IHクッキングヒータ事件

投稿日: 2018/11/02 1:07:42

今日は、平成29年(ワ)第22884号 特許権侵害差止等請求事件について検討します。原告であるアイリスオーヤマ株式会社は、判決文によると、電磁調理器等の各種家電、LED照明、各種日用品等の製造販売業務を営むことを目的とする株式会社だそうです。一方、被告である日立アプライアンス株式会社は、家庭用電気機械器具の設計、製造及び販売等の業務を営むことを目的とする株式会社だそうです。

1.手続の時系列の整理(特許第3895311号)

① 侵害訴訟が提起された正確な日にちは不明ですが、2017年の訂正審判の請求よりも前だと思われます。

2.本件発明

誘導加熱をする第1及び第2の加熱器(24、25)を左右に内設した本体ケース(13)と、この本体ケース(13)の上面に設けられたトッププレート(12)と、前記トッププレート(12)の周囲に設けられたサッシュ(37)とを具備し、被組込家具に組み込まれる加熱調理器において、

B 前記トッププレート(12)の幅を前記本体ケース(13)の幅より大きくし、

C 前記第1及び第2の加熱器(24、25)の各中心部を、前記本体ケース(13)の左右に等分した両側部の各中心部より外側であって、前記トッププレート(12)の左右に等分した両側部の各中心部より中央側に配置すると共に、

前記トッププレート(12)の本体ケース(13)外方に位置する部分の下方であって直下に前記被組込家具が位置する箇所に、前記サッシュ(37)とは別部材に構成され、かつ前記サッシュ(37)に当接させた、金属板から成る補強板(40)を設け、

E この補強板(40)と前記トッププレート(12)との間、又は補強板(40)の下方に断熱層(43)を形成したこと

F を特徴とする加熱調理器。


3.争点

(1)被告各製品は、本件発明の技術的範囲に属するか(争点1)

ア 被告各製品は「補強板」(構成要件D)を充足するか(争点1-1)

イ 被告各製品は「断熱層」(構成要件E)を充足するか(争点1-2)

ウ 被告各製品は「トッププレート」、「サッシュ」及び「補強板」(構成要件AないしE)を充足するか(争点1-3)

(2)本件特許は特許無効審判により無効にされるべきものと認められるか(争点2)

ア 本件特許は特許法36条6項2号に違反しているか(争点2-1)

イ 本件特許は特許法36条6項1号に違反しているか(争点2-2)

ウ 本件特許は特許法36条4項1号に違反しているか(争点2-3)

エ 本件発明は新規性又は進歩性を欠くものであるか(争点2-4)

(3)損害の発生の有無及びその額(争点3)

4.当事者の主張

(1)争点1(被告各製品は、本件発明の技術的範囲に属するか)

ア 争点1-1(被告各製品は「補強板」(構成要件D)を充足するか)

【原告の主張】

(ア)「補強板」(構成要件D)の意義

「補強板」の一般的な意味は、その文言どおり、強度を補う板である。

また、本件明細書等(以下【】は、本件明細書等における発明の詳細な説明の段落番号を指す。【0013】、【0033】)には、「補強板」が、「トッププレートの本体ケース外方に位置する部分」において、調理器具の落下衝撃等に耐えるように、トッププレートの強度を補うものである旨記載されている。

よって、文言の一般的な意味及び本件明細書等の【0013】及び【0033】によれば、構成要件Dの「補強板」とは、調理器具の落下衝撃等に耐えるように、トッププレートの強度を補って強くする板をいう。

(イ)被告各製品が「補強板」(構成要件D)を充足すること

被告各製品の金属製の加工板は、ガラス製のトッププレートの背面に接着されてトッププレートの強度を補って強くする板であるので、「補強板」に当たり、構成要件Dを充足する。

【被告の主張】

(ア)「補強板」(構成要件D)の意義

本件明細書等では、「補強板」について、トッププレートの耐力を補って調理器具の落下衝撃等に耐える強度の確保をする部材であるとされているのみであり、本件明細書等の実施例に関する記載(【0027】~【0029】)及び本件明細書等の図2及び同図3(別紙5本件明細書等の図面記載【図3】)によっても、補強板はサッシュを介してトッププレートの側部でわずかに接しているにすぎず、補強板の意味、構成が明確にされているとはいえないが、本件明細書等(【0013】、【0033】、【0035】)の記載を踏まえれば、本件発明の「補強板」とは、①トッププレートの本体ケース外方に位置する部分の下方にあって、内箱をつり下げる役割を果たし、かつ、これになんらかの構成を付加するなどして、トッププレートの本体ケース外方に位置する部分の耐力を補って、調理器具の落下衝撃等に耐える強度を確保するようにした部材、又は、②本体ケースのフランジ部に接続され本体ケースをより強固に固定する部材であると解釈すべきである。

(イ)被告各製品が「補強板」(構成要件D)を充足しないこと被告各製品における金属製の加工板は、前記①及び②に係る部材であるとはいえないから、「補強板」に当たらず、構成要件Dを充足しない。

イ 争点1-2(被告各製品は「断熱層」(構成要件E)を充足するか)

【原告の主張】

(ア)「断熱層」(構成要件E)の意義

「断熱層」とは、「トッププレートの幅を本体ケースの幅より大きくしたことで直下に被組込家具が位置することになる、トッププレートの本体ケース外方に位置する部分からの熱伝導を補強板の上方又は下方の断熱層で和らげ、被組込家具の熱による損傷をなくすことができる。」(【0013】)との本件明細書等による説明を踏まえれば、「断熱層」とは、熱伝導を和らげる層であり、特に、補強板とトッププレートとの間、又は、補強板と調理台(被組込家具)との間の熱伝導を和らげる層をいう。

(イ)被告各製品が「断熱層」(構成要件E)を充足すること

被告各製品の加工板に凹凸加工された部分において、その凹凸の形状により、トッププレートとの間又はカウンタートップとの間に空気層が存在し、空気層は断熱性を有することから、「断熱層」が形成されている。

よって、被告各製品は、構成要件Eを充足する。

【被告の主張】

(ア)「断熱層」(構成要件E)の意義

本件発明の唯一の実施例である図3の構成では、断熱層を形成するとされている補強板の上側に空気が流通するすき間があり、また、補強板自体が高温となる可能性が高い上、補強板が直接調理台に熱を伝える構造となっているから、空気の動かない層を設けて、トッププレートからの熱伝導を和らげ、被組込家具の熱による損傷をなくす機能を有すべき断熱層は示されておらず、その他本件明細書等の記載を参照しても、「断熱層」の意味、構造は不明確であって、技術的範囲を定めることができない。

(イ)被告各製品が「断熱層」(構成要件E)を充足しないこと

原告は、被告各製品に空気層があると主張するにすぎず、被告各製品に「断熱層」があることを主張立証していない。よって、被告各製品は構成要件Eを充足しない。

ウ 争点1-3(被告各製品は「トッププレート」、「サッシュ」及び「補強板」(構成要件AないしE)を充足するか)

【原告の主張】

被告各製品の「ガラス板」は本件発明の「トッププレート」に当たり、被告各製品の「金属製の加工板」は本件発明の「補強板」に当たり、被告各製品の「サッシュ」は本件発明の「サッシュ」に当たるから、各構成要件を充足する。

【被告の主張】

被告各製品における天板は、ガラス板、サッシュ及び金属製の加工板とからなる部材である。原告が「補強板」に当てはめている金属製の加工板は天板の構成部材である。

(2)争点2(本件特許は特許無効審判により無効にされるべきものと認められるか)

ア 争点2-1(本件特許は特許法36条6項2号に違反しているか)

【被告の主張】

前記(1)ア及びイの【被告の主張】(ア)において主張したとおり、本件発明の意味は不明確であり、本件特許は特許法36条6項2号の規定に違反してされたものであって、特許法123条1項4号の無効理由があるから、特許無効審判により無効にされるべきものである。

【原告の主張】

前記(1)ア及びイの【原告の主張】(ア)において主張したとおり、本件発明には何ら不明確な点はないから、被告が主張する無効理由は成り立たない。

イ 争点2-2(本件特許は特許法36条6項1号に違反しているか)

【被告の主張】

仮に、本件発明の「補強板」や「断熱層」の意味が原告の主張するとおりの意味であるとすれば、実施例の記載と矛盾し、本件明細書等には全く開示されていない。

また、補強板をサッシュに当接させた状態では、当てて接触させただけの状態であって接合した状態ではないため、補強板は調理器具の落下衝撃等に耐える強度を確保できないところ、本件発明は、「サッシュに当接させた、金属板から成る補強板」というものであって、接合していない。そうすると、本件発明は、「補強板」としての効果を奏することのできない構成を含んでおり、発明の詳細な説明に記載したものではないから、本件特許は、特許法36条6項1号の規定に違反してされたものであって、特許法123条1項4号の無効理由があるから、特許無効審判により無効にされるべきものである。

【原告の主張】

本件発明の「補強板」及び「断熱層」は、前記(1)ア及びイ【原告の主張】(ア)において主張したとおり、技術常識を有する当業者に理解できるように、発明の詳細な説明に記載されている。また、本件明細書等の記載を前提とすれば、ねじによって接合した後でも当接状態は継続しているのであるから、接合していることと当接していることは矛盾せず、本件明細書等では当接された状態が開示されている。

そうすると、本件発明は、本件明細書等の記載に基づくものであるから、サポート要件には違反せず、被告が主張する無効理由は成り立たない。

ウ 争点2-3(本件特許は特許法36条4項1号に違反しているか)

【被告の主張】

本件発明の「補強板」や「断熱層」の意味が原告の主張するとおりの意味であるとすれば、本件明細書等には原告が主張する意味での「補強板」や「断熱層」を有する発明について、当業者が実施できるようには記載されていない。

よって、本件明細書等に基づいて当業者が実施することができるものとはいえず、本件特許は特許法36条4項1号の規定に違反してされたものであって、特許法123条1項4号の無効理由があるから、特許無効審判により無効にされるべきものである。

【原告の主張】

当業者は、本件明細書等の発明の詳細な説明の記載によって、本件発明を実施することができるので、実施可能要件には違反せず、被告が主張する無効理由は成り立たない。

エ 争点2-4(本件発明は新規性又は進歩性を欠くものであるか)

【被告の主張】

(ア)公然実施品(乙2)に基づき新規性又は進歩性を欠くものであるか

被告は、遅くとも本件出願日前である平成13年10月に、製品番号をHTW-4DBとするIHクッキングヒータ(以下「公然実施品1」という。乙2、3。)を製造し、販売していた

a 本件発明と公然実施品1の相違点

公然実施品1の構成は、本件発明の構成要件AないしFと一致する。

仮に、本件発明と公然実施品1との間に相違点が存するとしても、本件発明と公然実施品1とは、本件発明は、サッシュとは別部材に構成され、かつサッシュに当接させた、金属板から成る補強板を有するのに対し、公然実施品1はサッシュ自体が補強板となっており、サッシュとは別部材に構成され、かつサッシュに当接させた、金属板から成る補強板は有しない点(以下「相違点1-2’」という。)において相違し、その余の点において一致する。

原告は、①本件発明ではトッププレートの幅を前記本体ケースの幅より大きくしているのに対し、公然実施品1ではトッププレートの幅と本体ケースの幅はほぼ同じである点(以下「相違点1-1」という。)及び②本件発明は、トッププレートの本体ケース外方に位置する部分の下方であって直下に被組込家具が位置する箇所に、サッシュとは別部材に構成され、かつサッシュに当接させた、金属板から成る補強板を有するのに対し、公然実施品1は複雑な形状のサッシュを有するのみで、サッシュとは別部材の補強板を有しない点(以下「相違点1-2」という。)において相違すると主張する。

しかしながら、相違点1-1に関するトッププレートの幅と本体ケースの幅とがほぼ同じ場合は除外されることを前提とする原告の主張は、特許請求の範囲の記載及び本件明細書等に基づかない主張であって、前提において失当である。

また、相違点1-2については、公然実施品1も「トッププレートの本体ケース外方に位置する部分の下方であって直下に被組込家具が位置する箇所」に「補強板」の機能を有するサッシュを有するからこの点を含めて相違点とすることは正確性に欠ける。

b 相違点の検討

相違点1-2’は、単に公然実施品1において、「補強板」であるサッシュを金属板からなる補強板とサッシュに分けて、補強板をサッシュに当接させるようにすれば実現される構成にすぎない。

また、公知技術である特開2002-270353号(乙13。以下「乙13公報」という。)や公知技術である特開平7-6869号(乙11。以下「乙11公報」という。)には、誘導加熱調理器においてサッシュと本体ケース連結金属板とを別部材により構成して両者を当接させてねじで接合することが記載されている。製造コストが高い機械加工により製造した部品を、製造コストが安い機械加工であるプレス加工により製造するために金属板部品に置き換えることは、原告も主張するとおり、機械加工分野における技術常識であるから、公然実施品1において製造コストを下げるために乙13公報及び乙11公報に示されたプレス加工可能な金属板を採用することは当業者における単なる設計的事項の適用の問題にすぎず、極めて容易になし得ることである。

なお、原告は、相違点1-2は、トッププレートの幅を本体ケースよりも大きくしたことに関連して新たに見出した課題に関するものであると主張するが、これは相違点1-1の存在を前提とした主張であって前提において誤りである。また、原告は、公然実施品1のサッシュをサッシュと金属板とに分けることに想到し得たとしても、金属板を長くする理由はなかったと主張するが、公然実施品1のガラス板を長くすれば、それに伴い、サッシュと本体ケースを接続する金属板を長くすることは当然であるから、原告の主張は失当である。

c 小括

以上によれば、本件発明は、公然実施品1と同一であるか、本件出願日当時、当業者が公然実施品1に基づいて容易に発明をすることができたものであって、新規性又は進歩性を欠く。よって、本件特許は特許法29条1項2号又は同条2項に違反してされたものであって、同法123条1項2号の無効理由があるから、特許無効審判により無効とされるべきものである。

したがって、原告は、被告に対し、本件特許権を行使することができない(特許法104条の3第1項)。

(イ)公然実施品(乙5)に基づき新規性又は進歩性を欠くものであるか

リンナイ株式会社は、遅くとも本件出願日前である平成13年4月11日に、ガスヒータ(製品番号RSK-N730V4TGT-ST。以下「公然実施品2」という。乙5。)を製造し、販売していた。

a 本件発明と公然実施品2の相違点

公然実施品2の構成は、本件発明の構成要件AないしFと一致する。

仮に、本件発明と公然実施品2との間に相違点が存するとしても、本件発明と公然実施品2とは、次の各点において相違し、その余の点において一致する。

① 本件発明は誘導加熱をする第1及び第2の加熱器を有するのに対し、公然実施品2は右ガスヒータ及び左ガスヒータを有するにすぎず、誘導加熱をする第1及び第2の加熱器を有しない点(以下「相違点2-1」という。)。

② 本件発明は、サッシュに当接させた補強板を有するのに対し、公然実施品2においては、上部枠側遮熱板及び上部枠がサッシュに当接していない点(以下「相違点2-3’」という。)。

なお、原告が以下の【原告の主張】(イ)において主張する相違点2-2及び相違点2-3は存在しない。

b 相違点の検討

(a)相違点2-1について

本件出願日当時、加熱器としてIHヒータを用いることは周知慣用手段であり、同じ加熱器であるガスヒータをIHヒータに置き換えることは単なる設計的事項の適用の問題にすぎず、課題は共通しており、ガスヒータをIHヒータに変更することには積極的な動機付けがあって、置換えを阻害する理由は存在しないから、公然実施品2にIHヒータという周知慣用技術、つまり、公然実施品1を組み合わせることは当業者にとって容易に想到できたことである。

(b)相違点2-3’について

また、前記(ア)bのとおり、IHヒータにおいてサッシュと本体ケース連結金属板とを別部材により構成して両者を当接させてねじで接合する構造は周知慣用の構造であるから、公然実施品2に、サッシュに当接させた補強板を有する構成を採用することは、当業者にとって容易に想到できたことである。

c 小括

以上によれば、本件発明は、公然実施品2と同一であるか、本件出願日当時、当業者が公然実施品2に基づいて容易に発明をすることができたものであって、新規性又は進歩性を欠く。よって、本件特許は特許法29条1項2号又は同条2項に違反してされたものであって、同法123条1項2号の無効理由があるから、特許無効審判により無効とされるべきものである。

したがって、原告は、被告に対し、本件特許権を行使することができない(特許法104条の3第1項)。

【原告の主張】

(ア)公然実施品1に基づき新規性又は進歩性を欠くものであるか

a 相違点の認定について

(a)相違点1-1について

本件明細書等の記載(【0002】、【0004】、【0005】、【0011】~【0013】、【図7】(別紙5本件明細書等の図面記載【図7】))に鑑みると、構成要件Bの「前記トッププレートの幅を前記本体ケースの幅より大きくし」とは、トッププレートの幅が本体ケースの幅より大きい場合を指し、従来例のような、「本体ケース3と、これの上面に設けたトッププレート4とは、その各幅W3、W4がほゞ同じ」(【0002】)場合は含まれないが、公然実施品1のトッププレートの幅は、本体ケースの幅と「ほゞ同じ」(【0002】)であって上記構成要件を充足しないから、本件発明と公然実施品1とは、相違点1-1において相違する。

(b)相違点1-2について

本件発明の「補強板」は、本体ケースの幅よりも大きい幅を有するトッププレートの、サッシュで保護されない部分を補強するものであるが、公然実施品1のサッシュは、複雑な形状であり、トッププレートの端面を保護することを目的とする部材である上、金属ブロックから切削加工や鋳造加工等によって製造せざるを得ず、金属板からプレス加工によって簡単に低コストで製造することはできないものであって、本件発明における金属板から成る補強板とは異別の部材である。

よって、本件発明と公然実施品1とは、被告主張の相違点1-2’ではなく、相違点1-2において相違する。

b 相違点の検討

(a)相違点1-1について

公然実施品1のように、本体ケースの重量をトッププレートの端部を被組込家具の上に引っ掛けて支えるために必要な範囲でトッププレートの幅を本体ケースの幅よりもわずかに大きくしたものにおいて、トッププレートの幅のみを大きくすると、その拡張した部分において、外力によりガラス製のトッププレートが割れる可能性が高くなるという問題が生じる。また、幅及び面積が限られた被組込家具において、トッププレートだけを大きくすると、加熱のために必要な範囲を超えて、調理台のスペースを加熱調理器が占有してしまうという問題も生じる。

さらに、被告は、IHヒータである公然実施品1にガスヒータである公然実施品2を適用すると主張するが、両者は、加熱原理や求められる部品の構成、構造が基本的に相違しており、これらを組み合わせる動機付けはなく、当業者がそのような変更を行う理由はない。

(b)相違点1-2について

本件発明は、従来より大きな調理容器を載せて加熱できるようになる等の効果を有するから、これらの効果を有するように本件発明の構成を採用することは設計的事項とはいえない。

また、相違点1-2に係る本件発明の構成は、トッププレートの幅を本体ケースの幅より大きくしたことによってトッププレートの本体ケース外方に位置する部分の耐力が低下するという、公然実施品1のような従来品には存在していなかった新たな課題に対応するために発明されたものであり、当業者は、公然実施品1に当該構成を採用する理由はなかった。

次に、公然実施品1と乙13公報又は乙11公報との組合せについて検討する。

まず、被告が乙11公報において引用する部分は、トッププレートの側部ではなく、前部に関するものであるため、公然実施品1の側部と組み合わせる動機付けがない。また、乙13公報及び乙11公報の発明では、トッププレートの幅と本体ケースの幅とがほぼ同じであるため、乙13公報のL字金具9及び乙11公報の金属板28は、トッププレートの幅を本体ケースの幅より大きくした部分においてトッププレートを補強する機能を有しないので、本件発明における「補強板」であるとはいえない。

以上のとおり、乙13公報と乙11公報の発明は、本件発明における「補強板」を有しないから、これらを公然実施品1と組み合わせても、相違点1-2の構成には至らない。

仮に、当業者が公然実施品1のサッシュを、サッシュと金属板に分けることについて想到し得たとしても、金属板を長くする理由はなかったから、相違点1-2について、当業者が容易に想到できたとはいえない。

c 小括

以上によれば、本件発明と公然実施品1には、相違点1-1及び同1-2が存するから、本件発明は、公然実施品1と同一とはいえず、また、本件出願日当時、当業者が公然実施品1に基づいて容易に発明をすることができたものともいえないから、被告が主張する無効理由は成り立たない。

(イ)公然実施品2に基づき新規性又は進歩性を欠くものであるか

a 相違点の認定について

本件発明と公然実施品2とは、相違点2-1以外にも、以下の相違点を有する。

① 本件発明はトッププレートを有するのに対して、公然実施品2はトッププレートを有しない点(以下「相違点2-2」という。)

② 本件発明は、サッシュに当接させた、調理器具の落下衝撃等に耐える強度を確保する補強板を有するのに対し、公然実施品2は、上部枠側遮熱板及び上部枠を有するにすぎず、当該上部枠側遮熱板及び上部枠は、サッシュに当接しておらず、調理器具の落下衝撃等に耐える強度を確保する機能を有さないので、本件発明の補強板に該当しない点(以下「相違点2-3」という。)

b 相違点の検討

(a)相違点2-1及び同2-2について

公然実施品2のガスヒータと、本件発明の誘導加熱をする加熱器とでは、加熱原理や求められる部品の構成、構造が基本的に相違しており、これらを組み合わせる動機付けはない。また、公然実施品2において、孔の開いたトップガラス部分を、孔のないトッププレートに置き換えることは技術的にあり得ない。

したがって、相違点2-1及び同2-2について、当業者が容易に想到し得たとはいえない。

(b)相違点2-3について

公然実施品2においては、上部枠側遮熱板及び上部枠はサッシュと当接されておらず、調理器具の落下衝撃等に耐える強度を確保するものではないから、本件発明のトッププレートを補強する構成と、公然実施品2のトップガラス部分を補強する構造とは全く異なり、そのため、部品の構造も全く異なる。

したがって、相違点2-3について、当業者が容易に想到し得たとはいえない。

c 小括

以上によれば、本件発明と公然実施品2には、相違点2-1ないし同2-3が存するから、本件発明は、公然実施品2と同一とはいえず、また、本件出願日当時、当業者が公然実施品2に基づいて容易に発明をすることができたものともいえないから、被告が主張する無効理由は成り立たない。

(3)争点3(損害の発生の有無及びその額)

【原告の主張】

ア 損害賠償請求権の譲渡

原告は、平成27年3月13日、東芝らから、同社らの第三者に対する本件特許権の侵害を理由とする損害賠償請求権の譲渡を受けた。東芝らは、その後、被告に対し、同債権譲渡に係る通知をした。

イ 被告は、別紙2販売額一覧表に記載のとおり、平成19年1月1日から平成28年12月31日までの間に、被告各製品を製造し、販売して、少なくとも合計417億円を売り上げた。特許法102条3項に基づいて本件特許権の実施につき特許権者が受けるべき金銭の額は、売上高の1パーセントを下らないので、被告の同行為により、本件特許権の特許権者が受けた損害額の合計は、少なくとも4億1700万円である。

ウ 小括

よって、原告は、被告に対し、本件特許権侵害の不法行為による損害賠償請求権に基づき、4億1700万円及びこれに対する不法行為後の日である平成29年7月20日から支払済みまでの民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。

【被告の主張】

否認し、争う。

5.裁判所の判断

1 本件発明の意義について

(1)本件明細書等の発明の詳細な説明の記載

-省略-

(2)本件発明の概要

前記第2の2前提事実(2)ウの特許請求の範囲の記載及び前記(1)の本件明細書等の記載によれば、本件発明の概要は、次のとおりであると認められる。

ア 本件発明は、誘導加熱をする第1及び第2の加熱器を左右に内設した本体ケースの上面にトッププレートを有する加熱調理器に関する(【0001】)。

イ 従来の加熱調理器においては、①第1及び第2の加熱器の間隔が小さいため、トッププレート上に大きな鍋や鉄板等の調理器具を載せて加熱することができない、②調理器具同士が近接する状況にあると、共鳴して可聴領域の共鳴音が大きくなる(【0004】)、③第1及び第2の加熱器上の位置に載せた調理器具とトッププレートの最外周縁との間にはスペースの余裕が少ないため、調理器具から調理材料の吹きこぼれや飛び散りがあると、それらが器外に容易に達する、④それらの問題を解決する方法として加熱調理器全体を大きくした場合、全体の設置性が損なわれる(【0005】)という課題があったところ、本件発明は、前記トッププレートの幅を前記本体ケースの幅より大きくし、前記第1及び第2の加熱器の各中心部を、前記本体ケースの左右に等分した両側部の各中心部より外側であって、前記トッププレートの左右に等分した両側部の各中心部より中央側に配置すると共に、前記トッププレートの本体ケース外方に位置する部分の下方に補強板を設け、この補強板と前記トッププレートとの間、又は補強板の下方に断熱層を形成したこと(【0007】)によって、(ア)トッププレートの第1及び第2の加熱器上の位置に大きな鍋や鉄板等の調理器具を載せて加熱することができるようになり、(イ)電磁振動の共鳴音の発生を防止できるようになり、(ウ)トッププレートの第1及び第2の加熱器上の位置に載せた調理器具とトッププレートの最外周縁との間のスペースの余裕が大きくなり、調理器具から調理材料の吹きこぼれや飛び散りがあっても、それらが器外に容易に達しないようにできるようになり、(エ)全体の設置性は損なわれないようにできる(【0011】~【0013】)という効果を得ることができるようにしたものである。

2 争点2-4(本件発明は新規性又は進歩性を欠くものであるか)事案に鑑み、争点2-4について判断する。

(1)公然実施品1の構成

証拠(乙2、3)によれば、被告は、遅くとも本件出願日前である平成13年10月に、公然実施品1を製造し、販売していたこと及び公然実施品1は以下のアないしカの構成を有することが認められる。

ア 誘導加熱をする右ヒータ及び左ヒータを左右に内設した本体ケースと、この本体ケースの上面に設けられたトッププレートと、前記トッププレートの周囲に設けられたサッシュとを具備し、被組込家具に組み込まれる加熱調理器において、

イ 前記トッププレートの幅を前記本体ケースの幅より大きくし、

ウ 前記右ヒータ及び左ヒータの各中心部を、前記本体ケースの左右に等分した両側部の各中心部より外側であって、前記トッププレートの左右に等分した両側部の各中心部より中央側に配置すると共に、

エ 前記トッププレートの本体ケース外方に位置する部分の下方であって直下に被組込家具が位置する箇所に補強板を設け、

オ この補強板と前記トッププレートとの間、及び補強板の下方に断熱層を形成したこと

カ を特徴とする加熱調理器

(2)本件発明と公然実施品1との対比

ア 一致点

本件発明と公然実施品1とは、前記アないしカの点において一致する。

イ 相違点

本件発明と公然実施品1とは、被告が主張する相違点1-2’が存する、すなわち、本件発明は、サッシュとは別部材に構成され、かつサッシュに当接させた、金属板から成る補強板を有するのに対し、公然実施品1はサッシュ自体が補強板となっており、サッシュとは別部材に構成され、かつサッシュに当接させた、金属板から成る補強板は有しない点において相違する

ウ 原告の主張する相違点について

(ア)原告の主張する相違点1-1について

原告は、本件発明の構成要件Bの「前記トッププレートの幅を前記本体ケースの幅より大きくし」とは、トッププレートの幅が本体ケースの幅より大きい場合を指すとして、本件発明と公然実施品1とは、相違点1-1が存する、すなわち本件発明ではトッププレートの幅を前記本体ケースの幅より大きくしているのに対し、公然実施品1ではトッププレートの幅と本体ケースの幅はほぼ同じである点において相違すると主張し、背景技術として、本体ケースとトッププレートの幅がほぼ同じである加熱器を示し(【0002】)、それによって生ずる課題を解決するためにトッププレートの幅を本体ケースの幅より大きくした旨を示した(【0007】)本件明細書等の記載を援用する。

しかしながら、本件発明に係る特許請求の範囲では、単に、「前記トッププレートの幅を前記本体ケースの幅より大きくし」と規定されているにすぎず、トッププレートの幅が本体ケースの幅とほぼ同じ場合を除く旨や、従来技術よりもトッププレートの幅を大きくする旨の文言はない。また、本件明細書等においても、トッププレートの幅を本体ケースの幅より大きくすることの意義を限定する趣旨の記載はない。さらに、本件発明の作用効果に関して検討すると、前記1(2)に認定した本件発明の作用効果は、トッププレートの幅を本体ケースの幅より大きくし、その上で、第1及び第2の加熱器の各中心部を、本体ケースの左右に等分した両側部の各中心部より外側に配置して、第1及び第2の加熱器の間隔を大きくすること(【0011】)及びトッププレートの幅を本体ケースの幅より大きくし、その上で、第1及び第2の加熱器の各中心部を、トッププレートの左右に等分した両側部の各中心部より中央側に配置して、トッププレートの第1及び第2の加熱器上の位置に載せた調理器具とトッププレートの最外周縁との間のスペースの余裕を持たせること(【0012】)によって達せられるものといえるのであり、本件発明は、トッププレートの幅を本体ケースの幅より大きくするとの構成に加えて、第1及び第2の加熱器の各中心部を、本体ケースの左右に等分した両側部の各中心部より外側であって、トッププレートの左右に等分した両側部の各中心部より中央側に配置するという構成を備えることによって作用効果を奏するものといえる。そうすると、トッププレートの幅が、本体ケースの幅とほぼ同じ場合に上記作用効果を達しないということもできず、上記作用効果を達成するための、トッププレートの幅などの具体的な内容は、トッププレート上の加熱器やトッププレートの左右の両側部との位置関係などを規定する本件発明の構成要件Cによって示されているということができるのであり、作用効果の観点からトッププレートの幅を本体ケースの幅より大きくすることの意義を原告が主張するとおりに限定的に解釈することもできない。

以上を踏まえれば、トッププレートの幅を本体ケースの幅より大きくしている公然実施品1とトッププレートの幅を本体ケースの幅より大きくする構成を有する本件発明とは、トッププレートの幅に係る構成の相違はないのであって、原告の主張する相違点1-1が存すると認めることはできない。

(イ)原告の主張する相違点1-2について

また、原告は、相違点1-2’は、相違点1-2のとおり認定すべきであると主張する。

本件発明の構成要件Dにおける「補強板」とは、調理器具の落下衝撃等に耐えるように、トッププレートの強度を補って強くする板と解されるところ(【0013】、【0033】)、証拠(乙2、3)によれば、公然実施品1のサッシュは、接着部を介してトッププレートの荷重を支えていることが認められ、その構造によれば、トッププレートの本体ケース外方に位置する部分の下方であって直下に被組込家具が位置する箇所において調理器具の落下衝撃等に耐えるように、トッププレートの強度を補って強くする板であると認められる

そうすると、公然実施品1のサッシュが「補強板」の機能を有しないことを前提として相違点1-2が存するという原告の主張は採用することができない。

(3)乙13公報について

本件出願日前に頒布された刊行物である乙13公報は、加熱調理器に関する発明を開示しており、同公報の【図3】(別紙6記載の図3)のL字金具9は、断面凸形状9aにおいてトッププレート1をトッププレートの端部よりも内側で支持しているから、調理器具の落下衝撃等に対する強度を強くする効果を有するといえる。

よって、乙13公報は、誘導加熱調理器において、サッシュとは別部材により構成され、かつサッシュに当接させてねじで接合した、金属板からなる補強板という構成を開示していると認められる。

なお、原告は、乙13公報の発明は、トッププレートの幅と本体ケースの幅とがほぼ同じものであり、乙13公報のL字金具9は、トッププレートの幅を本体ケースの幅より大きくした部分においてトッププレートを補強する機能を有しないから、本件発明における「補強板」であるとはいえないと主張する。しかしながら、原告の主張は、前記(2)ウ(ア)及び(イ)に認定した「前記トッププレートの幅を前記本体ケースの幅より大きくし」及び「補強板」の意義に反するものであって採用することができない。

(4)相違点の検討

ア 新規性について

まず、本件発明と公然実施品1には、相違点1-2’があり、これが実質的相違点でないと認めるに足りる証拠はないから、本件発明と公然実施品1が同一であると認めることはできない。よって、本件発明が新規性を欠くという被告の主張は採用できない。

イ 容易想到性について

前記(3)に認定のとおり、乙13公報には、誘導加熱調理器においてサッシュと本体ケース連結金属板とを別部材により構成して両者を当接させてねじで接合することが記載されているから、補強板とサッシュを別部材にすることは、本件出願当時、公知の構成であったといえる

そして、弁論の全趣旨によれば、公然実施品1のサッシュは、複雑な形状であり、金属ブロックから切削加工や鋳造加工等によって製造せざるを得ず、金属板からプレス加工によって簡単に低コストで製造することはできないものであることが認められ、このような部品に接した当業者においては、製造コストが高い機械加工により製造した部品を、製造コストが安い機械加工であるプレス加工により製造するために金属板部品に置き換える動機付けがあると認められる。よって、公然実施品1に接した当業者において、公然実施品1に前記公知の構成を適用して、相違点1-2’に係る本件発明の構成とすることは、本件出願日当時、容易に想到し得たことというべきである。

ウ 原告の主張について

この点、原告は、①本件発明の構成は、トッププレートの幅を本体ケースの幅より大きくしたことによって、トッププレートの本体ケース外方に位置する部分の耐力が低下するという、公然実施品1のような従来品には存在していなかった新たな課題に対応するために発明されたものであり、当業者は、公然実施品1に当該構成を採用する理由はなかった、②乙13公報の発明では、トッププレートの幅と本体ケースの幅とがほぼ同じであるため、乙13公報のL字金具9は、トッププレートの幅を本体ケースの幅より大きくした部分においてトッププレートを補強する機能を有しないので、本件発明における「補強板」であるとはいえず、乙13公報の発明は、本件発明の「補強板」を有しないから、これらを公然実施品1と組み合わせても、相違点1-2の構成には至らない、③仮に、当業者が公然実施品1のサッシュを、サッシュと金属板に分けることについて想到し得たとしても、金属板を長くする理由はなかったから、相違点1-2について、当業者が容易に想到できたとはいえないなどと主張するが、原告の主張は、相違点1-1の存在を前提とするものであるか、前記(3)における乙13公報についての認定と異なる見解を前提にするものであって、いずれも採用できない。

(5)小括

以上によれば、本件発明と公然実施品1とは、相違点1-2’において相違するからこれを同一と認めることはできないが、本件発明は、本件出願日前に、当業者が公然実施品1に公知の構成を適用して、容易に発明をすることができたものと認められる。

そうすると、本件発明についての特許は、特許法29条2項に違反してされたものであって、同法123条1項2号の無効理由があり、特許無効審判により無効にされるべきものと認められるから、原告は、被告に対し、本件特許権を行使することができない。

6.検討

(1)本件発明は、補正や訂正でクレームの内容は変化していますが、要は、トッププレートの幅を本体ケースの幅より大きくして大きな調理器具同士を使用できるとするとともに、トッププレートの下に補強板及び断熱層を設けるというものです。

(2)本件の原告と被告のIHクッキングヒータに関する訴訟はこれまでにも数件あり、民事訴訟の原告・被告の関係が同じであることからすると、被告も複数の特許を原告に提示していてもおかしくない状況だと思います。

(3)本裁判と並行して審議された訂正審判において、請求人(本件原告)は本件被告が無効理由の根拠とした公然実施品及び公知文献を特許庁に提出しています。その上で、独立特許要件を満たすと認定され、訂正が認められました。

これに対して、本判決では訂正後の本件発明が、訂正審判で審議されたものと同一の公然実施品及び公知文献に基づき無効である、と判断されています。したがって、実質的には同一の証拠に基づいて特許庁と東京地裁が異なる判断をした形です。

(4)進歩性判断のポイントを簡単にまとめると、本件発明(訂正後)は補強版とサッシュが別部材であるのに対して、公然実施品は補強版とサッシュが同一部材であり、この点が相違点であるが公知文献には補強版とサッシュが別部材である発明が開示されており、この公知文献記載の発明を公然実施品に適用することが当業者に容易に想到できるか否かというものです。

訂正審判の審決では、公知文献の加熱調理器は、調理プレート1の直下にキッチンカウンター4が位置しないものであるから、そのL字金具9を用いて枠体2と調理器本体ケース5とを連結する構成を、公然実施品1発明に適用したとしても、「前記トッププレートの本体ケース外方に位置する部分の下方であって直下に前記被組込家具が位置する箇所に、」L字金具9を設けることが容易に想到できたとはいえない、と認定されています。

一方、本判決では、公然実施品のサッシュは、複雑な形状であり、金属ブロックから切削加工や鋳造加工等によって製造せざるを得ず、金属板からプレス加工によって簡単に低コストで製造することはできないものであることが認められ、このような部品に接した当業者においては、製造コストが高い機械加工により製造した部品を、製造コストが安い機械加工であるプレス加工により製造するために金属板部品に置き換える動機付けがあると認められる、と述べ、当業者が容易にそうとできたものである、と認定されています。

(5)審決では、当業者が公然実施品に公知文献の構成を適用しても本件発明と同一の構成となるようにすることは容易に想到できることではない、としており、動機づけの有無については触れていません。一方、本判決では製造コストの低減という観点から公然実施品に公知文献の構成を適用する動機付けが存在する、としていますが、トッププレートの本体ケース外方に位置する部分の下方であって直下に前記被組込家具が位置する箇所に補強板を設けるか否かという点については触れていません。

(6)判決に書いていないので、以下は推測です。本判決では製造コスト低減を動機づけとしてプレス加工を用いて別部材とすることを前提としています。そうなると、公然実施品においてサッシュと補強板を別部材にする場合、プレス加工で製造するサッシュの形状をできるだけ簡単にするであろうから、ガラス板の端部でサッシュと補強板が当接する構造となるはずであり、自ずとガラス板の本体ケース外方に位置する部分の下方であって直下に調理台が位置する箇所に、サッシュとは別部材に構成され、かつサッシュに当接させた、金属板から成る補強板が設けられることになる、ということではないでしょうか。

(7)数年前まではこのようなケースで主引例に副引例の発明を適用させる動機づけが存在しない、と認定されることが多かったのですが、最近は他の動機づけの要素を引用して組み合わせを認めるケースが増えてきている気がします。本件のように公然実施品をメインとする場合は、副引例の発明を適用することを否定する要素が少ないので使い勝手が良いように思います。もちろん、公知文献を主引例とする場合でも文献の内容次第では使えると思います。