デッキ材固定装置事件

投稿日: 2017/08/21 0:27:54

今日は平成26年(ワ)第31948号 特許権侵害差止等請求事件について検討します。本事件の原告であるハンディテクノ株式会社は、判決文によると、建築材料の開発、製造、販売等を業とする株式会社だそうです。一方、被告であるウッディワールド株式会社は建築材料の輸出入及び販売、床板及び壁板等の建築材料の製造及び加工等を業とする株式会社だそうです。J-PlatPatを使って原告・被告の会社名で検索すると原告の特許件数は13件、被告の特許件数は0件でした。

 

1.手続の時系列の整理(特許第4908098号)

① 被告は審決取消訴訟を起こしていませんし、新たな特許無効審判を請求している形跡も見当たりません。さらに既に設計変更もしているようです。これらの状況からすると、被告は控訴していないように思われます。

2.特許の内容

(本件特許発明)

A 平行に配列される両デッキ材(3)の側面間に挟着されるネジホルダー(1)と、このネジホルダー(1)を根太(2)上に固定するための止めネジ(7)とからなり、

B ネジホルダー(1)は、内部中央に止めネジ(7)を遊挿し得る縦孔(10)を有するとともに、両側に両デッキ材(3)の係止凹溝(6)内へ挿入されるように延びる連結板(14、15)をそれぞれ有し、

連結板(14、15)は前縁にデッキ材側面の係止凹溝(6)と係合するフック(16)をそれぞれ備えるとともに、連結板(14、15)を前記係止凹溝(6)内において支持させる弾性片(17)を備え、

 D 前記連結板(14、15)のうち、先に配置されたデッキ材(3)に挿着される第1連結板(14)においては、前縁の上方と下方に前記フック(16)が設けられ、次に配置されるデッキ材(3)に挿着される第2連結板(15)においては、前縁の下方に前記フック(16)が設けられていることを特徴とするデッキ材の固定装置。


3.争点

(1)被告製品は本件特許発明の構成要件B及びCを充足するか(被告製品が本件特許発明の構成要件A及びDを充足することについては、争いがない。)。

(2)本件特許には無効理由が存在するか。

(3)原告の損害額

(4)差止め及び廃棄の必要性

4.裁判所の判断

4.1 争点(1)(被告製品の構成要件B及びC充足性)について

(1)本件特許に係る明細書(甲2)には、以下の記載がある。

-省略-

(2)被告製品の構成について

被告製品の構成要件充足性の前提問題として、被告製品の構成について当事者間には争いがある。

まず、被告製品のうち、ビスの寸法に関して当事者間に争いがあり、原告は、「デッキジョイントビスの軸部分の先端側の約20mmの部分の直径は、ビス頭側の部分よりも若干小さい(約2.5mm)」と主張し、被告は、「デッキジョイントビスの軸部分の先端側の部分の寸法(直径)は3.7mmであり、ビス頭側の部分よりも若干大きい」と主張する。

しかし、ビスの軸部分の先端側の部分の直径に関しては、原告は、ネジ山を除いたビスの軸部分の直径を、被告は、ネジ山を含めたビスの軸部分の直径を、それぞれ計測したために、それぞれの数字が異なるにすぎないことが判明しており(原告準備書面(1)、被告準備書面(2))、この点に関する両者の主張は実質的に食い違うものとは認められない。このほか、被告製品のビスの長さ等についても争いがあるが、この点は、被告製品の構成要件充足性には影響を及ぼさない。

また、被告製品における縦孔の上方の突起の有無、内周面におけるネジ溝の有無に関しても当事者間には争いがあり、原告は、「縦孔10の内周面には、ネジ溝は形成されておらず、縦孔10の上端側の縁部には、縦孔10の内径を狭めるように内側へ突出した突起11が形成されている」と主張し、被告は、「ビスを縦孔に螺合していくと、縦孔の内周面がビスのらせん形状に沿って弾性変形し、雌ネジ様に凹溝が形成される」「被告製品には突起11は存在しない」と主張する。

これらの点は、被告製品の構成要件B充足性に全く関係がないとまではいえないが、実際には、後記(3)のとおり、上記の点をどう認定するかにかかわらず、被告製品が構成要件Bを充足することが認められるため、結論に影響を及ぼすものではない。

(3)被告製品の構成要件B充足性について

ア 被告は、被告製品のネジホルダーは縦孔を有するものの、止めネジの下部は螺合しており、このように螺合する被告製品は、「遊挿」の要件を充たさない旨主張する。

イ そこで検討するに、まず、特許技術用語集(乙17)において、「遊挿」につき「遊びがある状態に挿入すること」と記載されている。

また、本件特許に係る明細書(甲2)には、突起11が、縦孔10内に挿通された止めネジ7のネジ溝9上端部と係合して、ネジホルダー1と止めネジ7とが一体化されることが記載されている(段落【0035】)が、止めネジ7の頭をたたくことにより止めネジ7のネジ溝9上端部と縦孔10の上端の突起11との係合が外され、ネジホルダー1と止めネジ7との連結状態が解かれ、ネジホルダー1が止めネジ7に対してフリーの状態となることも記載されており(段落【0039】)、このフリーの状態となっている止めネジと縦孔との関係を「遊挿」ということができる。

他方で、被告製品においては、縦孔の上部の若干狭い部分において、止めネジの挿入が阻止されてはいるが、証拠(甲11の3及び4、被告製品についての当裁判所の検証の結果(検甲1))によれば、被告製品においてビスを縦孔内に挿入した後、4~5回程度ビスを回転させることにより、ネジホルダーの縦孔にビスを装着させることができ、同装着後は、壁板8内でビス(止めネジ)が遊びをもって移動していることが認められ、この状況は上記「遊挿」に相当するものといえる。

ウ 被告は、被告製品では縦孔の一部区間でビスが必ずいったん係止する旨主張する。しかし、そもそも本件特許発明において、ネジホルダーと止めネジとが常に「遊挿」状態にあることが求められるわけではなく、明細書には、初めはネジホルダーと止めネジとが係合するが、後に「遊挿」状態になる事例が実施例として記載されており(段落【0035】【0039】参照)、このような形態のものも本件特許発明を充足するものである。

そして、当裁判所の検証の結果(検甲1)からすれば、被告製品においては、ビスを縦孔内に挿入しようとする際に、4~5回程度ビスを回転しなければ縦孔にビスを挿入できないが、その後、ビスが縦孔にきちんと装着された後は、ビスが遊びをもって動く状態になっているものであって、被告製品においても「遊挿」状態となっている

このほか、被告は、被告製品においてはビスをカナヅチで軽くたたく程度では根太に打ち込むことができず、このような構成は本件特許の対象から除外されるとも主張する。

しかし、上記のとおり、被告製品においても、少なくともビスが縦孔にきちんと装着されて「遊挿」状態となった後は、ビスをカナヅチで軽くたたく程度でも根太に打ち込むことができるものと認められるから、本件特許発明が奏する上記効果を奏するものであり、被告の上記主張は理由がない。

エ 以上のとおり、被告製品は「止めネジを遊挿し得る縦孔」を有するものといえ、構成要件Bを充足する。

(4)被告製品の構成要件C充足性について

ア 被告は、本件特許においては複数個の弾性片が協働して連結板を支えるところ、被告製品は弾性片を有するものの、連結板を係止凹溝内において協働して支持させておらず、弾性片は何の機能も有していない旨主張する。

イ 確かに、本件特許に係る明細書(甲2)においては、実施例の記載として、「上下の弾性片17、17の弾力により連結板14を係止凹溝6内の中間位置に水平に配置される」との記載がある(段落【0040】)が、これは一実施例にすぎず、構成要件Cにおいては、連結板に複数個の弾性片を設けることや、協働して連結板を支持し得るように「弾性片」を連結板の上下の位置に設けることについては何ら規定されていないから、本件特許においては複数個の弾性片が協働して連結板を支える点が必須であることを前提とする被告の主張は、その前提を欠くものである。

また、「支持」との文言の意味については、明細書上特段定義されていないところ、物体1が物体2の重力を受けながらこれに耐えている状態であれば、物体1は物体2を支持しているといってよく、被告製品の係止凹溝内において、連結板の下部に設けられた「弾性片」が連結板の重みを支えており、弾性片自体は係止凹溝の下面に接していること(甲13)からすれば、被告製品においては、弾性片が連結板を支持しているものといえる。この点に関し、被告は、「弾性片が連結板に接しており、デッキジョイント金物の重力を受ける」のみでは、弾性片が連結板を支持していることにはならないとも主張するが、上記のとおり、被告の同主張は採用できない。

ウ 以上からすれば、被告製品は、「連結板を係止凹溝内において支持させる弾性片」を備えるものといえ、構成要件Cを充足するといえる。

4.2 争点(2)(本件特許の無効理由の存否)について

-省略-

4.3 争点(3)(原告の損害額)について

-省略-

4.4 争点(4)(差止め及び廃棄の必要性)について

(1)被告は、平成26年12月19日以降、被告製品における弾性片を廃止する旨の設計変更をした旨主張しており、この点は当事者間において特段争いがなく、同設計変更後の製品は、本件特許発明の構成要件を充足しないことになる。

(2)しかし、被告は、被告製品の本件特許発明に係る構成要件充足性を現に争うとともに、本件特許が無効であるとして、特許庁において本件特許に係る無効審判を請求している(乙32)。また、被告製品において、いったん廃止した弾性片を復活させることがさほど困難であるとも解されない。

以上の被告の態度や被告製品を再度製造・販売することの容易性に鑑みれば、被告が本件特許発明を再度実施するおそれがあるものと認められるから、被告製品の製造・販売等を差し止めるべき必要性が認められる。

また、被告が仕入れた被告製品を全て販売ないし廃棄したものとも認められず、むしろ、証拠(乙33の6)によれば、平成26年12月時点では、被告製品の在庫が5000個以上残っていたことが認められるため、被告製品の廃棄を命じる必要性も認められる。

5.検討

(1)最初に請求項1を読んで、①「止めネジを遊挿し得る縦孔」と、②「前記連結板のうち、先に配置されたデッキ材に挿着される第1連結板においては、前縁の上方と下方に前記フックが設けられ、次に配置されるデッキ材に挿着される第2連結板においては、前縁の下方に前記フックが設けられていること」が気になりました。前者はネジにもかかわらず対象物とかみ合わずに遊びが設けられているという不自然な構成である点が何かあるのではないか?と思い、後者は特許査定の要因となった補正と思われたためです。

(2)実際に出願当初の特許請求の範囲、拒絶理由通知書及び引用文献を見比べました。そうすると①は出願当初の特許請求の範囲の請求項1に記載されており、②は請求項4に記載されており、この請求項4のみ拒絶理由がないというものでした。つまり特許査定となった請求項1は出願当初の請求項4の内容を加えたものでした。特許査定になり実際に権利行使できたのでこの補正は正解だったようです。

(3)ところで、別の解答もなかったのか気になります。本件発明では「遊挿」という特許用語を用いて「止めネジ」と「縦孔」の関係を表しています。しかし、前述したように本来ネジが「遊挿」しているのは不自然なことです。そのため明細書を参酌すると止めネジの先端側には溝が設けられ、後端側は先端側よりも径が小さい円筒部になっていることがわかります。このネジの構造はいずれの引用文献にも記載されていません。したがって、この構成を明確にする補正をすることも解答になりえたのではないか?と思います。

(4)なお、本件発明のように請求項4の内容を追加する場合であれば同時に「遊挿」を削除する補正にチャレンジしても良いように思います。新規事項追加と判断される可能性がなくはないですが、分割出願して対応することも可能なので。