ライトガイド事件(均等侵害の不成立)

投稿日: 2019/02/03 23:49:20

今日は、平成28年(ワ)第4759号 特許権侵害差止等請求事件について検討します。原告である嶋田プレシジヨン株式会社は、判決文によると、原告は、プラスチック成型金型の製造販売、プラスチック成型加工及び販売等を目的とする株式会社だそうです。一方、被告であるアマゾン ドット コム インターナショナル セールス インクは、アメリカ合衆国のデラウェア州一般会社法に基づき設立された会社がなし得るあらゆる合法的な事業及び活動を行うことを目的とする株式会社だそうです。

 

1.検討内容

(1)本件発明は、要は、導光板の裏面に回析格子が設けられ、端面から入射した光がこの回析格子で回析し、導光体の表面における輝度が増大し、かつ均一化されるようにこの回折格子の断面形状または単位幅における格子部幅/非格子部幅の比の少なくとも1つが変化させられているものです。

(2)侵害論においては、珍しいことに、文言侵害については争われず均等侵害及び無効論について争われました。当事者の主張等を読むと本件発明が「板状体の裏面に設けられた回折格子」であるのに対し、被告製品は原告が回析格子に相当すると指摘する微細構造体が導光板の表側に設けられているようです。

(3)判決は、本件発明において回析格子を板状材の裏面に設けることは本質的部分に相当するので、回析格子相当の構成を板状材の表面に設けた被告製品に対して均等侵害は成立しない、という結論でした。

(4)判決の内容について少し詳しく見てみると、まず被告が主張する無効理由の一つである特許法第29条の2(拡大先願)違反(乙8(特開平09-127894))について判断が示されました。裁判官は均等侵害の第1要件の充足性を検討する前提として最初に検討することが必要であると述べています。検討の結果、この先願の文献には本件発明の「板状体の裏面に設けられた回折格子」以外はすべて開示されている、と認定されまあした。そして乙8の「回析格子」は、本件発明の「板状体の裏面に設けられた回折格子」ではなく、体積・位相型のホログラムを用いたものであるので相違するとして無効主張を退けました。

(5)しかし、その検討過程で本件発明の回析格子は、以下の3分類のうち①及び②を含むが③は含まないので同一ではない、と認定しました。

① 多数の溝をきざんで、溝の間の滑らかな面で反射される光線の間の干渉で生ずる回折像を利用するもの(刻線溝)

② 物体(被写体)から反射された全ての光の情報を干渉縞として記録したものであるホログラムのうち、干渉縞を材料表面の凹凸として記録したもの(表面型・エンボス型・レリーフ型ホログラム)

③ ホログラムのうち干渉縞を材料内部の屈折率分布もしくは透過率分布として記録するもの(体積・位相型ホログラム、そのうち反射型をリップマンホログラムという。)

その上で、本件発明と乙8発明とは、その解決課題及び解決原理を共通にしており、解決手段たる回折格子の種類についてのみ相違するにすぎない、と述べています。

(6)続いて、均等侵害の第1要件(非本質的部分)の充足性についての検討がされました。発明の本質的部分の認定は、第1に特許請求の範囲の記載と明細書記載の従来技術との比較から認定されるべき、第2に明細書に記載されていない従来技術も参酌して、当該特許発明の従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分が認定されるべきとされています(平成27年(ネ)第10014号)。第2は「明細書に従来技術が解決できなかった課題として記載されているところが、出願時の従来技術に照らして客観的に見て不十分な場合には」という前提がありますが、被告が無効主張をしてその証拠を提出していれば当然検討の対象になると思います。

つまり、原告(特許権者)にしてみれば特許発明に近い先行発明が少ないほど均等侵害の範囲が広がりますし、被告にしてみると発明の本質的部分を特許請求の範囲と同程度の範囲に制限するような証拠を提出すれば均等侵害の範囲を狭くすることができます。

(7)その結果、「本件発明が課題とするところは、いずれも本件特許の出願時の従来技術によって、同様の解決原理によって解決されていたといえる。」、「本件発明の本質的部分については、特許請求の範囲の記載とほぼ同義のものとして認定するのが相当である。」と認定されて、均等侵害を否定されました。

(8)本件判決で特に新しい点は、このような均等侵害の範囲を認定するための第2のステップで特許法第29条の2(拡大先願)違反が否定された先行技術文献の内容を用いた点です。判決では「特許法が、先願の明細書等に記載された発明との関係で新しい技術を公開するものでない発明を特許権による保護の対象から外している法意からすると、均等侵害の成否の判断のために発明の本質的部分として従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分を認定するに当たっては、拡大先願発明も参酌すべきものと解するのが相当である」と述べています。本件特許の出願時に公開されていない文献を採用した点が興味を引きます。

(9)しかし、実際のところ特許出願時に出願人が知りえなかった先願に記載された内容を従来技術の一つとして扱うことには否定的な考えもあると思います。先願の内容は、基本的には、当該特許の出願時点では先願の出願人以外誰も知りえなかった情報です。したがって、そのような情報に基づく技術と出願時点で公知となっている技術とを合わせて考えることは当該特許の出願前には先願の出願人以外には不可能です。従来技術をそこまで広げてしまうと、当該特許発明の特徴的部分を狭くしすぎてしまうという考えもありえると思います。

(10)前述のとおり、本件発明と被告製品は回析格子が板状材の裏面に設けられた構成である点と表面に設けられた構成である点で相違します。被告の主張を見ると第1要件の充足性よりも第2又は第3要件の充足性の方を重視していたように思います。しかし、原告が反射型回折格子及び透過型回折格子のいずれも本件特許の出願前に公知であったと主張するのに対して、被告は透過型回折格子の量産実現性の面において困難性を主張しており、裁判所としてはこの要件で均等侵害を否定するロジックを構成しにくかったのかもしれません。

2.手続の時系列の整理(特許第2865618号)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3.本件発明

A 透明な板状体(2)の少なくとも一端面(2c)から入射する光源(4)からの光を、上記板状体の裏面(2b)に設けられた回折格子(3)によって板状体(2)の表面(2a)側へ回折させる導光板であって、

B 上記回折格子(3)の断面形状または単位幅における格子部幅/非格子部幅の比の少なくとも1つが、上記導光板の表面における輝度が増大し、かつ均一化されるように変化せしめられていることを特徴とする

C 導光板。


4.被告製品

被告製品は、いずれも上下の枠体の間に、上からライトガイド、タッチスクリーン及びディスプレイの3層からなる構造を有しており、そのライトガイドの構造及び特徴について上記第1世代から第3世代の製品で特段の違いはない(第3世代の製品につき別紙図面1のとおり)。

当該ライトガイドには、200μm×200μmの単位ピクセルの中に、ナノインプリントによって凹凸状に構成された微細構造体(これが本件発明の回折格子に相当するものかについて、当事者間に争いがある。)が、凸部分が幅●(省略)●、凹部分が●(省略)●で多数、斜めに設けられており(したがって、凹部分と凸部分を合計すると●(省略)●となる。)、光源から離れるにつれて、単位ピクセル内の微細構造体の長さ及び/又は本数が増加させられ、微細構造体部の面積が増大している(その概略について別紙図面2のとおり)

5.争点

(1)被告製品は本件発明の技術的範囲に属するか(均等侵害の成否)(争点1)

ア 構成要件Aの「板状体の裏面に設けられた」以外の部分、構成要件B及びCの充足性(争点1-1)

イ 均等侵害の要件充足性(争点1-2)

(2)本件特許は特許無効審判により無効にされるべきものか(争点2)

ア 乙7による特許法29条の2違反(争点2-1)

イ 乙8による特許法29条の2違反(争点2-2)

ウ 乙9による新規性欠如(争点2-3)

エ 乙9を主引例とする進歩性欠如(争点2-4)

オ サポート要件違反(争点2-5)

(3)原告の損失、被告の利得額(争点3)

6.争点に関する当事者の主張

1 争点1-1(構成要件Aの「板状体の裏面に設けられた」以外の部分、構成要件B及びCの充足性)について

(原告の主張)

(1)構成要件Aについて

本件発明の構成要件Aの「回折格子」は、平面あるいは凹面上に等間隔に多数の平行な溝を刻んだものをいうところ、被告製品のライトガイドに設けられた微細構造体によって板状体に溝が刻まれ、板状体の表面に凹凸ができることから、この微細構造体は「回折格子」である。

この微細構造体(回折格子)はライトガイドの表面(光が回折して進行する方向側の導光板の面)に設けられているため、この点は本件発明の「板状体の裏面(光が回折して進行する方向と逆側の導光板の面)に設けられた回折格子」という構成と相違しているものの、被告製品のライトガイドは、透明な板状体の少なくとも一端面から入射する光源からの光を、上記微細構造体によって板状体の表面側へ回折させるものである。

したがって、被告製品は構成要件Aの回折格子が「板状体の裏面に設けられた」以外の部分を充足する。

(2)構成要件Bについて

本件発明の「格子部」とは回折格子が加工されている部分を意味し、「単位幅」は1つの格子部幅と1つの非格子部幅との和をいう。また、単位幅の設定は、一つ又は複数の格子部幅と非格子部幅が存在すればそれでよいため、そのような意味で任意に設定可能である。

被告製品のライトガイドでは、微細構造体が集合した部分が「格子部」に該当する。また、一塊の微細構造体形成部分が二つの単位幅にまたがる形で「単位幅」の設定を行ったとしても、本件発明の「単位幅」として許容される。そして、被告製品のライトガイドの表面に設けられた微細構造体(回折格子)の本数は、光源側である手前側から遠方へと離れるにつれて増加しており、これにより、格子部幅が約●(省略)●から●(省略)●と増大している。その結果、単位幅と格子部幅の差である非格子部幅は、手前側から遠方へと離れるにつれ減少し、格子部幅/非格子部幅の比は増大することとなる。

そして、本来であれば、ライトガイドの表面における光量は、光源から離れるにつれて弱くなるところ、被告製品は、上記のとおり、光源から離れるにつれて単位幅当たりの回折格子本数を増大させることによって、ライトガイドの表面における輝度を増大させ、かつ、単位幅当たりの回折格子本数を光源との距離に応じて変化させることによって格子部幅/非格子部幅の比の変化をもたらせ、輝度の均一化を実現せしめている。被告は輝度の均一化を否認しているが、そもそも被告製品のライトガイドは導光板であるから、輝度の均一化という特質を有するし、本件発明では輝度が完全に「均一」であることまでは要求されておらず、被告製品も、光源から離れるに従って回折格子が増加し、回折光量が増加させられているから、「輝度の均一化」が実現されている。

したがって、被告製品は構成要件Bを充足する。

(3)構成要件Cについて

導光板とライトガイドは同義であり、被告製品のライトガイドは、本件発明の「導光板」に相当するから、構成要件Cを充足する。

(4)被告の下記主張について

ア 被告は被告製品がフロントライト型であることを指摘しているが、本件明細書に「導光板」をバックライト型に限定する旨の記載は一切存在せず、むしろ「導光板」自体の発明であることが明示されている。バックライト型かフロントライト型かということは、導光板自体の構造とは離れた、製品においていかなる方法で導光板を利用(又は設置)するかという問題であって、導光板の発明である本件発明に係る特許権の侵害の判断には影響を及ぼさない。

また、被告は、被告製品の微細構造体が透過型であることを指摘しているが、反射型・透過型いずれの回折格子であっても、当該回折格子を構成する物質が透過性を有する場合には、透過回折光が生じるにすぎないのであって、透過型回折格子においても透過回折光と同時に反射回折光も生じている。そして、反射型であるか、透過型であるかは、回折格子により生じる回折光のうちいずれを利用するのかという問題にすぎず、回折格子自体の構造自体に違いがあるわけではない。

イ 被告は被告製品の単位ピクセルを「単位幅」と同視しているが、単位ピクセルは二次元的な概念であるから、被告の解釈は、一次元的な概念である「幅」と混同するものであり、妥当でない。

また、被告は被告製品における微細構造体の設置状況を指摘しているが、本件明細書の【0015】の記載によれば、構成要件Bは、個別の単位幅における「格子部幅/非格子部幅の比」が連続的に大きくなっていなくても(漸増していなくても)、導光板全体の輝度の関係でみたときに、「格子部幅/非格子部幅の比」が光源から離れるに従って大きくなるように変化している場合も含むから、被告の指摘によって構成要件Bの充足性は否定されない。

(被告の主張)

(1)構成要件Aについて

ア 被告製品の光源は4つのLEDにより構成されているが、別紙図面3のように、●(省略)●ように設計されている。このように、被告製品は、回折現象を想定して微細構造体の配置を設計しているものではなく、光の透過、屈折、反射という幾何光学的性質を前提として微細構造体の配置を決めている。その意味で、被告製品は光を「回折させる」ものではないし、微細構造体は「回折格子」でもない。

また、本件発明の目的等によると、回折格子によって生ずる回折現象が導光板の照光面側で発生していることが必要であるが、被告製品では照光面において回折現象が利用されるようには設計されていない。

さらに、本件明細書を適切に参酌すれば、本件発明はバックライト型について透過型回折格子を使用することを想定していなかったことは明らかであり、後記2の被告の主張(2)記載のようなフロントライト型の技術的困難性等を踏まえると、フロントライトとしての導光板を本件発明に含むと解する場合には、サポート要件違反となる。まして被告製品のようなフロントライト型において透過型回折格子を使用することは本件明細書の対象外である。したがって、本件発明の「回折格子」は「反射型回折格子」のみを意味すると解すべきであるが、被告製品における透過型の微細構造体はこれに含まれない。

イ 被告製品はフロントライト型のものであって、微細構造体はライトガイド(導光板)の下側に配置されている。したがって、光源からの光は、微細構造体によってライトガイドの下側に屈折して透過し、又は上側に反射する。なお、被告は原告主張の本件発明の「表面」の意義を争わないが、原告出願による特許第3394025号(乙17)の「表面」、「裏面」の意味内容と同様に、本件発明でも導光板の上方を「表面(側)」、下方を「裏面(側)」とする解釈も成り立ち得る。その解釈によると、被告製品は板状体の裏面側へ光を屈折、透過させるものということになり、その点も本件発明との相違点となる。

(2)構成要件B及びCについて

ア 被告製品では、ライトガイドの上側における輝度が増大するように、光源から離れるにつれて、単位ピクセル内の微細構造体の長さ及び/又は本数を増加させる(ただし、微細構造体の幅自体は一定である。)ことで、単位ピクセル当たりの微細構造体部の面積が増大するようになっている。

本件明細書の記載等を参酌すれば、本件発明の「格子」とは間隔dを有する個々の格子溝、すなわち、被告製品にあてはめれば1つの「微細構造体形成部分」に相当し、「非格子」とは被告製品においては「微細構造体非形成部分」(個々の微細構造体の間の部分)に相当すると解すべきである。そして、被告製品では、「微細構造体形成部分」の幅は●(省略)●、「微細構造体非形成部分」の幅は●(省略)●と一定であるので、「格子部幅/非格子部幅の比」も一定で何ら「変化せしめられて」いない。したがって、被告製品は、構成要件Bの「格子部幅/非格子部幅の比…が…変化せしめられている」という点を充足しない。

仮に「単位幅」や「格子部幅」、「非格子部幅」の意義について、「格子部」とは微細構造体の連続が存在している部分、「非格子部」とはそれ以外の部分と解し、かつ、「幅」とは一次元的な概念であり、「面積」とは全く関係がないとする原告の解釈(本争点のほか後記争点2-2における原告の主張)によるとすると、本件発明は、格子部と非格子部が、どの位置の断面であっても同じ格子部が形成されるような構成の場合に限られ、単位幅内の格子部の「幅」と非格子部の「幅」のみによって導光板の光量や輝度を調整するものに限られることになるが、被告製品は、一定の面積である単位ピクセル内における微細構造体形成部分の面積及び密度の割合を増やすことによって輝度の均一性を図ろうとしているから単位「幅」という概念は存在しない。

イ また、構成要件Bの「単位幅における」というクレーム文言に照らせば、「1つの単位幅」とそれに隣接する「他の単位幅」におけるそれぞれの格子部幅の設定は、輝度の均一化を意図して「変化させられている」ことが必要と解される。しかし、被告製品においては、一つの「単位幅」内における「格子部幅/非格子部幅の比」と、それと隣接する「単位幅」内における「格子部幅/非格子部幅の比」がランダムに設定されている箇所が存在し、さらに光源からより近い「単位幅」内の格子部幅より、光源から遠い「単位幅」内の格子部幅が短く設定されている箇所も少なからず存在する(乙52ないし74参照)。したがって、かかる被告製品は、「単位幅における格子部幅/非格子部幅の比が、輝度が増大し、かつ均一化されるように変化せしめられている」という要件を欠くというべきである。

ウ さらに、被告製品においては、照光面全体にわたって輝度は不均一であり、ライトガイドには、見る方向によって異なる光の筋が現れる。構成要件Bを充足するためには、導光板の設計自体により、その表面における輝度が均一化されるようになっていることが必要であるが、被告製品ではそのような設計はされていない。構成要件Bに関する原告のその余の主張は否認し、争う。

(3)以上より、被告製品には原告主張の本件発明との相違点以外の相違点が存するところ、均等侵害が成立するためには、これらについてもいわゆる均等の5要件を充足する必要がある。

2 争点1-2(均等侵害の要件充足性)について

(原告の主張)

(1)本件発明の構成と被告製品の構成との相違点

本件発明においては回折格子を導光板の裏面に設けることとされているのに対し、被告製品のライトガイドでは、微細構造体(回折格子)が板状体の表面に設けられている。相違点に関する被告の下記主張は否認し、争う。

(2)第1要件

本件発明は、従来のプリズムによる全反射ではなく、回折格子の微細加工や白色光源における分光などの問題から今まで導光板に用いられることがなかった光の波動の性質に基づく回折現象を利用して、当該回折格子の断面形状又は単位幅における格子部幅/非格子部幅の比の少なくとも1つが、導光板の表面における輝度が増大し、かつ均一化されるように変化せしめられていることをその特徴とするものである。

そのような点に鑑みれば、本件発明の本質的部分は、「光の波動の性質に基づく回折現象を利用して、回折格子の断面形状又は単位幅における格子部幅/非格子部幅の比に着目した」点にあるのであって、回折格子が板状体の「裏面」又は「表面」のいずれに設けられているかという点は、本件発明の非本質的部分にすぎない。

このことは、本件発明に用いられている反射型回折格子及び被告製品に用いられている透過型回折格子いずれも、本件特許の出願時点において公知な技術であったことなどからも明らかである。

したがって、本件発明の構成と被告製品の構成との上記相違点は、本件発明における本質的部分におけるものではない。

(3)第2要件

本件発明の構成要件Aにおいて、板状体の「裏面」に設けられた回折格子を、板状体の「表面」に設けられた回折格子に置き換えても、本件発明の目的を達することができ、同一の作用効果を奏する。

導光板より照射された光をどのように利用して像を作り出していくかという過程は、導光板自体の仕組みを超えたところにあるから、本件発明と被告製品において、導光板を利用して形成する像を作り出す機構までを含んで比較を行うべきでなく、当該機構に対して光を照射しようとする導光板自体で考えなければならない。そして、本件発明における回折格子の位置を「裏面」から「表面」に移したとしても、いずれも回折格子により回折現象が生じる以上、導光板から照射される光について、「上記導光板の表面における輝度が増大し、かつ均一化される」点は変化しないのであるから、両者の間に置換可能性が存することは明らかである。

(4)第3要件

上記のとおり、反射型回折格子及び透過型回折格子いずれも、本件特許の出願前に公知であったから、回折格子を導光板の「裏面」に形成した反射型とするか、回折格子を導光板の「表面」に形成した透過型とするかは、当業者にとって容易に選択できる技術的事項であり、置換容易性も存在する。

(5)被告の下記主張について

被告は均等侵害の第5要件について主張しているが、本件明細書の記載等によれば、本件発明が、回折格子を「透過型回折格子」として「透過回折光」を利用することを意識的に除外したとはいえない。

(6)以上より、被告製品は本件発明と均等なものとして、その技術的範囲に属する。

(被告の主張)

(1)第1要件について

ア 本件明細書の【0004】、【0005】及び【0023】の記載によれば、本件発明の本質的部分は、「光源からの光を、回折格子によって板状体の表面側に回折させること」(光の波動の性質に基づく「回折現象」を利用すること)と「回折格子の断面形状又は単位幅における格子部幅/非格子部幅の比の少なくとも1つが、板状体(導光体)の表面における輝度が増大し、かつ均一化されるように変化せしめられている」ことということができる。

しかし、前記1の被告の主張のとおり、被告製品にはこれらの構成につき相違があるから、この点からしても、被告製品について均等侵害が成立しないことは明らかである。

イ 前記1の被告の主張のとおり、本件発明の「導光板」はバックライト用の導光板のみを意味すると解すべきである。そして、本件発明が明示的にも黙示的にも対象にしていなかったものであって、本件明細書において開示された発明をそれに応用しても発明の効果を奏することができないもの(本件でいえば、「フロントライト用導光板」)と本件発明が対象とするもの(「バックライト用導光板」)との違いは、本質的部分の違いとして捉えられるべきである。そのような場合、本件発明は従来技術との比較において、何らの貢献もしておらず、何ら実質的価値を有しないからである。

(2)第2要件について

ア 本件発明の目的は、光の幾何学的性質を利用した従来のプリズムによる全反射ではなく、「光の波動の性質に基づく回折現象を利用して、従来より遥かに高く、かつ均一な輝度を照光面全体に亘って得ることができる」点にあるところ(本件明細書の【0005】)、これを回折現象を使用するものではない被告製品に置き換えると、本件発明の目的を達成することができないことは明らかである。

イ また、本件発明の導光板における(回折)格子を「裏面」から「表面」に移し、反射型(本件発明がその前提とするバックライト型)のものから透過型(被告製品であるフロントライト型)のものにしたとしても、本件発明の目的を達することも、同一の作用効果を奏することもないから、この点においても置換可能性はない。

すなわち、バックライト型と比較して、フロントライト型では、①前面に導光板が設置されるため、導光板の部材には、光の視認の妨げにならないもの(透明な部材など)を採用する必要があり、②導光板からディスプレイに向かって出た光がディスプレイで反射して、再度導光板を通って外に出るという複雑な光路を辿ることから、コントラストや光の均一性をコントロールするのが難しいなど、バックライトとは異なる技術的困難さが伴う。実際に、液晶用バックライトに対して、液晶用フロントライト技術が開発・実用化されたのは、本件特許の出願時である平成8年から見てもはるか後のことである。

したがって、フロントライトに本件発明を応用して、人の目に光が入るときに、「均一な輝度を照光面全体に亘って得」ているように見せるためには、導光板の設計のみでは不十分であり、液晶画面に反射して、導光板に入射する光の経路、液晶画面と導光板との距離、導光板の上下に部材を設置することの必要性、及び(設置の必要性がある場合は)当該部材の特質等を総合的に考慮しなければならない。

さらにいえば、フロントライト導光板において、その裏面に反射型回折格子を設置したら、回折光は上方に抜けてしまうので、回折光が液晶に入射せず、回折格子を利用する意味がなくなってしまう。

したがって、相違部分を単純に置き換えても、フロントライト型の被告製品においては、本件発明の目的を達することはできず、同一の作用効果を奏することもないから、置換可能性はない。

(3)第3要件について

本件特許の出願時から8年後の技術常識としても、フロントライトのパネル面の輝度の均一化及び効率化の向上は困難であることが示されているから、バックライトにおけるパネル面の輝度の均一化を図った本件発明の技術をフロントライトに応用して、本件発明と同一の作用効果を奏させることには相当程度の困難があったはずである。

また、本件発明の構成要件を有する導光板をフロントライトに応用すると、本件発明のようにピッチを小さくした場合、表面輝度は向上しても文字等を視認しにくくなるという、液晶ディスプレイ用の導光板としては致命的な問題があった。

さらに、透過型回折格子の製造は反射型回折格子の製造に比べて格段に難しいから、当業者が被告製品の製造等の時点において、透過型回折格子を使うことを容易に想到することができたものということはできない。

これらのことからすれば、置換容易性がないことも明らかである。

(4)第5要件について

本件特許の出願時において、反射型回折格子も透過型回折格子も公知な技術であったにもかかわらず、原告が敢えて本件明細書で反射型回折格子しか記載しなかったことなどからすると、バックライト型について透過型回折格子を使用することを意識的に除外していたことは明らかである。

(5)以上より、被告製品は本件発明と均等なものではなく、その技術的範囲に属さない。

3 争点2-1(乙7による特許法29条の2違反)について

(被告の主張)

(1)特開平9-113903号公報(乙7)は、本件特許の出願前である平成7年10月20日に出願され、本件特許の出願後である平成9年5月2日に公開されたものの願書に最初に添付された明細書等である。

(2)本件発明と乙7に記載された発明は、いずれもバックライト型の液晶装置に用いられる導光板に関するものである。そして、導光板に反射型回折格子を設ける一方で、部分的に格子のない領域を設けることで、全面にわたって均一な光を得ようとする点でも共通である。

そして、乙7の記載によれば、乙7は、本件発明の構成要件A、B、Cに相当する全ての要素を開示している。

原告は乙7では構成要件Bの「単位幅」等の概念が開示されていないと主張しているが、乙7では「単位幅」という言葉こそ用いられていないものの、比率の変化を論じる前提として単位幅の設定は不可欠であるから、本件発明が「単位幅」という用語で示そうとした概念は開示されているといえる。また、本件発明の構成要件Bに関する原告の主張(解釈)によれば、乙7に記載された発明において本件発明の構成要件Bの構成をすべて開示しているものと評価することができる(この点は後記4の乙8についても同様である。)。したがって、本件発明と乙7に記載された発明は実質的に同一である。

(3)以上より、本件発明は、特許法29条の2に違反して特許されたものである。

(原告の主張)

(1)被告の主張は否認し、争う。

(2)そもそも、乙7には「単位幅」という概念が記載されていない。また、乙7の「格子を製作していない部分の比率を変える」との記載のみをもって、「格子部」と「非格子部」が光進行方向に交互に連続するという構造が開示されているとは到底いえない(乙7では光垂直方向に格子部と非格子部が交互に連続している部分が見られるにすぎない。)し、当該単位幅の中でこの格子部と非格子部との割合が変化するという構造についても何らの開示がされているものでないことは明白である。

乙7の【0031】では「領域」の変化について記載されているが、本件発明の構成要件Bにおいて要求されている構造は、光進行方向に格子部又は非格子部の幅が変化するという構造であって、単に「格子部と非格子部の割合が変化するという構造」ではなく、また、「幅」と「領域」には文言上明確な差異が存する。

本件発明における「単位幅」の概念は、課題解決手段を特定するために必要不可欠の概念であって、いわば、本件発明における作用効果の前提となるものであり、「単位幅」自体にも技術的意義が認められる。

以上より、乙7は本件発明の構成要件Bを開示していない。

(3)以上より、本件発明と乙7に記載された発明は、特許法第29条の2にいう「同一」の発明とはいえない。

4 争点2-2(乙8による特許法29条の2違反)について

(被告の主張)

(1)特開平9-127894号公報(乙8)は、本件特許の出願前である平成7年10月27日に出願され、本件特許の出願後である平成9年5月16日に公開されたものの願書に最初に添付された明細書等である。

(2)本件発明と乙8に記載された発明(以下「乙8発明」という。)は、いずれもバックライト型の液晶装置に用いられる導光板に関するものである。そして、導光板に回折格子(ホログラム)を設ける一方で、その面積密度を変化させることで、全面にわたって均一な光を得ようとする点でも共通である。

(3)本件発明の構成要件と乙8発明の構成の対比

ア 構成要件Aについて

(ア)本件発明の「回折格子」の意義

本件発明の「回折格子」は、特許請求の範囲の文言上も明細書上も「光を回折させる」以上の限定をしていないから、光を回折させるものであればこれに該当する。

本件明細書の【0008】及び【0015】の記載からしても、本件発明の「回折格子」として、刻線溝以外の形状のものを意図していることは明らかである。

(イ)乙8の「ホログラムの回折格子」の意義

乙8の【0030】等に記載されている「リップマンタイプの体積・位相型」のホログラムは単なる実施例にすぎず、【0055】にも「あくまでも一例であり」との記載があるし、【0056】に記載されている「計算機ホログラム」は、干渉縞を微細加工によって記録することでホログラムを作製するもので、表面に凹凸がある計算機合成ホログラムを意味する。

また、エンボス型のホログラムでも管状光源から到達する光の量に応じて回折格子の密度を変化させることなどが可能であるし、乙8のホログラムは導光板の後面反射面又は前面出射面に貼付等により設けられるところ、これは本件明細書の【0008】等に記載の作成方法と同じである。

以上より、乙8の「ホログラム」には、リップマンタイプの体積・位相型のホログラム以外の形状のものも含まれると理解すべきである。

なお、原告は分光について主張しているが、リップマンタイプのホログラムは特定の波長の光を選択して回折させるものであるし、乙8の【0033】にも「ホログラム30に拡散性を持たせた」との開示があり、体積・位相型のホログラムであっても分光が生じるから、原告の主張はこの点において正しくない。

したがって、乙8の「ホログラム(の回折格子)」によって本件発明の「回折格子」が開示されているし、仮に乙8の「ホログラム」が体積・位相型のホログラムに限られるとしても、本件発明の「回折格子」に該当することになる。

(ウ)乙8の【0015】、【0034】、【0035】及び図1の記載から明らかなとおり、乙8発明では、光源からの光が透光性の(透明な)導光板の一側端部(一端面)から入射し、導光板に設けられた回折格子によって回折される。そして、乙8発明でも、ホログラム(回折格子)は、前面出射面(回折光が進行する方向)とは逆側の導光板の面に設けられているから、「板状体の裏面に設けられた」といえる。そして、光が「前面方向に出射する」ことも開示されている。

(エ)以上より、乙8は構成要件Aの全ての要素を開示している。

イ 構成要件Bについて

乙8の【0031】、【0037】及び図2の記載から明らかなとおり、乙8には、ホログラム(回折格子)のない領域を設けること、光源の近くでは回折格子を形成せず、光源から離れるにつれて回折格子を形成することで、回折格子のない部分(非格子部)の面積比を変えること、そしてそれにより導光板から全面にわたって均一で光出射効率を高めた(つまり輝度が増大した)光を取り出すことが開示されている。乙8には「単位幅」という概念自体は明確には記載されていないものの、面積比の変化を論じる前提として単位幅(面積)の設定は不可欠であること、「導光板4の長手方向に4分割」という記載があること(【0031】)からして、当然の前提として単位幅の設定も開示されているというべきである。

このことは、原告の「単位幅」等の解釈を前提としても同じである。

したがって、乙8は構成要件Bの全ての要素を開示している。

ウ 構成要件Cについて

乙8が、構成要件Cを開示していることも明らかである(【0015】等)。

(4)以上より、本件発明は、特許法29条の2に違反して特許されたものである。

(原告の主張)

(1)構成要件Aについて

ア 本件発明の「回折格子」は、本件明細書の【0008】等で「多数の微細刻線溝」に関する記載があることや、【0017】において分光した回折光を拡散板により白色光に戻す機構についての記載があることから明らかなように、多数の微細刻線溝が加工されたものであり、ホログラムを用いた場合であっても、当該ホログラムは、表面形状を変化させるホログラム(凹凸型[エンボス型]ホログラム)を前提としている。

これに対し、乙8の「(ホログラムの)回折格子」は、その【0030】等に「リップマンタイプの体積・位相型」のホログラムと記載されていることから明らかなように、表面形状を変化させない体積型ホログラムであり、微細刻線溝は加工されていない。乙8には分光した回折光を白色光に戻すための拡散板といった機構に関して一切の言及がされていないから、その点からも、分光が生じない体積型ホログラムのみを前提としていることは明らかである。なお、乙8の【0056】に「計算機ホログラム」との記載があるが、これは干渉縞の記録に当たり、現実の物体を要するか否かによって決まるものであり、凹凸型ホログラムと体積型ホログラムの区別とは全く異なる次元に位置する概念であるから、その記載によってエンボス型ホログラムが開示されていることにはならない。

したがって、乙8の「(ホログラムの)回折格子」は、本件発明の「回折格子」に該当しない。

イ 以上より、乙8は本件発明の構成要件Aを開示していない。

(2)構成要件Bについて

乙8には、そもそも「単位幅」という概念は開示されていないし、本件発明における「単位幅」は広さを意味するに過ぎない「面積」とは、全く異なる概念であるから、乙8に「単位幅」の構造が開示されているとは到底いえない。

したがって、乙8は本件発明の構成要件Bを開示していない。

(3)以上より、本件発明と乙8発明は、特許法29条の2にいう「同一」の発明とはいえない。

5 争点2-3(乙9による新規性欠如)について

(被告の主張)

(1)特開平6-186562号公報(乙9)は、本件特許の出願前である平成6年7月8日に公開された特許文献である。

(2)本件発明と乙9に記載された発明は、いずれもバックライト型の液晶装置に用いられる導光板に関するものである。そして、導光板に凹凸パターンを設ける一方で、凹部又は凸部の面積を変化させることで、射出光量の均一性と輝度の向上を図る点でも共通である。

そして、乙9の記載によれば、乙9は、本件発明の構成要件A、B、Cに相当する全ての要素を開示している。

原告は乙9で回折を利用することが開示されていないと主張しているが、乙9の【0013】及び【0019】の記載に照らせば、反射といった幾何学的性質のみならず、それ以外の回折といった現象も念頭に置いているということは、当業者であれば容易に理解することができる。

(3)したがって、本件発明は新規性を欠如しており、特許法29条1項3号に違反して特許されたものである。

(原告の主張)

(1)構成要件Aについて

乙9は、いずれも「光乱反射構造」を有するものの、明細書において「回折」を利用するとの記載はない。また、その【0005】の記載に照らせば、乙9の凹凸のパターンの凹部又は凸部の表面に加工された微小な凹凸形状の粗面は、いずれも乱反射構造として配置されていることは明らかである。

さらに、乙9の請求項1や【0014】で「周期」という文言が用いられる以上、ここでの凹凸は、一定間隔での連続が想定されているのでなく、単に「凹凸が連続している」程度の状態が想定されているにすぎない。それゆえ、一定間隔での凹凸(櫛目状の構造)により生じる「回折」現象が想定されていないことは明らかである。

したがって、乙9において、構成要件Aは開示されていない。

(2)構成要件Bについて

上記(1)で述べたとおり、乙9には「回折」現象が想定されていない以上、「回折格子」構造を前提とする本件発明の構成要件Bは開示されていない。それだけでなく、乙9では、「凹部」と「凸部」の和が一定になるような「単位幅」は開示されておらず、ましてや、この「単位幅」が光進行方向に向けて連続して導光板上に設置されるとともに、当該「単位幅」内における格子部幅と非格子部幅の比が、光源からの到達光量の減少に応じて回折光量が増加するように変化せしめられる構造は全く開示されていない。

また、乙9における凸部の面積を変更するという技術は、回折光量を増大させることによって輝度の増大及び均一化を図る本件発明の技術とは全く異なる。

したがって、乙9において、構成要件Bは開示されていない。

(3)以上より、乙9には、本件発明の構成要件が全て開示されていない以上、

乙9により本件発明の新規性は否定されない。

6 争点2-4(乙9を主引例とする進歩性欠如)について

(被告の主張)

(1)もし仮に、乙9が「回折」格子を使うことを開示していないと認定される場合でも、以下のとおり、その他の周知技術との組合せで、本件発明は進歩性を欠く。

例えば、原告自身の発明に関する特開平7-248496号公報(乙10)は、液晶バックライト導光板に回折格子を設けて、高輝度と輝度の均一性を得ることを開示している。乙9に記載された発明と、乙10に記載された発明とは、いずれも液晶表示装置用の導光板に関するものであり、技術分野が同一である。また、いずれの発明も、より高輝度かつ均一な光を得ることを課題としており、課題も共通している。さらに、乙10には、「より微細なパターン印刷とか形状加工を考えられるが、その場合それ等の乱反射又は全反射源としての効率は低下する」が(【0004】)、「本発明は、極微細な形状にもかかわらず強力に光を回折する回折格子を導光板に利用した」(【0005】)と記載されている。これは、乙9が採用する乱反射の不都合性とその解決策を提示するものである(他に乙7、76によっても、上記技術の周知性が基礎付けられる。)。これらのことからすれば、乙9に触れた当業者であれば、乙9の導光板において、上記の周知技術を適用することは、容易に想到することができたというべきである。

また、導光板面上で光源からの光を液晶面に向けて放出する機能を有する物体又は形状(回折格子における格子部を含む。)の面積割合が、光源から到達する光の量に応じて変化するという技術も本件特許出願当時において周知技術であった(乙77等)。

仮に以上の各技術の周知性が認められなかったとしても、それらの技術は少なくとも公知技術であったと言え、本件特許出願当時、乙9にそれらの公知技術を適用して本件発明に至る動機付けが存在した。

なお、本件発明において「単位幅」というものを設けること自体に特段の技術的意義はなく、乙9のように「面積」の比とするのか、本件発明のように「幅」の比とするのかは、設計事項にすぎない。

(2)したがって、本件発明は進歩性を欠如しており、特許法29条2項に違反して特許されたものである。

(原告の主張)

前記5の原告の主張のとおり、乙9は、「回折」格子を使用していない点、「単位幅」という概念を用いていない点、及び「単位幅」における格子部幅と非格子部幅の比を変化せしめる構造を有していない点において、本件発明の技術的内容と大きく異なる。

そして、被告が周知技術として引用する乙10は、「回折格子を利用したバックライト導光板」の発明であり、単に回折現象を導光板に用いるということのみを開示しているのであって、その他の「単位幅」の設定や格子部幅と非格子部幅の比を変化せしめる構造は何ら周知技術においても開示されていない。

また、乙9及び乙10では本件発明の技術的思想は全く開示されていないし、これらの明細書の記載を参酌しても、本件発明との差異点に関する内容の示唆は何らなされておらず、当業者において容易に想到することが可能であることを根拠付ける事情は存しない。被告のその余の主張は否認し、争う。

したがって、本件発明は、乙9及び周知技術である乙10等の組み合わせによっても、何ら進歩性が否定されるものではない。

7 争点2-5(サポート要件違反)について

(被告の主張)

前記1の被告の主張(1)アの主張によれば、本件発明の「導光板」に被告製品のようなフロントライトに用いられる導光板を含むと解するならば、本件特許にはサポート要件違反があることになる。

(原告の主張)

被告の主張は否認し、争う。原告の主張は既に主張したとおりである。

8 争点3(原告の損失、被告の利得額)について

(原告の主張)

被告が平成24年11月以降、被告製品を日本国内で販売し、その間に得た売上額は、少なくとも約40億円を下らない。そして、本件発明の技術分野、被告製品の市場、被告製品における本件発明に関する技術の重要性、実務慣行等に鑑みれば、本件発明の実施に係る本件特許権の実施料率は、少なくとも4%を下るものではない。

したがって、被告は、法律上の原因なく実施料相当額1億6000万円の利益を受け、そのために原告は同額の損失を被った。

(被告の主張)

原告の主張は否認し、争う。

7.裁判所の判断

1 争点2-2(乙8による特許法29条の2違反)について

本件では均等侵害の成否(争点1)が争われているところ、その第1要件の充足性を検討する前提として、まず争点2-2について判断する。

(1)本件発明について

本件明細書(甲6)には、本件発明の技術的意義について、次のとおりと記載されている(甲6)。

ア 本件発明は、液晶表示装置などのバックライトや発光誘導板に用いられる導光板に関するものであり(【0001】)、従来、液晶表示装置のバックライトに用いられる平面照光装置として知られているものには、下面に多数の多面プリズムをもつ透明アクリル樹脂からなる導光板が設けられており(【0002】、液晶表示装置を暗い場所で光源を点灯して見る場合、光源から導光板の下面に向かって入射した光は、多面プリズムでの反射により光源の殆どの光が導光板内を全反射しながら遠方まで導かれるので、液晶表示パネルを下方から輝度ムラが少なく明るく照らすことができる(【0003】)が、上記従来の平行照光装置は、導光板の下面の多面プリズムが、全面に多数あるとはいえ、その一辺が例えば0.16㎜と、光の波長に比べて相当大きいものであるうえ、各プリズムが協同することなく個別に光を全反射するものであるため、導光板の輝度を全体に高めようとすると、各プリズムの間の谷間にあたる箇所で乱反射が起きて上面に向かう光量が減り、照光面である上面に極端な明暗のコントラストが生じるという問題があった。また、この平行照光装置を電池で駆動される液晶表示装置に用いると、照光面に向かう上記光量の減少を補って高輝度を得るべく、光源を大電流で照らす必要があるため、電池の寿命が短くなって、長期使用ができなくなるという問題もあった(【0004】)。

イ そこで、本件発明の導光板は、①本件発明の回折格子(構成要件A)により、格子間隔がサブミクロンから数十ミクロン(0.1~10μm)までと上記プリズムの一辺0.16㎜に比して1/100のオーダであり、多数の微細刻線溝間の隣接する平滑面が協同、相乗して波動としての光を格段に強く回折でき、格段に高輝度の照光面が得られる(【0008】)、②例えば、光源側の一端面から離れる、つまり光源から届く光量が減じるにしたがって、例えば、断面形状が正弦波から鋸歯状に、または単位幅における格子部幅/非格子部幅の比が次第に大きくなっていること(構成要件B)から、光源からの光は、光量の多い一端面側で弱く回折され、光量が少ない遠方側になるほど強く回折されるので、導光板の表面は非常に均一な輝度で照らされる(【0009】)、③したがって、この導光板を電池で駆動される液晶表示装置、液晶テレビ、非常口を表示する発光誘導板などに適用すれば、従来に比して格段に少ない消費電力で明るく均一な照明を得ることができ、光源および電池の寿命を延ばし、長期使用を可能にすることができるようにしたものである(【0023】)。

(2)乙8発明について

ア まず、特開平9-127894号公報の特許請求の範囲並びに明細書及び図面の内容は、本判決添付の乙8の公開特許公報のとおりと認められる(乙8)。

イ 乙8によれば、乙8発明の技術的意義は、次のとおりと認められる。

(ア)近年、液晶表示素子、特にカラー液晶表示素子の裏面にバックライトとして面光源装置を用いた直視型液晶表示装置が多く用いられており(【0002】)、ノート型パーソナルコンピュータでは特に薄型化・軽量化が要求されるため、エッジライト型(光源が照光面の外側に配置された方式であって、照光面である透明なアクリル樹脂板などからなる導光板の一辺もしくは二辺に蛍光ランプ[多くは冷陰極管]等の管状光源を密着させて導光板の側端部より導光板内に光を導入する方式)が多く用いられるようになってきている(【0003】、【0004】)が、従来の構成の面光源装置において輝度を均一にするためには、管状光源からの光を導光板内で繰り返して全反射させることによって管状光源より離れたところまで光を伝搬させると共に、このような導光板内での全反射の繰り返しによって表示面の光量が均一となるように反射面の形状あるいはその粗面の仕方などを工夫する必要がある(【0011】)。しかし、反射面を粗面とすることは、光透過率の減少の要因となる。また、反射面の形状を曲面状等に傾斜すると形状が複雑になり、薄型化を妨げたり、その保持等に工夫が必要となる等の問題があり、反射面の形状を工夫するにも困難が伴う。これらのことから、従来では、光効率が大幅に劣化していた(【0012】)。

(イ)そこで、乙8発明は、輝度の均一化が図れると共に管状光源から得られた光の利用効率を向上でき、しかも製造が容易な面光源装置を提供することを目的とし(【0014】)、①導光板の後面反射面または前面出射面に管状光源からの光を回折するホログラムを設け、このホログラムを管状光源から到達する光の量に応じて回折格子の面積密度が変化しているホログラムとしている(請求項1)ので、管状光源から到達する光の量が減少すればそれに応じて回折格子の面積密度を変化させて前面出射面から出射する光の量を増大させることができ、その結果、端面入射面に入射した管状光源からの光を効率良くまた、面内で均一に前方に出射することができ(【0016】)、②ホログラムが後面反射面に設けられた反射型のホログラムである場合(請求項2)には、ホログラムの回折格子の面積密度を管状光源から離れるに従って増大しているようにすることにより、通常管状光源から離間するほど減少する導光板の端部入射面から入射した光を効率良くまた、面内で均一に前方に出射することができる(【0020】)。

(3)本件発明と乙8発明の対比

ア 本件発明の構成要件Aは、「透明な板状体の少なくとも一端面から入射する光源からの光を、上記板状体の裏面に設けられた回折格子によって板状体の表面側へ回折させる導光板であって」というものである。

他方、乙8では、その第1の実施の形態の項において、①「本実施の形態の面光源装置は、被照明体としての液晶パネル(図示しない。)を後方から面状に照明する透光性の導光板4と、該導光板4の一側端部に配された管状光源1」を備え(【0028】)、②「後面反射面にはホログラム30を貼付した。このホログラム30は、アクリル系フォトポリマーからなる膜厚20μmのリップマンタイプの体積・位相型の反射型ホログラムを用いた。」(【0030】)とされ、③「図1において、管状光源1からの光のうち、導光板4に向かって照射された光は、直接導光板4の端部入射面に到達し、管状光源1から外側に向けて発散された光は、光源反射鏡2に当たって反射、その一部は導光板4の端部入射面に到達する。そして、端部入射面に到達した光は、多少屈折されて導光板4内へ入射する。」(【0034】)、④「導光板4内に入射した光のうち、比較的後方に屈折された光は、後面反射面に到達する。…後面反射面の管状光源1から離間した部分であって回折格子の形成された部分に到達した回折条件に合致する光、すなわち管状光源1方向から入射した入射角60度の光が0度つまりは前面出射面の法線方向に回折され、導光板4内を伝播し、前面出射面に到達する。この場合、前面出射面に到達した光は臨界角より小さいため、前面方向に光が出射する。」(【0035】)、⑤「端部入射面から導光板4内へ入射した光のうち、比較的前方に屈折された光は、直接に前面出射面に向かって進行する。…光は前面出射面で全反射し、導光板4内を伝播し後面反射面に到達する。そして、上記と同様にホログラム30の回折格子の形成された部分に到達した回折条件に合致する光は回折され入射角60度の光が0度つまりは前面出射面の法線方向に回折され、再度導光板4内を伝播し、前面出射面に到達し、前面方向に光が出射する。」(【0036】)と記載されている(なお、図1については本判決添付の乙8の公開特許公報参照)。

これらの記載及び前記(2)のような技術的意義からすると、乙8には、「面状の透光性の導光板4の端部入射面に入射された管状光源1からの光を、上記導光板4の後面反射面に貼付されたホログラム30の回折格子によって上記導光板4の前面出射面へ回折させる導光板4」が記載されていると認められる

そして、本件発明の「裏面」及び「表面」とは、入射した光を「裏面」に設けられた回折格子によって「表面」側へ回折させ、それにより「表面における輝度が増大し、かつ均一化」される(構成要件B)のであり、輝度の増大・均一化は、回折光のそれをいうものであるから、「表面」とは、導光板において光が回折して進行する方向側の面をいい、「裏面」とはその反対側の面をいうと解される。したがって、乙8の第1の実施の形態の「後面反射面」、「前面出射面」はそれぞれ本件発明の「裏面」、「表面」に相当する。

そうすると、本件発明の構成要件Aと乙8発明では、回折を生じさせるために導光板の裏面に設けられた構成が、本件発明では「回折格子」であるのに対し、乙8発明では「ホログラムの回折格子」である点以外は一致するから、この両者が同一の構成であるか否か(以下「相違検討点1」という。)が問題となるが、その余の構成は一致するといえる

イ 本件発明の構成要件Bは、「上記回折格子の断面形状または単位幅における格子部幅/非格子部幅の比の少なくとも1つが、上記導光板の表面における輝度が増大し、かつ均一化されるように変化せしめられていることを特徴とする」というものである。

他方、乙8では、その第1の実施の形態の項において、①「ホログラム30を作製する際に、あらかじめ作製しておいた図2に示すマスクをフォトポリマーたる感光材料に密接配置し、紫外線で事前に露光した。本実施例で用いた図2に示すマスクは、導光板4の長手方向に4分割し光量の多い管状光源1に近い領域を白色の部分(紫外線透過部分)とし、管状光源1から離れるに従って白色の部分(紫外線透過部分)の面積が減少する構成とした。このマスクの紫外線透過部分(図2で白色部分)に対応するフォトポリマーの部分はホログラムの作製のための露光を行う前に予め紫外線で露光されることになるからこの紫外線透過部分には回折格子は記録されない。従って、管状光源1に近い領域では回折格子が形成される領域は存在せず、管状光源1から離れるに従って回折格子が形成される領域が増大する構成となり、図2のマスクパターンと同じパターンの面積密度に回折格子が形成されることになる。」(【0031】)、②「このように、ホログラム30の回折格子の形成されていない部分では、管状光源1から離間するほど前面方向に出射する光は弱くなるが、本実施の形態のホログラム30は前述のようにマスクを用いて回折格子の面積を管状光源1から離間するほど面積が増大するように変化させられているので、管状光源1から離間するほどホログラム30の回折格子で回折されて前面出射面に向かい前面方向に出射する光の量が増大する。従って、導光板4内で前面出射面に向かい、前面方向に出射する光の量を比較的均一にできると共に前面出射面の光出射効率を高めることができる。」(【0037】)と記載されている(なお、図2については本判決添付の乙8の公開特許公報参照)。

これらの記載及び前記(2)のような技術的意義からすると、乙8には、「そのホログラム30が、図2のように管状光源1から離間するほど面積ないし面積密度が増大するように変化させられている」構成が記載されていると認められる

そうすると、本件発明の構成要件Bの「回折格子の…単位幅における格子部幅/非格子部幅の比…が、上記導光板の表面における輝度が増大し、かつ均一化されるように変化せしめ」るという構成と、乙8発明の上記構成が同一の構成であるか否か(以下「相違検討点2」という。)が問題となる。なお、構成要件Bの「回折格子」と乙8の「ホログラム(の回折格子)」との関係についても、前記相違検討点1と同様の相違検討点がある。

ウ 本件発明の構成要件Cは、「導光板」であるのに対し、乙8の「導光板4」がこれに相当するから、両者は一致する。

(4)相違検討点1について

ア 本件発明の特許請求の範囲及び本件明細書における「回折格子」に関する記載内容

(ア)まず特許請求の範囲の構成要件Aでは、「回折格子」が「光を…回折させる」部材であることが記載されているにとどまり、その具体的意義は特に記載されていない。また、構成要件Bには、「回折格子の断面形状…が、上記導光板の表面における輝度が増大し、かつ均一化されるように変化せしめられている」場合が記載されており、その場合には回折格子の断面が何らかの形状を有することは読み取れるものの、他方で、「回折格子の…単位幅における格子部幅/非格子部幅の比…が、上記導光板の表面における輝度が増大し、かつ均一化されるように変化せしめられている」場合についても記載されており、この場合には、回折格子の具体的な形状に特段の制限はない。

(イ)次に、本件明細書の記載を確認すると、次のとおり記載されている。

まず、【課題を解決するための手段】が記載された【0007】では、透明な板状体からなる導光板の裏面に「回折格子3(刻線溝)」が加工されている場合を前提に、本件発明において利用されている回折の技術的意義について説明されている。その上で、【0008】では、上記認定のとおり、多数の微細刻線溝が設けられた回折格子を挙げて、本件発明による作用効果が説明され、その格子間隔はサブミクロンから数十ミクロン(0.1~10μm)までであると説明されている。そして、このような回折格子をもつ導光板の製造方法につき、「例えば、刻線溝を内面に機械加工したり回折格子のホログラム電鋳膜を内張りした金型による成形、あるいは導光板の裏面に刻線溝を直接機械加工または印刷したり、印刷やホログラムによる膜を張り付けて作ることができる」と説明されている。

また、【発明の実施の形態】が記載された【0013】以下では、図2で示された実施例の説明が記載されており、その実施例は、導光板の裏面に「微細な刻線溝として成形加工された回折格子」を設けるもので(【0014】)、その刻線溝は微細なだけでなく、多数存在しているものとされている(【0016】)。そして、【0015】では、その作成方法につき、「格子間隔…が数μmで、内面に刻線溝を機械加工した金型を用いて導光板と同時に成形されるが、…間隔…が0.1~10μm、回折格子のホログラム膜を内挿したインモールド成形、導光板裏面への刻線溝の機械加工、または導光板裏面への印刷やホログラムによる回折格子膜の張付けによっても作成することができる」と説明されている。そして、【0018】では、「微細加工技術でパターンを刻線した金型を用いて」回折格子をもつ導光板を製造し、その表面輝度を従来の導光板と比較する実験の結果が記載されている。

イ 乙8における「回折格子」に関する記載内容

(ア)まず、乙8の特許請求の範囲では、「管状光源からの光を回折するホログラムが設けられ、該ホログラムは前記管状光源から到達する光の量に応じて回折格子の面積密度が変化しているホログラムである」(請求項1)とか、「ホログラムの回折格子」(請求項2ないし4、9)などと記載されているだけで、その具体的な意義や形状等については何ら記載されていない。

(イ)その上で、乙8の【発明の詳細な説明】の【課題を解決するための手段】の項では、乙8における「回折格子」はホログラムに形成されており(【0018】)、そのホログラムを貼付等により導光板の後面反射面又は前面出射面に設けることが記載されている(【0017】)。そして、【発明の実施の形態】の項では、第1及び第2の実施の形態として、「アクリル系フォトポリマーからなる膜厚20μmのリップマンタイプの体積・位相型の反射型ホログラム」を用いた実施例が記載され(【0030】、【0039】)、第3の実施の形態として、上記と同じ材料の「膜厚20μmのリップマンタイプの体積・位相型の透過型ホログラム」を用いた実施例が記載されている(【0048】)。

また、ホログラムの記録材料としては耐久性等の点からフォトポリマーを用いることが好ましいとされ(【0019】)、①上記ホログラムは、あらかじめ作製しておいたマスクをフォトポリマーたる感光材料に密接配置し、紫外線で事前に露光して作製すること、②そのマスクに紫外線透過部分を設けておくと(ホログラムを作製する際に使用したマスクの平面図である図2、4、6参照)、その部分に対応するフォトポリマーの部分はホログラムの作製のための露光を行う前に予め紫外線で露光されることになるから、この紫外線透過部分には回折格子は記録されないことが記載されている(【0031】、【0040】、【0049】)。

さらに、「ホログラムとしては、リップマンタイプ等の体積・位相型のホログラムが高い回折効率を得られるという点で望ましい。また、2光束干渉によって記録したものに限らず、所望のホログラム干渉縞を計算機によって計算し、電子ビーム等によって描画して作製する計算機ホログラム(CGH:Computer Generated Hologram)を用いてもよい。」と記載されている(【0056】)。

ウ 「回折格子」に関する文献等の記載

次の刊行物には、「回折格子」に関し、以下の記載がある。

(ア)鶴田匡夫著『応用物理工学選書1 応用光学Ⅰ』(株式会社培風館、1990(平成2)年7月20日)(乙44)

「3-10-3 ブレーズ現代において、広く使われている回折格子は反射型で、その刻線断面はのこぎりの歯状をなしているものが多い。こうする目的は、特定の波長、特定の次数の回折波へのエネルギーの集中度(回折効率ということが多い)を大きくすることができるからである。」(297頁)

(イ)特開平8-15514号公報(平成8年1月19日公開、甲40)これは、発明の名称を「反射型回折格子」とする発明について、次の記載がある。

a 「エンコーダやカラー画像スキャナ等に用いられる反射型回折格子は、表面に格子形状の凹凸をもつ反応硬化型樹脂のレプリカ層を基板に積層し、前記レプリカ層の表面に金属の反射膜等を被着させたものが一般的である。」(【従来の技術】の項の【0002】)

b 「図1は一実施例による反射型回折格子E1の断面を示すもので、これはカラー画像スキャナ等に用いられる三段型の色分解用の反射型回折格子であり、基板1と、表面2aに三段型の格子形状の凹凸を有する反応性硬化型樹脂のレプリカ層2と、これに被着された反射層3を有する。」(【実施例】の項の【0011】)

(ウ)特開平9-113903号公報(平成9年5月2日公開、乙7)これは、発明の名称を「液晶表示装置」とする発明について、次の記載がある。

a 「図1はこの発明の実施の形態1である液晶表示装置の構成を示す図である。図において、1は光源であるランプ、2は反射鏡、3は導光板、4は反射型回折格子…である。」(【発明の実施の形態】の項の【0019】)

b 図1には、導光板の裏面に設けられた反射型回折格子4が図示されており、その形状は角が連続するいわゆる鋸刃状となっている。

(エ)長倉三郎ほか編『岩波 理化学辞典 第5版』(株式会社岩波書店、1998(平成10)年2月20日)(乙15)

「光の回折を利用してスペクトルを得る素子。ふつうは多数の溝をきざんで、溝の間の滑らかな面で反射される光線の間の干渉で生ずる回折像を利用する。平面上に等間隔に多数の平行な溝をきざんだ平面格子が基本形で」ある。「ほかに凹面格子、エシェレット格子…などがある。…格子線の密度…はふつう1㎜につき600~1200本ある。」(209頁)

(オ)兵藤申一ら著『高等学校 物理Ⅰ 改訂版』(株式会社新興出版社啓林館、平成21年12月10日)(甲23)

「板ガラスの片面に1㎝あたり数百本の細い平行な溝をつけたものを回折格子という。回折格子に光を当てると、溝の部分は光を乱反射して光を通さないが、溝と溝のすき間の透明な部分は光を通し、スリットの役割をする。」(255頁)

エ ホログラムに関する文献等の記載

(ア)特開昭62-206584号公報(昭和62年9月11日公開、乙83)

これは、発明の名称を「計算機合成ホログラムおよび位相シフト回折格子の各製造方法」とする発明について、次の記載がある。

a 「第2の発明の位相シフト回折格子の製造方法の構成は、…計算上の回折波面と、計算上の参照光束とを干渉させたときの干渉縞を計算し、この干渉縞を基板上に描画して計算機合成ホログラムを製作する第1の工程と、前記ホログラムを前記参照光と共役な波面で照射して得られる波面を、前記位相板の配置されていた面で平行光束と干渉させてウェハー上に設けた感光体に照射し、この感光体に位相シフト回折格子を形成する第2の工程とを含むことを特徴とする。」(〔問題点を解決するための手段〕の項の2頁左下欄13行目から右下欄4行目)

b そして、第2の発明の実施例を模式的に説明する断面図である第1図では、ホログラム7の下面が凹凸形状のものが記載されている。

(イ)小野雄三「ホログラム光学素子の最近の展望」(「光学」第22巻第3号、1993(平成5年)3月)(乙81)

・ 「1.はじめにホログラフィーにおける波面再生原理を、入射波面を特定の回折波面に変換する光学素子機能であると拡張したのがホログラフィック光学素子(holographicoptical element、以下HOEと略記する)である。HOEは製作方法の進展により、回折光学素子と総称されるに至り、屈折型光学素子や反射型光学素子と同列に論じられるレベルに来た。」(126頁)

・ 「3.製作方法の進展HOEの製作方法として、レーザー光の干渉縞を直接記録するのではなく、電子ビーム描画したフォトマスクを用いてフォトリソグラフィーの手法で、表面レリーフ型のHOEを製作することが一般化して来ている。これは電子ビーム描画によるCGH(computer generated hologram)製作が技術的にも経済的にも可能になったことを意味」する(同上)

・ 「表面レリーフ型HOEの回折効率向上にはブレーズ格子化が必要であるが、フォトリソグラフィーの手法を用いたマルチ位相レベルのHOEが開発された。図2(d)に示す鋸歯状断面を図2(c)に示すように…階段状の位相レベルでディジタルに近似したものである(注:図2は、マルチ位相レベルのHOEの製作法の模式図であり、(d)は単なる大きな鋸歯状の断面を有するものであるのに対し、(c)は(d)の上から下に下がる歯の面を多数の階段状とし、徐々に下に向けて段差をつけたものである。)。…これは、言うなれば、ディジタルブレーズとでも言うべきもので、断面加工は、N枚のフォトマスクを用いてN回エッチングまたはリフトオフをすることで実現できる。…アナログ的なブレーズ化手法としては、イオンビームエッチングによる方法が適用されている。」(127頁)

・ 「5.材料技術の進展フォトリソグラフィー手法でのHOEの製作が一般化したもう一つの背景として、複製用材料技術の進展があげられる。材料技術の大きな進展は、EB描画のフォトマスクを用いて体積位相型のホログラムが複製できるようになったことである。…材料はフォトポリマー層がポリエステルシートでサンドイッチされた形のものである。マスターとなるクロムフォトマスクにフォトポリマー層をラミネートした状態で、フォトマスク側からUV光で露光することで体積位相型HOEが得られる。…計算機合成HOEを高回折効率の体積位相型ホログラムとして量産することを可能にした技術と言える。

フォトポリマー技術のもう一つの進展は、dry photo-polymer embossingという、液状樹脂を用いない2P法…である。…熱プレス法では従来複製困難であったブレーズド格子や高密度で深い溝の高回折効率の格子に対応できる新しい技術として注目される。

体積位相型ホログラムと表面レリーフ型ホログラムは回折効率の入射角依存性や波長依存性に相違があり、応用によって両方のホログラムを使い分ける必要性からも、上記二つの材料開発は実用上意味深いことである。」(128頁)

(ウ)特開平6-222361号公報(平成6年8月12日公開、甲51)

これは、発明の名称を「ホログラムを用いた液晶表示装置」とする発明について、次の記載がある。

「本発明の原理図を図1に示す。図1において、液晶表示装置のカラーフィルター1のバックライト入射側に透過型ホログラム5を配置する。…ホログラム5としては、回折効率の波長依存性がないかもしくは少ない、レリーフ型、位相型、振幅型等のものが用いられる。ここで、回折効率の波長依存性がないかもしくは少ないとは、リップマンホログラムのように、特定の波長だけを回折し、他の波長は回折しないタイプのものではなく、1つの回折格子で何れの波長も回折するものを意味し、この波長依存性の少ない回折格子は、一般に、波長に応じて異なる回折角で回折する。」(【実施例】の項の【0015】)

(エ)特開平6-247085号公報(平成6年9月6日公開、乙80)

これは、発明の名称を「光解説パターン記録媒体」とする発明について、次の記載がある。

a 「本発明の光回折パターンは、感光材料の表面に凹凸模様として記録される平面型と、感光材料の厚み方向に記録される体積型とに分類される。」(【実施例】の項の【0015】)

b 「凹凸模様として記録される光回折パターンとしては、物体光と参照光との光の干渉による干渉縞の光の強度分布が凹凸模様で記録されたレリーフホログラムやレリーフ回折格子が記録可能であり、…。」(同【0016】)

c 「本発明の第2の実施例の光回折パターン記録媒体は、図2に示すように、光回折パターン形成層としてリップマンホログラム8の表面に、可変情報形成部4が形成されたものであり、…。」(同【0039】)

(オ)特開平6-230377号公報(平成6年8月19日公開、乙84)

これは、発明の名称を「液晶表示装置用微小ホログラムアレーの作製方法」とする発明について、次の記載がある。

「このホログラムアレー5は、カラーフィルター1の画素ピッチと同じピッチで微小単位ホログラム51~5Nがアレー状に配置されて構成されており、各微小ホログラム51~5Nは、カラーフィルター1にほぼ垂直に入射する白色のバックライト3を回折して、対応する微小ホログラム51~5Nからオフセットした位置のカラーフィルター1の画素上に集光するようにフレネルゾーンプレート状に形成されている。ホログラム51~5Nとしては、回折効率の波長依存性がないかもしくは少ない、レリーフ型、位相型、振幅型等のものが用いられる。ここで、回折効率の波長依存性がないかもしくは少ないとは、リップマンホログラムのように、特定の波長だけを回折し、他の波長は回折しないタイプのものではなく、1つの回折格子で何れの波長も回折するものを意味し、この波長依存性の少ない回折格子は、一般に、波長に応じて異なる回折角で回折する。」(【実施例】の項の【0013】)

(カ)特開2001-116908号公報(平成13年4月27日公開、甲52)

これは、発明の名称を「光学シートおよびそれを用いたディスプレイ」とする発明について、次の記載がある。

a 「ホログラムには各種のタイプがあり、それに応じて反射板の特性も変化する。表面レリーフ型ホログラムの場合には、ホログラム(拡散パターン)の干渉縞が浅い格子で構成され、縞のコントラストが低く回折効率を高くすることが難しいため、明るい表示パターンを視覚することが難しいと共に、ホログラムが持つ色分散のために、観察する方向に応じて視覚される色が変化してしまう。」(【従来の技術】の項の【0008】)

b 「体積位相反射型ホログラムの場合には、その波長選択性により反射回折される波長幅が狭く限定(特定の色になる)され、可視波長域に渡っての明るい表示パターンを視覚することが難しい。」(同【0009】)

(キ)植田健治「多様なホログラム」(「日本印刷学会誌」第40巻第2号、2003(平成15)年)(甲49)

・ 「1.はじめに

…ホログラムは、物体(被写体)から反射された全ての光の情報を干渉縞として記録したもので、距離情報を含むため立体像を再生できる。」(23頁)

・ 「2.ホログラムの種類と特徴

…ホログラムの干渉縞の形成方法にはエンボス型と体積型の2種類がある。図3(注:その内容は、まず、「表面型(エンボス型・レリーフ型)」の説明として、表面が波線状の凹凸の模式図が掲載され、「干渉縞を表面の凹凸として記録」との説明が記載されている。これに対し、「体積型(リップマン型)」の説明として、平坦な模式図が掲載され、「干渉縞を感光材料内に屈折率変調として記録」、「再生時の角度・波長選択性が高い!!」との説明が記載されている。)にそれぞれの表面の模式図を示す。エンボス型は、干渉縞を材料表面の凹凸として記録する。体積型は、干渉縞を材料内部の屈折率分布もしくは透過率分布として記録する。エンボス型(レリーフ型とも呼ばれる)では、感光材料の基板の同じ側から2光束を入射してできる干渉縞を記録する。」(同上)

・ 「3.エンボス型ホログラム

エンボス型ホログラムは通常半導体産業で用いられるフォトレジストにより記録する。量産の場合は、これを複製用原版として、エンボス法(熱可塑性樹脂に熱圧をかけて型取りする方法)またはフォトポリマー法(頭文字を取り2P法と呼ばれる:電離放射線硬化型樹脂を流し込み硬化させ型取りする方法)により複製する。表面形状を賦型で量産可能であるため、一般的なホログラムとして最も普及している」(24頁)

・ 「4.体積型ホログラム

体積型ホログラムには反射型と透過型がある。特に反射型をリップマンホログラムと呼ぶ。リップマンホログラムは、特定の波長の光を選択して回折するために、色収差によるぼけが少ない。従って、視域を制限した撮影方式が必須でなくなるため、左右のみならず上下方向の立体情報も記録でき、エンボス型と比較してより忠実でリアルな立体像の再生が可能である。体積型はエンボス型のような表面形状による複製はできず光学的な複製を行う必要がある」(同上)

(ク)島津製作所のホームページの「回折格子の溝形状」と題する項目(平成30年2月13日現在のもの)(甲39)

「回折格子(Gratings:グレーティング)は、溝の断面形状によりいくつかの種類に分類できます。ここでは当社で製作している回折格子のうち主な3種類の特長を紹介します。

1.ブレーズド ホログラフィック 回折格子(BHG)

鋸歯状溝(注:図の掲載は省略。以下同じ。)

・ 紫外から可視域の特定の波長に対して高い回折効率を示します。

・ ブレーズ角でブレーズ波長(回折効率のピーク波長)が決まります。

・ 可視・紫外の分光器に使用されます。

2.ホログラフィック 回折格子(HG)

正弦波状溝

・ 広い波長範囲で回折効率がブロードです。

・ 溝深さで回折効率のピーク波長が決まります。

・ 一般に、回折効率はブレーズド ホログラフィック 回折格子(BHG)の半分程度ですが、溝深さ/溝周期が大きい場合にはBHGより高い回折効率が得られことがあります。

・ 広い波長域を使用する場合や近赤外域で使用されます。

3.ラミナー回折格子

矩形状溝

偶数次光の回折効率がBHG、HGに比べて低くなります。

溝深さとデューティ比(溝周期に対する溝幅)で回折効率のピーク波長が決まります。

軟X線領域での反射率が大きく取れるため、軟X線領域で使用されます。」

オ 本件発明の「回折格子」の意義

(ア)本件発明の構成要件A及びBでは「回折格子」という語が用いられているが、その意義(これには乙8に記載されている「リップマンタイプ等の体積・位相型のホログラム」が含まれるか)について当事者間で争われている。

まず、前提として、前記認定の諸文献によれば、光を回折させる構造のものとして、①多数の溝をきざんで、溝の間の滑らかな面で反射される光線の間の干渉で生ずる回折像を利用するもの(刻線溝)、②物体(被写体)から反射された全ての光の情報を干渉縞として記録したものであるホログラムのうち、干渉縞を材料表面の凹凸として記録したもの(表面型・エンボス型・レリーフ型ホログラム)、③ホログラムのうち干渉縞を材料内部の屈折率分布もしくは透過率分布として記録するもの(体積・位相型ホログラム、そのうち反射型をリップマンホログラムという。)があると認められる

そこで、上記アないしエの認定を踏まえ、本件発明における「回折格子」の意義を検討すると、確かに、特許請求の範囲には「回折格子」とのみ記載され、乙8にいう「回折格子」と同じ文言が用いられていることからすれば、一見すると、光を回折させる部材を全て含むものとして「回折格子」という文言を用いているものと理解できそうである。特に、本件発明には、回折格子の断面形状を変化させて導光板の表面における輝度を増大させ、かつ均一化させる構成だけでなく、回折格子の単位幅における格子部幅/非格子部幅の比を変化させて導光板の表面における輝度を増大させ、かつ均一化させる構成も含まれているところ、後者については回折格子の断面形状には触れられていないため、断面形状を全く変化させず、表面に刻線溝を設けない回折格子も想定しているように理解することも文言上は不可能ではない。

そこで、技術常識を見ると、前記ウ(ア)及び(オ)の文献では、「回折格子」とはのこぎりの歯状をなしたものや、多数の微細な溝をつけたものと説明されており、同(エ)でも、「ふつうは多数の溝をきざんで」いると説明されている。このうち同(エ)及び(オ)は本件特許の出願後に発行された文献であるが、その文献の性質に照らせば、その記載内容は本件特許の出願時の技術常識でもあったと推認することができる。また、前記認定のとおり、同様のことは本件特許の出願前の公開特許公報においてもみられることであり(前記ウ(イ))、ホログラムの回折格子についても、干渉縞の凹凸が基板上に形成されたエンボス型のホログラムを用いた発明等に係る特許(前記エ(ア))が出願されていた。

他方で、前記認定のとおり、平成の時代に入ると、「回折格子」として、表面への溝の形成加工を前提としない体積・位相型のホログラムによって光を回折させる発明に係る特許が出願されるようになった(前記エ(ウ)ないし(オ)。なお、本件特許の出願後のものとして(カ))。そして、平成5年3月に発行された前記エ(イ)の論文では、ホログラフィック光学素子(HOE)について製作方法や材料技術が進展したことが説明され、その中では、表面レリーフ型(エンボス型に相当する。)に関して製作方法や材料技術が進展したことだけでなく、体積・位相型のホログラムに関しても材料技術が進展し、EB描画のフォトマスクを用いて複製できるようになったことが記載されている。そして、前記のとおり乙8では、リップマンタイプのホログラムをもって「回折格子」と呼んでいる。

以上のような公刊物の記載状況等を踏まえると、平成8年5月31日の本件特許の出願の時点で、「回折格子」という語に回折を生じさせるもののうちのどこまでが含まれるかについて、当業者において一義的に理解されるものであったと認めることはできないといわざるを得ない

(イ)そこで、さらに本件明細書の記載を参酌しつつ、本件発明の「回折格子」の意義(どのような回折格子が含まれるか)について検討する。

前記認定のとおり、本件明細書の【0007】では導光板の裏面に「回折格子3(刻線溝)」が加工されている場合が例に挙げられていたり、【0008】では多数の微細刻線溝が設けられた回折格子を挙げて、本件発明の作用効果が説明されている。また、実施例(【0014】以下)においても、導光板の裏面に多数の微細な刻線溝として成形加工された回折格子を設けるものが挙げられており、その他の形状又は構造を有する回折格子を用いた実施例は記載されていない。

そして、本件明細書では回折格子の作成方法(又は回折格子をもつ導光板の製造方法)の説明がされているところ、そこで挙げられている方法のうち、次のものは多数の微細刻線溝が設けられた回折格子を前提とするものと認められる。

a 刻線溝を内面に機械加工したり回折格子のホログラム電鋳膜を内張りした金型による成形をする方法(【0008】)、内面に刻線溝を機械加工した金型を用いて成形する方法(【0015】)、微細加工技術でパターンを刻線した金型を用いた方法(【0018】)

b 導光板の裏面に刻線溝を直接機械加工または印刷する方法、(【0008】)、導光板裏面への刻線溝の機械加工による方法、導光板裏面への印刷による方法(【0015】)

c 印刷による膜を張り付けて作る方法(【0008】)

これに対し、本件明細書に記載されている次の方法については、その記載を単体でみた場合には、それが多数の微細刻線溝が設けられた回折格子を前提とした記載であるかは必ずしも判然とせず、仮に、これを前提としない記載である場合には、その記載を本件発明の「回折格子」の意義の解釈に当たって参酌する必要がある。

① ホログラムによる膜を張り付けて作る方法(【0008】)、ホログラムによる回折格子膜の張付けによって作成する方法(【0015】)

② 回折格子のホログラム膜を内挿したインモールド成形による方法(【0015】)

(なお、本件明細書の【0019】には、「ホログラム回折格子に良くみられる」断面形状として、「正弦波」の場合が挙げられているが、これは回折光の強度と回折格子の格子間隔および断面形状の関係を示す模式図である図4の説明をした箇所であり、回折格子の断面形状を変化させる構成のみに関する記載であると理解する余地があるから、この記載によって、上記①及び②の「ホログラム」が断面形状を有するもの、すなわち、微細な刻線溝が設けられたものと理解することはできない。)

(ウ)そこで、上記(イ)の①及び②の方法、すなわち、回折格子として「ホログラム」を使用した方法の具体的内容について、さらに検討する。

前記認定によれば、ホログラムのうちエンボス型のホログラムは、干渉縞を材料表面の凹凸として記録するもので、熱可塑性樹脂に熱圧をかけて型取りするなどの方法で作成されるものであるから、ホログラムの表面に何らかの溝が存在することになり、その表面構造は刻線溝のものと同様となる。これに対し、体積・位相型のホログラムは、干渉縞を感光材料内に屈折率変調として記録するもので、材料内部に屈折率分布又は透過率分布として記録されるから、表面形状による作成はできず、光学的な作成によることになる。したがって、回折格子としてホログラムを使用したからといって、直ちに微細な刻線溝が存在しない体積・位相型のホログラムを意味するわけではない。したがって、本件明細書に上記(イ)の①及び②の方法が記載されていることから、直ちに、本件発明が導光板に微細な刻線溝のない回折格子を設ける構成を開示していると認めることはできない。

そうすると、本件明細書の他の記載に照らし、上記(イ)の①及び②の方法の具体的内容をみていくほかないが、本件明細書の【課題を解決するための手段】の項に記載された【0008】において、「本発明の回折格子による手法が、…従来の多面プリズム33(図6参照)と本質的に異なる点は、…多数の微細刻線溝間の隣接する平滑面が協同、相乗して波動としての光を格段に強く回折でき、格段に高輝度の照光面2aが得られることである。」とした上で、「このような回折格子をもつ導光板は、例えば、」として、上記(イ)のa、b及び①の回折格子が列挙されていることからすると、そこに列挙された回折格子は、多数の微細刻線溝が成形加工された回折格子(をもつ導光板)の作成(製造)方法を記載したものと解釈するのが合理的であり、【発明の実施の形態】に関する【0015】及び【0018】で列挙された回折格子についても同様であり、本件明細書の記載を通じてみても、導光板にそのような溝を成形加工しない回折格子を設ける構成が示唆されているとも認められない。

したがって、上記(イ)の①の方法は、エンボス型のホログラムによる膜を張り付けて回折格子を作成する方法を記載したものと認めるのが相当である。

また、上記(イ)の②の「インモールド成形」とは、加熱溶融させた樹脂を金型内に射出注入し、冷却・固化させることによって成形品を得る方法である射出成形(インジェクション成形)の1つである。そして、「インモールド成形」とは、「熱を加えることにより絵柄が転写するPET原反のフィルムを、射出成形時に金型の中へ送り込み、成形と同時にプラスチックへ加飾する成形方法」であり、「レザーや布、金属、フィルムなどの異材質を挟み込むことも可能」である(以上につき、甲50)。本件発明において回折が生じるに当たって意味があるのは内挿された「回折格子のホログラム膜」であるから、結局、上記(イ)の②の方法も、エンボス型のホログラム膜を内挿したインモールド成形による方法を記載したものと認めるのが相当である。

(エ)以上によれば、本件発明の「回折格子」とは、多数の微細刻線溝を設けることによって光の回折を生じさせる部材(ホログラムとしては、エンボス型のホログラムを用いたもののみを含む。)を意味し、リップマンタイプ等の体積・位相型のホログラムを含まないと解するのが相当である

(オ)被告の主張について

被告は特許請求の範囲において「回折格子」という文言が用いられていることなどを指摘し、光を回折させるものであればこれに該当すると主張しているが、前記で認定・判示した「回折格子」という用語が多義的なものであることや、本件明細書の記載に照らし、採用できない。

カ 乙8の「回折格子」の意義

(ア)乙8の特許請求の範囲には「ホログラム(の回折格子)」としか記載されていないが、前記認定によれば、ホログラムにはエンボス型のものと、体積・位相型のものとがあるところ、「ホログラム」という文言だけからは、その具体的内容(上記のどちらであるか、あるいは双方を含むものか)は必ずしも明確とはいえない。

(イ)そこで、乙8の明細書及び図面を参酌して、乙8にいう「ホログラム」の意義について検討すると、乙8の【課題を解決するための手段】の項では、ホログラムの記録材料としては耐久性等の点からフォトポリマーを用いることが好ましい(【0019】)と記載されているだけで、その具体的形状等の記載はみられない。また、【発明の実施の形態】の項においては、3つの実施例が記載されているが、そのいずれも「リップマンタイプの体積・位相型」のホログラムを用いたものである上に、【0056】では、「ホログラムとしては、リップマンタイプ等の体積・位相型のホログラムが高い回折効率を得られるという点で望ましい。」と記載されており、この記載部分では、リップマンタイプには限られないとしつつも、「体積・位相型のホログラム」のことしか記載されていない。

(ウ)もっとも、上記【0056】の第2文には、「2光束干渉によって記録したものに限らず、所望のホログラム干渉縞を計算機によって計算し、電子ビーム等によって描画して作製する計算機ホログラム(CGH:Computer Generated Hologram)を用いてもよい。」とも記載されており、これが「体積・位相型のホログラム」以外のホログラム、すなわち、エンボス型のホログラムのことを記載したものであるとすれば、乙8は、エンボス型のホログラムを回折格子として用いた導光板の発明を開示していることになり、本件発明と同一の構成を含む発明ということになる。

a そこで、まず、上記「計算機ホログラム」の具体的内容を検討すると、乙86(谷田貝豊彦ほか「計算機ホログラムとその応用」(「精密機械」47巻12号、1981(昭和56)年12月)の101頁によれば、「計算機ホログラム」とは、「合成ホログラム」とも呼ばれ、通常のホログラムが、「物体からくる波面と参照波面とよばれる別の波面との干渉によって被写体の情報をすべて記録する」ものであるのに対し、計算機ホログラムは、「光源及び物体の形状を仮定すると、そこから回折されてくる波面は回折理論により電子計算機で計算でき、そのデータを用いてホログラムが合成できる」というものであると認められる。また、同様の趣旨は、乙8発明に係る特許出願後の文献である甲53(久保田敏弘『新版ホログラフィ入門-原理と実際』(株式会社朝倉書店、2010(平成22)年6月10日)でも、「ホログラムは、物体光と参照光の干渉の結果として生じる干渉縞を記録したものであった。物体が複雑であれば干渉縞も複雑になるが、実はこの干渉縞がどのような形になるかは計算によって求めることができる。したがって、計算機と干渉縞の表示装置さえあればホログラムを合成することができる。このようなホログラムは計算機ホログラム…とよばれ」と記載されている(63頁)。これらからすると、計算機ホログラムというのは、記録材料に記録すべき干渉縞の生成方法に関する概念であると認められる。このことを踏まえると、上記【0056】の第2文は、「2光束干渉によって記録したもの」というのが上記の通常のホログラムの干渉縞の生成方法をいい、「所望のホログラム干渉縞を計算機によって計算し」というのが計算機ホログラムによる干渉縞の生成方法をいうのに対し、「電子ビーム等によって描画して作製する」というのは、そうして作成した干渉縞の記録材料への記録方法をいうものであると解されるから、「計算機ホログラム」と、エンボス型や体積・位相型ホログラムとは次元の異なる概念であり、「計算機ホログラム」であることから直ちにエンボス型のホログラムが記載されているとは認められない。

b 次に、上記【0056】の第2文の「電子ビーム等によって描画して作製する」との記載が、エンボス型ホログラムをいうものかを検討すると、本件特許の出願の約3年前に発行された前記エ(イ)の論文(乙81)によれば、ホログラフィック光学素子(HOE)の製作方法として、「電子ビーム描画したフォトマスクを用いてフォトリソグラフィーの手法で、表面レリーフ型のHOEを製作することが一般化して来ている」とする一方で、「複製用材料技術の進展」により、「EB描画(注:電子ビームの意味と解される。)のフォトマスクを用いて体積位相型のホログラムが複製できるようになったこと」が指摘されている(なお、その記載部分の注(注16)として、1991(平成3)年の外国の論文が引用されている(乙81の130頁)。)。

以上のホログラムやこれを用いた回折格子に関する乙8発明に係る特許の出願前の技術常識に照らせば、乙8の【0056】の「電子ビーム等によって描画して作製する」との記載が当然にエンボス型のホログラムを含むものと解することはできない。

c また、上述したように、そもそも乙8では、「リップマンタイプの体積・位相型」のホログラムを用いた実施例しか記載されておらず、その他の記載部分においても、ホログラムの表面に凹凸(溝)を設ける構成が直接的に記載された箇所は見当たらない。

そして、上記認定のとおり、エンボス型のホログラムは古くから一般的なものであったことをも踏まえると、エンボス型のホログラムをうかがわせる具体的又は直接的な記載が何ら存しないにもかかわらず、上記「計算機ホログラム」に関する記載があることのみから、乙8の「ホログラム」がエンボス型のホログラムをも含むものと理解することには無理がある。

d 以上より、乙8にいう「回折格子」として、体積・位相型のホログラムを用いた回折格子以外に、エンボス型のホログラムが開示されているとは認められない

キ 被告の主張について

被告は、「リップマンタイプの体積・位相型」のホログラムは単なる実施例にすぎないことや、乙8の【0055】にも「あくまでも一例であり」との記載があることなどを指摘している。しかし、前記認定のとおり、乙8にはエンボス型のホログラムを前提とした記載はみられないこと等に照らせば、乙8においては、エンボス型のホログラムが開示されているとは認められない。したがって、被告の上記指摘を考慮しても前記認定は左右されない。

また、被告は、エンボス型のホログラムでも管状光源から到達する光の量に応じて回折格子の密度を変化させることなどが可能であることや、導光板の後面反射面又は前面出射面にホログラムを貼付等により設けるという乙8発明における回折格子の作成方法が本件発明の回折格子の作成方法と同様であることなどを指摘している。しかし、本件では、乙8にいう「ホログラム」と本件発明の「回折格子」に含まれるとされる「ホログラム」とが同じかどうかという構成の同一性が問題とされているから、被告指摘の同じ作用効果を奏することが可能であることや、製造方法が同様かどうかということによって、その判断は左右されない。

さらに、被告は、乙85を引用して、乙8の「計算機ホログラム」が表面に凹凸がある計算機合成ホログラムを意味していると主張している。しかし、乙85はその内容に照らすと、「バーチャグラム○R」を例に「三次元計算機合成ホログラム」を説明したものにすぎず、計算機ホログラムの一般論を説明したものと認めることはできない。そして、前記認定・判示のとおり、乙8の【0056】の第2文は計算機ホログラムによるホログラム干渉縞の生成方法を記載したものと読むのが自然であり、電子ビーム等による描画についても、乙81には、「EB(注:電子ビームの意味と解される。)描画のフォトマスクを用いて体積位相型のホログラムが複製できるようになった」、「計算機合成HOEを高回折効率の体積位相型ホログラムとして量産することを可能にした技術と言える。」と記載されていることからすると、被告の上記主張は採用できない。

ク 以上の認定・判示によれば、本件発明と乙8発明には、相違検討点1に関して下記の相違点があるといえる。

                                                         記

「回折格子」につき、本件発明の「回折格子」は多数の微細刻線溝を設けた光を回折させる部材である(ホログラムとしては、エンボス型のホログラムを用いたもののみを含む。)のに対し、乙8発明の「回折格子」は体積・位相型のホログラムを用いたものである点

(5)相違検討点2について

ア 本件発明の構成要件Bの意義について

(ア)本件発明の構成要件Bは、「上記回折格子の断面形状または単位幅における格子部幅/非格子部幅の比の少なくとも1つが、上記導光板の表面における輝度が増大し、かつ均一化されるように変化せしめられていることを特徴とする」というものである。

これについて、本件明細書の【発明の実施の形態】の項の【0014】では、単位幅とは、1つの格子部幅と1つの非格子部幅との和であり、単位区間の幅であると説明され、図2(液晶表示装置の平面照光装置に用いられた本件発明による導光板の一実施の形態を示す断面図)の説明として、導光板の裏面には、模式的に示された単位幅を有する11個の区間が設けられ、格子部幅は各区間の太線部分、非格子部幅は各区間の細線部分で夫々示されていること、上記区間の数は、実際には遥かに多い数で、例えば1例では1000個程度であることが説明されている。また、【0015】では、格子部と非格子部を各単位幅の左右に2分して設ける以外に、両者を1つの単位幅中に交互に設けてその単位幅に特定の格子部幅/非格子部幅の比が得られるようにしてもよいと記載されている。さらに、【0016】では、蛍光管から出た白色光が導光板の裏面の全面に設けられた回折格子の多数の刻線溝間の隣接する平滑面の協同によって回折されるとの記載があり、【0019】では、「単位幅における非格子(非刻線溝)部幅」という表現がみられる。

(イ)以上の記載からすると、回折格子には多数の微細刻線溝が設けられているが、上記の【0016】及び【0019】の記載に照らせば、その溝部分が「非格子部」に当たると解する余地はなく、「格子部」とは、回折格子である多数の微細刻線溝が設けられており、光の回折現象が生ずる部分をいい、「非格子部」とは、そのような刻線溝が全く設けられておらず、光の回折現象が生じない部分をいうと解するのが相当である。

また、「単位幅」とは、【0014】の記載からすると、導光板において光源を起点として光源から離れる方向に連続する均一な単位区間の幅であるが、【0015】の記載からすると、「格子部」と「非格子部」は光源から離れる方向に交互に連続しており、一つの「単位幅」中に「格子部」幅と「非格子部」幅が複数存在することも含まれると解される。そして、「回折格子の…単位幅における格子部幅/非格子部幅の比」とは、単位幅中に格子部や非格子部が複数存在する場合には、単位幅中の格子部の幅を合計したものが「格子部幅」であり、単位幅中の非格子部の幅を合計したものが「非格子部幅」となると解される。

さらに、回折格子の単位幅における格子部幅/非格子部幅の比が、「上記導光板の表面における輝度が増大し、かつ均一化されるように変化せしめられている」とは、前記(1)イ②の本件発明の技術的意義からすると、回折格子の単位幅における格子部幅/非格子部幅の比が、光源からの光が入射する一端面から離れて光源から届く光量が減じるほど、光をより強く回折するように調整されていることをいい、その「輝度が増大し、かつ均一化される」とは、光源に近い側に比べて光源から離れた側の方が相対的に光をより強く回折されれば足り、したがって、そのような調整がされない場合に比べて輝度がより均一化されれば足り、導光板全体の輝度が完全に均一化されている必要はないと解するのが相当である

(ウ)そして、以上の検討を踏まえると、「単位幅」の技術的意義は、導光板の光源から離れる方向に連続した均一な単位区間を観念することにより、同一の単位の中で格子部幅の割合ないし密度が変化することで輝度の増大と均一化が生じるための共通の単位を設定する点にあるにすぎないから、単位幅の境界と格子部・非格子部の境界とが一致する必要はなく、格子部・非格子部の途中部分に単位幅の境界が存在しても構わないと解される。

そして、以上のように「単位幅」の意義を解すると、「単位幅」とは、格子部や非格子部の配置以前に予め設定されているものに限らず、導光板上に格子部と非格子部が交互に配置されている場合に、それらを均一に区切る単位区間を適宜の大きさと数で、いわば事後的に観念すれば、それが「単位幅」となり、さらに、その各単位幅における格子部幅の合計/非格子部幅の合計の比が、光源に近い側に比べて光源から離れた側の方が相対的に光をより強く回折して輝度をより増大、均一化するように変化していれば、構成要件Bを満たすことになると解される(なお、これまで述べてきた構成要件Bの解釈は、原告が被告製品の導光板(ライトガイド)に単位幅を観念し、あてはめるときの解釈と同様である。)。

(エ)なお、本件明細書の【0019】においては、「図2で述べたように、導光板の単位幅における非格子(非刻線溝)部幅に対する格子部幅の比が増、減すれば、回折格子の面積が増、減するので、回折効率は増、減する。」と説明されている。本件特許の特許請求の範囲においては、導光板の光源側を出発点とし、光源から離れる方向に一本の線を観念して、その線上における格子部幅と非格子部幅を一次元的に観念しているが、上記【0019】の記載からすると、本件発明は、回折格子が上記方向と直交する方向にも一定の「幅」を有していることを前提として、導光板の単位幅における非格子部幅に対する格子部幅の比が増加すれば、回折格子の面積が二次元的に増加し、上記比が減少すれば、回折格子の面積が二次元的に減少することにより、回折効率すなわち回折光量が増減することを想定していると認めるのが相当である(なお、本件特許の出願過程で提出された原告の意見書(乙19)の「光源…からの到達光量の減少に対処すべく格子密度が変化する本願請求項1のような回折格子」(2頁)という記載も以上のような意味と解される。)。そして、このような格子部幅と格子部の面積との具体的な関係について本件明細書に特段の記載がないことからすると、構成要件Bは、導光板の面上の或る一本の線上における「幅」に所定の構成が備わっており、その単位幅における格子部幅/非格子部幅の比が増減することによって、その線上の格子部の面積が、導光板の表面における輝度が増大し、かつ均一化されるように変化せしめられているものであれば足りると解するのが相当であり、このような部分が導光板に存する限り、仮に当該一本の線と異なる位置には同様の方向の線上に全く回折格子が設けられていない箇所が存したとしても、構成要件Bに該当することになる(なお、被告製品のライトガイドにおける微細構造体の設置状況(甲41ないし48、乙52ないし74)は、このようなものと認められる。)。

イ 乙8発明においてホログラムの面積密度を変化させる構成について

(ア)前記(2)及び(3)イで認定した乙8発明の技術的意義からすれば、乙8発明は、導光板の後面反射面に設けるホログラムの回折格子の面積ないし面積密度を、管状光源から離れるに従って増大させることにより、管状光源から離れるほど減少する導光板の端部入射面から入射した光を効率よく、また、面内で均一に前方に出射することができるものであると認められる。

(イ)そして、その具体例を示した第1の実施の形態では、本判決添付の乙8の公開特許公報の図2に示すとおり、黒色の部分にのみホログラムが形成され、管状光源が存在する側から、光源から離れる方向に向かって、白色のみの領域(以下「第1の領域」という。)、白色の中に小さな黒色のドット11個が並列する領域(以下「第2の領域」という。)、白色の中に大きな黒色のドット11個が並列する領域(以下「第3の領域」という。)、黒色のみの領域(以下「第4の領域」という。)がほぼ同じ幅で存在している。

このような図2のようにホログラムが形成された導光板において、ホログラムの形成された黒色のドットの部分は、エンボス型ホログラムと同様の干渉縞が記録されているのであるから、本件発明の「格子部」に相当し、ホログラムが形成されない白色の部分は、本件発明の「非格子部」に相当するといえる。

そして、この導光板を上記第1の領域から第4の領域に区分した場合、導光板の面上の或る一本の線上において格子部(黒色部分)と非格子部(白色部分)が交互に存在する部分があり、上記各領域の光源から離れる方向の幅は等しいから、それぞれの幅が「単位幅」に相当することになる。そして、①第1の領域においては、「格子部」は存在せず、「非格子部」のみが存在するから、「単位幅における格子部幅/非格子部幅の比」は0であり、②第2の領域においては、小さな幅(ドット)の格子部が存在するから、「単位幅における格子部幅/非格子部幅の比」は0より大きくなり、③第3の領域においては、大きな幅(ドット)の格子部が存在するから、「単位幅における格子部幅/非格子部幅の比」は更に大きくなり、④第4の領域においては、「格子部」のみが存在し、「非格子部」は存在しないから、「単位幅における格子部幅/非格子部幅の比」は無限大である。そして、このように「単位幅における格子部幅/非格子部幅の比」が増大するのに応じて格子部(黒色部分)の面積が増大しており、これにより、「導光板4内で前面出射面に向かい、前面方向に出射する光の量を比較的均一にできると共に前面出射面の光出射効率を高めることができる」(乙8の【0037】)との作用効果を奏すると認められるから、本件発明の構成要件Bを満たしているといえる。

(ウ)もっとも、この場合、第1の領域と第4の領域では、単位幅内に格子部又は非格子部の一方のみしか存在しないことになるが、本件発明の特許請求の範囲の構成要件Aでは、「板状体の裏面に設けられた回折格子」、構成要件Bでは、「回折格子の…単位幅における格子部幅/非格子部幅の比…が、上記導光板の表面における輝度が増大し、かつ均一化されるように変化せしめられている」とされるにとどまっており、あくまで回折格子が導光板の裏面に設けられていることと、単位幅における格子部幅/非格子部幅の「比」が、導光板の表面における輝度が増大し、かつ均一化されるように「変化せしめられている」ことを要件とするにすぎず、一部の単位幅に格子部又は非格子部の一方のみしか存在しないものがあるとしても、「導光板の表面は高輝度で非常に均一に照らされる」(本件明細書【0023】)との作用効果を奏するから、そのような場合も本件発明に含まれると解される(なお、仮に単位幅には必ず格子部と非格子部の双方が存在している必要があると解しても、乙8の図2に示される導光板を2等分ないし3等分して「単位幅」を観念すれば、各単位幅にはいずれにも格子部と非格子部が存在し、かつ、各単位幅中の格子部幅/非格子部幅の比は光源から離れるほど増大しているから、やはり構成要件Bを満たすといえる。)。

また、上記のように捉える場合、導光板の単位幅の数は4個にとどまる。しかし、「単位幅」の大きさや数については、単位幅同士の間で格子部幅と非格子部幅の比が変化するとされていることからして、単位幅の数は2個以上であることを要するが、それ以外には、本件明細書の【0014】では単位幅は多数あるとされているものの、特許請求の範囲の記載には特に限定がなく、また、単位幅の数が少ない場合も上記のような光源に近い側に比べて光源から離れた側の方が相対的に光をより強く回折して輝度をより均一化するという作用効果が生じることからすると、特に限定はないと解される。

また、仮に本件発明における単位幅は多数存在することを要すると解するとしても、乙8の図2において、例えば第3の領域における一つのドットの左端から隣のドットの左端までの黒色部分と白色部分を一つの「単位幅」と観念して導光板全体を多数の「単位幅」に均分した場合には、上記と同様に「単位幅における格子部幅/非格子部幅の比」が「導光板の表面における輝度が増大し、かつ均一化されるように変化せしめられている」と認められるから、この場合も本件発明の構成要件Bを満たすといえる。もっとも、この場合、各領域内では、単位幅中の上記「比」は変化しないことになるが、本件発明の特許請求の範囲(構成要件B)では、単位幅における格子部幅/非格子部幅の比が、「導光板の表面における輝度が増大し、かつ均一化されるように」変化せしめられていると定めるのみである上、本件明細書でも、「格子部幅/非格子部幅の比は、必ずしも図2のように端辺2cから離れるにつれて漸増させる必要はなく、表面の高輝度で均一な照明が得られる限り、任意に変化させることができる」と記載されている(【0015】)ことからすると、単位幅における格子部幅/非格子部幅の比の「変化」は、導光板を全体として見た場合に「表面における輝度が増大し、かつ均一化されるように」なっていれば足り、単位幅ごとに必ず変化することまで要するものではないと解されるから、上記の点は、上記のように認定した場合の乙8発明が本件発明の構成要件Bを満たすことを妨げるものではない。

なお、乙8の図2自体をこのように多数の「単位幅」に細分化して解しない場合でも、乙8の【0059】では、「この例では領域を4つに分けたが、当然領域を細かく分割すればするほど細かく輝度むらを制御することが可能となる。」と記載されており、領域を更に細かく分割する場合には単位幅の数も増加するから、乙8には実質的に単位幅の数が多い場合も開示されているといえる。

(エ)以上によれば、乙8には、「ホログラムの単位幅における格子部幅/非格子部幅の比が、導光板の前面出射面から出射する光を効率よく、また、面内で均一に出射されるように、管状光源から離れる側の方が増大せしめられている」構成が開示されているといえる

ウ したがって、乙8発明は、本件発明の構成要件Bと同一の構成を備えるものであるから、相違検討点2は相違点とはいえない。

エ 原告の主張について

原告は、乙8には、導光板に設けるホログラムの面積密度を増減させる技術思想が開示されているだけで、回折格子の単位幅における格子部幅/非格子部幅の比を変化させる技術思想は開示されていないと主張する。

しかし、前記アのとおり、本件発明も、格子部の面積の変化を通じて、導光板の表面における輝度を増大させ、かつ均一化させるものであり、本件発明と乙8発明はその解決課題と解決原理を共通にしている。

そして、上記のとおり、乙8には、本件発明の構成要件Bの構成を備えたホログラムの構成が開示されていると認められるから、本件発明の構成要件Bはこれを別の表現で記述したものにすぎず、同一の構成が開示されていることに変わりはない。

したがって、原告の主張は採用できない。

(6)小括

以上によれば、本件発明と乙8発明とは、前記の相違検討点1において相違するから、同一の発明とはいえず、乙8による特許法29条の2違反の無効理由が存するとは認められないが、本件発明と乙8発明とは、その解決課題及び解決原理を共通にしており、解決手段たる回折格子の種類についてのみ相違するにすぎないということができる

2 争点1-2(均等侵害の要件充足性)について

(1)弁論の全趣旨によれば、仮に被告製品の導光板(ライトガイド)における微細構造体が本件発明の「回折格子」に当たる場合には、本件発明の構成要件Aは「板状体の裏面に設けられた回折格子によって板状体の表面側へ回折させる導光板」(いわゆる反射型)であるのに対し、被告製品の導光板では、回折された光が進行する側に微細構造体が設けられていることから、構成要件Aでいうところの「表面」に微細構造体が設けられ、光源からの光が「表面」側に回折させられている(いわゆる透過型)との相違点があると認められる。そして、この点について、原告は均等侵害を主張していることから、この点について検討する。

(2)特許請求の範囲に記載された構成に、相手方が製造等をする製品又は用いる方法(対象製品等)と異なる部分が存する場合であっても、①当該部分が特許発明の本質的部分ではなく、②当該部分を対象製品等におけるものと置き換えても、特許発明の目的を達することができ、同一の作用効果を奏するものであって、③そのように置き換えることに、当業者が、対象製品等の製造等の時点において容易に想到することができたものであり、④対象製品等が、特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者が当該出願時に容易に推考できたものではなく、かつ、⑤対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もないときは、当該対象製品等は、特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして、特許発明の技術的範囲に属するものと解するのが相当である(最高裁平成10年2月24日第三小法廷判決・民集52巻1号113頁、最高裁平成29年3月24日第二小法廷判決・民集71巻3号359頁参照)。

(3)第1要件(非本質的部分)について

ア 特許法が保護しようとする発明の実質的価値は、従来技術では達成し得なかった技術的課題の解決を実現するための、従来技術に見られない特有の技術的思想に基づく解決手段を、具体的な構成をもって社会に開示した点にある。したがって、特許発明における本質的部分とは、当該特許発明の特許請求の範囲の記載のうち、従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分であると解すべきである

そして、上記本質的部分は、特許請求の範囲及び明細書の記載に基づいて、特許発明の課題及び解決手段とその作用効果を把握した上で、特許発明の特許請求の範囲の記載のうち、従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分が何であるかを確定することによって認定されるべきである。すなわち、特許発明の実質的価値は、その技術分野における従来技術と比較した貢献の程度に応じて定められることからすれば、特許発明の本質的部分は、特許請求の範囲及び明細書の記載、特に明細書記載の従来技術との比較から認定されるべきである。そして、従来技術と比較して特許発明の貢献の程度が大きいと評価される場合には、特許請求の範囲の記載の一部について、これを上位概念化したものとして認定され、従来技術と比較して特許発明の貢献の程度がそれ程大きくないと評価される場合には、特許請求の範囲の記載とほぼ同義のものとして認定されると解される

ただし、明細書に従来技術が解決できなかった課題として記載されているところが、出願時の従来技術に照らして客観的に見て不十分な場合には、明細書に記載されていない従来技術も参酌して、当該特許発明の従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分が認定されるべきである。そのような場合には、特許発明の本質的部分は、特許請求の範囲及び明細書の記載のみから認定される場合に比べ、より特許請求の範囲の記載に近接したものとなり、均等が認められる範囲がより狭いものとなると解される(知財高裁平成28年3月25日特別部判決・判タ1430号152頁参照)。

イ 本件発明の貢献の程度

(ア)本件明細書に記載された従来技術及びその課題

前記認定のとおり、本件明細書では、本件発明に関する従来技術として、導光板の下面に多数の多面プリズムをもつ透明アクリル樹脂からなり、プリズムによる光の全反射を利用する導光板が記載されており、その具体例として、特開平5-127157号公報記載の平面照光装置(本件明細書の図6参照)が挙げられている。

そして、その従来技術によっても液晶表示パネルを下方から輝度ムラが少なく明るく照らすことができると記載されているが(【0003】)、①導光板の下面にある多面プリズムの一辺が例えば0.16㎜と、光の波長に比べて相当大きいものであるうえ、各プリズムが協同することなく個別に光を全反射するものであるため、導光板の輝度を全体に高めようとすると、各プリズムの間の谷間にあたる箇所で乱反射が起きて上面に向かう光量が減り、照光面である上面に極端な明暗のコントラストが生じるという課題、及び②このような導光板を設けた平行照光装置を電池で駆動される液晶表示装置に用いると、照光面に向かう上記光量の減少を補って高輝度を得るべく、光源を大電流で照らす必要があるため、電池の寿命が短くなって、長期使用ができなくなるという課題があったことが記載されている(【0004】)。

(イ)本件発明の課題解決手段

本件発明は、従来技術の上記課題を解決するため、「光の幾何光学的性質を利用した従来のプリズムによる全反射でなく、…光の波動の性質に基づく回折現象を利用して、従来より遥かに高く、かつ均一な輝度を照光面全体に亘って得ることができ、ひいては光源の電力消費の低減による電池の長寿命化も図ることができる導光板を提供すること」を目的として(【0005】)、本件発明の構成を採用したものである。その構成は、(a)透明な板状体である導光板の裏面に回折格子を設け、導光板の少なくとも一端面から入射する光源からの光をその表面側へ回折させるという点(構成要件A)、(b)上記回折格子の断面形状または単位幅における格子部幅/非格子部幅の比の少なくとも1つを、上記導光板の表面における輝度が増大し、かつ均一化されるように変化させる点(構成要件B)である。

(ウ)本件発明の作用効果

本件発明の導光板は、α 少なくとも一端面から光源からの光が入射する透明な板状体の裏面に設けられた回折格子の断面形状または単位幅における格子部幅/非格子部幅の比の少なくとも1つが、上記導光板の表面における輝度が増大し、かつ均一化されるように変化せしめられているので、光の波長に比べて寸法が大きく互いに協同することなく個別に光を幾何光学的に全反射する従来の導光板裏面のプリズムと異なり、ミクロン単位の互いに隣接する微細な格子が協同、相乗して波動としての光を格段に強く回折できるうえ、β 上記一端面から離れて光源から届く光量が減じるほど、光をより強く回折するように上記断面形状または単位幅における格子部幅/非格子部幅の比が調整されているので、導光板の表面は高輝度で非常に均一に照らされる。

したがって、γ この導光板を電池で駆動される液晶表示装置、液晶テレビ、非常口を表示する発光誘導板などに適用すれば、従来に比して格段に少ない消費電力で明るく均一な照明を得ることができ、光源および電池の寿命を延ばし、長期使用を可能にすることができる(【0009】、【0023】)

(エ)もっとも、本件の場合、本件明細書に従来技術が解決できなかった課題として記載されているところは、以下のとおり、出願時の従来技術に照らして客観的に見て不十分なものと認められる。

a 導光板においてプリズムによる全反射を利用するのでは光量が減るとの課題(上記(ア)①)を、導光板の裏面に回折格子を設け、回折現象を利用して解決する構成(上記(イ)の(a)、上記(ウ)α)について

本件明細書では、導光板の従来技術として、プリズムによる全反射を利用したもののみが記載され、回折現象は今まで導光板に用いられることがなかったと記載されている。

しかし、原告は平成6年3月11日に自ら、発明の名称を「回折格子を利用したバックライト導光板」とし、特許請求の範囲(請求項1)を「成形加工及び印刷(転写を含む)された回折格子を裏面に有する事を特徴とするプラスチック製のバックライト導光板。なをここで裏面とは、液晶面と反対側の面と定義する。」とする特許の出願をし、その明細書では、【課題を解決するための手段】の項において、「導光板裏面に光と干渉する程度に微細なスリット形状を成形加工ないし印刷(転写を含む)し、この反射格子により導光板の一端から入射する光を液晶面側に回折させる。」(【0006】)と記載し、【発明の効果】の項において、この発明によれば蛍光管からの光を回折格子という極小単位の形状(格子スリットのピッチがサブミクロンから数十ミクロン)の大きさのものの作用により、導光板面を均一に輝らす事ができるので、従来からのドット印刷や全反射を利用した導光板裏面加工による方式に比較して、格段の面輝度とその均一性が可能になる。」(【0017】)と記載していた(特願平6-79172)(乙10、20)。そして、これは本件発明の構成要件Aと同じ構成を備えた発明と認められる。

また、前記1で技術的意義等を認定した乙8発明も、回折格子の種類は同じとは認められないものの、導光板の裏面に回折格子を設け、回折現象を利用して光量の増大を図る発明である(乙8発明のようないわゆる拡大先願発明も参酌すべきことは後記のとおりである。)。

以上より、導光板においてプリズムによる全反射を利用するのでは光量が減るとの課題は、本件特許の出願日において、本件発明と同じく導光板の裏面に回折格子を設け、回折現象を利用することによって既に解決されている課題であったと認められる

b 導光板においてプリズムによる全反射を利用するのでは照光面に極端な明暗のコントラストが生じるとの課題(上記(ア)①)を、回折格子の断面形状または単位幅における格子部幅/非格子部幅の比の少なくとも1つを、上記導光板の表面における輝度が増大し、かつ均一化されるように変化させることにより解決する構成(上記(イ)の(b)、上記(ウ)β)について

先に争点2-2(前記1)について述べたとおり、乙8発明も、導光板の裏面にホログラムの回折格子を設け、回折現象を利用するものであり、かつ、本件発明の構成要件Bと同一の構成を備え、それにより、導光板の表面から出射する光を効率よく、また、面内で均一に出射されるようにするものである。もっとも、この乙8発明に係る特許の出願日は平成7年10月27日であり、本件特許の出願よりも前に出願されたものであるが、乙8発明に係る特許について出願公開がされたのは平成9年5月16日であり(乙8)、本件特許の出願後であるから、乙8発明はいわゆる拡大先願発明に該当するにすぎない。しかし、特許法29条の2は、特許出願に係る発明が拡大先願発明と同一の発明である場合を特許要件を欠くものとしているところ、その趣旨の中には、先願の明細書等に記載されている発明は、出願公開等により一般にその内容が公表されるから、たとえ先願が出願公開等をされる前に出願された後願であっても、その内容が先願と同一内容の発明である以上、さらに新しい技術を公開するものではなく、そのような発明に特許権を与えることは、新しい発明の公開の代償として発明を保護しようとする特許制度の趣旨からみて妥当でないとの点がある。このように特許法が、先願の明細書等に記載された発明との関係で新しい技術を公開するものでない発明を特許権による保護の対象から外している法意からすると、均等侵害の成否の判断のために発明の本質的部分として従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分を認定するに当たっては、拡大先願発明も参酌すべきものと解するのが相当である

そうすると、導光板においてプリズムによる全反射を利用するのでは照光面に極端な明暗のコントラストが生じるとの課題は、本件特許の出願日において、回折格子として刻線溝又はエンボス型のホログラムを用いるか体積・位相型のホログラムを用いるかの違いがあるとはいえ、本件発明と同じく、回折格子の単位幅における格子部幅/非格子部幅の比を、導光板の表面における輝度が増大し、かつ均一化されるように変化させることによって既に解決されている課題であったと認められる

c そして、本件発明の、少ない消費電力で明るく均一な照明を得ることができないとの課題(上記(ア)②)は、上記a及びbで述べた課題が解決されることに伴い解決されるものである(上記(ウ)γ)から、やはり既に解決されている課題であったと認められる。

d 以上からすると、本件発明が課題とするところは、いずれも本件特許の出願時の従来技術によって、同様の解決原理によって解決されていたといえる本件発明がそれらの従来技術と異なる点は、回折格子の単位幅における格子部幅/非格子部幅の比を、導光板の表面における輝度が増大し、かつ均一化されるように変化させることについて、体積・位相型のホログラムではなく、刻線溝又はエンボス型のホログラムを用いた点にあるが、回折格子としては後者の方がむしろ通常であること(前記1(4)ウ(ア)、(エ)、(オ))からすると、本件発明の従来技術に対する貢献の程度は大きくないというべきである

ウ 以上よりすれば、本件発明の本質的部分については、特許請求の範囲の記載とほぼ同義のものとして認定するのが相当である。

この点について、原告は、本件発明の本質的部分は、光の波動の性質に基づく回折現象を利用して、回折格子の断面形状又は単位幅における格子部幅/非格子部幅の比に着目した点にあると主張するが、これまで述べたことに照らして採用できない。

エ そうすると、被告製品の導光板では、前記のとおり、微細構造体が回折された光が進行する側に設けられていることから、構成要件Aでいうところの「表面」に微細構造体が設けられ、光源からの光が「表面」側に回折させられている。したがって、被告製品の導光板は構成要件Aの「板状体の裏面に設けられた回折格子」という部分を充足していない。

よって、被告製品が本件発明の本質的部分を備えているということはできず、本件発明と被告製品とは本質的部分において相違すると認められるから、被告製品は、均等の第1要件を充足しない。

(4)以上によれば、被告製品は、少なくとも均等の第1要件(非本質的部分)を充足しないことから、本件発明と均等なものとして、その技術的範囲に属するということはできない。