油冷式スクリュ圧縮機事件
投稿日: 2020/03/29 23:15:00
今日は、平成28年(ワ)第4815号 特許権侵害差止等請求事件について検討します。原告である株式会社神戸製鋼所は、判決文によると、産業機械器具等の製造、販売等を目的とする株式会社であり、冷凍機用途の油冷式スクリュ圧縮機を販売しているそうです。一方、被告である株式会社前川製作所は、ガス圧縮機等の製造、販売等を目的とする株式会社だそうです。
1.検討結果
(1)この発明は油冷式スクリュ圧縮機に関するもので、油分離回収機下部の油溜まり部に回収された油を加圧することなく導く均圧流路を介して、圧縮機内のバランスピストンと、このバランスピストンとスラスト軸受との間に設けられた圧力遮断する仕切り壁との間の空間に油を流入させるものです。
(2)侵害論では抵触性についてのみ争われたようです。特許の有効性に関しては別に2件の特許無効審判で争われました。一審判決まで4年近くかかっています。もっとも、権利が既に満了して消滅しているので差止請求権が存在せず、経費面を除けば、とりたてて急ぐ理由は存在しません。
(3)判決では、本件発明は明細書も参酌すると本件発明は、「均圧流路」を使用してバランスピストン室に「油溜まり部の油を加圧することなく導く」ものであって、少なくとも、起動直後やアンロード運転時のように圧縮機の負荷が小さくスラスト力が小さい場合にバランスピストン室に油溜まり部の油を加圧して導くものは、本件発明の技術的範囲に属しない、と認定しています。したがって複数種類の被告製品のうち起動時にバランスピストン室に油溜まり部の油を加圧して導く流路を使用している被告製品1-2及び2-1は非抵触である、と判断しました。
(4)この裁判所の判断は、本件明細書中の「圧縮機の起動後は、ラジアル軸受13,14には給油圧力Pd+αが常に作用する一方、起動直後、或はアンロード運転時等のように圧縮機の負荷が小さくスラスト力が小さい場合がある。このような場合、吐出側から吸込側に向かう方向にスクリュロータ11,12に作用する力より大きい力がバランスピストン17に作用し、いわゆる逆スラスト荷重状態となりスクリュロータ11,12を吐出側に押すようになる」との記載をもとに、この発明が解決する課題は起動直後やアンロード運転時に特に顕著であるので、この時にバランスピストンと仕切り壁の間の空間に流入させる油を加圧しない構成を適用していなければならない、と解釈したものと思います。
(5)こういった裁判所の考えもわかりますが、先行技術として仕切り壁を設けた圧縮機であって、ラジアル軸受部分に流入させる油の圧力よりもバランスピストンと仕切り壁の間の空間に流入させる油の圧力が小さい、という発明が無ければ、起動直後やアンロード運転の適用されていることを必須条件としなくても良いような気もします。少なくとも本件明細書では圧縮機の起動後の通常運転時に本件発明のような構成とすることによるデメリットについて記載はありません。また、同じ種類に分類される圧縮機であってもメーカごとに仕様が大きく異なり、あるメーカの圧縮機で問題となる点が必ずしも他のメーカで大きな問題となるとは限りません。つまり、よく裁判官が判決中で明細書の実施の形態に記載された内容について「あくまで実施例であって、その構成に限定されるものではない」と書いていますが、そのような実施例を前提としている【発明が解決しようとする課題】自体も課題の例示に過ぎません。その部分以外の仕様が異なれば当然同じ部分に同じ状況下で課題が生じるとは限らないものです。したがって、明細書中に「この条件下で使用した場合のみ発明の意義がある」とでも書いてあれば別ですが、「特にこの場合の問題解決に適している」程度の記載内容を限定解釈のベースにするのはいかがなものか?とも思います。
(6)本件特許請求の範囲は、特に2点疑問があります。1点目は「油溜まり部の油を加圧することなく導く均圧流路」という記載です。普通は特許請求の範囲に「~をしない」という表現を用いることには抵抗感があり、存在する構成だけを書きます。本件でいえば「油ポンプの手前で分岐してバランスピストンと仕切り壁の間の空間と連通する流路」とでも書けば十分だと思います。2点目は圧縮機の請求項しか書いていないことです。普通は少なくとも圧縮機、流路、油分離回収機及び油ポンプを有するシステムの請求項も作成するものです。発明のポイントが圧縮機に集中しているように見えますが前述のとおり油ポンプ手前で分岐するという構成もポイントの一つなのでシステムの請求項もあった方が良いと思います。
2.手続の時系列の整理(特許第3766725号)
2.本件発明
A 油とともに吐出された圧縮ガスから油を分離回収し、一旦下部の油溜まり部(5)に溜め、油分離された圧縮ガスを送り出す油分離回収器(4)を吐出流路(2)に設ける一方、
B スクリュロータ(11、12)の両側に延びるロータ軸をラジアル軸受(13、14)により回転可能に支持して入力軸(15)を吸込側のロータ軸とし、
C 吐出側のロータ軸を上記ラジアル軸受(13、14)よりもスクリュロータ(11、12)から離れた位置にてスラスト軸受(16)により回転可能に支持するとともに、
D 上記スラスト軸受(16)よりもスクリュロータ(11、12)から離れた位置にて上記ロータ軸にバランスピストン(17)を取り付け、かつ
E 上記スラスト軸受(16)とこのバランスピストン(17)との間に圧力遮断する仕切り壁(31)を設け、
F このバランスピストン(17)の仕切り壁(31)側の空間に、上記油溜まり部(5)の油を加圧することなく導く均圧流路(8)を設けて形成した
G ことを特徴とする油冷式スクリュ圧縮機。
3.被告製品
(1)被告による油冷式スクリュ圧縮機及び油冷式スクリュ圧縮機が組み込まれたスクリュ式ガス圧縮システムの製造、販売
被告は、平成18年2月3日から現在まで、業として、GHシリーズという名称の圧縮機本体が組み込まれた油冷式スクリュ圧縮機(以下「被告製品1」という。)及びJHSシリーズという名称の圧縮機本体が組み込まれた油冷式スクリュ圧縮機(以下「被告製品2」という。)を製造、販売、輸出及び販売の申出をしている。また、被告は、被告製品2が組み込まれた「NewTon」という名称のスクリュ式ガス圧縮システムを製造、販売している。
(2)被告製品1及び2の構成等
ア 被告製品1
被告製品1は、別紙「被告各製品構成目録(原告主張)」記載の各構成のうち、少なくとも構成a~d及びgの各構成を備えるとともに、スラスト軸受とバランスピストンとの間に仕切り壁(バランスピストンと共に直通型ラビリンス構造を構成する部材を指す。後記のとおり、これが「圧力遮断する仕切り壁」(構成要件E)に該当するか否かは当事者間に争いがあるが、便宜上、以下では被告製品1のこの部材を「仕切り壁」という。)が設けられている。
また、被告製品1には、バランスピストンの仕切り壁側の空間(以下「バランスピストン室」ということがある。)に油溜まり部の油を加圧することなく導く流路を備えていない製品(以下「被告製品1-1」という。)とこれを備えている製品(以下「被告製品1-2」という。)が存在する(甲5の1、乙10、14、弁論の全趣旨)。このうち、被告製品1-1の構成は、バランスピストン室に油溜まり部の油を加圧することなく導く流路を備えていない点で、本件発明の構成要件Eを充足せず、そもそも別紙被告製品目録1記載の製品に含まれない。他方、被告製品1-2の構成は、少なくとも本件発明の構成要件A~Dを充足する。
イ 被告製品2
被告製品2は、別紙「被告各製品構成目録(原告主張)」記載の各構成のうち、少なくとも構成a~d及びgの各構成を備えるとともに、スラスト軸受とバランスピストンとの間に仕切り壁(被告製品1と同様の部材を指す。これについても、後記のとおり「圧力遮断する仕切り壁」(構成要件E)に該当するかは当事者間に争いがあるが、同様に便宜上「仕切り壁」という。)が設けられている。
被告製品2には、型式がH1714LSC、45H1490SSC/SMC及び65H140Sの3つの製品(以下、順に「被告製品2-1」などという。また、これらと被告製品1-2とを併せて「被告各製品」という。)が存在し、いずれもバランスピストンの仕切り壁側の空間に油溜まり部の油を加圧することなく導く流路を備えている。
被告製品2の各構成は、いずれも、少なくとも本件発明の構成要件A~Dを充足する。
4.争点
(1)技術的範囲の属否等(争点1)
(2)原告の損害の有無及び額(争点2)
5.争点に関する当事者の主張
1 争点1(技術的範囲の属否等)
(原告の主張)
(1)被告各製品の構成及びその本件発明の構成要件の充足
被告各製品の構成は、別紙「被告各製品構成目録(原告主張)」記載のとおりである。これによれば、被告各製品の構成は、構成要件A~Dのほか、構成要件E~Gも充足する。具体的には、後記(2)のとおりである。
(2)具体的な主張
ア 構成要件Fの充足
(ア)「均圧流路」について
a 意義
本件発明の特許請求の範囲には、「バランスピストンの仕切り壁側の空間に、上記油溜まり部の油を加圧することなく導く均圧流路」と記載されており、本件明細書にも同旨の記載がある(【0011】、【0019】)。また、本件発明の実施例である本件明細書の図1には、「8 均圧流路」の部分に、吐出圧力を示す略号「Pd」が表記され、「油ポンプ6」による加圧を示す略号「+α」は表記されていない。
上記各記載の「均圧」流路に関し、油冷式スクリュ圧縮機の流路において圧力損失及び圧力差が生じることは技術常識である。本件特許に係る特許請求の範囲請求項2も、「均圧流路」という用語を用いる一方で、「上記吐出流路の圧力と上記均圧流路の圧力との差圧が予め定めた範囲内の値になる」としており、吐出流路に入って「均圧流路」を出るまでの流路内やその途中に設置されるフィルター・油冷却器等の機器を通過中に圧力損失が生じることを当然の前提としている。
したがって、本件発明の「均圧流路」とは、圧力損失等が生じることを当然の前提としつつ、バランスピストンの仕切り壁側の空間に油溜まり部の油を加圧することなく導く流路を意味し、流路中・流路両端において圧力値の完全な一致が図られている流路を意味するわけではない。
b 被告各製品の構成
被告各製品は、いずれも、バランスピストンの仕切り壁側の空間に油溜まり部の油を加圧することなく導く流路を備えている。また、被告の主張(後記(被告の主張)(2)ア(ア)b)を前提としても、被告各製品においては、バランスピストン室に入る手前の圧力は、油溜まり部と比較して、●(省略)●低下するにとどまり、これをもって「均圧流路」該当性が否定されるものではない。
したがって、被告各製品は、「均圧流路」(構成要件F)を備える。
(イ)「油溜まり部の油を加圧することなく導く」タイミングについて
a 意義
本件明細書には、「起動直後、或はアンロード運転時等のように圧縮機の負荷が小さくスラスト力が小さい場合がある。」(【0008】)、「上述した圧縮機の起動直後、アンロード時等のように、吐出側から吸込側に向かう方向にスクリュロータ11、12に作用する力が小さい場合には」(【0015】)等と記載されているところ、「油溜まり部の油を加圧することなく導く」タイミングを「起動時」等に限定する旨の記載はない。
したがって、本件発明は、「逆スラスト荷重状態」を軽減することが望まれる適宜のタイミングで「均圧流路」を使用する構成を備えていれば、「油溜まり部の油を加圧することなく導く」均圧流路を備えているといえる。
b 被告各製品の構成
被告各製品は、いずれも、アンロード運転時等に、「均圧流路」に相当する流路を使用している。したがって、被告各製品は、いずれも、「油溜まり部の油を加圧することなく導く」均圧流路を備える。
(ウ)小括
以上より、被告各製品の構成は、構成要件Fを充足する。
イ 構成要件Eの充足
(ア)意義
a 本件発明の特許請求の範囲には、「仕切り壁」は、「スラスト軸受とこのバランスピストンとの間に…設け」られると記載されている。本件発明において、スクリュロータのスラスト力に対抗する構成としてバランスピストンが機能するためには、本件明細書図3の「バランスピストンの仕切り壁側の空間」(空間B)すなわちバランスピストン室の圧力(Pd)が、その右側の空間(「D」との記載が存在する空間)の圧力(Ps)と比べて、相対的に高くなる必要がある。このように各空間の圧力を制御するには、「均圧流路」により導かれる油で内部が満たされるバランスピストン室(空間B)を形成する必要がある。また、「空間B」は、「バランスピストンの仕切り壁側の空間」とは反対側の空間(「D」との記載が存在する空間)とは、バランスピストンにより空間として区別され、これを含まない。
他方、その左側の空間(空間A)は、吸込圧力Ps程度の圧力のガスで満たされているため、空間Aと空間Bの圧力遮断のために「仕切り壁」が必要になる。
したがって、「仕切り壁」は、スラスト軸受を収容している空間と、「バランスピストンの仕切り壁側の空間」の圧力を遮断するものであることを要し、かつ、それで足りる。
(イ)被告各製品の構成
被告各製品においては、バランスピストンのスラスト軸受側の面(受圧面)と対面してバランスピストン室を構成する仕切り壁は、被告の主張を前提としても、所望のシール効果を得られるものであるから、上記仕切り壁により、スラスト軸受とバランスピストンの上記仕切り壁側の空間との間は「圧力遮断」されている。
(ウ)小括
したがって、被告各製品は、構成要件Eを充足する。
ウ 構成要件Gの充足
本件発明の特許請求の範囲には、「均圧流路」については記載されているが、軸受等に油溜まり部の油を加圧して導く流路については記載されていない。本件発明は、「逆スラスト荷重」への対応と「バランスピストンの受圧面積」の拡大という各課題をバランスピストン室への「均圧流路」の採用と特有の構成配置順序により解決したものであり、軸受等に油溜まり部の油を加圧して導く流路を設けて形成するか否かは、本件発明の課題及び解決手段とは無関係である。本件明細書の図1には軸受等に油溜まり部の油を加圧して導く流路が表記されているが、これは本件発明の一つの実施例にすぎない。
そうすると、本件発明において、軸受等に、油溜まり部の油を加圧して導く流路を設けて形成されていることは必須の構成要件ではない。
したがって、被告各製品の軸受等に油溜まり部の油を加圧して導く流路を備えていないとしても、本件発明の充足性が否定されるものではない。
エ その他
(ア)後記(被告の主張)(2)エの主張は争う。
(イ)被告製品1-2について
a 間接侵害
仮に、国外に輸出販売された被告製品1-2の●(省略)●のうち予備機として輸出等された1台につき、輸出等がされた時点では「均圧流路」が付加されておらず、本件特許権の直接侵害が成立しないとしても、当該予備機は、圧縮機本体であり油冷式スクリュ圧縮機の基幹部品であり、本件発明の構成要件B~Eをいずれも充足すると共に、その設計上、吐出流路に油分離回収器を設け(構成要件A)、バランスピストンの仕切り壁側の空間に油溜まり部の油を加圧することなく導く均圧流路を設けること(構成要件F)を想定した構成である。このため、当該予備機を用いることにより、本件発明の解決しようとする課題は解決されるから、当該予備機は本件発明による課題の解決に不可欠である。また、被告は、本件特許に係る特許公報等により、本件発明が特許発明であることを当然に認識していたと共に、当該予備機が本件発明の実施に用いられることも、当然に認識していた。
したがって、被告による当該予備機の生産、譲渡等の行為については、間接侵害(特許法101条2号)が成立する。
b 予備的請求に係る主張
また、当該行為につき、仮に本件特許権の直接侵害及び間接侵害が成立しないとしても、当該行為は自由競争の範囲を逸脱して原告の営業上の利益を侵害する行為であり、これにより原告は本件特許権の侵害と同様の損害を受けた。したがって、被告は、少なくとも不法行為に基づく損害賠償責任(民法709条)を負う。
(被告の主張)
(1)被告各製品の構成及びその本件発明の構成要件の非充足
被告各製品の構成は、別紙「被告製品1-2の構成図(被告主張)」及び同「被告製品2の構成図(被告主張)」記載のとおりである。被告各製品は、いずれも、バランスピストンの仕切り壁側の空間に、油溜まり部の油を加圧することなく導く流路を備えているが、これは「均圧流路」に当たらない。また、被告製品1-2及び2-1は、いずれも、起動時に「均圧流路」を使用して「油溜まり部の油を加圧することなく導く」構成を備えていないことから、構成要件Fを充足しない。
さらに、被告各製品には、いずれも、スラスト軸受とバランスピストンとの間に仕切り壁が設けられているが、この仕切り壁は「圧力遮断する」ものではないから、被告各製品の構成は、構成要件Eを充足しない。
上記各点を含め、具体的には、後記(2)のとおりである。
(2)具体的な主張
ア 構成要件Fの非充足
(ア)「均圧流路」について
a 意義
本件発明の特許請求の範囲には、単に「油溜まり部の油を加圧することなく導く流路」と記載されているのではなく、「油溜まり部の油を加圧することなく導く均圧流路」と記載されている。
「均圧」とは、「圧力が等しいこと」を一般的に意味する。また、「均圧流路」は、圧縮機等の圧力利用に関する技術分野において、「均圧化のための流路」を意味する用語として使用されている。
本件明細書においても、「空間Bのバランスピストン17のスラスト軸受16側の面には均圧流路8により吐出圧力Pdを導いている」(【0014】)、「この圧縮機では、バランスピストン17には吐出圧力Pdを作用させるようにしてあり」(【0015】)と記載されると共に、図1及び3にはそれぞれ4か所及び2か所に「Pd」という表示があることに鑑みると、油溜まり部の圧力、バランスピストンに作用する圧力及び両者をつなぐ流路が全て油と共に吐出された圧縮ガスの吐出圧力(Pd)に等しいことが記載されているといえる。また、本件特許出願に対応する外国出願の請求項には、「均圧流路」に対応する英語として「equalizing flow passage」が用いられている。
さらに、油溜まり部とバランスピストン室を接続して両方の圧力を等しくすることは、バランスピストン室からの油の漏出を阻止すれば可能であり、本件発明では「仕切り壁」によりこれを阻止することが想定されている。
これらに鑑みると、本件発明の「均圧流路」とは、「仕切り壁」によってバランスピストン室における封止を確実なものとすることにより、油溜まり部の圧力とバランスピストン室の圧力を等しくするための流路をいう。
b 被告各製品の構成
被告製品2-2においては、バランスピストン室に入る手前では、油溜まり部と比較して●(省略)●の圧力低下が生じる。バランスピストン室における圧力は、そこに入る手前での圧力よりも更に低下する。そうすると、油溜まり部の圧力とバランスピストン室の圧力が等しいということはできない。このことは、被告製品2-2と給油経路の基本構成が同等である他の被告各製品においても同様である。
c 小括
以上のとおり、被告各製品は、バランスピストンの仕切り壁側の空間に、油溜まり部の油を加圧することなく導く流路を備えているものの、この流路は「均圧流路」(構成要件F)に当たらない。したがって、被告各製品の構成は、この点で構成要件Fを充足しない。
(イ)「油溜まり部の油を加圧することなく導く」タイミングについて
a 意義
本件発明の特許請求の範囲及び本件明細書には、バランスピストン室に通じる供給流路に関して、加圧流路を付加した上で適宜のタイミングで加圧流路と「均圧流路」とを切り換えることについて、明示の記載はなく、これを示唆する記載もない。本件発明の実施例である本件明細書の図1と従来例である図6を対比すると、両者は、油ポンプ6を経由してPd+αの圧力の油を軸受等に供給する油供給流路7が存在する点は共通しており、油ポンプ6を経由することなくPdの圧力の油をバランスピストンに供給する均圧流路8が存在するか否かの点で相違する。この相違点に係る構成が本件発明の核心部分であるから、そもそも、油ポンプを経由して加圧された油をバランスピストンに供給する油供給流路を備える構成は、本件発明の技術思想から除外されている。
本件明細書の記載に鑑みると、本件発明の本質的部分は、油溜まり部の油を加圧することなくバランスピストン室に導く「均圧流路」を採用することにより、「起動直後、或はアンロード運転時のように圧縮機の負荷が小さくスラスト力が小さい場合」における「逆スラスト荷重状態の発生をなくす」点にある。ところが、少なくとも「起動直後」及び「アンロード運転時」の両方において「均圧流路」を使用しなければ、他の運転状態において「均圧流路」を使用したとしても、「逆スラスト荷重状態の発生をなくす」ことはできない。
したがって、少なくとも起動時に「均圧流路」を使用して「油溜まり部の油を加圧することなく導」く構成を備えていなければ、本件発明における「油溜まり部の油を加圧することなく導く」均圧流路を備えているとはいえない。
b 被告各製品の構成
被告製品1-2及び2-1は、いずれも、起動時には、油ポンプを経由して加圧された油をバランスピストンに供給する構成となっている。
c 小括
以上のとおり、被告製品1-2及び2-1は、いずれも、起動時に「均圧流路」を使用して「油溜まり部の油を加圧することなく導く」構成を備えていない。したがって、被告製品1-2及び2-1の構成は、この点で構成要件Fを充足しない。
イ 構成要件Eの非充足
(ア)意義
a 本件明細書において、「仕切り壁」は、スラスト軸受を収容している空間Aとバランスピストンを「収容している」「空間B」とを圧力遮断するものとされているところ、まず、仕切り壁と「バランスピストン17のスラスト軸受16側の面」との間の空間は、バランスピストンの仕切り壁側に面しているだけであり、バランスピストンを収容していない。また、本件明細書の「空間Bのバランスピストン17のスラスト軸受16側の面」との記載(【0014】)は、「空間B」には、「バランスピストン17のスラスト軸受16側の面」とは反対側の面もあることを意味すると解される。そうすると、バランスピストンを「収容している」「空間B」とは、バランスピストンのスラスト軸受側の面(受圧面)とこれと対面してバランスピストン室を構成する壁との間の空間だけでなく、バランスピストンのスラスト軸受側の面(受圧面)とは反対側の面とこれと対面する壁との間の空間をもいうものと解される。
そうである以上、「仕切り壁」は、スラスト軸受を収容している空間と、バランスピストンのスラスト軸受側の面(受圧面)とこれと対面してバランスピストン室を構成する壁との間の空間だけでなく、スラスト軸受を収容している空間と、バランスピストンのスラスト軸受側の面(受圧面)とは反対側の面とこれと対面する壁との間の空間の圧力を遮断するものでなければならない。
b また、「均圧流路」が、油溜まり部の圧力とバランスピストン室の圧力を等しくするための流路であり(前記ア(ア)a)、「仕切り壁」には、そのような流路とするためにバランスピストン室からの油の漏出を阻止する機能を有することが求められることに鑑みると、「圧力遮断する」仕切り壁とは、そのような機能を有して油溜まり部とバランスピストン室の圧力を等しく保つものでなければならない。
(イ)被告各製品の構成
被告各製品においては、バランスピストンのスラスト軸受側の面(受圧面)とは反対側の面とこれと対面する壁との間の空間は、スラスト軸受を収容している空間と連通している。また、被告各製品においては、バランスピストンのスラスト軸受側外面の一部がスラスト軸受を収容している空間に露出している。
さらに、被告各製品においては、バランスピストンのスラスト軸受側の面(受圧面)と対面してバランスピストン室を構成する壁がラビリンスシール構造となっており、バランスピストン室から油が漏出しているため、油溜まり部の圧力とバランスピストン室の圧力は等しくない。
(ウ)小括
以上によれば、被告各製品は、いずれも「圧力遮断する仕切り壁」を備えない。したがって、被告各製品の構成は、構成要件Eを充足しない。
ウ 構成要件Gの非充足
(ア)本件発明の「油冷式スクリュ圧縮機」においては軸受等に油溜まり部の油を加圧して導く流路を設けて形成していることが必須の構成であること
本件明細書では、従来例につき、油ポンプ6によって油溜まり部からの油は、Pd+αに加圧されて圧縮機本体3に潤滑油として供給されると図示され(図6)、また、「油ポンプ6から給油圧力Pd+αの油が圧縮機本体3内の軸受、軸封部…に送られ」ると記載されている(【0004】)。本件発明の実施例においても、同様に、油ポンプ6によって油溜まり部からの油は、Pd+αに加圧されて圧縮機本体3に潤滑油として供給されると図示され(図1)、また、「この圧縮機の場合、油ポンプ6の一次側にて油供給流路7から分岐させた均圧流路8が設けてあり、油ポンプ6の二次側に続く油供給流路7の部分はラジアル軸受13、14の箇所に導き、均圧流路8はバランスピストン17の箇所に導くように形成してある。」と記載されている(【0013】)。
(以下余白)
このように、本件発明の「油冷式スクリュ圧縮機」は、軸受等に油溜まり部の油を加圧して導く流路を備えていることを前提として、油ポンプの手前で同流路から分岐する、バランスピストンに油溜まり部の油を加圧することなく導く流路をも備えるものである。そうすると、本件発明の「油冷式スクリュ圧縮機」は、軸受等に油溜まり部の油を加圧して導く流路を設けて形成していることを必須の構成とするものである。
(イ)被告製品2-2及び2-3の構成
被告製品2-2及び2-3は、油冷式スクリュ圧縮機ではあるものの、別紙「被告製品2の構成図(被告主張)」記載の被告製品2-2及び2-3の各構成図のとおり、軸受等に油溜まり部の油を加圧して導く流路を備えていない。
(ウ)小括
以上によれば、被告製品2-2及び2-3は、本件発明の「油冷式スクリュ圧縮機」とはいえない。したがって、被告製品2-2及び2-3の構成は、構成要件Gを充足しない。
エ その他
本件発明において、バランスピストンの軸径をラジアル軸受及びスラスト軸受の軸径よりも小さくすることにより、バランスピストンの受圧面積をそうでない場合における受圧面積よりも相対的に大きくすることは、必須の構成要件である。しかし、被告各製品のバランスピストンの軸径は、スラスト軸受の軸径よりも大きくなっており、被告各製品のバランスピストンは、受圧面積を大きくする構成になっていない。
したがって、被告各製品は、本件発明における上記構成要件を充足しない。
オ 被告製品1-2に関する原告のその余の主張等について
(ア)間接侵害
国外に輸出された被告製品1-2は、国外において顧客側が他の構成機材と共に運転場所で製作する圧縮システムに組み込まれるものとして輸出されたものであり、当該システムに組み込まれる圧縮機について特許法101条2号が適用される余地はない。
(イ)予備的請求に係る主張
本件特許権の直接侵害及び間接侵害が成立しない場合に、それ以外の権利侵害に該当する事情もない。
2 争点2(原告の損害の有無及び額)
(原告の主張)
(1)主位的主張
本件における原告の損害は、別紙「NewTonシステムの利益額算定表(5)」記載のNewTonシステム(以下「593番代替機」という。)及び「NewTonシステムの利益額算定表(6)」記載のNewTonシステム(以下「6048番転用機」という。)を含め、NewTonシステム合計●(省略)●台の販売による損害として、特許法102条2項に基づき、以下のとおり算定されるべきである。
ア 逸失利益
(ア)特許法102条2項の適用
原告は、冷凍機用途の油冷式スクリュ圧縮機(SHN55TUW、iZN80W、iZN80TUW、iZN130SUW等。以下、これら原告が販売する油冷式スクリュ圧縮機を「原告各製品」という。)を販売している。他方、本件特許権を侵害する被告製品2-2及び2-3は、スクリュ式ガス圧縮システム「NewTonシステム」に組み込まれて販売されるものであるとしても、冷凍機用途の油冷式スクリュ圧縮機である以上、原告各製品は、被告製品2-2及び2-3と競合する関係にある。また、原告各製品は、顧客吸引力を有し、実際に十分な納入実績を上げている。
したがって、本件においては、原告に、被告による本件特許権侵害行為がなかったならば利益が得られたであろうという事情が存在することから、特許法102条2項が適用される。
(イ)被告が本件特許権侵害行為により得た利益の額
a 算定方法
圧縮機本体はNewTonシステムの中核をなし、本件発明はこの圧縮機に関するものであることなどに鑑みると、本件においては、被告製品2-2及び2-3が組み込まれたNewTonシステムを販売することにより被告が得た利益全額をもって、被告が本件特許権侵害行為により得た利益の額と見るのが相当である。
被告製品2-2及び2-3の製造原価がNewTonシステムの製造原価に占める割合は、仮に考慮する余地があるとしても推定覆滅の一要素になり得るにすぎない(もっとも、後記のとおり、本件においてこれを推定覆滅事由として考慮すべきではない。)。
b NewTonシステム1台ごとの売上額
(a)NewTonシステム1台ごとの売上額に相当するNewTonシステム1台の定価は、別紙「NewTonシステムの利益額算定表(1)」~「NewTonシステムの利益額算定表(6)」の「定価(単価)」欄各記載のとおりである。
なお、値引きについては、被告が値引販売したと主張するものにつき、いずれも信頼し得る裏付けを欠くことから、これを考慮することはできない。また、被告主張に係る「●(省略)●」は、被告の製造部門が販売部門に販売した処理をする際の金額であって、専ら被告内部の処理のためのものにすぎず、これによりNewTonシステム1台ごとの売上額算定の基礎とすることはできない。
さらに、593番代替機及び6048番転用機については、これらの譲渡により被告が経済的利益を受けている以上、やはり特許法102条2項が適用される。
(b)NewTonシステム1台ごとの経費
NewTonシステム1台ごとの製造原価は、別紙「NewTonシステムの利益額算定表(1)」~「NewTonシステムの利益額算定表(6)」の「製造原価(単価)」欄各記載のとおりである。
他方、上記製造原価に社内加工費及び艤装作業費が含まれていることに鑑みると、その余の経費として控除すべきものはない。
被告は、限界利益の算定方法として最小二乗法を採用すべき旨主張するけれども、これは、被告の事業全体の変動費率を算出するものであって、特定の費用を控除すべきか否かを当該費用の性質等を考慮して個別具体的に検討することができないことから、特許法102条2項に基づく損害額の算定に当たって採用することは適切でない。
(c)NewTonシステム1台ごとの販売利益の額
以上によれば、NewTonシステム1台ごとの販売利益の額は、別紙「NewTonシステムの利益額算定表(1)」~「NewTonシステムの利益額算定表(6)」の「定価-原価(単価)」欄各記載のとおりとなる。
(d)NewTonシステムの販売台数
被告が販売したNewTonシステムのうち、本件特許権の存続期間中に引渡しまで完了するか、受注まで終えていた台数は、別紙「NewTonシステムの利益額算定表(1)」~「NewTonシステムの利益額算定表(6)」の「NewTon台数」欄各記載のとおりである。
(e)NewTonシステムの販売利益の合計額
そうすると、NewTonシステムの販売利益の合計額は、別紙「NewTonシステムの利益額算定表(1)」~「NewTonシステムの利益額算定表(6)」の「定価-原価(小計)」欄各記載のとおり、●(省略)●円となり(別紙「損害額算定表(原告主張)」の①欄参照)、これに消費税額相当分を加算すると、合計●(省略)●円となる(同「損害額算定表(原告主張)」の②欄参照)。
(ウ)推定覆滅について
以下の事情に鑑み、本件における推定覆滅率は、10%を超えない。したがって、被告が本件特許権侵害行為によって得た利益は、●(省略)●円を下らない(別紙「損害額算定表(原告主張)」の③欄参照)。
a 業務態様等の相違について
原告各製品(冷凍機用途の油冷式スクリュ圧縮機)と、被告製品2-2又は2-3を組み込んだNewTonシステムとは、「アンモニア/二酸化炭素冷媒」(自然冷媒)の「冷凍機用途の油冷式スクリュ圧縮機」という点で、市場の同一性がある。
被告主張に係る販売態様の相違についても、原告は、冷凍・冷蔵プラントの需要者に対し、セットメーカを通じて原告各製品を販売することができるほか、直接これを販売することもできる。したがって、原告は、被告が、冷凍・冷蔵プラントの需要者から、圧縮機本体を中核とするNewTonシステムを主要部分とする冷凍・冷蔵プラントを受注すると、冷凍・冷蔵プラントの需要者に対し、直接又はセットメーカを通じて、原告各製品を販売する機会を喪失することになる。このため、被告主張に係る販売態様の差異は、推定覆滅事由とはならない。
b 市場における競合品の存在について
「アンモニア/二酸化炭素冷媒」(自然冷媒)の「冷凍機用途の油冷式スクリュ圧縮機」の市場において、被告と競合する事業者は事実上原告だけであり、被告製品2-2及び2-3が組み込まれたNewTonシステムの競合関係に立つ製品は、事実上原告各製品だけであった。
競合品として、被告は、まず、「ポンプ非装備NewTonシステムを価格、機能に実質的に全く影響しないポンプ装備システムに変換したもの」が競合品となり得るとするが、そのようなシステムが価格、機能に実質的に全く影響しないことの立証はなく、また、そもそも、そのような製品は本件特許権侵害行為当時、市場に存在していなかった。そうである以上、そのような製品は競合品とはなり得ない。
また、被告は、被告製品2-1が組み込まれたNewTonシステムも競合品であると主張するが、その販売実績は原告各製品を下回ると共に、性能等が明らかになっていないことなどに鑑みると、これも競合関係に立つ製品ではない。
このように、市場における被告製品2-2及び2-3の競合品は、原告各製品のほかにはないから、この点も推定覆滅事由とはならない。
c 侵害者の営業努力(ブランド力、宣伝広告)について
被告が提供するサポート体制は、油冷式スクリュ圧縮機の事業者が需要者に対して通常提供する程度のものであり、需要者にとって最低限必要な事項にすぎないし、原告も同様に提供している。このため、サポート体制の点は、需要者の購買意欲の形成に特に寄与するものではないし、通常の範囲を超える格別の工夫や営業努力ということはできない。
また、NewTonシステムの納入実績が、原告各製品の納入実績よりも圧倒的に高かったわけでもなく、需要者による被告及びNewTonシステムに対する信認の程度が、原告及び原告各製品に対するそれよりも高かったという事情はない。
さらに、被告は、開発経緯等に基づくNewTonシステムの市場での競争上の優位性をいうけれども、現在の業界におけるNewTonシステムの位置を客観的に示す証拠はない。被告の事業が補助金対象適格事業に認定されたこと、NewTonシステムが表彰を受けていることは、いずれも需要者の購買意欲の形成に寄与したとはいえない。
したがって、被告の工夫や営業努力も、仮に認められても通常の範囲を超える格別のものではなく、推定覆滅事由とはならない。
d 侵害品の性能(機能、デザイン等特許発明以外の特徴)について
本件発明は、その実施により従来技術で必要とされた「油ポンプ」及びその稼働が一部不要となるものであるから、高度な経済性及び省エネルギー性並びにコンパクトなユニット設計は、本件発明の実施と直接関連するものである上、これらは原告各製品においても実現されている。このため、本件発明の実施という点を除き、NewTonシステムが原告各製品に比べて優れた効能を有するものとはいえない。また、NewTonシステムにおいて高度な経済性及び省エネルギー性並びにコンパクトなユニット設計を実現できていることは、需要者の購買意欲の形成に寄与しているものの、それは、上記のとおり、本件発明を実施していることによる。
アンモニア漏洩のリスクに対する安全性は、アンモニア冷媒を使用する油冷式スクリュ圧縮機において、需要者にとって最低限必要な事項にすぎず、また、原告各製品においても実現されている。このため、この点も、需要者の購買動機の形成に特に寄与するというものではないし、NewTonシステムが原告各製品に比べて優れた効能を有するものということもできない。
さらに、NewTonシステムが被告の有する特許権や意匠権で保護されているとする点については、実施そのものが不明であるとともに、実施したことがNewTonシステムの売上げに貢献しているといった事情もない。
したがって、侵害品の性能の点も、本件において推定覆滅事由とはならない。
e 本件発明が侵害品の部分のみに実施されていることについて
本件発明は、NewTonシステムの中核である圧縮機本体等に関するものであり、NewTonシステムで実施されることにより格別の効果を奏する。このため、本件発明の顧客吸引力は高い。
また、本件発明を実施した油冷式スクリュ圧縮機に相当する部分の製造原価がNewTonシステムの製造原価全体に占める割合は、NewTonシステムの技術的・商業的価値に占める本件発明の技術的・商業的価値を反映するものではない。したがって、上記製造原価の割合は、油冷式スクリュ圧縮機に相当する部分が、NewTonシステムの販売に際し需要者の購買意欲の形成に貢献した度合いを示すものではない。
したがって、これらの点も、本件において推定覆滅事由とはならない。
f 原告の生産能力による特許法102条2項に基づく推定の覆滅について原告の生産能力により算定された利益の額は、侵害者が得た利益と特許権者が受けた損害との相当因果関係を阻害する事情ではない。
したがって、特許法102条2項に基づく損害額の算定に当たり、上記事情は推定覆滅事由とはならない。
イ 弁護士費用
被告の本件特許権侵害行為と相当因果関係に立つ弁護士費用相当損害額は、11億4759万6553円を下らない。
ウ 遅延損害金の起算日
平成20年~平成27年に発生した損害に係る遅延損害金の起算日については、発生した年の末日を起算日とし、平成28年に発生した損害に係る遅延損害金の起算日については、本件特許権の存続期間満了日である平成28年10月25日を起算日とする(別紙「損害額算定表(原告主張)」の⑤欄参照)。
(2)予備的主張
ア 593番代替機及び6048番転用機に係る販売について、仮に特許法102条2項の適用が認められない場合、この部分については同条3項に基づく損害額の算定を主張する。
イ 逸失利益
593番代替機及び6048番転用機の売上額に相当する定価は、別紙「NewTonシステムの利益額算定表(5)」及び「NewTonシステムの利益額算定表(6)」の各「定価(単価)」欄に各記載のとおり、593番代替機が●(省略)●万円、6048番転用機が●(省略)●万円である。
また、本件特許が属する技術分野における実施料率の最頻値が5%、中央値が4%、平均値が4.2%(イニシャル無)又は4.4%(イニシャル有)であるところ、本件発明が格別な効果を奏するものであること、本件発明は、需要者の購買意欲の形成に寄与し、NewTonシステムの売上げや利益に貢献していること、本件発明は、NewTonシステムの中核であり重要部分で実施されていること、原告と被告とは競合関係にあること、被告は、本件訴訟前において、著しく不誠実な協議態度を取り、遅くとも平成26年11月頃以降、本件特許権の存在を認識しながら漫然とその侵害行為を継続したことを総合的に考慮すると、実施に対し受けるべき料率は5%を下らない。
以上によれば、593番代替機及び6048番転用機に係る実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額は合計●(省略)●円であり、これに消費税額相当分を加算すると、合計●(省略)●円である。
ウ 弁護士費用
被告の本件特許権侵害行為と相当因果関係に立つ弁護士費用相当損害額は、逸失利益の額の1割に相当する●(省略)●円を下らない。
エ 遅延損害金の起算日
593番代替機に係る損害は、平成24年に発生したから、その遅延損害金の起算日は同年12月31日とし、6048番転用機に係る損害は、平成25年に発生したから、その遅延損害金の起算日は、同年12月31日とする。
(被告の主張)
(1)主位的主張について
ア 特許法102条2項の適用
(ア)本件発明は、特許請求の範囲のとおり、「油冷式スクリュ圧縮機」に関する発明であり、油冷式スクリュ圧縮機が組み込まれたシステムに関する発明ではない。原告も、別紙被告製品目録において、被告の侵害品をNewTonシステムではなく、JHSシリーズ等の圧縮機として特定している。
そして、被告製品2-2及び2-3が組み込まれたNewTonシステムにおいては、被告製品2-2又は2-3とNewTonシステムの他の部分とをその構造、性状を損なうことなく分離することが可能であり、被告製品2-2又は2-3を本件発明に属しない圧縮機に代替させることも可能である。
したがって、本件において侵害品となり得るものは、油冷式スクリュ圧縮機である被告製品2-2及び2-3が組み込まれたNewTonシステムではなく、被告製品2-2及び2-3である。
(イ)他方、原告は、NewTonシステムに相当するような油冷式スクリュ圧縮機が組み込まれたシステムを取り扱っていない。このため、NewTonシステムを使用したプラントの製造販売業者である被告と油冷式スクリュ圧縮機の製造販売業者である原告とは、油冷式スクリュ圧縮機の受注のために直接競争する関係にはない。
したがって、仮に被告の侵害品を被告製品2-2及び2-3が組み込まれたNewTonシステムと捉えるのであれば、特許法102条2項の適用は認められない。
イ 被告が得た利益の額
(ア)前記アのとおり、本件での侵害品が、被告製品2-2及び2-3が組み込まれたNewTonシステムではなく、被告製品2-2及び2-3であることに鑑みると、被告が本件特許権侵害行為により得た利益の額は、油分離器及び配管部分が本件発明の「油冷式スクリュ圧縮機」を構成する機器とされていることを考慮しても、NewTonシステムを販売することにより得た利益のうち圧縮機本体、油分離器及び配管部分(以下「被告主張の侵害部分」という。)に関する部分にとどまる。
NewTonシステムを構成する部品のうち、上記以外の油冷却器、フィルター、駆動モーター及び制御装置は、特許請求の範囲に記載されていない部品であることなどから、被告が本件特許権侵害行為により得た利益の額を算定するに当たっては、これらを対象に含めるべきではない。
(イ)経費の積上げによる算定方法
a NewTonシステムの売上額
(a)被告においては、社内分社のような形で製造部門と営業部門とを独立させ、それぞれの独自採算とする組織体制を採用しており、社内的には、製造部門の製造原価に適正利益を加えた額を●(省略)●として販売部門に販売した処理をし、製造部門の利益を計上している。このため、●(省略)●は、被告の製造業者としての設備業者に対する売上額に相当する。NewTonシステムの工場仕切価格の合計額は、被告が販売したNewTonシステムのうち、本件特許権の存続期間中に引渡しまで完了していた分で●(省略)●円、受注まで終えていた分を含めても●(省略)●円である。
(b)原告の主張のうち、NewTonシステムの定価は認める。しかし、被告は、NewTonシステムにつき、必ずしも定価のまま販売しておらず、値引きを行う場合もあり、現に、本件で算定対象となっているNewTonシステムの中には値引販売されたものがある。
また、原告は、本件特許権の存続期間中に受注まで終えていた分をも本件特許権侵害行為による損害に含めている。しかし、被告は、本件特許権の存続期間満了後に適法に行うことができる譲渡の申出を行ったにすぎない。
さらに、593番代替機及び6048番転用機については、いずれも、被告が顧客に無償で譲渡したものであるところ、原告は、被告が上記譲渡により受けた利益の内容及び額について、具体的な主張、立証をしていない。そうである以上、これらの売上は零であり、利益は存在しない。
b NewTonシステムの営業利益の額
NewTonシステムの上記売上額から製造原価を控除した粗利額は、本件特許権の存続期間中に引渡しまで完了していた分で●(省略)●円、受注まで終えていた分を含めても●(省略)●円である。
また、上記粗利額から、売上比に応じた販管費を控除した営業利益の額は、本件特許権の存続期間中に引渡しまで完了していた分で●(省略)●円、受注まで終えていた分を含めても●(省略)●円である。
c 被告主張の侵害部分の営業利益の額
被告主張の侵害部分がNewTonシステムに占める構成割合(NewTonシステムの全原価に占める被告主張の侵害部分の製造原価の割合)は、●(省略)●%であるから、NewTonシステムの上記営業利益の額にこれを乗じると、被告主張の侵害部分の営業利益の額は、本件特許権の存続期間中に引渡しまで完了していた分で●(省略)●円、受注まで終えていた分を含めても●(省略)●円である。
(ウ)最小二乗法による算定方法
前記のとおり、NewTonシステムの工場仕切価格の合計額は、本件特許権の存続期間中に引渡しまで完了していた分で●(省略)●円、受注まで終えていた分を含めても●(省略)●円である。これに、被告主張の侵害部分がNewTonシステムに占める構成割合(●(省略)●%)を乗じると、被告主張の侵害部分の売上額は、本件特許権の存続期間中に引渡しまで完了していた分で●(省略)●円、受注まで終えていた分を含めても●(省略)●円である。
ここで、限界利益の計算に当たっては、侵害品の製造販売に要した総費用の変動額と売上額の変動額の比率(変動費率)から限界利益率を計算すべきであるところ、この変動費率を複数会計期について計算する手法としては、過去の実績データから固定費と変動費を区分する方法である最小二乗法によるのが適切である。
そこで、被告主張の侵害部分の上記売上額に、最小二乗法により算定した被告主張の侵害部分の限界利益率(●(省略)●%)を乗じると、被告主張の侵害部分の限界利益の額は、本件特許権の存続期間中に引渡しまで完了していた分で●(省略)●円、受注まで終えていた分を含めても●(省略)●円である。
ウ 推定覆滅事由の存在
本件では、以下のとおりの推定覆滅事由が存在することに鑑みると、推定覆滅率は100%である。
(ア)業務態様の相違
被告は、圧縮機ユニットを含む冷凍システムの製造業者であると共に、顧客から冷凍・冷蔵プラント一式の設計から施工、その後のサポートまでを受注し、納品する冷凍プラント業者であるのに対し、原告は、圧縮機ユニットの製造業者であり、冷凍プラントを取り扱っていないという点で、原告と被告の業務態様の間には決定的な相違が存在する。
(イ)被告製品2-2及び2-3が組み込まれたNewTonシステムの顧客吸引力は、本件発明以外の点にあること
NewTonシステムを使用した冷凍・冷蔵プラントの顧客吸引力は、高度な経済性と省エネルギー性、アンモニア漏洩リスクに対する安全性、コンパクトなユニット設計、常時サポート体制といった長所及び被告の実績と信用によるものであり、いずれも、被告自身の技術開発と営業努力によるものであって、本件発明はこれに何ら寄与していない。
すなわち、NewTonシステムは、被告保有の特許等を実施するなどして、自然冷媒の一つであるアンモニア冷媒を用いて二酸化炭素を冷却する間接冷却方式を採用し、熱特性に優れたアンモニアを機械室に閉じ込めて漏らさない構造を追求することにより、安全な利用を可能にしつつ、高度な経済性及び省エネルギー性を実現するとともに、ユニット設計を採用することなどにより、従来機種に比してコンパクト化を実現している。また、被告は、遠隔監視システム・診断ソフトを利用した24時間365日サポート体制を実施している。これらのことに鑑みると、NewTonシステムを使用した被告製プラントの顧客吸引力は、本件発明にはない。
また、NewTonシステムを使用した被告製プラントと原告各製品が組み込まれたシステムを使用したプラントの納入実績を比較すると、前者は後者より圧倒的に多い。このことは、被告製プラントの顧客吸引力が、被告及びNewTonシステムに対する信認にあることを示す。
(ウ)代替品が現に存在していたとともに、被告が実施部分を非実施部分に置換することは容易であったこと
a 現実に存在していた代替品
本件発明の非実施品として、被告製品2-1が組み込まれたNewTonシステムが現に存在していた。被告製品2-1が組み込まれたNewTonシステムが、被告製品2-2及び2-3が組み込まれたNewTonシステムよりも販売実績が劣るからといって、これらを代替し得ないことにはならない。
b 実施部分を非実施部分に置換して代替品を製造することは容易であったこと
ポンプを装備していない被告製品2-2及び2-3を組み込んだNewTonシステムにポンプを装備させることは、製品の性能に悪影響を及ぼすことなく、かつ、販売価格にもほとんど影響することなく、容易に実行可能である。
そうすると、「ポンプ非装備NewTonシステムを価格、機能に実質的に全く影響しないポンプ装備システムに変換したもの」は、実質的に常に存在していたといえ、被告製品2-2及び2-3が組み込まれたNewTonシステムに代替し得た製品である。
(エ)本件発明の顧客吸引力について
a 本件明細書の記載によれば、本件発明の効果は、バランスピストンの受圧面積を大きくし、負荷容量の大きなスラスト軸受を採用し、逆スラスト加重状態の発生をなくし、単純かつコンパクトな構造で、振動、騒音を低減させることができることなどとされているところ、これらの効果は、被告製品2-2及び2-3の性能と何の関係もなく、その販売には全く寄与していない。また、原告は、本件発明を実施していない。
これらの事情は、本件発明に顧客吸引力がないことを示す。
b NewTonシステムが圧縮機本体だけでなく、多数の不可欠な機器群から構成されるシステムであり、かつ、これらには被告が保有する特許が実施されている以上、NewTonシステムの顧客吸引力が高いといっても、本件発明の実施部分である圧縮機本体のみがその顧客吸引力に貢献しているわけではない。
(オ)原告の実施能力による特許法102条2項に基づく推定の覆滅
特許法102条2項により算定された利益の額が、特許権者が得られたであろう利益の額を超過する場合、その限度で同項による推定は覆滅される。
被告のNewTon事業の限界利益率が●(省略)●%であるのに対し、原告の圧縮機事業の限界利益率が●(省略)●であると推認されることに鑑みると、被告の利益の額は、上記限界利益率の限度で覆滅される。
イ 弁護士費用及び遅延損害金の起算日
否認ないし争う。
(2)593番代替機及び6048番転用機の2台の販売による損害(予備的主張)について
否認ないし争う。
前記のとおり、593番代替機及び6048番転用機は、顧客に無償で譲渡されたものである。したがって、被告には無償提供によりその代金相当額分の損失が生じており、経済的利益はない。
6.裁判所の判断
1 本件発明の技術的意義
-省略-
2 構成要件Fの充足性(争点1)
(1)構成要件Fの意義
ア 「均圧流路」について
(ア)本件発明の特許請求の範囲には、「上記油溜まり部の油を加圧することなく導く均圧流路」(構成要件F)と記載されている。ここで、「加圧することなく導く流路」ではなく、「加圧することなく導く均圧流路」と記載されている点について、「均圧」とは、「圧力が等しい」ことを意味すると解し得るものの、何と何の圧力がどの程度等しいのかは、特許請求の範囲の記載からは必ずしも明らかではない。すなわち、流路の両端である油溜まり部とバランスピストン部、更には流路中も含め、圧力が等しいことを意味するなどとして厳密に等しいことを求められるものと解し得る一方で、おおむね等しいものであれば足りるものとして、「上記油溜まり部の油を加圧することなく導く」「流路」をもって「均圧流路」と表現しているものとも理解し得る。
そうすると、特許請求の範囲の記載だけをもって、「上記油溜まり部の油を加圧することなく導く均圧流路」の意味を一義的に確定することはできない。
(イ)そこで、本件明細書の記載を参酌すると、前記1のとおり、本件発明は、起動直後又はアンロード運転時等のように圧縮機の負荷が小さくスラスト力が小さい場合に、バランスピストンに給油圧力Pd+αが作用すると、吐出側から吸込側に向かう方向にスクリュロータに作用する力より大きい力がバランスピストンに作用し、いわゆる逆スラスト荷重状態となって、スクリュロータを吐出側に押すようになり、スクリュロータとロータ室の壁部とが接触し、破損事故を起こす可能性が生じることから、バランスピストンの仕切り壁側の空間(バランスピストン室)に油を導く流路として「油を加圧することなく導く均圧流路」を設けるという構成を採用したものである。このような本件発明の技術的意義に鑑みると、「油を加圧することなく導く均圧流路」という文言は、従来の油冷式スクリュ圧縮機が備えていた「油ポンプ6を経由して…給油箇所に通じ」、その「二次側は給油圧力Pd+α(α>0)の状態にあ」る「油供給流路7」と比較する文脈で用いられている表現と理解される。
また、証拠(甲9)及び弁論の全趣旨によれば、油冷式スクリュ圧縮機の流路において圧力損失が生じることは技術常識であると認められるところ、本件明細書には、「均圧」が、厳密な意味で、流路中や「均圧流路」が接続する油溜まり部とバランスピストン室との「圧力が等しい」という意味であることを示す明示の記載はもとより、これを示唆する記載もない。そうすると、本件発明において、油溜まり部の圧力とバランスピストン室の圧力が厳密に見て等しい、すなわち流路中で発生する不可避的な圧力損失をも忌避しなければならない必要性は認められない。むしろ、「この圧縮機の場合、油ポンプ6の一次側にて油供給流路7から分岐させた均圧流路8が設けてあり、油ポンプ6の二次側に続く油供給流路7の部分はラジアル軸受13、14の箇所に導き、均圧流路8はバランスピストン17の箇所に導くように形成してある。」という本件明細書の記載(【0013】)は、実施例に関する記載ではあるものの、「均圧流路」が「油ポンプ6の一次側にて油供給流路7から分岐させた」流路、すなわち油ポンプにより加圧されていない油を導く流路である旨をいうものと理解される。同じく実施例に関する記載として、「空間Bのバランスピストン17のスラスト軸受16側の面には均圧流路8により吐出圧力Pdを導いている。」という記載(【0014】)及び図1があるものの、圧力損失を生じる要因には多様なものがあり(甲9)、実際に発生する損失の程度も個別的な要因に左右され得ることを踏まえ、圧力損失の生じ得ることを前提としつつもあえて上記表現を採用したものと理解することも、なお合理的である。
以上より、「均圧流路」の「均圧」とは、「加圧していない」ことを意味し、「上記油溜まり部の油を加圧することなく導く均圧流路」(構成要件F)とは、「上記油溜まり部の油を加圧することなく導く流路」を意味すると解するのが相当である。
(ウ)被告の主張について
これに対し、被告は、「均圧」の一般的な意味、圧縮機等の圧力利用に関する技術分野における「均圧流路」という用語の使用例、本件明細書の記載及び本件特許出願に対応する外国出願の請求項で使用されている英語表現を指摘して、「均圧流路」とは、油溜まり部の圧力とバランスピストン室の圧力を等しくするための流路を意味すると主張する。
しかし、特許発明の技術的範囲は、願書に添付した特許請求の範囲の記載に基づいて定めなければならず(特許法70条1項)、その場合、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮して、特許請求の範囲に記載された用語の意義を解釈するものとされている(同条2項)。その際、当該文言の一般的な意味や関連する技術分野の用語例が参酌されるべきであるとしても、特許請求の範囲の記載並びに明細書の発明の詳細な説明の記載及び図面に基づき、それに即した意義のものとして解釈することも当然に許される。この点は、対応外国特許の記載を参酌する場合も同様である。そして、本件においては、前記(ア)及び(イ)のとおり、一義的に明確とはいえない特許請求の範囲記載の文言につき、本件明細書の記載に基づき、前記のとおり解釈したものである。
また、圧力損失が生じることを前提とすると、油溜まり部の圧力とバランスピストン室の圧力を厳密に等しくするためには、これを実現するための何らかの機構が当該流路中に設けられている必要があるが、本件明細書には、そのような機構に関する言及はない。
したがって、この点に関する被告の主張は採用できない。
イ 「油溜まり部の油を加圧することなく導く」タイミングについて
(ア)本件発明における「油溜まり部の油を加圧することなく導く」タイミングについて、特許請求の範囲には、何らかの形でこれを特定ないし限定する記載はない。そうすると、特許請求の範囲の記載から直ちに、「上記油溜まり部の油を加圧することなく導く」タイミングを一義的に確定することはできない。
(イ)そこで、本件明細書の記載を参酌すると、前記1のとおり、本件発明は、起動直後又はアンロード運転時等のように圧縮機の負荷が小さくスラスト力が小さい場合に逆スラスト荷重状態となることから、バランスピストンの仕切り壁側の空間(バランスピストン室)に油を導く流路として「油を加圧することなく導く均圧流路」を設けるという構成を採用したものである。このような本件発明の技術的意義に鑑みると、起動直後やアンロード運転時のように圧縮機の負荷が小さくスラスト力が小さい場合に、油溜まり部の油を加圧してバランスピストン室に導く構成は、本件発明の企図するところではないと解される。すなわち、本件発明は、「均圧流路」を使用してバランスピストン室に「油溜まり部の油を加圧することなく導く」ものであって、少なくとも、上記のような場合にバランスピストン室に油溜まり部の油を加圧して導くものは、本件発明の技術的範囲に属しない。
(ウ)原告の主張について
これに対し、原告は、本件明細書には「油溜まり部の油を加圧することなく導く」タイミングを「起動時」等に限定する旨の記載はないなどと主張する。
しかし、本件明細書の記載に基づき把握される本件発明の技術的意義に鑑み、前記(イ)のとおりに解釈すべきである以上、このような解釈が本件明細書に記載がないとはいえない。この点に関する原告の主張は採用できない。
(2)被告各製品の構成
ア 被告製品1-2及び2-1
(ア)前記(第2の2(2)ウ)のとおり、被告製品1-2及び2-1は、バランスピストン室に油溜まり部の油を加圧することなく導く流路を備えている。
しかし、証拠(乙10、17)及び弁論の全趣旨によれば、被告製品1-2及び2-1は、上記流路とは別個に、バランスピストン室に油溜まり部の油を加圧して導く流路も存在し、起動時には後者の流路を使用していることが認められる。
そうである以上、被告製品1-2及び2-1は、その意味で、「上記油溜まり部の油を加圧することなく導く均圧流路」(構成要件F)という構成を備えていない。
したがって、被告製品1-2及び2-1の構成は、構成要件Fを充足しない。
このことから、その余の点を検討するまでもなく、被告製品1-2及び2-1は、本件発明の技術的範囲に属しない。
(イ)これに対し、原告は、被告製品1-2及び2-1が、バランスピストン室に油溜まり部の油を加圧することなく導く流路を備える以上、起動時に、上記流路とは別個に備えた、バランスピストン室に油溜まり部の油を加圧して導く流路を使用していることは付加的な構成にすぎず、構成要件Fの充足性を左右しないと主張する。
しかし、原告の上記主張は、自らの主張する特許請求の範囲の記載の解釈を前提とするものであり、その解釈を採用できないことは前記(1)イのとおりであるから、この点に関する原告の主張は採用できない。
イ 被告製品2-2及び2-3
(ア)前記(第2の2(2)ウ)のとおり、被告製品2-2及び2-3は、バランスピストン室に油溜まり部の油を加圧することなく導く流路を備えているところ、証拠(乙10)及び弁論の全趣旨によれば、これらの製品は、常時この流路を使用していることが認められる。
したがって、被告製品2-2及び2-3は、「上記油溜まり部の油を加圧することなく導く均圧流路」(構成要件F)の構成を備えていると認められる。すなわち、被告製品2-2及び2-3の構成は、構成要件Fを充足する。
(イ)これに対し、被告は、被告製品2-2及び2-3の油溜まり部の圧力とバランスピストン室の圧力が等しくないことを理由に、「上記油溜まり部の油を加圧することなく導く均圧流路」(構成要件F)に相当する構成を備えていないと主張する。
しかし、被告の上記主張は、自らの主張する特許請求の範囲の記載の解釈を前提とするものであり、その解釈を採用できないことは前記(1)アのとおりであるから、この点に関する被告の主張は採用できない。
3 構成要件Eの充足性(争点1)
(1)「スラスト軸受とこのバランスピストンとの間に圧力遮断する仕切り壁」の意義
ア 本件発明の特許請求の範囲に「上記スラスト軸受とこのバランスピストンとの間に圧力遮断する仕切り壁を設け」と記載されていることから、「仕切り壁」は、「圧力遮断」するために、少なくとも「スラスト軸受」と「バランスピストン」との間に設けられるものであることが理解される。また、上記記載に続いて、「このバランスピストンの仕切り壁側の空間に、上記油溜まり部の油を加圧することなく導く均圧流路を設けて形成した」と記載されていることに鑑みると、「均圧流路」により、「バランスピストン」と「仕切り壁」により形成される空間(バランスピストン室)に油が導かれることが理解される。
もっとも、「仕切り壁」と「スラスト軸受」・「バランスピストン」との具体的な位置関係や「仕切り壁」による「圧力遮断」の程度等については、特許請求の範囲の記載から一義的に明らかではない。
イ そこで、本件明細書の記載を参酌すると、本件発明は、逆スラスト荷重状態の発生をなくすために、「スラスト軸受とこのバランスピストンとの間に圧力遮断する仕切り壁を設け」るとともに、「このバランスピストンの仕切り壁側の空間に、上記油溜まり部の油を加圧することなく導く均圧流路を設け」るという構成を採用したものである。この構成において、バランスピストン及び「仕切り壁」がそれぞれ求められる機能(吐出側から吸込側に向かう方向に作用するスラスト力の軽減、逆スラスト荷重状態が発生しないようにすること)を発揮するに当たっては、バランスピストンのスラスト軸受側の面と「仕切り壁」とにより形成されるバランスピストンのスラスト軸受側の空間(バランスピストンの仕切り壁側の空間)における相応の圧力の保持が求められる。他方で、バランスピストンのスラスト軸受側の面とは反対側の面とこれと対面する壁との間に形成される空間における圧力の程度は、本件発明においてバランスピストン及び「仕切り壁」に求められる機能とは直接関係しない。
そうすると、「仕切り壁」は、逆スラスト荷重状態を発生させないように、吐出圧力Pdをバランスピストンのスラスト軸受側の面に作用させることができる程度に、バランスピストンの仕切り壁側の空間から油の漏出を防ぐことが必要であり、かつ、その程度のものであれば足りると解される。
さらに、本件明細書には、「空間Bのバランスピストン17のスラスト軸受16側の面には均圧流路8により吐出圧力Pdを導いている。」と記載されている(【0014】)。ここで、「空間B」は、特許請求の範囲の「バランスピストンの仕切り壁側の空間」に相当するものであり、すなわちバランスピストンのスラスト軸受側の面とこれと対面する壁との間の空間をいうものであると解される。本件明細書図3においても、バランスピストン17のスラスト軸受16側の空間(バランスピストン室)の箇所に「B」という表示があるのに対し、バランスピストン17のスラスト軸受16側の面とは反対側の面とこれと対面する壁との間の空間には、そのような表示はない。
また、本件明細書【0013】においても、「スラスト軸受16とバランスピストン17との間に仕切り壁31を設けてある。」などとされており、「空間B」にバランスピストンのスラスト軸受側の面とは反対側の面とこれと対面する壁との間の空間を含むことを明示的に示す記載はない。本件明細書図2においても、「仕切り壁31」としてはバランスピストンのスラスト軸受側の面に対面してバランスピストン室を構成する壁が示されているのに対し、バランスピストンのスラスト軸受側の面とは反対側の面に対面する壁は示されていない。
以上によれば、構成要件Eにおける「スラスト軸受とこのバランスピストンとの間」の「仕切り壁」(構成要件E)とは、バランスピストンのスラスト軸受側の面と対面することにより、バランスピストンのスラスト軸受側の面と共にバランスピストン室を構成する壁を意味するものと解される。
ウ 被告の主張について
(ア)これに対し、被告は、本件明細書の記載を指摘して、「仕切り壁」は、スラスト軸受を収容している空間と、バランスピストンのスラスト軸受側の面とこれと対面してバランスピストン室を構成する壁との間の空間だけでなく、スラスト軸受を収容している空間と、バランスピストンのスラスト軸受側の面とは反対側の面とこれと対面する壁との間の空間の圧力を遮断するものでなければならないと主張する。
(イ)確かに、本件明細書には、「スラスト軸受16とバランスピストン17との間に仕切り壁31を設けてある。この仕切り壁31は内周部に軸封手段32を備え、スラスト軸受16を収容している空間Aとバランスピストン17を収容している空間Bとを圧力遮断して、空間Bを、入力軸15、スラスト軸受16、ラジアル軸受13、14等の他の構成要素とは独立させてある。」と記載されている(【0013】)。ここで、「収容している」との記載に着目すると、「仕切り壁」が圧力遮断している、バランスピストンを「収容している」「空間B」とは、バランスピストンのスラスト軸受側の面とこれと対面してバランスピストン室を構成する壁との間の空間だけでなく、バランスピストンのスラスト軸受側の面とは反対側の面とこれと対面する壁との間の空間も含むと解する余地がないではない。そうすると、「仕切り壁」についても、被告の上記主張のように解し得る。
しかし、本件発明の特許請求の範囲には、「仕切り壁」は、「スラスト軸受とこのバランスピストンとの間に…設け」られ、均圧流路により油溜まり部の油が導かれる先は、「このバランスピストンの仕切り壁側の空間」であると記載されており、他方、バランスピストンのスラスト軸受側の面とは反対側の面に関する記載はない。
そして、前記イのとおり、本件明細書の記載から把握される本件発明の技術的意義との関係では、バランスピストンのスラスト軸受側の面と「仕切り壁」とにより形成されるバランスピストンのスラスト軸受側の空間(バランスピストンの仕切り壁側の空間)における圧力の保持が求められるところ、「仕切り壁」が、スラスト軸受を収容している空間と、バランスピストンのスラスト軸受側の面とは反対側の面とこれと対面する壁との間の空間の圧力を遮断することは、本件発明の技術的意義との関係では、必ずしも必要ではない。そうすると、「仕切り壁」によってスラスト軸受を収容する空間Aと圧力遮断される「空間B」に、バランスピストンのスラスト軸受側の面とは反対側の面とこれと対面する壁との間の空間が含まれると解すべき理由はないというべきである。
(ウ)したがって、この点に関する被告の主張は採用できない。
(エ)また、被告は、「均圧流路」が、油溜まり部の圧力とバランスピストン室の圧力を厳密に等しくするための流路であることを前提に、「仕切り壁」には、「均圧流路」をそのような流路とするためにバランスピストン室からの油の漏出を阻止する機能を有することが求められ、「圧力遮断する」仕切り壁とは、そのような機能を有して油溜まり部とバランスピストン室の圧力を等しく保つものでなければならないと主張する。
しかし、上記主張が前提とする「均圧流路」に関する被告の解釈を採用できないことは、前記2(1)アのとおりであり、この点に関する被告の主張も、その前提を欠くことになるから採用できない。
(オ)なお、被告は、「仕切り壁」の意味につき、原告が、当初は被告主張に係る解釈を主張しながら、後にこれを撤回し、異なる解釈を主張したことは自白の撤回に当たると指摘する。しかし、特許請求の範囲の記載に関する解釈は、事実に関する主張ではないから、そもそも自白の対象ではない。この点に関する被告の主張は採用できない。
(2)被告製品2-2及び2-3の構成
ア 前提事実において認定した被告製品2の構成(前記第2の2(2)ウ)のほか、証拠(乙13、34)及び弁論の全趣旨によれば、被告製品2-2及び2-3には、スラスト軸受とバランスピストンとの間に、バランスピストンのスラスト軸受側の面(受圧面)と対面してバランスピストン室を構成する壁が設けられていることが認められる。
前記(1)イのとおり、バランスピストンの受圧面と対面してバランスピストン室を構成する壁は、バランスピストン室における設計上必要な圧力を保持するため設けられるものである。被告製品2-2及び2-3において、スラスト軸受とバランスピストンとの間に、バランスピストンのスラスト軸受側の面(受圧面)と対面してバランスピストン室を構成する形で設けられている壁が、「所望のシール効果を得」られるものであることは、被告も争っていない。そうすると、上記壁により、逆スラスト荷重状態の発生をなくすべく吐出圧力Pdをバランスピストンのスラスト軸受側の面に作用させることができる程度にバランスピストンの上記壁側の空間の圧力が遮断されていると認められる。
以上のとおり、被告製品2-2及び2-3は、「上記スラスト軸受とこのバランスピストンとの間に圧力遮断する仕切り壁を設け」(構成要件E)に相当する構成を備えていると認められる。したがって、被告製品2-2及び2-3の各構成は、構成要件Eを充足する。
イ 被告の主張について
(ア)被告は、被告製品2-2及び2-3につき、バランスピストンのスラスト軸受側の面とは反対側の面とこれと対面する壁との間の空間がスラスト軸受を収容している空間と連通していること、バランスピストンのスラスト軸受側外面の一部がスラスト軸受を収容している空間に露出していること、バランスピストンのスラスト軸受側の面と対面してバランスピストン室を構成する壁がラビリンスシール構造となっていることを指摘して、被告製品2-2及び2-3の各構成が構成要件Eを充足しないと主張する。
(イ)まず、証拠(乙13、34)及び弁論の全趣旨によれば、被告製品2-2及び2-3において、バランスピストンのスラスト軸受側の面とは反対側の面とこれと対面する壁との間の空間が、スラスト軸受を収容している空間と連通していること、バランスピストンは、バランスピストン室に面する部分(ピストン部分)と、バランスピストン室からバランスピストン室を超えてスラスト軸受を収容している空間にまで延在し、対面する軸部材の表面とともにラビリンスシール構造を構成する部分(シール部分)とから成るところ、シール部分のスラスト軸受側外面の一部がスラスト軸受を収容している空間に露出していることが、それぞれ認められる。
しかし、前記(1)イ及びウのとおり、本件発明は、バランスピストンのスラスト軸受側の面とは反対側の面とこれと対面する壁との間の空間の圧力の保持を必ずしも必要とするものではないから、本件発明の「仕切り壁」は、上記空間と周囲の空間との圧力を遮断するものである必要はない。そうすると、バランスピストンのスラスト軸受側の面とは反対側の面とこれと対面する壁との間の空間が、スラスト軸受を収容している空間と連通していることは、被告製品2-2及び2-3に係る各構成の構成要件Eの充足性を左右しない。
また、上記シール部分は、その先端がスラスト軸受を収容している空間に露出しているところ、当該部分は本件発明の実施例における「仕切り壁31」の「内周部に」設けられる「軸封手段32」と同じく、バランスピストン室とスラスト軸受を収容している空間との間でシール機能を奏するための部材と理解される。そうすると、上記露出部分の存在にもかかわらず、被告製品2-2及び2-3においては、なお、スラスト軸受とバランスピストンとの間に、バランスピストンのスラスト軸受側の面(受圧面)と対面してバランスピストン室を構成する形で設けられた壁により、逆スラスト荷重状態の発生をなくすよう吐出圧力Pdをバランスピストンのスラスト軸受側の面に作用させることができる程度にバランスピストン室の圧力が遮断されているといえる。そうである以上、上記露出部分の存在は、被告製品2-2及び2-3に係る各構成の構成要件Eの充足性を左右するものではない。
さらに、前記(1)イ及びウのとおり、「仕切り壁」は、逆スラスト荷重状態を発生させないように、吐出圧力Pdをバランスピストンのスラスト軸受側の面に作用させることができる程度にバランスピストンの仕切り壁側の空間からの油の漏出を防ぐことができるものであれば足り、油を全く漏出させないほどの密封性が求められるものではなく、また、油溜まり部の圧力とバランスピストン室の圧力を厳密に等しく保つための機能が求められるわけでもない。そして、ラビリンスシール構造は、流体の漏出を完全に阻止するものでないものの、なお漏れ量を減少させる密封装置に係る構造として位置付けられている(甲10、乙36、37及び弁論の全趣旨)。そうである以上、ラビリンスシール構造を採用していることは、被告製品2-2及び2-3に係る構成の構成要件Eの充足性を左右するものではない。
以上より、この点に関する被告の主張はいずれも採用できない。
4 構成要件Gの充足性(争点1)
(1)「油冷式スクリュ圧縮機」の意義
ア 被告は、本件発明の「油冷式スクリュ圧縮機」につき、軸受等に油溜まり部の油を加圧して導く流路を設けて形成していることを必須の構成とする旨を主張する。
イ しかし、本件発明の特許請求の範囲の記載において、軸受等に油溜まり部の油を加圧して導く流路を設けて形成している点は、その発明特定事項として言及されていない。
また、本件明細書の記載を通覧しても、軸受等に油溜まり部の油を加圧して導く流路を設けて形成していることが必須の構成であることを明示する記載はない。本件明細書【0013】には、油ポンプ6の二次側に続く油供給流路7につき、ラジアル軸受13、14の箇所に導かれている旨の記載があるところ、当該実施例に係る図1では、油供給流路7における圧力がPd+αであることが示されているものの、これらは実施例に係る記載にすぎず、これをもって、このような構成が本件発明に必須のものであることを示すものとはいえない。
したがって、本件発明の「油冷式スクリュ圧縮機」とは、文字通り油冷式スクリュ圧縮機であればよく、軸受等に油溜まり部の油を加圧して導く流路を設けて形成していることが必須の構成とするものとは解されない。
この点に関する被告の主張は採用できない。
(2)被告製品2-2及び2-3の構成
前記(第2の2(2)イ)のとおり、被告製品2-2及び2-3は、油冷式スクリュ圧縮機である。したがって、被告製品2-2及び2-3の構成は、「油冷式スクリュ圧縮機」(構成要件G)を充足する。
これに対し、被告は、被告製品2-2及び2-3に係る構成が構成要件Gを充足しないと主張する。しかし、これは本件発明の「油冷式スクリュ圧縮機」につき、軸受等に油溜まり部の油を加圧して導く流路を設けて形成していることが必須の構成であるとの主張を前提とするものである。前記(1)のとおり、当該主張を採用し得ない以上、この点に関する被告の主張は採用できない。
5 争点1のその余の点
(1)バランスピストンの軸径をラジアル軸受及びスラスト軸受の軸径よりも小さくすることにより、バランスピストンの受圧面積をそうでない場合における受圧面積よりも相対的に大きくすることは、本件発明における必須の構成要件であるか
ア 被告は、①バランスピストンの軸径をラジアル軸受及びスラスト軸受の軸径よりも小さくすることにより、②バランスピストンの受圧面積をそうでない場合における受圧面積よりも相対的に大きくすることは、本件発明における必須の構成要件である旨主張する。
イ(ア)しかし、本件発明の特許請求の範囲の記載には、①バランスピストンの軸径とラジアル軸受をラジアル軸受及びスラスト軸受の軸受よりも小さくすることや②バランスピストンの受圧面積を相対的に大きくすることについて、明示的な言及はない。
(イ)バランスピストンの受圧面積の確保については、本件明細書(【0008】、【0013】、【0014】)を参酌すると、入力軸、ラジアル軸受、スラスト軸受及びバランスピストンの配置並びに仕切り壁の存在及び配置が関係すると解されるところ、本件発明の特許請求の範囲の記載のうち、構成要件C、Dにはこれらに関連する事項が記載されている。しかし、構成要件C、Dの記載は、バランスピストンの受圧面積の確保に資するような構成を示唆するものであるとしても、②バランスピストンの受圧面積を相対的に大きくすることまでをも示唆するものではない。
また、①バランスピストンの軸径とラジアル軸受及びスラスト軸受の軸径との大小関係については、本件発明の特許請求の範囲にこれを示唆する記載もない(なお、本件明細書の【0014】や図3等には、上記大小関係に関する記載があるが、これは一実施例の記載にすぎず、当該記載をもって上記大小関係を示唆する記載であるとはいえない。)。
(ウ)以上によれば、バランスピストンの軸径をラジアル軸受及びスラスト軸受の軸径よりも小さくすることにより、バランスピストンの受圧面積をそうでない場合における受圧面積よりも相対的に大きくすることをもって、本件発明における必須の構成要件と考えることはできない。この点に関する被告の主張は採用できない。
(2)被告製品1-2に係る原告のその余の主張等について
ア 間接侵害
前記2(2)のとおり、被告製品1-2に係る構成は、油冷式スクリュ圧縮機として必要な全ての構成を備えたとしても、そもそも本件発明の「均圧流路」を備えるものではなく、構成要件Fを充足しない。すなわち、輸出等に係る予備機において、後に付加されることが予定されているバランスピストン室に直通する流路は、本件発明の「均圧流路」に当たらない。そうである以上、当該予備機は、「その物の生産に用いる物…であってその発明による課題の解決に不可欠なもの」(特許法101条2号)に当たらない。
イ 予備的請求に係る主張
また、被告製品1-2の製造等の行為が自由競争の範囲を逸脱するものと認めるべき具体的な事情もない。
ウ 小括
したがって、その余の点を論ずるまでもなく、この点に関する原告の主張は採用できない。
6 小括(構成要件充足性について)
前記(第2の2(2)ウ(イ))のとおり、被告製品2-2及び2-3の各構成が構成要件A~Dを充足することについては争いがない。また、前記2~5のとおり、被告製品2-2及び2-3の各構成は、構成要件E~Gを充足する。
したがって、被告製品2-2及び2-3の各構成は、本件発明の技術的範囲に属する。
7 争点2(原告の損害の有無及び額)
(1)逸失利益
ア 特許法102条2項の適用の有無
(ア)特許法102条2項は、民法の原則の下では、特許権侵害によって特許権者が被った損害の賠償を求めるためには、特許権者において、損害の発生及び額、これと特許権侵害行為との間の因果関係を主張、立証しなければならないところ、その立証等には困難が伴い、その結果、妥当な損害の塡補がされないという不都合が生じ得ることに照らして、侵害者が侵害行為によって利益を受けているときは、その利益の額を特許権者の損害額と推定するとして、立証の困難性の軽減を図った規定である。このような趣旨に鑑みると、特許権者に、侵害者による特許権侵害行為がなかったならば利益を得られたであろうという事情が存在する場合には、同項の適用が認められると解すべきであるとともに、同項所定の侵害行為により侵害者が受けた利益の額とは、原則として、侵害者が得た利益全額であると解するのが相当であって、このような利益全額について同項による推定が及ぶと解される。
(イ)証拠(甲13)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、被告による本件特許権侵害行為の期間(平成20年~平成28年)において、スクリュ圧縮機に相当する圧縮機ユニット又はスクリュ圧縮機に凝縮器を備えたものに相当するコンデンシングユニットである原告各製品を製造し、プラント業者等に販売していたことが認められる。
他方、証拠(乙39、78、81、82、85、93、99、110)及び弁論の全趣旨によれば、被告は、平成20年~平成28年にかけて、油冷式スクリュ圧縮機である被告製品2-2及び2-3が組み込まれたスクリュ式ガス圧縮システムであるNewTonシステムを使用した冷凍・冷蔵プラントである被告製プラントを販売した一方、NewTonシステムや被告製品2-2及び2-3を、国内においては別個独立に販売することはなかったこと(なお、国外向けには、被告のグループ会社に単体又は単独で販売し、当該グループ会社がシステムを完成させて顧客に販売することはあった。)が認められる。
このように、被告は、基本的には、油冷式スクリュ圧縮機である被告製品2-2及び2-3が組み込まれたNewTonシステムを使用した被告製プラントを販売するという形で本件特許権侵害行為を行っているから、本件特許権侵害行為における侵害品は、上記NewTonシステムとするのが相当である。
そして、NewTonシステムと原告各製品が組み込まれたシステムとは、上記のとおり、冷凍・冷蔵プラントの需要者を需要者とする点で共通する以上、NewTonシステムと原告各製品の需要者も、その面では共通する部分があるといえる。
したがって、本件においては、原告に、被告による本件特許権侵害行為がなかったならば利益が得られたであろうという事情が存在するといえることから、特許法102条2項の適用が認められる。
(ウ)これに対し、被告は、原告各製品がスクリュ圧縮機等であるのに対し、被告が販売するのは被告製品2-2及び2-3が組み込まれたNewTonシステムを使用した被告製プラントであることを指摘して、特許法102条2項の適用は認められないと主張する。
しかし、被告指摘に係る事情は、要するに特許権者である原告と侵害者である被告との間の業務態様の相違(ひいては市場の非同一性)を指摘するものであるところ、このような事情を考慮しても、原告各製品と被告製品2-2及び2-3とは、上記(ア)のような形で市場においてなお競合関係にあると見るのが相当であるから、特許法102条2項の適用を否定すべき事情とはいえない。被告指摘に係る当該事情は、同項に基づく損害額の推定を覆滅する事情として考慮すれば足りる。
したがって、この点に関する被告の主張は採用できない。
イ 本件特許権侵害行為により被告が受けた利益の額
(ア)侵害者がその侵害の行為により受けた「利益の額」(特許法102条2項)は、侵害者の侵害品の売上高から、侵害者において侵害品を製造販売することによりその製造販売に直接関連して追加的に必要となった経費を控除した限界利益の額であり、その主張立証責任は特許権者側にあると解される。
前記アのとおり、本件における侵害品は被告製品2-2及び2-3が組み込まれたNewTonシステムであるから、本件特許権侵害行為により被告が受けた「利益の額」は、その売上高から、被告においてNewTonシステムの製造販売に直接関連して追加的に必要となった経費を控除した限界利益の額を算定するのが相当である。
これに対し、被告は、本件発明が油冷式スクリュ圧縮機に関する発明であること、原告自身が侵害品を圧縮機として特定していること、NewTonシステムから圧縮機だけを分離可能であることなどを指摘して、本件の侵害品は、NewTonシステムではなく、圧縮機本体を中核とする被告製品2-2及び2-3であると主張する。
しかし、前記アのとおり、本件の侵害品はNewTonシステムとすることが相当であり、このことは、本件発明が油冷式スクリュ圧縮機に関する発明であることなどにより左右されない。NewTonシステムから圧縮機を物理的に分離可能であるとしても、前記アのとおり、被告においては基本的にこれを別個独立に販売しておらず、この部分の譲渡による利益を直接的に観念し得ない以上、同様であり、被告製品2-2及び2-3がNewTonシステムの一部分であることは、損害額の推定を覆滅する事情として考慮すれば足りる。
したがって、この点に関する被告の主張は採用できない。
(イ)NewTonシステムの販売台数
a 証拠(乙85、93、110)及び弁論の全趣旨によれば、被告が販売したNewTonシステムの販売台数は、別紙「NewTonシステムの利益額算定表(1)」~「NewTonシステムの利益額算定表(6)」の「NewTon台数」欄に各記載のとおりであることが認められる。
b これに対し、被告は、被告が販売したNewTonシステムのうち、本件特許権の存続期間中に受注し、存続期間満了後に製造を終えて納入したものについては、本件特許権の存続期間中に、存続期間満了後に行われた適法な譲渡についての申出が行われたにすぎないから、本件特許権侵害行為による損害賠償の算定の基礎にすべきではないと主張する。
しかし、被告は、本件特許権の存続期間中に「譲渡の申出」を行った上で受注しており、この時点で顧客との間の請負契約が成立している以上、製造及び納入の完了が本件特許権の存続期間満了後であったとしても、これによる原告の損害は、なお本件特許権の存続期間中の侵害行為である「譲渡の申出」と相当因果関係にある損害というべきである。そうすると、これに係る「譲渡」による販売分も、本件特許権侵害行為による損害賠償の算定の基礎にするのが相当である。
したがって、この点に関する被告の主張は採用できない。
(ウ)NewTonシステム1台ごとの売上額
a NewTonシステムは、前記ア(イ)のとおり、基本的に冷凍・冷蔵プラントとは別個独立のものとして販売されていないものの、証拠(乙39、92、110)及び弁論の全趣旨によれば、被告は、被告製品2-2及び2-3が組み込まれたNewTonシステムの「定価」を設定し、そのNewTonシステムを使用した被告製プラントを販売するに当たって、当該「定価」を見積書に記載するなどして顧客に対し見積りを示した上で、被告製プラントを販売していることが認められる。
そうすると、NewTonシステム1台ごとの売上額を算定するに当たり、当該「定価」に依拠することには合理性がある。
他方、証拠(甲23、乙100、119)及び弁論の全趣旨によれば、被告は、NewTonシステムを使用した被告製プラントの販売に当たり、「出精値引」などとして、冷凍・冷蔵プラントを構成する部品価格の合計額から値引きして販売する例があったことが認められる。もっとも、全ての取引において値引きが行われたことを認めるに足りる事情はなく、また、プラントを構成するいずれの部品が値引き対象とされたかも不明であるから、上記売上額の算定に当たり値引き分を考慮することは合理的でない。
以上を踏まえると、証拠(乙39)及び弁論の全趣旨によれば、NewTonシステム1台ごとの売上額は、別紙「NewTonシステムの利益額算定表(1)」~「NewTonシステムの利益額算定表(4)」の「定価(単価)」欄に各記載のとおりであると認められる。
これに対し、被告は、NewTonシステム1台ごとの売上額は、その実質的な販売価格に相当する●(省略)●により算定すべきであると主張する。
しかし、証拠(乙39、92、93)及び弁論の全趣旨によれば、NewTonシステムの●(省略)●は、被告の製造部門が販売部門に販売処理手続を行う際の設定される価格にすぎず、被告は、この●(省略)●を上回る価格を「定価」として設定した上で、NewTonシステムを使用した被告製プラントを販売していることが認められる。すなわち、●(省略)●「定価」においてこれが反映されているものと理解される。そうすると、顧客に対する関係では、●(省略)●は実質的な販売価格とはいえない。
したがって、NewTonシステム1台ごとの売上額の算定に当たりその●(省略)●を基礎とすることは合理性を欠き、相当でない。この点に関する被告の主張は採用できない。
b 593番代替機及び6048番転用機について
証拠(乙99)及び弁論の全趣旨によれば、別紙「NewTonシステムの利益額算定表(5)」の対象となっている593番代替機は、106番機の代替機として、顧客に無償で譲渡されたことが認められる。そうすると、106番機と593番代替機の販売は一連の取引によるものといえる。このような経緯を踏まえると、106番機と593番代替機の販売については、106番機1台分の売上額●(省略)●円をもって2台合計の売上額として算定するのが相当である。
また、証拠(乙99)及び弁論の全趣旨によれば、別紙「NewTonシステムの利益額算定表(6)」の対象となっている6048番転用機は、同一の顧客に対して618番機2台と共に合計3台として納品されたこと、この取引におけるNewTonシステムの代金は2台分の代金とされたことが認められる。このような経緯を踏まえると、2台分の売上額である●(省略)●円(●(省略)●円×2)をもってこれら3台合計の売上額として算定するのが相当である。
以上に反する原告の主張は採用できない。
(エ)NewTonシステム1台ごとの経費
a 前記(ア)のとおり、控除すべき経費は、侵害品の製造販売に直接関連して追加的に必要となったものをいい、例えば、侵害品についての原材料費、仕入費用、運送費等がこれに当たる。これに対し、例えば、管理部門の人件費や交通・通信費等は、通常、侵害品の製造販売に直接関連して追加的に必要となった経費には当たらない。
b 控除すべき経費
(a)製造原価
証拠(乙39、93、110)及び弁論の全趣旨によれば、NewTonシステム1台ごとの製造原価は、別紙「NewTonシステムの利益額算定表(1)」~「NewTonシステムの利益額算定表(4)」の「製造原価(単価)」欄に各記載のとおりであることが認められる。
(b)その余の経費
被告は、上記製造原価のほかに、被告製品2-2及び2-3が組み込まれたNewTonシステムの製造工場に係る間接人件費並びに販売費及び一般管理費を控除すべき旨を指摘する。
まず、間接人件費についてみると、間接人件費は、正に管理部門の人件費であるところ、被告製品2-2及び2-3が組み込まれたNewTonシステムの製品の製造販売に直接関連して、間接人件費に相当する費用が追加的に発生したと見るべき事情は見当たらない。そうすると、被告製品2-2及び2-3が組み込まれたNewTonシステムの製造販売に直接関連して追加的に必要となった費用とはいえず、控除すべき経費に当たらない。
次に、販売費及び一般管理費についてみると、証拠(乙75、84、109)及び弁論の全趣旨によれば、上記(a)の製造原価には、社内加工費及び艤装作業費が含まれていることが認められるところ、これを除くと、証拠(乙78、101)及び弁論の全趣旨によっても、被告製品2-2及び2-3が組み込まれたNewTonシステムの製品の製造販売に直接関連して、販売費又は一般管理費に相当する費用が追加的に発生したと見るべき事情は見当たらない。そうすると、被告指摘に係る販売費及び一般管理費は、被告製品2-2及び2-3が組み込まれたNewTonシステムの製品の製造販売に直接関連して追加的に必要となった費用とはいえず、控除すべき経費に当たらない。
したがって、被告の上記指摘は当たらない。
(c)被告の主張について
そもそも被告は、最小二乗法を用いて限界利益率を算定するのが管理会計学上確立した方法であるとして、本件特許権侵害行為により被告が受けた利益の額を算定するに当たっても、最小二乗法を用いるのが合理的であると主張する。
しかし、前記(ア)のとおり、特許法102条2項所定の侵害行為により侵害者が受けた利益の額として算定すべき額は、侵害者の侵害品の売上高から、侵害者において侵害品を製造販売することによりその製造販売に直接関連して追加的に必要となった経費を控除した限界利益の額であり、被告主張に係る管理会計学上の限界利益の額とは必ずしも一致しない。また、算定の目的を異にする以上、侵害者が受けた「利益の額」(特許法102条2項)の算定に当たり、管理会計学上の限界利益の額の算定方法である最小二乗法を用いないとしても、不合理であることにはならない。
したがって、この点に関する被告の主張は採用できない。
(オ)NewTonシステム1台ごとの販売利益の額
以上によれば、NewTonシステム1台ごとの販売利益の額につき、まず、別紙「NewTonシステムの利益額算定表(1)」記載分については、No.106の項を除き、同別紙「定価-原価(単価)」欄に各記載のとおりであることが認められる。他方、No.106の項については、106番機及び593番代替機2台の譲渡について、1台分の売上(●(省略)●円)に対し、2台分の製造原価(●(省略)●)を要していることから、むしろ●(省略)●万●(省略)●円の赤字となっていることが認められる。
また、別紙「NewTonシステムの利益額算定表(3)」については、No.618の項を除き、「定価-原価(単価)」欄に各記載のとおりであることが認められる。他方、No.618の項については、618番機2台及び6048番転用機1台の合計3台の譲渡について、2台分の売上(●(省略)●円)に対し、3台分の製造原価(●(省略)●円)を要していることから、●(省略)●円の利益を生じていることが認められる。
別紙「NewTonシステムの利益額算定表(2)」記載分及び「NewTonシステムの利益額算定表(4)」記載分については、いずれも、「定価-原価(単価)」欄に各記載のとおりであることが認められる。
(カ)NewTonシステムの販売利益の合計額
a 以上によれば、別紙「NewTonシステムの利益額算定表(1)」記載分については、No.106の項を除き、「定価-原価(小計)」欄に各記載のとおりであることが認められる。他方、No.106の項については、前記(オ)のとおり、●(省略)●円の赤字である。
したがって、その合計額は●(省略)●円である。
b 別紙「NewTonシステムの利益額算定表(2)」記載分については、「定価-原価(小計)」欄に各記載のとおりであることが認められ、その合計額は●(省略)●円である。
c 別紙「NewTonシステムの利益額算定表(3)」記載分については、No.618の項を除き、「定価-原価(小計)」欄に各記載のとおりであることが認められる。
他方、No.618の項については、前記(オ)のとおり、●(省略)●円の利益を生じている。
したがって、その合計額は●(省略)●円である。
d 別紙「NewTonシステムの利益額算定表(4)」記載分については、「定価-原価(小計)」欄に各記載のとおりであることが認められ、その合計額は●(省略)●円である。
e 以上より、逸失利益は、別紙「損害額算定表(裁判所認定)」の①欄のとおり、合計117億3994万8941円(これは、税抜きの額である。)と推定される。
また、消費税は、国内において事業者が行った資産の譲渡等に課されるものであるところ(消費税法4条1項)、消費税法基本通達5-2-5によれば、特許権を侵害された者が特許権侵害の不法行為に基づく損害賠償金を侵害者から受領した場合、その損害賠償金も消費税の課税対象となるものと推察される。そうすると、特許権者が特許権侵害による損害のてん補を受けるためには、課税されるであろう消費税額相当分についても損害として受領し得る必要があるというべきである。すなわち、「利益」には消費税額相当分も含まれ得ると解される。
もっとも、その税率に関しては、不法行為に基づく損害賠償が損害のてん補という性質のものである以上、当該特許権侵害行為当時の税率が適用されるべきである。本件に即していえば、本件特許権侵害行為が行われた期間のうち、平成26年4月1日より前の特許権侵害行為については5%の、同日以降の侵害行為については8%の税率に基づき算定すべきこととなる。
そうすると、消費税額相当分を加味した逸失利益の額は、別紙「損害額算定表(裁判所認定)」の②欄記載のとおり、合計125億4281万9040円と推定される。これに反する原告及び被告の各主張は、いずれも採用できない。
ウ 推定の覆滅について
(ア)基礎となる事情
a NewTonシステム及び被告製品2-2及び2-3等について
(a)NewTonシステムの特徴及び販売促進活動
NewTonシステムは、平成19年にNewTon3000が商品化され、平成20年以降、被告製プラントに使用される形で販売されており(甲8の3、乙45)、基本的に、冷凍・冷蔵プラントとは別個独立のものとしては販売されていない。被告製品2-2及び2-3のみならず、被告製品2は、いずれもNewTonシステム専用の圧縮機であり(甲3)、NewTonシステムを使用した被告製プラントを購入する際には、必然的に購入することになるところ、これらも、NewTonシステムと同様に、基本的に別個独立のものとして販売されていない。また、NewTon3000は、IPMモーターを搭載することなどにより、従来式に比べて20%の省エネを実現するとされ、発売開始当初は年間200台、10年後には年間800台の販売を目標にしていた(乙45、116)。
被告は、その後もNewTonシステムの開発を継続し、平成24年にはチルド専用のNewTonC、フリーザー専用のNewTonF等のシリーズ展開が行われ、平成28年までに累計●(省略)●台以上を販売した。さらに、被告は、平成28年7月、省エネ性を保ちつつ、冷媒充填量の削減、メンテナンス性の向上及び小型・軽量化を達成したフリーザー専用の機種として、F-300、F-600等の販売を開始した(甲8の3、乙45)。
NewTonシステムは、被告自ら開発したIPMモーターを搭載することなどによって、より高度な経済性と省エネルギー性を実現する点、令和2年に全廃されるフロン冷媒対策として、自然冷媒であるアンモニアで二酸化炭素を冷却するという間接冷却方式を採用するとともに、アンモニアを機械室に閉じ込める構造によりその安全な利用を可能とし、さらに、漏洩センサー等を装備するなどしてアンモニアが漏洩しても素早い対応が取れるようにしている点、コンパクトなユニット設計を採用することで導入を容易としている点、遠方監視システム及び保全診断システムなど24時間365日のサポート体制を設けている点等に特徴があるとされ、これらの点が強調された形で販売促進活動が行われていた(甲8の3、乙38、45)。
なお、NewTonシステムや被告製品2-2及び2-3の宣伝広告物には、本件明細書記載の本件発明の作用効果に直接言及し、又はこれを具体的にうかがわせる記載は見られない(甲3、8の3、乙38、66の1)。
(b)NewTonシステムを導入した業者によるNewTonシ挺ステムについての評価
被告は、その作成に係る「Customer’s Point of View」と題する記事において、NewTonシステムを導入した顧客の導入の動機、導入後の成果等を紹介しているところ、これには、以下のような記載がある。
・ 脱フロンに加え、省エネ性及びシステムの完成度を特に評価しつつ、運用管理面での改善も決め手として、NewTonシステムを導入した。その結果、脱フロン対策と電気使用量平均15~18%の削減、メンテナンス契約によるより安心で人手のかからない運用管理体制等を実現した(乙67)。
・ NewTonシステムが脱フロンで高効率に生産を担うことができる点や被告の施工及びメンテナンスに対応する総合力を評価して、NewTonシステムを導入した。その結果、効率を追求した生産ラインを構築して生産能力を向上させ、環境及び省エネ対応も充実することができた。また、パッケージ方式による工期の短縮化と、全自動運転により安全で人手のかからない運用管理体制を実現した(乙68)。
・ 従来機と比較した場合の省エネ性、冷却スピード及び連続運転時間を評価して、NewTonシステムを導入した。その結果、約40%の年間電力使用量の削減と品質の高い冷凍パン生地の安定的な製造、フロン全廃への対応による環境負荷の低減、全自動運転による保全の手間の軽減を実現することができた。
なお、この顧客においては、設備更新に当たり数社から提案を受け、徹底的に調査・検討したとのことである(乙69)。
・ アンモニア直接冷却式と比較した場合の省エネ性及び安全性を評価して、NewTonシステムを導入した。その結果、同規模施設と比較して、電力使用量平均約38%の削減、二酸化炭素排出量の削減、省施工・工期短縮、安全性の向上(アンモニア漏洩リスクの軽減、遠隔監視システム等)を実現することができた(乙70)。
(c)環境省のウェブサイトの「省エネ型自然冷媒機器導入企業担当者インタビュー集」には、NewTonシステムを導入したと見られる顧客に関する記事が掲載されているところ、これには、以下のような記載がある。
・ 会社の重点テーマの一つである「フロン冷凍機全廃計画」を進める一環として、冷凍機器につき自然冷媒を使用した機器へと更新を進めている(乙60)。
・ 冷蔵倉庫に高効率自然冷媒冷凍機「NewTon」を導入した。自然冷媒冷凍機を導入した理由は、補助金による初期導入コストを削減できること、省エネにより電気代が削減できると判断したことによる。冷凍機の選定に当たっては、自然冷媒冷凍機を前提として複数社からの提案を受けたが、補助金を利用することによって現実的に採算が合うようなレベルで導入可能な機種として、被告からの提案を選定した。その結果、機械導入後間もないことなどから明確な省エネ効果は見えない面はあるものの、電力使用のピークがかなり下がったことは導入の効果の一つである(乙61)。
・ フロンに関する規制への対応として、省エネ型自然冷媒機器を導入した。その効果として、自然冷媒を選択したことよるリスク回避のほか、電気代の削減は大きな効果であると考えている。導入コストはこれまでの設備より10~15%程度高いが、地球温暖化を考えると、この程度の差は仕方ないと考えている(乙62)。
・ 省エネ型自然冷媒機器を導入したことによる効果のうち、省エネ効果としては、平均して15~20%の電気使用量の削減を達成した。しかし、全社方針としては省エネよりも脱フロン化の方が優先順位が高いところ、これも一定程度の削減を実現できている(乙63)。
(d)「日本冷蔵倉庫協会セミナー」における「自然冷媒機器導入の取組み」と題する報告資料には、NewTonシリーズの冷凍機2機種合計10台とその他の機器を導入した結果、電力使用量の約50%の削減及び二酸化炭素排出量年間2073トンの削減を実現することができた旨の記載がある(乙118)。
(e)上記(b)~(d)記載の記事等において、各顧客は、いずれも、NewTonシステム導入の理由としても、また、その成果としても、本件発明の作用効果に直接言及しておらず、また、その寄与を示唆する具体的記載もない。
(f)NewTonシステムに関連する被告の受賞歴
・ アンモニアと炭酸ガスを冷媒としたノンフロン化に取り組むとともに、高効率の省エネ型冷凍装置を開発した功績により、平成20年度地球温暖化防止活動環境大臣表彰を受賞した(乙64)。
・ アンモニアや二酸化炭素等の自然冷媒を使用する冷凍システムを採用し、代替フロンを一切使用せず、また、独自開発したモーターに永久磁石を使用することにより電気使用量を従来機種より約3割削減したとして、大型冷凍機「NewTon3000」により、日経優秀製品・サービス賞2008を受賞した(乙65)。
・ 高効率な自然冷媒冷凍機NewTon Fシステムとフリーザー各機種を組み合わせたMAYEKAWAフリーザーパックにより、コスト削減などで食品業界の発展を支えた製品を表彰する平成27年度「日食優秀食品機械資材・素材賞」を受賞した(乙66)。
なお、上記各受賞に当たり、その理由として、本件発明の作用効果に直接言及するものはなく、また、これを具体的に示唆するものもない(乙64~66)。
(g)NewTonシステムに関する記事
「共創するイノベーション-顧客との共創と営業との共創-」と題する取材レポート(マーケティングジャーナルVol.3No4(2016)。乙45)は、被告のNewTonシステムを事例として取り上げているところ、同稿では、その特徴として、圧倒的な省エネ性能、環境対応能力、標準品生産とすることによる工事の工期短縮の実現、高い信頼性と安全性、24時間の遠方監視ネットワークによる「予知保全」を実現するサービス等を挙げ、更に、継続的な性能向上等により製品の競争優位性を保っているとされている。また、ランニングコストが20~40%安いとはいえ、製品価格が代替フロンを用いた他社製品の3~4倍となっているにもかかわらず普及が拡大している理由として、製造した製品を他の冷凍倉庫用装置と組み合わせてパッケージ化し、施工とメンテナンスまでを全て手掛けるというビジネスモデルにより、プラント受注の中で製品価格差をある程度吸収してトータルコストを抑えるとともに、需要者に安心感と信頼感を与えることを挙げている。
他方、同稿において、本件発明の作用効果に関する直接的な言及はなく、また、これを具体的に示唆する記載もない。
(h)製造原価割合
証拠(甲6)及び弁論の全趣旨によれば、被告製品2-2及び2-3が組み込まれたNewTonシステムのうち、被告主張の侵害部分(圧縮機本体、油分離器及び配管部分)だけでなく、油冷却器、フィルター、駆動モーター及び制御装置も、油冷式スクリュ圧縮機として必要な構成部分である。他方、証拠(乙109)及び弁論の全趣旨によれば、被告製品2-2及び2-3が組み込まれたNewTonシステムのうち、油戻しは、油冷式スクリュ圧縮機として必要な構成部分ではない。
そして、証拠(乙75、84、109、110)及び弁論の全趣旨によれば、上記油冷式スクリュ圧縮機として必要な構成部分の製造原価がNewTonシステムの製造原価に占める割合は●(省略)●%であることが認められる。
b 原告各製品について
(a)原告各製品の特徴
原告各製品のうち、圧縮機ユニットと呼ばれるものはスクリュ圧縮機に、コンデンシングユニットと呼ばれるものはスクリュ圧縮機に凝縮器を備えたものに、それぞれ相当することが認められるところ(甲13)、弁論の全趣旨によれば、原告各製品はいずれも本件発明を実施していない。
原告各製品のうち、SHNシリーズはガス漏れ、オイル漏れに対する信頼性を向上させた製品であり、オゾン層を破壊せず、温暖化係数も小さい、地球環境にやさしい冷凍機として宣伝されている(甲13)。
また、iZシリーズについては、「二段半密閉アンモニア冷凍機」と題する記事(神戸製鋼技術/Vol.63 No.2(Sep. 2013)。甲13の5)において、優れた省エネ性能、冷凍能力の増強、静音という特徴を有した冷凍機であり、省エネ性能の向上は、顧客におけるランニングコストの削減及び二酸化炭素排出量の削減に寄与し、冷凍能力の増強は、顧客のイニシャルコスト削減につながるとともに、冷却対象物の品質向上にも寄与するとされる。さらに、半密閉アンモニア冷凍機は、地球温暖化防止や環境保全の流れにマッチし、平成25年9月時点で、累計出荷台数が200台を超えたとされている。その宣伝広告物においては、高い省エネ性、半密閉化によるアンモニア漏れの心配の解消とメンテナンス性の向上、従来機と比較における冷凍能力増強、運転状態の常時モニタリングによる緊急時への対応能力が強調されていた(甲13)。
他方、原告作成に係る原告各製品の宣伝広告物には、本件発明の作用効果に関する直接的な記載は見られず、また、これを示唆する具体的記載もない(甲13)。
(b)原告各製品の取扱業者による販売促進活動
「コンプレッサの販売とシステム提案」により「工場の省エネ化をトータルでプロデュース」するという業者が、その取扱製品として原告各製品のうちiZシリーズを紹介しているところ、そこでは、「平成15年度日本機械工業連合会会長賞受賞」という実績と共に、従来機との比較で冷凍能力の40%向上、運転状態の常時モニタリングによる緊急時への対応能力、省エネ性能等を強調している(甲15の2)。
(c)原告各製品の受賞歴
原告各製品のうちiZシリーズは、優れた省エネ機器に与えられる平成15年度日本機械工業連合会会長賞を受賞する(甲15の2)とともに、平成16年には日本冷凍空調協会の技術賞を受賞した(甲15)。
c NewTonシステム及び原告各製品の販売実績
証拠(甲13の4、乙73)及び弁論の全趣旨によれば、アンモニア/二酸化炭素冷媒・冷凍設備の冷凍機用途の油冷式スクリュ圧縮機市場は、事実上被告と原告の二社寡占状態であること、平成20年~平成28年における、被告製品2-2及び2-3の組み込まれたNewTonシステムを被告が販売した実績と、原告各製品を原告が販売した実績の推移が以下のグラフのとおりであることがそれぞれ認められる。
●(省略)●
他方、証拠(甲18、19、乙73、85、93、110)及び弁論の全趣旨によれば、同時期に、被告製品2-1の組み込まれたNewTonシステムを被告が販売した実績は、多くとも合計●(省略)●である。
(イ)検討
a 前記認定のとおり、被告は、基本的には、油冷式スクリュ圧縮機である被告製品2-2及び2-3を独立して販売しておらず、また、これらを組み込んだNewTonシステムについても同様であり、被告製品2-2及び2-3を組み込んだNewTonシステムを使用した被告製プラントを販売している。他方、原告は、スクリュ圧縮機又はこれに凝縮器を付加した原告各製品を販売しているにとどまり、プラントという単位でみると、「セットメーカ」などといわれる別の業者が需要者に対して提案するパッケージに組み込まれて販売されるという関係にある。このように両者の業務形態が大幅に異なることは、本件の侵害品であるNewTonシステムへの需要と原告各製品への需要とが質的に異なる面があることをうかがわせる。このため、仮に被告製品2-2ないし2-3を組み込んだNewTonシステムが販売されなかったとしても、原告各製品のいずれかが被告製品2-2又は2-3に直接代替されることは考え難い。他方、そのような場合に、被告製品2-2及び2-3の譲渡数量に対応する需要の全部又は一部が原告各製品の組み込まれたシステムを使用したプラントに向かうことはあり得ることから、その場合は、結果的に、上記需要が原告各製品に向かったことになる。もっとも、原告は、プラントを構成する圧縮機を販売するにとどまり、プラント全体の構成及び価格の決定や需要者に対する販売促進活動において及ぼし得る影響力には限りがあると思われる。
以下では、このような観点も踏まえて、推定覆滅の有無及び程度を検討する。
b 被告製品2-2及び2-3は、本件発明の技術的範囲に属するものである以上、基本的には本件発明の作用効果を奏すると考えられるところ、被告製品2-2及び2-3において、本件発明の作用効果を奏していないという事情はうかがわれない。この点、被告は、被告製品2-2及び2-3が本件発明の作用効果を奏するものではない旨主張するが、採用できない。
もっとも、本件発明の作用効果は、スラスト軸受の負荷容量を大きくすること、バランスピストンの受圧面積を大きくすること、逆スラスト荷重状態の発生をなくすことなど、単純かつコンパクトな構造で、振動、騒音を低減させることができるというものであり、技術的にはさておき、本件発明の実施品ないしこれを組み込んだシステムの経済的価値に強いインパクトを及ぼすような性質のものとは必ずしもいえない。このことは、被告製品2-2及び2-3につき、被告がその販売促進活動において本件発明の作用効果に直接的に言及していないこと、NewTonシステムに対する外部的な評価においても、本件発明の作用効果に直接的に関わるものは見当たらず、これを示唆するものもないこと、特許権者である原告自身も、スクリュ圧縮機等である原告各製品において本件発明を実施していないことによっても裏付けられる。そうすると、本件発明の作用効果それ自体には、それほど強い顧客吸引力はないと見るのが相当である。
また、弁論の全趣旨によれば、NewTonシステムは被告製プラントの顧客吸引力の中核を成す部分であり、被告製品2-2及び2-3は、NewTonシステムを稼働させるために不可欠な部品であることが認められる。そこで、NewTonシステムの顧客吸引力を検討すると、被告は、NewTonシステムの販売促進活動において、省エネ、安全性、サポート体制等を特徴とするものであるとの点を強調している。しかも、被告が強調するNewTonシステムのこれらの特徴は、表彰の受賞理由とされ、また、その導入の動機となり、現にその実績も上がっているとされるなど、第三者からも積極的に評価されていることがうかがわれる(なお、原告は、省エネや安全性が本件発明の作用効果であるとも主張するけれども、NewTonシステムにおける省エネや安全性はIPMモーターや間接冷却方式を採用するなどしたことによるものであり、本件発明の作用効果とは無関係と見られることから、この点に関する原告の主張は採用できない。)。
c 被告製品2-2及び2-3の製造原価がNewTonシステムの製造原価に占める割合は、被告製品2-2及び2-3の技術的・商業的価値を直接的に反映したものではないが、これを推し測る一事情とはなるところ、被告製品2-2及び2-3がNewTonシステムを可動させるために不可欠な部分であるといっても、NewTonシステムの製造原価における被告製品2-2又は2-3の製造原価の割合は、●(省略)●にとどまる。
d NewTonシステムを使用した被告製プラントとそれ以外の同様のプラントの販売実績は、アンモニア/二酸化炭素冷媒・冷凍設備の冷凍機用途の油冷式スクリュ圧縮機市場が事実上被告と原告の二社寡占状態であることに鑑みると、原告及び被告の各製造に係る圧縮機の納入実績におおむね対応するものと推察されることから、NewTonシステムを使用した被告製プラントの販売実績の方が右肩上がりである●(省略)●。また、被告製プラントで使用されるNewTonシステムに組み込まれる圧縮機として被告の製造に係るもの以外のもの(おのずと、原告の製造に係る製品がその候補となる。)が組み込まれるという事態は考え難い。そうすると、被告が非侵害品を販売していたり、販売することが容易であったりすれば、仮に被告製品2-2及び2-3が組み込まれたNewTonシステムが販売されなかったとしても、需要の多くは被告の製造に係る非侵害品等を組み込んだNewTonシステムを使用したプラントに向かったであろうと考えるのが合理的である。
そして、被告は、被告製品2-2及び2-3以外にも、本件発明を侵害しないNewTonシステム専用品として、被告製品2-1を製造しており、これによって被告製品2-2及び2-3に代替することが考えられる。なお、原告は、被告製品2-1が組み込まれたNewTonシステムの販売実績が少なかったことを指摘するけれども、現に納入実績がある以上、需要者の需要を満たすものである限り、被告製品2-1による代替に需要が向かう可能性を否定することはできない。
また、被告は、本件特許権侵害行為当時、被告製品2以外にはNewTonシステム専用の油冷式スクリュ圧縮機を製造していなかったものの、弁論の全趣旨によれば、NewTonシステムにおいて、本件特許権の侵害を回避するために、例えば油ポンプを加えて加圧流路を設けることについての物理的な制約はさほどなく、また、コスト的にも問題とすべき程度に至るとは見られない。そうすると、被告製プラントを欲する需要者の要望に対し、既存機種をベースとしたカスタマイズ等の形で対応し、本件特許権侵害を回避することは比較的容易であったとうかがわれる。実際には、本件特許権の非侵害品であるNewTonシステム専用の圧縮機としては被告製品2-1しかなく、また、上記カスタマイズといった対応も取られなかったとはいえ、推定を覆滅すべき事情としては、この点も考慮するのが合理的である。この点につき、原告は、競合品として考慮できるのは現実に市場に存在した製品に限られると主張するが、上記のとおり、これを採用することはできない。
e 被告は、被告のNewTon事業の限界利益率が、原告の圧縮機事業の限界利益率を上回ることを前提に、特許法102条2項により算定された利益の額が、特許権者である原告がその実施能力に基づき得られたであろう利益の額を上回る場合は、その限度で覆滅されると主張する。
しかし、仮に被告のNewTon事業の限界利益率が原告の圧縮機事業の限界利益率を上回るとしても、それをもって原告の圧縮機事業の実施能力が被告のNewTon事業の実施能力に劣ることを意味するものではないから、被告の上記主張は、その前提を欠く。
したがって、この点に関する被告の主張は採用できない。
f 以上の事情を総合的に考慮すると、本件においては、被告製品2-2及び2-3が組み込まれたNewTonシステムを使用した被告製プラントの販売がなかった場合に、これに対応する需要の全てが原告各製品やこれを組み込んだスクリュ圧縮機、更にはこれを使用したプラントに向かったであろうと見ることに合理性はなく、むしろ、そのような需要はごく限られると考えられる。そうすると、本件では、9割の限度で、特許法102条2項による推定を覆滅するのが相当である。
この点に関する原告及び被告の各主張は、いずれも採用できない。
エ 以上によれば、原告の逸失利益の額は、別紙「損害額算定表(裁判所認定)」の③欄のとおり、合計12億5428万1900円であると認められる。
(2)弁護士費用について
上記(1)の逸失利益の額を始めとする本件に現れた一切の事情を考慮すると、別紙「損害額算定表(裁判所認定)」の④欄のとおり、被告の本件特許権侵害行為と相当因果関係に立つ弁護士費用相当損害額は、合計1億2542万8187円と認めるのが相当である。これに反する被告の主張は採用できない。
(3)遅延損害金の起算日
不法行為に基づく損害賠償債務の遅延損害金の起算日は、不法行為の日以後でなければならないから、原告の主張に鑑みると、当該期間における本件特許権侵害行為に基づく損害賠償債務(別紙「損害額算定表(裁判所認定)」の③欄)及びこれに対応する弁護士費用相当損害額の賠償債務(同④欄)の遅延損害金の起算日については、同⑥欄のとおりとするのが相当である。
(4)593番代替機及び6048番転用機の2台の販売による損害(予備的主張)について
原告は、上記2台の譲渡について特許法102条2項の適用が認められない場合に同条3項に基づく算定による損害額の算定を予備的に主張する。しかし、前記(1)のとおり、本件において、上記2台の譲渡についても同条2項が適用されることとして原告の損害額を算定していることから、この点についての判断の必要はない。