パラメータに関する発明

投稿日: 2017/03/22 1:36:41

たまたま2件レンズに関する侵害訴訟の判決がでたので、ついでにもう1件も検討しました。まぁ、こちらは内容よりもほかの所に興味があったのですが。

3件の明細書を読んでいて、何かの発明に似ている、との印象を持ちました。何だろう?どうも扇風機や換気扇に用いられるプロペラに関する発明に似ているなぁ、と。

もちろんプロペラに関する技術には「ディオプター」などという単位はありません。似ていると感じたのは物の表面性状に関するパラメータの最適化に関する発明であるという点です。もちろんプロペラの発明もそればかりではないのですが、プロペラを構成する翼に関する発明にパラメータの適正化が多いのは事実です。そして、パラメータの適正化の場合、適正化するパラメータの数が絞られているので広い権利が取得できるケースも多いです。

一般に制御の発明に比べ構造や形状の発明は摘発が容易と言われます。しかし、この表面性状のパラメータを変更することで能力を向上させる発明は、構造や形状の発明としては例外的に権利行使が困難です。原因はいくつかあると思いますが、私は次の三つくらいが主な原因と思います

1.基準・境界の特定が困難

プロペラの翼は回転する場合に前方に当たる縁(空気を切る側)を前縁、後方に当たる縁を後縁、先端部分を翼端と呼びます。しかし、前縁と翼端の間や、翼端と後縁の間が連続的に変化しているケースが多く、それぞれの範囲を明確に定義することが困難です。また、様々な翼に共通するように翼面上の位置を特定することは困難です。

2.発明の効果の確認が困難

前述したように発明に係るパラメータ絞られており、製品性能に関するパラメータのごく一部です。したがって、他のパラメータが変わってしまうと性能が全く変わってしまうことや発明の前提条件が成立しなくなる可能性があります。しかし、被告製品を購入しても発明に係るパラメータにより効果を奏しているのか否か確認することは困難です。

3.公然実施により無効となる可能性

どのような発明も公然実施により無効となる可能性があります。しかし、物の表面性状に関するパラメータの最適化に関する発明の場合は前述したように少ないパラメータで広い権利範囲を取得するために、公然実施品と同一となるリスクが高くなります。

以上のような理由で実は思ったよりも権利行使が簡単でない類の発明だと私は思っています。

だからといって物の表面性状に関するパラメータの最適化に関する発明を出願しなくて良いわけがありません。模倣品に関しては非常に有効です。意匠では非類似と判断されるような変更に対してもパラメータであれば十分使える可能性がありますし、特許請求の範囲の記載に製品の特徴的な形状を加えておけば無効にもなりにくくなります。