の再位置決めが必然的に伴う。その他多くの点で、図1bおよび図1cの特徴は、図1の図解および付随する説明と同じである。図1bおよび図1cは、単に明瞭化の便宜上、図1の詳細をすべて示しているわけではない。なお、図1bおよび図1cは、後方散乱の感知または前後散乱すなわち異なる角度の組み合わせを可能とする。

(2)引用発明の認定

上記(1)の記載によれば、甲1文献には、前記第2の3(2)アのa)~m)、o)、p)の構成を備えた煙検知装置が開示されており、この点については当事者間に争いがない(以下「引用発明の争いのない構成」という。)。

さらに、この煙検知装置について、「n)長波長光からの振幅信号と短波長光からの振幅信号との比を比較することにより煙粒子の大きさを判定し、」との構成が開示されているかが問題となる

ア 甲1文献の記載

(ア)本件記載においては、

① 信号は、デジタルフィルタリングを用いた増幅によって、信号対雑音比が改善されており、パルス信号の絶対振幅および相対振幅の両者(both the absolute and relative amplitudes of the pulse signals)が格納される。

② 絶対値(the absolute value)が粒子濃度を示す一方、相対値(the relative value)が粒子サイズまたは粒子群の平均サイズを示す。

③ レイリーの理論から、浮遊粒子の所与の質量濃度において、長波長光は、小さな粒子の場合に小さな振幅信号(a low amplitude signal)を生成し、大きな粒子の場合に大きな振幅信号(a large amplitude signal)を生成することになる。

④ 短波長光は、大小の粒子いずれの場合にも、相対的に等しい振幅信号(a relatively equal amplitude signal)を生成することになる。との記載に続いて、

⑤ 「したがって、信号の比を比較することにより(by comparing the ratio of the signals)、粒子が大きいか小さいかを判定することができる。」

との記載がある(以下、これらを、「記載①」などという。下線は裁判所による。)。

(イ)これによれば、「信号の比」(記載⑤)における「信号」は、「長波長光」が生成する「振幅信号」(記載③)と、「短波長光」が生成する「振幅信号」(記載④)であり、「信号の比」とは、長波長光が生成する振幅信号と短波長光が生成する振幅信号の比であると理解することも文脈上は可能であるようにみえる

イ 本件記載の技術的意義について

そこで、このような理解を前提に、本件記載を技術的に理解することができるかについて検討する。

(ア)技術常識

a α<0.3とα>5の領域における散乱光強度の特徴(甲3、18、弁論の全趣旨)

粒径パラメータα<0.3のレイリー散乱領域においては、散乱光強度は、次の式によって算出される(レイリーの理論。なお、Iθは散乱角θにおける散乱光強度、aは半径、Rは粒子からの距離、λは波長、mは屈折率)。

そうすると、粒径パラメータα<0.3(α=2πr/λ(rは粒径、λは波長)であるレイリー散乱領域においては、1つの粒子により散乱された光の強度は粒径の6乗に比例するということができる。

そして、散乱光強度は、1つの粒子により散乱された光の強度に粒子の個数を乗じたものとなるところ、粒子の個数は粒径の3乗に反比例するから、結局、質量濃度が一定の場合、散乱光強度は粒径の3乗に比例するということができる。

また、散乱光強度は、波長の4乗に従って低下する。

他方、粒径パラメータα>5では、1個の粒子による散乱光強度は粒径の2乗に比例するところ、粒子の個数は粒径の3乗に反比例するから、結局、質量濃度が一定の場合、散乱光強度は、粒径に反比例することになる(弁論の全趣旨)。

b 散乱角による散乱光強度の変化(甲3)

散乱角による散乱光強度の変化は甲3文献の図3(B)(図7.2と同旨のもの。)のとおりである。

そして、粒子径が波長より大きい領域(フラウンホーファ領域)では、散乱光はほとんど前方にだけ集中し、粒子径の大きさに依存して散乱光強度が大きく変化するため、前方散乱光の光強度分布を検出することにより粒子径を特定することができる。

これに対し、粒子径が波長より小さい場合(ミー領域)では、散乱光は散乱角に依存して側方・後方散乱の割合が増加し、やがて全方向に広がるようになる(レイリー散乱)。0.1μm以下の粒子では、前方散乱光の強度分布に明確な差がなくなるため、前方散乱の情報だけでは粒子径を判断することはできない。

c 散乱光強度と粒径の関係

甲3文献の図3(B)(図7.2と同旨のもの。)により、次の①②のとおり、α=0.5、1.0、2.0、4.0における、質量濃度を一定とした場合の散乱光強度I(垂直成分と平行成分の散乱光強度の和)について、α=0.5の値を基準に散乱角θごとに比較すると、おおむね別紙「散乱光強度と粒径の関係」のとおりとなる。

① 1粒子当たりの散乱光強度

散乱角θごとにi1とi2の和を求め、α=0.5の散乱光強度を「1」とし、α=1.0、α=2.0、α=4.0の散乱光強度をα=0.5の散乱光強度で除する。

② 質量濃度一定の条件での比較

粒径が2倍になれば、単位体積あたりに含まれる粒子数は1/8になることから、①で求めた数値について、波長が一定であることを前提に、散乱角θごとに、α=1.0の数値を1/8倍し、α=2.0の数値を1/64倍し、α=4.0の数値を1/512倍する。

これによれば、粒径と散乱光強度との関係は、波長と質量濃度が一定の場合、θ=30°では粒径が大きくなるにしたがって散乱光強度が大きくなり、その際の粒径の変動による散乱光強度の差も大きい。また、θ=45°及び60°ではα=2.0のときが最大であり、θ=120°及び150°ではα=1.0のときが最大であり、αの変動による差はθによってまちまちである。

(イ)本件記載の技術的意義

a レイリー理論を前提とした場合

記載④には、「短波長光は、大小の粒子いずれの場合にも、相対的に等しい振幅信号を生成することになる」という記載があり、この記載は、記載⑤の前提となっている。

しかし、審決も指摘しているとおり、レイリーの理論からすれば、質量濃度を一定とした場合、長波長光が、小さな粒子の場合に小さな振幅信号を生成し、大きな粒子の場合に大きな振幅信号を生成するとすれば、短波長光は、長波長光よりさらに小さな粒子についても、粒子の大きさに比例した振幅信号を生成することとなり、大小の粒子いずれの場合にも相対的に等しい振幅信号を生成するとはいえない

そうすると、レイリーの理論から、記載④のようにいうことはできず、記載④を記載③及び記載⑤と整合的に説明することはできない

b ミー散乱領域に関する理論を考慮した場合

そこで、審決は、ミー散乱領域も考慮すれば、記載④に矛盾はないとする。すなわち、「α<0.3の領域における散乱光強度は粒径の3乗に比例し、α>5の領域における散乱光強度は粒径に反比例することからすると、α<0.3の領域の方が、α>5の領域よりも散乱光強度に対する粒径の影響が大きいものといえる。そして、同じ粒径の粒子に対して光を当てた場合、長波長の光を当てた場合の方が、短波長の光を当てた場合よりも粒径パラメーターαが相対的に小さくなるから、長波長の光を当てた場合の散乱光強度との関係はα<0.3寄りに、短波長の光を当てた場合の散乱光強度との関係はα>5寄りに位置するものと理解できる。したがって、長波長の場合に比べ、短波長の光を当てた場合の方が、粒子の大きさによって受ける影響の度合いは小さくなるので、『短波長光は、大小の粒子のいずれの場合にも、相対的に等しい振幅信号を生成することになる』といえる。」という趣旨の指摘をするのである。

しかし、仮にα<0.3に近い領域においては散乱光強度が粒径の3乗に比例する関係が成立し、α>5に近い領域においては散乱光強度が粒径に反比例する関係が成立するとしても、その間における散乱光強度と粒径との関係については、審決は何ら明らかにしていないのであるから、これによって、常に長波長光に比べ短波長光は、相対的に等しい振幅信号を生成するといえるかどうかは明らかではないといわざるを得ない。この点について、被告は、「レイリー散乱領域からミー散乱領域よりもαが大きい条件の領域に向かって、レイリー散乱領域に近い側では、αが大きくなるに従って散乱強度が大きくなり、いずれかで必ず極大値に達し、その後αが大きくなるに従って散乱強度が小さくなって、ミー散乱領域よりも大きい条件の領域に近づく。」と主張するが、この主張は、散乱強度の大きさの変化を説明しているのにとどまるから、散乱強度と粒径と間の定量的な関係について説明がないという問題は、依然として解消されていない。

また、審決の見解は、散乱角の違いによるばらつきを考慮していないという点においても問題があるものといわざるを得ない。すなわち、レイリー散乱領域よりαが大きい領域においては、上記(ア)b、cのとおり、散乱光強度は散乱角に依存して大きく変化し、αが変化した場合の散乱光強度の変化の仕方や程度は、散乱角θによってまちまちであることがわかる。そうすると、散乱光強度に対する粒径の影響は、散乱角θによって異なるといわざるを得ないのであるから、この点を考慮していない審決の見解には問題があるものといわざるを得ないのである(なお、引用発明の争いのない構成においては、第1の照明から照射される光と第2の照明から照射される光とでは、散乱角が異なることになるから、散乱角θによる影響はより一層複雑なものにならざるを得ないものと予想される。)。

そうすると、審決の上記理解には問題があるといわざるを得ないから、ミー散乱領域を考慮したとしても、「長波長光が、小さな粒子の場合に小さな振幅信号を生成し、大きな粒子の場合に大きな振幅信号を生成するのに対し、短波長光が、大小の粒子いずれの場合にも相対的に等しい振幅信号を生成する」ということはできない。

c そして、他に記載④が成り立つことを裏付けるに足りるような根拠を見出すこともできないから、結局、記載④を記載③及び記載⑤と整合的に説明することはできないものといわざるを得ない。

そうすると、当業者は、甲1文献から、引用発明の争いのない構成において「長波長光からの振幅信号と短波長光からの振幅信号との比を比較することにより煙粒子の大きさを判定」するという技術的思想を認識することはできないものというべきである

(3)相違点の看過

以上のとおりであるから、本件発明1と引用発明は、相違点1のほかに、「本件発明1は、前記第1発光素子による煙の散乱光量と、第2発光素子による煙の散乱光量とを比較することにより煙の種類を識別する構成を有するのに対し、引用発明はこのような構成を有しない点」も相違点とするものといえる。本件発明2~6、8は本件発明1を直接ないし間接に引用するものであるから、上記に説示したところは、本件発明2~6、8にも妥当する。

そうすると、上記相違点の看過は、本件発明1~6、8についての特許を無効とした審決の結論に影響を及ぼすものであることが明らかであるから、取消事由1には理由がある。

(4)被告の主張について

ア 被告は、1つの受光素子と異なる波長の光を発する2つの発光素子とを備えて煙の種類を識別する煙感知器において、2つの発光素子の各散乱強度の比を求めて煙の種類を判別することは、本件出願日当時周知技術であったこと、煙感知器において前方散乱の位置に近赤外線(長波長)光を配置することはごく一般的に行われている技術常識であること、甲1文献の発明の目的が「粒子の大きさからその粒子を識別する」ことにあることなどから、甲1文献には、2つの光の振幅信号の比を求めて煙の種類を判別する構成が記載されていると主張する。

しかし、甲1文献の記載からは、引用発明の争いのない構成において「長波長光からの振幅信号と短波長光からの振幅信号との比を比較することにより煙粒子の大きさを判定」する技術的思想を認識できないことは上記(2)に説示したとおりであり、被告の主張する点は、この判断を左右するものではない。

イ 被告は、レイリー散乱領域(粒径の3乗に比例)からミー散乱領域よりもαが大きい条件の領域(粒径に反比例)に向かって、レイリー散乱領域に近い側では、αが大きくなるに従って散乱強度が大きくなり、いずれかで必ず極大値に達し、その後αが大きくなるに従って散乱強度が小さくなって、ミー散乱領域よりも大きい条件の領域に近づくこと、また、散乱強度の増減の度合いの傾向も、0.3<α<5の範囲において、レイリー散乱領域に近い側はレイリー散乱領域に似た傾向を示し、フラウンホーファ領域に近い側はフラウンホーファ領域に似た傾向を示すことに変わりはないと主張する。

しかし、この説明によっても、記載④を意味のあるものとして理解することはできないことは上記(2)に説示したとおりであり、被告の主張は採用することができない。