貝係̪止具事件(その1)
投稿日: 2017/04/22 5:18:32
今日は平成28年(ワ)第20818号 特許権侵害差止請求事件について検討します。本事件の原告である株式会社むつ家電特機のホームページによると、名称のとおり青森県むつ市の会社で従業員数10人ですが、この会社関係の出願件数をざっと検索したところ138件もヒットしました。
一方、被告の名称は有限会社シンワと進和化学工業株式会社です。この名称をどこかで見たことがあるので、調べたらヘルメットで有名な会社でした。そういえばローマ字でShinwaと書いてある作業用ヘルメットを使った記憶があります。有限会社シンワとの関係は不明ですが対象製品は進和化学工業が製造し、シンワが販売していたようです。ちなみに進和化学工業で検索すると公開特許公報が9件ヒットします。その中で貝に関するものは2件ほどです。
今回は各手続の時系列の整理まで投稿します。
1.各手続の時系列の整理
① 判決によると被告製品は平成19年(2007年)9月から現在に至るまで製造されています。
② また、「原告と被告らは、原告外1名と被告ら外3名との間の訴訟事件(当庁平成19年(ワ)第12683号 商標権侵害差止等請求事件及び当庁平成20年(ワ)第10540号 売掛金請求事件とが併合審理された訴訟事件)において、平成21年3月27日、次の条項を含む裁判上の和解(以下「前訴和解」という。)をした(和解条項における「原告ら」には本件の原告が、和解条項における「被告ら」には本件の被告らが、それぞれ含まれる。また、前訴和解にいう「別紙被告製品目録2記載の形体の帆立貝養殖用係止具」を「和解製品」という。)。」とありました。
そして前訴の和解条項には以下のような記載があります。
「7〔原告ら商標(名称及びマーク)、意匠(形体)、特許(技術)〕
(1)ア 被告らは、原告らに対し、別紙原告標章目録1から6及び同8、別紙原告意匠目録並びに原告特許目録記載の商標権、意匠権、及び特許権について、その商標と同一又は類似の標章の使用、その意匠と同一又は類似の意匠の実施、その特許発明の技術的範囲及び均等範囲に属する帆立貝養殖用貝係止具の実施をしない。
・・・・
(2)被告らは、今後、原告らが上記商標権、意匠権及び特許権に基づき被告らに対し侵害訴訟の提起又は仮処分の申立てをした場合を除き、上記権利につき、自ら又は第三者を用いて無効審判請求をしない。
(別紙)原告特許目録
・・・(中略)・・・
12 連続貝係止具とロール状連続貝係止具 特願2009-031797
③ 各手続の時系列の整理をしていて特許無効審判が請求されていなかったことが不思議でしたが、前訴和解条項に従うと本件特許が登録されても特許無効審判を請求することはできません。そして侵害訴訟が提起された以降は特許法第104条の3第1項に基づき侵害訴訟で無効主張すれば足りると考えたと思われます。
④ 訴訟が提起された年月日が不明でした。もともと判決には口頭弁論終結日と判決言渡日は必ず書いてあるのですが、訴訟が提起された年月日は必ずしも載っていません。損害賠償請求がされた場合に訴状送達日の翌日から起算することが多いので訴状送達日から大体の訴状が提起された年月日がわかるというものです。本事件のように差止請求のみの事件では訴状送達日も記載されていません。したがって、事件番号から2016年に提訴されたことはかわかりますが、それ以上はわかりません。