発泡スチロール容器事件

投稿日: 2017/08/22 17:04:52

今日はちょっと古いですが平成25年(ワ)第10039号 特許権侵害差止等請求事件について検討します。原告である積水化成品工業株式会社は、判決文によると、発泡プラスチック、その他のプラスチック製品などに関連する製品の製造、加工、売買、輸入及び輸出などを目的とする株式会社、株式会社積水化成品四国は、家庭用並びに工業用発泡プラスチック及びこれらの成形材料の製造・販売、梱包資材等の製造・販売、漁業用の各種資材等の売買等を目的とする株式会社、上田製函株式会社発泡合成樹脂製品の製造販売、荒物・什器・その他の産業機械器具卸売業を目的とする株式会社だそうです。一方、被告である株式会社コーセイは各種発泡スチロール(合成樹脂)の製造、成型及び販売、包装資材の製造、加工、販売などを目的とする株式会社だそうです。いつものようにJ-PlatPatで検索しましたが原告である積水化成品工業株式会社と被告である株式会社コーセイの件数の差は圧倒的でした。

 

1.手続の時系列の整理(特許第4739988号)

① 原告の特許が閲覧請求されています。普通だったらこの前に特許権者から警告があって当事者間の交渉がスタートしたと考えます。しかし、被告は訴訟が提起されてから1年以上経過してから特許無効審判を請求しているので、ひょっとしたらこの時点では特許権者から株式会社コーセイに対する警告はなく、被告ではない第三者(あるいは何らかの事情で特許権者自ら)が閲覧請求したのかもしれません。

② 被告が請求人となった特許無効審判が立て続けに2件請求されており、併合されています。おそらく侵害訴訟で被告が主張する無効理由と同じ理由と思われますが、残念ながら請求自体が取り下げられ審決がでていないので、J-PlatPatでは無効の証拠がわかりませんでした。

③ 原告の請求が基本的に認められた判決が出た後に特許無効審判請求が取り下げられています。また、知財高裁に控訴していればとっくに判決が出ていてもおかしくありません。そういった状況からおそらく当事者間で和解したものと思われます。

2.本件発明の内容

(本件発明1)

A 略四角形をなす底板部(12)と

B 該底板部(12)の周縁から立設された側壁部(13)とからなり、

C 底面周縁に、該底面を平面上に置いた時に接地しない底上げ部(15)が設けられている

D 発泡合成樹脂容器において、

E 前記底面周縁のうち、少なくとも底板部(12)の対向する2辺の中央部又は中央近傍部に、該底面を平面上に置いた時に接地する荷重受け底面延長部(20)が設けられたことを特徴とする

F 発泡合成樹脂容器。

(本件発明2)

G 前記底板部(12)が略長方形をなし、

H 底板部(12)の長辺側2辺の中央部又は中央近傍部に、前記荷重受け底面延長部(20)が設けられたことを特徴とする

I 請求項1に記載の発泡合成樹脂容器。

(本件発明3)

J 前記荷重受け底面延長部(20)の長さが、底板部(12)の長辺長さに対し1/10~1/2の範囲内であることを特徴とする

K 請求項2に記載の発泡合成樹脂容器。

3.被告製品

a 略長方形の底板部を有し、その長辺は495ミリメートル、短辺は295ミリメートルの長さである。

b 該底板部の周縁には、高さ150ミリメートルの側壁部が立設されている。

c 底面周縁には、底板部からの高さ4ミリメートルの底上げ部が設けられ、該底上げ部は、該底面を平面上に置いた時に接地しない。

d 発泡合成樹脂容器である。

e 底面周縁のうち、底板部の対向する長辺の中央部に、底面を平面上に置いた時に接地する荷重受け底面延長部(25ミリメートル × 95ミリメートル)が設けられている。

f 発泡合成樹脂容器である。

g 略長方形をなした底板部(長辺495ミリメートル × 短辺295ミリメートル)を有している。

h 底板部の長辺側2辺の中央部に、荷重受け底面延長部(25ミリメートル × 95ミリメートル)が設けられている。

i 前記aないしfの発泡合成樹脂容器である。

j 前記荷重受け底面延長部の長さが95ミリメートルであり、底板部の長辺長さ495ミリメートルに対し、1/10~1/2の範囲内である。

k 前記aないしiの構成からなる発泡合成樹脂容器。

4.争点

(1)無効論1

ア 公開実用新案公報(公開実用平成3-66834)(乙1。以下「乙1文献」といい、乙1文献に係る発明を「乙1考案」という。)に基づく本件発明1、2の新規性の欠如(争点1-ア)

イ 乙1文献、「公開特許公報(特開2005-350080)」(乙2。以下「乙2文献」といい、乙2文献に係る発明を「乙2発明」という。)及び「公開実用新案公報(実願昭55-89049号(公開実用昭和57-11729))」(乙3。以下「乙3文献」といい、乙3文献に係る考案を「乙3考案」という。)による本件発明1、2の進歩性の欠如(争点1-イ)

(2)無効論2

ア 英国特許出願公開明細書(GB2342088A)(乙23。以下「乙23文献」といい、乙23文献に係る発明を「乙2 3発明」という。)に基づく本件発明1の新規性の欠如(争点2-ア)

イ 乙23文献による本件発明1の進歩性の欠如(争点2-イ)

ウ 乙1文献を主引例、乙23文献を副引例とすることによる本件発明1の進歩性の欠如(争点2-ウ)

エ 乙23文献に基づく本件発明2の新規性の欠如、乙23文献による本件発明2の進歩性の欠如(争点2-エ)

(3)無効論3(本件発明3の進歩性の欠如)

(4)損害

5.裁判所の判断

5.1 争点1(本件発明1、2の無効論1)について

(1)乙1文献に基づく本件発明1、2の新規性の欠如(争点1-ア)について

ア 平成3年6月28日に公開された公開実用新案公報である乙1文献には、次の記載があると認められる。

(ア)特許請求の範囲

被収納部を収納した容器本体に蓋をして多段に重ねるようにした容器であって、上段の容器本体の下部に設けた凸部が下段の蓋に設けた切欠き部を介して、下段の容器本体の凹部に嵌合するようにしたことを特徴とする容器

(イ)産業上の利用分野

ダイオード等の電子部品の製造工程で完成品である電子部品又はその中間部品の構成素材の保管や搬送に使用する箱型容器の改良に関するものである。

(ウ)考案が解決しようとする課題

(従来技術である)容器4は、積み重ねて搬送する際、長手方向にスライド式に移動する蓋3の上に容器本体2が載っているため、上段の容器本体2及び蓋3が滑り落ちるという欠点があった。

(エ)実施例

第1図及び第2図では、容器本体11の底部周縁に底面を平面上に置いた時に設置しない底上げ部が設けられており、底上げ部の対向する2辺の長辺側に接地する凸部11aが設けられ、容器本体11の上縁の対向する2辺の長辺側の凸部11aと同じ位置に凹部11bが設けられ、蓋には凸部11aと対向する位置に切欠き部が設けられている。

また、この考案による容器13に収納される被収納物は、電子部品1に限られることなく、どのようなものであってもよい。

(オ)効果

この考案は、以上のように、容器を積み重ねた時に容器本体に設けた凸部と凹部を蓋に設けた切欠き部を介して嵌合させることにより、搬送時の容器の重ねズレ及びズレによる転倒を防止でき、また多段重ねの最上段の容器は蓋が自由にスライドし開閉できるため、最上段の容器本体から順次、被収納物の供給あるいは取出しができる効果がある。

イ 以上の乙1文献の記載によれば、乙1考案の構成は、次のとおり認められる。

a、g 長方形状の底板部と

b 底板部の周縁から立設された側壁部とを備え、

c 底面の周縁には、底面を平面上に置いたときに接地しない底上げ部が設けられている。

d、f 容器において

e、h 底面の周縁のうち、底板部の対向する長辺側の2辺に、底面を平面上に置いた時に接地する凸部が設けられている。

ウ そして、本件発明1、2と乙1考案とを対比すると、乙1考案のa、b、c、gは、本件発明1、2の構成要件A、B、C、Gと一致すると認められるが、次の2点で相違すると認められる。

① 本件発明1、2では、容器の材質が発泡合成樹脂容器とされている(構成要件D、F)のに対し、乙1考案では、容器の材質が発泡合成樹脂と特定されていないこと(相違点1)。

② 本件発明1、2では、接地する荷重受け底面延長部が、底板部の(長辺側)2辺の中央部又は中央近傍部に設けられている(構成要件E、H)のに対し、乙1考案では、接地する凸部が、対向する(長辺側)2辺の中央部又は中央近傍とは特定されない位置に設けられていること(相違点2)。

エ これに対し、被告は、上記相違点1について、乙1文献では全ての材質を対象としているから、相違点ではないと主張する。

しかし、乙1文献で容器の材質が特定されていないからといって、乙1文献において容器の材質を発泡合成樹脂容器とすることが具体的に開示されているわけではないから、被告のこの主張は失当である。

オ また、被告は、上記相違点2について、乙1考案の凸部は本件発明1、2の荷重受け底面延長部に相当し、乙1文献の第2図では、凸部が底板部の対向する長辺側の2辺の中央近傍部に設けられることが開示されているとして、相違点でないと主張する。

(ア)そこでまず、本件発明1、2において、対向する(長辺側)2辺の中央部又は中央近傍部に荷重受け底面延長部が設けられることの意義について検討するに、本件明細書には、次の記載があることが認められる。

-省略-

(イ)以上の本件明細書の記載からすれば、本件発明1、2は、底面周縁に設けたスタック用の底上げ部を有する発泡合成樹脂容器を多段に積み重ねた場合に、大きな積載荷重がかかることにより、最下段等の容器本体の側壁部等が容器外側に膨出して変形し、特にその変形は長辺側中央部に著しい傾向があり、そのためにクラックや割れが生じるという課題があったものを、底面周縁の(長辺側の)対向する2辺の「中央部又は中央近傍部」に「荷重受け底面延長部」を設け、これが接地することにより、荷重負荷時に変形しやすい側壁部中央部分の変形が緩和され、容器の耐圧縮強度を高めたものであると認められる。

このような本件発明1、2の技術的意義からすると、「荷重受け底面延長部」とは、底上げ部を有する底面周縁に設けられた接地する部位で、荷重を受けて側壁部の変形を緩和する機能を有するものであり、「中央近傍部」とは、そのような荷重受け底面延長部を「中央部」に設けるのに準じる程度に側壁部中央部分の変形が緩和される部位を意味すると解するのが相当である。

(ウ)他方、前記認定に係る乙1文献の記載からすると、乙1考案の凸部は、底上げ部を有する底面周縁に設けられた接地する部位であり、構造上、荷重を受けているものではある。しかし、その主たる機能は、蓋の切欠き部を介して容器上縁の凹部と嵌合することにより、搬送時の容器のずれを防止する点にあり、乙1文献において容器の材質として撓みやすい発泡合成樹脂を具体的に開示しているわけではないことから、側壁部の変形を緩和する機能を有するとは認められない。

また、乙1文献の第2図における凸部は、被告の主張によれば、長辺の中心から37%の位置にあるというのであり、本件発明1、2において同じ位置に荷重受け底面延長部が設けられた場合でも、中央部に準じる程度に側壁部中央部分の変形が緩和されるとは認められないから、乙1文献において、凸部が本件発明にいう中央近傍部に設けられているとは認められない。この点について、被告は、本件明細書における実施例3を指摘するが、実施例3では、荷重受け延長部が中央部を挟む両側に設けられており、それにより中央部に準じる程度に側壁部中央部分の変形が緩和されると考えられることから、実施例3の記載をもって上記認定は左右されない。

したがって、乙1考案は、「荷重受け延長部」を「中央部又は中央近傍部」に設けたものとはいえず、上記相違点に関する被告の上記主張は理由がない。

カ また、被告は、上記相違点2について、乙1文献は、凸部の位置を特定しておらず、その接地位置を中央部又は中央近傍部とすることも許容しているのであるから、凸部の設置位置は相違点ではないと主張するが、乙1文献で凸部の位置が特定されていないからといって、その位置が「中央部又は中央近傍部」であることが具体的に開示されているわけではないから、被告の上記主張は失当である。

キ 以上によれば、本件発明1、2が乙1文献に基づいて新規性の欠如により無効とされるべきものであるとは認められない。

(2)乙1文献、乙2文献、乙3文献による本件発明1、2の進歩性の欠如(争点1-イ)について

ア 被告は、上記相違点1について、乙1考案において、容器の材質を発泡合成樹脂とすることは、乙2文献及び乙3文献に示されているとおり設計事項であり、上記相違点2についても、凸部の位置をどこにするかは設計事項であるから、いずれの相違点についても乙1文献のみから容易に想到可能であると主張する。

しかし、本件発明1、2は、合成発泡樹脂容器において、容器を多段に積み重ねたときに最下段等の容器に大きな積載荷重がかかり、容器の側壁が外側に膨出して変形し、クラックや割れが生じるという課題を解決することを目的としているところ、この課題は、容器の材質が撓みやすい合成発泡樹脂である場合に特有のものである。そして、本件発明1、2は、そのような課題が生じる場合に、接地する荷重受け底面延長部を、荷重負荷時に変形しやすい対向する(長辺側)2辺の中央部又は中央部近傍に設けることにより、解決したものである。このことからすると、上記相違点1及び相違点2に係る本件発明1、2の構成は、両者があいまって一体として本件発明1、2の課題解決と作用効果を基礎づけているものであるといえる。他方、乙1文献にはこのような発泡合成樹脂容器に特有の課題を示唆する記載はなく、また、乙1考案の凸部について、容器側壁の変形を緩和するとの作用を示唆する記載もない。そうすると、仮に乙1考案において、容器の材質を内容物等に応じて適宜選択すること(乙2、乙3)、及び凸部の位置を搬送時の滑り落ち防止の観点から適宜の位置にすること自体は、それぞれが設計事項であるとしても、容器の材質が特定されておらず、凸部の作用効果として搬送時の滑り落ち防止が記載されているにすぎない乙1文献に基づき、多数の可能性の中からそれらを一体として組み合わせて、特段の技術的課題を解決する本件発明1、2に至ることの動機付けがあるとはいえない。したがって、相違点1及び相違点2が乙1文献から容易に想到し得たということはできない。

イ なお、被告は、公知文献として乙2及び乙3を提出するので、これについても検討を加えておくと、次のとおりである。

乙2文献の図1には、「18 補強部」が容器底面の周縁のうち底面部の対向する2辺の中央部付近に設けられているが、図5によれば、同部は接地していないことから、これが本件発明1、2の「底面延長部」に相当するとは認められない。したがって、乙2文献は、相違点2に係る本件発明1、2の構成を示唆するものとはいえない。

乙3考案においては、底面周縁部に、底面を平面上に置いた際に接地する、本件発明1、2における「底面延長部」に対応する部分を認めることはできない(乙3)から、これが相違点2に係る本件発明1、2の構成について示唆するものとはいえない。

ウ したがって、本件発明1、2が乙1文献、乙2文献、乙3文献に基づいて進歩性の欠如により無効とされるべきものであるとは認められない。

5.2 争点2(本件発明1、2の無効論2)について

(1)乙23文献に基づく本件発明1の新規性の欠如(争点2-ア)について

ア 平成12年4月5日に頒布された刊行物である乙23文献(訳文が乙24)には、次のような記載があると認められる(ただし、乙24の訳文上の用語を統一するなどの修正をした。)。

(ア)本発明は、若い植物又は実生の苗用の容器、特に複数の生きた植物の搬送用容器に関する。

(イ)本発明の目的は、複数の植物を受容するのに適した容器を提供することにある。

本発明は、仕切り板で分離された第一及び第二仕切区画を画定する底板と、側壁とを有する、複数の植物用の容器を提供する。

本発明の特徴は、容器本体中の各仕切区画が実際に開いた空間とされている点である。

(ウ)好ましくは、容器は、前記容器本体と係合可能な閉塞部を備える。閉塞部は、カバー部とこのカバー部を囲むように窪ませた周辺フランジを形成した第一面を備えてもよい。閉塞部が容器本体にマウントされる場合、カバー部は、側壁の天面の高さより下で容器本体の側壁内に適合する。また、周辺フランジの表面は側壁の天面と接する。

(エ)実施例に係る容器の本体は、底板及び対となる対向する側壁1a-1a’及び1b-1b’を備える、一体に成形された容器本体1を有する。

(オ)実施例においては、容器本体1の側壁1a、1a’上端縁は、蓋の側壁における対応する突部を受容するように形成された窪み11を設けるように形成される。

汎用蓋12は、平面状のカバー部13と、このカバー部を囲み、対する容器本体1の側壁と合致する大きさに形成された凹状のフランジ14を有する。

カバー部13の二つの対向する辺に、突起15がフランジ14に形成される。突起15は、容器本体1の対応する窪み11に嵌合されるように、間隔を置いて形成される。突起15は、カバー部13の下面16とほぼ同じ高さまで延伸されている。使用時には、周囲フランジ14の下面14a は、側壁1a、1a’、1b、1b’の上面1cに接し、突起15は、側壁1a、1a’の窪み11に係合される。したがって、下面16は、フランジ14と蓋12の下面16の間の窪みの大きさに応じて容器本体1に延伸される。

突起15及び窪み11は任意であり、蓋12が容器本体1上に容易に置かれることを可能にする。

(カ)容器本体1は、底板が汎用蓋12のそれと同一な外面1dの形状を有するように形成される。したがって、複数の容器本体1が部材100の積層体を形成することができる。

(キ)側壁1b、1b’は、延伸された窪み17を有する。窪み17は、容器(又は蓋)が嵌合されて連結された際に、取っ手を形成する。蓋12は、二つの対向する側壁14に、延伸された突部18を備える。突部18は、窪み17に適切に嵌合されるよう、ほぼ同じ長さを有する。ただ、窪み17を突部18よりも深くすることで、蓋が定位置にある際に容器を持ち上げようとする作業者の指を挿入可能な十分なスペースが確保される。

(ク)容器本体と蓋部は、それぞれ好適に一体的に形成される。例えば適切に安価で軽量でありながら十分な強度を有し、従来技術では必要とされた容器を箱詰めする必要のない発泡スチロール製等である。

(ケ)容器本体を互いの上に積み重ね、各部で上側の容器本体の底面が下側を閉塞する蓋として機能するように、モジュールが設計される。

(コ)各容器本体のトレイの数は制限されず、任意の便利な数とできる。

(サ)図1、図4及び図7によれば、汎用蓋12のそれと同一な外面dの形状を有するように形成された容器本体底面の対向する短辺側中央部に設けられた突部18は、底面と同じ高さとなっており、接地している。

イ 被告は、乙23文献において、容器本体底面の対向する長辺側中央部に設けられた突起15は、接地していると主張する。

確かに、容器本体1は、底板が汎用蓋12のそれと同一な外面1dの形状を有するように形成される(前記ア(カ))とされ、突起15は、汎用蓋12のカバー部13の下面16とほぼ同じ高さまで延伸される(前記ア(オ))とされ、図5では、蓋部における突起15の最下部が下面16と同一高さに描かれていることからすると、容器本体の底面に設けられる突起15は接地しているとも思われる。

しかし、乙23の図2は、容器本体の長辺の突起15が設けられた部分(図1のA-A線)の断面図であるが、そこでは、両端部にある突起15は接地していない。また、前記ア(オ)のとおり、突起15は、カバー部13の下面16と「ほぼ」同じ高さまで延伸されるとされるものの、その機能は、下層の容器本体の側壁周縁に設けられた窪み11と係合する点にあり、下面16は、フランジ14と蓋12の下面16の間の窪みの大きさに応じて容器本体1に延伸されること(前記ア(オ))からすると、窪み11の最下部と下面16とが同一高さになる必然性は必ずしもない。これらからすると、乙23文献において、容器本体底面の対向する長辺側中央部に設けられた突起15が接地していると断定することはできない。

この点について、被告は、上記図1のA-A線の位置は誤記であると主張するが、乙23から直ちにそのように断定することはできない。

ウ 上記で認定した乙23文献の記載からすると、そこで開示された乙23発明は、次のような構成を備えるものと認められる。

a 長方形状の底板1dと

b 底板1dの周縁から立設された側壁1a、1a’、1b、1b’とを備え、

c 容器本体1の底面の周縁には、底面を平面上に置いたときに接地しないフランジ14が設けられている

d 発泡スチロール製の容器本体1において

e 底面の周縁のうち、底面部の対向する短辺側の2辺の中央に、当該底面を平面上に置いた時に接地する突部18が設けられており、

e’ 底面の周縁のうち、底面部の対向する長辺側の中央及び両端に接地不明な突起15が設けられている

f 発泡スチロール製容器

エ そして、乙23発明の「底板1d」、「側壁1a、1a’、1b、1b’」、「フランジ14」、「発泡スチロール製の容器本体1」が、それぞれ、本件発明1、2の「底板部」、「側壁部」、「底上げ部」、「発泡合成樹脂容器」に相当すると認められる。

また、乙23発明の「突部18」は、本件発明1、2の「荷重受け底面延長部」に相当すると認められる。

この点について、原告は、突部18は、作業者が手をかけるための突部であって、窪み17との関係で形成されるものであり、その高さは特定されていないから、必ずしも下面16と同じである必要はなく、また、突部18以外の部分のみで荷重を支えるには十分であることなどから、突部18は荷重受け底面延長部には当たらないと主張する。しかし、前記ア(サ)のとおり、突部18は接地すると認められ、原告もそのこと自体は認めているところ、乙23発明における突部18の目的如何にかかわらず、合成発泡樹脂容器に設けられた突部18が接地する以上、底面と同様に荷重を受け、側壁部の変形を緩和する機能を有していることは明らかであるから、原告らの主張は採用できない。

そうすると、乙23発明は、本件発明1と同一であると認められるから、本件発明1は、乙23文献に基づき新規性の欠如により無効とされるべきものである。

(2)乙23文献に基づく本件発明2の新規性の欠如(争点2-エ)について

(1)で述べたところからすると、本件発明2と乙23発明を対比すると、突部18に着目する場合には、乙23発明の構成のうち、a、b、c、d、e、f、gが、本件発明2の構成要件G、Iと一致すると認められる。

他方、乙23発明の突部18は、底面部の対向する短辺側の2辺に設けられるものであるから、本件発明2が、荷重受け底面延長部を長辺側の2辺に設けるとしていること(構成要件H)と相違する。

また、乙23発明において長辺側に設けられる突起15に着目した場合には、突起15は、前記のとおり接地するか明らかでないものであることから、これが本件発明2の「荷重受け底面延長部」(構成要件E及びH)に相当するとは認められない。

したがって、本件発明2が、乙23文献に基づき新規性の欠如により無効とされるべきものであるとは認められない。

(3)乙23文献に基づく本件発明2の進歩性の欠如(争点2-エ)について

ア まず、本件発明2における荷重受け底面延長部に相当するものとして、乙23発明の突起15に着目した場合について検討するに、前記認定に係る乙23文献の記載によれば、乙23発明の突起15は、窪み11と嵌合することにより、容器本体同士又は容器本体と蓋とを容易に結合することを目的とするものであると認められるところ、前記(1)イのとおり、そもそも、これが接地するか否か及び荷重を受けるか否かは明らかでない。そして、乙23文献には、底上げ部が存在する場合に、他の部分に比べて変形が著しい容器の長辺側中央の耐圧縮強度を高めるという本件発明2の課題を示唆する記載はなく、同課題が周知の課題であるとも認められないから、突起15をあえて接地するものとする動機付けがあるとはいえず、このことは、乙1文献の記載を組み合わせても同様である。

イ 次に、本件発明2における荷重受け底面延長部に相当するものとして、乙23発明の突部18に着目した場合について検討するに、前記認定に係る乙23文献の記載によれば、容器の短辺側に設けられる乙23発明の突起18は、窪み17にスペースを空けて嵌合することによって、容器を持ち上げる際の手掛かり部を構成することを目的とするものであると認められる。そうすると、前記のとおり、乙23文献には本件発明2の課題を示唆する記載がなく、同課題が周知の課題であるとも認められないことからすると、短辺側に位置する突部18をあえて長辺側中央部に変更する動機付けがあるとはいえない。また、長辺側中央部には突起15があることから、突部18を長辺側中央に設けることの阻害事由があるともいえる。そして、このことは、乙1文献の記載を組み合わせても同様である。

なお、被告は、乙23文献においては、容器本体中のトレイの数は任意の便利な数とできると記載されていることから、実施例の容器をトレイが1本ないし2本のものに変更すれば、突部18が設けられた辺が長辺側となるから、突部18を長辺側中央部に設けることは設計事項にすぎないと主張する。しかし、容器本体中のトレイの数を少なくした場合に突起15や突部18をどのように設けるかについては乙23文献中に記載がないことからすると、その場合に突部18を長辺側に設けるとは限らないから、突部18を長辺側中央部に設けることは設計事項にすぎないとはいえない。

ウ 以上からすると、本件発明2が、乙23発明に基づいて容易に想到し得たものとは認められない。

(4)以上によれば、本件発明1は、乙23文献に基づいて特許無効審判で無効とされるべきものであるが、本件発明2はそうではない。そして、そうである以上、本件発明2の従属項である本件発明3も、乙23文献に基づいて特許無効審判で無効とされるべきものではない(争点(3))。

したがって、被告製品の製造販売等は、本件特許権を侵害するものであると認められる。

5.3 争点4(損害)について

-省略-

6.検討

(1)被告は無効主張をしていますが、非抵触主張をしていません。非抵触主張は難しいと考えて無効主張だけに絞ったものと思われます。

(2)無効理由1における乙1発明の構成自体は本件発明と近いです。しかし、目的や作用効果等が全く異なります。乙1文献には容器の素材について明記されていませんが、常識的に考えればプラスチックだと思われます。そのため本件特許における発泡合成樹脂容器のような強度上の課題は生じにくいと思います。

それとは別に乙1発明で容器凸部11aが中央部から微妙にずらされているのは何故だろう?と気になりました。本件明細書では底上げ部はスタック用(積み重ね用)と説明されていますが、乙1発明の容器には本件発明の容器と違って取っ手がありません。そのため底上げ部に指をかけて持つことになると思われます。その際にバランスを取りやすい中央部に容器凸部を設けてしまうと持ちにくいのでずらしたのではないか?と想像します(答えは書いてありませんが)。

(3)無効理由2における判決や被告の主張の一部には疑問があります。裁判官は判決の中で「図5では、蓋部における突起15の最下部が下面16と同一高さに描かれていることからすると、容器本体の底面に設けられる突起15は接地しているとも思われる。しかし、乙23の図2は、容器本体の長辺の突起15が設けられた部分(図1のA-A線)の断面図であるが、そこでは、両端部にある突起15は接地していない。」と述べています。しかし、図5(というより図7)を見ると突起15の先端部は半円形状であることがわかります。そして図1のA-A断面図である図2は突起15の中央を横断する断面図ではないので、図2で左右の下側の突起15相当が接地していないのは当然だと思います。したがって、図2をもって突起15が設置していない、とする裁判官の認定も、被告による図1のA-A線が誤記であるという主張のいずれも意味がないように思われます。

(4)私としては乙23発明における容器を平面上に設置したら突起15がその平面に接触すると捉えた方が自然のように思います。そのように構成することに特別な意図があるとは思いませんが、乙23文献の各図面を見ていると自然とそのような構成と思われるだけです。

むしろ、乙23発明における先端部が半円形状である突起15は、本件発明の課題、目的、作用効果からすると「荷重受け底面延長部」とは異なる、という結論の方がスッキリするように思いました(原告は主張していようですが)。