マキサカルシトール事件(続き)

投稿日: 2017/04/24 8:56:57

本当は貝の判例のその2の予定でしたが、先日投稿した均等の適用に関するマキサカルシトール事件の最高裁判決(平成28年(受)第1242号)を踏まえて実務上注意すべき事項について簡単に検討します。

 1.判決の内容

5(1)・・・出願人が、特許出願時に、特許請求の範囲に記載された構成中の対象製品等と異なる部分につき、対象製品等に係る構成を容易に想到することができたにもかかわらず、これを特許請求の範囲に記載しなかった場合であっても、それだけでは、対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情が存するとはいえないというべきである。

(2) もっとも、上記(1)の場合であっても、出願人が、特許出願時に、その特許に係る特許発明について、特許請求の範囲に記載された構成中の対象製品等と異なる部分につき、特許請求の範囲に記載された構成を対象製品等に係る構成と置き換えることができるものであることを明細書等に記載するなど、客観的、外形的にみて、対象製品等に係る構成が特許請求の範囲に記載された構成を代替すると認識しながらあえて特許請求の範囲に記載しなかった旨を表示していたといえるときには、明細書の開示を受ける第三者も、その表示に基づき、対象製品等が特許請求の範囲から除外されたものとして理解するといえるから、当該出願人において、対象製品等が特許発明の技術的範囲に属しないことを承認したと解されるような行動をとったものということができる。また、以上のようなときに上記特段の事情が存するものとすることは、発明の保護及び利用を図ることにより、発明を奨励し、もって産業の発達に寄与するという特許法の目的にかない、出願人と第三者の利害を適切に調整するものであって、相当なものというべきである。

したがって、出願人が、特許出願時に、特許請求の範囲に記載された構成中の対象製品等と異なる部分につき、対象製品等に係る構成を容易に想到することができたにもかかわらず、これを特許請求の範囲に記載しなかった場合において、客観的、外形的にみて、対象製品等に係る構成が特許請求の範囲に記載された構成を代替すると認識しながらあえて特許請求の範囲に記載しなかった旨を表示していたといえるときには、対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情が存するというべきである。

 

2.検討

(1)この問題は発明の単一性違反を防ぐため、あるいは、欧州出願や中国出願に合わせたため、複数の実施例を全て含む上位概念の請求項を作成した場合に発生することが多いと思われます。包括的な請求項を作成した場合、a曖昧な表現による記載要件違反、b技術的範囲が広がりすぎることによる新規性・進歩性違反、といった内容の拒絶理由通知を受けることがあります。これに対応して発明の構成や先行技術との相違点を明確にするために減縮補正して特許請求の範囲が一部の実施例を含まない内容になってしまう場合には、最高裁判決を意識すると、請求項の削除ではなく分割出願で対応することもありえます。

(2)また、発明の単一性は満たしているが特段の作用効果を奏さない実施例・変形例を数多く記載している出願でも起こりえます。おそらくですが、これは大昔に単項制から多項制に移行した際の後遺症だと思います。この場合も、拒絶理由通知に対応する過程で特許請求の範囲が一部の実施例を含まない内容になってしまう可能性があります。

(3)このように今回の最高裁だけを考えると、明細書にむやみに実施例・変形例を記載するのはあまり良くないと思われます。基本的にはメインの実施例に加えて、それと発明の単一性を満たす実施例・変形例の中から特段の効果を奏する実施例・変形例に絞って記載した方が良いと思われます。

(4)もっとも請求項に記載する内容を上位概念化するためには複数の実施例・変形例を記載しておかないとサポート要件違反に問われる可能性があるので実施例が一つだけというのも好ましくないですが。